根津八紘 記者会見資料1

根津八紘 記者会見資料 2014年7月31日 この度、実父からの精子提供によって非配偶者間体外受精を当院でおこなったご夫婦が110
組に達したこともあり、データをまとめ日本受精着床学会にて発表をさせていただきました。 精子が無い、卵子が無い、子宮が無いなど、夫婦では絶対に妊娠することができない生殖
機能が欠損している「生殖障害者」のための生殖医療は、一般の不妊治療患者の生殖医療
対応と分けて考えるべき 現在のAIDでは、匿名の第三者、また人工授精しか選べない状況。 妊娠率は、通常の治療同様に体外受精の方が格段に高い。 生殖医療は医療の問題だけでなく、個々の人生の問題である。 匿名の提供者か、特定者からの提供か、人工授精か体外受精かは、当事者が選択できる事
が望ましいと考える。 今秋にも議員立法として自由民主党よりだされるといわれる生殖医療法案は、ぜひ当事者
のためになる、当事者の立場からスタートしたものにしていただきたい。 < 日 本 の 精 子 提 供 に 関 す る 状 況 > 国内での精子提供は、非配偶者間人工授精 (AID) によって1949年に慶応大学病院にて児が誕
生している。以来、1万人以上が生まれたとされる。日本産科婦人科学会は97年に追認した。AID
では提供者は匿名の第三者とされている。 厚労省審議会は03年、匿名の第三者からの配偶子(精子、卵子)提供を受けての非配偶者間体
外受精を容認する報告書を出した。兄弟姉妹らからの提供は、人間関係が複雑になりやすいなど
の理由で当面は認めないとした。 日本産科婦人科学会は、1998年に根津が卵子提供(と精子提供)の実施を公表すると実施は禁
止とし一時除名処分を下した。その後、JISARTも卵子提供の取り組みを公表したが、処分は下ら
ず、現在は特にこの配偶子の提供問題には言及していない。 自由民主党のプロジェクトチームは、生殖医療法案の議員立法を目指している。その中で、配
偶子(精子、卵子)提供を受けての非配偶者間体外受精は認められるとされる。 現在、この問題に関しては法律も公なルールも無く、日本の医療機関では、無精子症の患者さ
んには通常、養子縁組かAIDしか選択がほぼ示されていない状況。 Suwa Maternity Clinic
< 現 在 の AIDの 特 徴 > ・ 匿名の第三者からの精子提供 ・ 治療法は人工授精のみで、それで妊娠しなくても体外受精をおこなうことはできない ・ AID一回あたりの妊娠率は5.4% (2011年日本産科婦人科学会報告より) ・ 近年「出自を知る権利の問題」がでてきているが、現在の段階では精子提供を受けた事を子
に伝える告知はできても、誰からなのかは提供を受けて治療した親もわからないため子に伝
えることができない。また、医療機関も提供者データは開示できない。 ・ 提供者との治療前からを含めてコンタクトは一切とることはできない。 ・ 提供を受ける夫婦のみAIDを受けた事実を知っている ・ 同じ提供者の精子提供を受けて誕生した子がどこかにいるかもしれない < 当 院 の 治 療 の 特 徴 > 当院では、AID のような匿名性のシステムがなく、またあっせんは病院として責任が取れない
ため、提供者は治療を受ける夫婦が自身で信頼関係のもと連れて来院する形。そこから、治療相
談が開始されるため、提供者は特定者である事が前提。精子提供は配偶子の段階での養子縁組と
捉えている。 当院のケースにおいて、身内からの提供を望む夫婦は少なくない。治療をおこなう夫婦、提供
者夫妻の全員に充分なカウンセリングを重ねて、慎重に行っている。血のつながりがあった方が、
提供者家族も含めて良好な家族関係を築きやすい、出自が明確になるという面もある。出産後も
家族関係は複雑になってはいない。当院のケースでは、提供者である夫の実父やその妻(被提供
者の母)の理解を得られやすいこともあり、最近は夫の実父からの提供を望む方がほとんどであ
る。 家存続や、血にこだわっているというより、純粋に、夫に似た子を夫の子として一緒に育てた
いという妻の想い、誰かわからない匿名の第三者からの提供より夫のルーツである父からの提供
を望む夫婦の気持ち、などから治療を希望されている。 当院では、治療前のカウンセリング期間を大切にしている。それは、まず夫婦関係が、家族関
係が成り立っていてこその治療であるからである。夫にたまたま絶対的な不妊原因があるものの、
夫婦としての人生でみれば、妻にもこの先何があるかもわからない。どんなことがあってもどち
らかの責任にするのではなく夫婦でお互いサポートしあっていく関係が望ましい。また、当院で
は、「血がつながっている」「産んだ」という事実よりも、産まれて来る子に対し愛情を注ぎ責
任をもって育てる親が本当の親であると考えている。 AIDを望む方には実施機関を紹介している。また治療をせず養子縁組を希望する方には、養子
縁組実施団体とつなげたりなど情報提供をおこなっている。お子さんのいない人生を選ばれるご
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夫婦もいる。どの選択をするかは、情報提供の上、患者さんがそれぞれの人生の選択として選ん
でいる。 < 当 院 の 実 施 ガ イ ド ラ イ ン 要 点 > ・ 治療を受ける夫婦は、夫に精子が無い方 ・ 提供者は既婚で既に自身の子がいる方 ・ ボランティアで提供(金銭の授受は禁止)配偶子の段階での養子縁組ととらえる ・ 提供者夫婦、被提供者夫婦ともに、産まれて来る子の幸せを考えること ・ 告知はご夫婦に任せている。早い内から成長段階に応じて前向きにするのが望ましいが、現
状の社会状況の中では強要できない。前向きな告知のためにも、社会において生殖障害者の
ための医療が正しく理解されるためにも法整備が望まれる。 ※当院の実施ガイドラインはホームページ参照 < 実 父 か ら の 提 供 の 特 徴 > ・ 提供者が誰かわかっている(特定者) ・ 提供者夫婦と被提供者夫婦の信頼関係のもと、治療がおこなわれる ・ 提供者の妻が、被提供者夫の母であるため、協力が非常に得やすい ・ 提供者夫婦と被提供者夫婦が、治療前にじっくりと話し合いをすることができる。産まれて
くる子の幸せを考える。 ・ 胚移植(受精卵を子宮に戻す)一回あたりの妊娠率は38.2% ・ 利害関係が生じにくい ・ 近親相姦が起こらない ・ 夫婦に似た子が産まれる ・ 遺伝病等の心配がない(本来夫に伝わっているもの) ・ 誕生した子の兄弟姉妹を望むとき、同じ提供者からの提供で産まれる ・ 第二子、第三子と望むことがあり、出産後再度妊娠に取り組んでいるのは79組中28組。 (良好な家族関係を築いている) ・ 提供者夫婦も、産まれて来た子のおじいちゃん、おばあちゃんとして、息子家族に対し、あ
たたかく愛情を注いでいる。 ・ 告知をする際は、提供者情報も同時に伝えることができる。 <実父のケースのデータ> ※発表原稿、パワーポイント原稿を参照 ○ 精子提供治療は 1996 年より。実父からの提供による治療は 1998 年より。 ○ 治療に臨んだ夫婦の平均年齢 [妻]33.3 歳 [夫]35.0 歳 Suwa Maternity Clinic
○ 提供者の平均年齢 [実父]63.9 歳 ○ 各家庭(79 組)における子の人数 1 人/47 組 2 人/26 組(うち双子 13 組) 3 人/5 組(うち 4 組双子含む) 4 人 1 組 <記者会見後追加データ> 実父からの精子提供を受けて治療をおこなった 79 組のご夫婦のうち、AID(非配偶者間人工授精)
既往(AID では妊娠せず当院に来院)のご夫婦は 27 組。 その 27 組が、実父からの精子提供による非配偶者間体外受精をおこなった結果 妊娠 25 組 (おおむね、2、3回の胚移植(受精卵を子宮に戻す)で妊娠) 出産 21 組 妊娠中 3 組 治療中 1 組 子の数 32 人が誕生(双子 4 組含む) このことからも、やはり治療法が人工授精に限定されるのではなく、当事者が希望する場合は体
外受精の選択もおこなえるようになることが望ましいと考える。 Suwa Maternity Clinic