水の世紀を底辺で支える簡易水道 株式会社潮技術コンサルタント 代表取締役 武田建紀 技術士水道部門(上水道及び工業用水道) はじめに 『21 世紀は水の世紀である』というのは、第 3 回世界水フォーラムがわが国で開催され て以来、広く認識された言葉である。地球の諸国家のうち比較的恵まれたシチュエーショ ンにあると言われる日本において、平成 13 年度末現在での水道普及率は 96.7%である。水 道未普及人口は約 420 万人であり、四国の全人口(約 415 万人)よりも多い。高普及時代 を迎えた今、既に水道は充足し維持管理の時代に入ったと言えるだろうか?まだ約 420 万 人の人が水道の恩恵に欲していないという事実がある。また、創設以来、すでに 40 年以上 を経過した簡易水道(地方の小規模水道)の使用水量は急激に増えて施設能力は不足を来 たしている。さらに、施設の老朽化と施設運転方式の旧式化が進み、簡易水道全体の再検 討の時期に来ていると言える。 汚染が少なく、有害物質の含まれない水質に恵まれ、流域があり水源涵養に優れた林相 を有する豊富な水量のある地域には都会にはないどんな自然環境にでも柔軟に対応できる 合理的な簡易水道施設が存在するものである。 国土の健全な発展を支える農山漁村地域の活性化のためにも、さらに来たるべき世界的 な水不足の底辺を支えるためにも簡易水道の普及は必須の命題である。この視点から簡易 水道の水源開発、施設整備に取組んできた筆者の経験に沿って、簡易水道の全容を記して みたいと考える。 1. 簡易水道の普及と私の経験 私が小学生の頃記憶に残っていることとして、祖父の家が火事の類焼で消滅したこ とがある。今から 47 年程前のことである。その頃は水道がまだなく、消防車もあるわ けはない。消火活動はどのようにしていただろう。人海戦術で多くの人がバケツリレ ーで消火していたように思う。 また、幼少の頃私の家は商売をしており、土ぼこりのする道路に面した2階建ての 家の奥に父が食事をしたり、客を接待したりする離れの家があった。その中間に炊事 場があり、そこに井戸や炊事の釜どがあった。また、小さな庭の向こうに便所があり、 五右衛門風呂があった。井戸にはつるべが吊されており、必要な時に綱を引きバケツ に水を汲んで炊事や風呂に使っていたように思う。 そのうちに、その浅井戸に手押しポンプをつけるようになった。井戸はそのままで じょうご もつるべから手押しポンプに替わったため、ポンプを押したり、呼び水を漏斗 に入れ たりすることをよく手伝わされたように思う。井戸に蓋ができ安全になり、恐れてい た「井戸へ落とす」という脅しもなくなったことを憶えている。 それにしても、手押しポンプで汲めるぐらいだから地下水位は高く、どの家庭も食 事や風呂のために必要な水は取水出来て、穏やかな時代であった。 生家は台風の常襲の地であり、シーズンになると台風の予報に合わせて物々しい警 戒をした。小学校高学年の頃に一きわ大きな台風が来て、それを機に家を移転して、 町の中心の方に移った。その時にはすでに家に蛇口がついていたので水道施設が整っ ていたのだろう。それは昭和 30 年頃のことだと思う。町の資料によれば、昭和 26 年 に初めて水道事業の認可を受けたことになっている。水道水を使うのは主として飲用 と風呂用であり、便所は便槽式のため用が済んで手を洗うだけであり、洗濯は川で事 足りていたように思う。 このように、その頃の水道は使用水量は少ないが水汲みの労働から開放されて、衛 生的な水道水となり、健康と生活の向上面で大変な効果を果たしたと思う。それは消 防活動の面でも言える。 その後、昭和 38 年にこの町は大水害に見舞われた。私が大学生の頃で、夏休みで帰 省中のことであった。我が家の1階の部分は床上2m程まで浸水してしまい、家財道 具を出す暇もなく、身一つで上の階に逃げるのが精一杯であった。 この災害で、町の水道施設は取水施設とポンプや電気設備が水に浸かって壊滅し、 給水ができなくなってしまった。この時に応急の仮設設備で急場をしのぎながら抜本 的に改良した設備が昭和 43 年頃に完成し、現在の施設として運営されている。 その時の認可変更の理由書には、「電気洗濯機の普及、水洗便所への改造、自家用・ 営業用自動車の増加による洗車等、文化生活の向上による使用水量の増加のため」と 記されている。それも今では既に 35 年近くを経過して、生活の向上に伴う使用水量増 加に対して水道施設全体の能力不足、経年劣化、漏水、設備の陳腐化等、時代の流れ に対応できない状況となって、今後の町の発展にふさわしい水道施設に改良する時を 迎えている。 このように、約 50 年間一つの町の水道が移り変わるのを見た時、それは日本の水道 の歴史が凝縮されているように思う。衛生面、生活面、防災面、産業発展の面等、あ らゆる面でこの町の人達の健康と生活文化発展のために果たした水道の役割は計り知 れないものがあり、他に代替できない生活基盤の最重要施設であることを実感する。 2. 簡易水道とは 簡易水道とは 5,000 人以下、101 人以上の給水人口に供給する小規模な水道事業をいい、 基本的には 5,001 人以上に給水する上水道と変わらない。水道事業に於ける簡易水道の位 置づけを以下に記す。 2.1 水道の種類 水道の種類を整理すると、表 1 のようになる。表 1 において (1)水道事業とは、一般の需要に応じて水道により水を供給する事業をいう。ただし、給 水人口が 100 人以下である水道によるものを除く。 (2)上水道事業は、水道事業から簡易水道を除いた部分、すなわち、計画給水人口 5,001 人以上の水道事業を意味する用例と、下水道、工業用水道等に対比して「法」でいう「水 道」を「上水道」と称する例がある。本稿では、「上水道(事業)」を計画給水人口 5,001 人以上の水道事業の意味で用いる。 (3)簡易水道事業とは、給水人口が 5,000 人以下である水道により、水を供給する水道事 業をいう。 したがって簡易水道事業は、計画給水人口が 5,000 人以下、101 人以上である小規模な ものをいう。簡易という言葉は補助制度の規定のため設けられたもの(上水道事業に対し ては国庫補助が行われないが、僻地を主たる事業とする簡易水道事業に対しては事業費の 4/10∼1/4 の補助金が与えられる。)で、施設基準、水質基準に関して上水道と法的取扱い は、同じであるから処理基準が簡易という意味ではなく、小規模という意味のものである。 (4)専用水道とは、寄宿舎、社宅の入居者等、相手が明確に特定して行う水道事業であっ て、上水道、簡易水道のように不特定多数人の申し込みに応じて給水する場合と区別して 用いる。 表 2 に水道の種類及び定義(平成 13 年度末現在)と、事業数、給水人口を示す。 2.2 簡易水道の歴史 簡易水道という用語が何時頃から用いられたかは明らかではないが、大正 3 年(1914 年) 北海道庁発行の北海道衛生誌にはすでに使用されていて、その定義について『簡易水道に は一町村において使用するもの及び大会社、軍隊又は船舶給水用そして専用となすものあ り』と記録され、北海道内に 34 の簡易水道が存在していたことが記録されている。 このように自然発生的に出現した小規模の水道は、その後も徐々に普及がはかられ、昭 和 25 年前後に多くの都道府県が簡易水道や専用水道を対象として、『簡易水道取締条例』 等を制立した。滅菌や水質検査の励行などを指導し、維持向上を図った。 簡易水道の歴史の中で画期的なことは、国庫補助制度の創設である。当時の状況の中で 環境衛生の飛躍的な改善をはかるためには、農山漁村に対する水道の普及促進が必要であ るという厚生省や関係者の熱意によって、昭和 27 年度に実現をみた簡易水道に対する国庫 補助制度は、その後の水道ブームの導火線となる農山漁村の生活環境の飛躍的な改善の足 がかりとなった。図 1 に示すごとく。 わが国の水道が昭和 30∼40 年代に著しい普及の向上をみたのは、このような簡易水道 による農山漁村の飛躍的な水道の普及が大きな要因の一つである。さらに、これによって 中小規模の上水道の布設意欲を強く刺激したことも見逃せないところであり、全国的な水 道ブームに果たした簡易水道の役割は極めて大きいといえよう。 2.3 簡易水道の現状 上述のような経緯をたどりながら簡易水道は今日の姿に成長してきたのであるが、近年 における推移と現状を要約すると表 3 のとおりである。 すなわち、平成 13 年度末現在におけるわが国の簡易水道は 8,790 施設で、うち公営が 7,487 施設、組合営等が 1,303 施設、給水人口は 6,334 千人で、わが国の総人口の 5.0%、 水道利用者の 5.2%が簡易水道を利用している。1 施設あたりの平均給水人口は 721 人であ る。 昭和 40 年度以降の推移をみると、表 3 に示すごとく、簡易水道の施設数は昭和 43 年度 の 14,246 をピークとして、以降減少を続けているが、これは未普及地域に新たな簡易水道 が生まれている反面、他の上水道や簡易水道との統合が行われるものが相当数にのぼって いるためである。 昭和 63 年度の例では、新たに 110 施設がつくられたが、反面 282 の施設が統合され、 合計では 172 施設の減となっており、また、給水人口は昭和 43 年度の 9,281 千人をピーク として以後減少している。以降、平成 3 年以降も簡易水道は新設と統合を繰り返しながら 推移してきたのは前記のごとくであるが、図 2・3 に示す上水道、簡易水道施設数と給水人 口の変化を見れば、この間の事情を知ることができる。この間 1 施設あたりの平均規模は 給水人口 650 人程度で推移してきたが、近年若干大型化の傾向がみえてきている。 3. 簡易水道の特殊性と問題点 表 2 に示すように現在簡易水道が給水している人口は約 633 万人で、全国の水道利用者 の 5%強であるが、簡易水道は水道普及の向上に特徴的な役割を果たしてきた。施設数は、 上水道施設数の約 4.5 倍の 8,790 に達する。このため規模の小さいプラントが数多く存在 し、かつ簡易水道においては、その設置区域の人口が希薄であるために投資効率が悪く、 施設の統合においても遠距離の連絡管が必要になったり、料金格差、地区相互間の意識の 相違等、種々の障害が予想され、地域の実情を十分踏まえて行うことが必要である。 即ち、簡易水道の特殊性と問題点を経営主体別、給水人口別、原水種類別、浄水施設別、 給水区域別について記してみよう。図 4・5・7 に示す調査総数は全国の簡易水道施設総数 9,236(無回答のものも含む)に対するものである。 3.1 経営主体、給水人口別、給水区域別事業体数 図 4(a)∼(c)に全国の簡易水道施設上記 9,236 についての経営主体、計画給水人口、 給水区域面積別事業体数および百分率を示す。 先ず経営主体別に事業対数は図 4(a)に示すごとく市・町・村(公営)と組合、自治会、 私営等(非公営)それぞれについて事業体数と百分率(括弧内%)で示している。 前記のごとく、簡易水道は簡易水道相互及び上水道との統合を繰り返しながら普及を進め て来ているが、その過程において特に組合営など非公営のものは、統合等による減少の傾 向が著しく、昭和 40 年度末には 5,752 施設あったものが、平成 13 年度末には約 1/4 以下 の 1,303 施設となっており、公営のものも若干づつ減少している。 また、図 4(b)簡易水道の給水人口別規模を見れば 1,000 人未満が 71%を占め、また図 4(c)の給水区域面積別事業体数は 0.1km2 ∼10.0km2 が 80%で大部分を占めている。法的な 定義からすれば簡易水道は給水人口 5,000 人以下となっているが、実情はこれより遙かに 少数の人口が給水単位となっている。これによって簡易水道が僻地に存在する多数の水に 恵まれない農山漁村の人々の生活と一体となって成長し存在していることが理解される。 今日、僻地の過疎化が進行している地域の人々が移住する理由の一つが、水に恵まれな い地理的条件にあることを見るにつけ、簡易水道が全国津々浦々に広がる中小村落、即ち 日本を底辺から支えていることが理解できる。 水道の普及がここまで進んだ現時点でみれば、非効率な複数の施設を一つの施設として まとめることが望ましいところも少なくない。 ①普及の進展に伴って、水道施設数は全国で約 15,000 近いものとなり、小規模水道の維持 管理は必ずしも十分でないものが見られるようになった。 ②その対応のための画一的な手法はないが、まず長期的かつ広域的な観点に立って水道整 備の基本方針を策定することが必要となってくる。 簡易水道の広域化の推進が必要とされる所以である。 3.2 水源種類別事業体数 簡易水道の水源別事業数(図 5)を見れば、表流水 2,814(30%)に対して地下水 4,517 (49%)となり、地下水を水源としているものが多い。これを図 6 に示す上水道の水源と比 較すると表流水とダムの合計 70.8%(ダムは表流水を貯えたものと見做すとして)、地下水 合計(伏流水を含め)24.9%となり地下水の割合が少ない。これは簡易水道水源開発の困難 さを示している。 高知県の四万十川の支流に沿ったある町に、私の生まれ育った人口 1,800 人程のまとま った集落がある。農業が古くから盛んで、養鶏、養豚、乳牛、肉牛などの酪農も盛んな地 域である。 しかし、この地域は未だに水道施設がなく、そのため下水道の水洗化も進まない等、生 活基盤整備の遅れた所であった。適当な水源が見つからないからである。過去に何回か水 源の調査も行われ検討も重ねられてきたが、必要な水が得られる見通しが立たないままで あった。 折からこの地域で国体が開催されることになり、全国から選手が集まり、そして多勢の 関係者も集まってくる。そうすれば、飲み水や生活用水を確保しなければならない。その 実状というか窮状を町当局の水道関係者から聞いて、水源探査を行うことになった。 約1年間、地区内の表流水や伏流水、地区外の遠く 7.0 ㎞も離れた四万十川周辺からの 取水の可能性なども現地をこの足で歩いて調べた。しかし、どこにも見当たらない状況が 続いた。そして、地下水に期待し、地形の状況や流域の広がりを見て地区内の候補地を選 定し、原始的であるが地元の建設業者の応援を得て重機で田んぼ等を掘削した。1ヶ所、 2ヶ所、3ヶ所と掘っているうちに、水量の豊富な水脈を見つけることができた。さらに 安定した取水を期して、5ヶ所、6ヶ所と掘って、同じように水量の豊富な水脈が見つか った。 私が身を以て体験した簡易水道の水源探査の困難さと、発見した時の喜びである。 3.3 浄水施設の状況 図 7 に示すごとく簡易水道浄水は消毒のみによる処理が 5,215(56%)、残りが緩速ろ過、 急速ろ過が占め、上水道に於けるように高度処理設備まで完備した施設は経済的理由から も熟練技術者の不足からも望み難い。逆に僻地では大都市近郊の取水源となっている河川 に比べて清水が多いという有利さのため、簡易な処理でもすんだのであるが、簡易水道の 水源にも近時水田、畑等への農薬の使用による積年の影響が現れつつある。 私の経験ではかつて 120 人程の小さな集落の簡易水道の水源に硝酸性窒素・亜硝酸性窒 素の混入が多くなり、水質基準値ぎりぎりの濃度が出るようになったことがある。これは 長年にわたる畑への肥料の散布が原因で農薬が蓄積し、徐々に水源に浸入するようになっ たものと考えられる。この様に考えると、経年と共に溶解化学物質が増える傾向は明らか なのであるが、原因物質を取り除くことは難しく、浄水処理方法で水質を改善するか、水 源の変更が必要となる。 経済的見地から過疎の農山村では多大な費用を掛けての浄水処理を考えるよりも、良質 の水源を求めて水源位置の変更で対応することが得策であることが多く、求める水源が表 流水の場合はろ過操作のみで済み、特殊な浄水処理を必要としないので、安定した表流水 に絞るケースが多い。水田地帯や畑作地帯には浅井戸があるが、それを水源としている所 では、その濃度にはいつも注意を払う必要がある。 後述する簡易水道の広域化はこの問題の解法を示唆している。 3.4 伏流水の水位低下の原因と対策 図 1 に示すごとく年間給水量は、昭和 40 年から 60 年にかけて急増している。主たる原 因は経済成長と生活レベル向上のため、水道の普及と使用水量増が挙げられるが第 3 の原 因として設置後 30 年∼40 年を経た給・配水管の老朽化による漏水が挙げられる。 簡易水道の場合でもこの例外ではない。簡易水道の水源には図 5 に示すごとく地下水に 依存するものが多い。この場合も前記のごとく、給・配水管の老朽化による漏水量が原因 となって取水量が急増している例が案外多い。 簡易水道の場合、過取水を続けると水源対象井戸の涸渇のみならず、これが周辺地域の 井戸の水位低下を連鎖的に起こすケースが多い。筆者の経験で下記のような経緯があり、 適切な対策で危機を切り抜けたことがある。 即ち、給水人口約 2,000 人のある漁村は水源を浅井戸に依存していた。この井戸の老朽 化と伏流水の水位低下で渇水期には取水出来なくなった。再度、表流水・伏流水の可能性 を求めて詳細に調査をした。表流水には流域面積の狭さや、既得水利権の壁があり、老朽 溜め池の有効利用には水質の問題があり難しく、伏流水に期待すれば、塩分の影響が懸念 されるなどの問題で、適当な水源が見つからない。この様な状況のため渇水期にはやむな く給水車によって応急給水し、急場をしのいでいたが、いつまでも続けられるものではな い。 この様な苦境の続く中で考えついたのが、長年の使用による老朽化のため、配水管や給 水管など漏水量が増え、それが井戸の寿命を縮めている原因ではないかと考え、配水管や 給水管を改良し、漏水を少なくして有効率を高めることを提案した。この提案は関係者の 同意が得られ、31 年ぶりにこの水源の改良をはじめ、老朽化した施設の全面改良が行われ ることになり、長年の水問題の苦労が解決されることになった。この方式は、地区民のコ ンセンサスが得られる例であり、全国どこでも共通する好事例と考えられる。 4. 将来の簡易水道 4.1 水道事業に求められる要件 これからの水道(簡易水道を含め)のあるべき目標として (1)すべての国民が利用可能な水道 水道の更なる充実をはかり、約 420 万人の水道未供給人口を限りなくゼロに近づけるた めに、簡易水道を中心とする水道事業を更に推進する。 (2)安全性の高い水道 施設 の更 新と 機能 の向 上に より ライ フラ イン の 最重 点と して 災害 に強 い水 道を 構築す る。 (3)美味しい安全な水の供給 浄水技術の高度化により美味しい安全な水を供給する。 (4)料金格差の解決 わが国の水道は地域による料金格差が大きく、高額なものと低額なものの間には 10 倍 以上の格差があり(特に簡易水道は国庫補助を受けているにも関わらず、水道料金は高額 なものが多い)、近隣水道システムの統合→広域化を含む諸施設により格差を解決する方向 に進める必要がある。 (5)国際的な交流の推進 世界中には日本に較べて、遙かに給水条件の悪い国々が多く存在する。前記のごとく 21 世紀は水の世紀とされ、当事者国は勿論、国際機関も安全な水の供給を目指して努力を重 ねている。われわれは、これらの国や国際機関と交流を進め、情報を交換するとともに僻 地の水道事業に於ける対策を学ぶ必要がある。 4.2 簡易水道の統合 わが国の簡易水道は急速な普及の向上の結果、経営・管理の規模が零細な事業が多く、 さらに、水源の確保が困難だったり拡張・改良や管理の費用が増加するなどの課題をかか えているものが少なくない。このため、その対策として広域的な水道施設の整備の必要性 が強く唱えられている。 その制度とは、統合簡易水道、簡易水道統合整備事業、広域簡易水道がある。統合簡易 水道とは、市町村内の既設の簡易水道等の統合及び未普及地域における水道施設の整備を 合理的かつ計画的に行うものである。そして将来的に統合された水道整備の推進を目的と する統合簡易水道施設整備計画に基づいて行うことになっている。この事業は小規模な水 道事業を統合することにより経営の一元化を図り、経営基盤を強化するものとしており、 老朽化した簡易水道等を統合して全面的な更新、総合的な整備を行う場合には最も適した 補助事業である。 図 8 に統合簡易水道の概念図を示す。 この他水源の確保が困難なため、水道布設が困難なケースでは「無水源地域簡易水道」 の補助制度により、水源の無い C 地区は A 地区(上水道または簡易水道)から浄水を受け ることができる。 おわりに 農山漁村は日本の津々浦々に根をおろし、しっかりと底辺から日本を支えている。これ は豊かな水源をもつ農山漁村がなければ一旦海外からの輸入が止まったとき、日本の食糧、 エネルギーの自給は不可能であることは誰の目にも明らかである。然るに現時点での現実 は農山漁村へ行けば生活基盤整備は遅れている。水道も下水道も心配であり、この整備は 地についた生活の安心感を与えるために必須のものである。 自然は美しい、空気も良い、環境に恵まれた農山漁村はかけがえのない宝物である。概 念でなく、毎日の生活実感としてそう思えるような生活環境を作ることは、何よりも大事 なことだと思う。 都会のような窮屈さ、人間性の希薄さ、時間に追われ、競争に追われることのないゆっ たりとした移り変わり。田舎には良いことが一杯ある。どこかで都会派と田舎派がぶつか り合ってどちらを取るか、どちらへ行くかと選択を迫られた時、水道はキャスティングボ ードを握っている。 21 世紀は水の世紀である。この世紀を底辺で支えるのは清く美しい水を育む農山漁村で あると私は確信したい。 参考文献 1)簡易水道施設基準解説(改訂版)−厚生省生活衛生局水道環境部水道整備課 全国簡易水道協議会発行− 2)新簡易水道 Q&A(簡易水道実務の手引)−全国簡易水道協議会− 3)酒勾、簡易水道経営入門−全国簡易水道協議会− 4)全国簡易水道ホームページ−簡易水道統計− 5)日本水道新聞社記事 平成 7 年 10 月 26 日 6)水道協会誌−日本水道協会− 平成 15 年 8 月 平成 11 年度 7)水道の基本統計−厚生労働省健康局水道課ホームページ− 平成 14 年
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