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国語科
−
言葉や表現技法に着目し想像の世界を広げて文章を読み取らせる国語科指導の一試み
4年 詩の読解における「イメージメモ」の活用を取り入れた学習指導の工夫を通して
大和町立吉岡小学校
概
池田
−
博樹
要
学力低下が叫ばれている中,児童が国語科の学習を通して身に付けなければならない
力は,生涯に渡って読む力であり,書く力であり,話す・聞く力であると考えている。
本研究は,それらの中でも特に読む力に焦点を当て,他者や言葉とかかわり合うことを
通して,言葉や表現技法に着目し,想像の世界を広げて文章を読み取らせるための指導
の在り方を探るものである。
1
主題設定の理由
平成10年7月の教育課程審議会の答申において,それまでの「文学的な文章の詳細な読解に偏りが
ちであった指導の在り方を改め,自分の考えをもち,論理的に意見を述べる能力,目的や場面などに
応じて適切に表現する能力,目的に応じて的確に読み取る能力や読書に親しむ態度を育てることを重
視する」ことが示された。それを受けて小学校学習指導要領国語の目標が「国語を適切に表現し正確
に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力及び言語感覚を養い,国語
に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる」と示され,国語科の指導は伝え合う力を高めるこ
とに重点が置かれるようになった。しかし,このことは決して文学的な文章の詳細な読解を否定する
ものではないので,話し方・聞き方指導に偏ってしまうことのないように,文章を読んだり文字を書
いたりする指導も大切に扱っていかなければならないと感じている。
平成18年10月に実施された宮城県学習状況調査の結果によれば,小学校国語科では「叙述に即して
読む力を高めること」「表現・理解につながる言語事項の定着を図ること」などが課題として示され
ており,そのための改善の方向として「目的意識をもって読ませる」「叙述に着目して考えさせる課
題や発問を工夫する」「学習したことを,授業だけでなく日常生活においても繰り返し使用する場を
増やす」「様々な条件のもとで,書く機会を多く設定する」などが示され,話す・聞く力,書く力同
様,読む力を身に付けさせることが求められている。
本校児童の学習面についての実態は,昨年度の学力調査の国語科の結果によれば,「話すこと・聞
くこと」に関する項目は全国平均に達しているが,それ以外の項目は全国平均に及ばず,宮城県学習
状況調査の結果同様,読む力の低下が指摘された。現段階においては,これらの結果を分析し,「読
書タイム」の充実を図ったり,読み聞かせボランティアの協力を得たりするなどの対策を立て,国語
に対しての興味・関心を高めるための取組を始めたところである。一方,生活面についての実態は,
一時的な感情を短絡的な言語表現でことを済ませる傾向が見られ,相手の気持ちや立場を真剣に考え
ているとは言い難い面が見られる。
以上のことから,言葉のもつ意味の重要性を児童に気付かせ,児童の読む力を高めることは重要な
課題であるととらえた。文章を理解するためには,まず,言葉の意味をしっかりつかみ,主述関係な
ども含めた文の構造を適切に把握するための学習を積み重ねていくことが必要であるが,それととも
に,文脈を理解するために,書かれていないことを想像する力を身に付けることが必要である。そこ
で,本研究においては,言葉一つ一つが作品の中で大きな役割を果たしている詩を取り上げ,詩に使
われている言葉の意味や,詩の奥に隠れている作者の思いや願いを想像するという経験を積み重ねて
いきたいと考えている。そして,そのような経験を通して読む力を身に付け,他の作品や様々な文章
を読む際にも活用できる力へと発展させていきたいと考え,本主題を設定した。
−HI1−
言葉や表現技法に着目し想像の世界を広げて文章を読み取らせる国語科指導の一試み
2
研究目標
言葉や表現技法に着目し想像の世界を広げて文章を読み取らせるための指導の在り方を,詩の読解
における「イメージメモ」の活用を取り入れた学習指導の工夫を通して明らかにする。
3
研究仮説
4学年の詩の学習指導において,
「イメージメモ」の活用を取り入れた学習指導を工夫していけば,
児童は言葉や表現技法に着目し,想像の世界を広げて文章を読む力を身に付けるであろう。
4
研究の対象と方法
4.1 研究対象
大和町立吉岡小学校 第4学年2組 児童32名
4.2 研究方法
(1) 国語科の詩の学習指導で求められている課題や,身に付けさせたい力などについての文献研究を
行う。
(2) 想像の世界を広げて文章を読み取らせるための「イメージメモ」の有効な活用の仕方を,実践を
通して探っていく。
(3) 詩の学習に関する意識調査と実態調査を行い,その結果を分析し,考察する。
(4) 指導計画を作成する。
(5) 指導計画に基づき,想像の世界を広げて文章を読み取らせるための学習活動を工夫した指導案を
作成し,実践授業を行う。
(6) 実践授業の分析と事前,事後の意識調査や実態調査の変容から仮説を検証する。
(7) 研究のまとめと今後の課題を考察する。
5
研究の概要
5.1 研究主題・副主題のとらえ方
5.1.1 「言葉や表現技法に着目し」とは
一般的に詩を読む際には,自由に想像の世界を広げて情景を思い描いたり,「こんな感じ方もあっ
たんだ」と自分とは違った視点での対象のとらえ方に感動したり共感したりしながら読み進めるので
はないだろうか。しかし,そのような読み方ができるのは,一定の読む力を得て初めてできることで
あって,現段階の4年生児童がそのような力を十分に身に付けているとは言えないと感じている。し
たがって,児童が自由に想像の世界を広げて詩を読むためにも,また,詩に親しみ続けていくために
も,言葉の意味を理解させるだけでなく,その言葉が使われた背景を考えさせたり,詩に使われる表
現技法を学ばせたりしていくことが必要だと考えている。
言葉には,辞書的な意味はもちろんのこと,言葉を使った作者の思いや願いなども含まれており,
言葉を使う場や雰囲気によっては,その意味が変わってしまうこともある。また,表現技法は主に文
学的な文章において使われているが,作者はそれらを使うことによって,思いや感動を効果的に読み
手に伝え,文字では表しきれないことを表現している。したがって,言葉の意味やその言葉が使われ
た背景を考えたり,表現技法に着目したりすることは,書かれていないことを想像することでもあり,
想像の世界を広げて詩を読む上で最も重要なことだと考えている。
言葉の意味を考えたり,表現技法をとらえたりといった文字とかかわりながら学習を進めていくこ
とは家庭でも可能である。しかし,友達や教師とかかわって学習を進めていくことは,学校でなけれ
ばできないことであり,そうした機会を意図的に設定することが学校での学習では必要であると考え
ている。したがって,本研究においては,児童が互いにかかわり合いながら,自分とは違う考えがあ
−HI2−
言葉や表現技法に着目し想像の世界を広げて文章を読み取らせる国語科指導の一試み
ることに気付いたり,自分の考えを深めたりすることを大切にしていきたいし,そのような学習を積
み重ねることにより,想像の世界を広げて文章を読む力を身に付けさせ,他の作品や様々な文章を読
む際にも活用できる力へと発展させていきたいと考えている。
これらのことからも,想像の世界を広げて文章を読み取るために,言葉の意味やその言葉が使われ
た背景を考え,表現技法を理解し,学び合いによって自分の考えを深めたり新たな考えに気付いたり
することを,「言葉や表現技法に着目し」ととらえた。
5.1.2 「想像の世界を広げて」とは
自分の考えを深めたり,新たな考えに気付いたりすることができれば,同じ作品を再度読み返すと
きには違った視点で情景や作者の思いを想像することができ,別の作品を読むときには様々な視点か
ら作品を味わおうと意識するようになると考える。これらのことからも「想像の世界を広げて」とは,
作者の思いをいろいろな角度から想像しようとするなど,様々な視点から作品をとらえようとするこ
とととらえた。
5.1.3 「文章を読み取らせる」とは
一般的に話を理解するためには,言葉だけを理解するのではなく,話し手の意図を想像することが
必要である。同様に,文章を理解するためには,書かれてあることだけを理解するのではなく,書か
れていないことを想像するなど,文脈として理解することが必要だと考えている。国語科の授業は言
葉を学習する場である。このことを踏まえれば,文章を読み取るということは,言葉の意味や文の構
造をしっかりと把握しながら,書かれてある情報を理解することはもちろん,それらの情報を相互に
関連付けて文脈をしっかり押さえることであり,押さえた内容に対して自分はどんな考えをもつかま
で含めたものだと考えている。したがって,国語科の授業において,言葉や表現技法を基に,話され
なかったことを想像したり,書かれていないことを想像したりする力を身に付けさせていくことは大
変重要なことであり,そこで得た力は,他の作品を読む際にも,様々な文章を読む際にも十分に活用
できるものと考えている。
文学的な文章は虚構の世界や情感の世界が描かれており,特に詩の場合は作者の感動が多く描かれ
ている。したがって,詩を読む際は,読み手は説明文のように論理的に考えながら読むのではなく,
作者の感動や虚構の世界,情感の世界を想像しながら読む必要がある。これらのことからも,「文章
を読み取らせる」とは,児童に作者の思いや願いを読み取らせ,その作者の思いや願いに対して,自
分の考えをもたせるために教師が様々な支援をすることととらえた。
5.1.4 「『イメージメモ』の活用を取り入れた学習指導の工夫」とは
児童が詩を読む際に想像の世界を広げるためには,言葉の意味やその言葉が使われた背景を考え,
表現技法を理解し,学び合いによって自分の考えを深め,いろいろな考え方に気付いていくことが大
切になってくる。そこで,本研究においては想像の世界を広げるための一つの手段として「イメージ
メモ」の活用の仕方に焦点を当て,学び合いと書くことを融合させた学習指導の在り方を工夫してい
きたいと考えている。その「イメージメモ」についての概要を以下に述べる。
○「イメージメモ」
自分の考えを深めるためにも,考えの幅を広げるためにも,学び合いは重要な役割を果たすと考え
ている。しかし,これまでの指導の実際を振り返ってみると,学び合い自体に深まりが見られなかっ
たり,話型を気にするあまり,活発に自分の意見が言えなくなってしまったりする児童も見受けられ
た。そのため,学び合いを活発にさせたい,意欲をもって学習に取り組ませたいという思いから考え
たのが「イメージメモ」である。「イメージメモ」は読むためのメモであり,自分の読み取った想像
の世界を,学び合いによって深め広げていくためのメモである。
「イメージメモ」を扱うに当たっては,教師が作品の読み方を教えるのではなく,児童自ら読み方
や感じ方に気付くということに重点を置きたいと考えている。児童自ら読み方や書き方に気付くこと
ができれば,意欲をもって学習に取り組むことができるであろう。「イメージメモ」の活用において
は,そこを特に留意して指導していきたい。
−HI3−
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5.2 実態調査
5.2.1 実態調査のねらい
国語科の学習全般に関する意識調査と実態調査を行い,課題をとらえ,指導の方向性や手だてを考
える際の手掛かりとする。
5.2.2 調査対象
大和町立吉岡小学校 第4学年2組 児童32名
5.2.3 調査期日
平成19年7月5日
5.2.4 調査方法
(1) 調査回数 研究当初と授業実践後の2回実施する。
(2) 調査方法 質問紙法(選択肢法,記述式の併用)
5.2.5 調査結果と考察
(1) 国語への興味・関心について
0%
20%
40%
60%
80%
100%
図1からは,国語に対して高い興味・
好き
どちらかといえばきらい
関心を示していることが分かり,図2か
どちらかといえば好き
きらい
らは,説明的な文章に比べ,文学的な文
章を好む児童が多いことが分かる。今後
図1 国語の勉強は好きですか
も知識・理解・技能をしっかりと身に付
けさせながら,興味・関心もよりいっそ
詩
う高め,一人でも多くの児童が言葉に浸 物語文
り,想像の世界を広げて文章を読むこと 説明文
ができるように研究を進めていきたい。
0%
20%
40%
60%
80%
100%
(2) 読む力の実態と児童の意識について
好き
どちらかといえばきらい
図3からはいろいろなことを想像しな
どちらかといえば好き
きらい
がら詩を読むことができると考えている
図2 どんな文章を読むのが好きですか
児童が多いことが分かるが,19年6月に
行った学力検査の結果を見ると ,「読む
力 」「知識理解」が全国平均に及ばなか
0%
20%
40%
60%
80%
100%
った。想像の世界を広げ,読む力を身に
たくさんそうぞうすることができる
付けさせるためにも,言葉の意味やその
どちらかと言えばそうぞうできる方だと思う
言葉が使われた背景を叙述に着目して考
どちらかと言えばあまりそうぞうできる方ではない
えさせていきたいし,文学的な文章特有
ほとんどそうぞうすることができない
の婉曲的な表現などにも目を向けさせて 図3 詩を読んだときにいろんなことを
そうぞうすることができますか
いきたい。
(3) 学び合いへの取り組ませ方について
友達どうしでは
図4からは友達同士の学び合いであれ
生活グループでは
ば児童は何の抵抗もなく取り組めること
クラス全体では
が予想される。しかし,学び合いは自分
0%
20%
40%
60%
80%
100%
とは違う考えをもつ他者とかかわること
好き
どちらかといえばきらい
に意味があり,児童がお互いに,高め合
どちらかといえば好き
きらい
っていくためには,好ましい人間関係が
図4 話し合いの学習は好きですか
必要であると考えている。したがって,
好ましい人間関係を構築しつつ,「イメージメモ」をどのように活用すれば,学び合いが活発に行わ
れるか,想像の世界を広げて文章を読むことができる児童を育てていけるかを考えていきたい。
−HI4−
言葉や表現技法に着目し想像の世界を広げて文章を読み取らせる国語科指導の一試み
5.3 指導対策
5.3.1 詩を扱う時間について
詩を読むということは新たな見方や感じ方に触れることであり,詩を作るということは,自分の思
いを表現することであると考える。したがって,児童にとって必要な力を身に付けさせるためには,
リズムを味わうということはどういうことなのか,詩の内容を想像するには何を手掛かりとすればよ
いのかといった鑑賞指導や,何を書くか,それをどう書くのかといった創作指導を大切に扱っていく
必要がある。
4年生の詩の学習は年間7時間が予定されているが,この7時間で詩の創作の方法や鑑賞の方法を
身に付けることは難しいと思われる。したがって,朝の会や帰りの会にも活動の場を設け,想像の世
界を広げて文章を読む力を身に付けさせていきたいと考えている。
詩は「題材を書くのではなく,感動を書く」とも言われている。したがって,驚きや感動の場面が
生じたときに詩の学習の時間を臨時に設けて詩を書かせたり,書いた詩を詩集にして残したりするよ
うな活動も積極的に取り上げていきたい。
5.3.2 「イメージメモ」の実際について
自分の考えを深めたり,様々な読み取りの仕方に気付くための「イメージメモ」の実際について,
図5を基に述べる。
図5
「イメージメモ」の実際
具体的には,詩を読み,感じたことに理由を添え「イメージメモ」に書く。全員が書き終えた段階
で,席を自由に移動しながら友達の「イメージメモ」を読み,読んだ感想や意見を相手の「イメージ
メモ」に書き加える。こうした活動の後,児童は,友達の感想や意見が書き加えられた自分の「イメ
ージメモ」を読み返し,考えを深めたり新たな感じ方に気付いたりする。これが「イメージメモ」の
具体的な使い方の一例である。
詩を読み,頭に思い浮かんだことを自由に吹き出しに書く際には,たくさんのイメージがわいてく
る児童もいるだろうし,全くイメージがわかない児童もいるだろう。児童はこれまでの学習や生活の
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言葉や表現技法に着目し想像の世界を広げて文章を読み取らせる国語科指導の一試み
中で身に付けた読む力を基に詩を読み,自分なりに詩の情景や作者の心情を読み取ることになるため,
読み取りに差が出ることは自然なことであろう。したがって,たくさん思い付く児童にとっても全く
思い付かない児童にとっても「イメージメモ」を有効に活用することができるように,個に応じた指
導の在り方についても十分に検討していきたい。
児童が自分の読み取りの深さを実感したり,逆に浅い読み取りに気付いたり,また,自分とは違っ
た読み取りを知ることで読み取りの幅を広げたりするためには,児童同士の学び合いが必要になって
くる。そこで,本研究においては「イメージメモ」を学び合いの場面で活用していきたいと考えてい
る。また,その学び合いも話したり聞いたりするだけではなく,書いたり読んだりする学び合いへと
広げていきたいと考えている。それによって,話すことが苦手な児童は,書くことで学習に取り組む
ことができ,自分の考えが思い浮かばない児童は,友達の「イメージメモ」を見る活動を通して自分
の考えが思い浮かんだり,多様な意見を知ったりすることになるであろう。このように,「イメージ
メモ」を見たり書いたりする活動を通して,友達の意見についてたずねたり,自分の意見を説明した
りする活動が自然に生じてくると思われる。このような活動は児童の「相手のことを知りたい,自分
の意見を分かってもらいたい」という意欲から発生するものなので,大切にしていきたいと考えてい
るし,書くことが苦手な児童に対しては,話したり聞いたりする活動を通して,進んで学習に取り組
ませたいと考えている。
「イメージメモ」を使って学び合いをする際は,「受容的な態度で活動に臨む」ということを基本
としていきたい。相手の考えを受容しなければ学び合いはうまく機能しないであろうし,教育的にも
意義がないものになってしまうと考えているからである。したがって,相手の「イメージメモ」に書
き込みをしたり,自分の考えを話したりする際には,まず相手の意見を受け入れ,相手がどのような
意図で感想や意見を書いたのかを考えた上で,自分の意見を話したり書いたりさせたい。
受容的に書かれた「イメージメモ」を読み返したり,学び合いの中で自分の意見が受け入れられた
りすることにより,児童は友達に認められていると感じ,その後の「学びたい」という意欲にもつな
がっていくことだろう。また,そのような学習を積み重ねていけば,想像の世界を広げて文章を読む
力を徐々に身に付けることができるであろう。
5.3.3 朝の活動の時間の活用
本校では毎週火曜日の朝の活動の時間を使い,「本に興味をもち,楽しく読書をさせる 」「読書活
動を通して豊かな心を育てる」ことをねらいとし,
「読書タイム」を行っている。本研究においては,
この「読書タイム」の時間を使って,教師がおもしろいと思った詩を紹介したり,児童が書いてきた
詩を発表したり,簡単な表現技法を使って言葉遊びをしたりする活動を取り上げていきたいと考えて
いる。そして,そのような活動を通して,児童が詩に興味をもち,詩を学ぶことの楽しさに気付いて
くれることを願っている。また,
「読書タイム」以外にも学年学級の裁量の時間が設定されているが,
その時間においても「イメージメモ」を活用し,表現技法などの技術的な面での指導を行っていく時
間として意図的に設定していきたいと考えている。ただし,朝の活動の時間においては,「イメージ
メモ」に慣れることと,児童自ら読み方や感じ方に気付くということに重点を置きたいと考えている。
したがって,教師が作品に使われている表現技法を教えるのではなく,あくまでも児童自らが気付く
ということを特に留意して指導していきたい。
5.3.4 帰りの会の活用
好ましい人間関係を構築していくためにも,帰りの会にフリートークの場を設定したいと考えてい
る。話題提供者の切実な悩みをみんなで考え合ったり,ときにはユーモアを交えながらフリートーク
を行ったりすることは,人前で話したり聞いたりすることへの苦手意識を払拭することにつながり,
詩の学習における学び合いの場に生かすことができると考える。もちろんフリートークの場において
も「受容的に聞く」ということを重視し,児童のフリートークへの意欲を削いでしまうことのないよ
うに留意していきたい。また,児童が作った詩を発表するような場面を設定し,様々な角度から詩に
親しませていきたい。
−HI6−
言葉や表現技法に着目し想像の世界を広げて文章を読み取らせる国語科指導の一試み
5.4 実践授業
5.4.1 単元名 「心の目を開いて」
5.4.2 単元の目標
(1) 言葉のもつ意味の重要性に気付く。
(2) 毎日の生活の中から,詩の題材を見付け,その題材について,感じたことや想像したことが伝わ
るように,工夫して詩を書く。
(3) 言葉や表現技法に着目しながら友達の書いた詩を読み,情景や作者の思いを読み取る。
5.4.3 単元の計画
次
時
第
一
次
1
段階
学 習 活 動
主な評価規準
つまずきへの支援
感性を 育 ○一語欠けている詩を読み,ど 読言葉のもつ意味の重 ◆動物園やテレビの動物番組のライオン
む段階
んな言葉を補えばよいのか,ま 要性に気付く。
のイメージを思い出させ,どんな言葉
た,その言葉によって詩全体が 読いろいろな感じ方に を補えばよいのかを考えさせたい。
どのようなイメージに変わるの 気付いたり,自分の ◆「イメージメモ」を活用し学び合いを
かを考える。
考 え を 深 め た り す 行うのであるが,児童にとっては書き
※「イメージメモ①」を活用す る。
ながら学び合いをするという経験は初
る。(補助資料参照)
めてのことでもあるので,学び合いの
観点を示した掲示物を作成(補助資料
参照)し,教室内に掲示しておく。
第 朝の活動 詩に触 れ ○いくつかの詩に触れることを 読表現技法の効果に気 ◆「詩を読んでイメージしたことを書き
二 15分 る段階
通して,表現技法の効果を学ぶ。 付く。
ましょう」と指示したとしても,児童
次
×
※「イメージメモ」を活用する。
は何をどのようにイメージすればよい
4回
(補助資料参照)
のか,迷うであろう。そこで,詩を読
む際の観点を示した掲示物(補助資料
参照)を作成し,教室内に掲示してお
く。
第 朝の活動 書き方 を ○詩を書く基本形を学ぶ。
書詩の書き方を知る。 ◆詩には作者の感動が表現されているこ
三 15分 学ぶ段階 ・対象をとらえる
とが分かっても,それをどのように表
次
×
・対象を描写する
現したらよいのかは十分に身に付けて
2回
・自分の思いを表す
はいない。そこで「詩を作ろうシート」
※「詩を作ろうシート」を活用
(補助資料参照)を活用し,詩を書くた
する。(補助資料参照)
めの基本形をここで学ばせたい。
第
四
次
1
書く段階 ○感じたことや想像したことが 書感じたことや想像し ◆基本形にとらわれなくてもいいことを
伝わるように詩を書く。
たことが伝わるよう 話す。
に,工夫して詩に書 ◆友達の作品を参考にしてもいいことを
く。
話す。
1
学び合 う ○友達の書いた詩を読み,情景 読友達の書いた詩を読 ◆既習事項を想起させる。
段階
や作者の思いについて考える。 み,情景や作者の思 ◆イメージした理由が思い付かない場合
※「イメージメモ⑥」を活用す いを読み取る。
は,学び合いをしながら考えてもいい
る。(補助資料参照)
ことを話す。
◆どうしても思い付かない児童に対して
は,教師や友達が代わりになって考え
るよううながす。
帰りの活 楽しむ 段 ○自分の作った詩を発表する。
動
階
15分
×
16回
読読み手に自分の感
動,思い,願いが伝
わるように自分で作
った詩を発表する。
−HI7−
言葉や表現技法に着目し想像の世界を広げて文章を読み取らせる国語科指導の一試み
5.5 授業実践から(指導案については補助資料参照)
5.5.1 感性を育む段階における指導
本時は「言葉のもつ
意味の重要性に気付
く 」「 いろ いろ な感 じ
方に気付いたり,自分
の考えを深めたりす
る」ということを目標
に,工藤直子氏の「ラ
イオン」という詩を基
に実践を行った。まず,
「しみじみと」という
一語が欠けている詩を
提示し,どんな言葉を
補えばよいのかを,図
6の「イメージメモ①」
を使い考えさせた。多
少の時間を要したもの
図6 「イメージメモ」の実際
の,すべての児童が欠
けている一語を自分なりに考えることができ,その後の学び合いへと移行させることができた。話し
たり聞いたりすることによる話し合いは何度か経験しているものの,書くことによる学び合いは,今
回が初めての経験である。クラス全体での話し合い活動では,発言する児童は限られてくる。しかし,
書くことによる学び合いでは,普段,人前で意見を言うことの少ない児童の意見も見たり聞いたりす
ることができ,児童は様々な意見に触れることができた。実際に,「みんなの意見を知ることができ
て勉強になった」「平仮名と片仮名の違いを知ったらイメージが変わりました」といった感想も聞く
ことができた。
5.5.2 表現技法を学ぶ段階における指導(朝の活動の時間において)
表現技法を指導する際にも「イメージメモ」(補助資料参照)を活用した。第一次において使い方を
学んでいるため,活動はスムーズであった。表現技法を学ぶことが主な目標ではあるものの,そのこ
とが前面に出てしまうと,児童の自由な読み取りに制限が加えられてしまうことが考えられるため,
表現技法は学習の最後に教師が知らせたり,児童が気付いたときに取り上げたりして,児童の自由な
想像を大切に扱っていきたいと考え実践を行った。そうしたところ,「リズムよく読めるけど何でか
なあ」「平仮名だとやさしく感じるなあ」「この技法を使って詩を書いてみたいなあ」といった感想
を聞くことができた。また ,「イメージメモ」を使った学び合いの学習の経験を積み重ねることによ
り,一編の詩からいろいろなことを想像できる児童も増え,友達の「イメージメモ」に書き加える内
容にも深まりが見られた。
5.5.3 書き方を学ぶ段階における指導(朝の活動の時間において)
児童が感動や思いを詩に表現するためには ,「何を書くか」,それを「どう書くのか」を指導して
いく必要があると考えた。そこで,今回は詩を作るための学習シート(補助資料参照)を使い,朝の活
動の時間において詩を創作するための準備をした。
5.5.4 書く段階における指導
朝の活動の時間において作成した学習シートを使い,児童それぞれが詩を創作した。予想以上に短
時間で詩を創作することができ,多くの児童が詩を作ることに対して自信を付けた。
5.5.5 学び合う段階における指導
第四次は「友達の書いた詩を読み,情景や作者の思いを読み取る」ことを目標に,「イメージメモ
−HI8−
言葉や表現技法に着目し想像の世界を広げて文章を読み取らせる国語科指導の一試み
⑥」(補助資料参照)を活用し,友達の書いた詩を読み,友達(作者)の感動や思いについて考える活動
を行った。これまでの経験を通して,児童は迷うことなく活動に取り組むことができ,「隣の友達の
『イメージメモ』に記入してから席を移動しよう」『
「 そうだね』のような一言はやめよう」といっ
た新たな学び合いの約束事も追加され,さらにスムーズに活動に取り組むことができた。しかし,今
までの活動とは違い,取り上げた詩は児童の作品であるため,読み手は「こっちの言葉を使った方が
いいのに」「何か足りない気がするなあ」ということを感じるのが当然であろう。したがって,今回
の活動では,イメージする内容に作者へのアドバイスも含めて活動を行った。そうしたところ,「題
名は◇◇の方が○○さんの言いたいことが伝わると思います」といった発言もあり,作者にとっては
自分の作品を推敲するためのよい機会となった。また,読み手にとっては身近な友達の作品というこ
とで,より意欲的に活動することができた。
6
研究のまとめと今後の課題
6.1 研究のまとめ
授業実践を行い,得られた成果を以下に3点記す。
(1) 想像の世界を広げるために「イメージメモ」を活用したことについて
「イメージメモ」を活用した学び合いを積み重
表1 学び合いの学習は自分にとってために
ねてきたが,表1の結果からも分かるように,多
なると思いますか。
くの児童が学び合いは自分にとって「ためになる」 1 ためになる
71%
2 どちらかと言えばためになる
23%
と答えていた。その理由としては「友達の意見を
3 どちらかと言えばためにならない
6%
参考に新しい詩を生み出すことができるから」と
4 ためにならない
0%
いった次の学びへつなげられるという建設的な意
見も見られ,学び合いの効果を実感できた児童も
多い。また ,「イメージメモ」に書き込まれる内
表2 作者の思いや願いや感動をそうぞうす
ることができますか。
容には,少しずつ変化が見られるようになってき
実践前 実践後
た。初めのうちは友達の意見を受け入れることに
1
たくさんそうぞうすることができる
37%
39%
終始していた児童も ,「作者はこの言葉をこうい
2 どちらかと言えばそうぞうできる方だと思う
53%
42%
うつもりで使ったんだと思う」「(友達の疑問に対
3 どちらかと言えばあまりそうぞうできる方ではない
10%
13%
して)私はこう思うよ」のように,受け取ったこ
4 ほとんどそうぞうすることができない
0%
6%
とに対する自分の考えを素直に表現できるように
なってきた。表2にはそのことが数値として表れ
表3 詩を読むことは好きですか
てはきていないが,これは,作品からいろいろな
実践前 実践後
ことを想像するためには,言葉の意味やその言葉
1 好き
57%
65%
2 どちらかと言えば好き
33%
32%
が使われた背景を考えることが必要であること
3 どちらかと言えばきらい
7%
3%
や,想像することとは受け取ったことに対して自
4 きらい
3%
0%
分はどう考えるかまで含まれることを児童が自分
なりに理解し,想像することに対する意識が高ま
った結果であると考えている。また,約9割の児童が「詩の学習をもう一度やりたい」と答えており,
学び合いの学習も9割以上の児童が「これからもやりたい」と答えていた。これらのことからも「イ
メージメモ」を活用した書くことによる学び合いの学習は,児童にとって意欲をもって取り組むこと
ができるものであり,想像の世界を広げるための手だてとして有効であったと考える。
(2) 詩の学習を取り上げたことについて
もともと詩を読むことが好きな児童が多いクラスではあるが,実践授業後には詩を読むことが「好
き」と答えた児童がわずかではあるが増えたことからも,詩を読むことに対しての興味・関心が高ま
ったことが考えられる。また,詩の書き方を学ぶことを通して,実際に児童は感動豊かな詩を書くこ
−HI9−
言葉や表現技法に着目し想像の世界を広げて文章を読み取らせる国語科指導の一試み
とができるようにもなった。9割近い児童が詩を書くことが「好き」と答え,8割以上の児童が感動
を「詩に書くことができる」と答えたことの要因には,「書き方が分かった」「書ける」という自信
が付いたことが大きいと考えられる。これらのことからも,詩の学習を取り上げたことは,詩や国語
の学習に対しての興味・関心を高めるためにも有効であったと考える。
(3) 言葉や表現技法に着目させたことについて
詩には感動が書かれていることを確認することによって,児童は詩を読む際には作者の感動を探る
ために,言葉の意味やその言葉が使われた背景を考えるようになってきた。また,「イメージメモ」
を活用した学び合いを通して児童自ら表現技法の効果に気付くことができた。「あれ,片仮名より平
仮名の方がやさしく感じるなあ」「音でも様子が分かるなあ」といったつぶやきが聞かれるようにな
り,教師がそれを取り上げることによって,他の児童と気付きを共有することができ,次の鑑賞活動
や創作活動へと生かすことができた。これらのことからも,言葉の意味やその言葉が使われた背景を
考えたり,表現技法に着目したりすることは,想像の世界を広げるためには必要なことであることを
確認することができた。
6.2 今後の課題
実践を通して,新たな課題も見付かった。以下に3点記す。
(1) 文章を文脈として理解する際に,最も必要とされる力は作者の意図や背景などを想像する力であ
ると考えている。そして,想像する力を身に付けさせていくことは,読む力を伸ばしていく上で重
要なことであり,他の作品や様々な文章を読む際にも活用できる力へと発展させていくことにつなが
ると考えている。実践授業では,児童は「イメージメモ」を活用した学び合いを通して様々な考えや
意見に触れ,作品に対しての見方や考え方を広げることができた。広げられた見方や考え方を深めて
いくのは教師の役割であり,授業の中でのつぶやきを取り上げ,個人の疑問を全体に投げかけること
は大切なことである。しかし,つぶやきや疑問をたくさん取り上げることができたかというとが反省
として残っている。今後はいかにしてつぶやきや疑問を取り上げていくか,そして授業時間の中にど
のようにして組み入れていくかが課題である。
(2) 国語の学習では音読は重要な役割を担っている。しかし,実践授業においては,
「イメージメモ」
を活用した学び合いに時間を大きく割き,音読させる時間が極端に少なくなってしまった。想像し
たことを表現することは,読む力を身に付けるためには大切なことである。したがって,音読の場面
を学び合いの活動の中にどのような形で組み入れていくかを今後の課題として検討していきたい。
(3) 今回の詩の学習を通して,児童は言葉のもつ意味の重要性に気付き,作品を読む際には,言葉や
その言葉が使われた背景を考え,想像の世界を広げて読むことができるようになってきた。今後は,
「イメージメモ」の活用の仕方や学習指導の在り方を再度検討し,詩の学習において身に付けた想像
の世界を広げて文章を読む力を,他の作品や様々な文章を読む際にも活用できる力へと発展させてい
きたい。
主な参考文献
[1]文部省:「小学校学習指導要領解説 国語編」
[2]白石範孝 加賀美久男 二瓶弘行 青山由紀 青木伸生:
「子どもの豊かさに培う共生・共創の学び−筑波プランと実践」
[3]全国国語授業研究会:「小学校国語 読解力を高める 授業者からの提案」
[4]白石範孝:「他へ転移できる力としての学力」
[5]工藤浩司:「詩の創作『思い』を言葉にする5つの技法」
[6]森山卓郎:「『言葉』から考える読解力」
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東洋館出版社
東洋館出版社
1999
2004
東洋館出版社
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学事出版
明治図書
2005
2005
2003
2007