赤ひげ 第19回 ひとり - 社会医療法人北斗会さわ病院

(1)
第94号
赤ひげ
第19回
NHKアーカイブスという番組があります。
4年ほど前、そのシリーズのひとつとして表
医療法人北斗会広報
2007年 6月10日発行
ひとり
みを引用します。今風でないと思われるかも
しれませんがとにかく私は感動しました。
題のようなものがありました。もとは197
3年に放映されたものとのことです。原作は
ひとり
山本周五郎の赤ひげですが、倉本聡がテレビ
養生所・内(深夜)
用に脚本を書いたものだそうです。以下に引
凍ての中。大門がドンドンとたたかれてい
用するようなところが印象に残ってなんとか
る。
その画像が手に入らないかと常々思っていま
同・玄関
した。
大阪のNHKホールには過去に人気のあっ
たテレビを視聴できるブースがあると聞いて
しんと静まって、ひと気ない。ドンドンと
門をたたく音だけがきこえる。
同・廊下
尋ねるとこの「赤ひげ」もあるというので、
誰もいない。寝静まった廊下に、ドンドン
一度行ってみました。ヘッドホンで机の前の
と門をたたく音だけが遠くひびいている。
大画面を見て視聴するのです。木曜日で来る
同・保本の部屋
人は少ないとはいえ子供たちが来ると少々邪
ここにも門をたたく音がきこえる。疲れ果
魔な音も入りますがまあまあ聞けました。
て眠っている森と保本。保本の耳に門をた
さて気に入ったところについて、試しに最
たく音がかすかに入るらしく、保本うるさ
近凝っているヤフーのオークションを見てみ
ました。あったあった、ある古本屋に元値よ
り少し高いけれど美本の古本となって売って
いました。早速手に入れました。少々汚れて
いてもこの「ひとり」を読むと場面が目に浮
かびます。赤ひげは映画では三船敏郎ですが、
ここでは小林桂樹、もう一人の書生医師の保
本登は24年前のあおい輝彦です。
さてこれからその中の気に入ったところの
げに寝返りを打つ。布団の中にもぐり込む。
門
ドンドンと激しくたたく手。
男の声「(叫ぶ)お願いでございます!お願
いでございます!」
提灯の灯が玄関に現れ、眠たげな竹造の
姿が現れる。
男「(ホッとして)申し訳ございません!夜
分まことに申し訳ございません!」
(2)
2007年 6月10日発行
竹造「(近寄る)静かにしてください」
男「申し訳ございません!子どもがあの、急
のさしこみで!」
竹造「先生方みんなおやすみなんです」
男「わかっております!しかし子どもが」
男、われに返り、あわてて必死に大門をま
たたたく。
男「先生!!」
保本、ギラッとふり返って叫ぶ。
保本「医者だって人間だ!!少しは寝かせ
ろ!!」
竹造「ご存じでしょう、一昨日の大火を。一
昨日の朝から被災者の方がひっきりなし
にかつぎこまれて、先生方まる二晩!ほ
音楽―テーマ曲、たたきつけて入る。タイ
トル流れて。
とんどおやすみになってないンです」
男「申し訳ございません。でも」
竹造「さっきようやく一段落ついて、みなさ
保本の部屋(朝)
窓からさし込んでいる陽の光。鳥の声。
んおやすみになられたところです。先生
保本、目をさます。
方みんな疲れ果ててます。よその先生を
寝不足の重い頭は、なかなかさめない。
おたのみになるか、―明日の朝にしてく
隣りを見る。
ださい」
森はもう起きたらしく、布団の中はもぬけの空。
竹造、中へ入ろうとする。
保本、必死に起きる。
男、あわててまた、門をたたく。
画面に文字が―「六ツ半(午前七時)」
男「お願いです!待ってください!!子ども
が本当に苦しんでるンです!!(ガンガ
ン)」
竹造「静かにしてください!」
男「(かまわずたたく)六歳になる男の子で
す!赤ひげ先生にかかったことがありま
廊下
お仕着せを着ながら表のほうへ行く保本。
溜り
すでに患者が、待ちはじめている。挨拶する患
者たちに目もくれず、保本、玄関から外へ出る。
井戸端
す!!―待ってください!!(ガンガン)
保本、ザアザアと冷たい水で顔を洗う。
きいてください!!待ってください!!」
竹造が近づいて、
竹造、かまわず中へ入ろうとする。
玄関から現れる保本。
竹造「先生、昨夜はすみません。全くあいつ
はいつも大騒ぎで」
竹造、足を止める。
保本「―まいったよ」
保本、疲れのため、ピリピリ癇をたてた不
竹造「申し訳ありません。でも先生にああい
機嫌な顔で、まっすぐ大門のほうへと歩く。
保本の姿に、ホッとたたくのを中断する男。
っていただいたんで」
保本「帰ったのかあれで」
その前にツカツカと歩いて立つ保本。
竹造「へい」
男「先生!申し訳ございません。子どもが急
保本「どこの男だ」
なさしこみで」
保本「患者はお前の子一人じゃないンだ!俺
竹造「辰巳屋裏店の定って男で」
―(中略)―
たちは二晩、ほとんど眠っていない!明
お雪「赤ひげ先生、ごはんは」
日の朝行くから騒ぐのをやめてくれ!」
吉太郎「朝はいいそうだ」
男「―」
保本、クルッときびすを返し、玄関のほう
へまっすぐにもどる。
吉太郎、森、去る。
保本「赤ひげ、どっかに出ていたのか」
お雪「ええ、急患で。今朝の七ツに」
2007年 6月10日発行
保本「七ツ!」
保本「はい」
お雪「まだ暗かったです」
赤ひげ「どういう理由で」
保本「よくつづくな」
(3)
チラと顔上げて見る医師たちのインサート。
竹造「(入る)保本先生」
保本「とくに理由は。ただ―」
保本(見る)
赤ひげ「何」
竹造「新出先生がお呼びです。薬部屋のほう
保本「ここんとこの疲れで先生はよくおやす
にすぐみえるようにと」
保本。
保本「めしを食ってからじゃいけないのか」
竹造「(申し訳なさそうに)すぐだそうです」
みでしたし。それに―」
赤ひげ「―」
保本「かよい治療は原則として、いけないと
いうことになっていますから」
赤ひげ「都合のいい規則だな」
薬部屋
中井、田波、森、そして赤ひげ、カルテの
振り分けをやっている。
あたふたとかけつける谷本。
保本「―」
赤ひげ「自分で行くのがおっくうだったらな
ぜ俺を起こさん。独断で断わる?え?」
谷本「すみません、遅くなって」
森のインサート。
中井「われわれも今来たところですよ」
保本。
田波「疲れたでしょう」
保本「すみません」
谷本「いや歳ですね。骨身にしみました」
赤ひげ「―」
保本「(入る)おはようございます」
赤ひげ、プイと廊下へ出ようとする。
一同「おはよう」
保本「先生!」
保本「(赤ひげに)何か」
赤ひげ(ふり向く)
赤ひげ「(書類を見つつ)待ってろ」
保本「―何かあの患者が」
保本「はァ」
保本―坐る。
赤ひげ。
赤ひげ「今朝行ってきた。定の子は死んだよ」
赤ひげ「(中井に書類を見せて)この患者は」
保本の顔。
中井「(のぞく)ああ、軽いやけどなんで家
医師たちのインサート。
に帰しました」
赤ひげ「うン」
赤ひげ「六つの男の子だ。手遅れだった」
保本。
吉太郎「(入る)準備できました」
竹造「(入る)先生!」
赤ひげ「今行く」
赤ひげ「今行く!(出る)」
吉太郎「最初の患者、呼び込んでおいてよろ
しいでしょうか」
赤ひげ「ああ。いい」
見ていた書類をバタンと閉じ、勢いよく立
動けない保本の顔。
効果音―衝撃。
―(中略)―
赤ひげ「保本」
ちあがる。出て行こうとして、初めて保本に
保本。
気づいたように、
―無言で薬研を使っている。
赤ひげ「ああ」
赤ひげ「お前、昨夜、定にいったそうだな」
保本「何か」
保本「―」
赤ひげ「お前―昨日の夜中、辰巳屋裏店の定
赤ひげ「医者も人間だ。少し寝かせろと」
という男が、往診をたのみにきたのを
保本。
断ったか」
森のインサート。
(4)
2007年 6月10日発行
赤ひげ「そういう台詞は早い。本物の医者に
なってからいえ」
保本「―(低く)何がです」
赤ひげ「お前は一人でむじな長屋などへ、か
よい治療に行くことがある」
保本のクローズアップ。
―薬研を使っている。
赤ひげ「お前はまだ医者じゃない。卵にすぎ
保本「―」
赤ひげ「お前は、自分では自分自身を、医師
として一人前と思い込んでいる」
ん!」
出て行こうとする。
保本「―」
その背中に、
赤ひげ「それも長崎で医学を学んだ。―そこ
らの医師とはわけのちがう医師だと
保本「(必死に感情をおさえつつ低く)医者
な」
の卵も人間です先生」
赤ひげ、足を止める。
保本「―」
保本「それに私は―自分のことをいったんじ
赤ひげ「お前は独力で人を診る自信がある。
ゃない。先生を起こしちゃ悪いと思った
いつもなら診るだろう。俺がいなけれ
から」
ば出かけて行くだろう。それが昨夜に
限ってはちがった。弁解するな!!」
赤ひげ「(ゆっくりふり向く)俺に悪い?」
保本「そうです。だいいち、―医者が疲れ果
てて患者を診るのは、決していいことだ
保本。
赤ひげ「要するにお前は昨夜、ただ眠たかった。
疲れ果て、眠く、―出かけたくなかった。
とはいえません」
さぼって、寝たかった。それだけのことさ」
赤ひげ。
赤ひげ「そのために六つの子が死んでもかね」
保本。
保本。
赤ひげ「そのことに偉そうな理屈をつける
な。俺の身を案じたとか、疲れて患
保本「(低く)―それは、いってみれば結果論で
者を診るのはいかんとか。やれ医者
す」
だって人間だとか」
間。
赤ひげ「結果論?」
保本。
保本「―はい」
―キラッと蒼白に赤ひげを見る。
森のインサート。
赤ひげ。
顔を伏せたままの保本。
保本「(かすれて低く)医者は人間じゃない
んですか」
赤ひげ「(ズバリ)ない!」
赤ひげ。
森のインサート。
音楽―鈍い衝撃でイン。砕けて、不安定な、
保本。
打楽器のみのB・G。
入って来て立ちすくんでいる谷本。
赤ひげ「言い訳はやめろ」
間。
保本「言い訳じゃありません」
保本「(低く)初めてききます」
赤ひげ「いや、言い訳だ。俺にはわかってい
赤ひげ「そうか。だったらよく覚えておけ。
る」
保本、顔を上げる。
赤ひげ「俺が疲れてる、俺のためを思って断
わったと、お前、今いったな」
保本「―」
赤ひげ「みょうだな」
患者にとって、医者は人ではない。医
者は人とはちがう。いわば神様だ」
保本「(低くゆっくり)私がいっているのは
患者にとってどうかじゃありません。医
者自身にとってどうかということです」
赤ひげ「医者は自身のことを考えてはいけない」
2007年 6月10日発行
(5)
あれは暴論の一語に尽きます。医者
谷本のインサート。森のインサート。
は神ですか?冗談じゃない、医者も
赤ひげ「医者は先ず医者だ。人である前にだ」
生身の人間です」
保本。谷本。森。
音楽―いつか消えている。
中井「ええ」
間。
谷本「疲れるときもある。眠いときもある。
保本「そうですか」
それを一切耐えしのんで、患者のために
赤ひげ「そうだ」
働けというなら、医師のなり手など皆無
間。
保本「私は―医者も医者である前に、まず人
間だと思っていました」
となるでしょう」
中井「そのとおりです」
田波「新出先生、私もいいます」
赤ひげ「その考えは捨てることだ」
赤ひげ「―」
保本「―」
田波「あなたはたしかに立派な医師だ。おっ
赤ひげ「とくにここではだ」
しゃるに近い、神のような方です。いや、
谷本。森。保本。
これは皮肉でも何でもない。心底私はそ
保本「そうですか」
う思っています。しかし―ここにいるわ
赤ひげ「そうだ」
れわれや保本さんや森さんには、残念な
谷本。森。保本。
がらあなたのような強靭な精神も肉体も
長い間。
ありません。心でやりたいとそうのぞん
保本「(静かに低く)だとしたら私は、―と
てもここではつとまりません」
短い間。
赤ひげ「だったら早いとこ逃げ出すべきだ」
森。谷本。保本。
赤ひげ「そういう所だ。この養生所」
間。
保本「(蒼白に)そうですか」
でも、いかんともしがたいものがありま
す。あなたのやり方はたしかに立派です。
だが、それをわれわれに押しつけるのは
無理です」
谷本「そのとおり!」
田波「それをあくまでも強いられたとしたら、
保本さんが、かわいそうです」
赤ひげ。
―(中略)―
中井の声「そう思いませんか?」
赤ひげの部屋
谷本の声「新出先生」
谷本「(静かだが厳然と)あれは新出さんの
いいすぎだと思います」
谷本、中井、田波―三人の医師に吊るし上
げをくっている赤ひげ。
谷本「保本ならずともわれわれだって、二日二
晩、不眠の治療で昨夜はへとへとに疲れて
目を閉じ、腕を組んだ赤ひげの沈黙。
音楽―叙情的に静かにイン。B・G。
―(中略)―
「升屋」
無言で飲んでいる保本と谷本。
谷本、保本の盃に酒をついでやる。
ましたよ。昨夜急患に往診をたのまれても、
谷本「元気を出しなさい保本さん」
私は恐らく行かなかったでしょう」
保本「―」
中井「私もそう思います」
田波「私も同じです」
谷本「だいたい」
腕を組み、目を閉じ、黙りこくっている赤ひげ。
谷本の声「さっきあなたが保本にいったこと。
谷本「子どもが死に目に合えなかったのは、
別にあんたの責任じゃない。それに―」
保本「―」
谷本「今朝の一件だってそうです」
保本「―」
(6)
2007年 6月10日発行
谷本「あれはあんたのいったことが正しい」
谷本の声「保本さんの責任じゃないンです」
保本「―」
保本、徳利に手をのばす。
谷本「医者だって人間だ。当たり前のことで
きぬがつぐ。
すよ」
谷本の声「火事があったでしょう」
きぬが新しい徳利を持ってきて脇へ坐る。
おせんの声「ああ二日前」
谷本につぐ。
谷本の声「あの被災者の治療に手こずって、
谷本「(つがれつつ)医者が人間じゃない。
みんな二日ほど徹夜したンです。く
神様だなんていうのは暴論もいいとこで
たくただったンです。棒のようにみ
す。そんなこといわれたら私などとても、
んな、ただ眠りたくて、断わるより
この稼業をこれ以上やっていられない」
ほかしかたなかったンです」
保本。
谷本「赤ひげというのは一種の狂人です。狂
保本―飲む。
その耳に、ドンドンと戸をたたく音。
人がいうことをいちいち保本さん、まと
谷本の声「だから保本さん断わったンです」
もにきいてはいけないですよ」
イメージ(フラッシュ)
保本「―」
きぬが保本に酒をつごうとする。
谷本「まさかあなた本気で考えてるンじゃな
いでしょうね」
ドンドンと大門をたたいていた定。
「升屋」
保本、酒をつぐ。
きぬ、つごうとするがはねのける。
保本「―」
保本の耳に戸をたたく音。
谷本「本気であそこをやめていくなどと」
きぬの顔。
きぬの手が止まる。
きぬの顔。
谷本「そんな気を起こしちゃだめですよ」
のれんをあげて出てくるおせんと市三。
保本。
谷本「あれは赤ひげの暴言なンですから」
きぬのインサート。
おせん「(近寄る)どうしたンです」
市三「保本先生?」
谷本「(笑って手をふる)何でもないンです」
谷本の声「医者だって人間ですからね」
保本の顔。
イメージ(フラッシュ)
戸をたたく定。
「升屋」
盃を見ている保本の顔。
谷本の声「ところが悪いことに、その患者が
死んで」
(ドンドンドンという音)
谷本の声「(つづく)それを保本さんの責任
おせん「でも今やめるとか」
だと赤ひげが真っ向から叱ったわけ
市三「保本先生―?先生が、ですか?」
です」
おせん「谷本先生、何があったンです」
谷本「いやただ、ちょっと怒鳴られたンです
よ」
おせん「赤ひげ先生に?」
市三「なぜ」
谷本「いや、ちょっとね―夜中の往診を保本
さんが断わったことで」
保本。
市三の声「往診を」
(ドンドンドンドン)
谷本の声「あの人はいわば―気狂いですから
ね」
きぬのインサート。
谷本の声「赤ひげはいうわけです。医者は人
じゃない。いわば神様だ。疲れ果て
ていても起きなければいけない」
(ドンドンドンドン!!)
保本、耳をふさぐ。
2007年 6月10日発行
きぬの顔。
(7)
まさを「これでいいのか、登さんはいいのか。
しゃべりつづける谷本の声。
長崎に行かれ、さんざん苦労され、お
保本の耳に入らなくなる。
目見得医 を目指して帰られたあなたを、
きぬが何かいう。
ああいう場所にいきなり閉じこめ、朝
耳をおさえた保本の顔。
から晩まで勉強の暇もなく、その日、
(ドンドンドンドン、という音のみつづく)
その日を治療で追われ、あげくの果て
音楽―鋭い旋律で切りつけて入る。B・G。
に疲れて寝る ことさえいけないといわ
耳をおさえたまま保本、立つ。
れたら」
め
み
え
い
・
・
きぬ、立つ。
保本「(ふいに)まさをさん」
一同、保本を見る。
まさを「無茶です!そんなことあんまり無茶
保本、金を置き、店をとび出す。
―(中略)―
です!」
保本「―」
まさを「私、今日のこと、父にいいました」
まさを「人を人とも思わないなンて」
保本「―」
保本「(小さく)まさをさん、それはちがい
まさを「赤ひげ先生とやり合われたこと―。
森先生から全部きいたンです」
ます」
まさを。
保本「―」
まさを「ちがう?」
まさを「森先生も登さんのほうが、正しいン
保本「―」
だっておっしゃってました。私も、父
も―そう思いました」
保本。
まさを「何がでしょう?」
保本。
―ぼんやりまさをを見ている。
まさを「医者だって人です。登さんが正しいです」
音楽―いつか消えている。
保本。
保本。
まさを「そんな無茶を強制するあの養生所に、
―まさををぼんやりと見たまま首をふる。
登さんがこれ以上いたくないって気
持―私、とってもよくわかります」
保本。
まさを「森先生は私からあなたに、帰ってく
るよう説得してくれって、そうおっし
ゃいました、ですけど私。―登さんは
帰らないでもいいと思います」
保本。
まさを「私―あなたを見るにしのびません」
保本(見る)
まさを「最初あれほどいやがってたあそこで、
保本「何がかわからない。―けど何かちがう」
まさを。
まさを「どういうことがちがうンでしょう」
保本「―」
まさを「医者も人間だってあなたのおっしゃ
ったこと、それは何より正しいンだし」
保本「いや!」
まさを「―」
保本「いや―、もしかしたらそれもちがうの
かもしれません」
まさを「どうして!?」
それでも徐徐に慣れようと努力され、
保本「どうしてかわからない」
懸命に努力してお仕着せまで召されて、
まさを「だって」
私そのことを偉いって思う一方、これ
保本「いや、きかれても説明できない。ただ
でいいのかって、いつも思ってまいり
―。どういうか―。ただ何となく」
ました」
保本―凝視。
まさを「登さん!」
保本「わからないンです。でも思います。あ
(8)
2007年 6月10日発行
なたとしゃべっていて初めてそう思った。
*御意見箱への回答*
もしかしたら僕は間違ってたンじゃない
か」
Q:花林のポスターですが院長の顔がとても
まさを。
下品と噂されています。それと花林メニュー
保本「赤ひげのいうとおり、ただ眠さのため、
もとても高いと思います。検討して下さい。
疲れのため、往診に出たくなく、そして
A:一般の喫茶店よりも低価格で提供させて
断わった。(以下ひと言ずつ、考えてし
いただいております。(花林)
ゃべる)断わることはしかたない。だが
下品という評判はがっかりです。フローラか
―。
ら移ったとき止めようと言ったのですが販売
それはあくまで、断わる権利があって断
促進に手伝ってくれといわれて協力したもの
わるンじゃなく、権利はないが、しかた
です。下品はともかく食べる気にならないな
ないから―どうしようもないからコソコ
ら止めようと思います。ちなみに花林は法人
ソと卑怯に、後ろ暗い想いで断わるべき
ことなンじゃないか―。医者っていうの
はそういうもンじゃないか。―そういう、
とんでもない業を背負わされた」
と全く関係ない会社で運営されていますしモ
デル料も戴いていません。働いている方の給
与アップにつながればと思っただけのことで
す。(院長)
まさを「登さん!」
保本。
Q:芝蘭荘の談話室で喫煙させてほしい。
音楽―低くしのび込む。B・G。
保本「私はそう思う。―人がもし医者のこと
を、神様とみるなら―みられる以上医者
は自身を―そのようにふるまわねばしか
たないンじゃないか」
A:ご承知の通り法人内は全面禁煙となって
おり、法人の施設である芝蘭荘も全面禁煙の
方向で進んでおります。本来であれば、法人が
全面禁煙となった2005年11月15日を
もって、芝蘭荘も禁煙となる予定でしたが、
保本の顔。
保本「神は本来疲れを知らぬものだと―もし
入居者の方々の中には禁煙する事によって生
も患者がそう思うなら―そう思い、信じ、
活への影響があると思われる方も多く、今ま
自分の命を、惜しげもなくゆだねてくる
では個人的に禁煙プログラム参加への要請や
のだとしたら―。
声掛け、指導等を行ってきました。2007年
―医者は少なくとも患者の前では、疲れ
5月31日で芝蘭荘も全面禁煙とする予定で
た顔を見せてはいけないのではないか。
したが、喫煙者の方々への指導が進まず、検
どんなに疲れ―、どんなに眠くても―(保
討の結果禁煙時間を設けさせて戴く事としま
本、混乱する)ために寝たくとも―(混
し た。今後も 法人の 方針 に基づ き全 面禁煙 に
乱する)倒れそうでも―(混乱)―医者
向 けて取 り組 んでい きま す。困った 事やご 相
は人間である以前に―。
談のある方は芝蘭荘職員に声を掛けて下さい。
まず医者なンだから。
(芝蘭荘)
―神なンだから」
保本、混乱の極みに達し、頭を抱える。
Q:病棟へ電話して家への電話を頼んだのに
保本「わからない」
本 人から 電話 が無い 。も う一度 電話 したら そ
―(後略)―
ん なこと 聞い てない と本 人は言 う。看護 師の
理
事
長
怠慢だ。10円かけて電話しているのにその
時 看護師 は必 ず自分 の名 前を言 わな い。西日
2007年 6月10日発行
(9)
本No.1の病院なのに、たった一人の看護
Q:お願いします。T.Vテレビ撮影止めて
師のお陰でだいなしだ。院長先生注意してく
頂きたいです!!
ださい。
A:この点は私たちも常に心配しています。
A:調べましたが看護師を特定することができ
撮影後の画像で個人が特定できるものは必ず
ず、どのような状況だったのかはわかりません
ご本人あるいはご家族のご了解を得たものの
が、不快な対応をしたことをお詫び致します。
み放映を許可しています。ですから了解を得
申し訳ございません。患者様の通信については
られるのは10から5人に1人くらいです。
人権上大変重要なことだと認識しており、看護
それを押しても要求があれば撮影に協力する
者への教育も徹底しておりますが、今回のご指
のはさわ病院の宣伝のためなどではなく、精
摘ではそのことが周知できていなかったと思
神医療の過去の密室性を打破して、だれでも
います。通信に関しては最優先でお知らせする
心の病は持つものであること、調子が悪い人
ことを徹底していきます。また、電話では受け
もほとんどの人は早期に改善して社会に帰っ
たものがまず名前を名乗ることになっており
ていくことを国民に理解してもらうためです。
ますが、それもできていなかったとのご指摘で
他の精神科医療機関が協力を拒むためさわ病
す。この2件につきまして、このご意見を教訓
院に集中して取材に来るものと思います。個
に病棟スタッフの教育を徹底していきます。貴
人個人でカメラを向けないでくれと取材の人
重なご意見ありがとうございました。(看護部
あるいは当院職員に言っていただければと思
病棟師長)
います。
AM9:00〜10:00に限定さ
Q:薬が遅いので、番号電気表示式に変えた
れているが、あれはおかしいと思う。薬だけな
らいかがでしょうか。そしたらいつでももら
らいつでももらえるという風にするのがいい
いに行きます。
と思う。
A:外来にお見えになる患者様の数により待
A:薬だけというのは禁止です。お急ぎでお
ち時間に差が出ており、大変ご迷惑をお掛け
変わりのない方ということであの時間帯に主
しております。番号表示式についてはシステ
治医がいて原則3回に2回と限定しています。
ムの変更が必要となりすぐの変更は難しいと
Q:薬だけの場合
考えられます。番号表示の変わりに窓口に事
Q:私がかかっている深尾先生は朝の8時前か
務員がおりますのでご遠慮なく声をお掛け下
ら診察をしているというのにここの外来の看
さい。(薬局)
護 師は楽 な仕 事をし てい ると思 う。時間 通り
に来て、(9時〜)まあ、3時には仕事が終わ
Q:受付番号042番号はあまりにもよくな
る でしょ う。それ でいい 給料を 貰っ ている と
い。日本人はきらいな番号なので取り消して
言 うのは 非合 理的だ と思 います 。そ れに医 師
0 は頭、④は死、②はにくい番号。
ほしい。○
よりも看護師の方が偉そうにしていると感じ
A:昔は階数の4階、9階、部屋番号の4号
ます。
室、9号室などもなかった時もあったようで
A:就労時間は原則9時で、一部の医師が時
すが余計に数字としての間隔が分からなくな
間内に終わらないから前倒しで朝早くから診
るためそのままとしていますし、それが多く
察しています。それにあわせて一部の看護師
なっていると思います。
が早出をしているので楽な仕事をしているの
ではありません。
(10)
2007年 6月10日発行
Q:休むところを作っていただきたいと思い
「時間」
ます。休息所がなくなったので、横になるとこ
ろを。(ほくとクリニックご意見箱)
岩佐
徹
A:現在外来数が多くなり、2診制としたた
現在、地球上では、平均太陽時を使用して
め休憩室がなくなってしまいました。来年9
いる。地球の一点がその自転により一周もと
月に建て変わりましたら用意しています。し
の位置に戻って来るものとして、24時間と
ばらくお待ちください。
決めている。実際には、少し遅れるわけで、
そのために閏秒や閏日(2月29日)などを
Q:仕事の都合で土曜日しか伺う事ができま
せん。土曜日は日によって担当医が変わられ
ますが、違う担当医の週にお伺いした際に、
前の担当医と違うから薬を変更したりするの
はご自分の判断では難しいから担当医を決め
て 下さい との ことで した 。そ の日の 都合で そ
の時に行けないこともあるのでこちらとして
は担当医が変更になっても引継をしていただ
ければ幸甚ですが、それは難しいのでしょう
か?又、土曜日も竹田先生に入って頂ければ
嬉しいのですが。
( ほくとクリニックご意見箱)
A:竹田医師は以前より担当を増やしてもら
設けて、天体に合わそうとする。
平均太陽時は、赤道上を太陽が平均のスピ
ードで以て移動すると仮定している。本当は、
横道と赤道との傾きが約37.5度であるか
ら、太陽の動きは、平均的でなく、その時間
を視時として平均太陽時とは差のある概念が
別に存在する。
球状の地球をその一地点の表現のために座
標で表す方法を採る。即ち、北極南極の軸を
縦とするならば、縦の線を経度、またの名を
子午線とし、横の線を緯度とする。経度は、
っています。土曜は無理かと思います。土曜
イギリスのグリニッジ天文台を0度として東
日もできるだけ担当医を固定する方向で考え
に180度、西に180度互いに太平洋上の
たいと思っています。
日付変更線まで計360度とする。緯度は、
赤道0度から北へ南へと極点90度となる。
Q:いごこちのいいイスをおいて下さい。な
従って、北緯90度、南緯90度は、点なの
がいあいだすわってたらおしりがいたいです。
だ。これらの決め事は、イギリスがこの時間
(ほくとクリニックご意見箱)
A:申し訳ありません。早急に考慮いたします。
Q:本院の電話の保留音の音楽が待っていて
イライラするのでソフトな音に変えて下さい。
の概念を最初に発見、取り入れたからで、日
本が最初ならば、経度0度は、日本列島のど
こかであったはずで、残念な気もする。
たいていの人は、朝に太陽が昇るときに目
(ほくとクリニックご意見箱)
を覚まし、夜、太陽が沈んでから眠りに就く。
A:ほくとクリニック通院の方からのご意見
この生活習慣とほぼ合わすために地球上の各
ですが、本院の保留音でしょうか?本院の保
国は、時差と称して独自の使用時間を持つ。
留音はさわ病院の院歌を流しています。この
360度÷24時間=15度、即ち経度15
評価としてはよいというご意見も戴いていま
度の差が1時間の割で、例えば、日本は、イ
す。むしろ長くお待たせする方が問題と思い
ギリスより135度東にあるから9時間(1
ます。この点はさらに改善するように指示い
5度×9時間=135度)早く太陽が出るた
たします。
めに時差プラス9時間。ハワイは、150度
*意味不明のもの、解読できないものについては
西にあるから10時間(15度×10時間=
割愛させていただきます。ご了承ください。
150度)遅く太陽が出るために時差マイナ
2007年 6月10日発行
(11)
ス10時間(サマータイムは別にして)を使
回開催されました。この勉強会は講師を職員
用する。
様が毎回交替でご担当くださり、ご指導をう
この時間の概念のある人間は、自己の考え
出した行動の基準から逃れられないにしても
けております。今年も5回開催予定でありま
す。
さわ病院家族会第17回総会が、平成19
時には時を忘れ、のんびり過ごすこともスト
レス解消などに必要だろう。
以上
(御意見箱への投書より)
年4月1日に開催され今年度の役員が次の通
り選出されました。
会
長
石原一生
副 会 長
吉岡伸二
・しんしは白いハンカチを持っている。
会
計
武市国子
・人に生まれて
会計監査
中山梅子
書
記
石原玲子
委
員
魚田光子、砂田節子、玉置永子、
ルート66
人を愛し
知ってしまった
生きる痛み
(御意見箱への投書より)
吉田松枝
顧
*家族会だより*
さわ病院家族会
第17回総会が開催された
問
アドバイザー
澤
院長
杉本SW
◇平成19年度さわ病院家族会への入会・継
続のご案内を、只今行っています。お申込
の程、宜しくお願い致します。平成18年
度の会員数は45名でした。
さわ病院家族会
会長 石原一生
◇毎週、火、土曜日の午後1時〜3時まで、
さわ病院家族会は平成3年4月、①家族の
役員が家族会室〔グリーンハイツ208号
悩みの分かち合い、②体験の交流、③本人へ
室(北斗会看護専門学校うら)〕に居ます
の対応の仕方の工夫、④家族の親睦を目的と
ので、気軽にお立寄り下さい。
して、さわ病院に通院・入院中、又、さわ病院
関連の施設を利用中の患者の家族で、組織さ
第46回勉強会について
れて発足しました。そして今年の4月で17
家族会
年目を迎える事ができました。これは院長先
生をはじめ職員様各位のご指導、ご支援、家
日時
平成19年2月4日(日)
族の皆様のご協力のお陰で、厚くお礼申し上
演題
当事者への対応について
げます。
講師
新井先生
先ず、統合失調症の基礎知識として、①精
家族会活動は。
神科入院患者の中で最多の疾患。②精神科の
家族懇談会を、ロータスクラブ行事終了後、
病気の中でも最も偏見が強く、理解されにく
午後3時〜5時まで開催しています。懇談会
い病気。③しかし犯罪率、再犯率は健常者に
では、情報や意見の交換、行事の打合せ、息
比べ統計的に低いと云われている。④100
抜きの雑談、勉強会を実施しています。平成
〜120人に1人の割合で見られる。⑤糖尿
10年1月から始まった勉強会は、既に46
病や高血圧のように『一生つき合う(お薬を
(12)
2007年 6月10日発行
続けてコントロールする)病気』である。当
新井先生が、纏めれらた資料があります。ご
事者が抱えやすい問題として、①最多の発病
入用の方は家族会(毎週、火、土曜日の午後
時期が思春期〜30代と若い。②特に教育段
1時〜3時)へお申し出ください。
階にあった時期の発症者は人格変化を起こし
やすい。③自閉で始まる事が多く、不登校や
仕事が長続きしないことで社会経験が少なく
なりがち。④友人も少ない事が多い。再発の
サインを見逃すなとして、食欲が無くなる。
生活のリズムが崩れる。そわそわと落ち着き
*ロータスクラブの
ご案内*
★行事予定は次の通りです。
2007.8.4(土)
第19回中豊島夏まつり
※雨天時は8月5日(日)
が無くなる。ひきこもりがちになる。突然、
活動的になる。等々、『いつもと違う?』に
気付くことが早期受診・早期解決につながり
ます。
2007.10.14(日)運動会
家族の心構え10か条
①ゆっくり急がずにいきましょう。
②当事者の話は最後まで聞く。
③当事者にわかるよう、話は簡潔にはっ
きりと。
④当事者と一緒になって興奮しない。
⑤変えられないことは無視してOK。
⑥家族は従来どおりの日課で過ごしま
しょう。
⑦家族が一息つける時間・場所を作りま
しょう。
⑧再発のサインを知りましょう。
⑨問題解決は一歩ずつ、長い目で見守
ることが肝心。
⑩様子がいつもと違ったら、早目に主
治医に。
主な質問
◇当事者がなかなか周囲の人にわかってもら
えない、どうしたら良いか。
◇入院について。
◇定期的検査について。
*原稿募集*
皆さんからのご投稿は御意見箱にてお待ち致
しております。備え付けの「医療法人北斗会
へのご意見」用紙にご記入下さい。用紙の下
段に掲載のご意向を記入していただいたご投
稿についてこの紙面にて回答させていただき
ます。
尚、一つのご意見につき400字以内にお
さめて下さい。また、多数お寄せ戴いた場合
には、順番に掲載させていただきますのでご
了承ください。
********************
*
*
ロータス
医療法人北斗会広報 *
*
*
*
*
第94号
2007年 6月10日発行 *
*
*
* 発行責任者:理事長 澤
温
*
*
*
* 編集担当者:鹿島 裕未
*
*
*
* 印刷所:ロータスアート 印刷部
*
*
*
********************