第五章 クンダリニー・ヨーガとクンダリニー症候群_

第五章
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クンダリニー・ヨーガとクンダリニー症候群
クンダリニー・ヨーガのメリットとデメリット
ひかりの輪では、最近、
『ヨーガ・気功教本』と『クンダリニー症候群とその対処法』とい
う2冊の教本を発刊し、その中で、クンダリニー・ヨーガのメリットとデメリットの問題を取
り上げた。
詳しい内容は、この二つの教本を見てもらえばよいので、本書では省略するが、クンダリニ
ーは、インドのヨーガ・密教・仙道などが共通して説く、霊的なエネルギーである。普段は眠
っているが、適切な修行によって覚醒し、それによって、悟り・解脱のプロセスを速めること
ができるとされるものである。
メリットとしては、適切な修行によって適切に覚醒し、適切にコントロールできるならば、
経典の記載や私たちの経験から見て、健康・体力が増進し、心身が軽くなり、一定の霊的な体
験(人によっては霊能力的な体験)を得たり、内的な至福体験や善行の重要性の理解を深め、
それを通じて執着を弱める=悟りを進めたりすることに役立つと思われる。この詳細は、
『ヨ
ーガ・気功教本』に詳しく書いたので参照されたい。
デメリットとしては、発生する確率はそれほど高くないが、適切にコントロールできない場
合には、先ほど述べたクンダリニー症候群と呼ばれる、一連の心身の不調をもたらす場合があ
る。心身の痛み・不快感から、最悪は統合失調症的な症状に至る。これらの詳細は、先ほど紹
介した『クンダリニー症候群とその対処法』を参照されたい。
さらに、クンダリニーは、その覚醒を意図した修行ではなく、事故的・偶発的に覚醒してし
まう可能性がある。検証しがたいが、生まれつきの可能性も否定できない。そして、いわゆる
スピリチュアルブームの中で注目されている霊能者、ヒーラー、占い師、霊媒体質の人の中に
は、本人は自覚していないが、そうした人がいると思われる。
また、心身の不調を来たしたが、クンダリニー症候群だと気づかずに、他の精神病と誤解す
る場合もあると思われる。精神科医や精神医学の専門家も、クンダリニー症候群には無智な人
が多く、そもそも科学的に未解明の現象である。
こうして、現代社会の中に広く、クンダリニー・ヨーガの(霊的な)体験や、クンダリニー
症候群の現象が広がっている実態があることが推察される。なお、このテーマについては、ひ
かりの輪の指導員が、一般の出版社から詳しいレポートを出版する予定である。
そして、本書では、これらに加えて、これまで明確にすることができなかったクンダリニー・
ヨーガに関する重要なポイントについて、いくつか述べたいと思う。
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麻原彰晃・オウム真理教とクンダリニー症候群
オウム真理教は、大々的にクンダリニー・ヨーガを宣伝した。麻原もクンダリニー・ヨーガ
の危険性は説いたが、自分が最終解脱者であるからオウム真理教の修行は安全確実だと宣伝し
た。さらには、その麻原を認めるインドのヨーギー、チベットの密教僧などの称賛もあわせて
宣伝した。
しかし、そのグルであった麻原自身が、今、精神病理的な状態にある。原因が、逮捕後の社
会的圧力や拘禁という物理的な環境条件である可能性もあるが、異常を呈する直前に、クンダ
リニーエネルギーのコントロールに苦しみ、裁判長に訴えていたことが、裁判記録から明らか
なため、クンダリニー症候群である可能性が少なくない。
また、オウム時代にも、全体での割合はごく少ないが、信者の中で精神分裂的な症状を呈す
る人がいたことは明らかである。私が最初期に参加したセミナーにおいてさえ、そうなった会
員がいた。その後に行われた「狂気の集中修行」と呼ばれたハードなセミナーでも同様である。
なお、これらの症状の原因が、クンダリニー・ヨーガか、食事・睡眠他を極端に減らし閉鎖
的な空間で修行することによるものか、本人の生来の要素なのかは判別できない。しかし、ク
ンダリニー・ヨーガが原因ではないとは言い切れない。
私が赴任したロシアでは、全くの新人である数千名の参加者に対して、無差別かつ強力にク
ンダリニーの覚醒を促すセミナーを行ったことがある。これは無茶なセミナーであったが、そ
の際、麻原は「大きな救済のためには魔境が出てもよい」と述べて、強行した。
オウムの精神的な問題は、麻原の家族・高弟にも及んでいる。麻原の娘の一人は、2000 年
前後から姉妹間の事件を契機に統合失調症を呈した。これは、事件がきっかけであり、クンダ
リニー症候群ではないかもしれない。しかし、事件以前から少なからずおかしかったという報
告もある。麻原の子を産んだ側近の女性の中にも、幻聴が聞こえ、通院した女性が複数いる。
最近では、アレフ(旧オウム)の支部長の一人が、麻原の声が聞こえるという幻聴状態に至
り、それをきっかけに団体から魔境とされ、支部活動から外され、その後に集中修行に入った
が、再び幻聴が聞こえたので、修行を中止したという事態も発生しているという。
さらに、アレフで問題であることは、①クンダリニー・ヨーガの危険性を全く知らせず、
「グ
ル麻原がいるからアレフで行う限り危険性はない」と主張し、②その一方で、クンダリニー・
ヨーガのメリットをあまりに誇大宣伝していることである。
この結果、クンダリニー・ヨーガのメリットとデメリットを、適切に比較衡量することがで
きないままに、様々な意味で騙された形で、その修行を始めていると言わざるを得ない(ただ
し、誇大宣伝に騙されないように注意すべきであることも事実であろう)
。
しかしながら、アレフのようなやり方をとったとしても、統合失調症のような酷い症状を呈
する確率は、全体から見れば、数的にはわずかである。そうでなければ、いかに集団心理の盲
信状態にあるとはいえ、広がることはあり得ないだろう。
その一方で、クンダリニー・ヨーガにはメリットがある(と感じる実践者が少なくない)の
で、これが、問題の解決を複雑にしている面がある。
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グルによる安全性の確保について
伝統的には、クンダリニーの修行については、その危険からして、グルが必要であると主張
されてきた。しかし、この主張については、以下の通り、いろいろな疑問がある。
まず、グルの定義が曖昧である。グルの資格・条件などがない。よって、学ぼうとする者が、
真のグルと偽物を見分ける基準・方法が存在しない。この典型的な例が、チベット・インドの
聖者にさえ称賛された麻原のケースであった。
次に、著名なグル・指導者の中にさえ、今現在は、弟子のクンダリニーを完全にコントロー
ルできるほどの霊力を持つ者がいるかは疑わしい。
まず、クンダリニー問題の学術的な研究者は、現代では実質上、そうしたグルは「皆無だろ
う」と報告している。また、私自身のオウム真理教を通した経験でも、同じような印象を持た
ざるをえない。
これまでに、少なからぬチベット関係者が、最近のグル(と名乗る者)の無力や堕落を告白・
主張している。例えば、ダライ・ラマ法王は、
「麻原を認めたことは自分の無智だった、自分
が生き仏ではないことを証明している」と告白している。法王以外にも、名だたるチベット仏
教・インドヨーガの聖者たちが、麻原を認める過ちを犯している。
さらに、法王の部下の、ラマ・ツルティムケサンが、その著作で、海外に赴いたグルの堕落・
商業主義を告白している(ツルティムケサン・正木晃著『図説マンダラ瞑想法』
)
。著名なチベ
ット密教僧であるナムカイ・ノルブ師も、
「7・8割のグルは偽物である」と自己批判してい
るという。私自身も、チベット密教をよく知る中沢新一氏から、
「もうグレートなグルはいな
くなった」と聞いたことがある。
また、かつて麻原も師事したインド有数のヨーガのグルが、近年、女性問題や経済問題でマ
スコミの批判を浴びているという。彼に加えて、他の著名なグルも、同様に批判されていると
いうのだ。私自身も、その乱れた実態を、その信者たち多数から直接知る機会も得た。
こうして本場インド・チベットの僧にも問題が多いが、ましてや日本には、クンダリニーを
完全にコントロールできるグルがいるとは思われない。よって、仮に行う場合は、他人に頼り
切るのではなく、他人の忠告・助言を十分に吸収しつつ、自分自身が、油断なく十分に注意し
て行うことが重要であろう。
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クンダリニー症候群の研究実態と、指導者の道義的な責任
クンダリニー・ヨーガの問題の危険性は、クンダリニー症候群として、心理学(トランスパ
ーソナル心理学)や精神医学の世界でも指摘されるようになった。私が対談した、宗教学者の
大田俊寛博士も同様である。
ただし、クンダリニー症候群は科学的に未解明の問題である。そのため、クンダリニー症候
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群といっても、その症状とされるものが、本当にクンダリニーによって発生しているという科
学的証明・因果関係は立証できない。単に様々な経験から、そのように推察されているにすぎ
ない。
しかしながら、道義的な責任として、指導者側は、生徒側に対して、一定の危険性が伝統的
な宗派やその経典・現代の精神医学の専門家らによって指摘されていること、および、仮に行
うならば、なるべく適切な条件で行うべきことを伝えるべきであろう。
そして、その上で、生徒本人が自己責任で選択をしたことを確認する必要があるだろう。こ
れは、医療における医師と患者の関係に似ている。検査・手術・投薬などの危険性・副作用に
ついて事前に説明して合意を得る仕組み=インフォームド・コンセントである。
また、生徒側の条件をよく調べ、それに応じた適切な説明を行うべきである。例えば、精神
疾患・精神病理ではないか、過去の既往歴がないかを調べ、そういった人には、危険性が高く、
クンダリニー・ヨーガは修行しない方がよいと明言しなければならない。
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危険を相対的に減らすという考え方
なお、現在の社会の法規においては、一定の危険性があったとしても、ただちにそれが禁じ
られることにはならない。何ごとにも危険性はあり、本人が、得られる利益と危険性の比較衡
量をして、自己責任で行う限りは、個人の自由と見なされるからである。
例えば、酒・タバコ・車の運転・登山・海水浴から、家庭用の電気・ガス・火器、医療の検
査・手術・医薬品(の副作用)などがそうである。そして、クンダリニー・ヨーガ以外の宗教
も、ある意味では、メリットとデメリットがある点では、同様であろう。よって、本人に十分
な事前の説明がなされ、自分の意志で選択したかどうかが重要だと考える。
さらに、私たちがこれまでに接した人たちの中には、ひかりの輪で教えてくれなければ、ア
レフなどの他の団体に行くというほどに、強い欲求を持っている人も少なからずいる。そして、
ネットを見るならば、実際に、クンダリニーの覚醒を行うと宣伝しているセミナーは、アレフ
に限らず、無数といってよいほどに存在している。
この点も、酒やたばこと同様であり、強い欲求がある人は、安全性の高い酒・タバコを提供
しなければ、危険性の高い酒・タバコに走ってしまう。こうした人たちに関しては、クンダリ
ニー・ヨーガの危険性を皆無にすることができないから、より安全性の高いクンダリニー・ヨ
ーガの指導を与えることで、危険性を相対的に減らすことが最善という考えもあるだろう。
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ひかりの輪のクンダリニー・ヨーガの指導
これまで述べた理由で、今現在、ひかりの輪では、ヨーガの指導を続ける一方で、クンダリ
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ニー・ヨーガの修行を特に強調していない。
ただし、間違ったクンダリニーの修行に陥る可能性が見える者に対して、その危険性を伝え
て、正しい修行を指導する場合がある。また、すでに間違った修行法による覚醒や、偶発的な
覚醒をしたために、心身の不調に悩んでいる人に対しては、その事後的なコントロールの方法
などについて、相談・指導を行っている。
また、可能な限り安全な修行法として、インド・ヒマラヤの最新のヨーガ技法(エンライト
メントヨーガ)を導入するなどしている。オウム時代のヨーガ行法よりも、心身の負担が軽く
なるように、改善されている。指導員は、自らクンダリニー・ヨーガの経験が豊富な者が少な
くないので、それによって、きめ細かな助言ができる状態を確保している。
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《参考文献》
ひかりの輪特別教本
(※最新順。以下、文中「GW」
:ゴールデンウィークのこと)
2013 年
・
『現世幸福と悟りの法 悟り集中修行』
(GW セミナー特別教本)
2012 年
・
『法則の体得・思索の修行 三仏の法則の思索と瞑想』
(2012 年~2013 年 年末年始セミナー特別教本)
・
『三仏心経の教えと現代の諸問題』
(夏期セミナー特別教本)
・
『三仏心経の集中修行 読経瞑想の詳説』
(GW セミナー特別教本)
2011 年
・
『三仏心経の教え 感謝と尊重と愛の実践』
(2011 年~2012 年 年末年始セミナー特別教本)
・
『輪の思想と正しい宗教の信仰のあり方』
(夏期セミナー特別教本)
・
『ひかりの輪と日本と「輪の思想」
』
(GW セミナー特別教本)
2010 年
・
『中道の教え、卑屈と怒りの超越、21 世紀の新しい信仰のあり方』
(2010 年~2011 年 年末年始セミナー特別教本)
・
『三仏の一元法則、菩提心と六波羅蜜 21 世紀の宗教の革新』
(夏期セミナー特別教本)
・
『一元の法則とその悟りの道程、金剛薩埵の内省修行』(GW セミナー特別教本)
2009 年
・
『現代人のための一元の法則』(2009~2010 年年末年始セミナー特別教本)
・
『内観、唯識、縁起のエッセンス』(GW セミナー特別教本)
・
『大乗仏教・六仏の教え』(2 月聖地巡礼セミナー)
2008 年
・
『仏教講義・悟りの道程Ⅰ 縁起の法』
【2013 年 8 月 10 日】
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