階上町小学生の身体活動と肥満との関連 Physical activity among

科教研報 Vol.24 No.1
階上町小学生の身体活動と肥満との関連
Physical activity among children in Hashikami Town, and its association with obesity
三井隆弘 1)、茨島朋子 2)、金地美知彦 3)、島岡清 4)
MITSUI, Takahiro, BARAJIMA, Tomoko, KANACHI, Michihiko, SHIMAOKA Kiyoshi
1)
Faculty of Education, Iwate University
2)
Division of Public Health and Social Welfare, Hashikami Town Office
3)
Faculty of Human Health Science, Hachinohe University
4)
Research Center of Health, Physical Fitness and Sports, Nagoya University
[要約] 子どもの肥満には地域差がみられ、東北地方とくに青森県において高いことが、学校保健統計
などによって報告されている。身体活動量の低下は、肥満と密接に関連しているが、この地域における
データは乏しい。青森県三戸郡階上町在住の小学生 145 名(男子 73 名、女子 72 名)を対象に、2 週間
にわたって、歩数とアンケートによって身体活動量を調査した。男子は女子よりも週当たりの運動時間
が有意に長かった。[9.5 (0.6 - 22.0) vs. 7.0 (1.2 - 21.5) 時間, 中央値(範囲), p = 0.002]。また、登校日の
1 日当たりの歩数は、男子 13,586 ± 4,386 (標準偏差) 歩 女子 12,248 ± 4,112 歩であった。いっぽう、休
日においては、男子 9,531 ± 4,557 歩、女子 9,419 ± 4,524 歩であった。性別による有意差は見られなかっ
た (F = 1.197, p = 0.276)。男女とも休日には有意に低下し (F = 116.537, p < 0.0001)、36 人(24.8%)の休
日の歩数が登校日と比較し 50%以上低下した。登校日における身体活動量は、国際的な基準値をこえて
いるものの、休日の低下は顕著であり、本地域における高い肥満率と関連している可能性がある。休日
の過ごし方の指導が必要ではなかろうか。
[キーワード]子どもの肥満、地域差、身体活動量
1. はじめに
率が報告されている青森県の一地域を対象とし、
子どもの肥満は世界中で急増しており、深刻な状
小学生児童の身体活動量の現状を把握し、肥満と
況である。本邦においても、10 歳児における肥満
の関連を考察することである。
率は、1977 年には 5.86%であったが、2006 年には
9.46%と顕著な増加を示している。東北地方、な
2. 研究の方法
かでも青森県は特に高く、肥満率が 20%をこえ、
1) 参加者
全国平均の 2 倍近い学年がある。肥満には食事、
本調査は 2008 年 10 月に行った。青森県三戸郡階
運動不足、遺伝など多くの要因が関連しているが、
上町在住の小学生 147 名(男子 74 名、女子 73 名)
原則としては過剰なエネルギーバランスが原因
を対象にした。町内すべての小学校 7 校に依頼し
である。とりわけ、身体活動量の低下は、最も重
4 校で協力が得られた。参加者は各小学校教員が
要な因子とされている。本邦においては、歩数計
任意で選択した。町内の全小学生 872 人中の
が国民栄養調査等で長年にわたって身体活動量
16.9%に相当する。すべての生徒は、基本的に徒
評価に用いられているが、当地域における小学生
歩通学である。本研究は階上町倫理委員会の承認
児童のデータは乏しい。90 年代後半以降、歩数計
を受け、すべての参加者の保護者から承諾書を得
は海外においても普及し、国際的な活動量調査の
た。
比較が可能になった。本研究の目的は、高い肥満
2) 身体計測、身体活動量、日常生活の評価
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調査期間中に、身長と体重を測定した。標準体重
から肥満度を計算し 20%以上を肥満と判定した。
各 校 の 教 員 が 記 録 用 紙 と 歩 数 計 ( YAMASA
EM-180)を配布し、2 週間にわたって、1 日当た
りの歩数、朝食摂取の有無、テレビ、ゲーム、運
動時間を記録した。
3)データ解析
登校日 5 日、休日 2 日以上の記入があったデータ
のみ解析に用いた。データは平均値 ± 標準偏差
あるいは中央値(範囲)で表した。男女間の平均
値は t 検定で、中央値は Mann-Whitney U 検定を用
いて比較した。歩数は、男女別に登校日と休日に
分けて、繰り返しがある 2 元配置の分散分析を用
いて検定した。さらに、登校日と休日の変化率を
が多い(Vincent et al., 2003; Duncan et al., 2006)。
しかし、本研究見おいては、男女間の歩数の差
は見られなかった。登校日における活動量は男
女とも、国際的な基準値である男子 13,000 歩、女
子 11,000 歩をこえ、運動時間も週 7 時間に達した。
さらに、民間調査機関によって報告されている小
学生のテレビの視聴時間とコンピューターゲー
ムで遊ぶ 1 日当たりの時間は、それぞれ約 2 時
間と 1 時間 (Benesse Corporation, 2005)である。
したがって、全般的にみると、参加者の活動量
は、国際的な基準値に達しており、良好である
といえる。しかしながら、休日の活動量低下は
顕著であり、本地域における高頻度の肥満と関
連している可能性がある。休日の過ごし方の適
切な指導が望まれる。
求めた。肥満度と歩数、テレビの視聴時間などと
Steps/d
の相関係数を求めた。危険率は 5%未満を採用し
た。
結果
肥満率は男子 17.8%、女子 13.9%であった。
週当たりの運動時間は男子 9.5 (0.6 - 22.0) 時間、
女子 7.0 (1.2 - 21.5) 時間で、男子が有意に長かっ
た (p = 0.002)。男女別の歩数の結果を図 1 に示し
た。登校日の男子が 13,586 ± 4,386 歩、女子が
12,248 ± 4,112 歩、休日の男子が 9,531 ± 4557 歩、
女子が 9,419 ± 4,524 歩であった。性別による主効
果は見られず(F = 1.197, p = 0.2757)、曜日のみに主
図1 Steps taken per day on school days and holidays.
効果が認められた (F = 116.537, p < 0.0001)。休日
Error bars represent SD.
に登校日よりも 50%以上歩数が低下する児童が
36 人(24.8%)みられた。週当たりのテレビの視
参考文献
聴時間は、男子 12.5 (0.6-52.8) 時間、女子 12.5
1. Vincent SD, Pangrazi RP, Raustorp A, Tomson
LM, Cuddihy TF (2003) Med Sci Sports Exerc
35: 1367-1373
2. Duncan JS, Schofield G, Duncan EK (2006)
Med Sci Sports Exerc 38: 1402-1409
3. Benesse Corporation (2005)
2005http://www.benesse.co.jp/newsrelease/200
50510_kenkyu.html [In Japanese]
4. Cabinet Office, Government of Japan (2008)
http://www8.cao.go.jp/syokuiku/data/whitepape
r/2008/pdf-honbun.html [In Japanese]
(1.7-57.5) 時間であった。コンピューターゲーム
で遊んだ週当たりの時間は男子 3.6 (0-20) 時間、
女子 0.5 (0-10.3) 時間であった。男子ではテレビ
とゲームの合計時間と肥満度との有意な正の関
係が見られ (r = 0.269, p < 0.05)、登校日歩数と負
の関係がみられた(r = -0.275, p < 0.05) 。女子では
いずれの項目とも有意な関係は見られなかった。
考察
一般的には男子の方が活動的であり、歩
数においても、男子が女子よりも高いという報告
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