232 日本写真学会誌 2013 年 76 巻 3 号:232–263 特 集 2012 年の写真の進歩 技術委員会 進歩レビュー分科会主査 吉田 英明(オリンパスイメージング) 「写真の進歩」は,毎年一度時期を決めて前年一年間の写真技術の動きを振り返ることにより,日々進歩を続 ける写真技術の全体像を時系列的に俯瞰することを狙いとして,継続的に取り組んでいる企画です. 執筆陣は,技術委員会傘下の各研究会の代表者を中心に,それ以外の識者も加えた各分野の専門家により構成 されています.各執筆者は担当の分野に応じた観点から,主として前年一年間に発表された技術(文献),製品, 作品,統計等について,可能な限りその特徴・傾向・分析などのコメントを加えつつ紹介します.なお具体的な 内容については各執筆者の意向を尊重しています. 例年の「写真の進歩」は,写真学会ホームページ(http://www.spstj.org/)の「学会誌からのトピックス」 (http:// www.spstj.org/book/pickups.html)にも掲載されていますのでご利用下さい. 233 7. 画像評価・解析 ………… 画像評価研究会(藤野 真) 251 2. 銀塩感光材料 …………… 光機能性材料研究会(久下謙一)241 8. 分光画像 ………………… 分光画像研究会(中口俊哉) 252 3. 光機能性材料 …………… 光機能性材料研究会 9. 医用画像 ………………… 医用画像研究会(松本政雄) 254 1. 写真産業界の展望 ……… 市川泰憲 242 4. 画像入力(撮影機器) …… カメラ技術研究会(井上義之) 244 10. 科学写真 5. 画像出力 10-1 文化財 …………… 城野誠治 255 5-1 プリンタ …………… 藤田 徹 246 10-2 天体写真 ………… 山野泰照 256 5-2 印刷 ………………… 小関健一 248 11. 写真芸術 ……………… 西垣仁美 257 5-3 ディスプレイ ……… 山口省一 248 12. 映画 …………………… 清野晶宏 261 13. 工業規格 ……………… 藤田宗久 262 6. 画像保存 6-1 画像保存関連技術 … 画像保存研究会(大関勝久) 249 6-2 展示・修復・保存関係… 画像保存研究会(山口孝子) 250 *表 1 の学術雑誌と表2の学会等の催しについては,それぞれ表中に示したような略称を,また組織名,所属等について一般 的な略称があるものについてはその略称を用いています.年号が記載されていないものは 2012 年のものです. 表 1 「2012 年写真の進歩」で引用した主な学術雑誌およびその 略号 表 2 「2012 年写真の進歩」で引用した主な学会等の催しおよびその 略号 ● 雑誌 ● 講演会,シンポジウムなど(写真学会主催のもの) 日写誌 : 日本写真学会誌 日写年 : 日本写真学会年次大会(5 / 29–30) 光機能 : 光機能性材料セミナー(6 / 29) 画像保存 : 画像保存セミナー(11 / 2) カメラ技術 : カメラ技術セミナー(11 / 22) 日写秋 : 日本写真学会秋季研究発表会(11 / 30) 4 学研 : 画像 4 学会合同研究会(12 / 10) JIST : Journal of Imaging Science and Technology ISJ : Imaging Science Journal 日画誌 : 日本画像学会誌 日印誌 : 日本印刷学会誌 2012 年の写真の進歩 1. 写真産業界の展望 市川泰憲(日本カメラ博物館) 233 表 3 総出荷の状況(経済産業省化学工業統計およびフォトマーケッ ト社推計による) 品 目 1.1 概況 2012 年を振り返ると,まず世界一の高さ 634 m を誇る電 波塔「東京スカイツリー」の開業が,多くのマスコミにより 長期にわたって連日取り上げられたことはきわめて異例なこ とで,iPS 細胞(人工多能性幹細胞)の作製で,ノーベル生 理学・医学賞を京都大学の山中伸弥教授らが受賞したことと 合わせて,明るい話題としてお茶の間に提供された.それは, あたかも前年 3.11 に発生した東日本大震災で受けたダメー ジを少しでも払拭しようとの暗黙の了解のもとに行われたよ うな気がしてならない. 一方,産業界ではソニー,パナソニック,シャープが,か つては日本のお家芸とされたテレビ事業の不振が影響して, いずれも赤字決算となった.家電メーカーの不振は,写真業 界にとっても無関係ではなく,単にソニー,パナソニックが カメラ作りに関係しているということだけでなく,世界をリー ドして成功しているカメラ産業のビジネスモデルとして今後 どのような進歩が約束されているのか,細かく見ていくこと が必要だ.以下, 2012 年の動きを分野別に追いかけてみよう. 2 前年比(%) (百万円) 81 80 45,303 16,713 123,483 81 62,016 映画用フィルム ロールフィルム その他フィルム 16,212 2,788 2,241 46 52 92 5,446 6,528 8,656 カラーフィルム計 21,241 49 20,630 144,724 74 82,646 441 58,746 56 108 399 17,735 59,187 107 18,134 203,911 81 100,780 白黒フィルム計 フィルム計 白黒印画紙計 カラー印画紙計 印画紙計 写真感光材料計 (千 m ) 平成 24 年金額 83,949 39,534 X 線用フィルム 印刷・業務用フィルム (注)化学工業統計は平成 19 年 4 月より写真フィルム計 / 印刷・業務 用フィルム / 印画紙計以外の品目データが非開示,平成 21 年 6 月より印画紙が非開示となったため,市場情報を元に推計.ロー ルフィルムにはレンズ付フィルムを含む. 表 4 輸出の状況(財務省貿易統計に基づく推計) 品 目 1.2 工業生産 1.2.1 統計 平成 24 年数量 X 線用フィルム 印刷・業務用フィルム 平成 24 年数量 (千 m2) 前年比(%) 39,633 37,335 106 83 76,968 94 この統計の基となる化学工業統計は,調査対象企業(感材 映画用フィルム ロールフィルム その他フィルム 15,795 2,308 586 46 49 94 メーカー)減少のため,2007 年 4 月発表分から写真フィル カラーフィルム計 18,689 48 ム合計,白黒印刷・業務用フィルム,印画紙合計以外の品目 フィルム計 95,657 79 31 21,345 13 111 21,376 109 117,033 83 ①銀塩感光材料 表 3 ∼ 5 には,2012(平成 24)年の銀塩写真感光材料に 関する総出荷,輸出,輸入の状況を示してある.いずれも例 年通り,写真感光材料工業会からの提供である. データ非開示に加え,2011 年 4 月から写真フィルム合計の みの開示となった.したがってここでは,フォトマーケット 白黒フィルム計 白黒印画紙計 カラー印画紙計 社での推計資料を基に,財務省貿易統計,市場情報を加味し 印画紙計 て分析されている. 写真感光材料計 表 3 には総出荷の状況を示してある.このなかで注目され るのは,映画用フィルムが前年比 46%と急激な落ち込みを 表 5 輸入の状況(財務省貿易統計に基づく推計) 見せたことだ.映画用フィルムは,他の感光材料が年々落ち 品 目 込んでいくのに対し,2008 年をピークにむしろ増加傾向に あった優等生だったが,2010 年を境に低下し,2012 年のカ ラーロールフィルムもさらに前年比 52%となり,デジタル 化の影響をもろに受けている. ちなみに日本映画製作者連盟の調べによると,国内映画館 の ス ク リ ー ン 数 は 2008 年 の 3,359,2009 年 の 3,396,2010 年の 3,412,2011 年の 3,339,2012 年の 3,290 というように, X 線用フィルム 印刷・業務用フィルム 白黒フィルム計 映画用カラーフィルム ロールフィルム その他フィルム 2009 年をピークにしてその後わずかながら減少傾向を見せ カラーフィルム計 ているが,このうちデジタル設備対応は 2012 年で 2,897 ス フィルム計 クリーンで 88%となっており,これは単に「映画=フィルム」 ということではなくなった時代を意味するのだろう. このほか,カラー印画紙が 108%の伸びを見せているのが 注目点だ. 平成 24 年数量 2 (千 m ) 前年比(%) 5,370 10,926 79 99 16,296 91 603 123 511 29 83 101 1,237 43 17,533 84 128 11,651 107 74 印画紙計 11,779 74 写真感光材料計 29,312 80 白黒印画紙計 カラー印画紙計 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 234 図 1 日本における写真感光材料総出荷の推移 表 6 デジタルスチルカメラ生産出荷実績表(カメラ映像機器工業会) 上段:数量(台),下段:金額(千円) 出 荷 生 産 総出荷 区 分 日本向け 累 計 1 ∼ 12 月 前年同期比 (%) 累 計 1 ∼ 12 月 前年同期比 (%) 100,374,356 1,189,255,718 87.6 102.0 98,139,157 1,468,114,660 85.0 101.1 レンズ一体型 79,285,086 617,326,701 80.2 80.5 77,982,104 714,951,267 レンズ交換式 21,089,270 571,929,017 134.0 143.5 20,157,053 753,163,393 デジタルスチルカメラ合計 タイプ区分 累 計 1 ∼ 12 月 日本向け以外 前年同期比 (%) 累 計 1 ∼ 12 月 前年同期比 (%) 9,153,969 164,102,178 96.3 101.2 88,985,188 1,304,012,482 83.9 101.1 78.1 77.9 7,321,791 87,113,905 91.1 82.8 70,660,313 627,837,362 77.0 77.3 128.4 140.9 1,832,178 76,988,273 124.7 135.2 18,324,875 676,175,120 128.8 141.6 図 1 には,日本における写真感光材料総出荷の 2000 年か で 80%という数値を出しているので,単に銀塩感光材料と ら 2012 年までの推移を示したが,この 10 年間で 1 / 3 以上 いう範囲だけでなく,写真・映像関連の素材が大きく変質し もダウンしているわけで,このあたりをどのように解釈する ているのではないだろうかと考える. かが,これからの感材工業の行く手を探る鍵となる. 表 4 には,輸出の状況を示した.ここで注目されるのはカ ラー印画紙で,前年比 111%を示している.このカラー印画 ②カメラ / 交換レンズ / フォトプリンター生産実績 いずれの生産実績も,カメラ映像機器工業会の統計実績か らの引用抜粋であることを最初にお断りしておく. 紙の伸びは総出荷にも見えているが,国内外の生産分担がど 表 6 には,2012 年のデジタルスチルカメラ生産出荷実績 のようになされているかなどによっても,それぞれの伸び率 表を示した.ここで注目されるのは,デジタルカメラの総出 は異なるので,単純に需要が伸びたと読むことはできない. 荷は 9 千 814 万台であり,これは前年比 85%という数値で 表 5 には,輸入の状況を示した.ここでのカラー印画紙は ある. 前年比 74%であるので,総出荷の分と合わせても必ずしも 2002 年にフィルムカメラからデジタルカメラの出荷が上 増加しているとは見ることはできない.ちなみに,ここには 回って以来,図 2 に示すように年々順調に増加を繰り返して 不掲載だが,国内供給量を見るとカラー印画紙は前年比 きた.しかしリーマンショックの影響を受けたとされる 82%であるので,需要が好転した結果ではないことがわか 2009 年に下落し,2010 年には早くも復活の兆しを見せたが, る.また白黒印画紙の輸入も前年比 107%とわずかな伸びを 2011 年は東日本大震災,タイ洪水の影響などにより再度下 示したが,こちらは国内で生産されていたバライタ印画紙の 落したとされた.そこで表 6 をさらに子細に見てみると,下 製造が終了したことに連動した結果かもしれないが,国内供 落の原因はレンズ一体型デジタルスチルカメラに起因してい 給量が前年比 77%なので,供給地域の変動の範囲内である ることがわかる.生産・総出荷ともに前年比約 80%となっ か断定はできない. ているが,レンズ交換式が総出荷で前年比 128.4%,金額で いずれにしても総出荷で前年比 81%,輸出で 83%,輸入 134%と大幅な増を示しているが,数の上で圧倒的な多さを 2012 年の写真の進歩 235 図 2 カメラ総出荷数量の推移 図 3 デジタルカメラ月別生産出荷実績 誇るレンズ一体型と合わせることにより,総出荷が前年比 85%という数値が導きだされる. また一方で,この統計にでないところでの普及価格帯レン ズ一体型デジタルカメラの生産が増しているのではないだろ この統計からするとレンズ交換式は今後も伸びると考えら うか,ということも考えられるが,これはあくまでも推測の れるが,一方でレンズ一体型の下落原因は何かということに 域をでない.しかしスマートフォン市場でのアップルやサム なる.やはりスマートフォンに代表される携帯電話端末への スンの伸び,名門日本企業の撤退などの例を見るまでもなく, カメラ機能の組み込みが多分に影響しているのではないかと 何か新しい要素が加わることにより,短期間に市場構成要素 いうのが一般的な見方だ.それらが従来からのカメラと異な が大きく変化する可能性もある. るものなのか,同一なものなのかは置いといて,少なくとも そこで,この 1 年間強をさらに細かく見てみる必要がある 最も画像がやり取りされる SNS では携帯電話端末からの と考え,2012 年 1 月から 2013 年 3 月までのデジタルカメラ アップがかなりの割合になっているのも現実だ. の月別生産出荷実績をグラフ化したのが図 3 である.従来, IDC Japan の調査によれば,2012 年第 4 四半期の国内スマー 本項の表は年度ごとでの推移を見てきたが,直近のこの 1 年 トフォンの出荷台数は,前年同期比 29.2%増の 883 万台で, 間強を月別で追いかけるとどうだろうかということである. 国内の全携帯電話端末の出荷に占めるスマートフォンの比率 その内訳は,月ごとのデジタルカメラの総出荷量に対し,さ は 77.9%にまで上昇しているという.いずれにしても単なる らに細かく,レンズ一体型,一眼レフ,ノンレフレックスを ケイタイ電話からスマートフォンへの移行は時代の流れで 取り上げてみたが,ここで注目したいのは 2012 年 12 月期に あって,そのうちのカメラ機能の活用具合は個人差もあるだ おける落ち込みが大きいことだ.表 6 では前年比で,図 2 に ろうが,画像を撮影後即 SNS にアップするなどの行為も日 おいては年ごとの推移を見ているのでそれぞれが積算された 常生活にしっかりと根ざしてきていることも否定できない. 結果の統計であるために,さほど目につかなかった. 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 236 表 7 カメラ交換レンズ生産出荷実績表(カメラ映像機器工業会) 上段:数量(個),下段:金額(千円) 出 荷 生 産 総出荷 区 分 日本向け 日本向け以外 累 計 1 ∼ 12 月 前年同期比 (%) 累 計 1 ∼ 12 月 前年同期比 (%) 累 計 1 ∼ 12 月 前年同期比 (%) 累 計 1 ∼ 12 月 前年同期比 (%) レンズ交換式カメラ用レンズ合計 31,105,252 306,377,659 118.4 110.8 30,371,708 478,824,828 116.7 114.7 3,190,533 57,694,864 118.3 121.7 27,181,175 421,129,964 116.6 113.8 35 mm 用 6,695,724 127,472,811 114.9 106.9 6,629,804 204,997,171 115.9 112.2 345,212 16,123,342 121.0 125.6 6,284,592 188,873,829 115.6 111.2 35 mm 未満のフォーマット用 24,409,528 178,904,848 119.4 113.9 23,741,904 273,827,657 117.0 116.6 2,845,321 41,571,522 118.0 120.3 20,896,583 232,256,135 116.9 116.0 図 4 交換レンズ総出荷数量推移 図 3 では,もともと 3 月ならびに年末を控えた 9 ∼ 11 月 に生産のピークを迎えるのが例年のことだが,2013 年 3 月 の購入も多く,高倍率ズームが多数でているのでレンズ本数 を複数必要としない,などが考えられる. は前年同月比で見ると,総出荷台数で 47.2%,レンズ一体型 ミラーレス機では,ボディとともに交換レンズも大きく変 で 42.9%,一眼レフで 66.8%,ノンレフレックスで 83.6% 更されることもあり,このような傾向は,当面続くのだろう であり,2012 年 3 月より軒並みダウンしている. が,最新ボディの生産実績を加味すると,今後はどのように 表 7 は,カメラ用交換レンズの 2012 年の実績を示した. これによると,レンズ交換式カメラ用合計で,前年比で生産 は 118.4%,総出荷で 116.7%の増加を示している. このうち 35 mm 用未満のフォーマット用はいわゆるフル 推移するか予断を許さない. 図 4 には 2004 年から 2012 年までの交換レンズ総出荷数量 の推移を示した. 表 8 には,民生用 A4 未満フォトプリンターの出荷実績表 サイズ一眼レフではない APS-C 一眼レフとマイクロ 4/3 や を示した.2005 年からの統計だが,2012 年分から日本向け, APS-C などのノンレフレックス(ミラーレス)機用を示し 日本向け以外の出荷合計といった仕向け地別の実績はでなく ていることになるが,前年度比では 35 mm 未満用のほうが なったので,総出荷だけのデータとなった.これによると, 総出荷の伸び率でわずかに 1.1%ほどの高さだが,数の上で は 6 倍ほどである.逆に表 6 からボディを見てみると,総出 荷で一眼レフのほうがノンレフレックスの 4 倍ほどある. このことからすると,ノンレフレックス用の交換レンズは, 新マウントであること,価格が廉価であること,高倍率ズー ムが少ないなどから数の上で購買が活発になることが考えら れ,一眼レフ用はマウントの歴史が長いことからボディのみ 表 8 A4 未満フォトプリンター出荷実績表 上段:数量(台),下段:金額(千円) 区 分 累 計 1–12 月 前年同期比 (%) A4 未満フォトプリンター計 936,773 8,738,983 98.8 91.2 2012 年の写真の進歩 237 図 5 A4 未満フォトプリンター総出荷量と金額の推移 前年比数量で 98.8%,金額で 91.2%となり,数量的には低値 2011 年の「ニコン 1」が最初で,位相差検出は 73 ポイント 安定といった感じだ. だった.その後 2012 年の一眼レフ「EOS Kiss X6i」は,静 この集計は,2010 年から PictBridge 非搭載機種も加えられ, 止画はミラー下部の位相差 AF センサー,動画では像面位相 年度ごとの推移を追った図 5 に示すようにごくわずかにその 差 AF とコントラスト AF の併用を採用.キヤノン初のミラー 単年のみ増加を見せたが,2009 年以降微減を繰り返してい レス機である「EOS M」では像面位相差とコントラスト検出 る.このあたりが,フォトプリンターの数としての安定値な のハイブリッド方式を採用している. のかもしれないが,写真的に考えると,半切相当,つまり またソニーが 2012 年に発売したミラーレス機 NEX-5R と A3 ノビクラス対応のプリンターが統計に加わるとどうなの NEX-6 では 99 ポイント像面位相差検出 AF とコントラスト だろうかとも考えるが,数量的には PictBridge 非搭載機種の 検出併用のファストハイブリッド AF,同様に a マウントを 追加より,さらに微増となるのかもしれない.いずれにして 使う一眼レフ「a99」はフルサイズのイメージャーで,デュ もハードコピーとしての写真プリントへの欲求が年々減少し アル AF システムとしてトランスルーセントミラーの位相差 ているのも明らかな事実のようだ. 検出に加え,像面位相差検出を追加している. 1.2.2 新製品 基本的にはミラーレス機の AF 機構に,いままでのコント ①銀塩写真関連 ラスト検出 AF に位相差検出 AF 機構を加えたことだが,各 富士フイルムは,撮ったその場で特別なプリンターもなく, 社どのように何ポイント配置しているか,どのような画素配 すぐにカードサイズのプリントが楽しめるインスタントカメ 置で位相差検出を成立させているかなどまちまちであり,位 ラ「チェキ」の新製品「instax mini8」を 11 月 9 日に発売した. 相差検出の画素と画像をキャプチャーする画素との兼ね合い 新製品は 4 年ぶりのモデルチェンジで,既存品 7S より約 などはそれぞれの社のノウハウといったところであり,今後 10%小型化が図られ,枠の周辺までクリアに見える実像式 最も大きく進歩する部分のようだ. ファインダーを備え,明るくソフトな感じに仕上がるハイ ○光学ローパスフィルターレスと高画素機 キーモードを追加.ボディカラーは 5 色.若い女性に人気で, デジタルカメラで撮像素子のモアレ除去のための光学ロー 国内外とも伸長している.販売予想価格は 8,000 円前後. ②デジタルイメージング関連 〈デジタルカメラ〉 2012 年 1 月から 12 月の間に発売された日本のカメラは, パスフィルター(以下 OLPF とする)を省略し,高解像感 をうたった機種の登場が 2012 年には話題を呼んだ. 一眼レフカメラでは,35 mm 判フルサイズで 3,630 万画素 という高画素のニコン D800 に OLPF 効果を打ち消す処置を 日本カメラ財団の歴史的カメラ審査委員会によると 149 台だ 施したニコン D800E,APS-C 判・1,628 万画素で OLPF あり という.これに海外企業のカメラを加えると少なくとも 150 となしを用意したペンタックス K-5 II と K-5 IIs がある. 機種以上が国内市場に投入されたことになる.この部分は, またミラーレス機では,APS-C サイズ 1,630 万画素のフジ カメラ技術研究会の担当される「4. 画像入力−撮影機器」に フイルム X-Pro1,X-E1,X100S,X20 は独自の色分解フィル 詳述されるので,ここでは筆者の見た範囲で気になるカメラ ター配列の X-Trans CMOS の開発により OLPF レスを積極的 技術の進歩について簡単に記してみる. に推し進めた. ○像面位相差検出方式 AF 近年のカメラの AF 方式で目につくのが,撮像素子面で測 それ以前に OLPF レス機は業務用デジタルバックなどに 存在したが,一般的な機種として最初に登場させたのは, 距する像面位相差検出方式だ.2010 年に発売されたレンズ 2002 年 35 mm 判フルサイズ CCD で 1,370 万画素のコダック 非交換のコンパクトのフジフイルム FinePix F300EXR と DCS Pro14n である.コンパクト機では,2003 年のコニカ Revio Z800EXR が初で,レンズ交換式のミラーレス機としては KD-500,KD-Z510Z,2007 年のリコー GX100,レンジファ 238 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) インダー機では 2006 年のライカ M8 などが知られていた. 2013 年 3 月に発売された実機を見ると“TYP 240”と記されて このほか 2002 年にシグマから発売された FoveonX3 イメー いることから,2,400 万画素の M 型モデルということになる. ジセンサー搭載の一眼レフ SD9 も OLPF レス機であった. スエーデンハッセルブラッド社のラインナップはフィルム さらに 2011 年発売のペンタックス Q とリコー GXR 用 A12 カメラの 6×6 判一眼レフをベースにした V システム,6×4.5 マウントどちらも OLPF レスであるが,どちらも高解像感 一眼レフをベースにした H システムがあり,これらにデジ をうたってはいなかった.OLPF レスは 2003 年のコニカレ タルカメラバックを対応させて今まできたが,フォトキナで ビオの時代には安価なレンズでも高性能が出せるとされてい はソニーとの業務提携が発表され,まったく新規のミラーレ たが,現在では高画素化に伴なって高解像(鮮鋭)感などが ス機として「ハッセルブラッド・ルナ」が発表された.ルナ うたわれるようになった. のベースボディはソニー NEX であり,交換レンズも基本的 また,高画素機としてはシグマが DP1 メリル,DP2 メリル, にソニーであるところが注目される.従来から V シリーズ DP3 メリルが APS-C 判で 4,600 万画素の FoveonX3 メリルセ はカール・ツァイス, H シリーズは富士フイルムがパートナー ンサーを使い,35 mm 判で 28 mm・45 mm・75 mm 相当の であったが,ルナでは家電メーカーのソニーであることが注 レンズを単焦点でレンズシャッター機としてそれぞれ用意し 目される. ているところが注目される. さ ら に ニ コ ン は 2013 年 3 月 に,OLPF レ ス 機 と し て 〈プリンター / スキャナー〉 ノーリツ鋼機のイメージング事業を担う NK ワークスは, APS-C で 2,410 万画素の一眼レフ「ニコン D7100」を発売し 銀塩デジタルミニラボ「QSS-3800」,「QSS-3801HD」を 1 月 た.D7100 では物理的に OLPF を取り外したもので,OLPF に発売.QSS-3800 は,ペーパー幅 305 mm までのプリント 効果を打ち消すようにした,D800E とは異なる. 処理を可能とした低価格モデル.QSS-3801HD は,解像度 OLPF は撮像素子前に付加することによりモアレが除去で 640 dpi の高精細レーザーエンジンやオーダー自動仕分けユ きるというのが一般的だが,限られた場面での筆者の比較に ニット,自動測定が可能な測色計ユニット機能などを持つ. よれば,FoveonX3 メリルセンサーが最も発生が見られず, シンフォニアテクノロジー(旧・神鋼電気)は,業務用と モザイクフィルター配列で,OLPF なしとありでは,なしの しては世界最小・最軽量とする昇華型デジタルフォトプリン 方が発生頻度は高く,その度合いは機種によって異なる.ま ター「Color Stream CS2」を 3 月に発売した.プリント容量 た OLPF ありでも発生することはあり,頻度ならびに度合 は L サイズで 340 画面,速度は PC サイズで 11 秒以下.本 いは,やはり機種によって異なるというのが現実だ. 体サイズは 272×168×351 mm,重量 20 kg 以下,価格は 20 いずれにしても高画素機,高解像感機の実力を写真として 確認できるのには,画素数に加え,撮影レンズの解像力,プ 万円以下. 富士フイルムは,ネットプリントの新しいサービスとして リンターの解像度,プリント拡大率,撮影者の力量,さらに 市販の 3D CG / CAD ソフトウェアで作成した画像データから はカメラやレンズ機構構成なども大きく影響する.またプリ 3D プリントを作成する「FUJIFILM 3D CG プリントサービス」 ント拡大率は,写真サイズでの半切,全紙レベルでの画質比 を 3 月 29 日からスタートさせた.KG サイズ 315 円,2L サ 較判断はむずかしい.しかし,高解像度機ではかなり思い切っ イズ 420 円.納期は 7 ∼ 9 営業日. たトリミングを前提とした撮影ができるなど,いままでの ケンコー・トキナーは 517 万画素の CMOS センサー搭載 フィルムや通常画素数機の時代とは異なった考え方で撮影が の 35 mm フィルム用スキャナー「KFS-500」を 4 月 20 日に できるなど,新しい考え方が必要となる. 発売.駆動電源は USB バスパワー.色補正ソフト付きで, ○ライカとハッセルブラッド 2012 年のカメラで注目されたのは,9 月にドイツのフォト キナで発表された「ライカ M」と「ハッセルブラッド・ルナ」 である. ライカ M は,ライカ M マウントを採用した光学式距離計 店頭予想価格は 4,980 円. セイコーエプソンは,64 インチの業務用大判インクジェッ トプリンター SureColor シリーズの 3 機種をもってサイン& ディスプレー市場に本格参入した.スタンダードモデル 「SC-S30650,178 万円・5 月 29 日発売」,高速モデル「SC- 連動のデジタルカメラだが,2006 年の M8,2009 年の M9 S50650,298 万円・10 月発売」 ,高画質モデル「SC-S70650, と進化してきて,この時期撮像素子を従来からの CCD では 248 万円・8 月発売」.ラミネートなしで最大 3 年の屋外耐候 なく 2,400 万画素の CMOS に変え,ライブビューと動画撮 性の実現を特徴とする. 影を可能にしたモデルだ.本機も OLPF レスであることに キヤノンは,インクジェットプリンター PIXUS シリーズ は変わりはないが,技術的なこと以上に,ネーミングが の最高峰モデルとして A3 ノビサイズ,12 色顔料インクの 1954 年 の ラ イ カ M3 以 来 M2,M4,M5,M6,M7,M8, 「PIXUS PRO-1」を 6 月に発売.インクタンクは従来比 2.5 M9 と続いてナンバーリングを単純に M としたことだ.確か 倍の容量比をもつ.価格は 128,000 円. に従来の数字展開を見ると M10 が余地として残されていた 三菱製紙グループのピクトリコは,デジタルカメラデータ のだろうが,今後も急速な進歩が予想されるデジタルにあっ から銀塩黒白印画紙へプリントするためのインクジェットプ てはさらなるナンバーを短期間の間に追加しなくてはいけな リンター用のデジタルネガ作成用「ピクトリコプロ・デジタ い だ ろ う が, 単 に ラ イ カ M と し た と こ ろ が 注 目 さ れ る. ルネガフィルム TPS100」を 6 月に発売した.厚さ 145 mm, 2012 年の写真の進歩 239 平滑表面の透明 PET フィルムで,レターサイズから 329× トプリンターとして 9 色顔料インク+クロマオプティマイ 483 mm まで用意されている.プロセスは,デジタルカメラ ザーの「PIXUS PRO-10」(店頭予想価格は 9 万円前後)と データをモノクロ化し階調反転・左右反転させインクジェッ 8 色染料インクの「PIXUS PRO-100」(店頭予想価格は 6 万 トプリンターでネガフィルムを作成し,暗室で銀塩黒白印画 円前後)を 11 月上旬に発売した. 紙へ密着露光する. 加賀ハイテックは,フォトブック他の付加価値プリントを セイコーエプソンは,35 mm フィルムに対応した A4 フラッ トベッドスキャナー「GT-F740」を 10 月 11 日に発売した. 簡単にミニラボの店内で処理するためのソフトウェア「Kodak 35 mm ストリップフィルム 6 コマ,35 mm マウント 4 コマ クリエイティブ・プロダクション・ソフトウェア(KCPS) の連続スキャンに対応,光学解像度は 4800 dpi.クラウドサー V5.0」と両面サーマルプリンターの「KodakD4000 両面フォ ビス連携のソフトを添付.店頭予想価格 1 万円台後半. トプリンター」を 6 月の PHOTONEXT の会場で展示.プリ 三菱電機は,着席スタイルでデジタルカメラやスマート ント最大幅は 20.3 cm で,プリント速度は 8×10 インチで 75 フォンの画像データをプリントすることができる店舗向け新 秒.本体サイズは,62.5×78.5×47.8 cm,重さ 68.7 kg,需要 セルフプリントターミナル「クイッキオ」を開発,11 月 15 者価格 150 万円.発売は 10 月. 日から納入を開始した.新ターミナルクイッキオは,高画質, セイコーエプソンは,写真店や写真館向けに開発したイン 高速,大容量を誇る昇華型熱転写方式の三菱デジタルカラー クジェット方式の新型ミニラボ「SureLab SL-D3000」を 7 月 プリンター「CP-D-70D-N」を 4 台搭載し,L 判 1 枚を 2 秒 下旬に発売.SureLab(シュアラボ)は,エプソンのインク でプリントできるのを特徴とする. ジェットミニラボシリーズの新ブランド.6 色染料インク, 1.3 企業 / 団体 / 人の動き L 判で 750 枚 / 時の高速プリントを誇る.価格はオープン. 1 月 10 日∼ 13 日まで米国ラスベガスで「PMA@CES2012」 コダックは,家庭で保存されている大量の写真プリントや が開催された.PMA(Photo Marketing Association)は,1924 年賀状のデジタル化を容易にする「Kodak Photo Scan」を 年に設立された米国を中心とした写真業界の組織.PMA 8 月 1 日 に 発 売. 最 大 A4 サ イ ズ,1200 dpi で Jpeg,TIFF, ショーは,その事業の 1 つで世界的な写真関連機器の展示会 PDF,BMP ファイルで保存できる.税別需要者価格 88,000 円. だが,2012 年は家電関連機器の展示会である CES(コン 浅沼商会は,光学解像度約 10,000 dpi,最大スキャンエリ シューマーエレクトロニクスショー)と併催され「PMA@ ア 60×120 mm でブローニー判に対応したフィルムスキャ CES」として開催された. ナー「OpticFilm 120」を 8 月下旬に発売.赤外線による,ゴ シグマの山木道広代表取締役会長が,1 月 18 日に逝去(享 ミ・傷の検知,ソフトウェアによる補修機能に対応.税込価 年 78 歳 ) さ れ た. 故 山 木 氏 は,1933 年 8 月 2 日 生 ま れ, 格は 21 万 9800 円. 1961 年に 27 歳で起業し,世界でも有数の写真交換レンズメー キヤノンは,無線 LAN 対応のコンパクトフォトプリンター 「SELPHY CP900」を 9 月上旬に発売した.熱昇華型で,プリ カーにシグマを育て上げた. 米イーストマン・コダック社は,米国連邦破産法第 11 章 ントサイズは L 判とポストカード,カードサイズに対応. を申請.米シティグループから運転資金として 9 億 5000 万 価格は直販サイトで,9,980 円. ドルのつなぎ融資を受け経営再建を目指すと 1 月 19 日に発 コダックは,ポータブルタイプで世界最速の高速スキャン 表.営業はそのまま継続しており,重点事業以外の知的財産 を実現した個人ユース向けドキュメントスキャナー A3 サイ の売却を進め,2013 年内に再建を完了の予定.なお,米国 ズ対応の「ScanMate i940」を 9 月 3 日に発売した.最大解像 外子会社は同法の対象外で,日本法人のコダック社はそのま 度は 600 dpi,電源は AC アダプターのほか,USB バスにも ま営業を続ける. 対応.税込価格は 24,150 円. カメラ映像機器工業会(CIPA)は,2 月 9 日∼ 12 日の 4 ブラザー工業は,インクジェットプリンターの新ブランド 日間にわたりカメラと写真映像の情報発信イベント 「PRIVIO」を立ち上げた.家庭用はマイミオー,業務用はジャ 「CP+2012」を“ワールドプレミア 伝える,つながる,写真 スティオブランドとしていたが,ブランドを統一して国内 の力”というテーマのもとパシフィコ横浜で開催した.出 2 大メーカーのキヤノン,エプソンを追い上げる.新製品は, 展 企 業 数 は 88 社( 前 年 99 社),小間数は 807 小間(前年 A3 出力に対応させクラス最小の奥行 290 mm を達成したプ 810 小間).総登録来場者数 65,120 人,前年比 131.9%の動 リビオネオシリーズ 2 機種を含む全 17 機種を展開.9 月か 員を記録した. ら 11 月にかけて順次発売. エプソン販売は,複合機を含むカラータイプ 6 機種(PX- カメラ映像機器工業会は,CP+2012 の会期初日の 2 月 9 日に総会を行い,ミラーレス系カメラを「ノンレフレックス」 675F,PX-605F,PX-535F,PX-505F,PX-205,PX-105)とモ という呼称で統計中に使用すると発表した.ノンレフレック ノクロタイプ 3 機種(PX-K751F,PX-K701,PX-K150)の新 スの区分には,ミラーレス,コンパクトシステムカメラ,レ 型インクジェットプリンターを 9 月 20 日から順次発売した. ンズ交換式レンジファインダーカメラ,カメラユニット交換 新ラインナップはエントリーの低価格帯を充実し,モノクロ 式も含まれる.CIPA は,ノンレフレックスの呼称はあくま タイプも強化.想定実売価格は 3 万円台後半から 9,000 円台. でも統計上の分類設定であり,製品名やマーケティング上の キヤノンは,写真愛好家向けに A3 ノビ対応インクジェッ 名称に関しては各社の判断にゆだねている. 240 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 米イーストマン・コダック社は,2 月 9 日,収益力向上の の 1 年間に日本国内で新発売されたデジタルカメラの中か ためにコンシューマー向けデジタルカメラ関連事業から撤退 ら,「カメラグランプリ 2012 大賞」にニコン D800 を,一般 し,今後はプリント事業に注力すると発表. ユーザーが Web 投票で選ぶ「あなたが選ぶベストカメラ賞」 横浜市写真師会は,2 月 12 日横浜市中区馬車道にある下 に も ニ コ ン D800 が,「 レ ン ズ 賞 」 に は キ ヤ ノ ン EF8 ∼ 岡蓮杖碑前で「下岡蓮杖生誕祭」を行い,合わせて写真展 15mmF4L フィッシュアイ USM,「カメラ記者クラブ賞」に 「下岡蓮杖開業 150 周年 フォトスタジオの聖地・横浜 1860 は オ リ ン パ ス M・ ズ イ コ ー デ ジ タ ル 45mmF1.8 と ソ ニ ー ∼ 1960」を 4 月 15 日まで横浜開港資料館企画展示室で開催. 日本写真文化協会主催による「下岡蓮杖翁を偲ぶ会」が, NEX-7 を選定し,6 月 1 日写真の日に贈呈式を行った. 富士フイルムホールディングスならびに富士フイルムは, 命日にあたる 3 月 3 日に東京豊島区の染井霊園にある下岡蓮 6 月 7 日に記者会見を開き,次期代表取締役社長・COO(最 杖墓地にて,営業写真,古写真,親戚,静岡県下田市関係者 高執行責任者)に中嶋成博氏が昇格すると,内定人事を発表 等が集った. した.中嶋氏は富士フイルム 8 代目の社長となり,技術畑出 日本写真映像用品工業会は,毎年発行している「写真・映 像用品年鑑」の Web 版を制作し,3 月 26 日から同工業会ホー ム ペ ー ジ(http://www.jpvaa.jp/dbook/nenkanweb/) で 掲 載 を 開始. 身では春木栄氏に続く 2 人目.人事は,6 月 28 日の取締役 会で正式決定される. ビックカメラは,家電量販店のコジマをコジマが 6 月に 行った第三者割当増資を引き受け,株式の 50%超えを取得 富士フイルムは,カラーネガフィルムの「フジカラー し子会社化した.出資金は 141 億 1800 万円.コジマを傘下 REALA ACE」の出荷を在庫がなくなり次第販売を終了すると に収めたことにより,ビックカメラの 40 店,完全子会社の 2 月末に発表.販売終了後の代替え品は,35 ミリが「フジカ ソフマップ 41 店を加え,グループで売上高 1 兆円を超え, ラー 100」,ブローニーが「フジカラー PRO160NS」となる. 家電量販 1 位のヤマダ電機に続く 2 位となる. ニコンは,東京駒場の東京大学生産技術研究所に「ニコン プロメディアが主催するフォトグラファーズ&フォトビジ イメージサイエンス寄付研究部門」を 4 月 1 日に開設し,将 ネスフェア「PHOTONEXT2012」が,6 月 26 日・27 日の 2 来の日本の光学部門を担う人材育成と光学産業の技術者の交 日間にわたって東京有明の東京ビックサイトで開催された. 流を活性化していく場所を提供する.開設期間は 2017 年 3 主催団体としては写真感光材料工業会,日本カラーラボ協会, 月までの 5 年間. 日本写真映像用品工業会,特別協賛として日本営業写真機材 リコーは,4 月 1 日付で組織変更を行い,RICOH ブラン ドのカメラを含むコンシューマー向け事業をペンタックスリ 協会が協賛.出展社数 126 社,出展小間数 297 小間と過去最 高であった. コーイメージングに集約すると発表した.同時に,官公庁・ 写真映像経営者協議会(JPEA)は,6 月 25 日に第 39 回 企業などを対象とした業務用カメラはリコー・パーソナル・ 定期総会を開き,任期満了に伴う役員改選で,ベルボンの中 マルチメディア・カンパニーに集約された. 谷幸一郎社長が会長として再選された.総会後は,IPC / 弥 日本写真映像用品工業会は,4 月 1 日に一般社団法人に名 富奨学金の授与式が行われ「走査型電子顕微鏡による静電潜 称変更して初の総会を 5 月 23 日に開き,会長に山中徹(ケ 像観察と表面電位測定」の研究で,東海大学院生の熊谷直太 ンコー・トキナー),副会長に南英幸(ハクバ写真用品),中 郎氏を表彰.さらに,シグマ山木和人社長から「FOVEON 谷幸一郎(ベルボン)の各氏を新法人役員として選任した. イメージセンサーについて」の記念講演が行われた. 写真感光材料工業会は,第 65 回定時総会を 5 月 23 日に開 富 士 フ イ ル ム は, 同 社 の 3D デ ジ タ ル カ メ ラ「FinePix 催し,会長に富士フイルムの古森重隆社長を再任し,監事に REAL 3D W3」が国際宇宙ステーションで採用されたと 6 月 DNP フォトルシオの船曳靖男氏を選任した. に発表した.前年 12 月 21 日にロシアの宇宙船で運ばれて, 富士フイルムは,5 月末をもって APS フィルム全製品の 生産を終了した.APS は 1996 年にスタートしたカートリッ ステーションでの活動記録用に利用された. パナソニックグループの三洋電機は,デジタルカメラ,デ ジ式写真フィルム「アドバンストフォトシステム」の略で, ジタルムービーカメラの国内事業部門を別会社化し 7 月 1 日 24 mm 幅フィルムに磁気情報をもたせ,さまざまな情報を に「三洋 DI ソリューションズ株式会社」を設立した.三洋 記録でき,撮影・プリント時に利用できた.デジタルカメラ 電気はパナソニックグループになる以前から各社のデジタル のセンサーサイズである APS-C という呼称はこの規格の名 カメラ,デジタルムービーカメラの OEM 開発や製造を担当 称に由来する. してきたが,別法人化して顧客や取引先との信頼関係をさら 日本写真協会は,61 回目の「2012 年日本写真協会賞」と に深化させることを目的とする. して,国際賞を山岸享子,功労賞を熊切圭介,故・多木浩二, 日本写真文化協会は,写真館誕生 150 周年・ポートレート 福島辰夫,村井修,作家賞を石川梵,高梨豊,ホンマタカシ, ギャラリー 10 周年を記念した第 1 回肖像写真コンテストを 学芸賞を岡塚章子,新人賞を公文健太郎,斉藤麻子の各氏に 実施し, 「下岡蓮杖賞」を定めて 7 月 5 日∼ 11 日まで発表展 決定し,6 月 1 日「写真の日」に表彰した. を行った. 写真・カメラ雑誌のメカニズム担当記者で組織するカメラ 富士フイルムは,7 月にフジカラー PRO160NC4×5(20 枚 記者クラブは,2011 年 4 月 1 日から 2012 年 3 月 31 日まで 入),フジカラー PRO160NC4×5 クイックロードタイプ(20 2012 年の写真の進歩 枚入),センシア III100 24 枚撮り/ 36 枚撮り,タングステン 光 源 用 フ ィ ル ム T64 36 枚 撮 り,120 サ イ ズ: ア ス テ ィ ア 241 「アーカイブフィルム」などの生産は続けるので,映画事業 からの撤退ではないとしている. 100F12 枚撮り 5 本パック,220 サイズ:アスティア 100F24 東京工芸大学は,2013 年 4 月から同大学芸術学部写真学 枚撮り 5 本パック,シート:アスティア 100F4×5,8×10(20 科専門課程に写真館子弟らの教育への要望へ応えた形で「肖 枚入),アスティア 100F4×5 クイックロードタイプ(20 枚入), 像写真研究室」を設置し,卒業後即戦力となるような教育を ベルビア 100F4×5 クイックロードタイプ(20 枚入), 「ネオ 行う.最近ではデジタル化に伴なって大きく写真業界が変化 パン SS」,「ダークレス現像器キット」と「ダークレス現像 している中にあって,営業写真館関係は比較的安定しており, 薬品キット」,黒白のバライタ印画紙「フジブロマイド レン この方面への卒業生の就職も多い.担当教員は上田耕一郎助 ブラント V G2」を在庫品がなくなり次第生産を終了すると発 教. 表した. キヤノンは,8 月 3 日,EOS シリーズ用交換レンズ「EF レンズ」の累計生産本数が 8,000 万本を達成したと発表.EF レンズは 1987 年に宇都宮工場で生産開始され,その後台湾 セイコーエプソン株式会社は,HOYA 株式会社とエプソン の光学事業について,HOYA へ譲渡することなどで合意した と 11 月 16 日に発表.正式な譲渡日は 2013 年 2 月 1 日. 日本カメラ財団の主催する歴史的カメラ審査委員会では, キヤノン,キヤノンオプトマレーシア,大分キヤノンの 4 拠 2012 年の歴史的カメラとして 11 機種を選定した.選定対象 点で製造が行われてきた. 機種は全部で 149 機種あり,そのうち 90 機種が審議対象機 富士フイルムは,急加速する制作現場や映画館でデジタル 種となり,最終的にフジフイルム X-Pro1,ニコン D4,ペン 化による映画フィルムの急激な減少によりコスト吸収が困難 タックス K-01,ニコン D800,オリンパス OM-D E-M5,ニコ であるとして,9 月 3 日から映画用フィルムを 5 ∼ 35%値上 ン D800E,キヤノン EOS-1DX,ニコンクールピクス S800c, げした. ソニー a99,ソニーサイバーショット DSC-RX1,キヤノン ドイツ・ケルンメッセにて世界最大規模の写真ショー EOS 6D の 11 機種が選ばれた. 「フォトキナ 2012」が 9 月 18 日から 23 日までの 5 日間にわ 以上,2012 年の写真業界のできごとをピックアップして たって開催された.展示面積は前回より減少したが,166 カ国 みた.今年は,今までになくデジタル化の影響を感じる 1 年 から 18 万 5000 人が来場し,前回の 2010 年(18 万 1464 人) であった.感光材料では,印刷,医療用を飛び越えて映画用 より来訪者数は増加した. が極端に減少した.それ以前には非銀塩フォトプリンターも 日本写真家協会は,9 月 18 日∼ 23 日まで開催されたドイ 2005 年をピークに減少を重ねている.さらにカメラの総出 ツ・ケルンのフォトキナ 2012 で東日本大震災の被災と復興 荷量もここにきて,2010 年をピークに徐々に減少をしてき の様子を記録した写真展「生きる -Post-TUNAMI」をタムロ たことだ. ン協賛のもとに行った. この過程にはリーマンショックの影響,3.11 東日本大震災, 日本カメラ財団(JCII)は,ドイツ・ケルンのフォトキナ タイの水害など自然災害の要因もあったが,この時期には前 2012 の会場で 9 月 18 日∼ 23 日まで“Tsunami ∼ 116 years 年を下回るのが明らかになってきた.その原因には,スマート ago ∼”というタイトルで明治三陸沖地震の解説パネルに加 フォンによるコンパクトカメラの侵食などがいわれている え半切 40 枚の歴史的な写真を展示した. が,はたしてそうだろうか.デジタルによるカメラ技術の成熟 ビックカメラは,9 月 27 日衣料品チェーン大手のユニク ロとコラボした「ビックロ」を新宿東口にオープンした. 期を早くも迎えたという見方もできるのではないだろうか. 本稿執筆にあたっては,工業生産の項は,写真感光材料工 オリンパスとソニーは 10 月 1 日,医療・デジタルカメラ 業会とカメラ映像機器工業会の資料を基に,新製品,企業 / 事業の業務・資本提携を発表,両社の強みを融合し,さらな 団体 / 人の動きの項はカメラタイムズを参照し,各社ニュー る企業価値向上を目指していくことが両社から発表された. スレリーズ等を参考,引用した. 今回の業務資本提携はオリンパス旧経営陣による粉飾決済が 表面化する中で自己資本比率の強化が急務とされ,提携先を 2. 銀塩感光材料 検討してきた.オリンパスではソニーとの資本業務提携によ 久下謙一(千葉大学) り,医療,映像の主力事業領域で相乗効果が期待できるとし て,9 月 28 日に第三者割当を実施し,ソニーが 500 億円を 出資する資本提携契約を締結した. 写真のデジタル化が進んだ今日,銀塩写真感光材料の研究・ 報告は,日本以外では中国・ロシア・東欧などの旧共産圏で, 富士フイルムホールディングスは,10 月 1 日付で広告宣 熱現像感光材料,ホログラム感光材料などを含めて散発的な 伝の企画・運営を担当する「富士フイルムプレゼンテック」 報告があるぐらいである.日本国内では,基礎的な研究分野 を人事,総務,購買などを担当する「富士フイルムビジネス はこれまでの成果をまとめたものが中心となっている.応用 エキスパート」に統合した. 分野では高解像度,高保存性を活かした分野に収斂している. 富士フイルムは,10 月に映画用フィルムの生産を終了す 高解像度では放射線飛跡検出,マイクロ記録など,画像保存 ると発表.これにより 2013 年春に同社の撮影・上映用映画 の分野では,デジタルマイクロ記録などであり,これらの分 フィルムは販売終了となる.今後はデジタルデータ保存用の 野への応用展開が模索されている. 242 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 2.1 放射線飛跡検出 法を適用・改良して,飛跡を作る粒子を弁別して検出するこ 放射線の飛跡を原子核乾板などの銀塩感光材料に高解像度 とを試みた(日写年,155:日写秋,435). で記録して解析する研究は,素粒子物理学などの分野でまだ 中性子線計測が必要な場では,多量の g 線が混在して測定 広く行われている.放射線による感光現象は古くから知られ が困難になることが多い.Kawarabayashi,石原,森島ら(名 ていて,様々に利用されてきたが,その感光過程については 大他)により,g 線混在場で中性子線のみを選択的に検出する 詳しくは調べられていない.感光過程の研究から,飛跡検出 のに 適 し た 感 光 材 料 と 解 析 技 術 の 開 発 が 進 め ら れ た(J. の応用まで,幅広い研究が続いている. ASTM International,9,104007:日写秋,435:日写秋,443) . 高解像度記録のためには,写真乳剤の超微粒子化が必須で 飛跡像の解析技術の開発も進められている.福田ら(東邦 ある.長縄・浅田ら(名大他)は,微細な放射線飛跡を記録 大他)は,最小電離粒子の飛跡の光学顕微鏡像の高精度認識 するための高感度・高解像度原子核乾板の開発を進めた(日 アルゴリズムを開発した(日写秋,441).また,桂川ら(名 写年,153:日写年,154;日写秋,436). 大)は,飛跡像を解析するための自動飛跡読み取りシステム 放射線による感光過程については,これまであまり研究報 告の蓄積が無く,未知の分野が多々残されている.中ら(名 大他)は,比較的低速な粒子での,エネルギー損失のメカニ ズムが異なるときの感光過程を調べ,原子核との衝突により 内部潜像が形成されることを示した(日写秋,442). 放射線飛跡を記録した原子核乾板に現像処理やその他の処 理を工夫することで,飛跡検出感度と精度を上げる試みが 色々となされている. を開発した(日写秋,440). 2.2 画像保存 銀塩感光材料は高い画像保存性を有するが,その特性をさ らに活かした保存法の開発が進められている. 清野(イマジカ)は,他のメモリーよりはるかに保存性が 高い写真フィルムにデジタルデータそのものを記録して,長 期に保存する方法を開発した(日写誌,75,22). 久下(千葉大)は,金沈着現像で得た像を焼成して得られ 久下ら(千葉大他)は,カラー現像を応用して,感度と る金膜写真は解像度が高いので,マイクロフィルムと同じよ 発色の異なる多層乳剤層に記録された飛跡を層ごとに色分 うに縮小記録ができ,金とガラスのみからなる画像となるこ け表示した.層ごとに色違いで示される飛跡から,その角 とから,画像の超長期保存方法となることを示した(日写誌, 度やエネルギーロス量が見積もられることを示した(Jpn. J. 75,416).さらに能條ら(千葉大)は,金膜写真を作製す Appl. Phys.,51,056402). る際の焼成温度を調整することで,機械的強度を高め,長期 久下ら(千葉大他)は,放射線飛跡を作る現像銀をヨウ化 間温水中に放置しても剥離しない耐久性の高い金膜写真が得 銀に変換し,ここへ蛍光色素を吸着させることで,飛跡を光 られることを示した(日写秋,445).また渡辺ら(千葉大)は, らせて検出する蛍光標識化の手法を開発した.ゴミなどのノ 金膜写真の焼成条件と解像度との関係を調べた.耐久性が高 イズに埋もれた飛跡も発光の有無で区分して検出された(日 まる高温での焼成では,解像度は低下した(日写秋,446). 写秋,444). 2.3 その他の研究 飛跡をカラー化して表示する方法は,その色情報から飛跡 久下ら(千葉大)は,金沈着現像法においてアスコルビン の様々な情報を引き出す解析手法が考えられ,今後の展開が 酸を添加して早められる現像速度の温度依存性を調べた.高 期待される. 温側では活性化エネルギーが大きく減少し,拡散律速への移 Kimura ら(東邦大他)は,超微粒子乳剤乾板上の光学顕 行が推測された(日写春,167). 微鏡の分解能以下の微小飛跡を,乳剤膜を引き延ばして拡大 松本,西城ら(近畿大)は,分光カソードルミネセンス顕 することで,光学顕微鏡で読み取る方法を示した(Nuclear 微鏡を用いて,シアニン色素 J-会合体微結晶の蛍光発光違法 Instruments and Methods in Physics Research A,680,12). 性と分子配向について調べた(日写秋,463). 久下ら(千葉大他)や,釜田ら(神戸大他)は,低温で赤 色光を与える後露光補力法により,分散した潜像核を集約す ることで放射線に対する感度が上昇し,飛跡検出に有用であ これまでの研究成果を見直して,新たな解釈を加えてまと める試みもなされている. 谷は色素増感での電子移動機構について提案したモデルに ることを示した(日写誌,75,408:日写年,156:日写秋, 基づき,色素の吸着と真空準位のシフトの解析を進めた(日 435). 写誌,75,525:日写年,157). 金沈着現像で得られる金微粒子はフィラメント状にならな いため,通常現像より高精細な飛跡像を与える.Kubota ら (名大他)は,金沈着現像法で各潜像核上に形成される金微 本田は昨年の報告に引き続いて,X 線フィルムの材料設計 について,画質設計の観点からその歴史を概観した(日写誌, 75,323). 粒子を電子顕微鏡で観察し,飛跡の潜像核個数線密度を求め た.現像銀粒子個数を数えるグレインデンシティ測定では, 3. 光機能性材料 高エネルギー領域で値が飽和するが,この方法はその領域で 光機能性材料研究会 も飽和せず,測定のダイナミックレンジを広げることができ た(日写誌,75,334). 袴田ら(名大他)は,溶解物理現像などの各種の現像処理 3.1 有機太陽電池の性能向上 日本写真学会光機能性材料研究会が主催した「第 9 回光機 2012 年の写真の進歩 243 能性材料セミナー:有機太陽電池の性能向上への科学的アプ アを取り出すことを説明し,可視から近赤外に強い吸収を持 ローチ」(6 月 29 日)では,有機太陽電池の性能向上に関わ つ高結晶性ペロブスカイト吸収体に基づく低価格溶液処理太 る科学的アプローチについて,電子構造に関する測定法およ 陽 電 池 の 変 換 効 率 PCE が 10.9 % で あ る こ と を 報 告 し た び最新の電子構造の研究動向に関した基調講演と基礎から応 (Science,338,643–647). 用まで広い範囲に及ぶ 4 つの講演が行われ,活発な討論が行 Ihama ら(富士フイルム)は,薄いパンクロ有機光電変換層 われた.石井(千葉大)は,「有機太陽電池の電子構造:測 を伴った有機 CMOS イメージセンサーに関して,有機層上 定法から研究動向まで」と題して有機半導体の電子構造の基 の透明電極上に酸化 Al と SiON を堆積して有機層を保護し, 礎と光電子分光や表面電位計測などの電子構造計測法を含め ダイナミック・レンジの増加とキャリア濃度が高いことによ た太陽電池関連の電子構造研究の動向について報告した.こ る S / N の向上を実現したセンサーを報告した(International れらの知見は,有機太陽電池に限らず多くの有機半導体素子 Image Workshop, Utah, USA, June 12–16). において,素子の動作を理解し,性能向上を目指す上で有用 3.3 熱線遮断材料 な知見となるものである.山岡(三菱化学)は「フレキシブ 環境・エネルギーに関する関心の高さから,省エネルギー ル有機薄膜太陽電池の開発と今後の展開」と題して新コンセ を志向した光機能性材料の開発がなされた.清都ら(富士フ プトの塗布型有機薄膜太陽電池について,そのマイルストー イルム)は,銀平板粒子が熱線遮断材料に利用され,省エネ ンを示し,市場拡大が見込まれる次世代電池としての市場導 ルギー材料として有用であることを報告した(日写誌,75, 入の取り込みについて説明した.吉田(産総研)は,「有機 158). 薄膜太陽電池におけるバルクヘテロ接合構造の特長」と題し 3.4 J-会合体 て有機薄膜太陽電池でのバルクヘテロ接合について透過型電 色素会合体,特に J-会合体に関して活発な研究がなされた. 子顕微鏡,放射光 X 線散乱などの構造解析手法による構造 第一巻の発行から 16 年を経て,小林孝嘉編「J-Aggregates, 解明の状況について報告した.現状と今後の課題がわかりや Vol. 2」 (World Scientific,ISBN-10: 9814365742)が出版された. すく報告された.古部(産総研)は,「高速分光による有機 収載の話題は以下のとおりである.「J-会合体系における超 太陽電池の励起子・電荷ダイナミクス」と題して有機太陽電 高速過程」 「J-会合体における振電結合」 ,「光収穫ポルフィ 池における光電変換初期過程の解明を目的として,励起子の リン J-会合体の階層構造」,「低温 TEM によるシアニン色素 生成・拡散・電荷分離過程をフェムト秒レーザーを用いた分 分子会合体の形態論」,「シアニン色素会合体と生体分子との 光手法により解析する手法を報告した.ポリチオフェン / フ 相互作用」,「DNA の影響下における Pseudo-Isocyanine およ ラーレン誘導体混合膜に関して,励起子拡散長および電荷分 び関連する色素材料の J-会合体形成」,「高分子膜中および水 離ダイナミクスを明らかにし,ルブレン単結晶に関してシン 溶液中のポルフィリン J-会合体の巨大電気光学効果」,「J-会 グレット励起子がトリプレット励起子に効率よく分離される 合体における励起子輸送の温度依存性」,「J-会合体の量子情 過程が直接観測できることを報告した.中島(理研計測)は, 報処理特性」,「ペリレン色素の J-会合体」,「非共有結合的手 「大気中光電子収量分光法による仕事関数・イオン化ポテン 法による次元特異的 H-および J-会合体の簡便な合成」,「シ シャル測定」と題して有機太陽電池の性能向上のため電極お アニン J-会合体のメゾスコピック形態,光学異方性,および よび電池材料の仕事関数およびイオン化ポテンシャルを測定 分光学的性質」,「基礎物理・化学からナノテクノロジー,ナ し,この測定方法として広く用いられている大気中光電子収 ノサイエンスへの応用におよぶ J-会合体研究の最近の進歩に 量分光法の原理と測定例を報告した.以上の報告は,今後の 関する総説」. 有機太陽電池の性能向上に大いに活用されることが期待され 日本化学会第 92 春季年会(2012)(以下,日化春と略記) る.これらの内容は特集として日写誌,73,497–524 に掲載 において,色素 J 会合体に関する以下の報告がなされた.井 された. 村ら(早大)は,「近接場光学顕微鏡による二重壁シアニン 3.2 光電変換材料 J 会合体の研究」(日化春,2A5-11)を報告した.米谷ら(阪 本年度も光電変換材料に関する研究が活発になされた.色 市大)は,「シアニン色素 J 凝集体の吸収・発光特性の高圧 素増感太陽電池は写真フイルムにとって不可欠な色素増感を 下における変化」(日化春,3PB-036)を報告した.森山ら 用いている点で本会とは関係が深いデバイスである.その色 ( 東 邦大ほか)は,「キラルな自己会合凝集体を形成する 素増感太陽電池が大きく変わろうとしている.Miyasaka ら pseudoisocyanine の蛍光円偏光(CPL)測定」 (日化春,2PB- (桐蔭横浜大)は,可視域に広く強い吸収を持つハロゲン化 058)を報告した.佐藤ら(筑波大)は,「2 種類の色素凝集 銀鉛ペロブスカイトを増感剤に用いることにより,それ自身 体を含むリポソームの発光特性」 (日化春,1PC-171)を報告 が電子輸送能を有するため酸化チタンが不要となり,全固体 し た.Kimizuka ら( 九 大 ) は,「Self-assembly under non- 化が高効率と高安定性で実現する可能性を報告した.具体的 equilibrium conditions: Emergence of kinetically controlled には,メゾ超構造有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトに基 superstructures of cyanine J-aggregates」( 日 化 春,2F4-28) づく効率的ハイブリッド太陽電池に関して,多くの低価格太 を報告した.三浦ら(桐蔭横浜大)は,「水熱処理によるメ 陽電池の基本的なロスは強く結合した励起子を分離すること ロシアニン含有 LB 膜の光学特性の改質−超構造生成を伴う と,高度に不整で低移動度のネットワークから自由なキャリ J-会合体の再編−」 (日化春,1H4-25)を報告した.民秋ら(立 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 244 命館大)は,「自己集積型クロロフィル誘導体の合成とその ス)が,XZ-1 に採用されたコンパクト上級機用レンズにつ 配位能」 (日化春,1D2-01)および「アミノ基およびヒドロ いて(CP+ 技術アカデミー,2 / 9,以下“CP 技術”と略記 キシ基を持つクロロフィル誘導体の合成とその自己会合挙 する),茂木(キヤノン)は,IXY600F に搭載されたレンズ 動」 (日化春,1D2-02)を報告した.宮武ら(龍谷大ほか)は, 構成・工夫の紹介について報告した(光設計研究グループ第 「両親媒性亜鉛 3-ヒドロキシメチルクロリンの自己会合体に 49 回研究会,2 / 10). よる超分子ゲルの創製」 (日化春,1H5-23)および「亜鉛 3(1- 交換レンズのレンズ開発では,秋枝ら(パナソニック)が, ヒドロキシエチル) -クロリンの自己会合における超音波の効 マ イ ク ロ フ ォ ー サ ー ズ 用 電 動 ズ ー ム の 開 発 を( 日 写 年, 果」 (日化春, 1PC-036)を報告した.砂金ら(物材機構)は, AL2) ,奥村(キヤノン)が,EF8-15mm F4L フィッシュアイ 「水溶性フタロシアニンの会合特性に及ぼす溶媒効果」(日化 USM の開発について報告した(カメラ技術).又,佐藤(コ 春,1M4-49)を報告した.松本ら(横国大ほか)は,「末端 シナ)は,マイクロフォーサーズ用大口径 F0.95 レンズの開 アミノ置換基の異なるビスアゾメチン色素の結晶構造におけ 発について,技術的側面だけでなく,マーケティングの視点 る分子間相互作用」 (日化春, 2K3-46)を報告した.北村ら(千 を加えた興味深い内容で紹介している(カメラ技術). 葉大)は,「水素結合部位を持つジケトピロロピロールの自 カメラシーケンスやそれを支える技術で,漆戸(ソニー)は, 己集合」 (日化春,3K2-07)および「水素結合性ジアリール 同社の a シリーズに搭載された“トランスルーセント・テ エテンを用いたペリレンビスイミド J 会合体のナノ構造制 クノロジー”について(CP 技術),細田(カシオ)は,同社 御」 (日化春, 2PA-198)を報告した.北村ら(千葉大ほか)は, EXILIM ZR シリーズの快速撮影を支える技術について報告し 「セルフソーティングによる自己集合型ナノリングとナノ た(CP 技術).豊田(キヤノン)は,デジタル一眼レフ用電 ロッドの分離」 (日化春, 3K2-51)を報告した.矢貝(千葉大) 子先幕専用シャッターについて解説した(日写誌,75(3), は,「超分子エンジニアリングによるエキゾチック色素集合 280).川合(オリンパス)は,デジタル一眼レフカメラのダ 体の創製」(日化春,4S6-05)を報告した.また,Yagai ら(千 ストリダクションシステムの開発において,所謂“ゴミ取り” 葉大)は,水素結合性部位を持つナフタレン系色素が分子形 についての基本的技術に関して詳述している(日本知的財産 状の違いにより J 会合体と H 会合体を区別して形成するこ 協会 研修会,10 / 10).近藤(富士フイルム)は,X100 に搭 とを報告した(Angew. Chem. Int. Ed.,51,6643–6647). 載された「ハイブリッドビューファインダー」について,商 これらの色素会合体に関する知見は,今後の光機能性材料 の発展に役立つものと期待される. 品特性と絡めた解説を行っている(日写誌,75 (3) ,267)(CP 技術). 本年は,フォトキナイヤーであったことから,数々の新製 品が上市され,技術のみならず,カメラ本体の技術内容と併 4. 画像入力―撮影機器 井上義之(カメラ技術研究会) せた報告も多い年となった.若代(ペンタックスリコー)が, PENTAX Q の開発について解説し(日写誌,75(3),272), 4.1 技術報告 土田(オリンパス)は, E-P3 の開発について(日写誌,75 (3), イメージセンサー技術において,田中(富士フイルム)は, 262) ,芳賀(オリンパス)は,OM-D E-M5 の商品開発につい X-Pro1 等に搭載された X-Trans CMOS の開発について報告し て(日写年,AL1),その後江澤(オリンパス)が,OM-D た(情報センシング・コンシュマーエレクトロニクス研究会, E-M5 に搭載された特筆技術として,5 軸手振れ補正システ 3 / 30) .これらは(PHOTONEXT 写真学会セミナー,5 / 26, ムについて詳しく報告している(カメラ技術)(写真学会西 以下“PN 写セ”と略記する)(カメラ技術,11 / 22)におい 部支部例会,11 / 29,以下“西部支部”と略記する).前野(キ て も 報 告 さ れ て い る. ま た, 岩 崎( ニ コ ン ) は,D800 / ヤノン)は,EOS 5D Mark III について(PN 写セ),今藤ら(ニ D800E に搭載された 36.3 M ピクセルフルサイズセンサーと コン)は,同社ノンレフレックスカメラ Nikon1 シリーズの その“生かし方”について報告している(PN 写セ).また, 解説をし(日写誌,75 (3) ,275) (西部支部) ,井上(パナソ 川人(静岡大学)は,折り返し多重サンプリング積分処理を ニック)は,DMC-GH3 の商品技術について報告した(西部 用いた高感度高ダイナミックレンジ CMOS イメージセン 支部). サーの開発について紹介した(カメラ技術).このようにセ その他,カメラの新たな領域を拡げる技術も紹介されてい ンサー技術においては,単に画素競争のみならず,特徴のあ る.沼子(ペンタックスリコー)は,ペンタックス K シリー る素子,センサーを用いた様々な技術が提案された. ズに搭載された手振れ補正機構を応用して天体追尾を行うア イメージセンサー技術から更に応用した測光測距技術で, ストロトレーサー機能を持つ GPS アクセサリー“O-GPS1” 内山(ニコン)が,撮像面位相差 AF の仕組みと性能につい のシステム開発を紹介し(CP 技術),阪上(パナソニック)は, て解説し(日写年,AL3),竹内(ニコン)は,ニコン D4・ ズーム対応小型 3D カメラの開発において,二眼式 3D カメ D800 に搭載された 91K ピクセル RGB センサー及びそれを ラ技術を使った様々な機能紹介を行った(CP 技術). 用いたアドバンスシーン認識システムアルゴリズムについて 報告した(カメラ技術). コンパクトカメラのレンズ開発技術では,宮田(オリンパ 4.2 カメラを取り巻く環境(2012 年) 2012 年は,東日本大震災やタイの洪水等の,特に設計・ 製造に大きく関わる大事件から回復した年であった.一方で, 2012 年の写真の進歩 245 表1 メーカー名 キヤノン 機種名 表2 発売月 メーカー名 機種名 発売月 EOS 5D Mark III EOS 60Da EOS Kiss X6i EOS-1D X EOS 6D EOS-1D C 2012 年 3 月 2012 年 4 月 2012 年 6 月 2012 年 6 月 2012 年 11 月 2012 年 12 月 キヤノン EOS M 2012 年 9 月 ニコン Nikon 1 J2 Nikon 1 V2 2012 年 9 月 2012 年 11 月 富士フイルム X-Pro1 X-E1 2012 年 2 月 2012 年 11 月 D4 D800 D800E D3200 D600 D5200 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 4 月 2012 年 5 月 2012 年 9 月 2012 年 12 月 オリンパス OM-D E-M5 PEN Lite E-PL5 PEN mini E-PM2 2012 年 3 月 2012 年 10 月 2012 年 10 月 ライカ ライカ ライカ S 2012 年 12 月 M-E M9-P エルメスエディション M モノクローム M9-P ホワイトセット 2012 年 10 月 2012 年 6 月 2012 年 8 月 2012 年 7 月 シグマ SIGMA SD1 Merrill 2012 年 3 月 パナソニック ペンタックスリコー PENTAX K-5 Silver Special Edition PENTAX K-30 PENTAX K-5 II PENTAX K-5 II s 2012 年 3 月 LUMIX DMC-GF5 LUMIX DMC-G5 LUMIX DMC-GH3 2012 年 4 月 2012 年 9 月 2012 年 12 月 ソニー NEX-7 a65 NEX-F3 a57 a37 a99 NEX-5R NEX-6 2012 年 1 月 2012 年 1 月 2012 年 6 月 2012 年 4 月 2012 年 6 月 2012 年 10 月 2012 年 11 月 2012 年 11 月 ペンタックスリコー PENTAX Q Limited Silver PENTAX K-01 PENTAX Q10 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 10 月 ニコン 2012 年 6 月 2012 年 10 月 2012 年 10 月 スマートフォンの台頭により,コンパクトカメラの前年割れ 出荷が顕著となり,より一層レンズ交換式カメラへの注目度 が高くなったことと,カメラの“あり方”を問われる年となっ た. 4.3 デジタル一眼レフ 2012 年は恒例のオリンピックイヤー,フォトキナイヤー であり,一眼レフにおける“フラッグシップモデル”及びそ れに相応な交換レンズが発表,発売された.キヤノン EOS- この分野での新たな製品ラインナップとして,前述の富士 1DX,ニコン D4 はオリンピックで多くのプロに使われた. フイルムが“X シリーズ”,オリンパスが OM-D シリーズ, 一方で,中核を占める“フルサイズ”センサーを搭載した一 パナソニックが GH3,ソニーが a99 と,高付加価値的なジャ 眼レフの低価格化も進み,一般コンシュマーが,フルサイズ ンルの商品を発売し,より高級機種として拡げる動きがこの 一眼レフカメラをより求めやすくなってきているのも特筆す 年のトピックとして挙げられる.これらそれぞれのカメラは, べき動きであろう. 大きく特徴が異なっており(X シリーズは X-TransCMOS 採 加えて,所謂“APS-C”サイズセンサーを搭載した一眼レ 用による画質の良さ,OM-D E-M5 は OM シリーズの再来, フも,ペンタックスリコー,シグマからも発売された.より GH3 は最高画質の動画,a99 はフルサイズセンサー使用に 一層の一眼レフの活況に期待したい. よる高画質等),ノンレフレックス分野での新たな可能性を 更に,一眼動画の分野が動画の世界でも注目を浴び,キヤ 拡げたと言えよう. ノンから EOS 1DC 等将来の 4K 動画にいち早く対応した一眼 また,ペンタックスリコーの PENTAX K-01 では,既存の レフが発売されたこともトピックとして付け加えておきた K マウントで“敢えて”ノンレフレックス(ミラーレス)構 い. 造を採用し,デザインと共にその方向性に注目を集めた. 表 1 に 2012 年に発売されたデジタル一眼レフの一覧を示 す. 4.4 ノンレフレックスカメラ レンズ交換可能でありながら光学的なファインダーを持た ライカからは,M9 モノクロームが新たに発売された.“モ ノクロ”専用機として,このデジタル時代で新たな写真撮影 の方向性を示したカメラとして注目したい. この分野に属する 2012 年発売のカメラを表 2 に示す. ず,背面液晶モニターによるライブビューあるいは EVF で 4.5 コンパクトデジタルカメラ ファインダー機能を果たす形式のノンレフレックスカメラ コンパクトデジタルカメラの分野では,スマートフォンに は,新たに 2 月に富士フイルム,8 月にキヤノンが,APS-C 代表される携帯端末に搭載されているカメラの台頭による市 センサーサイズで参入した.日本市場では,レンズ交換式カ 場シュリンクにますます拍車がかかった年となった.その中 メラの内の半分近くをキープするまでになっている. で,各社共,生き残りをかけた独自の“カメラとしての存在 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 246 価値”を彷彿させる機種の発売が更に目立った年となってき たように思われる. ハードコピーテクノロジー全体としては,DRUPA2008 で 提案された IJ をはじめとする各種プリンタ技術の商業印刷 今年特に目立ったのは,スタイリッシュを売りとしながら 分野への展開が,DRUPA2012 でより確かなものとして定着 も,高倍率(10 倍以上)のレンズが搭載されたコンパクト してきた.そこに求められる環境負荷軽減や高速高画質化が カメラであろう.ニコンでは COOLPIX S6000 シリーズ,富士 検討されている. フイルムでは FinePix T400,キヤノンでは IXY 1 / 3,オリン Gilad Tzori(Landa Digital Printing)は,Drupa2012 で発表 パスは SP-620UZ / 720UZ,パナソニックでは TZ / SZ シリーズ, したナノグラフィックという印刷方式について紹介してい ソニーは DSC-WX100 シリーズ等がそれにあたるであろう. る.これは,エンドレスのベルト上に水系インクのインク F 値の明るい,カメラマニアの心をくすぐるレンズを搭載 ジェットで画像を作り,加熱して水分を飛ばしインクの薄い したいわゆる“プレミアム”カメラの台頭は昨年にも増して 膜を作り,印刷媒体上へ転写するというもの.薄いインク膜 拡がってきている.ニコンの COOLPIX S01,オリンパスの は紙へ浸透することがないために,鮮やかな色再現が可能で STYLUS XZ-2,パナソニックの LX7 等である.今年この分 あり,転写後の後処理も不要としている.またベルト上には 野で更に注目を集めたのは,一眼レフやノンレフレックスカ インクが残らず,すぐさま次の画像形成が行えるとしている メラで使用されるような所謂“大型センサー”をコンパクト (NIP28,6).Paul McConville(Xerox Research Center)らは, カメラの分野に搭載してきたモデルであろう.キヤノンでは CiPress500 の 兄 弟 機 と し て 2012 年 に 発 表 し た, 毎 分 350 PowerShot G1 X(1.5 型相当) ,シグマの DP1 / 2 Merrill(APS-C フィートの高速プリンタ CiPress350 について解説している. 相当),ソニーの RX100(1 型相当)/ RX1(フルサイズ相当) これは,オフィス向けの機種でも使われているソリッドイン 等である.特に DP1 / 2 においては,それぞれ別々の単焦点 クジェット技術を使っているが,オフィス向けでは金属ドラ レンズを搭載した“専用機”として発売され,シグマ社独特 ム上に画像形成したのち転写しているのに対し,プロダク のセンサー“Foveon X3”方式採用と相まって注目を集めた. ション向けは紙に直接インクを吐出し,熱と圧力で定着させ また,RX1 は,初の“フルサイズセンサー”搭載コンパク るという違いがある.インク着弾時及び定着時の温度を適正 トカメラとして,特にマニア層からの引き合いが強く,全世 に制御することにより,紙に浸み込みすぎず確実に定着する. 界で注目を浴びた. ソリッドインクジェットは,水系インクジェットインクより Wi-Fi 連携のいわゆる“繋がるカメラ”の台頭はますます 脱墨性に優れることも特徴として挙げている(NIP28,95– 広がってきた.パナソニックの SZ5,キヤノンの IXY 1 / 400 98).辰巳(富士フィルム)は,商業印刷向け枚葉インクジェッ シリーズ / Power ShotS110,ソニーの HX30V 等である.こ ト印刷機 JetPress720 に取り入れられた,オフセット品質を れらは“いかにも Wi-Fi 機能を搭載している”ことを誇示す 実現するための技術について解説している.インクの浸透し ることなく,まるで一般機能のように搭載されてきたことに にくいコート紙でのドットの崩れや干渉を防止するため,イ より,またより親和性が増したものとなっていることにより, ンクと反応するプレコンディショニング液を塗布し,着弾後 Wi-Fi 機能への親和性がますます高まってきたものと言えよ にインクを高速凝集させている.この技術は,浸透紙では表 う.更に進んで,ニコンの COOLPIX S800c のように,スマー 面近くに色材を留めて濃度の確保と裏ぬけを抑制し,さらに トフォンの OS である Android がそのまま搭載されたカメラ 脱墨性を確保することにも役立っている.また,輸送や後加 も発売された.今後のコンパクトカメラの在り方について一 工に耐える画像強度を得るために,熱圧定着を行いインク中 石を投じたものであると言えよう. のポリマーラテックスで皮膜を形成する.そして,インク中 カシオの EXLIM TR-150 は,従前のモデルである TR-100 の ユニークな形態を引き継いだ後継機種として注目を浴びた. の水分による用紙の変形を抑えるため,水分を着弾後もイン クドット中に留め,温風とカーボンヒータで乾燥させている. 防塵防滴付カメラにおいては,さらなる防塵防滴性能を追 また,色間位置合わせ精度を確保するため,4 色分のヘッド 求するカメラに加えて,所謂“お手軽防塵防滴”を追求し, バーを一つの描画胴上に配置する.このためにはヘッドバー 価格と“防塵防滴らしくない”スタイルを訴求したカメラが の小型化が不可欠であるが,1200 dpi ピッチの 2048 ノズル 新しい分野として注目された.オリンパスの TG-625 Tough からなるモジュールを 17 個一直線上に並べて実現した.一 や,パナソニックの FT20 等がそれに当たる. 方,画像処理ではスジむら防止のため,ドット間のオーバー 表 3 に 2012 年に発売されたコンパクトデジタルカメラの 一覧を示す. ラップの少ない配置を禁止したハーフトーン設計をしてい る.さらに画像余白部にテストチャートを印刷し,インライ ンセンサで読み取って不良吐出ノズルや濃度むらを検出し, 補償する画像処理を行っている(日画誌,51,392–398). 5. 画像出力 コンシューマ向けのフォトプリンタ分野では,矢澤(キヤ ノン)らが,2 月に発表したプロフェッショナルフォトプリ 5.1 プリンタ 藤田 徹(セイコーエプソン) 本項では,写真画質出力を主な目的とするハードコピーテ クノロジーに関し 2012 年の動向を述べる. ンタ PIXUS PRO-1 の高画質化技術について解説している. プロフェッショナルフォトに求められる要素として,色域, 黒濃度,色安定性,階調性,粒状性,耐候性,メディア選択 2012 年の写真の進歩 247 表3 メーカー名 キヤノン ニコン 富士フイルム オリンパス 機種名 PowerShot G1 X PowerShot SX260 HS IXY 1 IXY 3 IXY 420F IXY 220F PowerShot A3400 IS PowerShot A2300 PowerShot A810 PowerShot D20 IXY 430F PowerShot A4000 IS PowerShot A2400 IS PowerShot SX50 HS PowerShot SX500 IS PowerShot SX160 IS PowerShot G15 PowerShot S110 COOLPIX L26 COOLPIX S6300 COOLPIX S3300 COOLPIX S4300 COOLPIX P310 COOLPIX S9300 COOLPIX P510 COOLPIX L810 COOLPIX S30 COOLPIX L610 COOLPIX S6400 COOLPIX S800c COOLPIX S01 COOLPIX P7700 FUJIFILM X100 BLACK リミテッドエディション FinePix Z110 FinePix HS30EXR FinePix JX700 FinePix T400 FinePix S4500 FinePix XP150 FinePix F770EXR FinePix Z1000EXR FinePix XP50 FinePix JZ250 FinePix SL300 FinePix F800EXR FinePix Z1100EXR FUJIFILM XF1 Tough TG-620 VG-170 SP-620UZ SH-25MR Tough TG-820 VH-510 SZ-31MR Tough TG-1 SP-720UZ STYLUS TG-625 Tough STYLUS SP-820UZ STYLUS VH-515 発売月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 4 月 2012 年 5 月 2012 年 8 月 2012 年 8 月 2012 年 8 月 2012 年 9 月 2012 年 9 月 2012 年 9 月 2012 年 10 月 2012 年 10 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 8 月 2012 年 9 月 2012 年 9 月 2012 年 9 月 2012 年 9 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 6 月 2012 年 8 月 2012 年 8 月 2012 年 8 月 2012 年 8 月 2012 年 11 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 4 月 2012 年 5 月 2012 年 6 月 2012 年 8 月 2012 年 8 月 2012 年 9 月 2012 年 9 月 メーカー名 ライカ パナソニック シグマ ソニー カシオ ペンタックスリコー 機種名 発売月 工事現場用カメラ TG-1 工一郎 STYLUS VH-410 STYLUS XZ-2 V-LUX3 X2 V-LUX 40 X2 ポール・スミスエディション D-LUX6 V-LUX4 LUMIX DMC-FT20 LUMIX DMC-3D1 LUMIX DMC-SZ7 LUMIX DMC-FX80 LUMIX DMC-FH8 LUMIX DMC-FH6 LUMIX DMC-S2 LUMIX DMC-TZ30 LUMIX DMC-FT4 LUMIX DMC-LX7 LUMIX DMC-FZ200 LUMIX DMC-SZ5 SIGMA DP2 Merrill SIGMA DP1 Merrill DSC-W630 DSC-WX50 DSC-W610 DSC-WX70 DSC-HX30V DSC-HX10V DSC-WX100 DSC-HX200V DSC-TX300V DSC-TX66 DSC-TX20 DSC-RX100 DSC-WX170 DSC-RX1 EXILIM EX-ZS6 EXILIM EX-ZS150 EXILIM EX-ZS20 HIGH SPEED EXILIM EX-ZR20 HIGH SPEED EXILIM EX-TR150 EXILIM EX-ZS12 HIGH SPEED EXILIM EX-ZR300 EXILIM EX-N1 EXILIM EX-JE10 EXILIM EX-N10 EXILIM EX-H50 HIGH SPEED EXILIM EX-ZR1000 HIGH SPEED EXILIM EX-FC300SWE EXILIM 10th Anniversary EX-ZR1000BSA PENTAX Optio VS20 PENTAX Optio WG-2 PENTAX Optio WG-2 GPS PENTAX Optio LS465 PENTAX X-5 PENTAX Optio WG-2 シャイニーブルー 2012 年 9 月 2012 年 10 月 2012 年 10 月 2012 年 1 月 2012 年 6 月 2012 年 6 月 2012 年 11 月 2012 年 11 月 2012 年 11 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 8 月 2012 年 8 月 2012 年 8 月 2012 年 7 月 2012 年 9 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 2 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 4 月 2012 年 6 月 2012 年 8 月 2012 年 11 月 2012 年 2 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 4 月 2012 年 4 月 2012 年 6 月 2012 年 9 月 2012 年 9 月 2012 年 9 月 2012 年 10 月 2012 年 11 月 2012 年 11 月 2012 年 12 月 2012 年 2 月 2012 年 3 月 2012 年 3 月 2012 年 6 月 2012 年 9 月 2012 年 7 月 248 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 性などがあると分析した.そして,色安定性,耐候性,メディ は,印刷業における検査の自動化や標準化など,デジタル ア選択性の観点から顔料インクを選択したうえで,顔料イン データを含む様々な媒体における内容の同一性チェックに関 クの弱点とされる光沢や黒濃度の課題を,クロマオプティマ して述べている(日印誌,49,385).内田(国立印刷局)は, イザという透明インクを重ね打ちすることで克服した.また, 最新の機器分析技術の印刷技術への応用を紹介している(日 色域を広げるために 12 色のインクを使い,階調性と粒状性 印誌,49,396).中財(大日本印刷)らは,印刷品質を効 を改善するために,黒系 5 色のインクを搭載する.このよう 果的に適正化する目的で,オフセット印刷機の健康診断につ にして PIXUS PRO-1 は,キヤノンのノウハウを集結させた いて報告している(日印春,6). プロフェッショナルフォトプリンタとしての一つの完成形で 印刷業界も環境問題や安全に関して積極的に取り組んでい かなければならない.日本印刷学会誌 49 巻 1 号の総説で, あるとしている(ICJ2012,93–96). また,プリンタ技術全般について,日本画像学会誌第 51 印刷に関連する環境と安全について特集が組まれている.油 巻 1 号では,「Imaging Today」の特集で,「未来を創るノー 井(日印産連)は,各種の規制や制度への対応について(日 ベルプリンティング技術」として,各種ハードコピー技術を 印誌,49,2),また大野(富士フイルム)は,インキなど 概観している(日画誌,51,30–41). の化学物質管理を中心とした環境法規制などについて述べて いる(日印誌,49,6).福田(長岡科技大)は,印刷機械 5.2 印刷 小関健一(千葉大学) 飯野(凸版印刷)らは,多色オフセット印刷における分光 反 射 率 を 予 測 す る モ デ ル を 提 案 し て い る( 日 印 誌,49, 424).課題もあるが精度の良い予測が可能なようである. の安全について国際規格の立場から紹介している(日印誌, 49,27). インクジェット技術は様々な分野で使われている.小関(千 葉大)は,ガラス基板にも接着する UV 硬化型ジェットイン 日本印刷学会誌 49 巻 4 号の総説で,印刷用紙に関する特 クなどについて紹介している(色材,85,254).佐藤(富 集を組んでいる.矢口(東京電機大)は,ユーザーからみた 士フイルム)らは,LED 光源を搭載した大型のポスターな 読みやすさを,デジタルメディアとの関係から述べている(日 どを印刷できるワイドフォーマットインクジェットプリン 印誌,49,252).前田(東海大)は,デジタル社会におけ ターと LED 対応の高感度な UV インクについて報告してい る 紙 メ デ ィ ア の 役 割 に つ い て 述 べ て い る( 日 印 誌,49, る(日印春,20).難波(東洋インキ)は,UV インキの設 258).紙ほど読みやすいメディアはないと思うが,デジタル 計や LED 光源への対応など今後の展望について述べている 社会が進むにつれて,明らかに紙の消費量が減少している現 実を見ると,今後どのようになっていくのか考えさせられて (色材,85,72). グラビア印刷は,軟包装や建材分野で広く用いられている. しまう.池田(森林総合研究所)は,木材から木質繊維を取り 長島(大日本印刷)らは,プリンタブルエレクトロニクスに 出す過程で排出される黒液の,製紙産業におけるエネルギー おけるグラビア印刷法について紹介している(色材,85, 利用について紹介している(日印誌,49,324).城下(国 27).エレクトロニクスの分野で最も多く用いられているス 立印刷局)らは,セキュリティ製品に使われている凹版印刷 クリーン印刷技術について,佐野(エスピーソリューション) において,インキの受理性と用紙の繊維特性との関係につい がタッチパネルや太陽電池などへの応用例をあげて紹介して て研究し,紙層構造からインキの受理性が予測可能であるこ いる(色材,85,117).中田(立命館アジア太平洋大)は, とを報告している(日印春,15). 印刷法を用いる有機エレクトロニクスの課題と解決のための 印刷物の偽造防止技術というと,すかしやホログラムなど 私案を提言している(日印誌,49,312).牛房(日立)は, を思い浮かべるかもしれないが,現在様々な技術が駆使され 太陽電池セルの良好な表面電極配線印刷を行うための,スク ている.河村(国立印刷局)らは,銀行券などに採用されて リーン印刷技術などについて報告している(日印春,44: いる,印刷で付与される最新の偽造防止技術について紹介し 49). ている(色材,85,208).北村(大日本印刷)が紹介して いるホログラム印刷技術も装飾用途のみならず偽造防止にも 5.3 ディスプレイ 山口省一(ナナオ) 有効である(色材,85,293).日本印刷学会誌 49 巻 3 号の 2012 年は写真関連では新しいディスプレイ技術や新製品 総説で,印刷分野におけるセキュリティ技術に関する特集を の発表は少なかった.ただ,Apple の MacBook Pro や第三世 組んでいる.木内(国立印刷局)は,セキュリティデザイン 代以降の iPad に採用された Retina Display では商用印刷に迫 について述べている(日印誌,49,156).ホログラムをホ る 220 ppi 以上の超高精細画像表示を普通に目にするように ログラムで偽造する時代にあって,鎌田(凸版印刷)は,多 なった.一部写真関連展示会では 36 型 4K×2K ディスプレ 様に進化しているホログラムについて紹介している(日印誌, イが画像表示に使用され,超高精細静止画像表示への評価が 49,162).阿南(富士通研究所)は,印刷物のセキュリティ 高まるとともにデスクトップ型として 20 ∼ 30 型で低価格な を実現する電子透かし技術について紹介している(日印誌, 製品の開発・発売を望む声が増えている. 49,179). NEC は 6 月 26 日開催の PHOTONEXT 2012 で同社 LCD 日本印刷学会誌 49 巻 6 号の総説で,印刷工程における検 ディスプレイ LCD-PA シリーズ / LCD-P シリーズ上でプリン 査技術に関する特集を組んでいる.橋本(ジーティービー) タ ICC プロファイルを元にプリント色をシミュレーション 2012 年の写真の進歩 する機能を CANON とのコラボレーションとして展示した. 249 O. Plata(Malaga and Tedial 大)と R. Bjerkestrand(Cinavation) シミュレーション機能自体は「2010 年の写真の進歩」で紹 は,ARCHIVATOR プロジェクトについて報告した(Arch2012, 介したが,プリント色シミュレーション機能を持たない pp. 101–104).これは,公的資金の援助を受け,欧州企業 6 CANON Digital Photo Professional(画像調整ソフト)におい 社のコンソーシアムによるデジタルデータの長期保存手段を てシミュレーションの状態で作品をレタッチし,ほぼ同じ色 確立しようとする試みで,2009 年に開始され,2012 年末に でプリントできるソリューションとして評価でき,写真愛好 終了のプロジェクトである.また, C. Voges と J. Frohlich(Cine 家レベルのユーザー,中でも CANON 製デジタルカメラユー Postoproduction GmbH)は Cine Save プロジェクトについて ザーには有用なソリューションと言える. 報告した.こちらも公的資金を得てドイツで 2009–2011 年に EIZO は 7 月,LED バックライトを採用した広色域 LCD 行なわれたプロジェクトで,いずれも銀塩白黒フィルムの優 ディスプレイ ColorEdge CG246 と CX240 を発売した.ここ れた長期保存性を利用し,白黒フィルムにデジタルデータを 数年 LED バックライト採用 LCD ディスプレイは白色 LED 保存する試みである.フィルム上には読み取りに必要なデー を光源とする sRGB 色域対応の製品に限られていたが,今後 タ お よ び ア ナ ロ グ デ ー タ も 記 録 で き,“Self-Contained 他社からも同様の製品が発売されると思われる.LED バッ Information Format(SIRF)”の考え方に立脚している.前者 クライトは起動時安定時間が短いため非使用時にこまめに では,工程フローや書き込みフォーマットを提案して,具体 ディスプレイをスリープモードに入るよう設定しても再起動 化,標準化の試みがなされている.後者では,フィルム上の 時の色安定が早く,省電力とバックライトの輝度寿命延長に デジタルデータを,安価な読み取り装置(市販カメラ)を作 貢献する. 成して,読み取ることができることを示しており,システム EIZO は 7 月に 24 型 LCD ディスプレイ ColorEdge CX240, の変更で,読み出し不能になる危惧がないことを実証した. 10 月に 27 型 LCD ディスプレイ ColorEdge CX270 を発売した. M. Hanayama(Victor Advanced Media Co., Ltd)は長期保 これらのディスプレイには 「コレクションセンサー」 を内蔵 存用媒体として,光ディスクを提案し,そのためには,適切 し,通常の外部センサーでキャリブレーションした白色点を なレコーダーで記録することが重要であることをデータで示 測定・記録して定期的に変動分を再調整する機能を提供す した.すなわち,専用レコーダーで記録しない場合には,初 る.定期的にキャリブレーションを自動実行するシステムに 期のエラーレートが高くなる(Arch2012,pp. 96–101). 比べて簡易的ではあるが,数百時間の時間軸で再調整が必要 A. Nielsen(The Danish National Archives)等は種々の条件 となる白色点の色温度と輝度を自動的に再調整することで必 を仮定した,アーカイブのコストを計算し,500TB 以上を 要十分な表示精度を確保することができる. 20 年以上保存する場合のコストとして,LTO5 / Autoloader が Panasonic は 1 月 10 日 か ら 開 催 さ れ た 2012 International 最も安価(10 ユーロ / TB・year)と見積もった.ただし,ア CES で 20.4 型 4K×2K LCD パネルを展示した.約 216 ppi, クセス(チェック)回数,故障頻度など多くの要因により変 3840×2160 の超高精細表示が可能でデスクトップ型 LCD 動するため,メンテナンスコストの見積もり等,改良が必要 ディスプレイに採用され製品化されることが期待される. とした(Arch2012,pp. 205–210). NIP27 / Digital Fabrication 2012(September 9–13, 2012 Quebec, 6. 画像保存 Canada)では,インクジェット(IJ)材料中心に研究報告が なされた.E. Salesin と D. Burge(IPI,ロチェスタ工科大)は, ガラスフレーム内に保存された IJ ペーパーの劣化を濃度変 6.1 画像保存関連技術 大関勝久(富士フイルム) 化とひび割れについて調べ,ガラス有無の比較により,測定 デジタル画像,デジタル映像のデータ量が急速に増大して した IJ ペーパーからレドックス物質が発生し,濃度が変化 おり,デジタルメディアにおいても保存媒体としての取り組 すること,また,ガラスにより,光に起因する物理的な劣化 みが活発化してきている. B. Lunt(Brigham Young 大)等は,2011 年の Archiving2011 で,各種のデジタルデータ保存メディアについての保存期間 について,磁気テープで 10–50 年,磁気ハードディスクで ( ひ び 割 れ ) が 防 止 で き る と 報 告 し た(NIP28 and digital Fabrication 2012 Technical Program and Proceedings; 以 下 NIP28 と略記する),pp. 378–380). N. Gordeladze と D. Burge(IPI,ロチェスタ工科大)は, 1–7 年,フラッシュデバイス(半導体)で 10–12 年,光ディス デジタルプレスとオフセットリソグラフィーの画像につい クで 1–25 年と報告した.この認識は変わっていないが,2012 て,ハードカバー,ソフトカバー,スタック(stapled)した 年の Archiving2012(June 12–15, 2012 Copenhagen, Denmark) 場合に,オゾン(1 ppm,25°C,50% RH,4W 経時)および では 1000 年保存光ディスク(M-Disc)を紹介し,その問題 NO2(5 ppm,25°C,50% RH,4W 経時)の影響を調べ,色 点として記録密度の低さを指摘した(M-Disc の技術内容は 材の劣化にはオゾンが,支持体の黄変には NO2 が大きく影 明かされていない).同時に,半導体材料の改良による,長 響すること,また,それぞれの綴じ方に対して,ガスの進入 期保存と記録密度の両立に期待を寄せた(Final Program and の程度を報告した(NIP28,pp. 387–391). Proceedings of Archiving2012;以下 Arch2012 と略記する), pp. 19–22). A. Hodgson(3M)は ISO18935 および ISO2836 では水の影 響を十分予測できないとして,新たな測定方法を提案した. 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 250 特に,フォトブック等の紙面に垂直方向の吸水あるいは浸水 6.2 展示・修復・保存関係 山口孝子(東京都写真美術館) による色材のにじみの測定方法を提案し,支持体(紙)の影 響が大きいことを報告した(NIP28,pp. 392–395). ここ数年,デジタルあるいはアナログ保存に関心が高まり, 2012 初には AMPAS(The Academy of Motion Picture Arts 最適な材料への模索が続いているが,正確な情報は,様々な and Science)よりデジタルジレンマ 2 が報告された.これは, 事例報告や研究会等によって普及してきている.ここでは, 映画を人類の遺産として恒久的な(最低でも 100 年以上の) 文化財保存修復,画像保存に関するセミナーなどを取り上げ, 保存を目的としたレポートであり,本レポートではイン 紹介する.Journal of the American Institute for Conservation は ディーズやドキュメンタリーフィルムおよび非営利アーカイ JAIC と略す. ブ中心に報告されている.2007 年のデジタルジレンマ当時 保存環境に関しては,3 件の報告があった.空気汚染物質 からのデジタル技術の進歩はあるもののフィルムでの保存に の発生源として,美術館や博物館で用いられる建材や内装材 匹敵あるいは凌ぐデジタル映像の保存方法は存在しないとの 料から文化財に有害な影響を及ぼす化学物質が発生すること 結論は変わっていない(p. 70).問題はコストであるが,3 が知られている.古田嶋ら(東京文化財研究所)は,合板や 色分解フィルム保存で 70000 ドルから 90000 ドル,LTO の 壁紙,接着剤から放散される酢酸,ギ酸,アンモニアの放散 場合,マイグレーションコストを含め,50 年で 90000 ドル ガス試験法と,展示収蔵環境における内装材料の選定指標を 程度との記載が見られる(p. 87).3 色分解フィルム保存は 提案した(保存科学,51,271).佐野ら(東京文化財研究所) メジャースタジオでは可能だが,インディーズやドキュメン は,フィルム保管庫における酢酸雰囲気の改善の試みとして, タリーフィルムではコスト的に困難で,デジタルデータ消失 東京文化財研究所の「写真原板庫」をモデルに,吸着剤設置 の危険に曝されているとしている. による酢酸濃度の推移や温度湿度の制御状況などを検証した 能篠と久下(千葉大)は金膜写真において,金沈着現像後, (保存科学,51,281).世界で始めて商業化されたカラー写 タイルへの転写温度と物理特性および写真性との関係を調 真法であるオートクロームは,三原色に染めたじゃがいもの べ,高温ほど膜強度は高くなるが,800°C 以上では濃度低下 澱粉が使われていた.現在では,光に脆弱な染料であること が生じることを報告した(日本写真学会誌,75,165(2012)). から,展示が控えられる,あるいは秒数に限って点灯する装 また,久下(千葉大学)はマイクロ写真記録システムを用い 置 の 下 で 公 開 さ れ る こ と が 多 い.Casella(Photograph てガラス乾板に露光したテストチャートを金沈着現像した Conservator at Harry Ransom Center)らは,オートクローム 後,焼成して金膜画像を作成した.金膜写真にしても解像度 に使用されていた染料の褪色を遅らせる環境として低酸素を の低下は見られず,長期保存媒体としての可能性を示唆した. 提案し,その有効性について 6 染料で調査した.耐光試験に ただし,水浸漬実験では,ガラス基板への密着に課題がある よる染料の安定性は,酸素濃度 0.1%の環境下におくことで ことも報告された(日本写真学会誌,75,416(2012)). 向上したが,褪色を完全に停止させるには至らなかったとい 2012 年には画像保存関係で以下の規格が発行された.(正 う(JAIC,51(2),159). 近年,日本を含め,タイ,フィリピン,中国など,各地で豪 式の標題は本稿 13.3.2 参照) 雨による洪水が起き,多くの資料が被災した.文化財公開施設 表 1 2012 年に新規発行もしくは改訂された規格 分類 ISO No 標題(概要) 新規 18936 写真フィルム及びプリントの暗所画像安定性の 測定方法 18944 写真プリント評価用のテストプリントの作成と 測定 18913 イメージング材料―耐久性―用語 18926 MO の期待寿命―温湿度の影響に基づく 評価方法 改訂 では,インクジェットプリントも収集され始めていることから, この技法による資料の浸水に対する感受性を把握することは急 務である.Burge(Image Permanence Institute)らが,洪水に よる被災資料の事例から,インクジェットプリント,昇華型印 刷および電子写真(本稿ではデジタルプリントと総称)にお いて,浸水による光沢の変化やにじみ,層間剥離や平面歪み に対する耐性を調査した.デジタルプリントが銀塩カラー写 真(発色現像方式を代表とする写真)やオフセット印刷より 浸水に対して敏感であった結果を得,長期保存が必要な紙資 料には,新しい材料の開発を含め,浸水によるダメージを低減 18929 湿式処理済み銀ゼラチンタイプの黒白印画紙 ―暗所保存の仕様 18933 磁気テープ―長期使用のための注意及び取扱い 18907 写真フィルム及び印画紙―楔式脆さ試験 にそれらが研究材料となったり,新たな価値が見いだされた 18914 写真フィルム及び印画紙―写真乳剤の濡れた状 態での耐傷性の評価方法 りすることは,しばしば見られる.並木ら(京都工芸繊維大) 18924 (画像安定性評価の)アレニウス予測の方法 させる方策が必要であることを示唆した(JAIC,51 (2) ,145) . 言うまでもなく,資料が長期保存されることによって,後 は,京都工芸繊維大工芸資料館に収蔵されている 1,800 枚の ガラス乾板の調査と利用の可能性について言及した.20 世紀 18925 光ディスク媒体―保存要領 初頭にヨーロッパで撮影されたガラス乾板は,保存状態がよ 18928 未現像写真フィルム及び印画紙―保存要領 く,京都高等工芸学校で美術・建築・図案などの講義において, 積極的に使用されていたという(日写誌,75 (5) ,430) . 2012 年の写真の進歩 251 文化財修復学会第 34 回大会は,セッション 23 件,ポスター たインピンジャー捕集の系で行った.4 週間後には酢酸・ギ セッション 121 件もの研究発表があり,例年多くの参加者に 酸の濃度変化は極めて小さくなり,60 日後にはほぼ検出さ 活発な議論の場を提供している.水害被災した紙文書の生物 れなくなったという. 劣化を防ぐ塩水保存法,文書に接着されたセロハンテープの 11 月に開催された画像保存セミナーでは,東日本大震災 除去,中性紙製保存箱の活用と使用する中性接着剤の揮発性, に被災した写真プリントに発生したカビの問題,節電を意識 津波水損写真の生物被害と対策,水・塩水で被災した資料の した保存環境の整備,文化財のデジタル化プロジェクトにお 殺菌燻蒸の注意点,日本絵画におけるモノクロ写真からの色 けるインクジェットプリントによる複製とその保存性,また 彩想定と復元模写,日本画の制作・修復に用いる膠の特性と デジタルデータの記録メディア(半導体メモリ / 光ディスク) 使用感,展示ケース内装材料の空気質への影響,展示ケース の長期保存性やマイクロフィルムの活用,さらに一般ユー 用合板からの放散ガスを遮断するアルミシート,ケミカル除 ザーの立場から考察した保存方法の変遷が取り上げられた. 去シートを用いた展示環境,博物館における包括的保存シス 東日本大震災の津波で海水に浸かった写真資料には,著し テ ム の 構 築, 露 出 展 示 に お け る 資 料 の 事 故 分 析,IPM いカビ被害を認められた.新井(東京文化財研究所・名誉研 (Integrated Pest Management),美術館における虫害管理な 究員)は,水溶性・非蒸散性で低毒性の防菌防カビ剤を含有 ど,事例報告や研究発表が行われた.ここではセッション報 する保存環境除菌剤 JE-120 の利用を提案し,その防除効果 告のみを取り上げ,括弧内に大会要旨のページを記す. と写真画像への影響について検討した(画像保存,1).フィ 洪水や津波によって被災した紙資料のカビの繁殖を防ぐた ルムを抱えている文化財公開施設は多くあるが,その多くが めには,早期に吸収乾燥や真空凍結乾燥が必要であるが,被 ISO や JIS 規格で推奨される温湿度管理のできる保存施設を 災地ですぐに実施することは難しい.そこで江前(筑波大学) 持っていないのが現状である.佐野(東京文化財研究所)は, らは,簡便な緊急避難的な処置として,塩水保存法を提唱し フィルムの保管は低温・低湿度と分かっていても達成できな ている.塩水がカビの繁殖を抑制することを確認し,乾燥後 い現状を踏まえ,地形や気候など建物の立地条件,建物内で に塩が残存する紙の強度と保存性について検証した.脱塩処 の有利な場所や空間の換気率,除湿剤や吸着剤の使い方など 理をせず乾燥した場合には,7%,脱塩処理をした場合には, を見直し,フィルム保存に適した環境づくりを解説した(画 15%の比引張強さの低下が認められたが,加速劣化による強 像保存,5).楢林(コダック(株))は,マイクロフィルム 度低下は見られなかった(40). の新しい市場ニーズ,動向などを,その保存方法も合わせて 紙資料に接着されたセロハンテープの除去方法には,①溶 紹介した(画像保存,10).インクジェットプリントは,画 剤の使用,②コテなどによる加熱,③ドライアイスなどによ 像保存性が向上したことや,大判プリントが可能なこと,さ る冷却が上げられる.岡ら(岡墨光堂)は,温風によってセ らに屏風や襖絵などの文化財をデジタルデータとして記録で ロハンテープの表面を温めて接着を緩め,除去した修復事例 きるという側面から,文化財複製に積極的に使われ始めてい を解説した(60). る.勝間(キヤノン (株) )は,文化財の高精細な複製に関し, 文化財展示収蔵施設では,空気中の汚染ガスを文化財に影 大型インクジェットプリンタの技術を中心に紹介した.屏風, 響を及ぼさない量に低減するため,換気や遮断,吸着剤によ 襖絵など貴重な文化財では,海外に流出,劣化が心配などの る除去などの対策が検討されてきた.特に,文化財を長時間 理由から鑑賞機会が制限される場合が多く,高度な記録・再 密閉する展示ケースでは,清浄な空気が確保できる使用材料 現が実現できればその利点は大きいという(画像保存,21). や製法について基準が必要である.佐野ら(東京文化財研究 網岡(新日本製鐵(株)),岩本(セイコーエプソン(株))は, 所)は,MSDS が入手できるクロス単体,下地材単体等を用 日本の重工業の草分けである官営八幡製鐵所を記録した貴重 いて,ギ酸・酢酸およびアンモニアの放出速度を測定し,材 かつ膨大なガラス乾板を,2009 年から 1 年かけてデジタル 料による差違を明示した.また,通風乾燥の「枯らし」によ データ化し,プリントを作成することによってその画像の複 る汚染物の低減効果についても検討し,工期や経費,清浄度 製を行った.このプロジェクトに到った経緯,方法,保存 により材料の選択肢が多数あるため,制作材料からのガス放 デ ー タの活用方法について報告し,また作製したインク 散速度を測定し,データベース化を進めることが必要と提言 ジェットプリントの保存性についても合わせて述べた(画像 した(64).特に酸化・還元的雰囲気において化学的劣化を 保存,25). 引き起こしやすい写真では,汚染物質の除去は重要である. 昨年度の内容の重複を避けるため改めて記さないが,平成 文化財を収蔵庫に暗所保存する場合に,温湿度環境の維持や 23 年度画像保存セミナーの講演を中心に,日本写真学会誌 作品の安全面の確保,作品の整理などのために保存箱が使用 第 75 巻 1 号では画像保存の特集が組まれた. される.東京国立博物館では,収蔵の分野や劣化状況,活用 形態,数量の実情に合わせて,中性紙製保存箱を設計してい 7. 画像評価・解析 るという.前述の通り,文化財の劣化を促進させないために 藤野 真(セイコーエプソン) は,汚染ガスの除去が必要である.米倉(東京国立博物館) らは,芯材,補強布,接着剤,タトウ,ポケット,書見台の 7.1 像構造 使用材料の枯らし期間の検討を,ガラスデシケーターを用い 宮田(国立歴史民族博物館)らは,刺激としては異なるが 252 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 知覚としては一致する異なる属性に対し,画質メタマという ニターの色調を調整する調整システムの評価を行った(日写 概念を導入し,退色により弁別が困難となった領域を分離抽 誌,74 (5),459).近藤(コニカミノルタ)らは,LUT 補正 出できることを示した(日写誌,74(2),137).桑原(木更 による精度向上を行った電子写真画像シミュレーションと品 津高専)らは,ガウス性ノイズの知覚に対する調査を行い, 質工学を組み合わせる手法の有効性を事例で示した.体積カ コントラスト感度が上がるとノイズ弁別閾値が上昇すること バー率,表面積カバー率,色差の 3 つの評価項目で,安定再 を認めた(日写誌,74(2),140).犬井(東京工芸大)らは, 現性の評価が可能であることを確認した(日画年次,217). 圧縮画像に対してエッジ部を過小に評価する尺度を用い,主 尾崎(国際基督教大学)は,デジタルカメラを用いて植生指 74(2),143).安達(千 観と尺度との対応を評価した(日写誌, 標値を高精度に取得することを試みた.波長依存性が抑制さ 葉大)らは,絵画の各部分や絵画全体に対し,周波数情報・ れた標準反射板を被写体と同時に写しこむことで,分光放射 角度情報の解析を行い様々な比較をすることで,各画家の筆 計から得る植生指標値と数%の差の値が得られることを示し 触の違いを示した(日写誌,74(2),181). た(日画誌,51(2),118).西浦(京セラ)は,多数の評価 浅井(近畿大)らはマッハ効果を利用して,視覚系には擬 画像について L*a*b* を系統的に変化させて一覧できるよう 似輪郭線形領域が存在し,画像の心理物理的評価法が臨床適 に配置した『系統的配置法』を用いて,日米欧等 10 ヶ国で 応の可能な実用的な解析手法であることを示した(日写誌, の好ましい色の調査を実施し,各国の好ましい色を把握した. 74(5),432).高垣(近畿大)らは,フラットベッドスキャナー 同評価方法は,未熟練者でも低負荷で簡単に評価可能な手法 の性能を最大解像度という点から評価した.解像能力を評価 である(日画年次,99). するテストチャートを用いた評価で得られる結果は,市販製 関(東京工業大)らは,多くの LED 光源下の色票の見え 品で示される仕様に届かないことを示し,その要因を推定し は従来蛍光灯下の見えより色差が大きいこと,高分解能で広 た(日写誌,74 (5),458). 帯域な分光スペクトル取得が可能なハイパースペクトルセン 役田(近畿大)らは,インクジェットプリンタのプリント サが忠実色再現性向上と,画質劣化防止の定量解析に有効に アウトの文字の大きさ,インクスペクトルの情報から,利用 活用できることを示した(日画誌,51 (6),613).井出(京 したプリンタの機種判別が可能であることを示した(日写誌, 都大)らは,スキャナとしての必要仕様,照明条件等実用的 74(5),461) .中村(リコー)らは,用紙への転写率に対す な側面から大型文化財の高精細デジタル化について述べた るトナー付着力の影響,濃度ムラを定量化したベタ画像粒状 (日画誌,51 (6),623) .三橋(凸版印刷)は,DTP 作業で 度と転写率の相関関係,及びその相関関係が用紙の表面形状 用いるディスプレイでの CRT から LCD への置き換えに伴う に依存する事を明らかにし,濃度ムラの抑制に対してトナー 白色高輝度化の影響について報告した.ディスプレイ輝度が 付着力によるトナーの高い転写性が重要であることを定量的 180 cd/m2 あれば,2000 lux 下でも白を知覚させることは可 に示した. (日画年次,197).根本(リコー)らは,インクジェッ 能であり,印刷物などの反射物とディスプレイ上の再現画像 トの主滴とサテライト滴の着弾位置を制御しながら,任意の とを比較評価する環境の照度条件が広げられる可能性を示し 入力画像に対する出力画像として予測するシミュレーターを た(日印誌,49(2),197).山崎(コニカミノルタ)は,電 活用することで,サテライト滴が画質に与える評価式を確立 子写真の画質の変化を概観した.トナーの製造方法を粉砕式 した(日画年次,89). から重合式にすることにより帯電性を安定させ,かつ小粒径 矢口(東京電気大)は,デジタルメディアの物理特性と表 化することにより,細線の再現性が向上したことを示した. 示能力の観点から,紙メディアとの比較を行い,また読みや また高彩度トナーの採用により色再現域が拡大していること すさとユーザビリティの分析によりデジタルメディアが紙メ も示した(日印誌,49(4),252).Liu(北京グラフィックコ ディアを代替する可能性について検討した.Zhou(カリフォ ミュニケーション大)らは SCID の自然画像を用いて色差式 ルニア州工科大)らは,異なる用紙を用いて印刷画像の画質 の評価を行い,最適な重み係数を導いた(NIP28, 140). 属性を計測した.スクリーン構造よりも表面粗さ等用紙の構 7.3 質感 造・種類トナー定着性が画質への影響が大きいことを認めた 曽根(リコー)らは,JIS 規格の鏡面反射光沢度測定にお (NIP28, 230). ける各計測角度条件の受光開き角の違いを利用することで, 7.2 階調・色再現 主観的な光沢感と写像性に寄与する反射光分布の特徴を説明 武(千葉大)らは,中国人男性の顔画像,中国人を被験者 できることを確認し,入射角の異なる鏡面光沢度を用いて簡 として男性の好ましい肌色を調査し,赤味方向に許容が大き 易的に光沢度と写像性を評価できる指標値を開発した(日画 74(2),184).金子(千葉大)らは, いことを認めた(日写誌, 年次,221). 試作した複数 LED を使用した微小循環撮影装置の構成を述 べ,酸素飽和度に相関する画像特徴量を示した(日写誌, 74(5),433) .村井(千葉大)らは,臓器の色の違いを明瞭 8. 分光画像 中口俊哉(千葉大学) に識別するため,多種の LED 光源を用いて光源の最適化設 計を行った.白色度合いの抑制により,血色明瞭化効果を確 認した(日写誌,74 (5),434).宋(近畿大)らは,液晶モ 2012 年も分光画像に関する研究発表が活発に行われた. 米国画像科学会 IS&T が 2012 年に出版した論文誌として 2012 年の写真の進歩 Journal of Imaging Science and Technology vol. 56, no. 1 ∼ 5 (以下,JIST と略記)から分光画像に関する論文が 2 件,ま た Journal of Electronic Imaging vol. 21, no. 1 ∼ 4(以下,JEI 253 手法を提案・比較し,良好な結果が得られた. (Proc. of CIC20, pp. 191–194) 8.2 分光画像の記録 と略記)から 1 件の論文が公開された.いずれも分光画像処 土田ら(日本)は演題“A six-band stereoscopic video camera 理の応用研究で,分光情報の記録や処理技術が一般化し様々 system for accurate color reproduction”にて 6 バンド同時撮 な実応用へ展開されていることがわかる.一方,国際会議で 影ができるステレオカメラシステムの色再現性評価を述べ は 2012 年 11 月 12 ∼ 16 日にロサンゼルス市(米国)で 20th た.このシステムは 2 台のカメラを並置し櫛形干渉フィルタ Color Imaging Conference(以下,CIC と略記)が開催され, を用いることでステレオカメラによる被写体の奥行き推定と 分光画像研究に関する 7 件の演題が発表された.CIC は開催 分光反射率推定を同時に行う.光軸の異なる画像間の対応関 20 回目の節目として,色彩工学の各分野を代表する研究者 係を得るため,Phase-Only Correlation(POC)により画像間 による招待講演が企画され,分光画像としては千葉大学の富 の位置合わせを行い,ステレオ対応点と 6 バンド画像を得る. 永昌治氏が講演した.この講演ではまず過去 19 年間の分光 画像処理演算を GPU で実装することにより XGA サイズの 画像に関する発表件数が紹介された.1996 年を分光画像 画像について秒間 30 枚の処理速度を達成した.分光情報と 研究が本格的に開始した年と位置づけ,それ以降右肩上が 奥行き情報の同時取得ができる点で大変優れた手法である りの傾向で研究発表は増え続けている.2008 年,2010 年は が,現状の問題点として光沢の強い物体表面が記録できない 多少減少しながらも International Symposium on Multispectral ため今後の改善が求められる. (Proc. of CIC20,pp. 117–122) Colour Science との共催により 2011 年は多数の発表が行われ 8.3 分光情報の応用 た.講演では分光画像研究を,イメージング手法,推定アル Norberg ら(スウェーデン)は演題“Spectral Vector Error ゴリズム,能動的な光源切り替えによる分光記録,そして分 Diffusion̶Promising Road or Dead End?”にて印刷物の分光 光画像処理の応用というテーマに分けた上で,各テーマにつ 的色再現を目指した Spectral Vector Error Diffusion 法(以下, いて詳しく紹介がなされた.また,2012 年 9 月 21 ∼ 25 日 sVED と略記)の評価を行った.2006 年に提案された sVED には台北市で AIC Interim Meeting が開催され,色彩工学に は多原色印刷における分光的色再現アルゴリズムとして注目 関する多数の発表の中,分光画像に関する基礎研究から応用 されているが,ドットゲインの影響は考慮されていない.そ に至るまで多数発表された. こで Norberg らは 10 原色印刷機を対象に 1000 サンプルを用 以下に 2012 年度の分光画像に関する研究動向をまとめる. いて評価した.その結果,シミュレーションと実際の印刷出 8.1 分光画像の基礎とデータベース 力の間に大きな誤差が生じることが示された.特に印刷機の Chou ら(英国)は演題“Spectral Representation of Object 出力解像度が高いと誤差も大きくなる傾向が示された.これ Colours”を発表した.物体表面の分光反射率を低次元の基 はドットゲインの影響が深く関与している. (Proc. of CIC20, 底関数によって表現するために必要となる最適な次元数の選 pp. 117–122) 択については長年研究が続けられている.この研究では塗料, Ljungqvist ら(デンマーク)は論文“Multispectral Image 印 刷, プ ラ ス チ ッ ク, 布 地, 皮 膚 と 自 然 物 の 6 種 類 で 計 Analysis for Astaxanthin Coating Classification”を発表した. 97593 個のデータセットを使い,主成分分析により解析を アスタキサンチン色素によるコーティング具合の検査は水産 行った.10 度視野の標準観測者を基準に複数の光源を想定 養殖の工業品質保証のために重要となっている.本研究では して解析した結果,塗料,印刷,プラスチックの基底関数は 分光情報を用いてコーティング品質を分類する手法を検討し 類似の形状となり,互いに他の基底関数を使っても良好に分 た.可視∼近赤外までの波長域を 20 バンド計測し,線形判 光分布を表現できることがわかった.また,自然物や皮膚の 別分析,主成分分析,サポートベクターマシンで分類器を作 場合は,それ自身の基底関数を用いればよいが他の基底関数 成,比較検討した.その結果,線形判別分析を用いた分類が は適用できないことが示された.6 種類混合した 2400 サン 良好な結果を示し,分光情報を用いた非破壊検査の有効性が プルを対象に主成分分析を行い 8 次元までの基底関数により 示唆された.(JIST,56(2),pp. 20403– (16)) 99%の分光推定精度を達成し,推定誤差による色差 DE00 は 0.36 となることが示された.(Proc. of CIC20,pp. 57–62) Clemmensen ら( デ ン マ ー ク ) は 論 文“Multispectral Imaging of Wok-Fried Vegetables”を発表した.食品の非破壊 Derhak ら(米国)は演題“Analysis and Correction of the 検査の確立は重要な課題の一つである.この研究ではニンジ Joensuu Munsell Glossy Spectral Database”を発表した.1976 ンとセロリの表面色の変化を分光的に記録し,官能検査との 年に当時のヨーエンス大学(現,東フィンランド大学)が 比較検討を行った.実験では計測前の 4 ヶ月間マイナス 30 Munsell Book of Color の光沢仕上げ色票を計測しオンライン 度で冷凍保存された食品を使用し,+5 度の環境で 14 日間 公開した.しかし,このとき使用された分光測色計(Perkin- の経過における食品表面の分光反射率の変化を詳細に記録し Elmer Lambda 18)が標準的な出力と異なっていたため,公 た.単波長でみた変化は僅かだが,複数の波長を組み合わせ 開されたデータには不一致が存在することが判明した.そこ ることで有意な変化を抽出することが出来,官能検査との関 でこの研究では,ヨーエンス大学が公開したデータの誤差と 連性が得られた.(JIST,56 (2),pp. 20404 (6)) その修正方法について検討した.修正方法としては 2 種類の Artzai ら(スペイン)は論文“Real-time hyperspectral proc- 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 254 essing for automatic nonferrous material sorting”を発表した. ド(ピッチ 5.8 mm,厚み 100 mm)を製作し,これを用いて この論文では電気電子機器のスクラップ廃棄物に含まれる非 1 shot 撮影が可能な SPS(Sub-Pixel Scanning)法により豚の 鉄成分をリアルタイムに分別するための分光画像処理を提案 膝軟骨を撮影し,従来の吸収画像撮影では描出できなかった している.ハイパースペクトルカメラで撮影した情報から自 軟骨のアウトラインを屈折画像で確認することができたと報 乗誤差を使った分類手法を WEEE(電気・電子機器廃棄物 告している(日写誌,75 (2),151). リサイクル指令)の実廃棄物に適用した結果,処理速度 ii)画質評価 2.28 m/s,分別精度 96.87%を達成した.これは自動処理装 松本(阪大院)は,同セッションの学術賞の受賞講演で「X 置に求められる品質基準を満たしており,分光画像処理を 線画像撮影系の性能と画質の評価」と題して,松本が 1984 使った廃棄物分別装置実現の可能性が示唆された.(JEI,21 年から研究してきた X 線画像撮影系の性能と画質の評価に (1),pp. 013018– (10)) ついて,アナログ X 線写真の画質評価からディジタル X 線 画像の画質評価までを,従来の物理的な画質評価の指標であ る MTF(Modulation Transfer Function) ,コントラスト,ラチ 9. 医用画像 松本政雄(大阪大学大学院医学系研究科) チュード,粒状(Wiener Spectrum),NEQ(Noise Equivalent Quanta),DQE の他,松本らが提案した総合評価尺度の情報 9.1 医用画像の基礎 スペクトルや人間の視覚の最小識別濃度差を考慮した心理物 i)X 線イメージング技術 理的評価法を解説している(日写誌,75(2),146). 細井ら(富士フイルム)は,年次大会の医用画像セッショ 本田は, 「医用直接撮影用 X 線フィルムの画質設計」と題 ンで「CR から DR への発展における新方式 CsI 間接変換 して,医用 X 線写真の画質への取り組みについて,その歴 FPD の開発」と題して,間接型の FPD(Flat Panel Detector) 史をレビューし,さらにアーチファクトも考慮した医用直接 の X 線蛍光体である CsI シンチレータの X 線照射側に,TFT (Thin Film Transistor)受光素子を配置した ISS(Irradiated 撮影用 X 線フィルムの画質設計について解説している(日 写誌,75(4),323). Side Sampling)方式の DR(Digital Radiography)パネルを製 浅井ら(近大附属病院)は,秋季研究発表会の医用画像セッ 作し,従来構成である CSS(Conventional Side Sampling)方式 ションで「マッハ効果を利用した視覚系の擬似線形領域の推 のパネルと画質特性の DQE(Detective Quantum Efficiency) 定」と題して,錯視現象の一種であるマッハ(エッジ強調) を比較した結果,IEC 規格 RQA5 の 1 cycle/mm で従来型に 効果を利用して,視覚系において線形性が成立するとみなせ 対して約 1.3 倍の DQE 値を示し,低線量域では,さらに有 る明るさの範囲,すなわち擬似線形領域を推定し,心理物理 利であることが確認できたと報告している(日写誌,75 (2), 的評価法の適用が可能な光束発散度領域を見出すために,空 144). 間周波数の異なる閾値レベルの濃度差を観察して得た視覚の 松本(阪大院)は,同セッションで「エネルギー弁別型放 MTF をフーリエ逆変換して LSF(Line Spread Function)を 射線ラインセンサを用いた X 線像からの被写体の材質の識 求め,さらに求めた LSF を積分することで,エッジレスポ 別(5)」と題して,原子番号の大きいチタン,鉄,銅を被写 ンスを求めた.次に,一般に非線形であるといわれている肉 体として,その材質の識別の再現性を検討し,チタンと鉄は, 眼で,先に想定した多くの濃度差に対するエッジレスポンス それぞれ 0.86%と –0.77%の誤差で実効原子番号を識別でき を測定し,両者の結果が一致する範囲を擬似線形領域とした たが,銅は,–44.48%と誤差が大きかったと報告している(日 結果,順応光束発散度が 10 ∼ 4000 lm·m–2 の場合,視覚系 写誌,75 (2),149). には順応光束発散度の約 20 ∼ 25%程度の擬似線形領域が存 清原ら(コニカミノルタエムジー)は,同セッションで 在することがわかったので,画像の心理物理的評価法が臨床 「タルボ・ロー干渉計の臨床的有用性の検討」と題して,タ 適応の可能な実用的な解析手法であることが示せたと報告し ルボ・ロー干渉計方式の X 線撮影装置を試作し,同装置の ている(日写誌,75 (5),432). 臨床的有用性を検討した結果,タルボ・ロー干渉計方式で撮 9.2 医用画像の応用 影した画像は,従来の X 線撮影装置では描出困難な軟骨を i)画像の医療応用 描出することができ,関節病変を模して人工的に軟骨に傷を 竹之内ら(日立メディコ)は,秋季研究発表会の医用画像 つけた場合でも軟骨形状を捉えることができ,また,乳腺切 セッションで「X 線透視装置の被ばく低減テクノロジー」と 除標本の場合には乳管内のがん組織を高感度に描出すること 題して,IVR(Interventional Radiology)で使用される X 線 ができたと報告している(日写誌,75(2),150). 透視装置の被ばく低減テクノロジーとして,高感度な X 線 石井ら(富士フイルム)は,同セッションで「Talbot-Lau 検出器,詳細透視,Adaptive Noise Reduction(ANR),ハイ 干渉 X 線屈折イメージングにおける接合基板を用いた高ア ビジョン透視記録などの「高画質&低被ばく」を実現するた スペクト・グリッドの製作」と題して,タルボ・ロー干渉に めの最新技術について解説している(日写誌,75(2),145). おける画質向上のために使用するグリッドの X 線遮蔽・透 松尾ら(千葉大院)は,同セッションで「ポータブルステ 過の選択性能を向上するために,拡散接合を用いた Au を電 レオ X 線撮影における 3 次元位置計測」と題して,ステレ 気メッキのシーズ層として利用して,高アスペクト・グリッ オ X 線源と 1 枚の FPD から構成されるポータブルな X 線撮 2012 年の写真の進歩 255 影システムの開発で,X 線源と FPD 間の位置関係を自由に 感度を得ることが出来る.高画素特性では Nikon D800 が 3,630 した場合のキャリブレーションのパラメータを用いた 3 次元 万画素の画素数を誇り,また,高画素特性を活かし解像感を 位置計測を提案し,その有効性と精度を検証した結果,平均 高めるため,ローパスフィルターの働きを無くした D800E 誤差が 2.87 mm,標準偏差が 1.41 mm が得られ,その有効性 という機種も販売され用途に合わせて機種を選択することが が確認できたが,最大誤差が 5.76 mm あり精度の向上が課 出来る.記録画素数とダイナミックレンジなどで優位な中判 題であると報告している(日写誌,75(2),147). カメラのシングルショット機では,PHASEONE IQ180 や Leaf 天野ら(千葉大院)は,同セッションで「放射線治療にお Aptus-II で は 8000 万 画 素, マ ル チ シ ョ ッ ト 機 で は H5D- けるリアルタイムマーカーレストラッキング」と題して,放 200MS は 2 億画素,Sinar eXact は 1 億 9200 万画素で情報の 射線治療中にリアルタイムで腫瘍の位置を検出するために, 記録ができるようになり,状態記録など文化財調査の初期段 FPD から得られる体内透視画像を用いて,リアルタイム高 階での情報記録では十分な画像密度を満たすようになった. 精度マーカーレストラッキング手法を提案し,8 例の数値 高画素で記録された文化財の画像は,文化財の状態観察や複 ファントム(XCAT ファントム)を用いて,透視画像を作成 製品の作成,文化財の研究など多くの分野で利用されている. し,その透視画像を用いて追跡実験を行い,追跡精度と処理 画面上で画像を拡大しながら,文化財の細部を観察できるよ 時間を評価した結果,平均誤差 0.4 pixel,処理時間およそ うになったことによって,美術史の分野では文化財研究の再 1.3 ms であり,更なる高精度化,処理時間の短縮と治療ワー 考を行う動きが出始めている.小林(東京文化財研究所)は, クフローの観点から Setup Stage での準備の手間を軽減する 東京国立博物館所蔵 国宝本・虚空蔵菩薩像の截金彩色の技 機構を加えることが今後の課題であると報告している(日写 法と表現について,高精細デジタル画像の資料的な運用の在 誌,75(2),148). り方を問いかけている.小林は「平安仏画は細部のディ 金子ら(千葉大院)は,同セッションで「複数 LED を用 ティールに豊かな生命を宿す」と指摘しながら,これまでの いた微小循環のイメージングと分光解析」と題して,昨年に 研究資料では細部の情報が得られず,調査を行った研究者の 続き,今回新たに試作した複数 LED を使用した微小循環撮 記述が第三者と共有できなかったことに対して問題提起をし 影装置の構成を示し,これを使って測定した赤血球の酸素飽 ている.一方で,高精細デジタル画像では,細部観察は必要 和度に相関する画像特徴量を調べるために,470 nm 帯で取 とされる情報量が得られるが,金や銀のような光の当たり方 得した微小循環画像の背景画素値と血管画素値をそれぞれ によって見えが変わる対象物は,高精細という情報量だけで Ibb と Ibv し,527 nm 帯で取得した微小循環画像の背景画素 は研究に役立たないことにも着目しており,文化財の情報化 値と血管画素値をそれぞれ Igb と Igv とし,これらの値から では光が与える心理効果を加味する必要性も指摘している. S= (Ibb / Ibv)(I / gb / Igv)値を定義すると,酸素飽和度が増加する (美術研究,409)材質感の記録と光の散乱により作用によっ とこの S 値も増加する結果となり,その相関関係を確認した て見えが変わる対象としてデジタル撮影では困難とされてい と報告している(日写誌,75(5),433). た対象として日本刀が挙げられる.上条ら((株)リコー)は, 村井ら(千葉大院)は,同セッションで「術中における臓 金属の色と材質の硬度による光の散乱の差によって生じる刃 器の血色明瞭化のための最適 LED 光源設計」と題して,人 文を正確に記録する装置開発の経緯を記述している.金属の 間の視覚特性を考慮した照明光スペクトルの最適化により, 正確な色を記録するために,マルチバンド分光撮像系を搭載 血色の違いを強調し明瞭化するために,用意する LED 光源 しており,日本刀の沸(にえ),匂(におい)といった刃文 の種類を増やし,白色性を変化させて最適光源設計を行った に現れる模様を捉えるために,光の反射や散乱に最適化させ 結果,市販の 14 種類の LED 光源から白色性を維持した最適 るマルチアングル撮像光学系を配置し,文化財にダメージを 光源で明瞭化効果を確認し,最適光源の白色度合いの抑制に 与えない配慮として装置の安全対策を施し,システムを軽量 よりさらなる血色明瞭化効果を確認できたと報告している 化するなど,アーカイブ画像の記録装置として理想形を目指 している.マルチバンド分光撮像系では,ラインセンサで走 (日写誌,75 (5),434). 査しながら撮像するため光源側にフィルターが配置されてお り,キセノン光源の出射端でロータリー型チェンジャ―に固 10. 科学写真 定されたフィルターを回転しながら 6 分光のモノクロ画像の 撮像を行う.マルチアングル撮像光学系では,ほぼ鏡面であ 10.1 文化財 城野誠治(東京文化財研究所) る日本刀の表面で生じる光の正反射光と,砥がれた時にでき 科学写真では文化財から情報を捉えようとする技術と,情 る微細な凹凸の形状により生じる散乱光が混在しており,正 報を記録するための装置の技術的な進歩が両輪となり伴って 反射光が強すぎると埋もれてしまう散乱光のバランスを最適 深化しなければ良い結果を得ることは不可能である.基礎情 化できるように光学系を微調整できるよう工夫されている. 報として文化財の状態などを記録するために日常使用するデ 日本刀の撮影は文化財の中でも難易度が高い対象物の一つで ジタルカメラは,高感度化と高画素化が技術開発の表象と あるが,このようなシステムを利用すれば日本刀の標準的な して深化を続けている.高感度特性では CANON EOS-1DX, 画像のデータベースが構築できるばかりではなく,金属の錆 Nikon D4 の両機種は,拡張感度で ISO204800 相当と驚異的な や傷など文化財の管理に寄与するデータの管理が行える.日 256 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 本刀には「濡れ」,「潤い」という独特の表現で評価をする情 があり,太陽にまつわる天文現象が話題になった年であった. 報を必要とするため,装置開発の進展に大いに期待したい. 金環日食は,日本国内で見ることができる日食としては 2009 年 7 月以来で,東京や大阪,名古屋などの人口の多い (日画誌,51,641) 情報通信研究機構は HP や公開イベントを通じて米国メト 地域で金環日食になるということでも注目された.3 月頃か ロポリタン美術館が所蔵する尾形光琳作「八橋図屏風」のテ ら 5 月 21 日の当日に向けて,テレビでも多くの特集番組が ラヘルツ波を用いたイメージング技術を用いた調査の情報を 組まれたこともあり,日本全体で盛り上がった.一部の地域 公開している.テラヘルツ波によるイメージング技術は近年, では天候の関係で見ることができなかったものの,天文ファ 高松塚古墳壁画の調査など,文化財の調査にも利用されるよ ンだけではなく多くの人が空を見上げた天体ショーだった. うになってきた.「八橋図屏風」のような絵画が調査の対象 金環日食を写真で記録するためには,太陽本体(光球)を となった場合テラヘルツ波を用いると,X 線透過撮影や赤外 直接撮影することになるために,1 / 10000 ∼ 1 / 100000 に減 線,紫外線の反射測定では情報が得られない,絵画の下地層 光して適正露出を得ることになる.ふだん使用することのな の状態や絵の具層の厚みを非破壊で知ることが出来るとされ いレベルの ND フィルターが必要になるため,カメラ販売店 ている. 「八橋図屏風」の調査では,絵の具は細かな粒子か からそういう ND フィルターの在庫がなくなったという話も ら大きな粒子へと重ねて塗られていることや,絵の具層の下 ある位,多くの人が撮影しようとしたようである.多くの人 にも金箔の箔足が壑人されたことによって,絵画面全体に金 が「太陽が特別に明るい」ものであることを実感したことで 箔が貼られていたことがわかったと報告されている.また, あろう. 表面部分に金箔の欠損があっても内部の紙には影響が及んで さて,2012 年の天体写真の世界を振り返るにあたり,ま いない様子や,下張りの紙の重なりや端部の処理が明瞭に観 ず撮影機材に触れておきたい.ここ数年取り上げている話題 察できると記述されている.このような情報は,非破壊調査 であるが,ポータブル赤道儀の普及は今年も進んだ.デジタ の結果として非常に有意義なものであるが,多くの文化財の ルカメラの高感度化が強く後押ししていることは言うまでも 情報を集積することによって文化財の劣化要因や文化財の調 ない.三脚に固定しただけのカメラでも星景写真が良く撮れ 査に寄与できる情報となりうるので,今後の調査と情報の集 るまでにデジタルカメラは進化したが,星の写真としてもう 積を期待したい. 少し星の数を増やして撮りたいと思えば,やはり日周運動で 城野(東京文化財研究所)は可視域内励起光による蛍光画 像によって,使用された材料の識別ができる可能性を示唆し 動く星の追尾は必須である.そういう時に便利なのが,進化 を続けているポータブル赤道儀だ. ている.国宝平等院鳳凰堂内の仏後壁に描かれた壁画は劣化 地球の自転によって,見かけ上星が動くのを日周運動とい が激しく,絵の具の残存や描かれた図像をはっきりと認識で うが,地球の自転を打ち消すようにカメラの向きを徐々に変 きない箇所も多い.城野は,図像を描くために使用された材 え,結果として空の星がカメラのセンサー上で移動しないよ 料と,背景に使用された材料の成分比率が異なることを蛍光 うにしてくれるのが赤道儀であり,その小型化が進んでいる X 線のデータから判断して,モチーフが描かれている材料の ということである. 発光と,背景に残存する材料の発光を確認するために,励起 ポータブル赤道儀の仕様に関しては,搭載重量と追尾精度 波長を変化することによって情報を区別して捉えている. (鳳 が注目されるが,搭載可能重量は 1 kg から 5 kg 重程度,追 翔学叢,8) 尾精度の面ではピリオディックモーション(機械的な構造か 国内では見られないが,中国陝西省考古研究院の考古年報 ら一定の周期で生じる追尾誤差)が角度の ±10 秒を切るも 2012 と山西省内で発掘された遺跡の発掘報告書に掲載された のまで出てきている.これは 200 mm 程度の望遠レンズで追 3D 図版について触れておきたい.陝西省では,遺跡発掘現場 尾できる性能であることを意味し,搭載可能重量の範囲内で の測量は,レーザーを用いた 3 次元測量で行われている.報 あれば,200 mm 位までの望遠レンズでも追尾撮影ができる 告書では 3 次元データから CG で作成された遺構の図が多用 ということだ.望遠レンズよりは広角レンズとの相性が良い されている.また,空撮による俯瞰撮影の遺跡写真では,ア のは言うまでもないが,ちょっと旅行などに出かけるときに, ナグリフ式の 3D 撮影が行われており,報告書にはカラーコー カメラだけでなく三脚と一緒にポータブル赤道儀を持ってい ド 3D の図版が掲載されている.空撮写真では,遺構の凹凸 けば,美しい星の写真が撮れる時代になった. が理解できないことも多いが,3D の図版では驚くほど立体感 カメラに目を向けると,キヤノンから天体撮影モデルとし があり, 遺構の状態が良く理解できる.報告書という性格から, て EOS 60Da が発売(2012 年 4 月)された.2005 年にも EOS 3D のようなバーチャルなイメージを掲載すべきか賛否がある 20Da という天体写真撮影用のデジタル一眼レフカメラが発 とは思うが,一方で遺跡の状態を知らしめる効果は大いに期 売されていたが,その後継モデルということになる.天体写 待できる.カラーコード 3D 印刷をとりいれるなど,報告書 真 の 世 界 で 星 空 を 撮 影 す る 場 合, フ ィ ル ム の 時 代 か ら の在り様に変化をもたらす動向に注目して行きたい. 656.3 nm の波長の光を出す Ha 天体の写りが注目されてき た.デジタルカメラの場合,正しい色再現を目指すときには, 10.2 天体写真 山野泰照(天体写真家) 2012 年,天文の世界では,金環日食,金星の日面通過など 肉眼の感度が低い 656.3 nm の感度を高めると,カラーバラ ンスが崩れる原因になるので,分光感度分布の設計が難しい. 2012 年の写真の進歩 天文ショップでは,「天体専用でもよいので 656.3 nm の感度 257 とが予想されており,これからが楽しみである. を上げたい」というユーザーに対して,IR カットフィルター ここで,今回接近して話題になったパンスターズ彗星の発 のカットオフ波長を長波長側にシフトするためのフィルター 見で注目されているパンスターズ(Pan-STARRS)計画につい 換装などのサービスが行われてきたが,カメラメーカーがそ て触れておきたい.このパンスターズ(The Panoramic Survey ういう用途向けに EOS 60Da を発売したことが注目される. Telescope & Rapid Response System=Pan-STARRS)計画は, また,多くのデジタルカメラの動画機能が充実してきたこ 地球に接近する小惑星や彗星などを早期に発見することを目 とも見逃せない.フルハイビジョン(1920×1080 ピクセル 的として,ハワイ大学の天文研究所などが立案し,4 つの国 の解像度)で 30 コマ / 秒の撮影が当たり前にできるように と 10 の研究機関が推進しているものである.最終的には 4 なっただけでなく,高感度性能が向上したことで,月や惑星 台の望遠鏡で,同時に同一領域を観測する計画で,現在はハ などの明るい天体なら,比較的小型の天体望遠鏡でも美しい ワイのマウイ島にある Pan-STARRS1 望遠鏡(口径 1.8 m, 映像が撮影できるようになった.日食だけでなく,惑星食や F4 の光学系で撮像センサーは 40 cm 角,14 億画素)で 1 枚 星食などの時間変化を追いかけたい現象の時には,フレーム の画像で 7 平方度もの写野が得られる.撮像センサーは 毎に解析できるため,便利な記録装置になる. Orthogonal Transfer CCDs(OTCCDs)が使われ,露出中に さらに,インターバル撮影をして,それぞれの画像を動画 縦横のその列に沿った電荷の移動が可能で,画素ごとのゆら のフレームとして扱い動画にするタイムラプス撮影も広がっ ぎをリアルタイムで補正することができる.これまでの てきた.1 枚 1 枚の画像はフルハイビジョンの画素数をはる ティップ・ティルト補償光学系と同等の効果がありながら, かに上回る高画素なので,特定の 1 枚を用いて高精細静止画 メカ的な動作がないのが大きな特徴である. にすることもできるし,すべての画像を動画にするとタイム フィルムの時代と違い,格段に量子効率が良い撮像セン ラプスムービーに,また被写体が星空のような場合には,す サーで,広い写野を 1 分以下の露出時間で 24 等星までの天 べての画像を比較(明)で合成すると長時間露出をしたかの 体を次々に撮影し,すぐに過去のデータと比較出来るという ような静止画に仕上げることができるという,一連の撮影で のは,デジタル時代ならではのシステムである.まだ 1 台の 楽しみ方が広がってきたことも見逃せない. プロトタイプで 2010 年 2 月から試験運転が始まったばかり コンパクトデジタルカメラにも目を向けてみたい.コンパ だが,前述のパンスターズ彗星の発見だけでなく,多くの小 クトデジタルカメラの中でも,大きいセンサー,大きいピク 惑星や彗星が発見されているのは素晴らしいことである.今 セルサイズ,レンズの明るい F 値などを特徴とする機種の 後設備の充実により,さらに大きな成果が得られることを期 登場が相次ぎ,天体写真ファンから注目されている.天文雑 待したい. 誌でもコンパクトデジタルカメラの実写比較が取り上げられ さて,今年も彗星の接近などの天体現象によって,多くの人 るようになり,お手軽に高画質の星空が撮影できるように が天体に目を向けると思われる.カメラの進化で写真撮影がま なった.前述のポータブル赤道儀を使えばさらに本格的な天 すます手軽で簡単に行えるようになり,アイソン彗星が予想ど 体写真も撮影できるが,まずは風景,夜景の延長で,美しい おりに明るくなれば,ネット上でもそういう天体写真が見られ 天体が撮影できるようになったことは喜ばしい. るようになるだろう.天文現象や天体写真などを通じて,自然 一部のコンパクトデジタルカメラでは,前述のインターバ や科学に興味を持つ人が増えることを願ってやまない. ル撮影とか比較(明)の画像合成機能が搭載されており,今 後は暗いものが撮れるというだけでなく,撮れたものを処理 11. 写真芸術 して楽しめる機能もますます充実してくるものと思われる. 西垣仁美(日本大学芸術学部) さて 2013 年は,2 月 15 日,ロシアのチェリャビンスク州 に落下した隕石が大きな話題となった.隕石の年齢は太陽系 11.1 概況 が形成された 46 億年前,また 3 千万∼ 5 千万年前に他の天 2012 年は東日本大震災の流れを受けた年であった.震災 体と衝突した形跡があったと報告されている.隕石が落下す 後 1 年の 3 月になると「東日本大震災 報道写真展」(3 月 2 る模様が動画でこれだけ記録されたことは過去になかったこ 日∼ 3 月 14 日,有楽町朝日ギャラリー)など東日本大震災 とであり,注目に価するだろう.ドライブレコーダーやさま に関する写真展が各地で多数開催された.写真展「生きる」 ざまな監視カメラなど,世の中にはずいぶんカメラが動いて −東日本大震災から一年−(3 月 2 日∼ 3 月 15 日,富士フォ いることを実感させてくれたことにも驚かされた.ニュース トギャラリー新宿)は公益社団法人日本写真家協会が主催し 素材になっただけでなく,軌道の分析など解析に役立てられ たものだが,この東京展のあとに仙台展(3 月 27 日∼ 4 月 8 ていることは言うまでもない. 日,仙台市博物館ギャラリー)があり,そしてドイツ・ケル そういう中,今年は彗星で盛り上がる年になりそうだ.3 ン市で開催されたフォトキナ 2012 の会場内でも写真展「生 月 か ら 4 月 に か け て, す で に パ ン ス タ ー ズ 彗 星(C / 2011 きる」―Post TSUNAMI―と題し,世界の人々から受けた援 L4)が 3 月 10 日に近日点を通過し,空が暗いところでは肉 助,支援,励ましに感謝して同写真展を開催した.「被災」「ふ 眼でも見ることができた.11 月 29 日に近日点を通過するア るさと」「生きる」の 3 部構成で被災の現実,被災以前のふ イソン彗星(C / 2012 S5)はマイナス等級の大彗星になるこ るさとの姿,被災後の困難から立ち直ろうとする人々の姿を 258 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 伝えた.実際に被災した写真そのものや,被災したネガなど り全国巡回展である.50 年以上に渡り,ポートレート,都市, からプリントしたものも飾られた.このような東日本大震災 建築,ヌード,伝統文化など様々な被写体,テーマを撮影し に関する写真展は,タイトルに冠がつかなくても 1 年を通し ており,そしてそれらが時代の最先端を感じさせるものであ 多く見られた.それだけ多くの写真家が被災地に赴き,ある ること,その技術に篠山氏の力を改めて感じた. いは被災地で暮らしながら独自の視点で制作を続け,発表を ・「イジス写真展―パリに見た夢―」 しているように感じた. 美術館「えき」KYOTO,2 月 2 日∼ 2 月 26 日 写真誕生当初の作品による写真展も多く開催されるように 日本橋三越本店 新館 7 階ギャラリー,10 月 10 日∼ 10 月 15 日 なり,古典技法にも注目が集まりワークショップ(デジタル 2010 年にパリ市庁舎で開催された大回顧展の日本巡回展 画像からのプラチナ・プリント・ワークショップ,東京都写 であった.遺族の所蔵作品を中心とした約 200 点が紹介され 真美術館,7 月 7 日∼ 7 月 8 日など)あるいはシンポジウム た.リトアニアからフランスに帰化し,夢の都パリで活躍し (Alternative Processes International Symposium,日本大学芸 た.戦時中のレジスタンス闘士のポートレートからシャガー 術学部,9 月 8 日∼ 9 日)が開かれた.そのような事からも ルなど芸術家,動物,サーカスまで技術に裏打ちされた多様 古写真に意識が向くことが増えたのか,2012 年は古写真発 な作品はあたたかくウィットにとみ魅力的であった. 見のニュースも印象深い.東京大学資料編纂所の研究チーム ・「写真家 石元泰博―時代を超える静かなまなざし」 によりオーストリアで明治初期の日本を撮影したガラス原板 今治市河野美術館,8 月 4 日∼ 8 月 30 日 136 点が発見された.また 1896 年に起きた明治三陸津波の 文化フォーラム春日井・ギャラリー,9 月 8 日∼ 10 月 11 日 災害を伝える古写真も 48 枚みつかり,これは「企画展示: 佐世保市博物館島瀬美術センター,10 月 20 日∼ 11 月 25 日 発見された明治三陸津波の古写真」として杉並区立郷土博物 石元氏の写真展は数多くなされてきたが,この展覧会は新 館分館で 7 月 7 日∼ 9 月 17 日に公開された.さらに国立天文 たな試みとして「対比」をテーマに前半が構成されていた. 台の資料の中から 19 世紀末から 20 世紀初頭に撮影された星 つまり撮影された時代や主題の枠を外し,写し出された画像 の写真の乾板 437 枚が発見された.これは日本最古の星の乾 の作り出すフォルム,画面構成によって時代,場所,内容の 板群であり,今後はデジタル化し公開する予定であるという. 異なる写真を並べていた.興味ひかれる挑戦であったが,そ 写真展ではないのだが,東京国立近代美術館が 60 周年を れだけで全体を構成するのは難しかったのだろうと感じた. 迎え,所蔵品ギャラリーがリニューアルされて 60 周年記念 石元氏の完成度の高い作品が写真展を支えていた. 特別展「美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美 ・「Flash! Flash! Flash! エジャートン博士,O. ウインストン・ 術の 100 年」第 1 部 MOMAT コレクションスペシャル,第 2 リンク,ERIC の写真」 部 実験場 1950s が 10 月 16 日∼ 1 月 14 日に開催された.写 清里フォトアートミュージアム,7 月 7 日∼ 12 月 24 日 真の世界では特別話題に上がったとは感じられなかったが, エレクトロニック・フラッシュを開発したエジャートン博 この特別展には多くの写真作品が展示された.特筆すべきは, 士の作品 45 点で肉眼で見ることの出来ない世界に驚嘆し, その取り扱い方である.一部,日本画と写真という部屋はあっ 次いでリンクのフラッシュバルブで細部まで克明に写し出し たものの全体としては,そのような制作方法で分類するので た蒸気機関車のある日常が非日常に感じる世界,最後に日中 はなく,総てを同じように扱い内容により作品を分けていた. シンクロで写し出す街中のスナップの写真展であった.三者 すなわち絵画の隣に写真や映像などが並べられる展示であ 三様の作品であるが,光がなければ撮影は出来ない写真,人 り,写真も絵画等と全く同じように扱われていた.現実を機 工光源による表現の広がりを感じた. 械が切り取る写真であるが単に現実が画像として定着するの ・「OVERLOOK 清家冨夫」 ではなく,作者の視点や複数で見せることなどで現実を越え 清家の作品はフォト・ギャラリー・インターナショナル, た作者が表現した作品であると明確に見てとれた.木村伊兵 3 月 2 日∼ 4 月 28 日 衛,土門拳,濱谷浩,奈良原一高,東松照明,川田喜久治, 銀塩黒白写真が作品としてのイメージが強いが,この写真 植田正治,瑛九,大辻清司,石元泰博,田村昭英,森山大道, 展ではデジタルによるカラー写真であった.イギリス・ブラ 須田一生,高梨豊,牛腸茂雄,榎倉康二,常盤とよ子,岡本 イトンの自宅の窓から見える海と海岸,そこを歩く人を撮影 太郎,小島一郎などが取り上げられた.雑誌「カメラ」なども したものである.同じ海,同じ距離,同じ視覚でありながら, 多数展示されていた.近代美術を語る上で写真を省く訳には 移りゆく光と海の姿,行き交う人や動物があたたかな視線で いかないのだということが認識されていると感慨深かった. 記録されていた. 11.2 写真展 ・「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN」 熊本市現代美術館,6 月 30 日∼ 9 月 17 日 ・「松江泰治展:世界・表層・時間」 IZU PHOTO MUSEUM,8 月 5 日∼ 11 月 25 日 新作を中心とし,映像作品も加えた展覧会であった.山岳, 東京オペラシティ アートギャラリー,10 月 3 日∼ 12 月 24 日 砂漠,森,そして都市も含め地表を遠距離から均一に写し出 本年から来年にかけて奥田元宋・小由女美術館,高梁市成 す光で撮影している.動画は一見,静止画のようであるが見 羽美術館,新潟県立万代島美術館での開催も予定されている. 続けると細部の変化を感じ動画と分かる作品である.客観的 写真界の第一線を今なお走り続ける篠山紀信の大回顧展であ に,細部まで「見る」という事の魅力を伝えてくれる写真で 2012 年の写真の進歩 259 あり,印象深かった. たい」と移り住み有機農業を営んでいた女性と家族の日々の ・「Storm Last Night / Earth Rain House」 記録であった.花々が咲き乱れ,蜂などが飛び回り,猫が歩 Tsuda Nao,キヤノンギャラリー S,8 月 20 日∼ 9 月 25 日 き回る何気ない毎日が原発から 60 km の地であった為,沈 2010 年に発表した「Storm Last Night」は 6 × 17in のパノ 黙の土地となってしまう.普通の日々の大切さを非常に感じ ラマで 撮 影 し た ア イル ラ ン ド の 作 品 で あ る.「Earth Rain させられた. House」は 2012 年から制作された新作で,スコットランド 大西みつぐ「砂町」(エプソンイメージングギャラリー エ 北方の島々を巡っている.古代の世界を追いかけた作品であ プサイト,6 月 8 日∼ 6 月 21 日)は,作者がかつて住み, る.ともに精緻で静かな雰囲気の作品は,キリスト教以前の 70 年代,80 年代に撮影した砂町の写真展を契機に,反省を 古代の人類が何を思想したのかという想いを強く感じる内 もふまえ新たに現在の砂町を淡々と距離をたもちながら捉え 容,展示であった. たカラー作品であった.東京スカイツリー界隈とは別の密集 11.3 「東京写真月間 2012」 感と寂寥感をかかえた下町の姿を表現していた. 第 17 回を迎えた「東京写真月間 2012」が「東京写真月間 「アジアの写真家たち 2012」はフィリピンの写真家による 2012」実行委員会と公益社団法人日本写真協会,東京都写真 作品が取り上げられた.フィリピンはスペインやアメリカの 美術館の主催,外務省,環境省,文化庁,東京都およびフィ 植民地支配を受けたため東南アジアで唯一のキリスト教信者 リピン共和国大使館の後援,その他写真関係を中心とした企 が多い国である.経済的には輸出入額ともに日本が一番多く, 業等 23 社の協賛,YUKI TORII,フィリピン政府観光省の特 観光面でも日本人観光客を多く集めており,日本との関係が 別協賛,カメラ記者クラブ等の特別協力を得て,6 月 1 日の 良い国である.そのようなフィリピンから 12 名の写真家に 「写真の日」を中心に開催された. よる作品が紹介された. 今回の国内展の企画は「心が光る瞬間」というタイトルを 「The Hope & The Dream in Filipino-Section I」(銀座ニコン 掲げ,人間に焦点をあてたものであった.ここ 2 年間は地球 サロン,5 月 23 日∼ 6 月 5 日)は,フィリピンを代表する 3 の上に生きる動物から植物まで多種多様な生物をとらえるも 名のドキュメンタリー写真家による写真展であった.ビー のであったが,2011 年の東日本大震災を経験することで新 ジェー・ビラフランカは「さがみはら写真アジア賞」を受賞 たに人間そのものに注目することとなった.人間は人をはじ しており,社会問題に視点をおいてきた写真家である.今回 め,社会,自然,仕事,家族など様々なものと繋がっている. はイスラム教徒の母子家庭を取材し,環境の劣悪さを問題提 その「つながり」の中で人間は成長し,生きており,写真家 起している.ジェイク・ベルソーサはフィリピンの山岳地方 達はそれを捉えてきた.それらの写真を通して,あらためて に住むカリンガ族の女性の伝統的な入れ墨をする風習を捉え 他者とのつながりを認識し,豊かな人生を感じてほしいと設 ている.東京在住のバハグはフィリピンで 1 月に盛大に行な 定された企画であった. われるキリスト教のお祭りブラックナザレを紹介している. 金指栄一「生麦 魚河岸」(コニカ・ミノルタプラザ・ギャ 「The Hope & The Dream in Filipino-Section II」(キヤノン S ラリー C,5 月 22 日∼ 5 月 31 日)は,2009 年から旧東海道 タワー 2F・オープンギャラリー,5 月 29 日∼ 6 月 18 日)は, 沿いの生麦魚河岸の近代化された現在を撮影した作品であ 若手写真家によるアート写真を紹介している.イサ・ロレン る.1948 年に公設市場と認可を受けたこの市場で現在も働 ゾォは今回のフィリピン展のキューレターであり,マニラで く人々の姿を黒白写真で記録したものであった.金指氏は, ギャラリーを経営し,若手写真家を発掘するなど写真界に貢 同名の写真集を 2011 年に出版しているが,昨年は現代写真 献している.同時に写真制作も行なっており,父親の残した 研究所に在籍するアマチュアであることに東京写真月間の新 ネガを合成して幻想的な作品に仕上げている.エリック・ザ たな展開を感じた. ムコはアメリカ在住の写真家で,アメリカに移住し慣れるま 沼田早苗「町のいとなみ」(オリンパスギャラリー東京,5 で感じた違和感を表現した作品である.ポクロン・アナディ 月 31 日∼ 6 月 11 日)は, 「町はひとなしでは生きて行けない」 ンは顔をフラッシュで隠し,ライトボックスを使用した新た と実感したという沼田氏がとらえた穏やかな町の姿であっ な見せ方による作品である. た.少し引いた位置から人々が町の中に溶け込んで一つの風 「The Hope & The Dream in Filipino-Section III」 (リコーフォ 景を作り出したものや,近寄り優しい笑顔を捉えたものまで トギャラリー RING CUBE,5 月 30 日∼ 6 月 10 日)では, 生きていると感じる町が表現されていた. スペインで活躍するワウィ・ナバローザが風景を造形的に捉 大野葉子「刻∼とき∼」(オリンパスギャラリー東京,5 えた作品を,フランク・カラハンはフィリピンの建造物を夜 月 30 日∼ 6 月 6 日)は,日々,駆け足で成長していく子供 景として捉えた作品を,ジェロイ・マリガヤ・コンセプショ の姿を黒白写真で捉えたものである.作者は子供と過ごす今 ンはフィリピン人の暮らし,風習,行事などをスナップした の時間が癒しであり宝であると感じている.また子供にとっ 作品を,それぞれ展示している. ても大人になり失われるであろう今が一つの宝であると感 「The Hope & The Dream in Filipino-Section IV」 (日本アセア じ,その記憶を写真に刻み未来へ伝えていこうとしていた. ンセンター・アセアンホール,5 月 29 日∼ 6 月 14 日)は,フィ 小池友美「穏やかな光」(ペンタックスフォーラム,5 月 リピンやカンボジアで活躍する写真家による美しい景色,民族 25 日∼ 6 月 6 日)は,「安全な食べ物を食べさせたい.作り 芸能,伝統的暮らしを紹介した.写真家はニール・オオシマ, 260 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) ヴィンセント・ルフォ,シェリル・バルディカントスである. など海外の写真家の写真展を企画・開催し日本に紹介してい 「日本写真協会賞」は,写真文化の国際交流や日本写真界 る.2011 年から「福島辰夫写真評論集」3 部作を発表し,写真 への貢献に対し「国際賞」,功労のあった個人や団体に対し「功 とは何かを問いかけている.これらの功績が高く評価された. 労賞」,写真作家活動や写真研究活動において顕著な業績を ・功労賞:村井 修 残した写真家や研究者に対し「作家賞」「学芸賞」,将来を嘱 フリーランスの写真家として建築誌や美術誌に建築,彫刻 望される新人写真家に対して「新人賞」を贈り表彰するもの を発表.1967 年には LIFE 誌の「The Family」の日本編を担 である.その「日本写真協会賞受賞作品展」 (富士フイルムフォ 当した.日本を代表する建築家の作品や日本の街並などを海 トサロン,6 月 1 日∼ 6 月 7 日)が開催され,表彰式が 6 月 外に紹介し,また海外の建築を日本に紹介するなど建築写真 1 日に笹川記念会館で行われた. の第一人者として幅広く活躍した.また 1968 年から 1990 年 ・国際賞:山岸享子 まで東京写真短期大学で教鞭をとり後進の指導にあたる等, 日本の写真を国際的に発信する,逆にアメリカの現代作家 の作品を日本に紹介する,あるいは写真史を展望する展覧会 など多様な写真展や写真集を企画した.海外の作品を紹介す 写真文化の向上に寄与された功績を高く評価された. ・作家賞:石川 梵 2011 年は東日本大震災を抜きには語れない.東日本大震 ることで,変容期を迎えていた日本の若い写真家達に刺激を 災の翌日には撮影を開始し,約 60 日間の撮影後,6 月には あたえ写真界を活性化し,新しい世代の写真家をうむ礎に 写真集「THE DAYS AFTER 東日本大震災の記憶」 (飛鳥新社) なった.また写真をとおし海外と交流してきた業績が,現在, を刊行し,この作品が評価された.石川氏は地球の歴史と民 日本の写真が海外で高い関心を得るに至ったと多くの活動が の祈りという視点から長期取材で作品制作をしている作家で 高く評価された. あるが,この作品もまた地球の起こした現象であり,被災地 ・学芸賞:岡塚章子 に新たな「祈り」が生まれている点でこれまでのテーマと通 1990 年から東京都写真美術館を皮切りに学芸員として日 本の近代における写真と他の芸術文化との関係性に着目した 底している. ・作家賞:高梨 豊 多くの写真展を手がけている.今回,2011 年に東京都江戸 2009 年には東京国立近代美術館で最初期から現在までの 東京博物館で開催された「140 年前の江戸城を撮った男―横 15 シリーズを一堂に紹介する大展覧会があった.都市をテー 山松三郎」展が高く評価され受賞となった.国内各地に散在 マに精力的に制作活動をし続けてきた高梨氏が 2011 年に刊 する資料を一堂に集め,写真のみならずカメラなど資料も展 行した写真集「IN’」が評価された.この作品は,バスの座席 示,技法解説などを通し,移りゆく時代や横山の人物像を浮 から捉えた「SILVER PASSIN’」 ,列車の窓から捉えた「WIND かびあがらせた. SCAPE」,そして足を地につけ捉えた「LAST SEEIN’」の 3 ・功労賞:熊切圭介 テーマの写真が異なる 3 つのレシオで一冊にまとめられた不 フリーランスの写真家として週刊誌,月刊誌などのジャー ナリズムの分野で数多くの仕事をする.その写真は仲間内か 思議な形の写真集であるが,変わらぬ創作力に驚嘆された. ・作家賞:ホンマタカシ らも羨望の的であったという.また 1987 年から日本大学芸 金沢 21 世紀美術館と東京オペラシティアートギャラリー 術学部で教鞭をとり多くの写真家を育成した.プロの写真家 を巡回した「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」展 の団体である公益社団法人日本写真家協会の副会長を務める が現代における写真の可能性を写真の分野に閉じ込めず,写 と同時に写真愛好家達に向け講座などで指導を続けている. 真の特性を踏まえながらより開かれた文脈で考えるものとし これらの多様な活動を通した写真界への貢献は大きく,高く て評価された.東京展では,9 つのサテライト会場で別々の 評価された. テーマによる作品展示も行なわれ,その多様性を際立たせる ・功労賞:故 多木浩二 と共に,空間による写真の「見え」の違いなども考えさせら 2011 年に 82 歳で逝去された.長年にわたる批評活動と共 に,「写真 100 年―日本人の写真表現の歴史」展と『日本写 れるものであった. ・新人賞:公文健太郎 真史 1840–45』の準備,編纂での中心的役割,それにより日 ルポルタージュを本道とする仕事の合間をぬって自主制作 本の写真史を新たに提示した事が高く評価された.「プロ のためにネパールやブラジルで撮影を進めている.そのネパー ヴォーク」の頃から,写真に留まらず幅広く刺激的かつ示唆 ルでの作品「ゴマの用品店―ネパール・バネパの街から―」 的な論考を続け,記号論や修辞学的なアプローチにより「視 のテーマ性, 撮り口が人々に感銘を与えると評価された.ネパー 線」を読み解く作業,そして言説化できない写真の異質性に ル,ブラジルそして国内でも撮り続けたいテーマを多く抱え, ついての論を展開した. 継続し制作している.今後の作品が期待されている. ・功労賞:福島辰夫 ・新人賞:斉藤麻子 新進気鋭の若い写真家を取り上げた 1957 年の「10 人の眼」 日本各地に点在する露頭すなわち地層が地表に露出してい 展と 1959 年の「VIVO」設立などで注目された評論家である. る場所を中判あるいは大判カメラで精緻に描写撮した また安井仲治など戦前,戦後の作家を検証した研究家でもあ 「Exposures」や「Field Note」が,露頭のみならずそこから連 る.そして日本の写真家を世界に紹介し,またビル・ブラント なる人間の営み,社会の有り様を写しこみ,現代社会に対す 2012 年の写真の進歩 261 る批評性が感じられる優れた作品と評価された.風景を風景 を浮かび上がらせている.島の人々との交流が感じられ,静 の記録として終わらせず,また徹底した客観描写による作品 かながらも力強さを感じる写真集である.同タイトルの写真 が今後どのように展開するのか期待されている. 展が 10 月 10 日∼ 10 月 19 日にコニカミノルタプラザで行な 〈「写真の日」記念写真展・2012〉(新宿パークタワー ギャ ラリー 3,6 月 21 日∼ 6 月 24 日)は全国から 958 名,2,337 われた. ・写真集「AFRIKA WAR JOURNAL」 亀山 亮,リトルモア 点の応募があった.作品は自由作品部門とネイチャーフォト ただただ恐ろしく,そして悲しい写真集と感じた.アフリ 部門に分けられ,自由作品部門から外務大臣賞 1 名(松本洋 カ 7 カ国の紛争地に 8 年間通い続け,生と死の狭間で生きる 子「雪の日の体力作り」),ネイチャーフォト部門からは環境 人々に踏み込んで撮影している.人間はここまで残酷になれ 大臣賞 1 名(島元慶子「水無月の宵」)がそれぞれ選ばれた. るのか,この状態でも生かされるのか,生きる意味,生かさ その他は両部門から優秀賞(各 5 名),レディース賞(各 3 名), れる意味など様々なことを考えさせられた.世界中に報道さ ヤングフォトグラファー賞(各 3 名),協賛会社賞(各 69 名), れるような大きな戦争ではない戦争が世界にはまだあるのだ 入選(自由作品部門 69 名,ネイチャーフォト部門 71 名)が と改めて感じさせられる.この作品で第 32 回土門拳賞を受 選ばれ,合計 302 点の作品が展示された.これらの作品は 賞された. 12 月まで全国 5 カ所で巡回展示された. ・写真集「そら色の夢」 高砂淳二,パイインターナショナル 〈1000 人の写真展「わたしのこの一枚」〉 (新宿パークタワー 地球そのものが,こんなにも美しいのかという事を教えて ギャラリー 3,6 月 16 日∼ 6 月 20 日)は 17 回目を迎え,写 くれる.空,海,大地,昼間の太陽,夕焼け,夜に輝く満天 真の愛好家からプロまで多くの参加者があった.昨年に引き の星,オーロラ,稲妻までもが美しい.そして美しい地球に 続きグループによる展示が増えた. 生きる動植物が愛おしい.世界各地 30 カ所以上の地で撮影 「見つけた!撮った!ワンダーランド」(みどりの i プラザ された珠玉の一瞬が捉えられ,この自然を守り残したいと感 ギャラリー 1〈緑と水の市民カレッジ 3F〉)で昨年に引き続 じさせられる.同タイトルの写真展が 11 月 29 日∼ 12 月 14 き「こどもの目線」写真展 2012(5 月 19 日∼ 6 月 6 日)と 日にコニカミノルタプラザで行なわれた. 題し,読売新聞東京本社の「見る撮る伝える」の写真の授業 ・写真集「本日の浮遊」 林ナツミ,青幻舍 に参加した子供達が撮影した作品 1,080 点を展示した.また ウェッブで 1 日 1 枚の浮遊する自己の写真を発表したプロ 新たに「G サミット 2012 写真展」(6 月 8 日∼ 6 月 29 日) ジェクトが話題となり,インターネットから飛び出し写真集 と題し,全国各地の 100 を超えるフォトコンテストのグラン となった.現在では一つのチームとして実際にシャッターを プリ作品だけを一堂に介した写真展が開催された. 押すカメラマンと共に作品制作をしており,納得がいくもの 11.4 出版 ・写真集「現場紀信 GENBAKISHIN」 篠山紀信,日系 BP 社 昨年は写真展「写真力」と共に同名の写真集「写真力」 (パ イ インターナショナル)が脚光をあびたが,懐古的なそれ が無ければ発表しないという.写真だから捉えられる一瞬で ありながら現実感をこえた写真が魅力的である.同タイトル の写真展が 6 月 16 日∼ 6 月 29 日に MEM で行なわれた. ・写真集「REDDRAGON」 宮澤正明,小学館 に対し「現場紀信」は現在進行形のまさに今の篠山の作品で 富士山の前を走る赤龍(雲のたなびき)を捉えた写真集で ある.2010 年から開始された土木・建設の専門誌に掲載さ ある.その時,その場にいれば誰もが撮れると考えられがち れた作品をベースに制作された.巻末は東日本大震災の現場 な写真のように一見できるが,本当にそうなのであろうか. 写真で締めくくられている.写真に切り取られた巨大建造物 誰もが被写体にレッドドラゴンを見る事ができたのであろう は力強く,美しく,儚い.あらゆる被写体に挑める篠山の技 か.このレッドドラゴンを撮影するための長い必然が存在し 量を感じさせられる. たからこそ撮影に成功したのだということを感じさせられる. ・写真集「植物図鑑 ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS」 ・写真集「FISHING」 笹岡啓子,KULA 東信,椎木俊介,青幻舍 言葉も何もない.日本各地の沿岸の釣り人,そして海と陸 花を創り上げる東と撮影する椎木のチームとしての作品で の境界が目の前に並ぶ.多くの写真が薄暗い陽の光で,釣り ある.植物図鑑という題名からイメージできる図鑑ではない. 人は後ろ姿である.彼らの後を追いかけている気分で,その 巻 末 に は 全 て の 花 の 学 名 が 記 さ れ て い る が,WHOLE, 場の景色を見る.海と陸の間には,こんなにも巨大な,不思 FLOCK,COEXISTENCE,HYBRID,APPEARANCE の 5 章 議な岩が連なっていたのだろうか,何故フィッシングに向か に分けられ群れた花から 1 輪の花まで強いエネルギーに溢れ うのかと静かな時間の経過の中で様々な思いが去来してきた. た写真に引きつけられる.Encyclopedia には,その語源がも つ「総ては循環し,育まれ,連続していく」という思いもこ 12. 映画 められているという. 清野晶宏(IMAGICA) ・写真集「島想い shimaumui」 山下恒夫,リバーサイドブックス 沖縄に 10 年以上通い撮影を続ける著者の 3 冊目の作品集 である.2007 年から 2011 年にかけて沖縄の数カ所の離島を 取材し,島の自然,そこに生きる人々の営み,伝統文化など 12.1 概況 〈国内概況〉 2012 年の日本国内における映画興行収入は,洋画・邦画 262 日本写真学会誌 76 巻 3 号(2013 年,平 25) 合わせて 1,951 億円(前年比 107.7%)と昨年の落ち込みに 12.3 デジタルシネマカメラ 対し回復傾向であった.また,入場者数も 1 億 5,515 万人(前 ソニーから CineAlta カメラシリーズとして「F65RS」に加 年比 107.2%)と増加し,東日本大震災などの影響で大幅に え,4K Super35mm CMOS イメージセンサー搭載した「PMW- 落ち込んだ昨年に対して増えた形となった.なお,公開作品 F55」と「PMW-F5」が発表された.また,「NEX-FS700」と 数は 983 本(前年比 84 本増)となり,昨年に続き増加傾向 いう NXCAM カムコーダーも追加し,4K ラインナップを拡 が見られた. 充した.また,デジタルシネマカメラの先駆者である RED 邦画と洋画の区分について邦画 554 本(前年比 113 本増) Digital Cinema 社は RED ONE の製造を終了したが,5K セン に対して洋画 429 本(前年比 71 本増)であったが増加の要 サ ー を 搭 載 し た「EPIC-X」,「EPIC-M」,「SCARLET-X」 の 因として映画ではない ODS があげられる.興行収入は邦画 ラインナップとなるとともにより低価格となる価格改定を 1,282 億円(前年比 128.8%)に対して洋画 670 億円(前年比 行った.昨年デジタルシネマカメラに参入したキヤノンは, 82.1%)で,邦画の好調さが維持された.しかし洋画の興行 スーパー 35mm 相当大判 CMOS センサーを搭載し 4K にも 収入の落ち込みがさらに加速する傾向となった. 対応した「EOS C500」,35mm フルサイズ約 18 メガ CMOS 邦画 TOP5 は,「BRAVE HEARTS 海猿」(73.3 億円),「テ センサー搭載の「EOS-1D C」,スーパー 35mm 相当の CMOS ル マ エ・ ロ マ エ 」(59.8 億 円 ),「 踊 る 大 捜 査 線 THE センサーを搭載した「EOS C100」を追加しラインナップを FINAL 新たなる希望」(59.7 億円),「ヱヴァンゲリヲン新劇 拡 充 し た.ARRI は,「ALEXA」,「ALEXA PLUS」 に 加 え, 場版:Q」 (53.0 億円) , 「おおかみこどもの雨と雪」 (42.2 億円) アスペクト比 4:3 センサを利用した「ALEXA Plus4:3」,カメ の 5 作品,洋画 TOP5 は, 「ミッション:インポッシブル / ゴー ラボディとヘッドが分離し狭い撮影場所でも対応可能な スト・プロトコル」(53.8 億円),「バイオハザード V リトリ 「ALEXA M」,光学式ビューファインダとミラーシャッタを ビューション」(38.1 億円), 「アベンジャーズ」(36.1 億円), 搭載した,ALEXA ファミリのトップエンドモデル「ALEXA 「アメイジング・スパイダーマン」(31.6 億円),「メン・イン・ STUDIO」を追加し,ラインナップの拡充を図った.各社次々 ブラック 3」(31.3 億円)の 5 作品だが,100 億円を超える作 と新機種を発表しており,デジタルシネマカメラが普及化な 品は無く,50 億円超えが邦画 4 作品,洋画 1 作品の計 5 作 らびに多様化の域に入ったと思われる. 品にとどまった. スクリーン数は,デジタル上映化や震災の影響で昨年より さらに 49 減って 3,290 となり,昨年に続き減少となった. (日本映画製作者連盟,2012 年(平成 24 年)全国映画概況, http://www.eiren.org/toukei/) 〈米国概況〉 12.4 デジタルシネマ 2012 年は,全世界でデジタル上映対応が更に増加し全世 界で約 123,000 スクリーン中,89,000(72%)がデジタル対 応となっており,前年比で 42%増加した.北米が 36,000, 欧州 25,000,アジア ・ 太平洋地域 21,500,ラテンアメリカ 4,900,中東・アフリカ 1,600 となっている.デジタル化比率 米国の映画興行収入は,108 億ドル(前年比 105.9%)と が最も多いのは北米で 85%,ついで欧州の 67%で,アジア・ 増加し,過去最高の興行収入を記録した.TOP5 は“Marvel’s 太平洋地域が 64%となっている.なお,3D に関しては,全 The Avengers” (6.23 億ドル) , “The Dark Knight Rises” (4.48 世界の全スクリーンのうち約 50%が対応可能となっている. 億ドル), “The Hunger Games”(4.08 億ドル)“Skyfall”(2.90 国内でのデジタル上映対応スクリーンの比率は 88%で, 億ドル)“The Twilight Saga: Breaking Dawn Part 2”(2.86 億 全 3,290 スクリーンのうち,2,897 スクリーンがデジタル上 ドル)で,興収 1 億ドル以上の作品は,合計 26 作品あった. 映対応となっている.近年でデジタル上映化は加速的に進み, なお, “Marvel’s The Avengers”においては 3D によるチケッ ほぼデジタル上映が標準となってきたと思われる. ト料金増加も後押しした. (IMDb,Box Office Mojo,http://boxofficemojo.com/) 12.2 フィルム (SMPTE Technology Summit on Cinema, NAB2013, http://mkpe. com/publications/d-cinema/presentations/NAB-TSC2013Karagosian-Cinema-Rollout-w-text.pdf) コダックは,映像資産保護(アセットプロテクション)に 特化したローコストで革新的なカラーフィルム「コダックカ 13. 工業規格 ラーアセットプロテクションフィルム 2332」を発売した. 藤田宗久(写真感光材料工業会) さらに,カラーデジタルマスターから長期保存用の白黒セパ レーションフィルムを製作するためのフィルム「コダック 13.1 概要 VISION3 デジタル セパレーションフィルム 2237」を追加し 2012 年の ISO(国際標準化機構)/ TC42(Photography)国 た.富士フイルムは,近年の急激な需要の減少の影響もあり, 際標準化活動は WG5(イメージング材料の物理性と保存性), 撮影用 / 上映用フィルムについて平成 25 年 3 月をめどに販 WG18(デジタルスチル画像)等の Working Group を中心と 売を終了することを発表したが,アーカイブ用映画フィルム して活発な規格制定・改正活動が展開された.発行されてい 「ETERNA-RDS」については継続する方針.両メーカーとも る写真関係国際規格[TS(技術仕様書)及び TR(技術報告 保存媒体としてのフィルムを明確にしたラインナップとな 書)を含む]は,ISO / TC42(写真)で 177 件となった.国 り,用途の変化が見られた. 家規格の JIS(日本工業規格)は,B 分野(光学機械)9 件, 2012 年の写真の進歩 K 分野(写真材料・測定方法)4 件,Z 分野(放射線関係)1 263 ulary 件である.国際規格(ISO)は,ISO の Website(http://www. ・ISO 18914:2013 Imaging materials̶Photographic film and iso.org/iso/home.htm)の,Standards development > List of ISO papers̶Method for determining the resistance of photo- technical committees > TC42 から規格番号及び規格名称の 検索が可能である.また,国家規格(JIS)は日本工業標準 調査会の Website(http://www.jisc.go.jp/)で検索・閲覧が可能 である. 13.2 ISO / TC42 委員会の動き graphic emulsions to wet abrasion ・ISO 18924:2013 Imaging materials̶Test method for Arrheniustype predictions ・ISO 18925:2013 Imaging materials̶Optical disc media̶ Storage practices ISO / TC42 議長が K. Parulski 氏(米国)から永田徹氏(日 ・ISO 18926:2012 Imaging materials̶Information stored on 本)に交代した.第 23 回全体会議は 2013 年 6 月にコペン magneto-optical (MO) discs̶Method for estimating the life ハーゲンで開催されることとなった. expectancy based on the effects of temperature and relative 専門委員会会議は,WG5 会議が 5 月(ワシントン)と 9 月(ケベック)の 2 回開催され,WG18 / JWG20 / 22 / 23 会 議が 2 月(横浜),6 月(サンノゼ) ,9 月(ケルン)の 3 回 開催された. 13.3 標準化活動 13.3.1 ISO 標準化の基本手順の変更 迅速化と市場要求への適合性を高めるため標準化手順の一 部が変更された. ・DIS,FDIS プ ロ セ ス の 変 更 導 入(DIS 投 票 期 間 短 縮, FDIS 省略手順) ・CD 段階省略手順の導入 ・軽微な改定(Minor revision)の新設 ・NP 投票(Form-05)の改訂(市場要求適合性の確認を追加) humidity ・ISO 18928:2013 Imaging materials̶Unprocessed photographic films and papers̶Storage practices ・ISO 18929:2012 Imaging materials̶Wet-processed silvergelatin type black-and-white photographic reflection prints̶ Specifications for dark storage ・ISO 18933:2012 Imaging materials̶Magnetic tape̶Care and handling practices for extended usage ・ISO 18936:2012 Imaging materials̶Processed colour photographs̶Methods for measuring thermal stability ・ISO 18944:2012 Imaging materials̶Reflection colour photographic prints̶Test print construction and measurement ・ISO 20462-3:2012 Photography̶Psychophysical experimen- 13.3.2 標準化の内容 tal methods for estimating image quality̶Part 3: Quality 国際標準については,15 件の規格発行,2 件の技術仕様書 ruler method 発行,1 件の技術報告書発行,3 件の規格廃止があった. 国家規格の JIS については,発行,確認,改正,廃止とも なかった. 2012 年 に 発 行, 廃 止 さ れ た 国 際 規 格(IS:International Standard),技術仕様書(TS: Technical Specification),技術 ・TS 22028-3:2012 Photography and graphic technology̶ Extended colour encodings for digital image storage, manipulation and interchange̶Part 3: Reference input medium metric RGB colour image encoding (RIMM RGB) ・TS 22028-4:2012 Photography and graphic technology̶ 報告書(TR:Technical Reports)を以下に示す. Extended colour encodings for digital image storage, manipu- 1)発行された ISO 規格及び技術書(18 件) lation and interchange̶Part 4: European Colour Initiative ・ISO 12234-1:2012 Electronic still-picture imaging̶Removable memory̶Part 1: Basic removable-memory model ・ISO 15781:2013 Photography̶Digital cameras̶Measuring shooting time lag, shutter release time lag, shooting rate, and start-up time ・ISO 17321-1:2012 Graphic technology and photography̶ Colour characterization of digital still cameras (DSCs)̶Part 1: Stimuli, metrology and test procedures ・ISO 18907:2013 Imaging materials̶Photographic films and papers̶Wedge test for brittleness ・ISO 18913:2012 Imaging materials̶Permanence̶Vocab- RGB colour image encoding [eciRGB (2008)] ・TR 17321-2:2012 Graphic technology and photography̶ Colour characterization of digital still cameras (DSCs)̶Part 2: Considerations for Determining scene analysis transforms 2)廃止された ISO 規格(3 件) ・ISO 2800:1973 Photography̶Expendable photoflash lamps̶ Definition and evaluation of flashability ・ISO 9559:1989 Photography̶35 mm filmstrip projectors̶ Specifications for frame masks ・ISO 10996:1999 Photography̶Still-picture projectors̶Determination of noise emissions
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