レポートダウンロード

R eport
ソフトウェア品質シンポジウム
2011
去る9月7日
(水)
∼9日
(金)
の3日間,ソフトウェア品質シンポジ
ウム2011(SQiPシンポジウム2011)が,早稲田大学 西早稲田キャ
ンパス(東京・新宿)で開催されました。一般発表をはじめ基調講演,
特別講演,チュートリアル,企画セッション,パネル討論など多様な
内容で600名を超える参加者のもと,熱意と活気にあふれた3日間の
内容をご報告します。
ソフトウェア品質シンポジウム2011
いうことで注目されていました。東京証券取引所の
宇治浩明氏と富士通㈱の三澤 猛氏から,より深い,
現場の熱気が伝わるほどのお話しが聴けました。ユー
「これからのソフトウェア品質エンジニアリング」
ザ側の品質に対する責任の持ち方とこだわりにベンダ
〔司 会〕 吉澤智美 氏(日本電気㈱)
側が真正面から取り組んだことが,このプロジェクト
〔パネリスト〕
を成功させたと強く思いました。
特別講演
「日本の宇宙開発最前線を語る
−日本の基幹ロケットH-IIA / H-IIBについて−」
併設チュートリアル
今年は7つのテーマで開催され,私は筑波大学大学
ト開発の課題を考えさせられる素晴らしい講演でした。
企画セッション
院の中谷多哉子先生の要求工学入門に参加しました。
企画セッションは,SQiP シンポジウム委員会が提
REBOKが出版され,その代表執筆者による講演という
供するセッションです。2日間で次の4つをテーマに
ことで楽しみにしていましたが,期待以上の内容でし
各テーマの第一人者を迎えて実施いたしました。
た。質疑も活発で中谷先生と議論している感じでした。
基調講演
「ソフトウェアにおける
作るモノの世界と使うコトの世界」
中小路久美代 氏 ㈱SRA 先端技術研究所 所長
これは,インタラク
ションデザインについ
てのお話です。今まで,
作るモノ自体にこだわ
っていたことから,使
うコトを考えて作り上
げていくことを提唱し
ています。品質におけ
るattractivenessにつ
ながると思っています。
インタラクションデザインは,ユーザビリティ・イ
ンターフェースデザインとは違います。ユーザビリ
ティはスタティックなものですが,中小路氏は,もっ
とダイナミックなユーザとの相互作用,インタラク
ションを考えています。それをどのように表現するの
(1)実践していますか? Wモデル
鈴木三紀夫 氏 TIS㈱
堀 明広 氏 ㈱NTTデータMSE
(2)明日の品質保証を考える
三井伸行 氏 ㈱戦略スタッフサービス
天野 勝 氏 永和システムマネジメント㈱
永田 敦 氏 ソニー㈱
湯本 剛 氏 日本ヒューレット・パッカード㈱ 小井土 亨 氏 ㈱OSK
(3)
品質がもたらすソフトウェアのビジネス的価値 宇治浩明 氏 ㈱東京証券取引所
三澤 猛 氏 富士通㈱
脇谷直子 氏 広島修道大学
森崎修司 氏 静岡大学
(4)
ソフトウェア品質保証部長の会からの情報発信! 齊田奈緒子 氏 ㈱ネクストジェン
千綿洋一 氏 ㈱ニコンシステム
向山正秀 氏 永山コンピューターサービス㈱ 孫福和彦 氏 ㈱日立ソリューションズ
か,またモデリングやそのためのツールなどを研究さ
この中から「(3)
品質がもたらすソフトウェアの
れています。スマートフォンなどのインタラクティブ
ビジネス的価値」についてご報告します。
な操作から,画面の動きで重さや力を感じるなどの事
こ れ は 東 京 証 券 取 引 所 arrowhead 開 発 の ユ ー ザ
例を紹介されました。これらは,そのほとんどをソフ
側,ベンダ側双方のプロジェクトマネージャをお招き
トウェアが行います。これらソフトをどのように開発
しての講演です。arrowheadはいくつかの講演会です
するかばかりではなく,要求としてどう表現するのか,
でに取り上げられていますが,今回の講演では,現場
テストをどのようにしていくかなど,これからのソフ
の指揮を直接とったプロジェクトマネージャの講演と
10
日科技連ニュース No.99 2011年11月号
クロージングパネル
栗田太郎 氏(フェリカネットワークス㈱) 笹部 進 氏(元 日本電気㈱)
細川宣啓 氏(日本アイ・ビー・エム㈱)
山浦恒央 氏(東海大学)
〔アドバイザ〕
前村孝志 氏(前述)
前村孝志 氏 有人宇宙システム㈱ 常務取締役
打ち上げ責任者をさ
今回のパネルのお題「ソフトウェア品質エンジニア
れている有人宇宙シス
リング」というのは,ここでは品質工学とは区別し,
テムの前村孝志氏にご
正式な定義はない造語です。これを使って,パネリス
登壇いただきました。
トに,ソフトウェア品質エンジニアリングはどうある
失敗を全く許されない
べきか,ソフトウェア品質エンジニアはどのような役
ロケットの開発におい
割となるべきかについて考えてもらいました。
て,どのように高い品
パネリストには,ベテラン,中堅の品質のエキスパー
質を維持し,それを伝
ト,論客をそろえました。また,アドバイザとして,
えているのかについて
特別講義でご登壇いただいた前村氏に参加していただ
お話しいただきました。
きました。その闊達な議論から,品質の本質と,それ
打ち上げのビデオから始まり,「ロケットのソフト
に取り組むエンジニアリングとは何かを共有していく
ウェアはC言語で5万行です。だいたい,自動販売機
ことが狙いでした。この難しい議論をさばいたのは,
程度の規模ですね」というユーモアを交えながらの品
司会の吉澤智美氏でした。
質についてのお話は,非常に泥臭いものでした。準備
このパネルは,各パネリストの品質に対する価値観
作業を一つひとつ確認し,手順書を読み合わせ,見え
をあらわにしていきました。議論は多岐にわたり,示
る形で確認させる。机上シミュレーションを徹底させ,
唆に富む話題がやりとりされ,視聴者にとっては大変
Know-how, know-why, チェックリストを作っていく。
濃い内容で,あっという間に時間が過ぎていきました。
変えたところを徹底的に検証する。人が代わった時は,
その中で,ソフトウェア品質をエンジニアリングし
以前担当していた人,初期の開発者,
OBを呼んでレ
ていくためには,仕掛け仕組みが必要だという議論に
ビューしてもらう。それでもある想定外のことを考え
興味を持ちました。私個人として心に残ったのは,栗
ていくには,最終的に人に依存し,何人もの人で何重
田氏の言葉で,「エンジニアの技能は,エンジニアリ
にもチェックしていく以外はない。
ングの基本を押さえること,その内側では,様々なセ
「打ち上げは妥協を許さない取り組みであり,真剣
オリーをオーソドックスに押さえていくこと」という
勝負である」という言葉に重みを感じました。「ソフ
ものでした。
トウェアは,ハードウェアを通して実際どうなるのか,
このパネルが好評であったことは,アンケートの結
現実とのバランスをとる必要がある」,「品質対して情
果にもよく表れています。最後に,前村氏の「品質は
念をもて」,「何かあった時には,本気でやっていくこ
人に依存するんだな,だから作った人を信じるしかな
とを自ら動いて相手に伝える」など,非常にわかりや
い」という言葉が印象的でした。
すい説明で,穏やかな口調の中にも品質に対する強い
情熱を感じました。
そして9月23日,H-IIAロケット19号機の打ち上げ
が無事成功しました。おめでとうございます。
報告:SQiPシンポジウム委員会委員
永田 敦(ソニー㈱)
シンポジウムの終了報告・講演資料はこちらから http://www.juse.or.jp/software/327/
日科技連ニュース No.99 2011年11月号
11