拡散テンソル 3 次元 tractography による錐体路の描出

拡散テンソル 3 次元 tractography による錐体路の描出
- 至適スライス厚およびスライス間隔の検討 秋田県立脳血管研究センター 放射線科
○豊嶋 英仁
石亀 慶一
旭 絵理奈
(Toyoshima Hideto) (Ishigame Keiichi)
(Asahi Erina)
菅 幹雄
(Kan Mikio)
【はじめに】
拡散 テ ン ソ ル画像(Diffusion Tesor Imaging:DTI)は6 方向以上の運動検出傾斜磁場 (Motion
probing Gradient:MPG)の印加およびMPG印加無しの画像より求めることができ、定量的な拡散の異方性
を示す。Tractographyは、DTIによる異方性の方向を追跡することで白質路を3次元的に描出する表示法
であり、視覚的に容易に理解しやすい利点がある。
錐体路tractographyを描出するには、薄層スライスによる広範囲なDTIの3次元データが必要である。薄
層スライスでは十分な信号雑音比(SNR)を得るために加算回数(Number of exciting: NEX)を増やす必要
があり、3mmスライス厚ギャップレスで35断面を撮像した場合には7分程度の検査時間を要する。錐体路
tractographyを重篤な症例に施行するには検査時間の短縮が必要である。検査時間短縮の方法の一つ
は、スライス厚の増加およびギャップを挿入し撮像範囲内の断面数を減らすことである。今回、検査時間短
縮を目的として錐体路tractographyの描出可能な至適スライス厚およびギャップを検討した。
【方法】
対象は健常ボランティア 3 名(男性、平均 33 歳)である。対象を中脳から頭頂部の範囲をスライス厚 3~
6mm、ギャップ 0~2mm で 20~34 断面の DTI を測定した。クロストークによる SNR の劣化を避けるためにギャ
ップ 0mm では等インターバルスキャンで 2 回に分けて測定した。ギャップ 1mm 以上ではシーケンシャルスキ
ャンで 1 回に測定した。
十分な信号雑音比(SNR)を得るために経験的に 3mm スライス厚での NEX を 4 とし、同程度の SNR を得る
ためにスライス厚 4,5,6mm では NEX を 3,2,2 とした。撮像は 1shot echo planar imaging(EPI)により b
値 1000mm/cm2、MPG 印可 6 方向で行い、TR/TE 4000/100msec、フリップ角 90 度、撮像視野 23cm、マトリッ
クス 128x96 で行った。撮像断面は ACPC 線に平行な軸位像とし、1.5T 装置(Magnetom vision, Siemens )
を使用した。
tractography は、Windows PC で動作する東大医学部附属病院放射線科画像情報処理・解析研究室に
おいて開発された MR 拡散テンソル解析ソフトウェア diffusion TENSOR Visualizer(dTV)を使用した。dTV は、
URL http://www.ut-radiology.umin.jp/people/masutani/dTV.htm から入手可能である。
錐体路tractgraphyは大脳半球毎に内包後脚に直径5mmの円形始点を設定して作成した。各DTIにつ
いて錐体路tractgraphy作成の可否さらに検査時間および描出能より、至適スライス厚およびギャップを検
討した。
【結果】
スライス厚 3,4mm ではギャップ 0,1mm で錐体路 tractgraphy 作成が可能であったが、ギャップ 2mm 以上
では不可であった。スライス厚 5mm ではギャップ 0mm で錐体路 tractgraphy 作成が可能であったが、ギャッ
プ 1mm 以上では不可であった。スライス厚 6mm では錐体路 tractgraphy 作成はギャップ 0mm 以上で不可
であった。(table.1)
撮像範囲を 100mm に設定した場合の錐体路 tractgraphy 検査時間を Fig.1 に示す。ギャップレスおよ
びスライス厚 3mm ギャップ 1mm では、撮像回数が 2 回となった。使用した装置では撮像後に画像計算時間
を要したために実際の検査時間は矢印範囲となった。スライス厚 4mm ギャップ 1mm が約 1 分 30 秒で最も短
かった。
ス ラ イス厚 3mm ギ ャッ プ レ ス(Fig.2(1)) を基 準 とし 、撮 像時 間の 短 い ス ライ ス 厚 4mm ギ ャッ プ
1mm(Fig.2(2))およびスライス厚 5mm ギャップレス(Fig.2(3))における錐体路 tractgraphy を示す。(a)
は正面全体像、(b)は上部の皮質下部位の拡大左前斜位像である。内包後脚から放線冠レベル(矢印範
囲)の描出はそれぞれ良好であったが、スライス厚 5mm ギャップレス(Fig.2(a3))で軽度太く描出された。
斜位拡大像ではスライス厚 3mm(Fig.2 (b1))が
他に比べ最も精細に連続性良く描出された。
[Table1 ]
[ Fig.1 ]
[ Fig.2 ]
【考察】
使用装置の仕様で画像計算時間が含まれるため至適条件をスライス厚 4mm ギャップ 1mm と判断したが、
画像計算時間を無視できる高速な演算機を搭載した装置ではスライス厚 5mm ギャップレスが最も短い時間
で検査できる。
dTV では tractgraphy の追跡処理の際に 3 重補間処理 1)を行っており、比較的厚いスライスやギャップ
挿入に対して良好な tractgraphy を描出できた要因であると考える。
【まとめ】
dTV を使用して錐体路 tractgraphy はスライス厚 3mm ギャップレスで最も高精細に描出した。検査時間を
短縮できるスライス厚 4mm ギャップ 1mm およびスライス厚 5mm ギャップレスでも臨床的には有用な錐体路
tractgraphy を描出でき、臨床利用に期待できる。
【文献】
1) 増谷佳孝、他:日本医用画像工学会雑誌, vol.20, no.5, 2002.