9回目

A. 理想気体の古典的分子運動論
2・1 分子運動論(ニュートン力学)
理想気体の分子運動論 は以下の概念に基づいていいる。
1.マクロな大きさの気体試料は、非常に多くの分子を含み、その 分子の大き
さは気体全体の試料体積と比較して小さい。
2.その分子の運動方向は、 連続的でランダム である。
3.分子は互いに独立で、 分子同士や壁と相互作用するのは短い衝突の瞬間 だ
けである。これらの衝突は平均すると 完全弾力的 である。(衝突によって並進
エネルギーは失われない)
4.分子と容器の壁との衝突の平均的な相互作用は、 ニュートン力学 によって
表される。
これらのモデルを用いて、理想気体の性質を導くことができる。
気体の圧力についての分子論的基礎−1分子の場合
気体の圧力 :気体分子が容器の壁に衝突したとき、気体分子が壁から跳ね返る
とき 壁に及ぼす単位面積当たりの力
一つの分子が,気体が立方体容器に入っている(容器の形は関係ないが)
分子が壁に衝突したときに壁が及ぼすべき力:
f = ma = m
dv dmv
=
dt
dt
分子の速度 v は v x、 v y、 v z に分解される(図2.1)
-1-
分子は壁方向に v x で近づき、衝突によって –v x に変化する。
衝突によって、 2v x
(= v x – ( –v x ) ) の速度変化をきたす。
この速度変化に伴う 運動量変化量 = 2 mv x
長さℓの直方体内での運動を考える。平均速度
v x で運動する分子、ある一方
の壁面に単位時間あたり (1 / (2l/v x)) 回衝突する。
ℓ
移動する距離 = 2 l
vx
必要な時間 = 2 l/v x
-2-
2m vx m vx2
=
単位時間に壁にかかる運動量変化(平均の力):
2l
l
vx
従って、分子1個によって 単位面積に加わる力(圧力) は、
f = (mv x2/l) / l 2 = mv x2/l 3 = mv x2/V
V
容器に含まれる全粒子によってかかる力:
N x f = N x ( mv x2/V ) = 圧力、 P
P = Nmv x2/V (2・1)
従って、
PV = Nmv x2 (2・2)
速度、 v と3方向へ分解した速度、 v x、 v y、 v z の関係は(図2・1)
v 2 = v x2 + v y2 + v z2 ランダムに運動する多数の分子について考えると、
v 2 = 3v x2
(2・3)
v x = v y = v z であるから
v x2 = (1/3)v 2 (2・4)
PV = (1/3)Nmv 2 (2・5)
これらの関係式によって、マクロな量(気体試料を閉じこめる圧力や気体試料
の体積などの量)が個々の気体分子の性質(試料中の分子数、分子に質量、分
子の速度などのミクロな量)と結びつけられる。
PV と分子の運動エネルギー
気体分子の 平均運動エネルギー ke は
ke = (1/2)mv 2 ,
mv 2 = 2ke -3-
(2・6)
(2.5)より、
PV = (2/3)Nke (2・7)
一方、試料中の分子の数Nは, N = nN A
n:モル数
N A: Avogadro 数
PV = (2/3)nN A ke = (2/3)n(N A ke)
(2.8)
KE とすると
Avogadro 数の分子(1モルの分子)の並進運動エネルギーを
PV =(2/3)nKE (nモルについて) (2・9)
運動エネルギーと温度
一方、経験的理想気体の法則によれば、
PV = nRT が成立するから、この関係を(2・9)式,
PV = ( 2/3 )nKE と対
比すれば、
(2/3)KE = RT
KE = (3/2)RT
(2・10)
従って、 1mol の気体の並進運動エネルギー、 KE が (3/2)RT に等しければ、 理
想気体の法則 PV = nRT が成立する。
2・2 分子エネルギーと速さ
(2・10)式、 KE = (3/2)RT より、 分子の並進エネルギー はその分子の性
質(原子組成、質量、形など)に無関係に、その 分子の温度、 T のみによって
決まる 。
気体定数 R とエネルギー単位
理想気体の方程式
PV = nRT に SI 単位を用いると、 1mol の気体は、 25 ℃
(298.15K)、 1.0bar において、体積が 24.789x10 − 3 m 3 である。
-4-
従って
R = 1.0 (bar) x 24.789x10 –3 (m 3) / {1.0(mol) x 298.15(K)}
= 8.314x10 − 5 bar・m 3・K − 1・mol − 1
= 8.314x10 − 2 bar・L・K − 1・mol − 1
Boltzmann 定数 (気体定数 R を Avogadro 定数で割った値 )、k
k = R/N A = 8.314JK − 1・mol − 1/6.022x10 23 mol − 1
= 1.3806x10 − 23 J・K − 1
分子の並進エネルギー(25℃における) と分子の速度
KE = (3/2)RT
= (3/2)8.314(J・K − 1・mol − 1)x298.15(K)
= 3.718kJ・mol − 1
ある質量を持った分子を含む気体について、分子の平均速さと気体の持つ運動
エネルギーとの関係は
KE = N A((1/2)mv 2) = (1/2)Mv 2
(2・11)
M はモル質量である。
KE = (3/2)RT であるから、
(3/2)RT = (1/2)Mv 2
v 2 = 3 RT/M
(2・12)
(v 2) (1/2) を根平均二乗の速さ (root-mean-squere (rms)speed)という。
任意の温度における運動エネルギーは全て等しい 。分子の平均速度は分子の質
量に反比例して変化する。
-5-
例題2.3
空気中の H 2 O と CO 2 分子の (a)平均運動エネルギー、 (b)平均速さを比較せよ
(a)分子の平均運動エネルギー KE:
(3/2)RT=(1/2)Mv 2:分子の種類の無関係
(b)分子の平均速度
v=(3 RT/M) (1/2)
v A/v B=(M B/M A) (1/2)
2・3
分子エネルギーの分類
分子とは、化学結合によって特定の空間配置に保持された原子の集団であ
る。
分子をボールとバネの系 と考えた場合、系のエネルギーはどのように考えたら
よいか。
系のエネルギーは3つの運動の形で表される。
並進:系の重心の運動
回転:系の重心を通る一つ又はそれ以上の軸の回りの回転運動
振動:形や構造に対応する平衡位置の回りでの系のボールの振動運動
二原子分子の気体の運動
2つのボール(原子)を一本のバネで繋いだ分子の運動
原子間距離を r とすると、
位置エネルギー、 U は r の関数であり、 U(r)
.
.
.
運動エネルギーは分子の速度成分、 x =dx/dt、y =dy/dt、z =dz/zt に依存する。
二原子分子の持つ全エネルギー、εは
. . .
ε =(1/2)m 1(x 12+y 12+z 12)
-6-
+(1/2)m 2(x 22+y 22+z 22)+U(r) (2・15)
それぞれの原子の重心に対する相対位置を極座標(図2・2)で表すと、
(2・15)は次式となる。
ε =(1/2)(m 1+m 2)(X 2+Y 2+Z 2)
+(1/2)m 1m 2/(m 1+m 2)[r 2+r 2
θ
2
+r 2(sin 2
θ
)
φ
2
]
+U(r)
(2・16)
μ =m 1m 2/(m 1+m 2):換算質量 (Reduced mass)、M=m 1+m 2
ε =(1/2)M(X+Y+Z)+(1/2)μ r 2[θ +(sin 2θ )φ ]
+[(1/2)μ r 2+U(r)] (2・18)
右辺のそれぞれの項は 特定の形の運動 を表し、それぞれ並進、回転および振動
運動に相当する。
並進運動は、原子運動の無機や原子間距離に影響されない。
回転運動は、角度の時間微分(回転速度)を含む
振動運動は、原子間距離の時間微分と原子間距離の変化を含む関数 である。
並進運動を記述する:X、Y、Zの3つの変数が必要である。
回転運動を記述する:r、θとφの3つの変数
振動運動を記述する:rといった変数が必要
これらに変数の数はエネルギーを決めるための自由度に対応する。
3.化学系のエネルギー: 熱力学第一法則
A.第一法則
3・1 エネルギー
3・2 熱力学第一法則
B. エンタルピー
3・3 エンタルピー
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3・4 エンタルピーと化学変化
3・5 標準生成エンタルピー
3・6 エンタルピーと反応進行度
C. 温度依存性
3・7 熱容量
3・8 エンタルピー変化の温度依存性
D. 熱容量の分子論的基礎
3・9 気体のCpの分子論的基礎
3・10 結晶及び液体の熱容量
3・11 金属の熱容量
E. エネルギーの分子論的基礎
3・12 結合エネルギー
3・13 結晶エネルギー
3・13 水溶液中のイオンのエネルギー
熱力学は、 熱エネルギーを機械エネルギーへ変換する機関 (エンジン)に関
する研究に由来する。
熱力学は前章で示した 原子論や分子論とは全く独立 にその理論を展開でき
る。
エネルギーとそれに関連して自然界で起こる様々な 現象に関する経験を熱力
学の三つの法則 によってまとめている。
A. 第一法則
3・1 エネルギー
第一法則でエネルギーを定義する
力学的系のエネルギー
運動エネルギー ( kinetic enerugy)=動きに伴うエネルギー:( 1/2 ) mv 2
位置エネルギー ( potenntial enerugy)=位置によるエネルギー
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((物体に働く力 )x (動いた距離 )): ( mgh)
熱と仕事に関する初期の研究
1849年の James Joule の研究:
落下する重りと熱的に絶縁された容器中の水中に取り付けた攪拌翼を連結し
て、 種々の重りを種々の高さから落下させた場合について水温の上昇度合 を関
係づけた。
温度の上昇度(熱量=水の質量、比熱と温度上昇より解る)と力学的エネルギ
ー減少量には比例関係がある ことがわかった。
この関係を考察して、熱量( cal)と力学的エネルギー( Joule)の量を表す
(測定する)単位を関係づけた。
1 cal(熱量) = 4.018 J( joule,ジュール)(仕事量)
Jouleは、calの単位で表された熱がjouleの単位で表された重り
と水かきの系の力学的エネルギーと等価であることを示した。
この研究から、 エネルギーは (必ずしも力学的エネルギーのみではなく)、
力学的エネルギーと熱的エネルギーからなる 。
エネルギーを捕らえる場合には、 力学的周囲のエネルギー変化(△
と熱的周囲のエネルギー変化(△
Umech)
Utherm) の二つのエネルギーをとらえる。
熱力学的世界( universal)は、系と熱的周囲のエネルギーおよび力学的周囲
のエネルギーの3つの要素から成り立っている。
系の中で起こるどのような過程も、これらの 3つの要素以外には全く影響を
及ぼさない 。
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