レジメ - 一橋大学

一橋大学寄附授業・労働運動史の視点
(社)教育文化協会理事 高木郁朗
1.労働運動と労働組合運動
・社会学者の「社会運動論」あるいは「社会運動史」への多いなる不満
大畑裕嗣ほか編『社会運動の社会学』有斐閣、第 1 章(樋口直人)、第 12 章 (道場親信)
共通の結論「労働運動は富の分配をめぐる運動であり、20 世紀前半までは社会運動の中軸であ
ったが、いまや過去のものとなり、原発反対運動など、産業社会の論理の根幹にふれる運動が中
軸となった。
」
→労働運動の歴史と現状からみればこの結論ははじめからしまいまでまちがっており、社会運動
の内部を分裂させる(意識的あるいは無意識的な)効果をもっている!
・労働運動とはなにか--労働運動と労働組合運動
「労働運動(labour movement)は、文字通り労働者(labour)のすべてであり、さまざまなかたちを
とる。産業革命以降、労働組合はしだいに労働運動の中心となったが、労働運動の幅は労働組合
運動(trades union あるいは labour union)よりはるかに広い」
f.e. 労働組合成立以前の労働運動の事例
(イギリス)ラダイト運動、チャーチスト運動、(日本)高島炭鉱暴動、雨宮製糸スト
労働組合成立後の広義の労働運動の事例
労働者政党の運動、生協運動(労働者自主福祉事業を含む)
参考文献;高木郁朗『労働者福祉論』教育文化協会
・労働運動が発生する理由
「歴史が示すところでは、社会学者がいうのとは異なって、たんなる富=カネの分配をめぐる運
動ではなくて、'人間'の存立をかけた運動だった。」
「人間的権利のための運動」の事例。生存権(高島炭鉱暴動)、政治的権利(参加する権利)、社会
の公正(福祉国家)・・・・いまも続く。ILO、decent work
このような運動が発生し、展開するのはなぜか ;産業社会における労働の位置→賃労働(商品とし
ての労働力、人間としての労働者の対抗的統一。参考文献;隅谷三喜男『労働経済学』
、筑摩書房』)
(とはいえ講義は労働組合運動の歴史を中心とする。)
2.原型としての労働組合とその発展
①労働組合の原型をみる
労働組合の起源としての中世ギルド説・・・職業的結合。S.&.B.Webb の否定的見解。
縦断的組織と横断的組織。(『労働組合運動史』、日本労働協会[日本労働研究研修機構]参照)。
しかし、ギルドのもっていた機能の一部を継承。「1 パイントの黒ビールを飲む。」相互扶助機
能。
労働組合の「祖国」ともいうべきイギリスにおいては、産業革命の最盛期である 1760 年代に労
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働組合の萌芽があるが、まもなく(1799 年)団結禁止法によって弾圧される。その後、1824 年に同
法が廃止された(廃止までの過程での労働組合については「誓約者集団」説。藤田若雄『労働組合
運動の転換」日本評論社参照) のち、1850 年代に新型組合としてのクラフトユニオンが成立。
→労働組合の原型。すべていい意味というだけではなく。
機械工労働組合にみる基本的内容
①宣言に よる労 働条 件設定( 働 くう えで のル ール形 成) →労働 市場 の「 独占」 機能 、 職
業訓練、ウォークアウトストライキ。
②相互扶助によるリスクへの対応
③政治的・社会的地位の向上(TUC の成立とふつう選挙権)
日本の労働組合のはじまり
労働組合期成会(それ以前の同盟進工組)、鉄工組合、日鉄矯正会、活版工組合
クラフトユニオン形式、社会的地位の向上、互助組織、
日本の初 期労 働組 合没 落の 理由 、弾 圧( 治 安警 察法) と 財政 問題 。社 会主 義者 との 対
立。
原型のもつ問題点
組織的には・・・・横断的ではあるが、排除的(女性、低技能労働者)
ルール形成においては・・・・労働力の供給独占が前提、前提が崩壊する条件として技術
革新。
相互扶助にかんしては・・・・高い組合費、そのもととなる相対的に高い賃金が前提
②労働組合の発展型・・・現代との接続
不熟練労働者の大量の登場・・・・第二次産業革命期
新組合主義の時代・・・リーダー(たとえばトム・マン)はクラフトユニオンから。
組織の形態・・・産業別労働組合、一般労働組合、具体例としての運輸一般労働組合
ルール形成の特徴・・・団体交渉→労使関係の制度化
※労使 関 係 と は →雇 用 ・ 労 働 をめ ぐ る ル ール の 網 の 目 、登 場 人 物 は 労 ・使 ・ 政
ミニマム保障 (ナショナル・ミニマムとしての公的扶助、最低賃金制度、産業別労働
組合による職種別最低賃金規制、ドリフトについて )
相互扶助から社会保険へ・・・・ロイド・ジョージの改革
→産業民主主義=団体交渉+ミニマム保障
労働条件と労働者の地位の向上と産業上の利益の関係について
イギリスの伝 統で は( 熊沢誠 流の 表現 を使え ば) 「奴ら と俺 たち 」(them and us)
労働条件の向上が産業の近代化を促進する(Webb)→現代への教訓
・大切な労働組合と政治(政党)との関係→第二次大戦後の福祉国家の形成につながる
※
福祉国家とは、社会民主主義(社会的公正イデオロギー)と労働組合との結合
労働組合と政党の 3 つの類型
初期イギリス型、現代のアメリカ、日本型・・・リベラル勢力のなかに労働者代表(リブ
ラブス)
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ドイツ型、共産主義型・・・党の指導下の労働組合
その欠陥としての労働組合の分裂
労 働 者( あ る い は 労 働 組 合 代 表 ) を 主 流 と し た 独 自 の 政 党 ・ ・ ・ イ ギ リ ス 、 ス ウ ェ
ーデン
・労働組合(社会的存在としての)の限界と二重の代表制
イギリス型、ドイツ型、スウェーデン型→現代の EU 労使協議制
・ 労使関係の国際化・・・・第一次世界大戦は ILO の成立
労働条件の国際的最低規制、とくに労働時間を中心に
ILO の特質・・・3 者(労使政)構成、ソーシャル・パートナーシップ
・新自由主義の反撃・・・・1980 年代以降
規制緩和とは
・日本の労働組合の発展
友愛会から総同盟へ
1920 年代 の 労 使の せ め ぎ あ い・ ・ ・ 労 働 組合 対 工 場( 労 働) 委 員 会 、 労 働 組合 分
裂の不幸(脆弱のままでのドイツ型)→労働戦線統一はこれを解決したか
日本的特質としての企業別組合・・・・第二次大戦後の経験
積極的側面・・・社会的側面と企業内的側面の両機能を有する
消極的 側 面 ・ ・・ 氏 原 正 次 郎の 不 幸 な 予 言( 大 河 内 一 男 編『 日 本 の 労 働 組合 』
日本評論社)
③歴史と国際比較からみた現代日本の労働組合
日本の戦後を支えた「三種の神器」
終身雇用制、年功賃金、企業別組合
1950 年代なかばから 90 年代初期にわたる春闘
労働組合運動と経済との好循環
実現しなかったミニマム保障・・・・現在へのツケ
労働組合のなかの思想対立
生産性向上運動をめぐって・・・イギリス型、ドイツ型のいずれでもなく。
→(日経連)生産性基準原理
企業内解決の結果としての社会的解決の脆弱性・・・政治活動の弱点
連合の成立と展開は日本の労働運動の弱点を克服したか
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