生徒の能動的な「詩」の解釈の授業実践

平 成 27年 度
教科リーダー養成講座(高等学校)
実践記録
生 徒 の 能 動 的 な 「詩 」の 解 釈 の 授 業 実 践
~現代文B
「汚 れ つ ち ま つ た 悲 し み に … 」「耳 の 秋 」「未 確 認 飛 行 物 体 」を 題 材 に ~
新潟県立久比岐高等学校
授業者
教諭 山田 晶子
Ⅰ
はじめに
現代文・古典ともに散文には比較的興味を持ち意欲的に取り組むが、韻文になると興味
を 失 っ て し ま っ た り 、 受 動 的 に 「答 え を 覚 え る 」だ け に な っ た り し て し ま う 生 徒 の 姿 に 課 題
意 識 を 持 っ て い た 。 ま た 、 自 分 で も 韻 文 (詩 歌 )の 指 導 に つ い て ど う ア プ ロ ー チ す れ ば よ い
か模索中である。
そこで、本実践では魅力ある韻文の学習法について研究することとした。具体的には、
「グループ活動」を通じて生徒が作品に興味・関心を持ち、作品に能動的に関わり、読み
取ったことや感じたこと、想像したことを自分の言葉で適切に表現し、分かりやすく伝え
られるようになることを目標とし、導入や発問、学習形態などの授業改善を図った。
Ⅱ
学習指導案
1
日
時
平 成 27 年 11 月 25 日 ( 水 )
2
対
象
普 通 科 (チ ャ レ ン ジ コ ー ス ) 3 年 1 組
3
実施場所
3年1組教室
4
実施科目
現代文B
5
使用教科書
『明解
6
単元・教材
7
本教材の目標
(1)
(2)
(3)
8
第3校時
10: 50 ~ 11: 40( 50 分 間 )
35 人 ( 男 子 20 人 、 女 子 15 人 )
現 代 文 B 』( 三 省 堂 )
グループで想像をめぐらせ、詩の世界を味わおう。
『 詩 』 1 「汚 れ つ ち ま つ た 悲 し み に … … 」 (中 原 中 也 )
2 「耳 の 秋 」 (新 川 和 江 ) 3 「未 確 認 飛 行 物 体 」 (入 沢 康 夫 )
詩を読んで、情景、心情などを的確にとらえ、表現を味わおうとする。
(関 心 ・ 意 欲 ・ 態 度 )
詩 を 読 ん で 、 情 景 、 心 情 な ど を 的 確 に と ら え 、 表 現 を 味 わ う 。( 読 む 能 力 )
表 現 の 特 色 及 び 言 語 の 役 割 な ど を 理 解 す る 。( 知 識 ・ 理 解 )
生徒の実態
高 校 の 「国 語 総 合 」や 「現 代 文 」の 授 業 で は 散 文 を 多 く 扱 う た め 、 小 ・ 中 学 校 の 頃 よ り も 韻
文に触れる機会が少なくなっており、興味や関心が高まらない状況にある。
生 徒 に 「詩 」に 興 味 ・ 関 心 を 持 た せ る た め に 、 本 実 践 で は 、 ま ず は 「詩 」と は ど の よ う な も
の か (= 詩 の 特 徴 )を 理 解 さ せ た 上 で 、 作 品 に 能 動 的 に 関 わ り 、 感 じ た こ と や 想 像 し た こ と
を自分の言葉で適切に表現し、分かりやすく伝えられるよう学習を進める。
今 回 は 、 技 法 の 中 で も 教 材 文 に 用 い ら れ て い る 「く り 返 し 」と 「比 喩 」に つ い て 理 解 し た 上
で グ ル ー プ で 「問 い 」に 対 す る 答 え を 考 え 、 意 見 を 交 換 し な が ら 想 像 を め ぐ ら せ 、 詩 の 世 界
を味わわせたい。
今 回 は 3 つ の 詩 を 取 り 上 げ る が 、学 習 後 に 自 分 が 最 も 気 に 入 っ た 作 品 を 生 徒 が 1 つ 選 び 、
学習の成果を生かして作品の魅力や面白さを紹介する鑑賞文を書く。
9
教材について
3 つ の 作 品 と も 、 平 易 で わ か り や す い 表 現 (こ と ば )を 用 い て お り 、 想 像 す る 楽 し さ を 感
じられる作品である。七五調のリズム、くり返し、比喩、擬人法などの表現技法を理解さ
せるとともに、それらの表現が作品に与えている豊かなイメージを考えさせたい。そして
「詩 」に 興 味 ・ 関 心 を 抱 き 、 自 ら 想 像 力 を 働 か せ て 詩 の 世 界 を 味 わ え る 学 習 者 の 育 成 を 目 標
としている。
10
単元の評価規準
ア
関心・意欲・態度
イ
読む能力
ウ
知識・理解
①詩を読んで、情景、心情な ①詩を読んで、情景、心情などを的確に ①表現の特色及び言語の役
どを的確にとらえ、表現を
とらえ、表現を味わっている。
割などを理解している。
味わおうとしている。
11
時
1
2
3
(
本
時
)
4
5
指導と評価の計画(全8時間)
各時間の目標
学習活動
評価規準
評価方法
・ 「詩 」と は 何 か (「詩 」の ① 様 々 な 詩 を 例 に 、 「詩 」の 特 ・ 表 現 の 特 色 及 び 言 語 「 行動 の 観察 」
特 徴 )を 理 解 す る 。
徴を考える。
の役割などを理解し
② 「詩 」を 詩 た ら し め る 表 現 の
て い る 。( 知 識 ・ 理 解 )
特徴を理解する。
・ 「く り 返 し 」の 効 果 を 考 ① 「 く り 返 し 」 を 用 い た 詩 を 音 ・ 詩 を 読 ん で 、 情 景 、 「行 動 の 確 認 」
え、理解する。
読し、その効果を考える。
心 情 な ど を 的 確 に と 「記 述 の 確 認 」
らえ、表現を味わお
・ 「比 喩 」 の 面 白 さ を 味 わ ② 「 直 喩 」 と 「 隠 喩 」 の 効 果 を 考
うとしている。
う。
え、その面白さを味わう。
(関 心 ・ 意 欲 ・ 態 度 )
・ 入 沢 康 夫 「 未 確 認 飛 行 ① 「未 確 認 飛 行 物 体 」と い う 言 ・ 詩 を 読 ん で 、 情 景 、 「 記述 の 確認 」
物 体 」を 読 み 、 題 名 と
葉からイメージするもの
心 情 な ど を 的 確 に と 「行動の確認」
扱われているモノのギ
と、実際に扱われているモ
らえ、表現を味わっ
ャップの面白さを味わ
ノ (= 「薬 缶 」)を 比 較 し 、 な
て い る 。( 読 む 能 力 )
う。
ぜ 「薬 缶 」な の か を 考 え 、 ギ
ャップの面白さを味わう。
② グ ル ー プ に な り 、 「薬 缶 」が
夜ごと抜け出して何をして
いるのか、想像する。
③ 「白 い 花 」の イ メ ー ジ を 考
え 、 「薬 缶 」の 行 動 の 意 味 を
考える。
・ 中 原 中 也 「 汚 れ つ ち ま ① ど の よ う な 時 に 「悲 し み 」を ・ 詩 を 読 ん で 、 情 景 、 「 行動 の 確認 」
つ た 悲 し み に … … 」を
感 じ る か を 考 え 、発 表 す る 。
心情などを的確にと
読 み 、 「悲 し み 」 と は 何 ② 詩 を 音 読 し 、 初 読 の 印 象 や
らえ、表現を味わっ
なのか、想像をめぐら
詩の特徴、表現の工夫を考
て い る 。( 読 む 能 力 )
せて詩を味わう。
える。
③ グ ル ー プ で 「悲 し み 」と は 何
か に 対 す る 「答 え 」を 考 え 、
主題の持つ魅力を味わう。
時
6
7
8
各時間の目標
学習活動
評価規準
評価方法
・ 新 川 和 江 「 耳 の 秋 」を 読 ① 詩 を 音 読 し 情 景 を 想 像 す
・ 詩 を 読 ん で 、 情 景 、 「記述の確認」
み 、 「日 常 」か ら 「宇 宙 」
る。
心 情 な ど を 的 確 に と 「行動の確認」
や 「過 去 ・ 未 来 」 へ の 飛 ② 日 常 生 活 の 中 で 、 「 宇 宙 」 や
らえ、表現を味わっ
躍の面白さを味わう。
「過 去 ・ 未 来 」の こ と を 考 え
て い る 。( 読 む 能 力 )
る こ と は あ る か 、あ っ た ら 、
それはどのような時に、何
がきっかけとなるか、につ
いて意見を交換する。
③ グ ル ー プ で 「問 い 」(= 「耳 の
記 憶 」と は 何 か )に 対 す る
「答 え 」を 考 え 、 想 像 を め ぐ
ら せ な が ら 「日 常 」か ら 「宇
宙 」や 飛 躍 の 面 白 さ を 味 わ
う。
・ 学 習 し た 3 つ の 作 品 の ① 3 つ の 作 品 の 中 か ら 、 最 も ・ 表 現 の 特 色 及 び 言 語 「記 述 の 分 析 」
中から最も気に入った
気に入ったものを1つ選
の役割などを理解し
ものを1つ選び、鑑賞
ぶ。
て い る 。( 知 識 ・ 理 解 )
文を書く。
② 「な ぜ 気 に 入 っ た の か 」「 ど
こが気に入ったのか」をワ
ークシートに記入する。
③ワークシートをもとに、作
品の魅力が読み手に伝わる
よう鑑賞文を書く。
12
本時の計画(全8時間中の3時間目)
(1) 目 標
・ 「未 確 認 飛 行 物 体 」と い う 題 名 で 「薬 缶 」が 扱 わ れ て い る 理 由 を 考 え 、 ギ ャ ッ プ に 気 づ
き、面白さを味わう。
・ 「薬 缶 」が 夜 ご と 台 所 か ら 抜 け 出 し て 何 を し て い る の か を 想 像 す る 。
(2) 展 開
時間
導入
10分
学習活動
指導上の留意点
評価の実際
① 「未 確 認 飛 行 物 体 」 と い ① 詩 の 題 名 だ け を 提 示 し 、 生 徒 に 自
う言葉からイメージす
由に発言させる。
るものを挙げる。
② 「 薬 缶 」 と 「 未 確 認 飛 行 ② 第 1 連 の 「薬 缶 」の 部 分 を 空 欄 に し
物 体 」の イ メ ー ジ の ギ
たものを提示し、何が入るか考え
ャップの面白さを味わ
さ せ る 。 → 第 2 連 「薬 缶 」 を 空 欄 に
う。
し た も の を 提 示 し 、前 後 の 表 現 (言
葉 )か ら 考 え さ せ る 。
③ な ぜ 「 薬 缶 」な の か を 考 ③ こ の 時 、 答 え が 出 な く て も 良 い こ
える。
ととする。
【個人→グループ活動】
④ 第 2 連 ま で 読 み 、 「薬 ④個人で、考えたことや想像したこ
缶 」が な ぜ 「夜 ご と 、 こ
とを付箋に記入する。
展開
つ そ り 台 所 を ぬ け 出 」 ※ 「薬 缶 」 の 形 状 や 特 徴 、 イ メ ー ジ も
Ⅰ
すのかを想像する。
参考にさせる。
⑤グループで考えを交換 ⑤詩の表現を根拠にして、意見を交
15 分
しあい、前後の表現や
換させる。→第3連の途中まで提
「薬 缶 」の 形 状 か ら 「薬
示し、答えをまとめさせる。
缶 」の 行 動 の 理 由 を 考
え、ワークシートに記
入する。
「行動の確認」
「記述の確認」
・ 個 人 の 考 え を 「付 箋 」に 書
いているかを評価する。
・詩中の表現を根拠にして
ワークシートに記入して
いるかを評価する。
【全体活動】
「行動の観察」
⑥各グループで出た意見 ⑥他のグループの意見で、面白いと
を発表し、全員で共有
思ったものや共感したものをメモ
展開
する。
するよう指示する。
Ⅱ
⑦最後まで作品を読み、
「謎 」(= 薬 缶 の 行 動 の
15 分
意 味 ・ 目 的 )を 解 明 す
る。
⑧ 「白 い 花 」が 暗 示 し て い ⑧ 「 白 」 と い う 色 の イ メ ー ジ や 詩 中 の
るものは何かを考える。
表 現 を 参 考 に し て 「 白 い 花 」が 暗 示
しているものを考えさせる。
⑨ 「謎 」 が 解 け た 後 、 最 初
から作品を読み、なぜ
「薬 缶 」が 題 材 と し て 選
ばれたのかを再度考
まとめ
え、ワークシートに記
入する。 →提出
10分
【目指すゴール】
「記述の確認」
・ UFO と 薬 缶 の 共 通 点 と 相 違 点 や 、
「薬 缶 だ つ て 、 空 を 飛 ば な い と は か
ぎ ら な い 」 と い う 表 現 を も と に 、 「作
者 が 『 常 識 』 や 『 思 い 込 み 』 (= 想
像 力 の 欠 如 )に 対 し て 疑 問 を 投 げ か
け て い る で は ? 」と い う 意 見 が 出 る
のが望ましい。
※次回、生徒の意見を紹介し、前時
を振り返らせる。
(3) 評 価
※ 「努力を要すると判断される」生徒への指導例
本時の評価規準
「努力を要すると判断される」状況の例
詩を読んで、情景、心情な ・自分の考えや想像したことを付箋に
どを的確にとらえ、表現を
記入できない。
味 わ っ て い る 。 (読 む 能 力 )
具体的な指導の手立て
・ 机 間 指 導 を 通 し て 、 「薬 缶 」
の形状や特徴、イメージも
参考にするようアドバイス
す る 。 (単 語 や 絵 で も 可 と
する。)
・グループ内で自分の考えを発表でき ・各自が記入した付箋を出し
ない。
合い、似た内容同士でまと
め て み る (グ ル ー ピ ン グ す
る )よ う ア ド バ イ ス す る 。
Ⅲ
授業の実際
〔 生 徒 の 意 見 (一 部 抜 粋 )〕
【 問 1 】「薬 缶 」が 「夜 ご と 、こ つ そ り 台 所 を ぬ け 出 」す の は 何 の た め か ?〈 グ ル ー プ 活 動 〉
(1 班 )
(2 班 )
(3 班 )
(4 班 )
(5 班 )
(6 班 )
「色 々 な 所 に 雨 を 降 ら し に 行 っ た か ら 。 」
「水 を 必 要 と す る 人 、 動 物 、 花 、 畑 な ど に 水 を 与 え に 行 く た め 。 」
情景や目的
「花 に 水 を あ げ に 行 っ て い る 。 」
を想像して
「雨 を 降 ら す た め 。 」
いる。
「雨 を 降 ら し に 行 く た め で あ る 。 」
「も う リ ス ト ラ だ と 悟 っ た か ら 、 自 分 か ら 出 て 行 っ た 。 (水 は 、 悲 し み の 涙 )」
【 問 2 】 「白 い 花 」と は 、 何 を 表 し て い る の か ? 〈 個 人 活 動 〉
・好きな人。
・大切な人。/大切な恋人。
・作者が高校生時代に恋をした、若い女の先生。
・自分の子ども。
花 に 水 を や る こ と は 育 て る こ と だ か ら 、薬 缶 が 親 で 白 い 花 が 子 ど も 。
・病気の女の子。
・純粋な女の子。/純潔な女性。
・ 固 有 の 色 を 持 っ て い な い 人 (女 )。 薬 缶 は 男 。
・白いマグカップ。/白いカップ。
・純白のカップラーメン。
・はかない希望。/最後の希望。
●番外編●
・メス薬缶の墓。
擬人化
している。
具 象 を 思 い 浮 か べ 「薬 缶 」か ら 「 注 ぐ 」
/ 「注 が れ る 」(2 者 )の 関 係 を 指 摘 し て い る 。
→
「自 分 の 内 側 に あ る も の 」に 抽 象 化 し て い る 。
【 問 3 】 な ぜ 、 「未 確 認 飛 行 物 体 」の 題 材 に 「薬 缶 」が 選 ば れ た の か ? (作 者 の 意 図 )
〈個人活動〉
・愛情を注げるから。
・薬缶は大きく、水がいっぱい入るから。
・砂漠には水がたくさん必要だから。
・ 薬 缶 の 形 が 「じ ょ う ろ 」に 似 て い る か ら 。
「薬 缶 」の 「形 」・ 「用 途 」に 着 目 。
… 「な ぜ 薬 缶 な の か ? 」と い う 問 い
(モ チ ー フ に 迫 る )に 繋 が っ て い る 。
・ や か ん は 「薬 缶 」と 書 く こ と か ら 、 一 輪 淋 し く 咲 い て い る 白 い 花
に元気を与えるため。
・ 薬 缶 (の 水 )は 温 か い か ら 。 / 弱 っ て い る 花 を 元 気 に す る た め 。
「薬 缶 」と い う
漢字に着目し、
情景を想像して
いる。
・ 病 気 の 女 の 子 (白 い 花 )に 薬 を あ げ て い る 。
「花 」と の 対 比 方 略 を 使 い 、
・ ど こ に で も あ り ふ れ た 物 で 、 「花 」と 比 べ る と 不 格 好 だ が 、 「薬 缶 」の モ チ ー フ を
遠いところまでわざわざ水を運んでいる健気な様子を
説明しようとしている。
際立たせるため。
・ 「未 確 認 」な ん だ か ら 、 自 分 の 想 像 で い い 。
(作 者 の UFO の イ メ ー ジ は 「薬 缶 」)
Ⅳ
「題 名 」と 関 連 さ せ 、 メ タ 思 考 を 働 か
せている。
実践の考察とまとめ
実 践 で は【 問 1 】に つ い て は 各 グ ル ー プ の 意 見 を 全 員 で 共 有 で き た が 、
【 問 2 】・【 問 3 】
についてはワークシートに記入後、提出させるという形をとった。実践後の授業で全員の
意見をプリントに掲載し、他の生徒の意見を知った上でもう一度考えさせてみた。
【 問 2 】:「 薬 缶 」と 「白 い 花 」の 関 係 を 、 絵 を 使 っ て ま と め る 。
→ 「注 ぐ も の 」と 「注 が れ る も の 」の 関 係 に 気 づ く 。 = 「何 を ? 」→ 「愛 情 」
→ 「保 護 す る も の 」と 「保 護 さ れ る も の 」と い う 関 係 に も 言 い 換 え ら れ る こ と に 気 づ
い た 。〈 思 考 の 深 ま り 、 広 が り 〉
【 問 3 】: 「薬 缶 」 が 題 材 と し て 選 ば れ た 理 由 を 、「 薬 缶 だ つ て 、 空 を 飛 ば な い と は か ぎ
ら な い 」と い う 言 い 方 (表 現 )に 着 目 し て 考 え る 。
→ 「薬 缶 は 空 を 飛 ば な い 」と い う こ と が 前 提 (常 識 )と な っ て い る こ と に 気 づ く 。
→ 「薬 缶 」と 「 UFO 」の 共 通 点 ・ 相 違 点 を 挙 げ て み る 。 (形 、 色 、 素 材 、、、 )
→ 数 あ る 「モ ノ 」の 中 か ら 、 作 者 が 「薬 缶 」を 選 ん だ 理 由 ・ 意 図 は 何 か を 考 え る 。
〈論理的思考やメタ思考のきっかけ〉
本 実 践 を 通 し て 、 「ゴ ー ル 」と し て 目 指 し た こ と は 次 の 2 点 で あ っ た 。
① 「薬 缶 だ つ て 、 空 を 飛 ば な い と は か ぎ ら な い 」と い う 表 現 か ら 、 生 徒 が 「作 者 は 世 間 の
『 常 識 』 や 『 思 い 込 み 』 に 対 し て 疑 問 を 投 げ か け て い る の で は ? 」と い う こ と に 気 づ
く 。〈 表 現 か ら 作 者 の 意 図 を 考 え る 〉
② 生 徒 が 「答 え は 1 つ (唯 一 解 )で は な い 。 し か し 、『 型 』 (= 根 拠 )は あ る 。 」と い う こ と
を 理 解 す る 。 (→ 他 の 作 品 ・ 単 元 に も 生 か せ る 。 )〈 論 理 的 思 考 、 メ タ 認 知 〉
本実践を通して、目標は概ね達成できたと感じている。しかし、特に②に関しては今後
も 授 業 を 通 じ て 生 徒 の 理 解 を 深 め さ せ 、 様 々 な 問 題 を 生 徒 が 自 分 (た ち )の 力 で 解 決 で き る
よ う な 「ア ク テ ィ ブ ラ ー ニ ン グ 」を 実 践 し て い き た い 。
実践を通して、生徒だけでなく、本校の職員にも様々な変化が見られた。
〔生徒の変化〕
実 践 前 : 授 業 は 「教 師 - 生 徒 」の 「タ テ の や り と り 」が 中 心 。 ス ム ー ズ に 進 む が 、 生 徒 に と
って刺激が少ない。
→ 授 業 に 集 中 で き な い 生 徒 (居 眠 り を す る 、 私 語 を す る )や 、 「休 ん で も 、 人 か ら 借 り て
写 せ ば い い 」と 考 え る 生 徒 (主 体 的 な 学 び 意 識 に 乏 し い )が 多 か っ た 。
実 践 後 : 授 業 は 「生 徒 - 生 徒 」の 「ヨ コ の や り と り 」が 生 ま れ た 。 困 っ た 時 は 、 互 い に 助 け
合 う 姿 が 見 ら れ る よ う に な っ た 。 (主 体 的 ・ 協 働 的 な 学 び と 意 欲 の 向 上 )
→ 居 眠 り が 減 り 、 休 み 時 間 や 放 課 後 も 「授 業 の 話 」を し て い た 。
意見を発表し合うことで、他の人の優れた意見に驚き、感動する生徒がいた。
「先 生 、 ○ ○ さ ん っ て す ご い ん で す ね ! 」、「 グ ル ー プ 活 動 、 も っ と や っ て ! 」
〔本校職員の変化〕
実 践 前 : 「う ち の 学 校 で は 、 ア ク テ ィ ブ ラ ー ニ ン グ な ん て 無 理 。 」
(授 業 改 善 に 後 ろ 向 き な 意 識 )
実 践 後 : 「生 徒 の 活 発 な 活 動 に 、 感 動 し た ! 」
「 50 分 間 、 集 中 力 が 途 切 れ な か っ た ね ! 」
「『 白 い 花 』 っ て 、 何 を 意 味 し て い る の ? な ん で 『 薬 缶 』 な の ? 」
「普 段 見 る こ と の で き な い 、 生 徒 の 意 外 な 姿 が 見 ら れ た 。 」
「私 の 授 業 で や る と し た ら 、 ど ん な や り 方 が あ る ん だ ろ う ? 教 え て ! 」
→ 生 徒 の 生 き 生 き と 活 動 す る 姿 に 驚 き 、 感 動 し 、 自 分 も 「ア ク テ ィ ブ ラ ー ニ ン グ 」を や っ
て み た い と 考 え る 人 が 出 て き た 。 「他 人 事 」か ら 「我 が 事 」へ 、授 業 改 善 意 識 の 広 が り 。
〔まとめ〕
本実践に至るまで、様々な取り組みをしてきた。人間関係を築くことに困難を感じてい
る生徒が多く、たとえ同じクラスでも自分の考えを発表したり、一緒に活動したりするこ
とに抵抗を感じる場合が多い。そのため、授業でも段階を踏んでグループ活動をさせ、意
義ややり方を理解させながら取り組ませる工夫を行った。具体的には、問いに対してまず
付 箋 に 自 分 の 考 え を 書 か せ 、 グ ル ー プ で そ れ を 紹 介 し 合 い 、 「同 じ 考 え や 似 て い る 考 え 」と
「全 く 違 う 考 え 」に 分 け さ せ 、 そ れ を も と に 話 し 合 い で グ ル ー プ の 意 見 を 1 つ に し ぼ る 、 と
いう手順で行った。最初は話し合いに至るまで時間がかかり、なかなかうまく進められな
か っ た 。 し か し 、 「な ぜ 、 グ ル ー プ 活 動 を 行 う の か ? ど の よ う な メ リ ッ ト が あ る の か ? 」
を説明してから再度行うと、生徒は見違えるように活発に活動するようになった。このこ
と か ら 、 生 徒 に 「な ぜ 、 何 の た め に 」そ の 活 動 を す る の か を 理 解 さ せ 、 ゴ ー ル を 意 識 さ せ て
取り組ませることが大切だと実感した。
「ア ク テ ィ ブ ラ ー ニ ン グ 」を 取 り 入 れ て か ら 、 以 前 に 比 べ て 意 欲 的 に 授 業 に 取 り 組 む 生 徒
が 増 え た よ う に 感 じ て い る 。 「自 分 1 人 で は 解 決 で き な い こ と も 、 周 り の 人 と 協 力 す れ ば
解 決 で き る 」と い う こ と に 気 づ き 、 「ど う や っ て 答 え を 導 く か 」と い う 「過 程 」に 「快 感 」や 「楽
し み 」を 覚 え た 生 徒 も い る よ う だ 。 グ ル ー プ 活 動 後 は 生 徒 同 士 の 会 話 も 増 え 、 ク ラ ス の 雰
囲気も良くなった。また、以前は自分の考えに自信を持てなかった生徒も、グループ活動
で共感してもらったり認めてもらったりしたことで、自信を持って発言したり考えを書い
た り す る こ と が で き る よ う に な っ て き た 。 さ ら に 、 他 の 生 徒 の 発 表 を 「聞 く 側 」の 生 徒 に も
変 化 が 見 ら れ た 。 教 員 が 「生 徒 が 聞 き 取 り や す い 声 ・ 話 し 方 」で 話 し て も あ ま り 聞 い て く れ
な か っ た 生 徒 が 、 同 じ ク ラ ス の 生 徒 が 「小 さ な 声 」で 発 表 し て い る 時 に は 私 語 を や め 、 耳 を
澄 ま せ て 懸 命 に 聞 い て い る の で あ る 。 そ の 発 表 者 が 親 し い 間 柄 で あ る 場 合 は 、 「も う 少 し
大 き な 声 で 話 し て く だ さ い 」、 「体 を 前 に 向 け て 話 し て く だ さ い 」な ど と 生 徒 同 士 で 指 摘 す
る こ と も あ っ た 。 す る と 、 指 摘 さ れ た 生 徒 は そ の 声 に 応 え る よ う に 、 前 (聞 き 手 の 方 )を 向
いて大きな声で発表するようになったのである。一度そのようなやりとりがあると、その
後の発表者も同じように聞き手を意識し、発表の仕方を工夫するようになった。授業後の
生 徒 の 感 想 に も 、 「グ ル ー プ 活 動 で 他 の 人 の 考 え や 、 自 分 と 違 う 意 見 を 聞 く こ と が で き て
視 野 が 広 が っ た 」と い う も の だ け で な く 、 「発 表 す る こ と で 、 ど の よ う に 話 せ ば 相 手 に わ か
り や す く 伝 わ る か を 意 識 す る よ う に な っ た 。 い い 経 験 に な っ た 」な ど 、 こ ち ら の 期 待 以 上
の意見が多く書かれていた。
こ の よ う に 、 「ア ク テ ィ ブ ラ ー ニ ン グ 」に は 多 く の メ リ ッ ト が あ っ た 。 第 1 に 、 生 徒 の 自
己 肯 定 感 が 高 ま っ た と い う こ と で あ る 。 実 際 、 今 ま で 「テ ス ト 」で 思 う よ う な 点 数 が 取 れ な
いことから学習に対する意欲が湧かず、劣等感を感じていた生徒が、自分の考えを認めら
れ て 目 を 輝 か せ る 場 面 を い く つ も 見 る こ と が で き た 。 ま た 、 今 ま で 「テ ス ト 」で は 良 い 点 数
を取れるが独りよがりな言動をとりがちな生徒も、他の生徒と互いに意見交換をしたり教
え 合 っ た り す る こ と で 「他 者 」を 受 け 入 れ る 柔 軟 さ や 寛 容 さ が 見 ら れ る よ う に も な っ た 。
第 2 に 、 生 徒 の 授 業 へ の 期 待 が 高 ま り 、 学 習 意 欲 が 向 上 し た こ と で あ る 。 「今 日 は 何 を
や る の ? 」、 「続 き が 気 に な る 」、 「今 度 は ど ん な 作 品 を や る の ? 」な ど と い っ た 前 向 き な コ
メントを伝えてくる生徒が多くなった。本実践において、生徒に期待を持たせるために授
業 (単 元 )の 導 入 と 構 成 、発 問 に つ い て 、「一 見 、授 業 と は 関 係 の な い よ う な『 お し ゃ べ り 』
や 質 問 が 、 実 は 授 業 の 内 容 と 繋 が っ て い る 」、 「手 作 り の 教 具 を 用 意 し て 、 生 徒 に ワ ク ワ ク
感 を 抱 か せ る 」、 「あ え て 『 隠 す 』 こ と で 生 徒 の 好 奇 心 を 刺 激 す る 」な ど の 工 夫 を 行 っ た 。
そ の 際 、 大 切 に し て き た の は 授 業 者 で あ る 「私 」が ワ ク ワ ク し 、 楽 し む こ と で あ っ た 。 生 徒
は 教 員 を よ く 見 て い る も の で あ る 。こ ち ら が 生 徒 に 何 か を 伝 え た い と 本 気 で 思 っ て い れ ば 、
生徒はそれに応えてくれると信じている。
生 徒 に と っ て 「授 業 」は 学 校 で 過 ご す 時 間 の ほ と ん ど を 占 め て い る 。 そ の 長 い 「授 業 」時 間
を、生徒が少しでも楽しく、好奇心や興味を持って過ごせるように、そして、終わった後
に生徒が達成感や充実感、自らの成長を感じられるような授業を目指し、今後も授業改善
を図り、授業スキルを向上させる努力をしていきたい。
【今後の課題】
○ 生 徒 が 自 分 で 「問 」を 立 て ら れ る よ う に 授 業 の 工 夫 を 図 り 、 問 題 意 識 を 持 た せ る 。
= 生 徒 に と っ て 「興 味 深 く 」、 「我 が 事 と し て 感 じ ら れ 」、 「何 と か し て モ ヤ モ ヤ を 解 決 し
た い 」と 思 え る 授 業 内 容 、 展 開 。
→ 授 業 の 「導 入 部 」の 工 夫 、 生 徒 の 心 を 揺 さ ぶ る 「発 問 」の 工 夫 。
○ 「講 義 」と 「グ ル ー プ 活 動 」の メ リ ハ リ を つ け る 。
○ 生 徒 の 「発 表 の 仕 方 」を ス キ ル ア ッ プ さ せ る 。→ 聞 き 手 を 意 識 し た 話 し 方 の ト レ ー ニ ン グ 。