- 1 - アメリカの州及び地方住宅政策に関する研究(2) ー新住宅法の評価

アメリカの州及び地方住宅政策に関する研究(2)
ー新住宅法の評価と戦略計画の策定経過の把握ー
海老塚良吉(建築技術教育普及センター)
山口
邦雄(地域総合計画研究所)
目次
1.研究の目的と方法
2.1990年以降のアメリカ住宅政策の動向
3.アンケート調査結果の概要
4.地方住宅政策の実例
5.住宅政策と都市計画の関連
6.計画統合化への動き
7.アメリカの地方住宅政策の特徴:まとめに代えて
1.研究の目的と方法
アメリカの住宅政策は、住宅金融、公営住宅、家賃補助等の主要な施策のほとんどが、
伝統的には連邦政府の財政負担の下で担われてきた。しかし、1980年代に連邦政府は住宅
分野からの役割の縮小を進め、州及び地方政府の住宅分野における役割が次第に大きくな
っ て い る 。 1 9 9 0 年 全 国 ア フ ォ ー ダ ブ ル 住 宅 法 ( C r a n s t o n - G o n z a l e z National Affordable
Housing A c t ) は こ の よ う な 政 策 の 流 れ を 受 け て 、 住 宅 政 策 の 枠 組 み を 整 理 し た も の で あ り 、
州及び地方政府の住宅政策における役割を重視して、非営利組織及び民間営利企業をも含
んだパートナーシップの下で、住宅問題に対処するという方向を示した。
前回の研究では、1990年住宅法の概要と州及び地方政府に作成が義務づけられることに
な っ た 総 合 的 住 宅 ア フ ォ ー ダ ビ リ テ ィ 戦 略 ( C o m p r e h e n s i v e Housing Affordability Stra
tegy、以下では「CHAS」とする)の内容について、連邦レベルでの政策の変化を中心
に分析したが、今回の研究では、このCHASが各地でどのように実際に展開されている
のかを、州及び地方政府の担当者からのヒヤリング及びアンケート調査により分析した。
アメリカの住宅政策のこのような地方への重点の移動は、日本においても、バブル期の
地価の急騰、住宅価格・家賃の高騰を経験した大都市の地方自治体を中心として、次第に
広がりつつある動きである。日米の社会構造の違い等を考えると、アメリカの制度の日本
への単純な模倣は意味をなさないが、住宅政策の基本的な問題を考える上で、日米に共通
する点も多くあると考えられる。アメリカの地方住宅政策の経験を学ぶことは、日本の今
後の地方に重点をおいた住宅政策を組み立てる上での貴重な参考になるものと考えて研究
を行った。
アメリカの地方住宅政策を日本において研究する上での障害の一つは、連邦制度の下で、
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各州が独自の施策をとっており、全貌を把握するには、これまでは、地方毎に異なる様式
の資料を集める必要があったことにある。しかし、1990年住宅法で、連邦からの住宅関連
事業(HOME、CDBG等、これらの事業内容については資料1を参照)への補助を受
けたいとする州、地方政府はCHASの作成を義務づけられた。このCHASにより、都
市の状況、住宅問題、住宅ニーズ、公的住宅の現況、住宅事業、住宅予算等を統一的な様
式で見ることができるようになった。この一種類の報告書を用いて、ある程度の水準まで
は容易に各地の状況を比較検討することができる。
住宅・都市開発省に1992年度のCHASを提出する義務のある州、地方政府は、全米で
約910であった。1992年度のCHASは、初年度であることや、1990年住宅調査(America
n Housing S u r v e y 、 5 年 毎 に 実 施 ) の 集 計 結 果 を ま だ 利 用 で き な か っ た こ と な ど が あ っ て 、
必要とされる表が一部空白のままで提出されたものが多かった。次の1993年度のCHAS
は当該年度の1年分を記した簡略化された報告書であり、住宅ニーズの分析や5カ年の住
宅戦略を含む本格的な報告書の第二回の提出は1994年度である。これは1994会計年度が始
まる93年10月に合わせて、計画がまとめられ、報告書の印刷物としては1993年末から1994
年はじめにかけて発行されている。今回の研究での分析の主たる対象は、この1994年度の
CHASである。
なお、CHASの記載要領は、州や地方政府の様々な意見を取り込んで、これまでも修
正されてきたが、住宅・都市開発省は第6節で詳述するように、CHASの作成に代わっ
て、他の関連事業の計画書との重複による事務の煩雑を避けるために1995年度から統合化
計画(Consolidated P l a n ) の 作 成 を 州 及 び 地 方 政 府 に 求 め て い る 。
本研究では、これまでに入手したCHASやこれに関連の参考文献から、設問事項を整
理して、94年4月にアトランタ、ミネアポリス、シアトル等の州及び地方政府への現地調査
を行った。その結果を踏まえて、全米各地の住宅政策の動向を把握するため、アメリカの
全州及び州内で最大人口の都市、人口50万人以上の都市の内、CHASの担当者名簿が入
手できた96カ所(宛先不明で4通が返送)を対象に、調査票(資料2参照)を郵送し、94年
9月までに35カ所より返送を受けることができた。回答を寄せてくれた大部分のところは、
1994年度のCHAS等の参考文献を同封してくれた。94年4月の事前現地調査の際に回収さ
れたアンケート分4票と合わせた調査票の回収された州及び都市は次の通りである。
調査票の回答のあった州及び都市
州(23通)
コロンビア、フロリダ、ハワイ、イリノイ、カンサス、ケンタッキー、メリーランド、ミ
ネアポリス、ミシシッピー、モンタナ、ノースダコタ、ニュージャージー、ネバダ、ニュ
ーヨーク、オハイオ、オクラハマ、オレゴン、ペンシルバニア、プエルトリコ、ロードア
イランド、テネシー、ワシントン、ウエストバージニア
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都市(16通)
リットルロック(アーカンサス)、サンデエゴ(カルフォルニア)、ロサンゼルス(カル
フォルニア)、サンノゼ(カルフォルニア)、ボイゼ(アイダホ)、アトランタ(ジョー
ジア)、ミネアポリス(ミネソタ)、シャーロット(ノースカロライナ)、オマハ(ニュ
ーイングランド)、ニューヨーク(ニューヨーク)、ポートランド(オレゴン)、フィラ
デルフィア(ペンシルバニア)、ダラス(テキサス)、ソルトレーク(ユタ)、バージニ
アビーチ(バージニア)
2.1990年以降のアメリカ住宅政策の動向
1990年に制定された全国アフォーダブル住宅法は、共和党のフォード政権時代に作られ
た法律であるが、議員立法による党派を超えた内容を含んでいるため、1992年にクリント
ン政権(民主党)が誕生して以降も、住宅政策に大きな変化は見られない。
住宅・都市開発省の長官はフォード政権下のジャック・ケンプからクリントン政権下で
はシスネロスに交代した。都市問題を重視していると言われる民主党ではあるが、一般会
計の15%余りの膨大な財政赤字が継続している下では、住宅政策に大幅な連邦予算をつぎ
込むことはできない。政権が交代しても財政赤字の削減が政権の最重要課題であることに
変わりはなく、クリントン大統領はゴア副大統領に行政機関別に財政支出の削減策をまと
めるように指示をして報告書をまとめた。住宅・都市開発省についても10項目の勧告がな
され、これまで全国に10カ所あった住宅・都市開発省の地域事務所が閉鎖されて1500人の
職員を削減し、81の現地事務所が52の州事務所と29の地区事務所に再編されて、直接にワ
シントンとの連絡を行うことになった。
1990年法の中で、住宅・都市開発省が提案して法律の中に盛り込むことになったHOP
E事業については、公営住宅の居住者への払い下げ等をめぐって、当初から、推進側の住
宅・都市開発省政策担当者と批判側の地方公共団体職員や研究者等の間で論争があったが、
クリントン政権下になり、新規事業はストップされた。
90年法の中に含まれるもう一つの新規事業であるHOME事業については、新規事業で
あり、地方公共団体の側に戸惑いがあり、地方公共団体の側の負担金(mutching fund)も
原因となって十分な事業実績があげられなかったが、次第に強化していく方向が示されて
いる。
シスネロス長官は、また、雇用の創出等の効果を期待して、コミュニティ開発一括補助
金(CDBG)等の大幅増額を議会に要求したが、補助金の利用の不適切さ(ゴルフ場開
発等に資金を利用した地方公共団体が一部であることが批判される等)を理由に予算案の
変更が認められなかった。しかし、厳しい財政状況の中で、住宅関連事業について内政の
重要課題として、長期的には次第に増加させていきたいとする姿勢がクリントン政権には
見られている。
3.アンケート調査結果の概要
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全米各地の住宅政策の動向を把握するため、アメリカの全州及び州内で最大の人口の都
市、人口50万人以上の都市を対象に調査し、回答の得られた23州及び16都市のアンケート
調査結果の概要は次の通りである。
住宅政策の担当部門
州及び地方政府が、最も大きな問題と考えているのは、アフォーダブル住宅の不足(2
7)であり、次いで、低所得者への直接住宅支援(10)、ホームレス、特定ニーズへの対応
(8)となっている。
CHASの担当部門は、ハウジング部門(26)が大部分を占めているが、その他に、コ
ミュニティ関連(3)、都市計画(2)、商業及び住宅等(2)等となっている。住宅部門の
職員数は、小規模なところがほとんどである。人数が1人∼9人(18)、10人∼19人(7)、
20人∼49人(2)、50人以上(7)となっている。従って、CHAS作成に携わった職員数
も少数であり、1人∼4人(27)、5人∼9人(7)、10人∼19人(2)、20人以上(2)とな
っている。
コンサルタント
CHASの策定作業に、外部のコンサルを雇用しないで自前で行ったところが28と大部
分であり、雇用したところは11と少なく、この内の7は州政府であった。雇用したコンサル
タントの作業内容は、基礎調査(7)、計画のドラフト(2)、市民参加の補助(2)などと
なっている。コンサルへの委託費用は、高額な順位で見ると、イリノイ州10万ドル、カン
サス州9万ドル、ネバダ州6万ドル、マサチューセッツ州5万ドル、ワシントン州5万ドル、
ニューヨーク州2万ドル、カンサス市6千ドル、オレゴン州5千ドル等となっている。
非営利組織
地域内の住宅供給や住宅改善に携わっている非営利組織数については、100∼199組織
(9)、200∼499組織(6)と数多く活動している地域が多く、非営利組織の数は急増(2)、
増加(27)、安定(10)、減少(1)と全体として増加傾向にあることがわかる。
市民参加
CHASの策定の過程で1990年法は市民参加を徹底して行うように求めている。
計画策定のそれぞれの段階での参加は、基礎調査(20)、計画書のドラフトを書く段階
(27)、ドラフトへのコメント(35)、最終報告書へのコメント(19)、その他(2)とな
っている。
市民参加のタイプとしては、特別委員会等(23)、コミュニティの状況把握(16)、公
聴会(38)、集会・打ち合わせ(9)、新聞等への広報(13)、ファックス・パソコン通信
等(4)となっている。
市民参加の熱心さについては、地方で通常に行っている都市計画や土地利用計画などと
比較して、より熱心としているのは少なくて(5)、都市計画と同じ程度(7)、都市計画
よりも不熱心(19)となっている。しかし、住宅問題等に取り組んでいる非営利組織のC
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HASへの参加は、通常の都市計画等の場合よりも、熱心(11)、都市計画と同じ程度
(14)、都市計画よりも不熱心(8)となっており、非営利組織がCHASに比較的熱心に
取り組んだ様子が分かる。そして、非営利組織の計画への参加を州と都市に分けて集計す
ると、州では熱心(4)、同じ程度(7)、不熱心(6)となっているのに対して、都市では、
都市計画よりも熱心(7)、同じ程度(7)、不熱心(2)とより積極的であったことがわか
る。
このような市民参加に対して、問題点として、住宅問題を抱えている人ほど参加できな
い(24)と答えているところが多かったことは印象深く、時間の浪費(18)、費用の浪費
(9)、計画作成に有効ではない(8)と連邦政府の規定があるから住民参加を実施してい
るものの、多くの批判があることがわかった。
しかし、それにもかかわらず、市民参加の有効な点として、とりわけ、非営利組織と政
府機関の協調関係の確立に役だった(25)を取り上げたところが多く、住宅政策の優先順
位を考える上で役だった(17)、コミュニティの実態の把握に役だった(12)等と一定の
評価をしている。
連邦の住宅政策の評価
アンケートでは、連邦の主要な住宅政策への評価を聞いている。最も評価の高い事業は、
コミュニティ開発一括補助金(CDBG)で、費用効果が良い(20)、普通(13)、費用
効果が悪い(0)となっており、次いで、HOME事業の費用効果が良い(16)、普通(1
6)、費用効果が悪い(2)であり、家賃補助事業については、 費用効果が良い(12)、普
通(17)、費用効果が悪い(1)とそれほど高い評価はされていない。
4
地方住宅政策の実例
州及び地方政府の住宅政策が、州、カウンティ(郡)、市の3つのレベルでどのように
展開しているのかを、ワシントン州内にあるキング・カウンティ、シアトル市を実例に取
り上げて見てみよう。
シアトル市
シアトル市の人口は、1980年の49万4千人から1990年の51万6千人に増加し、1993年には
52万2千人になると予想されている。世帯数はこの10年間に22万世帯から24万世帯に増加し
ている。平均世帯人員は2.09人と小さく、1人世帯が36%を占めている。人口の25%はマ
イノリティでこの中でアジア系が最大となっている。
住宅の所有関係を見ると、持家率は49%と低く、借家が51%となっている。住宅・都市
開発省(HUD)によれば、住宅支援を必要とする低所得の借家世帯が3万2千世帯、同じく持
家世帯が1万2千世帯いる。公的扶助の受給世帯が1万2千世帯、ホームレス人口は1万3千人
∼1万4千人と推定されている。
1980年代の後半に建築ブームがあり、住宅数は10年間に1万9千戸増えて1990年には24万
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9千戸になった。増加した住宅の85%は集合住宅であった。
平均家賃は地域により410∼595ドルで所得中位値の50%の世帯は何とか所得の30%以内
の借家を見つけることができるが、それ以下の所得層だと、アフォーダブルな住宅を見つ
けることが困難である。初めての持家取得層は市内では持家を見つけることが困難で借家
に居住している。
補助を受けている借家は約26,000戸あり、この内、シアトル・ハウジング・オーソリテ
ィの管理している公営住宅等、プロジェクト・ベースのものが約22,000戸、家賃補助等の
借家人支援が3,680戸となっている。補助を受けている持家は25,500世帯である。
市の住宅戦略として重視するべき分野は、次のように列記されている。
A. 住 宅 の 保 存 : 市 の 成 長 管 理 及 び 居 住 者 の 多 様 性 確 保 の 目 標 に 合 致 し て 、 市 内 の 既 存 住 宅
の様々なアフォーダブル住宅を確保する。
B. 住 宅 開 発 : 金 融 や 技 術 支 援 、 資 源 の テ コ 入 れ に よ り 低 中 所 得 者 向 け 住 宅 供 給 の 方 法 を 見
つける。
C. ホ ー ム レ ス の 防 止 と 世 話
D. 所 得 支 援 : 所 得 の 3 5 % 以 上 を 住 居 費 ( 家 賃 + 光 熱 費 ) に 支 払 っ て い る 低 中 所 得 世 帯 を 減
少させる。
E. 住 宅 支 援 サ ー ビ ス : 自 立 し た 生 活 が 確 保 で き る よ う に 住 宅 支 援 サ ー ビ ス を 行 う 。
シアトル市内のアフォーダブル住宅と福祉(ヒューマン・サービス)事業に合計で158百
万ドルが1994年には投資される予定であり、この投資額の内、連邦が59%、ワシントン州
が15%、地方の資金が22%、民間部門が4%を占めている。
市は、シアトル・ハウジング・オーソリティ(住宅公社)や非営利組織、民間住宅所有
者と共に事業を行う必要があるとしている。
シ ア ト ル 市 の 事 業 は 、 住 宅 福 祉 部 ( D e p a r t m e n t of Housing and Human S e r v i c e ) に よ り
実施されている。住宅福祉部は、1992年1月に、低所得者向け住宅の供給とホームレスの防
止・住宅支援サービスを緊密に連携するために再編されて作られた組織で、高齢者課、世
帯及び若年者サービス課、住宅・コミュニティサービス課(HCSD)の3課から構成されて
いる。
住宅・コミュニティサービス課は、部で最大の予算を執行しており、この内、住宅開発
に3,200万ドル、関連の支援サービスに520万ドルを支出している。
市内の住宅事業を執行する組織としては、この他に、シアトル・ハウジング・オーソリ
ティ(住宅公社)がある。シアトル・ハウジング・オーソリティは合計12,085戸の補助を
受けている住宅を管理している。この内、7,236戸は公営住宅であり、3,552戸はセクショ
ン8の家賃補助、1,297戸は高齢者住宅事業である。
シアトル・ハウジング・オーソリティは州の法制度により制定された補助住宅の公的開
発者であるが、市当局により直接に管理されているものではない。しかし、市の住宅福祉
部とシアトル・ハウジング・オーソリティは定期的に打ち合わせを持ち、調整を行ってい
る。
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(文献1より要約)
キング・カウンティ
キング・カウンティ(郡)は、シアトル市を中心とした32の地方政府の集まりである。
シアトル市は独自のCHASを策定しているため、これを除く31の地方公共団体によりキ
ング・カウンティ・コンソーシアム(連合体)を形成して、CHASの作成母体となって
いる。
キング・カウンティは人口が約150万人で、内3分の1がシアトル市、3分の1がその郊
外の連携している(incorporated)公共団体、3分の1が連携していない(unincorporat
ede)周辺公共団体に居住している。全米には約3,000のカウンティがあるが、キング・カ
ウンティは13番目に大きな人口を抱えている。
この地域は1980年代に急激な経済成長があったが、90年代に入って新規雇用が急減して
いる。そして工業や建設等の賃金の高い雇用が減少し、増加しているのは賃金の低いサー
ビス産業である。
1980年代の10年間に世帯収入は93%増加したが、1戸建ての住宅価格は115%増加し、2
寝室の賃貸住宅の家賃は95%増加して、住居費の負担は厳しさを加えている。
キング・カウンティ・コンソーシアム(シアトル市を含まない)の人口は、99万人(19
90年)で、世帯数は38万世帯である。一世帯当たり人員は2.4人と、1970年の2.95人から急
速に小さくなっている。
この地域内の住宅数は39.9万戸(1990年)となっている。連邦等の補助金を受けている
住宅としては、キング・カウンティ・ハウジング・オーソリティが3,245戸の公営住宅を管
理しており、同じく3,209戸の家賃補助を行っている。この他にコミュニティ開発一括補助
金(CDBG)やHOME事業により建設された民間が所有する支援住宅が2,000戸以上存
在する。
キング・カウンティの世帯収入の中位値は39,600ドル(1992年)であり、新築及び既存
の住宅価格が平均176,000ドル(1992年)と1980年の81,600ドルから急騰して、1次住宅取
得層にとっては持家の入手は困難となり、また、2寝室で1浴室タイプの家賃も312ドル
(1980年)から622ドル(1993年春)へと急騰している。
このような状況下で、カウンティとしてできる住宅政策は限られたものである。住宅戦
略として、次の5つが掲げられているが、例えば、1994年度に現実に実施されようとして
いる年間計画は、HOME事業の178万ドル、CDBGの225万ドル、シェルター・プラス
・ケア(サービス付き高齢者住宅事業)の50万ドル等となっている。
1. 低 所 得 者 ( 所 得 中 位 値 の 8 0 % 以 下 ) 世 帯 が 収 入 の 3 0 % 以 内 の 住 居 費 で 入 居 で き る 住
宅の供給を増加する。
2. 低 所 得 の 持 家 層 が 住 宅 を 持 ち 続 け 、 1 次 住 宅 取 得 者 層 が 持 家 を 取 得 で き る よ う に 支
援する。
3. 世 帯 や 個 人 が ホ ー ム レ ス に な る の を 防 止 す る 。
4. ホ ー ム レ ス の 世 帯 や 個 人 に 必 要 と す る サ ー ビ ス や 施 設 を 提 供 す る 。
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5. 州 及 び 地 方 レ ベ ル で の 安 定 的 な 住 宅 開 発 資 金 を 確 保 す る 。
(参考文献2より要約)
パ ジ ェ ト ・ サ ウ ン ド 地 域 ( P u g e t Sound Region)
ワシントン州は、住宅計画の地域を7つに区分している。その1つであるパジェト・サ
ウンド地域は、キング・カウンティを中心とした4つのカウンティ(郡)の集まりである。
この地域は、シアトルとタコマの2つの都市を含み、ワシントン州の人口と雇用の半分以
上を抱えている。1980年代は州の平均人口増加率を上回る人口増が見られたが、90年代に
入り人口増加は安定化している。
1戸建ての住宅価格が1980年代に2倍になり、とりわけ88年と、89年の2年間に45%も
の急増があったが、90年代に入り一段落している。住宅価格の急騰は、適切な住宅地の供
給が限られていることが主因となった。所得と住居費とのアフォーダビリティのギャップ
は、この地域ではあまり大きくない。これは低所得者向けの取り組みが各地方政府により
行われているためで、とりわけシアトル市での取り組みが大きい。地域内には10の公的住
宅公社(PHA)があり、30,175戸の援助住宅を供給している。この戸数は州全体の援助住宅
の70%に相当する。
(参考文献3より要約)
ワシントン州
ワシントン州内のボーイング社は、1993年、94年に州内に勤務している1万9千人の職員
の解雇を発表する等、工業や木材産業の分野で雇用が長期低落傾向にある。小売りサービ
ス部門では雇用が増加しているが、この部門の賃金は低い。1991年から96年に、サービス
部門で10万人(現在の雇用者の19%増)、政府部門で22万人(同10%増)が予測されてい
る。利子率は過去20年間で最低の金利となっており、持家の建設のチャンスとなっている。
州の人口は、1990年には487万人と80年よりも18%増加した。2000年までの10年間で15%
の人口増加が予測されていたが、これまで2年間の人口増加はこの予測よりも大きい人口の
伸びを見せている。州内の人口の52%はシアトル・タコマ大都市圏に集中している。高齢
者率は12%、18歳以下の人口の比率は25%となっている。
世帯数は、187万世帯(1990年)で、1世帯当たり人員は2.53人である(80年は2.68人)。
1人世帯割合が25%、母子世帯が9%となっている。人種としては、白人が89%(90年)を
占めているが、この比率は次第に低下している。ヒスパニックは10年間に倍増した。地域
によってはマイノリティが集住しているところもある。所得の中位値は40,500ドル(1993
年、住宅都市開発省調べ)であり、この2分の1の所得の低所得階層は、全世帯の21%と
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なっている。州の東部地域では所得が低い。
1980年代の人口増加に伴って1戸建て住宅の価格は急騰し10年間で2倍余りになったが、
90年代の初めには安定化している。住宅数は、1980年の165万戸から90年には203万戸へと
増加している。工業化(manufactured)住宅がストックの10.6%を占めるようになり、19
80年の6.6%から急増している。低中所得者向けの1戸建て住宅として利用されている。老
朽化等の住宅状況についてのデータは少なく、各地でそれぞれ調べられている。空き家率
は、シアトル市では1992年の5.9%から93年には4.9%に低下し、地方部でも1%未満のとこ
ろがある。住宅の適正空き家率は2%とされており、現在の空き家率は低すぎる。持家率は、
1980年の65.6%から90年には62.6%に低下している。持家率の低下は、世帯主年齢が25∼
44歳の階層で大幅なものとなっている。貯蓄貸し付け組合(save & loan)の金融危機の後
遺症で、新規貸し付けの運用が厳密になっており、とりわけ集合住宅で、住宅ローンの資
金を受けることが得にくくなっている。補助を必要とする所得の中位値の50%以下の低所
得借家層は、19万世帯(90年)ある。ワシントン州立大学不動産センターでは、住宅市場
についてのデータベースを開発中である。これは、新しい州の住宅政策法の中で規定され
ているものである。
1989年の調査では、州や連邦政府等の補助を受けている住宅は、6.8万戸あり、これは全
住宅ストックの3.6%となっている。しかし、補助住宅を必要としている世帯が、さらに1
9.2万世帯いる。州内には36の公的住宅公社(PHA)があり、4.3万戸(1992年調査)の補助
住宅を良好に管理している。この内、公営住宅が1.8万戸で、一般世帯向けに70%、高齢者
・障害者向けに30%となっており、セクション8の家賃補助が3.4万戸となっている。民間
が所有・管理する補助住宅が2.7万戸あり、これらの大部分は非営利組織により管理されて
いる。非営利組織は州の住宅戦略の鍵となっている。ワシントン州住宅融資委員会(Wash
ington State Housing Finace C o m m i s s i o n ) は 、 低 所 得 者 向 け 住 宅 税 額 控 除 ( L o w - I n c o m e
Housing Tax C r e d i t ) 事 業 の 配 分 や 、 高 齢 者 住 宅 事 業 等 へ の 融 資 を 行 っ て お り 、 1 9 8 9 年 か
ら91年の間に5,800戸を供給している。
ホームレスに対しては、緊急シェルター支援事業で57,000人にサービスを提供した。こ
れは92年よりも1,200人増加した。定住までの過渡的住宅として36事業で375戸を供給した。
州内には538のフード・バンク、118のスープ・キッチン、11のディ・シェルターがある。
現在、公的住宅公社の管理する援助住宅は43,175戸あるが、ウェイティング・リストに
掲載されている世帯は、1989年の27,653世帯から1992年には50,711世帯に倍増している。
この間の援助住宅の増加数は、4,599戸である。50,711世帯の内、16,747戸は公営住宅を希
望しており、33,964世帯は家賃補助を希望している。また、50,711世帯の内、35,046世帯
は一般世帯で、15,665世帯は高齢者・障害者世帯となっている。志望者が多すぎるために
新規の受け付けを中止している公的住宅公社が、1989年に公営住宅事業を実施している公
的住宅公社26の内の2から、92年には28公社の内の3に、また、同じ期間に、家賃補助事業
を実施している公的住宅公社27の内の9から、92年には29公社の内の14に増加している。
5カ年戦略のプライオリティの高い分野としては、次の6つが掲げられている。しかし、
これは優先順位の高い順に掲げたものではないとの注釈がつけられている。
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1. 低 所 得 者 ( 所 得 中 位 値 の 8 0 % 以 下 ) 、 と り わ け 極 低 所 得 者 ( 所 得 中 位 値 の 5 0 % 以
下)向けの借家の供給の確保(availability)と家賃の低廉化(affordability)を進
める
2. 持 家 を 失 い そ う な 危 機 に あ る 低 所 得 者 を 支 援 し 、 1 次 住 宅 取 得 者 層 が 持 家 を 取 得 で
きるように支援する。
3. ホ ー ム レ ス の 人 々 に 住 宅 や サ ー ビ ス を 提 供 し 、 ホ ー ム レ ス の 増 加 を 防 止 す る 。
4. 特 別 な ニ ー ズ の あ る 人 々 に 住 宅 と 関 連 サ ー ビ ス を 提 供 す る 。
5. 地 方 組 織 が 住 宅 開 発 活 動 を 見 つ け だ し て 実 施 す る 上 で の 能 力 と 技 能 を 向 上 さ せ る
6.州内のアフォーダブル住宅に容易に入居ができるような住宅規制・政策立案のリーダ
ーシップを続ける。
この内、1から3までは、キング・カウンティの戦略と類似している。地方政府と連携
をとりながら戦略を調整したためであろう。5と6は州としての役割を自覚してのもので
ある。
ワシントン州では、1993年にワシントン住宅政策法を制定している。これは州内の住宅
政策の目標等を規定したものであり、上記の5カ年戦略はこれとの統合が図られている。
住宅政策の中心となる担当部門は、コミュニティ開発部(DCD)である。この中にある住
宅課(Housing Division)は低所得者向けの住宅開発に資金を融資する住宅信託基金(Ho
using Trust Fund ) を 所 管 し て い る 。 住 宅 信 託 基 金 は 8 9 年 か ら 9 3 年 ま で に 約 8 , 0 0 0 戸 に 対
して87百万ドルを支給(award)してこの資金が梃子となって、435百万ドルが公共団体や
企業等から低所得者向けの住宅投資に向けられた。1994年に用意された基金15百万ドルの
内訳は、住宅支援事業からの8百万ドル、アフォーダブル住宅事業の2百万ドル、HOME
事業からの5百万ドルから構成されている。
州には住宅事業のための関連機関として、ワシントン州住宅金融委員会(1983年設立)
があり、免税の州債を利用した低利融資や低所得者住宅税額控除の事業の管理を行ってい
る。州内の公的住宅公社(PHA)は36あって、低所得者向けの公営住宅、家賃補助事業を実
施している。
1994年度の年間投資計画としては、住宅信託基金やコミュニティ開発一括補助金(CD
BG)、HOME事業の資金により750戸の低所得者向け住宅の供給や、低所得者が家を失
う危機の支援のために困難を切り抜けるための事業(Weatherization)や修復資金を地方
に供給して4,600戸に供給することなどとなっている。
ワシントン州が1993年度に連邦政府から受けた住宅関連の補助金は、HOME事業の56
8万ドル、コミュニティ開発一括補助金(CDBG)の200万ドル(住宅関連以外を含む総
額は1,216万ドル)、緊急シェルター補助金(ESG)の24万ドル等の総額1,969万ドルで
あり、州独自の財源は3,200万ドルとなっている。
(参考文献3より要約)
- 10 -
シアトル市とシアトル市を除くキング・カウンティ、ワシントン州との住宅関連の主要
指標を比較すると、次の表のようになる。キング・カウンティの中心都市であるシアトル
市は、カウンティ全体の人口の3分の1を占め、残り地域で3分の2の人口を抱えている。
世帯人員はシアトル市の方が小さいために世帯数では差は縮まるが、支援を必要としてい
る世帯は市とカウンティで同じ程度となる。補助を受けている借家世帯数では、市の方が
カウンティの2倍となり、多くの補助借家がシアトル市に集中していることがわかる。補
助を受けている持ち家も市内の方が圧倒的に多い。家賃、住宅価格は市内よりもむしろ郊
外のカウンティの方がやや高くなっている。
ワシントン州とキング・カウンティとシアトル市の主要指標の比較
ワシントン州
キング・カウンティ
シアトル市
(シアトル市を除く)
総人口
平均世帯人員
居住している住宅戸数
持家
(持家率)
借家
4,870,000
988,060
2.53
2.4
516,290
2.01
1,872,431
379,081
236,908
1,171,714
223,658
117,126
(62.6%)
(59.0%)
(49.3%)
700,717
155,423
119,782
398,438
49,000
44,577
借家
245,125
39,730
32,125
持家
153,313
9,270
12,452
68,000
12,249
25,619
プロジェクト・ベース
9,646
22,138
借家人ベース
2,603
3,481
補助を受けている持家数
7,863
24,928
平均家賃(非加重平均)
$584
$557
8.80%
4.80%
低所得者住宅支援の必要性
補助を受けている借家数
空き家率
7.87%
平均住宅販売価格
$172,572
$165,792
(出典:ワシントン州についてはワシントン州のCHASより数値を拾い出した。キング
・カウンティとシアトル市については、シアトルのCHASのp80より転記したもので、数
値は一部本文中の数値と若干異なっている)
7.アメリカの地方住宅政策の特徴:まとめにかえて
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地方自治体の多様性
連邦の制定したCHASの策定様式は、一定の記述様式で報告書をまとめることを求め
ているが、各州、各地方政府の実際の住宅施策の内容は、それぞれの地域の特性に合わせ
て、個性的とも言えるような多様な展開を示している。例えば、アトランタ市では、民間
企業の活力を公共が支援することに重点が置かれているような印象を受け、一方、シアト
ル市では、アメリカでは一般に評判が良くない公営住宅に、重要な役割を見いだしていて
量的にも質的にも水準の高い管理を行っているように感じられた。ビルの間を空中歩道
(Sky W a y ) で 結 ぶ 事 業 を 行 っ て い る ミ ネ ア ポ リ ス 市 は 、 政 府 の 主 導 で 民 間 と の 協 調 関 係 を
上手に結び、非営利組織の企業性を有効に活用して住宅事業を展開しているように見られ
た。
市民参加
1990年住宅法は、CHASの策定にあたり、市民参加が担保されるようにかなり綿密に
法律に規定をしている。さすがに民主主義の進んでいるアメリカであると感じた。さらに、
住民運動団体を支援する非営利組織は、市民参加が実際に行われるようにするには、どう
したらよいかのガイドブックを発行する等、徹底した計画への市民参加を求めている。
しかし、実際の市民参加は、州及び地方政府の職員から見れば、低調なものに終わり、
非営利組織こそやや熱心な関心は示したが、一般市民はほとんど関心を示さず参加者も少
なかったようである。とりわけ、州レベルでは、一般の市民の直接の参加は無理があった
ようである。市民参加の問題点として、住宅問題を抱えている人ほど、参加できないとの
回答があったことは印象的であった。
それにもかかわらず、市民参加は、異なった組織間の協調関係の確立や住宅問題の把握
等に役に立ったとする評価が多く見られた。費用の浪費、時間の浪費との批判はありなが
らも、民主主義の実行のための必要なコストとして、市民参加を是認しているのであろう。
プライオリティの明確化
CHASでは、限られた資源をどこに重点的に配分するのかを明確にすることを求めて
いる。住宅政策の重点的な対象層は、一般的には、低所得者層(所得の中位値の80%以
下)であり、とりわけ極低所得者層(所得の中位値の50%以下)ということになるが、一
方でホームレスというさらに深刻な人々もいて、高齢者、障害者住宅という特別な住宅ニ
ーズも住宅政策の課題となっている。目標とする数値を明確にするアメリカの方式は、日
本の現状と比較すると時にはうらやましく感じられることもあったが、政策の優先順位を
つけることは、無理があったようである。
5カ年戦略でのプライオリティの高い分野を箇条書きで列記した上で、注意書きで、こ
れは優先順に並べたものではないと注釈しているところがいくつも見られた。政策として
の優先順位は、予算額の大きさで単純に判断できるものでもなく、問題を抱えている人々
の数の多さや深刻度などから総合的に判断されるものなのであろうが、公的施策の立場と
してはどの対象層を優先順位を高くすると明確にするにはできないだろう。
政策としての優先順位は低いとされる、民間市場から住宅購入が可能な中高所得者層に
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対するモーゲッジの所得税控除が、最大の住宅資源を得ているとの指摘は、アメリカの現
在の連邦住宅政策に対する痛烈な批判なのであろう。
施策の多様な組み合わせ
住宅は多額の費用を要するものであり、住宅問題の解決はひとつの施策で可能となるも
のではないとの認識の下で、様々な住宅政策が工夫され組み合わせれて、各地域で展開さ
れている。連邦からの補助事業に頼るだけではなく、さらに地方独自の様々な事業が単独
で、あるいは連邦の補助事業と組み合わされ、資金量としては少ないものの、実施されて
いる。
住宅ニーズを直接に知ることができる州及び地方政府が、各地域の実状に合わせて、必
要とされる施策を限られた財政の中で工面しているのであろう。その独自の施策により何
戸の住宅が便益を受け、その事業が何人の雇用増と所得の創出に寄与し、長期的な不動産
税等の収入増となるかを数値で示して、財政支出の妥当性、費用効果を説明しているもの
もあった。施策対象としている事業の状況把握と同時に、一般市民や議会に対して、政策
の正当性を経済性からアピールしている政策担当職員の努力は、見習うべき点であると感
じた。
アメリカの地方住宅政策は、各地で様々な創意工夫を凝らして実施されている。財政力
としては大きな組織ほど強いのはアメリカも日本と同様であり、連邦、州、地方政府の序
列に変わりはないが、人口規模の小さくても深刻な住宅問題に直面している都市には、政
策として興味を引かれるものが多かった。小さな組織のために官僚化の悪弊が少なく、地
域の実情を直接に感じられて熱心な取り組みが行われているためであろう。
今後はアメリカの各地から送られてきたCHAS等の大量の資料を丹念に読みこなして、
地方住宅政策の動向を継続的に把握していきたい。この際には、おそらく、日本の地方公
共団体の視点からアメリカの地方政府の住宅政策の分析を行うことが必要のように思われ
る。
謝辞
インタビュー調査及びアンケート調査では、きちんとした組織のバックアップを持たな
い私達2名の調査にもかかわらず、多くの自治体の職員の方々が貴重な時間を費やして熱
心に回答をしてくれた。アメリカの自治体職員の私達に対するオープンな対応に感銘を受
けた。アメリカへのアンケート方法については、同様な調査経験を持つ井手幸人氏(日本
建築センター)より貴重な示唆をいただいた。私達2名も参加した、建設省住宅政策課の
委託研究である『欧米諸国の大都市における戦略的な住宅供給計画にかんする調査報告書
:アメリカの州及び自治体における総合的住宅戦略について』(1994年3月、日本住宅総合
センター)では、調査を担当した住信基礎研究所から、収集した参考文献の閲覧等の便宜
を図っていただいた。アメリカへの94年4月の現地調査では、カルフォルニア大学ロサンゼ
ルス校で都市計画を学んでいる細井かおるさん同行していただき、私達の稚拙な英会話の
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強力な援護と議論の活性化に協力していただいた。CHASのアンケート先の担当者リス
トは、住宅都市開発省の調査部が行っている行政担当者・研究者・市民等への情報サービ
ス(HUD's U s e r ) よ り 送 付 い た だ い た 。 海 外 調 査 や ア ン ケ ー ト の 郵 送 等 の 研 究 資 金 は 、
(財)住宅総合研究財団より提供を受けた。これらの人々の協力がなければ、研究をまと
めることは困難であった。記して謝意を表したい。
(1994年9月)
参考文献
1 ) S e a t e l e ' s Comprehensive Housing Affordability Strategy, City of Seattle Depa
rtment of Housing & Human Services, November 1,1993
2 ) T h e 1994 Comprehensive Housing Affordability Strategy, King County Consortiu
m, King County Planning and Communty Development Division, November 1993
3 ) T h e State of Washington 1994 Comprehensive Housing Affordability Strategy, P
repared by Bucher, Willis & Ratliff Judith Stoloff Associates, The Washington St
ate Department of Communty Development, January 1994
4 ) 1 9 9 2 Programs of HUD, U.S.Department of Housing and Urban Development, May 1
992
5)上野真城子、海老塚良吉『アメリカの州及び地方住宅政策に関する研究』1992年11月、
住宅総合研究財団
6)『欧米諸国の大都市における戦略的な住宅供給計画にかんする調査報告書:アメリカ
の州及び自治体における総合的住宅戦略について』1994年3月、日本住宅総合センター
7 ) L e s s o n From State CHASes: The First Year, Low Income Housing Information Ser
vice, The Enterprise Foundation, 1993
8 ) T h e Local CHAS: A Preliminary Assessment of First Year Submissions, U.S. Dep
artment of Housing and Urban Development, 1992
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資料1
CHASに含まれる主要な連邦補助事業の内容
・コミュニティ開発一括補助金(CDBG)
根拠法:1974年住宅・コミュニティ開発法タイトル1
内容:健全なコミュニティを開発するための連邦補助金。地域を再活性化し、経済開発し、
コミュニティ施設及びサービスを改善するための広範なコミュニティ開発のための補助で、
少なくても70%は中及び低所得者のために使わなければならない。住宅の取得や修復、非
住宅建物の取得、経済開発のために営利企業の補助もできる。
・HOME事業
根拠法:1990年住宅法タイトル2
内容:低及び極低所得世帯のための持ち家及びアフォーダブル住宅を増加させるための自
治体住宅戦略を実施する際の州、地方政府等に対する補助。地域の住宅ニーズに応じて様
々な住宅活動に補助を適用でき、家賃補助、修復、初めての持ち家所有者の補助、一定条
件の下での新規建設、敷地の購入、造成、解体、移転等に適用される。但し、行政経費、
公営住宅の改良費、他の連邦事業のマッチング・ファンド(自治体負担金)としては使え
ない。この資金を用いて供給された賃貸住宅の90%以上は地域の中位値所得の60%以下の
世帯に、残り10%は地域の中位値所得の80%以下の世帯に供給されなければならない。持
ち家の場合は地域の中位値所得の80%以下の世帯に供給されなければならない。自治体は
一定のマッチング・ファンドを用意しなければならず、また、供給する住宅の15%はコミ
ュニティ住宅開発組織のために配分しなければならない。
・HOPE事業
根拠法:1937年住宅法タイトル3及び1990年住宅法セクション411
内容:公営及びインデアン住宅居住者に、居住している住宅を持ち家として払い下げる制
度。計画補助としては1地区あたり20万ドルを上限として、居住者の組織化、技術支援、
実行可能性調査、原案作成等の費用を補助する。実施補助としては、修復、移転、経済開
発活動等の費用を補助する。補助を受けられるのは、非営利組織、居住者団体、住宅コー
ポラティブ、公的組織である。
この事業は前政権の目玉として1990年に登場したが、クリントン政権の誕生により新規
事業は停止されている。
(参考文献4より訳出)
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資料2
アンケート調査票
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研究報告要旨
アメリカの州及び地方住宅政策に関する研究(2)
アメリカの連邦政府は、1980年代に住宅分野からの役割の縮小を進め、州及び地方政府
の住宅分野における役割が次第に大きくなっている。1990年全国アフォーダブル住宅法は
このような政策の流れを受けて、住宅政策の枠組みを整理したものであり、州及び地方政
府の住宅政策における役割を重視して、非営利組織及び民間営利企業をも含んだパートナ
ーシップの下で、住宅問題に対処するという方向を示した。
1990年住宅法は、連邦政府から補助を受けたいとする州及び地方政府に、地域内の住宅
事情、住宅ニーズ、今後の住宅計画の方針と予算等を記載した総合的住宅アフォーダビリ
ティ戦略(CHAS)の作成を義務づけた。各地の1994年度のCHAS及び現地のインタ
ビュー調査から地方住宅政策の展開を見ると、住宅価格・家賃の高騰は1990年代に入り安
定化しつつあるものの、相変わらずに大量のホームレスを抱えるなど深刻な住宅問題が都
市部には存在し、各都市は少ない予算と少ない住宅担当職員の中で、非営利組織との連携
や免税債券を利用した低利融資などの様々な工夫をしながら、住宅政策を行っている。
CHAS作成にあたっての市民参加は、実際に住宅問題を抱えている人々が参加してい
ない、時間の浪費となっている等の批判的な見方が多くあるものの、異なった組織間での
協調関係の確立や住宅問題の把握に一応の役割を果たしていると評価されている等の実態
が明らかとなった。また、アフォーダブル住宅の供給を増加させる上で障害となると批判
されている土地利用規制について、確かに住宅価格を押し上げている面があるものの一定
水準の住宅ストックを維持するためには必要と考える者が多く、成長管理政策をとりなが
らも、容積ボーナスとの組み合わせで低所得者向け住宅供給を工夫している州の取り組み
等が明らかとなった。
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