2015年パリ交渉に向けリマ国際会議が本格化

<プレスリリース> 2014年12月9日
国際環境NGO FoE Japan
2015年パリ合意にむけリマ国際交渉が本格化
第20回気候変動枠組条約締約国会議COP20と第10回京都議定書会合CMP10がペルー・リマで12月1日
より始まった。今会合では来年パリでのポスト2020将来枠組みために来年前半に提出する次期約束草案
に伴う情報の内容が決まらなければならず、来年パリ会議での将来枠組み合意の成否に係る重要な会合
である。本会議の主な論点を以下に示す。
ダーバンプラットフォーム特別作業部会(ADP)では、ポスト2020枠組交渉と2020年目標の野心引き
上げ(プレ2020)の二つの作業が行われる。前者は前述の次期約束草案の内容を固めること、またパリ
会議の合意の要素案の選択肢の整理を目指し、来年2月のADP会合で後者の本格的な交渉開始の土台と
なる。2020年目標は来年の作業計画及び、ADPがパリ会議で終了するため、2016-2020期間に何を
行うかも議論される。昨年から行われている余震引き上げの為の一連の専門家会合(TEMS)を受け再生
可能エネルギーや省エネなど分野別の国際協力をどう実施に移すかが焦点となる。
第一週目を終わった段階では、ポスト2020の交渉で先の10月のADP会合末に出されたADP共同議長に
よるリマ会合決定文書案(パリ合意要素案、次期約草案の提出情報内容、来年のプレ2020作業計画)お
よびパリ合意用素案の最初の読み込み(各国が内容への意見を提出)が併行して行われた。
先進国はパリ会議で京都議定書のような緩和対策を主眼とした枠組合意を目指している。 このため最
大の議論はパリ合意内容の範囲をどこまで含むかというスコープの問題で、先進国は約束草案、パリ合
意案とも緩和にできる限り絞ることを主張、パリ同意案では途上国支援(資金、技術、能力強化、透明
性確保)の内容を極力弱める攻勢で一致して発言した。
また前回のワルシャワ会議で、緩和で先進国/途上国の差別化を行わず一律に提出することが義務づ
けられたが、リマ会議ではこれに踏み込み提出する緩和の内容も差別化を行わないだけでなく、支援に
関しても先進国途上国が自主的に行うことを主張、第一週後半で途上国側の反論が強まっている。両者
の隔たりは大きく、リマ会議合意への道筋は未だ見えてこない。週明けに共同議長が両文書案の更新版
と各国からの提出意見をまとめた文書を出すことになっており、これらへの各国の評価が第二週目で本
格化するリマ決定文書交渉の基調を決めることになる。
緩和において新興国も先進国と比較出来るコミットメントを求めることは重要だが、条約下の先進国
の支援義務を強化しなければ、途上国の緩和の野心の相対的なレベル低下や今後拡大する気候変動の影
響や被害へ適応に対応出来なくなることが懸念される。このためFoE Japanほか世界の環境
NGO(CAN)は支援も約束草案の提出情報義務に含めるよう求めている。
リマ会議前に日本を含め先進国(及び一部途上国)が、カンクンで設置され気候資金の要になる緑の
気候基金(GCF)へ2015-2018年の四年間で100億ドルを拠出する表明が行われたことは重要だが、これ
は今後必要とされる支援規模のほんの一部でしかない。第1週目中に発表された国連環境計画の適応
ギャップ報告書では、途上国はIPCC第五次評価報告書で見積もられた年間700-1000億ドルの最低でも2
倍の資金が増大する気候変動の影響への対応(適応)に必要になるだろうとしている。近い将来まで途
上国への気候資金の流れの大半をになうだろう先進国の支援の強化を担保することは、途上国と交渉内
容の歩み寄るというだけでなく、狭い会議場を超えた気候変動の影響を受ける途上国の何億もの人々の
将来に大きな意味を持つことである。
プレ2020の交渉は第一週目で議長決定書案の読み込み以外議論されていない。各国が出した2020年目
標の排出削減の積み上げ量とカンクン合意の今世紀末までに気温上昇を2℃未満に抑えるレベルの間には
大きなギャップがあるが、これを埋める方策を探る専門家会合の結果を実施段階に移すことには日本は
じめ先進国が難色を示している。
第一週目で二つの補助機関やCOP、CMP下の交渉はほぼ終了し、第二週のADP交渉本格化に備える状況
である。
締約国会合(COP)の議題で注目され、その下部組織である補助機関で議論されていた論点に市場メ
カニズムと損失と被害国際メカニズムがある。ワルシャワで日本が2020年目標の野心レベルを引き下げ
たことなど先進国の野心の低さに反発していた途上国により頓挫していた市場メカニズムの議論だが、
今回ブラジルが議論を補助機関からADPのプレ2020及びポスト2020交渉に遷すよう主張し、進め方の合
意ができないまま第一週目で議論打ち切りとなった。オフセットが拡大することに懸念を持つFoEとし
ては評価するが、ADPでは既に市場メカニズムへの言及が各所でなされており、今後の議論はむしろ拡
大したと見て警戒している。
昨年設立され今後拡大する気候変動の影響に長期的に対応する、損失と被害国際メカニズムの議論
は、暫定執行委員会報告を承認し執行委の構成案(先進国途上国各10名)と執行委の下に下部機関を設
けるかどうかは来年同委で検討するという形で合意が成立した。
リマ会議初日に海外メディアで条約に報告された日本の気候資金援助(2010-2012年)に高効率石炭火
力発電所の新設事業が含まれていたことが報道され、条約事務局長が懸念を表明するなど大きな国際的
反響を呼んでいる。CANが日本に化石賞を与え、FoEは会議所内で化石燃料からの脱却を求めアクショ
ンを行った。IPCC報告では2℃未満目標内に留まるためには遅くとも2020年までに世界の排出量が下降
に向かわねばならないとする。たとえ高効率でも、キロワットあたり天然ガスの2倍の二酸化炭素排出を
伴う石炭火発の新設への支援を気候資金に含める先進国は日本のみであり、気候変動の科学から大きく
乖離している点が世界から問われている。
この原稿を書いている週末の段階でフィリピンを3年連続でまた強力な台風が直撃した。前年同様
かそれ以上の人命が失われるのではと心配されている。リマでともに行動するNGOのメンバーの家族知
人の命も危ないと聴く。会議で議論されている内容の陰に無数の普通に暮らすことを願う人々がいるこ
とを常に心がけていきたい。
国際環境NGO FoE Japan 気候変動担当顧問 小野寺ゆうり
www.foejapan.org [email protected]
173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9