熱化学と化学平衡 - 新快速のページ

熱化学方程式 (I) 熱化学方程式の定義
生成熱…1mol が各構成元素の
単体からできるときのエネルギー
燃焼熱…1mol を燃焼したとき
発生するエネルギー
溶解熱…1mol を溶媒に溶かしたときの熱
いろいろな反応熱
化学反応には熱の出入りをともなう。有名な反応としては,水素
の燃焼がある。点火すると爆発が起こって水になる。水素 1mol あた
りエネルギーが 286kJ 発生する。これを
1
H2 + O2 = H2 O(液) + 286kJ
2
と表現する。これを熱化学方程式といい,286kJ/mol は水素の燃焼
熱とよばれる。燃焼熱は反応熱の一種で,反応熱はこの他に次に挙
げるようなものがある。
●燃焼熱 何かを 1mol 燃焼したときに発生するエネルギー。
●生成熱 物質 1mol がその化合物の構成元素の単体が化合してでき
るときに発生するエネルギー。このときの化学反応は実際には起こらないものが多い。
例 エタノール C2 H5 OH(C2 H6 O) の場合
1
2C(黒鉛) + 3H2 + O2 = C2 H5 OH + 277kJ
2
●融解熱・凝固熱・蒸発熱・凝縮熱 物質 1mol が状態変化するときに出入りする熱量。+
か-かは常識で考えればよい。
例 水の蒸発熱…水に熱を加えると気化するので,液+熱=気の形にする。
H2 O(気) = H2 O(液) + 44kJ
例 水の凝固熱…氷に熱を加えると水になるので,固+熱=液の形にする。
H2 O(固) = H2 O(液) − 6.0kJ
●溶解熱 物質 1mol が水などの溶媒に溶けるときに発生する熱。水溶液の水は,AQUA の
aq を用いる。
例 硫酸マグネシウムの溶解熱は 91kJ/mol。
MgSO4 + aq = MgSO4 + 91kJ
+
●中和熱 1mol の H と 1mol の OH− が中和し,水が 1mol できるときに発生する熱。基
本的にはおよそ 56kJ/mol である。
H+ + OH− = H2 O + 56kJ
いずれも網掛け の物質の係数が 1 のときの熱量のことをいう。エタンの燃焼熱と言
われたら,エタン 1mol を燃焼したときに発生する熱量である。塩化ナトリウムの溶解熱と
言われたら,塩化ナトリウム 1mol が溶媒に溶けたときの熱量である。○○熱の単位はすべ
て kJ/mol を用いるが,熱化学方程式には kJ のみ書くように。
化学反応式の場合,分数の係数をつけないのが通常だが,熱化学方程式では特定の物質の
係数を 1 とこだわるため,分数になることも多い。水酸化ナトリウム固体を塩酸に溶かし,
中和熱と溶解熱を求めさせる問題が頻出である。
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熱化学方程式 (II) ヘスの法則の使い方
熱化学方程式を立てられるだけ立てる
分からない熱量は Q などの文字でおく
連立方程式のようにできるのは
ヘスの法則のおかげ
コツをつかめば楽勝
熱化学方程式を立てる
生成熱や燃焼熱が与えられていれば,熱化学方程式を立てまくることによって,別の反応
熱を求めることができる。以下の例で確認してもらいたい。
例題 一酸化炭素の生成熱は 111kJ/mol,二酸化炭素の生成熱は 394kJ/mol である。この
とき一酸化炭素の燃焼熱を求めよ。
■解答■ まずは熱化学方程式を立てる。
1
C(黒鉛) + O2 = CO + 111kJ · · · ①
C(黒鉛) + O2 = CO2 + 394kJ · · · ②
2
(液) や (黒鉛) などの状態は水と炭素のときは必ず書く。
窒素や酸素など,通常は明らかに気体というものは省略
しても構わない。そして求めたいのは,CO を燃やした時
の燃焼熱なので
1
CO + O2 = CO2 + Q[kJ] · · · (∗)
2
とおく。①と②を組み立てて (∗) になればよい。目標の式
(∗) は CO が左辺にある。しかし,①式の CO は右辺にあ
るのでこれを移項する。移項するには,両辺をマイナス
倍すればよい。そして目標の式では CO2 が右辺にある。
②式も右辺にあるので,そのまま足せばよい。だから結
論としては −① + ② をして
1
CO + O2 = CO2 + 283kJ 283kJ/mol
2
例題 エタンの燃焼熱は 1560kJ/mol,二酸化炭素の生成熱は 394kJ/mol,液体水の生成熱
は 286kJ/mol である。これをもとにエタンの生成熱を求めよ。
■解答■ 同じく 3 本の熱化学方程式を
7
立てて,実数倍したり足したり引いたりす C2 H6 + 2 O2 = 2CO2 + 3H2 O(液) + 1560kJ · · · ①
C(黒鉛) + O2 = CO2 + 394kJ · · · ②
る。目標の式は C(黒鉛) が左辺に 2 個必要
1
H2 + O2 = H2 O(液) + 286kJ · · · ③
なので,②を 2 倍。左辺から左辺の移動な
2
のでマイナスは不要。そして H2 が左辺に
目標 2C(黒鉛) + 3H2 = C2 H6 + Q[kJ]
3 個必要なので,③を 3 倍する。C2 H6 は
右辺に必要だが,①を見ると左辺に C2 H6 がある。だから①をマイナス倍する。これらから
導かれる結論は次のようになる。
より
394 × 2 + 286 × 3 − 1560 = 86
これより, 86kJ/mol と分かる。問題に慣れてやり方が分かれば,熱化学方程式をすべて書
かなくてもできるようになるはずである。念のため補足だが,熱化学方程式には kJ/mol の
ように,/mol を書かないでほしい。反応式は係数がモル扱いという前提がある。
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エネルギー図 (改訂 2.0)
ヘスの法則
どのような経路をとっても
反応熱は同じ
結合するとエネルギーが下がる
分裂するとエネルギーが上がる
熱化学方程式を視覚的に
熱化学方程式を書き,辺々足したり引いたりする方法は最
もメジャーであるが,エネルギー図を使った方法にも慣れる
と飛躍的に楽になるものもある。これは速くなるだけではな
く,視覚的なものなので正確にもなる。
エネルギー図は上級者向けなので使いたい場合は十分な練
習が必要である。結合エネルギー関連でこれを使うと楽な場合が多い。□=△+○○ kJ と
あったとき,△から上に矢印を引いてその上に□があるような図を描けばよい。
水の場合の例
例として結合エネルギーから水蒸気の生成熱を求めてみたい。結合エネルギーは H − H を
436kJ/mol,O = O を 494kJ/mol,O − H を 459kJ/mol とする。熱化学方程式を作ると次
のようになる。原子どうしの結合からできる H2 O はすべて水蒸気であることが前提である。
2H = H2 + 436kJ
2O = O2 + 494kJ
2H + O = H2 O(気) + 2 × 459kJ
1
生成熱の式は H2 + O2 + = H2 O(気) + Q[kJ]
2
これら熱化学方程式をもとに,以下の手順で図を作るとわかりやすい。
①の酸素原子,②の水素分子のように熱化学方程式に関係のない化学式も忘れずに書いてお
く必要がある。後に使うからである。このように,どんな化学反応の経路を通っても最終的
な熱は同じというヘスの法則から,③のようにまとめた 918 と,細かい 436 と 247 と Q の
和が等しいということをやれば,生成熱は求まる。
436 + 247 + Q = 918
Q = 235kJ/mol □
エネルギー図の使い方を間違えると余計に複雑になることがあるので注意してもらいた
い。ちょっとした使い方を知っていれば,センター試験などで便利なことがある。
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結合エネルギー (改訂 2.5)
左図のような場合
2H(気) = H2 + 436kJ
結合 1mol を切るのに必要なエネルギー
生成熱や燃焼熱の熱化学方程式に
代入していく方法が楽
結合を切るために必要
非金属元素なら原子と原子は共有結合によりガッチリと結合されて
おり,これをバラバラにするためにはエネルギーを加え,破壊しなけ
ればならない。このときに必要なエネルギーを結合エネルギーという。
バラバラになった原子は,O(気),H(気),C(気) のように (気) をつけ
る。酸素 O=O の結合エネルギーを 494kJ/mol(25 ℃ 1 気圧の状態) としたとき,次のよう
に表現する。
2O(気) = O2 + 494kJ または O2 = 2O(気) − 494kJ
熱化学方程式
例題で慣れてもらいたい。まず簡単なものから。
例題① 塩化水素の生成熱を求めよ。結合エネルギーは H−H を 436kJ,Cl−Cl を 240kJ,
H−Cl を 428kJ とする。
■解答■ まず塩化水素の生成熱を Q1 [kJ/mol] とし,熱化学方程式を立てると
1
1
H2 + Cl2 = HCl(気) + Q1 …(∗)
2
2
結合エネルギーは,
H2 = 2H(気) − 436kJ, Cl2 = 2Cl(気) − 240kJ, HCl = H(気) + Cl(気) − 428kJ
となる。これらを (∗) に 1 つずつ代入してみると,
1
1
(2H(気) − 436kJ) + (2Cl(気) − 240kJ) = H(気) + Cl(気) − 428kJ + Q1 [kJ]
2
2
元素記号は見事に消えて Q1 = 90
90kJ/mol
例題② 過酸化水素の O−O 結合を求めよ。ただし H2 O2 (気) の生成
熱を 136kJ,H−H を 436kJ/mol,O−H を 460kJ/mol とする。
■解答■ まず生成熱の式を書く。
H2 + O2 = H2 O2 (気) + 136kJ…(∗)
結合エネルギーの式は次の通り。分子+破壊に必要なエネルギーの式
を立てて移項した式を書く。求める熱を Q2 とする。
H2 = 2H(気) − 436kJ
O2 = 2O(気) − 494kJ
H2 O2 (気) = 2H(気) + 2O(気) − 2 × 460kJ − Q2
これらを (∗) に代入してみる。どうせ化学式は消えるので,慣れたら数字のみ入れてみる。
(−436) + (−494) = −2 × 460 − Q2 + 136
Q2 = 146
146kJ/mol □
要は結合エネルギーの式を生成熱の式に代入すればよい。慣れるまでは右上図のように分子
の構造式を書いて,その構造式の結合の線に矢印を描き込み,エネルギーを数字で示すよう
な図を描いてみると分かりやすい。
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活性化エネルギー
化学反応するには
活性化エネルギーという
最低限のエネルギーが必要
触媒を加えることによって
活性化エネルギーを下げることができる
化学反応のしやすさ
化学反応はしやすい,しにくいがある。鉄を空気中に放置
しておくと徐々に酸化されるが時間がかかる。しかし加熱す
るとすぐに酸化する。これは温度を上げると,化学反応しや
すくなるということである。加熱することによって熱エネル
ギーを与えている。化学反応するために必要な最小限のエネ
ルギーを活性化エネルギーという。それを模式的に分かりや
すくするため,上の図や右の図のようなもので考えることが
多い。エネルギーの高低を縦軸にとり,横軸には反応の進行
度をとる。
A という物質に活性化エネルギーを与えると,図の峠を
越えることができて,生成物の B になることができる。この
ときスタート時点の A よりもエネルギーが少し低くなっている。この分を外に出したので
発熱反応といえる。逆に反応後のエネルギーが高くなったら吸熱反応であるが,ひとまず図
を描いて低い方+エネルギー=高い方と考えた方が明らかに速い。
触 媒
過酸化水素水 (オキシドール) に二酸化マンガン MnO2 (酸化マンガン
(IV) ともいう) を加えると分解が始まり,酸素が発生する。
2H2 O2 → 2H2 O + O2
二酸化マンガンは反応の前後で姿を変えないが加えることで化学反応が
進む。このように自身は反応の前後で化学反応をしないが,他の物質の反応を促進したり,
抑制したりするために加える物質を触媒という。触媒は活性化エネルギーを下げる (一般的
に触媒というと活性化エネルギーを下げて反応を促進させる正触媒のことであるが,抑制す
る負触媒もある) はたらきがある。つまり峠を低くするのである。
正反応の活性化エネルギーを下げるが,同時に逆反応の活性化エネルギーも下げることに
なる。二酸化マンガンと過酸化水素水の反応では酸素が発生したら外へ出て行ってしまい,
なかなか可逆的には起こらないが,
N2 + 3H2
2NH3
のような反応のとき,平衡に達するので逆反応も起こる。触媒を加えると確かに正反応の活
性化エネルギーが下がり,正反応の速度は増すが,同時に負反応の速度も増す。また,反応
熱は変わらない。反応熱は,反応物が持つエネルギーと生成物が持つエネルギーの差であ
る。触媒を加ても反応物と生成物はともに変わらないからである。
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反 応 速 度
高温ほど速く反応する
高濃度ほど速く反応する
反応速度 v は 1 分あたりの
モル濃度の変化量
v = k[A]
分解速度の求め方
過酸化水素 H2 O2 は二酸化マンガン MnO2 を加えると分解が起こる。
2H2 O2 → 2H2 O + O2
速度,速さという言葉も日常何気なく使っているが,学問的には時間
当たりの変化量とでも思ってもらいたい。化学反応の速さは「食べる
のが速い」とか「作るのが速い」といったようなイメージである。ま
ず中和の単元でもやったが,大カッコ [A] は,A のモル濃度 [mol/] で
ある。時刻が t1 分から t2 分のときに濃度が [A]1 から [A]2 まで減った
とする。このときの分解速度 v[mol/l · min] は,
[A]2 − [A]1 d[A]
∆[A]
v = lim
=
要は v = ∆t→0 ∆t
dt
t2 − t1 と表される。lim や微分が出てきて恐怖を感じたかもしれないが,ひるまないように。要は
中 2 数学で学んだ変化の割合である。
では,過酸化水素の濃度を 5 分ごとに測った
時刻 (分)
0
5
10
15
データが右の表のようになったとする。このと
[H2 O2 ][mol/] 1.00 0.88 0.77 0.68
きの過酸化水素分解速度を求めてみたい。0~5
分では,濃度の変化より 5 分間に 0.12mol/ 分
時刻 (分)
0~5 5~10 10~15
0.12
速度
v
解されている。分解速度は
= 0.024 とすれ
2.4
2.2
1.8
5
10−2 mol/・分
ばよい。同じようにして新しい表にまとめる。速
平均濃度 [mol/] 0.940 0.825
0.725
度の値は深い小数になってしまうので,10−2 で
規格化した表をまとめた。これを見ると,分解速度は高濃度ほど速くなることが分かる。上
の表をグラフ化すると右図のようになるが,傾きがその濃度のときの反応速度である。傾き
は負なので分解速度はその絶対値である。
実は反応速度はそのときの濃度に比例する。反応速度を v ,
比例定数を k とおくと
v = k[H2 O2 ]
がいえる。[H2 O2 ] の平均値と v を上のデータを使い,k を求
めてみる。3 つの平均はおよそ 0.025 程度になる。この時,表
は 10−2 で規格化されているので,表の値 2.4 や 2.2 をそのま
ま使わないように。比例式は
v = 0.025[H2 O2 ]
のように書くことができる。
c1075-2 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 化学■
平 衡 定 数 (改訂 2.0)
反応が平衡状態に達する
lA + mB
nC
平衡定数の定義は
[C]n
K=
[A]l [B]m
見かけ上進行しなくなる反応
水素とヨウ素が反応しヨウ化水素ができる反応を考える。
H2 + I2
2HI
正反応の速度は,速度定数を k1 とし,v1 = k1 [H2 ][I2 ] である。逆
反応の速度は速度定数を k2 とすると v2 = k2 [HI]2 とおける。では
ここで,HI ができる速さと HI が壊れる速さが一致すると,見かけ
上反応が止まる。この状態を平衡という。このとき,v1 = v2 なの
で k1 [H2 ][I2 ] = k2 [HI]2 であり,
k1
[HI]2
=
= K(一定値)
k2
[H2 ][I2 ]
これを平衡定数という。平衡定数を扱った問題は,化学 II を出題範
囲としている大学学部ではほぼ確実に出題される。
気体の平衡
5.0 の容器に気体 A2 を 1.0mol,気体 B2 を 4.0mol 封入し,平衡
になるまで待ったら気体 AB3 が 1.0mol 発生生成していたとする。
反応式は
A2 + 3B2
2AB3
とする。このときの平衡定数を求めてみる。平衡定数を求めるには,反応式の左辺の物質す
べてのモル濃度と右辺の物質のモル濃度が必要である。平衡時に何モルになっているかを求
めて公式に代入すればよい。まずは次のような表を作ることから始めてみる。
A2 + 3B2 → AB3
A2
+ 3B2 → AB3
反応前 1.0
4.0
0
反応前
1.0
4.0
0
=⇒
反応量 反応量 −0.50
−1.50
+1.0
平 衡 1.0
平 衡 0.50
2.50
1.0
分かるところから数字を埋めていき,最終的に平衡時のモル数を出してやるのである。この
ときの平衡定数は
(1.0/5.0)2
K=
= 3.2
3.2[2 /mol2 ] □
(0.50/5.0)(2.5/5.0)3
平衡定数の単位は決まっておらず,時と場合によって違う。また平衡定数を求めるときには,
それぞれの平衡時の物質量を体積で割ることを忘れないようにしてほしい。分子分母ともに
次数が同じなら問題ないが,次数が違って体積が 100 くらいあるときは平衡定数が大きく
違ってしまう。
c2227-2 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 化学■
平衡とル・シャトリエの原理
外部から及ぼしたことと
逆の向きへ平衡が移動する
H2 を加えたら H2 を減らす方へ
加熱したら冷却する方へ
反応が進む
平 衡
まず,平衡のイメージを身につけてほしい。時間帯にもよ
るが,昼の電車,なるべく快速電車ではなく,地下鉄の各駅
停車などに乗っていると,駅ごとに乗降があるが車内はだい
たい同じくらいの人数の乗客がいつもいる。始発駅では 1 人
もいなかったのに,少しずつ乗ってくる。そしてある程度の
人数になると降りる乗客と乗る乗客の数がだいたい同じにな
る。増加量と減少量が一致するのが平衡のイメージである。
自然界ではこの平衡を保とうとする作用がある。上記ポイン
トの HI の式で水素を加えると H2 の濃度が上がるため,左
から右への反応速度が上がる。結果的に平衡は右へと移動す
る。これをル・シャトリエの原理という。
ル・シャトリエの原理
窒素と水素を直接反応させるハーバー・ボッシュ法とよば
れるもので考える。
N2 + 3H2 = 2NH3 + 96kJ
これでル・シャトリエの原理を説明する。次の①~④の中で②以外は温度は一定とする。
その① アンモニアを加える すると [NH3 ] が増加し,アンモニアの反応速度が上がり,ア
ンモニアを減らす方向へ,つまり左へ平衡が移動する。
その② 冷却する 正反応つまり NH3 が生成する行程では,ついでにアンモニア 2mol あ
たり 96kJ の生成熱も発生する。冷却したら温める方向へ平衡がずれるので,右へ移動する。
その③ 体積一定でアルゴンを加える アルゴンはこの反応
には直接的にも間接的にも何の関係もない。体積一定のまま
なら N2 ,H2 ,NH3 いずれの濃度も変化しない。よって反応
速度も変わらないため平衡は移動しない。
その④ 全圧一定でアルゴンを加える アルゴンを加える
ことで全圧が上がってしまうが,容器を拡張して体積を増せ
ば全圧が一定になる。体積が増えて広くなったことで,N2 ,
H2 ,NH3 の各濃度はすべて下がる。そのため全モル数を増
やそうとするため,左辺の 4 分子,右辺の 2 分子から考える
と左へ平衡が移動する。その③とその④の区別がつくようになればル・シャトリエの原理は
完璧である。
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電 離 定 数 (改訂 1.0)
弱酸・弱塩基の電離も平衡の考え
AB
A+ + B−
と電離するとき,電離定数を K とし
[A+ ][B− ]
K =
[AB]
電離定数と電離度の違い
この 2 つを混同していると非常にイタいことになるので区別し
ておきたい。水中における酸や塩基の数を 1 としたときに電離す
る量,つまり電離する割合が電離度である。酸または塩基 AB の
n[mol] が A+ と B− に電離する場合,電離度を α としたら A+ と
B− のモル数がともに nα[mol] になる。電離度は濃度によって違
い,薄いものほど電離度が高い。
●電離定数 反応 AB
A+ + B− が平衡に達したときの平衡定数であり,その定数は温度
[A+ ][B− ]
のように表せる。
によって決まるが,K =
[AB]
では,HA
H+ + A− に電離する酸の pH を求めてみたい。電離定数を Ka とする。ま
ず H+ の濃度を出すところから始まる。HA が電離するとき,他に余計なものが入っていな
ければ,[H+ ] = [A− ] とできる。また,初めの HA の濃度を c[mol/] とすれば,
Ka =
[H+ ][A− ]
[H+ ]2
=
[HA]
[HA]
[H+ ]2 = Ka [HA]
cK a
となる。電離度 α は小さく,HA の濃度は [HA] = c − cα となるが,1 − α 1 と近似して
√
1
しまい,[HA] = c とする。これを計算すると,[H+ ] = cKa となり,pH − log cKa
2
希薄水溶液の pH
非常に薄い塩酸の
1.0 × 10−7 mol/ 塩酸は
pH を考えてみる。
√ 1+ 5
どうだろうか。log
= 0.21 とする。即座に 7 と答えな
2
いように。このとき,水のイオン積
[H+ ][OH− ] = 1.0 × 10−14 mol2 /2
を使う。ハッキリした酸性や塩基性のときは H+ や OH− の量が
分かりやすいが,ビミョーなときは水溶液中では陽イオンのモル濃度と陰イオンのモル濃度
が等しいということを使う。[H+ ] = x とおいて考えると,
1.0 × 10−14
[OH− ] =
[Cl− ] = 1.0 × 10−7
x
になる。ここで [H+ ]√
= [Cl− ] + [OH− ] にこれらを代入し,x の 2 次方程式として解の公式な
1+ 5
どで解くと x =
× 10−7 。
2
√
1+ 5
−7
これより pH = − log
× 10
= 7 − 0.21 = 6.79 □
2
c1226-1 ■新快速のページ 講義ノートシリーズ 化学■
緩 衝 液
弱酸とその酸の強塩基塩
または弱塩基とその塩基の強酸塩
ちょっとやそっとの量の酸や塩基では
pH が変化しないように
衝撃を緩めるような溶液
緩 衝 液
有名で分かりやすいのが酢酸と酢酸ナトリウムま
たはアンモニアと塩化アンモニウムの混合液である。
前者のものを考えたい。まず酢酸であるがこれは中
途半端に電離する。
CH3 COOH
CH3 COO− + H+ …①
次に酢酸ナトリウムだが,これは塩なので溶解した
ものはすべて電離する。
CH3 COONa → CH3 COO− + Na+ …②
ル・シャトリエの原理を思い出してもらいたい。酢酸
ナトリウムは完全電離して酢酸イオンが多量にでき
るため,①の反応の平衡は左にずれる。
●酸を加えたとき 塩酸を加えると,HCl → H+ + Cl− となる。この水素イオンは水溶液
中の酢酸イオンと結びついて酢酸となり,水素イオン濃度 [H+ ] はほとんど変化しないため,
pH もほとんど変わらない。
●塩基を加えたとき 水酸化ナトリウム水溶液を加える。Na+ と OH− が電離して出てくる
が,水酸化物イオンは図のように水素イオンと結びついて水になる。すると①の反応は右に
平衡移動をすることで水素イオン濃度が保たれる。
このように,ちょっとやそっとの作用では pH が変化しない水溶液を緩衝液という。
緩衝液の pH の計算方法
0.10mol/ の酢酸 200m と,0.10mol/ の酢酸ナトリウム 200m
を混合した水溶液を考えてみる。酢酸の電離定数は 1.8 × 10−5 で,
酢酸ナトリウムは完全に電離していることにする。すると,酢酸
は①の式で平衡が左に移動するため,酢酸の電離はほとんど無視
できる。この液中に含まれる酢酸イオンは酢酸ナトリウム由来のもので,酢酸は電離してい
ないとみなせる。また全体の体積が 400m なので濃度は 400m で割らなければならない。
200
400
200
400
[CH3 COO− ] = 0.10 ×
÷
[mol/] [CH3 COOH] = 0.10 ×
÷
[mol/]
1000 1000
1000 1000
1.8 × 10−5 =
[CH3 COO− ][H+ ]
0.050[H+ ]
=
[CH3 COOH]
0.050
[H+ ] = 1.8 × 10−5 [mol/]
これより,pH = − log(1.8 × 10−5 ) 4.7 □
溶液の平衡を用いた問題は国立 2 次を中心に頻出であるから抑えておきたい。
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溶 解 度 積 (改訂 3.5)
炭酸カルシウム・硫酸バリウムなどの
難溶の塩も
実はわずかに溶けて電離している
AB
An+ + Bn−
溶解度積 [An+ ][Bn− ] = Ksp [mol2 /2 ]
実は少し溶ける
塩化銀 (I)AgCl は水に溶けない,というのは言い過ぎで,現
実にはわずかに溶ける。しかしイオン結晶なので酢酸みたいに
溶けてから電離するのではなく,AgCl の表面から Ag+ と Cl−
の形になって溶ける。どこまで溶けるかというと Ag+ と Cl−
のそれぞれのモル濃度 [Ag+ ] と [Cl− ] が
[Ag+ ][Cl− ] = Ksp
(Ksp のことを溶解度積という) と
いう,ある特定の値になるまでである。たとえば硝酸銀水溶
液に食塩水を加えると AgCl の白色沈殿が生じるが,これは硝
酸銀水溶液から提供された Ag+ のモル濃度と食塩水から提供された Cl− のモル濃度の積が
Ksp をオーバーするためである。
ちなみに [Ag+ ][Cl− ] の Ksp は 1.2 × 10−10 mol2 /2 と,気が遠くなるほど小さい。だから
ほとんど溶けない,つまり沈殿しやすいのである。
沈殿するかしないかの見分け方
硫化鉄 (II)FeS は中性や塩基性のときは沈殿するが,酸性のと
きは沈殿せずに溶解する,ということは無機で詳しく扱う。それ
を平衡を使って考えたい。硫化鉄 (II) の溶解度積を Ksp ,硫化水
素の電離定数を Ka としたとき,
Ksp = 6.0 × 10−18 mol2 /2 Ka = 1.2 × 10−21 mol/
となる (これは問題文で与えられるので覚えなくてよい)。
常に pH が 4.0 になるよう調節した 0.10mol/ の硫化水素飽和水溶液 10 に 1.0×10−2 mol/
塩化鉄 (II) 水溶液を 3.0m 加えた。このとき,塩化鉄 (II) 水溶液を加えたことによる体積
変化は無視できるとする。
まず,pH = 4.0 より,[H+ ] = 1.0 × 10−4 mol/,また [H2 S] = 0.10mol/ だから,
(1.0 × 10−4 )2 [S2− ]
1.2 × 10−21 =
[S2− ] = 1.2 × 10−14 mol/
0.10
今回,FeS が溶けるかどうかの話なので,[S2− ] を出したあとは [Fe2+ ] を計算する。問題文
の断りの通り,10 + 3.0m 10 としてよい。また塩化鉄 (II) は水に溶けると鉄 (II) イオ
ンと 2 つの塩化物イオンを電離する。
3
÷ 10 = 3.0 × 10−6 mol/
[Fe2+ ] = 1.0 × 10−2 ×
1000
よって,[Fe2+ ] × [S2− ] = 3.6 × 10−20 mol2 /2 < Ksp 。これは限界値 Ksp を超えないので,
すべて溶ける。つまり pH4 の弱酸性溶液中では硫化鉄 (II) の黒い沈殿はできないという結
論が得られる。
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