排尿に影響を及ぼす薬剤

あじさい Vol.15,No.1,2006
JUN.2006 Vol.15 No.1
★特集
『排尿に影響を及ぼす薬剤』
要旨:正常の蓄尿・排尿は膀胱排尿筋と尿道括約筋との協調により行われ、副交感、交感、体性からなる末
梢神経系、および仙髄、脳幹橋部の排尿中枢、大脳などの上位中枢によりコントロールされています。加齢に伴
い、排尿筋、尿道括約筋収縮力は低下し、排尿効率と尿禁制の両者が障害され、尿流量の低下、残尿の増加、
膀胱容量の低下を認めます。それに加えて、男性の場合は前立腺肥大症などの下部尿路閉塞による排尿障害、
女性では骨盤底筋群の脆弱化による腹圧制尿失禁を伴うことが多いといわれています。
膀胱排尿筋には、ムスカリン受容体(
M2,M3)
、アドレナリンβ2 受容体が、前立腺、尿道括約部にはアドレナリ
ンα1 受容体が優位に存在するため、これらを介してさまざまな薬剤の影響をうけやすいといわれています。排
出障害を起こす薬剤としては、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、総合感冒薬、パーキンソン病治療
薬、ベンゾジアゼピン系薬、精神安定薬、抗うつ薬、気管支拡張薬、漢方薬の麻黄、麻薬などがありました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
◎はじめに
◎下部尿路 1)
排尿障害は患者の日常生活において QOL を
著 しく低 下 させます。高 齢 者 の排 尿 障 害 対 策 は
社 会 的にも大 きな問 題となっており、排 尿 障 害 患
者の大部分が、中高年者となっています 。
慢 性 疾 患 治 療 薬には、排 尿 障 害 を起こす可 能
性 のある薬 剤 も多 く、特 に高 齢 者 においては 加
齢 による膀 胱 ・尿 道 括 約 筋 の機 能 低 下 に加 え、
前 立 腺 肥 大 症 などの疾 患 に排 尿 障 害 がすでに
存 在 していることも多 く、一 層 薬 剤 性 排 尿 障 害 を
起こしやすいようです。
今 回 のあじさいでは、排 尿 障 害 をおこしやすい
疾患、と薬剤性排尿障害についてまとめてみたい
と思います。
1.膀 胱 (bladder)
尿 をためてお く貯 水 池 で筋 性 の嚢 です 。恥 骨
結 合 の後 にあり、男 性 は直 腸 の前 、女 性 は子 宮
と膣の前にある骨盤臓器です。内方から粘膜、筋
層、外層の 3 層からなり、粘膜は多くのしわがあり
ますが、膀 胱 床の膀 胱 三 角は平 滑 です。膀 胱 三
角の後 方 隅 角に尿 管が開 き、内尿道口から尿道
へと続 いています。内 尿 道 口 は恥 骨 結 合 の中 央
の高 さにあります。筋 層 は、3 層 の平 滑 筋 (不 随
意 筋 )で、その収 縮 によって尿を排 出 するので排
尿 筋 と呼 ばれ、内 尿 道 口 の周 りでは肥 厚 して膀
胱 括 約 筋 を作 っています 。乳 幼 児 の膀 胱 は、成
人 より高 い部 位 にあり、内 尿 道 口 は恥 骨 結 合 の
上縁、膀胱前面は恥骨結合と臍の間の下 2/3 の
部位に接し、むしろ腹腔臓器といえます。
最大尿意時の膀胱容量は300∼500mlです。
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初発尿意時の膀胱容量は150∼250ml(膀胱
最大容積の約35%)です。
1回排尿量は200∼400mlです。
残 尿 は正 常 若 年 者 には殆 どありませんが,高
齢者の 25%には 100ml 以上の残尿が見られるとい
われています。通 常では 15ml 以 内を正常としま
す。
腺 部 で内 尿 道 括 約 筋 として機 能 するが、女 性 で
はその構造が男性ほど強固ではないとされていま
す。
男 性 では模 様 部 のあたりに、女 性 では尿 道 遠
位部 2/3 のあたりに外尿道括約筋が輪状に取り
囲 み、これをさらに外から骨 盤 底 筋 群が取 り囲 み
ます。
2.尿 道 (urethra)
尿 を、膀 胱 の内 尿 道 口 から外 尿 道 口 まで運 ぶ
管 で、男 女 では大 きな差があります。男 性 尿 道は
長く(16∼18cm)、前立腺から陰茎の中を S 状に
湾曲して通り、亀頭尖端に開口します。女性尿道
は真 っ直 ぐで短 く(3∼4cm)拡 張 性 に富み、膣 の
前方を下がり、膣口の前に開口 します。男性に比
べ女 性に膀 胱 炎が多いのは、構 造 上、細 菌が上
行して膀胱に入りやすいからです。
膀 胱 頚 部 の平 滑 筋 内 層 (内 側 の縦 走 筋 )は内
尿 道 口 から尿 道 平 滑 筋 に移 行 し、平 滑 筋 中 層
(中間の輪状筋)は、男性では膀胱頚部から前立
※内 尿 道 括 約 筋 と内 尿 道 括 約 筋
内 尿 道 括 約 筋 ・・・平 滑 筋 ・・・不 随 筋 ・・・反 射 性 に弛 緩
外 尿 道 括 約 筋 ・・・骨 格 筋 ・・・随 意 ・・・随 意 調 節 可 能
3.膀 胱 と尿 道 のはたらき
膀 胱 は、左 右 の尿 管 から送 られてきた尿をため
(蓄 尿 )、一 定 量 貯 まると尿 道 を介 して体 外 に排
出します(排尿)。
膀 胱 と尿 道 (尿 道 括 約 筋 )は、協 調 して蓄 尿 ・
排尿を行っています。蓄尿期には膀胱が弛緩し、
尿道括約筋が収縮 します。排 尿 期には膀 胱が収
縮し、尿道括約筋が弛緩します。
図1 男女の下部尿路周辺器官
男性
◎下部尿路の神経支配
女性
る主 な排 尿 中 枢 が脳 幹 にある橋 排 尿 中 枢 (上 位
排 尿 中 枢)で、そこに大脳皮質による制 御が加わ
ると、随意的 な排 尿の遅延 (我 慢 )や排尿開始 が
可能となります。
上位排尿中枢からの刺激は脊髄前角部を下降
して仙 髄の第 2、3,4中 間 外 側 核 (S2-S4)(下 位
1)13)
1.中 枢 神 経 による支 配
下 部 尿 路 及 び排 尿 サイクルを制 御 する中 枢 神
経系は、大脳皮質、脳幹(橋)、脊髄です。
膀 胱 と尿 道 の機 能 の協 調 、排 尿 反 射 を制 御 す
2
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図2 膀胱と尿道の神経支配
排 尿 中 枢 )に至 り、膀 胱 ・尿 道 ・骨 盤 底 筋 に及 び
ます。
2.末 梢 神 経 による支 配
下 部 尿 路は、膀 胱と尿 道により構 成されており、
自 律 神 経 {交 感 神 経 (下 腹 神 経 、T10-L2:胸 髄
第 10-腰 髄 第 2 神経)、副交感神経(骨盤神経、
反射中枢は S2-4:仙 髄 第 2-4 神経)}と体性神
経 の3種 類 の末 梢 神 経 によって支 配 を受 けてい
ます。
<下腹神経(交感神経)>
T10-L2の脊髄から始まり,下腹神経となり,膀胱
と内尿道括約筋(平滑筋)を支配します。
交感神経は蓄尿的に働きます。
内尿道括約筋は自律神経支配のため随意的に
制御できません。
<骨盤神経(副交感神経)>
S2‐4の脊髄から始まり,骨盤神経となり膀胱を支
配します。
副交感神経を刺激すると膀胱収縮が起こり,排
尿を生じます。
<陰部神経(体性神経)>
S2‐4の脊髄から始まり,陰部神経となり外尿道括
約筋(横紋筋)を支配します。
外 尿 道 括 約 筋 は陰 部 神 経 支 配 であり随 意 的 に
制御可能です。
蓄 尿 時 には 交 感 神 経 を介 し、膀 胱 の排 尿 筋
(平 滑 筋 )を弛 緩 させ、内 尿 道 括 約 筋 (平 滑 筋 )
および外 尿 道 括 約 筋 (横 紋 筋 )を収 縮 させること
により蓄 尿に働いています。また体 性 神 経 も横 紋
筋 である外 尿 道 括 約 筋と骨 盤 底 筋 群を緊張 させ
て蓄尿に働きます。
通常 300∼500mL の尿が膀胱に蓄積しその圧
によって尿 意 が起 こると、副 交 感 神 経 が興 奮 し、
膀胱の排 尿 筋を収縮 させるとともに、内尿道括約
筋 および外 尿 道 括 約 筋を弛緩 させて排尿 に働 き
ます。
尿意は意 識 的に抑制 することも可能 で、尿意が
起 きても排 尿 できる環 境 にないときには、大 脳 皮
質からの抑制刺激が交感神経を介 して排尿筋の
緊張を低 下させ、内尿道括約筋 および外尿道括
約 筋 を収 縮 させ て一 時 的 に排 尿 を抑 制 できま
す。
しかし、内圧が約 100cmH 2 O を超えると、意思の
力で排 尿を抑えることができず、尿道括約筋の収
縮はこの圧に抗しきれず、排尿を起こします。
3
◎下部尿路の受容体分布
下 部 尿 路に係 わる主な受 容 体には、コリン受容
体とアドレナリン受容体があります。
1.コリン受 容 体
コリン受 容 体 は、アセチルコリンにより刺 激 を受
け、興 奮を伝 達する受 容 体 で、ニコチン受 容 体 と
ムスカリン受 容 体 の2つ のタイプにわかれていま
す。
ムスカリン受容体は分子学的に m 1 ∼m 5 の5種
類 のサブタイプがクローニングされ、薬 理 学 的 に
もそれらに対応する M 1 ∼M 5 の 5 種類に同定さ
れています。(表1参照)
ニコチン受 容 体 は中 枢 神 経 系 、横 紋 筋 、神 経
節 に認 められ、ムスカリン受容 体 は中 枢 神 経 系 、
平 滑 筋 、腺 に認 められています。膀 胱 に主 に分
布 しているのはムスカリン受 容 体 ですが、ムスカリ
ン受 容 体 は他 にも様 々な臓 器 にも分 布 していま
す。
ヒト膀 胱 に分 布 するムスカリン受 容 体 は M 2受 容
体 が約 75%、M 3 が約 25%とされています。ただ
し、薬 理 学 的 には膀 胱の収 縮 に直 接 関 与するム
スカリン受容体のサブタイプは M 3 であるとされて
います。M 2 受容体は、ラットにおいてβアドレナリ
ン受 容 体 を介 する弛緩 を拮抗 することにより間 接
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的に膀胱収縮に導くことが示唆されています。
Continence Society:ICS)から発表された新しい
用語基準では、尿の排泄についての障害を表す
言葉として、下部尿路障害(Lower urinary
tract dysfunction:LUTD)という用語が提唱され
ました。これは蓄尿障害と排尿障害を包括するも
のと定義されています。
よって、今 後 排 尿 障 害という言 葉 を用 いる場 合
には、狭 義 のすなわち尿 の排 出 についての障 害
のみを表す用語として理解すべきです。
下 部 尿 路 機 能 障 害 とは、図 4に示 した蓄 尿 障
害と排尿障害にわけることができます。
表1 ムスカリン受容体
m1
m2
薬理学的
M1
M2
主な分布
大脳皮質
海馬
腺
交感神経
節
分子学的
平滑筋
菱脳
心臓
m3
m4
m5
M3
M4
M5
平滑筋
脳
前脳基底
腺
部線状体
(
例:
唾液
腺など)
黒質
2.アドレナリン受 容 体
アドレアなリン受 容 体はノルエピネフリンによって
刺激される受容体で、α受容体とβ受容体があり
ます。膀胱底部(膀胱三角部)と尿道にはα受容
体 が分 布 し、尿 道 平 滑 筋 の収 縮 に働 き、膀 胱 体
部 にはβ受 容 体があり、排尿筋 を弛 緩 することに
より蓄尿に関与しています。
図4
膀胱に尿をうまく
ためられない
蓄尿障害
膀胱から尿をうまく
だせない
蓄尿障害
+
排尿障害
排尿障害
図3 膀胱の受容体の分布
蓄尿症状刺激症状
頻尿・尿失禁
排尿症状
排尿困難
◎下部尿路症状とは2)
尿 の排 出 機 構 が破 綻 すると、蓄 尿 や排 尿 が円
滑 に行 われなくなり、頻 尿 、尿 勢 低 下 、尿 失 禁 な
どといった様々な症状 を呈 するようになります。下
部 尿 路 機 能 障 害 によって引 き起 こされる、これら
の症状を総称して下部尿路症状(Lower urinary
tract symptoms:LUTS)といいます。
2002 年の ICS の用語基準に従って、下部尿路
症状を整理すると表3のようになります。
下部尿路症状は蓄 尿 症 状、排 尿 症 状、排尿後
症 状 の 3 つに大別されます。
蓄 尿 症 状 は、昼 間 頻 尿 、夜 間 頻 尿 、尿 意 切 迫
感 、尿 失 禁、膀 胱 知 覚 が分 類 されています。この
うち尿 失 禁 はさらに、腹 圧 性 尿 失 禁 、切 迫 性 尿
失禁、それらの混合である混合性尿失禁 、遺尿、
夜 間 頻 尿 、持 続 性 尿 失 禁、そのほかの尿失禁 に
分 類 されます。また、膀 胱 知 覚 は、正 常 、亢 進 、
低下、欠如、非特異的と評価されます。
排 尿 症 状 には、尿 勢 低 下 、尿 線 分 裂 、尿 線 散
乱 、尿 線 途 絶 、排 尿 遅 延 、腹 圧 排 尿 、終 末 滴 下
が分類されています。
排 尿 後 症 状 としては、残 尿 感 、排 尿 後 尿 滴 下
が分類されています。
表2 膀胱の受容体の分布
コリン性
(副交感神経受容体)
アドレナリン性
(
交感神経受容体)
膀胱体部
M2、M3
(
収縮)
β
(
弛緩)
膀胱底部
M2、M3
(
収縮)
α
(
収縮)
部位
尿道
α
(
収縮)
β
(
弛緩)
◎下部尿路機能障害 2)12)
2002年に国際禁制学会(International
4
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表 3 下部尿路症状の日本語訳と定義・
意味
1.1蓄尿症状
・昼間頻尿
・夜間頻尿
・尿意切迫感
・尿失禁
・腹圧性尿失禁
・切迫性尿失禁
・混合性尿失禁
・遺尿
・夜間遺尿
・持続性尿失禁
・その他の尿失禁
・膀胱知覚
・正常
・亢進
・低下
・欠如
・非特異的
1.2排尿症状
・尿勢低下
・尿線分裂、尿線散乱
・尿線途絶
・排尿遅延
・腹圧排尿
・終末滴下
1.3排尿後症状
・残尿感
・排尿後尿滴下
膀胱蓄尿相にみられる症状
日中の排尿回数が多すぎるという愁訴。回数についての明確な定義はなされていないが、8回以上とす
ることが多い
夜間に排尿のために1回以上おきなければならないという愁訴。
急に起こる、抑えられないような強い尿意で、我慢することが困難である。
尿が不随意に漏れるという愁訴
労作時または運動時、もしくはくしゃみまたは咳の際に、不随意に尿が漏れるという愁訴
尿意切迫感と同時または尿意切迫感の直後に、不随意に尿が漏れるという愁訴
尿意切迫感だけでなく、運動・
労作・
くしゃみ・
咳にも関連して、不随意に尿が漏れるという愁訴
不随意に尿が出ること
睡眠中に尿がでるという愁訴
持続的に尿が漏れるという愁訴
特有の状況で起こるもの、例えば性交中の尿失禁や、笑ったときに起こる尿失禁などがある
病歴聴取により以下の5つに分類する
膀胱充満感がわかり、それが次第に増して強い尿意に至るのを感じる
蓄尿の早期から持続的に尿意を感じる
膀胱充満感がわかるが、明かな尿意を感じる
膀胱充満感や尿意がない
膀胱に特有の知覚ではないが、膀胱充満を腹部膨満感、自立神経症状、痙性反応として感じる
排尿相にみられる症状
尿の勢いが弱いという愁訴であり、通常は、以前の状態あるいは他人との比較による
尿線の分裂や散乱が愁訴となる
尿線が排尿中に1回以上途切れるという愁訴
排尿開始が困難で、排尿準備ができてから排尿開始までに時間がかかるという愁訴
排尿の開始、尿線の維持または改善のために、力を要するという愁訴
排尿の終了が延長し、尿が滴下する程度まで尿流が低下するという愁訴
排尿直後にみられる症状
排尿後に完全に膀胱が空になっていない感じがするという愁訴
排尿直後にみられる症状不随意的に尿がでてくるという愁訴。この場合の直後とは、通常は男性では便
器から離れた後、女性では立ち上がった後のことを意味する。
1.蓄 尿 症 状
主 な症 状 は、頻 尿 、夜 間 頻 尿 、尿 意 切 迫 感 、
尿失禁です。
1)頻 尿 、夜 間 頻 尿 6 )9 )
頻尿とは、排尿回数が異常に多 くなり、1日 8
回 以 上 となることをいいます。治 療 の対 象 となる
頻尿は 1 日 10 回以上と考えられています。通常、
膀胱容量は成人で 250∼300mL です。1 日の尿
量が 1500mL として、膀胱容量で割ると排尿回数
は 5∼6 回になります。
夜 間 頻 尿 とは、「夜 間 に1回 またはそれ以 上 、
排 尿 のために起 きなければならない訴 え」と定 義
されています。
不 眠 症 、高 血 圧 、夜 間 頻 尿 は互 いに病 態 とし
て重なり合 う部 分があり、不 眠 症・うつ病などの精
神 的 な要 因 、高 血 圧 症などの循 環 器 系の問 題 、
閉 塞 性 無 呼 吸 症 候 群 を代 表 とする呼 吸 器 系 の
問題などが夜間頻尿を誘発している場 合がありま
す。
夜 間 頻 尿 の原 因 には、多 尿 、夜 間 多 尿 、蓄 尿
障 害 (過 活 動 膀 胱 、前 立 腺 肥 大 症 )および睡 眠
障 害 などがありますが、とくに夜 間 多 尿 の関 与 が
最も多いといわれています。
夜 間 多 尿 は早 朝 尿 を含 む尿 量 が一 日 の尿 量
の 35%以上、0.9mL/分以上や 10mL/kg 以上と
の報告を定義された報告もあります。
これらの原因鑑別には、1回 排 尿 量を 24 時間
にわたって記 録 する Frequency Volume Chart
(FVC)の使用が推奨されています。
※頻 尿 の原 因
5
・
多 尿 (飲 水 過 多 、糖 尿 病 、尿 崩 症 、心 不 全 )
・
膀 胱 容 量 の減 少 (膀 胱 萎 縮 、腫 瘍 などによる)
・
膀 胱 炎 、尿 道 炎 、前 立 腺 炎 (通 常 、排 尿 痛 を伴 う)
・
神経因性膀胱
・
下 部 尿 路 の狭 窄 (前 立 腺 肥 大 症 、癌 などによる下 部 尿
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表4 尿失禁の種類
路 の狭 窄 )
・
残 尿 (機 能 的 膀 胱 容 量 の低 下 )
・
尿 管 下 端 の結 石
・
心 因 性 頻 尿 (神 経 因 性 頻 尿 など)
腹圧性尿失禁
咳、くしゃみをした時、ぱっと立ち上がった時、階段を
降りる時など、お腹に力が加わる動作時に生じるとい
う際立った特徴。
切迫性尿失禁
切迫した強い尿意が現われ、トイレまで堪えることが
出来ずに尿が出てしまう状態
溢流性尿失禁
コップから水が溢れるように、充満した膀胱から尿が
たぷたぷと漏れてくるもの。この尿失禁では、尿が出
にくくなる排尿障害が必ず前提にある。
機能性尿失禁
膀胱や尿道には明らかな異常がないのに、精神や身
体運動の機能障害が原因で生じる尿失禁。
※夜 間 頻 尿 の原 因
・
前立腺肥大
・
腎 機 能 低 下 による尿 濃 縮 力 の低 下
・
心機能低下
図5 夜間頻尿のパターンの推定される原因
膀胱の容量を300mL、1日の経筋尿量を1500mLとすると
夜間
日中
1日の尿量
老化による体内リズム
の乱れ夜間に排尿が
集中し、日中の尿量は
ほとんどない。
300mL×5回
300mL×5回
150mL×5回
ほとんどなし
300mL×5回
150mL×5回
① 腹圧性尿失禁
腹 圧 性 尿 失 禁 とは、咳 、くしゃみ、運 動 や重 い
荷 物を持ったときなど、一過性に腹 圧が加わった
ときに尿が漏れる状態をいいます。出産や運動不
足 などにより骨 盤 内 臓 器 を支 える骨 盤 底 筋 群 が
弱 くなり、膀 胱 が下 垂 するのに伴 い括 約 筋 作 用
が減 弱 することが主 な原 因 です。また、更 年 期 以
降 に起 こるエストロゲンの分 泌 減 少 も尿 失 禁を起
こす原因の一つと考えられています。
1500mL
3000mL
1500mL
ほかの病気の可能性
(
糖尿病など)
夜間、日中とも排尿が
あり、1日の尿量が明
かに多い。
前立腺肥大症など。夜
間、日中とも頻繁に排
尿があるが、残尿があ
るために、1回の尿量
が少ない。
(治 療 指 針 )
夜 間 多 尿の治 療は血 圧のコントロール、午後に
利 尿 薬 を投 与 する、バソプレッシン使 用などの報
告 がありますが、プライマリ・ケアの観 点からは、ま
ず排 尿 記 録 などを利 用 して、飲 水 量 が過 剰 とな
っていないかをチェックし飲 水 習 慣 の指 導 を行 う
必要があります。
1)尿 失 禁
尿 失 禁 とは、本 人 の意志 とは無 関 係に尿 漏 れ
が生 じ、社 会 生 活 に支 障 をきたす状 態 をいいま
す。尿失禁は大きく別けると、次の 4 つに分類さ
れます。
尿 失 禁 には様 々な原 因 がありますが、 咳 やく
しゃみをしたときに尿が漏れる「腹圧性尿失禁」が
約 7割 、尿 意 を感 じてからトイレに行 くまでの間 に
漏 らしてしまう「切 迫 性 尿 失 禁 」が約 3割 といわれ
ており、ほとんどの人はこのどちらかに入ります。
尿失禁の症状は女性に多く、40 才以上の中高
年 になると軽 いものを含 めて2人 に1人 が経 験 し
ているといわれています。女性に尿 失 禁が多いの
は、尿道が男性の 16∼20cm に比べて 4∼5cmと
短く、その分尿道括約筋の力が弱いためです。
② 切迫性尿失禁
切迫性尿失禁 とは、強い尿意を感 じたと同時に
尿 が漏 れる状 態 をいいます。強 い尿 意 には、脳
梗 塞 などにおける排 尿 抑 制 中 枢 の障 害 により、
膀 胱 排 尿 筋 が過 活 動 的 になったために起 こる運
動 性 切 迫 と、膀 胱 壁の炎 症などで膀 胱 が過敏 に
なったために起 こる知 覚 性 切 迫 の2つのタイプが
あります。
③ 溢流性尿失禁
ダムの水が溢れるように、ぱんぱんにふくれた膀
6
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(治 療 )
a.保 存 的 療 法
骨盤底筋体操
軽 い腹 圧 性 尿 失 禁 は骨 盤 底 筋 体 操 で治 すこ
とが出 来 ます。この体 操 は、尿 道 、膣 、肛 門 を閉
めることにより、骨 盤 底 筋 を強 くする運 動 です。骨
盤 底 筋 体 操の実 際は、尿 道 、膣 、肛 門 の括 約 筋
のどれか一 つ、あるいは全 部 を「ぎゅーっ」と閉 め
るイメージで行 います。そのあとは、ゆっくり括 約
筋 (骨 盤 底 筋 群 )を緩 めます。この「閉 める ゆる
める」が骨盤 底 筋 体 操 の基 本 です。「締める」「緩
める」を繰 り返 すことにより、自分 で意識 しなくても、
尿 道 や他 の骨 盤 底 筋 群 も一 緒 に締 まり、下 腹 部
ー股 間 ー肛 門 の一 帯 に広 がる筋 肉 を強 くします。
5 秒 間 閉 め、息 を吐 きながらゆっくりと骨 盤 底 筋
群を緩めます。このサイクルを 1 日80∼100 回行
います。腹圧性尿失禁においては軽症例では 30
∼40%程 度 の消 失 率 が報 告 されています。切 迫
性尿失禁にも有効です。
胱から尿が溢れるため、溢流性尿失禁といわれま
す。
この溢 流 性 尿 失 禁では、尿 が出 にくくなる排 尿
障 害 がかならず前 提 にあります。排 尿 障 害 とは、
膀 胱 や尿 道 などの病 気 で、尿 の流 れが阻 まれる
ものです。
排 尿 障 害 になる疾 患 は、男 性 の患 者 さんが多
いことから(前立腺 に関 わるもの:男 性のみ、尿 道
狭窄:女性はまれ)、溢 流 性 尿 失 禁の患者 さんは
男性が多くなっています 。
疾 患
前立腺肥大症
前立腺がん
尿道狭窄
糖尿病
原 因
表5 骨盤底筋訓練表
尿道の抵抗が増して、引きおこさ
れます。
骨盤底筋訓練法とは、骨盤底筋の収縮と弛緩を繰り返し、弱く
なった筋肉を自分で鍛える方法で、以下のように行う
膀胱の収縮不全により引きおこさ
れます。
1.次のような姿勢で深呼吸を2∼3回行い、全身をリラックスさ
せる。
a.仰向けに寝て軽く足を開いて膝を立てる。
④ 機能性尿失禁
排 尿 機 能 は正 常 にもかかわらず、身 体 運 動
障 害 の低 下 や痴 呆 が原 因 でおこる尿 失 禁 です。
身体運動障害の低下のためにトイレまで間に合
わない、あるいは痴呆のためTPO(尿を出してよ
い場 所 かどうかなど)が判 断 できずしてしまう、と
いったケースです。
この尿 失 禁 の治 療 においては 、患 者 さんの
生 活 環 境 の見 直 しを含 めて、取 り組 んでいく必
要があります。
b.クッションなどに肘をついて四つんばいになる。
c.イスにゆったりと腰掛ける。
d.机などに両手をつく。
2.肛門を締める。
3.肛門を締めた状態で膣、尿道を締める。
4.吸気とともに収縮した骨盤底筋をお腹の中に引き上げる。
5.そのままの状態で5秒間保つ。
6.呼気とともに骨盤底筋をゆっくりと緩め、全身をリラックスさ
せる。
7.5∼6秒休んでから、再度繰り返す。
(診 断 )
1) 問診
2) 排尿チャートを記録
3) 泌尿器科的身体所見・膣・尿道の診察
4) 尿検査
5) ストレステスト
6) パットテスト
7) Q-tip テスト
8) 膀胱・尿道造影
9)尿流動態検査
この運動を1日50∼100回、毎日行う。1日分をまとめてするので
はなく、排尿後に10回、朝晩ベッドで10回ずつ、お風呂の中で10回
といった具合に分散させ、日常生活の中で無理なく続けるよう工
夫する。
b.薬 物 治 療
切 迫 性 尿 失 禁 では薬 物 療 法 が治 療 の中 心 に
なります。抗 コリン剤 を投 与 することによって、膀
胱 平 滑 筋を緩め、膀 胱の容 量が増 加し尿は漏れ
にくくなります。代 表 的なものには、ポラキス、バッ
プフォーがあります。副 作 用 としては、ときに口 渇
感 と便 秘がみられます。また、膀 胱 の収 縮 力を弱
7
あじさい Vol.15,No1,2006
めるために残 尿 が増 えることがあります。腹 圧 性
尿 失 禁 には尿 道 の閉 鎖 圧 を高 める作 用のあるス
ピロペント、トフラニールなどの他 、上 記の抗コリン
剤 を使 用 します。前 立 腺 肥 大 症 による溢 流 性 尿
失禁には a ブロッカーが有効です。a ブロッカー
は前 立 腺に存在 する平 滑 筋を緩 める作用を持ち、
その結 果 尿 道 の抵 抗 を減 少 させ排 尿 をスムーズ
にします。ハルナール、アビショット、フリバス、エ
ブランチル、バソメットなどがあります。また糖 尿 病
などの収縮不全膀胱の場合には、膀 胱の収縮力
を改 善 させるウブレチドやベサコリンを使 用 しま
す。
表6 尿失禁治療薬
治療薬
薬剤名
対象
抗コリン薬
塩酸オキシブチニン
(ポラキス)
塩酸プロピベリン
(バップフォー)等
β受容体刺激薬
塩酸クレンブテロール
・腹圧性尿失禁
(スピロペント)等
・切迫性尿失禁
・腹圧性尿失禁
作用
膀胱が緩み尿量が
増す働き
尿道を引き締め、膀
胱を締める働き
α受容体刺激薬
塩酸ミドドリン
(メトリジン)等
・腹圧性尿失禁
平滑筋弛緩剤
塩酸フラボキサート
(ブラダロン)
・切迫性尿失禁
膀胱平滑筋の直接
弛緩作用
三環系抗うつ薬
塩酸イミプラミン
(トフラニール)
・腹圧性尿失禁
・切迫性尿失禁
尿道内圧上昇、
抗コリン作用
女性ホルモン薬
エストリオール
(エストリール)
結合型エストロゲン
(プレマリン)
・腹圧性尿失禁
・混合型尿失禁
解れば、11 時より少し前にトイレに誘導することで、
正 常 な排 尿 を行 なうことが可 能 になります。排 尿
習慣訓練は、尿意に頼るだけでなく、タイムスケジ
ュールにもとづいて規 則 正 しい排 尿 習 慣 を確 立
することで尿失禁をなくす方法です。
e.電 気 刺 激 療 法 (その他 )
切 迫 性 尿 失 禁 によく用 いられ、腹 圧 性 尿 失 禁
にも半 分 くらいの人 には効 果 があります。骨 盤 の
表 面 の膀 胱 のある部 分 の近 くに片 状 の電 極を貼
り付 け、電 圧 と周 波 数 と時 間を調 整 しながら一 定
のパルス波を送ります。1回につき20 分から30 分
位 行 います。こうすると、骨 盤 底 筋 群 の収 縮 が誘
発 され、骨 盤 底 筋 群 を鍛 える効 果 を生 み出 しま
す。
また現 実 に、この刺 激 により膀 胱が過 敏に収 縮
するのが抑えられ、それと同時 に尿 道の収縮 がよ
くなることがありますが、そのメカニズムはまだよく
わかっていません。
磁 気 あるいは干 渉 低 周 波による刺 激 療 法 です。
これは切 迫 性 尿 失 禁、腹 圧 性 尿 失 禁に対 して行
います。椅 子 の形 をした治 療 機 器 に座るか、ベッ
ト上 で端 子を下腹部にあて、皮膚の上から膀 胱、
尿道をコントロールする神経を一回につき 20、30
分位刺激します。
f.外 科 的 療 法
保 存 的 療 法 で改 善 しなかった腹 圧 性 尿 失 禁
に対しては、外科的治療を行います。
尿道粘膜の栄養状
態改善、尿道壁の
厚み増加、α受容
体刺薬への感受性
増強
i.
コラーゲン注 入 法
内 視 鏡 でコラーゲンを尿 道 粘 膜 の下 に注 入
します。局所麻酔で行うことが出来、約 30 分で終
了します。
c.膀 胱 訓 練
膀 胱 訓 練 は膀 胱 の容 量 を増 やすためのトレー
ニングで、切 迫 性 尿 失 禁に対 して行 います。例え
ば、一 時 間 半 位 の間 隔 ならば尿 失 禁 がなくてす
むケースでは、目標を 2 時間に設定し出来るだけ
尿 を我 慢 します。根 気 よく継 続 することにより、膀
胱の容量が増え、2 時間は漏れなくなります。そう
したら、次は 2 時間半という目標を再度設定し、ト
レーニングを続けていきます。
ii.
d.排 尿 習 慣 訓 練
患者 さん本 人に加えて、介護者 、家族 の方など
の協 力 が必 要 になりますが、高 齢 者 の機 能 性 尿
失 禁 や切 迫 性 尿 失 禁 に効 果 があります。例 えば、
痴呆症のある人が「朝の 8 時にはきちんと尿をす
るのに、11 時頃になるときまって尿失禁するような
ケースがあります。このように尿 失 禁 のパターンが
8
尿道スリング法(膀胱頚部つりあげ術)
原 理 はナイロン糸 や特 殊 なテープで膀 胱 の
下 部 と尿 道 をブランコのように支 え、腹 圧 がか
かっても落ち込まないように固定するものです。
代表的な方法は、恥骨のすぐ上の皮膚に 1cm
程の切開を 2 つ、尿道の下にあたる膣の前壁
にも約 2cm の切開をおいて、専用の針を用い
てテープを尿 道を支 えるように腹 壁 側 に通 しま
す。ちょうど良 い位 置 でテープを固 定 します。1
時間足らずで終了し、約 1 週間の入院で済み
ます。
あじさい Vol.15,No.1,2006
すみやかに改 善 します。しかし鎮 痛 を目 的にした
麻 薬 などは中 止 できない場 合 も少 なくありません。
このような場 合 には排 尿 障 害 に対 する薬 物 療 法
を行います。
表7 外科的治療法
腹圧性尿失禁
MMK法
・お腹を切って膀胱と尿道の部分を
恥骨の裏側に縫いつけて、後ろに
落ちないように固定する方法です。
・10年前位までは、この方法が主流
でした。
膀胱頚部
つりあげ術
・基本は「
MMK法」
と一緒ですが、あ
まりお腹を大きく切らずに実施する
ため、負担は少ない方法です。
・この手術を実施すると、腹圧性尿
失禁の患者さんの9割以上がよくな
るため、最も広く行われています。
スリング法
・重症例や尿道括約筋自体の収縮
不良による場合に行います。
・シリコンチューブなどの非吸収性
素材や、患者さん自身の腹直筋や
大腿筋の筋膜をスリングとして用い
て、ブランコのように膀胱頚部を支
えることにより、腹圧がかかった時
に膀胱頚部が締まるようにします。
コラーゲン
注入法
切迫性尿失禁 膀胱拡大術
(対 処 法 )
a.排 尿 困 難は、患 者に自 覚されないことがありま
す。よって、頻尿 ・尿 失 禁などの蓄 尿 障 害のみ
を訴えた場合 も、まずエコー残尿測定を行いま
す。
b.残尿が 200∼500ml 以上と高度の場合では、
膀 胱 を過 伸 展 し、膀 胱 平 滑 筋 や膀 胱 壁 内 の
神 経 を伸展 ・断 裂、膀 胱 収 縮 力 を不 可 逆 的 に
弱 めてしまう危険性 があるので、間 歇 導 尿を指
導するか(残尿量が 100ml で 1 日 1 回、200ml
では 1 日 2 回)、バルーンカテーテルを留置し
ます。
・コラーゲンを緩んだ尿道の括約筋
のある部分に注入して、ここを狭め
て強くする方法です。
・この手術はきわめて簡単で、切開
手術に比べると患者さんの負担は
ずっと少なく、準備をいれても30分
以内に終わります。
・効果は「膀胱頚部つりあげ術」に比
べるとやや低いですが、腹圧性尿失
禁の患者さんのおよそ8∼9割がよく
なるため、大変優れた治療法といえ
ます。
・膀胱そのものを大きくつくり治す手
術ですが、現実には、切迫性尿失
禁をこの手術で治すのはなかなか
難しく、この手術を実施するケース
はあまりありません
c.因 果 関 係 が疑 われる薬 剤 について、可 能 なら
ば減 量 ・中 止 します。薬 剤 性 排 尿 困 難 は、膀
胱 過 伸 展 障 害 に至 らない限 り、原 因 薬 剤 の中
止により軽快することが多いといわれています。
d.回復が長 引く場 合は、神経因性膀胱 や器質的
下 部 尿 路 閉 塞 性 疾 患 の合 併 を疑 い、尿 流 動
態 検 査 、泌 尿 器 科 的 検 査 を行 う必 要 がありま
す。
2.排 出 症 状
主な症状は、排尿困難と尿閉です。
1)排 尿 困 難
排尿時の尿が出にくい症状を総 称します。排尿
開始遅延、排尿時間延長、終末時滴下、尿線細
小、二段排尿、間欠排尿などがあります。
2)尿 閉
排尿が全くない完全尿閉と、不完全にして排尿
できず残尿がある不完全尿閉があります。
e.薬物療法 として、尿道の圧を減弱 させるα遮断
薬 を投 与 し、必 要に応 じて膀 胱 排 尿 筋の収 縮
力 を増 加させる薬物 として末 梢 性コリン作 動 薬
(塩化ベタネコールなど)を投与します。
(治 療 1 7 )1 8 ))
薬 剤 性 排 尿 困 難 は男 性 に多 く、高 齢 者 に多 い
といわれています。その理 由 としては、潜 在 的 な
前 立 腺 肥 大 、膀 胱 排 出 筋 力 の低 下などが考えら
れます。中 枢 神 経 系 作 用 薬 による排 出 障 害 は、
末 梢 性 薬 剤 と異 なり、服 薬 開 始 から発 病 までの
期 間 が1週 間 以 上 になることが多 いといわれてい
ます。
尿閉時の緊急処置としては導尿、尿道カテーテ
ル留 置 などの処 置を行 います。薬 剤 性 排 尿 障 害
および尿 閉の基 本的治療 は、原 因 薬 剤の中 止も
しくは減 量 です。原 因 薬 剤 を中 止 することにより
9
あじさい Vol.15,No1,2006
表8 尿排出障害に対する薬物治療
分類
一般名
(
商品名)
膀胱排尿筋収縮
臭化ジスチグミン
(ウブレチド)
15∼20mg・分3∼4
(
副交感神経作動薬)
塩化ベタネコール
(
ベサコリン)
30∼60mg・分2∼4
塩酸タムスロシン
(
ハルナール)
00.1∼0.2mg・
分1
ナフトピジル
(
フリバス)
尿道抵抗減少
(α遮断薬)
シロドシン
(
ユリーフ)
「尿 意 切 迫 感 ・切 迫 性 尿 失 禁 ・頻 尿 」が重 要 な
3つの症 状 で、中 でも尿 意 切 迫 感 は必 須 項 目 で
す。国際禁制学会では、表 9 のように定めされて
います。
以前の尿流動態検査による診断から、新しい定
義では症状による診断へと変更されました。
OAB はその病因から、神経因性 OAB と非神経
因性 OAB に大別されます。前者は、脳血管障害
や脊髄障害に起因するOAB があり、後者の代表
には前 立 腺 肥 大 症 に合 併 す る OAB と特 発 性
OAB があります。
投与量と投与法
25∼75mg・
分1
初回25mgを分1で開始
8mg・
分2(
適宜減量)
肝機能・腎機能障害者は
4mg・
分2から開始
塩酸テラゾシン
(
ハイトラシン)
1∼2mg・
分2
高齢者には0.5mg・分2で開始
塩酸プラゾシン
(
ミニプレス)
1∼6mg・
分2∼3
初回1mg・
分2で開始
ウラピジル
(エブランチル)
30∼90mg・
分2
図6 過 活 動 膀 胱 と頻 尿 、切 迫 性 尿 失 禁 との関 係
8)
過活動膀胱
頻尿・夜間頻尿
尿意切迫感
◎排尿障害を起こす原因疾患
切迫性尿失禁
排 尿 障 害 を引 き起 こす代 表 的 な原 因 疾 患 とし
ては、神 経 因 性 膀 胱 があります。これは、痴 呆 、
脳 血 管 障 害 、脳 ・脊髄疾患 、脊髄損傷 や末 梢 神
経 障 害 のように、下 部 尿 路 の支 配 神 経に発 生 す
る病変により引き起こされるものです。
一 方 明 らかな神 経 障 害 によるものではなく、前
立 腺 肥 大 や腹 圧 性 尿 失 禁 、過 活 動 膀 胱 などを
含 む、加 齢 に伴 って増 加する排 尿 障 害 も臨 床 上
重要です。
表9 国際禁制学会
(ICS:Iternational Continence Society)
2001年
以前
※神 経 因 性 膀 胱 を生 じる可 能 性 のある疾 患 :
排
尿
筋
過
活
動
排尿筋過反射
(関連する神経学的疾患が存在す
尿流動態検査
る場合)
(UDS)
に基づ
排尿筋不安定(不安定膀
いた診断
胱)
(明かな原因が存在しない場合)
2002年
以降
中 枢 神 経 系 :脳 出 血 、脳 梗 塞 、脳 腫 瘍 、脊 髄 小 脳 変 性 症 、パ
過活動膀胱(OAB)
症状に基づい
た診断
ー キ ン ソ ン 病 、OPCA( オ リー ブ 核 橋 小 脳 変 性 症 ) 、
Shy-Drager 症 候 群 、HAM(HTLV-1 関 連 脊 髄 症 )、脊 髄 損 傷 、
二 分 脊 椎 症 、椎 間 板 ヘルニア、変 形 性 脊 椎 症 、脊 柱 管 狭 窄 症 、
多 発 性 硬 化 症 など
表 10 過活動膀胱の病因
8)
1.神経因性
末 梢 神 経 系 :糖 尿 病 、神 経 の外 傷 、二 分 脊 椎 症 、帯 状 疱 疹 な
1) 脳幹部橋より上位の中枢の障害
ど
脳血管障害、パーキンソン病、多系統萎縮性
痴呆、脳腫瘍、脳外傷、脳炎、髄膜炎
1.過 活 動 膀 胱
(overactive bladder syndrome)
過 活 動 膀 胱 とは、蓄 尿 障 害 の一 種 で、尿 を溜
めるべき蓄尿期に膀胱が勝手に収縮することによ
って、尿意切迫感を感 じ、頻尿 、切迫性尿失禁と
いった症状を伴うことがあります。
2002 年の ICS(国際禁制学会)で『切迫性尿失
禁 の有 無に関わらず、通 常 頻 尿 および夜間頻尿
を伴 う尿 意 切 迫 感 で、感 染 や他の明 かな病 的 状
態 は除 外 する』と新しく定義されました。
2) 脊髄の障害
脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄小脳変性症
脊髄腫瘍、脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症、
変形性脊椎症、脊髄動静脈奇形
2.非神経因性
1) 下部尿路閉塞(前立腺肥大症等)
2) 加齢
3) 骨盤底の脆弱化(腹圧性尿失禁等)
4) 特発性
10
あじさい Vol.15,No.1,2006
表 11 活動膀胱を構成する症状
症状
尿意切迫感
記述
急に起こる、抑えられないような強い尿意で、我
慢することが困難なもの
a)
昼間頻尿b)
日中の排尿回数が多すぎるという患者の愁訴
夜間頻尿
夜間に排尿のために1回以上起きなければなら
ないという愁訴
切迫性尿失禁
c)
尿意切迫感と同時または尿意切迫感の直後に、
不随意に尿が漏れるという愁訴
a)
尿意切迫感とは、正常者が長く排尿を我慢しなくてはならない状況で生
じる強い尿意とは異なる。尿意切迫感では、排尿を迫る強い尿意が急に生
じることが特徴である。すなわち尿意切迫感は、急に起こり、それを感じると
排尿を我慢する余裕がないような膀胱の知覚である。
b)便宜的に頻尿を回数(
例えば1日8回以上)
で定められることがある。
c)過活動膀胱では尿意切迫感は必須の症状であるが、切迫性尿失禁は
あってもなくてもよい。しかし、尿失禁の有無は臨床的に重要な違いであ
る。そこで、「切迫性尿失禁のない過活動膀胱」をOAB dry、「切迫性尿失
禁のある過活動膀胱」をOAB wetと分類することがある。ただし、この区分
は厳密なものではない。
2)非 神 経 因 性 OAB
①特 発 性 OAB
(成 人 女 性 ・50 歳 未 満 の男 性 )
下記のような症 状を訴え、かつ既 往 歴に特なも
のがない場合
・我慢できないほど強い尿意が急に起こる
(尿 意 切 迫 感 )
・頻回にトイレに通う(頻 尿 )
・ときどき間に合わずに失禁してしまう
(切 迫 性 尿 失 禁 )
b.前 立 腺 肥 大 症 に伴 うOAB
(中 高 年 50 歳 以 上 )
頻尿や尿意切迫感を訴える場 合は、ほぼ前立
腺肥大症に合併した OAB と診断されます。
蓄 尿 症 状 (頻 尿 、尿 意 切 迫 感 )のほかに、尿 勢
の減 弱 や腹 圧 排 尿 のような排 尿 症 状 が認 められ
ます。
(治 療 )
OAB の治療は、行動療法 と薬物療法が基本
となり、行動療法には生活指導、膀胱訓練、理学
療法が含 まれます。生活指導として具体的には、
過 剰 な水 分 摂 取 やカフェイン摂 取 の抑 制 、適 切
な排尿習慣の指導、トイレ環境についての助言な
どを行 います。薬 物 治 療 法の主 体は、抗 コリン薬
(抗 ムスカリン薬 )であり、口 内 乾 燥 などの副 作 用
発 現 に留 意 しながら使 用 します。抗 コリン薬 投 与
後 にも残 尿 測 定 を行 い、投 与 後に残 尿 が増 加 し
ていないかどうかを確 認 する慎 重 な治 療 姿 勢 が
必要です。
これらの治療に抵抗性を示す場合には、
Neuromodulation が行われます。
Neuromodulation は、膀胱・尿道機能を支配する
末梢神経を種々の方法で刺激し、神経機能変調
により膀胱・尿道機能の調整を図る治療法です。
電気刺激療法、磁器刺激療法、体内埋め込み
式 Neuromodulation があります。
(診 断 )24)
過 活 動 膀 胱 は、頻 尿 ・尿 意 切 迫 感 ・切 迫 性 尿
失 禁 などの症 状 群 として存 在 します。従 って、こ
れらの複 数 の症 状 を総 合 的 に評 価 するのことが
望ましいとされています。評価方法としては、質問
票 が望 ましく、日 本 向 けに質 問 票 (過 活 動 膀 胱
症 状 スコア :Overactive Bladder Symptom
Score;OABSS)が作成されました。
OABSS は、過活動膀胱 と診 断された患者につ
いて、その症状の評価に適用されるものです。
一 般 の集 団 を対 象 として、過 活 動 膀 胱 をスクリ
ーニングする目 的 などで使 用 される質 問 票 として
は、簡略化した表が推奨されます。
過活動膀胱の診断基準としては、「質問 3 の尿
意切迫感スコアが 2 点以上、かつ、OABSS が 3
点 以 上 」と推 奨 されています。これは、疫 学 調 査
の過活動膀胱の基準および追加解析で病的とい
える症状の下限とされた「1 日の排尿回数が 8 回
以上、かつ、尿意切迫感が週 1 回以上」にも相当
します。また、OABSS を過 活 動 膀 胱 の重 症 度 判
定に基準として用いる場合は、合計スコアが 5 点
以下を軽症、6∼11 点を中等症、12 点以上を重
症と推奨されています。
2.前 立 腺 肥 大 症
前 立 腺 は精 液 を構 成 する粘 性 の液を分 泌 する
腺 ですが、前 立 腺 肥 大 症は、その前 立 腺が肥 大
することにより起こる疾患で、70 歳を越すとほとん
どの男 性 の前 立 腺 が肥 大 しています 。これは組
織 の老化によると考えられますが、真 の原 因は不
明 です。症 状 は肥 大 の段 階 によって違 い、初 期
は肥大 した前立腺 により尿の流 れが妨害 されるも
のの、膀 胱 が持 ち前 の収 縮 力 でカバーするので
自 覚 症 状 は殆 どありません。しかし、次第 にトイレ
1)神 経 因 性 OAB
既 往 歴 に脳 血 管 障 害 (脳 梗 塞 や出 血 )や脊 髄
障 害 を有 し、尿 意 切 迫 感 、頻 尿 および尿 失 禁 を
認める場合
11
あじさい Vol.15,No1,2006
に行く回数が増え、特に夜間頻尿になっていきま
す。尿 道 がさらに圧 迫 されてくると尿 が出 にくくな
ってきます。また、膀 胱 は収 縮 するが尿 を完 全 に
出し切れず、膀胱内にいつも尿が残っているので
残尿感が生じます。残尿がさらに増すと細菌感染
を引 き起 こしやすくなっており膀 胱 の壁 が変 形 し
たり、最 終 的 には尿 が全 くでなくなることもありま
す。
前 立 腺 肥 大 症の排 尿 障 害 の原因 は、肥大 した
腺 腫 による機 械 的 閉 鎖の他に、交 感 神 経を介 す
る前立腺平滑筋の収縮による機能的閉鎖 も関与
していると考えられています。
診 断 には触 診が一 般 的に行 われ、医 師が指 サ
ックをはめた指 を肛 門に挿 入 して、直 腸 越 しに前
立 腺 に触 れ、硬 さや大 きさを調 べます。この直 腸
肛門診で 8∼9 割の診断をつけることができます。
その他 には、超 音 波 検 査 、膀 胱 鏡 検 査 などによ
って診断されます。
す。
1)薬 物 療 法
症 状 が軽 い早 期 では薬 物 療 法 を行 い、経 過 を
みます。経 過 をみて症 状 が重 くなるような場 合 に
は手術療法を検討します。
① α1 遮 断 薬
機 能 的 閉 塞 の改 善 を目 的 とする薬 剤 がα 1 遮
断薬であり、現在広く用いられています。
α 1 遮 断 薬 は、前 立 腺 平 滑 筋 の緊 張 を低 下 さ
せ 、前 立 腺 肥 大 症 に伴 う排 尿 障 害 を改 善 しま
す。
② 抗 アンドロゲン薬
機械的閉塞の改善を目的とした薬物が、抗アン
ドロゲン薬 で、精 巣 より分 泌 されたテストステロン
は前 立 腺 細 胞 に取 り込 まれ、蛋 白 合 成を活 性 化
することにより前 立 腺 細 胞 の増 殖 が起 きると考 え
られています。抗アンドロゲン薬は、テストステロン
取 り込 み阻 害 、受 容 体 結 合 阻 害 、中 枢 性 のテス
トステロンの抑制作用 、テストステロンの合成阻害
作用により、肥大腺腫 の増 殖を抑 制、縮小 させる
と考えられています。 抗アンドロゲン薬を 3 ヶ月
以 上 服 用してもあきらかな症状の改善がみられな
い場 合 には、中 止 すべきです。副 作 用 に加 え、
血 中 テストステロン濃 度 を低 下 させ、その結 果 、
前立腺癌のマーカーである PAS の低下作用を有
し、前立腺癌をマスクする可能性があります。
③ 植 物 製 剤 ・漢 方 薬
これらの薬 剤は従 来から経験的 に使 用されてき
たものが多 く、ある程 度の自 覚 症 状の改 善が見ら
れ、副作用がほとんどないということで使 用されや
すい薬 剤 です。しかし、作用メカニズムはほとんど
明らかにされていません。
④ 抗 コリン薬
前 立 腺 肥 大 症 には適 応 はありませんが、前 立
腺 肥 大 症 に伴 う頻 尿 や 尿 意 切 迫 感 などの過 活
動 膀 胱 に対 して経 験 的 に使 用 する場 合 があり、
症 状 が改 善 する場合 もありますが、併 用にあたっ
ては残尿増加、尿閉などの注意が必要です。
(診 断 )
1) 症状
・I-PSS(国際前立腺症状スコア)
・QOL スコア
2) 排尿機能と前立腺形態の評価
① 尿流率測定
② 残尿測定
③ 前立腺形態の評価
3) 癌との鑑別診断
前立腺特異抗原(PSA)の測定
表 12 重症度判定のための臨床評価
軽症
中等症
重症
IPSSによる症状評価
0∼7
8∼19
20以上
QOLスコア
0∼1
2∼4
5∼6
最大尿流率
残尿量
前立腺形態評価経
腹的エコー
15ml/sec以上 10ml/sec以下 5ml/sec未満ま
かつ
かつ
たは
残尿50ml未満 残尿100ml未満 残尿100ml以上
20ml未満
50ml未満
50ml以上
2)手 術
手 術は、尿閉や前立腺肥大症に起因する合併
症 がある患 者 、ならびに診 療 ガイドラインの総 合
評価で中等症から重症の患者が対象となります。
手 術 の中 でも最 も確 率 した標 準 的 手 術 手 技 は、
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)であり、肥大前
立 腺 により閉 塞 された前 立 腺 尿 道 を内 視 鏡 先 端
につけたループにより尿 道 粘 膜を含めて切除 しま
す。
(治 療 )
診 療 ガイドラインに基 づいた治 療 法 が推 奨 され
ています。I-PSS を用いて自覚症状の重症度と排
尿 に関 する満 足 度 (QOL スコア)を評 価 します。
症状評価 で中 等 症と重 症と判断 された時は、さら
に尿 流 測 定、残 尿 量と超 音 波 検 査 による前 立 腺
容 積 の測 定 を行 い、全 般 重 症 度 判 定 を行 いま
12
あじさい Vol.15,No.1,2006
せるレーザー前立腺蒸散手術や、前立腺部尿道
にステントを留置する方法などがあります。
手 術 の時 間 も数 十 分 ですみ、2∼3日 後 には
歩けるようになるので、入院も10 日から 2 週間前
後くらいと、開腹手術の約半分になりました。
その他 、レーザーを経 尿 道 的 内 視 鏡 下 で照 射
し、前 立 腺 肥 大 結 節 組 織 を凝 固 あるいは蒸 散 さ
図7 前立腺肥大症にかかわる因子とそれに対応する薬剤
漢方薬
α1ブロッカー
前立腺・尿道の
過緊張の低下
周辺症状の改善
交感神経系
過緊張
炎症・浮腫
5α還元酵素阻害薬
アンチアンドロゲン剤
腫大前立腺
前立腺
腺腫の縮小
過活動膀胱
収縮力低下
抗コリン薬
膀 胱
る場合があります。
薬物性排出障害は直接命をおかすものでは
ありませんが、患 者にとっては非 常 に深 刻な副 作
用です。種々の薬剤が排 尿 障 害をきたすことはよ
く知 られており、日 本 医 薬 品 集 や文献 などをみる
と排 尿 障 害が多いことに驚かされます。高頻度 に
排 尿 障 害 を引 き起 こす薬 剤 としては、鎮 咳 感 冒
薬 、抗 コリン薬 、精 神 安 定 薬 、抗 うつ薬 があげら
れます。
薬 剤 性 排 尿 障 害を予 防するには、可能性のあ
る薬剤をよく知ることが第一 ですが、それを増悪さ
せる危険因子を知ることも重要です。
さらに、高 齢 者は薬剤 の代 謝 や排 泄が遅いこと
や、他 剤 併 用の傾 向が強いことも危 険 因 子 となり
ます。 表 15 に薬剤性排尿障害を起こす薬剤に
ついてまとめました。
表13
◎排出障害を起こす薬剤 20)32)
下 部 尿 路 臓 器 (膀 胱 ・尿 道 ・前 立 腺 )は橋 排 尿
中 枢 からの中 枢 性 支 配 を受 け、その臓 器 を構 成
する平 滑 筋は(末 梢 性 )自 律 神 経 により支 配 され
ています。
排尿筋には M 2 コリン受容体とα・βアドレナリ
ン受 容 体 とがあり、副 交 感 神 経 が前 者 を賦 活 す
ると排 尿 筋 は収 縮 します。また、アドレナリン受 容
体 のうちα 1 受 容 体 は膀 胱 頚 部 と前 立 腺 内 平 滑
筋 に多 く分 布 し、この部 位 が刺 激 されるとその筋
緊張が増強して、排出障害が発症します。
一方、膀胱体部にはβ 2 受容体があり、これが
刺 激 されると促 進 する中 枢 神 経 が障 害 されたり、
排 尿 筋 の収 縮 能 が障 害 されたり、膀 胱 頚 部 の尿
道抵抗が増大して発症します。
薬 剤 によっても、中 枢 神 経 に作 用 したり、膀 胱
のコリン受 容 体 に作 用 したり、あるいは尿 道 平 滑
のα受容体 に作 用することによって、排 尿 障 害を
引 き起 こすことがあります。健 康 人 では排 尿 障 害
を起こさない薬剤でも、表 13 に揚げたような基礎
疾 患 を持つ人 や高 齢 者 などでは、突 然 尿 閉にな
高齢(女性:膀胱流、DHIC等)
男性
前立腺肥大症
神経因性膀胱
13
あじさい Vol.15,No1,2006
図8 下部尿路における自律神経受容体の分布と作用する薬剤
①膀胱排尿筋収縮を減弱する薬剤
③膀胱排尿筋収縮を増強する薬剤
1.抗コリン薬、平滑筋直接弛緩薬
臭化プロパンテリン(プロ・バンサイ
ン)
塩酸オキシブチニン(ポラキス)
塩酸プロピベリン(バップフォー)
塩酸フラボキサート(ブラダロン)
2.三環系抗うつ薬
塩酸イミプラミン(トフラニール)
塩酸アミトリプチリン(トリプラノー
ル)
塩酸クロミプラミン(アナフラニール)
3.β2刺激薬
塩酸クレンブテロール(スピロペント)
1.コリンエステル類
塩化ベタネコール(ベサコリン)
2.コリネステラーゼ阻害薬
臭化ジスチグミン(ウブレチド)
ネオスチグミン(ワゴスチグミン)
排尿機能促進
蓄尿機能促進
④尿道抵抗を減弱する薬剤
②尿道抵抗を増強する薬剤
1.α刺激薬
塩酸エフェドリン(エフェドリン)
dl-塩酸メチルエフェドリン(メチエフ)
塩酸ミドドリン(メトリジン)α1選択
的
2.β遮断薬
塩酸プロプラノロール(インデラル)
3.三環系抗うつ薬
塩酸イミプラミン(トフラニール)
4.塩酸クレンブテロール(スピロペン
ト)
外尿道括約筋(横紋筋)
は体性神経(
ニコチン受
容体が分布)
以外に交感
神経・副交感神経の支
配も受けている
1.α1遮断薬
塩酸プラゾシン(ミニプレス)
塩酸テラゾシン(バソメット)
塩酸ブナゾシン(デタントール)
塩酸タムスロシン(ハルナール)
2.骨格筋弛緩薬
(中枢性)
バクロフェン(リオレサール)
(末梢性)
ダントロレンナトリウム(ダントリウ
ム)
排 尿 筋 外 括 約 筋 強 調 不 全 に対 しても有 効 とされ
ています。すなわちバクロフェンは、膀胱 と括約筋
の両 者 に対 して抑 制 的 に働 く可 能 性 があり、排
出 障 害 を来 す可 能 性 があります。動 物 実 験 では、
バクロフェンは脳幹の GABA-B 受容体を介して、
膀 胱 排 尿 筋 を抑 制 する機 序 も考 えられています。
塩 酸 エペリゾン(ミオナール)は、平 滑 筋 直 接 作
用 により排 出 障 害 も来 す可 能 性 があります。さら
に、塩 酸 エペリゾンは外 尿 道 括 約 筋 弛 緩 作 用 の
ための尿失禁も起こす可能性があります。
一 方 、バクロフェン、ジアゼパム、その他 の中 枢
性 筋 弛 緩 薬 は、尿 失 禁 を来 すことが報 告 されて
いますが、その機序はよくわかっていません。
1.神 経 系 作 用 薬
1)パーキンソン病 治 療 薬
塩 酸 トリヘキシフェニジル(アーテン)、塩酸 ビペ
リデン(アキネトン)などの抗コリン薬は、主に中 枢
性 に作 用しますが、一部が末梢性抗 ムスカリン作
用と平滑筋直接作用により、膀胱収縮を抑制 し、
排出障害を起こす可能性があります。
ドパミンの前駆物質であるレボドパ、ノルアドレナ
リンプロドラッグであり交 感 神 経 賦 活 薬 でもあるド
ロキシドパ(ドプス)、さらにドパミン作動薬 であるメ
シル酸 ペルゴリド(ペルマックス)、ドパミン代 謝 酵
素 の一つであるモノアミンオキシダーゼ(MAO)の
阻 害 薬 塩 酸 セレギリン(エフピー)などは、いずれ
もアドレナリンα受 容 体 刺 激 作 用 があるとされて
います。膀 胱 頚 部 、尿 度 平 滑 筋 および前 立 腺 に
は交 感 神 経 α 1A/1D 受 容 体 が密 に分 布 し、交 感
神 経 刺 激 によってこれらを介 した収 縮 が起 こるた
め、排出障害をきたすことがあります。
3)抗 不 安 薬
大 脳 辺 縁 系 、視 床 、視 床 下 部 などに分 布 する
ベンゾジアゼピン受 容 体 は、GABA-A 受 容 体 ・
CL チャネルと共役して複合体を形成しています。
ベ ンゾジアゼピン系 薬 は 、その受 容 体 に働 き
GABA 電流を増加させ、Cl チャネルを間接的に
開 放 して抑 制 系 を高 め、抗 不 安 作 用 を発 揮 する
と考えられます。
2)中 枢 性 筋 弛 緩 薬
中 枢 性 筋 弛 緩 薬のバクロフェンは脊髄 くも膜 下
腔 内 投 与 は、痙 縮 のみならず、排 尿 筋 過 反 射 や
14
あじさい Vol.15,No.1,2006
ベンゾジアゼピン系 抗 不 安 薬 であるジアゼパム、
トフィソパム、クロルメザノン、フルジアゼパム、クロ
ナゼパム、ニトラゼパム、などは、膀 胱 平 滑 筋 直
接 作 用 と一部 に抗 コリン作用 も有 するため、末 梢
性に排出障害を来す可能性があります。
ベンゾジアゼピン系 抗 不 安 薬 では、頻 尿 ・尿 失
禁 も起 こしうるとされていますが、その機 序 はよく
わかっていません。傾眠などの意識障害 による機
能 性 尿 失 禁 の可 能 性 も考 えられます。さらに、ジ
アゼパムには尿 道 括 約 筋 弛 緩 作 用 があり、排 尿
筋 外 括 約 筋 強 調 不 全 (DSD)の治 療 時 に用 いら
れます。ジアゼパムでは尿 道 弛 緩 による尿 失 禁 も
起こす可能性があります。
4)抗 てんかん薬
カルバマゼピンは三 環 系 抗うつ薬と科学的に近
縁であり、カテコールアミンの再取り込みを抑制す
る働 きもあります。機 序 は不 明 ですが、排 出 障 害
と頻尿を来す可能性があります。
5)抗 めまい薬 、メニエール病 治 療 薬
めまい症状には中枢のヒスタミン作動性ニューロ
ンが関 与 しており、とくに延 髄 嘔 吐 中 枢 背 側の化
学 受 容 体 誘 発 域 (CTZ)が刺 激 される悪 心・嘔 吐
をきたします。
中 枢 性 抗 ヒスタミン薬 である塩酸 ジフェニドール
(セファドール)は、ヒスタミン作 動 性 ニューロンを
ブロックして抗めまい効果 を発 揮します。これら中
枢性抗ヒスタミン薬は、膀胱壁のヒスタミン H1 受
容 体 を遮 断することにより、末 梢 性に膀 胱 弛 緩を
きたすものと考えられています。さらにこうれらの薬
物 は、同 時 に抗 コリン作 用 も有 しており、排 出 障
害をきたします。
2.向 精 神 薬
向 精 神 薬 は抗 コリン作 用 を有 する薬 物 が多 く、
副 作 用 として口 渇 や便 秘 と並 んで排 尿 障 害 を出
現 するケースが少 なくありません。特 に高 齢 者 や
前立腺肥大症・泌尿器系疾患の既往のある患者
は、重 度 の排 尿 障 害や尿 閉 から水 腎 症 に至るケ
ースもあり、投 与 する際 には薬 剤 の選 択 や併 用
約に十分な注意が必要です。
1)抗 うつ薬
三 環 系 ・四 環 系 抗 うつ薬 では抗 コリン作 用 による
排尿障害が問題となります。特に三環系抗うつ薬
は四 環 系 と比 べても抗 コリン作 用 が強 いとされて
います。
その他 に、三 環 系 抗 うつ薬 は末 梢 交 換 神 経 刺
激作用(ノルアドレナリン再吸収を抑制する効果)
がありシナプス後 α受 容 体 刺 激 効 果 が高 まるた
めと考えられています。この結 果 下 部 尿 路におい
ては、尿 道 平 滑 筋 の緊 張 を高 め、尿 道 抵 抗 を増
すとともに、排尿筋のβ受容体を刺激 し排 尿 筋を
弛緩させます。
SSRI は、セロトニン作動性神経系に作用するた
め、排 尿 障 害 をきたしにくく、前 立 腺 肥 大 症 など
の合併した高 齢 者においても第一選択薬 となりま
す。SNRI はセロトニン作動性神経系に加え、ノル
アドレナリン作動性神経系に作用 するため、排 尿
障 害 の可 能 性 に留 意 する必 要 があり、前 立 腺 肥
大のある患者では禁忌となっています 。
表 14
抗うつ薬
6)起 立 性 低 血 圧 治 療 薬
起立性低血圧治療薬の、塩酸ミドドリン(メトリジ
ン)、ノルアドレナリン放 出 促 進 ・再 取 り込 み抑 制
作 用 を有 するメチル硫 酸 アメジニウム(リズミック)、
ノルアドレナリンの前駆体 ドロキシドパなどの交 感
神 経 刺 激 薬 は、血 圧 上 昇 作 用があり、起 立 性 低
血圧の治療に用いられています。
末 梢 血 管にはアドレナリンα受 容 体が分 布して
おり、とくに高 齢 者 では、α 1 受 容 体サブタイプの
うちα 1B 受容体が豊富です。一方、膀胱頚部(内
尿道平滑筋)および前立腺にはα 1A/1D 受容体が
密 に分 布 しています。塩 酸 ミトドリン、メチル硫 酸
アメジニウムは非選択的にα1 受容体を刺激して
しまうため、排出障害をきたします。
15
一般名
塩酸イミプラミン
塩酸クロミプラミン
塩酸アミトリプチリン
三環系
塩酸ノルトリプチリン
アモキサピン
塩酸ドスレピン
塩酸マプロチリン
四環系
塩酸ミアンセリン
マレイン酸セチプチリン
マレイン酸フルボキサミン
SSRI、SNRIおよ 塩酸パロキセチン水和物
び近縁薬剤
塩酸ミルナシプラン
塩酸トラゾドン
抗コリン作用強度
強い
強い
強い
中
中
弱い
中
弱い
弱い
非常に弱い
非常に弱い
非常に弱い*2
非常に弱い
*2 末梢のアドレナリンα1受容体を介した伝達促進によると考えられる排尿障
害を生じる可能性に留意が必要であり、前立腺肥大のある患者では禁忌
2)抗 精 神 病 薬
抗 精 神 病 薬 は、抗 コリン作 用 による排 尿 障 害 、
尿 閉 がみられます。抗 精 神 病 薬 のなかでは、塩
あじさい Vol.15,No1,2006
抑 制 、尿 道 括 約 筋 の収 縮 を増 強 する作 用を有 し
ており、内 服 により排 尿 障 害 を生 じることがありま
す。
② テオフィリン薬
テオフィリン等 のキサンチン誘 導 体 は、平 滑 筋
細胞内の cAMP 濃度を上昇させるために気管支
を拡張させる作 用があり、膀胱の平滑筋にも作用
し、排 尿 筋の収 縮 抑 制が起こるとの報 告があるた
め、使用には注意が必要です。
③ 抗コリン薬
排 尿 筋 の収 縮 にはムスカリン受 容 体 のなかでも
M 2 、M 3 が関 与 していることが知 られており、その
作用を遮 断すると排尿筋収縮 が阻害 され排尿障
害が生じます。
吸 入 薬 の、臭 化 イプラトロピウム(アトロベント)、
臭 化 オキシトロピウム(テルシガン)、臭 化 オキシト
ロピウム(スピリーバ)はいずれも前 立 腺 肥 大 症 に
は禁忌となっています 。
2)鎮 咳 薬
鎮 咳 薬には、麻薬性鎮咳薬と非麻薬性鎮咳薬
があります。そのうち排 尿 障 害 を起 こしうる薬 剤は、
麻薬性鎮咳薬のコデイン類です。
3)抗 ヒスタミン薬
第 一 世 代 の抗 ヒスタミン薬 においては、抗 コリン
作 用 をもっている薬 剤 が多 く、ほとんどの薬 剤 は
抗 コリン作 用から生じる排 尿 障 害 の副 作 用があり
ます。第 二 世 代の抗ヒスタミン薬 は、抗コリン作 用
が殆 どみられなくなったために前 立 腺 肥 大 症 例
にも使用可能です。
4)総 合 感 冒 薬
総 合 感 冒 薬 には、メチレンジサリチル酸プロメタ
ジンやマレイン酸 クロルフェニラミンなど第 一 世 代
3.呼 吸 器 疾 患 治 療 薬
薬 剤 性 排 尿 障 害 では、鎮咳薬 、気管支拡張薬 、 の抗 ヒスタミン薬 が含 有 されているため、下 部 尿
路閉塞をもつ症例には禁忌となっています 。
抗 ヒスタミン薬 、総 合 感 冒 薬 等 呼 吸 器 疾 患 治 療
その他 、総 合 感 冒 薬 においては抗 コリン薬 、キ
薬が原因となる頻度が高い報告されています。
サンチン誘 導 体 、α 刺 激 薬 、抗 ヒスタミン薬 など
高 齢 男 子 への呼 吸 器 疾 患 治 療 薬 投 与 は、女
排 出 障 害を引き起 こす可能性 のある薬 剤が配 合
性に比べ特に排尿への注意が必要です。
されているので排尿に関する留意が必要です。
呼 吸 器 疾 患 治 療 薬 で、排 尿 障 害を誘発 する機
序 としては、アドレナリンα受 容 体 刺 激 作 用 で尿
4.循 環 器 疾 患 治 療 薬
道 括 約 筋 の緊 張 を高 めたり、アドレナリンβ2 受
1)不 整 脈 薬 第 1群 (Na チャネル抑 制 )
容 体 刺 激 作 用 で排 尿 筋 の収 縮 を減 弱 、尿 道 括
ジソピラミド(リスモダン)による尿 排 出 障 害 は抗
約 筋 の緊 張 を高 めたり、抗 コリン作 用 によって排
コリン作 用 によるとされています。ジソピラミドは、
尿筋の収縮力を減弱させる作用です。
第Ⅰ群 Na チャネル抑制群のなかでは、抗コリン
1)気 管 支 拡 張 薬
作 用 が強 く、尿 排 出 障 害 (尿 閉 ・排 尿 障 害・尿 の
① β2 刺激薬
停滞感)の発生頻度は 2.2∼5.2%と報告されてい
β2 刺激薬の、塩 酸クレンベテロール(スピロペ
ます。塩 酸 ピルメノール(ピメノール)、塩 酸 ベプリ
ント)が腹圧性尿失禁に適応症をもっていることか
ジル(ベプリコール)、コハク酸シベンゾリン(シベノ
らも考えられますが、排 尿 筋および排尿筋収縮の
酸 チオリダジン、クロルプロマジン、レボメプロマジ
ンなどのフェノチアジン系 薬 物 が強 い抗 コリン作
用 を有 しています。ハロペリドールやスルピリドに
は抗コリン作用が少ないといわれています。
非 定 型 抗 精 神 病 薬は、セロトニン・ドパミン拮 抗
薬 (serotonin/dopamine antagonist :SDA )や 多
受容体作用薬(multi-acting receptor targeted
agent :MARTA)などです。クロルプロマジンやハ
ロペリドールといった従 来 の定 型 抗 精 神 病 薬 に
比 べて錐 体 外 路 症 状 の発 現 が少 ないため、ある
程 度 の投 与 量 までは抗 パーキンソン病 薬 の併 用
は不 要 であり、抗 パーキンソン病 薬 の抗 コリン作
用 による排 尿 障 害 という弊 害 をさけることができま
す。ただし、非 定 型 抗 精 神 病 薬 のなかではオラン
ザピンが他に比 べて抗コリン作 用 が強 いため、併
用 薬 を投 与 する場 合 には抗 コリン作 用 の少 ない
ものを選ぶなどの注意が必要です。
3)睡 眠 薬 ・抗 不 安 薬
日 常 臨 床 で、睡 眠 薬 や抗 不 安 薬 による排 尿 障
害が起 こることは少ないといわれています。ベンゾ
ジアゼピンの抗コリン作用はきわめて弱いとされて
います。しかしまれな副 作 用 として排 尿 困 難 や乏
尿も記載されています。
動 物 実 験 では、γ-アミノ酪 酸 (GABA)作 動 性
神 経 系 による排 尿 反 射 の阻 害 や、ジアゼパム静
注 による膀 胱 内 圧の低 下が報 告 されており、この
ようなメカニズムが関 与 しているのかもしれませ
ん。
これらの薬 剤 では、中 止 時 の離 脱 症 状 として、
尿閉や尿失禁を生じることがあります。
16
あじさい Vol.15,No.1,2006
閉等の副作用に対する注意は欠かせません。
ール)はジソピラミドよりも抗 コリン作 用 が弱 く、尿
排 出 障 害の発 生 頻 度も低 くなっています。塩酸メ
キシレチン、塩 酸 アプリンジン、塩 酸 ピルジカイニ
ドにおいては 、抗 コリン作 用 は確 認 されていませ
んが、わずかながら尿 排 出 障 害 の発 生 が報 告 さ
れています。
6.消 化 器 疾 患 治 療 薬
1)消 化 器 疾 患 治 療 薬 ・鎮 痙 薬
消 化 器 疾 患 治 療 薬 、鎮 痙 薬 には抗 コリン作
用 ・平 滑 筋 弛 緩 作 用 をもつものがあり、そのような
薬剤は排尿筋の弛緩を引き起こすために排尿困
難をもたらします。
胃 腸の透 視や内 視 鏡 検 査 時 に鎮痙薬 として用
いられる臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)や疝
痛 時 に与 薬される臭 化 チキジウム(チアトン)は抗
コリン作 用のため排 尿 困 難や尿閉 を引 き起 こしま
す。
消 化 性 潰 瘍 治 療 薬 である配 合 剤 コランチルに
含 まれる塩 酸 ジサイクロミンは、副 交 感 神 経 遮 断
作 用 、あるいは平 滑 筋 直 接 弛 緩 作 用 により膀 胱
排尿筋を弛緩させます。
ヒスタミン H2 受容体拮抗薬のシメチジンは、平
滑筋直接弛緩作用による膀胱排尿筋を弛緩させ
ます。
2)昇 圧 薬
神 経 終 末 にあるノルアドレナリンの不 活 化を抑
制 することによる間 接 的 な交 感 神 経 刺 激 効 果 を
もつメチル硫 酸 アメジニウム(リズミック)や、直 接
的なα1 受容体刺激効果をもつ塩酸ミドドリンメト
リジン)が尿 道 平 滑 筋 、前 立 腺 平 滑 筋 の緊 張 を
高 め、尿 排 出 障 害 をもたらす と考 えられていま
す。
5.泌 尿 器 疾 患 治 療 薬
1)頻 尿 ・尿 失 禁 等 治 療 薬
頻 尿 ・尿 失 禁 治 療 薬 の多 くは膀 胱 平 滑 筋 (排
尿 筋 )の収 縮 抑 制 、膀 胱 知 覚 低 下 、膀 胱 出 口 部
(尿 道 平 滑 筋 、尿 道 横 紋 筋 、前 立 腺 平 滑 筋 )の
緊張亢進作用により本来の効果を得ています。こ
れらの作用は、排尿困難・尿閉といった尿排出障
害を生じる可能性を含んでいます。
抗 コリン作 用 を主 体 とする塩 酸 オキシブチニン
(ポラキス)、塩 酸 プロピベリン(バップフォー)、β
受 容 体 刺 激 作 用 をもつ塩 酸 クレンブテロール(ス
ピロペント)、膀 胱 平 滑 筋 への直 接 弛 緩 作 用 をも
つ塩酸フラボキサート(ブラダロン)があります。
このうちポラキスは、抗 ムスカリン作 用 の他 にカ
ルシウム拮 抗 作 用 、局 所 麻 酔 作 用を有 します。こ
の結 果 、排 尿 筋 の収 縮 を抑 制 し、膀 胱 知 覚 を低
下 させ、膀 胱 容 量 を増 加 させます。バップフォー
は、抗コリン作 用とカルシウム拮 抗 作 用をもち、排
尿 筋 の活 動 を抑 制 します。スピロペントは、アドレ
ナリンβ 2 作 動 薬 であり、横 紋 筋 である外 尿 道 括
約 筋 や骨 盤 底 筋 の緊 張 を高 めるとともに膀 胱 体
部平滑筋に存在するβ2 受容体を刺激し膀胱を
弛 緩 させ、蓄 尿 機 能 を高 めることにより、腹 圧 性
尿失禁治療薬として有効性が認められています。
ブラダロンは、直 接 平 滑 筋 を弛 緩 させる作 用 を
もち、抗コリン作用は殆どありません。
2)鎮 痛 薬
アヘンアルカロイド系 麻 薬の塩 酸 モルヒネ(アン
ペック)、硫酸 モルヒネ(MS コンチン)、リン酸コデ
イン(リン酸 コデイン)、非 アヘンアルカロイド系 麻
薬 の塩 酸 ペチジン(オピスタン)、非 麻 薬 性 鎮 痛
薬 の塩 酸 ブプレノルフィン(レペタン)などは、橋
や仙髄にあるオピオイド受容体を介して排尿反射
を抑制すると考えられています。
一方、ペンタゾシンはκオピオイド受容体を介し
た作用を主としているため、排尿障害を起こしにく
いといわれています
2)鎮 痙 ・鎮 痛 薬
尿路結石における疼痛治療のため、あるいは膀
胱 鏡 検 査 時 における膀 胱 刺 激 症 状 の軽 減 のた
めに抗 コリン薬 が使 用 されます。抗 コリン薬 として
の作用は膀胱平滑筋にも及ぶため排 尿 困 難、尿
17
あじさい Vol.15,No1,2006
16)
石塚ら.尿閉・用困難を起こしうる呼吸
器疾患治療薬:臨床を薬物治療
21:3.228,2002
17)
金子ら.尿閉・排尿困難を起こしうる循
環器疾患治療薬、泌尿器疾患治療薬;臨床
と薬物治療 21:3.233,2002
18)
大川ら.尿閉・排尿困難を起こしうる消
化器疾患治療薬、鎮痛・鎮痙薬;臨床と薬物
治療 21:3.240,2002
19)
杉山.尿失禁・頻尿を起こしうる薬剤;臨
床と薬物治療 21:3.244,2002
20)
川島ら.尿路疾患;調剤と情報
5:5.21,1999
21)
河村.尿失禁・排尿困難;臨床と薬物治
療 19:3.206,2000
22)
近藤.薬物と尿閉;日本医事新報:
3831.110,1995
23)
河野.排尿招待治療薬;臨床と薬物治
療 18:1.90,1999
24)
柿崎.過活動膀胱の診断;日本医事新
報:4278.85,2006
25)
横山ら.尿失禁の病因;医薬ジャーナル
32:8.52,1996
26)
川原ら.診断・症状・治療 1)切迫性尿
失禁;医薬ジャーナル 32:8.56,1996
27)
鈴.診断・症状・治療 2)腹圧性尿失
禁;医薬ジャーナル 32:8.63,1996
28)
菊.診断・症状・治療 3)溢流性尿失
禁;医薬ジャーナル 32:8.70,1996
29)
ユニチャーム「尿もれケアナビ」尿漏も百
科;
http://www.nyoucare.jp/library/lib02.html
30)
日本医薬品集 DB、2006 年 1 月版
31)
近藤.薬物と尿閉;日本医事新
報:3831.110,1997
32)
荒木ら.低活動膀胱;治療
88:3.417,2006
♪♪♪♪♪まとめ♪♪♪♪♪
排 尿 障 害 を引 き起 こす 可 能 性 のある薬 剤 は、
抗 うつ薬 や鎮 痙 薬 、抗 パーキンソン病 薬 や気 管
支 拡 張 薬 など数 多 くの薬 剤 がありました。それら
の薬剤は、主に慢性疾患に用いられ、対象となる
患者に高齢者が多 いことも特徴 です。加齢による
膀胱・尿道括約筋の機能低下に加え、前立腺肥
大 症 などの疾 患 による排 尿 障 害 がすでに存 在 し
ていることも多 く、一 層 薬 剤 性 排 尿 障 害 を起 こし
やすくなっています 。
排 尿 障 害 は、生 命 に直 接 危 険 をもたらすもの
ではないため、長 期 慢 性 疾 患 罹 患 者 にとって軽
視されがちです。しかし、QOL を著しく低下させる
だけでなく、尿 路 感 染 や褥 層 などにより、さらなる
病態の悪化をみることがあります。
薬剤性排尿障害を予防 するためには、可能性
のある薬 剤 や 、それを増 悪 させ る危 険 因 子 (高
齢・男 性・前立腺肥大症 ・神 経 因 性 膀 胱 等)を知
ることも重要です。
<参 考 文 献 >
1) 堺.目で見るからだのからくり
2) 藤田ら.下部尿路機能障害と下部尿路症
状;治療 88:3.382,2006
3) 日本排尿機能学会.過活動膀胱診療ガイド
ライン、2005 年発行
4) 松島.頻尿・尿失禁;調剤と情報 9:2.51,2003
5) 松島ら.女性の尿失禁;日本医事新報:
3891.33,1998
6) 山口.プライマリ・ケアの対象となる下部尿路
機能障害;治療 88:3.390,2006
7) 吉田ら.前立腺肥大症;治療 88:3.395,2006
8) 柿崎ら.過活動膀胱;治療 88:3.405,2006
9) 石塚ら.夜間頻尿;治療 88:3.411,2006
10)
後藤.女性の腹圧性尿失禁;治療
88:3.425,2006
11)
関.高齢者尿失禁の特徴と予防法;日
本医事新報:4194.97,2004
12)
山口ら.排尿障害とQOL;臨床と薬物
治療 21:3.208,2002
13)
高橋ら.加齢と膀胱機能;臨床と薬物治
療 21:3.214,2002
14)
榊原ら.尿閉・排尿困難を引き起こしうる
神経系作用薬;臨床と薬物治療
21:3.218,2002
15)
城山ら.尿閉・排尿困難を起こしうる向
精神薬;臨床と薬物治療 21:3.224,2002
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あじさい Vol.15,No.1,2006
<編 集 後 記 >
排尿障害は、いくつかの疾患が重なっている
ことや、種々の要因が絡み合い、原因が多岐
にわっているケースがあります。患者様は複数
の医療機関から薬をもらっていることもあり、患
者様自身も副作用を副作用と認識しておられ
ない、また服薬の状況をきちんと話したがらない
ことが、薬の副作用をより複雑にしていることが
あるようです。薬による排泄障害を、常に視野
にいれ、排泄障害の原因を探り、治療につなげ
ていきたいものです。
先 生 方 の参 考 資 料 として頂 ければ幸 いで
す。
発行者:富田薬品(株)
医薬営業本部
池川登紀子
お問 い合 わせに関 しては当 社の社 員 又は、下
記までご連絡下さい。
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