日本の株式市場におけるリスク・リターン関係の再吟味

名城論叢
91
2008 年 11 月
日本の株式市場におけるリスク・リターン関係の再吟味
LUONG QUY TOAN
要
約
本稿では,1952 年から 2006 年までの東京証券取引所・第1部の上場企業を対象に,日本の株式市
場におけるリスクとリターンの関係を再検討した。新たに2段階逐次処理法を適用した結果,日本
の株式市場におけるリスクとリターンの関係は,ノン・リニアー(非線型)である事実を確認でき
た。つまり,リターンとベータの関係を検討したところ,
「非線型変数は証券間の期待収益率の差を
説明するのになんら貢献しない」という帰無仮説を棄却した。日米の多くの研究では,線型性仮説
と非線型性仮説を同時に否定している。なお,
部分期間についてのみ線型性を支持する研究もある。
これに対して,本稿の分析結果では,部分期間について見ると線型性仮説が棄却されない期間もあ
るが,期間を長く取るほど,ノン・リニアー関係が,確実に安定しているという事実が確認できた。
要するに,リスクとリターンとの間に非線型関係が成立していることを初めて確認できた。
キーワード:CAPM,ベータ,リニアー(線型)関係,ノン・リニアー(非線型)関係
謝
辞
本稿の執筆にあたり國村道雄教授のご指導を受けました。ここに記して感謝します。ただ,本稿
に誤りがあるとすれば,すべて私の責任であることはいうまでもありません。
1.はじめに
本研究の目的は,54 年間のという長期の月次データを使用し,
「2段階の逐次処理方式」
(國村,
2007)という新しい検証方式を適用して,日本の株式市場におけるリスクとリターンの関係を再検
討することである。
日本では,CAPM に関する検証の研究が多く存在している。そのほとんどは,アメリカで開発さ
れた検証方式をそのまま適用したものである。表1は日本の株式市場を対象に CAPM の検証を
行った主要な論文の検証方式と検証結果をまとめたものである。
表1から分かるように,Fama and MacBeth(1973)型の検証方式が圧倒的に多く使用された。
周知のように,Fama and MacBeth(1973)型の検証方式は,①ポートフォリオ編成期間(portfolio
formation period)
,②初期推定期間(initial estimation period)
,③検証期間(testing period)といっ
た3段階からなるものであるため,
3段階方式と呼ばれている。この方式が効果的であるためには,
ベータが時間の経過に対して安定的であることが望ましい。すなわち,第1段階で推定されたベー
タの株式間の大小関係は,第2段階に推定されたベータについても,ほぼ同様に成立することが望
ましい。各ポートフォリオに含まれる株式の構成は,両期間不変のままだからである。
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第9巻
第3号
表1
CAPMの線形性に関する日本市場でのポートフォリオ型の検証
CAPMの検証論文
検証期間
検証方式
検証結果:リスクとリターンの関係
紺谷(1978)
佐藤(1980)
榊原(1983)
Hawawini(1991)
Hodoshima, etal(2000)
1959-1974
1953-1978
1957-1979
1960-1985
1956-1995
3段階・一括処理・FM型
3段階・一括処理・FM型
2段階・一括処理・BJS型
3段階・一括処理・FM型
3段階・一括処理・FM型
フラット
フラット
フラット:ただし一部期間のみ線形
フラット
フラット:ただし事後条件付では線形
注:スリー・ファクターモデル,マルチ・ファクターモデル,APT,消費CAPMなどを除く
検証方式
ポートフォリオ型:ベータを大きい順にいくつかのポートフォリオにまとめベータの測定誤差を小さくする方法
3段階:①ポートフォリオ編成期間,②初期推定期間,③検証期間
2段階:①ポートフォリオ編成期間兼初期推定期間,②検証期間
一括処理法:重複のないベータ推定期間で推定されたベータを複数の検証期間に共通利用する方法
なお,逐次処理法:ベータ推定期間で推定されたベータを1つの検証期間のみに利用する方法。
BJS型:Black, Jensen and Scholes(1972)
FM型:Fama and MacBeth(1973)
出所:筆者作成
一方,日本のベータ値の時間の経過に対する安定性を調査した小峰(1977),青山(1979),佐藤
(周,1984)の研究報告からみると,日本株式のベータは,個別銘柄についても,ポートフォリオ
についても,安定していないということがわかる。このように,Fama and MacBeth(1973)型の検
証方式を日本のデータにそのまま適用するには問題が残る。
しかし,日本のベータ値は時間の経過に対して安定性が欠如しているということを指摘した研究
があったにもかかわらず,その後の CAPM の研究でも,このようなベータ値の事情を考慮せずに,
Fama and MacBeth(1973)型の検証方式をそのまま日本のデータに適用している。したがって,
日本の株式市場におけるリスクとリターンの関係は,過去の研究によって的確に描かれているかど
うかは疑問が残る。
一方,日本のベータ値の安定性のことを考慮して,Black, Jensen and Scholes(1972)の2段階方
式を採用した研究もあった。2段階方式では,ポートフォリオ編成期間と初期推定期間が1つにな
るため,Fama and MacBeth(1973)型の検証方式における,ベータ値の時間の経過に対する安定性
が問われる初期推定期間は不要になる。2段階方式を使って,1957-78 年の期間について CAPM
の検証をした榊原(1981,1983)の報告によれば,部分期間について見ると,CAPM の妥当性が棄
却されない時期があるということである。この発見は,Fama and MacBeth(1973)の3段階方式
を用いた他の研究結果とは明らかに異なっている。
ところが,3段階法の諸研究と同様に,榊原(1981,1983)が使った Black, Jensen and Scholes
(1972)の2段階方式も「検証手続き上の厳密性」の問題を抱えている。すなわち,Black, Jensen
and Scholes(1972)の2段階方式では,ベータ推定期間に推定されたベータは,翌月から 12 カ月間
にもわたって,1年とした検証期間に利用されることになる。過去 24 カ月のデータで推定された
ベータを半年以上先のリターンの予測に利用するというのは,時間の経過とともに生じるベータ値
の変化を無視することに等しい。したがって,この方式は,検証手続きでは厳密性が欠けていると
言える。
日本の株式市場におけるリスク・リターン関係の再吟味(TOAN)
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これに対して,本研究に採用した「2段階の逐次処理方式」は,ベータ推定期間に推定されたベー
タを翌月の検証期間のみに1回だけ利用する方法である。この方式は,上述したベータ値の安定性
のことが回避できる Black, Jensen and Scholes(1972)の2段階方式を,手続き上の厳密性という視
点から補完したものである。
2.データ
本研究では,日本の株式市場を対象に,CAPM を検証する。個別銘柄の収益率は東京証券取引
所・第1部市場に上場されている普通株の全銘柄の月次投資収益率データを使用する。市場収益率
は加重方式で算出された指数である。これらのデータ(個別銘柄及び市場の収益率データ)は,日
本証券経済研究所が作成した CDROM「株式投資収益率 2006」から抽出する。データ期間は 1952
年1月から 2006 年 12 月までの 55 年間である。
また,実証分析で用いる個別銘柄データには,途中で合併あるいは倒産による上場廃止となった
銘柄は含まれていないため,分析結果はあくまで 2006 年 12 月という時点まで生き残っていた銘柄
群に偏っていることになる。
3.検証方法
本研究は,ポートフォリオ・アプローチの2段階方式を採用する。また,2段階目のベータの適
用では,逐次処理方式(国村,2007)を採用する。
逐次処理方式は,検証手続きの厳密さを考慮し,Black, Jensen & Scholes(1972)法を発展させた
ものである。以下,まず逐次処理方式を紹介し,次に Black, Jensen & Scholes(1972)法との相違点
について述べる。
3.1
逐次処理方式
逐次処理方式は,次の検証手続きを踏んで,行われるものである。
まず,第1段階として,1954 年1月1日付けで東京証券取引所・第1部市場に上場されているす
べての株式のうち,過去 24 カ月間の月次投資収益率のデータが利用できる株式 n 銘柄 (j/1, n)
を対象に,1952 年1月から 1953 年 12 月までの 24 カ月について,R jt を R mt に回帰させ,下記の型
の市場モデルを推定する。
(1,1) R jt/a j+b jR mt+e jt
j は,株式 (j) のベータ・リスクを表している。
推定量 b
j の値の大きさに従って,高いものから低いものへと順
次に,株式 n 銘柄 (j/1, n) は,この b
位づけて,14 個のポートフォリオ (p)(p/1, 2, , 14) へと配分する。端数の株式は,すべて最後
j をもつ株式からなるポートフォリオに編入する。ポートフォリオのベータ (b p) が,
の最も低い b
j) の単純平均として計算される。
それぞれのポートフォリオを構成する株式のベータ (b
第3に,b j の推定に利用した期間(1952 年1月―1953 年 12 月)の翌月,すなわち 1954 年1月の
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第9巻
第3号
みについて,ポートフォリオの月次投資収益率 (R pt)(p/1, 2, , 14, t/ 1954 年1月)が,それぞ
れのポートフォリオを構成する株式の月次投資収益率 (R jt) の算術平均として計算される。
第4に,以上の手続きを1カ月ずらして繰り返す。すなわち,1954 年2月1日付けで東京証券取
引所・第1部市場に上場されていて,かつ過去 24 カ月の月次投資収益率のデータが完備している株
j
式について,1952 年2月から 1954 年1月までの 24 カ月の月次投資収益率を使って,上記の式の b
j の大きさに従って株式を順位づけ 14 個のポートフォリオへ割り振った
を推定する。次に,この b
うえで,各ポートフォリオのベータを計算する。最後に,14 個のポートフォリオごとに,1954 年2
月のみについて,ポートフォリオの月次投資収益率 (R pt)(p/1, 2, …, 14, t/ 1954 年2月)が,そ
れぞれのポートフォリオを構成する株式の月次投資収益率の単純平均として算定される。以上の手
続きを,1954 年3月1日付け,1954 年4月1日付け,……等々,2006 年 12 月1日付けにいたるま
で,636 回繰り返す。
以上の結果,14 個のポートフォリオごとに,月次投資収益率の 636 カ月(1954 年1月―2006 年
12 月)とそれに対応するベータの時系列データが得られる。14 個のポートフォリオのそれぞれに
V
V p ) とそれに対応するベータの平均値 (b
p) を
ついて,636 カ月(53 年間)の月次収益率の平均値 (R
計算する。
Vp , V
b p ) のもとで,次の二つのモデルを推定する。
最後に,(R
b p,t-1 +m pt
(2
1) V
Rpt /g 0t+g 1tV
(2
2) V
Rpt /g 0t+g 1tV
b p,t-1 +g 2tV
b 2p,t-1 +m p,t
式 (2
1) が,2パラメーターの標準的「資本資産の価格形成モデル」である。式 (2
2) で,線型
性をテストする。g 2 がゼロと有意に異なっていないかぎり,リスクとリターンの間の関係がリニ
アーであるとする Blume & Friend(1973)と Fama & MacBeth(1973)のアド・ホックな非線型モ
デルである。
3.2
Black, Jensen & Scholes 法との相違点
j の再推定が R jtとR mt のデータを1カ月ずつずらして繰り返される。これ
逐次処理方式では,b
j の再推定は1年ごとに繰り返される。例えば,ポー
に対して,Black, Jensen & Scholes 法による b
トフォリオの月次収益率が,1954 年1月から 12 月までの 12 カ月にわたって,1カ月ずつ変化して
j の期間は変わらず,1952 年1月から 1953 年 12
いくにもかかわらず,それぞれの月に対応する b
月までの同 24 カ月とされる。このようにして,Black, Jensen & Scholes 法では,新しい情報が出て
いても,b j の再推定による情報の更新が遅れるため,情報のロスが生じやすいと言えるだろう。ま
た,1年から2年間,ベータが変化しないと仮定することになるが,この仮定はかなり非現実的で
ある。
4.実証結果
検証は,まず,全体期間(1954-2006 年)について実施し,次に最後の端数期間を除く5年間ずつ
の 11 の 部 分 期 間( 1954-1958 年,1959-1963 年,1964-1968 年,1969-1973 年,1974-1978 年,
日本の株式市場におけるリスク・リターン関係の再吟味(TOAN)
95
1979-1983 年,1984-1988 年,1989-1993 年,1994-1998 年,1999-2003 年,2004-2006 年)について
実施した。そして最後に,5年間ずつ累積していく9つの累積期間(1954-1963 年,1954-1968 年,
1954-1973 年,1954-1978 年,1954-1983 年,1954-1988 年,1954-1993 年,1954-1998 年,1954-2003
年)について実施した。総計 21 の期間について実施したことになる。図1と表2が日本証券市場
における 1954-2006 年の全期間のリスク・リターン構造を示したものである。全期間 636(53 年×
12ヶ月)のリスクとリターンの平均値などの統計量が示されている。表3と表4は,それぞれ線形
式 (2
1) と非線形式 (2
2) をクロス・セクショナルに推定した結果を示す統計量である。
表3と表4の全体期間欄に示された結果を比較すると,表4が,図1に示されたリスク・リター
ン構造をうまく説明できるということが分かるだろう。
図1および表4の全体期間欄に示された結果によれば,日本証券市場におけるリスクとリターン
の関係は,二次方程式に従うノン・リニアーである。
表4にある全体期間の t 検定量 t pg2€ が,−8.0204 と大きな負値をとり,b 2j は証券間の期待収益の
差を説明するのになんら貢献しない,
という仮説を棄却するシステマティックな証拠は十分にある。
また,表4のパネル A と同表のパネル B の結果を比較すると,この二次方程式に従うノン・リニ
図1
2段階・逐次処理法による日本市場での CAPM の検証:ベータと
収益率の関係
注:横軸 リスク:ベータ
縦軸 リターン:収益率
直線はベータと収益率の単回帰
分析方法 2段階・逐次処理法(本文参照)
分析データ 日本証券経済研究所作製の月次株式収益率,月次加重市場収
益率
分析期間 1954 年―2006 年全期間)636(53 年× 12ヶ月)回の収益率の検
証結果の平均値である。
分析結果 ポートフォリオ1から 14 ごとに 636 のベータとリターンの平
均値を計算しプロットする。
出所:筆者作成
96
第9巻
第3号
表2 2段階・逐次処理法による日本市場でのCAPMの検証:ベータと収益率の関係
ポートフォリオ
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
平均値
2.2368
1.7052
1.4762
1.3078
1.1679
1.0461
0.9343
0.8274
0.7242
0.6214
0.5117
0.3885
0.2366 −0.0896
中央値
2.1657
1.6879
1.4836
1.3370
1.2163
1.1117
1.0089
0.8993
0.7962
0.6845
0.5723
0.4507
0.3011
0.0391
標準偏差
0.3871
0.2724
0.2501
0.2462
0.2494
0.2522
0.2568
0.2614
0.2637
0.2633
0.2641
0.2676
0.2803
0.3683
ベータ
収益率
平均値
1.2161
1.2534
1.3862
1.4329
1.4054
1.4426
1.4053
1.4276
1.4247
1.4133
1.3481
1.2578
1.2616
1.0463
中央値
1.2004
1.3694
1.3143
1.7385
1.4114
1.4479
1.6014
1.3746
1.2956
1.4148
1.2444
1.1122
1.3090
1.0723
標準偏差
8.2877
7.3203
6.9475
6.6011
6.3206
6.1115
5.9002
5.7120
5.5201
5.2458
5.0855
4.8887
4.7247
4.4929
注:分析方法 2段階・逐次処理法(本文参照)
分析データ 日本証券経済研究所作製の月次株式投資収益率,月次加重市場収益率
分析期間 1954年―2006年(全期間)636(53年×12ヶ月)回の検証結果の平均値,中央値,標準偏差である。
分析結果 ポートフォリオ1から14ごとに636のベータとリターンの平均値中央値,標準偏差を計算する。
出所:筆者作成
表3
2段階・逐次処理法による日本市場でのCAPMの検証:線型テスト
V
Rpt /g 0t+g 1tV
b p,t-1 +m p,t
統計量
t pg 0€
g1
t pg 1€
V
r2
標準誤差
22.3392
0.04
0.7895
−0.03
0.12
1.82
1.99
1.26
2.37
1.83
0.75
2.59
−0.05
−0.57
0.70
1.60
18.4060
9.8697
10.2296
22.6584
16.6484
20.2604
25.8954
−0.3041
−9.4457
4.8238
14.0110
0.06
0.23
0.08
−0.17
−0.30
0.22
−0.19
0.09
0.22
0.11
0.11
0.7102
1.2688
0.8916
−1.7615
−2.7675
7.0092
−1.4652
0.5968
4.2804
0.8309
1.2100
−0.04
0.04
−0.02
0.14
0.34
0.79
0.08
−0.05
0.57
−0.02
0.03
0.17
0.39
0.22
0.20
0.23
0.10
0.29
0.24
0.09
0.30
0.23
1.91
1.69
1.86
1.86
1.66
1.80
1.58
1.35
1.28
18.9350
27.3810
34.6435
33.1799
36.5858
39.5186
29.5147
27.0431
22.7766
0.13
0.12
0.05
−0.02
0.04
0.00
0.01
0.03
0.04
1.5531
2.2984
1.0660
−0.3875
0.9071
0.0764
0.1700
0.5853
0.7012
0.10
0.25
0.01
−0.07
−0.01
−0.08
−0.08
−0.05
−0.04
0.19
0.11
0.10
0.11
0.09
0.10
0.11
0.10
0.11
期間
標本サイズ
g0
全体期間
(1954-2006)
636
1.30
パネルA
1954-1958
1959-1963
1964-1968
1969-1973
1974-1978
1979-1983
1984-1988
1989-1993
1994-1998
1999-2003
2004-2006
60
60
60
60
60
60
60
60
60
60
60
パネルB
1954-1963
1954-1968
1954-1973
1954-1978
1954-1983
1954-1988
1954-1993
1954-1998
1954-2003
120
180
240
300
360
420
480
540
600
注:分析方法 上記の線型モデルによる回帰分析
分析データ 表1と同じ
出所:筆者作成
日本の株式市場におけるリスク・リターン関係の再吟味(TOAN)
表4
97
2段階・逐次処理法による日本市場でのCAPMの検証:非線型テスト
V
Rpt /g 0t+g 1tV
b p,t-1 +g 2tV
b 2p,t-1 +m pt
統計量
期間
標本
サイズ
g0
t pg 0€
g1
t pg 1€
g2
t pg 2€
全体期間
(1954-2006)
636
1.16
39.5624
0.49
8.2055
−0.21
パネルA
1954-1958
1959-1963
1964-1968
1969-1973
1974-1978
1979-1983
1984-1988
1989-1993
1994-1998
1999-2003
2004-2006
60
60
60
60
60
60
60
60
60
60
60
1.85
1.68
1.22
2.24
1.61
0.74
2.59
−0.63
−0.57
0.38
1.19
11.3248
6.6627
6.1903
15.5278
18.1080
22.9362
28.0161
−3.6310
−4.7066
2.6573
15.5888
0.00
1.17
0.16
0.19
0.47
0.31
0.13
1.54
0.22
1.02
1.01
−0.0166
2.1223
0.4595
0.6128
2.3684
5.8704
0.6038
4.3286
1.0195
3.5637
7.5836
パネルB
1954-1963
1954-1968
1954-1973
1954-1978
1954-1983
1954-1988
1954-1993
1954-1998
1954-2003
120
180
240
300
360
420
480
540
600
1.72
1.55
1.73
1.70
1.56
1.72
1.47
1.23
1.15
12.9468
20.0345
28.6263
38.7932
59.3623
78.1396
54.9080
45.6627
37.9909
0.61
0.45
0.39
0.43
0.35
0.33
0.40
0.40
0.46
2.4055
3.1626
3.3994
4.9021
6.8196
7.2017
7.2025
7.1597
7.4062
V
r2
標準
誤差
−8.0204
0.84
0.05
0.02
−0.46
−0.03
−0.18
−0.40
−0.05
−0.25
−0.72
0.00
−0.40
−0.35
0.2313
−1.7921
−0.2255
−1.2323
−4.1467
−2.1110
−1.7451
−4.2364
0.0001
−3.3781
−7.0850
−0.13
0.19
−0.10
0.17
0.72
0.83
0.21
0.56
0.53
0.45
0.81
0.18
0.36
0.23
0.20
0.15
0.09
0.27
0.15
0.09
0.22
0.10
−0.21
−0.14
−0.15
−0.20
−0.15
−0.16
−0.19
−0.18
−0.21
−1.9743
−2.4627
−3.1233
−5.3823
−6.5646
−7.6922
−7.5800
−7.1525
−7.3020
0.27
0.47
0.43
0.68
0.78
0.81
0.81
0.80
0.81
0.17
0.10
0.08
0.06
0.04
0.04
0.05
0.04
0.05
注:分析方法 上記の非線型モデルによる回帰分析
分析データ 表1と同じ
出所:筆者作成
アー関係は,部分期間においては,ランダムになってはいるが,長期間の様子を表す累積期間にお
いては,1954-1963 年の期間を除くと,他のすべての期間に有意な t 検定量 t pg 0€,t pg 1€,t pg 2€ が検
出され,しかもその t 検定量が時間の経過にもかかわらず高い水準で安定していることが確認でき
る。なお,決定係数 r 2 についても時間が重なるにつれて高まっている事実が一目瞭然であろう。
これにより,日本の証券市場におけるリスクとリターンの関係が,長期的には2次方程式に従う非
線形関係であることを改めて確認することができる。そして,2次方程式のノン・リニアーである
ことは,ベータの正の異常値部分(ポートフォリオ 12,13,14 あたり)でリターンは低く評価され
たことを意味している。
一方,本研究では,リスクとリターンとの間の関係の線型性仮説に適合している部分期間も発見
した。それは 1979-1983 年と 1994-1998 年のわずか2つの期間だけである。しかも,興味深いこと
98
第9巻
第3号
に,1979-1983 年については,表3のパネル A に示された結果を見るかぎり,リスクとリターンと
の間の線型性仮説は棄却されないということになったものの,表4のパネル A に示された結果で
は,非線形関係の可能性を棄却するシグナルも見つからなかった。また,両者の決定係数 V
r 2 を比
較すると,2次モデルのほうが上位であり,すなわち極端にいえば,1次モデルよりも,2次モデ
ルのほうが,この期間におけるリスクとリターンの関係の良い近似であると考えても良いだろう。
以上のとおり,本実証研究では,従来の研究と異なる発見を得た。これまで報告されてきたアメ
リカや日本国内の諸実証研究では,全体としてみると,リスクとリターンとの間の線型性仮説は棄
却されない,すなわち E pg
2€/0 という仮説を棄却するシステマティックな証拠が見出されなかっ
た,というレベルで終わっている。
国の違い等からくる構造的相違などを考えるとアメリカでの研究結果と比較するのは,慎重でな
ければならない。また,日本市場で CAPM を検証する先行研究にも,非線型関係の可能性をも吟
味する論文があるため,これらと比較するのは意義がある。以下,紺谷(1978)と G. A. Hawawini
(1991)の実証結果を取り上げ,非線型関係の検定結果に焦点をあてて,本研究と比較する。
紺谷(1978)は,Fama and MacBeth(1973)型の検証を,1959-74 年という期間における日本の
株式市場を対象に行った結果,表5のとおり,線型性仮説は棄却されないと報告している。氏は,
東京証券取引所・第1部上場普通株の全銘柄の,1952 年2月から 1974 年 12 月までの月次投資収益
率のデータを使って,式 (2
1) と式 (2
2) を含めた4つの回帰方程式(他の2つについては,本研
究とは直接の関係がないため,ここでは言及しない)の係数を,1959 年1月―1974 年 12 月(検証
期間)について推定し,CAPM の妥当性の判定を試みた。式 (2
1) と式 (2
2) についての回帰結果
は表5にまとめた。
表5の検証期間(1959 年1月―1974 年 12 月)に対応する本研究での期間は,1954 年1月―1973
年 12 月という期間である。時間は多少ずれているが,この時間的違いを問題とせずに2つの検証
結果を比較すれば,表4のパネル B から明らかなように,紺谷の報告と異なる結果,すなわち非線
型関係の可能性を支持する証拠を得た。
Hawawini(1991)も日本の株式市場におけるベータとリターンの非線型関係の可能性についてテ
ストを行った。氏は Fama and MacBeth(1973)及び Banz(1981)と同様な検証を,東京証券取引
所・第1部上場普通株の全銘柄の,1955 年1月から 1985 年 12 月までの月次投資収益率のデータを
使って,行った。氏は,非線形関係の可能性をテストする際,非システマティック・リスクについ
ても併せて説明変数として検証モデルに加えた。その回帰結果は,表6に示されている。
表5
紺谷(1978)による日本市場でのCAPMの検証
検証期間
回帰結果
2
p,t-1+0.33155b
p,t-1
R p,t/0.01462,0.00122b
(4.06)
1959-1974
(−0.30)
p,t-1
R p,t/0.01459,0.00125b
(4.04)
(−0.33)
注:( )内は t 値
出所:紺谷(1978),pp. 92-93,表1より筆者作成
(0.65)
日本の株式市場におけるリスク・リターン関係の再吟味(TOAN)
表6
99
Hawawini(1991)による日本市場でのCAPMの検証
検証期間
回帰結果
指数が加重平均の場合
2
R pt/0.0078,0.0029b p,t-1,0.0011b p,t-1
+0.0947s pe€ p,t-1
(1.78)
1960-1985
(0.30)
(0.23)
(1.56)
R pt/0.0150,0.0046b p,t-1
(4.90)
(1.45)
指数が単純平均の場合
R pt/0.0109+0.0002b p,t-1
(3.63)
(0.05)
注:( )内は t 値
出所:G. A. Hawawini(1991),p. 242,表1,表2より筆者作成
表6から分かるように,g 2t がゼロと有意に異なっていないため,線型性仮説は棄却されないこと
になった。もし,本研究にある 1954-83 年,もしくは 1954-88 年の期間を,これの対応期間とみな
せば,上記の回帰結果と表4のパネル B の結果との比較から,両者の違いが明らかであろう。
5.今後の課題
以上,紺谷と G. A. Hawawini の検証結果と比較した。その結果,両氏の分析結果では,本研究が
主張する非線型関係の可能性を支持するシグナルは見つからなかった。では,なぜ同じ検証対象に
ついて,同じ出所のデータを使ったにもかかわらず,こういった違いが生じたのだろう。本研究で
用いられた検証方式と両氏の研究で採用された検証方式に着目すると,検証方式そのものが,検証
結果の違いをもたらす要因と考えられる。また,もし検証結果の違いが検証方式の違いによるとい
うことが確かとすれば,それぞれの検証方式がそれによる検証結果をもたらすメカニズムを解明す
ることが重要になってくるだろう。すなわち,検証方式の違いがどうやって検証結果の違いをもた
らすかという質問に答えなければならない。さらに,どの検証方式が,日本の株式市場におけるリ
スクとリターンの推計における時間的関係をもっとも忠実に表現できるか,それはなぜか,といっ
た検証方式への評価の作業にも問題意識をもたなければならない。
以上,本研究は,リスクとリターンの非線型関係を日本のデータで発見した。
付録 「2段階逐次処理法による CAPM 検証 VBA シミュレーター」の構造
本研究では,2段階逐次処理法による CAPM を検証するため Visual Basic 言語でシミュレーター
を作製した。その基本構造は図2のとおりである。
100 第9巻
第3号
図2
2段階逐次処理法による CAPM 検証 VBA シミュ
レーター
注:國村,2007 参照して作製した
出所:筆者作成
日本の株式市場におけるリスク・リターン関係の再吟味(TOAN) 101
参考文献
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インベストメント(大阪証券取引所),Part I,第 34 巻第2号(昭和 56 年4月),25-41 ページ,Part II,第 34
巻第3号(昭和 56 年6月),2-23 ページ。
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[13]佐藤義信(1980),
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,日本経営財務研究学会編『企業評価と経営財務』,
中央経済社,第7章。