157 日本写真学会誌 2009 年 72 巻 3 号:157–189 特 集 2008 年の写真の進歩 技術委員会 進歩レビュー分科会 吉田 英明(オリンパスイメージング) 「写真の進歩」は,毎年一度時期を決めて前年一年間の写真技術の動きを振り返ることにより,日々進歩を続け る写真技術の全体像を時系列的に俯瞰することを狙いとして,継続的に取り組んでいる企画です. 執筆陣は,技術委員会傘下の各研究会の代表者を中心に,一部にはそれ以外の識者も加えた各分野の専門家に より構成されています.各執筆者は担当の分野に応じた観点から,主として前年一年に発表された技術(文献) , 製品,作品,統計等について,可能な限りその特徴・傾向・分析などのコメントを加えつつ紹介します.なお具 体的な内容については各執筆者の意向を尊重しています. 例年の「写真の進歩」は,写真学会ホームページ(http://www.spstj.org/)の「学会誌からのトピックス」 (http:// www.spstj.org/book/pickups.html)にも掲載されています. 1.写真産業界の展望 ・・・・・・・・市川泰憲 157 8.医用画像・・・・・・・・・・・・・・・・ 医用画像研(松本政雄) 176 9.科学写真 2.銀塩感光材料 2.1 理論および技術 ・・・・・・・・・光機能性材料研(久下謙一) 167 9.1 文化財 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 城野誠治 177 2.2 感光材料用結合素材 ・・・・・ゼラチン研(大川祐輔) 168 9.2 天体写真 ・・・・・・・・・・・・・・ 山野泰照 178 3.光機能性材料 ・・・・・・・・・・・・光機能性材料研 170 10.画像入力-撮影機器・・・・・ カメラ技術研(豊田堅二) 179 4.画像評価・解析 ・・・・・・・・・・画像評価研(藤野 真) 171 11.画像出力 5.分光画像 ・・・・・・・・・・・・・・・・分光画像研(津村徳道) 172 11.1 プリンタ ・・・・・・・・・・・・・ 村井清昭 182 11.2 印刷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小関健一 182 183 6.画像保存 6.1 画像保存関連技術 ・・・・・・・画像保存研(金沢幸彦) 173 12.写真芸術・・・・・・・・・・・・・・・ 西垣仁美 6.2 展示・修復・保存関係 ・・・画像保存研(山口孝子) 174 13.写真家から見た画像技術の進歩 7.映画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・表現と技術研 175 (富士フイルム映画部) *表1の学術雑誌と表2の学会等の催しについては,それ ぞれ表中に示したような略称を,また組織名,所属等につい て一般的な略称があるものについてはその略称を用いていま す.年号が記載されていないものは 2008 年のものです. 1. 写真産業界の展望 市川泰憲(日本カメラ博物館) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 表現と技術研(矢部國俊) 14 工業規格・・・・・・・・・・・・・・・ 酒井伸夫 186 188 表 1 「2008 年写真の進歩」で引用した主な学術雑誌およびその略号 日写誌 JIST : : 日本写真学会誌 Journal of Imaging Science and Technology : : Imaging Science Journal 光学 日画誌 : 日本画像学会誌 日印誌 PSPIE : 日本印刷学会誌 Proceedings of SPIE ISJ : 光学 1.1 概況 各社銀塩写真産業からの撤退・縮小が相次いだ 2005 年か かつて,10 年以上前にさかのぼると,写真産業を取り巻く ら 2006 年を経て,2007 年では一段落したかの印象が統計的 工業統計は大きく変化することなく提供されてきたが,ここ に見えたが,2008 年の写真産業は,デジタル化への移行をさ 10 年わずかずつ変化してきた構造が,この時期に確実にチェ らに受けて着実に産業構造そのものが徐々に変化していくの ンジしたという印象だ.この分類の変化をどのように読むか が読みとれる年となった.その現れが銀塩感光材料並びにカ によって,写真産業の将来が見えてくる. メラ / 交換レンズ等の工業生産統計だが,数値上の変化も見 そして 2008 年を社会的に見ると,米国のサブプライムロー 逃すことはできないが,それ以上に,統計データの抽出・分 ン問題に端を発する,円高ドル下落,原油高,株価下落など 類そのものの見直しが図られることになったことだ. 経済的な不安定要素は大きくのしかかっており,写真産業界 も次年度以降へのさらなる影響は避けられないだろう. 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) 158 表 2 「2008 年写真の進歩」で引用した主な学会等の催しおよびその略号 日本写真学会主催のもの 日本写真学会以外の 主催のもの PIE セミナー : フォトイメージングエキスポ 2008 -日本写真学会セミナー(3/19, 3/21), 東京ビッグサイト 写真技術 : 写真技術セミナー(5/28) ,富士フイルム本社ホール 光機能 PPIC’08 : 光機能性材料セミナー(6/6),東京工芸大 : Pan-Pacific Imaging Conference ’08(6/25~6/27) ,アルカディア市ヶ谷 画像保存 : 画像保存セミナー(10/30~10/31) ,東京都写真美術館ホール カメラ技術 : カメラ技術セミナー(11/28) ,発明会館 日写秋 : 日本写真学会秋季研究報告会(12/8) ,東京工芸大 光学冬期 : 日本光学会第 34 回冬期講習会(1/10~1/11) ,東京大学 NIP24 : 24th International Conference on Digital Printing Technologies(9/7~9/12) , Pittsburgh PA USA 1.2 工業生産 1.2.1 統計 ①銀塩感光材料 表 3 ~ 5 には 2008(平成 20)年の銀塩写真感光材料に関 する総出荷,輸出,輸入の状況を示してある.いずれも写真 感光材料工業会の提供によるものである. 総出荷状況は経産省化学工業統計に基づくフォトマーケッ ト誌推計データを利用させていただき,まとめてある.これ は経済産業省化学工業統計が,写真フィルム計,印刷・業務 用フィルム,印画紙計以外の品目データが 2007 年 4 月より 非開示になったことによるためである. 2008 年を見ると総出荷量は,ロールフィルムの前年数量比 表 3 総出荷の状況(経済産業省化学工業統計に基づくフォトマー ケット社推計) 平成 20 年数量 (千 m2) 前年比 (%) 平成 20 年金額 (百万円) 113,454 86,231 89 100 76,979 35,647 199,685 90 112,626 その他フィルム 35,522 18,575 3,184 89 59 100 17,267 31,864 10,855 カラーフィルム計 57,281 77 59,986 256,966 87 172,612 6,544 124 4,609 233,613 83 39,089 品 目 X 線用フィルム 印刷・業務用フィルム 白黒フィルム計 映画用フィルム ロールフィルム フィルム計 59%の落ち込みが特に目に付き,フィルム合計で前年比 87% 白黒印画紙計 とマイナスに転じている.印画紙は,白黒印画紙計は前年同 カラー印画紙計 様伸びているものの,そのほかは前年度を大きく割っており, 印画紙計 240,157 83 43,698 印画紙計では前年比 83%となった.いずれにしても伸びを示 写真感光材料計 497,123 85 216,310 した白黒印画紙は絶対量が少ないわけで,写真感光材料全体 の出荷は前年比 85%であることから,写真のデジタル化が, さらに進んだ結果だろう. 輸出,輸入は財務省貿易統計に基づく推計でまとめてある. (注)化学工業統計は平成 19 年 4 月より写真フィルム計,印刷・業 務用フィルム,印画紙計以外の品目データが非開示となったため,市 場情報を元に推計.ロールフィルムにはレンズ付フィルムを含む. (写真感光材料工業会提供) その比率は大きく変わることはなく,わずかにレンズ付フィ ルムの輸入が 113%という数値を出しているが,これは一部 ずか 3 年ということになり,カメラが大量工業生産品である 製品に依存するものと考えられ,総計では輸出 85%,輸入 77 ことを示した好例といえるだろう. %と前年比マイナスに転じている. そのような事情もあり,本展望における生産実績表も過去 ②カメラ / 交換レンズ / フォトプリンター生産実績 とは異なった順の掲載となった.表 6 は「デジタルスチルカ 2008 年はカメラ生産統計において,大きな変化があった年 メラ生産出荷実績表」であるが,従来は表 7 に位置していた である.従来から統計実績のあった銀塩カメラが,2008 年 3 のが,カメラの生産統計として最初に並ぶことになった. 月の時点で統計から外れたのである.2007 年には「銀塩カメ 表 6 から見ると,デジタルスチルカメラ全体の前年同期比 ラ / カメラ用交換レンズ出荷実績表」という形で分類されて 数量で 121.6%,金額で 106.3%と伸びているが,2008 年 1 月 いて,2008 年も「銀塩カメラ / カメラ用交換レンズ出荷実績 分より参加企業が増加したことにより,対比が厳密ではなく, 表」という表題で提供されているが,銀塩カメラの実績はブ あくまでも参考値とされている. ランクであるので,表 7 に示すように銀塩カメラの項を抹消 し「交換レンズ出荷実績表」としてもよいだろう. 画素数による区分は,前年 2007 年では,600 万画素未満, 600 万画素以上 800 万画素未満,800 万画素以上と 3 分類さ さらにさかのぼれば 2006 年には「スチルカメラ等生産実 れていたが,2008 年では 800 万画素未満,800 万画素以上と 績表」として提供され,FP カメラ,LS カメラ,中・大判カ 2 段階に集約されている.かつてはそれ以上に細かく分類さ メラと細かく分類されていた時期もある.分類がなくなり, れていたが,一眼レフに加え,コンパクトカメラも高画素化 銀塩カメラそのものの生産統計が消えるのに要した時間はわ への道を歩んでいることがよくわかる. 2008 年の写真の進歩 159 表 4 輸出の状況(財務省貿易統計に基づく推計) 品 目 表 5 輸入の状況(財務省貿易統計に基づく) 平成 20 年数量 2 平成 20 年数量 品 目 2 (千 m ) 前年比(%) (千 m ) X 線用フィルム 43,461 73 X 線用フィルム 印刷・業務用フィルム 75,900 94 印刷・業務用フィルム 119,361 85 映画用フィルム 32,646 86 ロールフィルム 13,218 15 58 45 その他フィルム 591 114 カラーフィルム計 46,470 前年比(%) 8,005 82 11,179 71 19,184 75 映画用カラーフィルム 3,817 91 ロールカラーフィルム 806 530 59 113 その他フィルム 1,081 92 76 カラーフィルム計 6,234 86 165,831 82 フィルム計 25,418 77 10,348 153 554 277 162,724 85 9,414 74 印画紙計 173,072 87 印画紙計 9,968 77 写真感光材料計 338,903 85 写真感光材料計 35,386 77 白黒フィルム計 レンズ付フィルム フィルム計 白黒印画紙計 カラー印画紙計 白黒フィルム計 レンズ付フィルム 白黒印画紙計 カラー印画紙計 (写真感光材料工業会提供) (写真感光材料工業会提供) 表 6 デジタルスチルカメラ生産出荷実績表 上段:数量(台) ,下段:金額(千円) 生産 区 分 デジタルスチルカメラ合計 レンズ一体型 タイプ区分 レンズ交換式一 眼レフタイプ※※ 800 万画素未満 画素数区分 800 万画素以上 累計 1 ~ 12 月 総出荷 前年同期比 (%) ※ 累計 1 ~ 12 月 日本向け 前年同期比 (%) ※ 累計 1 ~ 12 月 日本向け以外の出荷合計 前年同期比 (%) 累計 1 ~ 12 月 前年同期比※ (%) 116,166,909 115.0 119,756,808 119.3 11,110,644 101.1 108,646,164 121.6 1,765,283,000 106.5 2,164,040,098 105.0 263,077,416 96.4 1,900,962,682 106.3 106,321,686 113.8 110,070,168 118.5 9,859,816 99.4 100,210,352 120.8 1,349,362,674 101.4 1,638,667,724 101.4 190,437,309 90.9 1,448,230,415 103.0 9,845,223 130.4 9,686,640 129.7 1,250,828 117.4 8,435,812 131.8 415,920,326 127.0 525,372,374 118.0 72,640,107 114.2 452,732,267 118.7 21,386,719 32.7 23,189,608 35.3 931,970 16.2 22,257,638 37.1 216,579,004 24.9 270,130,930 25.9 16,133,398 14.2 253,997,532 27.3 94,780,190 266.9 96,567,200 278.4 10,178,674 194.8 86,388,526 293.2 1,548,703,996 196.2 1,893,909,169 186.0 246,944,018 155.0 1,646,965,151 191.8 ※ 2008 年 1 月分から統計参加企業が増加したことにより, 「対比」の定義が厳密ではないため,前年同期比の数値はあくまで『参考値』となる. ※※マイクロフォーサーズシステムのデジタルスチルカメラを含む. (カメラ映像機器工業会統計より) 図 1 には 2000 年から 2008 年までのカメラ総出荷台数推移 2004 ~ 2008 年で 194%の伸びを示すことは APS-C,フォー を,図 2 には過去 60 年近くにわたるカメラ総出荷数量の推 サーズ用などデジタル専用の新規購入がそのまま反映されて 移を示している.このグラフからわかることはカメラ全体と いる.また,35 mm 用は 2006 ~ 2008 年までと微増している して,この 10 年間に数量で約 3.3 倍,金額では約 5.8 倍伸ば ことは,デジタルのフルサイズ用ボディが着実にユーザーに していることになる.これは,見方を変えればデジタルカメ 定着してきていることを意味するのだろう. ラと銀塩カメラの対比ということになり,それだけデジタル いずれにしてもカメラを所持するということで市中を見渡 カメラの登場の歴史は浅いということになるが,その伸びは すと,銀塩フィルムの成熟期にはコンパクトカメラとレンズ 急峻である. 付フィルムに集約されていたのが,デジタルの時代にはコン 表 7 はカメラ用交換レンズ生産出荷実績表を,図 3 には, パクトカメラを日常的に携帯するほか,一眼レフを肩にする 2004 ~ 2008 年の一眼レフ用交換レンズ総出荷数量推移を示 人が多く目につくようになったのが大きな変化であり,これ す.この表ならびに図からわかることは,交換レンズのなか からのカメラの在り方として大いに注目される部分だ. でも,デジタル専用が大きく伸ばしていることで,総数で 表 8 には民生用 A4 未満フォトプリンター出荷実績表を, 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) 160 図 1 2000 ~ 2008 年におけるカメラ総出荷数量の推移(カメラ映像機器工業会統計資料より) 図 2 1951 年からのカメラ総出荷数量推移(カメラ映像機器工業会統計資料より) 表 7 カメラ用交換レンズ生産出荷実績表 上段:数量(個) ,下段:金額(千円) 生産 区 分 一眼レフ用交換レンズ合計 35 mm 用レンズ デジタル専用レンズ 総出荷 日本向け 日本向け以外の出荷合計 累計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 累計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 累計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 累計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 15,879,807 124.5 15,654,542 125.1 1,901,898 114.2 13,752,644 126.8 247,339,763 127.2 349,167,761 119.6 47,283,572 112.7 301,884,189 120.7 4,323,303 110.1 4,314,668 110.2 387,495 75.3 3,927,173 115.4 104,161,881 119.2 153,693,330 115.7 16,961,194 91.7 136,732,136 119.6 11,556,504 131.0 11,339,874 131.9 1,514,403 131.7 9,825,471 131.9 143,177,882 133.7 195,474,431 122.8 30,322,378 129.3 165,152,053 121.7 カメラ用交換レンズには交換式の標準レンズを含む.(24 ミリ専用交換レンズを除く) (カメラ映像機器工業会統計より) 図 4 には 2004 ~ 2008 年の 5 年間にわたる総出荷数量 / 金額 上に金額の落ち込みが目につくのは,より機器の低価格化が 推移を示している.デジタルカメラの伸長に対し,フォトプ 進んでいることを意味することになる. リンターの伸びは比例していない.家庭プリントをが頭打ち 本項を執筆するにあたっては一般社団法人カメラ映像機器 なのだろうか,それとも撮影はしてもプリントはしないとい 工業会(CIPA)の統計資料,並びに Photo Imaging Expo 2009 う現れだろうか.いずれにしても 2005 年にピークを迎え,そ 市場動向セミナーにおける CIPA 調査統計作業部会部会長根 の後徐々に出荷数量,金額とも低下してきているが,数量以 上拓氏による『CIPA 統計実績・市場予測』の資料を引用さ 2008 年の写真の進歩 図 3 2004 ~ 2008 年一眼レフ用交換レンズ総荷出数量推移 (カメラ映像機器工業会統計資料より) 161 図 4 2004 ~ 2008 年フォトプリンター(A4 未満)総出荷数量と金額 推移 (カメラ映像機器工業会統計資料より) 表 8 民生用 A4 未満フォトプリンター出荷実績表 上段:数量(台) ,下段:金額(千円) 総出荷 区 分 A4 未満フォトプリンター計 日本向け 累計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 1,995,629 99.7 17,149,878 84.1 累計 1 ~ 12 月 日本向け以外の出荷合計 前年同期比 (%) 累計 1 ~ 12 月 前年同期比 (%) 523,248 86.6 1,472,381 105.4 4,971,586 78.5 12,178,292 86.7 ※調査対象製品:民生用の A4 未満で,かつ PictBridge を標準搭載したフォトプリンター (カメラ映像機器工業会統計より) せていただいた. もので,本年度は 2008 年 4 月 1 日から 2009 年 3 月 31 日ま 1.2.2 新製品 での期間となっている.今回,これに該当する機種は 184 台 1 年間に日本国内で発売されるカメラはどのくらいあるだ である. ろうか.昨年までは最大限漏らさず各社均等にとピックアッ いずれの選考も,カラーバージョンの違いによる新製品は プしてきたが,紹介には数の上で限界があり,貴重な誌面を 除外しているが,毎年カメラの新製品は,100 機種を軽く越 大幅に費やしてしまうのではという危惧から,今年は私見で えていることは間違いない. はあるが,主だったものを抽出することにした. まず国内で発売されるカメラの台数だが,日本カメラ財団 ①銀塩写真関連 〈銀塩フィルム・印画紙〉 の「歴史的カメラ審査委員会」が,毎年国内で発売されたカ コダックは T 粒子を使用した感度 400 の黒白フィルム メラをピックアップしており,2008 年 1 月から 12 月までに 「T-MAX400」を従来品より粒状性を向上させ 1 月に発売.サ 発売されたカメラは 123 台とされている. 歴史的カメラとは,その年に発売された日本のカメラで, イズは,135-36,120,4×5 インチの 3 種. コダックは,スキャナー特性をもたせ,従来品より微粒子 「技術史的に意義ある日本最初の試みがされている」か,もし 化を図り,肌色再現を向上させたプロ用カラーネガフィルム くは「市場において特に人気を博する」など歴史的に意義あ 「ポートラ 400NC/400VC」に順次切り替えると 3 月に発表し る機種が選ばれている.この歴史的カメラは“日本の”と冠 た.供給サイズは,NC:135,120,220(特注) ,4×5(特注) , 詞をつければおわかりいただけると思うが,海外メーカーの 8×10(特注),VC:135,120,220. コダック,ライカ,ハッセルブラッド,ローライなど,さら にトイカメラは含まれていない. コダックは,映画用のコダック VISOIN フィルムテクノロ ジーを組入れることにより,ISO100 カラーネガフィルムにお もうひとつ,毎年国内で発売されるカメラのうち,技術的 いて世界最高の粒状性(2008 年 10 月現在)を実現した「プ に新規性があり優秀だと思われるカメラを日本国内のカメラ ロフェッショナル エクター100 カラーネガフィルム」を 10 月 雑誌編集者の集いである「カメラ記者クラブ」(加盟 13 誌) に発表. が選定するのが“カメラグランプリ”である.1984 年に第 1 〈銀塩フィルムカメラ〉 回目がスタートし,2008 年で 25 回目を迎えている.このカ 富士フイルムは,1 月 31 日からアメリカ・ラスベガスで開 メラグランプリの区切りは,毎年 4 月 1 日から翌年 3 月 31 日 かれた PMA ショーにて蛇腹折り畳み式の 120・220 フィルム までの間に発売された,国内外のカメラすべてが対象となる 用 6×6 cm・6×7 cm 判切り替え可能なレンジファインダー式 162 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) カメラ「フジフイルム GF670」を発表した.レンズは EBC フ 一眼レフではレンズの周辺光量を補正するなど撮影画質の ジノン 80 mm F3.5,シャッターは電子制御式のレンズシャッ 向上を図るほか,ライブビュー,さらには動画機能を持たせ ターで,マニュアルセットの他絞り優先 AE が可能.仕様の る機種が目につく.また,レンズ非交換の一眼タイプではズー 詳細は 9 月 23 ~ 28 日にドイツ・ケルンメッセでのフォトキ ムレンズの高倍率化が進み,10 倍から 15 倍が当然となって ナ時に公表され,発売は年内とされていたが,2009 年にずれ いる.これらはボディと一体化されたことによる高倍率ズー 込んだ. ムが,手ぶれ補正機構と相乗的に機能すると考えられ,フィ マミヤデジタルイメージングは,フェーズワン A/S 社との ルムカメラ時代にはブリッジカメラなどと称されていたの 共同開発により,デジタルバックとの連携をより高めた, が,デジタルでは 1 ジャンルを確実に確保しつつあることだ. 6×4.5 cm 判フィルムバック交換式一眼レフカメラ「マミヤ コンパクトカメラでは,手ぶれ補正,顔認識,動体追随 AF 645AFDIII」を 4 月に発売.ボディのみ 416,850 円,120/220 などが基本的な流れであるが,さらにどのような新機能を付 ロールフィルムホルダー 124,950 円. 加するかが,各社頭のひねりどころだ. 駒村商会は,マガジン交換により 6×4.5 cm 判,6×6 cm 判, デジタルバックと使い分けできる中判一眼レフカメラ「ロー これは,何もコンパクト機にだけ共通したことでなく,レ ンズ交換可能な一眼レフ,一眼タイプなどいずれにも共通し ライフレックス Hy6」を 4 月に 1,321,950 円で発売.デジタ たことで,1000 万画素で半切相当,2000 万画素で全紙相当 ルカメラバックは,ジナーとリーフのものが装着可能. を実用上カバーするため,プロ・アマチュア用を問わず,PC 富士フイルムは,インスタントカメラ「チェキ」シリーズ の発売 10 周年を記念した「instax mini7S チェキ」ホワイトと チョコを 6 月に推定価格 6,000 円で発売した.フィルムサイ ズは 86×54 mm,画面サイズは 62×46 mm. の処理能力の問題を含めて,そろそろ画素数向上は一段落と いうことになるだろう. 以下に,2008 年のおもだった各社新型カメラを紹介しよ う. 駒村商会は,L 型アームを採用した 4×5 インチ判テクニカ シュリロトレーディングは,2 月にマルチショットタイプ ルビューカメラ「ホースマン L45」と「L45 プロ」を 8 月に のデジタル一眼レフ「ハッセルブラッド H3DII-39MS」を 発売.L45 プロには,チルト機構を 40 mm の範囲で自由に移 6,825,000 円で発売.3.9 Mp,36.7×49 mm の CCD を搭載. 動できる M.F.D. 機構を備えている.L45:281,400 円,L45 プ ロ 312,900 円. ②デジタルイメージング関連 〈デジタルカメラ〉 かつてフィルムカメラの時代にはカメラの分類はそれなり に行えたが,デジタルの時代にはそのカテゴリーには入らな いものもいくつか登場してきている. CIPA では,大きくレンズ交換式一眼レフタイプとレンズ一 体型と分類しているが,ここではそれぞれ外観がイメージで きるようにと,コンパクトタイプ,一眼レフ,一眼タイプと いうような分類をしている. それぞれの機種に共通したことは,高画素化が着実に進ん ニコンは,2 月に APS-C 判 10.2 Mp CCD 搭載の一眼レフ 「D60」を発売した.画像編集メニューには,簡単レタッチと RAW 現像,ストップモーション作成機能を持ち,パソコンの 苦手な人でも楽しめるようにと工夫されている.推定価格は 7.5 万円. カシオ計算機は,静止画,動画,音声など 30 に及ぶシー ンを設定 したベ ストショ ット 機能を 搭 載した 1/2.5 型 8.1 Mp CCD のコンパクトカメラ「エクシリムズーム EX-Z80」 を 2 月に発売. ペンタックスは,3 月に APS-C 判では 14.6 Mp と高画素タ イプ一眼レフ「K20D」をボディのみ推定価格 15 万円で発売. 撮像板は CMOS で,韓国サムスンテックウインとの共同開発 でいることで,コンパクトタイプでも 1400 万画素超えのも である.ペンタックスとしてはライブビュー初搭載のモデル. のが登場しており,レンズ交換式の一眼レフではフルサイズ 富士フイルムは,11.1 Mp 2/3 型スーパー CCD ハニカム HR で 2,000 万画素超えの機種が複数登場して,価格も一部機種 を搭載し,35 mm 判換算 28 ~ 400 mm 相当の 14.3 倍高倍率 は実勢で 30 万円を割るほどだ. ズームレンズ一眼タイプ一体型カメラ「ファインピックス 35 mm 判フィルムの情報量は 2,000 万画素に相当するとい S100FS」を 2 月に推定価格 10 万円で発売.リバーサル調の われて久しいが,L 判・2L 判を主とするミニラボ機では作業 画像再現をするフィルムシミュレーションモードを特徴とす 効率の低下が問題となっており,200 ~ 300 万画素相当にダ る. ウンさせる専用ソフトが発売されている.かつてフィルムカ ソニーは,一眼レフ α シリーズの普及機として APS-C 判 メラの時代の画質評価は 6 切か 4 切に引き伸ばして行うのが 10 Mp CCD の「α200」を 2 月中旬に,14.2 Mp CCD の「α350」 一般的であったが,デジタルのインクジェットプリンターは を 3 月中旬に発売.α350 はペンタ部にライブビュー用の撮像 家庭でも A3 ノビ,ほぼ半切相当をプリント可能としており, 素子を置き,切り替えによりファインダースクリーンの像を 新しい画質評価の基準であると同時に,プリント展示時の標 映し出すためにミラーアップの必要がなく従来からの AF セ 準となっている.ダースト社のラムダなどに代表されるカ ンサーを使うため動作がクイックである.推定価格は α200 ラーペーパー用のプリンター,業務用インクジェットプリン は 7 万円.α350 は 10 万円. ターともメートル幅を使うのが日常的で,写真展示用プリン トは大型化されているのが昨今の傾向だ. キヤノンは 3 月に 12 Mp CMOS を搭載した一眼レフ「EOS Kiss X2」を発売.ライブビュー機能を搭載.ボディのみ推定 2008 年の写真の進歩 163 9 万円だが,18 ~ 55 mm IS のレンズキット付きで 10 万円, 人まで高め,スマイルキャッチや撮影した瞬間の目つぶりを 55 ~ 250 mm IS のダブルズームキット付きで 13 万円と価格 カメラが教えてくれる“まばたき検出”などの機能も備えた 戦略機である. 水深 4 m までの防水カメラ「オプティオ W60」を 6 月に推定 シグマは,20.7×13.8 mm の大型 FOVION X3 センサーを使 価格 4 万円で発売. うコンパクトカメラ「DP-1」を推定価格 10 万円で 3 月に発 ニコンは,フルサイズデジタル一眼レフ D3 の普及タイプ 売.搭載レンズは 35 mm 判換算 28 mm の単焦点.FOVION として「D700」を 7 月からボディのみ推定価格 33 万円で発 X3 センサーは 2,652×1,768×3 層で 14 Mp 相当となる. 売した.カメラ機能としてはファインダー視野率が D3 は 100 ニコンは,5 倍ズーム付き,10 Mp 1/2.5 型 CCD で,笑顔 %であったのに対し,D700 では 95%におさえたほかは大き を認識してシャッターを切るモードを搭載した「クールピク く変わるところはない.撮像素子は D3 と同一の 12.1 Mp の ス S550」を推定価格 3.8 万円で 3 月に発売. CMOS で,D3,D300 で導入されたレンズの倍率色収差補正 オリンパスは,高さ 2 m からの耐落下衝撃機能を装備し, に加え,レンズの周辺光量低下を調整できる“ヴィネットコ 水深 10 m までの完全防水機能を備え,1/2.33 型 10.1 Mp CCD ントロール”機能を備えている(既発売の D3 はファームウ 搭載で,3.6 倍ズーム付き「μ1030SW」を推定 5 万円で 3 月 エアアップで対応). に発売. リコーは,24 mm 相当からの 3 倍ズーム搭載で 12.1 Mp 1/ カシオ計算機は,1/1.8 型 6.6 Mp CMOS を採用し,毎秒 60 1.7 型 CCD を採用した「GX200」を 7 月から推定価格 6.5 万 コマの高速連写や最大 1200 fps 高速動画撮影の可能な一眼タ 円で発売.ディストーション補正機能が入っていて ON/OFF イプカメラ「エクシリムプロ EX-F1」を 3 月に推定価格 13 万 できる. 円で発売した. 松下電器産業は,1/2.33 型 10.1 Mp CCD を搭載し 35 mm 判 キヤノンは,被写体の動きを検知してブレ軽減やノイズ軽 換算 27 ~ 486 mm 相当の 18 倍ズームを組み込んだ一眼タイ 減の制御を行うモーションキャッチ技術や顔認識技術を取り プ一体型カメラ「パナソニックルミックス DMC-FZ28」を推 入れた 1/2.5 型 8 Mp CCD 搭載の 3 倍ズームコンパクト「IXY 定価格 5 万円で 8 月に発売. デジタル 20IS」を 3 月に推定価格 3.5 万円で発売. 松下電器産業は,1/2.33 型 10.1 Mp CCD を搭載し,35 mm オリンパスは,小型・軽量にこだわったフォーサーズ一眼 判換算 25 mm 相当からの 5 倍ズームを組み込んだコンパクト レフとして 10 Mp LiveMOS センサー搭載の「E-420」を 4 月 カメラ「パナソニックルミックス DMC-FX37」を推定価格 4.3 にボディのみ推定価格 6 万円で発売した.既存 E-410 の後継 万円で 8 月に発売.追尾 AF 機能ほか,シーンモードにピン 機でライブビュー機能,画像エンジンを進化させた. ホールやサンドブラストなどの効果をもつ. ソニーは,1/2.5 型 8.1 Mp CCD を搭載し 35 mm 判換算 ニコンは,APS-C 判の一眼レフとして 12.3 Mp CMOS 撮像 38 ~ 380 mm 相当の 10 倍ズームを組み込んだ一眼タイプ一 素子の「D90」をボディのみ推定価格 12 万円で 9 月に発売し 体型カメラ「サイバーショット DSC-H10」を推定価格 4 万円 た.既存の D80 のスペックアップ機になるが,ライブビュー で 4 月に発売. に加え,撮影後に傾き補正,歪曲補正,魚眼レンズ効果など ソニーは,大人と子供を自動判別する新スマイルシャッ ターを搭載した 1/2.3 型 10 Mp CCD 使用の 5 倍ズームコンパ の画像補正編集機能に加わり,1,280×720 ピクセルのハイビ ジョン動画撮影も可能となった. クト「サイバーショット DSC-T300」を推定 4.8 万円で 3 月に オリンパスは,水中 3 m での撮影や耐衝撃性能などを備え 発売した.カメラお任せシーン認識により,逆光,逆光&人 た 1/2.33 型 10.1 Mp CCD 搭載のコンパクト機「μ1050SW」を 物,夜景&人物,三脚夜景を自動認識し,適切な撮影をする 推定 4 万円で 9 月に発売.手袋をしたままでも操作ができる という. ようにと,ボディ側面をとんとんとたたくと一部機能の設定 ニコンは,1/2.33 型 10.1 Mp CCD を搭載し 35 mm 判換算 が行えるタップコントロール機能を組み込んでいる. 27 ~ 486 mm 相当の 18 倍ズームを組み込んだ一眼タイプ一 オリンパスは,1/2.3 型 10 Mp CCD を搭載し 35 mm 判換算 体型カメラ「クールピクス P80」を推定価格 5 万円で 4 月に 26 ~ 520 mm 相当の光学 20 倍ズームを組み込んだ一眼タイ 発売. プ一体型カメラ「キャメディア SP-566UZ」を推定価格 5 万円 ソニーは,1/2.3 型 9.1 Mp CCD を搭載し 35 mm 判換算 31 前半で 9 月に発売. ~ 465 mm 相当の 15 倍ズームを組み込んだ一眼タイプ一体型 ニコンは,1/1.75 型 13.5 Mp CCD を搭載し,28 mm からの カメラ「サイバーショット DSC-H50」を推定価格 5 万円で 4 4 倍ズーム,マニュアルを含む 4 つの露出モードや独自 RAW 月に発売. 記録のできるコンパクト機「クールピクス P6000」を 9 月に キヤノンは,デジタル一眼レフシリーズの APS-C 判ローエ 発売.GPS を内蔵しており撮影位置情報を付加できる. ンドモデル機として 10.1 Mp CMOS 採用の「EOS KissF」を キヤノンは,APS-C 判の一眼レフとして 15.1 Mp CMOS 撮 KissX2 より実勢で 2 万円低価格のボディのみ 7 万円で 6 月に 像素子の「EOS50D」を 9 月下旬にボディのみ推定価格 15 万 発売.18 ~ 55 mm IS レンズ付きで 1 万円高の 8 万円となる. 円で発売.既存の EOS40D のスペックアップ機だが,記録画 ペンタックスは,10 Mp 1/2.3 型 CCD 搭載,5 倍ズーム付 素数の増加に加え,ライブビューと顔認識を組み合わせた きで,顔認識 AF&AE 機能で,一度に認識できる顔を最大 32 モードなどをもつ. 164 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) ライカカメラ社は,9 月 23 ~ 28 日にドイツ・ケルンで開 キヤノンは,1/2.3 型 10 Mp CMOS を搭載し 35 mm 判換算 催されたフォトキナ 2008 にて,18×27 mm・10.3 Mp CCD の 28 ~ 560 mm 相当の光学 20 倍ズームを組み込んだ一眼タイ レンジ フ ァイ ン ダ ー 機「ラ イ カ M8.2」,30×40 mm の プ一体型カメラ「パワーショット SX1 IS」を推定価格 7 万円 37.5 Mp CCD を搭載の新中判一眼レフシステム「ライカ S2」 で 12 月に発売.最大 4 コマ / 秒の連写機能,1920×1080 ピク と 9 本の交換レンズシステムを発表. セル / 30 fp のフル HD 動画機能を備えている. レ ン ジ フ ァ イ ン ダ ー ラ イ カ 用 に は,ノ ク チ ル ッ ク ス オリンパスは,フォーサーズ規格の一眼レフ「E-30」を 12 M50 mm F0.95ASPH.,ズミルックス M21 mm F1.4ASPH. など 月にボディのみ推定 15 万円で発売.12.3 Mp CMOS を搭載, チャンピオン F 値レンズも加わっている.M8.2 を除くと,発 同社一眼レフラインナップのなかで中間に位置する.画面サ 売は 2009 年の予定. イズは,フォーサーズオリジナル 4:3 のほか,1:1,3:2,5:4 シグマは,フォトキナにて 20.7×13.8 mm の大型 FOVION X3 センサーを使うコンパクトカメラ「DP-1」のバリエーショ ンとして 35 mm 判換算 41 mm 相当のレンズを搭載した「DP2」を,同くじ FOVION X3 センサーを使う一眼レフ「SD15」 など 9 種類を選択でき,モノクロ,ポップアートなど全 6 種 類のアートフィルターを撮影時に選ぶこともできる. 〈IJ 用紙 / プリンター / スキャナー〉 この分野では久しぶりに新しいプリント方式を用いた製品 を画質と処理速度を向上させた新モデルとして発表した.発 が登場している.米国 Zink Imaging が開発したプリント技術 売は 2009 年の予定. で,Zink ペーパーという専用紙を用いることでインクを使わ パナソニックは,4/3 型 12.1 Mp の CMOS 撮像素子のマイ ずにフルカラーのプリント得られる.白い Zink ペーパーには クロフォサーズ規格を採用した初の一眼タイプレンズ交換式 YMC の色素カプラー層がポリマーコートとベースの間に挟 カメラとして「ルミックス DMC-G1」を 10 月にボディのみ まれており,加熱による画像が得られるというものだ.製品 推定 8 万円で発売.マイクロフォーサーズは,フランジバッ はデル社からプリンター,ポラロイド社からモバイルプリン ク長を従来フォーサーズ規格の 1/2,マウント径を 6 mm 小さ ターとして,タカラトミー社とポラロイド社からプリンター くした規格のため,ボディは一眼レフスタイルをとっている 内蔵デジタルカメラとして発売されている.詳しくは http:// が,ミラーが省略されており,ファインダーはハイビジョン www.zink.com/ を参照のこと. カメラ用に開発された 144 万ドット,視野率 100%,倍率 1.4 以下,それぞれの新製品を追いかけてみよう. 倍の EVF が採用されている.新マウントのため,14 ~ 45 mm, セイコーエプソンは,写真館向けプリンターシステムクリ 45 ~ 200 mm ズームの 2 本が交換レンズとして用意された. スタリオの新ラインナップとして,証明写真を高速プリント ソニーは,デジタル一眼最上位モデルとしてフルサイズ するのに適したエントリーモデル(税別 39.8 万円)から,大 24.6 Mp CMOS 撮像素子を採用した「α900」を推定価格 33 万 量にプリントする大規模写真館に適したモデル(税別 89.8 万 円で 10 月に発売.ファインダー視野率は 100%,フルサイズ 円)までの「クリスタリオ PPPS-II」シリーズ 4 機種を 2008 では初の手ぶれ補正内蔵機であり,超広角から望遠まで最大 年 1 月下旬より発売.A1,B0 対応の大型プリンターをオプ 4 段の補正効果が得られる.メインミラーはスイングバック ションで付加可能. 方式を採用. キヤノンは,1/1.7 型 14.7 Mp CMOS 撮像素子採用のコンパ クト機「パワーショット G10」を 10 月に推定価格 6 万円で発 キヤノンは,従来からの製品の白色度,紙厚をアップした 「写真用光沢紙プロフェッショナル PR-201」を 7 月に発売. サイズは L 判~ A3 ノビまで. 売.光学ファインダーを搭載し,左肩に独立した露出補正ダ DNP フォトマーケティングは,昇華型プリンティングシス イヤル,右肩に感度とモードの 2 段ダイヤルを備えた同社コ テムの「ドライミニラボシステム NL-2000」を 7 月に発売.L ンパクトのフラッグシップ機. 判から 6 切 W まで対応し,L 判 1,000 枚の処理能力を持つ. タカラトミーは,米国 ZINK イメージング社が開発したイ セイコーエプソンは,広色再現領域をもつ PX-P/K3(VM) ンク不要の熱現像 ZINK 紙を使うサーマルプリンター内蔵の インクジェットプリンターとしてブルー,マゼンタ領域の色 デジタルカメラ「Xiao(シャオ)Tip-521」を 11 月 21 日に発 域を拡大した 8 色顔料インクの「PX-5600」を 6 月に推定価 売.専用紙は 76×49.6 mm,裏面はシールで,20 枚パック(10 格 90,000 円で発売.最大プリントサイズは A3 ノビ. 枚 ×2)で供給される.35 mm 判換算 39 mm 相当 F3 の固定焦 キヤノンは,A4 までの反射原稿と 35 mm フィルムを取り 点レンズ付きで,撮像素子は 1/2.5 型 5 Mp の CMOS.内蔵メ 込める解像度 4,800 dpi・CCD のフラットベットスキャナー モリー 16 MB,SD カードに記録可能.サイズは 149.5×74.5× 「キヤノスキャン 5600F」を 8 月に推定 19,980 円で発売.ま 25 mm.本体 34,800 円,専用紙は 880 円. キヤノンは,フルサイズ一眼レフの EOS5D の 3 年ぶりの リニューアル機として「EOS5D MarkII」を 11 月下旬に,ボ た 4,800 dpi・CIS 使用の薄型フラットベットスキャナー「キ ヤノスキャン LiDE200」も同時期に発売.LiDE200 の PC と の接続は USB バスパワー接続のためケーブル 1 本でよい. ディのみ推定価格 30 万円で発売.撮像素子は CMOS,画素 富士フイルムイメージングは,付加価値プリントサービス 数は 21.1 mp で,常用感度は ISO6400 まで対応.レンズの周 メニューに対応した昇華型店頭デジタルプリントシステム 辺光量補正機能ほか,1,920×1,080 ピクセルのフルハイビジョ 「プリンチャオ Ex」の新タイプを 8 月 8 日に発売.プリント ン動画撮影も可能. サイズは L/2L/KG の 3 種,各種メディアへの対応ほか,高速 2008 年の写真の進歩 165 赤外線通信機能からの注文に対応.ネットワークを介し店内 MAXART シリーズとして,10 色 PX-P/K3 顔料インクと新世 のフロンティアに接続し大伸ばしプリントの受注も可能.価 代高速ヘッド MicroPiezoTF ヘッドを搭載したプロ用「PX- 格はオープン. ノーリツ鋼機は,640 dpi という高解像度レーザー露光エン H10000」(B0 プラス対応,税別 69.8 万円)と「PX-H8000」 (A1 プラス対応,税別 44.8 万円)を,11 月に発売. ジンを搭載したデジタルミニラボ「QSS-37HD シリーズ」5 日本ポラロイドは,米国 ZINK イメージング社が開発した モデル(3701HD,3702HD,3703HD,3704HD,3705HD)を インク不要の ZINK フォトペーパーを使う熱現像式モバイル 8 月初旬に発売.同一面積あたりの出力画素数は従来エンジ プリンター「PoGo(ポゴ)」を 11 月 20 日に発売した.専用 ンの 5 倍で,A3 サイズ出力で換算すると 7900 万画素相当と 紙は 2×3 インチ(4.98×7.2 cm)で,縁なしに仕上がる.デ なり.高画質で深みのある銀塩カラープリントを出力できる. ジタルカメラや携帯電話との接続は USB 端子,Bluetooh に 時間あたり 900 枚から 2,560 枚までシリーズ機の能力別に出 よる.ピクトブリッジにも対応.本体 120×72× 23.5 mm,重 力できる.アドビ社の DNG 変換技術が組み込まれ,デジタ 量 227 g.推定価格,本体 17,000 円.専用紙 10 枚 400 円,30 ルカメラの RAW 画像データに対応できる. 枚 1,100 円,50 枚 1,700 円. 富士フイルムは,有機溶剤をほとんど使用しない世界初の キヤノンは,高い質感をもつフラッグシップ光沢紙(300 水系塗布技術により,環境への負荷を軽減させた次世代の昇 g/m2,0.3 mm)として「写真用紙・光沢プロ プラチナグレー 華型フォトプリンター用ペーパー「FUJI FILM Quality Therml ドPT-101」を12月に発売した.サイズはL判からA3ノビまで. Photo Printer」を開発,秋から発売すると 8 月に発表. 1.3 企業 / 団体 / 人の動き 三菱電機は昇華型のデジタルプリンター「CP9800D」と ニコンカメラ販売は,2 月から社業や企業ビジョンを反映 タ ッ チ パ ネ ル 式 セ ル フ プ リ ン ト オ ー ダ ー 受 付 機「PT- させ,社名を「ニコンイメージングジャパン」と変更した. 6000MD」をシステム化した“クイックラボ”を 7 月に発売. 最大 2L まで,証明写真作成ソフトも内蔵.CP9800D:31.5 万円,PT-6000MD:44.1 万円 加賀ハイテックは「コダックフォトサロン」を銀座から文 京区本郷の同本社ビルに 2 月 12 日に移転した. 日本カメラ博物館は,かつて先進的,独創的な技術をもっ エプソンは,A4 までの反射原稿と 35 mm フィルムを取り て生産された昭和のカメラを中心に「ペトリ,ミランダ,ヤ 込める解像度 4,800 dpi・CCD のフラットベットスキャナー シカ…今はなき昭和のカメラ」展を 2 月 26 日~ 5 月 18 日ま 「GTF-720」を 9 月に推定 1 万円後半で発売.また A4 までの 反射原稿専用とした解像度 4,800 dpi・CCD のフラットベット スキャナー「GTS-620」も推定 1 万円で同時期に発売した. で開催した. ポラロイド社は,ポラロイドインスタントフィルムの生産 を 2008 年夏までに終了すると発表. キ ヤ ノ ン は,大 判 イ ン ク ジ ェ ッ ト プ リ ン タ ー image ケンコーは,引伸機の製造を行うグループ会社の藤本写真 PROGRAF シリーズの A1 ノビ(24 インチ)用紙サイズに対 工業を 2 月 29 日をもって合併した.合併後,事業はケンコー 応し写真などの高品位な画像出力用に 12 色顔料インクの 藤本写真事業部が引き継ぐ. 「iPF6200」(税別 35.8 万円)と,高画質と高い生産性が要求 東京六本木のミッドタウンに開設された「フジフイルムス されるポスターやデザインなどの用途に向けた 8 色顔料イン クエア」は 3 月 16 日に 1 周年を迎えた.スクエアは,ギャ クの「iPF6000S」(税別 29.8 万円)を 9 月 10 日に発売. ラリー,ミュージアム,ショールーム,ショップなどが併設 富士フイルム / 富士フイルムイメージングは,フロンティ され,この 1 年間に訪れた人は累計で 70 万人に達した. アシリーズの新ラインナップとしてインクジェット方式の オリンパスイメージングは 3 月 18 日,大阪市西区阿波座 「フロンティアドライミニラボ DL410」を 10 月に発売.すで にショールーム,修理受付,写真ギャラリー併設した「オリ に海外で先行発売されていた設置面積 0.5 平米という省ス ペース機器で,L サイズ 750 枚 / の処理能力を誇り,最大 4 ンパスプラザ大阪」を開設. カメラ映像機器工業会,写真感光材料工業会,日本カラー 切相当まで,光沢と半光沢も選択できる.幅 800× 高さ 589× ラボ協会,日本写真映像用品工業会の写真関連 4 団体は,3 奥行き 621 mm,重量 96 kg. 月 19 ~ 22 日までの 4 日間にわたって東京・有明のビックサ ノーリツ鋼機は,両面プリント機能を備えたインクジェッ イトにて“体感!写真の力,映像の未来”をテーマにして ト方式のドライミニラボ機「D502」を開発し,フォトキナで 「フォトイメージングエキスポ 2008」を開催.4 日間の入場 発表した.両面機能により,両面印刷のフォトブック,名刺, 者数は 86,459 人. グリーティングカードの作成が可能となる.最大ペーパー幅 ペンタックスは,3 月 31 日をもって HOYA 株式会社と合併 254 mm.本体サイズは 1056×760×722 mm,重量 102.8 kg. した.合併後カメラ関係は,PENTAX イメージング・システ コスモスインターナショナルは, 「ピクトランインクジェッ ム事業部となる. ト用紙」を 10 月に発売.面状は,福井越前和紙を基紙とす 全日本カメラクレジットチェーン会は,4 月 1 日付けで全 る“局紙” ,パルプ基調生成用紙の“バライタ”,PET ベース 日本写真材料商組合連合会と合併・統合した.合併により全 の“クリスタル”,PET ベースに金属を蒸着した“メタル”の 連傘下の組合店 2,300 店でもクレジットカード発行事業を展 4 種で,サイズは A4 から A3 ノビまで. 開する. セ イ コ ー エ プ ソ は,大 判 イ ン ク ジ ェ ッ ト プ リ ン タ ー インクジェットプリンターメーカー 6 社(ブラザー,キヤ 166 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) ノン,デル,エプソン,日本 HP,レックスマーク)は,4 月 値上げすると 6 月に発表. 8 日よりインクジェットカートリッジ里帰りプロジェクトと 日本カメラ財団が運営する写真関連書籍の専門図書館であ して,使用済みカートリッジの共同回収を日本郵政グループ る「JCII ライブラリー」では,6 月 1 日から蔵書のインター と協力して,全国主要郵便局 3,638 局に回収箱を設置した. ネットによる検索サービス(http://www.jcii-cameramuseum. 集まったカートリッジは仕分け作業所に送られ,各社の責任 jp/)を開始した.これにより,自宅 PC でいながらにして, において再資源化される.これにより 10%の回収率を 10 ~ 一般写真書籍のフリーワード検索の他,アサヒカメラ,カメ 25%アップさせる. ラ毎日,カメラレビュー,写真工業などの定期刊行物は創刊 キタムラグループは,グループ企業のラボネットワーク・ フォトセミナー事業部が運営してきた写真愛好家の集う写真 クラブ「フォトカルチャー倶楽部(PCC)」を「NPO 法人フォ 号から近号までを,商品名,会社名,著者名,作家名などで 目次検索できることになった. エプソン販売は,1998 年に開設した新宿三井ビル 1 階のイ トカルチャー倶楽部」として発足させたことを 4 月 15 日に ンクジェットプリンターによる写真ギャラリー「エプサイト」 発表.5 年後には 10 万人規模の写真クラブを目指す. を 2 倍以上の面積に拡張し 6 月 10 日にリニューアルオープ ノーリツ鋼機とセイコーエプソンは,すでに行われている インクジェットミニラボ機器事業の強化と発展を図るため包 括的に業務提携を行うと 4 月 21 日に発表. ン.初回展示は「細江英公写真展 浮世絵うつし写真絵巻 / 鎌 鼬」など. 富士フイルムは,日本最大級の参加型写真展「“PHOTO IS” ニコン / ニコンイメージングジャパンは,ニコンサロン, 10,000 人の写真展 2008」を 7 月 2 日から東京ミッドタウンの ショールーム,サービスなどを併設した「ニコンプラザ大阪」 東京会場を皮切りに全国 20 都市で開いた.今回で開催は第 3 を大阪北区梅田のヒルトンプラザ・ウエスト・オフィスタワー 回となる. に 5 月 7 日に開設した. DNP フ ォ ト マ ー ケ テ ィ ン グ は,カ ラ ー ペ ー パ ー DNP 「CENTURIA ペーパー」を 5 月 21 日出荷分から平均 15%値 上げした. オリンパスイメージングと松下電器産業は,レンズ交換式 デジタル一眼レフカメラの規格であるフォーサーズシステム の拡張となる「マイクロフォーサーズ規格」を新たに策定し, 8 月 5 日に発表した.マイクロフォサーズ規格は,①フラン 富士フイルムと富士フイルムイメージングは,110 ポケッ ジバック(マウント基準面と撮像素子の間隔)をフォサーズ トフィルムを 2009 年 9 月に最終出荷を行い販売を終了する 規格の 1/2 に,②フォーサーズ規格よりマウント径を 6 mm と 5 月に発表. 縮小,③マウント電気接点を 9 点から 11 点に増やした,な 日本写真映像用品工業会は,デジタル一眼レフの急成長に どである.この規格からより小型なレンズ交換式カメラを製 伴い会員数が 67 社から 71 社へ拡大したと 5 月 28 日の定時 作することが可能となるが,フランジバックの短縮により光 総会で発表. 学式の一眼レフは作れなく,ミラーレスの EVF 機,レンジ 日本写真協会は,6 月 1 日写真の日に写真文化や国際交流, 写真界への貢献のあった人々に「日本写真協会賞」を贈って いるが,2008 年は,国際賞:マーティン・パー(英国),功 労賞:本多健一,文化振興賞:蒼穹舎,年度賞:鈴木理策, ファインダーやコンパクト機への展開が考えられ,さらに動 画機への対応も向くことになる. 富士フイルムは,イメージング事業の国内販売会社で 100 %子会社の富士フイルムイメージングを 2009 年 2 月 1 日付 鈴木龍一郎,瀬戸正人,作家賞:浅井愼平,十文字美信,学 で統合すると 9 月に発表.統合により事業企画機能と販売・ 芸賞:深川雅文,新人賞:石川直樹,前川貴行,屋代敏博, マーケティング機能の一体運営化により迅速で効率的な事業 特別賞:下山敏郎の各氏に贈呈された. 運営を進める. カメラ記者クラブは,カメラグランプリ 2008 の大賞に「ニ コン D3」を,カメラ記者クラブ特別賞には「シグマ DP-1」, 富士フイルムは,デジタルカメラ関連の新技術として 「FinePix Real 3D システム」と「スーパーCCD ハニカム EXR」 「ナナオ EIZO ColorEdge シリーズ」,「フジクロームベルビア を 9 月 24 日に発表.3D システムは,ファインピックス 10 周 50」を選定し,6 月 1 日写真の日に贈呈式を行った.2008 年 年を絡めて,カメラ,フォトフレーム,プリントからなるシ はカメラグランプリ 25 周年となることから一般ユーザが選 ステム.スーパー CCD ハニカム EXR は,RGB のハニカム配 ぶ“あなたが選ぶベストカメラ大賞”が設けられたが,こち 列を見直し,ノイズの少ない高感度,豊かな階調を再現する らも「ニコン D3」が選定された.また 25 周年を記念して日 ワイドダイナミックレンジ,高解像度という相反する特性を 本カメラ博物館にて「カメラグランプリ 25 周年記念展」が 5 1 つのセンサーで両立させた新世代の撮像素子.両技術とも 月 27 日から 8 月 31 日まで行われ,受賞歴代のカメラが展示 フォトキナでも発表され,2009 年の早い時期に商品化される. された. DNP フォトグループは,証明写真事業を展開する DNP ア ケンコーは,市川ソフトラボラトリーのデジタル画像処理 イディーイメージング,写真関連製品や機器を販売する DNP ソフト「SILKYPIX Developer」の販売を 6 月から開始した. フォトマーケティング,KIOSK 型セルフプリントシステムを 三菱製紙は,カラーペーパー「GRACE」を国内品,輸出品 販売する DNP プリントラッシュの 3 社を統合し新会社「株 とも 6 月 21 日出荷分から平均 15%の値上げを実施. 富士フイルムは,写真感光材料製品を 7 月以降 10 ~ 20% 式会社 DNP フォトルシオ」を 10 月 1 日に設立した.本社は 東京都中野区弥生町 3-35-13. 2008 年の写真の進歩 167 ライカカメラ社は,デジタルカメラバックなどを発売する 光学技術,電子写真技術,画像処理技術,デジタルカメラ技 フェーズワン社と戦略的提携関係を結んだと 10 月に発表.今 術などつねにその時代の先端技術の解説などとともに歩んで 後,両社はプロ市場向け商品技術の開発とマーケティングに きたが,近年は銀塩とデジタルとの継ぎ目のない写真技術を おいて協力し,効率的なサービス・マーケティング体制の展 指向して,多くの一般写真愛好家に支えられていた.最終号 開についても両社間で緊密な連携を図っていく. は通巻 716 号となった. コダックは,コダクロームの国内での販売終了に伴い 9 月 日本カメラ財団は,2008 年に発売されたカメラのうちシグ まで現像処理業務の仲介業務を行っていたが,10 月からは世 マ DP-1,カシオ エクシリムプロ EX-F1,ニコンクールピク 界で唯一処理を行っている米国ドウエイン社(http://www. ス P6000,ニコン D90,ソニー α900,パナソニックルミック dwaynesphoto.com/)に直接依頼することになる. 松下電器産業株式会社は,2008 年 10 月 1 日をもって社名 ス DMC-G1,キヤノン EOS 5D MarkII の 7 機種を「歴史的カ メラ」として選定した. を「パナソニック株式会社(Panasonic Corporation)」に変更 以上,本稿をまとめるにあたって,工業統計以外は例年通 した.また,グループ会社のうち「松下」 「ナショナル」を冠 り,月刊「写真工業」と「カメラタイムズ」を参考にし,そ する企業の社名変更についても「パナソニック」を冠する社 のほかは各社ニュースレリーズにあたってある.いずれもそ 名に変更. ニコンは,新規事業として Wi-Fi 通信機能によりインター ネットへの接続可能なヘッドマウントディスプレー UP シ のソースはオフィシャルな部分であり,詳細はそれぞれの キーワードにしたがい,各社・各団体 HP にある公式資料に さかのぼっていただきたい. リーズ 2 機種を商品化,12 月中旬から発売すると 10 月 7 日 に発表.モデルは,8 GB メモリー搭載の「UP300X」 ,4 GB メ 2. 銀塩感光材料 モリー搭載の「UP300」.販売はネット通販で行い,新しいコ ンテンツ配信までを行う. 2.1 理論および技術 写真感光材料工業会,写真流通商社連合会,全日本写真材 久下謙一(千葉大学) 料商組合連合会,日本カラーラボ協会,日本写真映像用品工 銀塩写真感光材料に関する研究の報告は急減した.アメリ 業会の 5 団体は,欧米で大きく伸びているフォトブックを日 カからの報告はほぼ皆無となった.ヨーロッパからの発表は 本でも普及拡大させるため 10 月 17 日「フォトブック普及協 わずか,日本からも少なくなった.中国からは中国語での発 議会」を発足させた.ユーザーにわかりやすいように,名称 表を含めてまだ比較的かなりの数の報告がある.旧共産圏か や規格の統一,プロモーション活動,マーケティング情報の らの発表も引き続きあった. 収集と提供などを行っていく.事務局は日本カラーラボ協会 内に設置. 乳剤調製の分野では,ホログラムなどの高解像度記録を目 的とした超微粒子乳剤の開発が続けられている. エグゼモード社は,YASHICA ブランドを保有する香港の 解像度を上げるためにはハロゲン化銀粒子サイズを小さく JNC Datum Tech International と提携し,日本市場における する必要があり,10 nm 以下のサイズの粒子を工業的に調製 YASHICA ブランドの権利を取得.その第 1 弾として 3 倍ズー する試みが続けられている. ム付き 1/2.5 型 8 Mp CCD「ヤシカ EZ F824」を 10 月に発売. Bjelkhagen ら(イギリス,北東ウエールズ大他)のグルー 京セラは 2006 年にヤシカブランドを JNC Datum Tech Inter- プはカラーホログラムのための超微粒子乳剤感光材料の製造 national に売却していた.同社は,デジタルカメラほかフィル プロセス構築について報告した.5 ~ 10 nm の超微粒子から ムカメラも手がける. なり,2.0 mJ cm–2 の感度を有し,パンクロマティクな特性を リコーは,東京銀座にある三愛ドリームセンター 8・9 階 にフォトギャラリー「RING CUBE」を 10 月 20 日に開設.リ コーの歴代カメラを展示するカメラゾーンと写真展示ほか ワークショップなどを行うクリエイティブゾーンがある. シグマは 11 月 11 日,独自の撮像素子「X3 ダイレクトイ メージセンサー」開発メーカーである米フォビオン(Foveon) 社を完全子会社化したと発表.フォビオンは,シグマとは 2000 年から業務提携を行っていた. 写真工業出版社は,1952 年創刊の月刊「写真工業」を 2008 年 12 月号(11 月 20 日発売)をもって休刊にした.写真工業 有するホログラム記録感光材料の製造プロセスを詳細に述べ た(PSPIE,6912,691209(14)). 一方,粒子サイズが小さくなると光の吸収量が減少するた め,感度が低下する.このため超微粒子乳剤の増感方法の研 究が進められている. Vorzobova ら(ロシア,セントペテルスブルグ州立大他) は,分光増感領域での高照度露光による超微粒子乳剤へのホ ログラム記録の特性を解析した.色素溶液の高照度露光時の 挙動の解析とホログラム記録の回折効率測定を平行して調べ た(High Energy Chemistry,42,232). は当時「光画月刊」を発刊していた北野邦雄氏により,写真 森本(千葉大)らは,超微粒子乳剤では固有感度も増感す 技術者の意見発表の場として当時の関連企業の賛同を得て創 る分光増感色素があることを報告し,ハロゲンアクセプター 刊されたが,時代の変革に応じて,その目的は十分に果たさ あるいは正孔トラップとして作用していると考察した(日写 れたとの判断から決断された. 「写真工業」は,AE,AF 化な 秋,19). どのカメラ技術のみならず,写真の応用技術,感光材料技術, 感光や現像の機構についての研究はきわめて少なくなっ 168 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) た,一方,分光増感の機構については,光化学的関心からも 砕反応について(日写誌,71,252),Dracos(パスツール大) 研究が続いている. は,ダブルベータ崩壊について, (日写誌,71,335) ,中ら(名 Grzesiak,Belloni ら(南パリ大)は,AgCl ナノ粒子の電子 大)は,ダークマター探索について(日写誌,71,341),青 ビームによるパルスラジオリシスにより生じる銀クラスター 木ら(神戸大他)は,宇宙 γ 線観察について(日写誌,71, を現像中心に,メチルビオローゲンを現像主薬に用いた系で 256),田中(東大)は,宇宙線ミュオンラジオグラフィにつ 現像過程を調べた.パルス照射後のメチルビオローゲンの減 いて(日写誌,71,318),平ら(名大他)は,ポータブル放 少と銀クラスターの増加を,両者の光吸収の時間変化から追 射線モニターについて(日写誌,71,324),高嶋ら(名大他) 跡した.現像の電子移動過程のシミュレーションとの比較は, は,シンクロトロン光施設における原子核乾板利用について 現像主薬の拡散ではなく,表面への到着と電子の移動が,全 (日写誌,71,327),河原林ら(名大)は原子力工学におけ 体の速度を律していることを示した(Radiation Physics and る原子核乾板利用について(日写誌,71,332),中野ら(名 Chemistry,77,713). 大)は,飛跡読み取り技術について(日写誌,71,229),ま Tyurin ら(ウクライナ,オデッサ国立大)は,色素 J 凝集 体のアンチストークスルミネセンスを測定し,励起色素の再 結合過程を調べ,そのメカニズムを提案した.これより最適 た Bozza(サレルノ大)も,飛跡読み取り技術について(日 写誌,71,234),解説した. これ以外にも,Kubota ら(名大他)は,飛跡から高エネル 増感色素濃度が求められた(Optics and Spectroscopy,104, ギー荷電粒子のエネルギーを求めるのに,単位長さあたりの 88) .さらにアンチストークスルミネセンスの研究から段階的 現像銀粒子数であるグレインデンシティ(GD)ではなく,ハ 2 光子吸収機構を提唱した.励起エネルギーは色素からハロ ロゲン化銀粒子上に形成された潜像核個数を求め,単位長さ ゲン化銀へ銀クラスターを介して移動し,正孔を捕獲したヨ あたりの潜像核個数線密度を算出して,推定する方法を示し ウ素ペア中心での再結合を介して,蛍光を生じるとした た.GD より測定エネルギー範囲が広く,精度が高い方法で (Optics and Spectroscopy,104,203). ある(PPIC’08,242). Miyashita ら(富士フイルム)は,カラー感光材料での色素 久下ら(千葉大他)は,ハロゲン化銀粒子サイズ,増感レ 形成過程での色素の挙動を,黄色色素を含むナノサイズのオ ベルを変えて感度を変化させた超微粒子乳剤での放射線飛跡 イル分散系という新しいモデル系を構築して,この系での色 の検出限界を求めた.ある感度レベル以下では飛跡が記録さ 素の挙動を光学的に解析した.色素の凝集の阻止と,凝集体 れず,この閾値から飛跡を形成した放射線の特性が推定可能 の S1 状態の寿命の短縮が,色素の光退色の防止に有効であっ であることを示した(日写秋,21). た.このために立体障害作用のある置換基を導入したカラー 銀塩写真は保存性に優れていることから,銀塩写真感光材 ペーパーが開発された(J. Photochemistry and Photobiology, 料を用いた画像保存システムが考えられている.大関(富士 A: Chemistry,194,129) フイルム)は,映画フィルムの保存の現状を報告した.デジ 大石(元富士フイルム)は,カラー銀塩写真感光材料の技 術革新の歴史を詳細に追い,分光増感の歴史(日写誌,70, 295(2007) ;70,334(2007) ,71,20)に続いて,発色現像の 歴史(日写誌,71,184;71,259;71,349;71,410)を詳述した. 熱現像タイプの感光材料の研究は特に中国で引き続き進め られており,中国語を含めた発表が多数ある. タルシステムで保存するより1/11 のコストで済むという試算 を紹介している(日写誌,71,400). 金沈着現像を用いた写真システムについての報告が引き続 いてあった. 久下ら(千葉大)は,金沈着現像後焼成することで得られ る金膜写真の調子再現特性について報告した.透過像と反射 Cao ら(中国科学院)は,水溶媒塗布系の熱現像型感光材 像でネガ像とポジ像が反転する特性を,調子再現曲線から解 料における新しい増感剤として,sodium benzenesulphinate 化 析した.反射像の方が調子の再現される領域が狭かった(日 合物が有用であることを報告した.約 30 倍の感度上昇効果 写誌,71,86). があり,最適の増感条件を詳細に調べた(ISJ,56,113). 放射線検出には昔から銀塩写真感光材料が用いられている が,高い空間分解能の必要な飛跡検出の有力な手段として, 2.2 感光材料用結合素材 大川祐輔(ゼラチン研究会) 2008 年度の日本写真学会誌ゼラチン賞は,谷貞子氏(ニッ 原子核乾板が核物理学,素粒子物理学などの分野では今も用 ピ)に贈られた.谷氏は,高速液体クロマトグラフィーを始 いられ,改良が図られている. めとする分析化学的手法をベースに,ゼラチンの不純物や反 日本写真学会誌には原子核乾板の特集が組まれた.ここで 応性,写真性に関する研究を長年続けられ,日本写真学会年 谷(富士フイルム)は,原子核乳剤の特性について(日写誌, 次大会や学術論文などでその成果を数多く報告されてきた. 71,308) ,丹生(名大)は,チャーム粒子の探索(日写誌,71, その知見は写真科学的に重要な示唆に富むものであり,それ 219)について,Strolin(ナポリ Federico II 大)は,ニュート らの成果が評価されての受賞となった. リノ振動の検出について(日写誌,71,239),仲澤ら(岐阜 ゼラチン研究会が主催する第 13 回ゼラチンシンポジウム 大他)は,ダブルハイパー核の探索について(日写誌,71, は,2009 年 3 月に千葉大学で開催され,4 件の講演があった. 245) ,歳藤(科学技術振興機構)は,核破砕反応について(日 2 件は最近とみに関心の高い,ゼラチンの健康,医用応用に 写誌,71,248),De Lellis(ナポリ Federico II 大)も,核破 関するもの,2 件は画像関連の話題であった.藤本(東京農 2008 年の写真の進歩 169 工大)はゼラチン,コラーゲンの経口摂取について,複数の Terentjev ら(英,ケンブリッジ大)は,水中およびエチレン 研究グループから報告されている学術研究を検討することか グリコール(EG)中でのゼラチンのヘリックス - コイル転移 ら,主に皮膚のコラーゲンのアンチエイジングに対する有効 について,粘弾性測定と旋光度測定,示差走査熱量測定から 性を論じた.「よさそう」という体験談に基づくのではなく, 検討した.単位へリックスがランダムコイルに転移するとき 生理学的,医学的に制御された実験的証左を得ること,そし のエンタルピー変化は,へリックス濃度やヘリックス形成時 てそれを正しく敷衍していくことの必要性を述べた.田中 の温度には依存しなかった.EG 中のへリックスは水中より (ニッピバイオマトリクス研)は,医用ゼラチンの開発につい 不安定であったが,それは EG 分子が大きいため,水分子の て解説した.ゼラチンは高い生体適合性と生分解性を持つこ ように鎖間の水素結合を仲立ちできないことによるとした. とから,再生医療においても重要な素材と位置づけられてい 貯蔵弾性率はどちらの溶媒でもヘリックス濃度に依存した る.ここでは,とくに低エンドトキシンゼラチンと低アレル が,EG 中ではヘリックス長が短くなるためにゲル転移の臨 ゲン性ゼラチンについての実例が紹介され,ゼラチンの分子 界濃度が低下するとした(Soft Matter,4,544).Hawkins ら レベルの理解と制御,不純物除去などによる高機能化の興味 (英,ウェールズ大スウォンジー)はフーリエ変換力学スペク 深い例が示された.山本(便利堂)は,同社の持つユニーク トル法を用いてゼラチンのゲル化を調べた.この方法は単純 な多色コロタイプ印刷の技法について,豊富な実例を示しつ な正弦波振動ではなく,その倍音成分を含めた合成波で振動 つ解説した.ゼラチンをキーマテリアルとするこの技法は現 を与え,応答をフーリエ変換して力学スペクトルを得る方法 在ではほとんど使われなくなっているが,無粒子,連続階調 であり,これを用いることで一回の測定で複数の周波数での 等,他の印刷技法にはない特徴を持っている.同社では重ね 経時変化を解析することができる.この方法を用いて,すで 刷り技法を用いた多色化技術を完成させ,文化財の精緻な複 に提案している速いヘリックス核形成と遅いヘリックス成長 製作製に適用している.印刷物の品位等の完成度は高いもの からなるゲル化モデルと,従来行われてきた粘弾性測定の解 の,製版工程の環境対応等,現在でも材料レベルからの課題 釈の問題点を議論した(J. Non-Newtonian Fluid Mech.,148, が残されていること,技術の継承に問題が発生しつつあるこ 127).Mason ら(米,カリフォルニア大)はゼラチンゲル中 と等も述べられた.山口(東京都写真美術館,千葉大)は写 に埋め込んだ μm サイズの α- エイコセンのディスクをレーザ 真資料の保存における燻蒸処理の影響を解説した.一般に, 光で駆動することで,光強度とディスクの変位から微小領域 写真の劣化評価は変退色に基づいて議論されることが多い でのレオロジー特性を測定できることを示した(Phys. Rev. が,ゼラチンバインダーの劣化評価に,冷水抽出で得られる E,77,055101).彼らは方法開発のモデル系としてゼラチン 分解フラグメント成分のサイズ排除クロマトグラフィー分析 を用いたが,ゼラチン自体の微視的粘弾性挙動の解析自体も を導入した点が注目される.写真の保存状態や劣化程度の指 興味深い.Rbii ら(仏,トゥールーズ大,ルスロー)はゼラ 標としての可能性がある. チンの分子量分布の測定に多角度光散乱検出器を組み合わせ 写真用結合材料としては現在もゼラチンが代替不能な材料 た非対称流フィールドフロー分画法を適用した.フィールド として使われている.直接的に写真応用を目的とする研究報 フロー分画法は,広く使われているサイズ排除クロマトグラ 告は少なくなったが,注目すべき報告もなされた.Howe ら フィーに比べて高分子量側の測定に強いという特徴がある. (英,コダック欧州研)は,オイルプロテクト型感材のモデル これを用いて,加熱劣化処理したゼラチンの分子量分布の変 として,アニオン性界面活性剤(Alkanol-XC)とゼラチンの 化を調べ,加熱処理によって巨大な会合体が生成することを 存在下でのナノエマルションの安定性を調べた.ゼラチン分 見出した.処理時間が長くなると溶解性の低下も見られた. 子は界面活性剤ミセルと複合体を形成して,油滴界面に吸着 し,連続相の粘度や油滴の体積に影響する.その結果,系は 巨大会合体は熱による架橋によって生じていると考えられた (Food Hydrocolloids,23,1024). 高い粘度と強いシアシニングを示す.ここにゼラチンと ゼラチンの架橋,硬膜に関する研究も依然として続いてい Alkanol-XC の相互作用を弱めるような界面活性剤をさらに添 る.Abete ら(イタリア,ナポリ“フェデリコ II 世”大ほか) 加した.とくに親水基にノニオンとカチオンの両方をもつタ はゼラチンと架橋剤の反応速度をモンテカルロシミュレー イプの活性剤が,低剪断速度領域での粘度低下とシアシニン ションで検討し,実験データと比較した.架橋反応速度はゼ グの抑制に対して有効であった.これは油滴へのゼラチンの ラチン濃度,架橋剤濃度のほか,pH の影響を強く受けた.架 吸着を減少させるためである.一方,高濃度のカチオン性活 橋剤濃度が低いときにはゼラチン分子のループ形成などでゲ 性剤では油滴の凝集や合一を招く場合があった(Adv. Colloid ル形成が抑制され,逆に高濃度のときは反応サイトの不足に Interface Sci.,144,24) .彼らは二つの糖親水基を持つ新規な よって架橋剤が単一の結合しか作れないことにより効果が飽 ノニオン界面活性剤の添加効果についても調べ,写真工業で 和する(J. Chem. Phys.,129,134902) .Vargas ら(メキシコ, 利用する上で最適なアルキル鎖長を求めた.アニオン活性剤, CINVESTAV ほか)はエチレングリコールジグリシジルエー ノニオン活性剤の併用で,多層塗布に必要な動的表面張力を テル(EGDE)による架橋反応を調べた.架橋程度は膨潤度, 144, 30) 満たすことができるとした (Adv. Colloid Interface Sci., . FT-IR,13C-NMR で評価した.ゼラチン濃度 13%では,10wt ゼラチン自体の研究は,基礎,応用の両面から盛んに行わ %の架橋剤添加でアミノ基は完全に消費された.3wt%以上 れ続けている.まず基礎的な物性についての研究を紹介する. の架橋剤添加では,pH が 7.4 から 9 の範囲では pH とともに 170 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) 膨潤度が減少したが,pH 9 以上では逆に膨潤度は増加し,ゼ 与えた.高圧水銀灯光の照射で透明溶液から膨潤膜に変化す ラチンの変性と過剰OH– による架橋反応の抑制が考えられた る.傷口の保護や止血剤への適用可能性を述べている(J. (Mater. Lett.,62,3656). Appl. Polymer Sci.,109,589).画像形成等への応用も考えら 写真用結合材料はゼラチンをベースとして,さまざまな添 れるかもしれない.ゼラチンのようなヒドロゲルの膜を電解 加物を併用することで物性の制御が行われている.これと関 質溶液中に置き,電場を印加すると膜が曲がる現象が知られ 連して,さまざまな観点からゼラチンベースの複合材料の研 ており,ソフトアクチュエータへの応用可能性が検討されて 究が行われてきた.多糖類やポリビニルアルコールを添加し いる.Haider ら(韓国,慶北大)はゼラチンとキトサンのブ た系についての研究は,現在も基礎,応用の両面から数多く レンド皮膜が,高い膨潤性と水中での安定性を持ち,大きな 報告されている.最近では魚由来のゼラチンとの組み合わせ 電気メカノケミカル挙動を示して電場による屈曲が増大する が多い.無機材料も生体適合性複合材料としての応用を意識 ことを報告し,ゼラチンとキトサンの静電的な結合による した研究が数多く見られるが,ここでは無機系ナノ材料との ネットワーク形成と多孔性のゲル構造形成によるゲル内への 複合系を紹介する.Carn ら(仏,コレージュ・ド・フランス イオン拡散の向上によるとした(Soft Matter,4,485).深江 4– ほか)はデカバナデートクラスタ([H2V10O28] )がゼラチン ら(兵庫県立大)はゲル紡糸法を用いて引き延ばし特性に優 のゾルゲル変換に及ぼす影響を調べた.このクラスタは,ゾ れたゼラチンファイバーを調製した.引き延ばしによって ル中ではゼラチンの正荷電との静電的相互作用によって物理 ファイバーの機械的強度は著しく増加した.X 線回折から三 的架橋剤として働き,系の粘度を増加させる.ゲル化時には 重らせん構造が繊維方向に集合していることが示され,高い ヘリックス形成がわずかに促進されるが,ヘリックスが増え 強度の要因と考えられた.γ 線照射とグルタルアルデヒド処 てくると貯蔵弾性率はヘリックス濃度に支配された. 一方で, 理で強度はさらに増加した(J. Appl. Polymer Sci.,110,4011) . C 以下ではヘリックスはクラスタの ゲルの融解挙動から,50° Ethirajan ら(独,ウルム大ほか)はグルタルアルデヒドで架 存在によって安定化されていることが示された.この安定化 橋されたゼラチンのナノ粒子の簡便な調製法を開発した.粒 はコラーゲン / バナデート系でも認められた(J. Phys. Chem. 子中のゼラチン量や架橋程度が制御可能であり,ドラッグデ B,112,12596). リバリや無機ナノ材料調製のテンプレートとしての可能性が 魚由来のゼラチンの利用も研究が進んできており,食品応 用を中心に数多くの報告が見られた.今後は工業材料として 示された(Biomacromolecules,9,2383). インクジェットプリント関係についても 2 件紹介する. の利用も広まる可能性がある.Karim ら(マレーシア,マレー Fogden ら(オーストラリア国立大)は,球状ピグメントとバ シア科学大)は魚ゼラチンの特性,利点,制約,今後の応用展 インダのみからなる単純なモデル紙コーティング上のインク 開などを論じた総説を著した(Food Hydrocollods,23,563) . ジェットプリントの品位を検討し,ピグメントサイズが大き なお,原料を牛,豚,魚以外の動物に求める研究も散見され くなるほど光学濃度や色域は劣化するが,シャープネスは向 る. 上することを示した.バインダポリマーによる違いも顕著で ゼラチンをベースにした新材料も盛んに試みられているの あり,それらを毛管現象によるインクの浸透速度と光散乱の で,いくつか紹介する.写真乳剤を利用したものも見られ, 点から説明した(APPITA J.,61,120).水上ら(千葉大)は, 画像システムへの応用のヒントになるかもしれない.あるい インクジェットプリント用染料の光分解を,希薄モデル水溶 はこれまでの写真工業での使われ方が,新たな応用へとつな 液を用いて検討した.定着剤モデルのカチオンポリマーを共 がるヒントになることも期待したい.ポリマーサポートに金 存させたときの影響を調べ,カチオンポリマーは染料の光分 属錯体を固定化した系は,固定化触媒をはじめとしてさまざ 解の速度にのみ影響するとした(日写秋). まな潜在的応用があることが指摘されている.Mikhailov(ロ シア,カザン州立工科大)は,ゼラチンにさまざまな金属の 3. 光機能性材料 錯体を固定化する方法を研究しており,その研究をまとめた 光機能性材料研究会 総説を著した.彼のグループでは,ハロゲン化銀乳剤を現像 処理して得た金属銀固定化ゼラチンを出発物質として,ゼラチ 3.1 透明電極材料 ン内に各種遷移金属イオン(たとえば Fe(III),Cu(II),Co(II) 日本写真学会光機能性材料研究会主催の第 5 回光機能性材 など)のヘキサシアノ鉄(II)酸塩を形成させ,さらにさまざ 料セミナー(6 月 6 日)では, 「透明電極の理論と進化」と題 まな反応によってヘキサシアノ鉄(II)酸イオンを放出させつ して,近年有機エレクトロニクス材料分野で注目を集めてい つ,金属錯体をゼラチン内に固定化するという方法を主に る透明電極を取り上げ,基調講演の「透明導電性酸化物:基 使った.この方法は,銀を含まない写真画像形成やイオン吸 礎と最先端」細野(東工大)に続いて, 「有機エレクトロニク 着剤,吸収スペクトルの基準材料等に利用できるとしている. スにおける透明電極の仕事関数と界面構造制御」石井(千葉 その他の応用についても議論された(J. Coord. Chem.,61, 大),「反応性スパッタによる機能性透明酸化物薄膜の高速成 1333).Ding ら(台湾,大同大学ほか)はゼラチンに 3,3',4,4'- 膜」重里(青学大),「トップエミッション・透明有機 EL 素 ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物とメタクリル酸2- 子のための透明電極」内田(工芸大)の各講演が行われた. ヒドロキシエチルの縮合物を反応させることで,光反応性を 2008 年の写真の進歩 171 3.2 光電変換材料 に対応しており,励起子-表面プラズモン相互作用によると 高効率な有機薄膜太陽電池のひとつの設計指針として,ド される窪みを示す場合にも,色素の励起に由来する光電流が ナーとアクセプターのナノ相分離構造の制御が検討されてい 観測されることがわかった(日本化学会第 88 春季年会,2D3- る.Yue Hang ら(東大)は,非晶性のポリ(3(2-エチルヘ 42). キシル)チオフェン),P3EHT,と結晶性のポリ(3-ヘキシ ルチオフェン),P3HT,とを組み合わせた共役ポリマーだけ 4. 画像評価・解析 からなる分子量約 25000,分子量分布 1.2 のジブロックコポ 藤野 真(セイコーエプソン) リマーを合成し,熱処理により自発的に相分離構造を形成し た.電子アクセプターのフラーレン誘導体,PCBM,が非晶 像構造,階調・色再現が画像評価の基本であるが,近年こ 性の P3EHT と混合しやすいことを考えると,PCBM との併 れに加えて質感に関する取り組みが多く報告されてきてい 用でドナー / アクセプターのナノ相分離構造が制御できる可 る.また画像評価に関しては,画質という観点から更に進ん 能性がある(J. Am. Chem. Soc.,130,7812). で,人が画像の良さをどのように認識するのかといった研究 景山ら(阪大)は,有機非晶固体として最高レベルの正孔 が始まってきている. 移動度を示すトリス[4(5-フェニルチオフェン-2-イル)フェ 4.1 像構造 ニル]アミン(TPTPA)をドナー,フラーレンをアクセプ 尾崎(国立印刷研究所)は,各種用紙におけるインキおよ ターとする有機光電変換素子を真空蒸着法で作成した.白色 びインキビヒクルの挙動を詳細に解析するための分析手法を 光照射下における短絡光電流,開放端電圧,fill factor,およ 紹介した.集束イオンビーム装置により構造破壊が起こらな び変換効率がそれぞれ,2.6 mAcm–2,0.92 V,0.71,および い紙断面作成方法,共焦点レーザー顕微鏡による観察,走査 1.7%であり,従来報告されているアモルファス分子材料を用 プローブ顕微鏡による解析等をインクジェット印刷・オフ いた有機光電変換素子の中で最高レベルの性能であった(日 セット印刷に適用した実例を丁寧に説明している(日印誌, 本化学会第 88 春季年会,3L1-05). 45(3),125).Ukishima(千葉大)らは,紙の MTF の計測方 3.3 フォトレジスト 法を提案し,光沢紙の MTF を計測した.MTF に基づき,光 EUV リソグラフィーの現状と将来展望に関する総説によ 学ドットゲイン効果とインクジェット像の反射像分布がシ れば,25 nm の解像度が実現可能になってきたが,22 nm ノー ミュレートされる.ここで予測精度はプリント像の色に依存 ドのデバイス作成には,パターン形成機構の更なる理解と, していることを認めた(PPIC’08,282).Ukishima(千葉大) レジストや酸発生剤等の新素材開発が必要との認識が述べら らは,紙の MTF の照明光角度依存性を評価した.紙法線方 れ て い る(Journal of Photopolymer Science and Technology, 向 0 度から観察する場合,照明角度が大きくなるほど MTF 21,409(Itani ら(株)半導体先端テクノロジーズ),777 の低下が認められることから,照明角度が大きいほど光学 Watanabe and Kinoshita(兵庫大) ). ドットゲインが大きくなることを論じた(PPIC’08,298). 3.4 色素 J 会合体 4.2 階調・色再現 谷ら(群馬大)は,アニオン色素とカチオンポリマーの静 杉山(大日本印刷)らは,目視でモニタの階調再現特性と 電的相互作用を利用したチアシアニン J 会合体薄膜の作成法 白色点の色度をキャリブレーションしプロファイルを作成す と,それらの耐光性を報告している.スルホプロピル基を有 る手法を検討し,その精度を検証した.階調再現特性に関し する数種のチアカルボシアニンを,それぞれ 2,2,3,3-テトラ ては液晶モニタに特有な非線形な階調再現特性とグレーの色 フルオロ-1-プロパノールに溶かしてスピンコートして得た 度変化を補正するためには,少なくとも 3 種の調整パターン 色素膜は可視部にブロードな吸収体を示した.この膜の上に が必要で,同パターンで明るさと色度の両方を調整すること ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)水溶液をスピン で良好な補正ができることを確認した(日印誌,45(2),89). コートすると,630 nm 付近に鋭い吸収帯を有する安定な J 会 野村(大日本スクリーン)は,RGB ワークフローの標準化を 合体の薄膜に変化した.これらの会合体のコーヒーレントサ 行なうにあたり,現行の各種 RGB プリンタの色再現特性に イズは 3–12 と見積もられた.光照射下の吸光度の低下速度 ついて調査を行なった.同一の入力 RGB 値であっても,プ から,色素単独の膜よりも J 会合体薄膜のほうが耐光性に優 リンタ機種によって出力される色が異なっていること,色再 れることがわかった(J. Phys. Chem. B,112,836). 現域の大きさと官能評価結果との相関が必ずしも高くないこ 井坂ら(筑波大)は,シアニン色素 J 会合体被覆銀ナノ粒 と等が把握されている(日印誌,45(3),161).弓木(標準 子で覆われた電極の光電気化学特性を検討し,励起子-表面 化委員会)は, 「JapanColor2001」の改訂版としてリリースさ プラズモン相互作用により特異な吸収スペクトルを示すこと れた CTP 刷版によるオフセット枚葉印刷標準印刷色「枚葉 を報告している.ITO 電極上にアルゴンイオンスパッタリン 印刷用ジャパンカラー 2007」について概説した(日印誌, グ法で銀ナノ粒子を固定化し,その上にシアニン色素の J 会 45(3),169). 合体を担持させると,640 nm に色素の吸収に対応するピーク 青木(千葉大)らは,単一色相の肌色評価画像を主観評価 をもつ試料と,650 nm に窪みを示す試料が得られた.カソー することで,顔の肌色の代表値の取得方法を検討した.肌色 ド光電流の作用スペクトルはどちらの試料でも色素 J 会合体 の代表値を測色する場合には,下まぶたの下が望ましいこと 172 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) を示した(日写誌,71(3),203).青木(千葉大)らは,ル について報告をした.TC8-10 で画像観察時のオフィス照明条 ノワールの肌色の表現技法を解析し,頬,唇その他の肌部の 件がどのようなものであるかを調査していること,TC8-12 に 平均分散を利用し,肌色がルノワール風に表現されている て動画圧縮の画質評価が行われていることを紹介した(標準 ポートレート写真の作成を試みた(日写誌,71(5),375).宮 化画質,30). 田(国立歴史民俗博物館)らは,イコンにおけるメタマ領域 齋藤(ソニー)は,カメラの画質設計項目と画質評価項目 (色度は同じだが分光反射率が異なる領域)の検出手法を提案 の関係を示し,CMOS センサーのノイズ発生原理とノイズの した.色度値と分光反射率とから計算されるメタメリズムの 測定評価方法,センサーの解像度にあたる総合的な空間周波 程度を表す単一指標を導入し,その有効性を確認した(日写 数特性の評価方法について説明した(標準化画質,49).三 誌,71(4),276). 宅(千葉大)らは,アナログ画像からデジタル画像にわたる 松本(千葉大)らは,圧縮カラー動画像の画質劣化の評価 色彩画像について概観した.主観評価と客観評価の基礎につ 方法として CIELAB と S-CIELAB を用いて比較を行なった. いて解説し,視覚特性と画質,さらに高次な表現となる質感 S-CIELAB は CIELAB に比して優位となったが,十分でなかっ について説明をした(標準化画質,61). た.このためフレーム内平坦部に制限を設けることで,主観 との相関性の向上を得た(日写誌,71(5),368).Kanai(セ 5. 分光画像 イコーエプソン)らは,擬似的にガマットを大きくしたディ 津村徳道(千葉大学) スプレイを用いて,好ましい色再現を得るために望まれるガ マットの主観評価を行った.望ましいガマットの最大彩度は 2008 年度も分光画像に関する研究発表が活発に行われた. 最明色近くであること,その最大彩度は画像コンテンツに依 発表の傾向も昨年と同様,国内より海外の国際会議に集中し 存すること等の知見を得た(NIP24,616).吉田(シャープ) ており,4th European Conference on Colour in Graphics, Imag- らは, 「いかに再現色が知覚的に満遍なく分布するか」を示す ing, and Vision(以下 CGIV と略)では 26 件,Color Imaging 指標である CDI(Color Distribution Index)を紹介した.同指 Conference(以下 CIC と略)では約 14 件であった.写真学会 標は,3 次元色空間における輝度,コントラスト比,色域, 誌,JIST には今年度は,分光画像に関する文献が見当たらな ビット深度,γ 特性というディスプレイの主要な特性要素を かったが,最前線の色彩に関する学会では,上記のように活 すべて織り込んだ評価を行うことができ,画像システムの総 発に分光画像に関する発表が行われている.分光画像に関す 合的な基礎特性評価指数として有用であるとしている(電子 る技術は現在のところ一般デジタルカメラなどに使われるに 情報通信学会・日本照明委員会共催セミナー「標準化に向か は状況が整っていない.しかし,2008 年度は,絵画の記録, う画質評価」,以下「標準化画質」と略す,40). 4.3 質感 坂口(デジタルファッション)らは,実測データを用いた 生検染色,瞳検定などのためへの特殊用途への広がり,偏角 (変角)測定への広がりなど分光画像分野の応用範囲の広がり が目立った.もちろん,センサー入力値からのより精度の高 高品質映像生成手法に関して,各種データ測定からレンダリ い分光推定法等も着実に進歩している.本報告では,これら ング工程までの技術と課題について論じた(標準化画質,70) . の中から代表的なものを取り上げ,2008 年度の進歩を眺めた Hirabayashi,Ito(キヤノン)は,種々のプリントをゴニオ い. フォトメータで計測し,観察角度によって分光反射率分布が 5.1 分光画像の特殊用途への応用 異なることを示し,それらの性質の違いを示し BRDF(Bi- Berns らは,Spectral Color Reproduction of Painting(絵画の Directional Refrectance Function)に変換した(PPIC’08,258). 分光的色再現)と題して,これまで基礎的に行ってきた研究 同じく Hirabayashi,Ito(キヤノン)は,モンテカルロ法を用 をとりまとめて,絵画の分光的入力(RGB カメラに 2 枚の いた光伝播シミュレーションと変角分光分布によって電子写 フィルタを交互に挿入)から七色カラーインクジョットプリ 真プリント上の光沢の量を見積もれるようにし,インタラク ンタによる分光的再現までを実現している.分光的再現の評 ティブに PC 上にプリントの光沢の状態を表示するシステム 価としては,D65 光源,A 光源の二つに対して行っている. を開発した(NIP24,421).Arney(RIT)はインクジェット 印刷時に避けては通られない色域圧縮法に関しては,まず一 プリントのブロンジング現象の解析を行なった.照明光とし 番目の光源に対して色域圧縮を行い,その上その圧縮が可能 て RGB 光を選択し,フレネルの正反射係数を計測すること なインクセットの組を洗い出す(メタマ-群),次に,そのメ で評価指標を求めた.同指標値でインクの根本的な光学的性 タマ-群から 2 番目の光源に関して色域圧縮された適切なイ 質と,光沢の特性の視覚的な知見の両方に合致することを示 ンクセットを選び出すことにより,より精度の高い色再現を した(NIP24,432).Kato(東京工芸大)らは,インクジェッ 実現している(CGIV,484). 用紙の表面形状・屈折率等種々の特性を用い,正反射角度近 Vilaseca らは,セキュリティ目的で撮影される人間の瞳と 傍の反射強度分布をシミュレーションし,実測との良い一致 義眼とを区別するために,分光画像システムを応用した.50 を得た(NIP24,432). 人の被験者に対して,100 枚の瞳画像と,68 枚の義眼におけ 4.4 総合評価 る瞳画像を用いて評価を行った,システムは,12 ビットの 山内(富士ゼロックス)は,CIE 第 8 部会の画質評価活動 CCD カメラと RGB 可変フィルタを用いている.一般化逆行 2008 年の写真の進歩 173 列を用いて分光推定を行い,その色差や分光分布の RMSE に る.経験的な方法ではなく,このような数学的な方法により より評価し,従来より高い精度で真贋を見分けることができ 得られた今回の手法は今後重要になると思われる(CIC, ている(CGIV,427). 279). Abe らは,細胞の H & E 染色画像における赤い血液領域の Nakaya らは,昨年度,LabRGB という CIELAB と RGB を 色補正のために分光画像システムを応用している.染色画像 組み合わせた 6 次元色空間を提案し分光情報の次元圧縮性能 の色は,その条件により大きく変化する.そのため,色補正 を評価した.比較対象として固有ベクトルを 6 種類の三角関 により観察条件に依存しない色で再現された画像を医師に提 数でモデル化する手法と,異なる光源下で観察した CIELAB 示することが求められている.これまで,H & E 染色部分に 値を 2 セット用いる手法も提案しそれぞれの評価を行ったと 対しては,著者のグループにより実現されてきた.この報告 ころ,LabRGB が最も優れた結果を示した.今年度は,LabRGB では,赤い血液領域に関しても色補正する手法を提案し,そ を実際の分光画像に適応し,その有効性を評価している.ま の有効性を確認している(CGIV,432). た,今回は,LabRGB の符号化・復号化方法の高速化法も提 Shen らは,分光解析に基づき近赤外領域の分光感度を考慮 したカラーフィルタ配列の開発方法を提案し,評価している. 案している(CIC,289). Murakami らは,分光カメラによって得られる画像の色域 彼らはまず,通常撮影される物体に対して可視と近赤外の分 の広さを評価している.一般的な RGB カメラでは高彩度の 光反射率データベースを構築している.その上,可視と近赤 色は,そのカメラの色域内に射影されてしまう.分光画像を 外の関係をこのデータベースから解析している.この解析結 撮影するカメラでは,その色域が拡大される.Murakami ら 果を用いて,近赤外領域の分光感度をうまく利用したより精 は 6 バンドカメラを想定し,その有効性を評価した(CIC, 度の高い可視領域の色再現を実現している(CIC,183). 189). 5.2 偏角(変角)計測への広がり 5.4 印刷の分光的色再現 Tominaga らは,化粧肌(ファウンデーション肌)の偏角特 Basatani らは,6 から 9 色のインクを用いたプリンタの色 性を,通常 CG などで用いられる Cook Torrance モデルでは 分解アルゴリズムを提案している.その際,上の Berns らの 十分再現できないことを示し,新たなモデル化手法を提案し 手法でも述べたが分光的空間における色域圧縮が必要とな ている.新たなモデルでは,偏角方向への主成分分析に基づ る.Basatani らは分光的色再現域の多様体上に射影する手法 く手法を用いている.これにより少ない次元数で偏角分光反 を開発している.内容は非常に難解である,残念ながら筆者 射率のモデルを実現している(CIC,195). では細かいところまで理解することが出来なかった(CIC, Koirala らは,ウイナー推定による偏角反射推定方法を提案 67). している.これは,より少ない偏角計測により全体の偏角情 Rousselle らは,ドットサイズ可変プリンタにおける分光的 報を推定するという試みである.その結果,5 つの適切な角 再現を実現している.インクジェットプリンタでは,同じピ 度で計測することにより全体の偏角分光情報の再現が可能な クセルへのインク滴の数を変えることにより,そのドットサ ことが示されている(CIC,279). イズを変化させ,その濃度レベルをいくつか変化させること Baribeau らは,5 軸のロボットシステムを用いて光の任 ができる.Rousselle らは,深さ方向に拡張された Clapper- 意 の 入 射 方 向,任 意 の 出 射 方 向 に 関 す る 分 光 反 射 率 Yule モデルを用いることにより,さまざまな配置,サイズに (Bidirectional Reflectance Distribution Function: BRDF)を計測 対する分光反射率の予測モデルを作り上げている(CIC,73). するシステムを構築している(CGIV,457). Soler らは印刷の重ね塗りにおける分光データに基づくモ 5.3 分光推定法の進歩 デルを構築している.その手法はデータに基づく手法(Data- Lasarte らは,分光画像システムにおけるトレーニングセッ driven method)を用いている(CIC,89). トのサイズの影響の調査を行った.これまで,トレーニング セットを用いた分光推定法に関しては数多くの研究が行われ 6. 画像保存 てきたが,そのトレーニングセット自体の研究はそれほど多 くはなかった.Lasarte らはトレーニングセットの数や分布を 様々に変え,RGB カメラと 7 バンドカメラにおける推定精度 を評価している(CGIV,437). 6.1 画像保存関連技術 金沢幸彦(富士フイルム) JEITA(電子情報技術産業協会)より,画像保存性評価方 Urban らは,空間的に適応的な分光反射率のウイナー推定 法に関する規格が一昨年末に制定され(CP-3901),それに準 方法を提案している.ウイナー推定方法は,あるノイズ下で 拠した画像保存性能をカタログ等に表記するメーカーも出て 最小二乗誤差基準のもと最適な推定行列を与えるものであ きた.この規格の対象は家庭用プリンターに限られている る.Urban ら,まず,空間的にノイズの除去を試みる.この が,画像保存評価方法に関する一定の基準が国内で初めて設 とき,ノイズの分布の程度は空間的に異なったものとなって けられ,実際のビジネスの場で活用され始めたことは,国内 いる.そこで,空間的に異なったノイズ量を考慮したウイナー における標準化活動の成果といえよう. 推定を各画素に適応することにより,優れた推定精度を実現 学会としては,昨年,日本画像学会が発足 50 周年を迎え している.Urban らは数学的に見事にその効果を記述してい たのを機に,日本写真学会は日本画像学会と協賛で,国際学 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) 174 会と 位 置 づけ た 年 次 大 会 を開催 し た(Pan-Pacific Imaging 保存,技術,費用の観点から,35 mm カラーマイクロフィル Conference’08). ム撮影後にデジタル化する方法を選択した.本稿では,この その中で芝原(富士フイルム)は,ISO/TC42/WG5 におけ 古貨幣 DB 公開の意義と課題について論じている(月刊 IM, る最近の進捗状況として,寿命終点,テストチャート,耐光 47(1),11).藤巻(国立国会図書館)は,プランゲ文庫のメ 性,耐オゾン性,暗保存性に関する昨今の試験規格案を紹介 ディア変換プロジェクトについて報告している.ブランゲ文 した(PPIC’08,340).また,金沢(富士フイルム)は,画像 庫とは,1945 年から 1949 年に日本で出版された,あるいは 保存試験方法を設定する際の注意点や,その評価方法につい 出版しようとした図書,雑誌,新聞,通信等で,GHQ の民間 てまとめている.試験条件を決める際の注意点としては,実 検閲支隊に検閲のために提出した資料であり,現在,米国メ 際に画像がディスプレイされたり保存される環境における年 リーランド大学図書館所蔵となっている.国立国会図書館で 間を通したデータや,実際に経時で起きている劣化現象に基 は,検閲資料および未収蔵資料の収集・保存の観点から,雑 づいた加速条件を設定すべきとしている.これまで調査され 誌は16 mmマイクロフィルムで撮影してマイクロフィッシュ た室内環境(温湿度,分光分布,オゾンガス濃度)をレビュー に,新聞・通信は 35 mm マイクロフィルムに,図書はスキャ した上で,室内耐光性をシミュレートする方法などについて ナによるデジタル化(400 dpi TIFF 画像)後に 35 mm カラー 紹介している(PPIC’08,334). マイクロフィルムへと媒体変換して収集している(月刊 IM, NIP24 でも,試験規格を意識した発表がなされている. Matthew Comstock(Lexmark)らは,安定したオゾンガス試 47(10),15). 一方,岡島(東京国立近代美術館フィルムセンター)は, 験を行う上で許容される温度と湿度の変動幅について検討し 映画芸術科学アカデミー科学技術審議議会報告書「デジタ C,±3%RH 以内に た.それによると,温湿度の変動幅は ±2° ル・ジレンマ」を採りあげている.報告書は、デジタル技術 すべきとしている.また,同一試験においては,平均の試験 によって映像への利活用が飛躍的に向上する反面,長期保存 C,±10%RH を超えてはならないとしている 条件に対し ±4° についてはフィルム・システムに劣っているため,そこに経 (NIP24,237).Matthew Comstock(Lexmark)らは,インク 済的,文化的なデジタル・ジレンマが厳存している.このよ ジェットサンプルの耐光性やオゾンガス耐性及び耐湿性評価 うな課題の解決に産官学を超えて研究・推進する,議論する に対する乾燥時間の影響も調査している.それによると,耐 ことの必要性を説いている(NFC NEWSLETTER,78,2). 光性評価において,黄色の顔料インクは乾燥時間にやや影響 また,デジタルデータの保存媒体である光ディスクについ するが,全体としては相関性低い.オゾンガス耐性に対して て,森島(パルステック工業株式会社)は,2006 年に制定さ は,多くの場合乾燥時間が長いほど良化し,耐湿性に対して れた JIS Z 6017『電子化文書の長期保存方法』の一部を紹介 は,染料インクの場合,空隙メディアより膨潤タイプのメディ しながら,光ディスク DVD(CD)の劣化の原因と対策およ アの方が,乾燥時間が長い方が良くなるとしている(NIP24, び,より安全な保存についての運用方法を解説している(月 219).更に Matthew Comstock(Lexmark)らは,暗保存のス 刊 IM,47(2),17,47(3),21). テインに対するオゾンガスの影響についても調査した結果を 修復や資料の劣化度調査に関しては 3 件の報告があった. 報告している(NIP24,225).一方,Peter Mason(Torrey Pines IFLA(国際図書館連盟)保存分科会は,1979 年に「図書館に Research)は,寿命の表記についてあらたなコメントをして おけるコンサベーションと修復の原則」を公表した.修復理 いる.通常の加速試験はただ一つの因子による寿命予測なの 念については写真分野においても通ずる部分があるため, で real life を予測するには不十分であり,寿命年数で表記す 「IFLA 原則(1979)」を巡る考察を紹介したい.安江はこの るのではなく,相関的な関係として評価すべきことを提唱し 「原則」の成立の背景と経緯,修復思想,普及と評価,現代的 ている(NIP24,242). 意義の順で展開し, 「原則」は現在においても生きた修復の指 加速試験はもともと絶対的に評価できるものではないが, 針であると論じる(文化財修復学会誌,53,54). 一つの指標として有意差を検出し,消費者に有効な情報を提 白岩(紙本・写真修復家)は,東京都写真美術館所蔵のダ 供するため,根拠ある前提条件に沿った試験法を確立するこ ゲレオタイプ作品の修復事例を通して,作品の状態や作品の とが必要であり,試験規格はそのためのガイドラインとして 保護を目的とした額装や収納システムに生じている様々な問 機能させる必要があると考えている. 題を報告している.修理を行う場合は,制作時に額などに施 6.2 展示・修復・保存関係 された装飾様式の歴史的価値や特徴を考慮しつつ,新たな保 山口孝子(東京都写真美術館) 今年度も資料の劣化度調査,および展示室や収蔵庫環境の 改善対策などの詳報があり,他の施設にとっても有効な情報 となっている.資料保存とそのデジタル化の利用については, 護処理をする.処理されたダゲレオタイプは,環境からの影 響を抑えることが可能となり,取り扱い,展示,保管をより 安全に行えるという(PPIC’08,344). 国立国会図書館収集書誌部資料保存課は,資料の劣化状況 毎年多くの事例が紹介されているが,ここではそのうちのい を把握し,より効率的な予防的保存対策を講ずることを目的 くつかを採りあげる. に,平成 17 および 18 年度に,所蔵する和図書資料の劣化状 小島(東京大学大学院)は,東京大学大学院経済学研究科 況(本文紙の物理的強度,酸性度,変色,製本の形態や状態) 所蔵の古貨幣・古札画像データベース試行版の作成にあたり, を調査し,報告書を刊行し,HP(http://current.ndl.go.jp/report/ 2008 年の写真の進歩 no8)に公開している(月刊 IM,47(7),23). 5 月に開催された文化財修復学会第 30 回記念大会では, 175 げ解説している(日写誌,71(2),50).山口(東京都写真美 術館)は,長期保存において重要な温湿度設定条件や空気質 セッション 25 件,ポスターにおいては 118 件にのぼり,例 の最適化への取り組み,虫菌害への対策,使用している包装 年多くの参加者の情報交換の場となっている.非破壊法によ 材料や保存方法,写真技法ごとの展示照度の設定について詳 る色材の分析や推定,紙の劣化と有機酸量および物性の関係, 述している(日写誌,71(2),54). 紙資料の保存状況調査,被災資料の真空凍結乾燥処理,固着 また,10 月に開催された画像保存セミナーでは,Reilly(米 した塗工紙同士の断面構造,シアノタイプの修復,文化財保 ロチェスター工科大学画像保存研究所(IPI) )は,日米欧にお 存修復の教授法,文化財保存の普及事例,収蔵庫内における ける画像保存の黎明期とこれまでの進歩を振り返るととも 空気環境の改善,IPM 活動,殺虫殺菌処理のタンパク質材質 に,今日の銀塩写真からデジタル画像への移行によって,保 への影響,Foxing 部位からの真菌の分離・同定,カビの自家 存の技術や取り組み方にも大きな変化をもたらしている中 蛍光検出と識別など,各方面からの発表があった.ここでは で,ますます重要性が高まっている写真画像保存の将来につ セッション報告のみを取り上げ,大会要旨のページのみを括 いて展望した(画像保存,2).さらに,IPI,Getty Conservation 弧内に記した. Institute,Boston Art Conservation など米国の画像保存研究機 非破壊法として,中村ら(宮内庁正倉院事務所)による, 関における最近の研究成果を紹介し,保存環境と対象作品の 蛍光分光や反射分光を用いた染織品の染料分析・同定(34), 物理的性質の把握の仕方を解説するとともに,芸術作品とし 福永(情報通信研究機構)らによる,テラヘルツ分光イメー ての写真と記録のための写真における保存方法の違いを詳述 ジングの文化財調査の応用として,1200 年代の羊皮紙でのイ した(画像保存,7).急速に社会がデジタル化に進み,幅広 ンクや石膏下地で覆われた絵の分析(46),高林(東京文化 い分野で記録データの長期的保存が望まれている.渡部((財) 財研究所)らによる,携帯型蛍光 X 線分析装置や携帯型ラマ デジタルコンテンツ協会)は,耐光,耐ガス,温湿度による ン分光分析を使用した,壁画の彩色材料の推定(48)が報告 加速度試験法による記録型 DVD ディスクの寿命推定法とそ された.多くの美術館・博物館で施設の老朽化や機能劣化が こから導き出された推定寿命,推定法の国際標準化動向につ 表面化しているが,管野ら(清水建設)は,施設用途の変更, いて述べた(画像保存,10). すなわち既存展示室から収蔵庫への改修にあたり,安定した 温湿度環境や適切な空気環境,耐震性,防犯,省エネルギー 7. 映画 を整備した事例を示した.神庭(東京国立博物館)らは,収 富士フイルム映画部 蔵庫,展示室,展示ケース内の空気成分の分析調査を行い, 二酸化窒素濃度が低下しやすい空間ほどアルデヒド類が発生 7.1 概況 しやすいと考察し,発生源の特定,濃度の抑制,影響の評価 2008 年の日本国内における映画興行収入は,洋画邦画合わ について進めたいとしている(40).川上ら(エフシージー せて 1948 億円(前年比 98.2%),公開作品数 806 本(前年よ 総合研究所)は,美術館における浮遊真菌,付着真菌を検査 り 4 本減),入場者数 1 億 6049 万人(前年比 98.3%)と一昨 した結果,通常,湿度を 60%RH 以下で管理している美術館 年に比べ微減という結果であった. であっても,バックヤードや収蔵庫において局所的に高湿度 邦画の公開作品数は 418 本,興行収入は 1159 億円,洋画 になり,カビが発生していた事例を挙げ,好乾性・耐乾性の は 388 本,790 億円となり,一昨年と比べて邦画が洋画の興 カビが多く分離されていたと報告した(76).化学薬品を用 行収入を逆転した形となった.一昨年同様興行収入 50 億円 いない殺虫処理として,園田(国立民族学博物館)らは民族 以上の作品は邦画で「崖の上のポニョ」,「花より男子ファイ 資料を対象に,カイロや車内での太陽熱を利用した高温処理, ナル」の 2 作品であった. 「崖の上のポニョ」は興行収入 150 業務用フリーザーでの低温処理の実験を重ね,ウォークイン 億円を超える大ヒットとなった. 高低温処理庫を新設した(78).沓名(山梨県立博物館)は, 洋画で興収 100 億円を突破した作品はなく,50 億円を超え 酸化エチレン製剤の顔料や金属板に対する影響を,静的接触 たもので「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王 角測定を用いて評価し,多くの試料で接触角が低下している 国」,「レッドクリフ Part 1」2 作品であった. ことから,表面にエチレングリコールが残留しているとした (80).上宮ら(久留米大学)らは,苦参(クララ)和紙に含 スクリーン数は依然増加傾向にあり,昨年から 138 増え, 3359 となった.この傾向は本年も続く見込みである.その まれるアルカロイド類が害虫に対する忌難効果を調査し,防 内,シネコンのスクリーンシェアは 79%(前年比 104%)に 虫和紙,長期記録紙,包装紙等への利用を挙げている(82). 達している. 平成 19 年度画像保存セミナーの講演内容を基に,日本写 米国の映画興行収入は,96.3 億ドルで,それまでの最高 真学会誌第 71 巻 2 号では画像保存の特集が組まれた.木下 だった 2007 年(96.2 億ドル)をわずかではあるが上回り,歴 (東京国立博物館)は,文化財を安全に配置するとともに,照 史的な不況下にありながら過去最高を記録した.興行収入が 度制限等の展示条件を満たしながら,見やすさ,わかりやす 1 億ドルを超えた作品は 24 本あり,このうち「ダークナイ さ,居心地のよさを基本に美しい鑑賞環境を作り上げる展示 ト」は 5.3 億ドルで過去最高の売り上げを記録した. 照明の技術や手法,照明デザインの役割について,事例を挙 176 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) 7.2 フィルム 8. 医用画像 2007 年 12 月に発表されたコダック映画用カラーネガフィ 松本政雄(大阪大学大学院医学系研究科) ルム「コダック VISION 3 500T カラーネガティブフィルム 5219/7219」は,35 mm が 2008 年 1 月に,16 mm が 2 月に発 8.1 医用画像の基礎 売された.このフィルムは次世代のカラーネガティブフィル ①医用画像の基礎 ム「コダック VISION 3」の第 1 弾で,「ダイレイヤリングテ 松本(阪大院)は,西部支部 60 周年記念講演「写真の変 クノロジー」の導入によって,アンダー露光での粒状性が向 化,この 10 年」の特集で「医用画像,この 10 年」と題して, 上し,デジタルへの変換においても美しい映像が得られる. 医用画像で,これまで一般撮影におけるディジタル画像とい その他,新技術・新製品の発表はなかった. えば,CR(Computed Radiography)が主流であったが,1998 7.3 撮影機器 年に平面検出器 FPD(Flat-Panel Detector)が開発されてか デジタルシネマ用カメラでは,パナソニックが P2 カード ら,現在では CR から FPD へと流れが移りつつあることな 内臓の P2 VARICAM AJ-HPX3700G を 発売 し た.ソ ニーは ど,CT(Computed Tomography),CR,FPD の医用画像がこ 35 mm フィルムサイズと同じ単版 CCD 採用,PL マウントで の 10 年の間にどのように進展してきたかを解説している(日 すべての 35 mm シネレンズが使用出来,フィルムカメラ同様 写誌,71(1) ,9). の被写界深度が得られる「CineAlta F35」を発売した.ARRI 小西ら(近大附属病院)は,CT 撮影で管電圧を上昇させ は 35 mm シネのサイレントフレームに近い最も大きな CMOS た場合,CT 値及び画像コントラストがどのように変化する センサーを持ち,回転ミラーシャッターを備えるなどフィル かを単一元素及び混合物の被写体を対象に X 線スペクトルと ム撮影と同様の感覚で使用できる「ARRIFLEX-D21」を発売 検出器の感度スペクトルを用いて理論計算を行い,管電圧ま した.池上通信機と東芝は共同開発による HDD カード方式 たは光子エネルギーの上昇とともに画像コントラストが低下 の ENG システム「GFCAM」を発売した.トムソングラスバ する物質の組み合わせと,逆に画像コントラストが上昇する レーは,REV PRO と称する汎用ベースの小型 HDD カードを 物質の組み合わせがあることを確認し,このことから,CT 撮 使用する ENG システム「Infinity」を発売した. 影でコントラストが要求される場合,従来は単純に管電圧を シネレンズは,ナックイメージテクノロジーから,B-4 マ 低くすればよいとの考え方が一般的であったが,対象とする ウントのツァイス・デジプライム 3.9 mm T1.9,35 mm 映画 物質によっては,逆に管電圧を高くする方が効果的である場 用マスタープライム 16 mm,40 mm T1.3 を発売した.西華産 合が存在することが示唆されたと報告している(医用画像情 業から REDONE 用 RED50 ~ 100 mm T3 を発売した.スズ 報学会誌,25(4),90). キエンタープライズは RED 用カメラとして新型クック 15 ~ ②画質評価 40 mm T2 ズームと 50 mm,75 mm,100 mm T2 の単レンズ 市川ら(金沢大院)は,CT における noise power spectrum を発売した. (NPS)の算出方法である仮想スリット法,2 次元フーリエ変 7.4 デジタルシネマ 換法及び radial frequency 法の精度とトレンド除去処理におけ 2007 年に引き続き 2008 年もデジタルシネマスクリーン数 る多項式近似の次数を検討し,ガントリーの回転中心付近の は増加し,DCI・2K/4K 推奨基準を満たしているデジタルシ 画質を調べるためには,仮想スリット法,2 次元フーリエ変 ネマスクリーン数は,全世界で 7000 スクリーンを越えた. 換法及び radial frequency 法のすべてが適用可能であることを (全世界の映画スクリーン数は,12 ~ 15 万と言われている). 明らかにした.また,トレンド除去処理は,リニアトレンド 米国の DCI・2K/4K 推奨基準デジタルシネマスクリーン数 除去処理で十分であることを示し,再現性を重視するならば は 4900 弱に達し,全世界の約 2/3 を占めている.米国での設 radial frequency 法が優れており,方向別の NPS 解析を必要と 置数が微増(約 4600 → 4900 弱)であるのに対し,中国(49 する場合には,仮想スリット法,2 次元フーリエ変換法は, → 620 スクリーン),インド(6 → 34 スクリーン),フランス (42 → 192)での設置数が飛躍的に増加している. これに対して日本の DCI・2K/4K 推奨基準デジタルシネマ ほぼ同じ精度の方法として使用可能であることを確認したと 報告している(医用画像情報学会誌,25(2),29). 8.2 医用画像の応用 スクリーン数は,2007 年末の 69 スクリーン(国内全スクリー ①画像の医療応用 ン数の約 3%相当)から,2008 年末には 100 スクリーンにな Miyake(Chiba Univ.)は,6 月 25–27 日にアルカディア市ヶ り,増加傾向にある.今後も,この増加傾向は続くものと思 谷で開催された Pan-Pacific Imaging Conference’08(PPIC’08) われる.一方で,そのビジネスモデルの確立や信頼性,各国 の Track II Intelligence & Science の Session“Application of 規格の統一等,まだ普及へのハードルが存在している. Imaging”の招待講演で“Development of Laparoscopic Surgery Training and Support Systems Using VR Technology”と題して, 仮想現実(VR)技術を用いて中心静脈カテーテル配置,腰椎 穿刺,切開と腹腔鏡手術などの医学トレーニングのための外 科シミュレータを開発し,千葉大学医学部附属病院でイン ターンのトレーニングに用いていること,また,開発した腹 2008 年の写真の進歩 177 部の上に画像を投影する腹腔鏡手術サポートシステムについ と実測結果を比較した結果,針単独の場合では高い精度で再 て解説した(PPIC’08,234). 現可能であったが,ファントムに穿刺した状態では大きな誤 Viet Ha Nguyen ら(A. N. Lab Inc)は,同 Session の “Application of Imaging”で, “Stroke Tissue Outcome Prediction 差があったと報告している(日写秋,7). ③原子核乾板の医療応用 Using A Spatially-Correlated Model”と題して,脳卒中の組織 Kubota ら(Nagoya Univ.)は,PPIC’08 の TrackII の Session 結果の正確な予測に,ボクセルの結果を予測する一般線形モ デル(GLM)に構造 MRI,機能 MRI と拡散 MRI を組み合わ “Application of Imaging”で, “Observation of latent image specks in silver salt photography created by high energetic heavy ions せた予測モデルがこれまで提案されているが,それらのモデ for the purpose of precise estimation of local deposit energy”と ルは梗塞が結果されるボクセルが存在する可能性を示す空間 題して,重粒子線治療における患者の吸収線量を推定するた 的相関を説明できないので,今回,GLM の簡単な空間的相関 めに,原子核乾板を用いた銀塩写真で,荷電粒子が原子核乾 モデルの拡張を提案して,予測精度を改善できることを示し 板を通過したトラックの潜像の斑点を観測し,トラックの線 た(PPIC’08,238). 密度が荷電粒子の局所的に付与したエネルギーに関係するこ ②内視鏡の医療応用 とを報告している(PPIC’08,242). 後野(オリンパスメディカルシステムズ)は,12 月 8 日に 歳藤(科学技術振興機構)は,特集「拓け行く原子核乾板 東京工芸大学で開催された秋季研究報告会の特別セッション 応用の地平」の解説で, 「医療用炭素ビームの核破砕反応」と 「内視鏡の医療応用」で,「内視鏡イメージングにおける最近 題して,原子核乾板を用いて,がんの重粒子線治療に用いら の話題」と題して,最近の内視鏡イメージング技術について れている炭素線が起こす核破砕反応を測定するための手法を 紹介し,新たな内視鏡イメージング技術の登場により,徐々 開発し,炭素 - 水反応などの断面積を測定して,重粒子線治 に内視鏡診断の質的改善が図られつつあること,近い将来, 療における患者体内の線量計算の精度を改良するのに役立て Narrow Band Imaging(NBI),蛍光内視鏡(AFI),赤外内視 ており,現在も様々なビーム,ターゲットを用いた測定を行っ 鏡(IRI),そして ECS といった各種技術が癌の早期発見およ ており,重粒子線治療のための核破砕反応データベースの構 び診断へ大きく寄与し,消化器癌克服へ貢献することを期待 築を目指していると解説している(日写誌,71(4),248). すると報告している(日写秋,1). 小石ら(千葉大院)は,同セッションで, 「プロジェクタに 9. 科学写真 よる Augmented Reality 技術を用いた腹腔鏡下手術支援シス テムの開発」と題して,患者の腹部表面形状と動き,術者の 頭部位置を計測して,それらの変化に対応する立体的な誘導 9.1 文化財 城野誠治(東京文化財研究所) 画像を投影できるプロジェクタによる Augmented Reality 技 2008 年の概況について述べる.アナログ媒体は消費量の減 術を用いて腹腔鏡下手術を支援するシステムを開発し,その 少の影響を受け,現像所も業務縮少が加速しており,ラージ 応用例として,鉗子の挿入を例に,腹部を模したボックスを フォーマットフィルムの処理では安定性に不安を抱えざるを 用いた評価実験を行い,提案システムが術具誘導に有効であ 得ない状況である.一方で,2000 万画素を超えるフルサイズ る可能性を示したことを報告している(日写秋,3). センサのディジタル一眼レフカメラが数機種発売され,これ 佐々木ら(千葉大院)は,同セッションで, 「内視鏡診断の までの高密度高画素化とは異なり,画素数相当の画質の向上 ためのインタラクティブな距離計測」と題して,磁気位置セ が期待できるようになった.中判カメラのディジタルバック ンサと内視鏡を用いて,癌や腫瘍の病変部の大きさを三角測 においてはすでに 5000 万画素を超えるモデルが市販されて 量に基づいて計測する手法を提案し,現段階では,磁場歪み いる.ディジタルカメラの高画素化は身近なものとなったが, を排除した特別な環境下で実験を行っており,通常の診断現 レンズの解像性や光学的収差が画質に影響を与えていること 場では周辺に金属や電子機器が存在するため,磁場歪みを補 がようやく表面化してきた.それらは最も重要なレンズの設 正する必要があり,また,対象物体を剛体と仮定しているた 計がセンサの開発に伴っていないために引き起こされている め,体内組織の変形について考慮する必要があり,さらに, が,ディジタルカメラによって取得された画像は,光学的に 医師の評価に基づいてシステムのユーザインタフェースを改 引き起こる歪みや色収差をソフトウェアで処理して除去する 良する必要があると報告している(日写秋,5). 機能によって画像を補正されている場合が大半を占める.分 森田ら(千葉大院)は,同セッションで, 「針と生体組織の 光感度においても近赤外線反射の影響を抑制する為にフィル 変形を考慮した実時間生検シミュレーション」と題して,癌 ターで入射光は抑制されており,600 nm よりも長波にあたる の確定診断で行われる針を用いた生体の細胞採取検査の訓練 色域では色の分離や情報の記録は望めない.ディジタル媒体 のための生検の実時間シミュレーションを目的として,小さ の利点はアナログ媒体よりも広い範囲で光の情報を記録でき な計算負荷で針のシャフトに対し垂直方向のしなりと生体組 る特性にあるはずだが,現状では正確な色再現ではなく感度 織の変形を再現するモデルを構築し,計算機シミュレーショ 特性の向上にセンサの特性が活かされるに止まっているよう ンで評価した結果,非常に小さな計算負荷で再現結果を導出 である.科学写真における撮影では光の定量的な記録が望ま できることを確認した.また,実験によりモデルの再現結果 しいので,ソフトに依存する画像生成の付加機能は選択して 178 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) 利用する程度で止めたい. 「光学」において飯塚(HOYA)ら している.さらにタッチモード機能によって対象オブジェク が「ディジタルカメラ用撮像レンズの進展」「光学,37(6), トに触れているような感覚を演出するなどの機能を付加し, 318」で述べたように,センサの進歩だけでなくレンズの改 閲覧者が体感出来るシステムの開発を試みている(画像ラボ, 良も進まなければより理想的な画像取得は望めない.光学的 19(6),21).また,小黒(凸版)はリアルタイム CG 技術を に引き起こる問題と高画素化は相反するものがあるが,画質 ベースとしたバーチャルリアリティ映像コンテンツ(VR コ として評価できるバランスの取れた開発が進むことを願って ンテンツ)の制作と公開において,没入型スクリーンなどの いる. 大型スクリーンと小型画面での上映といった鑑賞環境の違い 科学写真という方向から評価を行うと昨年同様大きな進歩 による感性的効果の変動を補正するためのカメラワークによ はみられない.しかし文化財における情報の取得という視点 る調整方式について検討している.高い臨場感を得られる大 で捉えてみると以下のことが挙げられる. 型スクリーンでの上映では,不適切な動きを与えると違和感 宮田(国立歴史民俗博物館)らは,メタメリズムと呼ばれ や不快感が生じやすいとし,予め鑑賞ポイントでの視点を定 る人間の視覚系における現象の一つを利用した新たな分光反 め,カメラワークデータをコンテンツとして組み込んでおく 射率画像の活用法を提示し,文化財の修復箇所を探る試みを 方法を提案している.また,PC の性能向上により,小型画 行っている.メタメリズムは分光組成が異なる 2 つの刺激が 面での鑑賞が可能となったが,大型画面用の VR 画像を小型 同じ色として知覚される現象であり,メタメリズムが生じて 画面で鑑賞すると迫力感などが大きく損なわれる.VR コン いる場合におけるそれらの色はメタマと呼ばれる.与えられ テンツではリアルタイムレンダリングにより鑑賞時に映像を た光源下において同一の色度値をとるが,分光分布が異なる 生成しているため,カメラワークを鑑賞時に変えることがで 領域がメタマ領域となるのである.文化財が過去に修復され きる.この機能を利用した映像を提示するサイズと適切なカ ていたとすると,染料あるいは顔料などの色材はオリジナル メラワークとの関係を検証している(画像ラボ,19(10),28). の色材とメタマの関係にある色材のものが使用されると予想 両眼視差による立体映像について柴田(早稲田大)らは,水 される.したがってメタマ領域を検出することができれば, 晶体の調節による奥行きてがかりに注目し,それによる奥行 修復の可能性のある領域を検出できることとなるとしてい き手がかりが提示可能な光学補正方式立体ディスプレイを開 る.課題も残されており,複数の色材が複雑に混色されてい 発した.これによって眼精疲労の軽減や見え方の違和感の軽 るか,または重ね塗りが施されている領域では偽検出が発生 減につながるとしている.また,被写界深度を考慮した立体 していることなどから,他の科学的分析結果と比較検証する 映像表現を用いることによって立体映像の品質を向上させる ことが重要であり,今後も分析手法の構築について検討を進 ことも提案している(画像ラボ,19(7),11). めるとしている(日写誌,71(4),276). 微弱紫外線が有機物に与える影響について述べた論文(法 浅田ら(広島市立大)は,コンピューターグラフィックス 科学,13(2),143)を挙げておく.この論文は,波長と照射 (CG)の分野では実写画像と同等の品質の CG 画像生成およ 時間によって有機体が破壊される時間軸を提示している.文 び実写画像と CG 画像の合成などの技術に対する需要が高 化財は継承された時間が長く,光による急速な劣化や変化は まっているとし,CG による,よりリアルで高精度な画像生 起こりにくいと言及されることも多い.文化財の科学的な調 成のためにカメラ,物体,光源に対するキャリブレーション 査では,紫外線が使われることも少なくない.また,殺菌す を紹介している.例えば,カメラキャリブレーションでは, る為に短波長の紫外線を照射している事例もある.しかし, 実写画像と同等の被写界深度を持つ画像生成を行うことが出 情報の取得と情報の保全は伴っていなければ歴史的遺産の継 来るズーム,フォーカス,アイリスの変化を統一的に記述す 承は行えない.従って,紫外線に限らないのだが組成が不安 る統合カメラモデルを提案し,これにより従来では扱うこと 定な物質や有機物に光が与える影響については常に念頭にお ができなかったボケの現象を利用した,実写画像と同等の被 いておくべきであろう. 写界深度を持った画像の生成と合成が可能であるとしてい 9.2 天体写真 る.またデジタルアーカイブの観点から,仮想展示に関する 研究も行い,三次元ディスプレイシステムの試作を紹介して いる(画像電子学会,37(4),495). 博物館などの施設において,文化財の保存と展示は両立が 山野泰照(天体写真家) 2008 年も天体写真の世界では,デジタル技術によって,撮 影機材だけでなく画像処理を含む活用面での進化が見られ た. 困難な課題である.それらの矛盾を解消すべく進められてき 撮影機材の面では,デジタル一眼レフカメラの低ノイズ化, た文化財のデジタル化により,三次元デジタルデータが蓄積 ISO1600 以上の感度が実用になる高感度化が引き続き進み, され,公開の方法に研究が移ってきている.阿部(早稲田大) 天体写真ファンだけでなく一般の写真ファンも,夜景写真の らは,三次元デジタルデータの公開を,立体視ディスプレイ 延長で気軽に高画質な天体写真(固定撮影)が撮影できるよ を組み込んだビューア部分と立体映像をリアルタイムレンダ うになった.またコンパクトデジタルカメラだけでなくデジタ リングするための制御用 PC からなるシステムの開発によっ ル一眼レフカメラにも動画撮影機能が搭載された機種が相次 て行う方法を示した.これらのシステムによる三次元デジタ いで発売され,まだマニュアル的な撮影では制約は多いもの ルデータの閲覧方式は形状や大きさの理解に効果的であると の,ひとつの機材で静止画と動画が撮影できるようになり注 2008 年の写真の進歩 179 目された.機種としてはニコン D90(記録画素数 1280×720, 対して,基本性能としてのダイナミックレンジが拡大してき 2008 年 9 月発 売),キヤ ノ ン EOS 5D MarkII(記録 画 素数 たことと,カメラボディに段階露光の機能が付いていること 1920×1080,2008 年 11 月発売)が挙げられる.特にコンパ で 5 段から 10 段にも及ぶ楽に段階露光を簡単に行えること クトデジタルカメラと異なるのは,ハイビジョンの解像度で が撮影機材として選択されている理由である.2009 年は 7 月 撮影,記録ができるだけでなく,センサーサイズが大きいた 22 日に,日本の一部(奄美大島など)で皆既日食,本州など め,高精細でダイナミックレンジの広い映像が撮影できるこ の各地でも部分日食が見られるため,さらに天文熱,天体写 とである.今後,動画対応のデジタル一眼レフカメラの機種 真に対する興味が高まると予想され,撮影機材,撮影方法, が増え,さらなる高画質化はいうまでもないが,高機能なビ 画像や映像の高画質化や見せ方のための編集面での工夫が進 デオカメラに搭載されているような,露出や深度描写に関係 むものと思う. するマニュアル機能が充実することにより,より天体撮影の 幅が広がるものと期待される. 10. 画像入力-撮影機器 最も高性能な撮影機材である冷却 CCD カメラとの比較に 豊田堅二(カメラ技術研究会) おいて,デジタル一眼レフカメラは,低ノイズの点で冷却 CCD カメラに及ばないが,2007 年から始まった天体望遠鏡 10.1 技術報告 ショップを通じて行われるサービスとしての,デジタル一眼 デジタル一眼レフを中心に,数多くの技術発表がなされた. レフカメラの冷却改造が広がってきた.いまでは複数の天体 松本(キヤノン)は 35 mm 判フルサイズのフラッグシップ 望遠鏡ショップで改造対応や改造機の販売を行うようになっ 機キヤノン EOS 1Ds MarkIII につき,その開発意図,構成技 ている.撮像素子を低温にすることによる低ノイズ化の価値 術について報告した(日写誌,71(3),159).古山ら(ニコ だけでなく,カメラ本体の機能である,撮像素子そのもので ン)は,35 mm 判フルサイズデジタル一眼レフニコン D3 に 楽にピント合わせができるライブビュー機能などで撮影フ つき,その技術内容を報告した(日写誌,71(3),165).国 ロー全体を快適にする機能への期待も大きく,冷却改造の人 重(オリンパス)はフォーサーズデジタル一眼レフオリンパ 気に繋がっているものと思われる. ス E-3 につき,開発意図と技術内容につき報告した(日写誌, また,画像処理やソフトウェアの機能による新しい表現の 71(3),170) .井上(松下電器)の報告もパナソニック LUMIX 世界も進化した.都会などの環境が明るい場所での日周運動 DMC-L10 の技術内容についてだが,主としてライブビュー の撮影が,明るい風景に露出を合わせた画像を連続的に撮り, 機能の改善について述べている(日写誌,71(3),175). あとから「比較(明)」という合成条件でソフトウェアを用い て画像合成することで美しい作品に仕上げることができると いう手法は,以前にも解説したが,より一般化した. さらに静止画で撮影して動画的に見るという手法も進化し デジタル一眼レフのライブビューについては松澤(オリン パス)がその方式,利点,課題などについて報告している (PIE セミナー,1).また,宮成(キヤノン)はキヤノン EOS Kiss X2 のライブビュー機能に関連してフリッカー抑制や電 た.カメラを固定した星景写真(地上の風景と星野を被写体 子先幕シャッターなどの技術について報告した(カメラ技 とした写真)を連続して撮影し,動画編集ソフトウェアによ 術,23). り動画化するという楽しみ方が広がりつつある.たとえば, 宇津木(ニコン)はデジタル一眼レフ内での画像処理によ 10 秒露出で撮影した星景写真を動画の 1 フレームとして扱う る 倍率色 収 差 補 正 について 報告 した(O plus E,30(10), ことで,連続した 600 枚の画像から 20 秒の動画作品を作成 1055) .一方で杉森(キヤノン)は,パソコンのアプリケーショ するというような手法である.この条件では 300 倍の速度で ンソフトによるレンズ収差補正について報告を行った(PIE 日周運動を映像化できることになるが,露出時間や動画化す セミナー,12). る段階でのフレームへの割付の条件で,自由にコントロール 川路(ニコン)はデジタル一眼レフの各種画像処理につい できるのが楽しみに繋がっているようだ.こういう手法は, て報告を行った(写真技術,9).デジタル一眼レフ内部の画 昔からソフトウェアの機能としては搭載されていたものであ 像処理に関しては,南(富士フイルム)がフジ FinePix S5Pro るが,素材として高画質な星景画像が手軽に得られるように に組み込まれたフィルムシミュレーションモードについて報 なったこと,動画編集ソフトウェアの低価格化,画像を処理 告している(日写誌,71(3) ,180) .また市川はコンパクトデ するパーソナルコンピュータの高性能化によるところが大き ジタルカメラやデジタル一眼レフに組み込まれたさまざまな い.今後,そういうソフトウェアの機能と連携した,表現の 画像処理機能について報告を行った(O plus E,30(10) ,1061) . 領域がますます広がることが期待される. 岩崎(ニコン)はデジタル一眼レフに組み込まれたシーン 天文現象に目を向けると,2008 年 8 月 1 日に皆既日食が中 認識機能について報告している(カメラ技術,4).芝山(ニ 国などで観測された.いろいろな形で発表,報告されている コン)はレンズ内手ブレ補正技術について報告した(光学冬 日食の撮影画像を見ると,デジタル化が確実に進んでいるこ 期,29).手ブレ補正については西(電通大)がその計測と とが分かる.特にこういう現象は,撮影結果がその場で確認 評価技術について報告している(光学冬期,35).田澤(ニ できるということを含め,デジタルカメラの機能が力を発揮 コン)はデジタルカメラへの無線 LAN 機能の組み込みと関連 する場所であり,ダイナミックレンジの極めて広い被写体に するサービスについて報告した(PIE セミナー,6).また, 180 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) 川合(オリンパス)はデジタル一眼レフのダストリダクショ ビューモードから更に操作を行うことによって HD 動画の記 ンシステムについて報告している(光学冬期,69) .堀切(富 録が可能になっている. 士フイルム)はコンパクトデジタルカメラの外観デザインに ついての報告を行った(カメラ技術,13). デジタル一眼レフではないが,レンズ交換可能なデジタル カメラの新たな商品形態が登場した.2008 年 8 月にオリンパ 一色はレンズ設計の実際について,自動設計ソフトの機能 スとパナソニックが「マイクロフォーサーズ」という規格を を中心に報告した(カメラ技術,9) .レンズの設計に関して 共同で発表し,10 月にはパナソニックが LUMIX DMC-G1 を は秋山(サイバネットシステム)が防振レンズについて報告 その第一号機として発売した.オリンパスも同規格での商品 しており(光学冬期,47) ,牛山(タイコ)はデジタル一眼レ の開発を表明している.一眼レフファインダーを用いず EVF フ用レンズの設計についての報告を行っている(光学冬期, あるいは背面液晶によるライブビューでファインダー機能を 13).中井ら(キヤノン)は回折光学素子の交換レンズへの 実現するこのタイプのレンズ交換デジタルカメラは,今後デ 応用に つ い て,色収 差 補 正を 中 心 に 報告 し た(O plus E, ジタル一眼レフとコンパクトタイプデジタルカメラの中間の 30(10),078).また,小川(ペンタックス)はデジタル画像 性格を有するものとして,一つのジャンルを形成するものと の 3 次元被写界解像力定数の提案について報告した(光学冬 思われる. 期,95) .瀬川ら(特許庁)はズームレンズ系に関する特許出 願の調査資料について報告した(光学冬期,117). その他の新製品の主立ったものを挙げると,ニコン D60 は APS-C サイズ 1020 万画素のエントリーモデル,キヤノン EOS デジタルカメラの応用については原(オリンパス)が水中 Kiss X2 は同じくエントリーモデルで APS-C サイズ 1220 万画 写真について(カメラ技術,17) ,古都(キヤノン)が天体写 素,同 EOS Kiss F はその下位モデルで 1010 万画素.同 EOS 真について(光学冬期,109)の報告をそれぞれ行っている. 50D は APS-C サイズ 1510 万画素の中級機である.オリンパ 野村(ソニー)はデジタルカメラに使われる CCD/CMOS ス E-30 はフォーサーズ 1230 万画素の中級機で,アートフィ の撮像素子について報告した(カメラ技術,27) .洪(コニカ ルターという画像処理によるさまざまな表現効果を内蔵して ミノルタ)はデジタルカメラの定量的画質評価について報告 いる.同 E-420 は 1000 万画素のエントリーモデルで小型軽 している(光学冬期,79). 量を特徴としたもの.同じく E-520 は E-420 にボディ内手ぶ 新しい提案として Story(Adobe Systems)はマイクロレン れ補正などを加えた上位機種である.ペンタックス K20D は ズアレイと画像処理を組み合わせたシステムについて報告し APS-C サイズ 1460 万画素でライブビュー機能を搭載した中 た(O plus E,30(10),1072).谷田(大阪大学)は複眼カメ 級機,同 K200D は APS-C サイズ 1020 万画素で防塵防滴構 ラのコンセプトと応用,課題について報告を行った(O plus 造を特徴とするスタンダードモデルである.またペンタック E,30(10),1082).また,八色(フィット)は魚眼レンズに ス K-m は K200D と同等の機能のエントリーモデルであるが, よる撮影画像のパノラマ変換について報告した(O plus E, APS-C サイズのデジタル一眼レフカメラで最小のボディサイ 30(10),1087). ズを実現した.ソニー α200 は APS-C サイズ 1020 万画素の 10.2 デジタル一眼レフ デジタル一眼レフの分野では35 mm判フルサイズのフォー エントリーモデルである. 10.3 コンパクトタイプデジタルカメラ マットを採用する機種が充実してきた.キヤノンは EOS 5D コンパクトタイプのデジタルカメラでは,撮影レンズのワ の改良型で画素数を 2110 万画素とした EOS 5D MarkII を発 イド化とズーム比の増大が続いている.高倍率ズームの EVF 売し,ニコンは同クラスの D700 と 2450 万画素のフラッグ タイプの機種ではキヤノン Powershot SX1 IS,SX10 IS,オリ シップ機 D3x を出した.また,ソニーも 2460 万画素の α900 ンパス SP-570UZ,SP-565UZ,カシオ EX-FH20 のように 20 で参入した.高級機分野での 35 mm 判フルサイズフォーマッ 倍のものが登場した.一般的な中級機クラスも,3 倍のもの トと,2000 万画素超というスペックがある程度定着する傾向 から 4 ~ 7 倍に移行してきている. がうかがえる. ワイド端の焦点距離も,35 mm 判換算で 28 mm 相当のもの また,ライブビュー機能の組み込みは進み,新製品の多く は数多く,更にワイド側にシフトする傾向にある.特に高級 のものがこの機能を搭載している.ほとんどのものがメイン コンパクトのクラスではワイド端 35 mm 判換算で 24 mm 相 の撮像素子をそのまま用い,ライブビューモードではメイン 当のものが,これまでのリコー GX100 に加え,同じくリコー ミラーを上昇固定してシャッターを開放した状態で動画モー GX200 とパナソニック LUMIX DMC-LX3 と増えてきた.い ドで読み出す形式だが,ソニーの中級機 α350 及びその下位 ずれもワイドコンバージョンレンズを装着することにより 機種の α300 ではライブビュー専用の撮像素子を設け,ファ 35 mm 判換算で 18 ~ 19 mm の超ワイドの画像を楽しむこと インダーペンタミラーの一部を動かして光路を切り換える独 ができる. 自の方式を採用している. 顔認識に代表される画像処理の応用はなお発展の様相をみ ライブビュー機能の延長上の技術として,動画記録の機能 せている.笑顔を検出して撮影する機能やフォーカスを設定 を搭載した機種が新たに登場した.ニコン D90 は APS-C サ した被写体を追尾する機能,シーンを自動認識する機能など イズ 1230 万画素の中級機,キヤノン EOS 5D MarkII は 35 mm が登場している.中で興味深いものとしては,カシオ EX-Z300 判フルサイズの準高級機と性格は異なるが,共にライブ に採用された「メイクアップ機能」が挙げられるだろう.こ 2008 年の写真の進歩 181 れは検出された顔に更に画像処理を施してより美しくみせる ム機であるが,WiFi による無線通信機能を備え,SNS サイト ものである. に撮影画像をアップロードできる. 撮像素子面では CMOS 撮像素子の採用が定着してきた.キ ソニー DSC-T700 は 1010 万画素,4 倍ズームの屈曲光学系 ヤノン Powershot SX1 IS,カシオ EX-F1,同 EX-FH20 などが を備えた薄型の機種だが,4 GB の内蔵メモリーと,タッチパ 登場しているが,中でもカシオの 2 機種は CMOS 撮像素子の ネルによる操作系を備えている.また,DSC-W170(1010 万 高速読み出しの特徴を生かし,高速の連続撮影機能や高速の 画素,28 mm 相当からの 5 倍ズーム)や DSC-T300(1010 万 ムービー機能を搭載している点で,今後の動向を示すものと 画素,屈曲光学系 5 倍ズーム)からは被写体の笑顔を検出し して注目される. てシャッターを切る機能に改良が加えられ,大人と子供を判 同じ CMOS ベースの撮像素子でもシグマ DP-1 は独自の色 分解方式のフォビオン X3 撮像素子を使用したものだ.これ 別するなどのものが加わった. カシオ EXILIM ZOOM EX-Z80(810 万画素,3 倍ズーム), までデジタル一眼レフに使われていた大型の撮像素子をコン 同 EX-Z85(910 万画素,3 倍ズーム)は女性ユーザーをター パクトタイプのデジタルカメラに組み込んだものとして,こ ゲットに,外装の色や AF ターゲットをハート型にするなど, れも今後の動向が注目される. ユーザーインターフェースの工夫を施した. プラザクリエイトからは使い切りのデジタルカメラとして リコー R8 及び R10 は共に 1000 万画素で 7.1 倍のズームレ 「エコデジモード」が,タカラトミーからは ZINK 方式のプリ ンズを備えている.道具としての感触を重視した準高級機. ンターを内蔵した「シャオ」が発売された.両方とも以前に も何度か試みられたコンセプトだが,新たな工夫や技術を採 り入れて再度チャレンジしたものである. 米コダックも EasyShare M763(716 万画素,3 倍ズーム) を日本市場に投入している. 10.4 交換レンズ 以下,各メーカーの主立った新製品を取り上げてみよう. 大きな流れとしては,デジタル一眼レフ用交換レンズの充 ニコン COOLPIX P6000 は 1350 万画素,4 倍ズームを備え 実だが,その中でズームレンズの高倍率化,ワイド化,大口 た高級機であるが,GPS 機能を内蔵し,ジオタグを画像ファ 径化といった傾向がみてとれる. イルに書き込む機能を備えている.以前から力を入れている 高倍率 化 で は つ い に 15 倍 ズームのタム ロンの AF 18- WiFi 機能内蔵の機種は,COOLPIX S52c と S610c の 2 機種が 270 mm F3.5-6.3 Di II VC LD Aspherical(IF)Macro が登場 し 登場した.COOLPIX S60 は屈曲光学系の機種で,タッチパネ た.ワイド 化 で は APS-C サイズ用のタム ロ ン SP AF 10- ルによるユーザーインターフェースを特徴としている. 24 mm F3.5-4.5 Di II が登場している.また,大口径化ではソ キヤノン Powershot G10 は 1470 万画素の CCD 撮像素子と ニー Vario Sonner 24-70 mm F2.8 のような F2.8 の標準ズーム 35 mm 判換算 28 mm からの 5 倍ズームレンズを備えた高級コ から更に発展してフォーサーズ用ではオリンパス ZUIKO ンパクト.Powershot SX110 IS は 900 万画素で 10 倍の高倍率 DIGITAL ED 14-35 mm F2.0 SWD と,開放径 F2.0 固定のもの ズームを備えた機種.ファインダーは背面液晶によるものの まで登場した.大口径という意味では超望遠域で F2.8 を実現 みで,EVF は備えていない.それに対して Powershot SX10 IS し た シ グ マ APO 200-500 mm F2.8/400-1000 mm F5.6 EX DG は前述の SX1 IS の兄弟機でこちらの撮像素子は CCD.やは も注目される. り 20 倍ズームレンズと EVF,それにバリアングルの液晶モ ニターを備える. 更に別の流れとしては,単焦点レンズの新製品が例年にな く多いように思われる.標準系ではフォーサーズ用のパン オリンパスは前述の高倍率ズーム機の他に防水防塵耐衝撃 ケ ーキレンズ ZUIKO DIGITAL 25 mm F2.8,マ クロの smc の ヘ ビ ー デ ュ ー テ ィ ー 機 に も 力 を 入 れ て お り,μ850SW, PENTAX-DA 35 mm F2.8 Macro Limited,AF-S Micro NIKKOR μ1030SW,μ1050SWの3機種が登場している.中でもμ1050SW 60 mm F2.8G ED が登場している.ニコンからアオリレンズ はカメラボディを叩いたり傾けたりして操作するユーザーイ として PC-E NIKKOR 24 mm F3.5D ED,PC-E Micro NIKKOR ンターフェースを備えたものだ.この機種の防水は水深 3m 45 mm F2.8D ED,PC-E Micro NIKKOR 85 mm F2.8D の 3 種 までだが,μ1030SW は水深 10 m まで可能. のものが発売されたのも注目される. 同様のヘビーデューティ機はペンタックスからも Optio W60 が発売されており,こちらは水深 4 m まで可能. 単焦点レンズのもう一つの傾向は大口径化だろう.標準レ ンズでは AF-S NIKKOR 50 mm F1.4G,シグマ 50 mm F1.4 EX 富士フイルムの FinePix S100FS は 14.3 倍の高倍率ズームを DG HSM が登場し,ワイドではキヤノンの EF24 mm F1.4 L II 備えた機種だが,2/3 型のスーパー CCD ハニカム VIII HR を USM,望遠では同じくキヤノンから EF200 mm F2 L IS USM 搭載し,従来比約 4 倍のダイナミックレンジを実現した.な が登場している.その一方でケンコーからは逆に暗いが安価 お,富士フイルムは 9 月のフォトキナに 3D コンパクトデジ な超望遠レンズミラー 800 mm F8 DX,ED 500 mm F8 DX な タルカメラのプロトタイプを発表した. どが登場した. パナソニックの LUMIX DMC-FX500 はタッチパネルで AF レンジファインダーカメラ用の交換レンズでは,コシナか 対象の被写体を指定したり,マニュアル露出の設定をタッチ ら Nokton Classic 35 mm F1.4,C Biogon T* 2.8/35 ZM,Ultron パネル上で直感的に行うユーザーインターフェースを採用し 28 mm F2,Distagon T* 3.5/18 ZF,Makro Planar T* 2/100 ZK ている.また,LUMIX DMC-TZ50 は 910 万画素の 10 倍ズー が登場している. 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) 182 構により良好な画質を維持することができるとしている 10.5 その他 中判の一眼レフの新製品としては,マミヤ 645AFD III が登 場した.また,インスタントカメラでは富士フイルムから instax mini 7S チェキが発売されている. (NIP24,206). 日本画像学会誌第 47 巻第 2 号では,電子写真方式に関し て,クリーナレス小型化技術,多種媒体への高速・カラー高 画質化技術,OPC 感光体の長寿命化技術などについて技術解 11. 画像出力 説が特集されている(日画誌,47(2),90). 11.2 印刷 小関健一(千葉大学) 11.1 プリンタ 村井清昭(セイコーエプソン) 本項では,写真画質出力を主な目的とするハードコピーテ クノロジーに関し 2008 年の動向を述べる. 全体としては高画質・高速化という基本項目の進化に加 淵田(共同印刷)らは,磁気モジュレータにより非磁性パー ル顔料を移動させることで,偽造防止や従来の印刷技術では 表現できない視覚効果が期待できることを示した(日印誌, 45,27). え,インクジェットでは UV インクを用いた報告,電子写真 内藤(九州産大)らは,インキ転移直後の表面観察や素抜 ではメディアの多種媒体への対応など新たな傾向も見られ け生成の評価を行い,オフセット印刷におけるインキ転移メ た.また,印刷産業の総合見本市である Drupa2008 が 6 月に カニズムが空洞理論で進むことを示した(日印誌,45,256; ドイツで開催されインクジェット技術を中心としてデジタル 45,624). 印刷分野への商品提案が数多くされた. 偽造防止に関連して,幾つかの報告がある.DNA は真偽を ①インクジェット 判別するための非常に有効な材料である.宗像(国立印刷局) Rob Beeson(Hewlett Packard)は HP の SPC と Edgeline 技 らは,DNA インキの耐光性を向上させるための様々な検討を 術について発表し,インク滴の微細化(1.3pl)と 2 サイズの 行い,紫外線吸収剤の添加が効果的であることを示した(日 ドットサイズにより粒状性を低くしていること,ボンディン 印誌,45,263).さらに詳細な検討を進めることで,偽造防 グエージェントインク(下地剤)を採用することでインクの 止などに有効なインキが開発されることを期待する.下山(兵 定着性を高め,ヒートシステムを採用することで高速プリン 庫県警)らは,偽変造文書を鑑定するための赤外域を含め トを実現していることを紹介した(PPIC’08,1).Okumura 6 個の光源を備えたマルチバンドスキャナを開発し,それに (セイコーエプソン)らは,薄膜ピエゾによるインクジェット より迅速な真偽判定が行えること(日印誌,45,270),さら ヘッドを開発し,フォトリソグラフィ技術をピエゾ素材の薄 に偽札などから読み取った統合輝度ヒストグラムの多変量解 膜化に応用し厚さ 1 ミクロンの薄膜ピエゾ素子によりマルチ 析を行うことで,偽造印刷物の分類を能動的に行えることを ドットサイズのプリントを実現した(PPIC’08,48) .Anir Dutta 報告している(日印誌,45,631). (コダック)らは,コンティニュアス方式のインクジェット技 佐藤(東北リコー)は,汚れの観点から困難であったデジ 術を紹介し,600 dpi で高速にプリントする技術を紹介した タル孔版式自動両面印刷機を,4 つの技術を使って開発し, が,予稿集には詳細は示されていない(PPIC’08,60). 特に転写汚れ防止印圧ローラーに関して報告している(日印 Ishikura(京セラ)らは,UV 硬化インクを使ったワンパス 誌,45,33) .環境負荷低減に役立つものと思われる.溶剤を カラー印刷の報告を行なった.600 dpi,847 mm/sec の印刷能 使用しないインクの UV 化も VOC 削減に貢献する.尾崎(国 力を持つ水性インク用に開発されたインクジェットヘッドに 立印刷局)らは,印刷不良に結びつく可能性のある,印刷ブ UV 硬化インクを適用しメディア搬送速度を変えて印刷した ランケットへのアクリレートの浸透挙動をIRイメージング法 場合の文字と画像の印刷結果を示し,印刷速度が画質に与え を用いることで解析可能であることを示した(日印誌,45, る影響を報告している(NIP24,138). 143).佐藤(日新製鋼)らは,屋外サイン用意匠鋼板をデジ ②電子写真・印刷 タル的に行う技術として昇華熱転写を用いている(日印誌, Kawamura(キヤノン)は,電子写真向けの FM ハーフトー 45,640).この分野では,従来溶剤系インクを用いてポリ塩 ン技術について報告した.ドットサイズを比較的に大きくし 化ビニルフィルムに印刷する方法が用いられているが,昇華 て安定させる電子写真において,安定で均質なドットサイズ 熱転写を用いることで環境適合性をあげることができる.さ の FM 型であって,かつドットサイズを可変とする技術を紹 らに UV インクジェット技術などを用いることで,高機能化 介している(PPIC’08,26).Shibayama(リコー)らは,20 が期待される. チャンネルの Edge-emitting レーザーダイオードアレイ,光 印刷工程において,色校正作業は重要である.印刷のデジ 出力:10 mW/ch,波長:658 nm,20 本のレーザー光を並列 タル化に伴い,従来行われていた紙媒体への出力からディス に書き込むスキャンシステムを開発し高速に印刷するシステ プレイ上で行うソフトプルーフに移行している.しかし個々 ムを紹介した, (NIP24,212).Mhoward Mizes(ゼロックス) のモニターが,正確に色再現を行えるかどうかは大きな問題 らはインラインのリニアアレイセンサを用いて自動濃度補正 である.杉山(大日本印刷)らは,目視によるモニタの階調 機構を付けることで均一性を安定化する技術を発表した.通 再現特性および白色点の色度に対するキャリブレーション手 常部品の交換が必要な程の画像劣化が起こる場合でも補正機 法を検討している(日印誌,45,89) .さらに問題点を検討し 2008 年の写真の進歩 精度を向上させることで実運用可能な手法になることを期待 したい. 183 の写真家の作品が紹介された. 12.2 写真展 プリンタブルエレクトロニクスでは,スクリーン印刷が主 に使われているが,近年特にオンデマンド印刷法であるイン ・「国立美術館所蔵による 20 世紀の写真」 (千葉市美術館,11 月 1 日~ 12 月 14 日) クジェット技術が各方面で注目されている.坂井(富山県工 千葉市美術館と京都近代美術館が主催し,東京国立近代美 技センター)らは,セラミック基板への銅電極形成をインク 術館と国立国際美術館が出品協力により実現した写真展で ジェット技術により行っている(色材,81,493).それぞれ あった.この写真展は 20 世紀初頭から現代まで写真史の上 の印刷技術が持つ特徴を効果的に組み合わせることで,プリ で,西欧諸国の名作と言われる多くの作品を見る事ができた. ンテッドエレクトロニクスがより現実的なものになることを 内容は芸術作品からドキュメンタリー写真まで幅広くあっ 期待したい. た.4 つの美術館の協力で実現したわけだが日本国内に世界 の名作が多数所蔵されていることに感激した. 12. 写真芸術 ・ロベール・ドアノー「ロベール・ドアノー写真展 パリ・ 西垣仁美(日本大学芸術学部) ドアノー~ Paris en liberte」 (日本橋三越本店新館7階ギャラリー,10月7日~10月13日) 12.1 概況 2008 年の写真作品で顕著な特徴であると見て取れたこと この写真展はフランスで 2006 年 10 月に 11 年ぶりに開催 された大回顧展の世界巡回展で日本に来たものであった.ド は,写真の取り扱われかたである.すなわち 2007 年までは アノー氏のご息女によって創設されたアトリエ・ロベール・ 写真作品は写真の世界を中心に,写真展として展示されるの ドアノーによって監修されたもので,黒白写真 200 枚で構成 が通常であった.しかしながら 2008 年は多くの美術館等で されていた.1 点ずつ見せる通常の展示の他にモンタージュ 他のメディア,絵画,映像などと並べられて展示された作品 やインスタレーションによる見せ方もおもしろく,内容も充 展が急激に増えた.写真が写真だけの世界にとどまらず,ま 実していた素晴らしい写真展であった. すます芸術作品の一つとして認識されたのではないかと感じ ・米田知子「米田知子展―終わりは始まり」 られた.それらの展覧会は次のようなものであった. 「わたし (原美術館,9 月 12 日~ 11 月 30 日) いまめまいしたわ 現代美術にみる自己と他者 Self/Other」 初公開で新作のシリーズ「パラレル・ライフ―ゾルゲを中 (東京国立近代美術館,1 月 18 日~ 3 月 9 日) , 「液晶絵画 Still/ 心とする国際諜報団密会場所」(2008)と共に代表作「シー Motion」 (三重県立美術館,2 月 14 日~ 4 月 13 日,その後大 ン」 「見えるものと見えないもののあいだ」などを含めた氏の 阪展,東京展開催),「トレース・エレメンツー日豪の写真メ 全貌を見られる初の大規模な写真展であった.氏の写真は歴 ディアにおける精神と記憶」 (東京オペラシティーアートギャ 史の一齣と結びついた時,深みをます作品群であることが明 ラリー,7 月 19 日~ 10 月 13 日), 「渡辺義雄が写した船」 (日 確に示されていた. 本郵船歴史博物館,9 月 6 日~ 12 月 28 日),「日本の新進作 ・佐藤新太郎「Tokyo Twilight Zone 非常階段東京」 家展 Vol.7 オン・ユア・ボディ」 (東京都写真美術館,10 月 18 (フォト・ギャラリー・インターナショナル,5 月 9 日~ 6 日~ 12 月 7 日),「沖縄展・プリズム 1872–2008」(東京国立 月 6 日) 近代美術館,10 月 31 日~ 12 月 21 日), 「DOMANI— 明日展 夕暮れから夜への変化の時,自然光と人工光が混じり合う 2008」 (国立新美術館,12 月 13 日~ 2009 年 1 月 26 日)など 東京の姿を非常階段の上から捉えたカラー作品展である.東 である. 京に存在する新しい物と古い物,居住地域と商業地域などが また 2008 年は日本ブラジル修好 100 周年ということで, ブ コントラストをもち,昼でも夜でもない,ほんの僅かな時間 ラジル関連の作品展,特にブラジルの日系移民を被写体とし に浮かび上がるカラフルに煌めく東京の美しさが精緻に写さ た写真展が数多く開催されていた. 「2008 年日本ブラジル交 れている.同名の写真集も青幻舍から出版された. 流年記念ブラジルの現代写真表現」(ZAIM 別館 2 階,11 月 ・若林勇人「草の上の昼食」 15 日~ 26 日), 「森山大道ミゲル・リオ=ブランコ写真展 — (新宿ニコンサロン bis,1 月 29 日~ 2 月 4 日 / フォト・ギャ 共鳴する静かな眼差し」(東京都現代美術館,10 月 22 日~ ラリー・インターナショナル,8 月 20 日~ 8 月 30 日) 2009 年 1 月 12 日),川内倫子「Semear」(フォイル・ギャラ 温室で作品制作されたカラー写真である.現実と記憶の狭 リー,4 月 24 日~ 5 月 25 日)などもそうであった.発表さ 間の不思議な時間表現にオリジナリティを感じた.同名のタ れる写真が社会的でき事と連携していることを改めて感じさ イトルで 2 回の写真展が行われ,同じ作品が展示されていた せられた. が,作品のサイズと構成の違いにより多少印象は異なったが, 最後に海外での事ではあるが 1980 年から始まり 2 年に 1 回 偶数年に開催されるパリ写真月間が 2008 年 11 月開催された. 大きく引き伸ばしても充分に密度のある写真作品であった. 同名の写真集も冬青社から 1 月 25 日に発行されている. 第 15 回目となった今回,特別招待国として日本が取り上げ 12.3 「東京写真月間 2008」開催 られた.木村伊兵衛の作品をはじめ細江英公,森山大道,荒 第 13 回を迎えた「東京写真月間 2008」が「東京写真月間 木経惟から宮本隆司,川内倫子,蜷川実花,梅かよまで多く 2008」実行委員会と社団法人日本写真協会,東京都写真美術 184 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) 館の主催で,6 月 1 日の「写真の日」を中心に開催された. フォトグラファーの作品が紹介された.シンガポールは平和 今回の国内展の企画は「耕の時代 日本人の暮らし 1950 年 であったため,ドキュメンタリー写真が少ないということで ~ 70 年代」であった.2007 年の企画では「東京の肖像」と ある.学生の写真は新しい感覚で自己表現や社会への問いか して 60 年代から現在までの東京を浮かび上がらせた.その けを行ったものであった.「The Varied Life of People of Asian 流れを受けて今回は地方地域における人々の暮らしと生活に City」 (富士フイルムフォトサロン東京 スペース 3,5 月 30 日 焦点があてられた.この時代は大都市圏では高度経済成長が ~ 6 月 5 日)では 6 名の写真家の作品が紹介された.シンガ 続き変化の時代であったが,他の地域ではまだ独自の文化を ポールでは自分達の結婚式を写真に残すという風習があり, 大切に守り続け,貧しいながらも生き生きと日々の「暮らし」 そのウエディングフォトや新しい領域のドキュメンタリー写 が送られていた.そのごくありふれた日常生活を「生活者」 真によって,旅行者が目にすることが少ない国民の生活が紹 の視線から記録された写真で,特にその時代の「記憶」と「気 介された.また独特の世界を作り出したファション写真も展 配」が色濃く感じられる作品によって構成された. 示された. 宮本常一「宮本常一が歩いた日本…昭和 37 年~ 39 年」 (銀 「日本写真協会賞」は,写真文化の国際交流や写真界への貢 座ニコンサロン,5 月 28 日~ 6 月 10 日)では民族学者であ 献・功労のあった個人や団体と,地域において写真文化の振 る宮本氏が民族調査のために日本全国津々浦々を歩いて記録 興発展に寄与している個人や団体,写真作家活動や写真研究 した民衆のごくありふれた日常を見せていた.芳賀日出男 活動において顕著な業績を残した写真家・研究者,将来を嘱 「宮本常一と歩いた九州…昭和 37 年」 (オリンパスギャラリー 望される新人写真家を表彰するものである.その「日本写真 東京,6 月 5 日~ 6 月 11 日)では,宮本と旅した 3ヶ月間に 協会賞受賞作品展」(富士フイルムフォトサロン,5 月 30 日 記録したものであった.飛騨野数右衛門「ぼくの日記帳は, ~ 6 月 5 日)が開催され,その表彰式が 6 月 2 日に笹川記念 カメラだった」 (キヤノン S タワー2 階・オープンギャラリー, 館で行われた. 5 月 29 日~ 6 月 16 日)は北海道のアマチュア写真家であっ ・国際賞:マーティン・パー(Martin Parr 英国) た飛騨野が 1931 年に東川村役場に勤めてからの家族と村の 現代日本の写真集も取り上げられていた「The Photobook: 記録写真であり,その中から昭和 20 年代から 50 年代にかけ A History volume, I, II」(Gerry Badger との共著)は,様々な てが展示された.千葉禎介「秋田の暮らし」(ポートレート 写真集からの引用考察によって写真史におけるフィジカルな ギャラリー,6 月 5 日~ 6 月 11 日)は,1950 年~ 60 年代の 側面を提示し,強い反響をよんだ.またヨーロッパで開かれ 横手で撮影された写真を中心に構成され,当時の農村の機械 た写真展で日本の写真家とコラボレートしながら新しいド 化や過疎化による生活環境や暮らしぶりの変化が見られた. キュメンタリーを発表し続ける作家活動が評価された. 今回で 5 回目を迎える「アジアの写真家たち」はシンガ ・功労賞:本多健一 ポール共和国の写真家達が取り上げられた.シンガポールは 応用化学分野の第一人者であり, 「光化学的変換を主とする 1819 年からイギリス人による統治が始まり,ヨーロッパから 光化学,電気化学分野での研究」の研究に邁進されると共に もたらされた文化様式がアジアの自然,風土,文化と融合し 後進の育成に努められた.特に光をエネルギー源として水の た.更に 19 世紀後半からアジア諸国からの移民が急増し「ア 電気分解を行う触媒系の研究では「本多・藤嶋効果」として ジアン・ミックス」と呼ばれるシンガポール独特の文化が開 光化学,写真化学の教科書にも記載され,その業績は国内外 花した.この多文化主義と伝統を重んじる文化が共存してお に知られ高く評価されている.このように日本の学術関係, り,ここから生まれる新感覚のアートフォトグラフィとド 写真分野の発展に寄与された. キュメンタリー写真が紹介された. ・特別賞:下山敏郎 クリス・ヤップ「Preserved Nature」(ペンタックスフォー 氏は昭和 30 年にニューヨークにジャパンカメラセンター ラム,5 月 28 日~ 6 月 9 日)ヤップ氏はデジタルプリントの を設立すべく派遣されたメンバーであり,当時のアメリカ市 第一人者として知られており,シンガポール国立芸術大学で 場で日本製のカメラの品質が信頼される礎を築いた.戦後日 ファインアートと写真の教鞭を取ると同時に制作も行ってい 本のカメラがいかに発展してきたかを自らの体験をもとに記 る.この作品展は彼の写真活動と自然との関わりを表現しよ 録した著書「世界を制覇した日本のカメラ 奮闘したサムライ うとしたものであった.レスリー・キー「Faces of Love」 (コ たちの記録」は日本製カメラの今後を考える労作であった事 ニカミノルタプラザギャラリー C,5 月 20 日~ 5 月 30 日) が評価された. キー氏はシンガポールを代表する若手写真家であり,1994 年 ・文化振興賞:蒼穹舍 に日本に留学し,その後日本や近隣アジア,アメリカでファッ 代表の大田通貴氏は 1986 年に蒼穹舍を起して以来,日本 ションと広告写真を中心に活躍している.この写真展はアジ の写真表現に重要な足跡を残す写真集も含め約 50 冊の写真 アを中心とした著名なスター,アーチスト,タレント達を通 集を刊行してきた.またワイズ出版やヒステリック・グラマー して人間愛や地球への愛情を伝えようとしたものであった. の出版物にも編集者として関わり,写真文化の発展に多大な シンガポールの風「The Other Horizon from Singapore」 (アイ 貢献をした.蒼穹舍は出版社であると同時に新刊書,古書の デムフォトギャラリー「シリウス」,5 月 29 日~ 6 月 4 日) 書店として写真集の品揃えには定評がある.今後の活動に期 では 3 名のドキュメンタリー写真家と 6 名のスチューデント・ 待が寄せられている. 2008 年の写真の進歩 185 ・学芸賞:深川雅文 ・新人賞:石川直樹 川崎市民ミュージアム開館当初から学芸員として多くの展 世界各地に残存する 300 年前から 3 万年以前と推定される 覧会を企画してきた.またドイツの科学哲学者ヴィレム・フ 古代の岩壁画や洞窟画とその周辺で暮らす人々の生活などを ルッサーの「写真哲学のために」(勁草書房,1999 年)を翻 7 年かけて撮影した記録写真である写真集と写真展「NEW 訳・出版するなど写真評論の分野でも業績を残している.19 DIMENSION」と,北極圏に住む先住民族を 10 年かけて記録 世紀からの写真表現の歴史を貫く<光による革命の意志>を し,極北の住民も地球温暖化の危機にさらされている事を伝 示す評論集「光のプロジェクト―写真,モダニズムを超え えた写真集「POLAR」が共に高く評価された. て―」(青弓社)が今回受賞の対象となった ・年度賞:鈴木理策 受賞対象となったのは初公開の「雪」シリーズも加えられ ・新人賞:前川貴行 東京都写真美術館での「地球の旅人」に他の写真家と共に 出品し,のち松本や柏崎でも写真展を開催したのに加え,写 た個展「熊野,雪,桜」 (東京都写真美術館)と同名の写真集 真集「Bear World クマ達の世界」「シロクマの願い」「いのし である.氏は「熊野」や周辺をモチーフにカラー作品制作を し」を続けて発表したネイチャー写真が評価された.オーソ 続け,一枚の写真で完結させるのではなく複数の写真で展開 ドックスに被写体を捉えた作品には優しさと素直さがある. させる物語で,眼差しのゆらぎを浮かび上がらせ写真表現の 今後さらに広い自然との関係を築くことで成長が期待され 新たな地平を切り開いてきた.特に今回の写真展はインスタ る. レーション的な空間として鑑賞者の身体感覚を揺るがす画期 的なものであった. ・新人賞:屋代敏博 「銭湯」シリーズでデビューし,その後「太陽」や「鉄塔」 ・年度賞:鈴木龍一郎 を経て「回転回」 「回転回 LIVE」を発表.独自の空間意識を 受賞対象となった写真集「オデッセイ」 (平凡社)は「山谷 視覚化した作品で注目を集めたが, 「回転回」シリーズでは写 の少女」 (1962)から「RyUlysses / ダブリン」 (2004)まで彼 真のもつ時間性に新たに焦点をあてた.写真表現においてこ の代表作を収めたものであり,ようやく彼の仕事の全貌を浮 れまでにない空間を発見し,動きや時間に対して新たな定義 かび上がらせた.35 mm から 6×6,パノラマサイズまで多様 を与えた氏の仕事は写真の新たな可能性を示唆するもので, なフォーマットを駆使し,黒白に焼き付けられた写真群はい 今後の展開が期待される. ぶし銀のような輝きを放つ.氏の作品世界がさらに開花して 〈「写真の日」記念写真展・2008〉(新宿パークタワーギャ いくことが期待される. ラリー 3,5 月 27 日~ 6 月 1 日)は全国から 902 名,2229 点 ・年度賞:瀬戸正人 の応募があった.作品は自由作品部門とネイチャーフォト部 受賞対象となったのは写真展「binran」(ニコンサロン等) 門に分けられ,その両方から外務大臣賞 1 名( 「ライバル」柳 に加え,これまでの作品「部屋」「Silent Mode」「picnic」な 沢保宏)が選ばれた.それ以外は,両部門から最優秀賞各 1 ども高く評価された.異なった作風に見えるが,カメラを最 名,優秀賞各 5 名,准優秀賞各 5 名,レディース賞各 5 名, 大限に生かし独自の写真空間を生み出す非凡なる才能が共通 入選が各 104 名であった.また協賛会社賞が自由作品部門で している.今回の対象作品となった「binran」 (ビンロウ)は, 52 名,ネイチャーフォト部門で 53 名が選ばれた.合計 346 台湾で女性達がビンロウを売る情景を幻想的な異空間として 名の作品が展示された.これら作品はその後 12 月まで全国 5 切り取ったものである. カ所を巡回展示された. ・作家賞:浅井愼平 集成である「HOBO — SHIMPEI’S GEOGRAPHIC 1964–1997」 恒例の〈1000 人の写真展「わたしのこの 1 枚」〉 (新宿パー クタワーギャラリー 3,5 月 23 日~ 5 月 26 日)は,今回で を中心に長年に渡る氏の多角的な創作活動が評価された.氏 13 回目となった.今年も美しい風景,家族の写真,こだわり のコミットしてくる写真からは,歴史感覚と現実感覚とが絶 の光景を多数枚で構成するなどバラエティーにとんだ作品が 妙に混ぜ合わされ,定められた照準から撃ち落とされた物は 展示された. 空虚とユーモアとなる.この写真集は方々から時空の暗喩を 12.4 出版 採集したランドスケープであり,イメージはさらにモンター ・写真集「メメント・モリ」藤原新也,三五館 ジュされ新たなストーリとなる. 1983 年に出版されて以来ロングセラーの「メメント・モ ・作家賞:十文字美信 リ」が 25 年ぶりに改編された.葬られた写真や言葉もあれ 写真集「感性のバケモノになりたい」は 40 年間の著者の ば新たに加えられた写真と言葉もある.世の中に生きる座右 心の軌跡が光跡となって鑑賞者を魅了する.20 歳の時に撮ら の書として,より研ぎすまし強固なものにしたいという作者 れた初期の写真の危うく脆いが力強い作品に始まり,70 年代 の言葉がある.名作と言われる作品に手を入れる勇気に感嘆 の見えないものを見たいという情熱が伝わる鋭い異常感覚を した.金の書,銀の書として両書とも受け継がれていくであ 感じる写真までを含み,この一冊の写真集だけで写真家とし ろう事を感じた. ての資質は明らかであり,広告分野の実績や実力を検討する までもなく評価された. ・写真集「LOVE CALL―時代の肖像―」坂田栄一郎,朝日 新聞出版 日本初のニュース週刊紙「AERA」が創刊 20 周年を迎え, 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) 186 その表紙を 20 年間飾った人々のポートレート写真集である. 氏が撮影した人物は政治家から芸術家,スポーツ選手まであ ものである. 「飽和」というのは,必ずしも開発側を揶揄している言葉で らゆるジャンルの約 800 人以上の人々で,今回は約 900 点の はない.むしろ,写真文化の未成熟さがもたらす不理解が, 作品が断ち切りの画面でほぼ時代順に並べられ,約 1000 頁 意図しないセールスをもたらし,それらが意図しない開発に という他に類をみない写真集となった.時代を代表する人々 結びついていると言えるだろう.この未熟さは,世界トップ のポートレートは,人物写真の価値,写真の記録性について の写真技術を全く使いこなせずに埋没させてしまうことにな など考えさせられるものであった. る.学会誌で提言するのには無理な話を承知で敢えて書かせ 同名の個展が〈東京丸の内エリア〉で 5 月に行われた. ていただくなら,業界をあげて本邦における写真表現や文化 ・写真集「弾道学」黒田光一,赤々社 を成熟させていく努力をすることが,技術の進歩やセールス 映画のスチール写真や広告の分野で活躍してきた氏が 10 につながっていくものだと思う. 年をかけて撮影したという初の写真集である.不穏な空気を 未成熟さについて補足するなら,写真は本来, 「記録」をす 醸し出す情景から日常の光景まで,光も闇も,善も悪も世界 るもので,その記録機能を使って「表現」をするのが写真の の断片と感じられる被写体が,シャープにあるいはアウト 本質なのであるが,記録的側面ばかりが前に出てしまって, フォーカスで様々な表情を見せる.大胆なセレクトと構成で 次のステップになかなか至らないところが問題なのである. 混沌とした中に強いエネルギーを感じさせられた. 同じことを音楽でおこなった場合,楽曲は全く売れないはず ・写真集「cell」松江泰治,赤々社 だ.音源を記録しただけではそこに大きな価値は見いだせな 2 年ぶりの写真集であり,カラー写真では第 2 弾となる. いが,表現がなされていることで,たくさんの人が購入する. これまでの作品と異なり人物が主役となり,正方形の画面と 音楽に関しては,興味のない人でも一定の理解はあるが,写 なった.それは大型カメラで撮影し,画面の 1/200 を正方形 真に関して興味のない人の不理解は大変大きく,これらのこ に切り取りたまたま写りこんだ人物の顔は識別できないが身 とからも未成熟さを痛感するものだ. 体の形は分かるという程度の拡大をすることで粒子の存在を 主張している.新しい展開を感じた. ・写真集「浅田家」浅田政志,赤々社 新しい家族写真を見せられた印象である.作者個人が扮装 世界最高の技術と未成熟な文化を内包する,不思議な日本 の写真業界がいかに混迷しているかは,内部にいると解りに くいのかもしれない. さて,本題の画像技術の進歩についてであるが,当然のよ し,それに見合った場所で撮られた写真は多々あるが,家族 うにデジタル一辺倒で銀塩は極めて急速に収束しつつあり, 全員がその方法により何種類ものシチュエーションで登場人 頼みのデジタル関連も頭打ちなので,景気動向に関係なく当 物になりきり撮影されているのに驚いた.家族の協力なしに 面は面白いものは期待できない可能性が高い.先述の通り, は出来上がらない作品である. 新しい物と言えば既存の技術を組み合わせたり,より使いや ・写真集「鳥たちは今日も元気に生きてます!」戸塚学, 文一総合出版 すくなったものがほとんどで,新規に新しい進歩と感じるも のは多くはない.売れることが開発至上命題である昨今では 写真と文を著者が担当しており,写真集というカテゴリー から外れるかもしれないが,いわゆるネイチャー写真ではな 致し方ない方向とはいえ,若干の寂しさを感じる. そんな中で目を引いたものがいくつかある.列挙すると, く,鳥達のユーモラスな一面から目を覆いたくなる現実まで 一眼レフの動画対応,高防水対応カメラ,モニタの一般モデ を見せており,生きるという過酷さと素晴らしさを感じさせ ルと高級機との二分化,デジタルフォトフレーム,ポータブ てくれる印象深い作品であった. 「Happy Bird’s Day 野鳥たち ル簡易プリンターなどであろう.これらの中で新しく出てき は,今日も元気にいきています.」というタイトルで全国 6 カ たものはデジタルフォトフレームだけだ. 所のキヤノンギャラリーで写真展も行われた. これらを順を追って,どうして興味を持ったのか,写真家 の目から解説していこう. 矢部國俊(写真家,光藝工房) ▲ 13. 写真家から見た画像技術の進歩 1:一眼レフの動画対応 スチールが当たり前の常識である一眼レフが動画に対応に なったのは,察するところ,一般ユーザーのニーズがあると 13.1 2008–2009 年の画像技術の進歩 いうところだろう.申し訳ないことにこれらがリリースされ 2008 年後半から 2009 年前半はまさに激動の時代であった. た理由については推察である. これらが関係あるのかないのかは解らないが,大きな変換に は乏しいと言える年であった. インターネットなどでも動画は隆盛を誇り,一台で色々と 対応できるのは喜ばしいとも言えるのだが,先ほどの記録と 全体としては,技術的に若干飽和した感が否めず,その反 表現という見地で考えると,静止画と動画ではその要求され 動なのか基本は変わらずにどんどんと多様化していく方向で る部分が全く異なるので,おおよそ記録という観点でしか考 変化したように感じる.ここでの多様化というのは,付加価 えられていない要求と言える.あくまで予備的機能として存 値的な機能を持ったものを指していて,よく言えば熟成され 在するのであろうこれらも,どういった成長をしていくのか てきていて,悪く言えばごまかしているとも取られかねない でその真意を問われることになるであろうから,今後を見 2008 年の写真の進歩 守っていこうと思う. 写真を表現的見地から考えると,撮影者がそのまま表現者 187 いる.景気悪化でそれほどの台数を見込めそうにない市場を 鑑みれば,すばらしい企業努力と言える. であり,シャッターを押す動機=撮影者の感動が表現されて 特に,LED バックライトが一般的になって,高演色性のモ おり,それらがきちんと伝わる写真が良い写真と言える.プ デル,特に AdobeRGB 対応のモデルが相次いでリリースされ ロダクトのかっこよさやシズルをそのまま感じられるもので たのはありがたい限りだ. あれば優秀な広告写真になるし,モデルのアンニュイな表情 デジタルフォトでは,モニタは命ともいえ,一番最初に撮 で観察者のハートをわしづかみに出来れば良い写真だし,風 影した写真をチェックするのもモニタであるし,これらの性 景の語りかけるような姿が再現できていれば,すばらしい写 能は画像技術の要とも言えるのだ.しかし,リリースされる 真だ.ある意味,感動の共有とも言える. モニタの中には,おおよそ画像を見るのには値しないような 一方で,動画では,共有をもたらすと言うよりも,起きた ものが平然とリリースされ,きちんとした基準もないまま乱 ことを理解させる要素が強い.発生している事象を時系列に 発されている現状がある.パネルが青かったり,キャリブレー 観察者の視点で解説していくようなものだ.写真は観察者の ションできないものなどが大変多く,ネットショッピングな 想像力をより喚起する.これらは,一コマ漫画と四コマ漫画 どでの色にまつわる多大な返品率を考えれば,いかに罪深い の違いと言うとわかりやすいだろうか.同じようにカメラ前 か解る.実際,我々が苦心して納品した写真が,発注担当者 で起きていることを記録・表現していたとしても,そのもた のモニタの色味で評価されて NG と言うケースは枚挙にいと らすものは全く異なるのだ. まがない. インターネットでの動画と静止画の使われ方を見ても,静 将来的に全てのモニタに一定の基準を設けなければならな 止画を動画風に使うなど,より動画方向にユーザーニーズが い時が来るであろうが,今現在未対応であるから,きちんと 傾いていることが感じられる.銀塩の歴史を見ても静止画と したモニタの存在はそれだけでもありがたいのである. 動画の欲求は絡み合う傾向があるので,今後の動向がどう 一方で,AdobeRGB 対応モニタの中には,カラーマネージ いった新しい文化が構築されるのか,長い目で観察する必要 メントに対応しているようでいて全く出来ていないものも多 がある. く存在する.特に,ある高色域の写真を sRGB モニタと比較 これは,本来の静止画と動画の立ち位置の指摘と矛盾する してみた時,AdobeRGB モニタで観察したものがハデな色味 とご指摘の諸兄もおられよう.しかし,本質がどうであれ, で再現されているなら,単純に演色域が AdobeRGB なだけで 文化の発達は常に意図しない方に行ったりするものだから, カラーマネージメントできてないことは明白なのだ.カラー もしかしたら新しい表現方法などが出てきて,主流になるか スペースに投げ込むだけ(そのままマッピング)で異なるス もしれない.それ故,本質にこだわりすぎるのは,文法にこ ペースにそのままプロットされているからそうなるわけで, だわりすぎて生きた言葉の変化を否定するようなものであ カラーマネージメントとは,デジタルでの数値をそのままス り,矛盾するような両方を理解して併せ呑む必要があると ペースに投げ込むことではなくて,あるベーススペースで作 思っている次第だ. られている数値が,異なるスペースでも同じように見えてい ▲ 2:高防水対応カメラ コンパクトカメラ系列で,コンシューマー~ハイエンドま で幅広く出ているのが防水機能を搭載したカメラだ.無論, 一眼レフ系列ではレンズ交換が防水が出来ない理由である が,コンパクト系ではレンズ一体な分,防水にしやすい. なければならないからだ.したがって,AdobeRGB モニタで も同じように見えてはいるが,sRGB で演色できない範囲も きれいに再現できている,と言う状態であるべきなのだ. AdobeRGB モニタであると言うことは,そのままカラーマ ネージメント対応と言っても過言ではない.現実から見れば, これらは,昨年初頭までは,ごく一部のコンシューマー機 まだまだ成長の可能性がある分野だろう.モニタだけの責任 が対応するのみで,他はハウジングなどがリリースされてい ではなく OS や PC ハードとの兼ね合いもあるから,これも た.ところが,今ではどれを選んでいいか悩むほどだ. 業界をあげてきちんと対応していかなければならない部分と 防水機能を持つと言うことは防塵機能もあると言うことで ▲ あるし,場所を選ばずに撮影できるということは,プロから 言えるだろう. 4:デジタルフォトフレーム 見て喉から手が出るほどほしいと言える.実際,過酷な状況 これは,かなり意表を突いた面白い商品と言える.初めて で撮影しなければならないことはよくあるし,環境の厳しさ 見た時,こんなものは売れるのか?と疑問を持ったが,今で で機材の選択も厳しくなる.簡易の防水であったとしても, は量販店で専用コーナーもあるほどだ. どんどんと広がってほしい機能と言える. 無論,一眼レフ以上のプロ用機では難しいことであるが, この高い壁は是非打ち破ってほしいものだ. ▲ 3:モニタの一般モデルと高級機との二分化 小型液晶モニタをそのまま静止画専用にしたような製品 で,プリントレスで好きな写真をいくつか自動で切り替えな がら表示できるし,簡単な操作で変更できる為,利便性が高 い.似たような商品は,店頭用の POP ディスプレーでもっと 不況の影響も相まって,液晶モニタのコンシューマーモデ 大型なものが以前から存在したが,それを小型にしてコン ルは目を疑うほど安いものがリリースされている.一方で, シューマー向けにしているわけで,目の付け所でヒットした 国内メーカーではプロ用の高級モデルのリリースが相次いで ケースと言えるだろう. 日本写真学会誌 72 巻 3 号(2009 年,平 21) 188 写真をプリントして額装するのは一般の人には敷居が高い 14. 工業規格 ようで,写真毎にコストもかかるから,ちょっと飾っておき 酒井伸夫(写真感光材料工業会) たいようなものには最適なのだろう. これらが単純にプリントを阻害する,とは考えていない. 撮影したままの画像を活用する場所が出来たと言う認識だか 14.1 概要 規格制定・改正の活動が活発に行われているのは,前年同 らだ.実際,友達に写真を差し上げる場合,データそのまま 様,ISO(国 際 標 準 化 機 構)/TC42(Photography)の WG かプリントを差し上げる以外はないわけで,部屋に写真を (Working Group)5(物理性と保存性) ,WG18(デジタルスチ 飾ったりする行為が,こういった商品で少しでも広まってい ル画像),JWG(Joint Working Group)20(デジタルスチルカ けば,自ずとプリントをしたりする行為も多くなるのではな メラの色特性)/22(色管理)/ 23(デジタル画像の拡張色空間) いかと期待する. 等である. 一昔前,年末にカレンダーが困るほど届き,部屋中にカレ 発行されている写真関係の国際規格の ISO[TS(技術仕様 ンダーとして写真を飾るような風景はどこでも見られた.し 書)及び TR(技術報告書)を含む]は,ISO/TC42(写真) かし,今,写真を部屋に飾っている様子を頻繁に見ることは で,167 件,国家規格の JIS(日本工業規格)では,B 分野 ないし,かっこいい写真を飾りたいと思っても,なかなか手 (光学機械)9 件,K 分野(写真材料・測定方法)7 件,Z 分 に入りにくい.つまり飾る土壌はあるのに,サービスは存在 野(放射線関係)1 件である.国際規格(ISO)は,ISO の しない.写真を飾って楽しむという行為が少しでも盛り上が Website(http://www.iso.org/iso/home.htm)の,Standards るのであれば,大いに受け入れたいものである. development > List of ISO technical committees > TC42 から ▲ 5:ポータブル簡易プリンター こちらも,意外にたくさんリリースされている商品である が,やはり,プリントがほしいという要求が市場に多いと言 うことを裏付けているのだろう. 規格番号及び規格名称の検索が可能である.また,国家規格 (JIS)は,日本工業標準調査会の Website(http://www.jisc.go.jp/) で検索・閲覧が可能である. 14.2 ISO 全体会議・専門委員会会議 一般でもっと写真を楽しむ行為が増せば,市場の活性化や ISO/TC42(写真)の第 20 回全体会議は,2007 年 6 月 25 日 ひいては技術の進歩に結びついていくわけで,小さい一歩だ ~ 29 日,スイスのローザンヌで開催され,総会,運営会議 が大きな可能性をはらんでいると見ている. 及び分科会会議が行われた.第 21 回全体会議は,2009 年 10 13.2 まとめ 画像技術という観点では,EL に期待しているのであるが, 月 5 日~ 9 日に,日本で開催される予定. 専門委員会会議は,WG5 会議が,6 月(フライブルグ / ス まだまだ先のようだ.実際に進歩したなぁと感じるまでには イス)と 11 月(バンクーバー / 米国),WG18/JWG20/22/23 会 至らない.また,撮像系も,もっと高品質のセンサーなどが 議が,1 月(サンノゼ / 米国)と 10 月(ケルン / 独)で開催 出て根本的な性能向上が進むのかとにらんでいたが,単なる され,各規格案件についての討議が行われた. 高画素化にとどまっている. 14.3 規格発行,改訂等の動き そもそも景気が悪くて売れない,と言うのもあるのだろう 2008 年に発行,廃止及び確認された ISO(TC42:Photo- が,実際には,それがいいものであれば売れるというのは市 graphy)規格及び技術仕様書(TS:Technical Specification)並 場の原理だ.ユーザーに迎合しすぎない軸を持っている必要 びに JIS(B:光学機械,K:写真材料・測定方法,Z:放射線 があるのだろうと常に思っている.軸とは,写真はこうある, 関係)を以下に示す. と言ったものだ.適した例えであるか不安だが,iPod は大変 14.3.1 ISO 規格 なヒット商品であったが,極めて性能が高いかというとそう 1)発行された ISO 規格及び技術仕様書(5 件) でもなく,マーケットも含めた構築をしたことと,何よりかっ こいい商品であったことがヒットの理由であると考えられ る.性能がどんなに良くても,かっこうよくないものは欲し くないわけで,実はそういったプロダクトデザインも技術の ひとつであるとも言えるのだ. 画像技術では単純にかっこいいという立場はとりにくいか ら一概に比較できない.しかし,かっこいいと感じる感覚は, 写真を「良い」と感じる部分と共通で,理屈よりも感覚的な 部分だ.数値に出ない感覚の部分を重視することが,今後の 画像技術の進歩につながるであろうと信ずるので,敢えてこ ういう場所で書かせていただいた. ・ ISO 15740:2008 Photography—Electronic still picture imaging—Picture transfer protocol (PTP) for digital still photography devices ・ ISO 18921:2008 Imaging materials—Compact discs (CDROM)—Method for estimating the life expectancy based on the effects of temperature and relative humidity ・ ISO 18925:2008 Imaging materials—Optical disc media— Storage practices ・ ISO 18927:2008 Imaging materials—Recordable compact disc systems—Method for estimating the life expectancy based on the effects of temperature and relative humidity ・ ISO 18938:2008 Imaging materials—Optical discs—Care and handling for extended storage 2008 年の写真の進歩 2)廃止された ISO 規格 ・該当なし. 3)確認された ISO 規格(29 件) ・ ISO 519:1992, ISO 1008:1992, ISO 1222:2003, ISO 1754:1998, ISO 1755:1987, ISO 1948:1987, ISO 7766:2003, ISO 9378:1993, 14.3.2 JIS 1)発行された JIS,廃止された JIS ・ K7641:2008 写真―現像処理済み安全写真フィルム―保 存方法 2)確認された JIS ISO 10349-2:1992, ISO 10349-3:1992, ISO 10349-4:1992, ・ B7091:1992, B7104:1992, B7111:1997 ISO 10349-5:1992, ISO 10349-6:1992, ISO 10349-7:1992, ・ K7645:2003 ISO 10349-9:1992, ISO 10349-10:1992, ISO 10349-11:1992, ISO 10349-12:1992, ISO 11106-1:1997, ISO 11315-1:1997, ISO 11315-2:1997, ISO 12231:2005, ISO 14548:1998, ISO 14808:1997, ISO 15739:2003, ISO 18913:2003, ISO 18922:2003, ISO 18932:2005, ISO 18935:2005 189
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