創造的態度の測定尺度に関する研究

愛総研@研究報告
1
3
3
創刊号平成 1
1年
創造的態度の測定尺度に関する研究
一一理工系男子大学生を対象とした予備的検討一一
Study on Measurement Scale for Attitude toward Creativity:
A preliminary examination targeting the science and
日ngineering
male undergraduates
林
文俊
Fumitoshi Hayashi
ABSTRACT: The purpose of this study was to const士 uct 皿 easurement
scale for attitude toward creativity‘ The science and engineering
ale undergraduates (N=166) rated themselves on 120-ite皿 s inventory.
皿
Fro皿 the factor analysis of this data, six factors were extracted:
1. Challenging spi1'it, I
I
. Agg1'essiveness and Confidence, I
I
I
. Pe1'sistence and Convergence, N. O1'iginality, V. Cu1'iosity, and V
I
.
Flexibility.
A new 48-ite皿 s scale, Attitude towa1'd Creativity Scale
(ACS)‘ was constructed by selection of 8-items in each facto1'.
創造性に関してはさまざまな定義やア
プ ロ ー チ が あ る が 、 恩 田 (1977)はこれを、
「ある目的達成または新しい場面の問題解
の因子分析的研究である。すなわち彼は、
S 1モ デ ル
(Structu1'e of Intellect) と
呼ばれる知能構造のそデルを設定し、知能
決に適したアイデアを生み出し、あるいは
を構成する因子の実証的解明を試みた。そ
社会的、文化的(または個人的)に新しい
の中で
価値あるものをつくり出す能力、およびそ
の新しい考えを生み出す際に働く思考を拡
Guiford は 、 所 与 の 情 報 か ら 種 々
(dive1'gent thinking) と呼び、
れを基礎づける人格特性である」と定義し
散的思考
ている。この定義からも分かるように、創
課題解決に際して系統的・論理的な手順を
造性は、能力の側面(創造力)とそれを基
踏んで正解へと至る集中的思考
礎づける人格特性の側面(創造的人格)の
gent thinking) と 区 別 し た 。 ま た 、 創 造
二面からとらえることができる。ちなみに、
的思考の主要な構成因子として、①問題へ
(conver
能力の側面は創造的思考能力と創造的技能
の感受性、②思考の流暢性、③思考の柔軟
とに分けられる。
性、@独語Ij性、⑤綿密性、⑥再構成力とい
創造的思考能力については、従来から多
った 6因子の存在を明らかにし、②、③、
くの研究がなされ、各種の創造性テストが
④、⑤の 4因子が拡散的思考と深い関係を
作成されてきた。この源流に位置するのが、
もっとしている。
Guilfo1'd (1959,1967, 1970) に よ る 一 連
*本研究は、愛知工業大学総合技術研究
他方、人格特性としての創造性(創造的
人格)を問題とした研究も、現在までに数
多くなされている。それらの研究結果によ
所 に お け る 平 成 9年 度 公 募 プ ロ ジ ェ ク ト 共
れば、創造性の高い人聞は、知的好奇心が
同研究「情報ネットワ」ク社会に対応する
旺盛で、新しい問題やその解決法に強い興
創造性育成教育に関する研究 J (研究代表
味を示す傾向がある。また、新奇な経験を
文俊)の一環として i
tわ れ た も の
積極的に求めるということは、失敗や危険
であり、本研究の一部は、日本性格心理学
に耐えられる強い自我が必要となり、彼ら
会 第 7回 大 会 に お い て 発 表 さ れ た 。
は自信が強く、自律性のあることが見いだ
者:林
*
*
愛知工業大学
基礎教育系(豊田市)
されている。さらに、持続性、集中力、根
1
3
4
創造的態度の測定尺度に関する研究・創刊号・平成 1
1年
気強さも、創造的人格の特性として指摘さ
表 1
選 定 さ れ た 48項 目 の 因 子 負 荷 行 列
れ て い る 。 な お 、 恩 田 (1977 ) は 創 造 性 を
基礎づける人格特性として、自主性(自発
性、主体性、自律性)、衝動性(心的エエネ
ノレギーの強さ)、固執性(心的エネルギー
の持続性)、探求心(知的好奇心)、開放
性(柔軟性、多様性、あいまいさの寛容性)、
注意集中力、自己統制力を挙げている。
ところで、創造的人格を、人が創造性に
対 し て も つ 構 え (set) や 態 度 (attitude)
といった側面からとらえ、その測定尺度を
作成することは、創造性の開発や教育の問
題を考える上でも有効なアプローチとなろ
う。しかし、このような視点に立った研究
は、従来あまりなされていない。この点で、
青 柳 (1980) ら の 一 連 の 研 究 は 大 い に 注 目
84
104
75
65
60
64
86
41
58
17
円
35
47
25
4
24
I
H
E
N
V
V
I
.82
.82
.79
.73
.71
.69
.69
.65
1
3
07
15
.09
.07
.12
.20
.1
2
.08
.07
.09
04
.09
.1
1
1
2
08
.08
.01
.04
.03
.03
.01
.14
.13
.08
.00
09
.22
.14
.21
02
08
.04
.07
.06
.17 .74 -.09
.09 .69 .07
.30 .67 -.06
.17 .62
09
.22 .61 .09
.01 -.61 -.33
ー.
07 -.52 -.09
.01 -.51 -.06
冒
27
.11
目
。7
.1
2
01
18 .10
.07 .22 .16
目07 .07 .08
.05
12 .10
-.10
32 .03
-.04 .00 目15
-.06 -.28
04
-.35 .05-.17
に価する。彼ら l
土、創造的構えを、自己信
頼感、客観性、細心さ、挑戦性、持久力、
探 求 心 の 6つ の 下 位 尺 度 か ら 測 定 す る 検 査
(創造的構えテスト)を作成している。
本 研 究 で は 、 青 柳 (1980) ら と 同 様 の 問
題意識に立ち、理工系男子大学生在対象と
した創造的態度の測定尺度を作成し、それ
について予備的な検討を加える。
方 法
穐 山 (1975)、 青 柳
(1980) な ど の 従 来
の研究を参考にして、創造的態度に関係す
る と 恩 わ れ る 120の 項 目 か ら 成 る イ ン ベ ン
トリーを作成した。そして、
問項目が自分自身にどの程度当てはまるか
r当 て は ま ら な い
j
の 5件 法 に よ っ て 回 答 さ せ た 。 な お 、 回 答
の信頼性に問題があると考えられる者を除
き、 153名 分 の デ ー タ が 以 下 の 分 析 の 対 象
とされた。
結果と考察
1). 因 子 分 析 の 結 果
上記のデータに対して、項目分析、探索
的因子分析、多次元尺度構成法による分析
などを実施した。その結果、今回作成した
.19-.13 一 .68 .03
03 -.14 -.66 ‘ 05
一.
05 -.03 -.60 .04
一.
21 -.13 -.60 .03
.17 -.20 -.57 -.01
.06 目03 -.57 -.08
一. 0
9 .22 -.55 .07
1
1 ー .50 .06
.03
一
一
町
.19 -.11
-.08 -.04
.05-.15
-.22 -.03
-.17 -.03
-.05 -.08
.17-.09
.14-.14
93
82
110
29
34
6
100
.17-.11-.06 .67 .22 -.08
.20 -.14 -.23 .67 .12 .02
.09 -.23 .05 -.63 -.08 ー . 06
.22 -.02
04 .62 .10 .12
.10 .18 目
- 01 .59 .13 .03
.16 .11 .08 -.53 .00 .03
.20 .19 .1
6 目49 .00
24
目19 ‘ 22 -.30 -.39
15 .05
27
46
30
33
42
26
74
103
08
.16
.38
.07
.17
.19
37
,1
7
106
88
61
111
56
76
3
22
.07
11
.34
.22
30
一
, 1
4
.28
,3
0
166名 の 理 工
系男子大学生を対象として、それぞれの質
を、「当てはまる J ~
52
38
49
112
57
43
40
53
。
.10 -.04
.65 .04
.38-.11 .10 .63 .12
.1
5 .03 .24 .58 .10
.06 -.04 .1
1 .56 .1
5
.30 -.01 -.02 .56 .09
.38 .01 .1
5 .47 .10
.19 .03 , 14 .41 -.03
.02 .06
18 , 39 .14
.07 .1
2 .01 -.02
08 .03 , 14
.05
.29 .04 .27 .05
。
。
.24
,1
6
.29-, 1
1 .26 -.04
.09 , 14-,02 .1
1
.12 .14 ,04 , 15
.00 .25 -, 07 , 25
.72
.64
.63
,6
1
.54
.47
.45
.41
イ ン ベ ン ト リ ー の 回 答 デ ー タ は 、 ほ ぼ 6つ
の次元から構成されていることが明らかに
なった。その後、尺度項目の取捨選定を通
らびに各国子に対して高い負荷量をもっ尺
した主因子法、パロマックス回転による分
度項目の内容は、以下の通りである。ちな
析を繰り返し、最終的にほぼ単純構造を示
みに、各国子ごとに算出した
す 表 1の よ う な 因 子 負 荷 行 列 が 得 ら れ た 。
α 係 数 は 、 第 I因 子 か ら 順 に 、 .92、.85、
それぞれの因子の解釈、因子寄与率、な
.81、.80, • 82、 82となった。
Cronbach の
創造的態度の測定尺度に関する研究
【
:
第 I因 子
【
;
第 W 因子
挑戦性・探求心]
(寄与率
I
75.解 決 策 が す ぐ に は わ か ら な い よ う な 問
題 に , 取 り 組 む の が 好 き で あ る 。 ( .79)
65.物 事 を 深 く 追 及 す る 傾 向 が あ る 。 ( .7
3)
60.問 題 の 解 決 策 を あ れ こ れ 考 え る の が 好
き で あ る 。 ( .7
1)
64.何 で も よ く 考 え て み な い と 気 が す ま な
い。(.69)
86.難 し い 問 題 で も 解 け る 自 信 が あ る 。
(
.69)
41 . 複 雑 な も の を 好 む 。 ( .65)
8.9%)
58.人 の 先 頭 に 立 っ て , い ろ い ろ な こ と を
す る の が 好 き で あ る 。 ( .74)
1
7
.自 分 の 意 見 や 考 え 方 を は っ き り と 主 張
す る 。 ( .69)
7
.仕 事 は 人 の 先 頭 に 立 っ て す る ほ う で あ
る。(.67)
35.他 人 に 言 わ れ て す る よ り も , 自 分 か ら
進 ん で 何 事 も や る ほ う で あ る 。 ( .62)
47.何 事 に も 積 極 的 に 取 り 組 む 。 ( .61)
25.決 断 力 に 欠 け る 。 ( -• 61)
4 自分の意見を主張するより,他の人の
意 見 に 従 う ほ う で あ る 。 ( ー .52)
24.人 と 違 う こ と は , 恥 ず か し く て し に く
い 。 ( 一 .51
)
(j
第E 因 子
(寄与率
93.既 成 の 社 会 的 枠 組 み に 組 み 込 ま れ る こ
とに,抵抗がある。
(
.
67)
82. 日 常 生 活 上 の 社 会 的 ノ レ ー ノ レ に 強 い 抵 抗
を 感 じ る こ と が あ る 。 ( .67)
110.い つ も 社 会 の 規 則 に し た が っ て 行 動 し
て い る 。 ( ー .63)
29.物 事 は , 決 ま り 切 っ た 型 ど う り の や り
方ではしたくない。
(.62)
34.習 慣 に こ だ わ ら な い 。 ( .59)
6
.世 の 中 の し き た り は 割 に 重 ん じ る ほ う
で あ る 。 ( 一 .53)
100.習 慣 に と ら わ れ ず , 自 分 自 身 の 考 え に
基 づ い て 行 動 す る 。 ( .49)
1.人の意見や考えに左右されることが多
【
;
第 V 因子
好奇心]
(寄与率
6.6%)
27.好 き な こ と や , や り た い こ と が い っ ぱ
い あ る 。 ( .65)
46.好 奇 心 が 強 い 。
(.63)
30.新 し い こ と を 試 み る の が 好 き で あ る 。
(.58)
33.毎 日 の 生 活 で , 新 し い こ と や 変 わ っ た
こ と を 経 験 し て み た い 。 ( .56)
42.い ろ い ろ な こ と に 興 味 を も っ て い る 。
(
.56)
26.新 し い こ と を 試 す チ ャ ン ス が あ っ た
ら,すぐにやってみる。
(.47)
74.何 で も 見 て や ろ う 知 っ て や ろ う と い う
気持ちが強いほうである。
(.41
)
103. 自 分 が 得 意 に な れ る こ と な ら , 何 で も
知 っ て お き た い 。 ( .39)
持続性・集中力]
(寄与率
7.1%)
【第 V
I図 子
柔軟性]
(寄与率
52.気 が 変 わ り や す い 。 ( -• 68)
3
8
.気 が 散 り や す い 。 ( 一 .66)
49.あ き っ ぽ い 。 ( - .60)
112.何 事 に も , な か な か 集 中 で き な い 。
(一.60)
5
7
.困 難 に ぶ つ か る と
6.7%)
い 。 ( 一 .39)
積極性・自信】
(寄与率
独自性]
12.1%)
8
4
.難 し い と 思 う こ と ほ ど や っ て み た く な
る。(.8
2)
104.解 け な い よ う な 問 題 ほ ど , 解 い て み た
く な る 。 ( .8
2)
【第 E 因 子
1
3
5
3
気がくじける。
(一.57)
43.ち ょ っ と し た こ と が 仕 事 の じ ゃ ま に な
る。(一 .57)
40.よ く 考 え ず に 行 動 し て し ま う こ と が 多
い 。 ( 一 .55)
53.短 気 で あ る 。 ( 一 .50)
6.4%)
106 人 が 違 っ た 考 え 方 を 持 っ て い る 時 , そ
の人の気持ちになって考えることがで
きる。(.72)
8
8
.自 分 の こ と を 客 観 的 に 見 る こ と が で き
る。
(.64)
61 . 既 成 の 枠 組 み に と ら わ れ ず , 新 し い 視
点 か ら 物 事 を 見 る こ と が で き る 。 ( .63)
111 . 事 実 を あ り の ま ま に 客 観 的 に 見 る こ と
が で き る 。 ( .61
)
56.物 事 を 考 え る と き , 人 と は 変 わ っ た 考
え 方 を す る こ と が で き る 。 ( .54)
創造的態度の測定尺度に関する研究・創刊号@平成 1
1年
136
76.敵 通 性 に 富 む 。 ( 目 47)
符合して興味深い。
3
.大 局 的 な 視 点 か ら 物 事 : を 理 解 し よ う と
する。(.45)
今後は、理工系男子大学生以外の被験者
をも含めて、測定尺度の信頼性や妥当性に
22.何 か を す る と き 一 つ の や り 方 だ け で な
く,いろいろなやり方を考える。
ついて検討を加えていきたい。
(.41
)
引用文献
2
.
) . 創 造 的 態 度 因 子 と Y - G性 格 検 査
穐山
貞登
今 回 の 調 査 対 象 者 の う ち の 87名 は 、 日J
Iの
機 会 に Y - G性 格 検 査 を 受 検 し て い る 。 そ
との関連性
青柳
肇
こ で 、 こ の 検 査 の 12の 下 位 尺 度 の 素 点 と 創
5, 1-7.
Guilford, J.P.
造的態度因子の因子得点との関連性を積率
試み
的高い負の相関があり、創造的人格には思
る 。 ま た 、 第 E因 子 ( 積 極 性 ・ 自 信 ) と G
A (支配性)、 s ( 社 会 的 外
向)との問の王の相関、ならびに第 E 因子
( 持 続 性 ・ 集 中 力 ) と D (抑うつ性)、
(気分の変化)、
質)、
1 (劣等感)、
C
N (神経
1959 Traits of creaI
n Anderson,H
.H
. (Ed.),
Guilford, J
.P
. 1967 The 刀 ature of
h臼盟 an intellig巴且 c
e
. New Yoτk:
.
McGraw-Hi11
Guilford, J.P. 1970 Creativity: Retrospect and prospect. Journal of
creative behavior, 4, 149-1も8
.
恩田
C0 ( 非 協 調 的 ) と の 閑 の 負 の 相 関
は、創造的人格には適応性や情緒的安定性
彰
1971 創 造 性 の 研 究
恩田
彰
1977 創 造 性 依 岡 新 ( 監 修 )
金子書房
新・教育心理学事典
第 N 因子(独自性)と C
Pp.521-522.
(非協調的)と
恒星社厚
生閣
が強く関連していることを物語る。さらに、
0
培風館
Creativity and its cultivation.
N巴w York: Harper. Pp.142-161
.
こ れ に よ る と 、 第 I因 子 ( 挑 戦 性 ・ 探 求
心)と T (思考的外向)との間には、比較
考的内向が関連していることが示唆され
創造性
創造的構えテスト作成の
大和学園女子短期大学紀要,
tivity.
相 関 係 数 に よ っ て 検 討 し た ( 表 2)
。
(活動的)、
1975
1980
の聞の負の相関は、創造性の高い人は簡単
に は 他 者 に 向 調 せ ず 、 来u己 的 な 印 象 を 与 え
ることもあるといった従来の研究結果とも
創 造 性 態 度 因 子 と Y - G性 格 検 査 の
表 2
相関
(N =87)
E
D
C
I
N
27
13
08
.21
25
Co .11
Ag .20
G 一
.04
R
.00
T 一
.47
.08
A
S
14
。
E
N
ー
.23 一.44
V
.18
.05
.60
.17
回
一 35 一.40
.06
一
.26 一.43
01
39
ー
.06
.22
一 36
.49
44
.26
.38
.09
.46
.07
.23 .37 一.27
目10
一
.03
15
07
.51
08 ー
.01
.44
.03
.01
←
刷
V
I
.00 ー
.05
17
.06
.03 一
. 12
17 .23
.00
18
.05
04
.39
.02
.00
.17
.30
.05
.17 一 13
目30
.15
目23
24
D (抑うつ性大)、 C (気分の変化大)、
(劣等感大)、
N (神経質)、
I
o(主観的)、
Co (非協調的)、 Ag (攻撃的)、 G (活動
的)、 R (のんき)、 T (思考的外向)、 A (支
配性大)、 s( 社 会 的 外 向 )
(受理平成 1
1年 3月20日)