今後の高齢者雇用対策について ∼雇用と年金との接続を目指して

2003.11.
No.427
目 次
今後の高齢者雇用対策について
∼雇用と年金との接続を目指して∼
今後の高齢者雇用対策に関する研究
会報告書(平成15年7月)
今後の高齢者雇用対策について
∼雇用と年金との接続を目指して∼
今後の高齢者雇用対策に関する研究会報告書(平成15年7月)
1 はじめに
I.高齢者雇用対策の基本的な考え方
最近、65歳までの雇用を企業に法律で義務
付けるべきかどうかについて、政府と経済団体
1.基本的な考え方
(1)今後の基本的な方向
の間で議論となっていることが、新聞報道され
ています。年金制度改革にも関連する問題であ
今後少子高齢化が急速に進展する状況を踏ま
えると、高齢者がその意欲と能力に応じ可能な
り、今後、高齢者雇用の問題は重要さを増して
いくものと思われます。
限り社会の支え手としての役割を果たすように
していくことが重要である。そのためには、意
欲と能力がある限り年齢にかかわりなく働き続
そこで、今月号では、高齢者雇用の問題をテ
ーマとし、厚生労働省の「今後の高齢者雇用対
けることのできる社会の実現を図っていくこと
が求められる。
策に関する研究会」が、
平成15年7月にとりまと
めた、今後の高齢者雇用対策に関する報告書の
当面の課題としては、年金支給開始年齢の引
上げや団塊の世代の高齢化を踏まえ、雇用と年
概要をご紹介します。
(厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/07/h
金との接続を強化し、少なくとも年金支給開始
年齢となる65歳までは年齢が理由となって働
0731-3.htmlご参照)
くことが阻害されることのないシステムの整備
を行っていくことが急務である。
2 「今後の高齢者雇用対策に関する研究会」報
告書の概要
厚生労働省の「今後の高齢者雇用対策に関す
(2)今後の取組の進め方
る研究会」は、平成15年4月から6回にわたり、
①65歳までの雇用の確保策、②中高年齢者の
このような方向に向けた抜本的な取組として
は、法律による全般的な年齢差別禁止を行うこ
再就職の促進策、③高齢者の多様な働き方に応
じた就業機会の確保策の3点について、議論を
と、すなわち年齢による雇用管理を全面的に禁
止することも一つの方法である。
行い、その議論・検討の結果を「今後の高齢者雇
用対策について∼雇用と年金との接続を目指し
しかし、現時点において、全般的な年齢差別
禁止によって対処することは、我が国の実情に
て∼」と題して、平成15年7月に報告書にとり
まとめました。その概要は、以下のとおりです。
即した対応としては適当ではないと考えられる。
むしろ募集・採用時の年齢制限についてその
是正を図ったり、我が国の企業において一般的
−1−
今後の高齢者雇用対策について∼雇用と年金との接続を目指して∼今後の高齢者雇用対策に関する研究会報告書(平成15年7月)
に採用されている定年制を活用しつつ高齢者の
雇用機会の確保を図るなど、意欲と能力のある
することも必要である。
限り年齢にかかわりなく働き続けることができ
る社会の実現に近づけていく方が、現実的かつ
効果的であると考えられる。
(2)具体的なルール化
定額部分の年金支給開始年齢の引上げを踏ま
えて、雇用と年金との接続を確保し、少なくと
2.若年者雇用対策との関係
も年金支給開始年齢となる65歳まではその雇
用する労働者を年齢を理由としては離職させな
若年者雇用と高齢者雇用の関係については、
賛否両論あるところである。
いというルールを作り、高齢者の雇用の安定を
図ることが必要である。
いずれにしても、企業が労働者を雇用するに
当たっては、若年者だから雇用する、高齢者だ
【ルール作りの基本】
・各企業において、基本としては定額部分の年
から雇用するということではなく、その意欲や
能力、適性によって選択を行うことができる環
金支給開始年齢の引上げに合わせ段階的に定
年を引き上げるべきである。
境を、労働者にとっては、若年者であれ高齢者
であれ、公正・均等な条件の下で挑戦すること
【企業の雇用管理の実態等から定年引上げが困
難な場合のルール作り】
ができる環境を整備していくことが求められて
いる。
・希望者全員を対象とする再雇用制度等の継続
雇用制度の導入によって年金支給開始年齢ま
すなわち、高齢者も若年者も、意欲と能力に
応じて働くことができる環境を整えることが重
での雇用を確保すべきである。
なお、現下の厳しい経済情勢の中にあって、
要であり、それぞれの置かれている実態に応じ
て、年齢にかかわりなく働くことのできる社会
このような取組を行うに当たっては、労使間で
賃金、労働時間、働き方などの労働条件等につ
の実現に向けた雇用対策を進めることが必要で
あると考えられる。
いて十分な協議を行い、従来の賃金・人事処遇
制度の見直しを行うことが不可欠である。
また、年金支給開始年齢まで働き続けること
を可能とする制度を整備するということは、意
II.今後の高齢者雇用対策
1.年金支給開始年齢
(65歳)
までの雇用の確保策
(1)基本的考え方
欲と能力のある限りは年齢を理由として離職さ
せられることはない、ということを意味するも
意欲と能力のある者が少なくとも年金支給開
始年齢までは働き続けることができるようにす
のであって、当該年齢までの雇用を無条件に保
障するものでないことはいうまでもなく、その
ることが喫緊の課題である。
高齢者のそれまでの豊富な職業経験や知識を
意味では労働者自身も絶えず自らの体力、能力、
適性を見つめ直し、その維持・向上の努力をす
最大限に活かす上でも、本人が希望する限り、
まずはできる限り現に雇用されている企業にお
ることが求められる。
いて、労使間での話し合いや工夫を講じながら、
継続して意欲と能力に応じて働き続けることを
2.中高年齢者の再就職の促進策
(1)再就職援助の必要性と取組の方向
可能とする制度を整備することが求められる。
なお、労働者の円滑な企業間移動を可能とす
まずは各企業において働き続けることのでき
る制度設計が求められるところであるが、経済
ることにより、労働市場を通じて少なくとも年
金支給開始年齢までの雇用機会が確保される、
社会の構造的な変化等が進む中にあっては、す
べての企業が安定した経営を続けることも容易
すなわち、働き続けることのできる環境を整備
ではなく、その雇用する労働者の雇用維持が困
−2−
難な局面に遭遇し、年金支給開始年齢前にやむ
を得ず離職させざるをえないことも十分に想定
(3)求職者及び求人者の相互理解の促進
中高年齢者の再就職促進のためには、企業が
される。このため、このような場合には、労働
市場を通じた雇用機会の確保が求められること
となる。
試行的に労働者を雇用して、その間に労働者の
能力、適性を見極め、労働者もその企業の特質
を判断するというトライアル雇用制度や、紹介
特に中高年齢者の場合は、一旦離職するとそ
の再就職は困難であり、失業期間も長期化する
予定派遣制度を積極的に活用し、求職者と求人
者が互いに相手を理解し、判断できる時間的猶
おそれが高いことから、再就職の促進策を強化
する必要があると考えられる。
予を与えることが有効であると考えられる。
また、労働者がどのような能力を有している
具体的には、
①募集・採用時の年齢制限の是正
のかを明確にするためには、それまで経験した
職種、職務内容等について、いわゆるキャリア
②求職者及び求人者の相互理解の促進
③事業主都合離職の場合の事業主による再就職
(注)を的確に行うことが有効であるが、
の棚卸し
その際、企業、労働者間において、相互に理解
援助
④労働者の能力開発等の支援
可能な形で表現できるように共通言語化を推進
すべきである。
という点についての取組を行うことが求めら
れる。
さらに、再就職を望む労働者が自らの能力を
客観的に認識したり、自らの適性を把握するた
(2)募集・採用時の年齢制限の是正
めに、キャリア・コンサルタント(注)などによ
るキャリア・コンサルティング(注)体制の充実
雇用対策法において年齢制限是正の努力義務
が定められ、政府においても3年間で年齢不問
等が必要である。
求人30%を目指す、との目標を立てて公共職
業安定所での指導に取り組んでいるところであ
(4)事業主都合離職の場合の事業主による再就
職援助
るが、実効性は低く、中高年齢者の再就職促進
のために、募集・採用時の年齢制限是正への取
現在事業主には、定年、事業主都合解雇等を
理由として離職することとなっている中高年齢
組をさらに強化することが必要である。
募集・採用時の年齢制限是正の実効性を上げ
者のために、求人の開拓などの再就職援助措置
を講じる努力義務を課した上で、必要な場合に
るため、募集・採用時の年齢制限を禁止するこ
と、又は、募集・採用時の年齢制限を行おうと
は公共職業安定所から、個々の離職予定者の再
就職援助計画を作成し、当該離職予定者に交付
している事業主に対して、その理由の説明義務
を課すこと、のいずれかの方策を選択し、早急
するよう要請することとされている。
特に事業主の都合により年金支給開始年齢前
に実施に移すことが必要である。
併せて、求人者が求める職業能力や職務内容
に離職を余儀なくされる労働者については、こ
の事業主の取組の実効性を高めることが必要で
の明確化、採用後の適正な労務管理への理解促
進が必要であり、年齢制限を行う企業に対する
ある。
具体的には、特に労働者のキャリアの棚卸し
指導・援助をはじめとするコンサルティング体
制の強化などの施策を一体的に講じる必要が
に当たり、例えば、その労働者がこれまでどの
ような仕事をしてきたのか、どのような成果を
ある。
上げてきたのかなどを盛り込むようにした上
で、事業主による計画の作成・交付の実施をよ
り強力に求めるべきである。
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今後の高齢者雇用対策について∼雇用と年金との接続を目指して∼今後の高齢者雇用対策に関する研究会報告書(平成15年7月)
さらに、行政としても、事業主に対する必要
な相談・援助体制の充実や助成措置の活用促進
うな職業経歴を有しており、それぞれの経歴に
おいてどのような成果を上げてきたのか、また、
を図っていくべきである。
どのような自己啓発等を行ってきたのか等を明
確にすることをいう。
○キャリア・コンサルティング、キャリア・コ
(5)労働者の能力開発等の支援
ンサルタント
キャリア・コンサルティングとは、労働者が、
離職を余儀なくされた中高年齢者が失業を経
ることなく再就職するためには、労働者自らが
その職業生活の早い段階から、自らのキャリア
設計を含めた職業生活の設計を行い、それに沿
その適性、職業能力、職業経験等に応じて自ら
職業生活設計を行い、これに即した職業選択や
った能力開発を進めることが求められる。
キャリア形成を図るために必要となる職業訓練
の受講等の職業能力開発を効果的に行うことが
3.高齢者の多様な働き方に応じた就業機会の
確保策
できるよう、労働者の希望に応じて行う相談を
いう。キャリア・コンサルタントとは、以上の
高齢期には、個々の労働者の意欲、体力等の
個人差が拡大することから、その雇用・就業ニ
ような相談を行う者をいう。
○短時間正社員
ーズも雇用・就業形態、労働時間、収入面等に
おいて多様化する。
短時間正社員とは、パートタイム労働研究会
最終報告によれば、常用フルタイム社員より一
このような労働者の多様なニーズに対応し
た雇用・就業機会を確保するため、短時間正
週間の所定労働時間は短いが、常用フルタイム
社員と同様の役割・責任を担い、同様の能力評
社員(注)制度の導入促進、多様就業型ワークシ
ェアリング(注)の導入、起業・創業の支援、シ
価や賃金決定方式の適用を受ける社員のことを
いう。
ルバー人材センターにおける派遣就労に係る相
談・実施やボランティアに関する相談・情報提
○多様就業型ワークシェアリング
ワークシェアリングとは、雇用の維持・創出
供等の実施が必要である。
を図ることを目的として労働時間の短縮を行う
ことをいい、ワークシェアリングを活用して多
様な働き方を適切に選択できるようにすること
を多様就業型ワークシェアリングという。
(注)
○キャリアの棚卸し
キャリアの棚卸しとは、労働者自らがどのよ
企業年金ノート No.427
平成 15年 11月
年金信託部
〒100-8112 東京都千代田区大手町 2 ー1 ー1 TEL. 03
(5202)
5409
〒540-8607 大 阪 市 中 央 区 備 後 町 2 ー 2 ー 1 TEL. 06
(6268)
1866
りそな信託銀行発行
りそな信託銀行はインターネットにホームページを開設しております。
【http://www.resona-gr.co.jp/resona-tb/】
りそな信託銀行は、インターネットを利用して企業年金の各種情報を提供する「りそな企業年金ネットワーク」を開設しております。
ご利用をご希望の場合は、企画部までお問い合せ下さい。
(TEL 06(6268)1810)
受付時間…平日 9:00∼17:00
※土、日、祝日、12月31日∼1月3日、5月3日∼5月5日はご利用いただけません。
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