進化する “ニッポン繊維機械”

vol.619
2011
since 1960
11
■ 発行:伊藤忠商事株式会社 繊維経営企画部
大阪市北区梅田3-1-3
■ TEL:06-7638-2027 ■ FAX:06-7638-2008
■ URL:http://www.itochu-tex.net
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毎月1回発行
Vol.619 CONTENTS
─ ITOCHU Mission ─
Committed to the global good
豊
か
さ を
担
う
責
任
Special Feature /
進化する“ニッポン繊維機械”
Topics /
ニュース・クリッピング/マーケット・リポート
4面
World Report /
最新の中国情勢とビジネス事情(中)
5面
Fashion Report /
イスタンブール ファッション
6面
1-4面
激烈グローバル競争をリードする
進化する“ニッポン繊維機械”
S
pecial
Feature
高速化、省エネ化、原材料ロス軽減という普遍のテーマの実現とともに、アナログからデジタルへと進む繊維機械・機器。
衣料用、産業資材両分野への対応など用途開発、一方では新興国や先進国市場での需要振興策など課題が山積してい
ます。2011年9月22 ∼ 29日にスペイン・バルセロナで国際繊維機械見本市「ITMA2011」が開かれました。この機会
をとらえ、グローバルに戦う日本の繊維機械メーカーに、繊維機械市場の現状と将来をお聞きしました。
(*各社に取材し、紙上座談会としてまとめました。聞き手は伊時和夫伊藤忠システック社長、繊維経営企画部)
お話を
お聞きした方々
(順不同)
村田機械株式会社 取締役繊維機械事業部長兼大阪支社長 髙久 博史 氏 / 繊維機械事業部 営業部長 山口 俊宏 氏
(*発言は髙久氏としてまとめました)
株式会社豊田自動織機 執行役員繊維機械事業部副事業部長 豊田 晋 氏
福原産業貿易株式会社 取締役 藤澤 愃 氏 / 取締役 福原 正則 氏(*発言は藤澤氏としてまとめました)
株式会社日阪製作所 専務取締役技術担当兼鴻池事業所長 石丸 治 氏
聞き手
東伸工業株式会社 代表取締役社長 一ノ瀨 孝一 氏
国際繊維機械見本市「ITMA2011」の会場
(出所:ITMA2011ホームページから)
ITMA2011バルセロナ
環境・省エネ・メンテナンス
─ ITMA2011の印象をお聞かせください。
髙久 ギリシャの金融不安など欧州経済
の先行きに不安がともる中で開かれたITMA
ですが、思いのほか来場者も多く、手応え
のある展示会となりました。出展メーカーは全
体的に、
①環境対応②省エネ③高生産性④
メンテナンスの容易さ─ をそれぞれ強調さ
れていた印象を受けました。
豊田 全体として、いつもよりも機種が少な
い、逆にいうと出展されている機械が精選さ
れている印 象を受けました。主 催 者 側 が
ITMAのステータスを守るという矜持とでも申し
ましょうか、特許に抵触しかねないコピー機メー
カーを排して、オリジナルメーカーだけを厳選
して出展させた、という印象です。来場者も
そこそこの規模で、実りある商談ができました。
藤澤 前回のミュンヘンと比較して展示会
全体としての来場者の絶対数は少なかったよ
うですが、実需客と申しますか、実ビジネスに
つながるお客様が多かったような印象を受けま
した。当社にとっては有意義な商談機会となり
ました。当社ブースの来場者は地元スペイン
のほか欧州、
インド、
インドネシア、
イラン、
シリア、
アルゼンチン、コロンビアなどの方が目立ちまし
た。中国の方が意外と少なかった。そしてト
ルコの復活が特徴です。中国からの衣料品
輸出攻勢で少し元気がなかったのですが、
繊維機械の大市場として戻ってきました。
石丸 1999年6月のパリ展以来の久しぶり
のITMA視察でした。2002年まで染色機器
を手がけ、その後他部門に異動したためで、
12年ぶりとなりました。その当時の繊維機器
産業はまだ華やかといえる時代で、それと比
べると今回のバルセロナ展は規模も小さくなり
ました。
ITMAは原料から縫製の手前までの繊維
の加工がすべて分かる展示会です。そして
機器を販売するという商談の場以上に自社の
技術を展示会で発表し、その評価を問う場
です。しかし、今回の展示会は、自社を含
めてあまり代わり映えせず、正直なところ感銘
は受けませんでしたね(苦笑)
。
私見ですが、①環境にやさしいグリーン・
テクノロジー ②高 速 化など生 産 性の向 上
③連続化による生産工程の合理化 ④衣料
用から産業資材シフト─ といったことを強
調するメーカーが多い印象を受けました。環
境配慮では紡績から織・編み、プリントなど
の各分野で環境へのやさしさを訴えていまし
た。織機の世界ではやはりスピードを競い、
そして、綿から不織布、あるいはフェルトなど
を製造する際に、従来の2工程、3工程を1
工程に省略する連続化も目に付きました。織
機では毎分1000回転が実用化され、10m幅
など産業資材狙いがクッキリと浮かび上がる
内容でした。
一ノ瀨 1991年のハノーバー展以来、毎
回視察に訪れています。初日、2日目の来場
者は多かったようですが、わたしが訪問した
展示会後半は来場者が少なかったような気が
しました。金融不安が強まるなど欧州経済が
波乱の様相を呈しているためかもしれないで
すね。
当社が生産するインクジェットプリント機で
は、今回12社が最新機種を持ち込み、来場
者にアピールしていました。前回は8社程度
でしたから新規参入組を迎えて市場としての
規模が広がってきたと考えています。
画期的技術 見当たらず
─ 他社の出展にはどのような印象をお
持ちでしょうか。
石丸 当社が得意分野とする液流染色機
では約30社が出展参加していました。当社
を含め、斬新な技術開発、新機構は見られ
ず、新味は感じませんでした。改善・改良
が中心となった展示でした。
当社が液流染色のラピッドサーキュラー染
色 機を開 発したのは1974年です。直 後の
ITMAで発表し大きな注目を浴びました。染
色時間が従来の3分の1で、エネルギーコスト
が2分の1、風合いに優れるなどの特徴が評
価されたものです。その後、THIES社の気
流染色機エアフローや当社のエア・サーキュ
ラーも画期的な染色技術として評価されまし
た。液流染色機に限らずITMAで評価を得
ると、次回の展示会は追随機種のオンパレー
ドというのがこれまでの経過ですが、全体を
通じて今回は追随すべき新技術が見当たら
伊藤忠システック
伊時社長
なかったように思います。
インクジェットプリントは、いよいよ実用機とし
て「本物に化けてきた」という印象を受けま
した。12年前のパリ展がハシリでしたが、当
時と比べ格段の進歩を遂げていると感じまし
た。本当にそうかなと思いますが─ わたし
は素人でよく理解していませんが、欧州では
「省エネで環境にやさしい」といわれ、その
普及が目覚ましいと参加者から聞きました。
東伸工業さんをはじめとしたプリント機メー
カー御三家以外にもコニカミノルタI
Jさんなど
の紙印刷機のメーカーが本格的に参入してき
たことで、業界に大きなインパクトを与えました。
一ノ瀨 インクジェットプリントは、オフィスに
あるインクジェットプリンターと基本的に同じ機
能を持つ大型のプリンターによる捺染です。
従来の捺染が捺染型の彫刻、色糊の調整
などに多くの時間とコストを費やしたのに比
べ、デザイン作成からプリントの仕上がりが格
段に速くなるという特徴を持っています。また、
無限に近い色を再現でき、水の消費を抑え、
環境に対する負荷が軽減できるという画期的
なシステムです。
ITMAは世界最大の繊維機械見本市。世界中から最新技術が集まる
2
進化する“ニッポン繊維機械”
2011年11月号
日阪製作所
極細繊維加工に対応
村田機械の髙久取締役(左)と山口部長
村田機械は新世代の精紡機「ボルテックスⅢ870」と自動ワインダー「QPRO」を披露
このインクジェットプリンターは近年、大型化、
高速化を重視している傾向にあるようです。
しかし、大型化や高速化を重視した機械は、
設置スペースや機械が広く大きくなることで値
段が高くなるなどの問題があります。今後の
動きに注目したいですね。
高速化では例えば、従来機種に比べ数倍
のスピードでプリントできるといった、コストパ
フォーマンスの向上をアピールされているメー
カーさんが当社を含め数多くありました。たし
かにそうなんですが、問題はプリントの品質・
品位です。スピードを上げることは技術的に
はそんなに難しい問題ではありません。機械
は作ろうと思えば作れます。しかし、インクや
メンテナンスを含めた総合システムがインク
ジェットプリントの大切な要素です。
例えばインクでも今回、あるメーカーは1㎏
当たり34ユーロで提供すると宣伝されてい
た。1ユーロ100円とすれば3400円で、従来
品価格に比べ3分の1という低価格です。ま
た、インクは自由に調達下さいというメーカー
もありますが、首を傾げたくなります。インク
ジェットプリンターは機械、インク、アフターケ
アを含めた総合システムで、それぞれのメー
カーがコラボすることによって素晴らしい商品
を需要家の皆さんにお届けできるものと確信し
ています。その意味で、
プリント機専門メーカー
として王道を歩みたいと痛感しました。
ウルトラファインゲージ競争
─ 丸編み機では。
藤澤 技術力のある世界の有力な丸編み
機メーカーは当社を含めて約7社と見ていま
す。出展ブースを訪れ拝見しましたが、今回
展では、全体に ①高速化による生産性の向
上 ②より一段のファインゲージ化─ が特徴
だったように思います。
中でもファインゲージ化─「ウルトラファイ
ンゲージ化」と呼んでいますが、行き着くとこ
ろを知らないような状況です(苦笑)。欧州メー
カーの中には80G(ゲージ)の機種を披露し
ていたところもありますが、現在のところ実用
ベースでは60G程度で十分と当社は判断して
います。
かつて24∼28Gをミドルゲージ、30G以上
をファインゲージと呼んでいました。それが10
年 前に40G、5∼6年 前には60Gが 登 場し、
ウルトラファインゲージ化の時代に突入しまし
た。これは機械技術の進歩はもとより実用に
耐え得る細い糸が市場に登場し、同時に選
針や柄出しなどを司るコンピュータの進歩がも
たらしたものです。今や40Gは当たり前の世
界となりました。
─ 織機の分野ではいかがでしょう。
豊田 当社も含めて、画期的といえるよう
な目新しい技 術は見 当たりませんでした。
ショーとして、2011年にちなみ、毎分2011回
転という高速運転を実演稼働させるメーカー
もありましたが、当社の場合は「ショーのため
の出展は控えよう」ということで、実用機をア
ピールし、省エネ、エコに重点を置いた出展
としました。その意味で他社と違ったカラーが
打ち出せたとは思っていますが、
「地味」と
いう声もいただきました(苦笑)
。
代に当たります。
糸の特徴を簡単に申し上げると、①毛羽
が少なくクリアな風合い ②優れた抗ピリング
性と耐摩耗性 ③吸水性と洗濯耐性に優れる
④型崩れしにくい─などです。ボルテック
スⅢは、これらボルテックスの特 徴に加え、
①毎分500ⅿの最高紡績速度 ②番手変更な
どメンテナンスの容易さ─ を兼ね備え、満
を持してのデビューです。
新型ワインダー「QPRO」は生産性を旧モ
デルよりも向上させ、エネルギー消費を低減、
同時に糸切れ監視などのモニタリング機能を
付与しました。
豊田自動織機
空気消費量を低減
豊田 紡機は高速リング精紡機の新しい
モデル「RX300」を発表しました。RX300
は1台で最大1824錘と従来機に比べ50%多
いスピンドルを備えたものです。精紡機の大
型 化で、練 条、粗 紡などの前 工 程からの
連続性を向上させ、生産効率を高めた機
種です。
一 方、織 機 は エアジェット(AJ)織 機
「JAT710」の改良システムをアピールしま
し
ITMA出展機種
た。AJ織機はヨコ糸を空気の力で運ぶ織機
ですが、新システムは空気の使用量を従来
村田機械
機よりも20%減少させることに成功しました。
次世代2機種を出展
空気をコンプレッサーで運ぶには電力が必要
ですが、空気の使用量が減れば電力消費が
─ 各社の出展機種を川上分野から紹
減り、エネルギーコストが安くつくというもので
介ください。
す。ライバルの欧州勢もこの省エネに力を入
髙久 10年目の完全なリニューアル機とし
れていましたが、この面では先を行っていると
て空気精紡機とワインダーの最新モデル2機
自負しています。
種を出展しました。
同時に実際の生産性の向上も新システム
紡機は「ボルテックスⅢ870」。空気の流
れによって長い繊 維が糸の中心に集まり、 で実現しています。従来機より20%減の空気
消費量で同じ回転数が維持できるわけです
短い繊維は外側に取り込まれる特徴のある
から、生産性はそれだけ向上したことになりま
紡績方法で、「特殊渦流精紡機」と一般的
す。こうした環境性能の向上に加え、工場
にはいわれている紡機です。前身は1980年
全体の一元管理が容易にできるインテリジェン
代に開発され、ボルテックスとしては第3世
ト化も提案しました。
福原産業貿易
安定稼働可能な実用機
ヨコ糸8色でも毎分1000回転を実現する豊田自動織機「JAT710」
豊田自動織機・豊田執行役員
藤 澤 今 回 展 で 当 社 は50Gの 新 機 種
「OD5−V−SEC7CS」を披露しました。この
まま工場に設置して、すぐに安定稼働が可能
な実用機として紹介しました。ウルトラファイン
ゲージ競争で勝ち抜く技術はあると自負して
いますが、それ以上に、いま必要とされてい
る設備でいかに高品質・高品位の製品を速
く生産できるかが大事、と考えたからです。
50Gのシングルニットフルジャカード機で弾性糸
使い、メッシュ柄のランジェリー用素材などを
生産、来場者に披露しました。
石 丸 提 携 先であるイタリアNOSEDA
社と共 同 出 展し、サーキュラー「CUT−
MF」、同「CUT−SP」の2種 の 液 流 染
色 機のほかNOSEDA社 製のチーズ染 色
機、ビーム染色機、ジッカー染色機などを
展示しました。
CUT−MFは、現在主力の販売機種で、
欧州市場でも高い評価を得ています。天然
素材から合成繊維、薄地から厚地の加工と
いった広範囲の加工に対応できる点が大きな
訴求ポイントです。一方のCUT−SPは合繊
薄地織物や編み地、ナノファイバー、マイク
ロファイバーなど極細繊維の加工に特化した
機種です。
東伸工業
色数豊富な新モデル
一ノ瀨 新モデルの「2030Pro」を出展し
ました。インクの吹き出し口であるヘッドの数を
従来機種の16から24に増やし、同時にインク
の数を基本7色+特色1色=8色から基本7色
+特色5色=12色に増やしたことで、表現でき
る色の幅が広がり、豊富な色合いによるプリ
ントが実現可能となりました。ヘッドを増やした
ことで、プリント速度も2倍に速まり、生産効
率が向上しました。
また、インクのリサイクルを可能にしました。
通常、ヘッド内のノズルを自動的にクリーニン
グする機能がついていますが、その際、まだ
インクが残っているのにクリーニングのためにイ
ンクを捨てざるを得ませんでした。この量がバ
カにできず、プリントに載っている同等量を捨
てることもありました。それを回収・再利用で
きるシステムを備えたことで、インク代金が実
質2分の1になるわけです。これには海外の
お客様も注目されていました。
今後の開発の方向性
紡績技術者不足を補完
─ 今後の開発の方向性について、お
聞かせください。
髙久 今回発表したモデルは、いずれも
メンテナンスの容易さという特徴があります。
繊維大国である中国やインドでも、繊維産業
に人が集まりにくいという状況が近年顕在化し
てきました。例えば中国の紡績工場における
オペレーターの賃金は、かつては600∼800
元程度でしたが、今では2000元から中堅ク
ラスで3000元に跳ね上がっています。政府は
所得倍増政策を掲げていますから、いずれ
6000元といった水準にまで上昇するのは間違
いありません。
労働集約型産業として、人海戦術的な部
分が残っていた紡績工場でも、人手確保が
今後難しくなるのは確実です。できるだけ人
と時間とコストをかけずに生産システムを組み
たい、というニーズがお客様の間で高まって
きました。同時に高生産性と高品質な製品を
作りたい、という普遍的なテーマに応えること
が不可欠となりました。
その答えが今回の最新モデルとなります。
紡機は紡績速度の高速化で生産性を高め、
ボタン一つで紡出番手を変更でき、紡績の
条件を決定できる。ワインダーは一台当たり
従来2、3人を必要としていた作業員が1人
で済むといった省人化の機種も出展しまし
た。そうした点が今回の展示会で評価され
ましたね。
進化する“ニッポン繊維機械”
2011年11月号
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こうしたハード面とともに、工場操業をサポー
トするシステム提案「ムラテック・スマート・
サポート」も今後拡充していく計画です。社
内で“お節介サービス”
(笑)と呼んでいる
のですが、これも省人化と共に熟練工の確
保が難しい紡績工場の支援につながる新た
な提案の一つです。
簡単に申し上げると、当社の技術部門が
パソコンや携帯端末を通じて工場の稼働状
況を把握し、問題点があれば当社の技術部
門から工場側に助言するといったシステムで
す。工務の方が、部品交換が必要と判断す
ればすぐさま見積もりも取れます。中国やイン
ドでも紡績工場の技術者は今後増えないで
しょうし、ベテランはどんどん消えていく。それ
を当社が補うという考え方です。実際、今回
のITMAでもインドの紡績の方が強い関心を
示していました。工場での技術者不足に悩ん
でおられるようでした。
当社は中国に7か所、インドに3カ所のサー
ビス拠点を設けていますが、こうしたアフター
ケアが今後はより重要になってくると考えてい
ます。
レピア織機の領域狙う
─ 織機における今後の開発の方向性
はいかがでしょうか。
豊田 レピア織機の領域、市場にAJ織機
で食い込む、と言えば分かりやすいかもしれ
ません。多色の糸使いや複雑な柄の織物に
は汎用性のあるレピア織機が優れているとさ
れてきました。対してAJ織機は高速・大量
生産向きであると。しかし、AJ織機でも十分
多色使いの織物が生産できるし、複雑な柄
の織物も可能。しかも高速回転で生産性も
高い。今回のITMAでは独自開発した電子
開口装置(各枠が電子制御により独立駆動
する開口装置)を用いて、ヨコ糸8色使いの
綿ギンガムを毎分1000回転で実演稼働しまし
たが、実生産レベルでも安定稼働を実現して
います。
以前、AJ織機でデニムを織るとバリバリの
風合いで機業の皆さんから厳しい評価を頂
戴しました。しかし、改良に次ぐ改良で、今
では汎用性のある織機に生まれ変わっていま
す。
「太い糸は飛ばない」
「打ち込みが甘い」
などの“迷信”(笑)を払拭できたと思ってい
ます。
─ 次回ITMAに向けた意気込みは。
豊田 今回は来場者から「地味だ」とい
う声をいただきました。JAT710は完成形に
近づいたと思いますが、次回はこの後継機を
発表し、先進性をアピールできればと考えて
います。為替相場の円高が頭の痛い問題で
すが、なんとか乗り越えてジェット織機の進化
形を見せたいですね。
経験に頼らずマニュアル化
─ 丸編み機の開発の方向性はいかが
でしょう。
藤澤 高速生産、簡単な操作性など現在
の開発テーマの延長線上で考えています。
丸編み機のファインゲージ化は行き着くとこ
ろまできた、と考えています。基本的に機械
作りは「こんな生地が生産できる機械が欲し
い」
「こういうものはできないか」で始まります。
工場における省人化になります。国内でも
海外でもオペレーターが減り、できるだけ容易
に操作でき、人間の勘とか経験に頼らないマ
ニュアル化、データ化が望まれています。今
回展でも提案しましたが、生地生産の再現性
をデジタルで可能にするシステムに多くの来場
者の関心が寄せられました。高い機械精度
福原産業貿易が送り出した
スーパーファインゲージ電子柄編機「V-SEC7CS」
が前提になりますが、ボタン一つで例えば天
竺からフライスへ簡単に編み地が切り替えら
れるなどの機能が求められるように思います。
また、環境対応力の向上です。針とカム
の摩擦を軽減することで電気の使用量を減ら
したり、クリーニングの頻度を減らす機能など
も今回提案しました。これらは引き続き開発
テーマになります。
特殊品と汎用品で使い分け
─ 染色における開発の方向性をお聞か
せ下さい。
石丸 世界の染色加工機のメーカーでは、
技術対応力ではトップ3に当社は入っていると
自負しています。しかし、ぼやぼやしていると
直ぐに競争力が低下します。とりわけ円高時
代とあって世界の強豪との競争はますます激
しくなるばかりです。
日本や欧米を見ると、繊維産業は残念な
がら衰退産業ですが、中国、アジア、中南
米に目を転じれば立派な成長産業です。世
界の合繊生産は増え続け、染料の使用量も
増え続けています。そうした世界の情勢を勘
案しながら当社の方向性を定めていきたいと
考えています。
一つの方向は、
「特殊ゾーンで世界ナン
バーワンの地位を維持すること」です。2010
年から発売した液流染色機CUT−SPは、汎
用機「CUT−MR」よりもデリケートな繊維に
対応できるようバージョンアップしたものです。
天然繊維・合成繊維を問わず毛羽立ち・フェ
ルト化・スレなどの問題を軽減し、高品位化
の風合いを実現しました。
「こんな織物ができ
たが加工がどうも」
「なかなか意図した風合
いが出ない」といったテキスタイルメーカーや
加工場の悩みを解決できるメーカーとして、
存在感を発揮していきたい。
もう一方は「コスト競争力の強化」です。
CUT−SPを必要とするテキスタイルは、世界
の消費量から見るとピラミッドの頂点近くに位
置する、ごくごくわずかの量です。定番に対
応するためには、それなりの価格で販売でき
る機種が必要になります。中国で販売する機
械は、中国の生産コストで販売しなければな
りません。すでに中国の子会社で汎用液流
染色機の1号機が完成、現在試験中です。
12月から販売を開始します。年間100台規模
の販売を見込んでいますが、これにより液流
染色機=サーキュラーの市場での一段の普及
を見込んでいます。
れらを総合した「トータル・プリンティング・シ
ステム」というものを提案したいと考えていま
す。例えばインクジェットプリンターと同じ色を
ロータリーで再現する変換ソフトをすでに開発
しています。小ロットはインクジェットで、量産
はロータリーで、という使い分けが可能になり
ました。長年にわたってプリンターを製造して
きた当社の集大成をこのシステムで表現した
いですね。
そして日本で作り続けたい。円高が進み、
厳しい環境にありますが、部品やインクのメー
カーを含めてプリンターの世界はトータルインダ
ストリーであると考えていますので、日本メード
を守りたい。
また、当社では顧客対応の一環として自社
内でのプリント事業を手がけています。新進
クリエイーター、デザイナーの合同展 示 会
「ルームス」には4年連続で出展しました。生
地・製品で紹介していますが、百貨店さん
からも声がかかるようになりました。機械の売
り先である染工場さんからクレームがついても
不思議ではありませんが、彼らも刺激を受け
ておられるようです(笑)
。自分でオペレーショ
ンしないと分からない部分がありますから、引
き続き、ルームス出展で最終製品市場にチャ
レンジしていく考えです。
用途開発の可能性
人口増大に設備から対応
─ 用途開発への考え方はいかがでしょう。
髙久 ボルテックスは既存のリング精紡や
オープンエンド紡績とは異なる紡績方法で
す。抗ピリング性、吸水性の良さを生かした
分野でいかに広げるかをテーマにしてきまし
た。もちろん用途開発はお客様である紡績
さんが主に手掛けられますが、ユーザーの
ご注文に応えて改良・改善に取り組んでき
ました。
ボルテックスは、ビスコース系の15∼50番
手クラスが最適な紡績糸種ですが、同素材
福原産業貿易の福原取締役(左)と藤澤取締役
はこのところレディス向けアウターとして注目を
浴びており、引き合いも増えています。
現在、世界の人口は70億人、2030年に
は85億人に増えるとの推計があります。それ
につれて世界的に繊維の消費量も増えていく
はずです。しかし、綿花もパルプを原料とす
るビスコース繊維も供給量は食料や飼料作物
への転作などでそんなに増えることはないと
思っています。今後、この人口の増加による
繊維消費量をまかなうには、合繊糸系の開
発に大きな期待がかかってきます。そうなれ
ば合繊で限りなく天然繊維に近づける工夫が
さらに必要となるでしょう。これを紡機で実現
する、そうしたことも新しいテーマとして浮上
してくるように思います。
─ 日本のテキスタイルメーカーにエールを。
豊田 当社の売り上げにおける繊維機械
事業部のシェアは、昨年は2.5%です。織機
でいうと、年間販売台数の1%が国内向けの
比率です。しかし、この1%が開発の大きな
武器になっています。長繊維織物の北陸や
先染め織物の西脇、デニムの三備、タオル
の今治産地などの皆さんのニーズに応えるこ
とで豊田の織機は進化を遂げてきました。こ
のことは今後も変わりません。
AJ、WJ(ウオータージェット)織機ともに
単品・大量生産を武器に市場に浸透してき
ました。今後はもっと間口を広げていきたいと
考えています。例えば岡山のプレミアムデニム
メーカーの皆さんがシャトル織機で作っている
プレミアムデニムの風合いをAJでも可能にす
るといった具合に……。
衣料・資材でニット増える
─ ニットの用途拡大についてはいかが
でしょうか。
藤澤 従来は織物の世界だった用途に
ニット生地が入り込むといった動きがみられま
す。ファインゲージ化の進展でダウンプルーフ
用の生地にニットが採用されているのがその
一例です。
総合システムとして集大成
一ノ瀨 やはり高速化、省資源化は普遍
のテーマとなります。捺染にはロータリー、ス
クリーン、インクジェットと大別して3つの加工
方法があります。それぞれ持ち味があり、こ
液流染色機「CUT-SP」。細デニール高密度のナイロン生地、
ポリエステル生地の安定染色を実現
日阪製作所・石丸専務
4
2011年11月号
進化する“ニッポン繊維機械”/ ニュース・クリッピング/ マーケット・リポート
ニットはそもそも非常に簡単に始められると
─ 北陸産地などでよく言われることです
いう特徴があります。織物に比べ準備工程
が少なく、丸編みの場合、極論すれば糸を
機械に設置してボタンを押せば生地が出来
上がります(笑)。生地そのものにストレッチ
性もあり、生産性は織物と変わりません。
こうしたメリット生かし、衣料品の分野で昨
今ではクールビズの一環でドレスシャツやジャ
ケットでも採用が増えてきました。スポーツウエ
アではダウンウエアやウインドブレーカー、コン
プレッションウエアなどこれまでの用途から新
規の分野に広がっています。資材の分野でも
ベッドのマットレスカバーや湿布薬などのハップ
材でも需要を伸ばしてきました。
例えば100Gのようなウルトラファインゲージ化
ができれば、染め糸を使用してインクジェットプ
リントのような形で柄を表現するのも決して夢で
はありません。それが実現できれば用途は一
段と広がります。当社はそうした開発面で先
頭を走れるよう努めていきたいと考えています。
が、原糸や織・編み段階では開発が出尽くし、
あとは“化ける”部分、つまり染色加工・仕
上げの段階でしかテキスタイルの特化はでき
ないという指摘も一部にあります。
石丸 たしかに原糸開発でいえばマイクロ
ファイバーやナノファイバーが最後かもしれま
せん。ただ、
“画期的な加工”
というものは、
そんなに多くは出ません。
「暖かくて吸汗・速
乾」「吸汗・速乾に制電性と汚れ除去機能
を付与した洗濯耐久性に優れた素材」など
素材メーカーや染色加工場のヒット商品は今
でも多くありますが、時代を画す、といったも
のは限られます。
話が古くなりますが、わたしがこれまでで世
界を変えたと評価し、素晴らしいと思う加工
は「減量加工」です。ウール以外の素材で
はカセイソーダを用いた処理方法は長く行わ
れてきました。それをバリバリに硬いポリエス
テル長繊維に応用し、シルクのような風合い
N
ews
Clipping
東伸工業は新機種「2030PRO」を披露
をもたらした画期的な加工が減量加工です。
この加工は繊維の歴史を変えたと言っても過
言ではありません。日本の繊維を世界のひの
き舞台に押し上げた加工でした。
染色の廃液が出ない、助剤が不要など
東伸工業・一ノ瀨社長
の特徴を持つ超臨界染色技術など可能性
がある染 色 加 工 方 法はまだまだあります。
注目の産業資材分野にも新たな加工方法が
登場する可能性もあります。期待したいもの
です。
「ミラ・ショーン」台湾企業と中国展開
伊藤忠商事はこのほど、伊藤忠が全世界
商標権を保有する「ミラ・ショーン」ブランド
の中国、台湾、香港、マカオ地域における
インポートとライセンス展開に関して、盛高貿
易有限公司(SENCO GLOBAL TRADING
CO.,LTD)
(本社:台北市、以下、盛高)と
合弁会社を設立する契約を結び、中国にお
M
arket
Report
ける展開を本格化させることになりました。
伊藤忠は昨年9月に新たなミラ・ショーンブ
ランドのイメージ発信拠点としてイタリア・ミラノ
に新旗艦店をオープンして以降、重要戦略地
域である中国、台湾、香港、マカオ地域で
のビジネス展開を検討してきました。このほど、
ヨーロッパの主要プレタブランドのインポートおよ
びライセンス商品を中国300店舗で展開してい
る盛高との共同出資で、上海と香港に合弁会
社を設立することとなりました。今後は、彼ら
のネットワーク・インフラやライセンスノウハウを
活用しながら、伊藤忠が日本で長年培ってき
たインポートとライセンスの相乗効果によるトー
タルブランド戦略を中国で実現していきます。
商品構成は、イタリア品のみならず、アジ
アの地域性を加味し、日本企画であるサブラ
イセンシーの商品も加える予定です。
インポートに関しては、今回の契約に先駆
け、盛高の取引先である小売業者とのディス
トリビューション契約により、今年5月に大連市
のフラマホテル大連にレディスインポート第1号
店(写真)をオープンしており、イタリア品と
日本品のレディスウエアのトライアル販売を開
始しています。10月末には重慶にレディスイン
ポート第2号店を、また来年早々には北京に
同3号店をオープンする予定です。
またライセンス展開は、一部で2012年春夏
から、本格的には2012年秋冬シーズンから開
始する予定で、5年後には300の売り場で小売
価格約80億円の売り上げを計画しています。
ミラ・ショーンは1958年オートクチュールブ
ランドから始まり、1965年フィレンツェ、ピッティ
宮殿でのダブルフェイス素材を発表したコレク
ションで世界デビューしました。現在、日本市
場におけるミラ・ショーンのインポートおよびラ
イセンスビジネスは24社のサブライセンシー企
業が百貨店を主販路としたアイテム展開をし
ています。
本件に関するお問い合わせ先
伊藤忠商事㈱ ブランドマーケティング第一部門
ブランドマーケティング第一部 ブランドマーケティング第九課
課長:北島義典、担当:松井学、嶋越正彦
電話:06-7638-2180
マルコ 姿勢補整で「カリーユ」投入
マルコ株式会社は10月15日から、女性用
補整下着の新シリーズ「カリーユ」を発売し
ました。すべての年齢層を対象とする新シリー
ズの販売は約4年ぶりとなります。
フルカップボディスーツ
63,000円∼67,200円
3/4カップショートブラジャー
35,700円∼39,900円
コントロールキャミソール
52,500円∼56,700円
ロングガードル
42,000円∼44,100円
フィットショーツ
8,400円∼9,450円
マルコは日本で初めてプロポーションを整え
るための“体型補整下着”の価値を広めた、
体型補整下着のリーディングカンパニーです。
体型補整のプロフェッショナルとして、とことん
こだわった企画・開発と、妥協を許さない最
高の素材・デザイン、高い縫製技術で生み
出された商品を展開しています。今回発売し
たカリーユは、女性が本来持っている美しい
姿勢 =「ウェイクアップライン」を目覚めさせる
という、全く新しい発想から生まれました。
今回のカリーユでは、ボディ全体のトータル
補整に焦点をあてながら、作用/反作用の原
理を利用することで、腰から背筋にやさしく圧
力がかかり、自然と体を上起させる究極のライ
ンを実現しました。一般的な補整下着に比べ、
約2.5倍のパーツと約2倍の縫製工程、約1.5
倍の資材アイテムを使用、構造力学的に考慮
された精密なパターンと、それを忠実に再現す
る高い縫製技術により、素材が持つ機能や補
整力を最大限に引き出しています。
また、ナノレベルの極細糸に特殊加工を施
した独自開発のパワーネット生地の部分的使
用により、伸縮性とフィット感を両立させ長時
間着用してもズレにくく、快適な着心地を実
現しました。このほか、細密で優美な最高級
リバーレースの使用により、立体的に見えな
がら通常のレースよりも薄く「アウターに響きに
くい」仕上がりとなっています。
現在、フルカップボディスーツ、3/4カップ
ショートブラジャー、ロングガードルなど計5ア
イテムを、全国235の直営店で販売していま
す。店舗には資材や縫製の生産背景を明ら
かにした専用のパンフレットを配置。あえて製
造ノウハウを外部に明らかにすることで、他
社商品との違いを鮮明にし、消費者に安心
感を与えることを目的としています。
今後もマルコは、体型補整コンサルティン
グと付加価値の高い製品の提供を通じ、お
客様と一層の信頼関係を築きながら、お客
様に喜びと満足を提供してまいります。
本件に関するお問い合わせ先
マルコ株式会社 商品部
担当:牛島 章博
電話:06-6233-5001
最新の中国情勢とビジネス事情
成長を阻害する3つの制約
Topics
2015年、人口減少社会に突入
─ 中国経済の高成長が続くいま、これ
を阻害するとすれば、どのようなことが要因と
して浮上してきそうですか。
大 別して3点が挙げられます。ひとつは
1980年代に始まった“一人っ子政策”が原因
ですが、2015年に中国が大きな人口変動期
に突入することです。15歳から64歳までの生
産年齢人口がこの年から減少に転じます。
生産年齢人口の減少は、国家の盛衰と密接
に関係してきますので、このことが経済成長
を阻害すると考えられます。
日本の場合、1995年に生産年齢人口がピー
クを迎えましたが、それから2010年までの15
年間に600万人もの減少を見ました。年間40
万人です。首都圏なら千葉県柏市、関西な
ら大阪府豊中市の人口規模で、これが消え
ていくと想像するとその規模がお分かりいただ
けるかと思います。さらに2011年から2020年
までに700万人、毎年70万人の生産年齢人
口が減ります。東京・大田区や練馬区、岡
山市の人口に匹敵する規模です。この生産
年齢人口の減少に伴い、市場の縮小が進み、
経済にも大きな影響を与えることは間違いあり
ません。現に
“工場の日本脱出”や市場を求
めて企業の海外進出が加速しています。
中国は日本の10倍以上の人口を抱えてい
ます。それだけに日本が受けた以上のインパ
クトがあるとみるのが妥当です。経済の変動
は景気の波ではなく人口の波によるものである
ということはもはや定説です。
─ 具体的にどのような現象が予想され
るでしょうか。
消費の減少、貯蓄の落ち込み、社会の活
力低下、成長の減速といったことが経済社
会全体に表われてきます。高齢化に伴う諸問
題も当然顕在化してくるでしょう。2010年11月
1日の中国第6次国勢調査では、60歳以上の
人口は1.78億人で全人口の13.3%。また65
歳以上の人口は1.20億人、8.9%でした。国
際基準では65歳以上の人口比率が7%を超
えると高齢化社会と呼びます。中国は既にこ
の段階に入っています。この割合が日本は
23%です。60歳以上の人口は2014年には2
億 人、2025年には3億 人、2042年には4億
人を突破し、全人口の30%以上を占めるとい
う試算があります。
そうなると社会保障コストは膨大な額に膨れ
上がります。その前に未整備な状態にある社
会保障制度を整え、医療や年金といった社会
保障を充実させるとなると、企業の負担も増大
し、生産コストが一段と上昇することになります。
こうなると経済成長どころではなくなります。
中 国 の1人 当たりGDPは4285ドル(2010年
末)。先進国が高齢化を迎えたときは概ね
5000ドルから1万ドルでした。しかし、中国は
5000ドルに達する前に老いが始まっていると
いうことです。中国では「末富先老」と呼ば
れています。豊かになる前に老いる、という
中国・インド 人口ピラミッド比較
中国
60
40
2010年
20
(歳)
105
100
0 20 40 60
総人口:13.4億人
男性
インド
2050年
(歳)
105
100
2010年
90
90
80
80
70
70
60
60
50
50
40
40
30
30
20
20
10
10
0
60
40
20 0 20 40 60
12.
9億人
(中位推計値)
60
40
20
女性 (単位:100万人)
0 20 40 60
総人口:12.2億人
0
2050年
古屋 明
最新の中国情勢とビジネス事情(中)
意味です。
経済の先行きはけっしてバラ色ではありませ
ん。この生産年齢人口減少の影響は、とくに
2020年以降に顕著な形で表われてきそうで
す。従って、2020 ∼ 2030年のどこかで年5%
前後の成長に落ちていくものと推測されます。
資源と投資の獲得競争が激化
――経済成長を制約する2つ目の事情は?
資源・エネルギーの制約です。工業化の
進展によって水、エネルギー、原材料の消
費量は飛躍的に増えてきました。2ケタ%成長
の過程で、中国は世界中から資源を買い集
めてきました。その結果、石油や石炭、鉄
鉱石などの資源価格のほか、小麦や大豆、
トウモロコシなどの食糧、そして綿花や羊毛
などの繊維原料まで価格が高騰しました。全
体にやや反動安の局面にありますが、以前と
は異なった価格水準にあることは否めません。
中国の成長のほか、インド、ブラジル、ロ
シアなど新興国の旺盛な買い付けによって資
源価格は今後とも高い水準を維持していくも
のとみられます。そのときに、中国がいつまで
も買い続けられるか大いに疑問です。当然、
資源の面からの制約を受けることになります。
─ インドの台頭など中国にとってライバ
ルとなる国が増えてきました。
それが3つ目の制約です。他の新興国の
台頭によって経済成長が制約されることは十
分に考えられます。
先進各国の投資は人口の多い国に向かい
ます。これまでは中国がひとりそれを享受して
きたわけですが、これからはそうはいかなくな
る可能性があります。12.2億人のインド、2.4
億人のインドネシア、1.9億人のブラジル、1.4
億人のロシアなどが中国を追いかけ、アジア
ではまた8700万人のベトナムなども先進国の
投資対象となるでしょう。投資が分散すると、
中国一人勝ちの構図が崩れます。資源と投
資という2つの獲得競争の激化が持続的な経
済成長を阻害する要因となります。
イノベーションがカギに
60
40
20 0 20 40 60
16.
9億人
(中位推計値)
5
伊藤忠中国総合研究所 代表 虫の目・魚の目・鳥の目
中国は欧米経済の不透明化とともに、不動産バブルやインフレ高進など多くの問題を抱え
ています。
「虫の目(現場目線)
・魚の目(潮目の変化)
・鳥の目(全体観、大局観)」の2回目は、
高度成長が続く中国経済を阻害するとすれば、どのような事情がその原因となるのかをお聞き
しました。古屋代表は、①2015年からの人口減少社会への突入 ②資源・エネルギーの高騰
③インドなど新興ライバル国の台頭――をその要因として指摘しています。
2011年11月号
─ 日本も中国も人口減少という経済成
長を難しくさせる問題を抱えることになりました
が、
これにどのように対応すればいいのでしょう。
ふるや・あきら 1972年東京外大・中国語卒、伊藤忠
商事入社。自動車部を皮切りに、機械・プラント・エネルギー
関係の営業部門に勤務。1981∼83年、天津に駐在し、
中 国 側との合 弁 会 社・渤 海 石 油 掘 削 事 業に従 事する。
1984∼88年、上海事務所に駐在、副所長兼機械部長。
帰国後、中国室(機械チーム長)で勤務。1994∼98年
大連事務所に駐在、総経理。帰国後、東京本社の中国室
長やアジア・中国・大洋州室長を歴任。2006年から現職。
わたしは“イノベーション”
(ソフト・ハード
面の技術革新)しかない、とみています。日
本では「移民受け入れによって市場を広げ
成長を促すことが重要だ」という指摘があり
ますが、それは美しい誤解です。移民の受
け入れに伴う数々の問題を考慮すると、問題
はそう容易ではありません。内から涌き出るよ
うなイノベーションしかそれを解決できないと考
えています。
とくに中国の場合は、労働集約型産業が
今もって産業、輸出を主導し、
“世界の工場”
は世界の“下請け”工場から脱し得ていませ
ん。これまでは、①安価な人件費と豊富な労
働力②安い土地使用代金③安値誘導の人
民元─ が外資にとっては大きな魅力で、
低コスト戦略は中国を抜きに考えられませんで
した。ところが、2010年になってこれらの前
提条件が大きく崩れていきました。
“安価で豊
富な”
というまくら言葉が使えなくなり、人件費
は目に見えて上昇していきました。
中国の成長を支えたのは沿岸部に対する
外資の投資でした。投資対象としての魅力
が近年薄れ、外資による成長戦略が崩れた
ことは中国にとって大きな痛手です。イノベー
ションを通じて労働集約型産業主導の経済か
ら脱することが、中国にとってとても重要なこ
とだと考えます。
出所:国連 World Population Prospects : The 2010 Revision.
為替(円/US$)
Data
百貨店衣料品売上高の推移(億円)
チェーン店衣料品売上高の推移(億円)
75.00
3,000
3,000
80.00
2,000
2,000
85.00
1,000
1,000
90.00
7/20
8/10
8/31
9/21
10/19
0
2009.9
2010.9
2011.9
0
2009.9
2010.9
2011.9
出所:日本百貨店協会
出所:日本チェーンストア協会
9月は月初と中旬の大型台風の影響や前年の記録的残暑の反動から苦戦し、総販
ドル/円は、前回以降の安値が9/22の76円11銭、高値が10/12の77円48銭
全体では3カ月連続の前年同月比マイナスだが、減少幅は2%台と小幅に収まり、ここ
と、76円台後半を中心とした狭いレンジ内での動きに終始した。目先のドル/円は、
数カ月の売り上げ動向は比較的堅調に推移している。9月は2つの台風が週末に重なっ
売額の前年同月比(店舗調整後)は2カ月連続のマイナスとなった。衣料品は903億円
米景気減速懸念や欧州債務問題の深刻化を背景としたリスク回避の円買いによ
たことや厳しい残暑が中旬まで続いたことで、例年本格展開がスタートする秋冬衣料など
で同3.8%減。夏物は処分品が好調だが、秋物商品の動きは鈍かった。紳士衣料はドレ
り上値が重い展開が見込まれるものの、下値では介入警戒感も強いことから方向
の季節商材に動きが見られなかった。一方、6月から好調な宝飾品、高級時計などの高額
スシャツが好調だが、スーツ、
ジャケット、スラックスは不調。婦人衣料はカットソー、
ジーン
感に乏しい展開が続くことが予想される。ただし、2円に満たないレンジでの取引が2
商材が引き続き伸びを示したほか、下旬からの気温低下で主力の秋冬ファッション商材が
ズ、パンツは好調だが、
ブラウスは不調。その他衣料・洋品は肌着、子供は好調だが、
ソッ
カ月間以上も続いており、相場が次の動きへの力を溜めている可能性がある。突発
活発に動き始めるなど、一部持ち直しの傾向も見られた。衣料品売り上げは1508億円で
クスは不調。ランドセル、
レイングッズの動きは良かった。衣料にカウントされないが寝具・
的な材料等により相場が大きく動き出す可能性には注意が必要である。
(10/20)
2.5%減。婦人服・洋品、紳士服・洋品は各2.3%減、子供服・洋品は横ばいだった。
寝装品は羽毛布団、敷パッドは好調。インテリアはカーペットが好調もカーテンは不調。
6
2011年11月号
ファッションリポート
F
ashion
Report
イスタンブール ファッション
No.575
田島 淑江
伊藤忠ファッションシステム株式会社 ブランディング第2グループ ブランドアライアンスBU この度、10月23日のトルコ東部で起きた地震によって
被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます
豊かな観光資源と立地に恵まれた世界有数の観光立国トルコ。日本からの観光ニーズも年々
高まり2010年の日本人観光客数は861万人、観光収入は14.0%増と好調だ。ただ、産業の
中心地イスタンブールは今、ファッションの分野でも注目される。中国に変わる生産拠点とは以
前から言われていたものの、それだけではないイスタンブールの独自性が徐々に周辺諸国に浸
透し始めた。日本でも“グラマラス”や“ギンザ”などの女性ファッション誌で特集が組まれるな
ど、若い世代のHot areaとして存在感が増している。「飛んでイスタンブール」
(1978年)を
知らない世代に響く新しいイスタンブールとは。その魅力を探る。
着実に成長し続けるトルコ
トルコの人口は7200万人で日本の約半分
である。人口の半分は18歳以下でとても若い。
トルコは15年ほど前までは経常赤字、財政
赤字、超インフレに悩まされてきたが経済は今、
過去8年間にわたり着実に成長し、目覚ましい
発展を遂げている。2002年以降実施されてき
た堅実な財政政策と大規模な構造改革をとも
なう健全なマクロ経済戦略が功を奏し、リー
マンショックでも大きな衝撃は受けなかった。
トルコ共和国
アンカラ
7,400万人
(2010年)
29.2歳
(2010年)
イスタンブール
(1,330万人)
、
アンカラ
(480万人)
、
イズミル
(390万人)
、
ブルサ
(260万人)
、
アダナ
(210万人)
1人当たりGDP
10,079 米ドル
(2010年)
輸出額
1,140億米ドル
(2010年)
輸入額
1,850億米ドル
(2010年)
観光収入
208億米ドル
(2010年)
観光客数
2,850万人
(2010年)
外資系企業数
25,500社
(2010年)
主要輸出国
ドイツ
(10.1%)
、英国
(6.3%)
、
イタリア
(5.7%)
、
イラク
(5.3%)
、
フランス
(5.3%)
(2010年)
主要輸入国
ロシア
(11.6%)
、
ドイツ
(9.5%)
、中国
(9.3%)
、
米国
(6.6%)
、
イタリア
(5.5%)
(2010年)
出典:トルコ統計局
まな方面で政府のバックアップを受けながら発
展に向けて力を注いでいる。
Istanbul Fashion Week
公式国名
首都
人口
平均年齢
主要都市
(人口)
国民1人あたりGDPは1万ドルを超えてい
る。現時点ではまだ、超富裕層と下層との格
差は顕著だが、中間層は増加し消費動向も
さらに高級品を求めていく傾向にある。トルコ
経済の目覚ましい発展は対外貿易の増大にも
つながり、輸出高は2002年の360億ドルから
2010年末には1140億ドルに増加。同様に観
光収入も、2002年の約85億ドルが2010年に
は200億ドルに達している。
これほどの短期間に著しい発展を遂げたト
ルコは、世界経済全体においても比類のな
い新興経済国となり、2010年のGDPに基づ
くランキングでは、世界第16位、欧州第6位
の経済規模となっている。
そして輸出額を製品別で見ると、自動車関
連製品の20億ドルに次いで多いのが既製服
を含む繊維製品16億ドルである。
トルコは今世界のファッション業界における
存在感を高め、あらたなファッション大国を目
指 そうとしている。まずGAPやDOLCE &
GABBANA、HUGO BOSSなど、大 手 国
際ブランドの製造の面で定評があり、HUGO
BOSSはトルコでのさらなる投資拡大を予定し
ているという。
ただ、「良質な衣料品の生産国」というイ
メージは定着し始めたものの、今後中国や極
東からの脅威に立ち向かうためには、自国発
の創造性が求められてゆく。トルコは今その
点に重点をおき差別化を図りたいと考え、教
育、小売、PRなどファッションにおけるさまざ
自国のオリジナリティー発信の機会として政
府と業界団体が一丸となって注力している
ファッションイベントがイスタンブールファッション
ウィーク(以下IFW)である。今年で3シー
ズン目となるがこれまでにもフセイン・チャラヤ
ンやディーチェ・カヤック、そして現在ロンドン
を拠点に活躍する若手のホープ、ボラ・アク
スを輩出している。トルコの西洋と東洋の文
化が絶妙に折衷する独特の文化性に、世界
からの注目は高まっている。
若手の合同ショーも含め25ブランドほどのブ
ランドが参加するIFWはイスタンブール既製服
輸出組合(iTKiB)
、ファッションデザイナー協
会(MTD)
、全国ブランド協会(BMD)
、イ
スタンブール・ファッションアカデミー(iMA)の
協賛によって開催されている。今までは大規模
展開している大手アパレルブランドが主流だっ
たものの、年々若手のデザイナーの存在感を
高めており、一人ひとりの名前が立ってきた。
主 催 団 体の一つであるiTKiB(イスタン
ブール既製服輸出組合)はカーペット・生地・
ガーメント製品それぞれのグループで成り立っ
ている。トルコは、1兆5000億ドルのガーメン
ト製品輸出額があるが、そのうちの85%が
iTKiB団体のメンバーによるもので、トルコで
は最大の業界団体である。また当団体系列
で、デザイン学校も有しており、常に海外留
学の奨学金制度も施行するなど、ファッション
業界をある程度統括し、一貫した動きを持た
すことができているのもトルコの特徴といえる。
トルコは、フライトで2時間以内に飛べる隣
国が30カ国もあり、少し前まではドバイがEU
諸国や中東諸国へのハブだと言われていた
が現在は間違いなくイスタンブールである、と
iTKiB団 体の理 事メンバーのひとりである
Volkan ATIK氏は自信を持って話す。氏曰
く欧米ラグジュアリーブランドは既に参入してき
ており、自国製品は非常に安いため、今後
は値ごろ感のあるアッパーゾーンの需要が増
えてくるだろうとのこと。
トルコ製品は長年、EUを中心として輸出さ
れているが、ロシアや他国への輸出も大いに
振興している。現在でも、5000件ほどのトル
コブランドショップがトルコ外の国々で展開され
ている。中東地域では全体の30%ほどがトル
コレーベルであるし(トルコ生産含む)
、ロシ
ア全体では40%がトルコレーベルである。
VOLKAN氏は、日本市場に向けても何か
のイベントでプロモーションかけていく必要が
あると強く思っており、海外へプロモーション
する際には政府のサポートがつくため、近い
将来の参入を考えているようだ。
[email protected]
「istinye Park」
(イスティニエ パルク)
“2007年ベストショッピングセンター第1位”
(ヨーロッパ)
総面積270,000平方メートル、300近い店舗が入店してお
り海外高級ブランドが入り口付近に路面店風に並ぶ高級
ショッピングセンターではあるが、幅広いカテゴリー、
プライスレ
ンジのブランドを展開しつつも、館として統一感を持って展開で
きている点は参考にするべき点が多い。市場の雰囲気を演出
したistinye Pazar
(イスティニエ パザル)
も注目ポイント。
istinye Park/istinye Bayırı Cad. No:73 Sarıyer
電話:
(212)
345 55 55 http://www.istinyepark.com/
ラグジュアリーな外観と開放的な吹き抜けがポイント
CEVAHIR(ジェバヒル)
2005年10月にオープンした世界で2番目に大きくヨーロッパ
最大の
(6万4千平米)
ショッピングセンター。
ターゲットはヤング
ファミリーで280店舗、遊園地、
ボーリング場、劇場、映画館、
14レストラン、34ファーストフードショップ、2つの滝、世界最大
の壁時計などがありすべてがビッグスケール。
CEVAHIR shopping center/Büyükdere Cad. No:22,
Istanbul, Turkey 電話:
(0212)
368 69 00
http://www.istanbulcevahir.com/turkish/#/events
工場をリノベーションしてインスタレーション会場として利用している
バイヤー必見の
イスタンブールマーケット
新しいバイイングポイントの一つとして日本
のアパレルやセレクトショップバイヤーに注目さ
れているイスタンブールマーケット。イスタン
ブール市内には欧米ラグジュアリーブランドが
犇くストリートから、日本のレベルを凌ぐハイ
レベルなショッピングセンター、日本にはない
色味や技法を用いた雑貨や素材が売られる
マーケットや問屋街など、注目すべきポイント
は数多い。
高品質、低価格であるのはもちろん、洗
練され始めたデザイン性と他国は違った文
化性が作り出すオリジナリティーのあるアイテ
ムが多く、日本マーケットで飽和状態のLA
やロンドンテイストに新鮮なアクセントを加えて
くれるだろう。ショッピング モールも93カ所に
あり、現在も増え続けている。今後4年間で
140カ所に達すると予測されることから、一
つひとつのコンテンツ精査が求められレベル
中央のビルにはオフィスが入居しており、巨大な複合施設(街)が
完成されている
が底上げされている。
上記以外でも問屋街やローカルブランドな
ど、紹介しきれないイスタンブールファッション
の魅力は沢山存在する。
ファッション界で目覚ましい発展を遂げるトル
コ。今後正式にEU加盟したら、EUの境界
線はアジアと接することとなる。東洋と西洋を
つなぐ架け橋という役割を担っているイスタン
ブールは、欧州や中東諸国の中で今後ます
ます存在感を増すだろう。
同国が持つ創造性、感度、技術、規模
感から日本市場特性との共存点を見極め絡ま
せることで同質化した市場に新たな色彩を加
えてくれるであろう。