A.10.6 男女の脳の違い

A10.6
〔参考訳〕
異性のことを良く知っている人は誰でも、男性と女性は別の惑星出身であるようだと言うだろう。二つの性はしばし
ば互いにずいぶん別なふうに考えるように思われる。しかし最近まで、研究者たちは、これらの相違が二つの原因によ
って引き起こされると考えていた。その二つの原因とは、男性にも女性にもある一定の仕方で行動するように仕向ける
社会的圧力と、第二にホルモン、すなわち、脳を含めた身体の様々な部位に何をすべきかを命じる化学的信号である。
研究者たちは、脳そのものが男女の相違を引き起こすとは考えていなかった。それどころか、彼らは脳の構造が大抵は
両性にとって同じであると考えていた。だが、興味深いことに、新しい研究はこうした仮定に疑問を投げかけている。
すなわち、以前には真剣に考慮されてはいなかった第三の要素があるのかもしれない、というのである。現在研究は、
男性の脳と女性の脳には構造上多くの違いがあるということを明らかにしつつある。脳の様々な部位が結び付けられる
仕方や、ニューロン間でメッセージを伝える化学物質の点にも、違いがある。こうしたことはすべて、人間の脳にはた
だ一種類しかないというのではなく、二種類あるということを示唆している。
このことは、神経科学者たちにちょっとした悩みの種を与えている。というのも、我々が脳について知っていること
は、動物のオスと人間の男性についての研究に由来しているからである。一般に、神経科学者は研究の際にメス/女性を
用いることを避けていた。これは女性ホルモンの月ごとの変動により研究結果を解釈することがより困難になるからで
あった。こうした研究から推測されてきたことのわずかな部分でさえ、メス/女性に当てはまらないとすれば、膨大な研
究が誤りとなるかもしれないのである。
脳の構造上の男女差は、現在明らかになりつつある。かつては、男女でわずかに異なることが長い間知られていた唯
一の構造物は、食物摂取を調節するというような人間の基本的本能を統制するのを助ける視床下部であった。しかし、
新しい科学技術は、科学者たちがそれ以外の相違点を見つけるのに役立ってきた。まず第一に、女性の脳内の構造物の
多くの相対的な大きさは、男性のものとは異なっている。2001 年に、Harvard Medical School の Jill Goldstein らは、
健康な男女の脳の 45 か所の部位を測定し比較した。彼らは、意思決定や問題解決を行う機能を内蔵している前頭葉の
いくつかの部位が、感情を統制する辺縁皮質と同じく、女性の方が相対的により大きいということを見出した。また別
の研究では、女性は地図を読むのが下手であるという評判を考えてみると、おそらくは意外なことだが、短期記憶や空
間的な進路指示にかかわる海馬が、女性の方が相対的により大きい、ということが判明している。男性の場合、相対的
により大きい部位が、感覚器官からの信号を処理し、空間認識に関わる頭頂葉皮質と、感情や社会行動を統御する偏桃
体とを含んでいる。
the University of California, Irvine の神経生物学者 Larry Cahill は、状況によっては、男性と女性が脳内の同じ構造
物を別なふうに用いるという証拠を発見した。脳の映像化実験で、彼は男女のグループに彼らが前に見えられていた映
像を想い起こすように求めた。これらの映像は、強い情緒的反応を引き起こすという理由から選ばれていた。男女とも、
この課題を終えるのに一貫して偏桃体を使っていた。しかし、男性は偏桃体の右側を使っていたのに対し、女性は左側
を使っていた。さらに、それぞれのグループは映像の異なる面を想い起こした。男性は状況の要点を想い起こしたが、
一方女性は細部に注意を向けていた。このことは、男性と女生徒が感情を動かす出来事から得られる情報を、まったく
別なふうに処理するということを示唆している。
研究は、痛みを抑える脳内回路が男女で異なっているかもしれないということも示唆している。さらに言えば、すべ
てではないが多くの研究は、女性の方が男性よりも多く痛みを感じる、ということを示唆している。しばらく前に、医
師たちは、鎮痛剤の中には男性と女性に対して異なる作用を及ぼすものもあるということに気付いた。例えば、ナルブ
フィンは、男性よりも女性によく効く。それどころか、ナルブフィンは男性の場合、時には実際には痛みを増大させる
こともあるのだ。また一方、男性に対してよりよく効くように思われる鎮痛剤もある。そこで、鎮痛剤の効き方につい
て理解が深まれば、将来われわれは女性に対してより効果的な鎮痛剤を創り出すことができるかもしれない。しかし、
薬剤を開発するには費用がかかる。だから、われわれはこうした新薬開発が採算のとれるものであるかどうかをもっと
多くの研究が示してくれるのを、おそらく待たなくてはならないだろう。
性差が存在するまた別の領域は、心の健康である。例えば、女性は男性に比べ 2 倍多くうつ病にかかるようであり、
一般に女性の脳は男性の脳の約半分の量のセロトニン(鬱と関係がある神経伝達物質)しか生み出さない。先ごろ、the
Karolinska Institute in Stockholm, Sweden の Anna-Lena Nordstrom は、健康な女性が最も一般的なタイプのセロト
ニン受容体を男性よりも多く持ってはいるが、セロトニンを再利用するのに必要とされるセロトニン輸送体の方は男性
に比べて持っている数が少ない、ということを見出した。こうした仕組みの違いが、一部の女性を鬱になりやすくさせ
るということは証明されていないが、Nordstrom は、男女間での輸送体の違いは、この点こそプロザックのような抗鬱
剤が作用するところであり、また女性は、セロトニン以外の神経伝達物質に対して作用する抗鬱剤に対してよりも、そ
うした(プロザックのような)薬剤の方によりよく反応する、という証拠があるがゆえに、特に興味深い、と指摘する。
男性は鬱になる可能性がより少ないかもしれないが、このことは他の問題によって埋め合わされる。男子は女子より
も、例えば自閉症、トゥレット症候群、失読症、吃音症、注意欠陥障害、それに若年発症統合失調症といったような、
脳組織に影響をおよぼす幅広い範囲の疾患と診断される可能性が高い。したがって、一方の性だけを考慮に入れて薬剤
を設計しようとする新しい取り組みは、将来男性に利益をもたらすことにもなるかもしれない。ここでもまた、われわ
れはさらなる研究を俟たなくてはならない。
【解答】
問1
(1)④ (2)① (3)③ (4)② (5)①
問2
(6)① (7)⑤ (8)③ (9)① (10)④
問3
(11)④ (12)⑤ (13)③ (14)② (15)⑤