Vol.34-1(2011) - 名古屋大学 総合保健体育科学センター

ISSN-0289-5412
HEALTH, PHYSICAL FITNESS & SPORTS
VOL. 34 No. 1
総合保健体育科学
NAGOYA JOURNAL OF
《 目 次 》
CONTENTS
Relationship between Exercise habits and Health-related Quality of Life
among “Tokuteikenshin” Participants
—Comparison between Exercise Adherence and Non-exercise Adherence using Transtheoretical model—
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Daisuke MATSUMOTO, Daisuke URITANI, Yasuyo ASANO
Teruhiko KOIKE and Yoshiharu OSHIDA
Articles announcing the events to promote the older adults’ health in newspapers
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Joji ONISHI and Hisataka SAKAKIBARA
Relationship between bone strength and step length or speed of maximum speed gait among
community-dwelling postmenopausal women-Influence of leg strength
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Takahiko SAKAZAKI, Teruhiko KOIKE, Yuji YANAGIMOTO
Kazu MORI and Yoshiharu OSHIDA
1
5
11
第 三十四 巻 一 号
Effect of water filled with super-hybrid gas on insulin action in rats fed high-fructose diets.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Haiying JIANG, Teruhiko KOIKE, ZHonghua WANG
Lan MU, Tana CHEN, Yokie NATUME
and Yoshiharu OSHIDA
第 34 巻 1 号
15
高果糖食ラットでのスーパーハイブリッドガス充填水による
インスリン抵抗性改善効果
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 姜海英,小池晃彦,王忠華
木蘭,陳塔娜,夏目有紀枝
押田芳治
1
特定健診受診者における運動環境と健康関連 QOL との関連性
-トランスセオリティカルモデルを用いた運動定着群と未定着群での比較-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 松本大輔,瓜谷大輔,浅野恭代
小池晃彦,押田芳治
5
一般高齢者を対象とした健康関連企画に関する主要紙の案内掲載状況
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 大西丈二,榊原久孝
11
地域在住閉経後女性の骨強度と最速歩行時の速度・歩幅との関連
-膝伸展力の影響-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 坂崎貴彦,小池晃彦,柳本有二
森 和,押田芳治
15
大学運動選手の危機経験:競技レベルによる違い
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 竹之内隆志,奥田愛子,大畑美喜子
19
「ひきこもり」青年の日仏における共通点と相違点について
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 古橋忠晃,津田 均,小川豊昭
鈴木國文,清水美佐子,北中淳子
照山絢子,堀口佐知子,清水克修
後岡亜由子,Cristina Figueiredo,Nancy Pionné-Dax
Nicolas Tajan,Natacha Vellut,François de Singly
Alain Pierrot,Pierre-Henri Castel
29
ダンスパフォーマンスにおける熟練者の動作特性
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐藤菜穂子,居村茂幸,布目寛幸
池上康男
35
41
19
Commonalities and differences in hikikomori youths in Japan and France
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Tadaaki FURUHASHI, Hitoshi TSUDA, Toyoaki OGAWA
Kunifumi SUZUKI, Misako SHIMIZU, Junko KITANAKA
Junko TERUYAMA, Sachiko HORIGUCHI, Katsunobu SHIMIZU
Ayuko SEDOOKA, Cristina FIGUEIREDO, Nancy PIONNÉ-DAX
Nicolas TAJAN, Natacha VELLUT, François de SINGLY
Alain PIERROT and Pierre-Henri CASTEL
29
The motion characteristic of expert street dancers during performance
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Nahoko SATO, Shigeyuki IMURA, Hiroyuki NUNOME
and Yasuo IKEGAMI
35
A study reporting an experience of Nagoya Health College
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Joji ONISHI, Youko IIDA, Taeko KAJIOKA
Kiyoshi SHIMAOKA, Yasunobu ISHIKAWA, Yoshiitsu NARITA
Arisa YAMAMOTO and Hisataka SAKAKIBARA
41
「なごや健康カレッジ」実施報告
~参加者の日頃の社会活動と運動能力、筋力との関連~
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 大西丈二,飯田蓉子,梶岡多恵子
島岡 清,石川康伸,成田嘉乙
山本ありさ,榊原久孝
Colloquium・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
コロキウム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
Master and doctor theses (abstract)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73
修士論文および博士論文の紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73
二〇一一
Crisis Experiences in University Athletes: Differences by Competition Level
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Takashi TAKENOUCHI, Aiko OKUDA
and Mikiko OOHATA
2011
₂₀₁₁
The Research Center of Health, Physical Fitness and Sports
Nagoya University, Nagoya, JAPAN
名古屋大学総合保健体育科学センター
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
高果糖食ラットでのスーパーハイブリッドガス充填水による 
インスリン抵抗性改善効果
Effect of water filled with super-hybrid gas on insulin action in rats fed high-fructose diets.
姜 海 英*
木 蘭*
押 田 芳 治**
小 池 晃 彦**
陳 塔 娜*
王 忠 華*
夏 目 有紀枝*
Haiying JIANG*
Lan MU*
Yoshiharu OSHIDA**
Teruhiko KOIKE**
Tana CHEN*
ZHonghua WANG* 
Yukie NATSUME*
Objective: To investigate whether water filled with super-hybrid gas (SGW) can improve insulin sensitivity of
rats fed high-fructose diets. Methods: Male Wistar rats fed high-fructose diets were randomly and blindly assigned
to take SGW or pure water without super-hybrid gas filling (Control) for 4wks. Insulin action was assessed with
the oral glucose tolerance test (OGTT) and the euglycemic clamp (insulin infusion rate: 3.0 and 30.0mU/kg/min).
Results: The OGTT 30-minutes blood glucose level was significantly lower in the SGW group. The euglycemic
clamp study also showed the improvement of glucose infusion rate (GIR) in rats of the SGW group compared with
the control group. Conclusion: SGW may improve insulin action in high-fructose induced insulin resistant rats.
はじめに
体組成の60%(成人)から80%(新生児)が水である
ことや、人が毎日1L から2L の水分摂取が必須であるこ
とに言及するまでもなく、水は人の健康さらには生命維
持にとって、重大な影響を及ぼす。本研究に用いたスー
パーハイブリッドガス充填水(SGW)は、逆浸透膜で
ろ過した純水にスーパーハイブリッドガスを充填した
水である。この水はすでに市販されているが、その効果
とメカニズムについては、明らかになっていない。本研
究では、この水が、高果糖食ラットに生じるインスリン
抵抗性にどのような影響を及ぼすかを検討した。高果
糖食げっ歯類モデルは、高インスリン血症、高脂血症、
高血圧症などの生活習慣病を呈し、メタボリック症候群
のモデルとしても使われる1-3)。実際、高果糖コーンシ
ロップ(high fructose corn syrup: HFCS)は、ソフトドリ
ンクなどで使われており、その過剰摂取が青少年肥満
症4,5)、若者の2型糖尿病の発症リスクを増加させてい
る6)として、欧米を中心に近年社会問題となっている7)。
本研究では、正常血糖クランプ法を用い、末梢組織にお
けるインスリン感受性を定量的に評価した。
最近、ミネラルウォーターなどで、そのミネラル成分
が糖尿病に対して有効であるとして、販売されている。
本調査に用いた水は純水でありミネラル成分などは含
まないが、スーパーハイブリッドガス充填によりその酸
化還元電位が他の水と異なっている。
対象および方法
スーパーハイブリッドガス充填水は、アクア・トリコ
(名古屋市)
より、提供された。製造時の酸化還元電位は
-250mV となっている。コントロールとして用いた逆浸
* * 名古屋大学大学院医学系研究科健康スポーツ医学分野博士課程
* * 名古屋大学総合保健体育科学センター
* * Department of Sports Medicine, Graduate School of Medicine, Nagoya University
* * Research Center of Health, Physical Fitness and Sports, Nagoya University
―  1  ―
姜、小池、王、木蘭、陳、夏目、押田
透膜フィルター処理後の純水も同社より提供を受けた。
対象は7週齢の Wistar 系雄性ラットであり、室温20-
22℃、明暗サイクルが12時間毎の環境下で餌および水を
自由摂取させ、個別にケージで飼育した。1週間の予備
飼育後、無作為で普通食群と高果糖食群に分けた。高果
糖食群はさらに2群に分け、盲検法(実験者および解析
者に対して)でスーパーハイブリッドガス充填水(SGW
群)とコントロール水(Control 群)を自由に飲ませた。
飲水量は、毎日 AM10:00に測り、新しい水に交換した。
体重は週1回測定した。
3週間飼育後、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を
行った。14時間絶食させたラットに50% D-glucose 溶液
(2g/kg BW)を経口投与し、投与前および投与15、30、
60、120分後に尻尾より採血し、バイオセンサ BF-5 血糖
測定機(王子計測機器株式会社、兵庫)で血糖値を測定
した。血漿インスリン濃度は ELISA キット(シバヤギ、
群馬)を用いて測定した。
OGTT3日後に、ラットをペントバルビタール(sodium
pentobarbital)
(40mg/kg i.p.)で麻酔し、右頚静脈および
左頚動脈にカテーテルを挿入した。右頚静脈に挿入し
たカテーテルは、インスリンおよび20%グルコース溶液
注入用であり、左頚動脈のカテーテルは採血に用いた。
インスリン注入率が3.0(低濃度注入)および30.0(高濃
度注入)mU/kg BW/min の2段階のインスリン正常血糖
クランプ法を各々90分間ずつ連続的に実施した。左頚
動脈より10分ごとに血糖値を測定し、空腹時レベルに維
持されるようにグルコース溶液の注入速度を調節した。
血糖値が安定した各クランプの後半30分間の平均グル
コース注入率(glucose infusion rate: GIR)を算出し、イ
ンスリン感受性の指標とした3)。
データは平均値±標準誤差で示し、統計処理は対応
のない t 検定(unpaired Student's t-test)で行った。
中もそのレベルに維持した。また、空腹時血漿インスリ
ン濃度では SGW 群は0.95±0.17ng/ml で、Control 群は
0.97±0.11ng/ml であり、両群に有意差は認められなかっ
た。
2 - 2 .OGTT
経口ブドウ糖負荷試験では SGW 群で耐糖能の改善
効果が見られた。各時間の血糖値は Control 群に比して
SGW 群で低値を示し、30分の血糖値には統計的な有意
差が見られた(図2)
。
2 - 3 .GIR
低濃度インスリン注入正常血糖クランプ法において、
SGW 群の GIR は6.6±0.7mg/kg BW/min であり、Control
群の4.2±0.3mg/kg BW/min に比べ有意に高値だった(P
<0.05,図3)
。高濃度インスリン注入正常血糖クランプ
法においても、SGW 群の GIR 値は、Control 群より高値
ではあったが(SGW 群:34.2±2.0 vs. Control 群:28.9±
図 1 .低インスリン濃度の正常血糖クランプ法におけるブド
ウ糖注入率。果糖食群(n=7)では、普通食群(n=5)
より有意にブドウ糖注入率が低下した(*p<0.05)。値
は、平均値±標準誤差。
表 1 .基本特性
普通食群
(n=6)
開始時体重(g)
196.0±6.6
最終時体重(g)
312.5±7.8
空腹時血漿ブドウ糖値(mg/dl)   53.1±0.6
空腹時血漿インスリン値(ng/ml)   0.61±0.03
結果
1 .高果糖食インスリン抵抗性モデル
表1に示したように、餌による体重および空腹時の血
糖値の変化はなかった。一方、空腹時血漿インスリン濃
度は高果糖食群が普通食群に比して有意に高値だった
(p <0.05)
。低インスリン注入正常血糖クランプの GIR
果糖食群
(n=6)
188.0±9.4
316.8±10.8
  53.9±1.0
  0.97±0.11*
値は平均±標準誤差
p <0.05 vs. 普通食群
*
表 2 .対照水(Control 群)とスーパーハイブリッドガス充填
水(SGW 群)投与果糖食摂取ラットの基本特性
値は高果糖食群で顕著に低下した(p <0.05,図1)
。
2 .スーパーハイブリッドガス充填水のインスリン感
受性に対する効果
2 - 1 .体重、飲水量、血糖値および血漿インスリン濃度
表2に示したように、SGW 群と Control 群、両群にお
ける体重および毎日の飲水量に有意差はなかった。空
腹時血糖値は各群とも54mg/dl 前後であり、各クランプ
SGW 群
(n=6)
飲水量(ml/day)
  29.3±2.8
開始時体重(g)
200.2±8.6
最終時体重(g)
320.0±9.5
空腹時血漿ブドウ糖値(mg/dl)   54.7±1.2
空腹時血漿インスリン値(ng/ml)   0.95±0.17
値は平均±標準誤差
―  2  ―
Control 群
(n=6)
  25.9±4.5
188.0±9.4
316.8±10.8
  53.9±1.0
  0.97±0.11
高果糖食ラットでのスーパーハイブリッドガス充填水によるインスリン抵抗性改善効果
Control 群
図 2 .経口ブドウ糖負荷試験。Control 群(n=12)は対照水
を、SGW 群(n=13)はスーパーハイブリッドガス充
填水を投与した。*p<0.05 vs SGW 群。値は、平均値
±標準誤差。
図 3 .低インスリン濃度の正常血糖クランプ法におけるブド
ウ糖注入率。Control 群(n=7)は対照水、SGW 群(n
=7)はスーパーハイブリッドガス充填水を投与した。
SGW 群では、Control 群よりブドウ糖注入率が有意に
増加した(*p <0.05)。値は、平均値±標準誤差。
2.9mg/kg BW/min)
、統計的な有意差は認められなかった
(図4)
。
考察
インスリン正常血糖クランプ法では、インスリンの持
続静注下で、空腹時の血糖値を維持するようグルコース
を注入する。インスリン抵抗性が低い(つまりインスリ
ンが効きやすい)場合には、血糖値を維持するために、
より多くのグルコースの注入が必要になる。したがっ
て、GIR が高いことは、インスリン抵抗性の改善を示す。
インスリンを高濃度(30.0mU/kg BW/min)で注入する場
合には、非生理的な高濃度のインスリン下で、肝臓での
糖新生は強く抑制されるため、骨格筋でのインスリン反
応性評価の指標になる。また、高濃度下では、インスリ
ンによる糖取り込みの最大反応(responsiveness)を評価
する。一方、低濃度インスリン(3.0mU/kg BW/min)の
注入ではインスリン作用の感受性を評価しており、生理
的なインスリン濃度での一定レベルのグルコース取り
込みが、より低濃度のインスリンで可能になることを意
味する8)。本研究では、両インスリン濃度での正常血糖
クランプ法を連続的に行なった。インスリン作用の改善
は、低インスリン濃度での条件において、有意差をもっ
て GIR を改善し、インスリン抵抗性を改善した。OGTT
においても血糖値の有意な改善がみられたことは、生
理的な条件下におけるインスリン作用の改善を示す。一
方、高濃度インスリン作用下では、SGW 群でのインスリ
ン抵抗性の改善は統計的な有意差を認めなかった。糖
取り込みの最大反応を改善するかは、さらなる検討が必
要である。
近年、ソフトドリンクなどで使われる高果糖コーンシ
図 4 .高インスリン濃度の正常血糖クランプ法におけるブド
ウ糖注入率。Control 群は対照水を、SGW 群はスーパー
ハイブリッドガス充填水を投与した。値は平均値 ± 標
準誤差、各群は n=6である。
ロップの過剰摂取が、青少年肥満症4,5)、若者の2型糖
尿病の発症リスクを増加させている6)と報告されてい
る。メタボリック症候群のモデルとして使われる高果糖
食げっ歯類モデルはインスリン抵抗性を引き起こす。高
果糖食モデルでは、最初肝臓でのインスリン抵抗性がお
き、それから骨格筋での抵抗性がおきてくると考えられ
ている9)。今回の条件では、肝臓でのインスリン抵抗性
は生じているが、骨格筋での抵抗性の低下は不十分で
あった可能性があり、果糖食をより長期に摂取させるこ
とも、今後の検討課題であろう。
インスリン抵抗性は、炎症、脂質代謝異常、インスリ
ンシグナルの異常、骨格筋の血流異常などのメカニズ
―  3  ―
姜、小池、王、木蘭、陳、夏目、押田
ムを介して引き起こされる。したがって、これらの改善
は、最終的にはインスリンシグナル伝達系に影響を及ぼ
し、糖取り込みを改善する。例えば、身体トレーニング
は、ブドウ糖輸送担体(Glut-4)の増加を起こすが、そ
の場合は、インスリンの感受性、反応性ともに増加させ
うるものと推察される。今回の検討では、スーパーハイ
ブリッドガス充填水は、高果糖食摂取ラットのインスリ
ン抵抗性を改善したが、そのメカニズムについて明らか
ではない。今後、さらなる検討が必要と思われる。また、
本実験で用いた対照群は、純粋摂取群であり、他の水
(硬水、ミネラルを含有する水など)との比較も必要だ
と考えられる。
引用文献
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Effects of 7 days of exercise training on insulin sensitivity
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Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
特定健診受診者における運動習慣と健康関連 QOL との関連性 
― トランスセオリティカルモデルを用いた運動定着群と未定着群での比較 ―
Relationship between Exercise habits and Health-related Quality of Life
among “Tokuteikenshin” Participants
—Comparison between Exercise Adherence and Non-exercise Adherence using Transtheoretical model—
松 本 大 輔*,**
小 池 晃 彦****
Daisuke MATSUMOTO*,** Daisuke URITANI **
Teruhiko KOIKE ****
Yoshiharu OSHIDA ****
瓜 谷 大 輔**
押 田 芳 治****
浅 野 恭 代***
Yasuyo ASANO ***
Purpose: To investigate the relationship between exercise habits and health-related quality of life(HRQOL) in
“Tokuteikenshin” participants.
Methods: One hundred twenty two community-dwelling “Tokuteikenshin” participants were investigated for
their exercise environment by questionnaires. HRQOL was determined by SF-36. The subjects were divided into
persons at maintenance stage (EA) and at precontemplation, contemplation, preparation, or action stage (NEA) according to their exercise habits by Transtheoretical Model (TTM).
Results: In male, Physical Function (PF) score in HRQOL was significantly higher among participants in EA
group than in NEA group (p<0.05). In female, PF score, Vitality (VT), and Role Emotional (RE) score in HRQOL
were significantly higher in EA group than NEA group (p<0.05). In female, more people in EA group did exercise
with their family or friends than those in NEA group. (p<0.05).
Discussion and Conclusions: Exercise habit may increase PF, VT and RE in HRQOL. In addition, companions
during exercise may encourage their maintenance in exercise habits especially in female.
は じ め に
をたどることは、生活の質(QOL)の低下を招くもので
ある。生活習慣病のハイリスク状態であるメタボリック
シンドローム(MS)について、平成19年度国民健康栄
養調査2)によれば、40~74歳でみると男性の2人に1
人、女性の5人に1人が、MS が強く疑われる者、また
は、予備群と考えられる者であり、該当者は約1070万人、
予備群は940万人、併せて約2010万人と推定されるとし
ている。このような現状の中、2008年4月から、全国の
生活習慣病患者は、世界中で急増しており、深刻な社
会問題となっている。生活習慣病患者の流れとして、不
適切な食生活や運動不足等の不健康な生活習慣がやが
て生活習慣病の発症を招き、生活習慣の改善がないまま
にその後重症化し、虚血性心疾患や脳卒中等の発症に
至るという経過をたどることになる1)。 このような経過
* 名古屋大学大学院医学系研究科健康スポーツ医学分野博士課程
* * 畿央大学健康科学部理学療法学科
* * * 畿央大学健康科学部健康栄養学科
* * * * 名古屋大学総合保健体育科学センター
* Department of Sports Medicine, Graduate School of Medicine, Nagoya University
* * Department of Physical Therapy, Faculty of Health Science, Kio University
* * * Department of Health and Nutrition, Faculty of Health Science, Kio University
* * * * Research Center of Health, Physical Fitness and Sports, Nagoya University
―  5  ―
松本、瓜谷、浅野、小池、押田
職場・自治体における40歳から74歳までの中高年者を対
象とした MS の予防・改善のための特定健診・保健指導
が始まった3)。この制度による保健指導は、栄養指導、
運動・身体活動の指導が中心であり、特に運動・身体活
動の指導では、エビデンスに基づいた安全かつ効率的な
指導、さらに、対象者が自らの意志で運動・身体活動に
積極的に取り組み、継続することができるように導くこ
とが求められている。
しかし、実際の特定保健指導におけるマニュアル用い
た画一した指導では、地域や職域における保健指導から
の脱落者が多く、保健指導を最後まで完了するものは少
ないと報告されている3)。特に MS 患者では、運動や身
体活動を増やすことに関して抵抗感の強い者が多いこ
とは容易に予想され、運動習慣を定着させるためには、
やはり、現在の保健指導では量・質ともに不十分である
と考えられる。
近年、欧米では、運動習慣・身体活動を支援するよう
な運動環境に注目が集まっている。Sallis&Owen 4-9)の
生態学モデルは、身体活動の決定要因として、心理学的
要因などの個人内変数だけではなく、個人を取り巻く環
境要因にも着目したものである。このモデルの特徴は多
重レベルでの介入を重視していることで、全ての人に長
期的に影響を与える運動環境を整備することによりポ
ピュレーションレベルでの身体活動推進が期待でき、か
つ個人を対象とした身体活動推進プログラムもより効
果的に機能するとしている。特に運動環境の中でも、家
族あるいは友人・仲間などの重要な他者からのソーシャ
ルサポートが運動定着にとって重要であるとも言われ
ている。このように、健康的な生活習慣を促し、その結
果、QOL の向上につなげることが指導者に求められて
いると考えられる。
そこで、本研究では、特定健診受診者において運動
習慣、運動環境と QOL について調査、分析することで、
運動定着、QOL 向上につながる、より効果的な運動指
導方法を検討することを目的とした。
対 象 と 方 法
1 .対象
奈良県某町で行われた特定健診受診者体力測定会に
参加した40~74歳の地域住民124名(男性38名、女性86
名、平均年齢62.1±7.3歳)を対象とした。なお、本研究
は畿央大学研究倫理委員会の承認を得て、研究の参加
に当たっては、参加者に対して研究の趣旨を口頭で説明
し、同意を得た者のみを対象とした。
2 .方法
2 - 1 .身体測定、血圧値
身長は身長計を用い、体重は体組成計(タニタ株式会
社製デュアル周波数体組成計 DC-320)を用いて測定し
た。また、身長、体重から Body Mass Index(BMI)を算
出した。腹囲は、MS 診断基準での測定方法に従い、栄
養士がメジャーにて計測した。また、血圧は、収縮期血
圧(SBP)
、拡張期血圧(DBP)を測定した。
2 - 2 .運動習慣・環境調査
運動習慣については、行動変容のトランスセオリティ
カル・モデル Transtheoretical model(TTM)10)に基づき、
行動変容ステージ11)を用いたアンケート調査を行った。
行動変容ステージを決定するため、すでにわが国でも中
年者を対象に信頼性および妥当性が確認されている以
下の5項目からなる尺度12)を用いた。この尺度は、過去
および現在における実際の運動行動と、その運動行動に
対する動機付けの準備性の状態を測定する項目で構成
されている 13)。
各項目の内容は、
「1.私は現在、運動をしていない。
また、これから先もするつもりはない。
(前熟考期)
」
、
「2.私は現在運動をしていない。しかし、近い将来
(6ヶ月以内)に始めようとは思っている。
(熟考期)
」
、
「3.私は現在、運動をしている。しかし、定期的ではな
い。
(準備期)
」
、
「4.私は現在、定期的に運動をしてい
る。しかし、始めてから 6ヶ月以内である。
(実行期)
」
、
「5.私は現在、定期的に運動している。また、6ヶ月
以上継続している。
(維持期)
」であり、運動習慣の行動
変容ステージを前熟考期、熟考期、準備期、実行期、維
持期の5期に分類した。さらに、本研究では、運動習慣
のステージについて維持期を運動定着群、前熟考期・熟
考期・準備期・実行期を運動未定着群と定義した14)。
また、運動実施環境については田中らの先行研究15)
を参考に独自で作成したアンケート調査を行った。質問
内容は、1、運動実施時間帯;いつ運動をしますか? 2、運動実施場所;どこで運動をしますか? 3、運動
実施者;誰と運動をしますか?の以上の3項目とした。
2 - 3 .健康関連 QOL
「健康関連 QOL 質問票 SF-36」を用い、自記式による
回答を得た。SF-36は〔身体機能:PF〕
、
〔日常役割機能
(身体)
:RP〕
、
〔体の痛み:BP〕
、
〔全体的健康感:GH〕
、
〔活力:VT〕
、
〔社会生活機能:SF〕
、
〔日常役割機能(精
神)
:RE〕
、
〔心の健康:MH〕の8つの下位尺度から構
成されており、本研究では対象患者の QOL を評価する
方法として使用した。また、値は国民標準値に基づいた
スコアリングを採用した16)。
―  6  ―
特定健診受診者における運動環境と健康関連 QOL との関連性
2 - 4 .統計解析
検定には統計解析ソフト(SPSS 14.0J、SPSS Japan)を
用いた。運動定着群、運動未定着群の2群に分け、身体
測定、血圧は Mann-Whitney U 検定を、運動環境は χ2検
定を用いて各項目を男女各々において比較、検討した。
いずれの検定も統計学的有意水準は5% 未満とした。
結 果
運動定着について、男性では、定着22名(維持期22
名)
、未定着16名(実行期1名、準備期10名、熟考期3
名、前熟考期2名)で、女性では、定着35名(維持期35
名)
、未定着51名(実行期5名、準備期37名、熟考期6
名、前熟考期3名)に分類した。
男女とも年齢、身体計測値、血圧値について有意差は
認められなかった(表1)
。運動環境(表 2 )では、運
動実施時間帯において運動定着、未定着また性別にか
かわらず各時間の中で午後が最も多い割合であったが、
有意差は認められなかった。女性において、運動実施
場所については定着群で「自宅」
(定着群 vs. 未定着群、
2.9% vs. 17.6%、p<0.05)が有意に少なく、運動実施者
については「一人」
(37.1% vs. 65.3%、p<0.05)が少な
く、
「友人・同僚」
(51.4% vs. 26.5%、p<0.05)が有意に
多かったが、男性においてはどちらも有意差は認められ
なかった(表2)
。
また、健康関連 QOL については男性では、PF(54.3
±4.5 vs. 50.1±7.0、p<0.05)が定着群で有意に高値を示
した。女性では、定着群で PF(52.0±5.3 vs. 48.6±9.0、
 
p<0.05)
、VT(55.1±7.5 vs. 50.7±8.7、p<0.05)
、RE(52.5
±8.7 vs. 47.8±10.1、p<0.05)ともに有意に高値を示した。
考 察
今回の特定健診受診者において、運動習慣定着の有
無で運動環境と健康関連 QOL を比較、検討した。その
結果、運動定着群では、女性で、
「友人・同僚」と運動
するものが多く、さらに、男女とも健康関連 QOL が有
意に高値を示し、関連性があることが明らかとなった。
今回の対象者は、運動定着者が男性57.9%、女性
40.7%であり、平成20年度国民栄養調査17)では運動習慣
のある者の割合が男性33.3%、女性27.5%と比べると非
常に多く、一般的な地域住民よりも運動が定着している
集団であると考えられた。この集団の運動定着群、未定
着群において、年齢、BMI、腹囲の身体測定値や血圧値
の結果に有意な差は認められなかった。運動習慣が定
着している群において、血圧の低下や BMI、腹囲の減少
が認められなかった理由としては、本調査において、運
動の種類、時間、頻度等の質や量についての詳細な定義
をしていなかったことも影響していると考えられる。よ
り詳細な運動内容の調査および食生活との関連性、さら
に、血液所見を含めた検討が必要である。
運動環境について、時間帯は男女とも両群間で有意
差は認められなかった。場所においては、女性の定着群
で「自宅」が有意に少なく、
「自宅周辺,公園」が多かっ
た。また,
「一人」が少なく、
「友人・同僚」と運動する
ものが多かった。その要因として,井上らによると、自
表 1 男女における運動定着群、運動未定着群での基本属性の2群比較(n =124)
男性(n =38)
定着群(n =22)/ 未定着群
(n=16)p 値
年齢(歳)
65.0±4.2
59.9±8.9
n.s.
BMI(kg/m2)
22.8±2.3
23.5±2.9
n.s.
腹囲(cm)
83.6±5.8
85.2±8.4
n.s.
SBP(mmHg)
138.2±17.4
132.1±13.3
n.s.
DBP(mmHg)
86.4±7.5
84.5±8.5
n.s.
女性(n =86)
定着群(n =35)/ 未定着群
(n=51)p 値
62.1±6.6
61.1±8.1
n.s.
22.4±3.5
22.3±3.2
n.s.
82.2±9.9
80.7±9.1
n.s.
134.3±18.9
134.2±20.2
n.s.
83.1±9.7
83.6±11.0
n.s.
平均±標準偏差.定着群 vs.未定着群.n.s.:not significant.
BMI:Body mass index.SBP:収縮期血圧.DBP:拡張期血圧.
表 2 男女における運動定着群,運動未定着群での運動環境の2群比較 (n =124)
男性(n =38)
女性(n =86)
定着群(n =22) / 未定着群(n =16)
定着群(n =35) / 未定着群(n =51)
1.いつ運動をしますか?(早朝:午前:午後:夜間)
15.8:36.8:36.8:10.5
7.1:14.3:50:28.6
12.9:29:45.2:12.9
12:36:42:10
2.どこで運動をしますか?(自宅:自宅周辺,公園:スポーツジム・公共施設:その他)
0:72.7:18.2:9.1
12.5:68.8:12.5:6.3
2.9:57.1:31.4:8.6*
17.6:45.1:31.4:5.9
3.誰と運動をしますか?(一人:家族:友人・同僚)
54.5:18.2:27.3
65.3:8.2:26.5
75:18.8:6.3
*
単位:%.定着群 vs. 未定着群. p <0.05.
―  7  ―
37.1:11.4:51.4*
松本、瓜谷、浅野、小池、押田
表 3 男女における運動定着群,運動未定着群での健康関連 QOL の2群比較(n =124)
PF
RP
BP
GH
VT
SF
RE
MH
男性(n =38)
女性(n =86)
定着群(n =22) / 未定着群(n =16) 定着群(n =35) / 未定着群(n =51)
54.3±4.5*
50.1±7.0
52.0±5.3*
48.6±9.0
52.3±8.3
51.5±8.8
52.1±8.4
48.2±11.4
47.6±11.0
51.6±8.5
51.2±7.5
47.5±9.8
51.2±6.4
48.2±10.1
49.3±7.5
47.6±8.5
56.4±8.5
54.1±8.9
55.1±7.5*
50.7±8.7
48.7±9.8
50.9±9.7
52.1±10.5
51.2±8.7
52.5±7.8
53.1±7.5
52.5±8.7*
47.8±10.1
54.0±8.7
49.6±10.5
51.1±8.1
50.6±9.5
平均±標準偏差.定着群 vs.未定着群.* p<0.05.
PF:身体機能.RP:日常役割機能(身体)
.BP:体の痛み.GH:全体的健康感.
VT:活力.SF:社会的生活機能.RE:日常役割機能(精神)
.MH:心の健康.
宅周辺の歩行環境(歩道の有無、交通安全等)が身体活
動量に影響し,特に女性においては治安面での安全性
も関連するとしている18)。また、安永らは、運動習慣を
有する高齢者の家族あるいは友人からのソーシャルサ
ポートに性差がある19)とし、近隣との関係の違いなどが
原因となっていることも考えられる。
健康関連 QOL においては男女とも定着群で「身体機
能」PF が有意に高値を示し,さらに、女性のみで「活
力」VT、
「日常役割機能(精神)
」RE も有意に高値で
あった。運動環境も考慮すると、Thomas らは、女性に
おいて一人よりも友人と屋内よりも屋外で運動する方
が心理的効果は高い20)としていることと、今回、同様の
結果であると考えられる。
一方で、我々の先行研究21)では、未定着群で「運動
の仲間を紹介してほしい」と答えた者が有意に少なかっ
た。運動の継続において仲間の役割は一般に大きいと
考えられるが、一人での運動を望むものが多かった可能
性もあることから、自宅でもできる運動の指導も重要で
あると考えられる。
以上のことから、特定健診受診者において運動習慣、
QOL には関連性があること、女性では運動仲間の役割
が重要である可能性が示された。
したがって、より効果的に運動習慣の定着につなげる
ためには運動環境や QOL を把握し、それらと性別を考
慮した運動指導(仲間づくり、集団指導、外出)が必要
である可能性が示唆された。また、Miller により、一方
向的に処方された運動プログラムに参加する者の30~
70%は、6ヶ月以内に離脱する22)といわれることから
も、本人が主体的に運動プログラムを決めていくことも
必要であると考える。
謝 辞
本研究の一部は社団法人 日本理学療法士協会(平
―  8  ―
成21年度臨床研究「特定健診対象者への教育的運動指
導による予防効果の検証」
)の助成を受けて行った。記
して深謝いたします。
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Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
一般高齢者を対象とした健康関連企画に関する主要紙の案内掲載状況
Articles announcing the events to promote the older adults’ health in newspapers
大 西 丈 二*
榊 原 久 孝**
Joji ONISHI*
Hisataka SAKAKIBARA**
BACKGROUND: A newspaper is one of most important resources of health information, especially for older
adults. The purpose of this study is to clarify the frequencies that the events to promote older adults’ health were
announced in the newspapers. METHODS: We searched the articles announcing the upcoming events to promote
the health in five major newspapers (Asahi, Chunichi, Mainichi, Nikkei and Yomiuri) published in Nagoya city in
2008. RESULTS: Six hundred and twenty-one articles were picked up. Chunichi placed 394 articles (63.4%), and
Asahi (15.1%), Nikkei (11.1%) followed. CONCLUSIONS: The frequencies announcing the events varied much
by the newspapers. As a newspaper is the primary assisting tool for older adults to catch the health information, it is
expected to be responsible for the older adults’ health literacy.
はじめに
市民を対象とした健康に関連する企画がさまざまな
場所、主催者によって行われている。膨大な情報が氾
濫する現代において、パソコンなど IT を不得手とする
高齢者では、欲しい情報を検索、選別することが難しい
場合も多く、情報量の増加がかえって必要な情報を得難
くさせている面がある。われわれはこの課題のもと、自
治体の広報や新聞、WEB 等で公表された健康関連の企
画情報を一つの無料紙にまとめ高齢者に配布する試み
を行ってきたが、健康関連企画の情報源として最も豊富
であったのは自治体の広報であり、それに次いで多いの
は新聞であった(大西、2009)
。総務省の平成21年度通
信利用動向調査によるとインターネットの利用人口は
年々増加しており、全年齢の利用率は78%に達している
ものの、高齢者のインターネット利用率は70代が28%、
80歳以上は15%と依然として低いレベルにある。平成21
年度「高齢者の日常生活に関する意識調査」でも高齢
者向け情報の情報源として最も多かったのは「役所・役
場、自治会の広報紙」48%で、次いで「テレビ」44%、
「新聞」38%、
「友人、隣人」29%の順であり、新聞は今
* * 名古屋大学総合保健体育科学センター
* * 名古屋大学医学部保健学科
* * Research Center of Health, Physical Fitness & Sports Nagoya University
* * Nagoya University School of Health Sciences
―  11  ―
もなお重要な情報源であることが示されている。高齢者
がそれぞれのニーズに合わせ健康に関する情報を得る
ことは重要であり、地域で開催される企画が時宜に応じ
て、新聞紙面で広く周知されることが望ましい。われわ
れは高齢者の健康に関連する企画の主要紙における掲
載動向を検討するため、本調査を行った。
方 法
2008年1月より12月の間において、主要五紙(朝日、
中日、日本経済、毎日、読売新聞)名古屋版の朝刊およ
び夕刊に掲載された、一般高齢者対象の健康に関連す
る企画案内の記事を数えた。同期間のうち1月から3月
までにおいては曜日別に記事掲載数を求めた。企画の
選択にあたっては、1)主題または副題に「生活習慣病」
や「予防」など健康に関連した言葉があること、2)高
齢者を対象に含むこと、3)名古屋市および隣接する市
町村において開催されることを条件とした。なお、ア)
営利を得ることが主の目的と考えられるもの、イ)宗教
的または政治的な活動と考えられるもの、ウ)生きがい
活動が中心であるもの、エ)スポーツ教室、オ)医学的
大西、榊原
成21年度高齢者の日常生活に関する意識調査)
。75歳以
上では特定健診は対象外で、高齢者層を対象とする介
護予防もリスクの高い者ほど予防活動に参加されにく
いことが指摘されている(平松ら.2009)
。熱中症予防
やインフルエンザ対策、生活習慣の管理や癌検診、急変
時の対応など、知識や理解不足により健康上の不利益を
被る例は枚挙に暇はなく、高齢者に対し保健医療情報を
適切に提供する社会的システムが求められている。
近年、ヘルスリテラシーが健康に大きく関与すること
が知られ始め、重要性が認識されている。Williams らや
Schillinger らにより、ヘルスリテラシーの低い場合、高血
圧や糖尿病、喘息の疾患管理が不良であったと報告が
相次いでおり(Williams, et al. 2002a, 2002b., Schillinger,et
al. 2002, 2003.)
。米国では「Healthy People」
(保健福祉
根拠を欠き確立されていない予防や治療法に誘導する
おそれがあると考えられるもの、カ)
定期的に開催される
ものは除外した。営利か非営利かの判断が困難な場合、
一回の参加費が500円以下の企画を非営利とみなした。
結 果
調査した12カ月間において、計604件の企画が主要
五紙に掲載されていた。新聞社別では中日新聞が378件
(63%)と掲載数が最も多く、朝日新聞 92件(15%)
、日
本経済新聞 67件(11%)
、読売新聞 46件(8%)
、毎日
新聞 21件(4%)の順に続き、社による差が顕著であっ
た。五紙を合わせた月別の掲載数は10月が124件で、9
月 78件、11月69件がそれに続き、この3か月で全体の
45%を占めた(Fig)
。曜日別では火曜と金曜に掲載され
ることが多く、この2つで全体の52%(80件)を占めた
(Table)
。
考 察
省)2010年版で、ヘルスリテラシーの項が新たに設けら
れ、普及啓発が広げられている。中でも高齢者はヘル
スリテラシーが低く、2003年の米国の調査によると65歳
以上の29%において、リテラシーは基本的なレベルをも
下回り、16歳以上のすべての年齢層のうち最も低かった
(2003 National Assessment of Adult Literacy)
。高齢者のヘ
従来、わが国の保健医療はフリーアクセスを原則と
し、求める者にはサービスが提供されるが、求めない者
には提供されない仕組みがつくられてきた。その枠組み
に変化がみられる一つは平成20年度から始まった特定
健診・特定保健指導で、保険者は必要に応じて被保険
者に生活習慣改善を促すなど、被保険者の自発性に健
康管理を委ねるばかりでなく、保険者としての努力責務
が付与された。一方、わが国では高齢化が急速に進んで
おり、独居高齢者、閉じこもり高齢者も増えている(平
Table. The number of articles announcing the events by each day
Newspaper
Chunichi
Nikkei
Asahi
Yomiuri
Mainishi
Total
Sun.
4
0
0
0
0
4
Mon. Tues. Wed. Thur.
0
14
4
14
0
12
2
0
4
2
0
10
6
4
4
0
0
4
2
0
10
36
12
24
Fri.
34
0
6
4
0
44
Data were collected between January and March in 2008.
Articles
Fig. The number of articles announcing the event to promote older adults' health in the newspapers
―  12  ―
Sat.
18
0
2
4
0
24
一般高齢者を対象とした健康関連企画に関する主要紙の案内掲載状況
ルスリテラシーが低い理由としては、教育歴のほか、IT
を不得手とする特性などが考えられ、高齢者が接しやす
く、理解しやすい方法での情報提供が望まれる。
こうした中、新聞は高齢者にとって身近で親しみやす
い情報源であり、ヘルスリテラシー向上にも大きな役割
を果たしている。愛知県における主要紙の世帯到達率
は中日新聞が73%と圧倒的にシェアが大きく、朝日新聞
10%、日本経済新聞6%、読売新聞3%、毎日新聞2%
と続く(新聞発行社レポート)
。2009年全国メディア接
触・評価調査によると新聞購読者の35%が「医療・健康」
の面を読んでおり、ヘルスリテラシーへの新聞の関与が
裏付けられる。しかし今回の研究でみたように、一般高
齢者対象の健康に関連する企画情報は、各紙によって
大きく異なっていた。掲載数は火曜日と金曜日に多かっ
たが、健康関連の企画を案内する欄が曜日を決めて設け
られている場合もあり、自分の購読している新聞の特性
を知っておく必要がある。また健康関連の企画が実施
される時期としては、9月から11月が多かった。これは
健康関連企画を実施する予算的事情にてこの時期に多
くなったものと推測されるが、健康づくりは時期を問わ
ないものであるべきであり、予算事情に縛られない1年
を通した開催が求められる。
高齢者が健康意識を持ち、主体的に行動ができるよ
う、世界一の超高齢社会であるわが国は、高齢化に応じ
た社会の仕組みづくりを率先して進めて行かなくては
ならない。本調査では主要紙における健康関連企画の
掲載動向を示したとともに、高齢者に対する情報提供の
あり方に示唆を与えた。
本研究は平成20年度愛知県「高齢者の生活習慣病対
策事業」委託費を用いて実施した。
―  13  ―
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Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
地域在住閉経後女性の骨強度と最速歩行時の速度・歩幅との関連 
― 膝伸展力の影響 ―
Relationship between bone strength and step length or speed of maximum speed gait among
community-dwelling postmenopausal women-Influence of leg strength
坂 崎 貴 彦*
森 和****
小 池 晃 彦**
押 田 芳 治**
柳 本 有 二***
Takahiko SAKAZAKI*
Kazu MORI****
Teruhiko KOIKE**
Yoshiharu OSHIDA**
Yuji YANAGIMOTO***
The purpose of this study was to clarify the relationship between the bone strength of calcaneus and the physical fitness. One thousand and sixty-one community-dwelling postmenopausal women participated in this study.
Speed of sound (SOS), weight bearing index (WBI), maximum or usual gait speed, step length of each speed gait,
single-leg balance time with or without eyes open, and grip strength were measured. Subjects were divided into three
groups based on WBI, a marker of lower extremity strength, and the associations between SOS and step length or
speed of maximal gait speed were examined. The speed was a significant predictor of SOS in the group with lower
WBI, while step length was significant in the group with higher WBI.
Key words: weight bearing index, speed of sound, postmenopausal woman, physical function
1 .緒言
近年、大腿周囲径が、心血管疾患や早死の危険因子と
して有効であるといった報告がなされた1)。つまり、身
体計測や身体機能の測定が、疾患リスクの予想に重要
である可能性を示している。このことは、先進諸国で寿
命が延長したため、老化にともなう身体機能の変化が、
予後を決定する重要な因子となっていることと関連す
ると考えられる。さらに動脈硬化症のリスクファクター
(高血圧、2型糖尿病、高脂血症)が多いほど、脚筋力
(体重支持指数)が低下しているとの報告もある2)。
高齢者の体力指標としては、骨密度も重要である。骨
密度の低下は、転倒による骨折の危険因子であり、寝
たきりなどの身体機能低下の危険因子でもある。骨強
度を測定する指標である SOS は、骨密度との相関が認
められている3~5)。従来の報告6)により,踵骨の SOS
は、70歳以上の高齢者の家事、スポーツ、余暇活動の
スコア7)と体重の増加により上昇し、加齢により低下す
ることが、明らかにされている。本研究では、対象者で
ある55歳以上の地域在住閉経後女性を、
「体重支持指数
(WBI)
」で層分類し、骨強度と、最速歩行時の速度・歩
幅との関連を、膝伸展力を反映する WBI の違いに着目
し、検討した。
* 名古屋大学大学院医学系研究科博士課程
* * 名古屋大学総合保健体育科学センター
* * * 神戸常盤大学保健科学部看護学科
* * * * 国際伝統医学理論研究所
* Department of Sports Medicine , Graduate School of Medicine, Nagoya University
* * Research center of Health, Physical Fitness and Sports, Nagoya University
* * * Department of Nursing, Faculty of Health Science, Kobe Tokiwa University
* * * * International Institute for Systematizing TCM Theories, Japan
―  15  ―
坂崎、小池、柳本、森、押田
2 .方法
2002年12月~2007年6月に、兵庫県内で実施された体
力測定に参加した55歳以上の閉経後の女性1061名(平均
年齢±標準偏差、68±8歳)を対象とした。本体力測定
は、兵庫県の健康増進プログラム(介護予防版)にも採
用されている。調査項目は、身長、体重、握力、開眼片足
立ち保持時間・閉眼片足立ち保持時間、BMI、最速歩行
時の速度と歩幅、普通歩行時の速度と歩幅、WBI 2、8、9)
及び SOS であった。SOS の測定には、超音波骨強度測定
器(CM-100,
(株)
古野電気)を用い、右足踵骨を測定し
た。
WBI は、膝伸展筋力(kg)を、体重(kg)で除した
値である。0.6以上であれば、ジョギング程度の運動が
可能であり10、11)、1.0が自体重に相当することから、WBI
の値で測定項目を0.6未満、0.6~1.0未満、1.0以上の3群
に分けた。統計には、一元配置分散分析後の多重比較
(Scheffe 法)を用い、5%未満を有意とした。
3 .結果
表1に被験者の特性ならびに検査結果を示した。SOS
は、WBI0.6未満群と0.6~1.0未満群間、0.6未満群と1.0以
上群間に有意な差を認めた(p <0.01)
。年齢は、表1の
BMI 以外の全ての測定項目と有意な相関を示した(date
not shown)
。
表2に、年齢調整後の最速および普通歩行時の速度
と歩幅の関連を示した。普通歩行では、WBI の値にか
かわらず速度と歩幅が高い相関を示した。一方、最速歩
行では、WBI が0.6~1.0未満群、1.0以上群では、0.6未満
群よりも、相関係数が低かった(表2)
。
次に、SOS を目的変数とし、年齢と最速歩行時の速
度、年齢と最速歩行時の歩幅をそれぞれ説明変数とし、
強制投入法で重回帰分析した。全対象群と0.6未満群で
は年齢調整後に、最速歩行速度、最速歩行時歩幅とも
SOS と関連した。さらに、最速歩行時歩幅は、1.0以上
群においても、有意に関連した(p <0.05)
(表3)
。そ
こで、SOS を目的変数、年齢と最速歩行時の速度と歩幅
の両者を説明変数とし、強制投入法により重回帰分析を
行った。WBI0.6未満群、0.6~1.0未満群では、最速歩行
速度が SOS と関連したのに対し、WBI1.0 以上群では、
歩幅が SOS に関連した(p <0.05)
(表4)
。
4 .考察
Judge ら12)は、歩行能力の向上には、下肢筋力が重要
であり、下肢筋力は、身長や体重の補正如何にかかわら
ず、最速歩行時、普通歩行時の速度と歩幅に相関すると
している。本論文では、下肢筋力の指標である WBI 値
で3群に分けた。
WBI は、膝伸展筋力(kg)を、体重(kg)で除した
表 2 歩行速度と歩幅の偏相関 ( 年齢で調整)
最速歩行
0.696
0.819
0.561
0.594
全対象者
<0.6
0.6≦ <1.0
1.0≦
普通歩行
0.838
0.867
0.804
0.749
全て p <0.01
表 1 WBI 値により分けた被験者の体格、骨強度と身体機能
All
n=1061
年齢(歳)
68 ± 8
身長(cm)
151.1 ± 6.1
体重(kg)
51.7 ± 7.5
BMI(kg/m2)
22.6 ± 2.9
SOS(m/sec)
1489.7 ± 24.0
握力(kg)
22.0 ± 4.7
閉眼片足立ち(sec)
10.1 ± 14.1
開眼片足立ち(sec)
49.2 ± 35.5
最速歩行速度(m/min) 104.2 ± 22.9
最速歩行時歩幅(cm)
72.0 ± 12.1
普通歩行速度(m/min)
82.7 ± 18.3
普通歩行時歩幅(cm)
65.4 ± 10.8
<0.6
n=342
72 ± 8
149.9 ± 6.3
52.1 ± 7.7
23.2 ± 3.1
1485.4 ± 22.9
19.6 ± 4.8
5.6 ± 6.0
29.7 ± 31.1
88.6 ± 22.9
64.9 ± 12.3
71.5 ± 18.8
58.8 ± 11.5
WBI
0.6≦<1
n=562
67 ± 7
151.8 ± 6.1
52.2 ± 7.6
22.6 ± 2.8
1491.0 ± 23.5
22.9 ± 4.3
11.1 ± 14.1
54.8 ± 33.9
109.7 ± 19.1
74.8 ± 10.7
86.5 ± 15.6
67.9 ± 8.9
**
**
*
**
**
**
**
**
**
**
**
1≦
n=157
64 ± 6
151.2 ± 5.0
48.9 ± 6.4
21.4 ± 2.4
1494.3 ± 27.0
24.2 ± 3.9
16.5 ± 21.7
71.9 ± 29.3
118.2 ± 16.2
77.3 ± 9.3
93.4 ± 13.9
71.1 ± 8.8
**
**
††
**
††
**
**
††
**
††
**
††
**
††
***
**
††
**
††
値は平均値 ± 標準偏差
WBI(平均値±標準偏差)All:0.73±0.3,<0.6:0.46±0.1,0.6≦<1:0.77±0.1,1≦:1.16±0.2
*
p <0.05 ** p <0.01:vs. <0.6
††
p <0.01:vs.0.6≦<1
―  16  ―
††
地域在住閉経後女性の骨強度と最速歩行時の速度・歩幅との関連
値であり、0.6以上であれば、ジョギング程度の運動が
可能であると報告されている10、11)。1.0が自体重に相当す
ることとなる。各群の歩行速度と歩幅は有意な相関を示
している。しかしながら、相関係数については、最速歩
行では、WBI が高位群で相関係数が低下するのに対し、
普通歩行ではほぼ同等であった。これは、最速歩行時と
普通歩行時の歩幅の差が、下肢筋力が増加しても(つま
り、WBI の値が増加しても)
、ほぼ同じ(6.2~6.9cm)で
あるのに対して、歩行速度の差は、下肢筋力の増加にと
もない、17.1、23.2、24.8m/min と大きくなることに対応
していると考えられる。このことは、下肢筋力の増加に
よる歩行速度の増加は、歩幅の増加よりもピッチの増加
に依存することを示唆する。
本研究では、SOS の予測要因について検討した。歩行
速度と SOS との関連は、既に報告されている13)。本研究
でも、被験者全員においては、最速歩行速度は、SOS の
有意な予測因子であった(表3)
。しかしながら、下肢
筋力に着目すると、確かに WBI 低位群では、最速歩行
速度は有意な予測因子であるが、高位群では、SOS は最
速歩行速度との有意な関連を認めなかった。一方、WBI
が、1.0以上である下肢筋力増加群では、歩幅との関連を
認めた。
下肢筋力高位群では、最速歩行速度が同程度でも歩
幅が大きい場合 SOS が高値となると考えられ、その要
因の可能性のひとつとして、歩幅が大きい群では、身長
(下肢長)が高く、身長が骨強度と関連する可能性が考
えられる。又、別の可能性として、歩幅を広くすること
と関連する身体機能が、骨強度と関連する場合もあると
考えられる。本調査では、踵骨を測定しており、特に歩
行に関連する機能との関わりが予想される。
以上より本研究では、地域在住閉経後女性において、
膝伸展筋力低位群では最速歩行速度が、膝伸展筋力が
高位(自体重以上の)群では歩幅が、骨強度の有効な予
測因子となる可能性を示した。今後、簡便な身体測定に
より、骨強度を予測することが可能となれば、より有用
な指標となると考えられる。
表 4 SOS を目的変数とした重回帰分析の標準回帰係数
*
WBI
年齢
全対象者
<0.6
0.6≦<1.0
1.0≦
-0.310 **
-0.353 **
-0.265 **
-0.315 **
最速歩行
速度
0.127 *
0.257 **
0.131 *
-0.059
最速歩行時
決定係数
歩幅
-0.016
0.152
-0.075
0.227
-0.072
0.099
0.229 *
0.136
p <0.05 ** p <0.01
参考文献
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11.黄川昭雄,山本利春,坂本静男,小山由喜.アスレチッ
表 3 SOS を目的変数とした重回帰分析の標準回帰係数
WBI
全対象者
<0.6
0.6≦<1.0
1.0≦
*
年齢と最速歩行速度
年齢
最速歩行速度 決定係数
-0.310 **
0.115 **
0.151
**
-0.350
0.194 **
0.228
-0.262 **
0.087
0.097
-0.304 **
0.085
0.108
p <0.05 ** p <0.01
―  17  ―
年齢と最速歩行時歩幅
年齢
最速歩行時歩幅 決定係数
-0.347 **
0.066 *
0.146
**
-0.390
0.129 **
0.214
-0.310 **
-0.005
0.092
-0.299 **
0.196 *
0.139
坂崎、小池、柳本、森、押田
ク・リハビリテーションにおける下肢の機能および筋力
評価 . 臨床スポーツ医学5(臨時増刊号)1988;213-215.
12. Judge J, Underwood M, Gennosa T. Exercise to improve gait
velocity in the older persons. Arch Phys Med Rehabil 1993; 74:
―  18  ―
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13.柳本有二,武田光弘,秀一晋,楊鴻生.高齢女性の踵骨
骨強度と体力および脚筋力との関係.Osteoporosis Japan
2005;13(3):251-9
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
大学運動選手の危機経験:競技レベルによる違い
Crisis Experiences in University Athletes: Differences by Competition Level
竹之内 隆 志*
奥 田 愛 子**
大 畑 美喜子***
Takashi TAKENOUCHI*
Aiko OKUDA**
Mikiko OOHATA***
The purpose of this study was to clarify the characteristics of athletes’ crisis experiences and the serious crisis
issues for athletes. University athletes (198 males and 184 females) completed a questionnaire assessing their experience of crisis and exploration for six issues in the athletic domain, and for seven issues in the daily life domain. The
participants were categorized to three groups by competition level: higher, middle, and lower competition levels.
An examination of the scores of crisis and exploration for each issue revealed that, for male athletes who play in
higher competition levels, the serious crisis issues were the issues of team management and future occupation/life
course; for male athletes who play in middle and lower competition levels, the serious crisis issues were the issues of
future occupation/life course, life style/values, and friends of the opposite sex; for female athletes who play in higher
competition levels, the serious crisis issues were the issues of coaches, athletic performance, future occupation/life
course, and life style/values; for female athletes who play in middle and lower competition levels, the serious crisis
issues were the issues of continuation in athletics, future occupation/life course, and life style/values. These results
suggest that the serious crisis issues are different by competition level and sex.
序 論
パーソナリティの発達には多様な経験が影響してい
るが、そのような経験の一つとして危機経験をあげるこ
とができる。危機とは、選択決定を迫られたり、それま
でに身につけた行動様式の修正を余儀なくさせられる
ような時に生じるものである(中込・奥田、1993)
。この
ような危機経験を、中込・鈴木(1985)は、危機(crisis)
、
探求・努力(exploration、以下、
「探求」と略す)
、自己
投入(commitment)という3側面を含む経験として概念
化している。危機とは、個人にとって意味のあるいくつ
かの可能性を選択しようと迷ったり悩むことである。探
求とは、迷いや悩みの解決に向けて探求・努力すること
である。自己投入とは、自己の選択に対して関心を示し
たり努力することである。
このような危機経験が、運動選手のパーソナリティ発
* * * 名古屋大学総合保健体育科学センター
* * * びわこ学院大学
* * * 岐阜大学
* * * Research Center of Health, Physical Fitness and Sports, Nagoya University
* * * Biwako Gakuin University
* * * Gifu University
―  19  ―
達に影響することが明らかにされている。例えば、中込
ほか(中込・鈴木、1985;中込・吉村、1990;鈴木・中
込、1985、1986)は、運動部活動や日常生活での危機
経験が、大学運動選手の自我同一性形成や自我機能の
強さに関連することを明らかにしている。同様に、竹之
内ほか(2006)は、運動部活動や日常生活での危機経
験が、中学ならびに高校運動選手の自我発達に関連す
ることを明らかにしている。また、杉浦(2001、2004)
や Stambulova(2000)は、危機は発達における転機とな
り、危機によって運動選手の心理的成長が期待できると
示唆している。
これらのことから危機は発達促進的な側面を有して
いると言える。しかしその一方で、危機は発達を阻害す
ることもあり、危機に直面した際にうまく対処できない
と問題を引き起こすとも言われている。人生で遭遇する
危機を熟考した一人にエリクソン(1973a、1973b)をあ
竹之内、奥田、大畑
げることができるが、鑪(1988)は「エリクソンにおけ
る心理社会的危機とは、ライフ・サイクルのなかで、次
のプロセスに進むか、それまで経てきた発達の前段階に
逆戻りするか、横道に進んでしまうかという意味の『岐
路』ないし『峠』の意味で用いられている」と述べてい
る。また、長尾・前田(1976)は「危機とは、1つの分
岐点であり、自我の危機をうまく適応的にのりこえるこ
とができると、強い自我形成へむかい、一歩誤ると、神
経症や精神病など、時には非行や反社会的行動などへ
と転落してゆくことになる」と述べている。そして、エ
リクソンのいう同一性と親密性の危機に直面し、その危
機を乗り越えることができずに同一性障害に陥った症
例を報告している。このような危機による発達の阻害は
運動選手でも報告されている。中込(1993)は、指導者
やチームメイトとの関係、あるいは競技継続などの運動
領域での危機に対して適応的に対処できずに、青年期
後期になって同一性危機を呈した運動選手の事例を紹
介している。
このように危機に直面することは、パーソナリティの
発達と阻害の両方の可能性を有している。そこで、危
機に直面した運動選手が深刻な問題を呈することを防
ぐにはどうしたらよいのか、あるいは危機がパーソナリ
ティの発達に繋がっていく条件などを明らかにするこ
とが必要となる。本研究では前者に焦点をあてるが、危
機経験がパーソナリティの発達に繋がらずに、むしろ阻
害要因として問題誘発的に作用する可能性が高いのは、
以下の2つの状況においてではないかと思われる。つま
り、1)危機の水準が高い場合、2)危機に対して適応
的な対処行動がとれない場合、すなわち危機の水準に
比べて探求の水準が低い場合、である。そこで、運動選
手が遭遇する危機事象のうちのどのような事象におい
てこのような状況が生じやすいのかを検討していくこ
とがまず必要である。
また、上述の点を検討していくにあたっては、競技レ
ベルを考慮することが必要と思われる。競技レベルが
高いほど競技に関する危機の水準も高くなり、危機の
水準が高い方が問題の発現も多くなると予想されるか
らである。ただし、鈴木・中込(1985)は、競技レベル
の高い選手と低い選手では運動領域における危機経験
の水準に差がみられなかったと報告している。このよう
な結果については、調査した危機事象の問題が影響し
ているかもしれない。彼らは運動領域の危機事象として
チームメイトとの関係や競技成績などの事象を取り上
げて検討しているが、彼らが取り上げた事象が運動領
域の危機事象を網羅しているかは定かではない。また、
鈴木・中込(1985)の研究は男子選手を対象になされて
おり、得られた結果が女子にもあてはまるかは不明であ
る。
以上のことから、本研究では、代表的な危機事象を網
羅するように取り上げて、男女別・競技レベル別に運動
選手の危機経験の特徴を検討することにした。具体的
には、危機の水準が高い事象や危機の水準に比べて探
求の水準が低い事象を男女別・競技レベル別に明らかに
し、運動選手において問題を誘発しやすい危機事象を同
定していく。これらのことによって、危機経験による運
動選手の問題生起やその予防について理解を深めるこ
とができると考えた。
方 法
1 .対象者および調査時期
11校の大学の運動選手(2年生以上)を対象者とし
て、2010年3月から8月にかけて調査を行った注1)。対
象者のうち危機経験または競技レベルについて記入漏
れがあった者と中学・高校のいずれにおいても運動部所
属経験がない者を除き、最終的には男子198名(平均年
齢20.29歳)と女子184名(平均年齢20.04歳)を分析対象
者とした。分析対象者の実施種目は個人種目から集団
種目まで多岐にわたり、競技経験年数の平均は男子9.62
年で、女子9.03年であった。
2 .調査内容
1 )危機経験
竹之内ほか(2008)は大学運動選手の危機経験を調
査し、22個の運動領域の危機事象と17個の日常生活領
域の危機事象を抽出している。また、個々の危機事象の
経験者の割合も報告している。これらの危機事象から、
運動選手の代表的な危機事象を取り上げて調査項目に
含めることにした。取り上げる基準としては、危機経験
者の割合が低い事象は代表的な危機事象とは考えにく
いので、経験者の割合が概ね10%であることを基準とし
た。この基準によって、
「チームメイトとの関係」
「指導
者との関係」
「競技成績」
「競技継続」
「チーム運営」
「怪
我」
「勉強」
「将来の職業や進路」
「異性の友人との関係」
「部外の同性の友人との関係」
「父親との関係」
「母親と
注2)
の関係」を取り上げた
。前者6事象は運動領域での
危機事象であり、後者6事象は日常生活領域での危機
事象である。さらに、危機経験者は5%程度であったが
「生き方や価値」も取り上げた。この事象は自我同一性
形成という青年期の発達的危機に関連する事象(加藤、
1983;無藤、1979)であり、危機経験とパーソナリティ
の関連を扱った先行研究の多くで取り上げられている
ためである。結果として、運動領域として6事象、日常
生活領域として7事象を取り上げたが、比較的に多くの
―  20  ―
大学運動選手の危機経験:競技レベルによる違い
高く、危機による問題誘発の可能性がある事象と考えら
れる。危機の平均が2.5(
「2:少し経験した」という水
準と「3:かなり経験した」という水準の中間)以上で
あることを基準として、そのような可能性のある事象を
調べてみると、男子(表1)では高レベル群と中レベル
群で4事象、低レベル群で3事象が相当していた。どの
群でも「競技成績」
「職業や進路」
「生き方や価値」がこ
の基準をクリアーしており、これらは男子全般において
注意が必要な危機事象と言える。これらの事象に加え
高レベル群
3.5
中レベル群
低レベル群
3.0
2.5
2.0
1.5
母親
父親
高レベル群
4. 0
中レベル群
低レベル群
3. 5
3. 0
2. 5
2. 0
1. 5
低レベル群(n=149)
危機事象
M
競技成績
2.90
職業や進路
2.88
生き方や価値
2.59
勉強
2.21
競技継続
2.17
怪我
2.15
チームメイト
2.12
異性の友人
2.04
チーム運営
1.66
同性の友人
1.55
指導者
1.44
母親
1.34
父親
1.27
母親
父親
―  21  ―
同性の友人
図 2 女子における各事象の危機の平均
表 1 男子における危機得点の平均に基づく危機事象のランキング
中レベル群(n=34)
危機事象
M
職業や進路
3.24
競技成績
3.15
生き方や価値
2.65
異性の友人
2.59
勉強
2.47
チームメイト
2.38
チーム運営
2.21
怪我
1.97
競技継続
1.85
指導者
1.65
同性の友人
1.50
母親
1.50
父親
1.29
異性の友人
生き方や価値
職業や進路
勉強
怪我
チーム運営
競技継続
競技成績
指導者
1. 0
チームメイト
1 .危機の水準が高い事象
まず、競技レベルを、全国大会ベスト16以上、全国大
会ベスト16未満、地区大会以下の3群に分類し、それぞ
れを高レベル群、中レベル群、低レベル群とした。そし
て、男女別に各群の13事象の危機の平均を算出し、男
子の平均を図1に、女子の平均を図2に示した。さらに
個々の危機事象の危機得点の大小関係を明示するため
に、危機得点の平均をもとに危機事象を順位づけし、男
子のランキングを表1に、女子のランキングを表2に示
した。なお、各群の人数は表1と表2を参照されたい。
表1と表2において順位の高い事象は危機の水準が
高レベル群(n=15)
危機事象
M
競技成績
3.00
職業や進路
2.80
生き方や価値
2.67
チーム運営
2.60
チームメイト
2.33
怪我
2.27
勉強
2.07
競技継続
1.93
異性の友人
1.93
指導者
1.73
同性の友人
1.33
父親
1.07
母親
1.07
同性の友人
図 1 男子における各事象の危機の平均
結果および考察
順位
1位
2位
3位
4位
5位
6位
7位
8位
9位
10位
11位
12位
13位
異性の友人
生き方や価値
職業や進路
勉強
怪我
チーム運営
競技継続
競技成績
指導者
1.0
チームメイト
人が危機を経験すると思われる事象を幅広く抽出した
と考えられる。
対象者は、これら13事象における危機、探求、自己
投入の経験を、各々「大学に入ってからこれまでの間
に、個々の事象について迷ったり悩んだりしましたか」
、
「迷ったり悩んだときに、それを解決しようと努力しま
したか」
、
「現在、そのことについて自分なりの信念を
もって積極的に努力していますか」という質問で問われ
た。回答は4件法を用い、
「まったくあてはまらない」を
1、
「非常にあてはまる」を4として得点化した。なお、
自己投入については今回の研究の目的に関連しないの
で、分析には用いなかった。
2 )競技レベル
大学入学後に出場した最もレベルの高い大会とその
大会での試合結果を尋ねた。大会については、
「全国大
会、地区大会、県大会、市町村大会、出場経験無し」
の
5つを設定し、試合結果については、
「優勝〜ベスト4、
ベスト5〜ベスト16、それ以下」の3つを設定し、各々
一つ選択してもらった。
竹之内、奥田、大畑
表 2 女子における危機得点の平均に基づく危機事象のランキング
順位
1位
2位
3位
4位
5位
6位
7位
8位
9位
10位
11位
12位
13位
高レベル群(n=32)
危機事象
M
競技成績
3.78
職業や進路
3.47
指導者
3.38
チームメイト
3.22
生き方や価値
3.22
競技継続
2.78
怪我
2.53
チーム運営
2.44
異性の友人
2.25
同性の友人
1.97
勉強
1.78
母親
1.63
父親
1.59
中レベル群(n=46)
危機事象
M
職業や進路
3.04
競技成績
2.98
チームメイト
2.80
競技継続
2.65
チーム運営
2.41
生き方や価値
2.33
異性の友人
2.26
怪我
2.11
勉強
2.04
指導者
2.04
同性の友人
1.87
父親
1.50
母親
1.48
て、男子の高レベル群では「チーム運営」の危機の平均
が、そして中レベル群では「異性の友人」の危機の平均
が2.5以上であった。
女子(表2)においては、危機の平均が2.5以上であ
る事象は、高レベル群で7事象、中レベル群で4事象、
低レベル群で5事象みられた。どの群でも「競技成績」
「チームメイト」
「競技継続」
「職業や進路」の危機の平
均が2.5以上であり、これらは女子全般において注意が
必要な危機事象と言える。これらの事象に加えて、女子
の高レベル群では「指導者」
「生き方や価値」
「怪我」の
危機の平均が、低レベル群では「生き方や価値」の危機
の平均が2.5以上であった。
以上の結果の特徴的な点は、まず、男女のすべての群
において、
「競技成績」と「職業や進路」の危機の平均
が2.5以上であった点である。大学運動選手の危機経験
を検討した先行研究(中込・鈴木、1985;竹之内ほか、
2008)においても、これらの事象での危機の水準は高
いことが示されており、本研究の結果と一致している。
「競技成績」の危機の得点が高いのは運動選手であるこ
とから了解できる。
「職業や進路」
については、就職の問
題と言ってもよいが、社会人手前の大学生では就職の問
題は現実的に重要となる。また、
「職業や進路」の問題
は自我同一性の形成といった青年期後期に活発になる
発達的危機に関連する(加藤、1983;無藤、1979)
。こ
れらのことから、大学生という時期で「職業や進路」の
危機の水準が高くなることはもっともと言える。
次に、特徴的な点は、危機の平均が2.5以上の運動領
域の事象は中・低レベル群よりも高レベル群の方が多い
という点である。男子の中・低レベル群では危機の平均
が2.5以上の運動領域の事象は1つであったが、高レベ
ル群では2つであった。また、女子の中・低レベル群で
は危機の平均が2.5以上の運動領域の事象は3つであっ
たが、高レベル群では5つであった。このように、競技
低レベル群(n=106)
危機事象
M
競技成績
3.28
職業や進路
3.19
チームメイト
2.94
競技継続
2.51
生き方や価値
2.51
勉強
2.39
怪我
2.33
チーム運営
2.14
指導者
2.04
異性の友人
1.93
同性の友人
1.85
母親
1.64
父親
1.57
レベルが高いほど運動領域の多くの事象で危機を経験
すると言える。特に女子の高レベル群では、危機の平均
が2.5以上の運動領域の事象が5つと他の群よりも多く、
運動領域での危機経験による問題誘発の可能性の高さ
が窺われ、注意が必要である。
2 .競技レベルによって危機の水準に差がある事象
上述のように、運動選手の危機経験が競技レベルに
よって異なると指摘したが、どの事象において3群の
危機の水準が異なっているのかは明確ではない。そこ
で、事象ごとに3群の危機得点の平均の差を分散分析
によって検討した。
結果は表3ならびに図1、図2に示したが、男子では、
「チーム運営」と「異性の友人」において平均の差が有
意であった。有意水準を5%とした LSD 法による多重
比較の結果、
「チーム運営」では、高レベル群・中レベ
ル群の危機の平均が低レベル群よりも高かった。
「異性
の友人」では、中レベル群の危機の平均が低レベル群・
高レベル群よりも高かった。
女子では、
「指導者」
「競技成績」
「勉強」
「生き方や価
値」において平均の差が有意であった。有意水準を5%
とした LSD 法による多重比較の結果、
「指導者」では高
レベル群の危機の平均が中レベル群・低レベル群よりも
高かった。
「競技成績」では、高レベル群の危機の平均
が低レベル群・中レベル群よりも高く、また、低レベル
群の危機の平均が中レベル群よりも高かった。
「勉強」
で
は、低レベル群の危機の平均が中レベル群・高レベル群
よりも高かった。
「生き方や価値」では、高レベル群の
危機の平均が低レベル群・中レベル群よりも高かった。
鈴木・中込(1985)は、男子大学選手では運動領域の
危機経験の水準に競技レベルによる差はみられなかっ
たと報告しているが、本研究では差がみられた。本研究
の男子で差のみられた運動領域の事象は「チーム運営」
―  22  ―
大学運動選手の危機経験:競技レベルによる違い
表 3 危機得点の分散分析の結果
領域
運動
日常生活
*
危機事象
チームメイト
指導者
競技成績
競技継続
チーム運営
怪我
勉強
職業や進路
生き方や価値
異性の友人
同性の友人
父親
母親
p<.05,
**
男子
F値
(2,195)
多重比較
1.02
1.40
0.94
1.16
9.30 **
高・中>低
0.43
1.17
1.80
0.06
3.90 *
中>低・高
0.46
0.75
1.64
女子
F値
(2,181)
多重比較
1.59
19.46 **
高>中・低
8.49 **
高>低>中
0.70
1.50
1.09
6.11 **
低>中・高
1.84
7.26 **
高>低・中
1.86
0.16
0.11
0.45
p<.01
であったが、彼らはこの事象を調査内容に含めていな
かった。また、鈴木・中込(1985)は女子での検討を試
みていなかったが、本研究では女子についても検討し、
「指導者」と「競技成績」の2つの運動領域の事象で、競
技レベルによる危機水準の差が認められた。これらのこ
とから鈴木・中込(1985)で競技レベルの差が認められ
なかったのは、取り上げた事象や男子のみを対象者とし
たことに由来すると考えられる。そして、本研究の結果
より、運動選手の危機経験を検討する際には競技レベル
を考慮することが必要と言える。
さて、運動領域で競技レベルによる危機水準の差が
みられた事象、すなわち男子の「チーム運営」
、女子の
「指導者」
「競技成績」では、一貫して高レベル群の危
機の平均が最も高かった。一方で、日常生活領域で差の
みられた事象、すなわち男子の「異性の友人」
、女子の
「勉強」
「生き方や価値」では、このような一貫した傾向
は見られていない。つまり、高レベル群の危機の水準が
高いのは運動領域の事象に限定されるが、高レベル群
は運動に深く関わることが求められるが故に、運動領域
での危機の水準が高くなるのだと考えられる。前項での
結果も加味すると、競技レベルの高い選手は中・低レベ
ルの選手よりも運動領域の多くの事象で危機を経験し、
危機の水準も高いと言えるので、運動領域での危機経
験の影響が強くなると考えられる。また、こうした傾向
は、特に女子において顕著であることを留意しておく必
要がある。
3 .危機と探求の水準に差がある事象
危機経験が問題誘発的な影響を与える可能性は、危
機の水準が高い場合のみならず危機に対して対処行動
が伴わない場合にも高まると思われる。つまり、危機の
水準に比べて探求の水準が低い事象は、問題誘発的な
―  23  ―
危機事象となる可能性がある。そこで、事象ごとに危機
と探求の平均の差について検討することにした。
なお、こうした検討に先立って、運動領域として取り
上げた6事象の危機得点を加算し、また6事象の探求得
点を加算して、運動領域の危機加算得点と探求加算得
点を算出した。同様に、日常生活領域として取り上げた
7事象においても、日常生活領域全体の危機加算得点と
探求加算得点を算出した。そして、これらの加算得点の
平均を競技レベル別に算出し、平均の差を分散分析に
よって検討した。各群の加算得点の平均と標準偏差お
よび分散分析の結果を表4に示した。男子では、運動領
域の探求加算得点において平均の差が有意であり、有
意水準を5%とした LSD 法による多重比較の結果、高
レベル群の探求加算得点の平均が低レベル群よりも高
かった。女子では、運動領域の危機加算得点と探求加算
得点において平均の差が有意であり、有意水準を5%と
した LSD 法による多重比較の結果、いずれにおいても
高レベル群の加算得点の平均が低レベル群・中レベル群
よりも高かった。このように加算得点の3つで競技レベ
ルによる差が認められたが、平均の差は高レベル群と中
レベル群または低レベル群との間に認められるだけで、
中レベル群と低レベル群の平均には差が認められてい
ない。そこで、以後の分析では中レベル群と低レベル群
を一つの群に統合して分析した。
男女別・競技レベル別に個々の事象の危機と探求の平
均を算出し、図3に男子の高レベル群の平均を、図4に
男子の中・低レベル群の平均を示した。また、図5に女
子の高レベル群の平均を示し、図6に女子の中・低レベ
ル群の平均を示した。事象ごとに危機と探求の平均の
差を対応のある t 検定(両側検定)で検討した結果、男
子の高レベル群では「職業や進路」で平均の差が有意で
あった(t
(14)=2.17, p<.05)
。男子の中・低レベル群では、
竹之内、奥田、大畑
表 4 危機加算得点と探求加算得点の平均と標準偏差および分散分析の結果
領域
高レベル群
運動
危機
13.9
(4.45)
14.2
(4.25)
12.9
(3.53)
12.0
(2.56)
探求
日常生活
危機
探求
運動
危機
18.1
(3.16)
17.7
(3.53)
15.9
(3.42)
14.8
(4.32)
探求
日常生活
危機
探求
上段:M,下段(SD)
;* p < .05,
**
F値
多重比較
1.50
3.66 *
高>低
2.34
1.46
8.40 **
高>低・中
11.27 **
高>低・中
1.20
1.20
p < .01;男子の F 値の自由度は(2,195)
,女子は(2,181)
探求
危機
3.5
中レベル群
低レベル群
男 子
13.2
12.4
(3.36)
(3.53)
13.4
12.1
(3.57)
(3.60)
15.2
13.9
(3.53)
(4.01)
14.0
13.0
(3.63)
(4.15)
女 子
15.0
15.2
(3.63)
(3.91)
14.2
14.3
(3.52)
(3.84)
14.5
15.1
(4.00)
(3.95)
13.6
13.6
(4.22)
(3.90)
危機
4. 0
探求
3. 5
3.0
3. 0
2.5
2. 5
2.0
2. 0
母親
父親
同性の友人
異性の友人
生き方や価値
職業や進路
勉強
怪我
チーム運営
探求
競技継続
危機
3.5
競技成績
図 3 男子における高レベル群の危機と探求の平均
指導者
チームメイト
母親
父親
同性の友人
異性の友人
生き方や価値
職業や進路
勉強
怪我
チーム運営
競技継続
競技成績
1. 0
指導者
1. 5
1.0
チームメイト
1.5
図 5 女子における高レベル群の危機と探求の平均
危機
4. 0
探求
3. 5
3.0
3. 0
2.5
2. 5
2.0
2. 0
母親
父親
同性の友人
異性の友人
生き方や価値
職業や進路
勉強
怪我
チーム運営
競技継続
競技成績
指導者
図 4 男子における中・低レベル群の危機と探求の平均
チームメイト
母親
父親
同性の友人
異性の友人
生き方や価値
職業や進路
勉強
怪我
チーム運営
競技継続
競技成績
1. 0
指導者
1. 5
1.0
チームメイト
1.5
図 6 女子における中・低レベル群の危機と探求の平均
―  24  ―
大学運動選手の危機経験:競技レベルによる違い
「チームメイト(t
(182)
=2.11, p<.05)
」
「指導者(t
(182)
=2.50, p<.05)
」
「職業や進路(t(182)=6.75, p<.01)
」
「生
き方や価値(t
(182)
=4.77, p<.01)
」
「異性の友人(t
(182)
=2.66, p<.01)
」で平均の差が有意であった。女子の高レ
ベル群では、
「指導者(t
(31)
=4.58, p<.01)
」
「競技成績
p<.05)
(t
(31)
=2.68,
」
「職業や進路(t
(31)
=4.82, p<.01)
」
「生き方や価値(t(31)
=2.88, p<.01)
」で平均の差が有意
であった。また、女子の中・低レベル群では、
「指導者
(t
(151)
=4.79, p<.01)
」
「競技継続(t
(151)
=4.36, p<.01)
」
「職業や進路
(t
(151)
=8.32, p<.01)
」
「生き方や価値
(t
(151)
=4.92, p<.01)
」で平均の差が有意であった。有意であっ
た事象のすべてにおいて、危機の水準に比べて探求の
水準が低かった。
男子で危機と探求の平均に差がみられた事象は、高
レベル群では1事象であったが、中・低レベル群では5
事象であった。つまり、危機への対処行動が伴わずに問
題を呈する可能性は、男子では高レベル群よりも中・低
レベル群の方が高いと言える。他方、女子では、どちら
の群でも「指導者」
「職業や進路」
「生き方や価値」にお
いて危機と探求の平均に差がみられ、差がみられた事象
の数はどちらの群も4事象であった。つまり、危機への
対処行動が伴わずに問題を呈する可能性は、女子では
どちらの群でも同じ程度であると考えられる。
なお、
「指導者」
「職業や進路」
「生き方や価値」は、
女子の両群に加えて、男子の中・低レベル群でも危機
と探求の平均に差がみられていた。さらに、
「職業や進
路」は男子の高レベル群でも危機と探求の平均に差がみ
られていた。こうした本研究の結果に加えて、男子大学
選手の危機経験を検討した中込・鈴木(1985)において
も、
「指導者」
「職業や進路」
「生き方や価値」では危機
の水準よりも探求の水準が低いと報告されている。これ
らのことから、
「指導者」
「職業や進路」
「生き方や価値」
は運動選手全般において、危機への対処行動が伴わず
に問題を呈する可能性が高い事象と考えられる。
4 .問題誘発性の特に高い危機事象
ここでは、これまでの分析結果を男女別・競技レベル
別に整理し、各群において問題誘発性が特に高いと考え
られる危機事象を同定していく。表5と表6は、各々男
子と女子の分析結果をまとめたものである。表中の○は
以下の3つの観点の各々についてあてはまる事象を示
している。つまり、1)危機の平均が2.5以上であった事
象、2)他の群よりも危機の平均が高かった事象(高レ
ベル群にとっては中・低レベル群のいずれかよりも平均
が高かった事象のことであり、中・低レベル群にとって
はどちらかの群の平均が高レベル群よりも高かった事
象のことである)
、3)危機と探求の平均に差がみられ
た事象、である。これらの観点は、危機の水準が高いこ
とや対処行動が伴いにくいことを示す観点である。した
がって、これらに相当する事象での危機経験は問題誘発
性が高いと考えられる。そして本研究では、これらの3
つのうちの2つの観点に合致する事象を特に問題誘発
性の高い危機事象と考えていく。
表5より、男子の高レベル群においていずれかの観点
に合致した事象は、
「競技成績」
「チーム運営」
「職業や
進路」
「生き方や価値」であった。これらの事象のうち、
「チーム運営」と「職業や進路」は2つの観点に合致し
ており、特に問題誘発的な危機事象と言える。中・低レ
ベル群でいずれかの観点に合致した事象は、
「チームメ
イト」
「指導者」
「競技成績」
「職業や進路」
「生き方や価
値」
「異性の友人」であった。これらのうち、
「職業や進
路」
「生き方や価値」
「異性の友人」は2つ以上の観点に
表 5 男子の分析結果のまとめ
領域
危機事象
運動
日常生活
チームメイト
指導者
競技成績
競技継続
チーム運営
怪我
勉強
職業や進路
生き方や価値
異性の友人
同性の友人
父親
母親
危機の平均
が2.5以上
高レベル群
他の群より
危機の平均
が高い
危機と探求
の平均に差
がある
○
○
○
○
○
○
―  25  ―
危機事象
チームメイト
指導者
競技成績
競技継続
チーム運営
怪我
勉強
職業や進路
生き方や価値
異性の友人
同性の友人
父親
母親
危機の平均
が2.5以上
○
○
○
○
中・低レベル群
他の群より 危機と探求
危機の平均 の平均に差
が高い
がある
○
○
○
○
○
○
竹之内、奥田、大畑
表 6 女子の分析結果のまとめ
危機の平均
が2.5以上
運動
日常生活
チームメイト
指導者
競技成績
競技継続
チーム運営
怪我
勉強
職業や進路
生き方や価値
異性の友人
同性の友人
父親
母親
○
○
○
○
高レベル群
他の群より
危機の平均
が高い
危機と探求
の平均に差
がある
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
合致し、特に問題を生じさせやすい危機事象と言える。
表6より、女子の高レベル群でいずれかの観点に合致
した事象は、
「チームメイト」
「指導者」
「競技成績」
「競
技継続」
「怪我」
「職業や進路」
「生き方や価値」であっ
た。これらのうち、
「指導者」
「競技成績」
「職業や進路」
「生き方や価値」は2つ以上の観点に合致しており、特
に問題誘発的な危機事象と考えられる。中・低レベル群
においていずれかの観点に合致した事象は、
「チームメ
イト」
「指導者」
「競技成績」
「競技継続」
「勉強」
「職業
や進路」
「生き方や価値」であった。これらのうち、
「競
技継続」
「職業や進路」
「生き方や価値」は2つの観点に
合致し、特に問題を生じさせやすい危機事象と言える。
これらの結果より言えることは、競技レベルの高い群
は、低い群よりも問題誘発性の高い運動領域の危機事
象が多いということである。男子では特に問題誘発性
の高いと考えられた運動領域の危機事象は、高レベル群
では「チーム運営」の1事象であったが、中・低レベル
群では一つもみられなかった。また、女子では特に問題
誘発性の高いと考えられた運動領域の危機事象は、高
レベル群では「指導者」と「競技成績」の2事象であっ
たが、中・低レベル群では「競技継続」の1事象であっ
た。これらのことは、競技レベルの高い選手の方が低い
選手よりも運動領域の多くの事象で高い水準の危機を
経験したり、危機の水準に見合う対処行動を起こせない
でいたりすることを示唆している。このように競技レベ
ルの高い選手は運動領域での危機経験によって問題を
生じさせる可能性が高く、注意が必要である。
特に注意を要する点は、女子の高レベル群で「競技成
績」が問題誘発性の高い危機事象として同定された点
である。
「競技成績」については、男女のどの競技レベ
ル群においても危機の平均が2.5以上であったが、女子
―  26  ―
危機の平均
が2.5以上
チームメイト
指導者
競技成績
競技継続
チーム運営
怪我
勉強
職業や進路
生き方や価値
異性の友人
同性の友人
父親
母親
○
中・低レベル群
他の群より 危機と探求
危機の平均 の平均に差
が高い
がある
○
○
○
○
○
○
○
○
○
の高レベル群以外では問題誘発性の高い事象として同
定されなかった。つまり、
「競技成績」の危機の水準は
高いが、それに見合う水準の対処行動がとられるのが一
般的と考えられる。そして例外的に、女子の高レベル群
は、危機の水準に見合う対処行動がとれていないと考え
られる。この原因は探求の水準が低いのではなく、危機
の水準が高すぎるためと思われる。女子の高レベル群
の危機の平均は3.78であり、表1ならびに表2に示され
たすべての群のすべての事象の中で最も危機の平均が
高かった。運動選手である限り競技成績についてはか
なりの努力がなされるが、女子の高レベル群ではそのよ
うな努力をしのぐ危機を経験していると考えられ、特に
注意が必要である。
次に、日常生活領域の事象については、特に問題誘発
性の高い事象と考えられた事象は、男子の高レベル群で
は「職業や進路」の1事象であったが、中・低レベル群
では「職業や進路」
「生き方や価値」
「異性の友人」の3
事象であった。女子では、高レベル群においても低レベ
ル群においても「職業や進路」と「生き方や価値」が特
に問題誘発的な事象と考えられた。これらの事象は、青
年期に一般的に危機として経験される事象である。つ
まり、
「職業や進路」
「生き方や価値」の問題は、青年
期の発達的危機である同一性形成に関わる事象(加藤、
1983;無藤、1979)であり、さらに「異性の友人」の問
題は、エリクソン(1973b、1977)が同一性形成の次の発
達的危機とした親密性課題に関連する問題である。つ
まり、本研究の結果は、運動選手といえども、こうした
一般的な発達的危機に直面していることを示している。
そして、このような傾向は、男子の中・低レベル群で強
いと言える。中・低レベル群の選手は競技への専心性が
さほど高くなく、そのため一般の青年と同じような傾向
大学運動選手の危機経験:競技レベルによる違い
になるのだと考えられる。
さて、本研究では問題誘発性の高い危機事象の存在
が示されたが、このことは運動選手に対する心理的サ
ポートの必要性を示唆している。近年、運動選手に対す
る心理的サポートが行われるようになってきているが、
その内容は競技力の向上を意図したものが多いように
思われる。しかし、運動選手にとって問題誘発性の高い
危機事象は運動領域と日常生活領域の両方に存在して
いた。そこで、競技力といった視点だけでなく、選手の
日常生活も視野に入れた心理的サポートが必要と考え
られる。また、問題誘発性の高い危機事象は競技レベル
や男女で異なっていたので、こうした点を考慮した心理
的サポートが必要と言える。
まとめ
本研究の目的は、男女別・競技レベル別に危機経験の
特徴を検討し、運動選手において問題を誘発しやすい
危機事象を同定することであった。2年生以上の大学
運動選手を対象者として13事象での危機経験を調査し
分析した結果、以下のような結果が得られた。
1)競技レベルを高・中・低の3群に分類し、危機の
平均が2.5以上の事象を調べた結果、男子ではどの群で
も「競技成績」
「職業や進路」
「生き方や価値」が相当し
た。加えて、男子の高レベル群では「チーム運営」が、
そして中レベル群では「異性の友人」が相当した。女子
では、どの群でも「競技成績」
「チームメイト」
「競技継
続」
「職業や進路」が相当した。さらに、女子の高レベ
ル群では「指導者」
「生き方や価値」
「怪我」が、低レベ
ル群では「生き方や価値」が相当した。
「競技成績」と
「職業や進路」は男女のすべての群で危機の平均が2.5以
上であった。また、危機の平均が2.5以上の運動領域の
事象は中・低レベル群よりも高レベル群の方が多く、特
に女子においてこの傾向が顕著であった。
2)高・中・低レベル群の危機の平均を比較した結果、
男子では、
「チーム運営」と「異性の友人」において差
がみられ、女子では、
「指導者」
「競技成績」
「勉強」
「生
き方や価値」において差がみられた。運動領域の事象、
すなわち男子の「チーム運営」
、女子の「指導者」
「競技
成績」では、一貫して高レベル群の危機の平均が最も高
かった。
3)
危機の水準に比べて探求の水準が低い事象は、男
子の高レベル群では「職業や進路」であり、中・低レベ
ル群では「チームメイト」
「指導者」
「職業や進路」
「生
き方や価値」
「異性の友人」であった。女子の高レベル
群では「指導者」
「競技成績」
「職業や進路」
「生き方や
価値」であり、中・低レベル群では「指導者」
「競技継
続」
「職業や進路」
「生き方や価値」であった。
「指導者」
「職業や進路」
「生き方や価値」は運動選手全般におい
て、危機への対処行動が伴わずに問題を呈する可能性
が高い事象と考えられた。
4)以上の3つの分析のうち2つの分析で相当した事
象を特に問題誘発性の高い危機事象と考えて、そのよ
うな事象を調べた結果、男子の高レベル群では「チーム
運営」と「職業や進路」が相当し、中・低レベル群では
「職業や進路」
「生き方や価値」
「異性の友人」が相当し
た。女子の高レベル群では「指導者」
「競技成績」
「職業
や進路」
「生き方や価値」が相当し、中・低レベル群で
は「競技継続」
「職業や進路」
「生き方や価値」が相当し
た。競技レベルの高い群は、低い群よりも問題誘発性の
高い運動領域の危機事象が多かった。
要するに、問題誘発性の高い危機事象は競技レベル
で異なり、競技レベルの高い選手は運動領域の多くの事
象で危機を経験し、危機の水準も高かった。また、問題
誘発性の高い危機事象は運動領域と日常生活領域の両
方に存在し、男女でも異なっていた。こうした点を考慮
しながら運動選手に対する心理的サポートを行う必要
性が示唆された。
―  27  ―
付 記
本研究は、文部科学省科学研究費補助金(22500572)
の交付を受けて行われた。
注
注1)3月に調査を実施した大学では,1年生を調査対象者
に含めている.彼らは調査時点では1年生であったが,
数日後に2年生に進級する者たちであり,4月以降に調
査した大学の2年生と同じ程度の大学での危機経験を有
すると判断したためである.
注2)列挙した危機事象には,竹之内ほか(2008)で示され
ている危機事象と名称が異なっているものがある.例え
ば,本研究の「競技成績」は,竹之内ほか(2008)では,
「技術の停滞・プレーの不調」と「試合に勝てない・試合
で結果が残せない」というように独立して抽出されてい
たものを内容の類似性を考慮して,一つのカテゴリーと
して取り上げたものである.また,竹之内ほか(2008)
では「恋愛」となっていたものを幅広く捉えて,本研究
では「異性の友人との関係」として取り上げている.さ
らに竹之内ほか(2008)では「家族・家庭」として抽出
されていたものを,内容を明確にするために,本研究で
は「父親との関係」と「母親との関係」の2つに分けて
取り上げている.
竹之内、奥田、大畑
文献
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Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
「ひきこもり」青年の日仏における共通点と相違点について
Commonalities and differences in hikikomori youths in Japan and France
古 橋 忠 晃*,**
鈴 木 國 文***
照 山 絢 子*****
後 岡 亜由子********
Nicolas Tajan **********
Alain Pierrot ********
Tadaaki FURUHASHI *,** Hitoshi TSUDA *,**
Toyoaki OGAWA **
***
**
Kunifumi SUZUKI
Misako SHIMIZU Junko KITANAKA ****
Junko TERUYAMA *****
Sachiko HORIGUCHI ******Katsunobu SHIMIZU *******
********
Ayuko SEDOOKA
津 田 均*,**
小 川 豊 昭**
清 水 美佐子**
北 中 淳 子****
******
堀 口 佐知子
清 水 克 修*******
********
Cristina Figueiredo
Nancy Pionné-Dax *********
Natacha Vellut ********
François de Singly ********
********
Pierre-Henri Castel
In recent years the hikikomori (social withdrawal) phenomenon described in Japan has also come to be seen in
Europe, particularly France. Despite the high level of interest in hikikomori in France, it has not been clearly defined
and there is no clear overall understanding of the phenomenon. Our Japanese-French research team, supported by a
Grant-in-Aid for Scientific Research (B) (overseas surveys), compared hikikomori youths in France and Japan from
the perspectives of researchers in various fields. The aim of this study was to investigate the kinds of people to whom
the concept of hikikomori is applied in France and Japan. A clinical conference was held in Paris in September 2010
to discuss cases considered to be hikikomori in the two countries. This article is an interim report from research in
the first year of a series of international joint studies, and describes the commonalities and differences in the state of
hikikomori in Japan and France.
Keywords; Hikikomori, Social withdrawal, France, Japanese-French comparative study
* * * * * * * * * * 名古屋大学学生相談総合センター
* * * * * * * * * * 名古屋大学総合保健体育科学センター
* * * * * * * * * * 名古屋大学医学部保健学科
* * * * * * * * * * 慶應義塾大学
* * * * * * * * * * ミシガン大学
* * * * * * * * * * テンプル大学ジャパンキャンパス
* * * * * * * * * * 明治学院大学
* * * * * * * * * * パリデカルト大学
* * * * * * * * * * フランス国立保健医学研究所
* * * * * * * * * * トゥールーズ大学
* * * * * * * * * * Center for Student Counseling, Nagoya University
* * * * * * * * * * Research Center of Health, Physical Fitness and Sports, Nagoya University * * * * * * * * * * School of Health Sciences, Nagoya University
* * * * * * * * * * Keio University
* * * * * * * * * * University of Michigan
* * * * * * * * * * Temple University, Japan Campus
* * * * * * * * * * Meiji Gakuin University
* * * * * * * * * * Université Paris Descartes
* * * * * * * * * * Institut National de la Santé et de la Recherche Médicale
* * * * * * * * * * Université Toulouse II Le Mirail
―  29  ―
古橋、津田、小川、鈴木、清水、北中、照山、堀口、清水、後岡
はじめに
近年、ヨーロッパの中でもとりわけフランスにおい
て、
「ひきこもり」の青年がみられるようになってきたと
言われている。日本では、厚生労働省のガイドラインに
よると、
「ひきこもり」は「様々な要因の結果として社会
的参加を回避し,原則的には6ヵ月以上にわたって概ね
家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念である。
なお,ひきこもりは非精神病性の現象とするが,実際に
は確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている
可能性は低くないことに留意すべきである」というもの
が一般的な基準になっている。確かにフランスにおいて
は「ひきこもり」に対する関心が高まってきているもの
の、
「ひきこもり」の定義がはっきりせず、その全貌が
把握できない状態である。また、
「社会的参加」という
のも、社会・文化が異なれば、その内容に違いが生じる
はずである。さらに、日仏両国で、
「ひきこもり」という
事態が医療の対象になるそのあり方にも違いがあるか
もしれない。
精神医学、教育学、心理学、哲学、歴史学、社会学、
医療人類学などの専門家で構成された日仏の我々の研
究チームは、科学研究費・基盤研究 B(海外調査)の助
成を受けつつ、日本とフランスの「ひきこもり」の青年
について、多分野の研究者の視点から比較検討を行っ
ている。この検討は、日仏の青年と社会との関係を通
して、フランスのひきこもりについての考察を深め、日
本のひきこもり研究の発展にも寄与することを目指し
ている。ただし、この検討は医学的な視点で「ひきこも
り」という事態を解明することのみを目指すものではな
い。目指しているのは「
『ひきこもり』とはどのような疾
患か」という問いにとどまらない。むしろ、フランスと
日本でそれぞれどのような人が「ひきこもり」という概
念をあてはめられて医療化されているのかを検討する
ことが本研究の目的である。それは、
「ひきこもり」が
医療化されること、つまり医療の対象になることの過程
の中に、
「ひきこもり」の問題そのものが何らかの形で
反映されていると思われるからである。
こうしたことを考える素材として、本稿では、一連の
国際共同研究の一年目の中間報告として、日本とフラン
スの青年の「ひきこもり」のあり方の共通点と相違点を
明らかにしたい。
対象と方法
それぞれの研究グループから「ひきこもり」と考えた
ケース、つまり、日本からは5名パリからは4名、合計
9名が集められた。厳密に「ひきこもり」という診断を
―  30  ―
受けた事例を扱っているのではない理由は、本稿の目的
が日仏でそれぞれ「どのような人が『ひきこもり』と言
われているのか」を検討するためである。こうして、研
究メンバーで、パリデカルト大学にて2010年9月に詳細
にこれらの事例について検討を行った。なお、事例につ
いては、プライバシーに配慮して本質を損なわない程度
に内容の変更を行った。
結果および考察
計9名について、本人の社会活動の度合いを考慮しつ
つ、彼らの様々な記述的観点(Aspects descriptifs)を列
挙した。それは以下の表1の通りである。
全9例から見えてきたことは以下の通りである。
1)ひきこもりの「入り口」としては、日本のケースに
おいては目標を目指す途上で躓くかあるいは躓き
そうになってそのまま引きこもり続けていたが、フ
ランスのケースにおいては社会から逸脱(déraillement)
(薬物、非行など)する形でひきこもってし
まうように見えた。つまり、日本側のケースにおい
ては、事例1は大学を目指すという目標を保持しつ
つ、事例2は大学院での発表を目前にして、事例3
は「社会にでる」という目標を保持しつつ、事例4
は「本業」を意識しながら、それぞれ「ひきこもり」
を継続していると思われた。一方の、フランス側の
症例においては、事例6はバカロレアに失敗してか
ら、事例8はアムステルダムを放浪して大麻や売春
に手を出してから、それぞれ「社会」から逸脱する
形で「ひきこもり」が始まり、そして社会復帰でき
ない形で「ひきこもり」が継続しているように思わ
れた。ただし、今回は日本側の症例は大学生や大学
を目指していた人が中心であり、一方のフランスで
は社会保障制度などを利用している人が中心に集
められたために、このような傾向の違いが現れた可
能性がある。それでも、この「入り口」の差異は、
それなりに両国での「ひきこもり」の違いを反映し
ているように思われた。
また、このように「入り口」には違いが見られた
ものの、ひきこもっている最中の彼らの様態につい
ては今回の検討会では両国の間に差異が見いだせ
なかった。この様態の違いについての検討は今後
の課題である。
確かに、フランスにおいては、ある程度の傾向で、
逸脱(déraillement)の傾向が見られた。明確な精
神医学的病理に至っていない事例においても、青年
期の「自立の獲得の過程で深刻な失望(déceptions
importantes dans la conquête de l’autonomie)
」をした
「ひきこもり」青年の日仏における共通点と相違点について
表 1 日仏で集められた「ひきこもり」の9事例の概要
事例1
(J)
事例2
(J)
事例3
(J)
事例4
(J)
事例5
(J)
事例6
(F) 事例7
(F) 事例8
(F) 事例9
(F)
年齢 性別 21 M
23 M
27 M
33 M
22 M
18 M
24 M
22 M
兄弟
弟、妹
姉
兄
弟
弟
弟
兄弟、姉妹 兄
なし
両 親 の 職 業 両 親 と も 会 父は会社員 父 は 自 営 業 会社を経営 両 親 と も 医 父は無職(う 両親共働き 父 は 交 通 事
(社会階層) 社員
(労働者)
師
つ病)
、母は
故 後10年 間
デザイナー
自宅療養、母
はうつ病
30 M
本 人20歳 時
父が癌で死
亡、母はアル
コール
「ひきこもり」大 学 受 験 失 大 学 院 の 研 転 職 重 ね た「ひきこもり」自 ら 医 学 部 バ カ ロ レ ア レ ス ト ラ ン ア ム ス テ ル「 ひ き こ も
の入り口、出 敗後、自助グ 究 発 表 前、後 2 度 ひ き の 定 義 に は 退学後、出口 に失敗し、全 や ホ テ ル の ダ ム 放 浪 後 り」の定義に
口、期間
ル ー プ メ ン 出 口 は ま だ こ も り、 各 あ て は ま ら はまだない、てを放棄、出 警 備 な ど を 閉じこもり、は あ て は ま
バ ー の 助 言 ない、
「ひき 1 年。 支 援 ない
14年目
口 は ま だ な した後、友達 出 口 は ま だ らない
まで(30歳)
、こもり」4年 団 体 経 て グ
い、5年目 に 自 分 は う ない、5年目
9年間
目
ループホー
つだと話す、
ム 就 職(35
2年間
歳)
そ の 後 の 経 ニ ー ト へ の 全 く 外 出 な 支 援 団 体 で 非 常 勤 講 師 主 治 医 と 毎 心 理 士 の 面 28で カ ウ ン 母 の 御 使 い 社 会 恐 怖 が
改善し、映画
過
行 政 サ ー ビ い ま ま 過 ご 知 り 合 っ た 担当、精神的 日 の メ ー ル 談 の み を 受 セリングへ にはいく
女性と結婚 には良好
のやりとり け入れる
館で働く
スを利用
している
インターネッ 交 流 に 使 用 一 日 中 ネ ッ 情報収集・交 目 立 っ た 使 目 立 っ た 使 一日3時間
トの使用
(25歳~) トゲーム
流に使用
用はない
用はない
家族形態
一日中映画 9h 寝て、14h 不明
パソコン
両親と同居 家族で同居 家族で同居 家族で同居 家族で同居 家族と同居 家族で同居 家族で同居 家族で同居
家 族 に お け 家 族 と の 交 家 族 と の 交 母 親 の 愚 痴 家 族 の 中 で 家庭内暴力 家 族 と の 交 母 親 と の 一 家 族 と 会 話 娘 の よ う な
る役割
流はなし
流はない
の聞き役
の評論家
流はない
体感
はある
役割
親の積極性 不明
母が積極的 不明
母は過干渉 不明
学歴
高校中退
大学院生
大学院卒
特徴的な出
来事やエピ
ソード へ の
同一化
小学 校から 多人数参加
不登校傾向、型 ゲ ー ム で
同世代のひ 司令官の役
き こ もりと 割を果たし
出 会 っ て 活 ている
動的
大卒
エ ネ ル ギ ー「常勤のポス
低 下 時 は ア トを得たいと
ルコール、ア いう人の気が
ロ ハ シ ャ ツ 知れない」と
の 精 神 科 医 いう
を信頼
母の不安
医学部中退 高校卒
自ら受診
不明
大学卒
ユダヤ校卒 大卒
あ る 場 面 で「自分は geek 過食傾向、ア
の 行 動 可 で あ り 何 の ルコール、煙
能 性 が 同 じ 問題もなく、草、さらに麻
程度に現実 ひ きこもり 薬にも手を
的 な 強 度 を は極端」とい 出す。
持っている う
なし
閉じこもり 男性的な側
の前に大 麻 面とし て 父
や 売 春 に 手 に、また不安
を出してい を与える母
た可能性
に同一化、同
性愛
本 人 や 家 族 散 文 詩 を グ 精 神 医 学 的 自 分 を ア ダ 精 神 療 法 最 近 で は 周「何の不安も「住居や仕事 自 分 は geek 「 冷 め る
の 語 り の 特 ル ー プ メ ン 治 療 に 拒 否 ル ト チ ル ド の 傍 観 者 に 囲 へ の 思 い ない」
は虚しい」と ではない (froidir)
」と
徴
バーに配る 的
レンという なっている やりも
いう
いう言葉
精 神 医 学 的 なし
診断
ネット依存
通 院 中 だ が アパシー
不明(双曲 II
型障害 ?)
発達障害圏? ネット依存? 境界例?
依存症(薬、社会恐怖
ネット)精神
病圏?
*年齢は原則的に「ひきこもり」開始年齢とする(医療機関を受診していない人が含まれるため)
* J:日本の事例 F:フランスの事例
あとで、破綻(se déclencher)することがかなりの
程度見られた。フランスにおいては、リセ(Lycée)
から大学への移行は、大人社会(例えば、性的関
係を持つこと、両親とは別に住むこと、個人でお金
を管理することなど)への極めて大きな一歩として
体験される。日本においては、大学と最初の就職
との間のほうがより断絶が大きくなっているように
思われた。
2)インターネットの使用については、日本でもフラン
スでも没頭している人もいればそうではない人も
いた。最近の「ひきこもり」はインターネット依存
になりやすく、この傾向は両国に同じ程度に見られ
た。
―  31  ―
アメリカで大規模調査を行った Young 1)は、
「イ
ンターネット依存」を,以下の5つのサブタイプに
分けている。ネット強迫型(:とりつかれたように
オンライン・ギャンブル、オンライン・ショッピン
グ、オンライン取引にのめりこむタイプ)
、情報過多
型(:強迫的なネットサーフィンやデータベース検
索をするタイプ)
、コンピュータ依存型(:過剰なコ
ンピュータゲーム使用のタイプ)
、サイバーセック
ス型(:サイバーセックスやサイバーポルノのため
にアダルト・ウェブサイトを強迫的に使うタイプ)
、
オンライン友人関係型(:オンラインの人間関係に
のめりこみすぎるタイプ)の5タイプである。これ
らのうち、コンピュータ依存型については、その使
古橋、津田、小川、鈴木、清水、北中、照山、堀口、清水、後岡
用方法が社会から閉じこもる形でなされており、ひ
きこもりの状態へと至る場合がある2)。このサブタ
イプは治療が難しい。フランスにおいても、深刻な
ひきこもりには、このタイプのインターネット依存
であった。今後も、インターネットの使用のあり方
については両国でさらに詳しく見ていく必要があ
る。
3)
両国のひきこもりとも、全てのケースで「家族と同
居」の形態をとっていた。社会からひきこもるだけ
ではなく、家族の中でもひきこもる3)というのは両
国に共通であった。だが、家族と「共に」いるのか、
家族の「外に」いるのかがよく分からないところで
ある。さらに、母親が治療に積極的であるのは、日
本の特徴として言えることであった。とくに事例2
は、母親のみならず、本人の所属する大学の研究室
の教員もが母親的であると言えるほどに過保護で
あり、それに反して、本人のひきこもり続ける頑な
さは相当なものであった。
また、フランスでは、社会保障を受けている家庭
がいくつか見られた。そのことから「ひきこもり」
本人に対してどの程度経済的猶予があるのか、ま
た経済的猶予がある場合にそのことが本人のひき
こもりにどのような影響を与えているのかを把握
するために、家庭全体に保障を受けているのかある
いは世帯主のみに受けているのか、ということを考
慮する必要があると思われた。これについても今
後の課題となるだろう。
4)
日本のひきこもりは「ニート」などの名を与えられ
て動きやすくなっている人(事例1)がいたが、フ
ランスの「ひきこもり」は例えば「geek」という名
を自分に与えてむしろ自ら動かなくなっている人
がいた。
「自分は geek ではない」といって別の名前
で自身を呼んでいる事例もあった。このように「ひ
きこもり」傾向の人が自らを何と呼んでいるかにつ
いては、多様性があり、両国でさらに詳しく見て行
く必要があると思われた。また「ひきこもり」の人
が互いに自助グループなどの居場所のような安心
できる空間で互いにニックネームで呼び合うこと
も報告されており、こうしたことは居場所での遊び
を増幅したり人間関係を水平に保ったりする効果
を持っていることが指摘されている4)。
我々がフランスにおいて重視している手掛かり
としては、閉じこもって(retirent)いる青年が自ら
に与えている名前を具体的に辿っていくことであ
る。だが、これだけでは以下の二つの理由によって
十分ではないだろう。
① しばしばフランスのひきこもりの人は、実際に
―  32  ―
はフランスの状態と一致していないにも関わらず、
日本に影響を受けた用語を単純に模倣することに
よって取り入れてしまっている。
② いかにして彼らが社会的な言い回しを使い「孤
独」を実践しているかについて、もっと広い視点で
考察する必要がある。つまり、いかにして自分や他
人について語っているのか、いかにして自分の身体
を見ているのか、いかにして他者の眼差しをみてい
るのか、いかにして自分のセクシュアリティをみて
いるのか、いかにして両親の住まいの中での寸断さ
れた空間と自分自身の関係をみているのか。いかに
して自分の孤立との関係の中で価値を与えたり反
対に恐れたりしている自身の「感情」を捉えている
のか、などについてである。
「ひきこもり」
であると
主張しているフランス人の存在を批判なく受け入
れることを避ける必要があるだろう。
5)
精神医学的診断としては、多種多様であった。事例
5のように背景疾患として発達障害なども見受け
られた5)。このケースについては社会の不適応は
むしろ適応障害であった。
また、インターネット依存は背景疾患というより
は、ひきこもりの結果、本人が少しずつ没入して
いったものであろう。インターネットというメディ
アはひきこもりの人にとってとてもアクセスしやす
い。そして、また、一旦インターネット依存になっ
た「ひきこもり」の青年は、周囲にとっても、それ
まで以上に「ひきこもり」らしい様相を呈している
ように見えるのではないだろうか。
また、気分障害圏の人でうつ状態から「ひきこも
り」の状態になったケース(事例3)があったが、
このケースがそうであるように、一旦「ひきこもり」
の状態になると社会の中の「時間の制約」6)に適応
できなくなってそのまま長期化してしまうことがあ
る。
また、社会恐怖と関係に関してもすでに指摘があ
る7)。我々のケースのうちでも事例9は社会恐怖と
近接したケースであるが、同時に
「ひきこもり」
の心
性も持っていることから、これらの関係についてさ
らに考察していく必要があるだろう。
「ひきこもり」
と社会恐怖との関係はとても重要である。しばしば
学校恐怖のような恐怖症が成人の年代にも見られ
ることがあり、その場合、
「ひきこもり」との関係が
無視できないからである。フランスにおいては学校
恐怖と社会恐怖の関係を、日本においては不登校と
ひきこもりの関係を考察する必要があるだろう。
さらに、日本側の症例には事例4のようにス
チューデント・アパシーの人がいた。スチューデ
「ひきこもり」青年の日仏における共通点と相違点について
ント・アパシーについてはひきこもりとの連続性が
指摘されている8)。スチューデント・アパシーは、
1970年代後半の日本において、笠原9)によって観
察された大学生らに特有の無気力・無感動の状態の
現象で、場合によっては不登校・長期欠席・留年な
どの問題へと至ることがある。この現象はいまだに
キャンパスに見られる現象なのである。こうした青
年はキャンパスには現れなくても、サークル活動や
アルバイトなどには熱心であることが多く、特徴と
して「本業からの退却・逃避」さらに「副業主義」
が見られる。確かに日本の大学生のひきこもりを見
ていると一定程度の割合で本業恐怖心性が見られ
るが、このことがそのままフランスのケースには当
てはまるかどうかについては今回の検討会では確
認できなかった。このような本業恐怖心性を持って
いる学生は優秀な大学の学生にのみ関係している
現象である可能性があり、フランスにおいて同様の
青年の存在を確かめることは今後の課題となるだ
ろう。
要 約
「ひきこもり」と考えられたケースを日仏両国で集め
て全体を概観してみると、ひきこもりの「入り口」とし
て、日本では本人にとっての目標を目指していること
の途上で躓くかあるいは躓きそうになってそのまま引
きこもってしまうが、フランスにおいては社会から逸脱
(déraillement)する形で(
「実際に」躓いて)そのまま引
きこもってしまうという違いあるように見えた。
こうした違いは個人と社会の関係性10)の両国での現
れ方の違いを反映しているように思われた。だが、これ
はあくまで仮説にすぎない。今回集まった事例にのみあ
てはまることなのかもしれない。こうした仮説を検証に
するためには、以下のような個人と社会を媒介する幾つ
かのものについて視野に入れることが重要である。
1)家族のあり方(両親の住まいなど「私的な」空間と
いうものがフランスと日本で定義される方法や、家
族的領域において表明する権利を持っている諸々
の「感情」などを含む)について。
2)
学校の競争について。しかし、これは経済危機に
―  33  ―
よって教育システムにもたらされた新しい不確定
さであるとも言えるし、教育のネオリベラルな制度
であるとも言える。
3)
人々の苦しみを引き受ける医療-社会制度につい
て。これは社会的な居心地の悪さを医療化された
苦しみへと変換してしまう。
4)
日仏の両文化において、文化的・宗教的に引き継い
できたものが、
「孤独」や「孤立」に特有な意味合
いを帯びさせていることについて。
今後は、このような個人と社会を媒介するもの(つま
り、家族、学校医療制度、文化など)が、日仏での「ひ
きこもり」の差異とどのように関わっているのかという
ことについて、日仏で共通のアンケート調査を行ってい
く予定である。
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10)Kunifumi, Suzuki A propos de du phénomène de Hikikomori
Abstract psychiatrie 41, 4-5, 2009
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
ダンスパフォーマンスにおける熟練者の動作特性
The motion characteristic of expert street dancers during performance
佐 藤 菜穂子*
池 上 康 男***
居 村 茂 幸**
布 目 寛 幸***
Nahoko SATO*
Yasuo IKEGAMI***
Shigeyuki IMURA**
Hiroyuki NUNOME***
The purpose of this study was to investigate the waving movement by arms in street dance performance.
Subjects were five expert street dancers and nine novice dancers. The wave motion was analyzed using a motion
capture system to calculate (1) upward-and-downward displacement of each joint and fingertip, (2) joint angle and
(3) propagation velocity of the wave. As compared with the novice dancers, the expert dancers showed the following
3 types of movement characteristics:
(1) smaller upward-and-downward movement at the both ends of the arms while proximal joints were moving;
(2) larger angular movement in the shoulder joint and scapula;
(3) constant propagation velocities.
1 .はじめに
近年、若者の間で観たり踊ったりする機会の多いダン
スの種類として、ストリートダンスが挙げられる。その
中でも、2011年から小学校体育授業の「表現運動・リズ
ム遊び」
として、ストリートダンスの1つであるロックダ
ンスが取り入れられ、2012年からは中学校、2013年から
は高等学校で「現代的なリズムのダンス」としてロック
ダンスとヒップホップダンスが選択科目として正式採
用されることが文部科学省の方針により決定している。
ストリートダンスの人口は、現在、日本国内で300万人
とも言われており、中学や高校でも「ストリートダンス
部」の創設が後を絶たない。多くの人がダンスに関心を
持ち、教育という領域でもダンスは取り入れられてきて
いるが、ストリートダンスに対する評価基準はほとんど
ないのが現状であり、またそのパフォーマンスを科学的
に分析した研究もほとんどない。
ダンスにおける各種のパフォーマンスは、技術のみな
らず「見栄え」が重要な位置を占めており、運動を美
的・芸術的観点から捉えるため、他のスポーツで行わ
れる運動の目的とは大きく異なる(村松・福崎、2005)
。
他のスポーツでは、より早く走る、より多くの得点を入
れるなど、1つの指標によって優劣をつけることができ
るが、ダンスパフォーマンスにおいては、より美しく、
より巧みな動きが求められ、1つの指標では優劣をつけ
ることは難しく、観る者の主観に左右される。このこと
が、ダンスパフォーマンスに対する研究を著しく困難に
している。しかし、舞台などでの熟練者のパフォーマン
スは、観る者の多くが共通して魅了され、感動を与える
という事実を考慮すると、ダンスパフォーマンスには、
観る者に与える共通した客観性が、その動作特性に含ま
れているのではないかと考えられている(水村・瀬田、
2005)
。
そこで本研究では、ダンスパフォーマンスの中から、
特に滑らかさが求められる上肢のウェーブ動作に着目
し、三次元動作解析装置を用いて、熟練者群、未熟練者
* * * 名古屋大学大学院教育発達科学研究科
* * * 茨城県立医療大学大学院保健医療科学研究科
* * * 名古屋大学総合保健体育科学センター
* * * Graduate School of Education and Human Development, Nagoya University
* * * Graduate School of Health Sciences, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences
* * * Research Center of Health, Physical Fitness and Sports, Nagoya University
―  35  ―
佐藤、居村、布目、池上
1往復行う課題を行った。メトロノームの1Hz の音刺
激に合わせて検者が出した合図により、ウェーブ動作を
開始させ、1秒から5秒までのカウントを検者が提示し
ながら行わせた。この際、できるだけ滑らかにウェーブ
動作を行うよう要求した。
群の相違を比較、検討し、ダンスパフォーマンスにおけ
る熟練者の動作の特性の抽出を試みた。
2 .方法
2 . 1 対象
ダンスパフォーマンス熟練者5名(年齢30.4±2.24歳、
身長1.69±0.08m、体重61.2±7.7kg、経験年数9.8±1.8年)
、
ダンスパフォーマンス未熟練者9名(年齢27±5.5、身長
1.69±0.1m、体重61.8±10.5kg)の、計14名を対象(以下、
被験者)
とした。なお研究を行うにあたり、全員に本研究
の目的と方法を十分に説明し、同意を得て行った。本研究
は茨城県立医療大学倫理委員会によって承認を得た。
2 . 2 課題
課題は、ダンスパフォーマンスの基本的な動きの一つ
に分類される上肢のウェーブ動作とした。ウェーブ動作
は、片側の手指を起点にして始まった運動が、滑らかに、
かつ律動的にもう片側の手指に移行するものである。し
かし、実際には、上肢の各関節を上下に動かすことで、
波の位相の変化を表出している運動であり、右上肢末梢
(指尖)から始まった運動が、右手関節、右肘関節、右
肩関節、左肩関節、左肘関節、左手関節、左上肢末梢
(指尖)
の順に伝播していく。これら一連の動作は、7相
に分けることができ、表1に示した。右上肢末梢から始
まり左上肢末梢まで伝播する上記のウェーブ動作に引
き続き、逆相の左上肢末梢から右上肢末梢までのウェー
ブ動作を合わせて、本研究では1往復と定義し、右上肢
から左上肢を往路、左上肢から右上肢を復路とした。
2 . 4 データ処理
2 . 4 . 1 各関節の上下運動
まず各計測点として、表2より、P1を右手指、P2
と P3の中点を右手関節、P4と P5の中点を右肘関節、
P6を右肩関節、P7を左手指、P8と P9の中点を左手関
節、P10と P11の中点を左肘関節、P12を左肩関節と定義
した。各計測点の座標の Z 軸成分を、各関節の上下運動
として捉え、それらの振幅を各関節で算出した。さらに
課題内での各マーカーにおける垂直成分の最大移動幅
に対する、各相での移動幅をパーセンテージで示した。
2 . 4 . 2 各関節角度
三次元動作解析装置より、各マーカーの三次元座標
から、左右の手関節(背屈・掌屈、橈屈・尺屈)
、前腕
(回内・回外)
、肘関節(屈曲・伸展)
、肩関節(屈曲・
伸展、外転・内転、外旋・内旋)
、肩甲骨(挙上・下制、
前方・後方回旋、前方牽引・後退)の角度を算出し、さ
らに各相での角度変化量を算出した。
2 . 3 手順
測定装置は、赤外線カメラ6台による三次元動作解析
装置(Oxford Metrix 社製 Vicon512)を用い、赤外線カ
メラのサンプリング周波数は60Hz とした。三次元動作
解析装置の反射マーカーは、表2に示す14ヵ所に貼り付
けた。
被験者は、40cm の台の上に端座位をとり、両足底を
床面に接地した状態で、上肢のウェーブ動作を5秒間で
表 2 反射マーカー貼付位置と計測点
番号 反射マーカー貼付位置
計測点
P1
右中指先端
―― 右 手 指
P2
右橈骨茎状突起
右手関節
P3
右尺骨茎状突起
P4
右上腕骨内側上顆
右肘関節
P5
右上腕骨外側上顆
P6
右肩峰
―― 右肩関節
P7
左中指先端
―― 左 手 指
P8
左橈骨茎状突起
左手関節
P9
左尺骨茎状突起
P10
左上腕骨内側上顆
左肘関節
P11
左上腕骨外側上顆
P12
左肩峰
―― 左肩関節
P13
C7棘突起
P14
胸骨柄
表 1 相分け
相
開始肢位
1相
2相
3相
4相
5相
6相
7相
肢位
両肩関節外転位で手掌は床面と水平に向け,肘関節伸展,手関節中間位とする
開始肢位から右手関節の上下運動が最高位になるまで
1相から右肘関節の上下運動が最高位になるまで
2相から右肩関節の上下運動が最高位になるまで
3相から左肩関節の上下運動が最高位になるまで
4相から左肘関節の上下運動が最高位になるまで
5相から左手関節の上下運動が最高位になるまで
6相から開始肢位に戻るまで
―  36  ―
ダンスパフォーマンスにおける熟練者の動作特性
3 . 4 . 1 各関節の上下運動
熟練者、未熟練者の各関節の上下運動を表3に示す。
各相において、移動距離のパーセンテージが大きいも
のから上位2つのポイントを着色して示した。縦軸が1
相から7相と、時間の経過を示しており、横軸は右指尖
から左指尖まで、ウェーブが伝播していく順に並んでい
る。熟練者では、各相のウェーブを表出するための関節
が中心となって上下運動が大きくなっていた。未熟練者
の右上肢では、肘関節の上下運動が少なく、肘、肩関
節の上下運動が主な動きとなる3、4相においても、指
尖、手関節などの末梢部の動きが大きい値を示した。左
上肢では、熟練者と比べ、適切な関節が適切なタイミン
グで上下運動が行われていなかった。
2 . 4 . 3 伝播速度の変動係数
各関節での振幅が最高位を取るポイントを、関節に
ウェーブが到達した点と定義し、ある関節に到達してか
ら隣接した関節に到達するまでの時間と、隣接した関節
間の距離を算出し、ウェーブの伝播速度を求めた。右指
尖から右手関節、右手関節から右肘関節と、右肘関節か
ら右肩関節、右肩関節から左肩関節、左肩関節から左肘
関節、左肘関節から左手関節、左手関節から左指尖にお
いて伝播速度を算出することができ、各々の関節間での
伝播速度のばらつきをみるために、被験者間で変動係数
を算出した。
2 . 5 統計処理
関節角度変化量は、上肢の関節全20項目において、相
ごとに主成分分析を行った。成分抽出後は Varimax 回転
を行い、得られた主成分得点を、熟練者・未熟練者の2
群間で、対応のない t 検定を用い、比較した。
伝播速度の変動係数における、熟練者、未熟練者の比
較では、対応のない t 検定を用いた。
統計学的有意水準は5% 未満をもって有意とした。そ
の際の統計学的検定には統計用ソフトウェア SPSS16.0 J
for windows を用いた。
3 . 4 . 2 各関節角度変化量
各関節の相ごとの角度変化量を主成分分析した結果、
2相の第3主成分(固有値:3.060)
、3相の第4主成分
(固有値:2.162)
、4相の第1主成分(固有値:6.009)に
おいて、未熟練者より熟練者が有意に(p<0.05)大きい
という結果が得られた。2相の第3主成分は、右肩関節
屈曲・伸展、右肩関節外転・内転、右肩関節外・内旋、
右肩甲骨前方・後方回旋、右肩甲骨挙上・下制であり、
『右肩周囲の動き』を示すと解釈した。3相の第4主成
分は、右肩関節水平外・内転、右肩甲骨前方牽引・後
退、左肩甲骨前方牽引・後退であり、
『左右肩周囲の動
き』を示すと解釈した。4相の第1主成分は、右肩関節
水平外・内転、右肩関節外・内転、右肩甲骨前方・後方
回旋、右肩甲骨挙上・下制、左肩甲骨前方牽引・後退、
左肩関節外・内転であり、
『左右肩周囲の動き』を示す
3 結果
ウェーブ動作1往復の課題として定義したが、今回は
往路に焦点を当て、結果を述べる。
表 3 各関節の上下運動
熟練者
1相
2相
3相
4相
5相
6相
7相
右指尖
52.4
12.6
15.5
9.8
14.6
10.5
5.2
右手関節
44.9
33.0
18.5
14.6
14.2
12.8
4.8
右肘関節
22.9
38.1
20.2
33.1
8.6
8.1
5.5
右肩関節
10.8
28.4
32.0
38.6
9.1
8.2
7.1
1相
2相
3相
4相
5相
6相
7相
右指尖
63.2
16.1
14.3
41.2
7.3
6.6
8.6
右手関節
16.8
31.0
33.4
34.0
10.0
12.8
9.1
右肘関節
29.5
28.8
19.3
33.0
15.2
12.7
6.9
右肩関節
26.4
36.5
26.4
42.0
12.9
14.8
3.8
左肩関節
2.1
4.7
5.8
42.0
35.4
35.7
10.0
左肘関節
1.2
4.9
7.1
25.4
53.0
46.1
28.8
左手関節
2.4
1.8
6.3
9.5
22.6
68.9
40.1
左指尖
2.9
1.5
6.6
19.1
19.8
22.7
47.6
左肩関節
8.3
8.3
14.1
33.3
74.2
50.1
21.5
左肘関節
7.8
15.7
7.7
32.4
29.7
24.2
96.8
左手関節
11.5
14.7
8.6
29.8
35.7
23.0
62.2
左指尖
6.1
8.9
6.2
17.7
16.5
32.8
57.0
未熟練者
(%:各相での移動幅/最大移動幅×100)
各相において、上下運動の大きい部位、上位2つを着色した。
―  37  ―
佐藤、居村、布目、池上
と解釈した。2、3、4相において、熟練者は未熟練者
と比べ、近位部の関節角度変化量が有意に大きい値を
示した。
3 . 4 . 3 伝播速度の変動係数
ウェーブ伝播速度の変動係数は、図1に示すように、
熟練者で0.4±0.1、未熟練者で1.0±0.2と、熟練者で有意
に(p<0.05)小さかった。
4 .考察
ダンスパフォーマンスにおける上肢のウェーブ動作
は、滑らかさが求められる動作であり、右上肢末梢、右
手関節、右肘関節、右肩関節、左肩関節、左肘関節、左
手関節、左上肢末梢の順に、各関節を上下運動させるこ
とで、波の伝播を模した動作である。滑らかな波とは、
一定の速さで波が伝播すると考えることができ、そのた
めには、適切なタイミングで、適切な関節のみが上下運
動を行うことが要求され、それ以外の関節は固定して
おく必要がある。しかし、日常生活における上肢の運動
では、末梢部分を最も大きく動かすことで、効率良く目
標のものに手を伸ばしたり、掴んだりすることが多い。
ウェーブ動作の中に含まれる、末梢部分は固定したまま
中枢部分の上下運動を行うことは、日常生活において経
験することはほとんどなく、難しい動きとして捉えるこ
とができる。
結果より、上肢のウェーブ動作において、
(1)各関
節の上下運動、
(2)各関節角度変化量、
(3)伝播速度
の変動係数で、熟練者と未熟練者に差が見られた。
まず(1)各関節の上下運動では、熟練者は、適切な
タイミングで適切な関節の上下運動が大きくなってい
たことに対し、未熟練者では、右肘、右肩関節の上下
運動が主な動きとなる3、4相においても、右指尖、右
手関節などの末梢部の動きが大きい値を示した。また、
(2)
各関節角度変化量において、2、3、4相で、熟練
者は未熟練者と比べ、近位部の関節角度変化量が有意
に大きい値を示した。これらのことから、熟練者は、右
肘、右肩関節の上下運動が主な動きとなる3、4相にお
いて、近位部の関節角度、つまり肩関節、肩甲骨の角度
変化量を大きくすることで、末梢部分の動きを制限し、
中枢部分の上下運動を表出していると考えられる。
次に(3)伝播速度の変動係数では、未熟練者より熟
練者で有意に小さい値を示した。変動係数が小さいと
いうことは、伝播速度が熟練者においてより一定である
と捉えることができる。伝播速度は、各関節間の距離を
考慮して算出した値であり、この伝播速度が一定である
ということは、単に関節を右上肢末梢から順番に一定の
―  38  ―
図 1 伝播速度の変動係数
リズムで動かしているのではなく、熟練者においては各
関節間の距離を踏まえた上で、一定の速度になるように
伝播させていると考えられる。
上肢のウェーブ動作は、滑らかさが求められる動作で
ある。この動作において、熟練者では、肩関節、肩甲骨
の角度変化量を大きくすることで、末梢部分の動きを制
限し、中枢部分の上下運動を表出し、また、単に関節を
一定のリズムで動かしているのではなく、各関節間の距
離を踏まえた上で、一定の速度になるように波を伝播さ
せているという特性が得られた。これらの特性が、滑ら
かさの因子となり得る可能性があると考えられる。
今後は、熟練者の特性が、観る者の印象にどのように
関連しているのかを明らかにし、ストリートダンスが学
校教育に取り入れられた際に、一般化できるような評価
基準を検討していく必要がある。
5 .要約
本研究では、ダンスパフォーマンスの上肢のウェーブ
動作に着目し、熟練者、未熟練者の、
(1)各関節の上
下運動、
(2)各関節角度変化量、
(3)伝播速度の変動
係数を比較し、熟練者の特性を模索した。その結果、熟
練者では、肩関節、肩甲骨の角度変化量を大きくするこ
とで、末梢部分の動きを制限し、中枢部分の上下運動を
表出し、単に関節を一定のリズムで動かしているのでは
なく、各関節間の距離を踏まえた上で、一定の速度にな
るように波を伝播させているという特性が得られた。
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―  39  ―
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
「なごや健康カレッジ」実施報告 
~参加者の日頃の社会活動と運動能力、筋力との関連~
A study reporting an experience of Nagoya Health College
大 西 丈 二*
島 岡 清***
山 本 ありさ*****
飯 田 蓉 子**
石 川 康 伸****
榊 原 久 孝******
Joji ONISHI*
Kiyoshi SHIMAOKA***
Arisa YAMAMOTO*****
Youko IIDA**
Taeko KAJIOKA***
****
Yasunobu ISHIKAWA
Yoshiitsu NARITA**** 
******
Hisataka SAKAKIBARA
梶 岡 多恵子***
成 田 嘉 乙****
BACKGROUND: This study was conducted at a site of Nagoya Health College in 2010 and clarifies the characteristics of the participants. METHODS: Twenty-nine participants were included in the study. Handgrip strength
and muscular strength of the lower extremities were measured by physical therapists with a hand-held dynamometer.
One-leg standing time with eyes open, 6-m timed up & go and functional reach tests were performed. The total daily
steps and energy expenditure were estimated by a pedometer. Daily activities and social support were evaluated by
self-administered questionnaires. RESULTS: The health status was normal or good in 88% of participants, but was
not good in 12%. The mean total energy expenditure was 1,513 ± 441 kcal/day in men, and 1,450 ± 123 kcal/day in
women. Energy expenditure was correlated with handgrip strength One-leg standing time negatively correlated with
age and BMI. Timed up & go results correlated with the strength of hip flexors. Both daily activities and social support significantly correlated with muscular strength as well as one-leg standing time, timed up & go and functional
reach tests. CONCLUSIONS: The participants were relatively healthy and active compared to the general population. Further study with an integrated approach is required for evaluating the participants from Nagoya Health College including from the other sites, and clarifying the effect for health by comparing with general population.
はじめに
ク者にサービスを行き届かせるか、そして介護予防プ
ログラム終了後も持続する効果を与えられるかが課題
となっている。名古屋市は「健康なごやプラン21」を策
定しており、その事業の一つとして地元大学と連携し
た「なごや健康カレッジ」を実施している。
「なごや健
康カレッジ」はサービス提供者と受給者の立場が明確
社会の高齢化に伴い高齢者の介護予防がますます重
要になっている。しかし介護予防事業には閉じこもりが
ちで社会的活動が少ない高リスクの高齢者ほど参加さ
れていない現状があり(平松ら.2009)
、いかに高リス
* * * * * * 名古屋大学総合保健体育科学センター
* * * * * * 名古屋大学大学院医学系研究科健康スポーツ医学分野博士課程
* * * * * * 東海学園大学人間健康学部人間健康学科
* * * * * * 医療法人愛生館小林記念病院
* * * * * * 名古屋大学医学部保健学科
* * * * * * Research Center of Health, Physical Fitness & Sports Nagoya University
* * * * * * Health Promotion Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine
* * * * * * Faculty of Human Wellness, Takai Gakuen University
* * * * * * Kobayashi Memorial Hospited
* * * * * * School of Health Sciences, Nagoya University
―  41  ―
大西、飯田、梶岡、島岡、石川、成田、山本、榊原
な介護予防事業とは異なり、健康づくりを自ら実践する
ほか、プログラムによっては健康づくりのリーダー的な
者を養成するなど、大学生や若い保健医療職らに実践
教育を行いながら、地域で継続できる活動を育む自由度
の高い事業である。高齢者の多くは自らの健康づくりに
公的機関が関わってくれることを望んでいるが(大西.
2009)
、その方法はまだ手探りの中にあり、本報告では
「なごや健康カレッジ」の一プログラムの活動を報告す
るとともに参加者の状況を分析し、今後の活動について
提言を与える。
方法
1.対象
著者らは平成22年度なごや健康カレッジ(緑区)を
実施し、これに参加した中高年者29名(男8名、女21名)
全員を対象とした。プログラム開始時に研究の説明を行
い、文書による同意を得て実施した。
2.なごや健康カレッジ(緑区)のプログラム内容
著者らが実施したプログラムは以下のように講義と
演習、運動実践で構成した。この中で、参加者が自身の
体力や健康度、生活習慣を知るために、それらの評価を
行った(Fig. 1)
。
第1回 オリエンテーション、講義「健康への道」
第2回 講義と演習「自分の健康と生活習慣を知ろう」
第3回 運動実践「スロー運動で筋力アップ」
第4回 運動実践「ウォーキングから始めよう」
第5回 演習「健康とまちの発見」
第6回 まとめ
3.調査項目
(1)身体特性
身長および体重、BMI、体脂肪率、利き足の下腿周径
を計測した。体重と体脂肪率は
「体組成計 HBF202」
(オ
ムロン社)を用いて測定した。下腿周径は最大となる部
分で計測した。
(2)運動能力
開眼片足起立時間、6m Timed up & go(Podsiadlo ら.
1991)
、Functional Reach(Duncan ら.2006)を 測 定 し
た。開眼片足起立時間は左右各1回、希望者は各2回まで
測定し、最大値を計測値とした。ただし最大測定時間は
120秒とした。
(3)筋力
利き手の握力および利き足の股関節屈曲筋、大腿四頭
筋、足関節背屈筋、足関節底屈筋の各筋力を計測した。
利き足は左右の開眼片足起立時間のうち記録がよかっ
た支持肢を利き足とみなした。これらの筋力は,
「ハン
ドヘルドダイナモメーター μ TasF-1」
(アニマ社)を用い
て、理学療法士と作業療法士が計測した。
(4)活動量
加速度付歩数計「ライフコーダ GS」
(スズケン社)を
用いて歩数を測定し、年齢および身長、体重、歩数から
導く総消費エネルギー量を算出した。加速度計は連続
7日間、就寝や入浴以外の時間において、できるだけ身
につけるよう参加者に依頼し、29名の参加者中18名(男
5名、女13名)の協力を得た。
(5)生活状況と健康状態
記名式アンケートにて運動習慣、情報を収集するため
に使用している手段、外出頻度と主な外出先、外出に
月1回以上利用した交通手段、行っている余暇活動とそ
の頻度、ソーシャル・サポート、日常生活に支障を与え
る健康上の問題の有無、全般的健康感について尋ねた。
余暇活動は平成18年度社会生活基本調査に、外出先は
「高齢者の外出の現状とその意向」
(第一生命経済研究
所.2004)
、外出に用いた移動手段は「高齢者の地域社
会への参加に関する意識調査」
(内閣府.2008)で用い
られた設問と選択肢に準拠した。ソーシャル・サポート
は Zimet らが開発し(1990)
、岩佐らによって日本語版
がつくられた尺度(2007)を使用した。全般的健康感は
国民生活基礎調査(厚生労働省)と同じ5段階評価を用
いた。
Fig. 1. Participant's presentation Scene in the program
―  42  ―
「なごや健康カレッジ」実施報告 ~参加者の日頃の社会活動と運動能力、筋力との関連~
4.地理情報および統計分析
地 理 情 報については、住 所 から東 京 大 学 CSV ア
ドレスマッチングサービスを利用して座標値を求め、
ArcGIS 10(ESRI 社)にて地図を描画した。統計につい
ては、パラメトリックな項目については平均値と標準偏
差(SD)を算出し、ノンパラメトリックな項目について
は度数分布表を作成した。相関性についてはパラメト
リックな項目については年齢と性別で調整した偏相関
分析を、ノンパラメトリックな項目については Spearman
の順位相関分析を行った。パラメトリックな変数の二群
間比較には Student の t 検定を用い、ノンパラメトリッ
クな比較には Mann-Whitney 検定を使用した。三群以上
の群間の比較には ANOVA を使用し、その後の検定には
Turkey の方法を使った。情報収集に使用している手段、
外出先、外出に利用した交通手段と運動能力および筋
力との関連については、一般線形モデルにて年齢および
性別を共変量とし、運動能力および筋力を従属変数とす
る共分散分析にて解析した。ロジスティック回帰分析は
ステップワイズ法を用いて行った。いずれも有意確率は
両側5%未満を有意とし、分析には SPSS 17.0.2
(IBM 社)
を用いた。
結果
1.参加者の概要
参加者の年齢は平均68.3±6.6 SD 歳(男71.9±6.8 SD
歳、女67.0±6.2 SD 歳)であった。参加者の18名は会場
より半径2km 圏内に住み、10名は5km 圏内、1名が5km
Fig. 2. Location of the program site and the participants' residences
圏外であった(Fig. 2)
。
2.身体的特性および運動能力、筋力
参加者の年齢、身体計測値および運動能力、各筋力
を表1に示す。なお、利き手は24名が右手、5名が左手で
あった。
3.生活状況と活動量
男女合わせ、定期的な運動は「およそ毎日」行ってい
るものが6名(21%)
、
「週2回以上」が12名(43%)
、
「週1
回以下」が6名(21%)
、
「していない」が4名(14%)で
あった。外出の頻度は「ほとんど毎日外出する(週6日以
上)
」が12名(43%)
、
「よく外出する(週4~5日)
」が13
名(46%)
、
「時々外出する(週2~3日)
」が3名(11%)
、
「ほとんど外出しない(週1日以下)
」はいなかった。
一日の総歩数は平均12,216±3,922 SD 歩(男15,202±
4,756 SD 歩、女11,069±3,018 SD 歩)
、総消費エネルギー
量は男1,684±155 SD kcal、女1,450±130 SD kcal であっ
た。
回答が有効であった28名中、月1回以上外出する先と
して「買物」は全員が選択し、次いで「公園・遊歩道」
82%、
「会合・サークル・学習のための施設」71%、
「飲
食店」68%、
「文化・娯楽施設」68%の順に多く、
「高齢
者の外出の現状とその意向」
(第一生命経済研究所)と
比べ、病院以外のいずれの項目においても、今回の方が
多かった(表3)
。外出に利用した交通手段は「電車・地
下鉄」89%と「バス」82%が最も多く利用され、
「自分が
運転する自動車」57%、
「家族が運転する自動車」50%
が続き、
「自転車」39%、
「友人・知人が運転する自動車」
Table 1. Characteristics of participants
A big point means the program site, and small points means the
participants' residences.
A large circle means 5 km area from the program site, and small
circle means 2km area.
―  43  ―
Age
Male (n=8) Female (n=21)
71.9 ± 6.8
67.0 ± 6.2
Physical Measurements
Hight (cm)
Weight (kg)
BMI
Percent of body fat (%)
Lower leg girth (cm)
160.6 ± 4.7
57.5 ± 4.7
22.4 ± 2.0
24.8 ± 3.2
36.1 ± 2.1
151.6 ± 3.6
50.7 ± 5.9
22.0 ± 2.8
32.2 ± 3.7
34.5 ± 1.6
Muscular strength
Handgrip strength (kgw)
Hip flextor strength (kgw)
Quadriceps strength (kgw)
Ankle dorsiflexor strength (kgw)
Ankle flextor strength (kgw)
32.3 ± 3.2
22.4 ± 5.1
23.3 ± 4.6
16.1 ± 4.9
24.0 ± 8.0
23.8 ± 5.1
17.3 ± 5.6
16.3 ± 5.4
14.9 ± 4.8
23.7 ± 8.6
Physical abilities
One-leg standing time with eye open (s) 80 ± 52
Timed up & go (s)
5.9 ± 1.2
Functional reach (cm)
38.8 ± 7.7
92 ± 40
6.2 ± 0.6
37.0 ± 4.9
大西、飯田、梶岡、島岡、石川、成田、山本、榊原
29%、
「オートバイ」11%、
「タクシー」7%であった。
余暇活動は「映画」87%、
「旅行」86%、
「読書」86%
が大多数で行われており、続いて「園芸・ガーデニング」
75%、
「ボランティア」68%、
「ボランティア以外の地域
活動」64%と続いた。余暇活動を行った男女別頻度につ
き、平成18年社会生活基本調査との比較を Table 3 に示
した。
ソーシャル・サポートは平均4.9±1.1 SD(2.4-6.0)で、
女性5.1±1.0 SD、男性4.4±1.3 SD と男女間で有意な差は
なかった。
4.健康状態
全般的健康感は「よい」が21%、
「まあよい」36%、
「ふ
つう」25%、
「あまりよくない」18%で、
「よくない」と
答えた者はいなかった。健康上の問題がある者は61%
あった。この内訳として特に「循環器(心臓病、脳卒中、
高血圧など)の病気」47%、
「運動器(骨や関節、筋肉)
の病気」41%が多かった。全般的健康感および健康上の
問題の有無のいずれも、男女による差はなかった。
5.生活状況と活動量、運動能力・筋力、健康状態の関
連
表5に示すように、片足起立時間は年齢(r =-0.420,
p =0.033)
および BMI
(r =-0.539,p =0.005)
と有意な相
関を示した。Timed up & go は股関節屈曲筋
(r =-0.488,
p =0.021)
、足関節屈曲筋(r =-0.449,p =0.036)と
有意に相関があったが、Functional Reach はいずれの筋
力とも有意な相関を示さなかった。握力は股関節屈曲筋
(r =0.775,p <0.001)
、大腿四頭筋
(r =0.607,p =0.002)
と強く相関した。総消費エネルギー量は大腿四頭筋の
筋力との有意な相関を示した(r =0.704,p =0.003)
。
ソーシャル・サポートはいずれの項とも有意な相関を示
さなかった。
Table 2. Places where participants usually go
Table 3. Means of transportation
―  44  ―
「なごや健康カレッジ」実施報告 ~参加者の日頃の社会活動と運動能力、筋力との関連~
Fig. 3. Activities which participants do more than once a month
The questionnaire in the present study was simplified by combining some original items. General freqencies are shown as reference.
Table 4. Partial correlation coefficients between participants' physical abilities, muscular strengths, and social support
BMI
One-leg
Timed up & Functional
standing time
go
Reach
Handgrip
strength
Hip flextor
Quadriceps
Ankle
dorsiflexor
Ankle
flextor
Total energy
expenditure
Social
support
BMI
1
-0.486
-0.035
0.011
0.044
-0.018
0.154
0.156
0.123
0.552
0.176
One-leg
standing time
-
1
-0.036
-0.342
0.037
-0.112
0.113
0.100
-0.100
0.231
-0.363
Timed up & go
-
-
1
-0.789
(p=0.012)
-0.3
-0.672
(p=0.047)
-0.882
(p=0.002)
-0.311
-0.794
(p=0.011)
0.599
-0.216
Functional
Reach
-
-
-
1
0.218
0.648
0.720
(p=0.029)
0.117
0.704
p=0.034
0.202
0.363
Handgrip
strength
-
-
-
-
1
0.801
(p=0.009)
0.473
0.316
0.197
0.434
-0.104
Hip flextor
-
-
-
-
-
1
"0.694
(P=0.038)"
0.525
0.492
0.321
0.094
Quadriceps
-
-
-
-
-
-
1
0.511
0.858
(P=0.003)
0.343
0.569
Ankle dorsiflexor
-
-
-
-
-
-
-
1
0.536
-0.031
0.412
Ankle flextor
-
-
-
-
-
-
-
-
1
0.031
0.587
Total energy
expenditure
-
-
-
-
-
-
-
-
-
1
0.309
Social support
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
1
Bold means statistical significant.
Partial correlation coeffcients were culculated with adjustment by age and sex.
―  45  ―
大西、飯田、梶岡、島岡、石川、成田、山本、榊原
情報を収集する手段として「人づて」を選んだ者
は、有意に足関節背屈筋の筋力が強かった(F =13.130,
p =0.002)
。月1回以上外出する先として「家族・親
戚や友人・知人の家」を選んだ者は、足関節背屈筋
(F =10.357,p =0.005)
および足関節底屈筋
(F =13.130,
p =0.002)
が強かった。月1回以上利用する交通手段とし
て、自転車を選んだ者は片足起立時間が長く
(F =6.278,
p =0.021)
、バイクを選んだ者は股関節屈曲筋が有意に
強かった(F =5.164,p =0.036)
。余暇活動として、パ
ソコンを行うもの(F =13.130,p =0.002)
、およびボラ
ンティアを行うもの(F =3.444,p =0.035)は Timed up
& go が有意に短かった。
Spearman の相関分析において全般的健康感は、ソー
シャル・サポート
(ρ =0.493,p =0.014)
および Functional
reach(ρ =0.401,p =0.038)と有意な相関を示したが、
片足起立時間、Timed up & go および筋力とは有意な相
関は認められなかった。年齢および性別で調整した全
般的健康感を目的変数に、BMI および下腿周囲長、運動
能力と各筋力、一日平均歩数、外出頻度を独立変数とし
たロジスティック回帰分析では、有意な回帰式は導かれ
なかった。
考察
一般に、健康づくり事業に参加する者は健康意欲が
高く、健康状態もよいと考えられている。平成16年国民
生活基礎調査によると、65歳以上高齢者の66%が
「よい」
または「まあよい」
「ふつう」と感じており、
「あまりよ
くない」
「よくない」
と感じている者は23%であった。そ
れに比べ今回は、82%と多くの参加者が「ふつう」以上
によいと感じていた。参加者の片足起立時間、Timed up
& go、Functional Reach、各筋力も最近の他の調査
(国民
生活基礎調査.2004,首都大学東京体力標準値研究会.
2003,Aoyama ら.2011)と比べ、比較的よく保たれて
いた。歩数は虚弱高齢者、要介護高齢者において体力、
動作遂行能力と強い関連があるが(Bassey ら.1988,柳
本ら.1997,Petrella ら.2004)
、健常高齢者においては
その関連は弱くなる(Busse ら.2006)
。今回の参加者で
は男女とも平均一万歩/日以上と十分な歩行量があっ
たためか、歩数をもとに算出した総消費エネルギー量と
運動能力や筋力との間に有意な関連は認められなかっ
た。
余暇活動への参加も2006年社会生活基本調査の結果
と比べ多く、参加者全員が日頃週2日以上外出し、閉じこ
もりの者はいなかった。外出先としては特に、全員が買
物を挙げていた。実際の購入有無は不明であるものの、
ショッピングを楽しむことが外出を促し、健康に良い効
果が与えられることが期待される。Takano らは自宅周
囲に公園・緑地が多いと健康状態がよく(2002)
、Kondo
らは公園や書店などがあると歩行量が多いことを報告
しているが(2009)
、今回の調査でも「公園・遊歩道」は
外出先として買物に次いで多くあげられており、自宅近
くに商店や公園があることが、参加者の活動量に関与し
ているものと示唆された。移動手段として今回バスを挙
げた者が多かったのは、鉄道がない名古屋市緑区の特
性が示された。同区では2012年3月に地下鉄の延伸開業
が予定されており、市民の移動パターンの変化が見込ま
れる。川口らは福祉センターの利用前後の立ち寄り行動
について分析しているが
(1997)
、今回の会場となった複
合施設「ユメリア」は、ちょうどプログラム実施期間中
に本格的な開業を迎え、地域市民の活動に大きな影響を
与えている。近年、自宅からレストランやスーパーマー
ケットが近いと BMI が高くなるとした Raja らの研究
(2010)など、地理情報システム(Geographic Information
System; GIS)を用いた報告が増えているが、GIS は交通
機関などのアクセスを勘案した地域分析が可能で、健康
教室等の実施計画を立案する上で有用なツールである。
今回はなごや健康カレッジの1つのプログラムのみの分
析であったが、もし全プログラムで分析を行うことがで
きれば、プログラムにアクセスしやすい地域とそうでな
い地域が表わされると思われ、今後の事業運営に役立
つものと思われた。
ソーシャル・サポートについては、板橋区で地域在住
高齢者1,891人を調査した岩佐らの報告では前期高齢者
の女性の平均が5.6、男性が5.5であったが、今回はこれ
に比べると低い結果であった。ソーシャル・サポートと
健康や QOL 関連することがよく知られているが(Fried
ら.1997)
、今回の研究において、ソーシャル・サポー
トは全般的健康感と有意な正の相関を示したものの、運
動能力や筋力とは有意な相関を示さなかった。本研究
では家族構成や経済状況など社会経済的要因について
は調査を行っておらず考察をあまり深めることはでき
ないが、ソーシャル・サポートがやや低く、そして6割
で健康問題があった割に、身体機能は保たれ健康感も
高かったことは、健康教室などに参加すること、もしく
はその意欲が身体機能や健康感に防御的に作用してい
るのかもしれない。本研究では偏りのある少数の高齢者
を対象にした横断研究であるため、これらの因果関係を
知ることは不可能であるが、今後の縦断的な研究が行わ
れることによって、これらの知見の発展を期待したい。
―  46  ―
まとめ
なごや健康カレッジにおいて、参加者の健康感は一般
「なごや健康カレッジ」実施報告 ~参加者の日頃の社会活動と運動能力、筋力との関連~
より高く、運動能力や筋力も比較的保たれていた。今後
の課題としては、閉じこもり者などいかにリスクがより
大きい者にアプローチするか、健康づくりの視点より参
加者をどのように評価するか、提供する健康づくりプロ
グラムが生きがいや QOL にどう関わるか、ソーシャル・
サポートなど仲介因子として重要な指標は何か、などが
挙げられる。今、地域で盛んに進められている介護予防
プログラムも、効果が実証されたものはまだ極めて限ら
れている(財団法人日本公衆衛生協会.2010)
。今後も
高齢者の健康づくり事業はその効果測定を並行して実
施し、常にフィードバックを重ねて進めることが重要で
あろう。
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謝辞
本研究は平成22年度名古屋市委託事業費を用いて実
施した。本研究にご協力いただいたプログラム参加者
の皆様、名古屋市健康増進課、アニマ株式会社に厚く御
礼申し上げます。
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Duncan PW, Weiner DK, Chandler J, Studenski S. (2006).
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216-9.
Kondo K, Lee JS, Kawakubo K, Kataoka Y, Asami Y, Mori K,
Umezaki M, Yamauchi T, Takagi H, Sunagawa H, Akabayashi
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Podsiadlo D, Richardson S. (1991). The timed "Up & Go": a test of
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Soc., 39:142-8.
Raja S, Yin L, Roemmich J, Ma C, Epstein L, Yadav P, Ticoalu A B.
―  47  ―
平成22年度コロキウム発表要旨
平成22年度第1回2010年5月12日
演題:フロリダ大学でのサバティカルを終えて
演者:秋間 広(体育科学部)
著者は2009年3月27日から2010年3月17日の約1年
間、名古屋大学の特別研究期間の制度を利用してアメリ
カ・フロリダ大学理学療法学科の Dr. Vandenborne(以
下、Dr.V)の研究室に滞在した。フロリダ大学はフロリ
ダ州の北部にあるゲインズビル市に位置している。フロ
リダ州は温暖な気候であるため、一年中プールに入るこ
とができるなどと錯覚されている人もいるかと思うが、
北部のゲインズビルにおいては冬にプールに入れるほ
どの温暖な気候ではない。特に著者が滞在した冬は、25
年ぶりの寒波に襲われた(といっても名古屋の冬よりは
温暖)ということもあり、最低気温が氷点下になること
もあったが、ゲインズビル住民にとっては寒い冬だった
ようである。夏の気候は、ここ数年の名古屋と同じぐら
いの暑さであると感じたが、フロリダの方が日差しが強
いという印象であった。
Dr.V の研究室では、以下の3つの研究テーマがヒト
とマウスを使って進められていた:1)デュシェンヌ型
筋ジストロフィー(以下、DMD)患者の骨格筋特性に
関する研究、2)不活動による骨格筋特性の変化に関
する研究、3)脊髄損傷による骨格筋特性の変化に関
する研究。渡航前は2)に関する研究をヒトを用いて行
いたいと思って渡米したが、被検者集めに時間がかか
るなどの問題点があり断念した。結局、Dr.V の勧めも
あり、この研究室で最も精力的に進められている1)の
DMD に関する研究を行うことを渡米して早々に決める
ことができた。当初は、DMD という病気に関する研究
は、専門分野である運動生理学とはかけ離れた研究テー
マであると感じ、あまり興味を持つことができなかった
が、少しずつ研究を進めるにあたり、日本ではまず行う
ことができないテーマであることやこれまで行ってきた
研究のテクニックを生かせることなどもあり、徐々に興
味を持てるようになってきた。以下にこの研究内容の要
旨について記述する。
研究のテーマは“DMD 患者における大腿部の筋の筋
内脂肪と機能性能力との関係”であった。DMD とは X
ない。これまでの研究において、DMD 患者の病気の進
行を調べるため、大腿部や下腿部の磁気共鳴映像画像
(MRI)により筋内脂肪について評価されてきたが、そ
の評価は定性的なもので定量的に評価されたものでは
なかった。そこで、我々は DMD 患者の大腿部 MRI に
画像処理を施すことによって、筋組織断面積と筋内脂肪
断面積を算出し、身体活動能力との関係について検討し
た。
被検者は DMD 患者28名
(男児、平均年齢9.8±0.4歳)
、
健康なコントロール男児(平均年齢11.4±0.8歳)であっ
た。Kent-Braun ら(2000)および Elder ら(1997)の方
法をもとに、分析者のバイアスがより少なく、客観的に
分析することができる画像処理法を新たに考案した。こ
の方法を用いて、大腿中央部における11の筋毎に筋組織
断面積と筋内脂肪断面積を算出した。DMD 群の機能性
を評価するため、等尺性膝伸展筋力、椅子からの立上が
り時間など5種類のテスト、臨床で下肢の機能性を評価
するために用いられている Brooks lower extremity score
染色体にあるジストロフィン遺伝子欠損が原因の遺伝
的疾病である。DMD 患者では筋萎縮や筋機能の低下と
ともに骨格筋内に脂肪が沈着し、10歳代半ばで車いすの
生活となり、寝たきりの生活を経て、20歳代前半以降に
呼吸器不全や心不全等により死に至る治療困難な病気
である。現在のところ、効果的な治療法は見つかってい
―  49  ―
について測定した。
DMD 群はコントロール群と比較して、大腿部の筋内
脂肪が有意に高値を示した。大腿四頭筋、ハムストリン
グおよび内転筋群で筋内脂肪が最も高かったのは、それ
ぞれ大腿直筋、大腿二頭筋・長頭および大内転筋であり、
一方、縫工筋と薄筋では筋内脂肪の増加が見られなかっ
た。この傾向は全ての被検者で同様であった。各筋群毎
の筋内脂肪と機能性能力との相関関係を調べた結果、仰
臥位からの立上がり時間との間に最も高い相関関係が
認められた(大腿四頭筋、rs=0.56、P<0.01;ハムストリ
ング、rs=0.79、P<0.01;内転筋群、rs=0.66, P<0.01)
。ま
Brooks
lower
extremity
score
た、3つの筋群と筋内脂肪と
との間にも有意な相関関係が認められた(大腿四頭筋、
rs=0.71、P<0.01;ハムストリング、rs=0.71、P<0.01;内
転筋群、rs=0.77、P<0.01)
。年齢と筋組織断面積との相
関関係について調べた結果、DMD 群およびコントロー
ル群ともに有意な相関関係が認められたが(DMD 群、
rs=0.78、P<0.01;コントロール群、rs=0.90、P<0.01)
、
プロットの分布様相が両群間で大きく異なり、DMD 群
は回帰直線の傾きが小さく、コントロール群は大きかっ
た。また、等尺性膝伸展力を筋組織断面積で除した単位
面積当たりの筋力と年齢との関係においては、DMD 群
では有意な相関関係は認められなかったが(rs=0.06)
、
トロール群では発育にともなう単位面積当たりの筋力
の有意な増加が見られた。これらのことから DMD 男児
の身体機能は、筋量の減少と筋内脂肪の増加が関係し
ており、また、発育に伴う神経筋機能の発達不全が生じ
ることが示された。なお、この研究成果は、現在、筋疾
患を専門に扱う国際誌であるNeuromuscular Disorders へ
投稿中である。
最後に今回の特別研究期間を取得するに際して、不
在中ご迷惑をおかけした総合保健体育科学センターの
皆様に深謝いたします。
コントロール群では非常に高い相関関係が認められた
(rs=0.97、P<0.001)
。
以上の結果から、DMD による筋内脂肪の蓄積はある
特定の筋から生じ、筋内脂肪量と身体機能との相関関係
が認められたことから、筋内脂肪の増加が DMD 患者の
身体機能に大きく影響する因子の一つであることが示
された。特に、筋組織量と最大筋力との間には両群間に
有意な相関関係が認められたが、筋の発揮ポテンシャル
を示す単位面積当たりの筋力においては、DMD 群では
発育に伴う有意な変化は認められなかった。一方、コン
―  50  ―
平成22年度第2回2010年6月9日
演題:健康への道、病院の外のメインストリート ~いま考えるべきこと、やらねばならないこと~
演者:大西 丈二
演者は平成22年4月特任教員として新しく赴任いた
しましたので、ご挨拶と自己紹介を兼ね以下の発表を行
わせていただきました。
prehensive Geriatric Assessment)があり、その有用性が
病院の外のメインストリート
健康はもちろん、病院でつくるものではありません。
特に高齢者の健康は暮らしが大きく関与します。足が
悪くても安全に出かけられるような補助具の使用や住
環境、体調不良の時に相談や支援を頼める人とのつな
がり、介護を要する場合の家族の助け、療養施設の存在
など、医学だけではなく運動教育学、工学、環境学、社
会福祉学、医療経済学、心理学、倫理学など学際的な
対応が要されます。しかしわが国では歴史的に、健康は
およそ専ら医療保険の中で担われ、疾病管理が中心で、
予防が遅れをとることとなりました。世界一の長寿を果
たしたわが国では、いくつかの疾病を患っていても健や
かに長生きができるために、疾病の新規発生を防ぐ一次
的な予防ばかりでなく、疾病の増悪や他の疾病の発生を
防ぐ二次的な予防を含め、予防医療の重要性がますます
高まっています。健康づくりのメインストリートは病院
の外にこそあるのです。
Clinical decision making
演者は重度認知症患者の人工栄養を研究テーマの一
つとしており、学位もこの関連で取得しました(Onishi
ら、2004、2005)
。近年、経口摂取ができない患者に対
し胃瘻栄養が多く行われていますが、重度認知症患者に
対し胃瘻造設を行うことには反対意見も多く表明され
ています
(Finucane ら、1999)
。演者は昨年、デンマーク
の医療介護施設を視察してまいりましたが、同国では胃
瘻患者はほぼ皆無でした。重度認知症のために食事が
できなくなった時、胃瘻をはじめとした人工栄養を行う
のは必ずしも世界的に合意された標準治療ではなく、社
会の文化や制度、人々の考え方と強く関連しています。
胃瘻造設の臨床判断においては本人の生命・機能的予
後および QOL の他、介護負担や家族の満足度、療養環
境、医療経済的課題、倫理的課題など考えなくてはなら
ない事項が多く、極めて複雑な問題であり、解きほぐす
のは容易ではありません。
老年医学ではこうした多様な評価軸を持つ問題に対
するためのツールとして、高齢者包括評価(CGA; Com-
―  51  ―
知られています(Stuck ら、1993)
。これは罹病疾患のほ
か、認知機能、気分障害、ADL、視力・聴力、栄養、家
族構成や経済状況などの社会的環境、QOL などを全人
的に理解しようとするものです。
Clinical decision making のためには単に治療が効くか
どうかというばかりでなく、どのくらい効くかという程
度の評価が必要です。例えば下図のような2×2表で人
数を表すと、次のように治療効果が計算式で表されま
す。
疾病群 非疾病群
治療群
a
c
非治療群
b
d
①オッズ Odds:
(a/c)
(
/ b/d)
②相対危険度(RR)
:
(a/
(a+c)
)
(
/ b/
(b+d)
)
③相対危険度減少率(RRR)
:
(b/
(b+d)
-a/
(a+c)
)
(
/ b/
(b+d)
)
④絶対危険度減少率(ARR)
:
(b/
(b+d)
-a/
(a+c)
)
⑤治療必要人数(NNT)
:1/ARR
例えば、高脂血症の薬であるプラバスタチンの効果
をわが国で調べた MEGA study(Nakamura ら、2006)
の結果にあてはまめると、食事療法単独群の死亡率は
3.6%、食事療法+プラバスタチン群は2.4%であったた
め、RR=0.036/0.024=0.667、ARR=0.036-0.024=0.012、
NNT=1/0.012=83.3となります。プラバスタチンは単価
が163円であるため、5年間毎日飲むと30万円が必要で、
83.3人飲んだら2,478万円となります。話を単純化すれ
ば、この2,478万円で1人の命を救える計算です。
「人命
は地球より重い」
と発言された時代がありましたが、今、
医療はかなりのことができるようになりました。生命を
長らえるためにできることをすべて行ってきた医療か
ら、医療を限りある資源ととらえ、幸福のために大切な
ものを選択することが求められています。
ライフトピア
本学では平成17年より、少子高齢化社会のための新
しい保健医療生活モデルを提案する研究教育拠点「ラ
イフトピア」® 構想が進められてきました(平野眞一、
2005)
。高齢者を対象とした学際的学問を老年学
(Gerontology)
と呼びますが、井口昭久・前附属病院長/名誉教
授の主導のもと、大幸キャンパスを中心に活動が展開さ
れ、演者はその中で医学部に設置された老年情報学(中
部電力)寄附講座にて同構想の事務局を担当しました。
本学には工学、環境学など優れた知識や技術があり、例
えば生体情報や位置情報をリアルタイムで分析・管理す
る研究プラン、スマートハウスを利用した生活空間設計
プランが議論され、大きな夢が豊かに談じられました。
健康づくりはまちづくり、人づくりでもあります。
わが国は世界一の超高齢社会です。世界はわが国に
注目しており、わが国は高齢化に即した社会システムを
作り上げ、世界を先導する責務を負っています。Clinical
decision making のために大切なことは何か。どんな知
識、技術が効果をどれ程与えるか。人類未踏の超高齢
社会でそれらを知るためには当事者である高齢者の評
価をまず集めなくてはいけません。基礎的成果は多く蓄
積されながら、実社会に多く還元されていない現状があ
り、実用化を促進させるシステムも必要で、学際的な臨
床研究、実証研究が行えるフィールドが強く求められて
います。
これらの評価は人生を通して主のアウトカム(目標)
を追う必要があり、横断研究または短期間の縦断研究で
は不十分です。このためには個人の健康情報を自らが
所持できる仕組みである Personal Health Record(PHR)
や、病 院 や 診 療 所 間で 情 報 共 有 が 行える Electronic
Health Record(EHR)の導入が強く求められます。PHR
は今、わが国でも導入が検討されていますが、北欧や英
国、オランダらのヨーロッパの主要諸国、そして韓国、
台湾などで既に導入がなされており、大規模臨床研究に
おいてもわが国はこれらの国に大きく水をあけられて
います。わが国で PHR、EHR が進まない理由の一つに、
個人情報保護への不安があります。IT の技術的な課題
もありますが、わが国は人々の行政や研究主体への信頼
が薄い背景があり、大切なシステムとして市民とともに
つくりあげる努力が必要です。ライフトピアは地域を重
視する大幸キャンパスの趣旨にも合致し、極めて重要な
構想だと思います。これからも足を止めることなく本学
は構想を推進すべきと考えます。
専門職の人材育成
個人情報管理等の倫理的配慮も十分に行った上で、
個人と集団の両方を扱い、学際的な研究教育を行うた
めには、相応の人材が必要です。これらを担う専門職の
―  52  ―
養成プログラムとして、特に老年学と公衆衛生学が挙げ
られます。老年学は欧米の60以上の大学で学位が授与
されていますが、わが国では桜美林大学1つに限られま
す。高齢者の専門家だと言っても、それを国際的に示す
方法が他国にはあって、わが国にはほとんどない状態で
す。急ぎわが国でも老年学の大学院プログラムを整える
べきです。もう一つ、公衆衛生学は欧米では人気のプロ
グラムですが、Master of Public Health(MPH)は米国で
年間2,000名が輩出されているのに比べ、わが国ではま
だ京都大学や東京大学などで年間90名程しか養成され
ていません。これではわが国で健康医療政策を担う人
材が十分に育たない。本学でも公衆衛生大学院(School
of Public Health)が早く開設されることを願います。
おわりに
高齢化をはじめ現実は急速に進み、待ったなしの状況
です。健康への道は長く険しく見えますが、
「勇気ある
知識人」®(名古屋大学)たらんとするわれわれは、大切
なことを見つめ直し、科学的知見を活かして、時代に遅
れることなく進まねばなりません。健やかで幸福な超高
齢社会を導くため、学際的な連携が社会に強く望まれて
いると感じています。
文献
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Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
保健科学部
(2010年 1 月~2010年12月)
原著論文
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
頁
年号
X. Hu, J. Sato,
G. Bajotto, O. Khookhor,
I. Ohsawa, Y. Oshida,
Y. Sato
Goshajinkigan (Chinise herbal medicine Niu-Che-Sen- Nagoya Journal of
Qi-Wan) improves insulin resistance in diabetic rats via Medical Science
the nitric oxide pathwa
72 35-42 2010
H. Jiang, T. Koike, P. Li,
Z. Wang, Y. Kawata,
Y. Oshida.
Combined effect of short-term calorie restriction and ex- Horm Metab Res
ercise on insulin action in normal rats.
42 950- 2010
954
松本 大輔,瓜谷 大輔 特定健診参加者が求める運動環境
浅野 恭代,小池 晃彦
押田 芳治
総合保健体育科学
筒井 秀世,小池 晃彦 J-SACL テストにより評価した2型糖尿病患者のス 総合保健体育科学
石黒 哲也,押田 芳治 トレスにおける男女差について
33
(1)
1-5
2010
33
17-21 2010
(1)
Ogawa,T.
The Struggle with ones Narcissism and the Landing on Japanese Journal of
Psychoanalytic PsyReality―Problems of Psychoanalysis of Middle-age―
chiatry
4 33-43 2010
Ogawa,T.
Dramas on the couch and the unconscious truth―trans- Japanese contributions
ference as a total situation: its three forms
to psychoanalysis
3
58-73 2010
名古屋大学学生相談
船津 静代,神村 静恵 初年次からのキャリア支援
夏目 達也,鶴田 和美 ―正課教育,課外活動および個別相談を通じての 総合センター紀要
杉村 和美,梅村 祐子 キャリア形成や進路にかかわる諸問題―
松浦まち子,高木ひとみ
津田 均,古橋 忠晃
加藤 大樹,桂田 祐介
由良麻衣子,小川 豊昭
杉山 寛行
9
3-18
藤木 理代,水野真由美 運動トレーニングにおける耐糖能改善効果につい 総合保健体育科学
近藤 志保,石黒 洋 て―OGTT 1 時間値に及ぼす影響―
山本 明子,北川 元二
近藤 孝晴
2010
33
87-91 2010
(1)
Corticosteroids correct aberrant CFTR localization in the Gastroenterology
SB. Ko, N. Mizuno, Y.
duct and regenerate acinar cells in autoimmune pancreaYatabe, T.Yoshikawa, H.
Ishiguro, A. Yamamoto, S. titis
Azuma, S. Naruse, K. Yamao, S. Muallem, H. Goto.
138 1988- 2010
1996
津
79 田
均 マックス・ウェーバーの示したエートス(Ethos) 日本病跡学雑誌
の背反ーその今日における病因論的意義
―  53  ―
28-37 2010
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
掲載誌名
杉山 通,津田 均 メランコリー型の意義再考
津
田
T. Koike, M. Miyamoto,
Y. Oshida
巻
頁
年号
精神医学
52 757- 2010
763
均 精神病理学の視点からみた難治性抑うつへの治療 精神療法
戦略
36 583- 2010
589
4 e73- 2010
e79
Alanine aminotransferase and gamma-glutamyltrans- Obesity Research &
ferase as markers for elevated insulin resistance–asso- Clinical Practice
ciated metabolic abnormalities in obese Japanese men
younger than 30 years of age.
石田 浩司,西田 保 名古屋大学における「健康・スポーツ科学実習」授 総合保健体育科学
蛭田 秀一,片山 敬章 業に関する学生の意識調査-実習を選択しない学
山本 裕二,石黒 洋 生の観点から
小池 晃彦,小林 洋平
33
49-63 2010
(1)
山本 明子,近藤 孝晴 医学部生における各種ウイルス抗体価の検討
押田 芳治,石黒 洋
小池 晃彦,小川 豊昭
津田 均,古橋 忠晃
33
65-70 2010
(1)
総合保健体育科学
古
橋
忠
晃 インターネット依存,携帯依存,買い物依存は「依 精神科治療学
存」なのか?
25 621- 2010
627
古
橋
忠
晃 DSM-5 ドラフトにおける性障害および性同一性障 精神科治療学
害について
25 1083- 2010
1089
古
橋
忠
晃 性倒錯の分類におさまらなかったもの―Freud の 精神医学史研究
「性理論のための3篇」の周辺の臨床家たちの問題意
識を通して―
14 80-88 2010
A. Hirano, Y. Suzuki,
M. Kuzuya, J. Onishi,
N. Ban, H. Umegaki.
Influence of regular exercise on subjective sense of Archives of Gerontolburden and physical symptoms in community-dwelling ogy and Geriatrics
caregivers of dementia patients: A randomized controlled
trial.
(in press) 2010
A. Hirano, Y. Suzuki,
M. Kuzuya, J. Onishi,
J. Hasegawa, N. Ban,
H. Umegaki.
Association between the caregiver's burden and physical Archives of Gerontolactivity in community-dwelling caregivers of dementia ogy and Geriatrics
patients.
(in press) 2010
著 書
著 者 名
表 題
押田 芳治,小池 晃彦 運動療法
書名
頁
科学的根拠に基づく糖 41-49
尿病診療ガイドライン
(日本糖尿病学会編)
―  54  ―
発行所
発行地
発行年
南江堂
東京
2010
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
書名
頁
発行所
発行地
発行年
押
田
芳
治 合併症時の運動療法
糖尿病最新の治療2010 105-
-2012
108
南江堂
東京
2010
押
田
芳
治 糖尿病
リハビリスタッフに求 106-
められる薬・栄養・運 121
動の知識 内部障害の
ケアのために
南江堂
東京
2010
押
田
芳
治 運動療法
糖尿病と心臓病
66-70
医学書院
東京
2010
津
田
均 斉一化された空間における力― 臨床哲学の諸相,空間 128-
160
統合失調症と広汎性発達障害の と時間の病理
狭間で
河合文化
教育研究
所
名古屋
2010
小池 晃彦,押田 芳治 糖尿病運動療法のエビデンス
糖尿病ナビゲーター
288-
289
メディ
カルレ
ビュー社
東京
2010
Kenneth J. Zucker and
性同一性障害(翻訳)
Susan J. Bradley
鈴木 國文,古橋 忠晃
早川 徳香,諏訪 真美
西岡和郎 (共訳)
性同一性障害(翻訳)
1-453
みすず書
房
東京
2010
総説など
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
頁
年号
押
田
芳
治 糖尿病の原因と診断基準
Monthly Book Medical Rehabilitation
117 17-23 2010
押
田
芳
治 糖尿病治療・予防における運動療法の位置づけ
―効果発現の機序を探る―
臨床スポーツ医学
27 487- 2010
492
押
田
芳
治 運動の糖代謝に対するトレーニング効果とその分 内分泌・糖尿病・代
子メカニズム
謝内科
31
421- 2010
426
31
527- 2010
533
石黒 洋,洪 繁 【膵基礎研究の新しい潮流 Bench to Bed をめざして】 胆と膵
山本 明子
膵導管細胞機能と CFTR の役割
研究資料など
著 者 名
古
橋
忠
表 題
晃 ウィニコットとラカンの間で考える
―  55  ―
掲載誌名
精神療法
巻
36 頁
年号
134- 2010
135
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
報告書,学会大会論文集
著 者 名
古
橋
忠
表 題
晃 「コレクション自慢の会」の二年目の報告
山本 明子,近藤 孝晴 医学部生における各種ウイルス抗体価の検討
押田 芳治,石黒 洋
小池 晃彦,小川 豊昭
津田 均,古橋 忠晃
掲載誌名
巻
頁
年号
名古屋大学学生相談
総合センター紀要
9 36-37 2010
CAMPUS HEALTH
47 1341- 2010
1343
学会または研究会 (主催,司会,座長など)
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
小
川
豊
昭 空想 (司会)
日本精神分析学会第56会
大会 (東京)
2010・10
押
田
芳
治 (会長)
第14回日本体力医学会東
海地方会
2010・3
押
田
芳
治 シンポジウム「高齢社会と体力医学」(座長)
第14回日本体力医学会東
海地方会
2010・3
押
田
芳
治 「運動指導時に必要な足と脚の医学的知識」(座長)
第6回足と脚のプライマ
リー・ケア講演会
2010・7
津
田
均 シンポジウム「世界の呪縛,虚構の欲望」(司会)
日本病跡学会第57回大会
(佐久)
2010・4
津
田
均 シンポジウム「いま改めて問う狭義の精神療法」(司会) 日本精神病理・精神療法
学会第33回大会 (東京)
2010・10
津
田
均 シンポジウム「自己―語りとしじま」(司会)
第10回河合臨床哲学シン
ポジウム (東京)
2010・12
津
田
均 第一分科会 (司会,助言者))
東海北陸地区メンタルヘ
ルス研究協議会(名古屋)
2010・9
掲載誌名
巻
学会または研究会 (発表,演者,指定討論者など)
著 者 名
表 題
後藤 慎一,佐々木洋光 糖尿病患者における GFR と尿中アルブミンの組み合わ 第53回日本糖尿病学会大
会(岡山)
渡邊 有三,大沢 功 せの評価
小池 晃彦,押田 芳治
―  56  ―
2010・5
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
筒井 秀世,楠 正隆 “ICF Core Sets for Diabetes Mellitus”を用いた糖尿病患者 第53回日本糖尿病学会大
会(岡山)
石黒 哲也,小池 晃彦 の身体的・心理社会的問題点の抽出第 2 報
押田 芳治
2010・5
姜 海英,小池 晃彦 インスリン感受性の及ぼすカロリー制限と運動の影響
王 忠華,筒井 秀世
押田 芳治
第53回日本糖尿病学会大
会(岡山)
2010・5
坂崎 貴彦,柳本 有二 地域在住閉経後女性の体力指標としての WBI および握 第14回日本体力医学会 小池 晃彦,押田 芳治 力の役割
東海地方会学術集会(名
古屋)
2010・3
小
日本精神分析的精神医学
会第 8 回大会教育研修セ
ミナー (東京大学)
2010・3
Tri Regional Clinical Conference (Cascais-Portugal)
2010・7
日本精神分析学会第00回
大会教育研修セミナー
(東京)
2010・10
第87回日本生理学会大会
(盛岡)
2010・5 山口 誠,石黒 洋 膵 導 管 細 胞 管 腔 膜 の1Cl--2HCO3- exchanger を 介 す る 第87回日本生理学会大会
(盛岡)
M Steward,相馬 義郎 HCO3- 分泌モデル
山本 明子,洪 繁
近藤 孝晴
2010・5 Y. Song, H. Ishiguro,
A. Yamamoto, BC. Liu,
CX. Jin, T. Kondo,
Slc26a6 and CFTR compete for apical HCO3- secretion in 第87回日本生理学会大会
mouse pancreatic duct
(盛岡)
2010・5 H. Ishiguro, SBH .Ko,
A. Yamamoto.
S y m p o s i u m “ C h r o n i c Pa n c r e a t i t i s : Pa t h o g e n e s i s t o Joint Meeting of the InTreatment”Molecular and cellular regulation of pancreatic ternational Association
of Pancreatology and the
duct function
Japan Pancreas Society
(Fukuoka)
2010・7
SBH. Ko, N. Mizuno,
Y. Yatabe, T. Yoshikawa,
H. Ishiguro, A. Yamamoto,
S. Azuma, S. Naruse,
K. Yamao, S. Muallem,
H. Goto.
Corticosteroids correct aberrant CFTR localization in the duct Joint Meeting of the Inand regenerate acinar cells in autoimmune pancreatitis
ternational Association
of Pancreatology and the
Japan Pancreas Society
(Fukuoka)
2010・7
川
豊
昭 慢性うつ病の精神療法
Ogawa,T.
小
川
A case of Schizoid
豊
昭 転移と Primary Object
Y. Lanjuan, H. Ishiguro,
A. Yamamoto, M. Nakakuki,
S. Furuya, S. Nagao,
M. Wei, T. Kondo, S. Naruse.
Fluid secretion from the pancreatic duct in PCK rats
―  57  ―
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
掲載誌名
Haplotype analysis of CFTR gene in Japanese patients with Joint Meeting of the Inchronic pancreatitis
ternational Association
of Pancreatology and the
Japan Pancreas Society
(Fukuoka)
K. Fujiki, H. Ishiguro,
A. Yamamoto,
M. Kitagawa,
T. Kondo, S. Naruse.
巻
2010・7
Joint Meeting of the International Association
of Pancreatology and the
Japan Pancreas Society
(Fukuoka)
2010・5
石黒真理子,石黒 洋 膵導管細胞において膵石形成に関わるカルシウム輸送 第64回日本栄養・食糧学
会大会 (徳島)
山本 明子,藤木 理代 体の検討
北川 元二,近藤 孝晴
2010・5
NBC1 W516X ノックインマウスによる NBC1 生理的機 第53回日本腎臓学会学術
山崎 修,Y. Lo
総会 (神戸)
白井 雅弓,山本 明子 能の解析
Y. Song,石黒 洋
S.S. Yang,S.H. L
掘田 晶子,山田 秀臣
関 常司,藤田 敏郎
2010・6
近藤 志保,藤木 理代 運動トレーニングによる耐糖能改善効果に及ぼすレプ 第57回日本栄養改善学会
チン受容体遺伝子多型の影響
学術総会 (神戸)
2010・9
洪 繁,石黒 洋 機能性消化器疾患の診断及び治療効果判定における 第52回日本消化器病学会
Hospital Anxiety Depression Scale(HADS)の有用性 パ 大 会 DDW-Japan 2010
後藤 秀実,
ネルディスカッション「機能性消化器疾患の基礎と臨床」 (横浜)
2010・10
膵導管細胞の HCO3- 分泌のコンピュータシミュレー 第41回日本消化吸収学会
山口 誠,石黒 洋
M Steward,相馬 義郎 ション
総 会 DDW-Japan 2010
(横浜)
山本 明子,洪 繁
近藤 孝晴
2010・10
Effect of exercise training on glucose uptake-assessing 1h 18th United European Gasblood glucose levels in OGTT
troenterology Week 2010,
Barcelona, Spain
2010・10
膵 導 管 細 胞 の 重 炭 酸 イ オ ン 分 泌 に お け る CFTR と 生理研研究会「極性細胞
石黒 洋,Y Song
の病態生理解明に向けた
山口 誠,山本 明子 SLC26A6 の役割
M. Steward,相馬 義郎
多角的アプローチ」
2010・11
津
均 ヴィトゲンシュタインの哲学は精神病理学に何をもた 第57回日本病跡学会(佐
らすか
久)
2010・4
日仏ひきこもり共同研究
会 (名古屋大学)
2010・4
Fluid secretion from the pancreatic duct in PCK rats
L. Yi, H. Ishiguro,
A. Yamamoto, M. Nakauki,
S. Furuya, S. Nagao,
M. Wei, T. Kondo,
S. Naruse.
K. Fujiki, M. Mizuno,
S kondo, H. Ishiguro,
A. Yamamoto,
M. Kitagawa, T. Kondo, .
田
Tsuda, H.
Is "hikikikomori" a phobia? If so a fear of what?
―  58  ―
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
津
田
均 精神療法の傍観者になることによって同一性の問題を 日仏ひきこもり共同研究
回避し続けた大学院生
会日本側研究会 (強羅)
2010・7
津
田
均 現在の学生相談で出会う広汎性発達障害の学生
第15回1,2年 次 生 へ の 適
応援助のための連絡会
(名古屋大学)
2010・7
坂崎 貴彦,柳本 有二 地域在住閉経後女性の下肢筋力と身体能力および骨強 第80回日本衛生学会 (仙
小池 晃彦,押田 芳治 度との関係
台)
2010・5
榎 裕美,葛谷 雅文 若年肥満男性の食環境と栄養素摂取状況の関連につい 第 17回日本未病システ
押田 芳治,小池 晃彦 て
ム学会
2010・11
片山 敬章,石田 浩司 低酸素環境における動的運動時の呼吸循環応答
岩本えりか,家光 素行
小池 晃彦,齊藤 満
第65回 日 本 体 力 医 学 会
(千葉)
2010・9
山本 明子,石黒 洋 膵液のアルカリ化障害における Na+-H+ 交換輸送体の 第52回日本消化器病学会
役割 パネルディスカッション「膵炎の基礎と臨床」
大 会 DDW-Japan 2010
(横浜)
2010・10
山本 明子,山田 節子 GPR40の 脂 肪 酸 セ ン シ ン グ に 胆 汁 酸 が 及 ぼ す 影 響 第52回日本消化器病学会
石黒 洋
ワークショップ「胆汁酸と生体機能調節,疾患との関わ 大 会 DDW-Japan 2010
(横浜)
り」
2010・10
古
日本精神分析的精神医学
会第8回大会
2010・3
Centre Binet à la Salpétrière (Colloque)
2010・9
古橋 忠晃,津田 均 ひきこもり青年 (大学生) の日仏における共通点と相違 第48回全国大学保健管理
集会
小川 豊昭,鈴木 國文 点について
清水美佐子,北中 淳子
照山 絢子,堀口佐知子
清水 克修,後岡亜由子
Cristina Figueiredo,
Nancy Pionné-Dax,
Nicolas Tajan,
Natacha Vellut,
François de Singly,
Alain Pierrot,
Pierre-Henri Castel
2010・10
大西 丈二,鈴木 裕介 わが国のケアマネジメントの現状に関する考察
遠藤 英俊,葛谷 雅文
第52回 日 本 老 年 医 学 会
(神戸)
2010・6
大西 丈二,鈴木 裕介 健康教室に参集する高齢者の生活習慣と健康感
榊原 久孝,葛谷 雅文
第52回 日 本 老 年 医 学 会
(神戸)
2010・6
橋
Furuhashi, T
忠
晃 倒錯の患者の精神分析的精神療法
Le Hikikomori (retrait social)au Japon
―  59  ―
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
大西 丈二,甲斐 一郎 名古屋市における介護予防一般高齢者施策事業の評価 第52回 日 本 老 年 医 学 会
葛谷 雅文
と一考察
(神戸)
2010・6
黒柳いつ子,谷口由美子 テキストマイニング法を用いた褥瘡特集文献の動向分 第12回日本褥瘡学会 (千
葉)
前川 厚子,堀井 直子 析
大西 丈二,西田 政弘
祖父江正代
2010・8
谷口由美子,前川 厚子 拘縮を伴う褥瘡保有者のケアにおける文献研究
堀井 直子,大西 丈二
黒柳いつ子,西田 政弘
祖父江正代
第12回日本褥瘡学会 (千
葉)
2010・8
二 高齢者の活動量と食事摂取量の歩数計とデジタルカメ 第69回日本公衆衛生学会
ラを用いた評価経験
2010・10
大
西
丈
講演,セミナー,講習会,研修会など
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
押
田
芳
治 新社会人のための健康管理
平成22年度名古屋大学新
人研修会
2010・4
押
田
芳
治 糖尿病の運動療法・リハビリテーション
第6回足と脚のプライマ
リー・ケア講演会
2010・7
押
田
芳
治 肥満・糖尿病の運動療法
岐阜県医師会健康スポー
ツ医学講習会
2010・7
押
田
芳
治 肥満症Ⅰ,Ⅱ
健康運動指導士講習会
2010・11
押
田
芳
治 服薬者の運動プログラム作成の注意
同上
2010・11
小
川
豊
昭 フロイトのグラディーバとダ・ビンチ
広島精神分析セミナー
(広島)
2010・9
小
川
豊
昭 難治性うつ病の精神分析
小寺精神分析セミナー
(東京)
2010・10
津
田
均 学生支援のために - 精神医学的観点からみた問題の現況 教職員のための,学生の
と対策の模索
メンタルヘルスの早期支
援に役立てる研修 (名古
屋大学)
2010・7
津
田
均 精神病理学の流れから現在のうつ病を考える
2010・6
―  60  ―
富山精神医会 (富山)
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
津
田
均 うつ病の社会的回復を阻む個人要因,状況要因
第4回 JPNDA 東海フォー
ラム,日本精神科抑うつ
不安ネットワーク
2010・7
津
田
均 グレン・グールドの演奏と現前性の哲学
愛知県立芸術大学
2010・10
津
田
均 精神病理学の伝統から現代の抑うつに立ち向かう
MSD 株式会社精神科セ
ミナー
2010・11
小
池
晃
彦 高齢者
名古屋市消防学校
2010・2
小
池
晃
彦 「高齢社会と体力医学 (シンポジウム)」臨床的立場から, 第14回日本体力医学会東
虚弱性をいかに防ぐか
海地方会学術集会 (名古
屋)
2010・3
小
池
晃
彦 介護予防概論
平成22年度 健康運動指
導 士 養 成 講 習 会 後 期
(愛知会場)
2010・11
小
池
晃
彦 高齢者の救急疾患
名古屋市消防局救急救命
士養成所
2010・12
古
橋
忠
晃 「異文化ストレス症候群を通した学生のメンタルヘルス 教職員のための学生の
の臨床について」
メンタルヘルスの早期支
援に役立てる研修 (名古
屋大学)
2010・11
大
西
丈
二 高齢者の疾病と対処及び主治医との連携
平成22年度愛知県介護支
援専門員専門研修
2010・7
大
西
丈
二 認知症を理解する~知っておきたいポイント~
認知症等普及啓発シンポ
ジウム
2010・10
―  61  ―
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
体育科学部
(2010年 1 月~2010年12月)
原著論文
著 者 名
表 題
藤原 一子,布目 寛幸 ピアノ基礎テクニックの定量化の試み
池上 康男
掲載誌名
頁
年号
33
31-39 2010
杉山 佳生,渋倉 崇行 体育授業における心理社会的スキルとライフスキ 健康科学
西田 保,伊藤 豊彦 ルを測定する尺度の作成
佐々木万丈,磯貝 浩久
32
77-84 2010
西田 保,伊藤 豊彦 生きる力に影響する要因:体育における学習意欲, 総合保健体育科学
佐々木万丈,磯貝 浩久 ストレス適応,心理社会的スキルの視点から
杉山 佳生,渋倉 崇行
33
23-29 2010
体育授業中の被中傷に対する認知行動的対処と体 日本女子体育大学紀
佐々木万丈,西田 保
要
伊藤 豊彦,磯貝 浩久 育授業への適応
杉山 佳生,渋倉 崇行
40
55-66 2010
Yuji Yamamoto
International Journal
of Sport and Health
Science
7
86-95 2009
総合保健体育科学
33
7-15
33
71-75 2010
鈴木 啓央,山本 裕二 周期運動練習法による打動作における協応構造の 総合保健体育科学
獲得
33
77-86 2010
堀田 典生,山本 薫 筋機械痛覚過敏が安静時心拍変動に及ぼす影響
石田 浩司
6
11-17 2010
33
49-63 2010
669
319- 2010
322
Scale-free property of the passing behaviour in a team
sport
横山 慶子,山本 裕二 発話データを用いた「ゲームの流れ」の検討
Keiko Yokoyama and
Yuji Yamamoto
総合保健体育科学
巻
Quantification of collective dynamics in ball sports based Nagoya Jouranl of
on visual information
Healyh, Physical Fitness & Sports
医療福祉研究
名古屋大学における「健康・スポーツ科学実習」授 総合保健体育科学33
石田 浩司,西田 保
蛭田 秀一,片山 敬章 業に関する学生の意識調査-実習を選択しない学
山本 裕二,石黒 洋 生の観点から-
小池 晃彦,小林 洋平
Ishida, K., K. Katayama,
H. Akima, S. Iwase,
K. Sato, N. Hotta and
M. Miyamura
Effects of deconditioning on the initial ventilatory and
circulatory responses at the onset of exercise in man
Adv. Exp. Med. Biol.
Lee, P., Takahashi, Y.,
Lin, C., and Sasaki, K.
A Comparative Study of Governance of Professional
Baseball Systems in Japan and Taiwan
The Sport Journal
―  63  ―
2010
13 www.thes- 2010
(1) portjournal.
org/tags/
volume-13number-1
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
佐々木 康 , 山下 修平
岩井 優 , 古川 拓生
河野 一郎 , 山本 巧
岩淵 健輔 , 村田 亙
中竹 竜二 , 本城 和彦
黒岩 純 , 上野 裕一
勝田 隆
競技力向上を支援する JRFU 情報科学
ラグビー科学研究,
青石 哲也 , 佐々 木康
企業スポーツチームにおけるトップアスリートの 生涯学習・キャリ
セカンドキャリア形成に関する研究―ラグビー部 ア教育研究
を有する企業に所属している選手を事例として―
頁
年号
22
37-45 2010
(1)
竹之内隆志,奥田 愛子 大学男子運動選手における危機経験と自我発達と 総合保健体育科学
大畑美喜子
の関連
6
37-46 2010
33
41-48 2010
Watanabe, K. and H. Akima Neuromuscular activation of vastus intermedius muscle
during fatiguing exercise.
J. Electromyogr.
Kinesiol.
20
661- 2010
666
The biomechanics of kicking in soccer: A review
A. Lees, T. Asai,
T. B. Andersen, H. Nunome
and T. Sterzing
J. Sports. Sci.
28
805- 2010
817
Katayama, K., K. Goto,
K. Ishida, and F. Ogita.
Metabolism
59
959- 2010
966
Med. Sci. Sports
Exerc.
42
1269- 2010
1278
81
1085- 2010
1091
Substrate utilization during exercise and recovery at
moderate altitude
Katayama, K., Y. Yoshitake, Muscle deoxygenation during sustained and intermittent
isometric exercise in hypoxia
K. Watanabe, H. Akima,
and K. Ishida.
Sato, K., K. Katayama,
N. Hotta, K. Ishida, and
H. Akima.
Aerobic exercise capacity and muscle volume after lower Aviat. Space. Environ.
limb suspension with exercise countermeasure.
Med
著 書
著 者 名
表 題
佐
々
木
康 スポーツ映像論 闘野の思考
片
山
敬
章 換気の化学調節
書名
頁
発行所
発行地
発行年
1-181
創文企画
東京
2010
運動生理学のニューエ 243-
ビデンス
(宮村実晴編集) 249
真興交易
㈱医書出
版部
東京
2010
―  64  ―
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
総説など
著 者 名
池
上
西
田
山
本
山
本
康
表 題
掲載誌名
体育の科学
男 特集:バイオメカニクス動作解析の最前線
「 3 次元動作解析の進歩
―高速度カメラからモーションキャプチャまで―」
巻
頁
年号
第60 140- 2010
巻3号 144
保 チャレンジ精神と挫折感
体育の科学
60
25-28 2010
裕
二 意欲のもつ意味
子どもと発育発達
第8巻 76-80 2010
2号
裕
二 スポーツ選手の表情とパフォーマンス
体育の科学
60巻
9号
603- 2010
608
研究資料など
著 者 名
池
上
西
康
表 題
掲載誌名
巻
頁
年号
男 スポーツと身体の大きさ
―フィギュアスケートのジャンプ―
健康への道
101
4
2009
田
保 イップス(yips)
健康への道
104
3
2010
西
田
保 司会報告:体育心理学の体育授業への貢献
体育心理学専門分科
会会報
22
14
2010
西
田
保 内発的動機づけ,外発的動機づけの再考:自己決定 スポーツ心理学研究
理論をめぐって
37
蛭田 秀一, 島岡みどり 介護現場における職員の上体姿勢変化についての 産業衛生学雑誌
堀 文子, 巽 あさみ 三次元角度記録
飯田 忠行, 小野雄一郎
秋
間
広 フロリダの熱い太陽の下での在外研究 ? フロリダ大 東海体育学会会報
学でのサバティカルを終えてー
秋
間
広 一流サッカー選手の驚くべき身体能力
秋間 広,片山 敬章 筋力&スタミナアップで健康生活
―  65  ―
52
83
My Sports Nagoya
夏・
秋号
咲楽
10月
号
45-47 2010
57
2010
26-29 2010
10
2010
155- 2010
159
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
報告書,学会大会論文集
著 者 名
表 題
書名
頁
発行所
発行地
発行年
池上 久子,坪田 暢允 ドライバーショットにおけるス ゴルフの科学第23巻第 40-41
2号別冊
鶴原 清志,上田 湧一 イング動作と手の動き
村本 名史,池上 康男
日本ゴル
フ学会第
23回名古
屋大会事
務局
名古屋
2010
蛭田 秀一, 島岡みどり 3次元角度センサを用いた上体 平成22年度日本産業衛 64-65
堀 文子, 巽 あさみ 動作角の測定 -光学式測定と 生学会東海地方会学会
講演集
飯田 忠行, 小野雄一郎 の比較-
日本産業
衛生学会
東海地方
会
浜松
2010
秋間 広,渡邊 航平 表面筋電図の新技術を用いた大 医科学応用研究財団報
腿四頭筋の深層筋・中間広筋に 告書
おける筋疲労特性の解明
医科学応
用研究財
団
名古屋
2010
秋間 広,渡邊 航平 表面筋電図を用いた大腿部深層 平成22年度財団法人カ 94-95
筋・中間広筋の疲労特性の検討. シオ科学振興財団研究
助成報告書
財団法人
カシオ科
学振興財
団
東京
2010
布目 寛幸,池上 康男 ロングパイル人工芝の衝撃緩衝 シンポジウム:スポーツ
・ 398-
西川 智幸,堀尾 孝志 性能
アンド・ヒューマン・ダ 402
イナミクス2010 講演
論文集
財団法人   東京
日本機械
学会
2010
学会または研究会(主催,司会,座長など)
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
池
上
康
男 シンポジウム:「冬季スポーツにおける選手強化のため 第21回冬季スポーツ科学
の科学的サポート」(座長)
フォーラム
2010・3
池
上
康
男 一般研究発表(座長)
第21回日本バイオメカニ
クス学会大会
2010・8
池
上
康
男 一般研究発表(座長)
日本体育学会第61回大会
2010・9
池
上
康
男 一般講演(座長)
日本水泳・水中運動学会
2010年次大会
2010・11
西
田
保 主催, 世話役
第8回スポーツ動機づけ
研究会および2010年度ス
ポーツ社会心理学研究会
2010・5
西
田
保 スポーツ活動の効果と般化:現実を理解し方法論を探る 第8回スポーツ動機づけ
(司会)
研究会および2010年度ス
ポーツ社会心理学研究会
2010・5
―  66  ―
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
西
田
保 若手研究者からみた体育心理学研究の現在と将来(司会) 日本体育学会第61回大会
体育心理学専門分科会企
画シンポジウム
2010・9
西
田
保 指導者の言葉がけと動機づけ(企画・司会)
日本スポーツ心理学会第37
回大会会員企画 RTD-1
2010・11
志 事例報告(司会)
第20回臨床スポーツ心理
研究会
2010・9
竹
之
内
隆
秋
間
広 講演会司会
第22回東海体育学会講演
会
2010・7
秋
間
広 一般演題座長
第65回日本体力医学会
2010・9
H. Nunome
Oral presentation (Training and Coaching 10)
15th Annuls Congress of
European College of Sports
Science
2010・7
H. Nunome
Poster presentation (Sports Medicine 12 - Traumatology)
15th Annuls Congress of
European College of Sports
Science
2010・7
布
目
寛
幸 一般発表(キック・インパクト)
シンポジウム:スポーツ・
アンド・ヒューマン・ダ
イナミクス2010
2010・11
片
山
敬
章 一般演題座長
第14回日本体力医学会東
海地方会
2010・3
掲載誌名
巻
学会または研究会(発表,演者,指定討論者など)
著 者 名
表 題
15th Europian Cillege of
Sports Science
2010・6
池上 久子,池上 康男 ゴルフスイングのクラブヘッドと手の動き
第21回日本バイオメカニ
クス学会大会
2010・8
池上 久子,坪田 暢允 ドライバーショットにおけるスイング動作と手の動き
鶴原 清志,上田 湧一
村本 名史,池上 康男
日本ゴルフ学会第23回名
古屋大会
2010・9
山
第19回運動学習研究会
2010・5
日本体育学会第61回大会
2010・9
S. Sano, H. Nunome,
Y. Ikegami, S. Sajurai
本
裕
Dynamics of take-off motion in the gymnastic vault
二 集団・対人競技における切替ダイナミクス
鈴木 啓央,山本 裕二 切替ダイナミクスからみた打動作の熟練差
―  67  ―
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
掲載誌名
巻
木島 章文,横山 慶子 サッカーの試合における前線推移の時系列
門田 浩二,奥村 基生
鈴木 啓央,山本 裕二
第26回 Nicograph 秋季大
会
2010・9
山
日本体育学会第61回大会
2010・9
日本スポーツ心理学会第
37回大会
2010・11
蛭田 秀一, 吉田 和人 卓球プレイ中の姿勢とラケット角度の3次元データを長 平成21年度 日本卓球協
時間測定記録するための携帯型装置システムの開発
会スポーツ医科学委員会
研究成果報告会
2010・2
蛭田 秀一, 島岡みどり 3 次元角度センサを用いた上体動作角の測定 -光学 平成22年度日本産業衛生
学会東海地方会学会
堀 文子, 巽 あさみ 式測定との比較-
飯田 忠行, 小野雄一郎
2010・11
佐
2010・9
本
裕
表 題
二 若手研究者からみた体育心理学研究の現在と将来
(シンポジウム・指定討論者)
奥村 基生,木島 章文 間合いの駆け引きを生成する距離基準
鈴木 啓央,横山 慶子
山本 裕二
々
木
康 競技力向上の概念とトップスポーツの公益性
日本 体 育 学 会 第61回 大
会・体育経営管理専門分
科 会シンポジウム「競技
力向上をめぐる今日的課
題と新たなる視座を探る」
竹之内隆志,奥田 愛子 運動選手の危機経験と自我発達:危機事象の発達的変化 日本スポーツ心理学会第
大畑美喜子
37回大会
2010・11
Watanabe, K., and
H. Akima
American College of
Sports Medicine
2010・6
Skeletal muscle contractile and non-contractile components in American College of
Akima, H., D. Jasjit,
boys with Duchenne muscular dystrophy by MRI
Sports Medicine
S. Germain, C. Senesac,
D. Lott, R. Bendixen,
G. Walter, and K. Vandenborn
2010・6
Hioki, M., and H. Akima
Echo intensity as an index of intramuscular fat in elderly
women evaluated by ultrasonography
American College of
Sports Medicine
2010・6
Watanabe, K., and
H. Akima
The effect of electrode location on surface EMG of the vastus
intermedius muscle
Congress of the International Society of Electrophysiology and Kinesiology
2010・6
第61回日本体育学会
2010・9
広 デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者の筋断面積と最 第61回日本体育学会
大筋力との関係
2010・9
Recording of surface electromyogram from the hip adductor
muscles
渡邊 航平,秋間 広 レッグプレス運動時の内転筋群の活動特性
秋
間
齋藤 輝,渡邊 航平 膝伸展筋である中間広筋は膝屈曲に貢献するか?
秋間 広
―  68  ―
第65回日本体力医学会
2010・9
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
渡邊 航平,秋間 広 異なる膝関節角度における等尺性膝関節伸展運動時の 第65回日本体力医学会
中間広筋の活動特性
2010・9
秋
2010・9
間
広 デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者の筋内脂肪と機 第65回日本体力医学会
能的能力との関係
秋間 広,齋藤 輝 膝伸展筋である中間広筋における股関節動作時の筋活 東海体育学会第58回大会
渡邊 航平
動の発現
2010・10
H. Nunome, H. Shinkai,
K. Inoue, K. and
Y. Ikegami
The effect of soccer cleat shape on boots-surface interction
15th Annuls Congress of
European College of Sports
Science
2010・7
H. Shinkai, H. Nunome,
H. Suito, K. Inoue, K. and
Y. Ikegami
Cross-sectional change of ball impact in instep soccer kicking 15th Annuls Congress of
with physical growth
European College of Sports
Science
2010・7
K. Inoue, H. Nunome,
H. Shinkai, K. and
Y. Ikegami
The influence of kicking direction on soccer instep kicking
kinematics]
15th Annuls Congress of
European College of Sports
Science
2010・7
S. Sano, H. Nunome,
Y. Ikegami and S. Sakurai
Dynamics of Take-off motion in the gymnastic vault
15th Annuls Congress of
European College of Sports
Science
2010・7
布目 寛幸,池上 康男 ロングパイル人工芝の衝撃緩衝性能
西川 智幸,堀尾 孝志
シンポジウム:スポーツ・
アンド・ヒューマン・ダ
イナミクス2010
2010・11
布目 寛幸,池上 康男 ロングパイル人工芝の衝撃緩衝性能
第23回日本トレーニング
科学会
2010・12
布目 寛幸,池上 康男 ロングパイル人工芝の衝撃緩衝性能
西川 智幸,堀尾 孝志
第8回日本フットボール
学会
2010・12
Katayama, K., Y. Yoshitake, Muscle deoxygenation and myoelectric activity during sustained and intermittent isometric exercise in hypoxia.
K. Watanabe, H. Akima,
and K. Ishida
The 57th American College
of Sports Medicine
2010・6
齊藤 満,片山 敬章 運動時の筋交感神経活動とカテコールアミン反応.
家光 素行,石田 浩司
第18会運動生理学会大会
2010・8
片山 敬章,吉武 康栄 低酸素環境下における持続的および間欠的運動時の筋 日本体育学会第61回大会
渡邊 航平,秋間 広 酸素動態
石田 浩司
2010・9
片山 敬章,石田 浩司 低酸素環境における動的運動時の呼吸循環応答
岩本えりか,家光 素行
小池 晃彦,齊藤 満
2010・9
―  69  ―
第65回日本体力医学会大
会
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
講演会,セミナー,講習会,研修会など
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
池
上
康
男 機能解剖とバイオメカニクス
関節運動と全身運動
身体構造と力学的運動要因, 骨格筋の力と特徴
平成21年度健康運動指導
士養成講習会
2010・1
池
上
康
男 水泳・水中運動の物理的特徴( 1 )
第3回安全管理を重視し
たプールの管理責任者講
習会
2010・6
池
上
康
男 水泳・水中運動の物理的特徴( 2 )
第 3 回安全管理を重視し
たプールの管理責任者講
習会
2010・6
池
上
康
男 ゴルフバイオメカニクス( 1 )
2010年度 PGA ティーチン
グプロ B 級移行講習会
2010・5
池
上
康
男 ゴルフバイオメカニクス( 2 )
2010年 度 PGA テ ィ ー チ
ングプロ B 級移行講習
会
2010・5
池
上
康
男 ゴルフバイオメカニクス( 3 )
2010年 度 PGA テ ィ ー チ
ングプロ B 級移行講習
会
2010・6
池
上
康
男 ゴルフバイオメカニクス( 4 )
2010年 度 PGA テ ィ ー チ
ングプロ B 級移行講習
会
2010・6
池
上
康
男 ゴルフバイオメカニクス( 1 )
2010年 度 PGA テ ィ ー チ
ングプロ B 級講習会
2010・9
池
上
康
男 ゴルフバイオメカニクス( 2 )
2010年 度 PGA テ ィ ー チ
ングプロ B 級講習会
2010・9
池
上
康
男 機能解剖とバイオメカニクス
関節運動と全身運動
身体構造と力学的運動要因, 骨格筋の力と特徴
平成22年度健康運動指導
士養成講習会
2010・12
西
田
保 ゴルフ心理学( 1 )
2010年 度 PGA テ ィ ー チ
ングプロ新 B 級講習会
2010・1
西
田
保 ゴルフ心理学( 2 )
2010年度 PGA ティーチン
グプロ新 B 級講習会
2010・2
西
田
保 ゴルフ心理学( 1 )
2010年度 PGA ティーチン
グプロ B 級移行講習会
2010・3
西
田
保 ゴルフ心理学( 2 )
2010年度 PGA ティーチン
グプロ B 級移行講習会
2010・4
―  70  ―
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
西
田
保 ゴルフ心理学( 3 )
2010年度 PGA ティーチン
グプロ B 級移行講習会
2010・4
西
田
保 ゴルフ心理学
2010年 度 PGA 入 会 セミ
ナー
2010・12
山
本
裕
二 国体に向けて-身心の準備を-
静岡県卓球協会国体強化
合宿
2010・2
山
本
裕
二 さらなる上をめざして
日本ソフトテニス連盟女
子 U18合宿
2010・2
山
本
裕
二 ソフトテニスのためのイメージトレーニング
静岡レディースソフトテ
ニス連盟創立20周年記念
行事
2010・4
山
本
裕
二 試合中の表情・しぐさのコントロール
日本ソフトテニス連盟男
子ナショナルチーム合宿
2010・6
山
本
裕
二 スキルの獲得とその獲得過程
平成21・22年度第12回岐
阜県認定スポーツ指導者
養成講習会
2010・10
蛭
田
秀
一 福祉・保育労働と体力
特殊健康調査実行委員会
主催2010年度健康研修会
2010・5
石
田
浩
司 衰えを科学する ~正しい健康法とは~
健康づくり支援用具開発
マッチング・ワーキング・
グループ
2010・2
Physiology Seminar at
University of Oxford
2010・5
Koji Ishida
Cardio-respiratory Responses to Exercise and Hypoxia in
Humans
佐
々
木
康 代表チーム強化論
日本ラグビー協会・強化
コーチ研修会,(日本オ
リンピックセンター,東京)
2010・7
佐
々
木
康 日本スポーツ論
JOC ナショナルコーチアカ
デミー2010(ナショナルト
レーニングセンター, 東京)
2010・6
秋
間
広 フロリダ大学でのサバティカルを終えて
名古屋大学総合保健体育
科学センター第一回コロ
キュウム
2010・6
秋
間
広 名古屋シティーマラソン10 km の完走をめざす講義
平成22年度㈶名古屋市教
育スポーツ協会スポーツ
実践セミナー
2010・7
―  71  ―
Nagoya J. Health, Physical Fitness, Sports Vol.34, No.1 (March 2011)
著 者 名
表 題
掲載誌名
巻
秋
間
広 “体質改善”太りにくい身体をつくろう!
平成22年度㈶名古屋市教
育スポーツ協会スポーツ
実践セミナー
2010・10
秋
間
広 “体質改善”太りにくい身体をつくろう!
平成22年度㈶名古屋市教
育スポーツ協会スポーツ
実践セミナー
2010・12
秋
間
広 健康づくり運動の理論 筋力と筋量増強のトレーニン 平成22年度健康運動指導
グ条件とその効果
士養成講習会
2010・12
布
目
寛
幸 全身運動と仕事・エネルギー
平成22年度健康運動指導
士養成講習会
2010・12
片
山
敬
章 体力測定と評価.高齢者の体力測定(1)筋力,(2)持久 平成22年度健康運動指導
力 実習
士養成講習会
2010・2
片
山
敬
章 低酸素トレーニングの現状
サービス・マネジメント・
インスティテュート科 目
「 専 門 演 習(SD)」 立 命
館大学
2010・5
片
山
敬
章 低酸素トレーニングの応用
第8回生体工学サマース
クール,立命館大学
2010・8
―  72  ―
修士論文概要
水泳のバタ足における足部底屈方向の柔軟性が泳速度に及ぼす影響
大学院教育発達科学研究科
教育科学専攻 生涯スポーツ科学講座 スポーツバイオメカニクス領域
修士課程 2 年 熊谷 忠
指導教官 池上 康男
1 .諸言
水泳の指導者やコーチの間では、バタ足だけで泳ぐ
キック泳で、速く泳ぐためには、足部底屈方向の柔軟性
が重要であると認識されている。バタ足をしている際の
足部は、水の流れを受けて受動的に底屈することが考え
られるので、バタ足動作中の足部の動態を測定・評価す
る必要がある。本研究では、バタ足の足部底屈方向の
柔軟性が泳速度に及ぼす影響を、水中でのキック動作を
撮影することにより明らかにすることを目的とした。
が最大の時(以下、キック時)の足部底屈角度において、
Ctrl:187.3 ± 8.7 deg.、R-125:171.7±7.5 deg.、R-100:
154.5±20.5 deg. となり、R-100でばらつきが大きいもの
の、全被験者の平均値ではその制限が効いていることを
確認できた。
泳 速 度 は、Ctrl:1.2±0.1 m/s、R-125:0.9±0.2 m/s、
R-100:0.6±0.2 m/s となり、各条件間で有意な差が認め
られた。よって、キック時の足部底屈方向の柔軟性が低
いと、バタ足のキック泳における泳速度は低下すること
が示された。
本研究では、足部に対する水の流れの向きの指標とし
て迎え角を算出した。キック時の迎え角は、Ctrl:62.6±
8.6 deg.、R-125:78.2±9.0 deg.、R-100:97.9±20.6 deg. と
なり、各条件間で有意な差が認められた。キック時の迎
え角は、足部底屈方向の制限が強くなるに従い、90 deg.
2 .方法
被験者は、男子大学競泳選手10名であった。試技は3
条件(Ctrl,R-125,R-100)で行った。R-125と R-100で
は、水平から125 deg. と100 deg. に固定された装置の板
に足の裏が離れないように置き、スポーツ傷害用のテー
ピングで底屈方向の動作のみを制限し、防水のためにそ
の上からビニールテープを巻いた。Ctrl では、被験者に
能動的な最大底屈位を保持させ、その状態でビニール
テープのみ巻いた。被験者には、けのび姿勢を保持しな
がら水中をバタ足のみで進む全力泳をさせ、防水ケース
に納められた1台の3CCD カメラで、被験者の右側方約
7 m から2次元的に撮影した。
3 .結果・考察
テーピングをした際の足関節角度は、Ctrl:169.3±
5.0 deg.、R-125:152.1±1.9 deg.、R-100:132.0±2.5 deg.
となり、各条件でばらつき(SD)が重なることなく足部
底屈方向の制限ができた。そして、水中での足部の速度
に近くなった。これらの結果から、以下のことが明らか
となった。
足部底屈方向の制限により、キック時(足部の速度が
最大の時)の足部底屈角度が低下したことで、キック時
の足部の迎え角が増加し、泳速度が低下することが明
らかとなった。キック時の足部の迎え角の増加は、足部
(足の甲)
から発生する流体力の抗力成分を大きくし、推
進(水平)方向成分の流体力が少なくなったことで、泳
速度が低下したと考えられた。股関節は、足部底屈方向
の制限をすることで、蹴り下ろし局面においてより伸展
位で変化することがわかった。これは、泳者が足の甲を
斜め後方に向けようとするためであると考えられた。
―  73  ―
博士論文概要
高機能広汎性発達障害児の行為障害の研究 
―どのような要因が行為障害を導くのか―
大学院医学系研究科
健康社会医学専攻 健康増進医学講座 精神健康医学分野
博士課程 4 年 川上ちひろ
指導教授 小川 豊昭
【結果】
① CD の種類で最も多かったのは「盗み」で、次いで
【目的】
近年、高機能広汎性発達障害(High Functional Pervasive Developmental Disorder: HF-PDD)児者の行為障害
(Conduct Disorder: CD)について多くの事例報告がなさ
「性非行」
「家出」だった。頻度は「
(数回繰り返したが)
今のところ再犯なし」と「再犯を繰り返している」が同
程度に多かった。
② CD 群と統制群について、CAs の経験率の比較を
行った。経験率の差異を χ2検定および unadjusted odds
ratio によって検討した上で、各変数の影響を統制した
Multivariate モデルでロジスティック回帰分析を行った。
まず、強制投入法によって全 CAs の相互の影響力を検
討し、最後に変数減少法によって最も説明力の高い CAs
れている。一方で児童・青年の攻撃性や非行(虞犯)さ
らには犯罪行為などの CD のリスクファクターは、虐待
を含む望ましくない幼少期の家庭環境の経験、すなわち
逆境的経験(Childhood Adversities: CAs)との関連が指
摘されている。
HF-PDD においても一般の児童・青年と同様に虐待な
どの CAs が CD のリスク要因であることが推察される
が、従来の研究では事例検討がほとんどであり、リスク
ファクターを網羅的に取り上げて実証的に検討したも
のはない。本研究では HF-PDD における CD のリスク
ファクターを実証的に検討した。
の組み合わせを同定した。最終的には、neglect 経験が
6.34倍、physical abuse 経験が3.73倍のリスクとなること、
診断が1歳遅れるごとに1.20倍のリスクとなることが示
唆された。
【方法】
あいち総合医療保健センターの小児精神科を受診し
た HF-PDD 児者(IQ70 以上)で、CD と診断された CD
群36名(男性:30、女性:6、7-30y-old)
、CD と診断され
ていない統制群139名(男性:117、女性:22、6-28y-old)
を対象とした。両群は、性別、年齢、下位診断、知能指
数(IQ)をマッチングした。
① Feature of conduct problems:CD 群については、先
行研究や、刑法を参考に分類した CD の種類や頻度につ
いて検討した。
② Childhood Adversities (CAs):Green et al.(2010)の
National Comorbidity Survey で使用された CAs12 項目と
追加3項目の合計15項目について群間比較を行った。そ
の項目は、虐待経験、家庭内暴力、両親の精神障害、犯
罪歴、離婚歴、経済状況などの12項目と、独自に追加し
た診断時年齢、いじめ経験、本人の多動傾向の3項目で
ある。
【考察】
HF-PDD の CD の一つの特徴として「盗み」が多く
「繰り返し行う」ことが多くみられた。これは PDD の障
害特性が CD へとつながる要因となりうることが予測さ
れる。
診断時年齢の遅れが CD のリスク要因の一つとして挙
がったが、これは PDD の早期のスクリーニングや診断
の重要性、また発達障害の障害特性に見合った予防的
介入が必要性を示すものであろう。
一般的なケースと同様に HF-PDD の場合も、虐待経験
(ネグレクトと身体的虐待)が CD のリスクファクターと
して明らかになった。
以上から、HF-PDD 児者への CD 予防を目的とした介
入として、早期発見(スクリーニング)のシステム、適
切な療育や子育て方法の指導などの介入・支援体制の構
築が急務な課題であると考えられる。
―  74  ―
平成22年度 共同研究者一覧
東
安
飯
家
池
石
磯
伊
伊
伊
伊
今
上
大
大
岡
奥
奥
奥
小
鍵
梶
桂
門
金
叶
川
北
楠
久
洪
小
越
齊
坂
櫻
祥
詳
忠
素
久
哲
浩
健
智
藤
田
光
上
黒
貝
藤
藤
藤
藤 雅
枝 敏
向 貫
澤
畑 美 喜
本
田 愛
田 援
村 基
野 雄 一
小 野 美
田 紘
和
田 浩
尾 洋
俊
田 裕
村 勝
正
保 田 正
坂 井 留
中 敬
藤
崎 貴
井 伸
子
子
行
行
子
也
久
司
式
宏
史
彦
志
功
子
敦
子
史
生
郎
和
嗣
仁
二
治
文
樹
朗
隆
和
繁
美
一
満
彦
二
名古屋大学医学系研究科消化器内科学
名古屋大学医学部保健学科
藤 田 保 健 衛 生 大 学 医 学 部
立
命
南
館
大
山
学
大
学
石 黒 内 科 ク リ ニ ッ ク
九州工業大学情報工学研究院
淀 屋 橋 健 康 増 進 セ ン タ ー
愛
名
知
学
古
泉
屋
短
工
期
大
業
大
学
学
財団法人岐阜県国際バイオ研究所
金
城
学
武
院
蔵
大
大
学
学
愛 知 学 院 大 学 心 身 科 学 部
岐
東
び
阜
海
わ
こ
滋
静
大
学
学
大
大
院
賀
岡
学
園
大
大
学
教
学
学
学
育
学
部
藤 田 保 健 衛 生 大 学 医 学 部
川
崎
医
療
福
祉
大
学
三
菱
名
古
屋
病
院
武
蔵
丘
短
期
大
学
東海学園大学人間健康学部
愛 知 県 立 大 学 看 護 学 部
皇
帝
学
館
京
平
大
成
学
大
学
東北大学大学院教育情報学研究部
愛知医科大学メディカルクリニック
京
都
大
学
名古屋大学医学系研究科消化器内科学
国立長寿医療センター(研究所)疫学研究部
新
愛
鈴
中
潟
医
知
鹿
療
学
医
京
療
福
祉
院
科
大
大
学
大
大
学
学
学
学
佐 々 木 万
佐 藤 耕
佐 藤 寿
佐 野 真
渋 倉 崇
新 海 宏
鈴 木 春
袖 山
高 石 鉄
竹 中 裕
巽 あ さ
田 中 雅
田 中
谷 口 圭
鶴 原 清
寺 島
道 用
永 井 美 奈
長 崎
成 瀬
服 部 洋
日 置 麻
福
典
藤 木 理
古 川
堀 田 典
堀
文
三 浦 望
村 本 名
安 田 好
柳 本 有
山 田 節
山 之 内 国
山 本
楊
衛
吉 田 和
丈
平
一
也
行
成
智
絋
雄
人
み
嗣
勤
吾
志
徹
亘
子
大
達
兒
也
之
代
妙
生
子
慶
史
文
二
子
男
薫
平
人
日本女子体育大学体育学部
日
本
女
子
体
育
大
学
名古屋大学医学部附属病院総合診療部
岐 阜 市 立 女 子 短 期 大 学
新潟県立大学人間生活学部
愛
名
知
古
淑
屋
徳
市
大
立
大
学
学
あ さ ひ 病 院 理 学 療 法 士
浜
松
医
科
大
学
東 京 都 老 人 総 合 研 究 所
名古屋市立大学大学院医学研究科健康・栄養政策学分野
札幌医科大学保健医療学部
三
重
大
学
教
育
学
部
鈴
鹿
医
療
科
学
大
学
名
愛
み
愛
古
屋
知
よ
文
学
し
知
理
院
市
工
大
大
民
業
病
大
学
学
院
学
医療法人メディフォー 理学療法士
東 京 都 老 人 総 合 研 究 所
名古屋学芸大学管理栄養学部
ミ キ ハ ウ ス 歯 科 医 院
淑
徳
大
学
中
部
大
学
山
口
福
祉
文
化
大
学
豊
橋
技
術
科
学
大
学
兵 庫 大 学 健 康 科 学 部
山
田
外
科
内
科
山 之 内 糖 尿 病 予 防 研 究 所
名
愛
静
桜
知
岡
大
淑
大
学
徳
教
学
大
育
学
学
部
(五十音順)
―  75  ―
平成22年度 非常勤講師一覧
氏名
本務先
現職
担当科目
健康・スポーツ科学
60
授
〃
30
准 教 授
〃
30
〃
90
張
成
忠
有
限
会
社
桜
華
取 締 役
湯
海
鵬
愛
知
県
立
大
学
教
下
村
典
子
中京学院大学中京短期大学部
柴
田
優
子
自
野
中
壽
子
名
冨
樫
健
二
三
吉
澤
洋
二
名
内
田
博
桶
野
吉
水
宅
古
屋
研
市
学
教
授
〃
60
学
教
授
〃
120
学
准 教 授
〃
120
昭
株 式 会 社 フ ァ ミ リ
代表取締役
〃
120
留
美
自
宅
研
修
〃
120
田
和
人
静
岡
大
学
教
授
〃
60
藤
弘
吏
愛
学
講
師
〃
120
重
古
知
屋
学
立
修
大
担当時間数
大
経
済
院
大
大
秦
真
人
愛 知 学 泉 短 期 大 学
准 教 授
〃
120
島
典
広
東
准 教 授
〃
90
治
愛 知 県 立 大 学 看 護 学 部
教
授
〃
90
中 原 か お り
株式会社クリエイティブライフサークル
代表取締役
〃
90
金
尾
洋
海
学
園
大
学
―  76  ―
平成22年度 大学院生名簿
大学院医学系研究科(健康社会医学専攻)
学年
専門分野
氏名
指導教員
学年
専門分野
氏名
D4
精 神 健 康 医 学
草野美穂子
小川
D3
健 康 栄 養 医 学
山口
誠
石黒
D4
精 神 健 康 医 学
吉山和代
小川
D2
精 神 健 康 医 学
鵜生嘉也
小川
D4
精 神 健 康 医 学
川上ちひろ
小川
D2
精 神 健 康 医 学
吉岡眞吾
小川
D4
健康スポーツ医学
武田充史
押田
D1
健康スポーツ医学
飯田蓉子
押田
D4
健康スポーツ医学
松本大輔
押田
D1
健康スポーツ医学
岩本えりか
押田
D3
精 神 健 康 医 学
和田尚子
小川
D1
健康スポーツ医学
杉浦弘道
押田
D3
健康スポーツ医学
王
忠
華
押田
D1
健康スポーツ医学
陳
ナ
押田
D3
健康スポーツ医学
姜
海
英
押田
D1
健康スポーツ医学
夏目有紀枝
押田
D3
健 康 栄 養 医 学
衣
蘭
娟
石黒
D1
健康スポーツ医学
木
蘭
押田
D3
健 康 栄 養 医 学
石黒真理子
石黒
D1
健 康 栄 養 医 学
近藤志保
石黒
タ
指導教員
大学院教育発達科学研究科(教育科学専攻・心理発達科学専攻)
学年
専門分野
氏名
指導教員
学年
専門分野
氏名
指導教員
D3
生涯スポーツ科学
藤原一子
池上
D1
スポーツ行動科学
千鳥司浩
山本
D3
生涯スポーツ科学
満
倉
蛭田
M2
生涯スポーツ科学
熊谷
忠
池上
D3
スポーツ行動科学
横山慶子
山本
M2
生涯スポーツ科学
今田拓也
池上
D3
スポーツ行動科学
小林洋平
西田
M2
生涯スポーツ科学
宮崎由紀子
蛭田
D2
生涯スポーツ科学
鈴木啓央
山本
M2
生涯スポーツ科学
王
島岡
D1
生涯スポーツ科学
井上功一郎
池上
M1
生涯スポーツ科学
井堀圭智
D1
生涯スポーツ科学
佐藤菜穂子
池上
M1
生涯スポーツ科学
齋藤
―  77  ―
旭
輝
佐々木
秋間
平成22年度 研  究  生  名  簿
氏名
指導教員
研究事項
1
山 下 良 子 押田芳治 糖尿病食事療法に関する研究について
2
和 田 昌 樹 押田芳治 太極拳の運動生理学的解析
―  78  ―
所属
研究期間
平成22年 4 月 1 日
~
平成23年 3 月31日
財団法人愛知県健康づくり振興事業団 平成22年 4 月 1 日
~
あいち健康の森健康科学総合センター
健康開発部 TL 平成23年 3 月31日
投稿規定
1 .原著、資料、総説、短報、その他の未掲載の論文で、健康・スポーツ科学の研究に寄与するものを掲載する。
2 .論文の筆頭著者は、本センターの専任教員、大学院生、研究生、非常勤講師、共同研究者および名誉教授とする。
なお、専任教員以外の者が筆頭著者の場合は、専任教員との共同執筆とすることが望ましい。
3 .論文は、原則として予備登録の手続きを経て、編集委員会に定められた期日までに提出されたものとする。
4 .論文の採否は、編集委員会で最終決定する。
5 .原稿、図表、写真の枚数制限は原則としてもうけないが、編集の都合上必要があれば投稿者と協議のうえ制限す
る場合がある。
6 .原稿はワードプロセッサーで作成し、ファイル(Word、Excel、Powerpoint などで作成したほとんどのファイルで
対応可能)で本センター事務室に提出する。
7 .論文の構成は、表題、英文表題、著者名、ローマ字著者名、英文抄録(400語以内)、本文、文献とする。英論文
では表題、著者名、抄録、本文、文献の順番とする。
8 .図表および写真は、できるだけ英文で簡潔な説明をつける。
9 .文献は、原則として和文英文とも著者姓のアルファベット順に記載し,表記形式は「体育学研究」に準ずること
が望ましい。(http://wwwsoc.nii.ac.jp/jspe3/ から「学会誌」を参照)
10.別刷は希望者による注文購入とし、筆頭著者には PDF 版を配布する。
編  集  委  員  会
西田 保(委員長)
山本 明子
石黒 洋
片山 敬章
Editorial Board
T. Nishida (Chief Editor)
A. Yamamoto
H. Ishiguro
K. Katayama
※著者の所属は、平成23年 3 月 1 日現在のものである
総 合 保 健 体 育 科 学
平成 23 年 3 月 31 日 印 刷
平成 23 年 3 月 31 日 発 行
発 行 名古屋大学総合保健体育科学センター
〒464-8601 名古屋市千種区不老町 E-5-2(130)
電話(052)789­-3946(ダイヤルイン)
印刷 株式会社 荒 川 印 刷
ISSN-0289-5412
HEALTH, PHYSICAL FITNESS & SPORTS
VOL. 34 No. 1
総合保健体育科学
NAGOYA JOURNAL OF
《 目 次 》
CONTENTS
Relationship between Exercise habits and Health-related Quality of Life
among “Tokuteikenshin” Participants
—Comparison between Exercise Adherence and Non-exercise Adherence using Transtheoretical model—
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Daisuke MATSUMOTO, Daisuke URITANI, Yasuyo ASANO
Teruhiko KOIKE and Yoshiharu OSHIDA
Articles announcing the events to promote the older adults’ health in newspapers
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Joji ONISHI and Hisataka SAKAKIBARA
Relationship between bone strength and step length or speed of maximum speed gait among
community-dwelling postmenopausal women-Influence of leg strength
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Takahiko SAKAZAKI, Teruhiko KOIKE, Yuji YANAGIMOTO
Kazu MORI and Yoshiharu OSHIDA
1
5
11
第 三十四 巻 一 号
Effect of water filled with super-hybrid gas on insulin action in rats fed high-fructose diets.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Haiying JIANG, Teruhiko KOIKE, ZHonghua WANG
Lan MU, Tana CHEN, Yokie NATUME
and Yoshiharu OSHIDA
第 34 巻 1 号
15
高果糖食ラットでのスーパーハイブリッドガス充填水による
インスリン抵抗性改善効果
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 姜海英,小池晃彦,王忠華
木蘭,陳塔娜,夏目有紀枝
押田芳治
1
特定健診受診者における運動環境と健康関連 QOL との関連性
-トランスセオリティカルモデルを用いた運動定着群と未定着群での比較-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 松本大輔,瓜谷大輔,浅野恭代
小池晃彦,押田芳治
5
一般高齢者を対象とした健康関連企画に関する主要紙の案内掲載状況
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 大西丈二,榊原久孝
11
地域在住閉経後女性の骨強度と最速歩行時の速度・歩幅との関連
-膝伸展力の影響-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 坂崎貴彦,小池晃彦,柳本有二
森 和,押田芳治
15
大学運動選手の危機経験:競技レベルによる違い
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 竹之内隆志,奥田愛子,大畑美喜子
19
「ひきこもり」青年の日仏における共通点と相違点について
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 古橋忠晃,津田 均,小川豊昭
鈴木國文,清水美佐子,北中淳子
照山絢子,堀口佐知子,清水克修
後岡亜由子,Cristina Figueiredo,Nancy Pionné-Dax
Nicolas Tajan,Natacha Vellut,François de Singly
Alain Pierrot,Pierre-Henri Castel
29
ダンスパフォーマンスにおける熟練者の動作特性
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐藤菜穂子,居村茂幸,布目寛幸
池上康男
35
41
19
Commonalities and differences in hikikomori youths in Japan and France
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Tadaaki FURUHASHI, Hitoshi TSUDA, Toyoaki OGAWA
Kunifumi SUZUKI, Misako SHIMIZU, Junko KITANAKA
Junko TERUYAMA, Sachiko HORIGUCHI, Katsunobu SHIMIZU
Ayuko SEDOOKA, Cristina FIGUEIREDO, Nancy PIONNÉ-DAX
Nicolas TAJAN, Natacha VELLUT, François de SINGLY
Alain PIERROT and Pierre-Henri CASTEL
29
The motion characteristic of expert street dancers during performance
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Nahoko SATO, Shigeyuki IMURA, Hiroyuki NUNOME
and Yasuo IKEGAMI
35
A study reporting an experience of Nagoya Health College
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Joji ONISHI, Youko IIDA, Taeko KAJIOKA
Kiyoshi SHIMAOKA, Yasunobu ISHIKAWA, Yoshiitsu NARITA
Arisa YAMAMOTO and Hisataka SAKAKIBARA
41
「なごや健康カレッジ」実施報告
~参加者の日頃の社会活動と運動能力、筋力との関連~
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 大西丈二,飯田蓉子,梶岡多恵子
島岡 清,石川康伸,成田嘉乙
山本ありさ,榊原久孝
Colloquium・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
コロキウム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
Master and doctor theses (abstract)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73
修士論文および博士論文の紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73
二〇一一
Crisis Experiences in University Athletes: Differences by Competition Level
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Takashi TAKENOUCHI, Aiko OKUDA
and Mikiko OOHATA
2011
₂₀₁₁
The Research Center of Health, Physical Fitness and Sports
Nagoya University, Nagoya, JAPAN
名古屋大学総合保健体育科学センター