雇用労働関係法令のPDFファイル

国名:香港(調査題目 5:労働および職業能力開発関係法令)
作成日:2004 年 2 月 25 日
5.1
労働法
−背景
中国の「一国二制度」政策の影響で 1997 年の中国復帰後も、復帰前と同じ法律、法
令を維持している。労働法の理念、内容、適用、慣習は、前の統治国であった英国
の影響を受けた法制度の継続となっている。
1970 年代に労働法の改革があって以来、新しい動きとして、ILO (国際労働機関)
の国際労働条約の中で、Labour Standard (国際労働基準)の影響を受けている。し
かし、ILO 憲章によると、香港の立場は ILO 条約に批准できない。理由は植民地(1997
年までの英国の植民地)また現在は中国の特別行政区であり、香港独自で ILO の加
盟国となれないからである。いままで英国が批准した条約の香港への適用に関して
は、英国・香港二者の十分な協議を経て英国が香港をも代行してきた。中国も香港
に対して英国と同じ外交方式をとっているが (香港特別行政区憲章)、中国自身が
批准していない条約を英国が代行して香港が適用している条約がある (英国批准
した 80 条約のうち、72 が香港に適用されている)。香港特別行政区となって、未修
正または非修正の国際労働条約の 40 条例の調整、適用を中国、香港で決めて ILO
に報告している。
−労働法規
2000 年に労働局は 12 の労働法規とその関連規制を制定した。
(1) ボイラーおよび圧力容器条例および付随規制
(2) 香港条例外の雇用契約
(3) 従業員補償条例
(4) 雇用条例
(5) 工場および工業事業条例および付随規制
(6) 職業安全衛生条例および付随規制
(7) 労働関係条例
(8) 小規模雇用苦情調停委員会条例および規制
(9) 肺塵症条例および付随規制
(10)破産時賃金補償条例
(11)通商委員会条例
(12)労働組合条例および付随規制
5.2 労働基準関係法
労働基準関係法を含む雇用法 (Employment Ordinance:Chapter 57)が 1990 年に労
働省 (Labour Department)にて草案、発布されている。これは労働関係調整法も合
わせてその内容に盛り込まれている。
その内容の関係項目として、契約の終了時、仮採用、レイオフ、賃金査定、賃金カ
ット、雇用条件、女性の職場進出、女性保護としての産休と特別休暇、組合活動と
組合員の差別撤廃、長年勤続者への支払い、病気療養費、年次休暇、土木建築関係
従事者への支払い、雇用斡旋業に関するライセンス取得などが織り込まれている。
この法令は全ての就労者 (技能工および非技能工も含む)に適用する。しかし下記の
ものには適用されない。
1) 雇用主の家族と雇用主の同居人
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2) 外国人・出稼ぎ労働者
3) 船舶で従事する海員
4) 徒弟制度 (Apprenticeship Ordiance1976)
ただし徒弟制度の法令の基に契約している雇用契約者には下記の項目のみが該
当しない。
・ 徒弟制度最終年の支払い項
・ 組合員差別撤廃に関する項
・ 賃金の支払いの項
・ 賃金カットの項
・ 病気療養および病欠による項
・ 休日出勤に関する項
・ 年次休暇とその支払いに関する項
・ 休日、祭日出勤に関する支払いの項
・ 賞罰に関する項
−賃金
香港の賃金体系は、常に規制や制約が少なく柔軟性を保持している。自由労働市
場の原理が働いており、この主張を裏付けるものとして、以下の理由がある。
① 団体交渉の未発達
② 企業における賃金決定の基盤がない
③ 自由賃金政策 (法定最低賃金を法令として定めない)である
労働者一般の、法的最低賃金制度はこの法令にない。ただし最低賃金に関しては
全くないわけではなく、特に外国人家事ヘルパーには、1999 年に見直し調整がな
され、570 香港ドル/月となっている。賃金委員会条例制度は、基本的には英国制
度を踏襲している。
・解雇手当
同一企業に 2 年間連続して勤務した場合、1 カ月分の給料の 3 分の 2、もしく
は 15,000 香港ドルの 3 分の 2 を雇用側は支払わなければならない。この支払い
は、月単位の月給、つきのうち 18 日以上勤務の賃金労働者、時間給の就労者全
てに該当される。
解雇手当は一年間の給与額、もしくは 180,000 香港ドルを超えない範囲として、
支払いがなされる。
なお、解雇の条件とは、事業を何らかの理由で閉鎖することが決まった場合、
特定の作業における廃止、縮小による部門の従業員の削減、企業がそのビジネ
ス活動を (香港島から)から他へ移動させる場合などである。
・給与と評価
外資企業、香港の大手の香港企業ではマネージャー (日本の部課長)になると月
収 3〜5 万香港ドルとなり地位による給与格差は大きい。大学卒の優秀な人財は
およそ 30 才からこの管理部門に参入、40 才代でディレクター (中国語では董事)
になるケースも少なくない。大卒者の数はまだ少ない。その実務、職務能力は
評価でき、幹部として企業理念、企業目的などマクロの理解力を備え持ってい
る。日系企業では幹部のポジションは年功序列の日本人で占める傾向があるが、
欧米企業ではローカルの人に重要ポジションを開放すると共に、責任と権限を
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明確に実行させ 3 年程度で評価する、また、解雇、再契約、幹部への昇進がは
っきりしている。
表 5‑1 給与の実例
職
種
給与(香港ドル/月)
日本円(万円)
高級秘書
22,000〜26,000
34〜40
初級秘書
11,000〜13,000
17〜20
経理担当者
22,000〜28,000
34〜38
一般事務職
9,000〜11,000
14〜17
12,000〜14,000
18〜22
6,000〜9,000
9〜14
新大学院卒(修士)
20,000〜21,000
31〜33
新大卒(技術系)
16,000〜17,000
25〜26
新大卒(事務職)
13,000〜14,000
20〜22
運転手
雑務係(書類配達/お茶くみ/掃除など)
*出典:香港行政府労働局
注)このデータは参考目安である。
業種別賃金体系の詳細は、香港行政府労働局で調べることができる。
−休暇
・有給休暇
就労者は年間最低 7〜11 日の休暇が与えられる。その後一年ごとに 1 日増えて
いく。最低 1 回に 7 日まとめて取得してその後各別にとることが可能である。
・2 フローテイングデイ
2 日間の年末休暇がその他の祭日に加えられている。
・振替休暇
もし企業が祝祭日・休日に勤務を要請した場合、60 日間以内に代替をとらなけ
ればならない。もし 2 カ月を経て代替が取れない場合、代金として支払うこと
ができる。
・休日
全ての就労者は、就業時の契約に織り込まれなければならない項目として、7 日
間のうち、1 日は休日が与えられることになっている。それに追加して、国の祭
日も休日となる。
・出産休暇
連続勤務 26 週間以上の女性労働者に権利が与えられる。4 週間の産前、6 週間
の産後が通常その中に含まれる。
−平等機会法 (雇用機会均等法)
平等機会法は 1996 年から実施されていて、香港行政府の管理担当部署は平等機会
委員会 (Equal Opportunities Commission)がこれに当たる。香港の平等機会法の
概略を述べると、雇用者側が男女の別、身体障害の有無、家庭状況に関して、採
用、昇給、解雇などを機会均等に行なう義務、言い換えると雇用されている側の
権利、主張である。
香港の歴史的な背景は、英国統治時代香港在住の中国人男性が不足して出稼ぎの
インド人を大量に香港に連れてきた経緯がある。このため男性が圧倒的に多かっ
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たため女性を大事にする傾向があった。香港の雇用実態では、この法が施行され
る以前より,そのような歴史的背景の違いで、男女平等が日本より進んでいたと
言われているので、この法律を施行する土壌ができあがっており、この法実行の
徹底は、問題なく進んでいる。大規模な訴訟問題は発生していないが、日系企業
の場合、経営者、総務人事担当者は十分にこの法を念頭に入れておかなければな
らない。
5.3
労働組合関係法
(雇用法からの抜粋)
全ての就労者は組合員もしくは組合役員になる資格を保有している。また、組合企
業間の取り決めで与えられた適当な時間内における組合活動は許可されている。企
業側、雇い主は取り決めでの条件内であれば組合員の活動を防止することができな
い。更に組合活動を理由に戒告、解雇することはできない。
−労働組合関係法令
集団的労働法 (Collective Labour Law)と呼ばれる法令がある。香港の労働組合
は労働者のための地位向上のため、給与に関する取り決めをするための団体交渉、
ストライキなどの組合活動というよりも、友愛的で互恵的な性格となっている。
1) 労働組合法令
法令の内容は以下の項目が記されている。
・労働組合加入の登録手続き
・合併、連合の為の手続き
・組合員の権利
・労働者による労働争議の権利と責任
2) 労働関係法令
調停に関して以下の項目が記されている。
・通常に認定される調停条項
・特例として認定される条項
・査問委員会等により裁定され認定される調停
公的機関として制度化した査問委員会調停は、長官が和解のため、ストライキな
どの組合活動を凍結させる目的で、クーリングオフの期間を設けるために設置す
るケースが多い。特筆すべき事項として、ストライキ権の位置づけは香港ではは
っきりしていないため、ストライキ期間中の就労義務からの離脱が法令では認め
られていない (抜粋および要訳)。
*出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構、「労働基礎情報、海外労働時報」、No. 333、
2003 年、http://www.jil.go.jp/
5.4
労働保険関係法
−労災保険
労働者災害補償法 (Employee s Compensation Ordinance)は雇用中、または雇用
に関して発生した就労者の保障に関する支払いが主目的である。この法は労働災
害に関して、労働者の保護、義務だけでなく雇い主側の義務に関しても述べてい
る。主内容として就業中の障害に関して、障害の規定、障害時の条件、障害の度
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合い、支払条件、またその障害基金の詳細などが明記されている。また、その障
害 の 認 定 を 責 任 業 務 と す る 労 働 者 障 害 認 定 機 関 (Employee s Compensation
Assessment Board)もその災害補償法により設立されている。
−年金
・企業年金
従来は、企業側と従業員双方が拠出して (例えば双方が各人の毎月の給料の 5%
ずつ拠出)の Provident fund (積立金制度)があり、生命保険会社などを仲立ち
として退職資金の為にプールするシステムがあったが、法的に強制されたもの
ではなかった。
その後、日本の国民年金制度など参考にして、2000 年 12 月末に新しい強制積立
金制度 (香港では公積金制度)英語では MPF (Mandatory Provident fund)が法令
化され、直ちに実施に入った。
・厚生年金
従来基本的には香港では退職金という形で企業が従業員の生活を保証する制度
はなかったが、倒産事故などによる突然の解雇保証金、長期勤務者への慰労金
制度であった。今後の高老齢化社会の到来に合わせて、各人が自らの老後対策
を手立てするために香港行政府自らの運用と保障による年金制度をスタートさ
せた。その内容は 18 才以上 64 才未満の就労者が対象になり、月収の 5%を企業
側、従業員双方が拠出しプールされ運用される仕組みである。その受け取りは
60 才以降で、60 才到達時でも就労者の場合は 65 才からとなっている。香港在
住の外国人出稼ぎ労働者も、香港 ID を持つ外国人は本国で類似年金制度に加入
していない場合は加入しなければならない。一定金額以下の低所得者には免除
制度があり、その免除制度に関しては、日本の国民年金制度に類似している。
5.5
職業能力開発法令、法規、条例
調査中
【参考文献】
1. 海外職業訓練協会編、「海外事情 16」海外職業訓練協会、2002 年。
2. 古橋一嘉編、
「海外職業訓練ハンドブック:香港」、海外職業訓練協会、1994 年。
3. A Concise Guide To The Employment Ordinance:Labour Department, 1990 (2002
年改定).
4. 日本労働研究機構編、「海外労働時報」No.333、日本労働研究機構、2003 年。
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