高 校 地 学 炭酸飲料を用いた火山噴火モデルの実験 沖縄県立美里高等学校 目 的 高等学校学習指導要領の地学 I の目標には、「地学的 な事物・現象についての観察・実験などを行い、自然 に対する関心や探究心を高め、地学的に探究する能力 と態度を育てるとともに基本的な概念や原理・法則を 理解させ、科学的な自然観を育成する。」とある。し かし、地学現象の多くは時間的・空間的に広大である ため、実験はほとんど行われていない現状がある。 地学分野において指導要領の目標を達成させるため には、地球物質と類似性を有する素材を用いて地学現 象を再現するアナログモデル実験の考案が有効である と考えられる。 火山噴火の多くはマグマの減圧に伴う発泡現象によ るものと考えられ、炭酸飲料を振ってから栓を開ける と噴き出る様子に例えられてきた。そこで、土を盛っ て作った火山模型を炭酸飲料を用いてモデル噴火させ るアナログ実験を行うことを考えた。 身近で安価な材料を用い、誰でもできる簡単な方法 であること。そして、何よりも楽しい実験であること を心がけた。 概 要 マグマ溜りのマグマに例えた PET ボトル入り炭酸 飲料の上に土を盛って火山模型を作り、炭酸飲料の発 泡による圧力で爆発噴火させる実験を行う。そのため に、炭酸飲料の噴出タイミングをコントロールする方 法を 2 種類考案した。 1 つ目は、炭酸飲料をゴム栓で蓋をし、紐でゴム栓 を強固に固定してから振って発泡させ、紐を切ること で爆発させる方法である。2 つ目は、炭酸飲料の発泡 を促進するキャンディーを PET ボトル内上部に外か ら磁石を用いて固定しておき、磁石を取って炭酸飲料 内へ落とし発泡噴出させる方法である。 2 つの方法とも準備に要する時間は数分であり、生 徒でもできる簡単な方法である。さらに、使用するも のは身近で安価な素材を用いている。材料費として 500 円程度必要なだけで、あとは炭酸飲料と土さえあ ればいつでも実験可能である。 * ながい ひでゆき 永 井 秀 行* 土を盛って作った火山が爆発により吹き飛ぶ様子 や、頂上から流れ下る炭酸飲料はリアルで迫力があり、 生徒の期待度・注目度は極めて高い。実験と実際の火 山噴火とのイメージのオーバーラップが容易で、火山 噴火の原理への理解が深まる。また、火山に対する興 味・関心を高め、探究心を育むことができる。今後、 火山単元の定番実験となることを期待する。 教材・教具の製作方法 Ⅰ.実験準備 炭酸飲料の噴出タイミングをコントロールする方法 を 2 種類考案した。次の 1 または 2 どちらか一方のみ で行うことができる。 1 の方法(シェイク法)の特徴は、爆発のみであっ たり、爆発後、間をおいて炭酸飲料が流出したりと、 実験結果に多様性があることである。これらは、スト ロンボリ式やブルカノ式噴火などに対応させることが できるであろう。 2 の方法(促進法)の特徴は、爆発後、確実に炭酸 飲料が大量に噴出することである。大量の火山灰を放 出するプリニー式の大噴火などに対応させることがで きるであろう。 なお、気体の溶解度は低温ほど大きくなるので、炭 酸飲料は常温で保存したものを使用する。気温が低い と爆発が弱くなるので、温めた方が良い場合がある。 ただし、炭酸飲料用 PET ボトルの耐熱温度である 50 ℃を超えないように注意する。なお、国民生活セン ターの試験では、炭酸飲料用 PET ボトルは 10 気圧で も破裂しないことが報告されており、本実験において は安全性に問題はないことを確認した。 1. 振った炭酸飲料の噴出タイミングをコントロール する方法(シェイク法) ゴム栓をした炭酸飲料を振ると、指でゴム栓を押さ えても噴出を抑えることが困難なほど内圧が高まる。 ゴム栓を PET ボトルに紐で固定しても、普通の結び 方ではその圧力には耐えられない。また、特別なロー プワークでは、その結び方を生徒に教えるだけで時間 がかかってしまう。そこで、誰でも簡単に短時間で確 実に強固に紐を結ぶ方法を工夫した。 沖縄県立美里高等学校 教諭 〒 904-2151 沖縄県沖縄市松本 2-5-1 蕁 (098) 938-5145 E-mail [email protected] 23 (1)材料 ・ 500m褄 PET ボトル入り炭酸飲料 ・ゴム栓(No.7) ・長さ約 70cm の紐 ・クラフト粘着テープ ・鋏 ・長さ約 15cm の棒(鉛筆や割り箸)・カッター (2)方法 ①ゴム栓の上部中央にカッターで 2mm 程度の深さの 溝を 1 本掘る。 ②PET ボトルのキャップを開け、①のゴム栓を取り 付ける。 ③ゴム栓と PET ボトルを紐でゆるく結ぶ。その際、 紐はゴム栓に掘った溝と PET ボトル底の凹部を通 し、はずれないようにする(写真 1)。 2. 炭酸飲料の発泡を促進するものを入れるタイミング をコントロールする方法(促進法) (1)材料 ・ 500m褄 PET ボトル入り炭酸飲料 ・ゴム栓(No.7) ・長さ 2m 以上の紐 ・メントス(キャドバリー・ジャパン株式会社 14 粒 入り 100 円) ・ネオジウム磁石(木製マグネット6 個入を 100 円ショップ で入手)・瞬間接着剤 (2)方法 ①メントス 1 粒にネオジウム磁石を②の磁石と引き合 うような向きに接着する(写真 3)。 ②別のネオジウム磁石に 2m 以上の長さの紐を接着す る(写真 3)。 写真 1 シェイク法・紐の固定方法(その 1) 写真 3 促進法・メントスと磁石の準備 ④PET ボトルと紐の間に棒を通し、棒に紐を絡ませ ながら回転させ、紐をねじり締め付ける。十分に 締め付けられたら棒を PET ボトルにクラフト粘着 テープで固定する(写真 2)。 写真 2 シェイク法・紐の固定方法(その 2) 以上で準備完了である。振って紐を鋏で切れば爆発 する。 24 ③①の磁石を接着したメントスを飲み口に入れ、② の磁石で容器の外側から磁力で捕まえながらゆっ くりと降ろす。 ④容器壁面内側にメントスが固定されたことを確認 しゴム栓をする(写真 4)。 写真 4 促進法・メントスの固定方法 (3)補足 運搬中にメントスと炭酸飲料が触れて爆発する事故 を防ぐため、炭酸飲料を一口分程飲み液面を下げると 安全である。 以上で準備完了である。紐を引けばメントスは落下 し炭酸飲料は発泡噴出する。 3. 土の火山を載せる台の製作 (1)材料 ・ B4 程の大きさの厚紙(出席簿表紙を使用) ・ 6 号鉢スタンド(100 円ショップで入手)2 個 ・カッター ・ラップ (2)製作方法 ①厚紙の中心に、PET ボトルの先端が出る大きさの 穴を開ける。 ②汚れても再利用ができるように①の全体をラップ で覆う。 ③鉢スタンドを PET ボトルの高さと合うように 2 個 重ね②を載せる(写真 5)。 写真 5 土の火山を載せる台の準備 図 1 シェイク法の実験装置 写真 6 傘で土を避けながら紐を鋏で切る この台の上に土を盛って火山模型を作る。砂を用い ると流出した炭酸飲料がすぐに浸み込んでしまうの で、土を用いる。 学習指導方法 本実験は、爆発による土や炭酸飲料の飛散が激しい ので屋外で行う。実験は一瞬で終わるので細かい観察 が難しい。そこで、実験の様子は事前にビデオカメラ で撮影しておき、スロー再生で結果の再確認を行うと 効果的である。 Ⅰ.実験方法と結果 1. シェイク法の場合 炭酸飲料の温度・振り具合・紐を切るまでの時間な どの条件により様々な結果となる。生徒実験を行う場 合は一班ずつ実験し、様々な結果を皆で観察する。 (1)ゴム栓を紐で固定した炭酸飲料を振り、台にセッ トする。 (2)土を盛り火山を作る(図 1) 。 (3)傘で土を避けながら紐を鋏で切る(写真 6) 。 (4)振ったことによるガス圧で爆発する(写真 7) 。 (5)栓が開いたことによる減圧により発泡する (発泡により茶色に変色して見える) 。 (6)発泡により体積が増加し炭酸飲料が流れ出る (写真 8)。…溶岩流に相当 ※条件により爆発のみで流れ出ないこともある。 写真 7 振ったことによるガス圧で爆発する 写真 8 発泡により体積が増加し炭酸飲料が流れ出る 25 2. 促進法の場合 確実に爆発し噴出するので演示実験に適している。 (1)メントスを仕掛けた炭酸飲料を台にセットする。 (2)土を盛り火山を作る(図 2)。 図 2 促進法の実験装置 (3)紐を引きメントスを落とす。 (4)発泡によるガス圧急増で大爆発する(写真 9) 。 実践効果 Ⅰ.アンケート結果 火山単元実施前や実施後のアンケート(以下「事前」 「事後」)から、次の結果が得られた。 1. 実験と火山噴火のイメージが重なりやすく、噴火 の原理を直観的に理解できる 「実験と実際の火山噴火のイメージは重なりました か」に対し、「はい」「どちらかと言えば、はい」の肯 定的回答が 86 %であった。また、「実験で火山噴火の 原理は分かりましたか」に対し、肯定的回答は 93 % であった。 2. 「マグマの発泡原因は何か」という新たな疑問が 生まれ、探求心が芽生える 「マグマの発泡原因を調べてみたい気持ちはありま すか」に対し、肯定的回答が 68 %であった。 3. 火山に対する興味・関心が高まる 「火山に対する興味・関心はありますか」に対する 肯定的回答は、本実験を行っていないクラスは、事前 43 %、事後 53 %で 10 ポイントの増加に留まったのに 対し、本実験を行ったクラスは、事前 30 %、事後 73 %で 43 ポイントと大幅に増加した。 4. 地学が好きになる 「地学は好きですか」に対する肯定的回答は、本実 験を行っていないクラスは、事前 52 %、事後 54 %でほ とんど変化は見られなかったのに対し、本実験を行った クラスは、事前 55 %、事後 97 %で 42 ポイントと大幅 に増加した。 Ⅱ.生徒の感想 写真 9 発泡によるガス圧急増で大爆発する (5)栓が開いたことによる減圧で発泡し噴出する(写 真 10)。 ・ただ爆発していると思ってたけど、気体が集まった り圧力がかかったり、色んな事がおきることで爆発 したことが解ってすごかったです。 ・小さなペットボトルでもすごい爆発なのに、火山と もなると想像するだけで怖いです。でも、とても勉 強になりました。 ・各グループ色んな噴火のしかたがあってスゴイなと 思いました。 ・実験して映像よりも良く解ったから良かったし、面 白かった。もっとやりたいと思いました。 ・火山の様子をこんな身近な物を使って検証できてす ごい! 参考文献 写真 10 栓が開いたことによる減圧で発泡し噴出する (発泡により茶色に変色して見える) (6)ペットボトル上部が空洞になる。…陥没カルデラ 形成に関連 26 1)独立行政法人国民生活センター:飲み残し清涼飲料 容器の破裂による事故!(2004) . 2)下鶴大輔:火山のはなし 災害軽減に向けて,朝倉 書店(2000) .
© Copyright 2024 Paperzz