(社)日本都市計画学会 都市計画報告集 No. 3 2004 年8月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No. 3, Aug, 2004 小学校児童の通学路における社会的行動に関する考察 … A 歩行空間の設計手法に関する基礎的研究 … STUDY ON CHILDREN’S SOCIAL ACT IN MENTARY SCHOOL ZONES -A basic study on the design theory of the pedestrian space- 金 應周* 上林研二** AN ELE 三輪泰司*** Eungjoo Kim *, Kenji Kanbayashi **and Hirosi Miwa *** This study intended to clear the space-design theory of Elementary school zones in Kyoto city. The conclusions are : 1. There is a considerable danger that low-class children of elementary school faced many traffic accident in the road. 2. Support Program of local Community was not effective for elementary school children. 3. Appearance of children’s social act on the way in school zones confirmed same Situation and atmosphere. Keywords: Children’s social act,Elementary-school zone,Local community support,Traffic accident 子どもの社会的行動, 小学校通学路, 1.はじめに 研究の背景と目的 地域社会の支援, 交通事故 れてきた。しかし,大きく変貌してきたのは地域も同様であり, 人間にとっての一つの重要な発達課題に「関係の形成」(註 「係わり・支援」には工夫が求められているものと考える。 1)がある。他者とうまくやる能力は本能としては持たず,順 筆者らは通学路の設計手法を研究する中で,通学路が果たす 次獲得していくものだということである。また,発達や知識・ 社会的意味についての検討を深める重要性を認識したのであ 技能獲得の過程は社会的に与えられる援助の内化過程である るが,他分野の学術的成果に触れるにつけ,子どもへの係わ とする考え方がある。最近接発達領域説がこの立場を代表する。 り・支援の場を通学路におくことに関して理論的に組み立てる 人には一般に「自分ひとりでここまでできる」能力レベルと, というテーマに挑戦すべきであるとの考えを持った。 「他人に助けてもらえればここまでできる」という能力レベル の二つのレベルがあって,それぞれできることが異なるとする 2.考察の方法 理論である。子どものように,これから学ぼうとする者は,そ 考察の柱は次の3つで,それぞれ方法を述べる。 の場の活動に参加する形で,周囲のより優能な者(親・教師を 第1は,道路を対象とすることから,子どもの交通事故の実態 はじめ上級生や周囲の大人など)に助けてもらいながら,目的 を統計データから詳細に把握し,日常的な係わり空間とするこ を達成していけるようにすればよいのである。 との場所可能性をみる。あわせて国の道路交通安全政策につい 先人は,生きるために大切だと思う行為・活動を次の世代の ても経時的に概観し課題を探る。 者たちと一緒にやれる場を組織し,そのようにして継承させて 第2は,地域が実施する「係わり活動」について,京都市上 きた。今日,子どもの成長発達に関与する者自身もまた,子ど 京区中立学区をケースに,活動リーダーへの聞き取り調査によ も時代を経て一つの段階である成人期を生きて発達しつつあ って把握し,活動が果たしている役割や抱えている課題を吟味 る,という事実を認識しながら,このようなメカニズムを通じ し,通学路沿道のひとびとにおける日常的援助の必要性や通学 てマナーやモラルなどを継承していくことが強く求められて 路空間のあり方に示唆を得る。 いると考える。 第3は,係わりの場面を,子どもに精神的・時間的ゆとりが 子どもを取り巻く情況の急激な変貌(大家族から核家族・少 生じていて,定時性も加わり取り組みやすい下校時に求め,子 子,母親の主婦専業から就労など家庭生活の変化など)は彼ら どもの行動を詳細に把握する。その場合,通学路であるから歩 の発達に著しい影響を及ぼしているとの認識の中で,子どもの 行交通の安全学習・体験の場であるという視点を第1にもって 成長発達に「地域」が係わろう・支援しようとする意見が生ま 考察する。その上で第1と第2の成果を踏まえ,沿道居住者の * 外国人会員 京都造形芸術大学大学院芸術研究科 (Graduate School of Art, Kyoto University of Art and Design) ** 正会員 京都造形芸術大学 博士(京大工学) (Kyoto University of Art and Design) *** 正会員 京都造形芸術大学 博士(京大工学) (Kyoto University of Art and Design) - 63 - (社)日本都市計画学会 都市計画報告集 No. 3 2004 年8月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No. 3, Aug, 2004 日常的係わりの方向を検討する。なお,当面の行動把握対 家的な課題であり,自動車の安全設計の進展によって大事故 象を小学校低学年(注1)の子どもとする。 調査は,児童 においても運転手をはじめ同乗者が死に至りにくくなったこ 心理学の分野では1.言語報告法,2.直接観察法,3.自己記 と,道路構造や交通安全対策の前進が図られて歩行者安全性 録・日誌法のいずれかを用いるが,ここでは「子どものあ が向上してきた。しかし, 「人対車」事故の6割は交差点で発 りのままの行動」の把握が重要と考えて直接観察法を採用 生しているし,信号のある交差点での事故は 10 年間で4割増 えている。また,子どもの事故発生を詳細にみて気づかされ した。 たように,道路空間の構造や使い方を不断に見直し,注意を 喚起することが重要である。 3.子どもの交通事故と政策 近年の交通事故統計による全国的傾向は「死者数の減少, 表―1 学齢別(4区分)にみた事故状況(%、京都府計)3) 負傷者数の増加」である。しかし,諸外国と比較すると日本 年度 の死亡事故の4割は歩行中や自転車乗車中である。また,歩 行中死者の6割は高齢者である。歩行中負傷者は年間8万人 H10 でその半数が高齢者と子どもという実態である。1) 京都市における子どもの死傷者数は,対子ども人口1万 人ベースで明らかな増加傾向が認められる。またそのほぼ H11 半分は小学生が関係している。2) 京都府の学齢4区分(幼 児,小1~3,小4~6,中学生)統計でみると,幼児と H12 小1~3の事故率が最も高いことを示している。幼児の事 故は,親の運転する自動車に同乗してのものもあって,歩 行中の割合は低いものとなるが,小1~3は主たる移動手 H13 段である歩行や自転車運転の最中のものである。(表―1) やや事故率の低い小4~6,中学生は自転車運転中の事故 H14 が主であることからすると,小1~3は自転車の運転が未 熟段階で,走行マナーも十分には身につけていないことが 学齢別 幼児(園)児 小学 1~3 年 生 4~6 年 中学生 幼児(園)児 小学 1~3 年 生 4~6 年 中学生 幼児(園)児 小学 1~3 年 生 4~6 年 中学生 幼児(園)児 小学 1~3 年 生 4~6 年 中学生 幼児(園)児 小学 1~3 年 生 4~6 年 中学生 その他 自動二 歩行中 自転車 原付車 輪車 四輪車 車両乗 車中 11.7 6.2 0.0 0.0 11.5 0.1 14.7 11.8 0.0 0.0 4.0 0.0 4.9 9.1 0.2 0.0 5.5 0.0 3.2 12.6 0.9 0.0 3.7 0.0 11.2 5.0 0.0 0.0 14.5 0.0 11.8 12.6 0.0 0.0 4.8 0.0 3.7 9.3 0.0 0.2 4.4 0.0 2.6 13.7 0.9 0.0 5.2 0.1 10.9 6.9 0.0 0.1 15.8 0.0 10.1 9.7 0.0 0.1 5.8 0.0 3.8 8.8 0.1 0.1 5.2 0.0 2.7 15.2 0.8 0.0 4.0 0.1 10.0 6.8 0.0 0.0 16.8 0.0 12.5 11.3 0.0 0.0 0.0 0.0 4.4 10.4 0.0 0.1 5.7 0.1 3.0 13.8 1.0 0.1 4.0 0.0 9.8 6.3 0.1 0.0 16.2 0.0 11.1 11.6 0.0 0.0 5.8 0.1 5.0 9.1 0.0 0.1 5.4 0.0 3.3 11.6 1.0 0.2 3.4 0.0 合計 29.5 30.4 19.7 20.4 30.7 29.2 17.6 22.5 33.6 25.7 18.0 22.7 33.6 23.8 20.7 21.9 32.3 28.6 19.5 19.5 災いしているように推測できる。 子どもの事故を学校園との関係で,登校(園)中,学業 中,下校(園)中の3区分でデータを整理すると,小学生 は下校中が61.2%(平成13年),登校中が36.5%,学業中 が2.4%である。ちなみに,幼児は登園中が66.7%(同年), 中学生は下校中が51.2%と高いが,登校中も47.6%と大差 のない状況であった。(表―2) それでは小学生の下校時の 事故はいかなる場所で発生しているのであろうか。平成2年 からのデータを整理すると,「横断歩道」並びに「横断歩 道付近」での事故者は緩慢ではあるが減少傾向にあり,「そ の他」は明確な減少傾向をみせず,11~13年では増加傾向 すらみせている。その他とは,横断場所の明示がなされて いない所での横断中や道路歩行中のことである。(図―1) 交通事故死傷者が百万人を超えた昭和 45 年に交通安全対 表―2 学齢別(3 区分)にみた登・下校時の交通事故 (人、京 都府計) 3) 区分 H元 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 幼(園)児 登 学 下 校 業 校 計 中 中 中 12 1 18 31 13 14 27 18 1 17 36 14 17 31 15 1 20 36 19 1 9 29 13 13 26 18 1 14 33 12 8 20 27 1 15 43 18 16 34 22 15 37 22 11 33 30 0 11 41 登 校 中 36 29 37 46 30 33 27 27 28 44 25 29 31 28 小学生 学 下 業 校 中 中 2 59 2 55 74 2 53 2 71 1 73 2 56 1 55 3 51 13 65 2 47 1 53 2 52 4 47 計 97 86 111 101 103 107 85 83 82 122 74 83 85 79 登 校 中 39 43 47 42 27 42 33 42 42 38 48 45 39 32 中学生 学 下 業 校 中 中 2 38 1 36 2 28 23 27 24 2 30 3 29 26 4 37 10 31 42 1 42 3 27 計 79 80 77 65 54 66 65 74 68 79 89 87 82 62 登 校 中 87 85 102 102 72 94 73 87 82 109 91 96 92 90 合計 学 下 業 校 中 中 5 115 3 105 3 119 2 93 3 118 2 106 4 99 5 98 3 85 18 117 12 94 1 110 3 105 7 85 計 207 193 224 197 193 202 176 190 170 244 197 207 200 182 策基本法が制定された。平成 13 年度を初年度とする「第7次 交通安全基本計画」においては, 高齢化社会の急速な到来から高齢 者の歩行中や乗車中事故の今後一 層の増加を憂慮し,事故死減少の 具体的な対策を一層進めようとし ている1)が,計画には子どもにつ いての確たる方針が無いようであ る。 交通事故による死者数減少は国 横断歩道 (人) 40 35 30 25 20 15 10 5 0 H2 H3 H4 H5 H6 H7 横断歩道(橋)付近 H8 H9 H10 図―1 子ども下校時の横断中の事故(人、京都府計) - 64 - H11 3) その他 H12 H13 H14 (社)日本都市計画学会 都市計画報告集 No. 3 2004 年8月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No. 3, Aug, 2004 体の合同主催事業が実施されるようになってきた。そのよう 4.地域集団の「係わり活動」 第二次世界大戦後の昭和 21 年,全ての家庭において子ども な事情の下,平成 15 年度の事業報告書をみると,子どもと直 の成長に関心を払うことが困難であった社会情勢とマッチし 接的に係わる事業が 8 件実施され,日数は 9 日が所要されて て,地域隣保組織(町内会など)の大人の監護のもとで,子 いる。8 件のうち 4 件は中立少補の主催で,3 件は他団体との どもの好みや能力にあうとみられる種々の地域行事に子供会 共催,1 件は新町小学校行事の応援である。小学校行事や競 を参加させ,大人の関心の自覚であるとか自立心の形成に影 技者の参加事業を除く 7 件の子どもの参加状況をみると次の 響を与えると思われる「子供会」が全国的普及をみるにいた ことが分かる。①小学校校庭が会場となる事業は参加者が多 った。昭和 43 年には文部省所管の社会教育団体の一つとなり, い。②大人の参加も多く,にぎやかな事業は参加者が多い。 地方では教育委員会あるいは社会福祉部局が奨励当局となっ ③会場が遠方になるにつれて参加者が少なくなっている。平 ている。今日では,明治以前からの「子ども組」や大正時代 成 15 年 5 月時点の新町小学校に通う中立の児童は 142 人であ の「少年団」などにみられた子どもの自発的集団的活動の先 るが,大津市葛川でのレクリエーションは 46 人で,参加率は 例を現在に生かすための努力が払われ始めているが,一方で, 32%に止まっている。 (表―3) 子どもの組織化を廃止した町内が増加しつつある。 以上は単発性の事業であるが,通年事業として区内一円 現在の上京区中立学区では子供会を組織する町内は存在せ をパトロールする見守り事業が1件ある。当事業は毎月末の ず,子どもの健全育成を目的として活動する団体は学区レベ 夜間に実施され,夜間徘徊の小中学生との対話を通じて非 ルの組織である中立売(署)少年補導委員会中立支部(以下, 行防止に役立てようとするものである。 中立少補という)と中立民生委員児童委員協議会(以下,民 中立少補の支部長である藤原信生氏は,社会情勢の変化 児協という)である。両者の成立等をまず概説する。 もあり住民の意見を求めて,少補の活動スタイルを見直す 後者の児童委員は,昭和 22 年 12 月に制定された児童福祉 時期にきていると指摘する。子供の減少に伴って組織の単 法によって市町村の区域に設置を義務づけされた。その活動 位が町内から元学区へ拡大した。さらに元学区から統合小 は,児童及び妊産婦の生活及び環境の状態を常につまびらか 学校区へと拡大する時期が訪れようとしているが,そのこ にし,その保護,保健その他福祉に関し,援助及び指導をす とは身近な大人の子どもへの日常的な係わりが,知らない るとともに児童福祉司又は社会福祉主事の行う職務に協力す 大人の単発的・偶然的な係わりに変貌していくことであり, るものであるとされた。しかし,児童をとりまく著しい社会 そのような活動で子どもに寄り添っていけるのだろうかと 経済情勢の変動,児童に関する施策の創設等により昭和 55 自問する。子どもとの日常的な関係を築くということで月 年 9 月に「活動要領」が改正され,児童の健全育成を目的と 1回の夜間パトロールにも取り組んだが,目的や効果は低 する団体の育成等の地域活動を行うこととされた。その後, 出生率の継続的な低下等に伴い, 「健やかに子どもを生み育て 下している。また,単発性の事業は件数の不足や低い参加 る環境づくり」が社会全体の課題となり,平成 5 年 3 月に主 率が指摘できる。かつては,子どもが行き交う道路で沿道 任児童委員が設置されて,児童館の運営委員会,地域児童健 の大人が声をかけ,子どもであった私は見守られていると 全育成推進事業の連絡協議会,子どもの遊び場づくり推進の いう実感をもっていた。子どもは減ってしまったが,それ 協議会等へ参画することを求めた。以上は,委員の活動が地 でも登校時や下校時に道路に出れば子どもを目にすること 域社会の活動と連携する活動に軌道修正されてきた経過と言 ができる。自然な出合い・声掛けを日常の活動にしながら, えるが,当該委員選任基準の一に子供会活動や少年補導活動 季節ごとや余力があれば月ごとに,主に地域を会場として 等の活動実績を有する者をあげていて,子どもとの関わり活 自発的活動を支援するような事業に取り組むことが中立少 動では少年補導委員会等に敬意を表した形になっている。 補の課題であると明言した。 中立少補は,平成 15 年に結成 50 周年を祝ったが,戦後の 混乱が落ち着きを戻してきたものの,完全には社会不安を払 拭できなかった昭和 28 年に,警察の要請による子どもの非行 防止・健全育成を願って,全国に先駆けて京都 表―3 府で組織された。京都市の基礎的な団体は元学 単位の組織化を不可能にし,今や元学区単位の 備考 所 参加者数(人) 他学区 要 子供 保護 委員 の参加 日 者 1 日 210 210 70 × 共 共 7 12 中立ちびっこまつり ○ 学校行事の手伝い、泊は6年生のみ 催 補 7 26 学校キャンプ(第2 回) 2 日 300 230 5 5 25 写生大会 1 日 80 40 10 ○ 現地集合・解散、ほとんど親がつく、 ・ 上京区子供会育成連絡協議会の主導 補 助 11 16 ドッジボール大会 1 日 31 5 6 ○ 上京区子供会育成連絡協議会の主導 主催 9 15 秋のレクリエーション 1 日 46 27 25 × バス1台の借り出し、焼肉パーティ 10 18 いもほり大会 1 日 48 13 18 × 11 25 ふれあいもちつき大会 1 日 300 *200 50 ○ *は、保護者数+参加大人数 8 24 第19 回中立盆踊り大会 1 日 160 210 25 × 中学生などの参加 対象者数 a)142 b)142 c)80 a)新町小学生の内、中立学区から通う児童数 組織成立も危うい状況となっていて,3学区団 b)は、児童一人に対し一人の保護者が同行するとみなす。 c)は、平成15 年の中立支部少補委員数である。 区(明治 2 年の小学校経営区)ごとに置かれ, その組織形態は今も継承している。 中立学区は約 40 町内からなり,学区レベルでは 子ども数も百人を超える。しかし,学校統廃合 事業のなかで中立小は廃校となって,平成 9 年 に中立学区,小川学区,滋野学区の児童が通う 新町小学校が誕生した。子ども数の減少は,町 中立少補の事業概要(平成 15 年度) 区分 月 日 - 65 - 行事内容 (社)日本都市計画学会 都市計画報告集 No. 3 2004 年8月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No. 3, Aug, 2004 5.小学校下校路における子どもの行動 2.進行様相 1.調査対象校と子どもの行動サンプルの基礎情報 下校路は交差部をノード,ノード間をラインとして区分 調査を実施するため,平成15年7月に京都市教育委員会 し,歩行中の行動はその変化ごとに全て記録した。本項で を訪問し,研究主旨等を伝えて3校の紹介を受けた。 は,速度(図―2、3),線形(図―4、5)についてみる。 進行速度は,変化なし,減速,加速の3区分で整理した。 要望条件と紹介校区のプロフィール : ・周辺区で交通事故の多いところ ・交通安全の取り組みにおいてモデル的であるところ ・遠距離通学など児童の体力的負担が大きいところ 紹介校:京都市南 区 吉祥院小学校(Kと略す) 区画整理事業で道路網は整備され, 道路規 模も適正である。 山科区 音羽小学校(Tと略す) 里道が拡幅されて道路となるなど,道路 網,道路規模の整備は不十分である。 伏見区 美豆小学校(Mと略す) 広域幹線道路が通り,骨格の街路は整備 されているが,住宅地内の道路規模は十 分でない。 それによるとラインにおける傾向は,多くのサンプルで変 化なしが最も高い比率である。ただし,変化なしは女子が 高く,次いで男子グループ,男子単独の順となる。男子単 独のサンプルは4個あるが,2個は変化なしが70%を超える も他の2個は20%以下となり,そのうちの1個は減速行動, 他は加速行動の比率を高めているなど,定まった傾向にな い。ノードにおいては,変化なしの高率サンプルが比較的 多い。この変化なしの中には,ノードにおいて一般的に行 すでに予備調査を実施していた旧市街地の上京区新町小学 う一旦停止や停止に至らないまでも左右の確認をするなど 校(Sと略す)と合わせ4校を調査対象とすることとした。 の行動が含まれている。特徴的には,女子は減速行動を, 同年8月に紹介校を訪れ,調査の主旨を伝えるとともに, 以下の資料や情報の提供を受けた。 男子単独は加速行動をとるサンプルがあることである。 進行線形は,変化なし,乱調,転回の3区分で整理した。 ・通学路と問題の所在箇所を説明する地図など ・近年における負傷事故の有無と概要(原因と場所) ・歩行安全に関する学校の取り組み ・歩行安全に関する保護者や地域の取り組み ラインにおける傾向は,概して3つの行動が三等分に近い 状況で現れるが,男子単独は変化なしの高率のものが多い。 また,速度においては加速を見せないでおだやかであった 9月からは通学路の状況調査に着手した。合わせて子ど 女子は線形で乱調や転回の比率の高いものが多い。ノード もの行動把握のための調査シートの設計に取り組み,試験 においては,ラインでみた傾向がやや変化なし側に移行す 的調査を実施する中で,調査していることを察知した子ど るようであるが,女子においては乱調や転回の高率なもの もが奇異な行動をとるなどもあり,普段の行動を記録する がみられる。 ことの難しさを認識することとなった。また,調査の時期 としては,新学期が始まり新1年生に対する交通安全指導 3.教示行動,情報誘導行動,危険状況の出現 が実施されて以降が,学習効果も考察できるなどもあり適 本項では,まず先生や親などから教示された行動と教示 切と判断した。なお,M校児童の調査は不十分なものに終 に反する行動を教示系の行動として抽出4)し,ラインとノ わり,今回の研究対象から外した結果,サンプルは16個と ードの別,学年別に整理した。教示系行動に占める教示行 なった。(表―4) 動の比率は,ラインにおいて,1年生が30.1%,2 表-4 サンプリングの基礎情報 一団の規模 経路状況 調査日時 サン 平均 プル 学 性 所要 経路距離 日 当 途中 の 年 別 時間 (図上計測) ノー ライ ライ 時刻 初 変化 ド数 ン数 ン長 (曜日) 記号 (m) S 1 1年男 1人 ― 14 分 約410m 4 5 81 4.19(月) 14:20~14:34 2 1年男 2人 ― 24 分 約340m 4 5 69 4.20(火) 14:52~15:16 3 2 年 男 3 人 3→2→1 15 分 約760m 9 10 76 4.19(月) 15:02~15:17 4 分 約240m 2 3 81 4.20(火) 14:42~14:46 4 2年女 1人 ― 1 2年男 1人 ― 20 分 約540m 6 7 76 4.26(月) 14:09~14:29 K 2 2 年 男 5 人 5→2→1 27 分 約1、050m 20 21 50 4.28(水) 15:21~15:48 3 2 年 男 2 人 2→1 12 分 約450m 8 9 50 4.28(水) 14:15~14:27 4 3 年 男 2 人 2→1 12 分 約450m 8 9 50 4.28(水) 14:42~14:54 5 3年男 1人 ― 10 分 約410m 7 8 51 4.28(水) 15:10~15:20 6 1年女 5人 ― 15 分 約450m 8 9 50 4.28(水) 15:30~15:45 7 2 年 女 5 人 5→2 8 分 約350m 5 6 58 4.28(水) 15:06~15:14 8 3年女 2人 ― 7 分 約270m 3 4 69 4.28(水) 16:01~16:08 1 1年男 1人 ― 7 分 約280m 4 5 55 5.21(金) 14:47~14:54 T 2 2 年 男 3 人 3→2 39 分 約1、790m 27 28* 64 5.28(金) 15:12~15:51 3 3年男 2人 ― 9 分 約680m 13 14 49 5.21(金) 15:19~15:28 4 2年女 2人 ― 8 分 約315m 6 7 45 5.21(金) 15:00~15:08 <備考> 1.調査の実施年は 2004 年である. 2.一団の規模の途中変化欄のうち―印は,変化が無いことを示す. 3.平均ライン長は,あるべきノードの長さを無視して算出している. 4.ライン数の欄に*印のサンプルは,最終ラインの行動が十分に把握出来て いない. - 66 - 年生25.7%,3年生25.1%である。平均的にみて30% に満たないことは驚きである。また上級になるほど 低下する傾向がみえる。ノードは,上記の傾向が顕 著で,1年生が35.3%,2年生が28.3%とラインよ り良い結果となっているに反し,3年生は18.6%と 更に悪化させている。(表―5、6) 次に,道路端や白線内,歩道上など歩行域を進行 したり,信号に従うなどの情報誘導行動とそれとは 反対の行動を情報誘導系の行動として抽出し同様の 整理を行った。情報誘導行動の比率は,ラインにお いて1年生が49.1%,2年生39.9%,3年生50.6% である。ノードにおいては1年生が83.3%,2年生5 6.3%,3年生76.9%である。ノードにおける比率の 高さに安堵するが,2年生の低率は特徴的である。 (表―7、8) 最後に,危険状況の出現についてである。 危険状況とは次の場面を指す。 ①子どものすぐ隣を自動車が走行した ②安全を確認しないで突発的に 進行線形を変更し,自動車に接触しそうになった ③道路中央に進み,悪 ふざけをするなどして自動車・オートバイ等への注意が散漫になった 減速 0 *サンプルは 1 個のみ 減速 100 男子グループ 男子単独 女子グループ 女子単独 (社)日本都市計画学会 都市計画報告集 No. 3 2004 年8月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No. 3, Aug, 2004 ラインとノードのいずれにも出現しなかったサンプルが 6個,37.5%ある。性別による差異は認められない。ライン 25 75 だけみると出現なしは50%,1回出現は12.5%である。ノ 加速 ードだけみると出現なしは62.5%,1回出現は31.3%であ 変化なし 50 T1 平均値グラフ 50 る。ノードの方が安全性の高い行動になっていて,これは K8 K5 加速 100 25 0 前2項の結果と整合している。 S1 K7 T2 25 T3 S2 K2 K4 T4 K3 K1 S4 S3 K6 75 *サンプルは 1 個のみ 減速 100 よう。 75 K8 K7 加速 変化なし T2 K5 50 25 T3 K3 位 行動 学年別 位 置 区分 計 1 年 2 年 3 年 置 教示 229 37 139 53 行動 26.2 30.1 25.7 25.1 反教示 645 86 401 158 行動 73.8 69.9 74.3 74.9 874 123 540 211 計 100.0 100.0 100.0 100.0 100 75 変化なし 乱調 100 25 75 *サンプルは 1 個のみ 転回 表―7 情報誘導系の行動一欄 変化なし 50 K6 反情報誘導行動 K7 T2 T1 K8 情報誘導行動 平均値グラフ 50 S3 75 K2,T3 K4 K1 S2 T4 S4 K5 25 K3 50 75 100 変化なし 図―4 ラインにおける歩行線形の変化 0 乱調 *サンプルは 1 個のみ 乱調 100 男子グループ 25 75 表-9 転回 変化なし 50 50 K8 T1 75 K2 25 平均値グラフ S1 25 K5 T4 S3 K4 K7 50 危険・緊迫状況が複数出現するサンプルにみる出現 位置と回数 T2 T3 転回 (件、%) 行動 学年別 区分 計 1年 2年 3年 情 報 誘 38 10 18 10 導行動 66.7 83.3 56.3 76.9 反 情 報 19 2 14 3 誘導行 動 33.3 16.7 43.7 23.1 57 12 32 13 計 100.0 100.0 100.0 100.0 ノード ライン 位 位 行動 学年別 置 区分 計 1 年 2 年 3 年 置 情報誘 151 27 85 39 導行動 43.8 49.1 39.9 50.6 反情報 194 28 128 38 誘導行 動 56.2 50.9 60.1 49.4 345 55 213 77 計 100.0 100.0 100.0 100.0 0 25 ・歩道を進行 ・白線内、路側帯を進行 ・ガードレールの内側を進行 ・信号に従って進行 上記の反対行動 表―8 学年別にみた情報誘導系の行動 S1 転回 男子単独 女子グループ 女子単独 (件、%) 行動 学年別 区分 計 1年 2年 3年 教示 119 24 73 22 行動 26.8 35.3 28.3 18.6 反教示 325 44 185 96 行動 73.2 64.7 71.7 81.4 444 68 258 118 計 100.0 100.0 100.0 100.0 ノード ライン 男子単独 女子グループ 女子単独 表―6 学年別にみた教示系の行動 K4,S2,K1,T4,S4 乱調 0 0 ・一旦停止 ・左右の確認 ・横断中に手を上げる ・車をよける ・安全施設を利用する 上記の反対行動 路上遊戯、よそ目など周囲の情報把握の欠如行動 25 K6 S3 S1 K2 男子グループ 100 0 教示行動 反教示行動 T1 図―3 ノードにおける歩行速度の変化 100 表―5 教示系の行動一欄 平均値グラフ 50 100 0 影響が出てきていると考える。交通安全学習は定期性をも つこと,2,3年生に対しても実施される必要が指摘でき 25 50 75 加速 2,3年生では50%が該当した。(表―9) 以上からみると,上級に進むほど通学路に対する慣れの 減速 男子グループ 男子単独 女子グループ 女子単独 映している。また,学年別では1年生サンプルの25%が, 変化なし 図―2 ラインにおける歩行速度の変化 0 Kは50%,Tは75%が該当する。明らかに道路事情差が反 0 100 75 50 次に,1回の出現は偶発の可能性も高いことから,複数 回出現させているサンプルをみる。校区別ではSは零で, K6 75 位置 出現L数 回数 出現率% 出現N数 出現率% 母数 L N S2, K3, K1, S4 100 変化なし 図―5 ノードにおける歩行線形の変化 - 67 - K 1 2 7 2 年男 2 年男 2 年女 単 5人 5人 2 7 2 28.6 33.3 33.3 1 5.0 7 21 6 6 20 5 T 8 1 2 3 3 年女 1 年男 2 年男 3 年男 2人 単 3人 2人 3 3 11 1 75.0 60.0 39.3 7.1 1 1 2 33.3 3.7 15.4 4 5 28 14 3 4 27 13 (社)日本都市計画学会 都市計画報告集 No. 3 2004 年8月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No. 3, Aug, 2004 次に 3 つに分類した行動を 100 とし、単独や複合などの状 4.社会的要求との関係でみた子ども行動 人生を進めていく中で,年齢に応じて要求される社会的 態で再整理した。それによると単独行動として起こる「やさ 行動とは何かを他領域の学問から学習した(註2)が,小 しさ」は 12.4%、 「共行動」は 66.1%であった。複合するも 学校低学年という発達期においてのそれは「やさしさ」、 のでは「やさしさ」+「受容」が 1.8%、 「共行動」+「受容」 「共行動」、「受容」であると思われる。(註3) 今回の調査で,走行中に同行者(仲間と呼ぶ。 )との間に起 が 16.1%、 「やさしさ」+「共行動」+「受容」の 3 つが同時 に起こるものは 3.6%であった。 こる行動要素(行動の最小単位)を 20 個観察した。 (表―10) 合う(行動要素記号 12)である。ついで真剣に話題に入り込 む(記号 13)であった。相手の言動や動作を真似する(記号 子どもの行動パターン 15)も多い。 これらは相手の行動に共調している行動であり、 一つの行動要素で一つの行動 社会的要求との関係でみて「共行動」に分類した。相手の一 方的な言動を受け止める(記号 6)も多い行動であるが、こ れは「やさしさ」に分類した。以上は1つの行動要素で1つ の行動となっているものである。2つ以上の行動要素で1つ の行動となるものの中も少なくないが,肩を組みあるいは手 をつないで歩く行動(記号 9)と記号 12 が一つの行動となっ たものや、記号 9 と記号 13 が一つの行動となったものは「共 わす(記号 1)と相手に付き合って遠回りをする(記号 3)が 一つの行動となったものは「やさしさ」と「受容」が起こっ ていると分類した。 相手の誘いや提案を嬉しく受け入れる (記 号 7)と記号 9 及び相手と持ち物などを分かち合う(記号 11) 並びに記号 13 の四つの行動要素が一つの行動をなったもの 二つの行動要素で一つの行動 行動」と「受容」が起こっていると考えた。相手と言葉を交 は、 「やさしさ」 「共行動」 「受容」が同時に起こっていると考 えた。 以上、社会的要求との関係でみた三つの分類に代表的な行 動を当てはめてみたが、その他の行動についても分類したも のが表―11 である。それによると、16 個のサンプルの総行動 三つの行動要素で一つの行 四つ以上の行動要素が連続して一つの行動 動 パターンは 54,件数は 312 件である。分類できない(関係な い)ものも1割弱存在するが、最も多い行動は「共行動」で 75%も起こっている。 「受容」は 18.6%、 「やさしさ」は 16% であった。 表―10 子ども行動の一欄 一次 相手に気遣う 区分 相手に歩速を合わせる、様子を伺う 話し掛ける、言葉が行き交う お互いに技量を発揮 競争する 群れを成し攻防する ある対象を観察・探求する 相手或いは相手を参考に言動・まねする ある対象・イメージを想像・まね 描写する 真剣に話題に入り込む、説明する 大声、大手ぶり、自由に表現し合う 相手と持ち物などを分かち合う お互いにルールに従い遊ぶ、ゲームをする 親密な身構えを取る 肩 腕組み、手つなぎ、体の 向き合い・寄せ合い、歩列・歩調の揃え等 相手の言動に興味を持ち自ら反応する 相手の誘いや提案を嬉しく受け入れ、反応する 相手の一方的な言動を受け止める 相手に道を譲る 危険状況から相手を助ける、注意を呼びかける 相手に付き合って遠回りをする 相手を待つ 相手と言葉を交す 相手とうまく付 話に 同じ動 相手 相手 き合う 夢中 作を取 と競 の行 にな る い合 動を 探る る う 要素 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 記号 行動 要素 関係のない行動 表―11 下校路における社会的要求との関係でみた子ども の行動の分類と件数 最も多く発生した行動要素は、大声や大きな素振りで表現し や さ し さ 共 行 動 受 計 容 Ⅰ. や さ し さ Ⅱ. 共 行 動 Ⅲ. や さ し さ + 共 行 動 Ⅳ. 共 行 動 + 受 容 Ⅴ. や さ し さ + 共 行 動 + 受 容 1 1 1 4 2 2 5 2 2 6 24 24 12 87 87 13 33 33 15 17 17 17 3 3 18 1 1 19 20 20 20 15 15 小計 35 29 141 0 205 29 141 1,3 2 2 2 1,8 1 1 1 2,7 1 1 1 2,8 1 1 1 5,6 1 1 6,15 1 1 1 1 6,20 5 5 7,15 1 1 1 8,12 2 1 2 8,15 2 2 9,12 10 10 10 9,13 12 12 12 12,14 17 17 12,15 4 4 12,17 4 4 12,19 1 1 13,14 2 2 15,18 9 9 19,20 3 3 5 40 5 25 1 小計 3 12 65 30 79 2,9,12 1 1 1 1 6,7,16 1 1 1 1 7,8,15 1 1 1 7,12,16 1 1 1 8,9,13 1 1 1 8,9,16 2 2 2 8,12,16 3 3 3 8,15,16 1 1 1 9,10,12 1 1 1 10 2 小計 2 12 12 12 6,7,15,16 1 1 1 1 7,8,9,13 1 1 1 7,9,11,12 1 1 1 1 7,9,11,13 2 2 2 2 8,9,12,14 1 1 1 8,9,12,16 1 1 1 8,12,14,15 1 1 1 1,2,7,9,13 1 1 1 1 1,7,8,9,12 1 1 1 7,9,13,15,16 1 1 1 8,9,12,15,16 1 1 1 8,9,13,15,16 1 1 1 7,8,12,14,15,18 1 1 1 8,9,11,13,15,16 1 1 1 1 7,8,9,11,12,13,15,16 1 1 1 1 9 7 小計 0 9 16 16 16 合計 38 50 234 58 312 (%) 12.2 16.0 75.0 18.6 100 合計 274 34 181 5 44 10 (%) 100 12.4 66.1 1.8 16.1 3.6 ・ ・ ( ・ 「受容」行動の起きた場所をみよう。紙数の関係でライン上 ) での行動のみをみる。それは 58 件起きている。このうち 35 - 68 - (社)日本都市計画学会 都市計画報告集 No. 3 2004 年8月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No. 3, Aug, 2004 表―12 きりむすび行動の一欄 区分 きりむすび行動 サ 学 性 規 L/N 対象 ン 齢 模 プ ル 3件 3件 S1 1 年 男 1 人 L1 沿道の地下駐車場 L3 市広報版のポスター 沿道の本屋 敷地内陳列の本 本屋主の老夫婦 1件 6件 車走域 6件 10 件 歩行域 7件 内容 沿道域 (宅地等) 17 件 図―6 ラインにおける立ち止まりを伴って 起こった「受容」行動の場所 件は立ち止まりを伴わないで起き,23 件は立ち止まって起きている。 この 23 件を場所で分類したいが,複 数場所にまたがって起きるものが多い ので複数計測する。それによると,車走 域及び車走域を含んで 6 件が起き,歩行 域及び歩行域を含んで 7 件が起きてい る。最も多いのは沿道域及び沿道域を含 む空間であり 17 件が起きている。 「受 容」行動の発生に沿道域空間は必要性の 高い装置であることが分かる。 (図―6) 下校時の子どもの行動は,仲間との間 で「たわいのない」やりとりもあるが, 「共行動」が多く発生すること,そして 「共行動」と合わさって起こる「受容」 の行動件数も少なくないことを知った。 L4 敷地境界の低い壁 N4 近所のお兄さん S2 1 年 男 2 人 L5 敷地境界の低い壁 路地入口のボーラード穴 S4 2 年 女 1 人 L3 近所のおばあさん K1 2 年 男 1 人 L5 L6 K2 2 年 男 5 人 L6 L13 K3 2 年 男 2 人 L2 K4 3 年 男 2 人 L4 L6 K5 3 年 男 1 人 L4 N4 K8 3 年 女 2 人 L4 T1 1 年 男 1 人 L1 T2 2 年 男 3 人 N7 N16 L17 L20 沿道開放地内の植木鉢 路上の石ころ 道草 路上の石ころ 敷地堺のロープ 陳列中の人形 沿道玄関前の植木鉢 陣列中の人形 近所のおばさん 沿道のガサガサ壁 通りかかりのおばさん 自動販売機 踏切の欄干 鉄道辺の砂礫 トンネル 携帯の水筒 携帯の水筒 沿道草むらの葉っぱ L22 携帯の水筒 沿道草むらの葉っぱ L24 沿道緑地の木の実 L25 路上の昆虫 沿道の草むら 沿道草むらの葉っぱ 仲間のお母さん N25 T3 3 年 男 2 人 L10 L11 T4 2 年 女 2 人 L2 L6 沿道草むらの葉っぱ 路上の空き缶 ビル前庭の草 沿道植木の花 道端の自動販売機 体を壁面に寄せ、汗を冷やし休む 読む、見る、目を通す 熱さを避ける、座り体を休む 開く、みる、読む あいさつをする・交わす、安否を交わす、し ばらく話し合う 体を支える、頼らせる 名を呼ばれる、しばらく話し合う、あいさ つをする・交わす 腰を下ろす、体を休む さわる、覗く、かき回す 声をかけられる、あいさつする・交わす、 安否を交わす さわる、かぐ、ながめる ○ 走りおいながら数回ける 数回とり投げる ○ 拾いなげる 揺らがす、さわる ながめる ながめる、さわる ○ ながめる 見守られる いじる、ける、こする 注意される、見守られる 押す、覗く、叩く、手を入れる ぶら下がる、頼る 数回踏む 声を響かせる 飲む、分かち合う 飲む、分かち合う さわる、かぐ、ながめる ○ 飲む、分かち合う さわる、かぐ、ながめる ○ みる、かぐ、手にする、味わう、食べる ○ ながめる、さわる ○ 探る、何か手にする ○ 回す、押し付ける ○ 声をかけられる、あいさつ・安否を交わす、 注意を呼びかける さわる、かぐ、ながめる 走りおいながら数回ける 擦り付けながら進む、単に触る ○ みる、かぐ、手にする、味わう、食べる ○ 押す、覗く、叩く、手を入れる 計 下校路を一層「共行動」の起こりやすい 対象区分 自 物 人 然 計 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 7 2 ○ 1 ○ 2 ○ ○ ○ 2 1 ○ ○ 2 ○ 2 1 ○ 1 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 15 ○ 2 2 11 23 6 40 6.まとめ 空間にすることは「受容」の発生につながる。ひいては子 1.子どもの交通事故の考察からは,道路空間の構造や使 どもの健全な発達にも結びつく可能性があることを理解で い方を不断に見直し,注意を喚起することが重要であるこ きたことは成果であった。 と,国の交通安全政策は高齢者対策重視であるが,こども を取り巻く歩行環境もまた厳しい状況にあること, 小学生 5.きりむすび行動 子どもたちの行動は,仲間に対するものだけに終わらず, 対外の植物や物,人間と関連するものが起こる。道端の花 への対策の1つに「下校中の安全教育」を掲げることが必 要であることなどを見つけた。 2.地域集団の「係わり活動」の考察からは,子どもは減っ や草木をながめたり,さわったりする行動や,ポスターを てしまったけれども登校時や下校時に道路に出れば子どもを 読む行動,近所の大人との会話行動などである。これらを 目にすることができ,自然な出合い・声掛けを日常の活動に 「きりむすび行動」と名付けたが,それらは40件起きてい することが重要であること,季節ごとや余力があれば月ごと た。その過半は「物」を対象とする行動であるが,郊外の に,主に地域を会場とする自発的活動を支援するような事業 校区では「自然」を対象とする行動が起きている。「人」 に取り組むことが中立少補の課題であることが明らかになっ を対象とする行動の発生に地域的特性はないようである。 た。歩行空間の設計手法を研究する筆者らにとって有用な示 本屋の老店主や近所のお兄さん,おばさん,友達のお母さ 唆と受け止めている。 んに声をかけられて対話が成立していることがわかる。(表 3.小学校下校路における子どもの行動の考察からは次のこ ―12) とが分かる。中立少補支部長が言う「係わり活動」は、沿道 空間で発生した 「人」 との対話行動を指しているのであろう。 - 69 - (社)日本都市計画学会 都市計画報告集 No. 3 2004 年8月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No. 3, Aug, 2004 近年の社会状況は、子どもへの声かけを容易ならざる行動と してしまったが, こうした対話が日常化すれば, 「地域の大人」 「地域の子ども」である認識が進み,安心をベースに社会性 をもった対話へと発展することが期待できるであろう。 ①停滞・回遊性の 望める空間 物 自然 ②きりむすび行動 (体験の提供) 物 *探求・観察・学習 自然 *地域コミュニケーション 人 人 沿道地域住民の見守り・指導・誘導 ④日常生活の場の開放 ③安全の確保 *地域住民の趣味・生業等 沿道域 歩行域 子ども動線 沿道の開放(歩域との境界崩し) ▲ ①+②+③ ⇒安全で質の高い社会的行動の促し ▲ ④ ⇒子どもふれあいの日常性回復 車走域 図―7 子どもの社会的行動を促す沿道域モデル この表は発達段階,その段階に対応する社会的要求,各段階におけ る要求に対して鍵となる対人関係を示したものである。ただし,発達 段階の名称も,対応する年齢の区分も発達心理学で普通に用いるもの とは異なっているという。 (註3)対人関係の発達的変化は,関係の量的変化と質的変化の両面 から考えることが出来る。ただし,対人関係というものが歴史や社会・ 文化という広い文脈の中で営まれることから,量的変化が尺度となら ないケースがある。また質的変化についても「選択の問題」であるケ ースもあり変化の方向を安易に決めつけることは問題がある。例えば 「最近の子どもは集団遊びが減ってきた」などに対しては,少子化社 会の影響を考慮する必要があるし,「昔の子どもたちは他人とうまく 付き合っていた。それに比べて最近の子どもはどうなっているのだ」 などの指摘に対しても理由が存在する場合がある。しかし,多くの子 どもに共通してみられる変化は量的な拡大と,関係の質の変化・多様 化である。 関係の拡がりについてであるが,乳児期の親と子の関係は世話や養 護を中心とした関係から次第に拡がる。サリヴァンは幼児期に起こる 子どもの社会的要求として「遊びの相手」の要求を上げている。幼児 期にその萌芽がみられるが小学校に入ると遊び相手としての仲間の比 重が大きくなる。友達の概念としては「共行動」のほかに感情的なつ ながりや支持的関係が重みを増す。他者の社会的行動やパーソナリテ ィなどの個人差に気づき,それを意識するようになる。相手を選択す るようになるから,仲間関係が安定してくる。これらの結果,自分が 仲間から受け入れられたい,仲間集団に安定的に所属したいという要 求が強くなる。 「受容」は自分の行動の成功か失敗かの評価の基準ともなる。この 時期における仲間からの受容の重要性を示すものとして,それが後年 の心理的に健康な発達と関連していることを示す研究が多く存在する。 例えば,小三での仲間からの受容の低さは大学一年までの精神保健上 の問題発生と関連しているとする。(Cowen,E.L.et al.,Long-term follow-up of early detected vulnerable children,Journal of consulting and clinical psychology,41,438-446,1973.) なお,児童期後期から青年期にかけての対人関係については省略する。 注記 参考資料 (注1)その理由の第1は,対人関係において同学年の仲間が大きな比 重を占めはじめること,第2に,当人の意識の有無にかかわらず社会 性が求められだすこと,第3に,小学中高学年期に良好な仲間関係を 築く上でその直前期での社会的援助が重要である。 註釈 1)佐橋真人(2001.4) 、 「第 7 次交通安全基本計画の概要」 、道路交通 経済 25(2) 、pp8―9 2)京都市文化市民局(毎年) 、 「だれが交通事故にあったか」 、京都市 の交通事故、平成元年―平成 14 年/京都市教育委員会、 「5月1日 学校現況調査」 、教育調査統計、平成元年―平成 14 年 3)京都府警(毎年) 、 「年齢別・状態別の事故」 、京都府交通統計、平 成元年―平成 14 年 4) (財)日本交通安全教育普及協会、①「児童に対する交通安全教育」 /②「交通安全教育指導事例(小学校低学年編)」、日本語、① http://www.jatras.or.jp/sisinn/m1.html/②http://www.jatras .or.jp/text/jtse1_index.html、2004.5 5)井上健治(1992.10) 、 「人との関係の拡がり」 、 「新・児童心理学講 座(第 8 巻)-対人関係と社会性の発達」 、pp3-20、金子書房 5) (註1)関係の形成:これは他者との間に関係を拡げ,関係の質を発 展的に変化させていくような関係をつくることである。生涯発達の視 点からいえば,成人後あるいは退職後の対人関係をいかに充実させる かも人間にとって重要な発達課題の一つであるが,この場合は子ども 期の特徴である関係の拡大や社会的能力の獲得という拡大方向とは対 照的な「関係の再構成(縮小)」という課題である。子どもは,集団 の遊びの中において自己中心の思考・行動からは「うまくいかない」 ことを経験する。仲間を形成する上での相互に従うべきルールの必要 性を認識するなど新しい社会的能力を要求される。この試行を重ねる ことで,自分の行動が支持される状況をつくれるようになる。 その他資料 (註2)人が発達の過程でどのような人間関係を好むかは,彼らの社 会的要求によって決定される。サリヴァン(Sullivan,H.S.)は発達的 に起こってくる五つの基本的な社会的要求を仮定している。1.やさし さ,2.ともに行動すること,3.受容されること,4.親密性,5.性であ る。バームスターら(Buhrmester,D.and Furman,W.)はサリヴァンの 理論を整理し,対人関係の発達的変化(The Changing Functions of Friends in Childhood: A Neo- Sullivaniam Perspective,in V.J. Derlega,et al.(eds.),Friendship and Interaction,1986.)とする表 を発表した。 *リウンファク(1998.5) 、 「子供は小さな大人ではない」 、交通安全 通券第 187 号、pp28-29、交通安全管理公団 *市川 浩(2003.6) 、 「精神としての身体」 、pp11-14、講談社学術 文庫 *クォンギドン(1998.5) 、 「歩行子供交通事故予防に関する小考」 、 交通安全通券第 187 号、pp18-22、交通安全管理公団 対人関係の発達的変化 要求の種類 性 異性の相手 (sexuality) 親密さ 同性友人 異性友人・恋人 (intimacy) 同性友人 受容されること 仲間社会 友人集団 男女の集団 (acceptance) 友人集団 行動をともにする相手 両親 仲間 同性友人 異性友人・恋人 (companionship) 両親 両親 同性友人 やさしさ 両親 両親 両親 同性友人 異性友人・恋人 (tenderness) 両親 同性友人 発達段階 乳児期 小児期 少年期 前青年期 青年期前期 (0~2) (2~6) (6~9) (9~12) (12~16) - 70 -
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