ここをクリック! - 缶詰技術研究会

目 次
「タイスキ:コカにて」バンコク(タイ) KT
随 想 レーションと食品加工そして容器包装………………………<久保村喜代子>… 602
解 説 シリーズ解説:果実とその加工品の話(第2回)
果汁の生産・貿易動向と国内消費動向……………………<土谷三之助>… 604
解 説 シリーズ解説:糖質素材の機能と利用(第24回)
海藻多糖類(2)カラギナン,アルギン酸……<唐澤幸司・阿部健一>… 610
風水樹花徒然記☆5 花のみならず実も葉も秋は彩り豊か………………<大場秀章>… 615
海外技術・マーケット情報
2012プラント・オブ・ザ・イヤー Northeast Foods 社 Clayton 工場… …………… 618
心臓の健康維持に関する課題…………………………………………………………… 621
調理器具表面への大腸菌 O 157 : H 7 の付着について…………………………………… 623
健康成分としての評価が定着した大豆………………………………………………… 625
廃棄物を利益に転換する嫌気性消化処理……………………………………………… 627
食の未来をつくるスナック食品市場の成長…………………………………………… 630
大手飲料メーカーの脱石油系プラスチック動向……………………………………… 632
“健康”食品神話と新しい食品開発のアプローチ…………………………………… 635
連載エッセー:食の遠近画法 「虚学」の勧め… …………………………<五明紀春>… 638
特別解説:食品におけるナノテクノロジーの展開…………………………<杉山 滋>… 640
業界トピックス:日本茶飲料市場,今年も麦茶がけん引へ………………………………… 647
特別レポート:日本における清涼飲料,ビール系酒類市場
─平成24年の7,8月を振り返って─… …<醸造産業新聞社 編集部>… 648
技術用語解説:A式ケース,機能性段ボール,段ボール,フルート,ラップアラウンドケース…… 652
業界の話題………………………………………………………………………………………… 654
今月の統計………………………………………………………………………………………… 658
最近の技術雑誌から……………………………………………………………………………… 660
野菜・果物を巡って(第四十六話)ワイン・ワークショップに出席して
……………………………………………………………<吉田企世子>… 665
缶詰技術研究会 http://kangiken.net/
想
随
レーションと食品加工
そして容器包装
く
ぼ むら き
よ
工食品産業へ,さらにその製品開発者の一人とし
ての道のりの厳しさを越え,究極の加工食品開発
コンセプトが,レーションにある事を学んだ。
アメリカ軍食品研究所へ訪問して驚愕した。訪
こ
久保村喜代子
問を機に,加工食品開発のサイエンスの極限を
悟った。沢山のリサーチャーが追い求めている何
(久保村食文化研究所代表)
かを私は学んだと思っている。
レーション(ration)という言葉は,わが国で
腹が減っては,戦いができない。わが国ではた
はなじみが薄いが,世界では正にポピュラーな言
とえ喰わずとも戦う。食べ物に関する哲学は国々
葉である。2001年9月11日ニューヨークがテロに
によって異なっている。根本的にそのコンセプト
奇襲され,世界が震撼したが,IFT から発刊さ
に差異が存在している。活力がなければ戦う事も
れる月刊誌の内容は,このテロに対する科学的な
不可能だ。その歴史は,世界の食文化に匹敵する
特集と共に,いかなるテロに対しても揺ぎない信
かもしれない。食べ物で長期保存の利くものは重
念で立ち向かう姿と共に,大事な食品の安全性問
視され,究極の保存食品開発は,レーションと
題とレーションが語られていた。
いっても過言ではない。古来から兵隊食は,普段
それから10年もの歳月。海に囲まれた日本は大
の食事から長期保存を目的とした乾パンのような
震災に襲われ,戦時下のような炊き出しが度々メ
非常時を想定した物まで,近世に至って著しい変
ディアにより紹介された。
化を遂げてきた。アメリカ軍は,各種産業の発達
第二次世界大戦後の食糧不足を知っている人び
と缶詰や,レトルト,乾燥技術などの進化と共に,
との記憶も薄れてきた頃に,この大震災で沢山の
堅固な産学協同研究で世界一のレーション開発技
人びとが食べ物のないヒモジサを体験された。正
術を維持しているといわれている。
に飽食の徒となりきった日本に暮らす消費者は,
昨年の大震災の体験から,明確な加工食品開発
その昔の姿を忘れてしまい,至るところにコンビ
のコンセプトを再考すべき時が来たと信じてやま
ニやスーパーがあり,フレッシュな食べ物が入手
ない。現に,コンビニエンスストアに立ち寄る度
できる事に慣れてしまっていた。たった1日100
に,新しいパッケージの氾濫を見て久しいが,昨
万食のボリュームレベルを被災者に準備・供給す
年の大震災を機に,アイデア豊富な食の製品開発
るのに時間を要したのが現実である。
を目的に,より新鮮さを競う世界において,正に
世界有数の技術力を有している新幹線が走って
より日持ちする容器包装に変化し続けていること
いるが,貨車輸送など減少の一途を辿り,物資を
に容易に気付く。国際社会の中,食を国防として
届けるのに苦しむ事になってしまった。最も安価
捉え,“食品と容器”には根本のコンセプトであ
な輸送手段である鉄道や,高速道路等の交通網も
るレーションに明確に関連した科学と技術エンジ
遮断されてしまった。エネルギー節約の大事な食
ニアリグを駆使しなければならない。より長い賞
糧輸送手段を再び考えるべきだ。
味期限,カロリーを含む栄養豊かでその効果が優
レーションとは,本来は食料品などの配給品で
れる食品開発が必要だ。
あるが,一般的には軍事行動中の食糧を指す。長
アメリカ軍食品研究所ディレクターのダーシュ
年フードサイエンスエディターとして翻訳してき
氏に会う度に,新しい開発品を知る。食の満足感
た私には理解し難さを体験,何が何でも知りた
である美味しさを筆頭に,革新的な包装技術コン
かった。一念発起して,学会本部経由,ペンタゴ
セプトは,ナノテクノロジーの応用・高バリアー
ン(合衆国国防省)に直談判のお陰で1980年代以
ポリマー・透過性モデリング・自在な変形包装
降,初めての民間人として通称 Natick(軍食品
(シュリンクラップ)・多機能二次包装であり,ト
研究所)を訪問する事ができた。専業主婦から加
リトンシステムの押し出し機や,多層構成・複合
食品と容器
602
2012 VOL. 53 NO. 10
射出構成と包材の融合等,いかにして保存状態を
インを学窓と産業界で開始,テクニカルパネルに
良くするか,そして調理科学と保存性向上に注視
よる様々な状況にも耐えうる風味などの官能評価
している。更に,新しい保存や殺菌技術などの新
を行い,軍隊とその製品を販売するベンダーで製
しい加工処理;ハイブリッドで最適な加工・高
品開発し,次に製品評価は実際にフィールドテス
圧・電子レンジ殺菌・超臨界二酸化炭素殺菌へ向
ト,他のレーションと合致させ,産業界で生産さ
けて開発を継続している。
れる。
長期保存のパンといえばわが国では乾パンであ
一方レーション開発は,必需な設備とエネル
るが,融点を調整したショートニング,保存料
ギー技術開発であり,高度なフレームレス燃焼技
術やエチレン検出と制御,消毒液ジェネレーター,
(安息香酸ナトリウム)や他の食品添加物を駆使
したレシピで,パン生地やフィリングを開発した
自己完結型ヒーター,キャンプストーブ・ユニ
コンパクトで持ち運びが容易な常温3年保存可能
フォ―ムオーブンや,太陽光発電などを駆使し,
なサンドイッチがある。この包装は,ユニバーサ
それに合致した容器開発が必要である。
ルで容易に開封可能であり,ポリエステル・ナイ
20年ほど前から利用されているフレームレス
ロン・ポリオレフィン・クワド積層フィルムの4
ヒーターは,発熱反応原理による。元来,この反
つの層で強いバリアー性を有し,微生物,化学物
応原理を応用したお燗機能付きの缶酒は日本の会
質などによる品質悪化に耐えうる。
社で作られたが,さらに軍の研究によりレーショ
サバイバル用の缶詰は内側と外側両面にエナメ
ンへ大きくスケールアップ,兵隊が戦地でより温
ルなどのコーティングを施し格段に錆びにくく,
かく美味しく食べる目的で実現応用された。
水分をフリーズドライ製法で最大98%除去し,窒
軍の研究所訪問で究極の加工食品はレーション
素充填によって賞味期限が常温保存で25年のもの
であり,日本からの様々なアイデアと技術ソース
もある。
が国力と国防概念の差異で利用され,試行錯誤し,
更に,レーションのロジスティックは高い耐久
具体的なエンジニアリング技術と共に製品化され
性段ボールに表面コーティングをし,様々詰めて
ている事を知った。
過酷な条件でも耐えられるようデザインされてい
一人のフードテクノロジスト・サイエンティス
る。3層ラミネート製パウチに密封された飲用水
トとして日本の食品産業界に問う。グルメ気取り
は賞味期限5年で,ペットボトル入りより遥かに
の新鮮さが売り物の輸入食品や売れ残りで廃棄処
便利。
分が多いフレッシュ惣菜が加工食品の根本ではな
食品の品質を長期間維持するには,微生物の増
い。
殖の原因となる酸素や水分を遮断し,酸化を防ぎ
大震災を経験し,必要な加工食品の再考を願い,
保存性を高めなければならない。
次世代により美味しい保存が効く“食品と容器”
軍隊用レーションの開発は,当初から製品デザ
の開発を望んでやまない。
(カラー写真を HP に掲載 C087,C088)
食品と容器
603
2012 VOL. 53 NO. 10
⃝シリーズ解説⃝ 果実とその加工品の話
第2回
果汁の生産・貿易動向と国内消費動向
つ ち や・さ ん の す け
新潟大学農学部農学科
卒業。農林省(現農林
水産省)入省,現在,
(社)日本果汁協会専務
理事。
土 谷 三 之 助
我が国で消費される果汁の大半は輸入品である
この生産量6,855万トンに対する主要5カ国の
ことから,本稿では,二大果汁であるオレンジお
シェアをみると,ブラジルが27%,アメリカが
よびリンゴに関する主要国における生産・貿易動
12%,インドが8%,中国が7%およびメキシコ
向,ならびに国内における消費動向等について概
が6%で,この5カ国で6割を占めている。また,
説してみたい。
この8年間で生産量を大きく増やした国は中国お
よびインドの一方,減らした国はアメリカとなっ
◦1.オレンジ ◦
1-1.生果の生産状況
ている(第1表)。
オレンジ果汁の原料である生果の世界全体生産
極めてわずかで,同じ柑橘類に属するミカンの生
量を FAO 統計にみると,2009~10年の年平均生
果生産量についてみると,2001~02年産の年平均
産量(注)は6,855万トンで,この値は8年前の2001
生産量は120万7千トンで,2010~11年産(2010
~ 02年の年平均生産量を11%上回っている。
年産は裏年,11年産は表年)の年平均生産量は
(注)2年間の年平均で示したのは,多くの果樹におい
29%減の85万7千トンと,年々減少傾向にある。
て隔年結果現象(豊作年と不作年を交互に繰り返す現象)
生産されたオレンジ生果のうち,果汁用には青
なお,我が国におけるオレンジの商業的生産は
かんきつ
があるため。以下同じ。
果市場に仕向けられない規格外や傷果等が仕向け
られるのが一般的(アメリカ(フロリ
第1表 主要国におけるオレンジ生果の生産状況
2001〜02年の年平均
世界全体
ブ
ア
イ
中
メ
ラ ジ
メ リ
ン
キ シ
ル
カ
ド
国
コ
2009〜10年の年平均
生産量A
(千トン)
シェア
(%)
生産量B
(千トン)
シェア
(%)
61,967
100.0
68,552
100.0
110.6
しかし,アメリカ(フロリダ州)で
17,757
11,157
2,723
1,566
4,028
28.7
18.0
4.4
2.5
6.5
18,365
7,880
5,735
4,953
4,122
26.8
11.5
8.4
7.2
6.0
103.4
70.6
210.6
316.3
102.3
は8割弱,ブラジルでは7割前後が,
り,その仕向割合は国によって異なる
が,多くの国では1~2割程度である。
メキシコでは2割強が果汁用仕向けと
なっている一方,中国およびインドで
は大半が青果市場仕向けであり,果汁
用仕向けは少ない。
(出所) FAO 統計から作成
食品と容器
ダ州)およびブラジルを除く。)であ
変化率
(B /A)
(%)
604
2012 VOL. 53 NO. 10
果汁の生産・貿易動向と国内消費動向
1-2.果汁の輸出入状況
となっている(第4表)。
オレンジ果汁の国別生産量を示すデータは見当
◦2.リンゴ ◦
たらないが,国別輸出入量を示すデータについて
は,FAO 統計にみることができる。
2-1.生果の生産状況
1-2-1.輸出
リンゴ果汁の原料である生果の世界全体生産量
オレンジ果汁(濃縮度を問わず。以下同じ。)
を FAO 統計にみると,2009 ~ 10年の年平均生
の世界全体輸出量(輸入後に再輸出されたものを
産量はオレンジよりも少し多い7,004万トンであ
含む。以下同じ。)を FAO 統計にみると,2008
り,この値は8年前の2001 ~ 02年の年平均生産
~09年の年平均輸出量は542万トンであり,この
量を20%上回っている。
値は6年前の2002~03年の年平均輸出量を38%上
この生産量7,004万トンに対する主要5カ国の
回っている。
シェアをみると,中国が46%と半分近くを占め,
この輸出量542万トンに対する主要5カ国の
アメリカが6%,トルコおよびインドがそれぞれ
シェアを見ると,ブラジルが38%,ベルギーが
4%,イタリアが3%と続き,この5カ国で6割
15%,オランダが11%,アメリカが7%およびス
を占めている。また,この8年間で生産量を大き
ペインが3%で,この5カ国で7割を超えている。
く増やした国はインド,中国およびトルコの一方,
ただし,ベルギーおよびオランダではオレンジの
現状維持がイタリアで,減らした国はアメリカと
商業的栽培がないため,この両国の輸出は輸入後
なっている(第5表)。
に再輸出されたものといえる(第2表)。
第2表 主要国におけるオレンジ果汁の輸出状況
1-2-2.輸入
2002~03年の年平均
一方,世界全体輸入量(他国から再
輸出されたものを含む。以下同じ。)
を 同 じ FAO 統 計 に み る と,2008 ~
09年の年平均輸入量は488万トン(前
述の同年の年平均輸出量542万トンと
かい
は乖 離しているが,FAO 統計のとお
り集計した。)で,この値は6年前の
2002 ~ 03年の年平均輸入量を25%上
回っている(第3表)。
世界全体
ブ
ベ
オ
ア
ス
ラ
ル
ラ
メ
ペ
ジ
ギ
ン
リ
イ
ル
ー
ダ
カ
ン
果汁の輸出量の多い5カ国(ブラジル,
純輸出量の増加している国はブラジル,
メキシコおよびイタリアである一方,
スペインが減少し,アメリカでは輸出
量よりも輸入量の方が多い入超の状況
食品と容器
輸出量B
(千トン)
シェア
(%)
変化率
(B /A)
(%)
3,922
100.0
5,420
100.0
138.2
1,460
525
322
283
246
37.2
13.4
8.2
7.2
6.3
2,062
832
577
389
172
38.0
15.3
10.6
7.2
3.2
140.3
158.5
179.0
137.4
69.8
2002~03年の年平均
レンジ生果の生産大国であって,かつ,
から輸入量を差し引いた量)をみると,
シェア
(%)
第3表 主要国におけるオレンジ果汁の輸入状況
以上のような輸出入状況の中で,オ
イタリア)における純輸出量(輸出量
輸出量A
(千トン)
(注)1.濃縮度を問わず。
2.輸出量には,輸出後に再輸出されたものを含む。
(出所) FAO 統計から作成
1-2-3.純輸出量
アメリカ,メキシコ,スペインおよび
2008~09年の年平均
世界全体
ベ
フ
ア
イ
ド
ル ギ
ラ ン
メ リ
ギ リ
イ
ー
ス
カ
ス
ツ
2008~09年の年平均
輸入量A
(千トン)
シェア
(%)
輸入量B
(千トン)
シェア
(%)
変化率
(B /A)
(%)
3,914
100.0
4,878
100.0
124.6
486
505
361
405
389
12.4
12.9
9.2
10.3
9.9
852
634
567
481
423
17.5
13.0
11.6
9.9
8.7
175.5
125.3
156.9
118.7
108.6
(注)1.濃縮度を問わず。
2.輸入量には,他国から再輸出されたものを含む。
(出所) FAO 統計から作成
605
2012 VOL. 53 NO. 10
⃝シリーズ解説⃝ 果実とその加工品の話
なお,我が国におけるリンゴの生果生産量につ
格外や傷果等であり,その仕向割合は国によって
いてみると,ミカンと同様に年々減少の傾向にあ
異なるが,多くの場合,オレンジと同様に1~2
り,2010~11年産の年平均生産量92万8千トン
割程度である。しかし,アメリカでは3割弱,中
から2001~02年産の年平均生産量は22%減の72
国およびイタリアでは2割前後が果汁用仕向けと
万1千トンとなっている。
なっている一方,インドおよびトルコでは大半が
オレンジの場合と同様,生産された生果のうち
青果市場仕向けとなっている。
果汁用に仕向けられるのは青果市場に向かない規
2-2.果汁の輸出入状況
オレンジ果汁の場合と同様,リンゴ
果汁の国別生産量を示すデータは見当
第4表 主要国におけるオレンジ果汁の純輸出量
2002~03年の年平均
2008~09年の年平均
純輸出量A
(千トン)
純輸出量B
(千トン)
変化率
(B /A)
(%)
たらないが,国別輸出入量を示すデー
タについては,FAO 統計にみること
ができる。
ブ ラ ジ ル
1,456
2,062
141.6
ス ペ イ ン
168
88
52.4
メ キ シ コ
30
78
260.0
イ タ リ ア
2
15
750.0
同じ。)の世界全体輸出量(輸入後に
ア メ リ カ
▲788
▲179
440.2
再輸出されたものを含む。以下同じ。)
(注)1.濃縮度を問わず。 2.▲は,輸出量よりも輸入量の多い入超の状況にあることを示す。
(出所) FAO 統計から作成
2009〜10年の年平均
リンゴ果汁(濃縮度を問わず。以下
を FAO 統計にみると,2008~09年の
年平均輸出量は220万トンであり,こ
の値は6年前の2002~03年の年平均輸
第5表 主要国におけるリンゴ生果の生産状況
2001〜02年の年平均
2-2-1.輸出
出量を34%上回っている。
生産量A
(千トン)
シェア
(%)
生産量B
(千トン)
シェア
(%)
変化率
(B /A)
(%)
世界全体
58,323
100.0
70,042
100.0
120.1
ド イ ツ が14 %, ポ ー ラ ン ド が11 %,
中 国
ア メ リ カ
ト ル コ
イ ン ド
イ タ リ ア
19,637
4,480
2,425
1,140
2,249
33.7
7.7
4.2
2.0
3.9
32,476
4,307
2,691
2,479
2,266
46.4
6.1
3.8
3.5
3.2
165.4
96.1
111.0
217.5
100.8
オーストリアが5%およびハンガリー
2002~03年の年平均
2008~09年の年平均
めている(第6表)。
2-2-2.輸入
を同じ FAO 統計にみると,2008~09
輸出量A
(千トン)
シェア
(%)
輸出量B
(千トン)
シェア
(%)
変化率
(B /A)
(%)
1,647
100.0
2,199
100.0
133.5
輸入量を64%上回っている(第7表)。
358
236
219
127
66
21.7
14.3
13.2
7.7
4.0
747
301
237
113
53
34.0
13.7
10.8
5.1
3.4
208.9
127.6
108.1
89.2
81.1
2-2-3.純輸出量
(注)1.濃縮度を問わず。 2.輸出量には,輸出後に再輸出されたものを含む。
(出所) FAO 統計から作成
食品と容器
が3%で,この5カ国で7割近くを占
輸出されたものを含む。以下同じ。)
第6表 主要国におけるリンゴ果汁の輸出状況
中 国
ド イ ツ
ポ ー ラ ンド
オーストリア
ハンガ リー
5カ国のシェアをみると,中国が34%,
一方,世界全体輸入量(他国から再
(出所) FAO 統計から作成
世界全体
この輸出量220万トンに対する主要
年の年平均輸入量は216万トンで,こ
の値は6年前の2002 ~ 03年の年平均
以上のような輸出入状況の中で,リ
ンゴ生果の大生産国であって,かつ,
果汁の輸出量の多い5カ国(中国,ア
メリカ,イタリア,ドイツおよびポー
ランド)における純輸出量(輸出量か
606
2012 VOL. 53 NO. 10
果汁の生産・貿易動向と国内消費動向
ら輸入量を差し引いた量)をみると,純輸出量が
これらの国の中で,輸入量の増加が顕著な国は
増加している国は中国およびイタリアである一方,
中国である一方,減少の著しい国は南アフリカお
ポーランドは減少し,ドイツは入超であるものの
よびオーストリアである(第10表)。
入超の程度を減らし,アメリカでは入超の状況を
なお,我が国のリンゴ果汁の自給率を試算して
拡大させている(第8表)。
みると,ストレート換算で2009年ではおおむね
17%程度となっている。
◦3.我が国におけるオレン
ジおよびリンゴ果汁の輸入
状況 ◦
第7表 主要国におけるリンゴ果汁の輸入状況
2002~03年の年平均
3-1.オレンジ果汁
我が国にオレンジ果汁(濃縮度を問
世界全体
わず。ただし,そのほとんどが濃縮
ア メ リ カ
ド イ ツ
イ ギ リ ス
オーストリア
オ ラ ン ダ
品)を輸出している主な国を見ると,
ブラジルからが輸入量全体の8割弱を
占め,次にメキシコ,イスラエル,ア
メリカおよびイタリアが続き,この5
カ国で輸入量全体の9割を超えている
2008~09年の年平均
輸入量A
(千トン)
シェア
(%)
輸入量B
(千トン)
シェア
(%)
変化率
(B /A)
(%)
1,311
100.0
2,156
100.0
164.4
353
464
81
140
91
27.0
35.4
6.2
10.7
7.0
495
359
139
136
134
23.0
16.7
6.4
6.3
6.2
140.0
77.5
171.4
97.2
146.8
(注)1.濃縮度を問わず。 2.輸入量には,他国から再輸出されたものを含む。
(出所) FAO 統計から作成
(第9表)。
これらの国の中で,輸入量の増加が
第8表 主要国におけるリンゴ果汁の純輸出量
顕著な国はメキシコ,イスラエルおよ
2002~03年の年平均
2008~09年の年平均
びイタリアである一方,減少の著しい
純輸出量A
(千トン)
純輸出量B
(千トン)
国としては,アメリカおよびブラジル
がある。メキシコからの輸入量増加の
背景には,EPA 協定締結に伴う関税
率の引き下げがある。
なお,輸入オレンジ果汁と国産ミカ
ン果汁(ミカン果汁の輸入は極めて少
ない。)を合計して我が国の自給率を
試算してみると,ストレート果汁換算
で2009年ではおおむね15%程度となっ
中 変化率
(B /A)
(%)
国
362
742
ポーランド
216
210
96.8
イ タ リ ア
47
61
128.8
ド
イ
205.2
ツ
▲228
▲59
400.0
ア メ リ カ
▲326
▲439
▲134.7
(注)1.濃縮度を問わず。 2.▲は,輸出量よりも輸入量の多い入超の状況にあることを示す。
(出所) FAO 統計から作成
第9表 我が国におけるオレンジ果汁の輸入状況
2001~02年の年平均
ている。
輸入量A
(千トン)
3-2.リンゴ果汁
シェア
(%)
2009~10年の年平均
輸入量B
(千トン)
シェア
(%)
変化率
(B /A)
(%)
我が国にリンゴ果汁(濃縮度を問わ
輸入量全体
121,072
100.0
84,518
100.0
ず。ただし,そのほとんどが濃縮品)
ブ ラ ジ ル
87,653
72.4
64,498
76.3
73.6
を輸出している主な国をみると,中国
メ キ シ コ
2,822
2.3
4,863
5.8
172.3
イスラエル
267
0.2
3,441
4.4
1288.8
ア メ リ カ
13,304
11.0
3,415
4.0
25.7
イ タ リ ア
1,377
1.1
2,086
2.5
151.5
からが輸入量全体の7割近くを占め,
次にオーストリア,チリ,ブラジルお
よび南アフリカが続き,この5カ国で
輸入量全体の9割を超えている。
食品と容器
69.8
(注)濃縮度を問わず。
(出所)財務省「通関統計」から作成
607
2012 VOL. 53 NO. 10
⃝シリーズ解説⃝ 果実とその加工品の話
コーヒー飲料の6%増となっている一
第10表 我が国におけるリンゴ果汁の輸入状況
2001~02年の年平均
2009~10年の年平均
変化率
(B /A)
(%)
輸入量A
(千トン)
シェア
(%)
輸入量B
(千トン)
シェア
(%)
輸入量全体
88,804
100.0
79,597
100.0
89.6
中 国
37,780
42.5
54,624
68.6
144.6
オーストリア
15,207
17.1
8,637
10.9
56.8
リ
4,257
4.8
4,675
5.9
109.8
ブ ラ ジ ル
3,480
3.9
3,490
4.4
100.3
南アフリカ
4,725
5.3
2,681
3.4
56.7
チ (注) 濃縮度を問わず。
(出所)財務省「通関統計」から作成
方,果実飲料は28%減と,5大カテゴ
リーの中で唯一減っている。
この果実飲料の出荷量減少要因の一
つとして,中身の原料コストが他の飲
料カテゴリーに比べて相対的に高い
(=利益率が低い)ことにあるといわ
れている(第11表)。
4-2.果実類の摂取状況
我が国における果実類(果実飲料等
の果実加工品を含む。)の年齢階層別
摂取状況を「国民健康・栄養調査」でみると,従
◦4.我が国における果実飲料の出荷
状況および果実類の摂取状況 ◦
来,摂取量の多い階層は20歳未満の若齢者層と60
歳以上の高齢者層であったが,最近では若齢者層
4-1.果実飲料の出荷状況
における摂取量が激減してきている。この激減の
清涼飲料の2009 ~ 10年の年平均出荷量のシェ
背景には,他の食品や飲料に比べて価格が相対的
アをカテゴリー別にみると,茶系飲料が29%,次
に高いため,我が国の景気後退に伴い,若齢者層
いで炭酸飲料が18%,コーヒー飲料が16%,ミネ
を扶養する親の可処分所得の減少が大きく影響し
ラルウォーターが11%,果実飲料が8%(果汁
ているものと考えられる。
100%の果実ジュースについては3%)となって
この観点から考えると,果実飲料を含む果実類
おり,2001~02年の年平均出荷量に比べて果実飲
の消費拡大には,我が国の景気の浮上を待たなけ
料のシェアが大きく低下している。
ればならないのかもしれない。
すなわち,2001 ~ 02年と2009 ~ 10年の年平均
◦5.果実飲料業界を巡る
出荷量を比較すると,清涼飲料全体では14%増
大きな課題 ◦
となっているが,これをカテゴリー別にみると,
ミネラルウォーターが96%増とその伸びが著し
以上のような状況にある我が国の果実飲料業界
く,次いで炭酸飲料の27%増,茶系飲料の10%増,
を巡る大きな課題3点をあげるとすれば,次のと
おりである。
第 11 表 我が国における清涼飲料の出荷状況
2001~02年の年平均 2009~10年の年平均
出荷量A シェア 出荷量B シェア
(千トン) (%) (千トン) (%)
変化率
(B /A)
(%)
①生産コストのさらなる圧縮
果実飲料の中身の原料コストは,果
汁100%の「果実ジュース」の最終製
清涼飲料全体
16,031
100.0
18,314
100.0
114.2
品において4~5割を占める一方,ミ
茶 系 飲 料
炭 酸 飲 料
コーヒー 飲 料
ミネラルウォーター
果 実 飲 料
(果実ジュース)
4,813
2,629
2,723
1,066
2,025
580
30.0
16.4
17.0
6.6
12.8
3.6
5,282
3,350
2,890
2,094
1,490
506
28.8
18.3
15.8
11.4
8.1
2.8
109.7
127.4
106.1
196.4
72.4
87.2
ネラルウォーターや茶系飲料,炭酸飲
(注)茶系飲料~果実飲料は清涼飲料全体の代表的な飲料。
果実ジュースは果実飲料に含まれる。
(出所)一般社団法人全国清涼飲料工業会
食品と容器
料等にあっては1割にも満たないと
いわれている。このため,最近では,
“利益率の低い”果実飲料の減産/撤
退あるいは事業統合する事業者が増え
てきており,この課題に対応していく
には,原料果汁の調達コストや技術開
608
2012 VOL. 53 NO. 10
果汁の生産・貿易動向と国内消費動向
じゃっ
発による製造時の生産コスト等のさらなる圧縮を
は次のような大きな問題を惹起させることについ
図っていく必要があろう。
て,広く周知に努めていく必要がある。
②健康機能性のさらなる訴求
・国産果汁の需要減少を招く恐れがあること。
果実飲料の消費減少傾向に歯止めを掛け,消費
・誤表示に伴う製品回収の頻発を招く恐れがある
拡大を期するには,消費者に対して果実飲料の有
こと。
・果汁製品の小売価格の上昇を招く恐れがあるこ
する健康機能性のさらなる訴求に努めていく必要
があろう。
と。
③原料原産地表示の義務化への動き
・国内の果汁産業の空洞化を招く恐れがあること。
先般,消費者庁が取りまとめた「食品表示一元
なお,当果汁協会では,国産果汁のみを使用し
化検討会報告書」では,果実飲料に対する原料原
た果実飲料には任意の「強調表示」を推進すべき
産地表示義務化については,“別途検討する必要
ものと考えて業界を指導してきており,事実,国
がある”として棚上げされたが,7月30日に閣議
産果汁のみを使用している製品のほとんどにおい
決定された「日本再生戦略」では,“食品への原
て,“国産みかん使用”あるいは“○○県産りん
料原産地表示の義務化を推進する”とされている
ご使用”などの「強調表示」がなされている。
ところ,これが推進された場合には,果汁関係で
総会・研究発表会のご案内
日本清涼飲料研究会「第22回総会・研究発表会」
◇日時:2012年10月24日(水)9:50〜(受付9:20〜)
◇会場:
⑴総会・研究発表会
(財)日本教育会館 一ツ橋ホール
〒101−0003 東京都千代田区一ツ橋 2−6−2
TEL 03−3230−2831
⑵懇親会 日本教育会館 9階 喜山倶楽部「平安」
TEL 03−3262−7661
◇参加費:
⑴研究発表会参加費
会 員 1,000円 ※日本清涼飲料研究会の法人・
団体会員:1社につき1名無料 一般 3,000円
⑵親睦会参加費 5,000円
※親睦会参加費につきましても,法人・団体会員
の方1名は無料です。
◇申込方法:下記ホームページよりお願います。
http://www.j-sda.or.jp
◇プログラム
《研究発表》(10:00〜11:45)
「野菜飲料摂取による免疫機能改善効果」 高橋綾子
「トマトジュース摂取が2型糖尿病患者の血糖値に与
える影響」
松本 岳
食品と容器
「精神的ストレス負荷が青年期女性に及ぼす緑茶飲料
の影響」
大和孝子
「青森県雪中栽培ニンジンの雪中栽培がニンジン成分
に及ぼす影響」
丸山弘明
Ⓡ
「R FISS によるレトロネーザルアロマの解析と香料
への応用」
成田晃浩
「ユズおよびハナユの香気特性」
伊藤友彦
「弱酸性乳飲料用安定剤「Hi-pHiveⓇシステム」の機
能と食品への応用」
佐藤康陽
○昼食(11:45〜13:00)
○第22回総会,表彰授与(13:00〜13:20)
《特別講演》(13:20〜15:20)
「食品表示の新しい動き(仮題)」
実践女子大学 生活科学部 教授 田島 眞
「味 覚の生体内制御機構−甘味を中心として−(仮題)」
九州大学 大学院 歯学研究院 口腔常態制御学講座
口腔機能解析学分野 教授 二ノ宮裕三
《研究発表》(15:35〜17:35)全8研究 8社発表
○懇親会(17:50〜19:30)喜山倶楽部「平安」
☆理事会(12:00〜12:50)喜山倶楽部「芙蓉」
609
2012 VOL. 53 NO. 10
シリーズ解説:糖質素材の機能と利用(第24回)
◆解説◆
海藻多糖類(2)カラギナン,アルギン酸
からさわ・こうじ
あ べ・け ん い ち
広島大学大学院理
東北大学大学院工
学研究科数理分子
学研究科応用化学
生命理学専攻修
専攻修了。伊那食
了。伊那食品工業
品工業株式会社入
株式会社入社,現
在, 研 究 開 発 部
社,現在,研究開
主任。
発部 主任。
阿部健一
唐澤幸司
に対し,カラギナンは D-D の繰り返しである。
◆ 2.カラギナン ◆
はじめに
また,カラギナンは寒天よりも多量の硫酸基を含
カラギナンの名称は,アイルランドにあるカラ
から,ゲル化性やタンパク質反応性の強いカッパ
ギーン(Carragheen)という町に由来し,Irish
(κ),増粘性に富んだイオタ(ι)および冷水可
moss extract とも呼ばれる。カラギナンは寒天
溶性でゲル化しないラムダ(λ)の3つのタイプ
と非常に似た構造を有しているが,わずかに異な
に分けることができる。本章では,カラギナンの
り,特異的な性質を持つ。構造上の主な違いとし
構造,性質および利用例について述べる。
ては,硫酸基の含有量と結合様式が挙げられる。
寒天のガラクトースの結合様式は D-L であるの
2−1.カラギナンの分子構造
有し,分子中のアンヒドロ基と硫酸基の量の違い
カラギナンは紅藻類の海藻から抽出して製
造 す る。 原 藻 は 世 界 中 に 分 布
ȡ࢜ࣚ࢟ࢻࣤ
OSO3
CH2OH
し, 主 な 原 料 と し て は キ リ ン
O
タ 属(Chondrus), ス ギ ノ リ 属
O
O
OH
(Gigartina)が挙げられる23)。
カラギナンは D-ガラクトース
OH
Ƞ࢜ࣚ࢟ࢻࣤ
OSO3
CH2OH
互に繰り返した直鎖状の構造をと
O
OSO3
CH2 OSO3
OH
O
62
ト ー ス-3 , 6-ア ン ヒ ド ロ-α-D-ガ
ラクトースの二糖である。カッパ,
O
O
イオタおよびラムダの各タイプは
OR
OSO3
すべてこの結合様式をとるが,硫
酸基の位置,アンヒドロ糖の有無
第9図 カラギナンの化学構造
食品と容器
5+
る( 第 9 図 )24),25)。 カ ラ ギ ナ ン
分子の基本構造は 4-β-D-ガラク
OH
OH
CH2OH
O
が β-1 , 4 結 合 と α-1 , 3 結 合 を 交
O
O
O
O
Ȣ࢜ࣚ࢟ࢻࣤ
サ イ 属(Eucheuma), ツ ノ マ
O
O
610
2012 VOL. 53 NO. 10
海藻多糖類(2)カラギナン,アルギン酸
によって区別される。食品に使用するカラギナン
は熱可逆性であり,その変化は一般的に35℃~
の平均分子量は10万~100万である。
60℃の範囲で起こる。
2−2.カラギナンの物性26)
2−2−4.タンパク質との反応
2−2−1.溶解性
カラギナンの特徴の1つにタンパク質との反応
一般的にカラギナンの溶解性は温度,カチオン
がある。カラギナンは硫酸基を有しているためす
の種類およびカラギナンのタイプによって異なる。
べての pH 領域で負に帯電しており,他の荷電し
溶解性が良い条件として,硫酸基の含有量が高
い,3 , 6-アンヒドロガラクトースの含有量が低い,
ている物質と反応する。この反応性はすべてのタ
ナトリウム塩であることが挙げられる。λ-カラ
ギナンは 3 , 6-アンヒドロガラクトースを含まな
両性電解質であるので,水溶液の pH がタンパク
いため冷水で溶解する。一方,κ-カラギナンは
硫酸基の含有量が少なく 3 , 6-アンヒドロガラク
沈殿する。等電点以上での反応には多価カチオン
(例えばカルシウムイオン)が必要である。この
トースを多く含むため,ナトリウム塩は溶解しや
反応にはイオン結合,水素結合およびファンデル
すいが,その他の塩については溶解性が低い。ま
ワールス力などが関与する。
た,塩類や糖類の濃度が高くなると溶解性が低下
する。
2−2−5.他の多糖類との反応
κ-カラギナンのゲルは脆く離水が多いため,
2−2−2.粘度・粘性
他の多糖類を併用して使用されることが多い。特
カラギナン溶液の粘性は温度,成分,分子量に
にローカストビーンガムを併用するとゲル強度お
よって異なる。高温時の粘度は低く,分子量,濃
よび弾力性が向上し,離水が抑えられた保水性の
度が高くなると擬塑性流動を示す。擬塑性のため,
優れたゲルになる。カラギナンのらせん部分に
静置では弱く固まっているが外力を与えると液体
ローカストビーンガムのマンノース部が会合する
状態になる粘稠性が得られる。また,分子内にア
ことによってゲル強度が高くなる(第10図)。一
ニオンを有するため他の粒子の分散性に優れ,安
方,側鎖のガラクトース部はカラギナン分子と会
定的な懸濁液が得られる。カチオンの影響も受け,
合せずに自由な位置をとりゲルに弾力性を与える。
特に二価以上の塩では低い添加量でも粘度が増加
また,ゲル中の水分を保持するため離水を抑える。
する。
2-3.利用例
2−2−3.ゲル化性
κ-およびι-カラギナンは加熱溶解後,冷却す
カラギナンは塩類や他の多糖類との反応により
イプのカラギナンに当てはまる。タンパク質は
質の等電点以下の場合にはカラギナンと反応して
ちょう
ることで分子がらせん構造を形成,この部分が架
橋領域となりゲルを形成する27)。カラギナンの
ゲル形成は,カリウムイオンやカルシウムイオン
などの陽イオンとカラギナンの硫酸基との架橋反
応によるものである。κ-タイプの場合カリウム
イオンの増加に伴ってゲル強度が増加するが,過
もろ
剰のカリウムイオンを添加すると離水が増加し脆
いゲルとなる。ι-タイプの場合にはカルシウム
イオンによって最も強いゲルを形成し,そのゲル
は弾力性に富み,離水が少なく,凍結・解凍に対
第10図 κ-カラギナンとローカストビーンガムの
反応性のイメージ
して安定という性質を持つ。カラギナンのゲル
食品と容器
611
2012 VOL. 53 NO. 10
シリーズ解説:糖質素材の機能と利用
微妙なテクスチャーをコントロールできることか
ンと塩を形成し,その塩の種類によって物性が大
ら,デザートゼリーやプリンなどのゲル化剤とし
ての利用が多い。乳を含む系では,κ-カラギナ
きく異なる。そのためアルギン酸塩は,食品はも
ンとカゼインの相互作用により,水中よりも低い
本論では,その性質と利用について紹介する。
添加量でゲルを形成する。タンパク質との反応を
3-1.アルギン酸の分子構造
利用したものとして,畜肉製品に対する離水防止
や歩留まり向上,アイスクリームのホエー分離防
アルギン酸は第11図に示すように,2種類の
ウロン酸,すなわち,β-D-マンヌロン酸(M)
止,小麦粉中のグルテンとの反応を利用しパンの
と,α-L-グルロン酸(G)が直鎖状に重合した
品質コントロールなどに用いられている。また,
鎖状多糖類である。アルギン酸を構成するウロン
タンパク質を含んだ排水の処理やビール,清酒な
酸は,1ユニットに1つずつイオン交換性の高い
どの製造時におり下げ剤として利用されている。
カルボキシル基を持つ。また,プロピレンオキシ
分散安定やボディー感付与目的で果汁飲料やコー
ドを用いてカルボキシル基を90% 反応させたも
ヒー飲料,ソース類の分散・懸濁安定などにも利
のをアルギン酸プロピレングリコールエステルと
用されている。食品以外の分野では,練り歯磨き
呼び,これも食品添加物として利用されている。
や芳香剤に用いられている。
3-2.アルギン酸の物性
とより,医薬品や化粧品などにも利用されており,
3−2−1.増粘とゲル化
◆ 3.アルギン酸 ◆
はじめに
アルギン酸は,酸性の条件下ではカルボキシル
基が遊離酸(-COOH)の形をとり,正確にはこ
アルギン酸は褐藻類に含まれる多糖類であ
の状態のものを「アルギン酸」と呼び,水には不
る。1883年にスコットランドの科学者である C.
溶である。また,中性およびアルカリ性の条件下
C. Stanford により初めて単離されたことに端を
でカルボキシル基がナトリウムイオン型の場合
発する。原料となる褐藻類は,南米チリに分布
は「アルギン酸ナトリウム」と呼び,増粘目的で
す る Lessonia を 始 め, 北 欧 の Ascophyllum や
使用されることが多い。さらに,カルシウム型の
Laminaria,アメリカ西海岸の Macrocystis など
場合は「アルギン酸カルシウム」となり,ゲルを
世界各国に生息する。このうち Lessonia はアル
形成する。また,MとGの比率およびその配列は,
ギン酸原料として多く使用される海藻で,気候不
アルギン酸とカルシウムとの反応性に大きく影響
順による資源減少の不安はあるものの豊富な資源
する。G比率の高いアルギン酸塩のゲルは,構造
量がある23 ,28)。アルギン酸は,様々な金属イオ
的にカルシウムイオンを取り込みやすいので,ゲ
ル強度は高いが脆く,熱安定性に優
HOOC
O
OH
H O
O
HO
O
HOOC
HO
C
O
H
OH
O
COOH
O
OH
HOOC
HO
C
O
O
OH
O
H
OH
O
O
HO
れたゲルを形成する。一方,M比率
O
O
HO
O
OH
O
H
OH
O
H
O
ゲルを形成する。すなわち,M / G
O
OH
C
O
HO
第11図 β-D-マンヌロン酸(上)と,α-L-グルロン酸(下)
食品と容器
いアルギン酸塩ほどゲル強度は高く
ないが,冷凍解凍時に安定性の高い
O
O
C
O
HO
が高いアルギン酸塩は,G比率の高
612
比を調整することにより,ゲルの特
性を変えることが可能である。
3−2−2.ゾルの物性
アルギン酸ナトリウムは,冷水お
よび温水に溶解して粘稠な水溶液を作
2012 VOL. 53 NO. 10
海藻多糖類(2)カラギナン,アルギン酸
る。溶液の粘度の大小はアルギン酸ナトリウム分
スチャーの改善29)や中華麺の荒れ防止と弾力増
子の重合度に起因し,1%程度の低濃度で高い粘
強30)などの目的で使用されている。一方,国外
度を示すものから10% 以上の濃度に溶解しても
においては,ドレッシング,ビール用泡沫安定剤
ほとんど粘度を発現しないタイプまで様々な粘度
として膨大な需要がある。また,オニオンリング
に調整することが可能である。
のバッターの結着性を向上させる用途でも使用さ
3−2−3.ゲルの物性
れており,バッターの吸油量を抑制する働きに注
前述のように,アルギン酸塩溶液はカルシウム
目した健康志向の機能性素材としても利用されて
イオンと反応してゲル化を生じる特性を持ってお
いる。また,低分子化したアルギン酸ナトリウム
り,axial-axial に結合したGブロックが構造的に
は,コレステロールと結合する機能が見い出され
カルシウムイオンを取り込んでゲル化を生じてい
ており,健康素材として利用されている31)。さ
る(Egg Box Junction;第12図)。ゲルの物性は
らに,アルギン酸プロピレングリコールエステル
分子量にも大きく影響を受けており,低分子化す
は,イオン濃度が高い条件下でのプリセットが無
ることにより粘度やゲル強度が低減され,カルシ
いことを活かして酸乳系の増粘用途で使用されて
ウムイオンとの反応性が変化する。カルシウムイ
いる32)。また近年では,パンなどの小麦粉製品
オンと反応したゲルは熱不可逆性の性質を持つた
に応用されるケースが増えている。アルギン酸プ
めに他のハイドロコロイドゲルの耐熱性を付与さ
ロピレングリコールエステルは澱粉と反応し,そ
せるためにも応用される。通常のハイドロコロイ
の組織を強化することが知られている33)。従っ
ドゲルは,熱可逆性の性質を持つものが多いため
て,生地の弾力性が目覚しく向上し,焼成後に
に殺菌中に溶解し,殺菌前のゲルの形状を保つこ
ケービングしにくい復元性に富んだパンになる。
とが困難であるのに対して,アルギン酸ナトリウ
近年よく見られる米粉パンのような膨らみにくい
ムとカルシウムイオンの反応ゲルは殺菌後も優れ
パンでも,その形状や食感を改善することができ
た保形性を示す。
る。
まつ
でん
3-3.利用例
◆ おわりに ◆
アルギン酸ナトリウムは,歴史的には冷菓の安
定剤として食品への工業化がなされたが,現在は
寒天をはじめ,カラギナンおよびアルギン酸は,
特にカルシウムイオンとの反応性を応用した用途
それぞれ異なる物性,食感および性質を有する。
が広がっている。例えば,瞬
COOH
時にカルシウムイオンと反応
い
してゲル化する特性を活かし
て,豆乳を麺状に凝固させる
ためなどに利用されている。
O
OH
HO
O
OH
O C
O
O
O
O
O
O
C
HO
O
O
HO
OH
O
O
O
OH
OH
O
O
HOOC
C
Ca2+
O
OH
HO
O
Ca2+
OH
O
O
ギン酸ナトリウム溶液に滴下
OH
O
C
HO
OH
たり,カルシウム溶液をアル
O
C
O
C
液をカルシウム溶液に滴下し
HO
O
Ca2+
O
O
HO
O
は,アルギン酸ナトリウム溶
食品と容器
O
O
HO
OH
COOH
O
O
形のゼリーの成形において
る。その他,魚のパテのテク
OH
O
HO
HO
同様に,人工イクラなどの球
したりすることで作製してい
COOH
OH
O
HO
O
HOOC
HO
HOOC
第12図 Egg Box Junctionの構造
613
2012 VOL. 53 NO. 10
シリーズ解説:糖質素材の機能と利用
それぞれの海藻多糖の持つ特性を理解し,それら
ンおよびアルギン酸などの海藻に由来する多糖類
を組み合わせることで,広範囲の食感や性質の調
は,食品製造における重要な素材として,ますま
節ができる。これらのことから,寒天,カラギナ
す利用が高まるものと考えている。
参 考 文 献
23)大野正夫(編)有用海藻誌 pp 420−454.
(内田老鶴圃,
29)Ahmed EM, Cornell JA, Tomaszewski FB, Deng JC.
J. Food Sci., 48
(4),1078−1080(1983)
2004)
24)Hirase S., Watanabe K., Bull, Inst, Chem. Res. 50,
30)Lee S, Bae IY, Jung JH, Jang KI, Kim YW, Lee HG. J.
Texture Stud., 39(4),393−404(2008)
332−6(1972)
25)Davidson R. L., Handbook of Water-Soluble Gums,
31)西 澤信,久田孝,山岸喬,辻啓介.日本家政学会誌,
48
(8),689−693(1997)
McGraw-Hill, New York(1980)
32)西 出 英 一.日 本 食 品 工 業 学 会 誌,13(3),104−106,
26)G ENU HANDBOOK, The Copenhagen Pectin
Factory LTD(1986)
(1966)
27)Ress D. A., Pure&Appl. Chem., 53, 1(1981)
33)佐藤健.東京都立食品技術センター研究報告,13, 13
28)能登谷正浩(編) 海藻利用への基礎研究 pp 88−98.
−15(2004)
(成山堂書店,2003)
新刊紹介
ソフト・ドリンク技術資料 No.167 発刊のお知らせ
(一社)全国清涼飲料工業会では,「ソフト・ドリン
ク技術資料167号」を発刊しました。ご希望の方はホー
ムページよりお申し込み下さい。
◇書 名:ソフト・ドリンク技術資料 No. 167
(2012年・第2号)B5判 172ページ
◇価 格:1部購入の場合=4,500円(全清飲また
は日清研会員は3,000円),定期購読の場合=
9,000円(全清飲または日清研会員は6,000円)
◎定期購読は年間3冊,価格はいずれも消費税
込,送料サービス,10部以上お求めの場合には
1割引。
◇申し込み先:ホームページ http://www.j-sda.or.jp
◇お問合せ先:(一社)全国清涼飲料工業会
TEL 03(3270)7300 担当 古内または安達
◇内 容
1.アップルペクチンによる門脈血浄化とセシウム
の排泄
(富山大学 田澤賢次)
2.食品中の放射性物質測定の基礎と実際
((財)日本食品分析センター 野村孝一)
3.欧米におけるサプリメントのヘルスクレームに
対する取り組み-2-米国におけるヘルスクー
ムの取り扱い
((一社)日本健康食品規格協会 大濱宏文)
食品と容器
614
4.第44回コーデックス食品添加物部会会合報告
(日本食品添加物協会 平川 忠)
5.FAO/WHO 合同食品企画計画 第6回食品汚
染物質部会報告
(ILSI Japan 岩田修二)
6.FAO/WHO 合 同 食 品 企 画 計 画 第40回 コ ー
デックス食品表示部会 会議報告
(ダニスコジャパン(株) 浜野弘明)
7.
「食品用器具及び容器包装における再生プラス
チック材料の使用に関する指針」解説(サント
リービジネスエキスパート(株) 但馬良一)
8.アサヒ飲料明石工場 最新鋭缶コーヒーライン
の立ち上げについて
(アサヒ飲料(株) 岡田信輔)
9.
「のどごし」の客観的な測定方法について
(キリンホールディングス(株) 三浦 裕)
10.レモンの健康機能
((株)ポッカコーポレーション 高寺恒慈)
11.飲料の香気成分とその特性
(小川香料(株) 熊沢賢二)
ティータイム
▶惑わせる色,いろいろ (花王(株) 中島義信)
▶新入社員教育
(森永乳業(株) 有働久志)
2012 VOL. 53 NO. 10
風水樹花徒然記 ☆ 5
花のみならず実も葉も秋は彩り豊か
おお
ば
ひで
あき
大 場 秀 章
(東京大学名誉教授)
る効果をもっていると示唆したのがそれである。
☆ 忘れられない秋景 ☆
☆ 紅葉のしくみ ☆
誰にも忘れられない光景があるにちがいない。
私にとってペンシルヴェニア州内のアパラチア山
葉が緑にみえるのは細胞中にクロロフィル(葉
中でみた紅葉の光景はそのひとつである。どこま
緑素)という色素を有することによる。しかし葉
でも延々続くサトウカエデの深紅の樹海は圧巻
が含有する色素はクロロフィルだけではなく,カ
だった。単調の美とでもいえようか。
ロティノイド系の色素も普遍的に存在する。しか
アメリカ合衆国のこうした壮大な光景は日本で
し春から夏にかけてはカロティノイド系色素は,
はみたくても叶わないものなのだが,彼地では日
量的に多いクロロフィルの緑色に隠されてしまい,
本の多様な樹種が織りなす色調の変化に富んだ紅
葉がこの色素特有の黄色や橙色にみえることはふ
葉シーンは望むべくもない。
つうない。
日本には世界に誇れる紅葉の名所が多数ある。
それが秋になりクロロフィルが分解され消失す
日光や箱根,京都の嵯峨野や東山,それに三尾と
ると混在していたカロティノイド系色素が目立つ
総称される高雄(神護寺),栂尾(高山寺),槙尾
ようになり黄変する。これが黄葉である。カロ
(西明寺),さらには保津川峡など,枚挙にいとま
ティノイド系色素といえば通常のニンジンの紅橙
ない。
色を想像してしまうのが,葉に含まれるこの系統
の色素は光合成産物である糖に由来するキサント
☆ 紅葉と黄葉 ☆
フィル類で黄色のものが多い。イチョウやシラカ
普通にいう紅葉とは,落葉樹の落葉直前に生じ
バ,ポプラなどの目も覚める鮮やかな黄色の葉が
る緑葉の紅や黄などへの色変のことである。紅色
目に浮かぶ。
に変わるものが狭い意味での紅葉で,黄変を
いう黄葉や褐変になる褐葉も広い意味での紅
葉に含まれる。また草本の紅葉は草紅葉と呼
ばれている。
紅葉のメカニズムは依然として不明の部分
も多いが,解明はかなりのところまで進んで
いる。紅葉はもちろん人間へのプレゼントで
はないが,さて効果を問われるとこれまでは
答えようもなかった。最近鍵となる有力な説
が登場した。
2001年に現代のダーウィンとも呼ばれるハ
ミルトンらは,後述するように紅葉はその木
に寄生するアブラムシへ耐性の強さを誇示す
食品と容器
写真1
山頂の一部を除き,落葉広葉樹林に被われた吾妻連峰。白布峠付近にて
撮影。秋には全山が紅葉する。2008年8月。
615
2012 VOL. 53 NO. 10
紅葉を生む色素は花や果実の赤や紫,青の色調
例えば,日光では中禅寺湖南岸だけでも,アサ
に関与するアントシアニン系色素で,普通は秋に
ノハカエデ,ヒトツバカエデ,オオモミジ,ハウ
なり葉の活性が弱まると,紫外線の影響を受けて
チワカエデ,オオイタヤメイゲツ,コハウチワカ
葉中の蔗糖やブドウ糖などから生成される。ひと
エデ,ウリハダカエデ,イタヤカエデ,オニモミ
くちに紅葉といっても,変化に富んだ色相が生み
ジ,コミネカエデ,チドリノキなどの種が湖畔の
出されるのは,種により生成されるアントシアニ
森林内に混在している。ほとんどが紅変するがイ
ンそのものに微妙なちがいがあることに加え,細
タヤカエデは黄変する。ハウチワカエデは紅葉が
胞の酸性度に応じた変化が生じるためである。
見事だが,私はその黄葉もみたことがある。
紅葉といえばモミジだが,実際モミジの仲間は
イロハカエデやオオモミジなどの栽培品種のな
深紅のもの,濃い赤ワインの色など色相はほぼ種
かには開葉時に葉が濃紅色に染まるものがある。
毎にちがうといってよく,さらにそれぞれの種で
その性質は遺伝的に固定していて,開葉と落葉の
も酸性度や温度環境が色変の幅を増幅し,それら
二度の紅葉を愛でることができる。カエデ属の葉
が相まって絶妙な色相の変化を醸し出しているの
の変色に古くから多くの人々が注目したことが理
である。その複雑さはサトウカエデだけのペンシ
解されよう。
ルヴェニアでみた紅葉には求めえないものである。
☆ 紅葉を代表するカエデの仲間 ☆
紅葉の名所の主人公はいずれもカエデの仲間の
樹木を主体にした樹林であり,庭園といってよい。
蛇足だが,カエデの仲間をカエデ属(学名は
Acer)といい,植物に関心のある方ならそれが
カエデ科に分類される属だと記憶されておられる
であろう。だが,近年の DNA 分子を用いた分析
からカエデ科は近縁のムクロジ科から区別できな
写真2
いことがわかり,ムクロジ科(Sapindaceae)に
森林内部に枝葉を拡げるイロハカエデ。群馬県野反湖周辺。
2011年。
分類されることになった。ムクロジ科にはモクゲ
ンジやフウセンカズラなどが含まれるが,熱帯果
☆ 紅葉は適応戦略か ☆
樹のリュウガン(竜眼)やレイシ(茘枝),ラン
ブータンもこの科の樹木である。カエデ属は温帯
ウィリアム・ドナルド・ハミルトン(1930〜
で多様化した樹木だが,熱帯圏にも分布し,常緑
2000年)はおよそ型破りの生物学者である。昆虫
の種もある。
が呈する色が意味をもつことにメスを入れてきた
緒方健博士の研究(Ogata,1999年)によると
が,昆虫のオスの美しさは寄生虫耐性を示すとす
日本には26のカエデ属の種がある。そのなかには
るパラサイト説や赤い女王仮説を発表して一躍有
オオモミジやイタヤカエデなどのように日本の広
名になった。
い範囲に分布する種もある一方で,ヤクシマオガ
ハミルトンらは,1999年に北半球に産する263
ラバナやシマウリカエデなどのように分布が1ま
種の紅葉する樹種と昆虫のアブラムシとの関係を
たは数島とか,ハナノキのように中部地方の狭い
調べた。すると紅葉が鮮やかな樹種ほどアブラム
地域のみに産する種もある。
シの寄生が少ないことが発見された。しかし,紅
紅葉の名所は概ね10を超えるカエデ属の種が生
葉が直接その樹種のアブラムシへの耐性を高めて
え,それが複雑な色相を生み出しているといって
いるわけではないのだから,このことは鮮やかな
よい。
紅葉をもつことで免疫力の強さを誇示しているの
食品と容器
616
2012 VOL. 53 NO. 10
だといえる。このことから彼らはアブラムシにた
☆ ハギ ☆
いして,紅葉は紅葉しない樹種にたいして一種の
ハンディキャップ信号ではないかと推定したので
秋の七草のうち,ハギの知名度はとくに高い。
ある。
万葉集に詠まれた植物でもっとも多く登場するの
紅葉のもつ意義を問う議論は長い歴史をもつが,
もハギである。今日でも各地にハギの類だけを植
これまで誰も明確な答えを与えることはできな
栽したハギ庭をもつ萩寺をみる。京都高台寺や東
かったといってよい。ハミルトンらの論文はこの
京亀戸の龍眼寺は名所図会などにも描かれている。
問題への最初の有力な答えであった。
小さな花が多数群れ咲くさまは多くの人々に愛
りゅうげん
され,ハギを庭の一隅に植えた邸宅も数多くみる。
☆ 秋を彩る草花 ☆
日本ではかくも人気のハギだが,これまで外国で
春にならび秋の七草が歌にも詠まれ,人々によ
のハギの人気はいまひとつらしく,私は植物園以
く知られている。ハギ,オバナ,クズ,ナデシコ,
外では目にしたことがなかった。
オミナエシ,フジバカマ,キキョウがそれである。
今年(2012年)の夏,所用でスイスにいったが
オバナとはススキのことである。
ルツェルン郊外の邸宅で華やかに咲き誇るミヤギ
花色からみるとハギやクズ,フジバカマの紅紫,
ノハギに出会った。ツバキやアジサイ,ユリなど
キキョウの青紫,ナデシコの淡い紅色など赤色系
は日本が原産地の世界的な観賞用園芸植物だが,
とオミナエシの黄色系に分かれる。この七草もそ
いずれも大きい目立つ花をもつ。ハギはそれらと
うだが,秋の多くの花は色鮮やかだ。これに柿や
は異質だが,ヤマブキのように小ぶりな花をもつ
イイギリなど色鮮やかな果実も数多くある。さら
植物もヨーロッパには定着している。ハギも近い
に紅や黄,褐変した木々の葉の色変りも加わり,
うちにそうした植物のひとつとして彼地に定着す
秋は実にカラフルだ。
るだろうか。見護るのは楽しみである。
☆ 秋の七草 ☆
平安時代は前期の唐風からやがて日本の自然や
植物にも目が開かれ,庭園にも野生植物が植えら
えるようになっていった。野生植物が取り入れら
れたのは主として「前栽」と呼ばれる部分だった。
前栽とは建物の周辺での樹木と草花の植栽で,こ
の言葉は「枕草子」や「源氏物語」などにも登場
する。また貴人の間で草花の種子をまくことや知
人にナデシコの種子を贈ることもされていた。そ
ういう人たちは都から郊外への遊びの折りなどに,
山径などで数々の草花に出会ったにちがいない。
春の七草と秋の七草はそもそも生育地が異なっ
ている。春の方は畑の雑草で,七草粥のように食
べることができる。実際畑に植えた作物が収穫で
きるまで,七草はつなぎの食として役立ったにち
がいない。一方,秋の七草がいずれも花や草姿が
観賞に値する植物であり,里山の路傍などに見出
写真3
される山草であることは,上に記したような経緯
個人の住宅で栽培されるミヤギノハギ。スイス,ルツェルン
周辺のスタッフェルゼー湖畔。2012年8月。
を想起させてくれる。
食品と容器
617
2012 VOL. 53 NO. 10
●
海外技術情報●
2012 プラント・オブ・ザ・イヤー Northeast Foods 社
Clayton 工場( Plant of the Year : Northeast Foods Automatic Rolls of NC )
Food Engineering(U. S. A.)p. 67( ’
12・4 )文献 № 5776
一切人の手に触れることなく,従って照明の必
かのアイテムと一緒にして配送するので,賞味期
要もない完全無人化工場は自動化の究極的な形で
限を保つにはバンズは冷凍して出荷することが必
あるが,実際には極めて実現困難であり,それに
要になる。
近い形として重量物の移動・運搬は機械に任せ,
Clayton 工場で使われているような13,000平方
人間がやるのは製品の品質管理程度にとどめる,
フィートクラスのフリーザーとなると,フロンガ
というのがいまのところの最先端自動化工場であ
スタイプになるのが普通だが,環境や気候変動へ
る。その意味では2012年のプラント・オブ・ザ・
の配慮からここではアンモニアタイプとしている。
イヤーに輝いた Northeast Foods 社のノースキャ
この場合初期投資は高いが,メンテナンス性な
ロライナ製パン工場がそれに最も近いといえるだ
どを考えると長期的には有利であり,マクドナル
ろう。
ドでもそのサステナビリティー(持続可能性)を
全米13カ所に展開する同社工場の中で,マクド
高く評価している。このアンモニアフリーザーは,
ナルド向けのバンズ製造工場として最も新しい
自動貯蔵・払い出し(AS / RS)というシステム
Clayton 工場は2011年5月に生産を開始,その巨
によって高さの制約が取り払われたため,その高
大な需要を満たすためにほとんど型替えのない生
さ は54フ ィ ー ト に 及 び そ の ス ペ ー ス の 割 に
産は無人化工場にはうってつけの条件である。
702,000立方フィート,1,270パレット分もの容量
1時間に13,000ポンドのパン生地を送り込み,1
を備えている。
分間に1,400個,24時間で200万個以上のバンズを
フリーザーのコンプレッサーからの排熱は,地
製造する同工場の要員総数は63名,要員の主な業
下のパイプを循環するグリコールを温めることに
務はメンテナンスとクリーニングがほとんどで,
よって土壌の凍結を防ぎ,電気による加温を不要
75,000平方フィートという広大なフロアスペース
としている。一方,アンモニアによってグリコー
に配されている人員はシフトあたりわずか5名と
ルを8℉(−13.3℃)にまで冷やしてこれをミキ
いうレベルである。
サーなどの設備の冷却にも利用している。
ここで作られるのはレギュラーサイズのバンズ
4台あるアンモニアコンプレッサーの内,1台
のほか,クォーターパウンダー用とビッグマック
は予備機で,2台の低温コンプレッサーが基本的
用のバンズ,それにその他ベーカリー用のバンズ
な要求量を満たし,残り1台の中温コンプレッ
という4種類だが,そのスペックは極めて厳格で,
サーは装着された可変速装置によって必要に応じ
肉眼ではほとんど識別できないようなわずかな規
て稼働をアップダウンする。可変速装置はこの工
格はずれ品でも NG となるため,こうした品質保
場のモーター類すべてに組み込まれているが,こ
証に携わる要員の仕事の徹底は機械がやる仕事よ
うした省エネ設備投資は電力会社からのリベート
りも重要性が高い。
によって早期に回収することができるため,フ
ベーカリー業界では,店舗への直送というのが
リーザーの金属パネルをより効率の良い素材にす
常識で,この直送方式は特に都市部においてはう
ることで節電効果が28%,年間にして78万 kWh
まく機能するが,マクドナルドの場合かなりの田
の節電を実現している。「こうした省エネ投資は
舎でも店舗があるので直送ではなく,一旦配送セ
3年程度での回収を目安としているが,単にエネ
ンターへ送り,パテやチキンナゲットといったほ
ルギー効率だけでなくほかにもメリットのあるも
食品と容器
618
2012 VOL. 53 NO. 10
のについては7年の回収期間を見込んでいるもの
もなくなったという。
もある」と同社は言う。
バンズが包装された後フリーザーから出荷され
Northeast Foods 社では節電対策に巨額の投資
るまでの工程において,人が製品に触れることは
を行っているが,その象徴的なものが Clayton 工
なくなった。バンズを乗せたトレーは自動で20段
場の西壁の外に設置されている1,000 KVA 規模の
スタックされ,チェーンコンベヤーでパレタイ
ディーゼル発電機3基である。この発電機によっ
ザーへ行き,そこで4段ずつ一緒にストレッチ
て工場の電力需要すべてを賄うことが可能で,地
ラッパーに入り,その後自動でフリーザーに送り
域の電力需要が跳ね上がった場合,電力会社は同
込まれる。
工場に自家発電への切り替えを要請,通常の電気
バンズ製造の前半部分は誰かがミキサーのボタ
料金の2倍の価格でこれを買い取っている。
ンを押すほかは,ほとんど人の手は介在しない。
また,従来毎分1,000個を生産能力の目安とし
ミキサーが動き出せば,後はレシピのプログラ
てきた同社は,これまでとは違ったアプローチで
ムによって水,小麦粉,その他の計量から練りあ
そのハードルをさらに高くすることにチャレンジ
がった生地を発酵室に送り込むまですべて機械が
している。典型的な例がオーブンへのフィードパ
やってくれる。
ンのポケットの配列を4×8から5×8にすると
この工場で最も人の手が介在しているのは恐ら
いうもので,大型化することによるスピードダウ
く原料の受け入れ作業である。日に一度の調味料
ンはあるものの,従来の17%増しのアウトプット
等のフォークリフトによる受け入れ,タンクロー
が実現できた。このほか,生産されたバンズが
リーからの主原料受け入れのためのホースの接続,
ラッパーに入って行く際にその出来具合を目視で
フィルターのチェックと稼働といった作業のほか,
チェックしていたのを,焼き上がり後クーリング
納入された原料のスペックとの照合というような
ラックに入る手前に検査装置を設置,目視ではと
QA(品質保証)的業務がその主な任務である。
らえきれていなかった汚れなどをチェックしリ
原料用のサイロやタンクは倒壊などのリスクを避
ジェクトできるようにした。これによってロス率
けるため地面より低い位置に設けられ,万一の場
は若干上がることになったが,それはメーカーと
合にもこれらの受け入れ作業要員で浸水などに対
しての顧客に対する品質保証のコストとして同社
応できる体制となっている。
はとらえている。
生産フロアに点在するモニター画面にはリアル
普通,製パン工場ではベーキングパンをライン
タイムで稼働率やシフト間の成績比較が表示され
の終端から先頭までカートで戻すが,人力に頼る
ており,導入から3カ月後には各シフトの間で良
ためけがの原因にもなるこの作業を Clayton 工場
い意味での競争意識が見られるようになったとい
では廃止し,ガントリー型ロボットと自動貯蔵・
う。
払い出しシステムでこの作業を行うようにした。
設備の据え付け当時には30名ものプログラマー
焼き上がったバンズがパンから排出されると,パ
が現場に詰め,各種のソフトを機器に組み込んだ
ンは180度ないし360度回転し,ライン上の磁気
結果,そのネットワークには約600の IP アドレス
テーブル上でブラシないしエアナイフでバンズの
が与えられている。制御室に原料の小麦の粉末が
くずを落としてガントリーシステムに入り,ライ
入り込んで電子機器を狂わせるのを防止するため
ン先頭部分へ戻って行く。同社他工場でも磁気
NEMA 4 という密閉構造も取り入れられている。
テーブルは使われているが,Clayton 工場のよう
セキュリティー対策も万全で,工場のネット
に1ステーションでパンのクリーニングから反転
ワークは全社的なシステムから切り離して社員以
まで1分間で40枚を処理できるのは,米国では最
外の者のアクセスを防いでいる。また,これとは
速のシステムであり,パンが傷つくこともなく型
別に場内50台のカメラを使って現場の状況をデジ
替え時間が半分になり,人が作業に介在すること
タル録画し,それによってメカニック等の要員に
食品と容器
619
2012 VOL. 53 NO. 10
問題のありそうなエリアを知らせるシステムも備
えている。 パン工場にはつきものの原料粉ダストの問題に
対してもいくつかの対策が施されている。中でも
特徴的なのはコンベヤーその他の設備をフロアか
ら離してロッドでつり下げている点で,倉庫など
の建物では屋根の耐荷重は普通15 psf(lbs. per
square foot)程度であるのに対し,Clayton 工場
の場合,場所によってはこれを25 psf にまで高め
ている。フロアについても通常より1平方フィー
トあたり1ドル高くなるという高密度のセメント
を使っている。通常のセメントの場合,ウレタン
ないしエポキシで表面をコーティングすることが
必要で,それでも経年変化によるはがれなどの問
題が出てくるが,高密度セメントではその心配が
ない,等のメリットがあるためである。セメント
自体はフロアの水洗いなどには不適だが,水を使
うことで排水溝が必要になりそれが微生物の繁殖
につながることや,機械や電子機器にも影響を与
えることを嫌った会社がこの選択をしたわけであ
る。
Clayton 工場で使う水道水は半分が製品に,残
り半分がクーリングタワーなどに使われているが,
同社では排水量をチェックするメーターを取り付
け,同工場からの排水量を正確に把握することに
よって通常は給水量に対して市がかける廃水処理
費用を実際の排水量をベースとして計算してもら
うようにもしている。さらに,屋根にはソーラー
パネルを設置して水を120℉(48.9℃)に予熱し
ており,これによって年間15,500 kWh の電力が
節約できるという。
このほか,取り込みエアーのろ過,原料粉侵入
防止のためのクリーニングとサニテーション,自
然光の利用,LED 照明等々,さまざまな工夫が
随所に施されている。
として挙げられるのは,工場の要員がこれまでの
Clayton 工場の成功は工場の努力のみによるも
ルーティンワークから解放されることによって製
のではなく,これに許認可を与えた地域当局の尽
品の品質や生産のフレキシビリティーにより目が
力にもよるところがある。また,その建設に関
向けられるようになり,結果,その技量が高まり,
わったさまざまな請負業者との良好な関係もこれ
それが工場にとっての価値ある財産となり,ひい
に寄与したところ大なるものがある。Clayton 工
ては会社の業績向上にも資することになるという
場のような先進的自動化工場の副次的なメリット
ことである。
食品と容器
620
(大池静男)
2012 VOL. 53 NO. 10
●
海外技術情報 ●
心臓の健康維持に関する課題
( The Heart of Heart Health )
Prepared Foods(U. S. A.)p. NS 2( ’
12・5 )文献 № 5780
心血管疾患(CVD)は高血圧や冠動脈疾患,
が,血圧の調節に関わるレニン・アンジオテンシ
心不全,心臓発作,先天性疾患を含む包括的な総
ン・アルドステロン系をターゲットに使われてい
称であり,先進工業国において依然として人々の
る。肝臓でレニン酵素が,アンジオテンシノゲン
主要な死亡原因である。世界保健機関(WHO)
をアンジオテンシンⅠに変換し,続いてアンジオ
の 統 計 に よ る と, 全 世 界 で 年 間 約1,700万 人 が
テンシン変換酵素(ACE)により,アンジオテ
CVD によって亡くなっている。
ンシンⅠがアンジオテンシンⅡ(強力な血管収縮
CVD による死亡者数は,5大死亡原因のがん,
物質)へ加水分解される。ACE 阻害薬はさまざ
インフルエンザ,慢性閉塞性肺疾患,災害,真正
まな副作用が知られている。しかし,天然由来の
糖尿病の死亡者数の合計よりも多い。しかし死亡
ACE 阻害ペプチドを含み血圧を降下させる機能
統計だけでは,慢性的な病気や身体障害,経済的
性食品成分は,大きな効能をもたらす。高血圧マ
負担などが,患者や家族,保健医療制度を破壊し
ウスを用いた研究で ACE 阻害物質(カソキニン,
ている全体像をとらえることができない。アメ
ラクトキニン)を含む乳由来ホエイプロテインや
リカ疾病対策センター(CDC)によると,アメ
カゼイン餌料は血圧を著しく低下させた。ヒトで
リカでは,2,710万人が CVD と診断され,さらに
も小規模の試験ではあるが牛乳タンパク由来のペ
8,110万人から1つ以上の CVD の兆候が見つかっ
プチドが,統計上有意に血圧降下作用と関連する
ている。それでもまだということであれば次のよ
と報告されている。その他に,大豆や肉,卵,穀
うな怖さもある。加齢に伴い CVD のリスクは上
物,魚,貝から天然の ACE 阻害物質が見つかっ
昇するのだが,若い世代に増えており,子供にさ
ている。また,最近見つかった天然由来の ACE
えその兆候が現れてきている。
阻害物質が含まれる食材として海藻があり,日本
健康に配慮した食事と適切な生活習慣を選択す
でもその機能性素材としての利用が注目されてい
ることで,リスク要因を有意に減らすことが可能
る。また,微小藻類が心臓の健康に良いカロテノ
であるが,これらの健康戦略はほとんど採用され
イド抗酸化剤,特にアスタキサンチンの原料とし
ていない。人々は香味に富んだ食べ物を好むが,
て使用されている。
心臓の健康維持に良い食品というと味が無くまず
コレステロールと血液凝固への対処
い料理を連想しがちだからである。そのため,心
ω- 3 脂肪酸は血圧降下と共に,LDL コレステ
臓の健康維持の意識の高い消費者市場を狙う食品
ロールと中性脂肪を減らすことが知られている。
製造企業は,心臓健康維持に有効な成分を消費者
ω- 3 脂肪酸,特に EPA(エイコサペンタエン酸)
が惹きつけられる形態で,製品に含有させなけれ
と DHA(ドコサヘキサエン酸)は脂肪酸の代謝
ばならない。心臓の健康に有効な多くの成分は,次
を血小板凝集が抑制される方向に傾け,凝血塊形
のような主要リスク要因別に分類することができる。
成を防ぐ働きをする。これらは脂溶性だが,マイ
高血圧の管理
クロカプセル製品は水溶性として食品,飲料への
高血圧は CVD のさまざまな疾患に対する管理
配合を可能にしている。多くのナッツ類がコレス
可能な主要要因である。血圧が5mmHg 下がる
テロール値低下の効能を持つことが示されている。
だけで,CVD リスクが16%低下するという科学
クルミはω- 3 脂肪酸を含み,糖尿病患者におい
的根拠がある。アメリカでは年間約1,500万ドル
て,LDL 値に対し HDL 値を改善するだろう。亜
食品と容器
621
2012 VOL. 53 NO. 10
麻やチーアの種子にもω- 3 脂肪酸が含まれてお
CoQ-10が病んだ心臓の手当や心臓病の進行を
り,菜食主義者に適している。
妨げる作用を持つことには,いくつかの理由があ
水溶性食物繊維はコレステロールを下げるだけ
でなく,飲食物の食感もよくする。水溶性食物繊
る。最も明白なのは,心筋が利用するエネルギー
に関わることだ。CoQ-10が低量であると,ATP
維は,胆汁酸(肝臓でコレステロールから作られ
生産に関与する電子伝達系の働きを弱めるだろう。
脂肪の消化を助ける)を自然に取り込み,体外に
排せつする。胆汁酸の再循環が起こらないため,
心筋の収縮力低下は,体内の血液循環が悪化する
ことを意味するが,実際に,CoQ-10を投与する
肝臓が血液からコレステロールを除去することに
ことで左心室の収縮率が改善されたと報告されて
なる。コレステロールを下げる食品素材としては
いる。
フィトステロール,ニンニクなどがある。リグナ
“生体エネルギー”だけでは CoQ-10の全容を
ン,フラックス種子,ナッツ,全粒粉も CVD の
リスク低下に関連している。
表せない。実際に,体は電子伝達系の必要量の10
倍近い量の CoQ-10を作る。これは単純に過剰生
酸化損傷の緩和
産ということではなく,CoQ-10が抗酸化物質と
フリーラジカルと呼ばれる活性酸素種は,呼吸
しての,他の抗酸化物質とは異なる重要な作用を
の副産物であったり,多くの病気の過程で,ある
持つことを意味している。抗酸化物質は危険なフ
いは環境中の毒性物質にさらされることによって
リーラジカルへ電子を放つ。これは,一種の“生
生じる。これらから身を守るため,ヒトはさまざ
物学的なサビ”の原因ともなり,タンパク質分子
まな抗酸化物質を作り,ビタミン C や E,カロ
を架橋させたり,細胞膜や DNA にさえも損傷を
テノイドといった抗酸化物質を含む果物や野菜を
与える可能性がある。ラジカルが必要量の電子を
多く食べようとする。多くの研究から,抗酸化物
一旦持ってしまえば,抗酸化物質が使われて電子
質を豊富に含んだ食物と CVD 防御が関連するこ
を放出することはない。それは酸化と呼ばれ,電
とは明らかであるが,ヒトの体内においてそれぞ
れの抗酸化物質の補給に伴い,常に防御作用が起
子を得て還元型に戻す必要がある。
抗酸化物質として,CoQ-10は電子伝達系にお
きているかどうかは確かめられていない。
いて電子の無限な再生源となるというユニークな
生体エネルギーの強化
特性を持つ。ヒトが呼吸をする限り,電子は動き
続けエネルギーを作る。従って,CoQ-10にとって,
食品や飲料にまだ使われていない,有望な成
分として,コエンザイム Q-10(CoQ-10)がある。
この2つの作用は相補的である。また,再生した
CoQ-10は呼吸に不可欠な働きを持つ。CoQ-10は
電子を提供することによって,ビタミンEのよう
食べ物からエネルギーを取り出す最終段階である
ATP(アデノシン三リン酸)合成において,酸
な他の抗酸化物質を助けるとも考えられている。
CoQ-10の心臓への保護機能として,心筋のエ
化型から還元型に容易に変化しながら,電子を1
ネルギー増加,動脈硬化プラーク形成のリスク要
つの酵素複合体から別の複合体へ往復させ,そし
因である酸化生成物からの保護,心筋の虚血性障
て電子伝達系の重要な部分として,再びもとの酸
害からの保護,高血圧症の血圧降下,他の抗酸化
物質の再生が挙げられる。CoQ-10は素晴らしい
化型へ戻る。
CoQ-10はミトコンドリアが多い組織,特に肝
心臓保護剤である。最近の研究では,他にも心臓
臓や腎臓,心筋や有酸素運動を行うアスリートの
を保護するような効果を見つけている。コレステ
筋肉から多く確認されている。長い間,血管や心
臓の CoQ-10量が減ると心臓の病気のリスクが高
ロール低減剤として最も有力なのは,スタチンと
呼ばれ,肝臓のコレステロール生成能力を低下さ
せる働きがある。スタチンは体内の CoQ-10レベ
まるという仮説が立てられており,1972年には心
臓病になると CoQ-10の量が不足することが証明
ルを低下させ,重要なエネルギーを減少させる可
能性があるが,スタチン剤と一緒に CoQ-10を服
された。
食品と容器
622
2012 VOL. 53 NO. 10
用すれば,これを抑えられる。
ヒトは体内で CoQ-10を生成するが,さまざま
ルに包むといった技術によって CoQ-10を溶かし
て利用できる。このことはさらに他の方法も含め,
CoQ-10が心臓の健康維持のための兵器庫におけ
な病気による抗酸化剤の必要とともに,加齢に伴
う CoQ-10の減少に対して補給することも選択さ
る,他の本格的な防衛兵器としてさらに考慮に値
れる。CoQ-10は食品への吸収や食物へ溶け込ま
することを示している。
(鈴木 大)
せることが難しい分子であるが,マイクロカプセ
●
海外技術情報 ●
調理器具表面への大腸菌 O157:H 7の付着について
( Attachment of Escherichia coli O157 : H7 to Abiotic Surfaces of Cooking Utensils )
Journal of Food Science(U. S. A.)p. M 194( ’
12・4 )文献 № 5779
腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H 7 は1982
の 病 原 菌 自 体 は AHLs を 合 成 で き な い。SdiA-
年に初めて見いだされた食中毒菌で,出血性大腸
AHLs 複合体は,EHEC O157:H 7 の多くの病原
炎や溶血性尿毒症症候群を引き起こす赤痢菌毒素
性遺伝子のレスポンスレギュレーターとして知ら
に類似したベロ毒素 VT1と VT2を産生する。ま
れている QseB の発現を調節する。連続フローセ
た酸耐性で消化管での生存能が高いため,発症菌
ルシステムを用いた研究で AHLs がポリスチレ
量が低いことで知られている。健康牛は EHEC
ン表面での大腸菌のバイオフィルム形成を抑制す
O157:H 7 を保菌しており,主な感染源は牛肉で
ることが報告されているので,AHLs が調理器具
ある。牛肉から調理器具を介して他の食品に二次
の表面への大腸菌の付着を抑制できる可能性があ
汚染するといわれている。食品加工現場で最も一
る。
般的に使われている材質のステンレス鋼やガラ
本論文では,種々の調理器具材質への EHEC
スとテフロンに EHEC O157:H 7 が付着するとの
O157:H 7 の付着について調べている。
数々の研究報告がある。
1)多くの細菌は,自分と同種の細胞が周辺に
アルミニウムは低比重(2.7),耐腐食性や加工
どれくらいの菌数,密度で存在しているかの情報
が容易などの有用な特性を持つ。アルミニウムは
を感知し,その情報に基づいて特定の物質の産生
慢性腎不全患者への毒性が知られているが,食品
を行う 「クオラムセンシング」 と呼ばれるメカニ
製造現場の調理器具や包装資材に広く使われてい
ズムを持っている。クオラムセンシングを行う細
る。チタンは比重が4.5であり,半分の重さでス
菌は細胞内でオートインデューサーと呼ばれる物
テンレス鋼と同等の強度を持つ。チタン器具は,
質を産生している。オートインデューサーは,細
空気にさらされると表面に酸化チタンの保護層を
胞内で転写制御因子に作用して,特定のタンパク
形成し,酸 ・ アルカリ耐性となるため,家庭調理
質の合成を促進する働きを持っているが,自分自
器具の材質として一般的に用いられている。プラ
身の細胞内で働くだけでなく,菌体外に分泌され,
スチックやガラスは金属に比べ加工しやすく,安
それが他の細胞内に取り込まれることによって,
価なため調理器具の材質として用いられている。
その細胞にも作用する。クオラムセンシングを行
う細菌のうち,グラム陰性菌の多くでは,N-ア
EHEC O157:H 7 は,食品中の常在菌の存在下
で調理器具へ付着する。EHEC O157:H 7 は,グ
ラム陰性菌が生成する N-アシル-L-ホモセリンラ
シル-L-ホモセリンラクトン類(AHLs)と呼ば
クトン類(AHLs)に対する受容体様タンパク質
が明らかになっている。
れる物質がオートインデューサーとして働くこと
2)細菌は,めまぐるしく変わる環境を感知
(SdiA,luxR ホモログ)を細胞質に持つが,こ
食品と容器
623
2012 VOL. 53 NO. 10
25℃と37℃で培養した菌に比べ,15℃で培養し
変化の感知は,「二成分情報伝達系」と呼ぶセン
た菌の材質表面への付着数は少ない。25℃培養菌
サーシステムを使って行われる。二成分情報伝達
の結合選択性はステンレス鋼>チタン>ガラス
系は,「ヒスチジンキナーゼ」と「レスポンスレ
( P <0.05)の順である。一方,37℃培養菌の場
ギュレーター」と呼ぶ2種類のタンパク質からで
合は,ステンレス鋼とチタンで結合選択性に有意
きている。ヒスチジンキナーゼは,環境変化を感
差は認められない(第1図)。
じ取るセンサードメイン,リン酸化反応を行う触
2.EHEC O157 : H 7 の非生物的表面への付着
媒ドメインや,二量化ドメインという3種のパー
EHEC O157:H 7 は, 使 用 し た 菌 株 の 種 類 に
ツで構成されている。このヒスチジンキナーゼは,
関わらず,ステンレス鋼(約50cells/mL),純正
センサードメイン部で環境変化を感じ取ると,触
チタン(35−45cells/mL)とガラス(約20cells/
媒ドメインが ATP を使って二量化ドメインにあ
mL)にはよく付着するが,アルミニウムとプラ
るヒスチジン残基をリン酸化する。レスポンスレ
スチックにはほとんど付着しない。付着性試験前
ギュレーターは,さらにそのリン酸基をヒスチジ
に表面処理(第1表)を行った場合,牛スライス
ンキナーゼから受け取り,環境変化に適応できる
と牛脂処理では,ステンレス鋼,純正チタンおよ
ようなタンパク質の発現や活性の調節を行ってい
びガラスへの付着はかなり低減する(10cells/mL
る。
未満)が,牛血清アルブミン処理では付着低減効
1.EHEC O157 : H 7 の非生物的表面への付
果は認められない。
着に対する増殖温度の影響
3.EHEC O157 : H 7 の非生物的表面への付
EHEC O157:H 7 の調理器具材質の非生物的表
着に対する AHLs の効果
面への付着性試験は次のように行っている。定
EHEC O157:H 7 は, グ ラ ム 陰 性 菌 が 生 成 す
常期まで培養した菌(OD660=2.8)の0.85% NaCl
る AHLs に対する受容体様タンパク質(SdiA)
懸濁液10 mL(100 cells/mL)に各種調理器具材
質の正方形片(25 cm2)を25℃で20分間浸漬する。
を細胞質に持つが,この病原菌自体は AHLs を
合 成 で き な い。SdiA-AHLs 複 合 体 は,EHEC
正方形片を取り出し,穏やかに0.85% NaCl 溶液
O157:H 7 の多くの病原性遺伝子のレスポンスレ
で洗浄した後,エオシンメチレンブルー(EMB)
ギュレーターである QseB の遺伝子発現を調節す
寒天培地プレート表面に置く。プレートを37℃で
ることが知られている。
24時間培養後,正方形片領域に出現したコロニー
EHEC O157:H 7 の ス テ ン レ ス 鋼 表 面 へ の 付
数を計数して付着菌数を算出している。
着に対する菌の AHLs 処理(第1表)の効果を
調べた結果,供試した6種類の AHLs の中で N-
௛╌Ⳟᩐ 䟺cells/25cm2䟻
し,その変化に適応して生きている。この環境
ヘキサノイル-L-ホモセリンラクトン(HHL)が
50
40
30
最も高い付着抑制効果を示す。すなわち50μM
䜽䝊䝷䝰䜽㗨
䝅䝃䝷
の HHL で37 ℃,20分 間 の 菌 体 処 理 を 行 う こ と
䜰䝭䜽
で,ステンレス鋼への付着菌数は約70% 減少する。
また,HHL 処理により QseB 遺伝子の mRNA レ
20
ベルも大幅に減少する。
10
HHL は,AHLs の中でも最も広範に分布する
ことが知られており,生菌数を低下させることな
0
15
25
37
く,SdiA との結合を介して大腸菌の QseB を含
ᇰ㣬Ὼᗐ 䟺Υ䟻
む多くの遺伝子プロモーターを制御することが知
第1図 EHEC O157 : H 7 の非生物的表面への付着に
対する増殖温度の影響
べんもう
られている。QseB は,EHEC の鞭毛形成や運動
性を含む多くの病原性遺伝子の発現を制御すると
2回の繰り返し実験(3反復 /1実験)の平均値を表わす。
食品と容器
624
2012 VOL. 53 NO. 10
第1表 EHEC O157 : H 7 の付着性試験に用いる材質表面と菌体の前処理方法
前処理
方 法
牛肉スライス
無菌的にスライスした牛肉(サーロイン,約3mm 厚)を試験材質表面上に25℃で20分間放置後,
取り除き直ちに付着性試験を実施する。
牛脂
オートクレーブした牛脂を試験材質表面上に広げ(40mL/cm2),25℃で20分間放置して固化後,
直ちに付着性試験を実施する。
牛血清アルブミン
ミリポアフィルター(孔径0.22mm)で除菌した牛血清アルブミン溶液(10mg/mL,0.85% NaCl)
を試験材質表面に広げ(40mL/cm2),25℃で20分間空気乾燥後,直ちに付着性試験を実施する。
AHLs
供試菌を37℃で対数増殖中期(OD660=0.8)まで培養する。遠心集菌した菌体を0,10および
50μM の 濃 度 で 各 種 AHLs(N-butyryl-DL-homoserine lactone, N-hexanoyl-DL-homoserine
lactone, N-octanoyl-DLhomoserinelactone, N-oxo-octanoyl-L-homoserine lactone, N-decanoyl-DLhomoserine lactone, N-dodecanoyl-DL-homoserine lactone)を添加した LB 培地に再懸濁し,37℃
で2時間好気培養する。培養後遠心集菌し,0.85% NaCl 溶液で2回遠心洗浄したのち,同溶液に約
100 cells/mL となるように懸濁する。この懸濁液を直ちに付着性試験に用いる。
報告されている。従って,HHL は QseB 活性化
付着を抑制する。低温で増殖した EHEC O157:
を介して EHEC O157:H 7 の運動性を高め,その
H 7 細胞は非生物的表面への付着性が低下する。
結果,高い運動性を持つ EHEC O157:H 7 は,非
HHL は,QseB 遺伝子発現の抑制を介して,非
生物的表面への付着性が低下すると考えられる。
生物的表面への付着を抑制する。さらなる研究が
4.結論
必要であるが,EHEC O157:H 7 の運動性が非生
EHEC O157:H 7 の交差汚染を防ぐためには,
物的表面への EHEC O157:H 7 の付着に関連して
調理器具の材質としてプラスチックとアルミニウ
いる可能性がある。
(川本伸一)
ムが好ましい。調理器具への牛脂の固着は菌の
●
海外技術情報 ●
健康成分としての評価が定着した大豆
( Soy Is Back )
Prepared Foods (U. S. A.)p. 19( ’
12・4 )文献 № 5773
アメリカの大豆食品市場は,ここ数年間でゆる
料として使用される食品には,豆腐がある。豆腐
やかな成長をとげ,約50億ドルを売り上げた。大
は,この数年間で,その他の植物性タンパク質食
豆食品は,大豆を特性材料として使用した食品
品との競合により,2010年には売り上げが約2%
減少したが,アジアの市場では成長を続けている。
(大部分が大豆からなる食品)と大豆を機能性材
料として使用した食品(大豆の特定の機能を使用
一方で,大豆を機能性材料として使用する食品
した食品)に分類することができる。
は,根強い成長をとげている。さらに,消費者は,
大豆を特性材料として使用する食品の例として,
栄養とエネルギーを簡単に得ることを求めており,
豆乳が挙げられる。大豆食品の中で,豆乳が占め
このニーズをかなえる食品としてエネルギーバー
る割合は大きく,大豆食品の総売り上げの20%以
は急成長をとげ,今や栄養とエネルギーを簡単
上を占めている。しかし,近年では,アーモンド
に得るためのトレンドとなっている。Soy Joy は,
ミルクや米ミルクなどが販売されるようになった
2008年と2009年で大きな売り上げを収め,それ以
ため,機能性飲料の競争が激しくなり,豆乳の売
来,企業は若者を対象とし,大豆ベースの材料に
り上げが減少している。その他に,大豆が特性材
果物を追加しさらにグルテンフリーとなるように
食品と容器
625
2012 VOL. 53 NO. 10
した。
現在は,幼少期や,青年期に大豆を摂取すると,
大豆を機能性材料として使用しているその他の
乳がんの予防策になるという研究結果が増えてき
食品には,肉の代替品がある。過去10年の間に,
ている。しかし,これらの研究は適度な大豆を摂
食事から肉を除くベジタリアンだけでなく,フレ
取した場合のみについてであるため,確実な結果
キシタリアンにも注目が集まっている。消費者は,
を得るには,さらなる研究が必要となる。中国と
肉の消費量を減らす傾向にあり,肉の代替品の需
アメリカによる近年の研究では,乳がんと診断さ
要が増えてきている。肉を使用しない製品の需要
れた後に大豆を摂取すると,予後を改善し,再発
が高まると,大豆食品の売り上げにつながる。こ
を防止することが示された。また,1日に1〜2
の10年間で肉の代替品としての大豆食品は,より
つの大豆食品を摂取すると,エストロゲン依存性
豊富で複雑な香辛料が加えられ,特に,自然食品
とエストロゲン非依存性の腫瘍をもつ女性のどち
を販売するスーパーでの売り上げが上昇してい
らも予後を改善することが分かった。
る。Innova Market Insight の調査によると,昨
その他に,大豆タンパクにコレステロールを減
年,「肉を使用していない」と表記されたアメリ
少させる効果があるかどうかという問題がある。
カの食品は,約21%の成長をとげたとされている。
1999年,この大豆の特性が消費者の注目を集め,
近年の傾向としては,大豆を特性材料として使
FDA は,大豆食品が心臓発作の予防になるとい
用していようが機能性材料として使用していよう
う表示を認可した。1年後,米国心臓協会 (AHA)
が,大豆を原料とする製品はセールスに成功し
は大豆食品を認可し,大豆食品はさらなる注目を
ている。大豆の健康効能が消費者を刺激してお
浴びた。しかし,2006年 AHA は立場を翻し,大
り,United Soybean Board の消費者調査によれ
豆食品には飽和脂肪の含有が少ないために(ま
ば,「アメリカの消費者の約84%は,大豆が健康
だ推奨してはいるが),大豆タンパクのコレステ
的であると信じている」としている。大手企業も
ロール減少効果に対しての興味を失った。2010年,
大豆食品市場に参入し,消費者が利用できる製品
カナダの研究グループは統計的なデータによって,
品目を拡大している。
大豆タンパクは,4%強の LDL コレステロール
大豆食品の評価
を減少させる効果があると報告した。近年のその
近年,消費者は,インターネットを利用してダ
他の推定でも,LDL コレステロールは4〜6%
イエットや健康についての情報を得るようになっ
減少するとしている。さらに,ロサンゼルスの南
た。インターネット上では,科学的な真実,特に
カリフォルニア大学 Keck School of Medicine の
栄養科学の面が明らかにならないうちに,その効
研究では,大豆は無症候性のアテローム性動脈硬
果が誇張されている。大豆について最も混乱させ
化の進行を抑止する効果があると報告している。
られるのは,乳がんに関連する問題である。1990
また,ここ3年の研究で,女性の若年性更年期障
年代の初め,伝統的な大豆食品(豆腐やみそ)は,
害に対して大豆タンパクを摂取することで動脈硬
乳がんになるリスクを減らせると考えられていた。
化の進行を劇的に減少させることが分かった。
全米がん研究所( National Cancer Institute )は,
多くの女性にとって大豆食品は魅力的であるが,
日本で乳がんの発生率が少ないのは,豆腐の保護
男性にとっても大豆食品のみを食べるのでない限
作用によるものであると動物実験で示した。しか
り,精子の数や,テストステロンの量が減少した
し,10年も経過しないうちに,女性の乳がんにつ
り,胸を大きくすることはなく,大豆食品は前立
いて特定のネズミが,がんの発生率を上げたこと
腺がんのリスクを減少させることや,がんの患者
から,大豆食品はもしかすると危険なのかもしれ
にも役立つという点で魅力的である。
(木ノ下菜々)
ないと示された。同時期に,この仮説を支持する
見解も示された。
食品と容器
626
2012 VOL. 53 NO. 10
●
海外技術情報 ●
廃棄物を利益に転換する嫌気性消化処理
( Anaerobic Digestion : Turning Waste into Profit )
Food Engineering & Ingredients(BEL.)p. 15( ’
12・2 / 3 )文献 № 5770
食品工業では長年,廃棄物処理についての課題
進められているが,高水分素材については対応で
を抱えていて,いつも,より効率的に処理を行う
きていない。そのため事実上,唯一の実用的な選
方策を検討しており,その鍵はいかに発生を抑え
択肢として残るのは,微生物などによる生化学処
るかということである。この課題は,食品工業だ
理である。コンポスト処理は古くから実績があり,
けでなく,食品産業全体で,いかに廃棄物処理コ
コストもさほどかからない。さらにこの処理は環
ストを抑えるか,また併せて環境貢献もできるか
境に対しても埋め立て処理などよりも負荷が少な
が重要となっている。今,嫌気性消化による食品
く,肥料へ変換できるメリットもあるが再生エネ
廃棄物処理の技術開発が,廃棄物処理のコスト低
ルギーの回収の面ではあまり効果がない,そこで,
減のみならず,廃棄物が新たな価値を生み出すも
新しい形の生化学処理として,期待されているの
のとして期待されている。
が嫌気性消化処理である。
食品製造においては必ず廃棄物が発生する。食
嫌気性消化処理は酸素のない閉鎖系の条件で,
品加工の効率性を向上させても,加工工程で副産
微生物により行われ,バッチ式も連続式も可能であ
物は必ず発生する。廃棄物はサプライチェーンや
る。使用する微生物の至適温度帯により中温(30
小売り段階においても発生し,多くは有機物で,
~40℃:mesophilic)と高温(70℃:thermophilic)
果物や野菜などの皮,工程等の洗浄残渣,さらに
がある。一般的に高温処理は固体含有率の高い素
売れ残った商品などである。廃棄物と見なされる
材に対しても有効であるが,中温処理の方が安定
副産物の一部は,新たな工程を経て,新規素材と
性が高いといわれている。有機物はバクテリアに
なる場合もある。チーズ製造時に発生するホエー
より低分子化され,その後,さまざまな特有の微
タンパク質はその好例である。20年にわたり,工
生物により,メタンや二酸化炭素を含むバイオガ
程改善などを進めているが,現時点でもヨーロッ
スと残留物と水を生成する化学反応が進行される。
パ全体で,毎年2~2.5億トンの食品廃棄物が見
バイオガスは捕集され,バイオ燃料として使用さ
積もられる。以前から埋め立てなどで処理されて
れる。残留物は,肥料や土壌改良材としても利用
いるが,遠方への輸送など非効率的だし,環境上
される。この嫌気性消化処理の環境受容性はほか
も不利である。そして埋め立て地は温室効果ガス
の廃棄物処理に比べても非常に高い。
ざんさ
(特にメタン)の発生源ともなる。多くの国が埋
嫌気性消化処理は新しい技術ではない。最初の
め立て処分場を閉鎖しようとしている。コストが
処理装置は1860年に設置されている。それ以降こ
かなり上がっていることや環境貢献を方針として
の処理方法は,し尿処理,可燃性ガスの生成,さ
いる状況があり,食品製造業でも新しい処理方法
らに汚水処理での安定化などに広く利用されてい
を模索してきた。
る。農業現場での畜産廃棄物などや廃水処理など
解決策の候補の一つが焼却処理であるが,住民
に広く使われている。この処理方法は,ドイツや
の反対や高い施設コストなどが課題である。家庭
スペインなどヨーロッパにおいて有機性の廃棄物
ゴミや危害廃棄物などの処理には焼却処理が用い
処理として公営施設で採用されており,いくつか
られているが,食品廃棄物への適用は高水分(ほ
の異なる発酵システムが開発されている。例えば,
とんど70%以上)であるため限られている。熱分
ドイツの BTA 方式,スイスの Kompogas 方式,
解処理やガス化なども従来の焼却処理から改善が
フランスで開発された Valorga 方式などである。
食品と容器
627
2012 VOL. 53 NO. 10
既に食品廃棄物の処理に広く用いられていると考
群 は,Methanobacterium,Methanothermobacter,
えるかもしれないが,関心度が高まってきたのは
Methanobrevibacter などである。この最終段階の
最近になってであり,実際の食品加工での廃棄物
メタン生成菌は最も増殖が遅く,さらに至適生育
のために設計されたプラントはわずかである。
環境も最もシビアである。このため,この第四工
嫌気性消化処理の反応段階について
程が律速工程となる。またメタン生成菌には,酢
嫌気性消化処理は,多段階の生化学的変換で成
酸生成菌との間に栄養共生といった全体のプロセ
り立っており,異なった微生物群により進む。こ
スの効率にも影響を与える一種の相乗関係が存在
れらの工程は複雑であり,すべてのプロセスが解
している。二つのグループの菌密度のバランスを
明されたわけではないが,以下の4つの主な工程
保つことが,この嫌気性消化プロセスの効率向上
からなっている。
の重要な管理点である。このような複雑な微生物
「第一工程 加水分解」
群が広く活用されない理由の一つでもある。
加水分解過程では廃棄物中の多糖類,脂質やタ
嫌気性消化プロセスの制御因子
ンパク質などの複雑な高分子成分を,水溶性の低
嫌気性消化プロセスに影響を与える物理化学的
分子へと分解する。加水分解酵素を生成する,
な因子として以下のものが挙げられる。
Cellulomonas や Bacillus などのバクテリアによ
・消化プロセスの原料の構造(形態)や成分の
変動
り行われる。加水分解は比較的進行の早い反応で
ある。
・pH 変化
「第二工程 酸発酵」
・温度変化
加水分解で生じた可溶性糖類やアミノ酸,ペプ
・変換プロセスに不可欠な成分や生育に必要な
栄養源の枯渇
チド,脂肪酸は,さまざまなバクテリア,特に
・揮発性脂肪酸やアンモニアなどの中間生成物
Clostridium,Lactobacilli や大腸菌群などにより
発酵され,プロピオン酸や酪酸などの低級脂肪酸,
の発生(増加)
・原料に含まれる食品保存料などの発酵等を阻
そしてアルコール類,二酸化炭素などに変換され
害する化学成分の存在
る。この反応もかなり早い。
「第三工程 酢酸生成」
・水素分圧の上昇
酸発酵で生じた物質が酢酸と水素,二酸化炭
これらの因子については,ある程度,投入原料
素へと変換していく。このプロセスにかかわる
の形態や成分を調整することで対応できる。安定
細菌については比較的知られていない,その大き
稼働している嫌気性消化プロセスは投入原料につ
な理由はこれらの細菌を分離し培養することが困
いての最適な条件(レシピ)を用意している。湿
難で あ る か らだ。Thermacetogenium phaetum,
度条件やタンパク質量,糖質量などのパラメー
Syntrophobactor wolinii,Syntrophus acidi-
ターは重要である。
trophicus などを含む細菌が関与していることが
食品企業での実施例
分かっている。これらの細菌は加水分解や酸発酵
ヨーロッパにおいて,食品加工関連向けのシス
に関与する細菌より増殖が遅く,生育環境条件も
テムの設計や稼働に必要なノウハウなどが,ドイ
繊細である。
ツの UST Biogastechnik 社 や英国での InSource
「第四工程 メタン生成」
Energy 社などの専門企業を通じて得られ始めて
最後がメタン生成菌と称される微生物群によって,
いる。最近のプラントは廃棄物の種類にもよるが,
酢酸と水素から,メタンが生成される段階である。
5年から10年で設備投資の回収が可能である。
これらの微生物群は,細菌だけでなく古代の極限
いくつかの食品製造会社は,オンサイトの嫌気
環境から生息していた古細菌群を含んでいる。嫌気
性消化システムを導入することを前向きに検討し
性消化処理プラントでよく見られるこれらの微生物
ている。英国での最初の取組の一つが,調理済み
食品と容器
628
2012 VOL. 53 NO. 10
食 品 を 製 造 し て い る サ ウ ス ウ エ ー ル ズ の RF
条件を保つことが可能である。例えば,廃棄物処
Brookes 社である。ここで導入したシステムは
理業である Biffa 社では,昨年英国で最大級のプ
InSource Energy 社のもので,施設費は500万ポ
ラントを設置した。処理する廃棄物量は年間12万
ンドである。この施設は食品加工施設から包装済
トンであり,バイオガスを元に発電する電力量は
み食品を含む食品廃棄物と廃水処理スラッジや
6MW であり,このうち少なくとも8割が公共
ジャガイモの加工残渣などを一緒に処理している。
の電力会社へ売電されている。このプラントへの
すべてのプラスチック包材はリサイクル用に回収
廃棄物供給は,食品廃棄物の全量を投入している
し,さらに廃棄物は性状・成分から三つの個別タ
Sainbury’
s 社のほか,多くの食品製造業や流通業
ンクに分けて保存され,嫌気性消化処理での安定
者から運ばれている。
した原料として投入するためにブレンドされてい
現在では廃棄物を引き取ってもらう場合のコス
る。原料は畜産廃棄物処理の規則により,70℃で
トは埋め立てへの引き取りに比べて6割程度であ
の殺菌処理を経て,38℃の中温発酵の連続攪拌消
るが,今後さらに処理プラントが食品廃棄物用に
化槽へ投入される。発生するバイオガス(メタン
設置されれば状況は変わってくる。つまりバイオ
60%,二酸化炭素40%)は発酵槽の天井部に集め
ガスへの変換量や変換率に応じて,明確に原料と
られ,CHP エンジン用の燃料として使用される
しての対価が支払われるようになるであろう。生
産されるバイオガスの市場が生まれるだけでなく,
(Combined Heat and Power:高効率のコージェ
ネレーションシステムで,特にヨーロッパにおい
消化処理済みの残渣の肥料や土壌改良材としての
て発電量に占める割合を増やす取組を精力的に進
市場も創出されるであろう。処理物中の微生物が
め て い る )。 こ こ で 発 生 し た 熱 量 と 電 力 が RF
死滅する温度帯に達していれば,処理済みの肥料
Brookes 社の生産工場に還元されて,全体の約
などの資材はそのまま農業者へ販売できるが,今
10%のエネルギーを賄う。固形発酵残渣は周辺の
後その需要が増すとともに,異物混入のない消化
農場で肥料として用いられている。このシステム
処理に適した廃棄物の提供を確約することができ
を設計・設置した InSource Energy 社によると,
る食品企業が,地区の嫌気性消化システムへ廃棄
システムを導入した RF Brookes 社では毎年有機
物を販売できるようになると予想される。
性廃棄物1万8千トンの処理と還元されるエネル
関連する技術開発は VALORGAS と呼ばれる
ギー量から年間約15万ポンド以上のコスト還元が
EU プロジェクトにおいて,2013年を目標に,嫌
なされている。
気性消化システムの微生物群や制御条件の解析を
食品関連の小規模の業態においても検討されて
進めている。ほかにも消化槽の形状などの設計改
いるが,なかなか積極的には取り組めていない。
良や消化プロセスのさまざまな段階での有価成分
法令に従い許可を得て廃棄物業として処理を実施
の回収などの可能性が検討されている。長期的に
することや,安定した処理を行うためにほかの業
は微生物学的および生化学的解析が進むにつれて,
者から原料を持ち込み,調合することが必要であ
遺伝子操作による効率の向上や消化プロセスの安
ることなども障害となっている。
定性向上なども可能となるかもしれない。
(五十部誠一郎)
そのような状況が,さまざまな原料(廃棄物)
を用いることを前提にして設計・設置された巨大
な消化システムの稼働を後押ししている。このよ
うなシステムはスケールアップによる効率向上が
期待できるほか,公共の生活廃棄物などを含めて,
(訳者補足:この嫌気性消化(メタン発酵)のプロセス
については,重松らが報告1)しているので参照されたい。
参考資料:1)重松亨,湯岳琴,木田健次,メタン発酵
プロセスに関与する微生物群集,生物工学会誌,87,12,
570−596(2009))
さまざまな廃棄物を調合することで安定的な処理
食品と容器
629
2012 VOL. 53 NO. 10
●
海外技術情報 ●
食の未来をつくるスナック食品市場の成長
( The New Definition Snacking )
Food Processing(U. S. A.)p. 37( ’
12・4 )文献 № 5777
Dow Jones Newswire リポートによれば,加工
り出た。他の買収の事例としては,General Mills
食品企業は基盤である食料品事業の停滞に直面し
社が最近トルティア・チップス(スイートポテト
て,いよいよ次の成長路線として,スナックへと
やチョコレートの様なフレーバー)を製造する
かじを切りだしている。もはや食事についてビッ
Food Should Taste Good 社をポートフォリオに
グアイデアを生み出すのではなく,(忙しくて)
加えたことがある。また,ConAgra Foods 社は,
時間が取れない消費者のために,素晴らしいス
Orville Reddenbacher 社の調理済みのポップコー
ナックを考え出す時である。彼らはより健康的で
ンを RTE(ready-to-eat)パウチに入れ,6月に
フレーバーに満ちた選択肢を求めている。
発売する予定である。同時に冷凍ギリシャ・ヨー
「スナックを食べることは長期的なトレンドで
グルト(極力ホエーを除去して低脂肪高タンパク
あり,食事の将来の姿である」と New England
を特徴とするヨーグルト)を,デザートというよ
Consulting Group 主席役員である G. Stibel 氏は
り健康に良いスナックとして売り出す予定である。
言う。同社は PepsiCo 社の世界最大のソルティ・
Rudolph Foods 社は,健康に良く,しかも香
スナックメーカーである Frito-Lay 社といった顧
り高いスナックに焦点を当てている消費者トレ
客にアドバイスをしている。「あなたも私も,引
ンドに応えるべく,最近 Cajun cheese popcorn
き続きもっとスナックを食べることが増え,食事
(小エビ,カニ,ザリガニのフレークを混ぜたト
のテーブルに着くのはずっと減るだろう」と同氏
ウモロコシの練粉を油で揚げたケージャン・ポッ
は言う。
プコーンにチーズが入っている)を,Southern
実際,アナリストや食品企業は,5,600億ドル
Recipe ブランドで発売した。「加えて,消費者の
の世界スナック市場(Euromonitor 社調べ)にお
空腹を満たす,味が良い別のスナックを消費者に
いて,十分な成長を予想している。大部分の加工
提供すべく,素材そのもののスモーキー・フレー
食品企業が今より健全な財務結果に向けて,ス
バーが楽しめるポーク・スティックを,数種類発
ナック市場に食いこむからだ。スナックは,食事
売した」と同社マーケティング・セールス担当副
の選択肢ほど高価でなく消費者が求める便利さを
社長 Singleton 氏は言う。氏は続けて,上記二品
提供し,食品庫にある主要な備蓄食品より,ずっ
目のゴールは「成分階層を単純化して,なおも最
と早くそして容易に価格を上げることができる。
も重要な成分の素晴らしい味を伝える方法を開発
しばしば消費者は無計画に購入する故に,進んで
することだ」と語る。
スナックを手に取り,すぐにスナックを食べたい
スナック世代のために
という欲求を満たす。
「過去5年間,顧客にはスナックについて多
アメリカの消費者が一日を通して,スナックを
くのことを語ってきた。というのは,消費者行
多く食べる傾向にあることから,多くの加工食
動のそれほど大きい変化を見てきたからだ」と
品企業は(サラダボウルならぬ)スナック・ボ
Wisconsin 州,St.Francis 市 に あ る Wixon 社 の
ウルにどっぷり浸かる。Kellog 社は Procter &
マーケティング担当重役 K. Holman 氏は言う。
Gamble 社の Pringles ブランドの買収に27億ドル
「消費者はスナックについての定義を見直したの
を支出したが,そのことで同社は世界的なソル
だ。スナックは,かつてはチップス,クッキー,
ティ・スナックメーカーの中で一挙に第2位に躍
あるいはクラッカーだった。今やスナックとは飲
食品と容器
630
2012 VOL. 53 NO. 10
料であり,少量の食事であり,トレ―の3種のア
大限に高めるかのいずれかだと理解するだろう。
イテム(前述の従来のスナック)なのだ」。
ヨーグルトもまた,デザートまたは最適なスナッ
さらに同氏は,「調査によると,一部の人々は
クとして位置づけられる。
一日3食摂るのを止めて,少量のスナックを一日
どんなタイプのスナックに消費者が共感するか
5回食べるようになった。食品,飲料産業にとっ
について,Holman 氏は次のように述べた。「プ
ては,これは計り知れなく大きな意味がある。食
ロテイン・バーが‘満腹感の持続’という位置づ
品サービス業であろうと,小売業であろうと,狙
けと利便性要素で消費者にアピールしている。ス
いとする消費者を理解しなくてはならない」と言
ナックとしての飲料は引き続き爆発的に伸びる。
う。
プロテインやビタミンで強化したジュースは,こ
Holman 氏は,まさに革新的なフレーバーは
れで気分が良くなるので,次の素晴らしいスナッ
小売店にあるスナックと飲料から始まり,その
クになりうる。スナック世代にとっては,全粒粉
ほかのカテゴリーに広がって行くと考えている。
の Nabisco belVita のようなビスケットもまた次
「ビッグトレンドは,スナックに使われたグルメ
のスナックとして(事業)機会となりうる。健康
ペッパーやそのほかの辛味から始まる。かつては
と快適さに眼目を置いて,子供はたくさんスナッ
ハラペーニョだった。今はハバネロ,アンチョ・
クを食べ,ビスケットが時間帯を問わずに食べら
チリ・ライムといった,挑戦的なホット・フレー
れるのだからすてきなことだ」。
バーの辛味である。その点で,我々が知っている
エキゾチックフレーバー
メガトレンドはエスニックだ。チップスやポップ
消費者は食品にますますビッグで大胆なフレー
コーンといった塩気のあるスナックには,韓国
バーを求めている。健康に良いスナックを開発す
バーベキュー味,タンドールまたはカレー味があ
る際にこのことを覚えておくのは大事だ。栄養素
る」。
のガイドラインに適合するためには,製造者はナ
3月に開催されたスナックフードの展示会であ
トリウム,脂肪,砂糖を減らさざるを得ないが,
る Snaxpo の期間中,Wixon 社は世代の違う人た
その結果,風味の乏しい製品となってしまう。香
ち向けに,異なるフレーバー特性を持った製品ラ
味料はそのギャップを埋めあわせ,消費者が風味
インである,Healthy Tastes for All Ages(全世
に満ちていながら,健康に良いと感じる製品を創
代向けの健康に良い味覚)を発表した。「それぞ
造するのに役立つのである。
れの世代が異なるフレーバー特性を楽しめる。そ
健康に良いように調合を見直すことはしばし
れは,全世代共通のスナックという考えを捨て,
ば油を替えることを意味する。多くのスナック
ニッチマーケットを狙い,特定の世代グループが
が,特に伝統的なチップスは油で揚げてあるから
共感するフレーバー・トレンドを利用する絶好の
だ。健康に良いスナック摂取に貢献する関係者が
機会である。つまり,世代ごとに最適化するの
一堂に会する Natural Products Expo West では,
だ」。
Viterra 社と Dow AgroSciences 社が最近共同で
同社の Holman 氏はもう一つのスナックのトレ
verraUltra 9 という自然のままのオメガ9キャ
ンドは,カンザス・シティー BBQ やメンフィス
ノーラ油(菜種油)を発表した。それは NON-
BBQ といったアメリカの地域フレーバーである
GMO Project(非遺伝子組み換え製品の検証,表
と指摘する。
示を目的とした非営利団体)によって検証された
また,ヒヨコ豆やマメ類が,チップスやディッ
菜種を原料にして,連続圧搾機で搾られる。
プ・スナックをより健康的にする,スナックの
「Viterra 社は他の植物油と比べより健康に良
ビッグトレンドとして出現した。人がスナックを
い脂肪酸(飽和脂肪は大豆15%,パーム油51%に
食べるとき,エンプティー・カロリー(栄養ゼロ
比べ,7%)の特性を持ったキャノーラ油を提供
でカロリーばかりの食品)を食べるか,健康を最
する」と Saskatchewan 州 Regina 市に本拠を持
食品と容器
631
2012 VOL. 53 NO. 10
つ Viterra 社部長,B. Allison 氏は言う。加えて,
健康効能が得られる。実際,自然食品スナック分
verraUltra 9 のユニークな脂肪酸の特性によって,
野は食品全般や飲料分野を上回るペースで成長し
より高い安定性を必要とする食品用途に望ましい
ている。
(常盤恭徳)
●
海外技術情報 ●
大手飲料メーカーの脱石油系プラスチック動向
( Ten Green Bottles : How Big Drinks Manufacturers Are Moving )
Food Processing (U. S. A.)p. 19( ’
12・2 )文献 № 5771
環境問題に対する社会の関心がますます高まっ
てきている。使い捨てのプラスチックボトルに
入った水や飲料が毎日数百万本も売られており,
ボトルはほとんどが石油由来の PET 製で,使用
後は多くが埋め立てられ,数百年間分解されずに
残る。しかし,石油価格の上昇や廃棄されたボト
ルが環境中に蓄積される問題等から,このままプ
ラスチックボトルを使い続けることは困難である。
そのような中で,世界最大手の飲料メーカーの中
第1図 Plastiki 号は世界中の海洋における環境問題
に関心を集めるため,12,500本の使用済みプラスチッ
クボトルと再生材料を組み合わせて作られた。
に,再生可能な資源からリサイクル可能なボトル
の開発に取り組むところが出てきている。
2010年3月20日,見慣れない形の小舟が太平洋
150万トンものプラスチックが毎年消費されてい
を横断すべくサンフランシスコを出港した。全
る。そしてこれらの多くが PET 製で使い捨てら
長60フィート(18m)の Plastiki 号と呼ばれる小
れている。PET は長所として軽量,強固で,適
舟は12,500本の使用済みプラスチックボトルと他
度なバリアー性を持ち,他の材料と組み合わせて
の再生材料からできている(第1図)。4カ月後,
さらにバリアー性を高めることができ,比較的安
Plastiki 号は約8,000マイル離れたシドニーに無事
価であるなどの点が挙げられるが,PET のバー
に到着し,海面上昇や海洋汚染等の環境問題に関
ジン材のほとんどが枯渇資源の石油から作られ,
心を集めるという目的を達成した。急速に問題が
生分解性がないという問題がある。PET が環境
顕在化している海洋汚染の主な原因となるプラス
中でいかに分解され難いかということはあまり知
チックボトルを船体に使用したことは,その事実
られていないが,恐らく500~1,000年は分解され
をアピールする効果があった。
ないと考えられている。一方,PET は再生可能
Plastiki 号の航海は,近年増大しているプラス
であり,世界中でリサイクル設備が急いで造られ
チックボトル入りの飲料をどう考えるかという問
ている。PET のリサイクル率は国によりさまざ
題提起をした。PET ボトル入りの水が急速に普
まであるが,大体20~25%である。ほとんどの再
及したことや,飲料メーカー,酒造会社等による
生 PET はバージン材より品質が悪く,用途が限
ガラス瓶から PET ボトルへの転換により,プラ
られるためにリサイクル率が伸び悩んでいる。例
スチックボトルの需要がますます高まっている。
えば,飲料用ボトルや食品包装用としての使用に
Beverage Marketing 社によると,2009年の世界
は適さない。再生 PET に他のプラスチックが混
の PET ボトル入りの水の消費量は535億ガロン
入しやすいことも大きな問題となる。また,消費
(約2,000億リットル)であり,これに対応する約
者が PET ボトル入り飲料を飲む場所もリサイク
食品と容器
632
2012 VOL. 53 NO. 10
ルに影響を及ぼす。つまり,外出時に飲まれるこ
い材料が開発される契機になるかも知れない。
とが多く,リサイクルされずに廃棄されてしまう
一例として,スペインの包装材メーカーである
のである。従って,多くのボトルが埋め立て等の
LSB 社の PET 樹脂事業部が開発した Artenius
方法で環境中に廃棄される。PET ボトルがこれ
Elite と呼ばれる新しいプラスチック材料が挙げ
だけ氾濫する時代において,この状況を打開しな
られる。Artenius Elite は,バージン PET と再
ければならない。
生 PET を原料として作られる樹脂である。洗浄
PET ボトルを使用し続けるために
された再生 PET は解重合を行った後にバージン
仮に水や飲料の容器である PET ボトルを持続
材と混合し,再重合反応に供される。この化学的
可能な容器に切り替えるとすると,世界的なブラ
再生反応において,バージン材の純度と同等にな
ンドを持つ多国籍企業の関与が必要である。小さ
るまで不純物が除去される。Arteniue Elite は飲
な企業が持続可能な生産と包装を可能にし,経済
料ボトル用として特別に開発されており,延伸ブ
性のために特別価格で買ってもらえる場合でも,
ロー成形に供することができる。また,欧州およ
大手企業が必ずしも同様のことをできるわけでは
び米国において食品に接触する材料としての使用
ない。にもかかわらず,数社の世界最大手メー
が認められている。これらの開発により PET 使
カーにおいて,持続可能な容器に切り替える動き
用量を削減することができるが,回収した PET
が見られる。これは企業の社会的責任であるばか
の洗浄と分別のための設備が必要となる。さらに
りでなく経済的な判断もある。PET の原料であ
付け加えると,石油資源に依存していることと,
る石油の価格は不安定で,近年上昇傾向にある。
生分解性でないという問題も解決されてはいない。
また,PET の埋め立て費用も確実に上昇してい
再生可能材料で生分解性プラスチックを作るこ
る。そのため,飲料業界ではバージン PET の使
とができれば,この二つの問題を解決することが
用量を減らそうとさまざまな工夫がなされている。
できる。開発が進む数種類のうち,原料調達の容
PET の使用量を減らす方法としては,プラス
易さと機能性の面で優れるポリ乳酸(PLA)が
チックの強度を増すなどの改質をしたり,ボトル
有望視されている。PLA はここ10年で商業用の
の形状を変更する等の方法がある。今年,この
包材として採用され始めており,米国に本拠を
方法が Nestlé Waters 社に採用されたことに伴い,
置く NatureWorks 社から Ingeo ブランドの PLA
英国における同社の充填,倉庫の設備が刷新され
が発売されている。PLA は糖質を多く含むさま
た。充填設備は環境に配慮して設計され,新しい
ざまな植物から合成できるが,コーンスターチ
デザインのボトルに切り替わり,従来品と比較し
を原料に使用している場合が多い。工程として
て PET の使用量が25%減少した。結果として同
は,デンプンをブドウ糖に分解し,微生物の発酵
社のボトルは,英国市場において最軽量となった。
作用によって乳酸を得る。そこで乳酸を複数の化
これによって PET 使用量が減り,運搬コストを
学反応を経て重合させる。これらの反応条件を制
低減することもでき,他のメーカーもこれに続い
御または変化させることで,性質の異なる PLA
たため,水や飲料用ボトルの軽量化が進んだ。し
が得られ,用途の一つとしてプラスチックボトル
かし,ボトルの軽量化には限度があり,別のアプ
が挙げられる。NatureWorks 社によると,Ingeo
ローチが必要となる。
を利用すれば PET と同等の製品を作ることがで
その一つの答えが,再生 PET の使用比率を上
きるそうだ。透明度,強度,硬さおよびバリアー
げてボトルを作る方法である。各国において,自
性は PET と同等であり,成形加工も容易である。
治体で回収した PET を再生する設備を含むシス
また,軽量化にも適しているという意見もある。
テムの発達により,再生樹脂が広く利用可能に
しかし飲料最大手の企業では,PET から PLA へ
なっている。問題は,この再生樹脂の品質がバー
の転換が進んでいない。いくつかの理由があるが,
ジン材より悪いことであるが,このことが,新し
主に高コストであることや,ガスバリアー性や
食品と容器
633
2012 VOL. 53 NO. 10
耐衝撃性等の性能の問題が挙げられる。PLA は
が25%程度含まれている。
PET と比較して環境に優しく,石油由来でない
等の点で優れているが,他の要因によって普及が
PepsiCo 社は,2011年3月に独自の環境対応ボ
トルを発表した。Coca-Cola 社の植物性ボトルと
進んでいない。
は異なり,PepsiCo 社の再生可能な PET は100%
問 題 と な る の は,PLA の 生 分 解 性 で あ る。
植物を原料として作られている。原料としては,
PLA は生分解性ではあるが,制御された条件で
スイッチグラス,マツの樹皮,トウモロコシの皮
なければ分解されない。PLA は PET と同様に土
が現在利用可能であり,同社の食品製造工程で発
中で分解されにくく,家庭用の生ごみ処理機でも
生するオレンジやジャガイモの皮等の食品廃棄物
分解できないと考える専門家もいる。さらに,リ
についても利用できるようにするとのことである。
サイクルは可能であるが,他のプラスチックと分
2012年に試験製造が計画されており,問題がなけ
別しなければならない問題もある。実際に,稼働
れば本製造を開始する。このことから,石油由来
が安定してきた PET のリサイクル施設にとって,
でない PET ボトルの導入まであと数年はかかる
PLA の混入により再生 PET の品質が落ちる可能
が,PepsiCo 社の方針は明確である。
性も心配されており,これが,大手企業が PET
PepsiCo 社が解決しなければならない重要な課
から PLA への切り替えを躊躇する理由であろう。
題として,PET の原料となる高純度テレフタル
より環境に優しい PET の開発
酸(PTA)を植物からどのようにして大量に合
PET ボトルの現実的な代替品がない状況で,
異なる戦略をとった大手飲料メーカーがある。彼
成するかという問題がある。
2011年12月,Coca-Cola 社 は バ イ オ テ ク ノ ロ
らは,従来の材料を将来も使い続けるための方法
ジー会社3社と提携することで,世界で初めて
を模索している。
100% 植物性のボトルを開発したと発表した。こ
先頭を行く Coca-Cola 社は,二つのアプロー
チを取った。Coca-Cola 社はリサイクルシステム
の3社の技術により植物を原料として商業ス
を改善することで部分的な解決ができるとして,
ケールの PTA を合成することが可能になった。
Coca-Cola 社では,この3社と100%植物原料の
PET ボトルおよび缶を回収,再生するシステム
PET ボトルを合成するための方法を複数開発中
に投資を行っている。現在,米国において同社は
であり,2017年までに最適な方法を選択する。
自社製品の PET ボトルおよび缶の36%を回収し
米 国 の バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 会 社 の Virent 社
ており,この数字を50%にすることを目標にして
は,再生可能な資源から原油の代わりになる燃料
いる。また同社では,植物性のボトルの開発を進
や化学物質を合成する事業を手掛ける。同社は
めており,それは石油由来の PET の30%分を植
BioForming と呼ばれる,水相改質プロセスと通
物由来の材料で置き換えようとするものである。
常の触媒反応を応用したプロセスを組み合わせた
最初の植物性のボトル製品は2009年に発売され,
技術を開発した。この技術を用いて,糖質または
2010年には25億本分が市場に出た。この技術では,
セルロース系の原料から BioformPX と呼ばれる
主に2種類ある PET の原料の1つのモノエチレ
植物由来のパラキシレンの合成に成功,このパラ
ングリコール(MEG)を石油ではなく植物由来
キシレンから PTA,さらに PET を合成するこ
のものを用いる。MEG は通常,石油から中間体
とができる。
のエチレンを経て合成されるが,植物由来のエタ
ノールからも合成できる。Coca-Cola 社は,十分
Avantium 社は,2000年に Shell 社から分離独
な資源量があるブラジル産のサトウキビを原料と
物原料からポリエチレンフラノエート(PEF)と
して使用することを決めた。英国等のいくつかの
いうプラスチックを合成する YXY と呼ばれる技
市場では,植物性ボトルにおける植物性の原料の
術を開発した。PEF は PET の代替材料として使
割合は少なめの22.5%程度であるが,再生 PET
用でき,PET よりもバリアー性と耐熱性が優れ
食品と容器
立したオランダの研究開発会社である。同社は植
634
2012 VOL. 53 NO. 10
ていると言われている。触媒プロセスを利用した
化学製品の原料として利用されている。技術的に
YXY 技術を用いれば,サトウキビ,農業廃棄物
は,新しい酵素技術とイソブタノールの効率的な
や穀物等のさまざまな原料から PEF を合成する
分離技術を組み合わせたものである。
ことができる。
Coca-Cola 社が提携する3社目の企業は,米国
メーカーも消費者も,今すぐに PET ボトル
でバイオ燃料,再生化学品を手掛ける Gevo 社で
あり,石油代替製品の開発を行っている。同社は
低価格であることが何より魅力的である。しか
し,飲料メーカーの世界最大手の Coca-Cola 社や
エタノールに容易に変換可能なイソブタノールを,
PepsiCo 社が,再生可能な材料から PET を作ろ
植物原料から商業スケールで合成する技術を持つ。
うと熱心に開発を進めており,100%植物性のプ
イソブタノールは用途の広い物質で,さまざまな
ラスチックボトルの時代が来ることはそう遠くな
燃料,ポリエステルやパラキシレン等を含む石油
いと思われる。
の使用をやめたいとは思っていない。高性能で
(内麻博之)
●
海外技術情報 ●
“健康”食品神話と新しい食品開発のアプローチ
( Shattering the‘Healthy’Food Myth )
Food Technology (U. S. A.)p. 35( ’
12・3 )文献 № 5766
すべての食品が安全で栄養があることは,食品
なものとすることに製品革新の焦点を当てるので
産業が負う基本的義務である。一方健康問題に目
はなく,消費者の行動を視点にした焦点に変える
を向けると,肥満が世界中で増加している。食品
アプローチが必要である。ここで問題になるのが,
“食品をいかに設計・開発すれば消費者の行動を
は安全で栄養があるのなら,なぜ肥満が増え,健
かいり
康からの乖離が続くのか。本稿では,単に食品を
変えられるか?”である。
より健康によいものにしさえすれば解決できると
健康であろうとすることの重要性
いう,神話のような信念を暴き,食品産業が果た
行動心理学により,消費者の行動を動機づける
すべき役割について提言していく。
知覚過程への理解が急速に進んでいる。驚くべき
犯人は食品ではなく,消費者の行動である。先
ことに,95%もの消費者行動は習慣的なものであ
進国は,低コストで安全かつ栄養のある食品に事
り,無意識な知覚が動機となっている(Martin,
欠かない。にもかかわらずしばしば食べ過ぎると
2008)。環境から画像・言葉・音・においなどの
いう事実は相変わらずである。1970年代以来,肥
刺激を知覚すると,所有/消費したいという無意
満は一人前の量に比例して増加の一途をたどり
識の欲求が喚起される。
(Young and Nestle, 2002),高カロリー食品の摂
味は消費者の87%(IFIC, 2011)にとって食品
り過ぎが肥満の主原因と非難された(Ello-Martin,
選択の際の最重要事項とされる(Sloan, 2012)た
2005;Shelke, 2010)。健康を損なうのは,食品の
め,より多くの健康食品の味を改善すれば,肥満
みならず生活習慣の選択にも原因がある。2011年
などの健康問題は解決できるという間違った神話
Food & Health Survey(IFIC)によると,アメ
が生まれた。しかし,上記研究において,健康に
リカ人の43%が普段運動をしていないという。怠
良い食品を選ばない理由として味がまずいとした
惰な生活に引きずられた過剰摂取の行動が習慣化
人は5%に過ぎず,減量中の人でもわずか12%
した結果,健康を損ない,健康問題関連のコスト
だった。味は消費者の行動を左右する重要な要素
肥大化にもつながっている。この健康問題を解決
ではあるが,素晴らしく味の良い食品を作るだけ
するには,製品を視点にして,食品をより健康的
では,健康を目指した行動は変わらないだろう。
食品と容器
635
2012 VOL. 53 NO. 10
消費者を健康に向かわせるには,食品開発の焦点
キューを送る,すなわち潜在意識に訴えることに
を快楽の充足から行動の動機付けへと切り替えな
焦点を当てて開発することである。共有行動では,
ければならない。
消費者が新製品をどのようにして知るかを変える
行動を視点にした製品革新
ことによって,それを試そうとする動機が次々
製品革新は,食品メーカーが消費者の変化に対
に増していく。好例が Chobani Greek Yogurt で,
応するための基礎である。また消費者の求める選
瞬く間に市場を席巻し,シェアの10%を占め売り
択肢を提供することで,変化に影響を与えること
上げ第一位となり,4年間で7億ドルの売り上げ
もある。消費者のニーズを理解し,製品革新を通
を記録した。さらに驚くべきことは,広告宣伝費
して彼らの関心や要望に応えていくことこそ,行
が2009 ~ 2010年にわずか20万ドルにすぎず,そ
動を視点にした製品革新への大胆な新アプローチ
れをソーシャルメディアに注力している(Elliott,
の根幹である(Lundahl, 2012)。行動視点の製品
2011;Steiner, 2011)。言い換えれば,ソーシャ
革新は行動心理学に根ざしており,食品の革新に
ルネットワークの効果により消費者の共有行動が
よる健康問題解決の可能性を秘めている。
Chobani Greek Yogurt の選択を加速させ,結果
食品・飲料に関連する行動には知覚・探求・選
として同製品をカテゴリーの頂点へと押し上げた。
択・共有の4つの基本型がある(第1図)。知覚
肥満問題の解決に成長の余地を見い出したい
行動は,その時の環境中で感知された刺激で促さ
メーカーにとっては,行動視点で製品革新へアプ
れる習慣的な行動である。探求行動は習慣が崩壊
ローチすることが,新たな展望を開くことになる。
した際に起きる。崩壊は新しい行動を形成する過
行動の動機としての健康
程の第一歩であり,消費者が利害や影響の大きな
健康は,消費者行動の最大の原動力となって
場面に直面したり,結果が予測不可能な新情報に
いる。この行動は消費者が何を買うかだけでな
接したりすると,潜在意識が自動的に働いて意識
く,何を求め,そして共有するかで表される。最
的な探求と理性的判断への道が開ける。選択行動
近の研究で,食事代替行動に関する調査をネット
は,製品が消費者のニーズを満たすとの期待を生
上で行い,消費者ニーズを聞き取り,食事代替の
むデザインコンセプト(包装やポジショニング)
行動を起こす機会を明らかにした(InsightsNow,
で決まり,消費の結果,ニーズが満たされたか否
2011)。ソーシャルメディアで収集した情報を用
かが再購入のいかんにつながる。行動視点で製品
いて,健康関連の目標(減量など)・考え方(ブ
革新にアプローチするということは,購買の機会
ランド,会社名,選択など)・健康上の信条(す
すべてにわたって,その動機がかなうことを示す
べきこと,してはならないこと)・さまざまな場
面における食事代替機会を特徴付ける理念(目的,
夕食代わりなど)を明らかにした。さらにこれに
基づき,その動機(食欲抑制・エネルギー保持・
多忙なスケジュールの調整など)により食事代替
機会の特徴づけも行った。
ここから導き出されたのが7つの行動市場で,
これは類似の動機を共有した機会の集まりと定義
される。このうち「ダイエットプログラム」に分
類されるのは,自宅での朝食・昼食・夕食を適宜
代替食に置き換え,積極的に減量を達成しようと
する人々で,全体の23%を占め,月平均17回の食
事代替を行う。興味深いことに,この型の32%が
代替食を決めない,つまりプログラム化されたダ
第1図 消費者行動の4つの基本型
食品と容器
636
2012 VOL. 53 NO. 10
イエットプランは利用しない。12億ドル近い潜在
動機に当てる。製品が行動動機をかなえてくれる
市場であり,メーカーは減量の保証を示すキュー
と予測させるキューをコンセプトに盛り込んだ設
を持った製品を企画して乗り込むことができる。
計をする。予期した健康効果が達成されるだろう
対照的なのが「簡単に食べる」行動市場で,利便
と強く感じさせる製品を市場に出す。
性と食欲管理を重視し,自宅外で,時間も不規則
ステップ4:健康に与える影響を検証する な食事をする消費者が分類される。市場規模は約
ターゲットとした行動動機に対し,新製品がどれ
8億ドルながら,全体の48%を占める。エネル
だけうまく成果をあげたかを基に,その効果を測
ギーバー・栄養ドリンク・果物・サンドイッチ・
定し,これらの測定を経営政策の改善に生かす。
シリアル・スナック菓子などを好む。
総括
健康を革新する
食品が肥満や不健康の元凶であるとの考えは神
全米の健康問題解決に向けて行動視点でアプ
話にすぎない。消費者の食に対する行動を変える
ローチするには,以下の開発プロセスを組む必要
ことだけが問題を解決できる。しかし消費者教育
が有る。
や法規,健康食品の味をよくすることだけでは,
ステップ1:「健康」食品神話の封印 肥満の
行動の転換は起こらない。消費者の行動を確実に
ような健康問題解決の第一歩として,問題の原因
変えるには,製品革新の焦点を変える必要が有る。
を食品に求めることを止めるべきである。革新の
消費者行動を重視した革新は,食品産業が,消
焦点を健康志向の消費者の行動に当て,彼らの行
費者の健康に役立つという幅広い使命を達成する
動を変えることを目標にすれば,消費者が求める
ための新たな道である。このアプローチは,健康
ものと一致する。食品そのものをより健康的にし
行動を促す真の動機を理解することに焦点をあて
ようと努力するより,成功の可能性は高い。
る。そして,行動心理学を応用し行動動機にふさ
ステップ2:健康問題ごとの市場をターゲット
わしい製品を設計する。すなわち,消費者のニー
に定める 健康志向が食品の選択に影響を与える
ズと一致し,またそれを示すキューを食品に組み
機会の聞き取り調査から始める。同じ行動動機を
込むことに焦点を当てる。
共有する機会を一括りにして市場を明確にする。
革新を通して行動を変えることに焦点を当てる
いつもの購買パターンがくずれ,消費者が健康を
ことは,肥満や不健康な食品摂取を減らす最良の
動機に別の製品を求めようとする市場の中にチャ
方法であるのみならず,メーカーに持続的成長の
ンスを見い出す。
機会をもたらす優れたビジネスを生む。
(力丸みほ)
ステップ3:健康食品を企画・推進する 健康
食品の設計開発の焦点を,ターゲットとする行動
新刊のご案内
世界で出逢った
魚と人と旨いもの
―わが魚類研究の軌跡―
多紀保彦著
本「食品と容器」誌に昨2011年12月まで連
載された「肺魚のため息」をもとに,加筆,
書き換えを行った,大変に楽しく,勉強にな
る著書が出版されました。著者は東京水産大
学名誉教授の多紀保彦博士です。
「肺魚のため息」は1993年〜2011年に本誌
に掲載され,全114回に及びました。
定価(本体2191円+税)2012年7月14日初版
発行 五曜書房 発売 星雲社
☆ご購入ご希望の方は,
下記にお申し込みください☆
株式会社 五曜書房 〒101−0065 東京都千代田区西神田 2−4−1 東方学会3F
TEL:03−3265−0431 FAX:03−3265−0104
食品と容器
637
2012 VOL. 53 NO. 10
食の遠近画法 70
連載エッセー
にとって,中国現代史のドラマなど眼中になく,
「虚学」の勧め
ご
みょう
とし
そんな知識は「虚学」以外の何ものでもないのか
も知れない,と。
○
はる
五 明 紀 春(女子栄養大学教授)
受験の難関を突破して上京して来た田舎の少年
が,学生寮の6人部屋に,いきなり放り込まれた
「どうして,ここに蒋介石がないの?」
としたら?
あたりを見回していた訪問団長の先生は,何かを
それが半世紀前の筆者であった。
発見でもしたように,大声で,会議室の壁の毛沢
戦前・戦中・戦後を,それぞれに生きてきた若
東と孫文を指差した。一瞬,省政府の人たちは凍
者たちの思考の跡そのままに,部屋の壁は落書き
りついた。誰ともなく笑い声が起こって,そそく
で埋め尽くされていた。とりわけ墨痕鮮やかな長
さと用件に入った。先生はキョトンとして,隣の
い漢詩に,いささか小天狗になっていた筆者は,
筆者に,同じ質問を小声で繰り返した。
呆然と立ち尽くした。
相手の態度は打って変わって,口元に,終始,
まったく読めない,わからない。自分の知識の
薄笑いを浮かべているように映った。みな日本語
あまりの貧弱・狭隘にぶちのめされたのである。
を解する世代の人たちだ。明らかに軽侮の眼差し
その流麗な達筆がにくかった。明らかに受験知識
である。筆者の背中を冷や汗が流れた。もう三十
をはるかに超えた広大な異世界が不気味に口を開
年前のこと,日本はバブルで,世界中の資産を買
けていた。悪いことに,この詩を,同室の先輩が
い漁っていた。Japan as number one を謳歌して
すらすらと読み下したのである。その上,かつて
いた。
の住人の作品だと知ったことだった。
こんな時期,遼寧省保健衛生当局の招待による
絢爛たる語彙を散りばめた寮歌集を手にした時
視察旅行の末席に筆者は加わっていたのであった。
の衝撃も忘れがたい。作詞者のほとんどが,自分
相手は,文化大革命で壊滅した保健栄養行政の立
と年の違わない寮生大先輩と知った時の驚きは,
て直しに躍起になっていた。省政府の専門家たち
今も生々しい。ドイツ語の長文の落書きが,ゲー
も文化大革命では,みな酷い目に遭っていたらし
テ「ファウスト」の一節と知ったのは,ずいぶん
く,宴会ともなると口々に「四人組」を罵った。
後になってのことだった。
改革開放の幕が上がる前だった。
「田舎の学問より,京の昼寝」とは,あの時の
行き交う人々は,グレーの人民服,巨大な毛沢
あのことだったかと,今では痛いほど身にしみて
東像が広場を見下ろし,街全体がピリピリしてい
了解されるのである。たしかに,寮生活の体験が
た。役所派遣のガイドも,油断なく周囲に目を光
なかったら,自分の知的世界に大きな空白のある
らせていた。やはり,日本人団体は「剣呑な客」
ことに,まったく気づくこともなかったろう。
だったにちがいない。
そう言えば,壁一面の落書きには,「超時代性」
・・・・・・・・・
とも言うべき共通のトーンがあった。あるいは「古
翌朝のホテル・レストラン。
典への眼差し」と言ってもよいであろう。時代風
「先生,やっぱり昨日のあれ,拙いですよ」
潮に便乗した政治スローガンなどは一切なく,東
「えっ,何が?」
西の先哲の警句が,びっしりと書き込まれていた。
「会議室の写真」
一日一冊をモットーに,歯を磨くにも書物を手
「ふーん。そんなに変かねえ。蒋介石は日本に
放さない読書マニア,夜中の公衆電話ボックスで
勝ったんだ。中国にとって立派な英雄じゃないか」
ドイツ語辞書を丸暗記していた諸兄たちともすっ
筆者は二の句が継げぬまま黙った。失礼ながら,
かりご無沙汰してしまった。
先生の頭の中の空白を直覚したからである。先生
旧制高校風の寮も老朽化して,とっくに取り壊
食品と容器
ぼっこん
きょうあい
638
2012 VOL. 53 NO. 10
して,それで良いのか。
されてしまっている。むろん「虚学」で埋め尽く
○
されていたあの壁も。
○
戦後,日本の大学は,米国のリベラルアーツを
調理師養成は実学そのもの,およそ「虚学」と
モデルとし,旧制高校の香りを付けて教養教育
(一般教育)を推進してきた。ところが,1991年,
は無縁である。しかし,果たしてそうか。
米国の調理師養成教育は日本とはまるで違うよう
一般教育と専門教育の区分をなくしてしまった
だ。第一,四年制大学として堂々たるカリキュラ
(大学設置基準大綱化)。折からバブル絶頂期だっ
ムを用意している学校がある。わが方は一年で修
た。「新しい時代の教養とは何かを問い直し,こ
了の専門学校のみである。
れを重視する方向で学部教育の見直しを検討す
どちらが腕のいい調理師なのかは問わない。が,
る」(中教審)との高い旗を掲げたものの,じき
常識的に,四年がかりの調理師教育との差はいか
にバブルは弾けて不況が深刻化,皮肉にも教養教
んともしがたいであろう。残念ながら調理師教育
育を「虚学」として軽視する風潮を生んだ。
の「構え」が月とスッポンと言わざるを得ないの
一般教育は「パンキョウ」などとの蔑称を奉ら
である。
れる始末となった。多くの教員が,「教養教育」
この三年の差は何か?一言で教養教育・人格教
に自信を失ってしまった。18歳進学人口の激減が
育の徹底である。したがって良くも悪くも,調理
拍車をかけて,この間の人文系の学科の定員割れ
師という職種の社会的ステータスには大差が生じ
は,目を覆うばかりとなったのである。
て来よう。例えば,米国で代表的な調理師養成校
実学万能,実利に無縁の学問は無用とされ,こ
であるコーネル大学 CIA(Culinary Institute of
うして大学キャンパスでも「失われた二十年」が
America)。哲学,思想,歴史,宗教,地理,自
始まったのであった。わが国の高等教育の劣化に
然科学基礎などリベラルアーツを取り込んでカリ
歯止めが利かなくなっている,と筆者は見る。
「学問のすそ野を広げ,様々な角度から物事を見
キュラムが作られている。
ここでは短大卒「アソシエイトディグリー」,
ることができる能力や,自主的・総合的に考え,
四年制学卒「バチェラーディグリー」がある。
的確に判断する能力,豊かな人間性を養い,自分
「料理人の教育」と言えば徒弟修業,の先入観に
の知識や人生を社会との関係で位置付けることの
とらわれている人には,この科目全部は時間の無
できる人材を育てること」(同上)は空文化した。
駄,つまり「虚学」である。たしかに歴史や哲学
○
は厨房で直接役立つ勉強ではない。しかし,果た
難しい本には二種類ある。一つは専門的な学術
してそうか。筆者の大学でも,CIA には及ばず
書。これは基礎から,系統的に概念を習得すれば,
ながら,四年間の学部教育に調理師養成課程の導
いずれ理解できるようになっている。
入を試みたことがある。
もう一つは,著者の意図が,なかなか掴めない
わが国の調理師養成施設指導要領には「養成施
もの。多くは古典である。当今,「虚学」として
設は,その社会的使命を十分に自覚し,職業人と
忌避されている類のものである。こちらは,多少
しての調理師を養成するものであって,付随的な
の勉強では歯が立たない。「著者の境地」まで,
教育により,その養成を行うものでない」とある。
自らを高めることが要求されるからである。一朝
だから,調理師は1年間の教育で十分だというわ
一夕では,まず無理。また,わかったところで目
けである。四年制大学での調理師養成は「付随的
に見える実利を手にするわけでもない。ただ,自
教育」に当たることになろうから,認められない
己発見の喜びがあるのみである。
というわけである。
そういう難解書に,若い頃から触れて,機の熟
今のところ,この「付随的教育」という固定観
するのを待つ。自らを高めることの醍醐味に「虚
念を逆転させる余地はほとんどなさそうだ。果た
学」の「実利」があると言えよう。
食品と容器
639
2012 VOL. 53 NO. 10
●
特別解説
●
食品におけるナノテクノロジーの展開
す ぎ や ま・ し げ る
名古屋大学理学研究科分
子生物学専攻修了。(株)
安川電機,科学技術振興
機構ERATO研究員等を
経て,現在,(独)農研機
構食品総合研究所食品工
学研究領域ナノバイオ工
学ユニット長。
理学博士
杉 山 滋
かったこともあり,未知の部分が多く残っている
1.はじめに
状況であった。そこで,このような状況の中,農
ナノテクノロジーという概念は,1974年に我が
林水産省では,食品素材のナノスケール化技術の
国の谷口紀男博士により初めて提唱された概念で
開発,ナノスケール食品素材の物理化学特性評価
あり,ナノスケールの分解能で原子や分子を操
および体内動態評価を総合的に評価する研究プロ
作・制御する技術を意味した。その当時には,そ
ジェクト「食品素材のナノスケール加工および評
のような技術はまだ開発されていなかったが,80
価技術の開発」(略称:食品ナノテクノロジープ
年代から90年代初頭までに,Binning らによる原
ロジェクト)を2007年度に開始し,食品のナノス
子や分子の操作を実際に可能とした走査型トンネ
ケール化技術の開発やナノ化に伴う特性変化,さ
ル顕微鏡や原子間力顕微鏡の発明 1,2)等がなさ
らにはナノスケール食品の安全性に関する検証等
れ,さらに飯島澄男博士によるカーボンナノチュ
の研究を進め,2012年3月に終了した。
ーブの発見 3)が続いた。90年代後半には,IT・
本稿では,食品ナノテクノロジープロジェクト
エレクトロニクス分野,材料分野を中心にナノテ
の5年間の主要な成果の一部を紹介したい。
クノロジーの応用が急速に進み,エネルギー産業,
2.食品ナノテクノロジープロジェク
トにおけるサイズ定義
家電機器を含む機械産業から航空宇宙産業に至る
様々な分野で利用されている。
その一方,食品分野においては,ナノテクノロ
一般には,ナノとは10−9を意味する記号で,1
ジーを応用する試みが始まったのは,ごく最近に
ナノメートル(nm)は10−9m である。ナノメー
なってからである。例えばナノ化したサプリメン
トルを単位として記述される範囲は,本来1nm
ト類,ナノテクノロジーを利用した保存容器など
~999nm であるが,工業製品・素材においては,
食品関連製品が開発され市販されているが,その
特にナノテクノロジーの範囲を,特徴的なサイズ,
数は多いとはいえない。
すなわち,縦,横,高さのうちのいずれかが100
これは,食品のナノスケール化により,食品の
nm 未満であるものとしており,マイクロメート
物理化学的特性や体内動態にどのような変化が生
ルに近いナノサイズのものは,範疇に入れない場
じるか,といった疑問については,データが少な
合 が 多 い。 特 徴 的 な サ イ ズ が100 nm 未 満 と は,
食品と容器
ちゅう
640
2012 VOL. 53 NO. 10
3次元のうちの少なくとも1次元が100 nm 未満
分子化した食品素材等が市販されたケースがある。
であることを意味する。すなわち,1次元のみが
一方,やや古いデータであるが,ナノスケール
100 nm 未満で他の2次元が広がりをもつものは
食品ないし容器等を含む食品関連ナノテク市場は,
ナノ薄膜,2次元が100 nm 未満で他の1次元が
世界において,2006年に約7,000億円,2010年に
長さをもつものはナノ繊維,3次元とも100 nm
は約2兆円規模に膨らむとの予測がある5)。ま
未満のものはナノ粒子,ということになる。この
た,日本国内に関しては,2005年時点で10億円,
定義は,米国,欧州において受け入れられており,
2010年に200億円,2030年に2,500億円と予測され
工業製品に関しては,我が国においても同様であ
ている(ナノスケール食品のみ,関連ナノテクは
り,これを True Nano とも称している。
含まず)6)。しかし,この市場規模は,ナノ化粧
その一方で,食品分野では工業製品と異なり,
品等(2005年:160億円,2010年:500億円,2030
数十μm のスケールにおいて,既に食感や加工特
年:800億円)と比べても現時点では小さく,さ
性に大きな変化が現れることが知られている。そ
らにエレクトロニクスやエネルギー産業関連等の
のため,上記の特徴的なサイズが100 nm 未満と
ナノテク工業製品に比べると数十分の一程度であ
いう定義をそのまま食品に適用することには無理
り,はるかに小規模である。しかしながら,ナノ
があると思われ,むしろ比較的ナノに近いマイク
スケール食品の開発は始まったばかりであり,そ
ロスケールのものも含めることも考えられる。
の特性の解明と今後の展開いかんでは,急速に市
そこで,前記の食品ナノテクノロジープロジェ
場が拡大する可能性も考えられる。
クトでは,研究対象を数十μm~10 nm に設定し
4.食品ナノテクノロジーに関する研
た(第1図)。なお,後述するが,プロジェクト
究動向
いわゆる
最 終 年 度 に お い て,100nm 以 下 の 所 謂“True
Nano”サイズの超微細米粉に成功している。
上述のように,海外においても食品ナノテクノ
ロジーの研究開発は各国で進められている。しか
3.ナノスケール食品と市場規模
しながら,その多くはナノテクノロジーを使用し
うた
ナノスケールを謳 った食品については,これまで
た関連製品であり,例えば長期保存用の容器,新
にも市場に出ているが,世界的に見ても,その数は
鮮さ等を保つ包装材料やプラスチック飲料容器,
それほど多くない。米国の Woodrow Wilson Center
あるいは食品安全用・環境評価用のバイオセンサ
Nanotechnologies4) で
ー等である。食品そのものに関しては,ナノスケ
は,様々なカテゴリーのナノテク製品情報を収集
ールキャリアを使用したサプリメント類の例は多
しているが Food and Beverage にリストされて
いものの,通常の食品素材をナノスケール化し,
いる食品は4種類にすぎない。その一方で,各種
これまでにない新たな特性を有する食品を開発し
金属ナノコロイドやミセル等のナノスケールキャ
た例は,非常に少ないのが現状である。
リアに有効成分を保持させたサプリメント類は43
一方で,ナノテク製品の安全性についての関心
種類と多い。食品そのものではないが,食品用の
が世界的にも高まっており,2001年頃から欧米お
の Project on Emerging
保存容器や調理器具も28種類が掲
載されている。Woodrow Wilson
Center のリスト以外にも,国内
外でサプリメントとして市販ある
いは食品添加物として利用されて
いる例があり,白金ナノコロイド
を添加した飲料類,銀やゲルマニ
ウムを配合した栄養補助食品,低
食品と容器
第1図 食品ナノテクノロジープロジェクトの対象範囲
641
2012 VOL. 53 NO. 10
している(第1表)。
よび我が国において,ナノ粒子の安全性に関する
研究が開始されている。ただし,現状では,その
5.食品ナノテクノロジープロジェクト
対象のほとんどは,カーボンナノチューブやフラ
ーレン,チタンやシリカ等の超微粒子,工業原料
上記のような状況の中,食品ナノテクノロジー
や一部化粧品原料に留まっており,ナノサイズ食
プロジェクトでは,マイクロスケールからナノス
品分野での安全性に関しては,まだ議論が始まっ
ケールの食品素材微粒子を効率的に製造するため
たばかりである。2007年には,米国で英国中央科
の加工技術の開発,開発した食品粒子のサイズの
学研究所と米国食品安全・応用栄養学共同研究所
違いが物理化学的特性や生体に及ぼす影響の解明,
が主催するシンポジウム「食品と化粧品分野にお
さらに従来手法では解析困難なナノスケール領域
けるナノテクノロジー」が開催され,そこでの討
特有の構造・物性等を計測する技術の開発とナノス
議では,食品ナノテクノロジーに関して以下の点
ケール化に由来する新機能の解明を目的としている。
が共通認識として示された。すなわち,ナノテク
プロジェクトは,
「食品素材のナノスケール加工
に対する姿勢として,安全性を十分に考慮しなが
基盤技術の開発と生体影響評価」および「食品素
ら,そのベネフィットを最大限に確保するように,
材のナノスケール評価技術の開発と新機能の解明」
開発を前向きに進めるべきであることが確認された。
の2つのグループからなり,さらにそれぞれがい
また,2007年には,経済協力開発機構(OECD)
くつかのチームに分かれている。研究は,グルー
において14種のナノマテリアルの安全性評価を開
プ間,チーム間の必要に応じて研究試料の提供や
始する旨の発表があり,2009年3月には,欧州食
情報交換など密接な連携をとりながら進めている。
品安全機関(EFSA)が食品および飼料における
以下,それぞれのグループの目的および成果を
ナノサイエンス・ナノテクノロジーによる潜在リ
簡単に紹介する。
スクについての意見書を公開している。さらに,
5-1.
「食品素材のナノスケール加工基盤技術
2009年6月には食品および農業分野でのナノテク
の開発と生体影響評価」
ノロジー応用に関する専門家会議が国際連合食糧
(1)食品素材のナノスケール加工基盤技術の
農業機関(FAO)・世界保健機関(WHO)の 合
開発
同で開催されるなど,食品ナノテクノロジーとそ
ナノスケールに粉砕した穀物(固体),抗酸化
の応用および安全性への関心はさらに高まっている。
物質等を含むエマルション(液体),空気や酸素
我が国では,ナノマテリアルの安全対策に関す
ガス等のマイクロナノ・バブル(気体)を対象食
る研究・取り組みは2004年頃から開始され,厚生
品素材とし,それぞれの作製・加工技術を開発した。
労働省,環境省,文部科学省,経済産業省,農林
まず,穀類素材(固体)については,低温製粉
水産省等を中心として進められ,これまでに厚生
技術を利用した非常に滑らかな食感の国産小麦全
労働省,環境省から報告書,ガイドライン(素
粒粉パンの技術移転を進め,東京(銀座,上野駅
案)が公開された。これらの調査のほとんどは,
等),京都,名古屋,軽井沢等で普及が進んでい
工業ナノマテリアル(カーボンナノチューブ,フ
る(第2図)。
ラーレン,酸化ニッケル,酸化チタン等)を対象
また,主に米粉粒子を対象に効率的微粉砕化技
としているが,農林水産省(食品ナノテクノロジ
術の開発を進めた。しかしながら,ジェットミル
ープロジェクト)では,規模は小さいながら食品
を使用しても米粉粒子の粉砕は非常に難しく,容
ナノ粒子を対象とし,動物実験による生体影響評
易にナノスケールに到達することができなかった。
価を行っている(後述)。さらに2010年には,食
そこで,湿式メディアミルによる粉砕を行ったと
品を対象として,食品安全委員会(日本)が「食
ころ,最終的に最小70 nm の超微細米粉の作製に
品分野におけるナノテクノロジー利用の安全性評
成功している。さらに,液体(エマルション)に
価情報に関する基礎調査」を行い,データを公表
おいては,微細化されたチャネルを用いて直接ナ
とど
食品と容器
642
2012 VOL. 53 NO. 10
第1表 ナノマテリアルの安全性に関する主な取り組み
年 月
内 容
2008年2月
「ナノマテリアル製造・取扱い作業現場における当面のばく露防止のための予防的対応について」の発
出(厚労省)
2008年3月
ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質の安全性対策に関する検討会の開催(厚労省)
2009年1月
工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン(素案)
2009年3月
ナノマテリアルの安全対策に関する検討会報告書の公表(厚労省)
2010年3月
「食品分野におけるナノテクノロジー利用の安全性評価情報に関する基礎調査」を公表
(食品安全委員会)
ノチャネル乳化を行った結果,平均液滴径が500
することを目的とした。実験としては,主に動物
nm 弱の単分散微細 O/W エマルション(変動係
試験や培養細胞試験等を行うことにより,体内に
数8%未満)を作製することができた(第3図)。
おける食品ナノ粒子の動態と生体影響を評価し,
(2)食品素材の物理化学的特性・加工適性等
最終的には安全性を担保することを目的とした。
の解明
固体系ナノスケール粒子(マイクロ化玄米およ
この課題では,穀類等の微粒子,ナノエマルシ
び精米)を使用し,実験動物の呼吸器系への暴露
ョン,マイクロ・ナノバブル等の食品ナノ粒子の
を行い,免疫学的解析により基礎特性を把握した。
物理化学的特性の評価法を素材ごとに開発し,サ
また,液体系(エマルション)については実験動
イズや諸特性の相関関係を個別に明らかにするこ
物や培養細胞を用いて,抗酸化ナノ素材の経口摂
とを進めた。その結果,O/W エマルションやミ
取における腸管吸収性や生体影響について解析を
セルにおいては,油水界面で乳化剤の疎水基が油
行った。
相に入り込み,酸化される
脂質を希釈することで,脂
質の酸化が抑制されること
が判明した。また,マイク
ロ・ナノバブル水に関して
は,マイクロバブルの大半
は発生後10分程度で消滅す
るが,ナノバブルは長時間
滞留すること が 分 か っ た。
第2図 低温製粉技術による国産小麦全粒粉パン
(カラー図表をHPに掲載 C089)
さらに,ナノバブル水によ
り,植物細胞の原形質流動
速度が増大することも示さ
れた。
(3)実験動物等を用い
た食品素材の体内動態評価
食品をナノ化することに
より,食品ナノ粒子の体内
動態等がどのように変化す
るか,また,その結果によ
り,体内に悪影響を与える
可能性について詳細に検討
食品と容器
第3図 ナノチャネル乳化による液滴作製 (カラー図表をHPに掲載 C090)
643
2012 VOL. 53 NO. 10
た。
血清中 IgE(ng/mL plasma)
血清中 IgE(ng/mL plasma)
材の創出を試みることを目的とし
米粉微粒子は,サイズが小さく
なるほど,水に長時間分散し,乳
化液と同様な流動特性を示すこと
が分かった。その分散液での操作
性の向上が期待されるとともに,
油脂代替物としての利用も考えら
れ,アイスクリームやチーズ等に
応用が有望である。さらにマイク
ロ・ナノバブルでは,大豆油由来
第4図 マイクロ化玄米および精米を給餌したマウスのIgE血中濃度
の新規界面活性剤を用いることで,
長期間安定な数μm 以下のバブル
ろ
その結果,マイクロ化玄米では,コントロール
を作製できることが判明した。植菌した濾紙を対
にくらべて血中 IgE が3.5倍ほど上昇するが,精
象とした場合,空気による除菌効果が確認された
米では倍程度であった。また,意外にも予想に反
が,青果物を対象とした場合,マイクロ・ナノバ
して IgE の上昇が粒径が小さくなるほど少なく
ブルによる除菌効果は確認できなかった。
なり,玄米・精米ともに50μm 以下ではコントロ
5-2.
「食品素材のナノスケール評価技術の開
ールレベルであった(第4図)。
発と新機能の解明」
一方,鼻粘膜に花粉を暴露した場合には、顕著
(1)食品素材のナノスケール評価技術の開発
な IgA の発現が起こるのに対して,米粉微粒子
課題では,ナノスケール食品粒子における微細
を暴露した場合には,IgA の発現や炎症細胞の有
構造や微小領域での動態の評価技術,あるいは高
意な集積も認められず,コントロールに近いレベ
効率,高感度な単一粒子解析技術等を開発し,ナ
ルであった(第5図)。
ノスケール食品粒子に固有に見られる諸性質を解
(4)食品素材の品質安定性
明することを目的とした。そのためのツールとし
固体については食品素材微粒子の用途に応じた
て,走査型プローブ顕微鏡やマイクロ・ナノ化学
最適な粒子条件,原料構成比,製造条件を明らか
システム等の機器を使用し,研究を進めた(第6
にするとともに,液体・固体について界面状態と
図,第7図)。
レオロジー特性との関係を明らかにし,粒子と他
また,上記以外にも,食品用のマイクロ光造形
の食品成分との相互作用を考慮した新たな食品素
法による長探針プローブを開発,体内環境中での
食品ナノ粒子の相互作用評価,さらには高
速で流路を流れる単一粒子を正確に計数可
能な,熱レンズ顕微鏡の開発等を行った。
(2)ナノテクノロジーによる食品素材
の新機能解明
IgA
本課題では,食品素材や食品ナノ粒子中
に存在する水分の動態を解明し,食品素材
のナノ粒子化の際に必要となる,加工適性
第5図 花粉暴露(左)では気管のIgA発現が上昇するが,
米粉微粒子(右)ではほとんど起こらない。
(カラー図表をHPに掲載 C091)
食品と容器
644
などに関する新規指標として活用すること
を目的とした。
例えば高分子ポリマーや紙などに対して
2012 VOL. 53 NO. 10
まだ始まったばか
りである。本プロ
ジェクトの成果の
一 部 に 関 し て は,
これまでになかっ
たような特性を持
つ食品ないし食品
素材の可能性が見
え て き つ つ あ る。
例を挙げると,ナ
ノ加工ミルを使用
して,従来より微
第6図 走査型プローブ顕微鏡の写真(左) および装置の模式図(右)
細な数十μm の全
透明性を有するテラヘルツ波による分光イメージ
粒粉微粉砕素材を作製し,それを使用したパンは,
ングを行ったほか,エバネッセント光を用いた水
ふすま部分も含まれているが,それでも一般的な
の状態分析,さらにラジオアイソトープを用いた
全粒粉パンに比べて非常に滑らかで,しっとりと
化学物質動態のナノスケールイメージング技術の
した食感になることが分かっている。また,本文
開発も進めた。具体的には,ラジオアイソトープ
では触れなかったが,新鮮な高濃度 ATP を含む
を用いて,精粉の動態イメージングを行ったほか,
魚肉を,マイクロスケールまで微細化すると,非
米粉の加工法および粒子サイズによる差異を,テ
常に少ない量の食塩で粘度を上昇させることがで
ラヘルツ分光により評価識別を行った。
きることも判明した。これら食品ナノテクノロジ
ープロジェクトの成果は,高齢者向けの吸収性の
6.おわりに
良い食品,脂質の酸化速度を低下させた長期保存
本 プ ロ ジ ェ ク ト は,2012年3月 に 終 了 し た が,
食品,乳濁飲料の半透明化等,新規な特性を持っ
食品におけるナノテクノロジーの本格的な応用は,
た様々な食品の可能性が広がっていると考える。
A
B
E
F
C
D
G
H
第7図 走査型プローブ顕微鏡による澱粉の高分解能計測
A:樹脂包埋切片の画像。B ,D:樹脂包埋切片表面の AFM 像。C ,G:それぞれの澱粉粒子の横断面。
E ,F ,H:リングの画像 , 特に H の画像では,160nm 幅の成長リングが観察された。
(カラー図表を HP に掲載 C092)
食品と容器
645
2012 VOL. 53 NO. 10
その一方で,本稿の前半に記したように,ナノ
な生体影響評価と安全性に関するデータの蓄積を
スケール食品および食品素材の安全性評価も非常
した上で行っていただきたい。
に重要であり,特に商品化を行う場合には,充分
参 考 文 献
1)Binnig, G., Rohrer, H., Gerber, Ch., Weibel, E., 7x7
4)W oodrow Wilson Center, Project on Emerging
Reconctruction on Si(111)Resolved in Real Space.
Nanotechnologies
Phys. Rev. Lett., 50, 120−123(1983)
(http://www.nanotechproject.org/inventories/)
2)Binnig, G., Quate, CF., Gerber, Ch., Phys. Rev. Lett.
5)Helmut Kaiser Consultancy の 試 算 に よ る(FAO/
56, 930−933(1986)
WHO 専門家会合報告書,2009)
3)Iijima, S., Herical microtubules of graphitic carbon.
6)経済産業省委託事業「平成17年度超微細技術開発産業
Nature, 354, 56−58(1991)
発掘戦略調査」ナノテク関連市場規模動向調査報告書
「食品総合研究所研究成果展示会 2012 」のご案内
(独)農研機構食品総合研究所のこれまでの研究成果と関連情報を広く提供し,啓発および共同研究や技術移転
を通じて社会に還元を図り,当研究所の使命とする「健康で豊かな食生活の構築と食品産業の振興に貢献する」
ことを目的として研究成果展示会を本年も開催致します。
日
時:平成24年11月2日(金)9:30 〜 16:00
会
場:つくば国際会議場 〒305−0032 茨城県つくば市竹園 2−20−3
同 時 開 催:第30回公開講演会
参
加
費:無料 参 加 登 録:不要
お問合せ先:(独)農研機構 食品総合研究所 企画管理部 連携共同推進室
TEL:029−838−7990 ,FAX:029−838−8005 E-mail:[email protected]
シンポジウムのご案内
日本包装学会 第59回シンポジウム
医薬品包装に求められるもの
―災害支援,医療現場,患者,医薬品製造,包装資材―
◇日 時:平成24年10月26日(金)9:50〜16:40
◇主 催:日本包装学会
◇協 賛:(社)日本包装技術協会
◇後 援:日本食品包装協会,軟包装衛生協議会,
日本接着学会,日本食品科学工学会
◇会 場:きゅりあん 6F 大会議室
東京都品川区東大井 5−18−1
(JR 大井町駅前)TEL 03−5479−4100
◇参加費:維持会員15,000円,企業に属する個人会員
10,000円,その他の個人会員および学校・公的機
関の会員5,000円,エキスパート会員2,000円,学
生2,000円,非会員18,000円
◇申込・問合せ先:日本包装学会「第59回シンポジウ
ム」係 〒169−0073 東京都新宿区百人町 1−20−3
バラードハイム703
TEL 03−5337−8717 FAX 03−5337−8718
食品と容器
◇定員,締切:100名,10月18日(木)先着順にて締切
◇内 容
・
「震災時における薬剤師の支援活動と医薬品包装に
求められること」 日本薬剤師会 生出泉太郎氏
・
「注射剤適正使用から見た医薬品包装」
岡山大学 千堂年昭氏
・
「医療過誤防止への取組」〜現場の要望を形に変
えて〜
大原薬品工業株式会社 久松栄一氏
・
「病院薬剤部でのバーコード活用事例と表示方法
の提案」
芳賀赤十字病院 中里浩規氏
・
「PTP アルミ箔へのバーコード表示の最新動向と
印刷技術」
株式会社タケトモ 小川 博氏
○シンポジウムの詳細については,ホームページをご覧
下さい。
(http://www.spstj.jp/event/sympo/index.html)
646
2012 VOL. 53 NO. 10
業
T
界
O
ト
P
ピ
I
ッ
C
ク
S
はなさそうだ。
容器別構成,PET は86.7%へ
清涼飲料総市場では PET 容器が65.3%(全国
清涼飲料工業会調べ/2011年実績)を占めている
が,日本茶飲料3カテゴリーでは86.7%と非常に
高い数値となっている。前年実績と比較しても
0.3%増と,わずかながらも上回っており,90%
台へとさらに一歩近づいた。
3カテゴリーそれぞれの PET 容器比率を見る
と,緑茶飲料が85.4%,麦茶飲料が84.9%,混合
茶飲料が91.9%となっており,いずれも高い比率
を示しているが,その中でも紙容器の販売が少な
い混合茶飲料は,全体の9割を超えている。リシ
ール可能な PET 容器と日本茶飲料との親和性の
高さは今更いうまでもないが,市場誕生からの長
い 歴 史 の 間 に お い て,PET 容 器 の 登 場, 小 型
PET 容器の解禁が日本茶飲料の拡大の原動力と
なったことは,変えようのない事実といえよう。
今年の日本茶飲料は…… 緑茶飲料については,前述の通り上期2ケタ増
で推移していることから,プラスでの着地はほぼ
間違いなく,7年ぶりのプラスに期待したい。混
合茶飲料は,「十六茶」が好調ながら,トップを
はじめ他ブランドが苦戦,さらに市場は縮小しそ
うな見通し。麦茶飲料は,トップの「健康ミネラ
ル麦茶」が好調に推移していることに加え,「伊
右衛門」ブランドの「京番茶入り麦茶」と「六条
麦茶」が本格展開していることから,大幅増達成
は間違いない。6年連続の市場拡大,3,000万箱
の大台突破にも期待したい。
(業界誌記者 戸田雅雄)
日本茶飲料市場,今年も麦茶がけん引へ
11年は,3カテゴリーで前年並み
11年の日本茶飲料3カテゴリー合計実績は,箱
数ベースで前年比0.5%減の3億1,458万箱,容量
ベースで前年並みの339万4,500 kL(ともにシロッ
プ・パウダーを除く)となった。容量ベースでは,
4年振りに前年の実績を確保した。
同年の清涼飲料総市場では,1.0%増(容量ベ
ースで1,928万1,500 kL)だったことから,日本茶
飲料カテゴリーは市場平均は下回ったものの,総
市場では特需要因で激増したミネラルウォーター
の増分40万 kL の寄与で,かろうじて前年を20万
kL 上回ったに過ぎず,日本茶飲料の実績確保は
一定の評価に値するものと見てよいだろう。
数値的には,変動がない同市場だが,構造的に
はかなり大きな変化が見られる。ほぼ前年並みの
緑茶飲料に対し,混合茶飲料が5~6%のマイナ
スを喫し,そのマイナス分を麦茶飲料の2ケタ増
が埋める形での前年並みとなった。麦茶飲料の好
調な推移は,「元祖カフェインレス飲料」である
ことの認知が浸透したことにより,女性層の消費
が高まっていることがその要因の1つとなってい
るようだ。昨年は,震災の影響などから1ブラン
ドのみが突出した伸びを見せた同カテゴリーだが,
今年は2位,3位ブランドも大きな伸びを見せて
おり,麦茶飲料は夏場の天候要因も左右されるが
2~3割の拡大となる可能性もあるだろう。その
一方で,混合茶飲料は,トップブランドの苦戦が
全体の足を引っ張っており,市場の回復は容易で
第1表 日本茶飲料の年次別生産量
年次
単位
缶
緑 茶
PET 他
計
前年比
缶
ス
麦 茶
PET 他
計
日刊経済通信社調
前年比
缶
混 合 茶
PET 他
計
前年比
千箱 31,100
207,240
238,340
2006年
kL 220,300 2,260,800 2,481,100
96.6
96.5
290 15,160 15,450
2,590 179,700 182,290
98.7
99.3
7,050 65,890 72,940
57,200 732,900 790,100
111.3
110.7
07年
千箱 29,800
207,600
237,400
kL 211,090 2,246,620 2,457,710
99.6
99.1
250 18,250 18,500
2,230 210,980 213,210
119.7
117.0
7,810 73,890 81,700
63,370 817,630 881,000
112.0
111.5
08年
千箱 25,890
206,510
232,400
kL 183,390 2,247,810 2,431,200
97.9
98.9
240 19,460 19,700
2,140 227,140 229,280
106.5
107.5
6,140 69,110 75,250
49,820 772,220 822,040
92.1
93.3
09年
千箱 24,970
201,270
226,240
kL 174,600 2,208,300 2,382,900
97.3
98.0
240 19,800 20,040
2,050 230,530 232,580
101.7
101.4
6,140 66,240 72,380
49,800 741,800 791,600
96.2
96.3
10年
千箱 22,940
200,850
223,790
kL 160,400 2,206,050 2,366,450
98.9
99.3
240 22,120 22,360
2,050 256,430 258,480
111.6
111.1
4,900 65,120 70,020
39,750 729,370 769,120
96.7
97.2
11年
千箱 22,770
199,870
222,640
kL 159,210 2,201,120 2,360,330
99.5
99.7
200 25,920 26,120
1,700 306,370 308,070
116.8
119.2
4,220 61,600 65,820
34,230 691,970 726,200
94.0
94.4
食品と容器
647
2012 VOL. 52 NO. 10
Report
特別レポート
日本における清涼飲料,ビール系酒類市場
―平成24年の7,8月を振り返って―
過去最高」の数字を記録するなど,市場全体でも
▉清涼飲料の最新市場動向
大きく数字を伸ばし,13%増と大きくプラス。東
7月7%減 ,8月13%増 ,7~8月累計は微増
京で最高気温が30℃を下回った日はわずか2日,
上半期(1~6月)の清涼飲料市場は,本誌
大阪はわずか1日と伸長の主要因は好天といえる。
(第53巻8号)のとおり,市場全体では昨年の東
その結果,低調な動きだったスポーツ飲料が脚光
日本大震災の裏返し要因が増減ともに表れ,月ご
を浴びた形。7,8月累計の市場全体は「わずか
とに数字に大きな差が出た。大手メーカーの好調
に上回った」など微増となったようだ。
な動きの反面,昨年大手の出荷調整分を補ってい
ここでは7,8月の状況を振り返り,秋冬商戦
た中堅以下は厳しい状況となった。今年の7,8
の中心商材コーヒーと例年に比べて盛り上がりを
月は,7月が梅雨明けが昨年よりも遅れた関係や
みせる無糖茶市場を展望する。
6月末の一部メーカーの商品の流通への「押し込
7月:中旬までの天候不順が影響し7%減
み」により,上旬から中旬にかけ極めて荷動きが
7月は前年比7%減と大きなマイナスとなった。
悪かったこともあって7%減。逆に8月は,好天
昨年の早い梅雨明けや猛暑との天候の裏返し要因
が寄与する形で大きく伸ばし,伊藤園が「単月で
や一部大手メーカーの商品押し込みの影響が20日
第1表 平成24年1~8月の主要各社の清涼飲料出荷実績前年対比(単位:%)
業界平均 サントリー
1月
99
伊藤園
アサヒ飲料
98
103
106
キリン
大塚
ビバレッジ グループ
ポッカ
カルピス
92
94
96
98
サッポロ コカ・コーラ
飲料
合計
94
102
2月
105
106
108
112
114
103
102
90
98
104
3月
109
121
93
122
112
80
98
113
85
108
4月
100
98
122
112
96
78
86
94
80
101
5月
109
108
107
116
115
91
107
110
90
113
6月
104
107
103
113
115
86
93
110
96
101
7月
93
86
106
95
99
77
91
89
89
95
8月
113
111
120
125
122
117
107
115
102
107
1~2月累計
103
102
106
109
104
99
100
91
96
103
1~3月累計
105
109
100
114
107
91
99
99
92
106
1~4月累計
104
106
106
113
104
86
95
97
87
104
1~5月累計
105
106
107
114
106
87
98
100
88
106
1~6月累計
104
106
106
113
108
87
97
102
90
105
1~7月累計
103
102
106
110
106
84
98
100
89
103
1~8月累計
104
104
108
112
108
89
99
102
91
104
注)コカ・コーラ合計は醸造産業新聞社推計。
食品と容器
648
2012 VOL. 53 NO. 10
前後まであったことで,中旬までは「まったく荷
伴っていない」(大手メーカー)との声も聞かれ
が動かない」「過去にない下げ幅」(メーカー関係
た。9月も気温が高い日が続き,「夏物」商材を
者)となったが,下旬の好天により若干盛り返し
中心に好調で,昨年は夏商材の在庫を持ったメー
た。中旬も気温が低い日が続いたことや九州北部
カーがいたが,厳しい残暑が続き,夏物の消化は
の豪雨など,一部地域の悪天候も影響し伸び悩ん
スムースにいっているようだ。
だ。カテゴリー別では,ミネラルウォーターはブ
缶コーヒー微糖に「天井感」の声も
ランド差が大きく,2ケタ減のブランドも散見。
今年は例年以上にメーカー各社の力が入ってい
炭酸飲料も「天候にはさすがに勝てない」(大手
る缶コーヒー。ブランドを代表する新商品の投入
メーカー筋)ことから,主要ブランドの中でもマ
や,サントリー〈ボス〉の1,000万円分のサービ
イナスが多かった。一方,果汁炭酸等,炭酸の新
スが受けられる「超ボス電」や,アサヒ飲料〈ワ
製品群は比較的順調な流れ。スーパーや CVS な
ンダ〉の友人100人をハワイ旅行に連れて行ける
ど流通で,好調な動きを続けている炭酸飲料に棚
「日本全国じゃんけん大会」などの大がかりな
を多めに割く傾向が強く,乳性飲料や紅茶飲料な
キャンペーンが今年は実施されている。「各社の
どの棚が狭まり,販売に影響している状況が一部
熱の入れようは例年とは比べものにならない」
(大手メーカー関係者)。
で起こった。
8月:好天寄与し市場全体13%増と大幅増
その様子は自販機に次ぐ缶コーヒーの販売の主
8月は,前年比13%増と大幅増となった。東京
力売場,CVS でも厳しい競合関係に表れる。中
で最高気温が30℃を下回ったのが2日,大阪は1
堅メーカーからは「棚が大手に買われ,商品を導
日と「好天が寄与した」(メーカー関係者)。7,
入するのが例年より難しい」「日々何かしらの
8月の夏場2カ月は,メーカーによって差が大き
キャンペーンや値引き販売が行われ,売場が賑や
いものの,全体では前年を若干上回ったもようだ。
かなのはいいのだが,ついていけない」など競合
8月は盆以降も残暑が厳しく,「中盤以降に数字
過多が及ぼす厳しい売場環境を指摘する声は少な
がさらに伸びた」(メーカー筋)。伸び率が最も高
くない。新製品やキャンペーン導入時の店頭告知
いのはアサヒ飲料25%増,ついでキリンビバレッ
販促,190g缶上部に付ける景品などは,高度化,
ジ22%増,伊藤園20%増などは20%増を上回る数
上質化しており,メーカー担当者からは「手に
字。なかでも伊藤園は「単月で過去最高」の出荷
取ってもらうきっかけにはなっても儲かるのか」
量となった。カテゴリー別では,止渇性の高いス
と販促コストを危惧する声も聞かれる。ただ,何
ポーツドリンクや炭酸飲料,無糖茶などが好調。
もしなければ採用は難しいという状況で,CVS
棚は「取れば取っただけ,販売数量に跳ね返る」
〈ポカリスエット〉37%増,〈アクエリアス〉も前
(大手メーカー)だけに,CVS 棚を巡る争いはさ
年実績を大きく上回った。サントリー〈ダカラ〉
も3.3倍と大きく伸び,各社のスポーツ系飲料は
らに厳しさを増す。
軒並み大幅増。また,無糖茶,炭酸飲料は流通の
タイプ別ではいぜんユーザー層の拡大が続く微
定番商品の伸び率が高い結果に。「定番化してい
糖への注力が目立つが,「微糖へのユーザー流入
る商品の回転率が酷暑で一気に上がった」(大手
はある程度まできた」(メーカー関係者)ことか
メーカー)形だ。ミネラルウォーターは国産を中
ら,スタンダードでの味わい追求や新たな「伸び
心に順調。9月1日の防災の日に合わせた売場づ
しろ」を模索する商品の登場が目立った。中でも,
くりにもミネラルウォーターの備蓄は取り上げら
10年後の缶コーヒーをイメージした〈ワンダモー
れ,3月の東日本大震災前後と合わせて,年2回
ニングX〉や技術を駆使し味わいを追求した〈ボ
流通で大きな山ができるようになった。一方,カ
ス超〉,大人男性をターゲットにした〈ファイア・
テゴリーに限らず,大容量 PET を中心に価格軟
ミスタースモーキー~燻製珈琲〉などの動きが注
化が一部でいわれ,「数字は出ているが,利益が
目される。
食品と容器
649
2012 VOL. 53 NO. 10
無糖茶リニューアル,キャンペーン目白押し
一緒に合わせてもらう」試飲試食販売を10月に
春夏が主戦場の無糖茶飲料で,今年は秋冬商戦
スーパーで実施。コカ〈太陽のマテ茶〉は日本ハ
でも各ブランドが火花を散らしそうだ。各メー
ムと共同販促を精肉売場で展開。ステーキ,すき
カーはブランド一新や大々的なキャンペーンを実
焼きなど肉料理との相性をスーパーで訴求する。
施, 例 年 以 上 に 熱 が 入 る。 こ れ ま で 無 糖 茶 は
今秋冬の無糖茶売場の盛り上がりに注目だ。
「ホット」を除き,秋冬商戦は「ほぼ無風」(メー
▉ビール系酒類の最新市場動向
カー筋)だったが,今年は様相が異なる。近年,
CVS,スーパーなどで定番化が進み,特に CVS
夏場3カ月の出荷,最近10年間で最低
ではブランドが固定化。ところが今年は「動きの
今年の夏場3カ月間(6~8月)のビール系酒
少ない秋に仕掛け,ブランドに注目を集める」
類の課税数量は,前年同期比1.2%減となった。
(大手メーカー)狙いから,サントリーは〈伊右
昨年の夏場3カ月間の課税数量は,天候不順が影
衛門〉を10月2日に一新,伊藤園〈お~いお茶〉
響して最近10年間で最低数量だったが,今年はさ
はホット全品を一新した。「ブランドコンセプト
らにそれを下回り10年間の最低数量を更新した。
の『急須品質』こだわり,お茶の価値である香り,
6月と8月は前年を上回ったものの,もっとも数
ホットで際立つ香りを重視した」(伊藤園)。コ
量規模の大きい7月が低調だったことが響いた。
カ・コーラシステムは〈爽健美茶〉〈綾鷹〉〈太陽
6月 課税数量の総計は前年比4.1%増とプラ
のマテ茶〉〈からだ巡茶〉の4ブランドを対象に
スになったが,昨年6月は東日本大震災や天候要
したクローズドキャンペーンを8月27日から開始。
因が影響して11.1%の2ケタ減で,数量も最近10
「無糖茶の様々な需要を当社が持つブランドで獲
年間の6月の数量としては最も少なかったことを
得,無糖茶で№1を目指す」と意気込む。また,
考えると,それほど好調とはいえない水準。
「食欲の秋」をターゲットにした販促活動も目立
7月 総計は前年比9.3%減,数量は最近10年
つ。大塚食品〈シンビーノ・ジャワティストレー
間の7月の数量としては最も少ないなど,低調な
ト〉は料理による飲み分け PR。キリン〈午後の
月となった。要因は,例年より気温が低めだった
紅茶・おいしい無糖〉も今秋は「焼きおにぎりと
ことや,西日本を中心とした大雨。7月の課税数
第2表 平成24年夏場3カ月のビール系酒類課税数量
6月
ビール
数量
(kL)
国 産
輸 入
277,907
7月
前年比
(%)
105.9
数量
(kL)
286,227
8月
前年比
(%)
数量
(kL)
90.0
278,318
6~8月
前年比
(%)
103.5
数量
(kL)
842,451
1~8月
前年比
(%)
数量
(kL)
99.2 1,801,323
89.7
前年比
(%)
100.1
発泡酒
524
77.6
669
71.8
640
146.6
1,833
計
278,431
105.8
286,896
89.9
278,958
103.6
844,285
4,342
87.0
99.2 1,805,666
100.1
国 産
72,280
94.3
73,684
84.9
72,633
95.1
218,597
91.2
520,835
90.4
輸 入
150
139.2
192
165.4
201
118.7
542
137.9
1,095
126.8
新ジャンル
計
72,430
94.3
73,876
85.0
72,834
95.1
219,139
91.2
521,930
90.5
その他の
醸造酒
64,385
95.9
66,284
87.5
67,728
98.2
198,396
93.6
444,804
93.8
リキュール
129,470
111.4
116,877
99.0
113,813
109.4
360,159
106.5
850,235
106.3
計
総 計
ビール÷総計
193,854
105.7
183,161
94.5
181,541
104.9
558,556
101.5 1,295,039
101.7
544,715
104.1
543,933
90.7
533,333
102.8 1,621,980
98.8 3,622,635
99.1
51.1%(50.3%)
52.7%(53.2%)
52.3%(51.9%)
52.1%(52.0%)
49.8%(49.4%)
発泡酒÷総計
13.3%(14.7%)
13.6%(14.5%)
13.7%(14.8%)
13.5%(14.6%)
14.4%(15.8%)
新ジャンル÷総計
35.6%(35.0%)
33.7%(32.3%)
34.0%(33.3%)
34.4%(33.5%)
35.7%(34.9%)
注)ビールはビール酒造組合,発泡酒は発泡酒の税制を考える会が発表した数値。新ジャンルは発泡酒の税制を考える会が参考とし
て発表。6~8月分は醸造産業新聞社が算出。カッコ内の数値は前年。
食品と容器
650
2012 VOL. 53 NO. 10
量は,一昨年(2.1%増),昨年(0.4%増)と2年
第3表 夏場3カ月のビール類課税数量の10年間推移
連続で前年を上回ったが,今年は3年ぶりのマイ
ビール
(kL)
ナスとなった。
発泡酒
(kL)
新ジャンル
(kL)
合計
(kL)
8月 総計は2.8%のプラスとなった。月間を
平成15年
1,186,856
696,679
(88.5%) (89.8%)
− 1,883,535
(−) (89.0%)
通して猛暑だったことが寄与した。ただし,昨年
16年
1,197,878
680,250
(100.9%) (97.6%)
104,600 1,982,728
(−) (102.3%)
とを考えると,それほど好調ともいえない。前々
17年
1,117,616
478,711
(93.3%) (70.4%)
年対比では1.1%減。
18年
1,082,301
443,877
335,745 1,861,923
(96.8%) (92.7%) (100.4%) (96.4%)
今年の夏は全国的に猛暑が続き,熱中症対策と
19年
1,055,393
422,039
364,653 1,842,085
(97.5%) (95.1%) (108.6%) (98.9%)
して日中に意識的に水分を多めにとろうと心がけ
20年
975,829
390,514
425,459 1,791,802
(92.5%) (92.5%) (116.7%) (97.3%)
摂取すると,夕方以降にビール類を飲もうという
21年
899,317
327,052
487,158 1,713,527
(92.2%) (83.7%) (114.5%) (95.6%)
意欲が薄くなるというのが,近年の定説となって
22年
895,328
279,631
550,105 1,725,064
(99.6%) (85.5%) (112.9%) (100.7%)
大方の見方だ。それを裏付けるように,8月の清
23年
851,472
240,203
550,184 1,641,859
(95.1%) (85.9%) (100.0%) (95.2%)
涼飲料の出荷は13%の大幅増だった。
24年
844,285
219,139
558,556 1,621,980
(99.2%) (91.2%) (101.5%) (98.8%)
8月は下旬の天候不順が響いて3.8%減だったこ
暑すぎてビール類売れず !?
た人が多かったといわれる。日中に多くの水分を
いるが,今年もその説が当てはまったというのが
ビールに復調気配,ビアガーデン好調
334,221
3.195
1,930,548
(97.4%)
注)6~8月3カ月間の課税数量合計。カッコ内は前年比。
ビール類全体の中で,ビールは6~8月で0.8%
減と,前年同期の落ち込み(4.9%減)を下回った。
も好調で目標来場者数を当初の15万人から18万人
復調気配との指摘も聞かれる。それを印象づける
に上方修正した。また,キリンビールは今年から
事象の一つがビアガーデンの好調。首都圏の主な
〈一番搾り〉の上にマイナス5℃の泡をのせた
ビアガーデンの今夏の売上げは軒並み順調で,特
「一番搾り・フローズン生」を提案,飲食店への
に8月は雨が少なく雨天休業が少ないため月間売
普及を図るとともに,同商品を提供・情報発信す
上高は前年比20 ~ 30%の大幅増を記録したとこ
る施設「フローズンガーデン」を東京はじめ全国
ろが大半。好天・少雨が今夏のビアガーデン好調
6都市で展開した。来場目標は合計16万人だった
の最大要因だが,最近のビアガーデンが女性客や
が,実際には倍以上の36万人が来場したという。
若い層の集客増を狙って店舗改装や各種の販促を
両社の「冷たさ訴求施策」はマスコミで取り上げ
実施していることも背景にある。現在のビアガー
られる機会も多く,そのことが消費者のビールへ
デンは,かつてとは雰囲気・メニューとも様変わ
の関心を高めることにつながったとの見方も多い。
りのお洒落な施設に変身している。
ノンアルビール,拡大が加速
「冷たさ」競演,関心集める
ずっと市場拡大が続いているアルコール分
昨夏は,原発事故に伴う節電対応で「暑い夏」
0.00%のノンアルコールビールだが,今夏はアサ
となる中で「冷たさ」提供が話題を集め,酒類の
ヒ〈ドライゼロ〉が加わったことと暑さが追い風
提供に関しても「冷たさ」の演出・訴求に注目が
となり,拡大のペースが加速した。6月は前年比
集まった。今夏はさらに猛暑も加わり,引き続き
59.0%増の146万箱(大瓶換算),7月は20.0%増
「冷たさ」をキーワードとした施策に関心が集
の172万箱,そして8月は48.3%増の190万箱と月
まった。ビールでは,アサヒビールは2010年から
間出荷数量の最高を記録した。ビール類との併飲
始めた「氷点下のスーパードライ」を提供する夏
者が大半といわれるだけに,今後,ビール類消費
季限定の「エクストラコールドバー」を,今夏も
への影響度合いが注目されている。
(醸造産業新聞社 編集部)
東京・大阪・名古屋・福岡の4都市で展開,集客
食品と容器
651
2012 VOL. 53 NO. 10
技術用語
解説
「容器の事典」(缶詰技術研究会編)から抜粋
た,省資源,省包装というニーズを受けて複両面
A式ケース
〔regular slotted container〕
段ボールの両面化を目的として開発された段ボー
ルで,主に中しんを強化しているものが主体をな
している段ボールを強化段ボールという。
長さ面および幅面の上下あるいはどちらか一
方にフラップをもつ段ボール箱の形式を現在の
と規定していた。その旧 JIS の古い呼称が一部残
〔corrugated board〕
段ボール 段ボールとは「波形に成形された中しん原紙の
り,最も一般的な段ボール形式をA式ケース,A
片面又は両面にライナーを貼り合わせたもの」で
式カートンと呼ぶことがある。
ある。
JIS では02形に規定しているが,旧 JIS ではA形
野菜や果物を入れる段ボール箱によく使われて
ライナー
いる。
中しん原紙
ライナー
断面図(両面段ボールの場合)
段ボールを製造するために用いる板紙を段ボー
ル原紙といい,表裏に用いるライナーと波形部分
を構成する中しん原紙の総称である。
段ボールの種類はその構造により,片面段ボー
ル,両面段ボール,複両面段ボール,複複両面段
ボールがあり,また,用途によって外装用段ボー
組立図
ル,内装用段ボール,個装用段ボールに分類され,
JIS 規格の JIS P 3902 および P 3904,JIS Z 0104
機能性段ボール
に規定されている。
段ボールの外観,構造,物性などを改善して作
・片面段ボール:1枚のライナーに波形に成形し
られた機能性段ボールには主に以下のものがある。
た中しん原紙を貼り合せた段ボール
①保護機能:防水段ボール,強化段ボール,保冷
(断熱)段ボール,防湿段ボール,導電性段ボー
ル,鮮度保持段ボール,防錆段ボールなど。
②利便機能:手掛け穴加工,防滑加工,カット
・両面段ボール:片面段ボールの段頂にライナー
テープ加工,ライナーカット加工,小分け包装,
を貼り合せた段ボール
再開梱加工,ノンステープル段ボールなど。
③販売促進機能:美粧段ボール,POP 広告物など。
代表的な保護機能として,一般の段ボールは水
に弱いので防水加工を施した段ボールを防水段
・複両面段ボール:両面段ボールの片側に片面段
ボールとし大別している。防水段ボールには,短
ボールの段頂を貼り合せた段ボール
時間水が降りかかっても,水をはじいて水滴とし
水の浸透を防ぐように表面加工したはっ水段ボー
ルと長時間浸水しても,あまり強度が劣化しない
ように加工した耐水段ボールの2種類がある。ま
食品と容器
652
2012 VOL. 53 NO. 10
技術用語
「容器の事典」(缶詰技術研究会編)から抜粋
解説
・複複両面段ボール:複両面段ボールの片側に片
贈答品や個装用などに利用されている段の高さ
面段ボールの段頂を貼り合せた段ボール
が1mm に満たない極薄の段をマイクロフルート
という。(E 段を含む場合もある)JIS 規格(JIS
Z 1516)で規定されているのは,A,B,C段の
みである。
用途による分類は,主に,輸送用に用いる段
ラップアラウンドケース
〔wrap around case〕
ボール箱を外装用段ボール箱,個装をまとめてそ
ラップアラウンドケースとは打ち抜いた板状の
れを保護するために用いる内装用段ボール箱,使
段ボールの上に,機械的に集積された内容品を乗
用者の手元に渡る最小単位の物品を包装するため
せ,それを全自動で包み込んで,継ぎしろとフ
に用いる段ボール箱を個装用段ボール箱に分類し
ラップをホットメルト接着剤などで糊貼りをする
ている。
形状の段ボール箱のことをいう。缶コーヒー等,
缶類の包装に多く使用されている。
〔flute〕
フルート 段ボールの波形部分を構成するフルート(段)
の種類は以下に示す通りである。
段の種類
記号
段の数/30cm
段の高さ
A段
AF
34±2
4.5〜4.8mm
B段
BF
50±2
2.5〜2.8mm
C段
CF
40±2
3.5〜3.8mm
E段
EF
約93
1.1〜1.4mm
F段
FF
約126
約0.6mm
G段
GF
約180
約0.5mm
組立図
*段の高さに実際の段ボールはライナーの厚さが加算される。
A,B,C段は主な用途として,外装用段ボー
ルに用いられるが,B 段については内装用にも用
いられることがある。
ご案内
缶詰技術研究会設立50周年記念として『容器の事典』を出版し,好評発売中。
・容器(缶,プラスチック,紙,ガラス)に関する材料から製造方法まで広範囲に解説
・見出し語:約1,300項目(文中語はゴシックで示し,邦語索引から検索可能)
・A 5判 246ページで手軽なハンディータイプ,販売価格 4,800円
ご購入希望の方は,巻末の通信カードよりお申し込み下さい。
食品と容器
653
2012 VOL. 53 NO. 10
業界の話題
日本食糧新聞社・食サーチ(http://news.nissyoku.co.jp/)より
日本穀物検定協会,農産物など
は,X線をかけて発光させる蛍
11年6月に発売された「エコ
の産地認証事業を開始 理化学
光X線分析装置と,イオン化さ
フラットカップ」は,高いバリ
検査で実証
れた原子を質量分析計に導入す
ア性と無菌充填により,従来に
比べて内容物の長期保存が可能
日本穀物検定協会は28日,農
る誘導結合プラズマ質量分析装
置(ICP-MS)の2種類。蛍光
産物・海産物の産地認証事業を
X線分析では塩素,銅,亜鉛な
にやさしく,廃棄しやすい特徴
開始した。生産管理などの書類
がある。
の確認に加えて,産地で採取し
ど10種類以上の元素の量を調べ,
ICP-MS は蛍光X線分析とは異
た試料と,小売店,加工場から
なる元素9種類を計り,ストロ
造を設けたことで,大きな温度
採取した原材料で,含まれてい
ンチウムと鉛の安定同位体(放
変化のある条件下でもカップの
る塩素やマグネシウムなど元素
射線は出さないが,質量が異な
変形を抑えることに成功。日本
の量などをそれぞれ理化学検査
る)の種類ごとの比率で算定す
酒や焼酎,ワインなど幅広いア
を実施して実証する。産地や栽
る。
ルコール飲料への展開が可能に
培方法などによる生産者の差別
ストロンチウムと鉛の安定同
なった。
化に対応し,産地表示の信頼性
位体の種類ごとの比率では北海
ふた材には,易開封シーラン
の確保を狙う。コメ,小麦,野
道,関東などの大まかな産地の
トフィルムを採用。開封した後
菜,ワカメなどが対象。料金は
推定も可能だが,市販されてい
の口元部分の紙のけば立ちを抑
25万円からで,マークなども発
る作物から細かい産地の推定は
え,飲みやすさを追求した。透
行するという。
できないという。
明蒸着ハイバリアフィルム「GL
(日食 2012/08/31 日付)
な紙製カップ。紙製のため環境
今回はふたに減圧変形吸収構
フィルム」でカップ全体を覆う
農産物などの産地の確認は通
常,生産管理や送り状などの帳
凸版印刷,新型ハイバリア紙製
新保護方式を開発し,酸素透過
票類で行う。だが,「南魚沼産
カップ開発 アルコール充填が
度を抑制した。価格も,通常の
のコシヒカリ」などで,DNA
可能に
エコフラットカップとほぼ同等
検査で銘柄は分かるが,産地な
(日食 2012/09/05 日付)
に抑えた。
どを検証できる検査技術がこれ
凸版印刷はハイバリア紙製カ
同社によると,焼酎や果実酒
までなかった。
ップ「エコフラットカップ」で,
など炭酸を含まない酒類市場は
検定協会は,帳票類の確認と
アルコール充填(じゅうてん)
1 兆5,000億 円 あ り, 近 年 は
理化学検査で認証を行う。理化
が可能な新グレードを開発した。
PET ボトルやパウチなど環境
学検査では産地で採取した作物
ふたの構造をドーム型に改良し,
に配慮した容器の商品が増えて
を約10gずつ10試料を採取し,
内容物の温度変化による容器内
いるという。
その中に含まれている元素など
の空気の収縮を吸収。カップの
新容器を定番ブランド「辛口
の量を調べ,売場,加工場で使
変形を抑制することに成功し,
一献」で採用した黄桜にも,環
われている作物も同様の検査を
殺菌のため高温充填が必要なア
境への取組みを訴求する狙いが
行う。同じ市町村, 同 じ 圃 場
ルコール飲料に対応できるよう
ある。間伐材の利用や易廃棄性,
(ほじょう)などで生産した作
になった。9月初旬から本格的
軽量化などを考慮し,エコフラ
物ならば元素の含有量がほぼ同
に販売を開始する。第1弾とし
ットカップの採用に至った。
じになる原理を応用した。
て黄桜が販売する日本酒2品に
凸版印刷では日本酒や焼酎,
検定協会が始めた理化学検査
採用された。
ワインなどアルコール飲料業界
食品と容器
654
2012 VOL. 53 NO. 10
全般に向けて同製品を拡販し,
ている。農家産直がきっかけだ
費量は,前年より1.7kg 少ない
15年度に関連受注を含め30億円
が,大手卸も「最近この手法が
57.8kg で,1kg 以上の大幅減
の売上げを目指す。10月2~5
増加し対応が急務」と口を揃え
となった。いったん落ち込んだ
日に東京・有明の東京ビッグサ
る。そこで大手ネット通販のア
コメ消費は回復しないという定
イトで開催される「東京国際包
マゾンは今秋,全国47都道府県
説がある中,少子高齢化による
装展」にも,出展する予定だ。
の新米が勢揃いしたオンライン
自然減に拍車を掛けることにな
ショップを立ち上げる。背景に
りはしないかと,業界に懸念が
コメビジネス最前線特集:劇的
は「近年コメの選び方にこだわ
広がる。
変化遂げるコメ流通 農家直売
る消費者が増えている。人気産
その一方で相場高は外食産業
など新ルート活発化
地も新潟や秋田だけでなく,全
の肩にも重くのしかかり,牛丼
国各地の新銘柄が続々登場し,
の松屋の事例のように,外国産
【関西】コメ流通が大きく変
全国各地の新米の中から気に入
米の使用を検討する企業も多く,
化している。確かに近年,コメ
った銘柄を見つけてもらいた
現に卸業者に問い合わせが増加
流通の規制緩和進展で,多様な
い」との思いがある。
しているといい,ここにも構造
流通形態が出てきてはいた。だ
現に最近,新銘柄の山形産
変化の前兆が表れはじめている。
が,東日本大震災やその後の原
「つや姫」や北海道産「ゆめぴ
発事故の影響で,コメ需給が供
りか」など新銘柄が人気急上昇
缶詰特集:日常消費の拡大が鍵
給過多から一気に引き締まった
し,新潟コシヒカリに迫る勢い
市場回復の可能性十分
うえ,放射性物質による風評被
だ。主産地東北で震災や原発事
害問題などかつて経験したこと
故被害が大きかったこともあり,
缶詰市場は,非常食としての
のない問題に直面する中,新ル
通販業者がこの動きを敏感に察
需要に加え,日常消費の拡大が
ートの動きが活発化しているこ
知してのことだろう。
回復への鍵を握りそうだ。昨年
とが背景にある。
一方,需給均衡による玉不足
の震災で特性である保存性が見
その代表が農家直売だ。パイ
の様相を呈したことから産地で,
直される一方,今秋はレシピ提
オニア・大潟村あきたこまち生
コメ集荷業者の動きが活発化し
案や斬新な味付けによるメニュ
産者協会は,コメの直販はもと
ていることもある。結果,JA
ー専用商材が多数登場。本来,
より,米粉に代表される農産加
グループの集荷率が低下。そこ
栄養価に優れた缶詰は,食卓で
工の製造販売に軸足を移し,食
で 全 農 は「 今 年 は300万 t(11
の用途性をカバーし,自家消費
品メーカーとしての存在感を発
年 産 は267万 t) ま で 回 復 さ せ
にも十分対応できる。ツナ缶に
揮,6次産業化にも先鞭を付け
る」と宣言。これを受け,各県
おける原料の記録的高騰,中高
る。
本部は卸業者との播種前・収穫
価格帯商品の不振など依然逆風
ほか,建設業からの新規参入
前・通年契約の推進で,生産者
が多いが,裾野の拡大と消費シ
組の岐阜県・和仁農園は,特別
にアピールするが,やはり大切
ーンの充実を図ることで市場規
栽培米を中心に年間約60t を生
なのは目先の収入。ここへきて
模は十分回復する可能性を持っ
産し(11年産),全量を旅館や
決まりはじめた農家に支払う概
ている。
飲食店の業務用のほか,一般消
算 金( 一 時 金 ) を, 昨 年 よ り
缶詰生産量は80年代初頭をピ
費者に直接販売しこのリピート
1,500~2,000円積み増すケース
ークに約30年間減少傾向にあり,
率は8割。消費者にとって生産
が増え,まさに産地のコメ争奪
ピーク時の3分の1にまで減少。
者は信頼できる存在だ。放射能
戦が激化している。
保存性・即食・個食・栄養価値
汚染問題が心理に拍車を掛ける。
米価上昇は消費減にもつなが
に加え,料理用途などでの見直
インターネット販売も増加し
った。11年度一人当たりコメ消
しが進み,さらに昨年は震災に
(日食 2012/09/12 日付)
食品と容器
655
(日食 2012/09/12 日付)
2012 VOL. 53 NO. 10
よる資材メーカーの被災により
月1日,缶詰・瓶詰・レトルト
ンテストなどを開催してきたが,
容器が不足。原料事情も厳しさ
食品の啓蒙(けいもう)・普及
今回のイベントではより消費者
を増し,国内丸缶生産量は約7
活動の一環として「防災の日 視点を高め,直接的にコミュニ
% 減 と な る23万2,790t と, ま
缶詰フェスティバル2012 in 秋
ケーションを図った。
たしても過去最低となった。
葉原」を東京都千代田区のベル
一方で,消費面では備蓄ニー
サール秋葉原で開催した。同協
若年層中心に食の経済性志向強
ズの急増,缶詰の特性に対する
会は毎秋,消費者に広く缶詰・
まる シニア層とは対照的 日
見直しが急速に進み,特に即食
瓶詰・レトルト食品の啓蒙を促
本公庫調べ
性の高い調理缶・惣菜缶は需要
進するイベントを実施,今回は
(日食 2012/09/19 日付)
が伸長。缶詰を使用したレシピ
より消費者とのコミュニケーシ
日 本 政 策 金 融 公 庫 は14日,
提案も活発で根強い人気を誇る。
ョンを促進するため,大規模無
2012年度上半期消費者動向調査
今年もこの傾向はある程度続き,
料イベントとして行った。
結果を公表した。消費者の食へ
震災によるトライアルを継続需
同イベントは,食材としての
の志向,国産品に対する意識を
要につなげることが重要だ。
汎用性の高さや保存性に優れ,
調べた。消費者の健康志向は依
同業界の課題は“脱・非常食”
災害時にも役立つことを再認識
然高いままだが,食費を節約す
への取組みとして集約される。
してもらうために開催する“缶
る経済性志向が若年層を中心に
容器不足がほぼ解消し,各メー
詰 の 祭 典 ”。 メ ー ン イ ベ ン ト
強まった。
カーでも新商品投入が再度活発
「缶詰,びん詰,レトルト食品
消費者の健康志向は44.9%と
化している今秋冬は,逆の見方
で作ろう!ご当地レシピコンテ
1月に実施した調査と同様に最
をすれば,最大のチャンスとも
スト!」では,一般公募で集ま
も高い割合となった。今後の志
言えるだろう。ガリバーである
った缶詰を使った全国のご当地
向でも46.8%で高水準を続け,
マルハニチロの「缶たし」提案
料理レシピ120件の中から,最
健康志向の根強さをうかがわせ
や,ツナトップシェアのはごろ
終ラウンドに勝ち残った6人が
た。食費を節約する経済性志向
もフーズによるラインアップ戦
調理デモンストレーションや試
は過去4回の調査で低下傾向だ
略は多様化を極める日本の食事
食提供などを行った。
ったが,今回の調査では5.3ポ
情に対応するもので,中長期的
また,缶詰博士で知られる黒
イント上昇し,39.7%となった。
な回復基調への期待が持てる。
川勇人氏によるトークショー,
同様に手作り志向も26.7%で,
缶詰本来の市場価値は必ずし
近年人気の缶詰居酒屋「缶’s
前回に比べて7.2ポイント上昇
も保存性・常備性だけではない。
Bar」の会場内設置,缶詰の詰
し,過去最大の上げ幅となった。
伝統メーカーが長い間に培って
め合わせがもらえる「メイドと
一方で東日本大震災後の11年7
きた味覚へのアプローチや素材
対決・缶詰ジャンケン大会」な
月調査で28.5%にまで高まった
の品質は,近年さらに進化して
どの多彩な消費者イベントを展
安全志向は,今回,19.9%とほ
いる。消費者が振り向いている
開,夏休み最後の土曜日という
ぼ震災前の水準に戻った。
今秋シーズンは缶詰再興への重
こともあり,多数の一般消費者
年代別で健康志向と手作り志
要な期間となることは間違いない。
が来場した。
向は年代が上がるにつれて割合
同協会は缶詰・瓶詰・レトル
が高くなるが,若い層ほど経済
缶詰特集:日本缶詰協会,“缶
ト食品における国内の啓蒙・技
性志向と簡便化志向が高くなる
詰の祭典”で啓蒙活動 レシピ
術研究・情報開示などを展開,
傾向になる。
コンテストなど多彩に
同市場の活性化を推進。これま
前回調査と比較すると経済性
でウオークラリーやインターネ
志向は20歳代から50歳代の各層
ットサイトを活用したレシピコ
で割合が高まり,特に20歳代は
(日食 2012/09/12 日付)
日本缶詰協会(日缶協)は9
食品と容器
656
2012 VOL. 53 NO. 10
14.1ポイントと大幅な上昇とな
瀋陽レポート:反日へのカント
尖閣諸島は中国側の大陸棚に
っている。逆に60歳代では大き
リーリスク 再認識が必要
接続しており,明の時代,琉球
な変化はなく,70歳代では割合
(日食 2012/09/21 日付)
への冊封使の報告書である古文
が低下していて,若年層とシニ
幸か不幸か中国・瀋陽に14~
書に尖閣諸島を目印として航行
ア層で対照的な結果となった。
17日滞在していた。14日の入国
したと記述があり,つまりは先
食料品を購入するときや外食
時,瀋陽空港で,メガネを外さ
に発見した中国が領有権を持つ
するときに国産品かどうかを気
なかったという理由で,入国許
という解釈である。あらゆる過
にかける割合は,08年5月の調
可に手間取った日本人のトラブ
去の事例をもって時間を費やし
査開始以来,最低となった。一
ルを目の当たりにした。尖閣諸
念入りに主張していた。その信
方で国産食品の安全面に対する
島問題での日本人へのバッシン
ぴょう性はともかく,理論武装
イメージは前回調査に比べて
グにほかならない。
という観点では日本よりも勝る
「安全である」と回答した割合
出迎えてくれた地方政府の友
と取らざるを得ないと感じた。
が5.4ポイント増加し,信頼の
人は,会うなり「日本語をしゃ
同番組は,昼食時の中華料理店
低下傾向に歯止めがかった。ま
べらないように…」と告げた。中
でも流されており,この尖閣諸
た,輸入食品に対して「安全面
国語が堪能なわけでもないので,
島問題に費やすテレビ放映時間
に問題がある」と回答した割合
無言でついて行くしかなかった。
は日本との比ではなく,中国人
は低下傾向にある。
反日デモの暴徒化など現地の
のすべてが尖閣諸島は中国が領
国産食品が輸入食品に比べて
メディアは報ぜず,NHK ニュ
有権をもつと理解する。
どの程度まで割高でも購入する
ースもカットされていたので,
一方,反日デモがエスカレー
かがわかる価格許容度をみると,
日系大手スーパー,自動車販売
トし,日本料理店など日系飲食
割高でも国産品を選ぶと回答し
店の襲撃などネットで知った。
店は中国国旗を掲げ,「当店は
た 割 合 は51.2 % に 低 下,08年5
今回驚かされたのは,現地中
香港資本100%,従業員は全員
月の調査開始以来最低となった。
央テレビの対応だ。政府主導で
中国人」「食材はすべて中国産,
品目別ではコメ,野菜,キノコ
あることは当然だが,「中国的
調理師は中国人」や,「尖閣は
については,割高でも国産品を
(中国の所有)…」をタイトルに,
中国の領土だ」と,国旗ととも
選ぶ傾向にあり,逆に牛肉,乳
かなりしっかりした番組構成で
に政府のスローガンや,「愛国」
製品,菓子,果物については,
臨んでいることだ。
を掲げる店も散見された。沈静
約半数が抵抗なく購入している
まず,政府幹部の日本に対す
化された後,日本人が関わって
結果となった。
る「国有化」への強い批判に始
ないとアピールしていた日本料
調査は7月1日~12日まで実
まり,メーンは尖閣諸島を「固
理店など信用失墜にはならない
施。全国の20歳代~70歳代の男
有の領土」であると,過去の文
のだろうか。ともあれ,これま
性1,000人, 女 性1,000人 を 対 象
献, 地 図 な ど を か ざ し, 各 専
でいわれてきた中国製品の安全
にインターネットを使って調べ
門・研究者が単独,討論形式で
性問題,知的財産所有権問題な
た。各質問には複数回答が認め
主張する。北京在住の台湾人の
どいわゆるチャイナリスクはさ
られている。
研究家も加わり,日本がいう
ておき,産業界は「反日へのカ
「領有」は国際法上の意味を持
ントリーリスク」をあらためて
たないと主張していた。
食品と容器
657
認識しなければならない。
2012 VOL. 53 NO. 10
今月の統計
ᮇ
㸝࢞ࣛࣤࣄ࣭ࣜᰬᘟఌ♣ㄢ㸞
䈓䚭᪝ᮇ䛴ᾐ㈕㔖䛱䛪䛊䛬䛵䟾䝗䞀䝯䟾Ⓠἳ㒿䟾᩺䜼䝧䝷䝯䛴ྙ゛䚯
ኬࡦࢆ㸝P/㸞ᥦ⟤ᮇᩐ
➠䠃ᅒ䚭㻕㻓㻔㻓ᖳᅗืୌெᙔ䛥䜐䝗䞀䝯ᾐ㈕㔖
㻋༐㼎㻯㻌
䟺㈀ᅆἪெ䚭᪝ᮇΰᾬ㣟ᩩ᳠ᰕ༝ఌㄢ䟻
㻕㻓㻔㻓ᖳ
㻕㻓㻔㻔ᖳ
㻕㻓㻔㻕ᖳ
㻔
㻕
㻖
㻗
㻘
㻙
㻚
㻛
㻋᭮㻌
➠䠄ᅒ䚭⅛㓗㣟ᩩ䛴䠜䠓䠥᰹௛ᐁ⦴䝿᭮ื᥆⛛
ࠈࠈࠈ➠㸦⾪ࠈ⅛㓗㣟ᩩࡡ㸿㸶㹈᰹௛ᐁ⦴㸝ᖳ㸦㹳㸭᭮⣴゛㸞
⅛㓗Ề
ࢠ࣭࣑ࣛࢮ࣭ࢱ
ᯕỊ㸪㸚ᮅ‫‮‬
ᯕỊ㸚ᮅ‫‮‬
ࣆ࣭ࣝࣁ࣭⣌
ࢤ࣭ࣚ
㏩᪺㣟ᩩ
⅛㓗ථࡽࢺࣛࣤࢠ
ࡐࡡ௙
ྙ゛
ᐖჹืᵋᠺẒ㸚
๑ᖳᐖჹืᵋᠺẒ㸚
食品と容器
⧹
᰹௛ᩐ㔖㸝N/㸞
ࣄࣤ࣬௙
゛
658
⧹
㸝㈀ᅆἪெࠈ᪝ᮇΰᾬ㣟ᩩ᳠ᰕ༝ఌㄢ㸞
๑ᖳྜྷ᭿Ẓ㸝㸚㸞 ဗ⛸ืᵋᠺẒ㸝㸚㸞
ࣄࣤ࣬௙
゛
⧹
ࣄࣤ࣬௙
゛
2012 VOL. 53 NO. 10
今月の統計
➠䠄 ⾪㻃 㻃 㻕㻓㻔㻔ᖳᅗื䝗䞀䝯⏍⏐㔖
㡨న
ᅗࠈࠈྞ
୯ᅗ
࢓࣒ࣛ࢜
ࣇࣚࢩࣜ
ࣞࢨ࢓
ࢺ࢕ࢵ
࣒࢞ࢨࢤ
᪝ᮇͤ
࢕࢟ࣛࢪ
࣭࣎ࣚࣤࢺ
ࢪ࣋࢕ࣤ
༞࢓ࣆࣛ࢜
ࢗࢠࣚ࢕ࢻ
࣊ࢹࢻ࣑
࢛ࣚࣤࢱ
࣊ࢾࢫ࢙ࣚ
ࢤࣞࣤࣄ࢓
ࢰ࢕
ࢻ࢕ࢩ࢘ࣛ࢓
࢜ࢻࢱ
࣭࣊ࣜ࢟
࢕ࣤࢺ
㡉ᅗ
ࢲ࢘ࢤභ࿰ᅗ
࢛࣭ࢪࢹࣚࣛ࢓
ࣆࣚࣤࢪ
ୠ⏲⥪ྙ゛
ᖳ
༐N/
ᵋᠺẒ
㸝㸚㸞
ᑊ๑ᖳ 㸪ᖳ๑
ቌ΅ ቌ΅
ᖳ๑
ቌ΅
ࠈࠈࠈ㸝࢞ࣛࣤࣄ࣭ࣜᰬᘟఌ♣ㄢ㸞
ᖳ
༐N/
ᵋᠺẒ 㡨న
㸝㸚㸞 ᖳ
༐N/
ᵋᠺẒ
㸝㸚㸞
ͤ᪝ᮇࡡ⏍⏐㔖࡞ࡗ࠷࡙ࡢ㸡ࣄ࣭ࣜ㸡Ⓠἳ㒿㸡᩺ࢩࣔࣤࣜࡡྙ゛ࠊ
➠䠅⾪
ᖲᆍẴῺ䟾 㜾Ề㔖䟾 ᪝↯᫤㛣
ᖲ ᆍࠈẴࠈῺ 㸝Υ㸞
ᖲᖳᕣ
๑ᖳᕣ
㻜᭮
㻔㻓᭮
㻔㻔᭮
㻔㻕᭮
㻕㻓㻔㻕ᖳ㻃㻔᭮
㻕᭮
㻖᭮
㻗᭮
㻘᭮
㻙᭮
㻚᭮
㻛᭮
᭮㛣
᭮㛣
᭮㛣
᭮㛣
᭮㛣
᭮㛣
᭮㛣
᭮㛣
᭮㛣
᭮㛣
᭮㛣
ୖ᪢
᭮㛣
㻜᭮ ୕᪢
୯᪢
ࠈἸ㸞ᖲᖳೋࡢᖳ㹳ᖳࡡ᭮㸡᪢ᖲᆍೋ
食品と容器
㸝㸮᭮୯᪢ࡱ࡚࣬᮶ா㸞
㜾ࠈỀࠈ
㔖 㸝PP㸞
ᖲᖳẒ ๑ᖳẒ
㸯ᬳᏽೋ
659
᪝↯ࠈ᫤ࠈ㛣 㸝㹝㸞
ᖲᖳẒ ๑ᖳẒ
‫ۻ‬ᖳ㸭᭮ྒ࠾ࡼ᩺ᖲᖳೋࢅ౐⏕㸝Ẵ㇗ᖿㄢᰕ㸞
2012 VOL. 53 NO. 10
最近の技術雑誌から
〔解説〕特集―口腔・咽頭における Food Processing―
FFI ジャーナル,217(3)234~263('12.8)
○咀嚼・嚥下時の舌圧のはたらき…堀 一浩・小野高裕
○咀嚼時の食塊物性変化と嚥下誘発……………塩澤光一
○嚥下咽頭期のメカニズムと食塊動態…………井上 誠
○加齢による咀嚼・嚥下機能の変化……………古屋純一
国 内 編
分 析 ・ 測 定
〔解説〕特集―食品開発のための美味しさ評価―
ジャパンフードサイエンス,51(9)44~64('12)
○味覚 センサーによる「味の見える化」で,食品メー
カー,流通小売りと消費者を結ぶ…………池崎秀和
○簡易味覚測定器の開発-グルコース,グルタミン酸の
簡易測定- … ……藤島義之・小出 哲・池田 悟・
伊藤成史・加藤由美子・水越利巳
○物性の数値化による美味しさの追求…………齋藤尚臣
○各社の美味しさ評価技術
〔解説〕時間栄養学
柴田重信:化学と生物,50(9)641~646('12)
食
品
衛
生
〔解説〕特集―ケミカルハザードの管理手段とアレルゲ
ン対策を考える―
月刊 HACCP,18(9)19~55('12)
○食品製造施設を原因とする化学物質事故事例と対策
………………………………………………笈川和男
○食品工場で考慮すべき化学的危害の予防10ポイント
………………………………………………加藤光夫
○拭き取り検査を用いた食物アレルギー対策について
………………………………………………寺村 渉
○食品施設における食物アレルギー管理のポイント
………………………………………………神谷尚徳
○食品製品協会(FPA)HACCP ワークショッブテキス
ト「HACCP:食品安全に対する体系的アプローチ」
第5章より/化学的ハザ一ドとコントロ一ル
○製品紹介―いつでも,誰でも,簡単にアレルゲンを含
む“タンパク質の残さ”をチェック! タンパク残
留測定スワブ「ALLTEC60」新発売―
………………………スリーエム ヘルスケア(株)
○製品 紹介―食物アレルゲン検査用 簡易迅速キット
「ナノトラップ ⓇⅡR」新発売―
………………………………(株)森永生科学研究所
〔解説〕缶コーヒーの加温に伴う化学変化~異味原因物
質の同定と抑制法の開発および加温履歴推定方法の
開発~
小 泉英樹:食品衛生学雑誌,53(4)J-319~J-324
('12.8)
栄 養 ・ 健 康
〔解説 〕J クラブ育成チームに所属する小学生・中学
生・高校生男子サッカー選手の食生活の特性ならび
に QOL との関連
大 滝裕美・稲山貴代・西川誠太:栄養学雑誌,70
(4)1~17('12.8)
〔解説〕小学2年生に対する絵本を用いた食育の有効性
一食知識と食態度に着目して一
城 戸杏奈・高村仁知・上田由喜子:栄養学雑誌,
70(4)18~25('12.8)
〔解説〕体重管理に関するカード教材「ベストアドバイ
ザー FOR ダイエッ卜」の開発と保健医療従事者に
よる教材の評価
新保みさ・赤松利恵・山本久美子・玉浦有紀・武見
ゆかり:栄養学雑誌,70(4)26~34('12.8)
〔解説〕特集1―豚肉の生食は危険です!―
澤田尚子:食と健康,56(9)10~21('12)
〔解説〕特集―最近開発された機能性素材/機能性食品
で私たちの健康を―
酒井重男:食品と科学,54(9)64~72('12)
〔解説〕特集―食品の腐敗・変敗防止と人為的な食品汚
染防止―
食品工業,55(18)45~85('12.9/30)
○食品微生物検査の現状とこれから/衛生指標菌を考え
る………………………………………………浅尾 努
○食品防御対策ガイドライン(食品製造工場向け)
○「食品の機能性評価モデル事業」結果説明会/日本健
康・栄養食品協会が開催………………………編集部
○インタビュー/ユビキタス環境制御システムと低炭素
型生産技術を導入した太陽光利用型植物工場 つく
ば実証拠点……………野菜茶業研究所 中野明正氏
〔解説〕特集2―電解水による衛生管理―
堀田国元:食と健康,56(9)54~62('12)
〔解説〕特集―カンキツ類等,果物による生活習慣病の
予防効果―
New Food Industry,54(9)1~30('12)
○果物摂取とメタボリックシンドローム予防…杉浦 実
○β−クリプトキサンチンを応用した生活習慣病予防
………………………………………………西野輔翼
○カンキツ類の保健作用…………………………芳野恭士
食品と容器
660
2012 VOL. 53 NO. 10
最近の技術雑誌から
〔解説〕特集―異物混入防止対策―
食品機械装置,49(9)67~79('12)
○食品工場の総合防虫管理~データの分析とシステム検
証の概要~……………………………………尾野一雄
○食品関連施設における建築的防虫対策………稲岡 徹
缶びん詰・レトルト食品
〔解説〕北海道のスイートコーン缶詰の原料動向
井上信久:缶詰時報,91(9)2~10('12) 〔解説 〕缶びん詰,レトルト食品生産数量(2012年1
~3月期1次集計分速報)
缶詰時報,91(9)33~54('12)
添 加 物・副 材 料
〔解説〕新たなカレ一新製品投入,売り上げ拡大へ~特
需から一変,価格下落が課題~
酒類食品統計月報,54(8)25~32('12.8)
食
〔解説〕特集―最近の天然調味料とその周辺技術―
ジャパンフードサイエンス,51(9)17~42('12)
○油調感付与調味料「L-Cooking」シリーズの開発と応
用………………勝又忠与次・仲久木裕子・木田隆生
○馬鈴薯由来の調味料の特性と用途……………輿水 誠
○海洋深層ミネラル水パウダーの特徴とマスキング効果
…………………………………………明王物産(株)
○活性化する鍋専用調味料市場の近況と今後の動向
…………………………………渡邊寿子・朝田 仁
○「アロマ減圧水蒸気蒸留装置」による精油・フローラ
ルウォーター抽出とその市場性………西華産業(株)
一
般
〔解説 〕2012年酒類・食品産業の上期動向と下期展望
/値下げと原料高騰への対応急務 2012年の酒類・
食品産業~小売り各社の業績は好調だが~
酒類食品統計月報,54(8)2~24('12.8)
〔解説〕2011年度全国酒類・食品問屋200社の業績ラン
キング/食のライフライン産業として震災後に存在感
酒類食品統計月報,54(8)49~62('12.8)
〔解説〕特集―味覚の科学/味覚と生体反応―
山本 隆:食品と科学,54(9)59~63('12)
〔解説〕特集―“めん”の品質勝負に大手が注力 新製
品投入で活気づく袋めん市場―
総合食品,36(4)39~47('12.9)
○新製法の袋めんが相次ぎ登場して加熱する袋めん戦争
○震災特需もつかのまで昨年後半からは価格競争が再燃
○相次ぐヒット商品の登場で袋めんの減少傾向に底打ち
○“まるで,生めん”をコンセプトに「ラ王」袋めんを
投入した日清食品
○「正麺」4品自の「塩味」を発売して200億目標達成
を目指す東洋水産
○“土着マーケティング”で「チャルメラ」の再活性化
図る明星食品
○独自技術の袋めんラインを3工場に配備し「麺の力」
に全力投入のサンヨー食品
○縦型 カップ「JANJAN 焼そば」で焼そぱ市場を活性
化するエースコック
○主力ブランドに縦型容器の「凄麺 SLIM」を加えたヤ
マダイ
飲 料 ・ 醸 造
〔解説 〕2012年度酒類・食品注目商品/5業種から8
品目選定
酒類食品統計月報,54(8)39~40('12.8)
〔解説〕需要喚起求められる自販機オペレーター/生き
残りをかけ総合的な対策問われる
酒類食品統計月報,54(8)41~48('12.8)
〔解説 〕日本茶飲料市場,今年も麦茶がけん引へ/11
年は,厳しい環境下で実績維持
酒類食品統計月報,54(8)66~71('12.8)
〔解説 〕特集―2012年上半期清涼飲料市場報告/堅調
に成長を続ける清涼飲料市場―
Beverage Japan,368(9)32~80('12)
○2012年上半期清涼飲料市場の特徴
○新製品発売状況に震災の爪痕を見る
○2012年清涼飲料市場を見通す
○主要飲料メーカーの動向
○2012年上半期会社別新発売品一覧
〔解説〕特集―“食べてくれなきゃ市場は広がらない”
震災特需に振り回されてわかったもち業界の根本的
課題―
総合食品,36(4)59~66('12.9)
○特需も反動で打ち消され通年では前年並みで着地
○ポジティブな取り組みでもち市場の底上げ目指す
○震災特需の反動を克服して消費拡大を模索するサトウ
食品
〔解説 〕ミニリポート―2012年上半期のビール系飲料
市場/市場の縮小が続くなかで新機軸を模索する―
Beverage Japan,368(9)82~85('12)
食品と容器
品
661
2012 VOL. 53 NO. 10
最近の技術雑誌から
○劣化という切口での消費・賞味期限設定のための基本
事項……………………………………………北井 智
○油脂の劣化防止技術と製品への応用…………水野和久
○ピュアトースⓇ によるデンプン老化抑制と保水効果
………………………………………………伊藤俊彦
○お米由来の有機酸“フィチン酸”による酸味を付与し
ない pH 調整……………………………………三浦隆志
○各社の製品・技術・市場動向……………………編集部
○メーンの「生一番」への注力でブランド認知を高めた
越後製菓
○“安心ネット”の「切り餅」を拡充し,1.7kg を揃え
たたいまつ食品
○薄切り2枚パック大袋タイプ「彩とりどり餅」発売の
きむら食品
○精米 歩合2.5倍のもち米使用「大吟醸もち」を提案の
マルシン食品
○「シングルカット」入りもちで独自性を打ち出す桑野
食品
〔解説〕特集2―粉末化・造粒・打錠の技術―
フードケミカル,28(9)65~85('12)
○食品用噴霧乾燥装置について―その乾燥機構と粉体物
性―……………………………………………林 弘通
○結晶セルロースおよび部分アルファー化デンプンによ
る造粒技術……………………………………五味俊一
○クラスターデキストリンⓇによる粉末化技術…高田洋樹
○各社の製品・技術・機器…………………………編集部
〔解説〕特集―「アグリフード EXPO 東京2012」にみ
る,こだわり食肉関連商品―
日本食肉加工情報,747(9)2~5('12)
〔解説〕特集―震災直後と今! 食品産業を取り巻く状
況はどう変化したか ?(「フード・フォラム・つく
ば」より)―
食品と開発,47(9)5~16('12)
○食品産業を取り巻く環境変化について………西藤久三
○マスコミから見た行政・食品産業……………小島正美
○消費者が求める食の安心情報…………………近藤康子
○ Food Business の新しい課題―安心とイノベーション
………………………………………………宮田 満
○グローバル企業の戦略と外からみた日本の機能性素材
の現状…………………………………………福島洋一
〔解説〕年間特集―食品の品質保証技術/食品における
放射線照射の動向について―
古田雅一:食品機械装置,49(9)56~66('12)
容 器 ・ 包 装
〔解説〕特集―エコ物流と包装―
包装技術,50(9)3~33('12)
○エコ物流の展開方法について…………………矢野裕児
○エコ物流における輸送包装……………………橋爪文彦
○現場施工型商品の梱包と物流のしくみ改善の取組み
………………………………………………三村光昭
○京セラドキュメントソリューションズの環境対応包装
設計……………………………………………板野 篤
○国際航空貨物における近年の取組み…………岩崎正純
食品加工 ・保蔵
〔解説〕特集1―塩類の食品加工への利用技術―
フードケミカル,28(8)17~46('12).
○畜水産加工に利用される塩類の役割と利用技術
…………………………………江頭俊彦・杵川洋一
○リン酸塩の食品利用技術…………坂井昭浩・宮部 浩
○亜硝酸塩の製造と食品向けアプリケーション……野口祐一
○ミネラル強化剤としての塩類のアプリケーション
………………………………………………村上和也
○加工食品の品質改良に用いる無機系塩類・製剤等一覧
…………………………………………………編集部
〔解説〕特集1―再評価高まる食品包装のロングライフ
技術―
食品包装,56(9)17~24('12)
○チルドのレディミールに“新たな夜明け”か/北欧発,
電子レンジ対応の加熱調理システムがいよいよ本格
上陸……………………………MicVac(大日本印刷)
○その価値を“常温”と“冷蔵”の両面で追求/冷蔵で
10カ月保存可能な宅配豆腐は年1000万丁超えるヒッ
トに……………………………………………森永乳業
○新オールステンレス洗浄ガンが好評/食品加工から化
学・医薬などに拡大…………………明治機械製作所
〔解説〕特集2―加熱の基礎と応用―
フードケミカル,28(8)49~71('12)
○食品加熱の基礎知識と材料内に生ずる多様な変化~食
パンの焼成プロセスにおける現象を話題にして~
………………………………………………相良泰行
○過熱水蒸気技術の食品加工への利用………五月女 格
○直火加熱調味料の開発……………奥川佳世・岡崎 祐
○注目の加熱加工装置・加熱技術を利用した素材……編集部
〔解説〕特集2―社会から求められる食品包装の役割―
食品包装,56(9)25~31('12)
○特別寄稿:研究者が描く「社会」と「包装」の将来像
/ジッパー機能とバイオ包材のコラボレーションに
期待する可能性…… ロバート・ホーガン(Zip-Pak 社)
〔解説〕特集1―“劣化”を考える―
フードケミカル,28(9)17~44('12)
食品と容器
662
2012 VOL. 53 NO. 10
最近の技術雑誌から
Food Engineering & Ingredients (BEL.)
Vol.37 May/Jun.(2012)
海 外 編
邦文の題名は内容に従って付けてありま
すので,原題と異なる場合があります。
○味覚における食感の重要性
ご興味のある雑誌・記事がございました
らいつでも閲覧できますので,当会宛ご
連絡ください。
○マイコトキシン(カビ毒)の新しい検出方法
The Importance of Food Texture in Taste Perception
………………………………10~13
New Methods for the Detection of Mycotoxins
………………………………26~28
○食物アレルゲンを管理するための戦略
Control Strategies for Food Allergens
The World of Food Ingredients (Neth.) Apr./May (2012)
………………………………29~32
○ベーカリーの機能を適正に評価する測定技術
Assessing Bakery Functionality
○キャップとクロージャーの最近の動向と新たなアイデア
Caps and Closures : Recent Trends and New Ideas
S. P. Cauvain…………………………………………10~12
………………………………37~39
○フレーバーの系統化へのアプローチ
Layering Flavors for Impact
Food Technology (U.S.A.) Vol.66 Jul. (2012)
J. Reynolds… ………………………………………13~15
○注目すべきニッチ食品市場
○スナック菓子を健康的に改良するアプローチ
Notable Niches
Delivering Healthful Snacks
A. E. Sloan……………………………………………22~33
D. Berry………………………………………………16~20
○ゼネラルミルズ社の持続可能性戦略の実践
○ナチュラル調理食品の台頭
Seeding Sustainability at General Mills
Natural Ready Meal Rise
J. Lynch………………………………………………34~42
M. Hilliam……………………………………………22~26
○新しい成分の開発状況についての考察
○ EU における“ナチュラル”ラベリングの規制
Going Where No Ingredient Has Gone Before
Legal“Natural”Labeling
D. E. Pszczola… ……………………………………44~58
S. R. Melchor…………………………………………34~40
○ Tate & Lyle 社が成分 R&D センターを新設
○ EFSA で否定されたハーブ規制執行の保留
New Ingredients R&D Centre Fosters Internal
Herbal Reprieve
& External Collaboration
T. Pauquai and J. Cantin… ………………………41~42
B. Swientek… ………………………………………60~61
○EU食品サプリメントのラベリング規制
○免疫系と消化器の健康の促進
Supplement Labeling Demands
Improving Immune and Digestive Health
K.Wagner… …………………………………………44~46
L. M. Ohr… …………………………………………62~65
Prepared Foods (U.S.A.) Vol.181 Jul. (2012)
○新鮮なカット農産物の品質と安全性
Fresh-Cut Produce Quality & Safety
○売れ行きが好調な新製品トレンド
N. H. Mermelstein… ………………………………66~69
Hitting the Shelves
○食品工場における水の保全と再利用
W, A. Roberts, Jr.,… ………………………………10~11
Water Coservation and Reuse in Food Plants
○食品への添加物適用研究
J. P. Clark……………………………………… 70~71,74
Clearing Infusion Confusion
○コンビニ食品の包装の利便性
W, A. Roberts, Jr.,… ………………………………23~39
Easy Does It−Convenience Packaging Close-up
○スープ新製品の動向
A. L. Blody… ………………………………………72~74
Soup for You
M. Joy…………………………………………………33~41
Food Processing (U.S.A.) Vol.73 Jul. (2012)
○各種のタンパク質の魅力
○2012年食品工業従事者の収入と仕事の満足度調査
The Allure of Protein
Salary & Job Satisfaction Survey:Salary Meltdown
K. Shelke, Ph. D.,……………………………………43~51
M. Pehanich… ………………………………………21~28
食品と容器
663
2012 VOL. 53 NO. 10
最近の技術雑誌から
○全粒穀物を利用した朝食用シリアル
Weight Loss Claims Take on New Shape
Grains for Breakfast
J. Jacobsen……………………………………………56~60
M. Anthony, Ph. D.,…………………………………31~39
○2012年米国の飲料業界予想
○スナック製品の減塩化
2012 The State of the Industry
………………………… SOI-1~18
Chipping Away at Salt
D. Toops… …………………………………………43~45
○消費者が求めるスパイシーフード
Int. Bottler & Packer (U.K.) Vol.86 Jul. (2012)
The Heat Is On
○ SIPA 社と Sacmi 社がコラボレーション
D. Cassell… ………………………………………………47
SIPA and Sacmi Collaborate… ………………………30
○安全衛生と環境に奮闘するベーカリー業界
Bakeries Strive for Clean and Green
Beverage World (U.S.A.) Vol.131 Jul. (2012)
D. Phillips… …………………………………………51~56
○2012年 BevStar 賞を受賞した刷新的な飲料
○プロモーションを成功に導くパッケージング
Beverage World BevStar Awards 2012
Packing a Promotional Punch
………………………………34~47
K. B. Connolly… ……………………………………63~67
Packaging Digest (U.S.A.) Vol.49 Jul. (2012)
Food Engineering (U.S.A.) Vol.84 Jul. (2012)
○持続可能性に取り組む米国と欧州の相違点
○第10回交換部品調査報告
U.S., Europe Follow Different Routes toward Same
10th Annal Replacement Parts Survey:
Intelligent Maintenance Best Practices
Goal of Sustainability J-B. Molet……………………………………………20~21
K. T. Higgins…………………………………………18~26
○ビスフェノール A 規制に挑む包材
BPA in Packaging:Defying the Pressure Food & Beverage Packaging (U.S.A.) Vol.76
Jun./Jul. (2012)
L. McT. Pierce and H. Caliendo… ………………26~29
○食品&飲料のトップ50ブランド・企業の輝き
Food Manufacture (U.K.) Vol.87 Aug. (2012)
Top 50 Food Packaging Companies:
○エスニック料理の革新を牽引する消費者嗜好
Big Brands and Big Company Shine… …………24~32
Have a Spice Day
○エコの隊列
M. Knott… …………………………………………20~21
Rows of Green
○英国におけるリーン生産方式適用の課題
L. Cuneo………………………………………………36~38
Lexicon of Lean
S. Scott… ……………………………………………27~28
Fruit Processing (DEU) Vol.22 Jul./Aug.(2012)
○食品メーカーに必要な安全性の管理
○ PACRAN クランベリー粉:尿路感染症予防に効果
Walk the Safe Line
P ACRAN Ⓡ Cranberry Powder: Beyond Urinary
R. Pendrous… ………………………………………31~32
Ⓡ
○新しい食品廃棄物規制と対応
Tract Infection
J. Côté… …………………………………………126~130
Leaders Digest
○食品業界での X 線検査システムの将来
D. Burrows… ………………………………………35~36
T he Future of X-Ray Inspection Systems in the
The Canmaker (U.K.) Vol.25 Aug. (2012)
Food Industry
○各社の2ピース缶仕様比較
T. Woolford… ……………………………………134~136
Beverage Cans Under the Microscope
Beverage Industry (U.S.A.) Vol.103 Jul. (2012)
P. Rogers… …………………………………………28~30
○進化するボトル充填ラインの検査装置
○最新の3ピース溶接缶ライン
Ensuring Integrity from Top to Bottom
Weld Leaders
S. Hildebrandt… ……………………………………51~53
D. Searle… …………………………………………39~43
○体重管理に効果的な新しい飲料
食品と容器
664
2012 VOL. 53 NO. 10
野菜・果物を巡って
(第四十六話)
報道を通じて情報を得ているものの,彼女の話を
ワイン・ワークショップに出席して
今年の Summer School では1週間だけ,ワイ
よし だ
耳にすると,身近な問題として迫ってくるものが
き
よ
あった。
ン・ワークショップというコースを選択してみた
こ
吉 田 企 世 子
が,これが,極めて楽しい時間であった。講師の
(女子栄養大学名誉教授)
先生が世界中のワイナリーを訪ねて,ワイン畑,
今年も7月から8月にかけて4週間ほどイギリ
ワイン工場の設備,製造の特徴,ワインの味,そ
スに滞在した。ロンドンオリンピックが開始され
このレストランの料理など映像で記録しておられ
る前に出発し,帰国はオリンピック終了後になっ
るので,DVD でそれらを見ながらの授業である。
たので,空港は予想以上に静かであり,出入国が
ワイナリーに行くまでの田園風景もそれぞれに魅
順調であったのも大変よかった。
力的で是非出かけたいという気持ちになってしま
滞在したのはロンドンから90マイル以上離れた
う。
田舎町の大学なので,オリンピックを直接に感じ
最初の時間にはワインの製造工程に関する
ることはなかったが,校内に2台の大きなテレビ
お 話, ス ペ イ ン(Penedes), オ ー ス ト リ ア
を設置したラウンジが設けられており,いつでも
(Niederosterreich),フランス(Burgundy),カ
見ることができる環境が用意されていた。時折覗
リフォルニア(Mendocino)のぶどう畑とぶどう
いてみたが,見ている人はそれほど多くはなかっ
の特徴,周辺の地形の特徴などについて講義があ
た。
り,続いて,その土地のワインやシャンパンを味
当然,イギリスの選手が主体の映像となるので,
わう,という授業であった。2日目にはポルト
日本選手の活躍ぶりは解らなかったが,「日本選
ガル(Estremadura),フランス(Alsace),チリ
手は活躍しているよ」と時々声をかけてくれるイ
(Rapel Valley),アルゼンチン(Mendoza)のぶ
ギリス人がいて,嬉しく思った。
どう畑とワインの話と試飲,というように,毎時
3週間ほど Summer School に出席し,1週間
間,国や産地の異なる4種類のワイン,シャンパ
はロンドンにゆっくりと滞在した。美術館を巡っ
ンを味わうので,これがまた嬉しいことであった。
て魅力的な絵に出会い,また,かつてよく通った
特に味のよいワインが準備されていたように感じ
大英図書館に出かけて目的の図書に目を通しつつ,
た。
その雰囲気に満足した。日本ではほとんど見るこ
教室には冷蔵庫が設置されており,適温になっ
とのないミュージカルを楽しむ時間も得てリラッ
たワインが用意されている。助手さんがワイング
クスしたり,数人の友人と会って,おしゃべりを
ラスに好みの量を注いでくれる。一般に男性は4
楽しんだりと,ゆとりある時間を過ごした。イギ
種類のワインをそれぞれにグラス一杯の量を試飲
リスの友人達はこちらの語学力を承知していて,
しているが,さすがに女性のグラスには控えめに
ゆっくり話してくれるので,一応,会話は成り立
注がれている。しかし,中にはアルコールに強い
ち,盛り上がるのである。総じてイギリス人は
女性もいて,かなり高齢のイギリス女性が積極的
ユーモアに富んでいるように感じる。会話の中に
に質問をしたり,ぐいぐいと試飲しており,いか
必ず楽しいユーモアが入るのである。生活姿勢に
にもファイトがあって,頼もしく,このような光
余裕があるのか,文化的背景によるのか,話題は
景も参考になって楽しかった。
豊かである。しかし,イラン出身の友人は渡英し
15名のクラスであったが,1週間が経過するう
て20数年になるが,多くの親戚が住むイランや中
ちに,仲間意識が高まり,会話がはずんだ。日本
東問題に不安を抱いており,政治への強い不満を
にはワイン製造工場があるのか,銘柄は何かなど
感じつつ生活している。中東問題は新聞その他の
質問を受けたので,甲州ぶどうの話やマンズワイ
食品と容器
665
2012 VOL. 53 NO. 10
(天然ワインに対して強化ワイン,発泡ワインな
ンの宣伝をし,日本のワイン製造技術は世界に匹
敵するのだと大きな話をしてきた。しかし,これ
どをいう)。
は事実である。かつて,勝沼にあるマンズワイン
・用途別分類…アペリチフ(食欲をそそるために
工場を見学した折,大変品質のよいワインを味
食前に飲む酒でシェリー酒やマディラ酒などがあ
わった経験がある。そこで受けたレクチャーでも
る),テーブルワイン(食事中に用いられるワイ
国際的に評価されていると伺った。
ンであまり甘味がなく,比較的軽いワインをいう。
授業で試飲したのは赤ワイン,白ワイン,シャ
一般に白ワインは淡泊な魚料理に,赤ワインは肉
ンパンの3種であったが,帰国してから日本の参
料理の時に供されるが,特別の場合には料理ごと
考書でワインの分類を調べてみたところ,次のよ
にその料理に合ったワインが用いられる)。
うな記述があった。
・産地によるワインの分類…ワインは産地によっ
・色調による分類…赤ワイン,白ワイン,ローゼ
て味が大きく異なるので,産地や国によって分類
ワイン,イエロワイン(このワインの存在は知ら
される。また同じ産地でもワインを保存する酒蔵
なかった)。
の違いによってさらに分類されていることもある。
・味による分類…甘口ワイン,辛口ワイン(生ワ
例えばフランス/ボルドー地方/オーメドックな
イン),その他熟成の度合いや味の濃度,原料ぶ
どの表示がなされる。
どうの品種によって区別される。
ソムリエはフランス料理店などで,ワインの仕
・アルコール添加の有無による分類…非強化酒
入れ・管理を担当し,また客の相談を受けてワイ
(発酵によって生じたアルコール分のみを含有す
ンを選定・提供する専門職であるが,ぶどうの産
るワイン),強化酒(ブランデーやアルコールを
地に出向いて,契約を結ぶことも重要な仕事のよ
加えたもの。単にアルコール分増加を目的にする
うである。最近は女性のソムリエも増えている。
もの。適当な時期にアルコールを加えて糖分を残
料理との組み合わせなどを考慮して最適なワイン
すもの)などがある。
を客に勧める仕事にも魅力を感じる。
・発泡性の有無による分類…非発泡酒(発酵に
ソムリエはワインに関する表現と思っていたが,
よって生じた炭酸ガスが常圧で平衡を保っており,
野菜・果物ソムリエ協会があり,野菜ソムリエ,
栓を抜いても泡の出ないもの),発泡酒(炭酸ガ
果物ソムリエなど,その資格取得者が大変多いの
スが強圧のもとに入っているもので,栓を抜くと
である。野菜や果物を正しく理解して,上手に摂
ガスが発散して泡が立つもの)。
取するためのアドバイザーが増えることで,日本
・醸造方法による分類…天然ワイン,特殊ワイン
国民の健康増進に繋がることを期待したい。
編
集
後
記
●今年の秋分の日は22日でした。116年ぶりの22日との
こと。本2012年から2044年までは閏年に限り9月22日,
平年は9月23日と国立天文台で計算されています。
第53巻 第 10 号
FOOD & PACKAGING 平成24年10月 1 日発行
●秋分の日は,1948年施行の国民の祝日に関する法律に
発行所 缶
よって制定され,「祖先をうやまい,なくなった人々を
〒103−0002 東京都中央区日本橋馬喰町 1−8−4
TEL 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 1
定 価
FAX 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 3
1部 800円
Eメール:[email protected]
年間 8,000円
郵便振替 0 0 1 5 0 − 0 − 4 2 2 1 5
(送 料 共)
塚 秀 夫
編 集 人 飯
しのぶ」こと,春分の日は「自然をたたえ,生物をいつ
くしむ」ことを趣旨としている,とのことです。
●祖先を敬ったり,生物を慈しむことは,本来万人に自
ずから備わっているはずです。先ず感性豊かな日本人か
ら,世界に「慈しむ心」を発信できたら嬉しいです。
発 行 人 ●私ごとですが,今年初めに母を見送りました。秋分の
−禁無断転載−
日に,心を込めて母への感謝の合掌をしました。 (嘉)
食品と容器
詰 技 術 研 究 会
田
嶋
一
乱丁・落丁本はお取り替えいたします。
666
雄
印 刷 所 大和サービス株式会社
2012 VOL. 53 NO. 10