若年層NPO・NGOスタッフ就業実態調査 調査報告書(第一版)[PDF

YouthVision
since1996
若年層NPO・NGOスタッフ就業実態調査
調査報告書
(第一版)
特定非営利活動法人ユースビジョン
2010 年 3 月
NPO・NGOスタッフ就業実態調査
調査報告書
目次
1. はじめに- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3
2. 分析に用いた調査の概要- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3
2-1. 調査目的- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3
2-2. 調査主体- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3
2-3. 調査の種類- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3
2-4. 調査対象- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3
2-5. 主な調査項目- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3
2-6 調査期間、調査方法、回答数- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3
3. 新たな若い人材を発掘するための取り組み- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5
3-1. NPOの採用活動の現状- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5
(1)雇用発生理由と採用人数- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5
(2)職員の退職理由- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5
(3)職員の採用ルート- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -6
(4)選考プロセス- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -8
(5)NPOスタッフのボランティア、インターン経験- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -10
(6)NPOで働きたい若者の就職活動の現状- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -11
(7)採用活動における課題- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -11
3-2. NPOの採用活動の課題解決のための提案- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -12
4. NPOの労働環境を整備するための取り組み- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -13
4-1. NPOの雇用環境の現状- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -13
(1)若年層有給職員を雇用するNPOの概要- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -13
(2)若年層職員の雇用条件の概要- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 15
4-2. NPOの人事諸制度の整備状況と課題- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -17
(1)人事諸制度の整備状況- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -17
(2)今後整えたい人事諸制度- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -18
(3)仕事のやりがい、大変さ等への影響- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -18
(4)人事諸制度を整える上での課題- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -19
4-3. NPOの人事諸制度整備のための提案- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -20
4-4. NPOでの働き方の現状と課題- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -20
(1)NPOで働く若年層有給職員の概要- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -20
(2)仕事のやりがいや大変さ- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -26
(3)今後の不安- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -28
(4)性別・子ども有無別のやりがい、大変さ、今後の不安- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -28
4-5. NPOらしい働き方ができる職場を目指して- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -29
1
5. NPOスタッフのキャリア形成支援のための取り組み- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -30
5-1. NPOスタッフの専門性- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -30
(1)NPOスタッフの仕事内容- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -30
(2)階層別仕事内容- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -31
(3)働く上で不可欠だと感じている能力- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -32
(4)分野別に求められる能力- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -33
5-2. NPOスタッフの能力開発- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -35
(1)能力を評価する仕組み- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -35
(2)能力を開発する仕組み- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -35
(3)外部の研修- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -35
(4)スタッフが受講したい外部研修- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -37
(5)階層別に受講したい研修- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -38
(6)スタッフ育成のための日々の取り組み- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -40
(7)今後の働き方- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -41
(8)組織として今後育てていきたい人材- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -42
5-3. NPOスタッフの能力開発に向けての提案- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -42
6. NPOの採用・人材育成の課題と具体的な解決案の提案- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -43
7. おわりに- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -43
2
1. はじめに
社会的課題の多様化、複雑化、深刻化に伴い、公益の担い手としてNPOの社会的役割が増大してい
る。それに伴い、市民・公益セクターとして新たな人材の採用や育成が課題となっている(第一総合研
究所,1998;労働政策研究・研修機構,2004)。特に次世代を担う人材としてNPOでの給与を主たる収
入源とする若年層(20~30 歳代) スタッフを採用し、育成していくことが求められている。
一方、若者の状況は、仕事の意義ややりがいなど仕事に求める価値が多様化する中で、NPOで働く
ことに関心のある人が増えつつあると言われている。(北村,2008)。
しかし、これまでの先行研究・調査では、NPOスタッフの採用・人材育成の現状や課題の把握にと
どまっており、具体的な解決策の提案までには至っていない。
そこで、本報告ではNPOの雇用主または人事担当者や若年層NPOスタッフを対象とした調査結果
の分析から、多角的なNPOの採用・人材育成の課題の把握とより具体的な解決案の提案を行っていく。
なお、本調査は、日本財団の助成を受け 2009 年度に行った。本調査に注目し、調査の実現の機会を与
えてくださったことに心から感謝を申し上げる。
2. 分析に用いた調査の概要
2-1. 調査目的
若年層NPO・NGOスタッフの労働実態や採用・雇用環境を明らかにする。
2-2. 調査主体
特定非営利活動法人ユースビジョン
2-3. 調査の種類
(1)「若年層NPO・NGOスタッフ採用・雇用実態調査」
(以下、団体調査とする)
(2)「若年層NPO・NGOスタッフ労働実態調査」(以下、スタッフ調査とする)
2-4. 調査対象
(1)団体調査: 特定非営利活動法人(NPO法人)、または市民活動を行う任意団体で、その団体での
給与を主たる収入源としている 20 歳~40 歳代の職員の所属組織の人事担当者、または雇用主
(2)スタッフ調査: (1)団体調査の回答団体で働く、当該団体の給与を主たる収入源としている 20 歳~
40 歳代の職員
2-5. 主な調査項目
(1)団体調査:職員の雇用条件、選考・採用について、スタッフの人材育成について
(2)スタッフ調査:働き方、現在の職場からの収入等について、過去の活動歴や職歴、現在の職場への
就職について、仕事のやりがいやスキル
2-6. 調査期間、調査方法、回答数
(1)団体調査、および(2)スタッフ調査では、下記 15 の主要都道府県(北海道、宮城、埼玉、東京、千
葉、神奈川、新潟、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、岡山、広島、福岡)の中間支援組織(NPO支援
センター)の協力を得て、336 のNPO・NGOを対象にメール、及び電話による依頼を行った。
3
【依頼団体のリストアップ協力団体(各地域の中間支援組織)】
no
15 地域
団体名
1
北海道
(特)札幌チャレンジド
2
宮城
(特)せんだい・みやぎ NPO センター
3
埼玉
(特)ハンズオン埼玉
4
東京
(特)JUON(樹恩)NETWORK、東京ボランティア・市民活動センター、(特)日本NPOセンター
5
千葉
(特)NPO 支援センターちば
6
神奈川
7
新潟
(特)新潟 NPO 協会
8
静岡
(特)活き生きネットワーク
9
愛知
東大手の会
10
京都
(特)ユースビジョン
11
大阪
(社福)大阪ボランティア協会、(特)SEIN
12
兵庫
ひょうごNPOユース
13
岡山
(特)岡山 NPO センター
14
広島
(特)ひろしま NPO センター、ひろしま市民活動ネットワーク HEART to HEART
15
福岡
(特)ふくおかNPOセンター
(特)神奈川子ども未来ファンド、(特)市民セクターよこはま
【地域別依頼団体数】
北海道
宮城
埼玉
東京
千葉
神奈川
新潟
静岡
愛知
京都
大阪
兵庫
岡山
広島
福岡
12
15
8
62
14
29
34
21
35
20
45
12
17
3
9
回答は、web アンケートフォーム、および郵送、Fax で回収した。(1)団体調査では 100 団体、(2)ス
タッフ調査では 207 名より回答を得た。調査期間は、2009 年 9 月〜12 月、調査時点は、8 月 15 日現在
とした。
【地域別回答数】
北海道
宮城
埼玉
東京
千葉
神奈川
新潟
静岡
愛知
京都
大阪
兵庫
岡山
広島
福岡
(1)
3
7
6
6
6
8
10
3
10
12
15
7
4
0
3
(2)
9
16
12
21
11
14
12
7
27
22
31
13
8
0
3
不明
1
【分野別回答数】
保健・医療・福祉
NPO支
援
子ども
環境保全
国際協力
まちづく
り
学術・文化・スポーツ
災害救援
(1)
26
18
17
11
5
4
4
3
(2)
39
54
31
19
8
8
5
4
社会教育
情報化社会
人権平和
男女共同参画
経済活性化
能力開発雇用拡充
その他
(1)
2
2
2
2
1
1
2
(2)
5
3
6
6
6
8
5
4
3. 新たな若い人材を発掘するための取り組み
3-1. NPOの採用活動の現状
(1)雇用発生理由と採用人数
団体に、スタッフの雇用理由をたずねてみると、
「職員が退職・休職し、欠員がでたから(33.0%)」
「既
存事業を拡大することになったから(24.0%)」「新規事業を立ち上げることになったから(23.0%)」など
の理由が多くを占めた(団体調査)
。
初めて有給職員を雇った年は、2005 年が 15 団体と最も多く、次いで 2003 年 12 団体、2002 年 9 団体
の順に多くなっており、約半数の団体が 2002 年~2006 年の間に初めて雇っている。また、過去3年間
に採用が発生している団体は 9.6 割を超え、人規模別に採用・退職人数を見ても、退職人数の倍近い数
の人員を採用しており、ここ数年で新たに人材を採用するNPOが多くなってきていることがわかる
(団体調査)
。
n=100
<団体調査>
最も多い雇用発生理由
⑥6.0%
⑤1.0%
④13.0%
①職員が退職・休職し、欠員
がでたから
②既存事業を拡大することに
なったから
③新規事業を立ち上げること
になったから
④新たに事業を開拓したかっ
たから
⑤現在のスタッフは団体創業
時のメンバーである
⑥その他
①33.0%
③23.0%
②24.0%
人員規模
過去 3 年間の平均
採用人数
退職人数
30 人以上
20.4 人
12.2 人
10 人以上 30 人未満
10.2 人
4.3 人
5 人以上 10 人未満
6.1 人
2.9 人
5 人未満
3.0 人
1.3 人
全体平均
7.7 人
3.7 人
(2)職員の退職理由
雇用主・人事担当者が把握している職員の主な退職理由は、「家庭の都合」や「他にやりたいことが
あったから」という回答が多かった。
「待遇や労働環境の不満」は、14.0%と 2 割以下にとどまった。
「そ
の他」の中では、退職者がない団体や仕事内容が合わなかった人、進学、体調不良など様々な理由があ
げられている(団体調査)。
5
n=100
<団体調査>
主な退職理由(3つまで)
37.0%
家庭の都合で転職する必要があったから
36.0%
他にやりたいこと・仕事があったから
25.0%
契約期間が満了したから
18.0%
人間関係がうまくいかなかったから
14.0%
待遇や労働環境に不満があったから
他から誘われたから、頼まれたから
8.0%
組織の将来性に不安を感じたから
8.0%
新たな知識・経験を得たかったから
8.0%
7.0%
団体や担当事業が終了したから
37.0%
その他
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
40%
(3)職員の採用ルート
職員の募集方法で、最も多い採用ルートは、
「自団体の関係者や知り合いに紹介や推薦を依頼(37.0%)」
や「ボランティアやインターンへよびかける(22.0%)」など、約 6 割が口コミでの募集であった。
「行政
や中間支援組織等の人材募集に関わるサービスやサイト」を通じて採用した団体も 2 割あった(団体調
査)。
⑧1.0% ⑨5.0%
⑦3.0%
⑥3.0%
⑤4.0%
団体の中で最も多い採用ルート
①自団体の関係者や知り合いに紹介や推薦を依頼
②これまでに活動したボランティアやインターンへ
のよびかけ
③行政や中間支援組織等の無料の人材紹介サービス
やイベントを活用
④自団体のニュースレターやチラシ、HPやブログ、
メルマガで募集
⑤求人雑誌や新聞広告、広報誌などの広告で募集
①37.0%
④8.0%
⑥他団体で働いていた人をヘッドハンティングした
③17.0%
n=100
<団体調査>
⑦行政や中間支援組織等のNPOやボランティア関
連の人材募集サイト等で募集
⑧大学のキャリアセンター(就職課)へ相談
②22.0%
⑨その他
一方、スタッフ調査では、現在の職場で働くことになったきっかけとして、「知り合いから声をかけ
られた(35.3%)」が最も多く、その内 75.3%は、職場のスタッフや理事等から声をかけられている。「公
募されている求人募集を知った(18.4%)」が次に多く、団体が個別に発行・発信する情報の入手や行政
や中間支援組織のサービス、イベントの利用を通じて、公募情報を得ている人が多いことがわかる。
6
現在の職場で働くことになったきっかけ
n=207
<スタッフ調査>
⑥14.0%
①知り合い・友人・家族から声をかけられた
①35.3%
⑤7.2%
②公募されている求人募集を知った
③団体の設立や事業の立ち上げや拡大に関わっ
ていた
④8.2%
④NPOで働いている、もしくは関わっている
人に相談した
⑤今の団体の活動内容を知って、直接求人があ
るか問い合わせた
③16.9%
⑥その他
②18.4%
どんな知り合いから声をかけられたか
今の職場のスタッフや理事・会員
75.3%
大学等のゼミやサークルの先輩、先生
11.0%
今の職場以外のNPOのスタッフや理事・会員
8.2%
4.1%
仕事を通じた友人や知人
家族や親戚
2.7%
近隣や地域、古くからの友人や知人
1.4%
その他
n=73
<スタッフ調査>
2.7%
0%
10%
7
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
公募求人募集をどのように知ったか
現在の職場のニュースレターやチラシ、ホームページ
やブログ、メルマガなど
39.5%
行政(ハローワーク等)や中間支援組織等の職業紹介
サービスやイベント(求人フェア・合同説明会等)
36.8%
行政や中間支援組織等のNPOやボランティア関連の
人材募集サイト、メルマガ
5.3%
求人雑誌や新聞広告、広報誌など
5.3%
大学のキャリアセンター(就職課)
2.6%
民間職業紹介サービスやイベント(求人フェア・合同
説明会等)
2.6%
その他
n=38
<スタッフ調査>
7.9%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
(4)選考プロセス
人事担当者の配置について聞いたところ、4 割がおいていると答えており、事務局長や理事長・代表
が担当している団体が多かった。逆に、おいていない団体が6割と高い割合である。
人材育成・人事担当者をおいているか
おいている
40.0%
おいていない
60.0%
n=100
<団体調査>
8
また、選考過程について聞いたところ、団体調査・スタッフ調査共に、代表による面接選考が主とな
っていることがわかる。
n=100
<団体調査>
定めている選考過程
69.0%
代表による面接選考
66.0%
職員による面接選考
63.0%
応募書類(履歴書)による選考
50.0%
試用期間を設ける
47.0%
応募書類(職務経歴書)による選考
26.0%
応募書類(小論文・レポート)による選考
9.0%
応募説明会への参加
ディスカッションやグループワーク面接選考
2.0%
筆記試験による選考
2.0%
9.0%
その他
0%
n=207
<スタッフ調査>
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
働くことが決まるまでの選考過程
58.9%
代表による面接
45.9%
応募書類(履歴書)の提出
36.2%
職員による面接
19.3%
応募書類(職務経歴書)による選考
17.4%
試用期間
15.0%
応募書類(小論文・レポート)による選考
筆記試験
1.9%
応募説明会への参加
1.4%
ディスカッションやグループワーク面接
1.0%
24.2%
その他
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
小論文やレポート等で課すテーマとしては、中間支援組織の場合、NPO や市民活動について、また、
各分野の社会課題について考えを書くという課題があげられていた。組織で何がしたいかや事業を通じ
て何を実現したいか、といったテーマもあった。
9
(5)NPOスタッフのボランティア、インターン経験
スタッフ調査において、NPOスタッフの現在の職場でのボランティアやインターン活動経験有無に
ついてたずねたところ、約 4 割の人が平均して 1 年 8 ヶ月の活動経験があることがわかった。現在の職
場以外でのボランティア、インターン経験については、5 割強の人が平均して 2 年 9 ヶ月の経験がある
ことがわかった。自団体、他団体を問わずボランティアやインターン活動経験のある人は、約 7 割にも
のぼる。
一方、団体調査において、職員採用の決め手について聞いたところ、「団体の理念に賛同し、取り組
みに共感するなど、意欲熱意があったから」が約 7 割と最も高く、次いで「職務に必要な実務経験・能
力・知識があると感じたから」が高かった。「自団体でのインターン、ボランティア経験があり、信頼
があったから」(22.2%)が、「他の団体でのボランティア、インターン経験があったから」(1.0%)より
も重視されていることがわかる。
職員採用の決め手(3つまで選択)
団体の理念に賛同し、取り組みに共感するなど、意
欲・熱意があったから
70.7%
44.4%
職務に必要な実務経験・能力・知識があると感じたから
他の組織や人とコミュニケーションし、連携・協働し
ていく力があると感じたから
39.4%
37.4%
本人の性格・キャラクターが団体に合うと感じたから
31.3%
自発性・自主性や自己管理能力があると感じたから
自団体でのインターン、ボランティア経験があり、信
頼があったから
22.2%
9.1%
社会人経験があったから
他NPOでのインターン、ボランティア経験があった
から
1.0%
他NPOでの働いた経験があったから
3.0%
9.1%
その他
n=100
<団体調査>
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
スタッフが働こうと思った理由について、さらに分析してみると、ボランティアやインターン経験が
ある人ほど、
「団体のミッションや活動内容に共感」して、働くことを決めていることがわかる。
また、ボランティアやインターン経験がない人は、ボランティアやインターン経験がある人と比べる
と、「自分の経験や能力を活かせると思ったから」という理由をあげている割合が高いこともわかる。
10
ボランティア(V)・インターン(I)経験有無別
働こうと思った理由
V・I 経験あり
29.8%
22.5%
19.9%
2.6% 0.7%
8.6%
7.9%
6.6%
V・I 経験なし
16.1%
3.6%
14.3%
19.6%
1.8%
3.6%
16.1%
1.3%
14.3%
7.1%
3.6%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
団体のミッションや活動内容に共感したから
仕事内容にやりがいを感じたから
自分が成長するための経験や能力を身につける事ができると思ったから
団体のスタッフと共に働きたいと思ったから
自分の経験や能力を活かせると思ったから
自分の思いや考えが組織の意思決定に反映できると感じたから
勤務地や勤務時間などの条件が合っていたから
今後事業が発展していきそうな団体だと感じたから
n=207
給与や福利厚生などの条件が合っていたから
<スタッフ調査>
その他
(6)NPOで働きたい若者の就職活動の現状
当団体が 2009 年に、関西圏の大学のNPOに関する授業の受講生やNPOでインターンシップ・ボ
ランティアを行っている学生などNPOで働くことを考えている学生・若者を対象に行った若者調査で
は、回答した若者の約 4 割(827 名中 336 名)が「NPOで働きたい」
、「どちらかといえば働きたい」
と答えており、社会や人の役に立ちたいといった理由からNPOで働きたいと思う若者が多くいること
がわかった。
また、NPOで働きたいと思っても、約 8 割はNPOの就職活動を行ったことがないことがわかった。
行ったことのある人でも、興味のあるNPOのホームページの採用情報を調べるなどインターネットを
検索するという活動にとどまっており、NPOで働くことや就職活動の方法に関する情報が集約されて
おらず、関心を持つ若者に行き届いていない状況があることが明らかになった。
さらに、NPOで働くことに関心がある人のうち、7 割が給料や福利厚生・社会保障などの労働条件
や雇用の安定性について、不安を感じている状況が明らかになった。NPOスタッフがどのような環境
で働き、どのような生活を送っているのかについて、実態が伝わっておらず、漠然とした不安を感じて
いる若者が多いことがみえてきた。
(7)採用活動における課題
団体が感じている採用活動における課題として、
「応募はあるが、適任者がいない(26.0%)」や「採用
活動にコストがかけられない(18.0%)」、
「適する人物かどうか見極められない(11.0%)」という回答が多
かった(団体調査)。新たな人材を求めるNPOが、思いを持った人と出会う機会や募集をかける仕組
みがないといった理由で、組織に適した人材を見つけ出せないでいる状況がわかる。また、仕事内容や
求める人材について的確に伝えられていない、組織や事業に適した人材かを見極められないなど募集や
採用活動におけるノウハウが不足しているという状況もうかがえる。
11
採用活動の課題
26.0%
応募はあるが、適任者がいない
採用活動にかけるコスト(時間・手間・お金)がかけ
られない
18.0%
11.0%
適する人物かどうか見極められない
人材を育てるコスト・ノウハウがなく、実務経験者し
か採用できない
募集をしても、問い合わせがない、少ない
口コミ、知り合いからの紹介・推薦による採用に限ら
れる
採用してもすぐに辞めてしまう、定着しない
4.0%
1.0%
公募するところがない、少ない
0.0%
問い合わせはあるが、応募につながらない
0.0%
その他
0.0%
無回答
0.0%
0.0%
n=100
<団体調査>
3-2.
34.0%
23.0%
9.0%
5.0%
50.0%
20.0%
13.0%
14.0%
8.0%
8.0%
6.0%
16.0%
10.0%
10.0%
あてはまる課題(3つまで複数選択)
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
最もあてはまる課題
NPOの採用活動の課題解決のための提案
3-1.より、求める人材と出会う機会や適した募集の仕組み機会がないことや、採用活動のコストやノ
ウハウが不足していることなどから、組織に適した人材の発掘に課題を抱える団体が多いことがわかる。
選考プロセスについては、職員にとっては、面接を通じて代表者と話しをすることができる良さがある
ものの、組織に適した人材を見極める仕組みとして、プロセスが十分に設けられているとは言い難い現
状がうかがえる。新たな人材を求めるNPOが増加する中、口コミでの募集では限界があり、新たな採
用の仕組みが必要な現状が見えてきた。
こういった現状を改善するためには、まずは、組織としてどんな人材を求めているのかを明確にする
必要がある。そもそも市民・公益セクターとして求められる人材とはどういったマインドや経験、力を
持った人なのかを明確にし、個々の組織に求められる人材像を描くこと、そして、各組織が、十分な募
集や選考期間を設けて、適した人材を見極められるような、長期的な人材採用計画の策定することなど
を支援する取り組みが必要だと考える。
また、実際の採用活動にあたっては、NPOが連携して、合同で取り組むことが考えられる。例えば、
人材を募集するNPOによる合同での就職・転職説明会が考えられる。
NPOが高い意欲を持った人材や組織に適した人材に出会うためには、団体のミッションなどを伝え
るなど、スタッフ候補者と直接話しをする場が欠かせない。そして、共同で企画・運営することで、募
集や説明会の企画などにかかるコストを削減でき、募集や選考のノウハウを共有することもできる。ま
た、個々のNPOが持つネットワークを活かすことで、1団体ではできない幅広いよびかけが可能とな
る。そもそも、NPOに関心のある若者にピンポイントに情報を届けること自体が容易ではないため、
各NPOの口コミの力が集まることの意義が大きい。
なお、2010 年 2 月 6 日に、当団体主催で、8 つのNPOが求人ブースを出展する形で「NPO就職・
転職合同説明会」を開催した。結果、50 名の定員を大幅に超える約 90 名のNPOで働きたいと考える
12
熱意ある参加者(対象は 20 代〜30 代に限定)が集まった。出展したNPOからは、
「真面目で熱心な参
加者多かった、次回も参加したい」
、「事前にわかっていればこの企画にあわせて採用計画を組みたい」
という声があり、こういった取り組みを定期的に行うことで、NPOの新たな人材の発掘に加え、市民・
公益セクター内での人材の流動や他セクターからの人材の流入の活発化にもつながるのではないかと
考えている。
また、3-1.では、「団体の理念に賛同し、取り組みに共感するなど、意欲熱意のある」人材を採用す
る団体が多い一方で、スタッフにも、長期間のボランティアやインターン活動経験を持つ人が多く、経
験がある人程、
「団体のミッションや活動内容に共感」して、働くことを決めている現状が見えてきた。
このことからも、インターン、ボランティア経験を通じて、団体の理念や取り組みへの理解・共感を
深めたり、長期にわたって活動し、実践的な経験を得る場を設ける事が、組織の適した人材の発掘にお
いて重要であるといえる。他団体でのボランティアやインターン活動経験者の割合も多いことから、団
体の枠を超えて、地域のNPOが共同してボランティアやインターン活動の機会をつくり、若者を育て
る取り組みを進めることが必要である。
4. NPOの労働環境を整備するための取り組み
4-1.
NPOの雇用環境の現状
(1) 若年層有給職員を雇用するNPOの概要
回答団体の規模を見ると、約 5 割が「2000 年から 2004 年に発足」、約 6 割が「2001 年から 2005 年に
法人格を取得」、また、約 5 割が「2002 年から 2006 年に初めて有給職員を雇用」している。
活動分野は、
「保健・医療・福祉の増進」が約 2.5 割、
「子どもの健全育成」と「NPO支援」がそれ
ぞれ 2 割弱、
「環境保全」が約 1 割の順に多くなっている。
財政規模は、「2000 万から 5000 万未満」の団体が約 4 割と最も多く、
「1000 万未満」、「1000 万から
2000 万」、「5000 万以上」の団体がそれぞれ約 2 割ずつを占める。
組織の財政規模<2008年度>
⑤6.0%
①19.0%
④16.0%
①1000万未満
②1000万から2000万未満
③2000万から5000万未満
④5000万から1億未満
②17.0%
⑤1億以上
③42.0%
n=100
<団体調査>
人員規模は、
「5 人未満」の団体が 3.5 割、
「5 人以上 10 人未満の団体」が 3 割と、有給の常勤・非常
勤スタッフの数が「10 人未満」が約 6.5 割を占める。企業と比べると小規模である。
13
組織の人員規模
④12%
①35%
①5人未満
②5人以上10人未満
③23%
③10人以上30人未満
④30人以上
n=100
<団体調査>
②30%
また、有給職員の性別・雇用形態別構成を見たところ、女性の非正規職員の割合が約 4 割と最も高く、
正規職員と合わせると約 7 割は女性が占めている。ただし、男性の場合、若干であるが非正規職員より
正規職員の割合が高くなっている。
有給正規職員だけを見た場合、男女比率は「男 4:女 6」と男性の割合が 1 割アップし、また、「20~
30 代の若者」の割合が約 6 割を超える。
有給職員の性別・雇用形態別構成
n=100
<団体調査>
④15.9%
①女性・非正規(非常勤)職員
①42.7%
③16.4%
②女性・正規(常勤)職員
③男性・正規(常勤)職員
④男性・非正規(非常勤)職員
②25.0%
14
n=100
<団体調査>
正規(常勤)職員の性別・年代別構成
18.9%
20%
15.1%
14.6%
14.6%
14.2%
8.9%
10%
4.0%
3.8%
3.0%
2.8%
上
以
60
代
・
性
男
女
性
・
男
60
代
性
・
以
50
50
性
・
女
上
代
代
代
40
男
女
性
・
性
・
40
30
性
・
男
女
代
代
代
30
性
・
性
・
男
女
性
・
20
20
代
代
0%
(2) 若年層職員の雇用条件の概要
スタッフの雇用条件(収入面)を見てみると、一ヶ月の給与(諸手当・賞与を含まない基本給の総額)
は、4 割が、
「15~20 万円」、2 割が、
「10~15 万円」または「20~25 万円」だった(スタッフ調査)。通
勤手当は約 7 割の人が受取っており、それ以外の手当については、ほとんど受取っていない現状が明ら
かになった(対象外という理由で受け取っていないケースも考えられる)。
給与の使い方としては、6 割の人が家計を支える主な収入として使っていることがわかる。また、約
4 割がこの 1 年間で「昇給」している。
大卒者の初任給が 19 万 8800 円(賃金構造基本統計調査、厚生労働省、2009 年)であることを考える
と、NPOで働いて、一人で生活する程度の収入を得ることは可能といえる。ただし、この調査に現れ
ないが、ごくわずかな給料で、NPOの創業や事業立ち上げ、実施に取り組んでいる人がいることもこ
こで申し添えておきたい。
基本給(諸手当・賞与を含まない基本給与)<2009年7月>
⑤4%
⑥2%
①11%
①10万未満
④19%
②10万~15万未満
②23%
③15万~20万未満
④20万~25万未満
⑤25万~30万未満
⑥30万以上
③41%
n=207
<スタッフ調査>
15
n=207
<スタッフ調査>
受け取っている手当
73.9%
通勤手当
15.0%
超過勤務手当
13.0%
役職手当
8.2%
住宅手当
1.4%
家族手当
6.8%
その他
0%
10%
n=207
<スタッフ調査>
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
基本給の昇給・減給
減給した
3.9%
昇給した
41.5%
昇給も減給も
なかった
54.6%
収入の主な使い方
⑤2.9%
④9.7%
①家計を支える主な収入と
なっている
③4.3%
②家計を補助的に支える収入
となっている
③家計を支える以外の目的で
使っている
②19.8%
④将来に備えて貯蓄している
①63.3%
⑤その他
n=207
<スタッフ調査>
16
さらに、期末手当等の賞与を受け取っている人も約6割いる。そのうち 1 割が「10 万円未満」、3 割
が「10 万円以上」の賞与を受取っていた。
常勤スタッフの労働時間について、団体調査で聞いた 1 日の所定労働時間の平均は、「7.9 時間」、ス
タッフ調査で聞いた 1 日の実労働時間の平均は、
「9.1 時間」と、企業との違いはみられない。また、常
勤スタッフの週当たりの労働日数については、所定労働日数の平均は、
「5.1 日」、実労働日数の平均は、
「5.3 日」であった。
また、団体や個人での仕事を掛け持ちし、複数の収入を得ている人もいる。
所属NPO以外の仕事の有無
所属NPO以外の仕事の組織形態
所属NPO
以外でも
働いてい
る
15.5%
37.5%
NPO法人
28.1%
企業
18.8%
自営業・家業
15.6%
市民活動を行う任意団体
NPO法人以外の公益を目
的とした法人
行政
所属NPO
のみで働
いている
84.5%
12.5%
6.3%
15.6%
その他
n=207
<スタッフ調査>
n=32
<スタッフ調査>
0%
10%
20%
30%
40%
4-2. NPOの人事諸制度の整備状況と課題
(1)人事諸制度の整備状況
約 8〜9 割の団体が「健康保険」、
「厚生年金保険」、「雇用保険」、「労働者災害補償保険(労災保険)」
に加入し、
「年始年末休暇」を設定している(団体調査)。社会保険など基本的な制度については整備さ
れているといえる。
諸手当について、通勤手当は支給されている団体が多いが、団体規模別に見ると、役職手当は、大き
い団体程、その役割が増すことから、支給される割合が高いことがわかる。また、組織の大きさに関わ
らず、家族・住宅手当については、整っていないのが現状である。
支給している諸手当
5 人未満
5~10 人未満
10~30 人未満
30 人以上
通勤手当
68.6%
90.0%
91.3%
91.7%
賞与
28.6%
56.7%
39.1%
58.3%
超過勤務手当
11.4%
20.0%
13.0%
50.0%
役職手当
8.6%
30.0%
43.5%
75.0%
家族手当
2.9%
10.0%
8.7%
16.7%
住宅手当
0.0%
10.0%
26.1%
8.3%
25.7%
3.3%
8.7%
8.3%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
どれも支給していない
その他
17
定めている諸規定
5 人未満
5~10 人未満
10~30 人未満
30 人以上
雇用契約書
65.7%
73.3%
95.7%
100.0%
就業規則
40.0%
73.3%
91.3%
75.0%
賃金規定
28.6%
46.7%
73.9%
66.7%
職務規定
8.6%
33.3%
17.4%
50.0%
行動指針
2.9%
13.3%
21.7%
16.7%
職員倫理規定
0.0%
20.0%
8.7%
41.7%
17.1%
6.7%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
どれも定めていない
その他
定めている福利厚生制度等
5 人未満
5~10 人未満
10~30 人未満
30 人以上
雇用保険
85.7%
93.3%
95.7%
91.7%
労働者災害補償保険(労災保険)
82.9%
80.0%
95.7%
100.0%
厚生年金保険
77.1%
83.3%
91.3%
91.7%
健康保険
77.1%
90.0%
95.7%
91.7%
年始年末休暇
65.7%
93.3%
91.3%
100.0%
夏期休暇
45.7%
66.7%
60.9%
83.3%
健康診断の費用補助
20.0%
60.0%
78.3%
91.7%
慶弔休暇
20.0%
63.3%
56.5%
66.7%
資格取得、研修受講費用の補助
14.3%
40.0%
65.2%
66.7%
社員旅行、社内忘新年会の開催
11.4%
50.0%
43.5%
50.0%
昇給制度
5.7%
33.3%
47.8%
50.0%
産休・育休暇、子の看護休暇
5.7%
50.0%
56.5%
75.0%
慶弔見舞金の支給
5.7%
53.3%
30.4%
75.0%
介護休暇
5.7%
26.7%
34.8%
66.7%
退職金制度の設置
2.9%
23.3%
43.5%
33.3%
どれも定めていない
5.7%
0.0%
0.0%
0.0%
その他
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
(2)今後整えたい人事諸制度
団体として今後整えたい制度は、
「昇給制度」
「退職金制度」
「資格取得、研修受講費用の補助」
「産前
産後休暇・育児休暇」「健康診断の費用補助」の順に多くなっている。制度の整備状況を人員規模別に
みると、有給スタッフ数が「5 人未満」の団体のうち、2 割が「健康診断の費用補助」を、2 割弱が「資
格取得、研修受講費用の補助」を定めているにとどまり、
「産前産後休暇・育児休暇」、
「昇給制度」、
「退
職金制度」を定めているところは、1 割に満たない。つまり、組織の人員規模の小さい団体であるほど、
その整備割合が低くなっているという課題が見えてきた。
(3)仕事のやりがい、大変さ等への影響
人事諸制度の整備状況(団体調査)と仕事のやりがい、大変さや今後の不安(スタッフ調査)を比べ
ると、制度の有無で、やりがいの度合いに大きな差は見られなかったが、大変さや今後の不安の度合い
には、制度の有無が影響していると考えられる項目があった。
18
例えば、仕事の大変なこととして、「組織体制が弱く、休みがとりにくいこと」が「あてはまる」と
答えた人は、
「産休・育休、子の看護休暇」がない団体の職員では 25.0%、ある団体の職員では 11.1%と、
ない団体の職員の方がより大変に感じていることがわかった。
また、
「組織の雇用継続能力の不安」を今後の不安として「あてはまる」と答えた割合が、
「賃金規定」
がない団体の職員は 46.6%、ある団体の職員は 22.1%と、ない団体の職員の方が倍以上の不安を感じて
いることがわかった。
大変なこと
(組織体制が弱く、休みがとりにくい)
産休・育休、子の看護休暇がない
25.0%
産休・育休、子の看護休暇がある 11.1%
31.9%
29.2%
27.8%
15.3%
22.2%
37.5%
今後の不安
(組織の雇用継続能力が不安)
賃金制度がない
賃金制度がある
n=144
スタッフ・
団体調査
あてはまる
25.9%
46.6%
22.1%
32.6%
15.5%
31.4%
12.1%
14.0%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100
%
ややあてはまる あまりあてはまらない あてはまらない
(4)人事諸制度を整える上での課題
団体として、制度を整える上での主な課題は、7 割が「制度を運用するお金や人員体制がない」と答
えており、2 割が「制度を設計するノウハウ」または「制度設計の時間や人員体制がない」と答えてい
る。人員規模別に大きな違いは見られなかった。
n=100
<団体調査>
制度整備の課題
全体
68.8%
30人以上
8.8%
11.3%
9.1%
72.7%
75.0%
10.0%
5人以上10人未満
73.9%
4.3% 8.7%
11.5%
57.7%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
制度を運用するお金や人員体制がない
設計する時間や人員体制がない
19
60%
11.5%
70%
80%
9.1%
9.1%
10人以上30人未満
5人未満
11.3%
15.0%
0.0%
13.0%
19.2%
90%
制度を設計するノウハウがない
その他
100%
4-3. NPOの人事諸制度整備のための提案
4-1、4-2 から、若年層スタッフを雇用しているNPOの多くは、企業と比べると小規模で、20~30
代の割合が多く、性別で見ると、女性の割合が多く、男性については、正規職員としての雇用割合が高
いことなどが見えてきた。また、スタッフは、一人で生活する程度の収入は得ており、約 8~9 割の団
体が社会保険など基本的な制度については整備されていることも見えてきた。しかし、「家族手当」や
「住宅手当」はほとんど支給されておらず、「昇給制度」「退職金制度」「資格取得、研修受講費用の補
助」
「産前産後休暇・育児休暇」
「健康診断の費用補助」などの制度整備もまだ十分とはいえず、組織の
人員規模の小さい団体であるほど、その整備割合が低くなっている。制度を整える上では、制度運用の
コストや制度設計のノウハウ、時間や人員体制がない課題も見えてきた。
以上の現状から、小規模なNPOに対しては、既に整備が進んでいるNPOならではの知識・ノウハ
ウや事例を集めたテキストやガイドラインを作成し、提供する取り組みが考えられる。また、組織規模
の大小に関わらず抱えている課題は似ていることから、以下の取り組みをNPOが連携して行うことを
提案したい。
まず、人事・労務に関わる共通業務を他団体と共同で取り組み、手続きを効率化することである。ま
た、今後整えたい制度としてあがっていた「昇給制度」「退職金制度」などは、基準そのものがない段
階であるため、他セクターの事例を参考にしたり、NPOが意見を出し合いながら制度の設計を行うこ
とができるだろう。さらに、「産前産後休暇・育児休暇・子の看護休暇」や「介護休暇」などを考える
にあたっては、ワークシェアや組織を超えた人事交流と合わせ検討したい。また、「資格取得、研修受
講費用の補助」や「健康診断の費用補助」は、共同実施によって、コスト削減が期待できる。
このように、地域のNPO間で人事諸制度設計のノウハウを出し合ったり、共通業務に連携して取り
組んだり、制度を共同運営したり、人材を共有・交流することにより、課題である制度設計のノウハウ
不足や制度運営のコスト負担が改善され、雇用環境整備が進むと考えられる。
4-4. NPOでの働き方の現状と課題
(1)NPOで働く若年層有給職員の概要
今回調査した職員の性別・配偶者有無を見てみると、平均年齢が 31.5 歳の人たちの中で、女性の配偶
者がいない人が約 4 割、男性の配偶者がいない人が約 3 割の順に高くなっている。(参考:2008 年の平
均初婚年齢 男性 30.2 歳、女性 28.5 歳)
若年層有給職員の性別・配偶者有無別構成
④9.2%
①女性・配偶者いない
②女性・配偶者いる
①42.0%
③男性・配偶者いない
④男性・配偶者いる
③30.0%
n=207
<スタッフ調査>
②18.8%
20
配偶者のいる人は約 3 割弱、子どものいる人は約 2 割となっている。また、家庭を持つ人は約 9 割弱
が「共働き」であった。
配偶者の有無
子どもの有無
いる
28.0%
いない
72.0%
いない,
80.2%
n=207
<スタッフ調査>
21
いる,
19.8%
n=207
<スタッフ調査>
配偶者や子どものいない人の同居状況をみた場合、約 4 割の人が一人暮らしであり、家族や友人と同
居している人は、約 6 割にのぼる。
同居の有無
④2.8%
①同居していない
②家族と同居している
③友人と同居している
④家族と友人と同居している
③12.7%
①40.8%
②43.7%
n=142
<スタッフ調査>
最終学歴については、約 6 割が大学卒、大学院修士・博士を修了した人が約 1.5 割となっている。
有給職員の最終学歴
⑧1.9% ①0.5%
⑦2.4%
②5.3%
③6.8%
⑥13.5%
①中学
②高等学校
④10.1%
③専門学校
④短期大学、高等専門学校
⑤大学
⑥大学院修士
⑦大学院博士
⑤59.4%
⑧その他
n=207
<スタッフ調査>
勤続年月数の平均は、3 年 2 ヶ月となり、勤務を始めて数年の職員が多くいることがわかった。
22
現在の職場での勤続年数
1年目
21%
5年目以上
30%
2年目
19%
4年目
14%
3年目
16%
n=207
<スタッフ調査>
さらに、職歴を見てみると、現在の仕事に就く前は別の職場で働いていた人が 67.6%、(140 名)、学
生だった人が 22.7%(47 名)、無業だった人が 9.7%(20 名)となっている。前職の組織形態としては、企
業で働いていた人が半数近くを占めており、NPO 法人以外の公益を目的とした法人、NPO 法人の順に多
くなっている。
⑦10.1%
前職の組織形態
①企業
⑥5.0%
②NPO法人以外の公益を目的とした法人
⑤5.0%
③NPO法人(特定非営利活動法人)
④6.5%
④行政
①43.9%
⑤市民活動を行う任意団体
⑥自営業・家業
⑦その他
③12.2%
n=140
<スタッフ調査>
②17.3%
転職理由としては、前職への不満・不安よりも、「他にやりたいことがあったから」、「新しい経験を
得たいから」と回答した人が 4 割以上と割合が高くなっている。
23
前職からの転職理由
他にやりたいこと・やりたい仕事があったから
47.9%
新しい知識・経験を得たかったから
40.7%
27.9%
誘われたから、頼まれたから
22.1%
前職の所属組織の将来性に不安を感じたから
前職の待遇や労働環境に不満があったから
15.0%
前職の契約期間が満了したから
14.3%
7.9%
家庭の都合で転職する必要があったから
前職の所属組織で人間関係がうまくいかなかっ
たから
5.7%
団体や担当事業が終了したたから
5.0%
15.0%
その他
n=207
<スタッフ調査>
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
これまでの全職歴を見てみると、会社員経験を持つ人(43.0%)が多く、次いでNPO法人(特定非営
利活動法人)の職員として働いた経験を持つ人(22.7%)が続いている。
24
NPOという市民・公益セクターで働きたいと思った理由としては、社会貢献や社会課題の解決を仕
事として携わりたいという理由が多い。また、自分の知識や経験、能力を活かせる場としてNPOとい
う組織をとらえている人もいる。
一方で、NPOで働きたいと積極的には思っていなかったが、業務内容等から選んだ結果として、就
職先がNPOだったと後から気付いたという人もいる。
NPO、市民・公益セクターで働きたいと思った理由
社会や地域に貢献する仕事、社会をよりよくする仕事
がしたいと思ったから
52.2%
地域や身近な人の社会課題を知り、解決する仕事がし
たいと思ったから
26.6%
NPOの活動を知り、自分の知識や経験、能力を活か
せるのではないかと思ったから
22.7%
当初はNPOで働きたいという積極的な意思・意識は
なく、就職先がNPOだったから
21.3%
NPOで働く人と出会い、自分も働きたいと思ったか
ら
18.8%
自分自身が社会課題に直面し、当事者となって、その
課題を解決したいと思ったから
16.4%
ボランティア・インターンでNPOの活動に参加し
て、その活動を続けたいと思ったから
15.9%
NPOで働きたいと思っていなかったが、活動を続け
る内に深く関わるようになったから
15.0%
NPOでは、自分の思いや考えを、組織の意思決定に
反映させやすいと思ったから
14.5%
企業と自分は合わないと思ったから
13.0%
特別な理由はない
8.2%
行政と自分は合わないと思ったから
1.5%
その他
n=207
<スタッフ調査>
10.6%
0%
25
10%
20%
30%
40%
50%
60%
(2) 仕事のやりがいや大変さ
スタッフに「仕事のやりがい」や「大変なことを」をたずねた結果は、
「仕事のやりがい」として、
「あ
てはまる」が最も多かったのは、
「社会や地域に貢献し、社会をよりよくする活動に携わっていること」
であった。次いで、「組織やセクターや分野、または世代を超えた人との出会い、地域とのつながりが
あること」や「社会に対して同じ思いや問題意識を持っている人たちと共に仕事ができること」が「あ
てはまる」の割合が高かった。様々な人と連携しながら同じ思いをもった人たちと共に社会に貢献する
仕事に携わることが、NPOで働く魅力としてスタッフが考えていることがわかる。
また、一方で、
「大変なこと」として、
「あてはまる」が最も多かったのは「多様な種類の職務や事業
を担うための能力が問われること」であり、次いで「限られた資金・時間の中で、社会的な成果をあげ
なければならないこと」や「仕事量が多く、労働時間が長いこと」「組織や事業に関わる業務の責任が
大きいこと」が多かった。NPOスタッフの働く姿として、社会的な成果を生み出す責任を担うことに
やりがいと大変さを同時に感じながら働いている様子が見えてくる。
n=207
<スタッフ調査>
現在の職場での仕事のやりがいとして、どの程度あてはまるか
あてはまる
ややあてはまる
あまりあてはまらない
社会や地域に貢献し、社会をよりよくする活動に携わっ
ていること
あてはまらない
24.2%
64.3%
組織やセクターや分野、また世代を超えた人との出会
い、地域とのつながりがあること
54.1%
社会に対して同じ思いや問題意識を持っている人たちと
共に仕事ができること
53.6%
責任ある仕事を担っていること
52.7%
自己実現や自己成長できていること
自分がやりたいと思う仕事をして、生活する収入を得て
いること
36.7%
組織の意思決定に参加できること
34.8%
24.2%
業務時間や休日が比較的柔軟に設定できること
0%
26
20%
11.1% 4.8%
30.4%
8.7% 2.4%
36.2%
37.7%
12.6% 2.9%
36.2%
42.5%
自分の知識や経験、能力を活かせていること
8.7% 3.4%
33.8%
46.9%
41.6%
33.3%
40%
15.5%
5.8%
16.4%
5.3%
21.7%
32.9%
24.6%
60%
8.7% 2.9%
10.1%
18.4%
80%
100%
n=207
<スタッフ調査>
現在の職場での仕事の大変なこととして、どの程度あてはまるか
あてはまる
ややあてはまる
あまりあてはまらない
多様な種類の職務や事業を担うための能力が問われるこ
と
あてはまらない
45.9%
限られた資金・時間の中で、社会的な成果をあげなけれ
ばならないこと
37.2%
仕事量が多く、労働時間が長いこと
36.7%
16.4% 8.7%
29.0%
29.5%
9.2%
24.2%
23.2%
13.5%
26.6%
組織や事業に関わる業務の責任が大きいこと
32.9%
31.4%
25.6%
10.1%
仕事の成果が、わかりやすい形ですぐにあらわれないこ
と
32.4%
30.0%
27.1%
10.6%
自己のモチベーション・目標管理が難しいこと
28.0%
28.5%
組織体制が弱く、休みを取りにくいこと
18.4%
仕事とプライベート(余暇)の両立が難しいこと
18.4%
27.1%
自己の健康管理が難しいこと
18.4%
26.6%
仕事と家庭(育児や介護、夫婦関係など)の両立が難し
いこと
13.0%
0%
27
31.4%
19.8%
30.4%
18.4%
36.2%
31.9%
25.1%
20%
16.4%
27.1%
28.5%
40%
60%
23.2%
33.3%
80%
100%
(3)今後の不安
今後の不安としては、「収入面に不安があること」が「あてはまる」と答えた人が半数を超え最も多
く、次いで「福利厚生制度への不安」や「雇用継続能力の不安定」、
「今後のキャリア設計への不安」の
順に多く、それぞれ約 3 割を占めた。
n=207
<スタッフ調査>
今後不安なこと
あてはまる
ややあてはまる
あまりあてはまらない
収入面に不安があること
あてはまらない
54.1%
27.5%
福利厚生制度に不安があること
34.3%
26.6%
組織の雇用継続能力が不安定なこと
31.9%
32.4%
自身の今後のキャリア設計に不安があること
29.5%
仕事と家庭(育児や介護や夫婦関係など)の両立に不
安があること
18.8%
自身の体力面に不安があること
18.4%
仕事とプライベート(余暇)の両立に不安があること
23.2%
15.5%
0%
20%
15.0%
28.0%
27.5%
24.6%
36.2%
27.5%
23.7%
33.3%
40%
12.6%
23.2%
30.4%
20.8%
15.9%
23.2%
27.5%
4.4%
14.0%
60%
80%
100%
(4) 性別と子ども有無別のやりがい、大変さ、今後の不安
さらに、やりがいや大変さ、今後の不安についての度合いを、
「あてはまる」を 4 点、
「ややあてはま
る」を 3 点、
「あまりあてはまらない」を 2 点、
「あてはまらない」を 1 点として算出した平均点から違
いを見てみる。
性別と子ども有無別では、今後の不安として「仕事の家庭の両立に不安があること」があてはまる度
合いが、
「子どものいる男性」は 2.8 点であるのに対し、
「子どものいない男性」や「子どものいる女性」
はどちらも 2.2 点で、「子どものいる男性」の方がより「仕事と家庭の両立」に不安を抱えていること
がわかった。
一方で、仕事のやりがいとして「業務時間や休日が比較的柔軟に設定できること」があてはまる度合
いが、「子どものいる女性」は 3.1 点と他より高く、子どものいる女性に対して柔軟な対応がとられて
いる組織が多いのではないかと思われる。
男性
やりがい度合い
子ども有
女性
子ども無 子ども有 子ども無 総計
業務時間や休日が比較的柔軟に設定できること
2.6
2.5
3.1
2.6
2.6
自己実現や自己成長できていること
3.6
3.4
3.2
3.2
3.3
自分がやりたいと思う仕事をして、生活する収入を得ていること
3.3
3.2
3.0
3.1
3.2
自分の知識や経験、能力を活かせていること
3.4
3.1
3.1
3.1
3.1
社会に対して同じ思いや問題意識を持っている人たちと共に仕事ができること
3.4
3.4
3.5
3.2
3.3
28
社会や地域に貢献し、社会をよりよくする活動に携わっていること
3.5
3.6
3.5
3.4
3.5
責任ある仕事を担っていること
3.5
3.4
3.6
3.3
3.4
組織の意志決定に参加できること
3.3
3.0
2.9
2.8
2.9
3.6
3.5
3.5
3.3
3.4
組織やセクターや分野、また世代を超えた人との出会い、地域とのつながりが
あること
男性
大変さ度合い
女性
子ども有 子ども無
子ども有 子ども無 総計
限られた資金・時間の中で、社会的な成果をあげなければならないこと
2.9
3.2
2.4
2.9
2.9
仕事とプライベート(余暇)の両立が難しいこと
2.8
2.5
1.9
2.5
2.5
仕事と家庭(育児や介護、夫婦関係など)の両立が難しいこと
2.8
2.1
2.1
2.2
2.2
仕事の成果が、わかりやすいかたちですぐにあらわれないこと
2.7
2.9
2.6
2.9
2.8
仕事量が多く、労働時間が長いこと
2.8
2.8
2.4
3.0
2.8
自己のモチベーション・目標管理が難しいこと
2.6
2.6
2.4
2.8
2.7
自己の健康管理が難しいこと
2.8
2.4
1.8
2.5
2.4
組織や事業に関わる業務の責任が大きいこと
2.8
3.0
2.4
2.9
2.9
組織体制が弱く、休みを取りにくいこと
2.7
2.6
2.0
2.5
2.5
多様な種類の職務や事業を担うための能力が問われること
2.8
3.3
2.9
3.1
3.1
男性
今後の不安度合い
子ども有
女性
子ども無 子ども有 子ども無
総計
仕事とプライベート(余暇)の両立に不安があること
2.4
2.3
2.1
2.4
2.3
仕事と家庭(育児や介護や夫婦関係など)の両立に不安があること
2.8
2.2
2.2
2.4
2.3
自身の今後のキャリア設計に不安があること
2.2
2.8
2.3
2.8
2.7
自身の体力面に不安があること
2.5
2.2
2.0
2.5
2.3
収入面に不安があること
3.2
3.5
3.1
3.3
3.3
組織の雇用継続機能力が不安定なこと
2.8
2.8
2.6
2.9
2.8
福利厚生制度に不安があること
2.9
2.9
2.4
2.8
2.8
4-5.
NPOらしい働き方ができる職場を目指して
4-4.から、スタッフは、社会貢献意識が高く、社会をよりよくする活動に携わっていることや同じ思
いを持つ仲間と取り組めることなど、他セクターにはない点に「やりがい」を感じる割合が高いことが
わかった。企業からの転職も転職者の 4 割を占めることから、その魅力を保つことは重要である。一方
で、一人で多様な仕事を担わなければならず、仕事量も多く、社会的な成果をあげることや責任の大き
さに、「大変さ」を感じていることがわかった。NPOスタッフの働く姿として、社会的な成果を生み
出す責任を担うことにやりがいと大変さを同時に感じながら働いている現状が見えてきた。
また、今後の不安としては、収入面や福利厚生制度、雇用継続能力、今後のキャリア設計への不安を
あげる人が多かった。今回調査した、平均 31.5 歳の 20~40 代の職員は、配偶者がいない人は約 7 割、
子どものいる人は約 2 割にとどまり、経済的な面も含めた「雇用の安定」という意味で、今後に不安を
抱える人が多い。4-2.で見た、家族を扶養するための手当や制度の整備状況が十分でないことからも、
現在一人では生活できているが、今後を考えた時の不安が大きいと考えられる。
しかし、今後のさらに分析が必要な項目であるが、子どものいる女性が、業務時間や日を柔軟に設定
29
できることをやりがいにあげていることからも、NPOならではの働きやすさを感じている人もいるこ
とが見えてきた。
今後を考える時には、まず、手当や制度など最低限の労働環境は整えていかなければならない。ただ、
他セクターにならって制度を整えるだけでなく、他セクターにはないNPOで働く魅力にも注目をし、
発信していくことが必要だと考える。現役のスタッフが活き活きと働いている姿は、その魅力を伝える
時の重要なポイントとなるだろう。
つまり、NPOで働く魅力を再度見直し、その魅力が活かされるような環境を制度することが必要で
ある。今後、さらに本項目の分析を続け、具体的事例を加えながら、NPOらしい働き方ができる職場
環境づくりを提案していきたい。
5. NPOスタッフのキャリア形成支援のための取り組み
5-1.
NPOスタッフの専門性
(1)NPOスタッフの仕事内容
現在、約 7~8 割のNPOスタッフが従事している仕事は、「一般事務」、次いで「個別事業の企画・
管理」、
「広報・宣伝」だった。他にも半数以上の人が、
「ボランティアやインターンのコーディネート」
や「会員・支援者対応・管理」を担っており、組織運営や事業管理における多種多様な業務を担ってい
ることがわかる。また、主な担当業務として最も多いのは、「個別事業の企画立案、実行、進捗管理、
評価」だった。
また、現在の職場で名乗っている肩書きとしては、介護職・保育士などの専門職や、事務局長・理事
を務める人を除くと、
「事務局」
「事務局スタッフ」
「事務局員」
「スタッフ」という回答が多いことがわ
かった。「コーディネーター」という名を使う人もあった。
30
(2)階層別仕事内容
NPOスタッフの仕事内容をトップ(経営者層)
・ミドル(中間管理職)
・ロワー(現場監督者)の階
層別に見てみると、「一般事務」を除いた業務について、トップの占める割合が最も高く、階層が上が
るほど担う仕事の種類が増える傾向にある。
また、主な担当業務として最も回答が多かったのは、トップは「組織の運営方針・事業戦略・予算の
立案(51.7%)」、ミドルは「個別事業の企画立案、実行、進捗管理、評価(56.5%)」、ロワーは「個別事業
の企画立案、実行、進捗管理、評価(49.5%)」という結果であり、ミドルとロワーの差はあまりみられ
なかった。この理由として、少人数のためミドルとロワーの階層が未分化であること、ミドルとロワー
の仕事内容の区別がついていないことが考えられる。
n=207
<スタッフ調査>
階層別仕事内容(複数回答)
67.9%
個別事業の企画立案、実行、進捗管理、評価
85.5%
96.6%
14.7%
組織の運営方針・事業戦略・予算の立案
63.8%
96.6%
29.4%
法人運営事務(理事会・総会の開催事務、官公庁への
届け出等)
50.7%
93.1%
39.4%
会員・支援者対応・管理
62.3%
89.7%
50.5%
広報・宣伝
79.7%
86.2%
78.0%
94.2%
82.8%
一般事務(電話対応、来客対応、資料作成、書類管
理、備品管理等)
14.7%
資金調達
47.8%
82.8%
41.3%
ボランティアやインターンのコーディネート
65.2%
79.3%
15.6%
有給スタッフの人事・労務管理
43.5%
79.3%
31.2%
調査・分析
46.4%
65.5%
12.8%
決算事務・税務
33.3%
22.0%
日常の会計・経理
0%
10% 20%
58.6%
47.8%
51.7%
30% 40% 50% 60% 70%
ロワー(現場監督者層。担当業務の意思決定、実行を行う)
ミドル(中間管理者層。担当する部門・事業の管理を行う)
トップ(経営者層。経営の責任を負う)
31
80% 90% 100%
(3) 働く上で不可欠だと感じている能力
NPOで働く上で不可欠だとスタッフが感じている能力を階層別に見てみると、全ての階層で「対人
関係力・コミュニケーション能力」が最も高い割合であった。その次に続く能力には違いがみられ、ト
ップは、
「企画提案力」
「チャレンジ精神・変革力」をあげ、ミドル・ロワーは共に「外部の人の共感や
協力を引き出す力」をあげている。
n=207
<スタッフ調査>
NPOで働く上で不可欠だと感じている能力
64.2%
62.3%
対人関係力・コミュニケーション力
企画提案力
33.9%
30.4%
チャレンジ精神・変革力
51.7%
51.7%
48.6%
47.8%
外部の人の共感や協力を引き出す力
48.3%
24.8%
29.0%
事務処理能力
37.9%
35.8%
31.9%
問題解決力
34.5%
31.2%
36.2%
31.0%
状況判断能力
22.9%
23.2%
取り組む社会課題に関わる専門能力
31.0%
28.4%
29.0%
27.6%
32.1%
組織運営力
自己管理能力・セルフマネジメント
30.4%
24.1%
14.7%
26.1%
24.1%
19.3%
21.7%
20.7%
パソコン能力・ITスキル
人材育成力(ボランティア・インターン・部下)
18.3%
説明力・プレゼンテーションスキル
10.3%
調査研究・分析力
3.4%
その他
65.5%
37.6%
40.6%
29.0%
11.9%
8.7%
0.0%
0.0%
0.0%
0%
10%
20%
30%
40%
ロワー(現場監督者層。担当業務の意思決定、実行を行う)
ミドル(中間管理者層。担当する部門・事業の管理を行う)
トップ(経営者層。経営の責任を負う)
32
50%
60%
70%
(4)分野別に求められる能力
スタッフに求められる能力は、分野別に違いがあるか、回答数の多かった「保健・医療・福祉の増進
(26 団体)」「NPO支援(18 団体)」「子どもの健全育成(17 団体)」「環境保全(11 団体)」での回答数を
比べた。
その結果、「対人関係・コミュニケーション力」と「事務処理能力」がどの分野にも共通して求めら
れていたが、
「保健・医療・福祉の増進」と「子どもの健全育成」は、
「問題解決力」や「状況判断力」
が、「NPO支援」と「環境保全」は、「企画提案力」が高く、違いが見られた。
33
n=100
<団体調査>
分野別求められる能力
72.7%
83.3%
76.5%
88.5%
対人関係力・コミュニケーション力
54.5%
事務処理能力
9.1%
問題解決力
16.7%
52.9%
50.0%
36.4%
33.3%
状況判断能力
46.2%
45.5%
企画提案力
35.3%
38.5%
27.3%
チャレンジ精神・変革力
23.5%
18.2%
外部の人の共感や協力を引き出す力
33.3%
29.4%
30.8%
50.0%
18.2%
11.1%
17.6%
23.1%
9.1%
5.6%
組織運営力
17.6%
19.2%
27.3%
パソコン能力・ITスキル
その他
0.0%
9.1%
17.6%
15.4%
5.6%
0.0%
11.5%
0.0%
3.8%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0%
55.6%
29.4%
15.4%
調査研究・分析力
55.6%
44.4%
35.3%
26.9%
取り組む社会課題に関わる専門能力
説明力・プレゼンテーションスキル
58.8%
38.5%
27.3%
自己管理能力・セルフマネジメント
人材育成力(ボランティア・インターン・部下)
77.8%
52.9%
50.0%
27.3%
18.2%
11.1%
10%
保健・医療・福祉の増進
34
20%
30%
40%
50%
子どもの健全育成
60%
70%
80%
NPO支援
90%
100%
環境保全
5-2.
NPOスタッフの能力開発
(1)能力を評価する仕組み
団体としてスタッフの能力を評価する仕組みを設けているのは、回答団体全体の約 3 割であり、その
内「定例面談を設け、能力考課・評価を行っている」団体が約 7 割で、約 4~5 割の団体では、
「シート」
による「目標管理」や「能力考課・評価」を行っていた(団体調査)
。
一方、能力を評価する仕組みを設けていない団体では、「小さな組織なので現時点では必要ないと感
じる」が約半数、
「日々のコミュニケーションで代替できている」は 3 割弱だったが、
「つくりたいがつ
くる時間がない」が約 3 割、「つくりたいがノウハウや情報がない」も約 2 割あり、能力を評価する仕
組みが必要と感じている団体は多いといえる。
(2)能力を開発する仕組み
団体の約 4 割が、団体内で研修・能力開発制度を設けていると答えており、各業務に関する専門的な
研修、新人研修や事例検討などの勉強会などを行っている団体もあった(団体調査)。
約6割が団体内の研修・能力開発制度を設けていない現状があり、その理由としては、「小さな組織
なので現時点では必要ないと感じる」が 4 割弱、「つくりたいがつくる時間がない」、「ノウハウや情報
がない」、「運用する時間がない」もそれぞれ約 3 割あった。
今後、設けたい研修・能力開発制度としては、組織運営や人材マネジメント、資金調達に関する研修
や、経験・能力の段階に応じた研修など、多岐にわたる回答があった。
(3)外部の研修
外部の研修の活用状況について、団体として受けさせている研修としては、「取り組む社会課題に関
わる専門知識」という回答が最も多く、「会計・経理」「広報・宣伝」「ファシリテーション」の順に回
答が多かった(団体調査)。また、推奨している研修としては、
「ボランティア・インターンのコーディ
ネート」「資金調達」という回答もあがっている。
また、必要だと考えている研修としては、
「取り組む社会課題に関わる専門知識」に次いで、
「事業全
体の方針・計画立案」や「プロジェクトマネジメント(企画、運営、評価)」という回答が多い。この 2
つの研修については、受けさせたり、推奨する機会がないのではないかと考えられる。
35
n=100
<団体調査>
外部で受講、推奨している研修、必要だと考える研修
30.0%
28.0%
9.0%
会計・経理
27.0%
30.0%
4.0%
広報・宣伝
24.0%
ファシリテーション
9.0%
NPOの基礎(入門)
9.0%
リスクマネジメント
43.0%
15.0%
取り組む社会課題に関わる専門知識
24.0%
20.0%
16.0%
18.0%
20.0%
0.0%
18.0%
11.0%
5.0%
税務
15.0%
11.0%
3.0%
人事・労務
資金調達
13.0%
26.0%
9.0%
12.0%
事業全体の方針・計画立案
33.0%
3.0%
プロジェクトマネジメント(企画、運営、評価)
12.0%
7.0%
コミュニケーション力
3.0%
33.0%
11.0%
24.0%
10.0%
ボランティア・インターンのコーディネート
24.0%
11.0%
7.0%
8.0%
2.0%
7.0%
ビジネスマナー
15.0%
4.0%
5.0%
マーケティング力
調査分析力
2.0%
2.0%
自己管理能力 1.0%
2.0%
部下の管理・育成力
1.0%
2.0%
顧客管理
1.0%
1.0%
0%
13.0%
12.0%
8.0%
7.0%
10%
受けさせている研修
36
20%
30%
推奨している研修
40%
50%
必要だと考える研修
(4)スタッフが受講したい外部研修
スタッフが過去に受講したことがある研修と今後受講したい研修とを比べてみると、
「広報・宣伝」
「N
POの基礎」「ファシリテーション」「資金調達」「会計・経理」などは、受講経験が多いという結果が
でた(スタッフ調査)。一方で、
「プロジェクトマネジメント(企画、運営、評価)」
「マーケティング力」
「調査分析力」などは、ニーズは高いが受講経験は少なく、今後開発が求められている研修であるとい
える。
n=207
<スタッフ調査>
研修・講座
23.7%
広報・宣伝
44.4%
7.3%
NPOの基礎(入門)
41.1%
21.3%
ファシリテーション
37.7%
23.2%
資金調達
33.8%
18.8%
会計・経理
33.8%
取り組む社会課題に関わる専門知識
30.4%
20.3%
コミュニケーション力
28.5%
12.6%
ボランティア・インターンのコーディネート
26.6%
プロジェクトマネジメント(企画、運営、評価)
24.2%
10.1%
ビジネスマナー
36.2%
36.7%
24.2%
7.3%
リスクマネジメント
22.2%
21.7%
18.4%
事業全体の方針・計画立案
10.6%
税務
17.4%
13.0%
16.9%
人事・労務
マーケティング力
26.1%
10.6%
自己管理能力
18.8%
9.7%
調査分析力
22.2%
4.8%
部下の管理・育成力
19.3%
3.9%
7.3%
3.9%
顧客管理
9.7%
6.8%
その他
研修や講座は受けたことはない
10.6%
0%
10%
20%
過去に受講
37
30%
今後受講したい
40%
50%
(5)階層別に受講したい研修
階層別にみると、トップは、
「事業全体の方針、計画立案」に関する研修のニーズが高く、ミドルは、
「取り組む社会課題に関わる専門知識」「マーケティング力」、ロワーは、「プロジェクトマネジメント
(企画、運営、評価)」「取り組む社会課題に関わる専門知識」「コミュニケーション力」が高いことが
わかった。
38
階層別受けたい研修
29.4%
取り組む社会課題に関わる専門知識
5.5%
部下の管理・育成力
43.5%
44.8%
33.3%
37.9%
16.5%
資金調達
29.0%
34.5%
18.3%
マーケティング力
31.0%
プロジェクトマネジメント(企画、運営、評価)
36.2%
34.8%
31.0%
16.5%
39.4%
26.1%
事業全体の方針・計画立案
31.0%
6.4%
18.8%
人事・労務
24.1%
自己管理能力
15.9%
20.2%
20.7%
24.8%
24.6%
広報・宣伝
17.2%
21.1%
調査分析力
ファシリテーション
10.1%
10.1%
13.8%
会計・経理
7.3%
5.8%
10.3%
14.7%
11.6%
6.9%
6.4%
8.7%
6.9%
ボランティア・インターンのコーディネート
顧客管理
NPOの基礎(入門)
その他
19.3%
21.7%
10.3%
リスクマネジメント
ビジネスマナー
22.9%
21.7%
13.8%
税務
コミュニケーション力
27.5%
13.8%
26.6%
18.8%
0.0%
13.8%
8.7%
0.0%
11.9%
2.9%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0%
10%
20%
30%
ロワー(現場監督者層。担当業務の意思決定、実行を行う)
ミドル(中間管理者層。担当する部門・事業の管理を行う)
トップ(経営者層。経営の責任を負う)
39
40%
50%
(6)スタッフ育成のための日々の取り組み
雇用主・人事担当者に対して、スタッフ育成のために日々のどのような業務指導をしているか聞いた
ところ、業務内容や作業方法を身につける目的においては、手本を見せたり同行を通じて指導している
ことが多く、仕事の量や質を向上させる目的においては、本人の裁量に任せるなど、マニュアルなど体
系化された指導を行っている団体は、少ないことがわかる。
また、新しい技能や知識を習得する目的やモチベーションを向上させる目的においては、主体的に取
り組むよう仕向けている回答が多かった。仕事を進めるためのサポート体制を整える目的においても、
報告や相談ができることを意識している団体が多い。
40
n=100
<団体調査>
スタッフ育成のための日々の業務指導
71.0%
会議・日報等で定期的に報告・連絡を受けている
仕事でわからない点や困った点があれば相談できる体制を整えてい
る
68.0%
33.0%
仕事の進捗状況について、口は出さないが目配りをしている
29.0%
先輩や上司と腹を割って話す機会を設けている
直属の上司の他、指導したり相談できる先輩を置いている(メン
ターの配置)
仕事を進めるためのサポ
ート体制を整える目的
20.0%
6.0%
その他
業務や作業の改善にあたって本人の意見やアイデアを取り入れてい
る
67.0%
57.0%
組織のミッションを意識しながら仕事を進めさせている
45.0%
担当業務の意味や本質を熱く語っている
仕事の成果を受益者反応や社会変化等見える形で示す
36.0%
自分で目標を立てさせている
36.0%
自分で立てた目標が達成されたかを確認、達成できない要因や次の
目標を話し合って決めている
モチベーションを向
上させる目的
27.0%
9.0%
その他
66.0%
わからないことは自分で調べたり考えたりするよう仕向けている
58.0%
仕事で失敗してもフォローしたり、励ましたりしている
46.0%
レベルの高い難しい新たな仕事を割り当てている
39.0%
本人に不足しているスキル・能力について伝えている
インターンやボランティアなど部下をつけ、仕事を指導する立場に
置いている
33.0%
新しい技能や知識を
習得する目的
6.0%
その他
69.0%
自分と違う仕事の仕方でもある程度本人の裁量に任せる
58.0%
仕事の改善・修正を指摘している
54.0%
意識的に質問や疑問を投げかけている
42.0%
自分の仕事の代行・代役を割り振っている
20.0%
業務マニュアルを作成・改善させている
仕事の量や質を向
上させる目的
6.0%
その他
80.0%
手本を見せたり、意識的に仕事先に同行させたりしている
69.0%
現場の活動や事業、イベントを体験させている
54.0%
団体や事業に関係する人を意識的に紹介している
48.0% 業務内容や作業方法
業務に必要な情報(社会の動向等)を与えている
を身につける目的
21.0%
作業マニュアルをもとに仕事を進めさせている
10.0%
その他
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
(7)今後の働き方
今後の働き方として、約 6 割の人が、
「現在の職場で働きたい」と考えている。その中でも、
「現在の
業務の専門性を高めたい人」
(65.1%)が最も多く、
「組織の運営・経営をする立場になりたい」(19.1%)
人は約 2 割ほどである。
一方、他の組織で働きたい人は、企業(第 2 次産業、第 3 次産業)に転職したい、わからない、起業
したい、新たなNPOを立ち上げたい、他のNPOで働きたい の順に多くなっている。
41
今後の働き方
n=207
<スタッフ調査>
あまり考え
ていない,
18.8%
現在の職場で働き
たいと考えている,
60.9%
他の組織で働きた
いと考えている,
20.3%
(8)組織として今後育てていきたい人材
雇用主・人事担当者に対して、組織として今後どういう人材を育てていきたいかと聞いたところ、
「課
題に気づき、解決に向けて自主・自立的にチャレンジしていける人材」「課題解決を実行する力を持っ
た人材」など、課題に対して主体性を持って取り組める人材という回答が多かった。また、「社会や地
域のために」という組織のためにというよりも、社会に貢献できる人材に育てたいという思いを持つ団
体もあった。
5-3.
NPOスタッフの能力開発に向けての提案
5-1.、5-2.から、NPOスタッフは、多種多様な仕事を担っていること、階層が上がるほど担う仕事
の種類が増える傾向があることなどが見えてきた。また、コミュニケーション能力など、どの分野にも
共通して求められる力があることや、役割・立場別に求められる能力があることが明らかになった。そ
れらを可視化し、必要な力を獲得できるようなトレーニングにつなげていく必要がある。まずは、NP
Oスタッフが集まり、具体的なスキルや能力について洗い出し、役割・立場別のNPOスタッフの能力・
スキルを体系化することが重要であると考える。
また、スタッフの能力を評価する仕組みや開発する仕組みも制度として整っている団体は少なく、必
要性を感じながらも、時間やノウハウ不足から、取り組めないでいる現状が見えてきた。研修制度につ
いても、取り組む社会課題に関わる専門知識の研修やプロジェクトマネジメントの研修が求められてい
るが、受けさせたり、受講を経験したことがあまりないなど、現在行われている研修と、NPOスタッ
フや経営者が求める研修ニーズとは若干ズレがあると思われる。また、階層別に求める力や研修も違う
ことがわかった。しかし、個々のNPOが制度をつくる時間やノウハウ、また運用する時間はない。
そこで、まずはNPOスタッフとしての専門性を明らかにし、体系化された能力を階層別研修として
開発し、地域のNPOが連携して共同で制度運営することを提案したい。NPOスタッフが必ず受講す
る研修として位置づけていくことでこの研修制度の持続的な運営が可能だと考えている。
また、多種多様な仕事を担う中で、一つ一つの業務の専門性を深めて向上させていくことが難しいこ
とや、4.で見てきたように、今後のキャリア形成へ不安を抱えている人もいることから、スタッフの目
標を管理し、成果をきちんと評価し、能力開発へつなげていく制度が必要とされている。個々の組織が
能力開発制度を設計し運営していく仕組みをつくりあげていきたい。
42
6. NPOの採用・人材育成の課題と具体的な解決案の提案
今回の調査から、NPOの労働環境や人材育成には、下記のような課題があることが見えてきた。
・ 採用活動のコストやノウハウが不足しており、また、選考プロセスの仕組みが十分に構築されておら
ず、組織に適した人材の発掘に課題を抱えている。
・ 若者においては、NPOスタッフがどのような環境で働き、どのような生活を送っているのかについ
て、実態が伝わっておらず、漠然とした不安を感じている若者が多い。意欲ある若者にも情報が行き
届いていない。
・ 採用にあたっては、まずなにより、団体のミッションや活動内容への共感を求めているが、思いを持
った人材の発掘が難しい
・ 小規模なNPOであるほど、人事や労務に関わる諸制度の整備が進んでいない
・ 人事や労務に関わる事務や諸制度設計に取り組むコストやノウハウ、時間の不足から、持続的に働き
続けていくための制度が十分に整備されていない
・ 高い社会貢献意識や意欲をもってNPOで働き始める人が増えているが、収入面や福利厚生制度、組
織の雇用継続能力の不安定さから、今後仕事を続けていくことに不安を感じている。
・ 多様な種類の職務や事業を担いながら、社会的な成果を生み出すため、NPOスタッフとして高い能
力を求められているが、能力を評価する仕組みや専門的な能力を高めキャリアを形成していく仕組み
が整っておらず、人材の育成が進まない
そこで上記の課題解決策として、下記の取り組みを提案したい。
・ 組織として求める人材を明確にし、適した人材を見極めるため十分な選考期間、プロセスを構築する
などの長期的な人材採用計画の策定支援
・ 求人情報サイトや合同就職説明会の運営などNPOが連携した合同での採用活動の取り組み
・ 新たな若い人材発掘し、地域のNPO間で共有するための、また、思いを同じくする人材を育てるた
めのインターンシップ
・ NPOの人事や労務に関わる知識・ノウハウや事例を集めたテキストやガイドラインの作成、運営支
援
・ 他セクターにはないNPOで働く魅力を再度見直し、NPOらしい働き方ができる職場環境づくりの
提案
・ NPOスタッフのスキル・能力について役割や立場別に体系化、能力開発のための研修メニューの開
発、地域での共同実施、運営
・ NPOが取り組む人材育成制度(目標管理制度やキャリアアップシステム)の共同開発、各団体での
制度運営
・ 人事・労務に関わる事業共同組合の設立、運営(人事・労務に関わる諸手続きの共同実施、合同での
人材募集・選考、組合団体間でのワークシェア、福利厚生制度の共同実施、人材共有・雇用循環など)
上記のような取り組みを通じて、NPOの雇用環境を整備し、NPOスタッフのキャリア形成を支援
していけるのではないかと考える。
これらの取り組みは単独のNPOでは難しく、地域の中間支援NPOが呼びかけ役となり、労働環境
整備・人材育成のためのローカルなプラットフォームを構築すること、そのプラットフォームを活用し、
当該地域のNPOが連携して取り組む事がもっとも重要であると考える。
7. おわりに
これまで、NPOの労働環境や人材育成について、課題として取り上げられることがあっても、その
43
実態把握が不完全であったり、具体的な解決策までに至っていなかった。そこで、本調査では、スタッ
フの働く実態をつかむことやスタッフの思いや不安、経営者の考えや感じている課題などを具体的に探
ることで、具体的な解決策を導くことを試みた。
スタッフ・団体調査の最後には「市民公益セクターで働く若い人材を増やし、定着させていくために
は、どのような取り組みが必要だと思いますか?」という質問を行った。
そこでいただいた声をいくつか紹介する。
・ 「職業選択のひとつとして数えられること(スタッフ)」
・ 「NPO間の連携(スタッフ)」
・ 「スキルアップやキャリアアップの仕組みの確立(スタッフ)」
・ 「魅力的な業務と待遇の確保(団体)」
・ 「若いスタッフの育成をする先輩スタッフを増やす(団体)」
・ 「団体を超え若い人材を共同で育てる仕組みづくり(団体)」
今回の調査の協力を得る過程でも、この取り組みに共感する強い声を、各地域のみなさんからたく
さんいただいた。今後も分析を進め、実践を通じて、各地域で活かされるような提案に深めていきた
い。
最後に、お忙しい中、各地域のNPOを紹介してくださった地域の中間支援組織の方々、40項目に
も及ぶ長いアンケート調査に、貴重な時間を割いてご協力いただいたNPOの方々へ深くお礼を申し上
げる。今後も市民・公益セクターが、次代を担う若い人材が持続的に働けるセクターへと変革するため
に共に取り組んでいけることを願っている。
44
若年層NPO・NGOスタッフ就業実態調査 調査報告書(第一版)
発行日:2010 年 3 月 31 日
本調査は、日本財団の助成を受けて実施しました。
発行:特定非営利活動法人ユースビジョン
京都市中京区三条通室町西入衣棚町 59-1 三条清水ビル 5 階
TEL.075-254-8617 FAX.075-254-8627 URL:http://www.youthvision.jp/
※本報告書の全部または一部の無断転載を禁じます。
YouthVision
since1996