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深在性真菌症の疫学、 診断法および治療戦略

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第2章
深在性真菌症の疫学、
診断法および治療戦略
[1]
疫学
わが国にみられる深在性真菌症(皮膚科領域を除
病理剖検例にみる深在性真菌症の近年における変
く)の臨床疫学調査に関するまとまった報告はない。
貌の理由として、新規抗真菌薬の登場( FLCZ 1989
ここでは、量的また質的に新たな様相を示しつつ
年)や本症に対する経験的治療の普及が大きく関わ
ある深在性真菌症のわが国における現状について、
っていると考えられる。反面、重篤なカンジダ症や
1-3)
日本病理剖検輯報を対象に検索した成績
のあらま
アスペルギルス症などに対する治療法に、2001 年の
段階ではかなりの限界があったことがうかがえる。
しを示す。
1 深在性真菌症の年次的推移
2
病理剖検例にみられる深在性真菌症は 1969 年以
白血病剖検例における年次別頻度
カンジダ症の減少傾向とアスペルギルス症の増加
降、確実に増加の一途を辿っている。しかしながら、
傾向が最も顕著にみられた白血病剖検例における原
剖検総数に対する頻度は 1989 年、1990 年の 4.6 %、
因真菌別頻度を表 1 に示した。通年的頻度ではいず
4.7 %をピークに、その後一時的に減少傾向を示した
れの年次においてもアスペルギルス症( 33.3∼54.2
ものの( 1994 年、3.2 %)
、1997 年では 4.3 %、最も
%)およびカンジダ症(16.9∼33.6 %)が全体の 70 %
新しい検索年次である 2001 年では 4.6 %と、再び増
前後を占め、ついで接合菌症( 5.7∼9.2 %)
、クリプト
加の傾向にある(図 1 )。しかも減少し始めた 1990
コックス症(0.9∼2.8 %)で、その他として示したトリ
年以降、主要真菌症の頻度が逆転し、カンジダ症に
コスポロン症( 0.4∼0.9 %)がこれに続いた。なお、
代わってアスペルギルス症が最も高頻度となり、経
全剖検例を対象とした成績でも経年的に同様の傾向
年的にその差は広がりつつある。
を示したが、白血病剖検例ほど各疾患の頻度の経年
5
真菌症総数
アスペルギルス症
カンジダ症
クリプトコックス症
接合菌症
その他の真菌症
(除く:原因真菌不明)
4
頻度︵%︶
3
2
1
図1
0
1969
1973
1977
1981
1985
年次
36
1989
1993
1997
2001
剖検総数に対する深在
性真菌症の経年的発生
頻度
(日本病理剖検輯報 1969 ∼2001
年の解析、死産児を除く)
[1]疫学
表 1 白血病(MDS を含む)剖検例における主要深在性真
菌症の年次別頻度(%)
年次
また、呼吸器感染例ではそのうち 61.7 %がアスペル
ギルス症で、全身性感染と表記された症例において
1989 年
1993 年
1997 年
2001 年
もアスペルギルス症が 46.8 %と高頻度であった。ま
アスペルギルス症
33.3
44.5
50.8
54.2
た、腎・尿路感染および真菌血症ではカンジダ症の
カンジダ症
33.6
22.3
22.8
16.9
頻度が高く、約半数( 48.5 %、48.4 %)を占めた。ま
真菌症
接合菌症
5.7
7.5
6.9
9.2
クリプトコックス症
た、中枢神経系への感染ではクリプトコックス症が
2.8
0.9
1.2
1.9
トリコスポロン症
0.9
0.9
0.8
0.4
41.3 %と最も高頻度であった。なお、原因真菌別対
象症例数はカンジダ症 229 例、アスペルギルス症
(日本病理剖検輯報からの解析、死産児を除く)
523 例、クリプトコックス症 75 例、接合菌症 42 例、
トリコスポロン症 1 例(全身性)
、ヒストプラズマ症
的変化は顕著ではなかった(アスペルギルス症、30.2
2 例(呼吸器感染)
、病原真菌不明 136 例の計 1,008
%、36.6 %、40.9 %、46.0 %、カンジダ症、42.3 %、
例である。
3)
37.2 %、34.8 %、27.4 %) 。表 1 に示した年次にお
4
けるクリプトコックス症、接合菌症およびトリコス
ポロン症の明らかな増加傾向はみられなかった。近
年、重篤で難治性とされるトリコスポロン症の増加
重篤型の占める頻度
2001 年度に記載された全真菌症例 1,165 例の原因
4)
が指摘されているが 、本症の多くが原因真菌不明
真菌別にみた重篤型の占める割合を表 3 に示した。
の範疇に包含されている可能性があることを指摘し
ヒストプラズマ症 2 例およびトリコスポロン症 1 例
ておきたい。
はいずれも重篤型の範疇で、ついで重複感染例 40
例中 34 例( 85 %)
、接合菌症 41 例中 33 例( 80.5 %)
主要病型別頻度
3
と重篤型が占める割合が極めて高かった。また、症
例数として最も多かったアスペルギルス症では 536
2001 年度の検索成績に基づく、主な深在性真菌症
例中 341 例( 63.6 %)が重篤型であったが、これは
の病型別内訳を表 2 に示した。罹患臓器・病型では
非重篤型とした菌球症や片側性の気管支肺炎が少な
呼吸器感染が最も多く、全体の 67.3 %を占めている。
かったことに起因すると思われる。カンジダ症およ
表2
深在性真菌症の主要病型別内訳
例数
主な病型
症例数
カンジダ症
アスペルギ
ルス症
678
104
418
腎・尿路感染
97
47
29
全身性感染
94
25
44
真菌血症
93
45
21
2
4
中枢神経系感染
46
8
11
19
4
トリコス
ポロン症
原因真菌
不明
重複感染例
呼吸器感染
クリプト
コックス症
44
接合菌症
トリコス
ポロン症
22
0
4
4
6
8
ヒスト
プラズマ症
原因真菌
不明
2
89
0
0
13
1
0
9
0
0
21
0
0
4
(日本病理剖検輯報、2001 年度、死産児および重複感染例を除く)
表3
深在性真菌症の重篤型と非重篤型の割合(%)
アスペル
ギルス症
カンジダ症
クリプト
コックス症
接合菌症
非重篤型
36.4
58.6
40.3
19.5
0
0
54.9
15
重篤型
63.6
41.4
59.7
80.5
100
100
45.1
85
ヒスト
プラズマ症
(日本病理剖検輯報、2001 年度、死産児を除く)
37
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
び原因真菌不明の症例における重篤型の占める割合
表4
深在性真菌症例の基礎疾患別内訳
はいずれも 50% 以下であった(それぞれ 319 例中
132 例( 41.4 %)および 164 例中 74 例( 45.1 %)
)
。
なお、重篤度の基準は剖検輯報に記載されたもの
1997 年
2001 年
(%)
(%)
白血病(含む MDS)
21.5
22.3
癌腫
19.4
19.7
8.8
のうち、①真菌症が「主病変(死因に最も支配的とな
細菌感染症
った疾患名)」または「副病変(直接死因となった副
悪性リンパ腫
9.3
13.9
9.6
病変)」として記載された症例、②真菌性菌血症、
真菌症
4.0
3.7
③真菌性敗血症、④全身性真菌症、⑤真菌性両側性
気管支肺炎(肺炎)
、および⑥真菌による罹患臓器が
脳を含んだ 2 臓器系以上、あるいは 3 臓器系以上、
多発性骨髄腫
2.6
2.9
膠原病
3.0
2.7
結核
─
2.0
泌尿器疾患
─
の各症例を重篤型とした。なお、ここにいう臓器系
再生不良性貧血
1.9
1.9
1.1
とは消化器系、呼吸器系、循環器系および腎・尿路
肺線維症
4.8
─
系の 4 臓器系および生殖系、神経系、内分泌系並び
に筋・運動系を一括したその他の臓器系の 5 臓器系
である。
5
基礎疾患別内訳
胃・十二指腸潰瘍
その他の疾患
3.6
─
21.3
20.2
(日本病理剖検輯報、1997 年度、2001 年度の比較)
検施設を有する病院における全病理剖検例を集積し
たもので、検索母集団が全国レベルと極めて大きい
2001 年度の剖検輯報における真菌症例総数を母集
ことから、疫学的解析の対象として極めて有用であ
団とした場合の基礎疾患別内訳を表 4 に示した。従
り、かかる解析結果は深在性真菌症に対する臨床的
来からの指摘のように、白血病、癌腫および悪性リ
認識、本症の診断・治療との関わりに有益な情報を
ンパ腫などに高い頻度でみられるが、1997 年と比較
提供しうるものと考える。
すると 2001 年では細菌感染症(肺炎、敗血症など原
いずれにしても、新規抗真菌薬の上市によって、
因真菌の記載がないものはすべて細菌感染症とし
ここに示した経年的推移が、今後どう変わるかに関
た。ただし、間質性肺炎は基礎疾患を呼吸器疾患と
心が寄せられよう。
した)が基礎疾患となる頻度が高く、また結核や泌
尿器疾患が基礎疾患となる症例の増加が指摘できよ
う。なお、それぞれの基礎疾患別剖検総数を母集団
とした場合、白血病に続発する頻度に大きな差はな
く 20∼25 %であるが、例えば癌腫 3.5 %というよう
に表 4 で示した頻度よりかなり低いものが多い。
日本病理剖検輯報から得られる情報の正確性につ
いて問題がないわけではないが、病理解剖は、ヒト
の疾病を全身的視野で確実に捉えうる具体的な手法
の一つである。加えて日本病理剖検輯報はわが国の
大学病院、国公立病院および私立の大病院など、剖
38
◉参考文献
1)Yamazaki T, Kume H, Murase S,
.: Epidemiology of visceral mycoses: analysis of data in annual of the pathological
autopsy cases in Japan.
37: 1732-1738, 1999
2)Kume H, Yamazaki T, Abe M,
.: Increase in aspergillosis
and severe mycotic infection in patients with leukemia and
MDS: comparison of the data from the Annual of the
Pathological Autopsy Cases in Japan in 1989, 1993 and 1997.
53: 744-750, 2003
3)久米 光,山崎敏和,阿部美知子,ほか:白血病(MDS を含む)
剖検例における内臓真菌症の疫学─日本病理剖検輯報(1990,
1994,1998,2002 年版)の解析.真菌誌 47: 15-24, 2006
4)山口英世:Ⅲ.真菌症の疫学と感染機序,2.真菌症の疫学.病
原真菌と真菌症 改訂 3 版(山口英世著),南山堂,東京,
pp40-51,2005
[2]
診断
1
診断法の正しい利用法と注意点
本項では、培養検査、顕微鏡検査(鏡検)
、病理組
ため、深在性真菌症の疾患名に使われている菌名
織学的検査、血清診断、遺伝子診断、および画像診
は多くの場合属名であり、菌種名は示されていな
断を取り上げ、現在わが国で深在性真菌症に用いる
い。その結果、同じ「アスペルギルス症」であって
ことのできる診断法を、網羅的に解説する。ここで
も、原因真菌が
は、診断法の利用法、特に注意点に関して言及した
amphotericin B 感受性)なのか、
い。
photericin B 耐性株が多い)による感染であるの
深在性真菌症の診断法としては、病変部の菌の存
(大部分が
( am-
かの区別ができない。したがってアスペルギルス
在を示す確定診断法と、菌の関与を示唆する補助診
症と診断した場合、すべて
断法とにわけて考える必要がある(表 1 )
。本ガイド
判断して治療するのは危険である。同様の現象は
ラインで取り上げられている診断法のなかでは、培
カンジダ症など他の疾患でも起こりえる(例:
感染と
養検査、鏡検および病理組織学的検査が確定診断法
であり前二者は真菌学的検査法として一括される。
によると
感染など)
。
・現時点では、原因真菌の薬剤感受性試験は培養検
一方、血清診断と遺伝子診断が補助診断法に該当し、
査による原因真菌の分離同定なしには行えない。
画像診断もこれに含められる。診療にあたっては確
抗真菌薬感受性分布のよく知られていない菌種や
定診断を目標とするのは当然であるが、臨床的制約
菌株によるばらつきの大きい菌種では、たとえ菌
により確定診断法を用いることができない場合、あ
種が確定しても感染性データがない場合には薬剤
るいは明確な結果が得られない場合に、補助診断法
の選択を慎重に行う必要がある(例:フサリウム
と臨床情報とを組み合わせて、暫定的な診断を行う
など)
。
ことになる。このため、実際の診断にあたっては、
・原因菌種の多様化(いわゆる新興真菌の出現)が
各診断法の特徴(と限界)を理解し、それらを適切
先進各国で指摘されているが、わが国も例外では
に組み合わせて使用することにより、少しでも確定
ない。このような新興真菌症では多くの場合、特
診断に近づくよう努力する必要があるが、確定診断
異的な補助診断法が存在しないか、あるいは未確
法を用いることができず補助診断法のみの場合は、
立である(例:接合菌症、スケドスポリウム症、
あくまで暫定的な診断であることを認識しておく必
フサリウム症など)
。したがって、あらゆる補助診
要がある。
断法が陰性でも真菌症を否定できない。
各種診断法の利用にあたっては下記の点に注意す
・病態や菌種に応じて診断法の判定基準が変わる場
る必要がある。
合がある。例えばアスペルギルス症における抗原
・培養検査以外では、遺伝子解析法を除いて菌種レ
測定では、症例や病態により様々な抗原価をとる
ベルの同定は事実上不可能といってもよい。この
ことが知られているが、さらに、多くのデータが
39
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
表1
深在性真菌症の確定診断と血清診断法(保険収載分のみ)
*1
診断法
確定診断法
培養検査
顕微鏡検査(鏡検)
カンジダ症
アスペルギルス症
クリプトコックス症
接合菌症
○∼◎
△∼○
○
×
×
×
◎
×
○∼◎
○
◎
○∼◎
特異抗原検出
○
○
○∼◎
─
特異抗体検出
×
△
×
─
病理組織学的検査
血清診断法
有用性
*2
*3
*2
*3
*2
-β-D-グルカン測定
(1→ 3)
◎
△
×
×
D-アラビニトール測定
△
×
×
×
◎:非常に有用。可能であれば試みるべき
○:有用。試みる価値あり
△:病態により有用な場合がある
×:通常あまり有用でない
*1 実際の有用性は病態・基礎疾患などに左右される
*2 菌種の同定は通常困難である
*3 接合菌症、クリプトコックス症などを除く多くの真菌症で上昇する。鑑別は不能
造血幹細胞移植を受けたハイリスク症例群を対象
気道病変を有する疾患では誤った判断に導かれる
として作成されたものであり、アスペルギローマ
恐れがある。
の増悪例などにこれを直接当てはめるのは適切で
このように、複雑化する真菌症に対応するために
ない。また、クリプトコックス症やカンジダ症に
は、正しい診断法の選択・組み合わせと、得られた
おける抗原検査においては、原因真菌の種類によ
結果の正しい解釈が求められている。
って感度が変化することが知られている。
現在、診断法の改良・進歩を目指して各種の研究
・補助診断法を本来の目的から外れた方法で使用し
が行われている。血清診断ではより高い感度・特異
た場合、信頼性が確保できない。典型的な例とし
度、あるいはより多様な菌種への適応を目標に新し
て、血液を検体とする前提で開発された GeniQ-ア
い研究が進んでいる。遺伝子解析については、分離
スペルギルスを、原因真菌以外の様々な腐生真菌
培養された真菌の遺伝子同定法に関しては確立され
の混入が高頻度で起こる気管支肺胞洗浄液( bron-
つつある。さらには臨床検体から直接に真菌の遺伝
choalveolar lavage fluid;BALF )に適用し、偽陽性
子を検出する遺伝子診断法についても、感度、定量
が生じるケースなどがあげられる。また、プラテ
性などの観点から改良が積み重ねられており、加え
リアアスペルギルスを BALF に応用した症例報告
て薬剤耐性遺伝子などを直接検出しようという試み
も散見されるが、程度の差こそあれ基本的に同様
も行われている。今後の展開が期待される。
の危険性があり、特に腐生菌が定着しやすい慢性
40
2
培養検査
深在性真菌症原因真菌の臨床検体からの培養陽性
・臨床検体と培養条件
率は低く、必ずしも臨床現場で十分試みられている
深在性真菌症原因真菌の多くはありふれた環境菌
とは言い難い。しかしながら、原因真菌の分離同定
であるから、分離培養に供する検体としては、血液、
は感染症診断上のゴールドスタンダードであり、確
髄液などの無菌的検体が最も適切である。しかし、
定診断上も欠くべからざる重要な検査であることを
喀痰などの汚染検体を培養した場合であっても、原
認識し、その実施に向けて可能な限りの努力を払う
因真菌と推定できる同一菌種(表 1 )が繰り返し分離
べきである。
されれば原因真菌として推定することが可能である。
また逆に、稀な原因真菌が分離同定された場合には、
表1
臨床検体から分離される主要病原真菌
検体
血液
たとえ分離源が無菌的な検体であったとしても、こ
れを原因真菌と判定するためには該当菌種が複数回
主要病原真菌
カンジダ属その他の半子囊菌酵母
トリコスポロン属
検出されることが必要である。手術検体については
Cryptococcus neoformans(Filobasidiella neoformans)、その他のクリプトコックス属
フサリウム属
Penicillium marneffei
Histoplasma capsulatum(Ajellomyces capsulatus)
髄液
カンジダ属その他の半子囊菌酵母
だけ多くの組織片を培養に供する。
使用する培地(表 2 )は、血液培養のように培養
検出系がキット化されている場合を除いて、想定さ
れる原因真菌によって使い分けることが有効である。
一般的には非選択培地として、クロラムフェニコ
Cryptococcus neoformans
ールなどの抗細菌薬を添加したポテト・デキストロ
喀痰等 アスペルギルス属
Scedosporium apiospermum(Pseudallescheria
boydii )
Cryptococcus neoformans
フサリウム属
接合菌(リゾプス属、アブシジア属、ムーコル属、カ
ース(またはサブロー・デキストロース)寒天培地を
用い、37 ℃および 27 ℃(または室温)で培養、少な
くとも 1 週間は毎日観察し、真菌の発育がみられた
ら逐次分離する。この時、複数の菌が同時、あるい
は時間差をもって発育してくる場合もあり、真の原
ニングハメラ属、他)
表2
病巣の中心部ではなく、外縁部を細切して、できる
深在性真菌症原因真菌の培養に用いられる寒天培地と発育可能な菌種
培地
特徴
発育可能な菌種
クロラムフェニコール添加ポテト・デキストロース 一般的に用いられる非選択培地であるが、ポテト・ 全菌種
*
寒天培地
デキストロース寒天培地のほうが一般に発育支持が (マラッセチア属 の
大部分とニューモシ
クロラムフェニコール添加サブロー・デキストロー 良い
スチス属を除く)
ス寒天培地
血液寒天培地
ブレイン・ハート・インフュージョン(BHI)寒天培地
病原酵母鑑別用酵素基質培地( CHROMagar™
Candida、Vi-Candida 等)
ヒストプラズマ等の発育不良な二形性真菌を無菌的
検体から分離する場合に用いる
主要カンジダ属菌種については、発色によって菌種
の鑑別が可能。他の多くの菌種発育を支持するが、
コロニーの肉眼的所見は典型的ではないので注意が
必要
シクロヘキシミド添加サブロー・デキストロース寒 アスペルギルス属等、多くの糸状菌の発育を抑制す 大部分のカンジダ属
天培地(マイコセル™等)
るので注意が必要
と白癬菌ほか
*マラッセチア属は、時にカテーテル感染の原因真菌となることが知られているが、上記のいずれの培地でも十分な発育が認められない。培地
平板上に酵母による微細なコロニーが認められた場合には、オリーブオイル等を重層することによって、本菌の発育を支持できる場合がある
41
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
因真菌の発育が環境汚染菌の発育よりも遅れる場合
( CHROMagar™ Candida、Vi-Candida など)が市販
があることに留意する。培養時間は、可能であれば
されており、分離培養とともに主要菌種の鑑別がで
2∼4 週間程度まで継続することが望ましい(室温も
きる点で有用性が高い。
可)。また、寒天培地平板に培養する場合には、乾
・分離菌株の同定
燥を防ぐためにビニールテープなどで、軽くシール
酵母の場合は、一般的な検査室で使用されている
(または密封シール後に針にて数カ所穿孔)すること
生化学的同定キットによって通常は同定が可能であ
も重要である。
「真菌用」として市販されている培地のなかには、
るが、糸状菌では、スライドカルチャー法などによ
る形態学的同定が必要になる。菌種によって、有効
主に皮膚科領域で白癬菌の分離を想定してシクロヘ
な抗真菌薬が異なることから( 56 頁 表 1-1、1-2 キシミドを添加したものがある。深在性真菌症原因
参照)
、検査室の協力のもとに可能な限り最終的な菌
真菌には、主要なカンジダ属菌種を除いてシクロヘ
種同定が得られるよう努めることが重要である。ま
キシミド感受性のものが多いため、特にアスペルギ
た、病原真菌の同定を商業的に受託する業者(ファ
ルス属の分離が予想される検体については、シクロ
ーストラボラトリーズ社、東洋紡ジーンアナリシス
ヘキシミド添加培地を使用してはならない。
など)もあることから、その有効活用も考慮する。
カンジダ属の初代分離培地として、発色基質培地
42
3
顕微鏡検査および病理組織学的検査
表1
1
顕微鏡検査(鏡検)
主な鏡検用検体と真菌が検出された場合の診断的意義
検体
鏡検に際しては、採取された検体内の菌
形態が感染防御担当細胞などにより修飾さ
れ、典型的な形態を示すとは限らないので、
留意する必要がある。
糸状菌
酵母・仮性菌糸
無菌部位からの穿刺・吸引液
◎
◎
気管支肺胞洗浄液(BALF)
または擦過物
◎
△
喀痰
◎
△
尿
−
○
◎:極めて診断的意義が高い、○:有意義である、△:ほとんど意義がない、
−:該当する症例は極めて稀
1a
1d
1b
1c
1e
1f
写真 1 鏡検で観察される代表的な病原真菌の形態
/ b Aspergillus fumigatus:隔壁のある菌糸の集塊(グロ
a Aspergillus fumigatus:Y 字状の分岐を示す菌糸(パパニコロウ染色、400 倍)
/ c Candida albicans:仮性菌糸並びに一部に真性菌糸を認める(グロコット染色、400 倍)
/ d Candida albicans:
コット染色、400 倍)
/ e Candida albicans:仮性菌糸と酵母が混在(グロコット染色、400
アスペルギルスと極めて類似する真菌要素(グロコット染色、400 倍)
倍)
/ f Cryptococcus neoformans:非染色性の halo として観察される莢膜(矢頭)をもつ酵母(パパニコロウ染色、400 倍)
・糸状菌に関する形態的鑑別の注意点
鏡検や病理組織学的検査のみで原因真菌の菌種を特定
診断などの実施に極力努めるべきである。特に、培養が困
することは一般に困難である。特に糸状菌では、アスペル
難な症例で糸状菌が検出された場合、アスペルギルス抗
ギルス属とフサリウム属やスケドスポリウム属などとは薬
原の検出に努めることを推奨する。これによりアスペルギ
剤感受性が異なるにも関わらず両者の形態的鑑別は事実
ルス糸状菌症と非アスペルギルス糸状菌症とを区別する
上不可能に近いといった例があり、培養検査ならびに血清
ことは、治療方針を決定するうえできわめて重要である。
43
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
2
病理組織学的検査
1)生検
深在性真菌症の診断に用いられる主な生
検材料としては、食道や胃などの上部消化
管と経気管支的肺あるいは気管支があげら
れる。写真 2 に生検材料の病理組織学的検
査によって診断される代表的な真菌症であ
る食道カンジダ症の組織を示す。鉗子生検
2a
2b
写真 2 内視鏡による鉗子生検で確定診断された食道カンジダ症
a PAS 染色、200 倍/ b PAS 染色、400 倍
で採取された組織では、肥厚した扁平上皮
とその表層に出現した角層中に酵母・仮性
菌糸両者の形態を示すカンジダの真菌要素
が認められる。
2)切除検体
空洞壁
菌球を形成する
アスペルギルス
4a
3a
4b
写真 4
3b
写真 3
外科的に切除された組織の病理組織学的検査
例 1(非侵襲性肺アスペルギルス症)
内科的治療に対して症状の改善がみられなかった肺アスペ
ルギローマの切除標本(a エラスティカ・マッソン染色、2
倍/ b グロコット染色、40 倍)
44
外科的に切除された組織検体の病理組織
学的検査例 2(肺接合菌症)
顆粒球減少時に発症した肺接合菌症。太幅で中空の菌糸
に直角に近い分岐がみられる(a マッソン・トリクロー
ム染色、1 倍/ b グロコット染色、400 倍)
4
血清診断
わが国の臨床現場では血清診断法を補助的に用い
など非侵襲性病変の場合には一般に上昇がみられな
て深在性真菌症を早期に臨床診断し、治療に結びつ
い。またβ-D-グルカン値はクリプトコックス症では
ける努力が欧米諸国以上に熱心に行われてきた。し
上昇しにくく、接合菌症ではまったく上昇しないこ
かし各々の検査の精度には限界があり、必ずしも十
とも知られているので注意が必要である。
分に満足できる成績が得られていないのが現状であ
現在わが国の臨床現場で使用可能なβ-D -グルカ
る。したがって深在性真菌症を発症したハイリスク
ン測定キットは、アルカリ処理−発色合成基質カイ
患者では、いくつかの血清診断法を組み合わせ、定
ネティック法( MK 法)
、希釈加熱−比濁時間分析法
期的に測定することで診断の精度を高めるなどの工
(ワコー法)
、希釈加熱−発色合成基質エンドポイン
夫が必要である。また各検査法の特徴をよく知り、
ト法(マルハ法)の 3 つである。各々は測定方法、検
得られた成績の評価を行うことが重要である。
体前処理法、標準品、主剤原料などが異なっており、
MK 法では 20 pg/mL、ワコー法およびマルハ法で
(1 → 3)-β-D- グルカン
1(β
-D-グルカン)測定
は 11 pg/mL、のカットオフ値が設定されている。
各々の特徴を表 1 に示した。
β-D-グルカンは主要な病原真菌に共通する細胞壁
β-D-グルカン値測定は様々な要因で偽陽性を生じ
構成多糖成分の一つである。したがって抗原検出法
うるので、測定結果の判定には注意を要する。天然
のように病原真菌の特定の属に特異的というわけで
素材の透析膜、アルブミンや免疫グロブリンなどの
はなく、深在性真菌症のスクリーニング検査として
血液製剤、ガーゼなどにはβ-D-グルカンを含有して
位置づけられる。β - D- グルカンはカンジダ属やア
いるものがある。またレンチナンなどβ-D-グルカン
スペルギルス属の細胞壁には豊富に含有されている
そのものを製剤化した薬品もあり、このような医療
ので、これらの真菌による侵襲性病変のある患者で
材料由来のβ-D-グルカンが検体に混入すると測定値
はその血中レベルが上昇する。EORTC/MSG 診断
が高値を呈することがある。さらに検体取り扱いの
1)
基準(草案) でも probable case の microbiological
際に、自然界に分布するβ-D-グルカンが混入した場
criteria の一つにβ-D-グルカン測定が採用され、ア
合にも高値を呈する。一方、溶血検体や高濃度の
スペルギルス症とカンジダ症への適応が示されてい
γ-グロブリン含有検体ではβ-D-グルカン値測定時、
る。ただし、食道カンジダ症や肺アスペルギローマ
反応液中にβ-D-グルカンによらない非特異的な混濁
表1
2-6)
-β-D- グルカン測定キットの比較
わが国で臨床応用可能な(1 → 3)
MK 法
ワコー法
マルハ法
測定原理
カイネティック比色法
カイネティック比濁法
エンドポイント比色法
検体
血漿・血清
血漿・血清
血漿・血清
検体前処理
アルカリ法
希釈加熱法
希釈加熱法
標準品
パキマン
カードラン
レンチナン
主剤原料
Tachypleus tridentatus
Limulus polyphemus
T. tridentatus
カットオフ値
20 pg/mL
11 pg/mL
11 pg/mL
測定範囲
3.9∼500 pg/mL
6∼600 pg/mL
1.2∼120 pg/mL
主反応時間
30 分
90 分
30 分
感度
◎
△
△
特異度
○
◎
◎
45
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
2、
3、
12-18)
β-D -グルカン値を判定する必要がある。β-D -グル
表 2 血清診断法の成績に影響を及ぼす因子
血清診断法
カン測定値に影響を及ぼす因子を表 2 上段に示した。
偽陽性
β-D-グルカン セルロース素材の透析膜を用いた血液透析
測定法
血液製剤(アルブミン製剤、グロブリン製剤
など)の使用
環境中のβ-D-グルカンによる汚染
また検査キットによって、検体中のβ-D-グルカン
に対する反応性にも差異があり、感度・特異度など
検査性能に優劣を生じている。最も感度が優れてい
るものは MK法であり、ワコー法とマルハ法は特異
β-D-グルカン製剤の使用
3、
5、
6)
Alcaligenes faecalis による敗血症患者
度に優れている
測定中の振動(ワコー法)
など免疫状態の極めて不良な患者を扱う領域では、
非特異反応(溶血検体、高グロブリン血症
など)の出現
わずかな治療の遅れが患者の予後に直結しやすいの
プラテリア
タゾバクタム/ピペラシリン投与
アスペルギルス
クラブラン酸/アモキシシリン投与
。血液内科領域や臓器移植領域
で、特異度よりもむしろ感度を重視して MK 法を選
択するのがよいと考えられる。一方、呼吸器内科領
域、外科領域など、免疫状態が比較的保たれている
ビフィドバクテリウム属の腸管内定着
患者を対象とする領域では、検査の感度のみならず
C. neoformans galactoxylomannan
特異度にも重点を置くべきであり、得られたβ-D-グ
大豆タンパクを含む経管栄養
ルカン値の評価はより慎重に行われなければならな
い。
(非特異反応)が生じるために、測定値が高値を呈す
2、
3)
るものがあることも判明した
。非特異反応の出現
は、ワコー法やマルハ法では少なく、MK 法で特に
頻度が高いので問題視されていた。しかし 2005 年 7
4)
月に MK 法のアルカリ前処理液が改良 され、MK
各種真菌特異的抗原および抗体の検出
2
主な病原真菌の特異抗原を検出するキットが臨床
現場で頻用されている。
法における非特異反応の問題も概ね解決されてい
わが国ではカンジダのマンナン抗原、クリプトコ
る。β-D-グルカン値測定における偽陽性には、真菌
ックスのグルクロノキシロマンナン抗原、アスペル
以外のβ-D-グルカンによる偽陽性と非特異反応など
ギルスのガラクトマンナン抗原などが臨床応用され
による偽陽性があるので、臨床所見や経過と合致し
ている。各種抗原検出キットの特徴を表 3 に示した。
ない測定値が返却された場合には、採血手技、検体
このうちアスペルギルスのガラクトマンナン抗原測
移送、また宿主の状態や基礎疾患なども考慮して
定は、EORTC/MSG 診断基準(草案) ではアスペル
1)
7-11)
表 3 わが国の日常診療で用いられる各種真菌抗原検出キットの比較
ユニメディⓇ
カンジダ
検出対象抗原
C. albicans
プラテリア
カンジダ Ag
C. albicans
セロダイレクトⓇ
*
栄研クリプトコックス
C. neoformans
パストレックスⓇ
*
クリプトプラス
C. neoformans
プラテリア
アスペルギルス
A. fumigatus
マンナン抗原
マンナン抗原
グルクロノキシロ
マンナン抗原
グルクロノキシロ
マンナン抗原
ガラクトマンナン抗原
検体
血清
血清
血清
血清
血清
測定原理
ELISA
ELISA
ラテックス凝集法
ラテックス凝集法
ELISA
カットオフ値
または陽性基
準
0.05 ng/mL
0.5 ng/mL
凝集
凝集
カットオフインデックス 1.5 以上
(
血液内科領域では、独自
に 0.5∼0.7 を基準値とす
ることを推奨
感度
○
△
◎
◎
○
特異度
◎
◎
◎
◎
○
*クリプトコックス抗原検出には、脳髄液でも行われている
46
)
[2]診断
ギルス症の probable case の診断基準に採用されて
は、感度が低く現在では用いられない。ELISA は従
いる。
来法の高い特異度を損なわずに感度の向上が得られ
たキットとされてきたが、血液疾患領域では独自に
1)カンジダ症
現行のカットオフ値 1.5 をさらに引き下げて運用
本症の血清診断には従来、ラテックス凝集法を用
9-11)
し
、より高感度を得る工夫がなされている。ただ
いたマンナン抗原検出キットや易熱性糖蛋白抗原検
し、呼吸器内科領域でこれと同様のカットオフ値を
出キット、また D-アラビニトール測定キットなどが
適用することは、偽陽性結果をきたす原因となるこ
使用されてきたが、その検査性能や手技の煩雑さの
とが予想されるので、慎重であるべきであろう。
問題から最近はほとんど使用されなくなった。現在
はマンナン抗原を ELISA で検出する次の 2 種類の
キットが利用可能である。ユニメディⓇカンジダは、
ポリクローナル抗体を用いていることから比較的幅
プラテリアアスペルギルスの測定結果に影響をき
12-17)
たす様々な要因も報告
されているので表 2 下段
( 45 頁)に示した。これらの要因以外に、抗真菌薬
19 )
投与による本キットの感度低下の報告 もある。
広いカンジダ属菌種のマンナンに反応する。一方プ
他方、肺アスペルギローマや慢性壊死性肺アスペ
ラテリアカンジダ Ag は、モノクローナル抗体を用
ルギルス症( chronic necrotizing pulmonary
いているために
な
aspergillosis;CNPA )のような慢性アスペルギルス感
や
染症では、ガラクトマンナン抗原は検出されにくく、
や
どには優れた反応性を有するものの、
には反応性が低い
7、
8)
。
また、フロース
ルー EIA の応用によって、ユニメディ カンジダと
Ⓡ
抗アスペルギルス沈降抗体を検出することが臨床診
断の参考になる。
同じ抗体を用いた単検体用キットも市販されている。
両キットともカンジダ感染症全般の診断に利用され
るが、厳密には
マンナンの検出キットで
ある点を認識すべきである。特にプラテリアカンジ
ダ Ag では、カンジダ属菌種によっては陽性反応を
示さない場合があるので注意する必要がある。
2)クリプトコックス症
ラテックス凝集法で
のグルクロノ
キシロマンナン抗原を検出する 2 種類のキットが利
用可能である。いずれも感度・特異度ともに優れた
キットであるが、播種性トリコスポロン症でも陽性
化するので注意を要する。
3)アスペルギルス症
ELISA でガラクトマンナン抗原を検出するキット
(プラテリアアスペルギルス)が使用される。
1)
EORTC/MSG 診断基準(草案) では、侵襲性アス
ペルギルス症の probable case の microbiological criteria の一つに本キットを用いて測定したガラクトマ
ンナン抗原の陽性化が採用されている。血清および
血漿、または肺胞洗浄液、胸水、髄液で 1 回以上陽
性であることを基準としている。
従来のラテックス凝集法を用いた抗原検出キット
◉参考文献
1)De Pauw B, Walsh T, Donnely JP,
.: EORTC/MSG
Consensus revised definitions draft VI. http://www.doctor
fungus.org/lecture/EORTC_MSG_rev06.htm(2006 年 12 月)
-β-D-グ
2)吉田耕一郎,二木芳人,宮下修行,ほか:血中(1 → 3)
ルカン測定法の非特異反応検出に関する検討.感染症誌 76:
754-763, 2002
-β-D3)吉田耕一郎,二木芳人,毛利圭二,ほか:血漿中(1 → 3)
グルカン測定法における非特異反応出現に関する検討.感染症
誌 79: 329-340, 2005
4)吉田耕一郎,二木芳人,松田淳一,ほか:改良アルカリ前処理
-β-D-グルカン測定法の基礎的検討.
法を用いた血中(1 → 3)
感染症誌 79: 433-442, 2005
5)茂呂 寛,塚田弘樹,小原竜軌道,ほか:臨床検体を用いた血
-β-D- グルカン測定キット 4 種類の比較検討.感染
中(1 → 3)
症誌 77: 227-234, 2003
6)吉田耕一郎,宮下修行,尾長谷靖,ほか:改良アルカリ前処理
-β-D- グルカン測定法の臨床的有用性─従
法を用いた(1 → 3)
来法との比較─.感染症誌 80: 701-705, 2006
7)吉田耕一郎,二木芳人,宮下修行,ほか:ELISA を用いたカン
ジダマンナン抗原検出キットの臨床的有用性.感染症誌 76:
536-541, 2002
8)Rimek D, Singh J, Kappe R: Cross - reactivity of the
PLATELIA Candida antigen detection enzyme immunoassay
with fungal antigen extracts.
41: 3395-3398,
2003
9)Marr KA, Balajee SA, McLaughlin L,
.: Detection of galactomannan antigenemia by enzyme immunoassay for the
diagnosis of invasive aspergillosis: variables that affect performance.
190: 641-649, 2004
47
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
10)Kawazu M, Kanda Y, Nannya Y,
.: Prospective comparison of the diagnostic potential of real-time PCR, double-sandwich enzyme-linked immunosorbent assay for galactoman-beta-D-glucan test in weekly screening for
nan, and a(1 → 3)
invasive aspergillosis in patients with hematological disorders.
42: 2733-2741, 2004
11)Maertens J, Theunissen K, Verbeken E,
.: Prospective
clinical evaluation of lower cut-offs for galactomannan detection in adult neutropenic cancer patients and haematological
stem cell transplant recipients.
126: 852-860,
2004
12)Viscoli C, Machetti M, Cappellano P,
.: False-positive galactomannan platelia
test results for patients re38: 913-916,
ceiving piperacillin-tazobactam.
2004
13)Walsh TJ, Shoham S, Petraitiene R,
.: Detection of galactomannan antigenemia in patients receiving piperacillin-tazobactam and correlations between in vitro, in vivo, and clinical
properties of the drug-antigen interaction.
42: 4744-4748, 2004
14)Mattei D, Rapezzi D, Mordini N,
.: False - positive
galactomannan enzyme-linked immunosorbent
48
assay results in vivo during amoxicillin-clavulanic acid treatment.
42: 5362-5363, 2004
.:
15)Mennink - Kersten MA, Ruegebrink D, Klont RR,
Bifidobacterial lipoglycan as a new cause for false-positive
platelia
enzyme-linked immunosorbent assay reactivity.
43: 3925-3931, 2005
16)Dalle F, Charles PE, Blanc K,
.:
Galactoxylomannan contains an epitope(s)that is cross-reactive with
galactomannan.
43:
2929-2931, 2005
17)Murashige N, Kami M, Kishi Y,
. : False-positive results
of
enzyme-linked immunosorbent assays for a
patient with gastrointestinal graft-versus-host disease taking
a nutrient containing soybean protein.
40:
333-334, 2005
18)田中重則:比色法による深在性真菌症スクリーニング法として
の血中β-グルカン測定.臨床に活かせる深在性真菌症検査法.
直江史郎監修,川上 浩,森 健,前﨑繁文編集,メジカルセ
ンス,東京,pp24-34,2002
19)Marr KA, Laverdiere M, Gugel A,
.: Antifungal therapy
decreases sensitivity of the
galactomannan enzyme immunoassay.
40: 1762-1769, 2005
5
遺伝子診断
深在性真菌症の遺伝子診断法は、未だに保険適用
って 、カンジダ 属 、ア スペ ル ギ ル ス 属 、および
がなく、また感度の点では鏡検法や一部の血清診断
の同定が可能である。さ
法に優れるものではない。しかし、遺伝子診断法で
らに直接塩基配列決定法を併せて指示することによ
は菌種固有の塩基配列を検出・同定することが可能
ってより広汎な病原真菌の同定も期待できる。本法
であることから、汚染などによる影響を除外すれば、
の nested PCR 系はキットとしても市販(東洋紡)さ
補助診断法として診断・治療へ結びつく判断材料の
れている。
提供が期待できる。
③ ニューモシスチス遺伝子診断( SRL、大塚アッセ
現在、深在性真菌症の遺伝子診断として、商業的
に利用できるものとしては、下記のものがある。
イ研究所ほか)
かつて
と呼ばれた
をはじめとして種々の
各々の検出可能菌種を表 1 に示した。
① GeniQ-カンジダ/-アスペルギルス(大塚アッセイ研
究所)
(属)に対す
3)
る特異的 PCR法 である。実質的に培養が不能であり、
病原診断としては塗抹鏡検が唯一の手段であったニュ
TaqMan システム(Applied Biosystems)による
ーモシスチス肺炎(
定量的遺伝子診断法(リアルタイム PCR 法)であ
nia;PCP )の診断法として、広く利用されている。
Ⓡ
1)
pneumo-
る 。GeniQ-カンジダは、カンジダ属を FLCZ 感受
定量 PCR 法と通常の PCR 法の両方の検査法が提供
性の高い菌種グループと低い菌種グループに識別で
されている。
き、治療薬選択時に有用である。また、GeniQ-アス
ペルギルスは、アスペルギルス属全般を特異的かつ
高感度に検出できる。
② 病原真菌遺伝子検出(東洋紡ジーンアナリシス)
広範囲の病原真菌を標的とした、通常の PCR 法
2)
による定性的遺伝子診断法である 。定量 PCR 法に
比して低感度であるが増幅された真菌特異的 DNA
断片に対して、nested PCR 法を施行することによ
表1
◉参考文献
1)Kami M, Fukui T, Ogawa S,
.: Use of real-time PCR on
blood samples for diagnosis of invasive aspergillosis.
33: 1504-1512, 2001
2)Makimura K, Murayama SY, Yamaguchi H: Detection of a
wide range of medically important fungi by the polymerase
chain reaction.
40: 358-364, 1994
3)Wakefield AE, Pixley FJ, Banerji S,
.: Detection of
with DNA amplification.
336:
451-453, 1990
わが国において商業的に実用化された深在性真菌症の遺伝子診断法と検出・同定可能な菌種群
検出(同定)可能な菌種(群)
検査名
検体名
血液
GeniQ-カンジダ
GeniQ-アスペルギルス 血液
P. jiroveci カンジダ属
アスペル
ギルス属
フサリ
ウム属
C. neoformans
トリコス
ポロン属
接合菌門
×
①
×
×
×
×
×
×
×
○
×
×
×
×
病原真菌遺伝子検出
血液、BALFほか
×
○
○
×
○
○
×
ニューモシスチス
遺伝子診断
喀痰、BALF
○
×
×
×
×
×
×
○:検出可能
×:検出不能
①:FLCZ に対する高感受性菌種(Candida albicans 等)と、低感受性菌種(C. glabrata、C. krusei )とを識別できる
BALF:気管支肺胞洗浄液
49
6
画像診断
画像検査は深在性真菌症の重要な補助診断法の一
つである。培養検査、鏡検、病理組織学的検査、ま
たは血清診断、遺伝子診断と比較した場合、画像検
査は原因真菌に関する情報を提供できないため、確
定診断を下すことができないという欠点がある。し
かしながら、真菌感染の病態を十分に理解した臨床
医が適切に画像検査を行った場合、微妙な感染徴候
を検出し、早期診断、早期治療に有用である。また、
免疫抑制患者が真菌感染症を発生した場合、侵襲性
が低い画像検査は日常臨床の場で最も汎用される検
査法でもある。
本項では代表的な深在性真菌症の画像所見をとり
あげ、その臨床的意義を解説する。
写真 1 侵襲性アスペルギルス症患者に認められた halo
sign
1 ハイリスク患者に発生する
深在性真菌症
アスペルギルス症とカンジダ症が大部分である。
近年、接合菌症やフサリウム症なども話題になって
いるが、症例数が少なく、本項では割愛する。
1)侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)
侵襲性肺アスペルギルス症( invasive pulmonary
aspergillosis;IPA )の早期診断には胸部 CT が有用
である。なぜなら、IPA においては、患者が環境中
のアスペルギルス胞子を吸入することで本菌が体内
に侵入し、肺が最初の感染臓器となるからである。
写真 2 侵襲性アスペルギルス症患者に認められた air -
crescent sign
アスペルギルス感染を血液検体での培養検査、抗原
検査で早期診断することは、その感染経路を考慮し
の菌糸による梗塞組織とその周囲の出血を反映して
た場合、原理的に困難である。ちなみに、単純 X 線
いる 。
写真では熟練した放射線診断医でも約半数の患者で
1)
3)
好中球の回復とともに、IPA がコントロールされ
異常陰影を見落とすため 、胸部 CT 検査の実施が
た場合、CT では air-crescent sign を呈することが
推奨されている。
多い(写真 2 )
。これは回復した好中球が壊死組織を
好中球減少患者が IPA を発症した場合、初期の胸
処理し空洞を形成するためである。IPA 患者では回
部 CT では、単発、あるいは多発性の結節陰影を呈
復期に喀血を生じることがある。これは IPA 病巣が
することが多い。約 3 分の 1 の症例では halo sign
肺血管を損傷し、好中球の回復とともに血管壁が破
2)
を伴う(写真 1) 。好中球減少患者では、halo sign
れるためである。胸部 CT では IPA 病巣と脈管の位
は IPA に特異的と考えられており、アスペルギルス
置関係を把握することが可能であり、致命的出血を
50
[2]診断
予防する適切な処置を行うことが可能になる。
近年、同種造血幹細胞移植の感染管理技術が向上
し、移植後早期の好中球減少時期の IPA が激減した。
現在、多くの IPA は骨髄移植後 3 カ月以上経過して
好中球数が回復した後、移植片対宿主病( graft-versus-host disease;GVHD)を合併した状態で生じる。
IPA 患者の約半数では、CT にて多発性結節陰影を
4)
認めるが、気管支肺炎像を呈することもあるため 、
細菌性肺炎との鑑別が重要となる(写真 3 )
。
IPA からは時に全身臓器への播種が起こる。肺に
原発巣を有するアスペルギルス感染は、血流支配の
関係で中枢神経系に播種しやすく、脳梗塞を生じる
5)
ことが多い 。IPA 患者が神経症状を呈した場合、
写真 3 骨髄移植後の慢性 GVHD 発症時期に気管支肺炎様
の胸部 CT 像を呈した侵襲性アスペルギルス症
中枢神経系への播種の可能性を考え、速やかに画像
検査を行うことが望ましい。梗塞巣の早期検出には
6)
拡散強調画像を用いた MRI が有用であること (写
真 4 )、および早期診断による救命例が報告されて
いる。
2)カンジダ症
カンジダは消化管の常在菌である。抗癌薬・放射
線療法、あるいは細菌感染により消化管粘膜が傷害
された場合に、血中に侵入し、時に全身臓器に播種
する。血流の関係から、肝臓、脾臓に微小膿瘍を形
7)
成することが多い。CT 、超音波検査、MRI などの
画像診断が有用で、多発小膿瘍を描出する。カンジ
ダ感染の場合は血液培養が陽性となりやすく、血液
培養陽性患者がこのような CT 所見を呈した場合に
は確定診断例となる。
写真 4 拡散強調画像を用いた脳の MRI 画像
CT 検査では検出できなかった、早期の中枢神経系アスペルギル
ス症病変が検出されている
カンジダ肺炎も重要な合併症である。稀に人工呼
吸器を介して感染し、気管支肺炎像を呈することが
あるが、通常は血行性播種によって起こり、びまん
8)
性小粒状陰影を呈する 。しかしこのような所見は
非特異的であり、診断的意義は低い。カンジダ感染
が疑われる患者がこのような胸部画像を呈した場合
には、肺への播種を考慮すべきである。
2
非免疫抑制患者に発生する
深在性真菌症
1 )基礎疾患がない患者のクリプトコックス症
結節影を呈する症例が多く、多発するものが半数
を超えるとする報告もある。結節内部に空洞を認め
写真 5 基礎疾患がない患者における肺クリプトコックス
症の胸部 CT 画像
病変部に空洞形成を認める
51
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
写真 6 基礎疾患がない患者に発症した肺クリプトコック
ス症の胸部 CT 画像
写真 8 肺アスペルギローマの胸部 CT 画像
空洞の輪型陰影とその内部の腫瘤状陰影を認め、腫瘤状陰影と
周囲の輪型陰影の間隙には空気層がみられる。これを meniscus sign と呼ぶ
写真 7 肺アスペルギローマの胸部単純 X 線写真
写真 9 慢性壊死性肺アスペルギルス症(CNPA)の胸部
CT 画像
肺内の既存空隙の隔壁肥厚から始まり周囲に不均等な浸潤影ま
たは一塊の腫瘤状陰影を形成している
10)
ることが多い(写真 5 )
。浸潤影は前述のハイリスク
を示唆する典型的な所見とされる(写真 7、8) 。時
患者続発例に比して少ないが約 18 %の頻度とされ、
に菌球周囲に浸潤影を伴うこともある。
9)
2 番目に多い所見である(写真 6) 。
3)慢性壊死性肺アスペルギルス症(CNPA)
2)肺アスペルギローマ
典型的なアスペルギローマの像を形成することな
初期には肺内の空洞壁や胸膜の肥厚がみられ、そ
く、肺内の既存空隙の隔壁肥厚から始まり周囲に不
の後空洞内壁が脱落して真菌球を形成する。空洞の
均等な浸潤影または一塊の腫瘤状陰影を形成するこ
輪型陰影とその内部の腫瘤状陰影を認め、腫瘤状陰
とが多い(写真 9) 。このような症例を臨床的に慢
影と周囲の輪型陰影の間隙には空気層がみられる。
性壊死性肺アスペルギルス症( chronic necrotizing
これを meniscus sign と呼び、肺アスペルギローマ
pulmonary aspergillosis;CNPA )もしくは半侵襲性
52
11)
[2]診断
( semi-invasive )肺アスペルギルス症と分類する場
合もあるが、用語が混乱して使用されており、肺ア
スペルギローマとの明確な臨床的区分が困難な症例
も少なくない。
◉参考文献
1)Kami M, Tanaka Y, Kanda Y,
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scan of the chest, latex agglutination test and plasma(1AE3)
-beta-D-glucan assay in early diagnosis of invasive pulmonary aspergillosis: a prospective study of 215 patients.
85: 745-752, 2000
2)Caillot D, Casasnovas O, Bernard A,
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surgery.
15: 139-147, 1997
3)Hruban RH, Meziane MA, Zerhouni EA,
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11: 506-511, 2005
5)Hori A, Kami M, Kishi Y,
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tive autopsy-based study of 107 patients.
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6)Kami M, Shirouzu I, Mitani K,
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image and polymerase chain reaction of cerebrospinal fluid.
38: 45-48, 1999
7)Thaler M, Pastakia B, Shawker TH,
.: Hepatic candidiasis
in cancer patients: the evolving picture of the syndrome.
108: 88-100, 1988
8)Saubolle MA: Fungal pneumonias.
15:
162-177, 2000
9)Khoury MB, Godwin JD, Ravin CE,
.: Thoracic cryptococcosis: immunologic competence and radiologic appearance.
142: 893-896, 1984
10)Roberts CM, Citron KM, Strickland B: Intrathoracic aspergilloma: role of CT in diagnosis and treatment.
165:
123-128, 1987
11)Gefter WB: The spectrum of pulmonary aspergillosis.
7: 56-74, 1992
53
[3]
治療
FLCZ などの安全で体内動態や組織移行性にも優れ
1 抗真菌薬療法の問題点
た抗真菌薬の登場と、それを用いた経験的治療の普
及によって、FLCZ が優れた治療効果を発揮するカ
深在性真菌症の治療を考えるうえで、問題となる
ンジダ症などでは予後が大いに改善した事実もあ
点がいくつかある。第一には前項にも記されている
る。しかし、これも実際には無駄が多く、経験的治
ように、本症の診断が必ずしも容易でない点である。
療に頼るあまりその後の対応が不十分になるという
第二に、深在性真菌症は多くの場合何らかの免疫不
欠点もある。深在性真菌症の診断と治療のフローチ
全や感染抵抗性減弱状態の宿主にみられることで、
ャート(基本的パターン)を図 1 にまとめて示した。
そのため宿主状態が不良な例が多く、診断の確定ま
これらの治療法の解釈や適応には領域によって若干
で治療開始を待てない場合がほとんどという点であ
違いがみられるが、詳細については各領域で述べら
る。第三には、臨床的に使用可能な抗真菌薬(経口
れているので参照されたい。
や注射で全身投与できるもの)は 9 薬剤( 2006 年 12
また、図 1 には示さなかったが、近年では、診断
月現在)にのぼるが、病態によっては必ずしも満足
の項でも述べられているように、有用で迅速な検査・
すべき治療成績が得られていないことである。しか
診断法もいくつか臨床応用可能となったので、それ
し、現実にはこれらの厳しいともいえる状況下で、
らを応用して早期推定治療( early - presumptive
いかに早期から、いかに適正に抗真菌薬を選択し、
therapy )と呼ばれる方法が米国では主流となりつつ
有効に使用するかが深在性真菌症の治療に求められ
ある。これはいくつかの深在性真菌症について、確
ている。
定診断には至っていないがそれに準ずると評価され
る診断根拠に基づいて、より早期の段階から治療を
2
診断と治療開始のタイミング
開始するものである。経験的治療に比して治療開始
の根拠をある程度明確にする必要があるため、症例
前述の各問題点をつきつめれば、治療を考えるう
を限定することが可能となる。さらに近年では、外
えで最も重要なポイントは、どのようなタイミング
科領域を中心に先制攻撃的治療( preemptive thera-
で、どのような抗真菌薬を使って治療を開始するか
py )と呼ばれる概念が導入されている。これは特定
ということになる。
のリスクファクターを有する宿主では、真菌の colo-
深在性真菌症は様々なリスクファクターを有する
nization(定着)が確認された段階から抗真菌薬投与
患者に発症するので、そのような患者すべてに予防
を開始して発症を防止しようとする先制攻撃的な治
的抗真菌薬投与( prophylaxis )を行うという考えも
療で、予防投与にやや近い概念である。無論、理想
当然生ずる。しかし、耐性化の助長や経済性の点か
的な抗真菌薬療法は、病原真菌と感染部位を明らか
らの批判も多く、骨髄移植や臓器移植を受けた患者
にし(確定診断)
、それに最適な抗真菌薬を選択する
など極めて限られた対象への適応になるであろう。
標的治療( targeted therapy )であることはいうまで
次に考えうることは、非特異的な感染症状や検査
もないが、臨床では特に第一選択薬を選ぶ場合にも
値異常を早期に捉え、さらに宿主状態も考慮してわ
これらの情報がほとんどないことが多く、経験的治
ずかでも真菌感染の可能性があるならば直ちに抗真
療もしくは早期推定治療となる例がほとんどである。
菌薬療法を開始する、いわゆる経験的治療( empiric
いずれにせよ臨床医にとっては、どのように診断
therapy )を行うことである。有用な診断法がほとん
的アプローチを行い、いかに早期に診断精度を高め
どなかった過去においてはよく行われていたが、
ていくかの努力と、宿主状態に応じてどの時点でど
54
[3]治療
A.どのような患者がハイリスクか
好中球減少、抗菌薬使用、ステロイド使用、AIDS、GVHD、長時間手術、ICU 長
期在室、人工呼吸器使用、中心静脈カテーテル留置、高 APACHE Ⅱスコア、多
発外傷、広範囲熱傷など
ハイリスク例
➡
予防
(通常は血液疾患領域のみ)
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床症状/所見:抗菌薬不応性発熱、ショック、咳嗽、血痰、胸痛、呼吸困難、
頭痛、意識障害、腹部鈍痛、黄疸、視力障害など
、WBC↑(増多)
、ESR↑(血沈亢進)
、肝機能異常など
一般検査所見:CRP↑(上昇)
C.どのような検査を実施するか
【補助診断法】
眼底検査: カンジダ眼内炎
画像診断: 胸部 CT の halo sign、air-crescent sign、腹部 CT、MRI、超音波で小
型、末梢性の標的様の肝脾膿瘍、Bull’
s eye sign など
培養検査: 消化管、気道など非無菌部位の colonization
血清診断: β -D-グルカン、カンジダ抗原、D- アラビニトール、ガラクトマンナ
ン、グルクロノキシロマンナンなど
遺伝子診断:PCR 法によるカンジダ、アスペルギルス、DNA 検出など
【確定診断法】
真菌学的検査:血液、髄液、胸水、腹水など無菌部位よりの真菌培養
病理組織学的診断:食道、肺、肝臓、副鼻腔、脳などの生検
真菌症疑い例
➡
経験的治療
臨床診断例
➡
標的治療
確定診断例
➡
標的治療
確定診断例(proven fungal infection)
:確定診断法陽性
:
臨床診断例(clinically documented fungal infection、probable fungal infection)
カンジダ眼内炎の証明→カンジダ血症
画像診断陽性+血清ないし遺伝子診断陽性→播種性カンジダ症や侵襲性アスペルギルス症
:上記以外
真菌症疑い例(possible fungal Infection)
図1
深在性真菌症の診断と治療のフローチャート(基本的パターン)
のような目的で抗真菌薬投与を開始するかの判断力
られているが、特定の臓器への移行性は必ずしも高
が重要となる。
くなく、また毒性が極めて強く副作用が多いために
十分量の投与ができない症例が少なくない。
3
抗真菌薬の選択と使用
AMPH- B 脂質製剤の L- AMB では発熱や悪寒・戦
慄などの急性および長期投与に伴う腎機能障害の頻
各種の深在性真菌症に対する具体的な抗真菌薬の
度がより少なくなっている。他方、FLCZ に代表さ
選択や使用法については、第 1 章および第 3 章で論
れるアゾール系抗真菌薬は、安全性や体内動態では
じられているが、大切な点は、わずか 9 薬剤しかな
AMPH-B にはるかに勝る利点を有する。しかし、抗
い抗真菌薬が、各々の抗真菌活性やスペクトル、体
真菌スペクトルが酵母に限られていたり( FLCZ )
、
内動態や安全性などでかなり違った特性をもってい
経口薬の吸収性に難がある( ITCZ カプセル剤)など
ることを理解しておくことである(表 1-1、1-2、2、
の問題もあるため、適応が一部の症例に限定されて
3 参照)。例えば AMPH-B は、最も幅広い抗真菌ス
きた。しかし FLCZ のプロドラッグである F-FLCZ
ペクトルを有し、抗真菌活性も強力でカンジダ属か
は FLCZ よりも高用量の投与が可能となった。さら
らアスペルギルス属まで殺菌的に作用することが知
に VRCZ では本来 FLCZ が抗真菌活性を有しないカ
55
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
表 1-1 カンジダ属の各種抗真菌薬に対する感受性の比較(文献 1)より改変)
AMPH-B
菌名(菌株数)
5-FC
R
range
range
(%)
FLCZ
R
range
*1
(%)
VRCZ
R
*1
(%)
ITCZ
R
range
(%)
range
MCFG
R
*1
(%)
R
range
(%)
Candida albicans(218) 0.063-0.5
−
≦ 0.125- > 128 0.9
≦ 0.125-128
1.8 ≦ 0.031- > 64
−
≦ 0.016- > 16
2.7 ≦ 0.008-0.125
−
C. parapsilosis(123)
−
≦ 0.125- > 128 2.4
≦ 0.125-128
0.8 ≦ 0.031-2
−
≦ 0.016-1
*2
0.0 ≦ 0.008-4
−
−
0.063- > 16
56.3 ≦ 0.008-1
−
−
≦ 0.016-2
−
≦ 0.125-1
≦ 0.016-1
*2
0.125- > 128
*2
C. glabrata(96)
0.063-2
−
≦ 0.125-0.5
C. tropicalis(62)
0.063-1
−
≦ 0.125- > 128 8.1
≦ 0.125-64
3.2 ≦ 0.031-32
C. krusei(13)
0.25-1
−
8-32
*3
32-128
−
0.0
*2
7.7
1.0 ≦ 0.031-0.5
*2
0.25-1
*2
8.1 ≦ 0.008-0.25
−
−
38.5 0.063-0.25
*1 5-FC、FLCZ、ITCZ の耐性率は、CLSI のブレイクポイントに準拠した
*2 アゾール系薬では、一部の臨床株においてトレーリング発育を示すため、24 時間 MIC 値と 48 時間 MIC 値が 2 管を超える差を示す場合は
24 時間 MIC 値を示し、その他は 48 時間 MIC 値で示した
*3 FLCZ の C. krusei に対するブレイクポイントは確定していない
表 1-2 アスペルギルス属の各種抗真菌薬に対する感受性の比較
2)
AMPH-B
菌名
3)
2)
VRCZ
range(菌株数)
2)
ITCZ
MCFG
range(菌株数)
range(菌株数)
Aspergillas fumigatus
0.25-2(39)
0.125-0.5(10)
0.625-1(39)
range(菌株数)
0.0078-0.0313(39)
A. flavus
0.25-2(11)
0.5-1(5)
0.0625-0.5(11)
0.0078-0.0625(11)
A. niger
0.5-2(11)
0.25(2)
0.5-1(11)
0.0078-0.0625(11)
A. terreus
0.25-2(6)
0.5-1(5)
0.0625-0.25(6)
0.0039-0.0156(6)
(PD の項を除き、各製品添付文書等より抜粋)
表 2 抗真菌薬の薬物動態(PK)と薬動力学(PD)
ポリエン系
AMPH-B 注
ピリミジン系
L-AMB
5-FC
アゾール系
MCZ 注
キャンディン系
*1
ITCZ カプセル
FLCZ
VRCZ
MCFG
*2
血中濃度(μg/mL)
0.5∼3.5
16.19
10∼35
0.96∼3.5
0.76∼1.88
0.25∼0.55
4.5
1.42∼2.39
(1.0 mg/kg)(2.5 mg/kg)(100 mg/kg)(200∼800 mg) (25∼100 mg) (100 mg) (6.0 mg/kg) (25 mg/日、
(Cmax)
7 日後)
血中濃度半減期
約 24 時間
9.8 時間
3∼6 時間
0.69 時間
30 時間
14∼28 時間
(α相)
21.74 時間
(β相)
血漿蛋白結合率
90∼95 %
髄液移行性
2.5∼3.3 %
(対血中濃度移行性) (濃度 0.1μg/
mL 以下)
*3
95.9∼96.9 %
約 3∼4 %
95∼98 %
約 10 %
94.9 %以上
58 %
99.8 %
データなし
80 %
3∼48 %
52∼62 %
ほとんどなし
22∼100 %
データなし
(静注)
?
代謝の有無
4)
*4
PAE
PK / PD
パラメータ
*5
Magnitude
?
代謝されない
主に肝代謝
ほとんど代謝
されない
主に肝代謝
主に肝代謝
主に肝代謝
長い
短い
長い
長い
Peak/MIC
T > MIC
AUC/MIC
Peak/MIC
*6
4(10 )
25 %
・AMPH-B、ITCZ は血液透析で除去されないことが報告されている
*1 未変化体と活性代謝物について示した。両者は同等の抗真菌活性をもつ
*2 7日間反復投与のデータ
*3 VRCZ、MCFG は未変化体についての成績
*4 Postantibiotic effect
*5 動物実験において最大効果の 50 %有効性を示す
*6 最大効果
56
11.6∼15.2 時間
尿(9.1)<糞 尿、糞便中に 尿(90 以上) 尿(15.7)<糞 尿(71.8)>糞 尿(35.2)<便 尿(約 80)> 尿(14.4)<糞
(未 約 10
(ラ
便(29.4)
便(68)
便
(54.1)
便(約 20) 便(83.5)
変化体 72 時
ット)
間)
排泄(%)
PD
6.4 時間
(β相)
25
*6
*
6
3(10 )
[3]治療
表3
抗真菌薬の使用法と副作用
投与法
アムホテリシンB
(AMPH-B)
留意点
副作用と対処法
初回 1 mg を 5 %ブドウ糖に溶解、1 時間か ① 悪寒・戦慄・発熱
けて点滴。以後、5、10、15、30 mg と経日的に
・投与前あるいは投与時にステロイド使用
。ただし、
漸増(維持用量、0.75∼1.0 mg/kg)
ハイドロコルチゾン:0.7 mg/kg
プレドニゾロン:10∼15 mg/body
重症例では短期間での増量を行う
・投与前あるいは投与時に解熱剤使用
2)髄腔内注入 初回:0.1∼0.25 mg/3 mL
アセトアミノフェン、イブプロフェン等
日目:
∼
/回/日 週
∼
回
2
0.25 0.5 mg
2 3
② 嘔吐
3)吸入
1 回 10 mg 以下 1 日数回
・投与前、投与時に制吐剤投与
メトクロプラミド、
ドンペリドン、プロクロルペラジン等
4)気管内注入 5∼20 mg/回/日
③ 腎障害(腎障害の経日的増悪傾向では投与中止)
シロップ 2,400 mg/日 1 日 4 回
5)大量内服
・投与期間中、水分の十分な補給
〔注意〕 ・溶解液としては生食などの電解質液を用い
・投与前および投与終了毎にナトリウムの負荷
ると沈殿を生じる。溶解液は遮光、冷蔵保存
・投与時に尿のアルカリ化:NaHCO3 3∼5 g/回/日
(24 時間以内)
④ 低カリウム血症
・点滴ボトル、点滴ルートはアルミホイルなど
・投与期間中、高カリウム食の十分な補給(バナナ、ホウ
で遮光
レンソウ等)
・白血球輸注との併用は禁忌
・投与期間中のカリウムの補給:力リウムとして 5∼
・AMPH-B 点滴静注の効果は、短時間で投与
6 mEq/kg/日
するほど効果が高いと考えられるが、副作用
⑤ 血栓性静脈炎
発現率も高くなる。24 時間持続投与では安
・輸液に 1,000 U のヘパリンを添加
全性は高くなるが、効果も減弱すると一般に
・小児翼状針の使用
は考えられている
1)点滴静注
アムホテリシンB 点滴静注
リポソーム製剤
(L-AMB)
真菌感染症:
体重 1kg 当たり AMPH-B として 2.5 mg(力価)
を1日1回、1∼2 時間以上かけて点滴静注する
患者の症状に応じて適宜増減できるが、1 日総
投与量は体重 1 kg 当たり 5 mg(力価)までと
する。ただし、クリプトコックス髄膜炎では、1
日総投与量は体重 1 kg 当たり 6 mg(力価)ま
で投与できる
真菌感染が疑われる発熱性好中球減少症:
体重 1 kg 当たり AMPH-B として 2.5 mg(力価)
を1日1回、1∼2 時間以上かけて点滴静注する
〔注意〕 ・白血球輸注との併用は禁忌
・1 バイアルにつき注射用水 12 mL を加え直ちに
激しく振とうし溶解する。溶解液は AMPH-B
/mL となっているので、必要量をシ
4 mg(力価)
リンジに採取し、添付のフィルターにてろ過し
ながら 5 %ブドウ糖注射液で希釈し使用する
フルシトシン
(5-FC)
経口
ミコナゾール
(MCZ)
1)点滴静注
カンジダ症:
600∼1,600 mg/日 1日2∼4 回
クリプトコックス症:
1,200∼2,400 mg/日 1日2∼4 回
アスペルギルス症:
1,200∼2,400 mg/日 1日2∼4 回
→すべて 1 回 30∼60 分かけて点滴静注
→肝代謝が速やかなため、1 日 4 回投与する
か 12 時間持続点滴が好ましい
2)髄腔内注入
5∼20 mg/日 1∼7 日間隔
① 投与時関連反応(発熱、悪寒、悪心、嘔吐、頭痛、背
部痛等)
これらが発現した場合は、点滴を一時中断し、患者
の様子をみながら点滴速度を遅らせて投与を再開する
などの措置をとる。投与時関連反応の予防あるいは治
療法には、点滴速度を遅らせるか、塩酸ジフェンヒドラ
ミン、アセトアミノフェン、塩酸ペチジン及びヒドロコ
ルチゾンの投与が有効であるとの報告がある
② 腎障害
腎障害があらわれることがあるので、定期的に腎機
能、血清電解質(特にカリウム、マグネシウム)の検査
を行うなど、観察を十分に行い、異常が認められた場合
は減量、休薬、血清電解質の補正等適切な処置を行う。
特にこれらの症状が重篤な場合には患者の回復を待っ
て投与を再開する
その他の副作用に対する具体的対処法は、AMPH-B
と同様
① 血液障害
尿路真菌症・消化管真菌症:
・投与前に腎機能をチェックし投与量を決定する
100.0 mg/kg/日 1 日 4 回
真菌性呼吸器感染症:
真菌血症、
真菌性髄膜炎、
・耐性化防止のため 25μg/ mL 以上の血中濃度を保
ち、造血器障害の発現を抑える目的で 125μg/mL
100.0 mg/kg/ 1 日 4 回
を超えないようにする
または、AMPH-B(0.3∼0.35 mg/kg/日)との
併用:
② 悪心・嘔吐
150.0 mg/kg/日
1 回分を 15 分間隔で分服してもよい
③ 腎機能障害
〔注意〕 ・血液透析患者では透析後の投与
・併用禁忌の薬剤あり
腎機能障害患者への 5-FC 投与量(mg/kg/日)
Ccr(mL/min)
:> 40 → 100∼200
6 時間毎(1 日 4 回)
:40∼20 → 50∼100 12 時間毎(1 日 2 回)
:20∼10 → 25∼50
24 時間毎(1 日 1 回)
:< 10 → 25
48 時間毎(25 mg/kg/2 日)
① 心肺機能障害
2 時間以上かけて持続点滴、 200 mg 当たり 50 ∼
200 mL 以上の希釈液として使用
② 悪心・嘔吐
・投与前・後に制吐剤投与
メトクロプラミド、
ドンペリドン、プロクロルペラジン等
③ 低ナトリウム血症
各種輸液でナトリウムを調製
口腔カンジダ症・食道カンジダ症:
200∼400 mg/日 1 日 4 回
〔注意〕 ・併用禁忌の薬剤あり
3)ゲル経口用
(2006 年 12 月現在)
備考:臨床適応の是非や保険適用の有無を考慮したうえで実践に供する。なお、小児の保険適用は MCFG と L-AMB のみである
57
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
表3
抗真菌薬の使用法と副作用(57 頁つづき)
投与法
フルコナゾール
(FLCZ)
留意点
ホスフルコナゾール 静注
(F-FLCZ)
・腎機能障害
腎機能障害患者への FLCZ 投与量(mg/kg/日)
Ccr(mL/min)
:≧ 50 →通常用量
:11∼50 →半量
:透析患者→透析終了後に通常用量
カンジダ症
1∼2 日目:維持用量の倍量を 1 日 1 回
:FLCZ として 100∼
3 日目以降(維持用量)
400mg を 1 日 1 回
クリプトコックス症
1∼2 日目:維持用量の倍量を 1 日 1 回
:FLCZ として 200∼
3 日目以降(維持用量)
400 mg を 1 日 1 回
〔注意〕 ・重症または難治性真菌感染症の場合には、治
療開始時から FLCZ として 400 mg/日 での治
療を推奨。800 mg/日は、F-FLCZ のみ保険
適用
・併用禁忌の薬剤あり
・腎機能障害
腎機能障害患者への投与量
Ccr(mL/min)
:> 50 →通常用量
:≦ 50(透析患者を除く)→半量
:透析患者→透析終了後に通常用量
適応はアスペルギルス症、カンジダ症、クリ
プトコックス症、その他の真菌症
ボリコナゾール
(VRCZ)
1)経口
体重 40kg 以上の場合、初日に 1 回 300 mg
を 1 日 2 回、2 日目以降は 1 回 150 mg または
200 mg を 1 日 2 回(重症または難治性の場合
は、初日に 1 回 400 mg を 1 日 2 回、2 日目以降
は 1 回 300 mg を 1 日 2 回)
体重 40kg 未満の場合、初日に 1 回 150 mg
を 1 日 2 回、2 日目以降は 1 回 100 mg を 1 日 2
回(重症または難治性の場合は、2 日目以降は
1 回 150 mg を 1 日 2 回)
初日に 1 回 6.0 mg/kg を 1 日 2 回、2 日目以降
は 1 回 3.0 mg/kg または 4.0 mg/kg を 1 日 2 回
1 時間当たり 3.0 mg/kg を超えない速度で投与
〔注意〕 ・併用禁忌の薬剤あり
2)点滴静注
イトラコナゾール
(ITCZ)
副作用と対処法
カンジダ症:1 回 50∼100 mg/日 1 日 1 回
クリプトコックス症:
1 回 200∼400 mg/日 1 日 1 回
〔注意〕 ・重症または難治性の場合は、治療開始時から
400 mg/日 投与を推奨
・併用禁忌の薬剤あり
経口 or 静脈内
適応はアスペルギルス症、カンジダ症、クリ
プトコックス症、その他の真菌症、真菌感染が
疑われる発熱性好中球減少症
1)経口(カプセル剤) ITCZ として 100∼200 mg を 1 日 1 回食直後
に経口投与。年齢、症状により適宜増減。重症
の場合は、400mg/日まで増量可
① 腎機能障害患者への VRCZ 注射薬投与
重度の腎機能障害患者(Ccr < 30 mL/min)
:原則禁忌
中等度の腎機能障害患者(Ccr 30 mL /min∼50 mL /
:治療上の有益性が危険性を上回る場合のみとし、
min)
経口薬への切り替えを考慮
② 肝機能障害患者への VRCZ 投与量
・定期的に肝機能検査を行う軽度∼中等度の肝機能
低下(Child Pugh 分類クラス A、B の肝硬変に相
当)患者:投与初日は通常用量とし、2 日目以降の
投与量を通常の半量とする
・重度の肝機能低下(Child Pugh 分類クラス C の肝
硬変に相当)患者:薬物動態、安全性は検討され
ていないため慎重投与
③ 羞明、霧視、視覚障害等の症状が現れることがある
ので、自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事
させないよう十分注意する
・経口薬の用量は調節不要
・注射薬は Ccr < 30 では使用しない
(内用液) 20 mL(ITCZ として 200 mg)を 1 日 1 回空
2)経口
腹時に経口投与。保険適用は、口腔咽頭カンジ
ダ症、食道カンジダ症のみ
3)点滴静注
1∼2 日目:200 mg を 1 日 2 回
:ITCZ として 200 mg を
3 日目以降(維持用量)
1日1回
〔注意〕 ・内用液:服薬の際、数秒間口に含み、口腔内
に薬剤をゆきわたらせた後に嚥下すること
・注射薬:14 日間を超えて継続治療が必要な
場合は、ITCZ カプセル剤 200 mg を 1 日 2 回
に切り替える
・併用禁忌の薬剤あり
ミカファンギン
(MCFG)
点滴静注
アスペルギルス症:
通常、成人で 100∼150 mg、重症で 300 mg 1
日 1 回、小児 3.0∼6.0 mg/kg 1日 1 回
カンジダ症:
通常、成人で 50 mgであるが、重症または難治性
カンジダ症では 1 日 150mg まで増量可能であ
る、1日1回
小児 2.0∼3.0 mg/kg 1日1回
造血幹細胞移植患者における予防
成人で 50mg を 1 日 1 回、小児で 1.0mg/kg
を1日1回
・ 安全性は高いと考えられている
・ ただし、白血球減少、溶血性貧血、血小板減少、ショ
ック、肝機能障害、急性腎不全などがみられること
もあるため注意する
(2006 年 12 月現在)
備考:臨床適応の是非や保険適用の有無を考慮したうえで実践に供する。なお、小児の保険適用は MCFG と L-AMB のみである
58
[3]治療
ンジダ属菌種も含め、カンジダ属からアスペルギル
ス属まで幅広い抗真菌活性が認められる。加えてキ
ャンディン系抗真菌薬の MCFG では、アスペルギ
ルス属やアゾール耐性カンジダ属に対する活性も強
力で、安全性も比較的良好であるが、クリプトコッ
4
その他の注意点
深在性真菌症の治療においては、前述の抗真菌薬
療法以外にも注意すべき点がいくつかある。
クス属に対しては活性を示さないなど、各々に長所・
一つは宿主状態に対する配慮であり、深在性真菌
短所がみられる。これらの点を十分に把握したうえ
症発症のリスクファクターに関する対応である。こ
で、患者の病態に応じた適正な治療選択を心がける
れらのなかには臨床医の適切な処置や対応で改善可
ことが重要である。
能なものもある。例えばカテーテル真菌血症でのカ
抗真菌薬の投与量、投与法なども同様に、症例や
テーテル抜去や、好中球減少症例での G-CSF 投与、
原因真菌に応じての工夫が求められる。例えば、安
低栄養や低アルブミン血症の補正などである。これ
全性の高い FLCZ などは、耐性化傾向のみられる病
らの努力なしにはいかに有効な抗真菌薬が投与され
原真菌に対しては、高用量( 600∼1,200 mg )を投与
ても、深在性真菌症の治療効果は十分に達成されな
す るなど の 試 みも欧 米 で は なされ て いる。また
いことが多いと再認識しておく必要がある。
ITCZ についてはこれまで唯一臨床使用可能であっ
また、安全性の高い抗真菌薬が多くなったため、
たカプセル剤が、体内動態の面で十分な血中濃度を
単剤の治療で無効である難治性真菌症には抗真菌薬
確保できないという難点をもっていた。しかし、
の併用投与が行われることがある。併用投与につい
ITCZ 内用液は吸収の面で優れており、十分な血中
ては
濃度が保たれる。また、近年、AMPH - B ではその
効果、臨床的な併用効果などを十分に確認し、原因
副作用軽減の目的で、24 時間持続点滴が行われる例
真菌や病態に応じた薬剤の組み合わせを行うべきで
が多いが、血中 AMPH- B 濃度を考えると必ずしも
ある。しかし、併用投与ではそれぞれの薬剤の副作
高くなく、そのうえ、AMPH-B の臨床効果は最高血
用が発現することもあるため、安易に行うべきでは
中濃度に依存するとされるため、より短時間の点滴
ない。
での併用効果、動物実験における治療
が有効である。この点、L - AMB では点滴時間が 2
今一つは、同様に宿主状態の不良さに起因するも
時間程度と短くなり、AMPH-B より優れた臨床効果
のとして、深在性真菌症を発症するような患者では
が得られる一つの理由となっている。
細菌感染症(抗酸菌感染症を含む)はもとより、ウイ
◉ loading dose について
ルス感染症や原虫感染症などの特殊な感染症合併の
F-FLCZ や FLCZ、VRCZ、ITCZ(注射薬)では
頻度も高いことを知らねばならない。したがって、
初回投与量を通常用量の倍量用いた loading dose が
真菌感染の診断が得られても油断せず、合併感染症
行われる。これは、PK/PD 理論に基づきできる限り
の可能性を常に念頭に置いて、それらについての診
早期に AUC の面積を大きくすることによって、臨
断・治療努力も繰り返し行うべきである。
床効果を高めるためである(ただし保険適用は、
F-FLCZ は 1 日 800mg まで、FLCZ は 1 日 400 mg
まで認められている。ITCZ は注射薬のみ、VRCZ
は経口薬、注射薬で認められている)
。
また、小児でも理論的には loading dose が有用と
5
本ガイドラインにおける治療戦略
深在性真菌症の種類や病型は各科領域でそれぞれ
の特色があるので、本ガイドラインによる治療戦略
考えられている。しかし、小児においては安全性に
は各臨床領域毎に個別に考えることとした。また、
関する検討が行われていないため、本ガイドライン
診断と治療開始のタイミングや治療薬選択も表裏一
では小児の loading dose は任意の取り扱いとし具体
体の関係にあるので真菌症疑い例( possible fungal
的記載は行わなかった。したがって患児が重症で治
infection )
、臨床診断例( clinically documented fun-
療が急がれる場合には任意に行うものとした。
gal infection、probable fungal infection)を明確にし、
フローチャートで示すように、具体的な流れとして
59
第 2 章 深在性真菌症の疫学、診断法および治療戦略
は、まずどのような症例が真菌症発症のハイリスク
グループかを判断する。この時点では抗真菌薬投与
は行われないが、症例によっては予防的投与が考慮
される。ついでそのような症例で、どのような時に
深在性真菌症発症を疑うかを明らかにし、必要に応
じて経験的治療もしくは早期推定治療をどのように
開始するかを示した。さらにどのような診断的アプ
ローチを行うかも示したうえで、確定診断例並びに
臨床診断例に対する標的治療を提示した。抗真菌薬
の選択と使用法はできる限り具体的に記載するよう
にしたが、症例によって多少のバリエーションを加
えることが当然必要となる。この点については第 3
章を参照されたい。
60
◉参考文献
1)Takakura S, Fujihara N, Saito T,
: National surveillance
of species distribution in blood isolates of
species in
Japan and their susceptibility to six antifungal agents including voriconazole and micafungin.
53:
283-289, 2004
2)池田文昭,大友寿美,中井 徹:キャンディン系抗真菌薬 micafungin の
抗真菌活性,日化療誌 50: S8-19, 2002
3)山口英世:Voriconazole の抗真菌活性,日化療誌 53: S8-15,
2005
4)Andes D: Antifungal pharmacokinetics and pharmacodynamics: understanding the implications for antifungal drug resistance.
7: 185-194, 2004
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