第 4 回 女性のための田んぼの教室 ~ 水稲登熟生態と収穫適期の判断・水田雑草と対策 ~ と き ところ 平成28年9月9日(金) 重点地区ゆめぴりか生育調査ほ場 上川農業改良普及センター大雪支所 -1- 尾上宅 1水稲の登熟生態 子房(玄米)は受精の翌日から外形的発達を始めます。まず、縦に伸長 し 、 次 い で 粒 の 幅 が 決 ま り 、 最 後 に 粒 の 厚 さ が 決 ま り ま す 。 受 精 後 20~ 25日 に は 粒 が 最 大 に な り 、 そ の 後 は 玄 米 の 水 分 の 減 少 と と も に 少 し ず つ 減少します。 図1 玄米の外形の発達 写真1 登熟の経過 -2- 写真2 収穫した穂 図2 写真3 穂を広げた標本 種子の着き方と各部の名称 し こ う イネの穂は穂軸から1,2回枝分かれします.最初の枝分かれを一次枝梗 といいます。その上の枝分かれは二次枝梗といいます。 -3- 3収 穫 収穫時期は米の品質に大きく影響します。収穫が遅くなると未熟粒は減 りますが、立毛中の胴割れや茶米などが増え、品質が低下します。本年は 低温と日照不足の影響により、1筆の圃場の中でも成熟のばらつきが多い ようですので的確に成熟期を予測し、試し刈りをし、乾燥させて籾すりし 玄 米 の 組 成 を 見 て 収 穫 適 期 で あ る か を 判 断 し ま す 。。 刈り取りが早すぎる 収 刈り遅れ 穫 ・未熟粒や青米が増加 適 ・着色米、胴割米が増加 ・収量は減少 期 ・茶米の発生、玄米白度の低下 ・倒伏度による品質の低下 図3 収穫適期 写真4 米の胴割れ 写真5 茶米 図4 出穂後の玄米重と整粒歩合の推移 -4- 1) 収 穫 適 期 判 断 の 手 順 収穫適期は次の手順で積算温度や籾の熟色で成熟期を予測し、試し 刈りをして玄米を見て判定します。 ①.積算温度で成熟期予測 出穂期以降の日平均気温の積算値が950~980℃に達する日を成熟 期と予測します。 品種や籾数の多少によって異なります。これから一週間後が収穫適期 の目安と考えますが、あくまでも予想としてとらえます。 表1 出穂期以降の日平均気温の積算値による成熟期予測 出穂期 950 ℃ 到 達 日 ( 日 数 ) 980 ℃ 到 達 日 ( 日 数 ) 備考 7 月25日 9月 7日(44) 9月 9日(46) 東川町アメダス 7 月27日 9月 9日(44) 9月11日(46) 使 用 8 月 30日 7 月29日 9月12日(45) 9月14日(47) までは本年値、 7 月31日 9月15日(46) 9月17日(48) 以降は平年値を 8 月 9月21日(50) 使用した。 2日 9月19日(48) ②.籾の熟色による成熟期判定 予測による成熟期が近づいたら、好天日に1株あたりの黄化籾の割 合 を 目 視 で 確 認 し ま す 。 成 熟 期 は 全 籾 の 9 0 ~ 95% が 黄 化 し 、 完 熟 ご え い 籾となった日です。完熟籾かどうかは籾の付け根にある護頴が黄色に なっていることで判断します。見る時は太陽を背にして見ます、籾の 裏側も忘れずに確認します 籾 黄 化 率 90~ 9 5 % 写 真 6 籾 黄 化 率( も み お う か り つ ) -5- 50 日程度 950~980 ℃ 90%程 度 ( 遅 れ 穂 を 除 く ) 図4 適期収穫の目安 × ○ 整粒とみなされるごく ほとんど 死 米 で 、 ほとんど完熟米 淡い活青米がほとんど 青 未 熟 が 20%位 図5 籾の黄化と玄米の状態 ① 活青米は ② 淡く葉緑素が残 り透明感がある 写真7 青未熟粒 写真8 死米(しまい) ( ① 青 死 米 、② 白 死 米 ) 写真9 活青米(いきあおまい) ③.試し刈りをして玄米による収穫適期判定 積 算 温 度 や 籾 の 熟 色 で 成 熟 期 が 近 づ い た ら 、試 し 刈 り し て 玄 米 に し 、 整粒歩合で収穫適期を判断します。圃場の中で中庸な稲株を5株ほど 試し刈りしますが、ばらつきの多い圃場では多めにサンプルを取りま なまだつこく しょう。これを生脱穀し、乾燥、もみすりし、篩ったあと整粒歩合を 確 認 し ま す 。 確 認 は 圃 場 ご と に 行 い ま す 。 整 粒 歩 合 が 70 % 以 上 と な れば収穫適期です。 図6 ※電子レンジの場合 は冷めてから行う ※ ビ ニー ル袋 で 保 管 した サン プ ル は むれ ると 判 断 が 難し くな る ので注意! 籾で -6- あ お み じ ゆ く りゆう ・ 青 未 熟 粒 と 茶 米 等 の 発 生 ( 15%以 上 で 落 等 ) 程 度 を 確 認 し 、 収 穫 適期を決めます。 せ い りゆう ぶ あ い ・ 目 標 は 整 粒 歩 合 80%以 上 で す 。 ・確認はほ場ごとに行いましょう。 ・ 登 熟 は 、整 粒 60%以 上 の 場 合 、1日 2 ~ 3 %程 度 (晴 天 日 )進 み ま す 。 ・ ほ 場 間 で の 生 育 差 が 大 き い 場 合 や 判 定 時 の 整 粒 が 60%未 満 の 場 合 は、3~4日後に再度、試し刈りで判定を行いましょう。 ・黄化籾・緑色籾は、色で判断が容易ですが、黄化直後籾は判断が あめいろ やや難しいです。飴色で、透き通った感じになるので、時期に なったらこまめに観察して下さい。 写 真 10 玄 米 サ ン プ ル 判 定 ( 1 等 米 ) -7- 参考資料1 通 常 日照不足 枝が退化 ( 2次枝梗) 写 真 11 2 次 枝 梗 の 退 化 「ふ っ く り ん こ 」 -8- 2登熟と環境条件 1) 温 度 登 熟 に 好 適 な 気 温 は 20~ 2 5 ℃ 登熟には 昼 夜 の 間 に あ り ま す 。 30℃ 程 度 の 高 温 変温が良い になる登熟は速まりますが、粒重 増加の停止も早くなります。 36℃ 適昼温 (幅が広い) 15℃ 以 下 で は 、 登 熟 速 度 が 遅 く な り ま す 。 適 夜 温 は 14~ 16℃ で す 。 品質を重視登熟温度は800℃ ( 1日 平 均 20℃ ・ 4 0 日 間 積 算 ) 17℃ 16℃ 適 夜 温 (幅が狭い) 14℃ といわれています。 この温度が確保できる限界日が安 全出穂限界日と考えられています。 また、登熟には昼夜変温有利に 働きます。夜温が高いと呼吸量が 多くなり炭水化物をより多く消費 図7 登熟昼夜適温 し、粒への澱粉蓄積が少なくなる ため乳白・腹白等が発生します。 2) 栄 養 登熟を進める葉身窒素濃度には適量があります。窒素が少ない 場合は光合成能力が低下し粒重が低下します。過多の場合は登熟 初期の葉身の糖濃度が低下し、光合成産物の籾への転流が妨げら れます。 3) 日 照 、 受 光 態 勢 日 照 不 足 は 登 熟 に 抑 制 的 な 作 用 し ま す 。 出 穂 後 25日 間 の 1日 平 均 日 照 時 間 が 4時 間 以 下 の 場 合 、 登 熟 が 悪 く な り ま す 。 ま た 、 登 熟期において、特に上位3葉の受光態勢は光合成能力に大きく影 響します。 4) 土 壌 水 分 土壌水分は根の活力維持、稲体の活力維持に大きく関係し、干 ばつは登熟の大きな阻害要因になります。 -9- 4田んぼの大敵・雑草いろいろ 田んぼに生える雑草の中では、ヒエが最もやっかいな草ですが、最近で は、その他にも除草剤で防除しにくい雑草も増えてきています。まだ、 発生している草の量が少ないうちに対策をとらないと、後々数年に渡っ て苦労することになります。 1) 主 な 雑 草 ① ③ ④ ② ⑤ ①ノビエ、②ミズアオイ、③ ホタルイ、④オモダカ、⑤アメ リカセンダングサ、⑥ヘラオモ ダカ、⑦エゾノサヤヌカグサ、 ⑧セリ、⑨シズイ、⑩アゼナ 塊 茎 ① ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ 写 真 12 東川町の水田に発生する主な雑草 - 10 - ⑩ 2) 水 田 雑 草 水田に発生する雑草は、ノビエやアゼナなどの一年生雑草やホタルイや オモダカなどの多年生雑草、イネと同じ種類のイネ科雑草やイネ科以外の 広葉雑草など色んな種類の雑草が生えてきます。 一年生雑草は種子で繁殖する雑草で、ノビエ、ミズアオイ、アメリカ センダングサ、アゼナ等があります。雑草の生産する種子の量は非常に 多く、種子の土壌中での寿命も長いため一度にたくさんの種子が落下す ると長年にわたって発生することになります。 かいけい こんけい 多年生性雑草は地上部の茎葉が枯れた後も土壌中の塊茎や根茎など繁 殖 体 に 栄 養 分 を 蓄 え 、翌 年 そ こ か ら 芽 を 出 す 雑 草 で 、エ ゾ ノ サ ヤ ヌ カ グ サ 、 シズイ、オモダカ、セリ等があります。種子に比べると地下に形成される 塊茎は少ないですが蓄えている栄養分が多いため、除草剤により地上部が 枯れた後も再生しやすいです。 図8水田雑草の分類 5 水稲用除草剤 1) 特 徴 1成分で全ての雑草を枯らせるとありがたいが、現在使用されている水 稲用除草剤で、全ての雑草に実用的な効果を示すものはほとんどないのが 現状です。 けい はん 畦畔除草や畑地で使用されるグリホサート系(ラウンドアップ)やグルホ けい よう シ ネ ー ト 系 ( バ ス タ ) な ど 非 選 択 性 の 茎 葉 処 理 剤 は 、 1成 分 で ど ん な 雑 草 も 枯らしてしまいますが、これらは、作物まで無差別に枯らしてしまうので、 作物が植わっている状態では使用することはかなり難しいです。 そのため、多くの場合、ヒエ以外の雑草を枯らすことができる成分(母 剤)と、主としてヒエを枯らす力に優れた成分(ヒエ剤)とを2種以上を - 11 - 組み合わせた除草剤が使用されています。 水田雑草全般に除草効果が高く効果の持続性が長い一発処理剤の普及 によりこれらの雑草を容易に防除できるようになりましたが、同一成分剤 の連用や圃場の管理の問題等により依然として問題視される雑草の発生状 況があります。 除草剤は、有効成分の違いだけではなく、その使用時期によってさらに分 類されます。田植え直後から田植え5日後頃までに使用する除草剤を初期 剤 、 田 植 え 20~ 25日 後 頃 ま で に 使 用 す る 除 草 剤 を 中 期 剤 、 そ れ 以 降 に 使 用する除草剤を後期剤と呼んでおり、加えて、1回の処理で初期と中期の 両方の期間をカバーできる除草剤を初中期一発剤と呼んでいます。 現在は、この初中期一発剤が主流を占めています。 図9 除草剤処理層 さらに、水稲用除草剤には同じ有効成分を含む同じ名前の除草剤であっ て も 、剤 型 に よ っ て さ ら に 分 け ら れ ま す 。昔 か ら よ く 使 わ れ て い る 粒 剤( 1 kg キ ロ 剤 、 3 kg 剤 )、 液状タイプのフロ アブル剤、一定の 個数を投げ込むジ ャンボ剤、最近で は粒剤を改良し、 1 0ア ー ル あ た り 250g の 豆 粒 状 の 粒剤を撒く省力型 の豆つぶ粒剤があ ります。 12草 - 剤の剤型 図 10 -除 水稲除草剤体系図 除草剤の使用時期は代かきから移植まで3~5日で設定しています。 植代 ◎初期土壌処理剤 移植の期間が長い ヒエの発生が多い 場合に有効 移植日 3 5 10 15 20 25 30 35 幼穂形成始期 初中期一発剤 ユニハーブFL ◎初期一発剤 (ヒエ1.5葉) ミズアオイに有効 ウリホス1キロ粒剤 ウエスフロアブル SU剤と非SU剤の両方を含有 シズイ対策 ◎初中期一発剤 スマートフロアブル (ヒエ2.0葉) バッチリFL、バッチリ1キロ粒剤 エゾノサヤヌカグサに有効 パンチャーFL、1キロ粒剤 成分回数2回 豆つぶは省力的 ヤイバ豆つぶ250 ガンガン豆つぶ250 成分回数3回・残効性あり ヤブサメ豆つぶ250 (ヒエ2.5葉) 成分回数2回 ヤイバ1キロ粒剤 (砂壌土は移植後3日から使用) 成分回数2回・残効性あり ガンガン1キロ粒剤 成分回数2回・残効性あり ミズアオイに有効 チャンスタイムZ FL、 1キロ粒剤 メガゼータ FL、 1キロ粒剤 成分回数2回 ◎中期剤・後期剤 (補完的に) <ユニハーブF+初中期一発剤> バサグラン粒剤 (収穫60日前まで) バサグラン液剤(収穫50日前まで) シズイ、広葉類 アトトリ1キロ粒剤(稲5葉期以降、収穫45日前まで) →湛水状態で散布。シズイ・オモダカ用。オモダカは矢 尻葉3葉までだが、なるべく早めに散布する 残 草 ヒエクリーン1キロ粒剤(ノビエ4葉まで) 収穫45日前まで ヒ エ →土壌処理効果がある。豆つぶもある。 クリンチャー1キロ粒剤 (1kg/10a散布:ノビエ4葉まで) 収穫30日前まで (1.5kg/10a散布:ノビエ5葉まで) クリンチャ-EW 移植後25~40日 収穫50日前まで ヒエ+ シズイ、広葉類 クリンチャ-バスME モゲトン粒剤 (発生時に) 藻類・表層剥離 収穫45日前まで使用可能 - 13 - 2) 水 稲 用 除 草 剤 の 上 手 な 使 い 方 ①健全な苗を育て、代かきを十分に行ってデコボコのない均平な田んぼ にする。 ②発生している雑草の状況(発生の種類、発生の時期)を把握し、それ にあった除草剤を選択する。 ③使用する除草剤の適用内容や注意事項をよく読んで、選択した除草剤 が最も効果を発揮できる時期を逃さずに使用量や使用条件を守って、 きっちり均一に散布する。 ④除草剤散布後の水管理(7日間止水など)を着実に実行する。 これらのどこかが抜けたり、ミスしたことが原因となって、雑草の取 りこぼしや薬害の発生に結びついてしまうことが多く見られます。 水稲用除草剤が水を介して拡散し処理層をつくるという特性がある以 上、特に土壌の均平度と水管理は最も重要なポイントです。 3) お す す め 除 草 剤 と 散 布 方 法 ①ガンガン1キロ粒剤の田植同時散布 特に代かき後、移植までの日数がかかる場合 ノビエ 3葉まで 残効性あり 写 真 13 除 草 剤 散 布 機 ( 1 キロ粒 剤 用 ) 写 真 14 田 植 同 時 に 除 草 剤 散 布 ② チ ャ ン ス タ イ ム Zフ ロ ア ブ ル (移植後5日から) ボート散布可能 ノビエ 3葉まで 残効性あり 写 真 15 フ ロ ア ブ ル 剤 の ボ ー ト 散 布 - 14 - - 15 -
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