車いす座面の最適形状計測システムの研究開発

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車いす座面の最適形状計測システムの研究開発
上薗
剛*,久保
敦**,仮屋一昭***
Development of optimal shape measurement system of wheelchair seat surface
Tsuyoshi UEZONO, Atsushi KUBO and Kazuaki KARIYA
スリングシートを使った折りたたみ車いすは,長時間座った場合,お尻や腰に違和感を感じる。対策のため専用
クッションが販売されているが,座面が柔らかくなり過ぎたり,座った姿勢が不安定になるなどの課題がある。よ
り最適な座面を提供するためには,専門家による姿勢の観察や指導を行うシーティングが必要で,このときのお尻
の形状を計測することで,最適な座面を提供できる。本研究開発では,複数の注射筒を並べ座面を形成し,シーテ
ィングの後,各注射筒の凹凸を計測する車いす座面の最適形状計測システムを構築した。
Keyword :
1.
緒
座面,形状計測,車いす
言
国内の人口に対する高齢者の割合が急速に増加してお
2.
計測システム
計測システムは,汎用の折りたたみ車いすの寸法及び形
り,車いす利用者数も高齢化に伴い年々増加している。
状を参考 1) に,バックサポート,アームサポートを設け,
その中でも福祉施設の入居者においては,就寝時以外は日
利用者が車いすに座るときと同様な状態になるような外形
常生活の大半を車いす上で過ごしている。
とした。利用者が実際に座ってお尻の形状を型取る部分(着
福祉施設で使用される車いすは利便性,価格の点から汎
用の折りたたみ式が多く利用されており,利用者の体型に
座部)と,座位姿勢を保持した後に座面の高さを計測する
部分(高さ計測部)で構成される(図1)。
合っているとは言えない。
また,シートは,
・
布などの生地の両端を固定して張られた帯状のもの
(スリング式)
・
クッションを取り付けた硬質プレート状のもの(ソリ
ッド式)
に分類される1)が,多くは,スリング式シートが用いられ
高さ計測部
ており,このシートが原因となり利用者の骨の変形や車い
バックサポート
すからの脱落,褥瘡(床ずれ)の発生等が報告 2)されてい
る。
解決策としては,車いすに座ったときの臀部局所にかか
る圧力(座面体圧)の分散があげられる。このため,座面
アーム
サポート
体圧の分散を目的とするクッションを利用する解決法もあ
るが,効果の高いクッションを利用すると,座面が柔らか
着座部
くなり座った姿勢が不安定になったり,座る位置が高くな
ることで車いすの利便性が低下するという問題も発生す
る。
本研究では,座面そのものを利用者のお尻の形状に合わ
せ,座面体圧の分散を図ることを目的に,車いすに座った
ときのお尻の形を計測するシステムの開発を行った。
*
生産技術部
(公財)かごしま産業支援センター
大島支庁総務企画部
**
***
図1
計測システムの構成
32
鹿 児島県工 業技術セ ンター
2.1
着座部
No.27( 2013)
2.2
高さ計測部
着座部には,プラスチック注射筒の先端を下方に向け直
着座部の上方約1mの位置に,マイクロソフトのKinect
立させ,千鳥格子状に158本を設置し,注射筒押子の上下
センサを取り付けた。このセンサはカラーカメラに加え,
でお尻の形状を型取る構成にした。使用した注射筒は,容
赤外線プロジェクターと赤外線カメラを有し,非接触で物
量10mLで,押子の可動範囲は約6㎝である。それぞれの注
体の高さ計測が可能である。このセンサを用いて各注射筒
射筒は先端をチューブで接続し,そのチューブの終端はす
押子の高さを計測し,パソコンで処理してお尻の形状デー
べて一つにつなげた。注射筒とチューブ内部に水を充填し,
タを取得する(図4)。バックサポート及びアームサポー
お 尻 から着座部に加 わ
トの高さ情報を除外するため,図4の計測例では,950㎜
る 圧 力の伝動媒体と し
から1,100㎜の範囲の高さ計測を行っている。
た 。 この構成により ,
着 座 することで押子 が
高さ計測
(リアルタイム)
お 尻 の形状及び圧力 に
カラー画像
追 従 し,型取りが可 能
である(図2)。
図2
注射筒による型取り
型取り作業が終了した際,注射筒の押子の位置(高さ)
を固定するため,各注射筒に接続したチューブに2方コッ
クを介在させ,チューブ内部の伝動媒体をせき止める。す
べての2方コックは,電動アクチュエータによりまとめて
開閉できる。
利用者が着座した状態で2方コックを開くと,すべての
注射筒内の水圧は等しくなり,お尻にかかる圧力が一定に
なるように動く。この機能により,お尻から座面に加わる
圧力を分散させることができる。なお,着座部の大きさは
40㎝×40㎝とした。着座部の外観及び注射筒と2方コック
の配置等を図3に示す。
図4
Kinectセンサで計測した座面(1)
しかし,高さを計測するために出力される赤外線はラン
ダムに照射される仕様で,1回の計測ですべての押子の高
さを計測するには情報が少ないことから,すべての押子の
高さを計測するため,複数回の計測を行い,演算により高
さデータを算出している(図5)。また,図5の右側に表
示される任意の位置(ライン)を指示することで,指示し
たラインの押子の高さを計測できる。
高さ計測
(リアルタイム)
高さ計測
(演算結果)
押子高さのグラフ表示
図5
Kinectセンサで計測した座面(2)
最終的な(座面の)高さデータは,取得した高さは,14
行×10∼12列,158点の千鳥格子の押子の高さデータから
補完し,14行×23列の322点とした。
なお,取得した高さデータは,プログラムで疑似カラー
表現の2次元表示と3次元の立体表示で計測結果を確認で
きる(図6)。
図3
着座部の外観及び注射筒と2方コックの配置
車い す座面の 最適形状 計測シス テムの研 究開発
3.2
評
33
価
車い す 用ク ッション
二次元表示
の圧力分布の評価には,
一般に圧力分布測定 装
置が使用されている 。
当センターでは同装 置
(ニッタ,CONFORMat)
をJKA補助事業(平成20
三次元表示
年度公設工業試験研 究
所の設備拡充補助事業)
図6
3.
計測結果の確認
圧力 分 布測 定マット
座面の試作と評価
3.1
試
圧力分布測定マット
により整備している 。
を汎用車いすに載せ,
作
取得した高さデータから作成される座面に座った場合の
圧力分布の分散状況について検証するため試作を行った。
3次元CADソフト(Unigraphics NX2)を用いて形状データ
を作成(図7)し,さらに木工用NCルーター(菊川鉄工所,
MC37-1)用に加工データを出力し,40㎝×40㎝×5㎝(H)
の木材から直径20㎜のボールエンドミルで試作座面を加工
した(図8)。
図9
圧力分布測定
着座した状態でお尻にかかる圧力を,同装置により観察し
た(図9)。図8の試作座面上でも同様に観察した。図10
に汎用車いす及び試作座面に着座したときの圧力分布(濃
淡表示)の状態を示す。
汎用車いすに比べ試作座面に着座した状態の方が広い範
囲で圧力を受けている。また,お尻や太股にかかる圧力も
均一で,折りたたみ車いすに着座した状態で座骨部分に現
れた強い圧力も緩和されており,試作座面の効果があるこ
とが確認できた。
しかし,座った状態で上体を反らしたり,斜めに体位を
変えると,お尻の周囲①や股間②の部位で,やや強く当た
る感触も発生することがわかった。座面の加工データを作
成する際,お尻の周囲や股間に余裕を持たせるような処理
が必要と思われる。
座骨
図7
①
お尻側
3次元CADソフトによる形状データ
②
太股側
a) 汎用車いす
図10
4.
結
b) 試作座面
着座時の圧力分布
言
本研究では,お尻の圧力を均一に分散する機能とその形
状を計測するシステムを構築した。この計測システムで得
図8
試作座面
られたデータから,車いす着座時に座骨部分に現れる高い
圧力を緩和する座面を試作することができた。このことは,
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鹿 児島県工 業技術セ ンター
個々の車いす利用者に最適な座面を提供できることを示唆
している。
この最適な座面提供に当たっては,車いす利用者が長時
間座りやすく,かつ適切な姿勢を保持できる座面であるこ
No.27( 2013)
意見を頂いている。
当センターでは,形状計測システムについての技術支援
が可能であるので,今後,関連機関・団体等に広報するこ
とで普及に努めていきたい。
とが重要で,そのためには,作業療法士や理学療法士等の
専門家によるシーティングに関する助言が最も重要であ
る。
座面素材を当初木材で試作したが,堅くて重量がかさむ
ことから,適度な堅さで軽量な発泡ポリプロピレンを素材
謝
辞
研究を進めるに当たり,有益な助言を賜りました認定作
業療法士の松本多正氏をはじめ,シーティング研究会の皆
様に謝意を表します。
に座面を製作し,複数の作業療法士に評価を依頼した。座
参
面の上にウレタンの積層は必要であること,密着感から夏
1)日本工業規格:"手動車いす",T9201(2006)
場の蒸れ対策は必要であること,また,股間の当たり具合
2)日本車いすシーティング協会編集:"改訂版車いす・シー
についても加工時の工夫が必要であるとの製品化に向けた
考
文
ティング−その理解と実践"
献