Jun 1, 2010 No.2010-73 伊藤忠商事株式会社 調査情報部 調査情報部長 三輪裕範(03-3497-3675) 主任研究員 丸山義正(03-3497-6284) [email protected] Economic Monitor 米住宅販売急増の陰で高まる住宅価格低迷の圧力 4 月の住宅販売は、税額控除適用を狙った駆け込み購入で急増。しかし、同時に、中古住宅の在 庫が積み上がっており、需給バランスに再び悪化の兆し。需給悪化の下では、住宅販売や着工が 回復しても、住宅価格は低位推移が続く可能性が高い。 米国の住宅販売戸数(新築+中古)は 3 月に前月比 8.4%、4 月も 8.2%と 2 ヶ月連続で大幅に増加した。 その背景にあるのは、言うまでもなく、4 月末に期限を迎えた税額控除の適用を狙った駆け込み需要であ る。税額控除は当初、昨年 11 月末期限だったが、対象を拡大した上で今年 4 月末まで延長されていた1。 4 月は、新築住宅販売戸数が前月比 14.8%(3 月 29.9%)の 50.4 万戸、販売市場の 9 割を占める中古住 宅戸数は前月比 7.6%(4 月 7.0%)の 577 万戸と共に大幅に増加し、合計の販売水準は年率換算で 627.4 万戸に達した。これは、税額控除の当初期限だった 11 月にかけての販売急増(10 月 637.6 万戸、11 月 685.8 万戸)を除けば、2007 年 7 月以来の規模であり、住宅市場の急速な盛り上がりが窺われる。なお、 税額控除措置の適用を受けるためには、4 月末迄に売買契約を済ませる必要があるが、住宅の引渡し(売 買手続きの完了)は 6 月末迄に終了すれば良い。統計上、新築住宅販売は売買契約の段階でカウントされ るため、 4 月をピークに 5 月以降は急減が必至である。 一方、中古住宅販売は売買手続きの完了 (transaction closings)をもって統計に計上されることから、5・6 月も高水準が続く可能性が高い。 住宅販売戸数の推移(年率、千戸) 新築と中古の住宅販売戸数(年率、千戸) 9000 8000 1400 8500 中古住宅販売 8000 新築住宅販売(右目盛) 7000 7500 1200 1000 7000 6000 6500 800 6000 600 5000 5500 400 5000 4500 住宅販売戸数(中古+新築、年率換算、千戸) 04 05 06 07 08 09 4000 10 (出所)U.S. Department of Commerceなど 04 05 06 07 08 09 10 200 (出所)U.S. Department of Commerceなど 新築住宅在庫の在庫率(ヶ月) 中古住宅販売の在庫と在庫率 合計(季節調整値) 建設中在庫(未季節調整値) 14 5000 12 4500 完成在庫(未季節調整値) 10 12 10 4000 8 8 3500 6 4 2 6 3000 4 在庫(千戸) 2500 在庫率(カ月、右目盛) 0 04 05 06 07 (出所)U.S. Department of Commerce 08 09 10 2000 04 05 06 07 08 09 10 2 (出所)N A R 当初は、初回住宅購入者を対象に 8,000 ドルの税額控除措置が昨年 11 月末期限で講じられていた。その後、初回住宅購入者か ら 5 年以上の住宅保有者の買替え(6,500 ドル)に対象を広げた上で、今年 4 月 30 日まで延長された。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠商事調 査情報部が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは 予告なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。 1 Economic Monitor 伊藤忠商事株式会社 調査情報部 4 月の住宅販売動向では、住宅市場の今後を占う上で、販売増加に勝るとも劣らぬ重要な変化が見られた。 在庫である。まず、新築住宅の在庫は 4 月に前月比▲7.0%2と急減、在庫率は 5.0 ヶ月まで低下した。在 庫は着工前、建設中、完成在庫から構成されるが、4 月は不良在庫が含まれる可能性の高い完成在庫が前 月比▲8.7%と大幅に減少、完成在庫のみの在庫率を試算すると 2006 年以来となる 1.8 ヶ月まで低下して いる。4 月は、新築住宅販売価格が急低下しており、デベロッパー側が税額控除を好機として損失覚悟で 大幅な値下げに踏み切り、在庫を一気に処分した可能性が高い。ともあれ、新築住宅の過剰在庫は概ね解 消し、需要が増加すれば新規住宅建設の拡大に直結する環境が整ったと言える。 新築住宅とは逆に、中古住宅の在庫は 4 月に前月比 11.5%3と大幅に増加した。特に一戸建てが前月比 12.8%増の 343 万戸と、2008 年 11 月以来の水準に達している。前述の通り、中古住宅販売は売買完了段 階で計上されるため、5~6 月の売買完了とともに在庫はある程度減少する可能性が高い。しかし、どこ まで在庫が捌けるかは甚だ不透明である。中古住宅の在庫率は 2009 年 11 月に 6.5 ヶ月まで低下した後、 4 月は再び 8.4 ヶ月まで上昇した。税額控除措置の押し上げ効果が消える 7 月以降は中古住宅販売の急減 が避けられないが、販売戸数が 2 月の水準まで落ち込むと仮定すると、在庫率が直近ボトムの 6.5 ヶ月ま で低下するためには、在庫が 4 月水準から 32.9%も減少する必要がある。夏場以降に在庫率が高止まりす るリスクは否定できないと言える。 中古住宅在庫の大幅増加は、差し押さえ物件など住宅市場に流れ込む在庫予備軍(隠れ在庫)が多数存在 することを示している。 当社は、 住宅需要が 4~6 月期の急増の反動で 2010 年 7~9 月期に落ち込んだ後、 雇用所得環境の改善を受け、2011 年にかけて徐々に 持ち直すと見ている。住宅需要の持ち直しに伴い、 住宅投資も緩やかではあるが回復基調を辿る見込み S&P Case-Shiller住宅価格指数 210 20 200 15 190 10 である。しかし、多数の在庫予備軍の存在は、住宅 180 5 需要が回復する下でも、需給バランスは容易に好転 170 0 160 -5 せず、従って住宅価格も上昇しにくい状況が続く可 能性を示唆している。 150 130 -10 20都市(前年比、%、右目盛) 140 -15 20都市(2000年1月=100) 04 05 06 07 08 09 10 -20 (出所)S&P 2 新築住宅在庫は合計のみ季節調整値が公表され、その内訳は未季節調整の計数しかない。そのため、本稿では完成在庫とその 在庫率については未季節調整の計数を用いている。但し、在庫については季節変動がそれほど大きくはないため、分析において 大きな変化は生じないと考えられる。なお、未季節調整で見ると、4 月の在庫全体は前月比▲5.8%、在庫率は 4.4 ヶ月となる。 3 中古住宅在庫は未季節調整の計数しかない。 2
© Copyright 2024 Paperzz