自転車は体に悪い

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「地球危機」発 人類の未来
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自転車は体に悪い
性的能力の低下、排ガス被害、骨粗しょう症の原因に
2012年5月7日 月曜日
石 弘之
自転車がブームだ。「健康によい」「環境にやさしい」「交通渋滞や駐車場不足を緩和する」と、多くの国で官民あげて自転車の普及
に乗り出している。世界保健機関(WHO)は、世界の死亡原因は「運動不足」が喫煙に次いで2番目だとして自転車利用を推奨する。
だが、近年自転車は男女とも性器への影響が大きいとする警告がいろいろと報告されている。自転車は結構ずくめではないらしい。
人気をよぶ自転車
英国で自転車や徒歩の移動を推進する団体「サストラン」は、自転車は購入などに1を投入すると、医療費や交通費の削減など20
倍の恩恵が得られるという報告書を発表した。自転車は徒歩に比べてエネルギー効率は3~4倍も高く、速度は4倍も速い。とくに、最
近のガソリンの値上がりも、ブームの追い風になっている。
低迷気味だった世界の自転車市場は2009年以来、毎年10%を超える勢いで拡大し、過去20年間で倍増した。年間1億数千万台が
生産され、世界で10億数千万台が使われて庶民の足として定着している。人類の数人に1台は保有していることになる。
人口100人当たりの自転車保有台数は、自転車統計要覧(調査年は1998~2008年まで各国バラバラ)によると、トップがオランダの
109台。全国民が1台以上もっていることになる。ちなみにオランダは自転車泥棒の発生率でも世界最高だ。
ついで、ドイツの85台、デンマークの78台、ノルウェーの69台。日本は68台でウェーデンとともに5番目になる。保有台数でみると、人
口が多い中国が当然トップで4億5000万台を超え、これに米国、日本、ドイツ、インドがつづく。
自転車ブームは、さらに電動自転車へ引き継がれようとしている。自転車業界の調査機関「バイクリサーチ」の予測によれば、2012
年の電動自転車の販売台数は世界で3000万台を超える見通しで、市場は2012年から2018年の間に年平均7.5%の割で拡大し、2018
年には4700万台を超えるという。
自転車はセックスの敵か
米国では、警察官、救急隊員など約4万人の男性公務員が長時間自転車に乗っている。大都市の交通渋滞が深刻化するにつれ
て、緊急業務の自転車利用がますます増えている。彼らの間から、さまざまな性的トラブルが報告されている。とくに、毎週25時間以
上も乗る人には、「性器が鈍感になった」「勃起しにくくなった」「睾丸(こうがん)が慢性的に痛む」など性的な能力低下の苦情が多発し
ている。
米国労働安全衛生研究所(NIOSH)は数年来、自転車の健康影響を確かめるために、とくに訴えの多い全米自転車警察官組合員
ら長時間自転車に乗る人を調査してきた。その結論によると、生殖器への血流が滞り性的能力が低下し、陰嚢(いんのう)に違和感
があるなどの影響の出る可能性が高いことがわかった。
実際に鼠蹊部(そけいぶ)にかかる圧力をはかってみると、自転車を漕いでいる人は1平方センチ当たり202グラムで、なかには375
グラムの人もいた。この部分の血流は1平方センチ当たり162グラムの圧力で悪くなることから、長時間自転車に乗れば血行障害が起
きてもおかしくないという結論だった。
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2012/05/09
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これは、サドルの形状が大きく関わっていることがわかってきた。通常の自転車のサドルは、ノーズが前方に突きだして股で挟み込
むようになっているものが多い。この形だと鼻先の細い部分に体重が集中してかかり、陰部を圧迫する。一方で、先の尖っていないサ
ドルでは、1平方センチ当たり71グラム程度で圧力が小さく、障害が少ないことがNIOSHの実験で判明した。
女性の性器にも負担
一方で、被害は女性にもおよんでいるとする調査が、ベルギーのブリュッセル大学病院のリュク・バイヤンス博士ら婦人科専門医に
よって発表された。女性の自転車愛好者を対象にした調査によると、自転車によく乗る人は、そうでない人に比べて2倍も性的機能を
損ないやすい。サドルの形状が女性器に必要以上の負担をかけるためだ。この調査対象者の94%までがお尻痛くなるなどの症状を
訴えて、60%が性器の不快感を訴えていた。
毎週16キロ以上乗る48人の女性ライダーを対象にした米国イエール大学医学部のマーシャ・ゲス博士らの報告でも、女性の自転車
愛好家は、そうでないグループに比べて性器の感度が低下する傾向があるという。通常使用している自転車を研究室に持ちこんで、
車輪を回転させても静止できる装置で運転を再現してもらった。すると、局部のマヒやヒリヒリする感覚を訴えるものが続出した。
女性でも長時間自転車に乗ると、性器がはれ上がるなどの障害があることはこれまでも知られていたが、女性が検診や治療を受け
たがらないために実態はよく分からなかった。2006年の学会誌の性科学ジャーナルに「女性の自転車愛好家は不感症になりやすい」
という論文が掲載されてにぎやかな論争が展開したが、その後うやむやになった。
女性の場合でもサドルの形状が原因とみられる。デザイン重視の流行のサドルは、左右2つに分かれてノーズがとがっているタイプ
だ。これだと、長く狭いノーズに体重か集中して性器周辺の神経系や血管が圧迫される。この結果、微妙な部分の皮膚がすれたり、
はれたり、感覚がなくなったりするというのだ。
ハンドルの高さもかかわっているという。サドルよりもハンドルの位置が低く前かがみで漕ぐ場合には、体重が会陰部(えいんぶ)に
かかってその部分が圧迫されて骨盤底の感度がにぶくなることが実験でも確かめられた。風圧を少なくするためにハンドルの先が下
側にわん曲しているドロップ・バーの場合には、さらに前傾姿勢がきつくなるためにからだへの負担も大きい。
両グループの研究者は、自転車に乗る場合は先の尖っていないサドルを選んで、こぐ姿勢をいろいろ試して自分にあった姿勢を見
つけ、さらに漕いでいるときはときどきサドルから腰をあげるのがよいとしている。お尻にやさしいサドルも売られている。
ただ、米国の自転車愛好者団体からは「陰部圧迫の原因は肥満にあり、かわいそうなのはサドルの方だ」という反論もある。米国の
肥満人口は過去20年間で倍増して、国民の34%を超えて経済協力開発機構(OECD)加盟国で最高になった。
自転車通勤は大気汚染の餌食
自転車は排ガスを出さないのに、自転車乗りは排ガスの被害者だ。ロンドン大学のジョナサン・グリッグ教授らは、都市部の自転車
通勤は肺や心臓に負担が大きいとする調査をまとめ、昨年9月にアムステルダムで開かれた欧州呼吸器学会で発表した。
調査は自転車と徒歩で通勤する各5人を選んでタンを採取、そのなかの炭素の量を比較した。対象はいずれも喫煙習慣のない18歳
から40歳の人たちだ。この結果、自転車通勤者の肺の中には、徒歩通勤者に比べて2.3倍の黒色も炭素が多いことがわかった。
炭素の正体は、主として自動車の排ガスから放出される煤の微粒子だ。この煤が、肺機能を低下させ心臓病を招く原因もなるとい
う。研究者は「交通が混雑する大都市で自転車を乗り回すのは、炭坑で働くのと同じ影響がある」と警告する。自転車を漕ぐと、呼吸
が深く速くなり車の運転よりも2~3倍も多く空気を吸うからだ。
大気汚染の健康被害を研究する英国アバディーン大学のジョン・アイアーズ教授は「大気汚染のなかで自転車に乗るのは心臓病の
発生を助長する」と警告する。その危険度は、高血圧や高コレステロール血症よりも低いが、受動喫煙ぐらいの影響はあるとみる。
自転車が骨粗しょう症を起こす
自転車競技選手に骨折が多い、ということが話題になったのは2009年のことだ。この年、米国のランス・アームストロングやクリスチ
ャン・バンデヴェルデといったトップ選手がレース中にあいついで骨折した。アームストロングは鎖骨を折り、それ以前の練習中にも足
の骨を疲労骨折している。バンデヴェルデは背骨の3カ所を含めて計6ヵ所の骨を折った。
舗装道路を高速で走って落車すれば、骨折しても不思議はないと片付けられていた。だが、レーサーの骨折があまりに多いことから
問題になった。精密検査の結果、ベテランの選手ほど骨密度が異常に低く、若年性骨粗しょう症にかかっている選手も多いことが明
らかになってきた。有力選手の骨密度が2割ほど低くなって、高齢者なみに骨がスカスカになっていた。
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2012/05/09
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実は、その3年前に米オクラホマ大学スポーツ学部の大学院生アーロン・スマサーズがこの事実を発表していた。当時29歳だった彼
は自転車競技の選手であり、レース中に何度も骨折したことから自分の骨密度を調べてみた。その結果、骨粗しょう症状態にあること
が判明した。
レースシーズンを終えたばかりの27~44歳の選手を調べたら、背骨や腰の骨密度が低く、他種目の運動選手と比べても明らかに骨
折事故が多かった。自転車競技選手の63%は背骨や腰骨の骨密度が減少していたが、陸上競技選手では19%だった。自転車競技
も含まれているトライアスロン選手も陸上選手と変わらなかった。
過酷なロードレースで体が鍛えられ、当然骨も丈夫と信じられていただけに、「20代男性の骨粗しょう症は衝撃的だった」と彼は語って
いる。はじめに疑われたのは発汗で失われるカルシウムだ。自転車競技では1時間当たり数百ミリグラムもカルシウムを失うこともあ
る。だが、これはマラソンなど他のスポーツでも変わらない。
結局、自転車競技選手は「運動不足」という結論に落ち着いた。骨は骨にかかる負荷によって鍛えられる。ふだん運動をあまりしな
い高齢者が、転倒しただけで簡単に骨折するのも同じ理由からだ。宇宙飛行士が無重量状態で4カ月半滞在した場合、骨の強度は
10%、密度は7%ほど減ることもわかっている。
つまり、自転車競技はなめらかな舗装道を走るために、骨への衝撃が少ない。運動量は大きくても、骨は鍛えられていなかったとい
うわけだ。
ただ、通勤や週末の遠出程度の一般の自転車愛好者には、この心配はほとんどない。プロ選手なみに、毎日数時間も一生懸命に
自転車を漕いでいる人は、心配ならテニスやジョッギングをすることがお勧めだ。
「地球危機」発 人類の未来
世界は異なる文化、経済や技術の発展度合いの違いなどがまだら模様をなしているが、世界が本当に発展していくには共生、共存
の思想の共有が欠かせない。20世紀型発展はしばしば人類の暴走を生んだが、グローバル化が進む21世紀だからこそ、平和や人
権と並んで「持続可能な発展」という共通の倫理感が強く求められるのではないか。
筆者は新聞記者、大学研究者、外交官など立場を変えながらも、40年以上にわたり、一貫して地球環境問題を追ってきた。
国際化の波のなかで、ビジネスパーソンもこれまで以上に世界の持続可能性を意識していくことが重要になる。筆者のグローバルな
視野と感覚に基づいたレポートは、21世紀の世界が進むべき道を考えるうえで貴重なヒントを与えてくれるだろう。
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石 弘之(いし・ひろゆき)
環境学者
1940年生まれ。東京大学教養学部卒業後、朝日新聞社編集委員を経て、東京大学大学院総合文化研究科教授、同大学大学院新
領域創成科学研究科環境学専攻教授、駐ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院公共政策学特任教授などを歴任。2008年4月
より、現職。『地球環境報告』(岩波新書)ほか、環境問題や途上国の開発をテーマにした著書多数。
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2012/05/09