第IV部: 勧告 これらの勧告は医療ケアが提供されるすべての現場において、患者および医療従事者の間の感染 性微生物の伝播を防ぐために立案されたものである。他の CDC/HICPAC ガイドラインと同様 に、各々の勧告は現存する科学的なデータ、理論的な根本原理、適応性、(可能であれば)経済的 影響、に基づいて分類されている。勧告を分類するための CDC/HICPAC システムは下記の如 くである: カテゴリー ⅠA:実行することが強く勧告されており、よく計画された実験的、臨床的、疫学的 研究によって強く支持されている。 カテゴリー ⅠB:実行することが強く勧告されており、実験的(一部)、臨床的または疫学的研究 および強力な理論的根拠によって支持されている。 カテゴリー ⅠC: 実施することが、連邦や州の条令や標準によって強制されている。 カテゴリーⅡ:実行することが提案されており、示唆に富んだ臨床的、疫学的研究または理論的 根拠によって支持されている。 勧告なし; 未解決問題: 効果の存在に関して、根拠が不十分または合意がみられない診療である。 I. 管理責任 医療機関の管理者はこのセクションの勧告を確実に実施しなければならない。 I.A. 医療機関の患者安全および職業安全のプログラムの目標に感染性微生物の伝播の予防 を取り入れる(543‑546, 561, 620, 626, 946)。カテゴリー IB/IC I.B. 感染性微生物の伝播の予防を医療機関の優先事項にする。感染制御プログラムを維持 するために、財政的および人的財源を含んだ管理的サポートを提供する(549,559, 561, 566, 662 552, 562‑564, 946)。カテゴリー IB/IC I.B.1. 感染制御プログラムが1人またはもっと多くの資格者によって管理されるように、感 染制御の訓練を受けた人々が、契約によってすべての医療ケア施設で雇用されるか、 活用されるようにする(552, 566 316, 575, 947 573, 576, 946)。カテゴリー IB/IC I.B.1.a.感染制御プログラムの限界、医療ケア施設やシステムの複雑性、患者集団の特徴、 施設および社会の独特または切迫した要求、評価の結果に基づくスタッフの水準と専 門機関からの勧告に従って、特定の感染制御のフルタイム等価(FTE: full‑time equivalent)を決定する(434, 549 552, 566 316, 569, 573, 575 948 949)。 カテゴリー IB 1 I.B.2. ハイリスク病棟では、ベッドサイドの看護スタッフの水準と構成の決定要素の1つと して、医療ケア関連感染(HAI: healthcare‑associated infections)の予防も含める (585‑589 590 592 593 551, 594, 595 418, 596, 597 583) カテゴリー IB I.B.3. 患者の入室先や感染経路別予防策の指定に関する感染管理上の決定の権限を感染管理 職員またはその被指名人(患者ケア病棟の責任看護師など)に委任する (549 434, 857, 946)。カテゴリー IC I.B.4. 施設の建設やデザインの決定、AIIRおよび防護環境の収容能力や環境評価の決定に感 染制御職員を含める(11, 13,950,951,12)。カテゴリー IB/IC I.B.4.a. AIIRや防護環境が必要な患者をケアする医療施設では、十分数のAIIR(リスク評価に よって決定される)や防護環境に必要な換気システムを、公表されている勧告に従って 提供する(11‑13, 15)。カテゴリー IB/IC I.B.5. HAIの危険性に影響する可能性のある医学器具および補給品および手技変更の「選択 と施行後評価」に感染制御職員を参加させる(952, 953)。カテゴリーIC I.B.6. 臨床微生物検査室をサポートする人的および財政的財源が利用できるようにする。こ れには、 「微生物の伝播のモニタリング」 「疫学調査の計画と実施」 「新興病原体の検出」 のために、医療ケア現場に妥当な十分な数の微生物学に熟達した医学技術者が含まれ る。監視培養、ウイルスや他の特定の病原体の迅速診断検査、抗菌薬感受性の要約レ ポート、トレンド解析、クラスターの分離菌の分子学的タイピング(現場で実施するか、 標準検査室で実施するか)を実施するための資源を確認し、臨床微生物学者に相談しな がら、施設特有の疫学的な必要性に従って、これらの資源を使う(553, 609, 610, 612, 617,954 614 603, 615, 616 605 599 554 598, 606, 607)。カテゴ リー IB I.B.7. 感染制御に関連した労働衛生に必要な人的および財政上の資源を提供する(医療従事 者のワクチン接種、曝露後の評価とケア、伝染性感染症に罹患している医療従事者の 評価と処置など)(739, 12, 17, 879‑881, 955, 134, 690)。 カテゴリー IB/IC I.B.8. 医療が提供される全ての区域において、標準予防策を一貫して遵守するのに必要な供 給品および器具(手指衛生製品や個人防護具[手袋、ガウン、顔面および眼の防御など] を含む)を提供する( 739,559,946)。 カテゴリー IB/IC I.B.9. 再利用の患者ケア器具が他の患者に使用される前に、それらが適切に洗浄されて再生 されることを確認するための方針や手順を作成して実施する(11, 956 957, 958 959 836 87 11,960 961)。 カテゴリー IA/IC I.C. 医療現場に合った感染制御活動を監督するための手順を作成して実施し、感染制御に 2 ついて精通している医療施設内の個人またはグループに感染制御活動の監督責任者を 任命する(434,549, 566)。 カテゴリー II I.D. 外来(トリアージ区域、救急部門、外来クリニック、開業医など)では患者が受診した 最初の時点で、病院および長期ケア施設(LTCF: long‑term care facility)では入院の 時点で、潜在的感染性患者の早期検出と処置(隔離予防策、PPEを含む適切な感染制御 策など)のためのシステムを作成して実施する(9, 122, 134, 253, 827)。カテゴリ ー IB I.E. 伝播する可能性のある感染症の徴候または症状のある人々が患者に面会してしまうの を制限するための方針や手順を作成して実施する。ハイリスク患者のケア区域(癌病棟、 造血幹細胞移植(HSCT: hematopoietic stem call transplant)病棟、集中治療室、 その他の重症免疫不全の患者など)への面会者には潜在性感染症についての調査をお こなう(43 24, 41, 962,963)。カテゴリー IB I.F. 感染性微生物の伝播を防ぐために施設特異的な対策(標準予防策および感染経路別予 防策)の有効性の作業指標を同定し、これらの作業手段の遵守を監視するプロセスを確 立し、スタッフにフィードバックする(704, 739, 705, 708, 666, 964, 667, 668, 555)。 カテゴリー IB II. 教育と訓練 II.A. 医療施設のオリエンテーションの間に、医療に関連した感染性微生物の伝播を防ぐこ とについて仕事や課業に特異的な教育と訓練を提供する。そして、教育プログラムを 継続している間は、情報を定期的に更新する。すべての医療従事者を教育と訓練の標 的にする。これには下記が含まれるものの、これらに限定されるものではない(医師、 看護師、臨床技術者、検査スタッフ;施設サービス[ハウスキーピング]、洗濯、メイ ンテナンスおよび食事療法のスタッフ;学生、契約職員、ボランティア)。妥当ならば、 特定のポジションには最初および繰り返して適性を文書で証明する。外部機関によっ て雇用された医療従事者がこれらの教育やトレーニングの要求に適合しているかの確 認を、外部機関によって提供されたプログラムを通じて、または常勤職員のために立 案された医療施設のプログラムへの参加によって実施するためのシステムを作成する (126, 559, 561, 562, 655, 681‑684, 686, 688, 689, 702, 893, 919, 965)。 カテゴリー IB II.A.1. 付加的な感染制御策としてのワクチン接種に関連する情報を教育および訓練プログラ ムに組み入れる(17, 611,690, 874)。カテゴリー IB II.A.2. 成人学習の原則を用いて、教育および訓練を強化するが、これには対象となる聴衆の 3 読書レベルと言語に合った材料を用い、そして施設で利用できるオンラインの教育ツ ールを用いる(658, 694, 695, 697, 698, 700, 966)。 カテゴリー IB II.B. 推奨されている手指衛生および呼吸器衛生/咳エチケットの実践および感染経路別予 防策の適応について、患者および面会者に教育材料を提供する(9, 709, 710, 963)。 カテゴリー II III. サーベイランス III.A. 疫学的に重要な微生物の発生数および目標HAI(これらは結末にかなり影響し、効果的 な予防的介入が役立つ)を監視する。医療施設での感染性微生物の伝播を検出するため に、ハイリスク集団、処置、器具、高度伝染性の感染性微生物、のサーベイランスを 通して入手された情報を用いる(566, 671, 672, 675, 687, 919, 967, 968 673 969 970)。カテゴリー IA III.B. 下記の感染症サーベイランスの疫学的原則を適用する(671, 967,673, 969, 663, 664)。 カテゴリー IB ・標準化された感染症の定義を用いる ・検査に基づくデータを用いる(利用できるとき) ・疫学的に重要な変数 (病院や他の大規模の複数ユニット施設での患者の入室先や臨 床業務、集団に特異的なリスク因子[低体重新生児など]、重篤な不幸な結果になりや すい基礎疾患など) を収集する。 ・伝播率の増加を示唆する傾向の確認のためのデータを解析する。 ・ 「HAIの発生数と有病率の傾向についての情報」 「推測される危険因子」 「防戦略とそ の効果」を医療提供者や施設管理者にフィードバックする。また、地域および州の健 康当局の要求に従ってフィードバックする。 III.C. 伝播の危険性を減らし、有効性を評価するための戦略を作成して実行する(566, 673, 684, 970 963 971)。 カテゴリー IB III.D. 感染予防および制御戦略を実施し遵守したにも拘わらず、疫学的に重要な微生物の伝 播が継続している場合は、その状況および推奨された追加の制御策を再評価するため に感染制御と医療疫学に精通している人に相談する(566 247 687)。カテゴリー IB III.E. 施設内の微生物の伝播に影響する可能性のある疫学的に重要な微生物(インフルエン ザ、RSウイルス、百日咳、侵襲性A群連鎖球菌感染症、MRSA、VREなど)(他の医療 施設も巻き込まれている)の発生数および有病率に関する市中および地域の傾向につ いての情報を定期的に再評価する(398, 687, 972, 973 974)。 カテゴリー II 4 IV. 標準予防策 すべての人は医療ケア現場で伝播しうる微生物を発症または保菌している可能性があ ると仮定し、医療ケアを提供している間は下記の感染制御手技を適用する。 IV.A. 手指衛生 IV.A.1. 医療ケアを提供している間は、清潔な手が環境表面によって汚染することと、汚染し た手から環境表面に病原体が伝播することを防ぐために、患者の近傍の表面に手を不 必要に触れないようにする(72,73,739, 800, 975{CDC, 2001 #970})。 カテゴ リー IB/IC IV.A.2. 手が肉眼的に汚れているとき、蛋白性物質で汚染しているとき、血液または血性体液 にて肉眼的に汚れているときには、非抗菌性石鹸と水、または抗菌性石鹸と水のどち らかにて手洗いする(559)。カテゴリー IA IV.A.3. 手が肉眼的に汚れていなければ、または、肉眼的にみえる物質を非抗菌性石鹸と水で 取り除いたあとであれば、IV.A.3.a‑fに記述されている臨床的な状況において手を除 染する。手の除染に好まれる方法は擦式アルコール手指消毒薬によるものである (562, 978)。代替として、抗菌性石鹸と水による手洗いでもよい。非抗菌性石鹸に よる手洗い直後に擦式アルコール手指消毒薬を頻回に用いると、皮膚炎の頻度が増加 する可能性がある(559)。カテゴリー IB 下記の場合には手指衛生をおこなう: IV.A.3.a. 患者に直接接触する前(664, 979) カテゴリー IB IV.A.3.b. 血液、血性体液、排泄物、粘膜、創のある皮膚、創部ドレッシングに触れたあと (664) カテゴリー IA IV.A.3.c. 患者の正常皮膚に触れたあと(脈を取る、血圧を測る、患者を持ち上げるな ど)(167, 976, 979, 980) カテゴリー IB IV.A.3.d. 患者ケアの間に汚染した体部分から清潔な体部分に手が移動するとき カテゴ リー II IV.A.3.e. 患者 の 直 近の無 生 物物 質 (医 療 器具 など ) に 触れ たあ と (72, 73, 88, 800, 981,982) カテゴリー II IV.A.3.f. 手袋を外したあと(728, 741, 742) カテゴリー IB IV.A.4. 芽胞(クロストリジウム・ディフィシレや炭疽菌など)に接触した可能性があるならば、 非抗菌性石鹸と水、または抗菌性石鹸と水にて手洗いする。アルコール、クロルヘキ シジン、ヨードホール、他の殺菌薬は芽胞への活性が乏しいため、そのような環境下 では、手を洗ってすすぎ落とす物理的作用が推奨される(559, 956, 983)。 カテゴ リー II 5 IV.A.5. 感染についてハイリスクな患者や不幸な結果になるような患者(ICUや手術室の患者 など)に直接接触する業務では人工爪や伸張器をつけない(30, 31, 559,722‑724)。 カテゴリー IA IV.A.5.a. 上記の特定グループ以外の患者に直接接触する医療従事者が人工爪を装着する ことについての施設の方針を作成する(984)。カテゴリー II IV.B. 個人防護具(PPE: personal protective equipment) (図を参照) IV.B.1. 下記の使用原則を遵守する: IV.B.1.a.予想される患者との相互関係が血液または血性体液への接触が発生する可能性を 示唆しているときには、IV.B.2‑4に記述されているようにPPEを装着する(739, 780, 896)。カテゴリー IB/IC IV.B.1.b.PPEを脱ぐ過程で衣類や皮膚を汚染しないようにする(図を参照)。カテゴリー II IV.B.1.c.病室または小個室から退室する前には、PPEを脱いで廃棄する(18, 739)。カテゴ リー IB/IC IV.B.2. 手袋 IV.B.2.a. 血液、他の感染性物質、粘膜、創のある皮膚、汚染している可能性のある正常皮 膚(便失禁や尿失禁している患者など)への接触が予想されるときには、手袋を装着す る(18, 728, 739, 741, 780, 985)。カテゴリー IB/IC IV.B.2.b. 業務に合った密着性や耐久性のある手袋を装着する(559, 731,732, 739, 986, 987)。カテゴリー IB IV.B.2.b.i. 患者に直接ケアを提供するためには使い捨ての医学検査用手袋を着用する。 IV.B.2.b.ii.環境または医学器具の洗浄には、使い捨ての医学検査用手袋または再使用手袋 を着用する。 IV.B.2.c. 患者や周囲環境(医学器具を含む)に触れたあとは、手の汚染を避けるために、適 切なテクニックを用いて手袋を脱ぐ(表を参照)。複数の患者のケアに同じ手袋を用い ない。手袋を再利用するために洗ってはならない。これは病原体の伝播に関連するか らである(559, 728, 741‑743, 988)。 カテゴリー IB IV.B.2.d.汚染した体部分(会陰部分など)から清潔な体部分(顔面など)に手が移動するならば、 患者ケアの途中でも手袋を交換する。カテゴリー II IV.B.3. ガウン IV.B.3.a. 血液、血性体液、分泌物、排泄物への接触が予測される場合、処置や患者ケアの 間は皮膚を守るために、また衣類が汚れたり汚染したりするのを避けるために、業務 に適したガウンを着る(739, 780, 896)。 カテゴリー IB/IC IV.B.3.a.i. 患者の分泌物や排泄物が包み込まれていなければ、患者に直接接触するときは 6 ガウンを装着する(24, 88, 89, 739, 744)。カテゴリー IB/IC IV.B.3.a.ii. 患者環境から出る前には、ガウンを脱いで、手指衛生を行う(24, 88, 89, 739, 744)。 カテゴリー IB/IC IV.B.3.b. 同じ患者に繰り返して接触する場合でもガウンは再使用しない。カテゴリー II IV.B.3.c. ハイリスク病棟 (ICU, NICU, HSCT病棟など)に入るときの日常的なガウンの装 着は必要ない(365, 747‑750)。 カテゴリー IB IV.B.4. 口、鼻、眼の防御 .. ... IV.B.4.a. 血液、血性体液、分泌物、排泄物のはねやしぶきを作りだす可能性のある処置や 患者ケアをしている間は、眼、鼻、口の粘膜を守るためにPPEを使用する。実施する 業務から予想される必要性に応じて、マスク、ゴーグル、フェースシールド、それら の組み合わせを選択する(113, 739, 780, 896)。 カテゴリー IB/IC IV.B.5. 呼吸器防御が推奨されるような微生物(結核菌、SARS、出血熱ウイルスなど)の感染 が疑われない患者にエアロゾルを産生する処置(気管支鏡、気道の吸引[インライン吸 引カテーテルを使用しない場合]、気管内挿管)をしている間は、下記のうちの1つを装 着する([手袋とガウンの着用に加えて]顔面の前面および側面の全体を覆うフェース シールド、シールド付きマスク、マスクとゴーグル)。(95, 96, 113, 126 93 94, 134) カテゴリー IB IV.C. 呼吸器衛生/咳エチケット IV.C.1. 市中でウイルス性気道感染(インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルス、パライ ンフルエンザウイルスなど)が季節性に流行している時期は、呼吸器病原体の飛沫感染 および媒介物感染を防ぐために、気道分泌物を封じ込める感染源制御法の重要性につ いて、医療従事者を教育する(14,24, 684 10, 262)。 カテゴリー IB IV.C.2. 呼吸器感染の徴候や症状のある患者や同伴者の呼吸器分泌物を封じ込めるために下 記の方法を実施するが、これらは医療現場への最初の受診の時点(トリアージ、救急 部門での受付や待合室、外来クリニックおよび開業医など)で開始する(20, 24, 145, 902, 989)。 IV.C.2.a. 入り口および外来や病院内の効果的な場所(エレベータ、カフェテリアなど)にポ スターを貼り、呼吸器症状のある患者やその他の人々に、咳やくしゃみのときには口 と鼻を覆い、ティシュを用いて捨て、手が呼吸器分泌物に接触したら手指衛生を実施 するように啓発する。カテゴリー II IV.C.2.b. ティシュを提供するとともに、ティシュを捨てるための手を触れずに済む容器 (足ペダル式の開け閉めできるプラスチックで被覆された廃棄バスケットなど)も提 供する(20)。 カテゴリー II 7 IV.C.2.c. 外来および病棟の待合い室の中または近くに手指衛生を実施するための器材や案 内を用意する。そして、利用しやすい場所に擦式アルコール手指消毒薬のディスペン サーを設置し、シンクがあれば、手洗い用品を準備する(559, 903)。 カテゴリー IB IV.C.2.d. 市中の呼吸器感染症の罹患率が増加している時期は(学校の欠席の増加、呼吸器感 染のためにケアを求める患者の数の増加によって示唆される)、咳をしている患者やそ の他の症状のある人(病気の患者の付き添いの人など)には、施設や開業医の入り口で マスクを提供し(126, 899 898)、共通の待合区域では他の人々から空間的距離 (理 想的には少なくとも3フィート(約1m)) をおくことを積極的に勧める(23, 103, 111, 114 20, 134)。 カテゴリー IB IV.C.2.d.i. 業務の標準として、この推奨を1年中実施することが、兵站的に容易な施設も あるかもしれない。カテゴリー II IV.D. 患者の入室先 IV.D.1. 患者の入室先の決定には、感染性微生物の伝播の可能性が考慮される。他の人への伝 播の危険性を有する患者(分泌物、排泄物、創部からの排膿、が封じ込められていない; ウイルス性呼吸器感染症や消化管感染症が疑われる幼児など)は可能であれば個室に 入れる(24, 430, 435, 796, 797, 806, 990,410, 793)。 カテゴリー IB IV.D.2. 下記の原則に基づいて、患者の入室先を決定する: ・既知または未知の感染性微生物の伝播経路 ・感染患者における伝播の危険因子 ・患者を入室させようとしている区域内または病室内の他の患者が、HAIによって不 幸な結果になる危険因子 ・個室病室が利用できるかどうか ・病室を共有してもよい患者の選択(同じ感染の患者とのコホーティングなど) カテゴ リー II IV.E. 患者ケア器材および器具/機器(956) IV.E.1. 血液または血性体液に汚染している可能性のある患者ケア器材および器具/機器の収 容、輸送、取り扱いのための方針や手順を確立する(18, 739, 975)。 カテゴリー IB/IC IV.E.2. 効果的な消毒や滅菌処置を可能にするために、高レベル消毒および滅菌の前に、推奨 される洗浄剤を用いて、クリティカルおよびセミクリティカルの器具/機器から有機物 質を除去する(836, 991, 992)。 カテゴリー IA IV.E.3. 肉眼的に汚れているか、血液や血性体液に接触した患者ケア器材および器具/機器を 取り扱うときには、推測される汚染レベルに従って、PPE(手袋、ガウンなど)を装着 8 する(18, 739, 975)。 カテゴリー IB/IC IV.F. 環境の維持管理(11) IV.F.1. 患者接触の程度や汚れ具合によって、環境表面の日常的洗浄や標的洗浄の方針や手順 を確立する(11)。 カテゴリー II IV.F.2. 病原体に汚染している可能性のある表面を洗浄および消毒するが、このような表面に は患者の至近距離にある表面(ベッドレール、オーバーベッドテーブルなど)や患者ケ アのなかで頻回に接触する表面(ドアノブ、病室のトイレの中および周囲の環境など) が含まれており、他の表面(待合室の垂直表面など)より高頻度のスケジュールで洗浄 および消毒する(11,73, 740, 746, 993, 994 72, 800, 835 995)。 カテゴリー IB IV.F.3. 患者ケア環境を最も汚染している可能性のある病原体に対して殺菌効果を持った EPA登録消毒薬を用いる。製造元の取り扱い説明書に従って用いる(842‑844, 956, 996)。 カテゴリー IB/IC IV.F.3.a. 感染性微生物の伝播が継続しているというエビデンスが、使用中の製剤に対する 耐性を示唆しているならば、使用している消毒薬の有効性を再評価し、必要に応じて、 もっと有効な消毒薬に変更する(275, 842,847 )。 カテゴリー II IV.F.4.小児患者に医療を提供している施設や小児用玩具が置いてある待合室を設備している 施設(産婦人科医院やクリニックなど)では、玩具を定期的に洗浄および消毒する方針 や手順を確立する(379‑80) . カテゴリー IB このような方針や手順を作り上げるときには下記の原則を用いる: カテゴリー II ・容易に洗浄および消毒できる玩具を選択する。 ・縫いぐるみの毛皮玩具は共有するならば、使用させない。 ・大きな固定玩具(よじ登り設備など)は少なくとも毎週、および肉眼的に汚れた場合 に、洗浄や消毒をおこなう。 ・口に入れる可能性のある玩具は、消毒のあとに水でリンスする。代替として、自動 食器洗い機で洗浄してもよい。 ・玩具に洗浄や消毒が必要な場合は迅速に実施する。または、使用の準備ができた清 潔な玩具とは別の指定ラベルが貼られた容器に保存する。 IV.F.5. 汚染防止および洗浄と消毒のための方針や手順には複数回使用の電気器具を含める (特に、患者が用いる器具、患者ケアをする時に用いる器具、病室内外を頻回[毎日な ど]に移動する器具)(850, 851, 852, 997)。 カテゴリー IB IV.F.5.a. 取り外しできる保護カバーや洗濯できるキーボードについての勧告はない。未解 決問題 9 IV.G. 織物および洗濯物 IV.G.1. 空気、表面、人、の汚染を避けるために、使用した織物や編み物は、できるだけ振り 動かさないように取り扱う(739, 998, 999)。カテゴリー IB/IC IV.G.2. 洗濯物シュートを用いるならば、それらが適切にデザインされて維持されていること を確認し、汚染した洗濯物からのエアロゾルができるだけ拡散しない方法で用いる (11, 13, 1000, 1001)。 カテゴリー IB/IC IV.H. 安全な注射手技 下記の勧告が、注射針、注射針の替わりのカニューレ、(適用できるならば)血管内デ リバリーシステム、の使用に用いられる(454) IV.H.1. 無菌テクニックを用いて、滅菌注射器具の汚染を防ぐ(1002, 1003)。 カテゴリー IA IV.H.2. 注射器の針やカニューレが交換されたとしても、1つの注射器から複数の患者への薬 剤投与はしない。注射針、カニューレ、注射器は滅菌の単回使用であり、他の患者に 再使用してはならないし、次の患者に使用する可能性のある薬剤や溶液のアクセスの ために再使用してはならない(453, 919, 1004, 1005)。カテゴリー IA IV.H.3. 注射溶液および投与セット(静脈注射用バッグ、チューブおよびコネクターなど)は1 人の患者のみに用い、使用後は適切に廃棄する。注射器や注射針/カニューレは、患者 の静脈注射用バッグや投与セットへの挿入や連結に用いられたら、汚染していると考 える(453)。カテゴリー IB IV.H.4. 可能ならば常に、非経口薬剤には単回量バイアルを用いる(453)。カテゴリー IA IV.H.5. 単回量バイアルやアンプルから複数の患者に薬剤を投与しない。あとで用いるという ことで、残った内容物を統合しない(369 453,1005)。カテゴリー IA IV.H.6. 複数回量バイアルを用いるならば、複数回量バイアルにアクセスする針またはカニュ ーレおよび注射器はすべて滅菌でなければならない(453, 1002)カテゴリー IA IV.H.7. 患者治療の周辺区域に複数回量バイアルを置かず、製造元の推奨に従って保存する: 滅菌性が確保されないか疑問があれば廃棄する(453, 1003)。 カテゴリー IA IV.H.8. 注射用溶液のバッグやボトルを複数の患者への共通の供給源として用いてはならな い(453, 1006)。 カテゴリー IB IV.I. 特別な腰椎穿刺手技のための感染制御策 脊柱管や硬膜下腔にカテーテルを留置したり薬剤を注射するときには外科用マスクを 装着する(ミエログラム、腰椎穿刺、脊髄麻酔または硬膜外麻酔など)(906,907‑909 910, 911 912‑914, 918 1007)。 カテゴリー IV.J. 労働者の安全 10 IB 血液媒介病原体への曝露から医療従事者を守るための連邦および州の要求を遵守する (739)。 カテゴリー IC V. 感染経路別予防策 V.A. 一般原則 V.A.1. 伝播予防に追加予防策が必要な高度感染性病原体または疫学的に重要な病原体によ る発症または保菌が判明しているか疑われている患者には、標準予防策に加えて、感 染経路別予防策を用いる (付録Aを参照) (24, 93, 126, 141, 306, 806, 1008)。 カテゴリー IA V.A.2. ウイルス感染している免疫抑制患者は他の人々に伝播する可能性のあるウイルス性 微生物の排出が遷延しているので、感染経路別予防策(飛沫、接触など)の期間を延長 する(928, 931‑933, 1009‑1011)。カテゴリー IA V.B. 接触予防策 V.B.1. 接触感染する危険性の高い感染症が判明しているか疑われている患者、または接触感 染する危険性が増大していることを示す症状のエビデンスがある患者には、付録Aで 推奨されるように接触予防策を用いる。MDROの保菌者または発症者への接触予防策 の 使 用 に 関 す る 特 別 な 勧 告 に つ い て は 、 MDRO ガ イ ド ラ イ ン (www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/ar/mdroGuideline2006.pdf)(870) を 参 照 する。 V.B.2. 患者の入室先 V.B.2.a.急性期病院では、接触予防策を必要とする患者は、(利用できるならば)個室に入室 させる(24, 687, 793, 796,797, 806, 837, 893, 1012, 1013)。 カテゴリー IB 個室が足りなければ、患者の入室先の決定には下記の原則を適用する: ・伝播を促進するような状況(封じ込められていない排膿、便失禁など)の患者に個室 入室を優先する。カテゴリー II ・同じ病原体を発症または保菌していて条件の合う患者と同じ病室に一緒に入室させ る(コホート)(29, 638, 808, 811‑813, 815, 818, 819)。 カテゴリー IB ・同じ感染性病原体を発症または保菌していない患者の病室に接触予防策が必要な患 者を入室させる必要があるならば: ○感染すると不幸な結末になってしまう危険性が高い状態の患者、または伝播に拍車 をかけるような状態の患者と同じ病室に、接触予防策下の患者を入室させないように する(免疫不全の患者、創部が開いている患者、長期滞在が予想される患者など)。カ 11 テゴリー II ○患者がお互いに物理的に隔離されていることを確認する (>3フィート(約1m)の距 離など)。直接接触の機会を最小限にするためにベッドとベッドの間にあるプライバシ ーカーテンを引いておく。カテゴリー II ○患者が接触予防策下にあるか否かに拘わらず、同室の患者接触と患者接触の間には 防護着を交換して、手指衛生を実施する(728, 741, 742, 988, 1014, 1015)。カ テゴリー IB V.B.2.b.長期ケアおよび他の居住環境では、患者の入室先の決定に関して、個々の事例を個 別に扱うようにする。この場合、病室内の他の患者への感染の危険性、伝播の可能性 を増大させる危険因子の存在、発症または保菌している患者への有害な精神的影響の 可能性のバランスを取るようにする(920, 921)。 カテゴリー II V.B.2.c.外来では、接触予防策が必要な患者は可能な限り迅速に検査室や小個室に入れる (20)。 カテゴリー II V.B.3. 個人防護具の使用 V.B.3.a. 手袋 患者の健常皮膚 (24, 89, 134, 559, 746, 837)または患者の直近の表面や物(医療 器具、ベッドレールなど) (72, 73, 88, 837) に触れるときには常に手袋を装着する。 手袋は病室または小個室に入室するときに装着する。カテゴリー IB V.B.3.b. ガウン V.B.3.b.i. 患者または患者直近の汚染している可能性がある環境表面や器具に、衣類が直 接触れることが予想されるときは常に、ガウンを着る。ガウンは病室または小個室に 入室するときに装着する。患者ケア環境を去る前には、ガウンを脱いで、手指衛生を 遵守する(24, 88,134, 745, 837)。 カテゴリー IB V.B.3.b.ii. ガウンを脱いだあとは、汚染している可能性のある環境表面(微生物を他の 患者や環境表面に伝播させうる)に、衣類や皮膚が接触しないようにする(72, 73)。カ テゴリー II V.B.4. 患者の移送 V.B.4.a.急性期ケア病院、長期ケア、その他の在宅医療では、病室外への患者の移送や移動 は医学的に必要な目的に限定する。カテゴリー II V.B.4.b. 医療現場において移送や移動が必要な場合は、患者の体の感染部位や保菌部位が 包まれて覆われていることを確認する。カテゴリー II V.B.4.c. 接触予防策下の患者を移送する前には、汚染したPPEは脱いで廃棄し、手指衛生 を行う。カテゴリー II 12 V.B.4.d. 移送先で患者を取り扱うには清潔なPPEを装着する。カテゴリー II V.B.5. 患者ケア用の器材および器具/機器 V.B.5.a. 患者ケア用の器材および器具/機器は標準予防策に従って取り扱う(739, 836)。 カテゴリー IB/IC V.B.5.b. 急性期ケア病院、長期ケア、その他の在宅医療では、使い捨てのノンクリティカ ルの患者ケア器具(血圧計のカフなど)を使用するか、それらの器具を患者専用にする。 器具を複数の患者に共通使用することが避けられなければ、他の患者が使用する前に、 それらの器具を洗浄および消毒する(24, 88, 796, 836, 837, 854, 1016)。 カテ ゴリー IB V.B.5.c. 在宅ケア V.B.5.c.i. 接触予防策下の患者の家に持ち込む使い捨てしない患者ケア器具の数を制 限する。可能であれば、在宅ケアサービスが終了するまで患者ケア器具は家の中に置 いておく。カテゴリー II V.B.5.c.ii. ノンクリティカルの患者ケア器具(聴診器など)を家に置いておくことがで きなければ、家から持ち出す前に低水準〜中水準の消毒薬を用いて、器具を洗浄およ び消毒する。代替として、汚染した再使用器具をプラスチックバッグに入れて、移送 してから洗浄と消毒をおこなう。カテゴリー II V.B.5.d. 外来では、汚染した再利用できるノンクリティカルの患者ケア器具をプラスチッ クバッグに入れて、汚染器具の再生区域に移送する。カテゴリー II V.B.6. 環境制御策 接触予防策の患者の部屋は高頻度接触表面(ベッドレール、オーバーベッドテーブル、 ベッドサイドの整理だんす、患者のバスルームの洗面所表面、ドアノブなど)および 患者の直近にある器具に焦点を合わせて、頻回の洗浄と消毒(少なくとも毎日など)を 優先的に実施することを確認する(11, 24, 88, 746, 837)。 カテゴリー IB V.B.7. 感染の徴候や症状が改善したら、または付録Aの病原体特異的な勧告に従って、接触 予防策を解除する。カテゴリー IB V.C. 飛沫予防策 V.C.1. 咳、くしゃみ、会話している患者からの気道飛沫(>5μmの大きな粒子飛沫など)によ って伝播するような病原体に感染していることが知られているか疑われている患者に は、付録Aに推奨されているような飛沫予防策を用いる(14, 23, Steinberg, 1969 #1708, 41, 95, 103, 111, 112, 755, 756, 989, 1017)。カテゴリー IB V.C.2. 患者の入室先 V.C.2.a. 急性期病院では可能ならば、飛沫予防策が必要な患者は個室に入室させる。カテ 13 ゴリー II 個室が足りなければ、患者の入室先を決定するために、下記の原則を採用 する: ・咳や喀痰の多い患者には個室入室を優先する。カテゴリー II ・同じ病原体に感染していて条件の合う患者と同じ病室に一緒に入室させる(コホー ト)(814, 816)。 カテゴリー IB ・同じ感染症を持っていない患者の病室に飛沫予防策が必要な患者を入室させる必要 があるならば: ○感染によって不幸な結果になる危険性が高い状態の患者、または伝播に拍車をかけ るような状態の患者と同じ病室に、飛沫予防策下の患者を入室させることを避ける(免 疫不全の患者、長期滞在が予想される患者など)。カテゴリー II ○患者がお互いに物理的に隔離されていることを確認する (>3フィート(約1m)の距 離など)。濃厚接触の機会を最小限にするためにベッドとベッドの間にあるプライバシ ーカーテンを引いておく(103, 104 410)。カテゴリー IB ○患者が飛沫予防策下にあるか否かに拘わらず、同室の患者接触と患者接触の間には 防護着を交換して、手指衛生を実施する(741‑743, 988, 1014, 1015)。 カテゴ リー IB V.C.2.b. 長期ケアや他の居住環境では、病室内の他の患者への感染の危険性および利用可 能な代替について考慮したあとに、患者の入室先が決定されるが、この場合、個々の 事例を個別に扱うようにする(410)。 カテゴリー II V.C.2.c. 外来では、飛沫予防策が必要な患者を可能な限り迅速に検査室や小個室に入れる。 呼吸器衛生/咳エチケットの勧告に従うように患者を教育する(447, 448 9, 828)。 カテゴリー II V.C.3. 個人防護具の使用 V.C.3.a. 病室または小個室に入室するときにはマスクを装着する(14, 23, 41,103, 111, 113, 115, 827)。 カテゴリー IB V.C.3.b. 飛沫予防策を必要とする患者への濃厚接触に、マスクに加えて眼防御(ゴーグルや フェースシールドなど)を日常的に装着する勧告はない。未解決問題 V.C.3.c. SARS、トリインフルエンザ、パンデミックインフルエンザが疑われているか確 定している患者については、最新の勧告について下記のウエブサイトを参照する ( www.cdc.gov/ncidod/sars/ ;www.cdc.gov/flu/avian/ ;www.pandemicflu. gov/)(134, 1018, 1019)。 V.C.4. 患者の移送 V.C.4.a. 急性期ケア病院、長期ケア、その他の在宅医療環境では、病室外への患者の移送 14 や移動は医学的に必要な目的に限定する。カテゴリー II V.C.4.b. 医療現場において移送や移動が必要な場合は、マスクを装着して呼吸器衛生/咳エ チケットに従うよう患者を教育する ( www.cdc.gov/flu/professionals/infectioncontrol/resphygiene.htm)。カテゴ リー IB V.C.4.c. 飛沫予防策の患者を移送する人にはマスクは必要ない。カテゴリー II V.C.4.d.徴候および症状が改善したら、または付録Aの病原体特異的な勧告に従って、飛沫 予防策を解除する。カテゴリー IB V.D. 空気予防策 V.D.1. 空気感染経路によってヒトーヒト間を伝播する感染性微生物(結核菌(12)、麻疹(34, 122, 1020)、水痘(123, 773, 1021)、播種性帯状疱疹(1022)など)に感染してい ることが判明しているか疑われている患者には、付録Aに推奨されているような空気 予防策を用いる。カテゴリー IA/IC V.D.2. 患者の入室先 V.D.2.a. 急性期病院および長期ケアでは、空気予防策が必要な患者を、現在のガイドライ ンに従って建築されたAIIRに入室させる(11‑13)。カテゴリー IA/IC V.D.2.a.i. 1時間に少なくとも6回(既存施設)または12回(新築/改築施設)の換気をおこな う。 V.D.2.a.ii. 空気は外部に直接排気する。AIIRから外部に空気を直接排気できなければ、す べての空気がHEPAフィルターを通過するならば、空調システムまたは近傍空間に空 気を戻してもよい。 V.D.2.a.iii. AIIRが空気予防策下の患者に用いられるときには、差圧感知器(圧力計など)の 有無に拘わらず、空気圧を肉眼的指標(スモークチューブ、パタパタする細長い切れな ど)で毎日測定する(11, 12, 1023, 1024)。 V.D.2.a.iv. 入退室しなければAIIRの扉は閉めておく。. V.D.2.b. AIIRが利用できないときは、AIIRが利用できる施設に患者を移送する(12)。カテ ゴリー II V.D.2.c.空気予防策が必要な患者が多数含まれるような集団感染や曝露の場合には: ・AIIRについての工学的な要求を満たしていない代替病室の安全性を決定するために、 患者を入室させる前に感染制御専門家に相談する。 ・他の患者、特に感染の危険性が高い患者(免疫不全患者など)から離れた施設区域に、 同じ感染症(臨床症状および診断[判明していれば]に基づく)に罹患していると推定さ れる患者を一緒に入室(コホート)させる。 15 ・施設の改造区域で陰圧環境を作り出すためには、一時的な移動式解説策(排気扇など) を実施する。空気は外部に直接排気するか(人々や空気取り入れ口から離れたところに 排気する)、もしくは、他の空間に取り込む前に、すべての空気をHEPAフィルタで濾 過する(12)。カテゴリー II V.D.2.d.外来: V.D.2.d.i. 外来の入り口にて、空気予防策が必要な感染症が判明しているか疑われている 患者を同定するためのシステム(トリアージ、サインなど)を構築する(9, 12, 34, 127, 134)。 カテゴリー IA V.D.2.d.ii.可能な限り迅速に、患者をAIIRに入室させる。AIIRが利用できなければ、患者 に外科用マスクを装着させ、検査用の部屋に入室させる。患者が退室したあとは、空 気が完全に入れ替わるために必要な時間(一般的に1時間)、部屋を空室にしておく(11, 12, 122)。カテゴリー IB/IC V.D.2.d.iii.空気感染が判明しているか疑われている患者には外科用マスクを装着させ、呼 吸器衛生/咳エチケットを遵守するように教育する。AIIRに入れば、マスクを取り外し ても良い。そして、患者がAIIRの外に出るならば、マスクは装着しておく(12, 107, 145, 899)。 カテゴリー IB/IC V.D.3. 職員の制限 免疫のある医療従事者が他にいるならば、麻疹、水痘、播種性帯状疱疹、天然痘に罹 患していることが判明しているか疑われている患者の病室に、感受性のある医療従事 者が入ることを制限する(17, 775)。カテゴリー IB V.D.4. PPEの使用 V.D.4.a. 下記の疾患が疑われているか確定している場合、患者の病室や家に入るときには、 呼吸器防御のために、フィットテストされたNIOSH認可のN95マスクまたはそれ以 上の高レベルのレスピレータを装着する: ・感染性肺結核や喉頭結核、または感染性結核皮膚病変があり、生きている病原体を エアロゾル化するような措置が実施される場合(洗浄、切開と排膿、渦流浴治療な ど)(12, 1025, 1026)。 カテゴリー IB ・天然痘(種痘および未種痘)。すべての医療従事者には呼吸器防御が推奨されるが、 これには天然痘ワクチンを接種したあとに「獲得」の確認がなされた人々も含まれる。 ワクチンが防御を提供できないかもしれない遺伝子組み換えウイルスの危険性、また は極めて大量のウイルス量に曝露する危険性(ハイリスクのエアロゾル産生処置、免疫 不全の患者、出血型または扁平型天然痘)があるためである(108, 129)。 カテゴリ ー II 16 V.D.4.b.既往歴、ワクチン、血清学的検査に基づいて、麻疹または帯状疱疹に免疫があると 推定される医療従事者が、麻疹、水痘、播種性帯状疱疹が確認されているか疑われて いる人をケアするときに、PPEを使用することに関する推奨はない。正確な免疫を確 認することは困難だからである( 1027, 1028)。 未解決問題 V.D.4.c. 麻疹、水痘、播種性帯状疱疹が確定されているか疑われている患者に接触しなけ ればならない感受性のある医療従事者が装着すべき個人防護具のタイプ(外科用マス ク、N95またはそれ以上のレスピレータによる呼吸器防御)に関する勧告はない。未 解決問題 V.D.5. 患者の移送 V.D.5.a. 急性期ケア病院、長期ケア、その他の在宅医療環境では、病室外への患者の移送 や移動は医学的に必要な目的に限定する。カテゴリー II V.D.5.b. AIIRの外での移送や移動が必要ならば、できれば外科用マスクを装着して呼吸器 衛生/咳エチケットを遵守するように患者を教育する(12)カテゴリー II V.D.5.c. 水痘や天然痘による皮膚病変、または排膿している結核皮膚病変のある患者につ いては、皮膚病変の感染性微生物のエアロゾル化または接触を防ぐために、感染部位 を覆う(108, 1025, 1026, 1029‑1031)。カテゴリー IB V.D.5.d. 空気予防策下の患者を搬送している医療従事者は、患者がマスクしていて、感染 性皮膚病変が覆われていれば、搬送のときにはマスクやレスピレータを装着する必要 はない。カテゴリー II V.D.6. 曝露処置 麻疹、水痘、天然痘の患者に無防備接触(曝露)したら、可能な限り迅速に感受性のあ る人々にワクチン接種するか適切な免疫グロブリンを提供する:カテゴリー IA ・麻疹ワクチンを曝露後72時間以内に、曝露した感受性のある人々に接種する。ワク チンが禁忌のハイリスクの人々には曝露から6日以内に免疫グロブリンを投与する (17, 1032‑1035)。 ・曝露から120時間以内の感受性のある人々に水痘ワクチンを投与する。ワクチンが 禁忌のハイリスクの人々(免疫不全の患者、妊婦、母親の水痘発症が出産前の5日未満 または出産後48時間以内の新生児)には96時間以内に水痘免疫グロブリン(VZIGま たは代替の製剤)を投与する(888, 1035‑1037)。 ・天然痘ワクチンを曝露後4日以内に曝露した感受性のある人々に接種する(108, 1038‑1040)。 V.D.7. 付録Aの病原体特異的な勧告に従って、空気予防策を解除する。カテゴリー IB V.D.8. 医療現場での結核の伝播を予防するための環境戦略に関する追加のガイダンスについ 17 ては、CDCの「医療現場における結核菌伝播の予防のためのガイドライン,2005年 (12)」 「医療施設の環境感染制御のためのガイドライン(11)」を参考にする。これら のガイドラインに記載されている環境の勧告は空気予防策を必要とする他の感染症の 患者にも適用してよい。 VI. 防護環境 (表4) VI.A. 同種造血幹細胞移植(HSCT: hematopoietic stem cell transplant)の患者は環境真 菌(アスペルギルス属など)の曝露を減らすために、 「HSCT患者における日和見感染予 防のためのガイドライン(15)」 「医療施設の環境感染制御のためのガイドライン(15)」 「医療ケア関連肺炎の予防のためのガイドライン,2003年(14)」に記載されているよ うな防護環境に入室させる(157, 158)。カテゴリー IB VI.B. 環境真菌感染症(アスペルギルス症など)の危険性が高い他の医学状態の患者を防護環 境に入室させることについての勧告はない(11)。未解決問題 VI.C. 防護環境が必要な患者には下記を実施する(表5を参照)(11,15)。 VI.C.1. 環境制御 VI.C.1.a. 直 径 0.3 μ m 以 上 の 粒 子 の 99.97% を 除 去 で き る HEPA(high efficiency particulate)フィルタのセントラル使用またはポイント使用によって流入空気を濾過 する(13)。カテゴリー IB VI.C.1.b.病室の一側から空気が供給され、患者ベッドを越えて空気が移動し、病室の反対 側の排気口から流出する一方向性空気流を用いる(13)。 カテゴリー IB VI.C.1.c. 室内空気圧を廊下よりも陽圧(12.5 Pa [水位系にて0.01]以上の差圧)にする (13)。カテゴリー IB VI.C.1.c.i. 空気圧を肉眼的指標(スモークチューブ、パタパタする細長い切れなど)で毎日 測定する( 11, 1024)。 カテゴリー IA VI.C.1.d. 外部空気の侵入を防ぐために病室を十分にシールする(13)。カテゴリー IB VI.C.1.e. 1時間に少なくとも12回換気する(13)。カテゴリー IB VI.C.2. 粗い素材のもの(詰め物など)よりも、表面が平滑で小穴のないものやゴシゴシ洗い落 せる表面のものを用いて、埃レベルを低くする。埃をみつける度に水平表面を湿式集 塵し、埃が蓄積しているかもしれない割れ目やスプリンクラーの頭部分を日常的に洗 浄する(940, 941)。カテゴリー II VI.C.3. 区域では廊下や病室のカーペットを避ける(941)。カテゴリー IB VI.C.4. ドライフラワー、新鮮な花、鉢植え植物を禁止する(942‑944)。 カテゴリー II VI.D. 防護環境を必要とする患者が、診断的措置や他の活動のために病室外にいる時間を最 18 小にする(11, 158, 945)。 カテゴリー IB VI.E. 工事期間中は、感染性芽胞を含んでいるかもしれない粒子の吸い込みを防ぐために、 レスピレータに耐えることが医学的に問題ない患者が防護環境を出る必要があるとき には、呼吸防御(N95レスピレータなど)を提供する(945,158)。カテゴリー II VI.E.1.a.レスピレータを用いる患者のフィットテストについての勧告はない。未解決問題 VI.E.1.b.工事がない場合、防護環境を出るときの微粒子物レスピレータの使用についての勧 告はない。未解決問題 VI.F. 防護環境では標準予防策および感染経路別予防策を用いる VI.F.1. すべての患者との相互関係において、推奨されている標準予防策を使用する。カテゴ リー IA VI.F.2. 付録Aにリストされている疾患に推奨される飛沫予防策および接触予防策を実施す る。患者は免疫不全状態でウイルス排出が遷延することがあるので、ウイルス感染に 対 す る 感 染 経 路 別 予 防 策 に は 延 長 が 必 要 な こ と が あ る (930,1010,928, 932,1011)。カテゴリー IB VI.F.3. 患者に感染症が疑われたり確定したりしていなければ、または標準予防策によって必 要とされなければ、医療従事者にバリア予防策(マスク、ガウン、手袋など)は必要な い(15)。カテゴリー II VI.F.4. 防護環境が必要で、空気感染性疾患(肺結核または喉頭結核、急性水痘‐帯状疱疹など) にも罹患している患者には空気予防策を実施する。カテゴリー IA VI.F.4.a. 防護環境が陽圧を維持するようにデザインされていることを確認する(13)。カテ ゴリー IB VI.F.4.b. 廊下と防護環境に比較して適切な空気バランスをさらに維持する前室を用いる。 汚染した空気を外部に独立排気するか、戻ってきた空気を再循環させなければならな いならば排気ダクトにHEPAフィルタを設置する(13, 1041)カテゴリー IB VI.F.4.c. 前室が使用できないならば、患者をAIIRに入室させる。そして、胞子の濾過を強 化するために移動式の工業用基準のHEPAフィルタを室内で使用する(1042)。 カテ ゴリー II 19
© Copyright 2024 Paperzz