庭のビオトープ -理想と現実の小さなバトル - TOKYO

野 鳥・Tokyo
庭のビオトープ
-理想と現実の小さなバトル-
日本野鳥の会会員・北欧文化協会理事 百瀬淳子
28 年前の 1986 年、前年に文京区の古家を立て
永遠に続くとは限らないもので
替えた際、どのように庭をしつらえようかと考え
す。やがて世の中に、人びとを
たあげく、ちょうどそのころ日本野鳥の会で提唱
おびやかす出来事がおこりまし
していたミニサンクチュアリにしてみようとの結
た。野鳥に関係する者にとって
論にいたりました。野鳥の会に設計を頼み、まず
は、マスコミをにぎわす物騒な
水場の池作りを行ないました。細長く作られた池
ニュースに肩身の狭い思いをさ
を大小のそれぞれの鳥や他の生き物にあわせた3
せられるようになります。鳥インフルエンザの発
段階にし、池の端に小さなポンプを設置して水を
生です。私は小さな子どもたちのいる近隣への思
循環させて野鳥の好きなせせらぎを作りました。
惑から、次第に餌やりをひかえていきました。
造園会社が実のなる木をたくさん持ってきて、池
餌やりをひかえだすと、当然鳥の来かたは少なく
の縁や庭に植えてくれました。また餌台を4か所
なります。考えてみれば、人間が自分の原風景を
設置し、それぞれ異なる餌を置くようにしました。
脳裏に描いて理想的に再現した自然は、現実の外
界の外的環境からの影響を受けてしまうのは当然
それから5年後の記録が手許にあります。やっ
でしょう。鳥が減った原因はもちろんそれだけで
てくる鳥の種類が増え、とくに数は格段に増えて
なく、「今年は冬鳥が少ない」「最近スズメが激減
います。今までのヒヨドリ、ツグミ、アオジ、カ
した」「カワラヒワが見当たらない」など、年ご
ワラヒワなどに加えてムクドリ、オナガなどが常
との情報はわが家の庭でも同じ経過をたどってい
連になり、13 種類が常時やってくる鳥となりま
ます。
した。珍客としてはコサギ、ウソ、ノジコ、ノゴ
マ、マヒワ、オジロビタキ(メス)があります。
最近、私は再び冬の庭への来客に餌やりをした
シジュウカラも巣箱で営巣を始めました。一番深
いと思うようになりました。近所の小鳥屋にヒマ
くした部分の池の効果も大きなものでした。15、
ワリの種を買いに行ったものの「10 日後にしか
6 匹のヒキガエルがあらわれ、くんずほぐれつの
入荷しない」と言われて、2軒目の小鳥屋を訪ね
カエル合戦をする有様、間もなく池の表面はオタ
たところ、すでに店はなくなっていました。そし
マジャクシで真っ黒に覆われました。オタマジャ
て3軒目も。3軒あった近所の小鳥の店は1軒だ
クシが大きく育つ頃、それを餌にする小さなヘビ
けになっていたのです。その 1 軒さえも間もなく
のヒバカリがどこからともなくあらわれます。そ
閉店します。
のうち、たくさんの豆ガエルが池の縁を這い登っ
「もう小鳥屋の時代じゃなくなったので」と店
ていくのが見られます。水中にはシオカラトンボ
の主人は言いました。飼い鳥の習慣がなくなるこ
やギンヤンマのヤゴがひそみ、サンショウの木で
とは大歓迎です。嬉しい話は、しかし次の瞬間我
はまるまると太ったアゲハチョウの5令幼虫が発
にかえった時、困惑にもなりました。今後、私は
見されます。このようにわが家の庭は多くの生き
どこで餌を入手すればいいのか。自然環境を再現
物であふれ、ビオトープとして繁栄いたしました。
(理想)しようとするビオトープ、現代社会の環
境(現実)との小さなバトルは続いていきそうで
しかし、何事もそうですが、そのままの状態が
ユリカモメ No.701 2014.3
す。
3