「女性差別撤廃条約実施状況第6回報告書」に

「女性差別撤廃条約実施状況第6回報告書」に
盛り込むべき事項についての要望について
2006年1月6日
新日本婦人の会
前文―総論
女性差別撤廃条約の前文は、条約全体の基本的精神と獲得すべき基本目標をかかげている重
要な部分である。それにてらして、以下の点を盛り込む必要があると考える。
◇ 2006年は、国連が核兵器廃絶の第1号決議を採択してから60年である。いまや、
世界の圧倒的多数の人びとと政府が核兵器廃絶を願っている。被爆国政府として、この
第1号決議、核保有国も同意した「核兵器廃絶の明確な約束」
(2000年NPT再検討
会議合意)の実行を求め、国連と核保有国をはじめとするすべての政府に対して、核兵
器全面禁止・廃絶の国際協定の実現へ速やかに協議を開始するよう提案すること。
◇ 条約前文は「外国による占領及び支配並びに内政干渉の根絶」をうたっているが、ブッ
シュ米大統領も認めたように大量破壊兵器の保有がなかったにもかかわらず、 イラク
攻撃が開始された。国連や各国政府、世界中の市民の反対を押し切って強行されたイラ
ク戦争と米軍を中心とする占領政策に追随し、イラクへの自衛隊派兵をおこなった日本
政府の誤りを認め、自衛隊を即時撤退させる決意を述べること。
◇ 条約前文は、
「衡平及び正義に基づく新たな国際経済秩序の確立」をうたっているが、今
日、グローバリゼーションの名のもとに、すべてを市場原理にゆだねる新自由主義の政
策が弱肉強食の世界をつくりだしている。それにたいして、公正、正義、人権、平等、
平和を求める流れが世界にひろがっている。日本においても、生活のあらゆる分野をも
うけの対象とし、「自己責任」をおしつける小泉「構造改革」によって、雇用の破壊、社
会保障のきりすてがすすめられ、競争と格差社会が生み出されている。それは、女児や
高齢者などより弱い者への攻撃、社会の分断(働く女性と専業主婦、若者と高齢者、正
規雇用労働者と非正規雇用労働者、民間労働者と公務員・・・)など、連帯を失った荒廃と
犯罪の社会をつくりだしている。いま各方面から、日本はこれで良いのかとの問いかけ
がされている。政府は、これらが日本における男女平等や差別撤廃に困難をもたらして
いる事実を認め、報告に盛り込むこと。
◇ 政府閣僚のなかから、「ジェンダーフリーは結婚や家族の価値を認めない。・・・家族を破
壊するために子どもを使うのはポルポトを連想させる」
「ジェンダーという言葉は誤解を
生みやすい。国連でも使っているが、途上国のため・・・の言葉を先進国に当てはめてよい
ものか」
(安倍晋三官房長官)などおよそ不見識な発言がおこなわれ、性教育にも真っ向
から反対している。こうしたバックラッシュ加担の姿勢が、
「女性差別撤廃条約は過激な
フェミニズムの元凶」との攻撃や男女共同参画社会基本法否定の論調まで出てくる異常
さにつながっている。前回の政府報告への国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)の最
終コメントで「日本において、家庭や社会における男女の役割と責任に関し、根深く、
硬直的な固定観念が持続し」ている問題がきびしく指摘されたが、その解決の先頭にた
つべき政府閣僚や政治家が、まったく逆の行動をとっているとは恥ずべきことである。
これらは、女性差別撤廃条約を批准した国としてぜったいに許されない。日本政府はバ
ックラッシュに毅然と対処し、条約の遵守と履行を改めて誓約すべきである 。
◇ あらゆる女性差別の撤廃のために、政府はNGOとのいっそうの連携のもとに実効性あ
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る施策をすすめる必要がある。それは世界の流れである。ところが、この「女性差別撤
廃条約実施状況第6回報告書に盛り込むべき事項についての要望」の募集時期・期間には
大きな問題があった。担当局から文書が送付されてきた日付は12月1日であり、締め
切りは年末年始の時期をはさむ1月6日という常識的ではないものである。しかも12
月27日、男女共同参画基本計画(第2次)が閣議決定され、発表されるという、差別
撤廃の基本施策にかかわる重要なできごとがあった。閣議決定の時期は最初から予測さ
れていたものであり、女性団体・NGOとしてこの基本計画に目を通し、本要望書に反
映する時間的余裕がまったく与えられていなかった。政府はNGOとの連携を真剣に考
えているのかと、つよい疑問を抱かざるをえない。これまでも意見募集のあり方の改善
をくり返し求めてきたが、政府はこのことを真摯にうけとめていただきたい。
第1部
第2条
◇ 前回報告以降、改正育児・介護休業法の施行、人身売買に関する刑法の「改正」や人身取
引対策行動計画の策定などの法律上の改善が行われたが、民法改正はバックラッシュ勢
力の攻撃に負け、まったく棚上げになっている。雇用や労働分野でも、他の条項で述べ
るように、2006年の均等法の見直しはCEDAW最終コメントを満たすには程遠く、
労働法制でも8時間労働制の適用除外や時短目標の廃止、パートや派遣など非正規雇用
の際限ない増大など、女性の貧困化を拡大し、個人・家庭生活と職業・公的な責任との調
和をいっそう破壊している。政府はこれらの事実を国連に報告すべきである。
◇ 配偶者暴力防止法(DV法)が改正されたが、急増するDV被害者の相談への確実な対
応、緊急避難のシェルターなど思い切った増設や増員、そのためにも地方自治体に対す
る財政的援助をおこなうこと。
◇ 強姦罪の罰則強化、近親姦を個別の犯罪として刑罰法令に含めること。
◇ 人権擁護法案は、人権救済機関(人権委員会)の独立性の欠如、メディアや国民の言論・
表現への介入、職場の女性差別などの人権侵害を除外するという人権擁護や差別撤廃に
はつながらない重大な問題点をもっており、抜本見直しの必要性を明記すること。
◇ CEDAWも指摘した日本軍「慰安婦」問題について解決への努力はまったくなく、逆
に「女性国際戦犯法廷」のNHK放送番組に対して与党政治家が介入し、番組が改ざん
される事態がおこった。日本政府は、小泉首相の靖国神社参拝にみられるような侵略戦
争と植民地支配への無反省をただちにあらため、元日本軍「慰安婦」への謝罪と国家補
償をおこなうこと。真相を究明し、教科書への記述を復活し、内容の充実をはかるとと
もに、歴史を正しく教え、後世の教訓とすべきである。
◇ CEDAWも指摘したように、条約の選択議定書をただちに批准すること。
◇ 国連憲章の平和の精神を徹底した日本国憲法第9条がいま危機にさらされている。
「戦力
不保持」と「交戦権の否認」を削除して、自衛軍の保持を明記し、アメリカとともに戦
争する国へとすすむ危険な動きがつよまっている。同じ改憲勢力によって、国民の生存
権と国の社会保障的義務(25条)も否定され、家族生活における個人の尊厳・両性の平
等(24条)を見直す声さえでている。日本政府は、平和憲法を堅持し、国際社会に貢
献することをあらためて確認すべきである。
第3条
◇ 欧米にも例がないほど、メディアにおける「性の商品化」は深刻であり、ステレオタイ
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プの女性像も流されつづけている。メディアが女性の人権尊重や女性表現のあり方を見
直す指針や自主規制を設けることを奨励すべきである。そのためにも、メディアのつく
り手としての女性の参画を推進し、高い意思決定権をもつ女性の大胆な登用が求められ
る。
◇ 今日、憲法9条改悪やイラク派兵の動きとあわせて、戦争や暴力、自衛隊を賛美し、
「愛
国心」を押しつける映画やテレビ番組が大々的に制作され、宣伝されている。被爆国で
あり、侵略戦争の加害の歴史を持つ日本は、
「平和の文化」をひろげる決意を確認すべき
である。
第4条
◇ 平等の名のもとに、母性保護を切捨て、妊娠・出産のみに限定している。リプロダクテ
ィブ・ヘルス/ライツ(性と生殖の健康と権利)の立場に立って、後退した母性保護の
措置を改め、女性の生涯を通じた健康の促進をはかること。
◇ ILO103号条約(母性保護に関する条約)を批准すること。
第5条
◇ この間、「男は仕事、女は家庭」という固定的な性別役割分担意識に変化はみられるが、
依然として世論の半数近くが肯定している。その背景には、男性の長時間過密労働と結
びついた極端に少ない家事労働、女性に多い補助的労働、男女賃金格差など労働実態が
深く横たわっている。根本的な原因を究明し、それにふさわしい解決策を明らかにする
こと。
◇ いわゆる「バックラッシュ」によって、ジェンダー用語の使用規制、性別役割分担意識
を固定化する自治体条例の策定などがおこなわれている。政府はバックラッシュに毅然
と立ち向かう姿勢を打ち出すこと。
◇ 女児をねらった痛ましい事件があいついでいる。その事件を、
「働く母親は家に帰れ」な
ど家庭の責任に転嫁する動きがあることは問題である。政府の責任で子どもの安全を守
る政策をとること。
◇ 日本では、仕事と家庭の両立がますます困難になっている。
『少子化白書』では、その原
因として、子育て世代の30代男性の長時間労働や、育児・介護休業制度の取得率の低
さなどをあげている。リストラ・解雇の規制、若い世代の雇用確保、男女ともに労働時
間短縮、サービス残業の規制、正規と非正規労働者の均等待遇、生活できる賃金保障、
育児・介護休業制度の確実な取得保証など、企業などに指導をするとともに、労働法制
の実効ある改正をおこなうこと。
◇ 子どもを「もうけ」の対象にする公設民営化や株式会社参入・民間委託などによる「待
機児ゼロ作戦」は、むしろ待機児を増やし、保育の質を低下させている。国の責任で公
的保育を拡充すること。
◇ 日本も批准しているILO156号条約(家族的責任を有する男女労働者の機会および
待遇の均等に関する条約)を履行すること。
第6条
◇ 買春男性は野放しで、女性のみを処罰対象とする現行「売春防止法」の抜本的改正をお
こなうこと。「児童買春・ポルノ処罰法」や「出会い系サイト規制法」で少女を処罰対象
にしている問題点等を速やかに解決すること。
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◇ 「女の子買います」
「女の子飼いませんか」のわいせつメールや画像など、インターネッ
ト等の新たなメディアを使って女児・女性の人権を侵害することを許さない法整備を含
む対策を確立すること。
◇ 「集団レイプする人は元気があるからいい」など、日本では政治家による人権蹂躙・女性
蔑視発言が横行し、容認・弁護する時代錯誤の体質がある。それをあらためる努力が特
別に必要なことを確認すること。
◇ 諸外国からの出稼ぎ女性などの人身売買(トラッフィキング)、売買春、世界各地への日
本人の買春ツアーなど子どもを含む性的搾取をなくすために、仲介業者や買春業者、買
春者を厳重に処罰すること。改正された刑法にもとづき、取り締まりをつよめるととも
に、被害を受けた外国人女性の人権を守り、労働権を認め、生活などの相談体制を確立
する保護対策を実行すること。
◇ 売買春の温床ともなっている個室付浴場をはじめ各種の風俗営業の禁止、業者への銀行
融資の禁止など、必要な法改正をおこなうこと。
◇ 「婦人保護事業」への予算を増やすこと。
◇ 売買春問題を人権の立場から理解し、売買春を拒否できる人間になれるよう、子どもの
成長段階に応じた人権教育と性教育をつよめること。
第2部
第7条
◇ 日本の女性の政治参画は、GEM(ジェンダーエンパワーメント指数)が測定可能な8
0カ国中43位と国際的に見ても極端にたち遅れている。民意を反映しない小選挙区制
を改め、北欧などの例にならい比例代表を中心とする制度に抜本改正すること。他国に
はない巨額の供託金制度を見直し、女性の政治参画を推進する施策をとること。
◇ 2005年の総選挙で、自民党によって「刺客」として女性が政治利用された。その結
果、衆議院での女性議員数は戦後最多の43人となったが、日本国憲法や国際的到達点
にたって女性の人権や地位向上を推進する女性議員がふえたわけではない。今回の結果
が、女性の政治参画の前進とは評価できないことを認識すること。
◇ 国の審議会における女性の比率が30パーセントを超え、05年度末までの目標を達成
したことは評価できる。しかし、委員の選定の基準が不透明で、審議会が概して政府の
意向をくんだ答申をおこなう傾向がある。幅広い女性団体の推薦や公募など民主的な方
法により、専門知識や経験のゆたかな女性委員を登用すること。
◇ 小泉内閣が「小さな政府」政策ですすめる公務員削減は、国民の安心・安全を脅かし、
今でも少ない公務労働から女性をしめ出すものである。公務員削減はただちにやめるこ
と。
◇ 20歳選挙権を改め、国際的常識である18歳選挙権をただちに導入すること。
第8条
◇ この間、国連の諸会議への政府代表団にNGO代表が入っていることは評価できる。し
かし、NGO代表がその専門性や現場での経験を十分に生かした活動が保証されている
とはいえない。政府とNGOのパートナーシップを実質的に発展させるためにも、政府
代表団におけるNGO代表の権限を強化し、日本政府を代表する立場への女性の登用を
増やすこと。
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第9条
◇ 日本国内に存在する無国籍の子どもの問題は、依然として改善がみられない。1985
年の国籍法改正以前に在日米軍人と日本人女性との間に生まれた子どもや、日本人の父
親と外国からの出稼ぎ女性との間に生まれ、父親の認知を受けられず無国籍になってい
る子どもなどについて、実態を調査・公表するとともに、早急に救済措置をとること。二
重国籍者が22歳で一つの国籍を選ばなければならない問題点など、国籍法の見直しを
行うこと。
第3部
第10条
◇ 家庭科教育の男女共修や性教育に対する攻撃、
「あたらしい歴史教科書をつくる会」によ
る侵略戦争を賛美する歴史教科書や男女の役割を固定化した公民教科書の検定合格、東
京都をはじめとする男女混合名簿の禁止など、教育の分野でのバックラッシュが顕著に
なっている。これらの動きを重視し、男女平等とジェンダーの視点で教育現場、教科書
や教材のなかの性差別を見直すとともに、平等に逆行する攻撃に対して国として毅然と
した措置をとること。
◇ 高校多様化によるコース制や総合学科制で、女子は文系、福祉系、男子は理工系という
偏りはむしろ拡大している。公立高校での男女別学も一部の県で依然として残されてい
る。教育の場でのジェンダー平等の理念を貫き、女性の自由な職業選択のために教育と
訓練をよりひろげること。また、青年の就職難は深刻で、女性の正規就労が困難になっ
ていることを直視し、政府として特別の対策を急ぎ講じること。
◇ 「戦争する国」への人づくり、一部エリートの育成をねらう教育基本法改悪を中止する
こと。競争と管理の教育をやめ、こどもの発達と成長を基本にすえた教育制度に改善す
るとともに、高い教育費を抜本的に見直すこと。倒産やリストラによる失業、増税など
で国民各層が経済的に困難になっているなか、進学を断念したり中途退学せざるを得な
い学生が増えており、政府の責任でその実態の調査と必要な対策をとること。
◇ 老朽化した学校施設や冷暖房等の設備などの改修・改善、あわせて、ジェンダー平等の
視点で学校を点検し、更衣室がないため男女が同一の教室で着替えをしているなどの実
態を急ぎ改善すること。バックラッシュ勢力がこの事態を逆利用して、
“ジェンダーフリ
ーは着替えも男女同室”などと攻撃している現実を、正確に認識すること。この点で、
新しく策定された男女共同参画基本計画の第2部の2のなかで、
「ジェンダーフリー」用
語についての説明で、バックラッシュ勢力への迎合が見られることは、大きな問題であ
る。
◇ 若い世代の望まない妊娠、HIV、性感染症の増加は見過ごせず、早急の対応がもとめ
られる。しかし、性に関する正しい知識と科学的な避妊方法をとりあげた教材「ラブ&
ボディBOOK」の回収・絶版や、都立七尾養護学校での長年の性教育の実践への不当
な攻撃など、バックラッシュによって学校教育での性教育、若い世代の正しい性知識の
学習が妨げられている。政府の責任でただちにこれらの攻撃をやめさせ、リプロダクテ
ィブ・ヘルツ/ライツの立場での性教育や情報の提供をおこなうこと。この点で新たな
男女共同参画基本計画が大きく後退していることを指摘する。
第11条
◇ 「新時代の『日本型経営』」(1995年、日経連)の財界戦略のもと、政府がともに推
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し進めてきた雇用・労働政策によって、リストラ・解雇による失業者の増大、女性や若
者の安上がりの非正規雇用への置き換えがすすんでいる。人間らしい労働(ディーセン
ト・ワーク)に逆行するものであり、こうした政策をあらためること。性差別を是正し、
男女平等を実現していくために、すべてのILO条約を一日も早く批准し、履行するこ
と。
◇ 男女雇用機会均等法の改正にむけて審議がすすめられているが、厚生労働省労働政策審
議会雇用均等分科会の報告には、理念・目的に「仕事と家庭の両立」が規定されず、間
接差別の禁止が「募集・採用による身長・体重・体力要件」
「コース別雇用制度における
総合職の募集・採用による全国転勤」
「昇進における転勤経験要件」の 3 件に限定、男女
賃金格差の問題が対象外など多くの問題点がある。それらを抜本的に改め、罰則規定や
迅速な救済期間の設置などを盛り込んだ実効ある「男女雇用平等法」にすること。IL
O111号条約(雇用差別撤廃に関する条約)を批准し、国際規範や日本国憲法を基本
にすえること。
◇ 男女の賃金格差は、労使の自主的なとりくみでは解決されない。労働基準法第 3 条に「性
別」を理由とする差別の禁止を、労働基準法第 4 条(男女同一賃金)を「同一労働同一
賃金」とし、「使用者は同一労働同一賃金を原則とし、労働者の差別をしてはならない」
ことを明記すること。
◇ ILO175号条約(パートタイム労働条約)を批准し、パート労働者の賃金・労働条
件について、正規の労働者との均等待遇を実現すること。
◇ 派遣労働はあくまでも「臨時的・一時的」なものに限定し、規制すること。登録型派遣
の禁止、派遣先の正規労働者との均等待遇、派遣 3 年以上の労働者の正規雇用化、一方
的派遣打ち切りや正規代替の派遣禁止などを明記すること。
◇ 派遣労働者が妊娠・出産し、育児にかかわることを想定さえしていない企業の実態が、
私たちの独自調査(派遣労働実態アンケート)でも明らかになった(産前産後休暇が「と
れる」8.2%、育児・介護休暇「とれる」4.9%、
「わからない」がそれぞれ5割)。
均等法違反の「妊娠解雇」も社会問題になっている。政府は正規、非正規にかかわらず、
これらの母性保護についての権利の周知徹底と権利行使の保証をおこなうこと。
◇ 男女間格差や無年金者問題などさまざまな年金問題を解決するためにも、国民すべてを
対象にした全額国庫負担による最低保障年金を創設すること。定率減税、配偶者控除な
ど各種控除の廃止など増税政策をただちにやめること。また、障害者に応益負担を強い
る障害者自立支援法は、
「自立」の名による障害者福祉の切り捨てであり、ただちにやめ
ること。
◇ 公設民営、民間委託・営利企業の参入、保育所運営費・施設設備の一般財源化、
「規制緩
和」による公的保育制度の縮小などがおこなわれている。保育所を増設して入所待機児
の解消、保育所の最低基準の改善、保育の公的拡充をおこなうこと。
◇ 平等の名により、女性労働者の「坑内労働の禁止」規定を廃止する動きがある。坑内労
働による塵肺などが今でもなくなっておらず、母性保護の観点からも廃止せず、堅持す
ること。また、重量物や有害物質の取り扱い状況を、母性保護の観点からあらためて調
査すること。
第12条
◇ 政府は新しく策定した「男女共同参画基本計画」第2部の8でリプロダクティブ・ヘルス
/ライツについての解説を大幅に後退させるとともに、前計画の「施策の基本的方向」
6
で掲げていた「(1)リプロダクティブ・ヘルツ/ライツに関する意識の浸透」の項を削
除した。これはバックラッシュ勢力の攻撃に屈した結果であることを、つよく指摘した
い。リプロダクティブ・ヘルツ/ライツの視点を貫くとともに、社会保険による乳がん
検診を2年に1度にし、マンモグラフィによる検査導入とひきかえに個人負担を増大さ
せるなど、後退させた施策を元に戻し、さらに拡充させること。
◇ 性差医療についてのデータ収集、研究、実施等に本格的にとりくむこと。また、若い女
性に子宮内膜症や月経困難など婦人科系の疾患が急増しており、政府の責任で実態と原
因を究明し、実効ある対策をおこなうこと。
◇ 妊産婦検診、出産、小児医療への財政的措置を拡充し、産婦人科医、小児科医の減少へ
の対策を講じること。
第13条
◇ 世帯単位から個人単位への税制・社会保障制度の見直しの名で、配偶者特別控除の廃止、
さらに、定率減税の廃止、課税最低限の引下げ、配偶者控除・給与所得控除など各種控
除の縮小・廃止がおこなわれている。女性の経済的自立、男女平等、男女共同参画に逆
行するものであり、直ちに中止すること。
◇ 自営業や起業家などの女性たちの要求である、無担保・無保証人融資の枠拡大、各種貸
付金の金額引き上げなどの対策をとること。
第14条
◇ 農山漁村、自営業の女性の地位は、労働における役割の大きさに比べ、依然として低い。
また、規制緩和による輸入農産物の拡大が家族経営の農家の経営を困難にし、大型店の
出店で小売店が廃業に追い込まれるなど、経済的にもきびしい状態におかれている。農
山漁村の少子化や高齢化は、地域社会の発展の大きな障害でもある。農林水産業・自営業
などで働く女性の労働を適正に評価し、所得税法56条を改正して働き分(自家労賃)
を必要経費として認めるなど法律の改正、整備をおこなうこと。
第4部
第15条
◇ 暴力の被害女性の自立にとって不可欠な生活保護の申請に住民票の提示が必要であるた
め、加害者である夫などに居所をつきとめられるという問題が起こっている。すみやか
に特別の措置をとること。
第16条
◇ 民法における女性にたいする差別条項は、いまだに改正されていない。夫婦の氏の選択
的別姓を早急に実施し、女性にのみ規定されている「再婚禁止期間」も廃止すること。
また、男性18歳、女性16歳とされている婚姻年齢は、男女とも18歳とすること。
◇ 「あらゆる場合において、子の利益は至上である」とい条文および2003年のCED
AW最終コメントの勧告にしたがい、婚外子にたいする不平等な待遇はただちに是正す
ること。「非嫡子」という用語も「婚外子」にあらためること。
第5部
第21条
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◇ これまでに(2004年1月現在)委員会から25の一般的な性格を有する勧告が出さ
れている。国会議員などからの強い要請により、ようやくこれらの勧告が翻訳され紹介
されたという経緯があるが、今後新たな提案や勧告がなされた場合は、そのつどただち
に翻訳し、周知徹底の努力をおこなうこと。
第6部
第24条
◇ この間立法などいくつか措置がとられてきたが、条約が認める権利の完全な実施のため
の必要な措置はとられていない。とりわけ、現在、小泉内閣が「構造改革」の名のもと
にすすめている社会保障の削減と大増税の方向は、女性と社会的に弱い立場にある人び
とにもっとも重い負担を強い、社会的格差をさらに広げるものである。また、女性の平
等や地位向上、差別撤廃にかかわる国際的な合意事項や条約を否定し、国連をはじめ国
際的用語として定着している「ジェンダー」という言葉の使用さえ認めようとしない国
会議員や政治家が国の指導的立場についていることは重大である。とりわけ、女性差別
撤廃条約の内容に反する言動を繰り返している女性国会議員が、日本における男女平等
を推進する国内本部機構(ナショナル・マシナリー)である男女共同参画局を統括する
内閣府の大臣政務官に任命されていることは、異常な事態である。女性差別撤廃条約を
はじめ国際規範と、憲法第99条で規定されている憲法遵守義務について、閣僚や議員
に教育をおこなうべきである。日本政府が、国際的な到達をふまえて、女性差別撤廃条
約の全面実施をあらためて誓約するよう、要望する。
その他
◇ 最終コメントで提起された個々の問題への対応や、性別・年齢別の包括的なデータ収集と
分析について、進捗状況と課題、何が障害となっているかなど、具体的に報告すること。
◇ この間の条約実施のためにとられた法制度、政策、プログラムについても、単に事実を
羅列するのでなく、その成果や影響についての情報を明示する、あるいは情報がない場
合はその理由を明らかにし、次回に向けて確実に最終コメントの提起にこたえることを
明記すること。
◇ 男女共同参画局のホームページに、女性差別撤廃条約と女性差別撤廃委員会について、
政府報告書や委員会の勧告含め、一定の情報が掲載されていることは評価できるが、掲
載のみでよしとするのではなく、中央省庁・自治体はじめ行政官、公務員、政治家にたい
し、女性分野での国際的な到達点が十分理解され、国内の法整備や政策に反映されるよ
う、具体的な措置をとることを明記すること。
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2、女子差別撤廃条約実施状況第6回報告書に関連するNGO等の活動報告
新日本婦人の会は、生活の向上や子どものしあわせ、女性の人権・地位向上、核兵器廃絶、
憲法改悪反対や軍国主義復活阻止をかかげて、国内外の女性と連帯して行動している、国連経
済社会理事会に認証されたNGOです。女子差別撤廃条約にわが国の現状として盛り込むべき
事項に関連するとりくみとして、2003 年 10 月から 2005 年 12 月までの2年間の中央段階の政
府・行政に対する要請や行動、NGOとしての国際活動等にしぼって報告します。
<内閣総理大臣に対する行動>
(2004)内閣総理大臣宛てに「自衛隊のイラク派兵承認案の採決強行に抗議する」抗議文、
「自衛隊の派兵中止・撤回を求める」
「平和を願う女子高校生の署名提出に対する小泉首相
の発言につよく抗議し、撤回を求める」要請書、
「2004年『年金改革』法案の閣 議決定・
国会提出に抗議し、撤回を求める」
「自衛隊派兵承認案の参議院での採決につよく抗議する」
抗議文、参院本会議での年金改悪法案強行採決に対する抗議文、参議院本会議で有事関連法案
強行採決に対する抗議文、「イラクで拘束されている日本人を救助し、自衛隊はイラクから撤
退せよ」の要請書を提出
(2005)内閣総理大臣に介護保険法案の委員会強行採択に対する抗
議文、「緊急アスベスト対策を求める」要請書、靖国神社参拝に対する抗議文、日米両政府が
合意した沖縄の新基地建設についての抗議文、「従軍慰安婦」制度の責任追及をテーマにした
NHK番組改ざんに対する抗議文、山谷えり子参議院議員の性教育攻撃の質問に対する抗議文、
「新憲法草案」決定に対する抗議文提出
<各省庁・大臣・国会議員・地方議会・政党等に対する行動>
(2003) 2004 年度予算編成に関する要請書を文部科学省、厚生労働省に提出/2004 年度予算
財務原案について緊急要請
(2004) 防衛庁長官宛てに「イラクへの自衛隊派兵計画の中止
と撤回を求める緊急の申し入れ」/ 農林水産大臣にアメリカのBSE牛肉輸入禁止継続を求
め要請 書/坂 口厚 生労働 大臣 に国と して 就学前 までの 医療費 無料 制度を 創設 するよ う要請 /
参議院議長、特別委員会委員長宛てに有事関連法案の徹底審議と公聴会を開くよう要請書/井
上喜一防災担当相、谷垣禎一財務相に長崎・佐世保市の小6女児事件に関し、発言の撤回を求
める抗 議文/ 石原 都知事 と荒 川区長 に荒 川区男 女共同 参画社 会懇 談会検 討結 果 につ いて要 望
書/防衛庁に自衛隊イラク派兵期限切れにあたり派兵延長をめぐって抗議・要請/財務大臣あ
てに 2005 年度予算財務原案について財務大臣あてに緊急要請を提出
(2005)安部晋三、中
川昭一議員、小泉首相に「従軍慰安婦」制度の責任追及をテーマにしたNHK番組改ざんに対
する抗議文/山谷えり子、小泉首相、中山文科大臣、細田男女共同参画担当大臣に、山谷えり
子参議 院議員 の性 教育攻 撃の 質問に 対す る抗議 文/衆 議院憲 法調 査会会 長中 山太郎 宛 に衆 議
院憲法調査会最終報告書に対する抗議文/防衛庁長官、米ブッシュ大統領宛に「沖縄の都市型
訓練施設での訓練強行に強く抗議し、施設の撤去を要求する」要請書、米ブッシュ大統領宛に
「在日米軍の再編・強化計画の撤回を求める」要請書、
「米産牛肉輸入再開のおしつけへの抗議書」/厚生労働大臣に「米国産牛肉の輸入再開に反対
する」要請書/国土交通大臣に「マンションなどの耐震偽造事件に関する」要請書/文部科学
大臣に「施行後7年の見直しにあたりサッカーくじ廃止を求める」要請書/農林水産大臣に「米
国・カナダ産牛肉の輸入の再開決定に対する」抗議文/政府税調石弘光会長に「配偶者控除・
廃止の論議での暴言に対する」抗議文/東京都教育委員会宛に「侵略戦争賛美、日本国憲法を
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否定する扶桑社教科書の採択に抗議し、撤回を求める」要請書/自民党、公明党に参議院特別
委員会で郵政民営化法案の採決強行に対する抗議文/徳島県議会あてに「男女共同参画社会基
本法」及び「同基本計画」の改廃を求める請願を採択することのないように要請書を提出
<内閣府男女共同参画局に対する行動>
(2003)女性に対する暴力に関するシンポジウムに参加
(2004)「北京行動綱領・女性 2000
年会議成果文書の実施状況に関する質問状への回答に盛りこむべき事項及び「男性の役割、戦
争と女性について聞く会」に参加/ 「北京行動綱領及び女性 2000 年会議成果文書の実施状
況に関する国連からの質問状について-日本政府が回答に盛り込むべき内容への私たちの
意見」
「配偶者からの暴力防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)の改正にあた
って-私たちの要望」
「男女共同参画社会の将来像検討会『報告書骨子案』についての意見」
「『ライフスタイルの選択と雇用・就業に関する制度・慣行』についての論点整理への意見」
「北京行動綱領・第 23 回国連特別総会成果文書の実施状況に関する質問状への日本政府報
告」に対するレポートを提出/ アジア太平洋地域経済社会委員会(ESCAP)、北京行動綱領の
実施に関わるハイレベル政府間会合、スウェーデン家庭生活調査などについて聞く会に参加/
パート タイマ ーア ンケー ト、 派遣労 働実 態アン ケート 結果を 内閣 府男女 共同 参画局 長に提 出
(2005)「北京+10」および欧米における女性科学者の状況について聞く会に参加/「男女共
同参画社会の形成の促進に関する施策の基本的な報告についての中間整理に対する意見」「今
後の男女雇用機会均等法対策に関する意見」を提出
<会としての態度表明>
(2003)声明「テロ特措法延長法案の成立強行に強く抗議します」
「いっそうの保険料値上げと
給付削減、厚労省『年金改革』案に強く反対します」
「イラク派兵『基本計画』の決定に強く抗
議します」発表
(2004)声明「イラクへの自衛隊派兵につよく抗議し、撤回を求めます」
「香
田証生さん殺害の蛮行に抗議し、自衛隊のすみやかな撤退を要求する」「イラク派兵延長に
強く抗議するとともに、一刻も早い自衛隊撤退を求めます」発表/会長らがイラク人質となっ
ている今井紀明さんの家族を激励、
「人質解放と自衛隊の即時撤退を要求する署名」を内閣府に
手渡す/「 第6回パートタイマーアンケート」「第3回派遣労働の実態アンケート」結果に
ついての記者発表/ 厚生労働省雇用均等・児童福祉局と(パートタイマーアンケート、派遣労
働実態アンケート結果をもって)懇談
(2005)見解「男女ともに仕事と家庭を両立させ、人
間らしく働けるよう『男女雇用機会均等法』の抜本的改正を求めます」を発表/声明「自民党
の『新憲法草案』決定に講義し、平和憲法を守りぬき、第9条を日本と世界に輝かせるために、
草の根からの大運動をくりひろげましょう」
<NGOとしての国際行動>
(2004)第 48 回国連女性の地位委員会に伴うNGO会議、「北京+10」第5回世界女性会議
などに関するNGO会議に参加/新日本婦人の会代表団が訪中、中華婦女連と交流/タイ・バ
ンコクで開催された「北京+10アジア太平洋NGOフォーラム」(アジア太平洋女性監視機
構)に参加
(2005)第 9 回国連女性の地位委員会(北京+10)に参加、新婦人のレポート提
出/核不拡散条約(NPT)再検討会議に日本原水協要請代表団として会から200人が参加
/会長らが韓国・フィリピン(3~7)・中国を歴訪(11~12)し、女性団体と懇談。韓国
で女性行進韓国への引継ぎ集会に参加/第 4 回世界女性会議 10 周年記念集会に会長が出席/
会の催し等に韓国の女性団体の代表を招待し交流
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