平成22年度理科の研究

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研究主題について
平成13年度より,本校では「基礎・基本の確かな育成をめざす授業」を研究主題
として,各教科ごとに研究に取り組んできた。理科においては,平成13年度は「子
ど も の 主 体 的 な 学 習 に 基 づ く 科 学 的 な 自 然 観 の 育 成 」,平 成 1 4 ~ 2 1 年 度 は「 基 礎 ・
基本を育成する共に感じ,考え,実感する理科学習Ⅰ~Ⅷ」を研究主題として授業づ
くりに取り組んできた。
具体的には,これまでの本校の研究主題をふまえ,知識を教え込もうとするような
授業のあり方ではなく,生きる力に結びつく力を確かに育成することをめざし,豊か
な人間性とともによりよく問題を解決する能力を,科学的な見方や考え方を養う中で
育てていくことに重点を置いてきた。理科学習においては新たな自然事象に対峙した
時に,子どもたちが自らの先行体験や知識を総動員して問題を把握し,主体的にその
解決へと向かう。この学習過程を大切にし,基礎・基本の確かな育成をめざしてきた
のである。
さて, 教育界で創造性の大切さが主張されたのは随分以前のことである。理科にお
いても様々な創造性に関する研究がかなり前からなされてきたのは周知のことであ
る。しかし,実際の理科の授業では,創造性を活かすような活動が組み入れられてお
ら ず ,時 間 的 な 制 約 を 理 由 に 教 師 主 導 の 知 識 注 入 型 の 授 業 が 行 わ れ た り ,
「はいまわる
理科」と言われることがないようにするあまり,型にはまった問題解決的な学習が多
く行われたりしているのが現実である。これは本校理科の研究においても同じような
ことが言え,反省すべき点である。とは言っても,実際の指導内容を教えなければな
らないことと,理科の目標に読み取れるような創造的な思考を育成することの間にギ
ャップがあることは事実で,その工夫に苦しんでいる理科の指導者も実際多いのでは
ないだろうか。その背景の一つとして,創造性の重要性は主張してきているものの,
創造的思考のメカニズムをふまえた理科の教育論がまだまだ登場していないことも考
え ら れ る 。 創 造 的 認 知 の 研 究 が , R.A.Finke に よ っ て 行 わ れ て 以 来 ( 1992 年 ), 認 知 的
メカニズムに関する研究は行われるようになってきてはいるが,理科教育に反映され
るのはしばらく時間がかかるのではないかと考えられる。
心 理 学 的 見 地 か ら 見 る と ,人 間 の 思 考 の 最 上 位 に あ た る の が「 創 造 」 で あ り ,「 問 題
解決」である。問題解決の能力を育てることは,創造的な思考を育てることであると
言える。問題解決の能力の中で特に欠かすことのできないのが思考力である。特に,
理科ならではの思考力である科学的思考力は,子どもに身に付けさせていかなければ
ならない大切な能力である。
「科学的思考力とは,科学的思考を可能にする能力を意味する。科学的思考の見解
には様々な論があるが,科学者が新しい事実や法則を見つけ出すまでに払った一連の
思考過程だと言うべきであろう。つまり,自然の事物・現象について問題をもち,そ
れを筋道を通して考え,得られた結論を事実に即して確かめ,応用・発展させていく
ような過程で行われる思考活動である。この営みは,創造的で批判的な思考とも言え
る。批判的な思考とは,適切な基準や根拠に基づく論理的で偏りのない思考を意味す
る 。」 1 )と あ る よ う に , 小 学 校 に お け る 科 学 的 思 考 力 と は , 授 業 の 中 で 問 題 を 発 見 し ,
仮説や予想を立て,実験を行い,結果を明確にしながら考察し,仮説や予想を検証し
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ていく問題解決の過程で身に付ける力であると言える。したがって,科学的思考を育
てることは,問題解決をよりよくすることであり,創造的な思考を育てることである
と言える。もちろん,創造性を育成することが,問題解決の質を高め,科学的思考力
を育成する場合もある。
そこで本校理科部では,本年度の研究主題を
科学的思考力を育成する理科学習
として科学的思考力に着目しながら問題解決の能力を育てることを通して,創造性の
育成につなげようと考えた。
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研究の内容について
本校研究部の提案を受けて
本校研究部の提案では「創造性を育成する手立て」として
①必要感のある課題を設定する。
②課題解決の方法を試したり確かめたりする活動を設定する。
③学習の手応えを実感する課題解決へ導く。
を設定することとしている。この3点について理科部としての考えを述べると共に,
理科部の研究主題に対する育成の手立てを述べていきたい。
① の「 必 要 感 の あ る 課 題 を 設 定 す る 。」に つ い て ,研 究 部 は 指 導 者 側 が 設 定 す る よ う
に述べているが,理科においてはこれは「子どもが課題を設定する」ように支援する
のが指導者の役割であるととらえるべきであろう。調べたくなるような自然事象と出
会わせ,それを検証可能な形にまで高めていくことが,理科で言う「必要感のある課
題」をもたせることである。これは,理科特有の学習スタイルであり,あまり他の教
科 に は あ ま り 見 ら れ な い こ と で あ る 。 し た が っ て ,「 お や , 不 思 議 だ な 。」 と い う 疑 問
を そ の ま ま 課 題 に し て「 不 思 議 を 探 ろ う 」と す る の で は な く ,「 そ れ は ,~ か な 。」「 き
っ と ~ な る は ず だ 。」と い う 仮 説( 予 想 ) を も ち , そ れ を 確 か め る 方 法 ま で 考 え て 初 め
て「疑問」が「課題」になるのである。
② の「 課 題 解 決 の 方 法 を 試 し た り 確 か め た り す る 活 動 を 設 定 す る 。」は 理 科 の 問 題 解
決の過程で言えば,観察・実験がそのまま当てはまると考える。ただし,一つ確認し
ておきたいのは,理科における実験は,思いつきによる試行錯誤のような活動ではな
いと言うことである。自分の仮説を確かめるという目的のもと,見通しに沿って行わ
れるのが観察・実験である。
③ の「 学 習 の 手 応 え を 実 感 す る 課 題 解 決 へ 導 く 。」は ,学 習 指 導 要 領 の 目 標 に 新 た に
加わった「実感を伴った理解」が該当すると考える。
「 理 科 と は ど ん な 教 科 か ? 」 と た ず ね ら れ た ら ど う 答 え る か 。 私 た ち は ,「 自 然 の
事物・現象を対象とする問題解決」と答える。加えて「具体的な活動を主体的に学べ
る教科」であると考えている。指導者が設定した学習の場で,子ども自ら問題を決め
だし,自らのやり方で問題を解決に導く活動であることからもそれは明白であろう。
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そ の 中 で , 学 習 の 終 末 時 に 子 ど も か ら 出 て く る 「 や っ た 」「 で き た 」「 わ か っ た 」 と
い う 叫 び ,「 や っ ぱ り 思 っ た と お り 」「 で も ち ょ っ と お か し い 」「 な ん で だ ろ う 」「 そ う
いえば・・・や・・・もこれと同じだ」などのつぶやき。これらは,子どもが自らの
学びを通して心に深く刻み込まれた理解,新しく頭の中に組み込まれた理解からでて
くる言葉ではないだろうか。このような子どもの姿が見られた時,手応えを実感する
課 題 解 決 が で き た 時 で あ り ,「 実 感 を 伴 っ た 理 解 」 が で き た と と ら え て い る 。
このように考えてみても,研究部の提案する「創造性を育成する手立て」は,理科
における問題解決の能力を育てることとほぼ同じであることが言える。
そこで理科部では,科学的思考力が育成される場として,特に仮説を立てる段階と
結果を考察・吟味する段階であると考え,以下の手立てを設定した。
科学的思考力を育成するための手立て
①「仮説(予想)を育てる」場面を充実させる
子どもが主体的に学ぶ問題解決では,子どもは,自然事象と出会い,調べてみたい
なという問題意識をもち,こうではないかと予想をする。そして,その予想が正しい
かを確かめるにはどうしたらよいかを考える。このように予想をし,その予想を確か
める方法を考えるまでの学習の流れを「仮説(予想)を育てる」場面とし,特に重点
を置いて授業を組み立てていきたい。既習事項を想起したり,先行経験を活かしたり
しながら仮説を立てる場面は科学的思考力が育つ場面だからである。もちろん創造性
が 育 成 さ れ る の も こ の 部 分 で あ る 。 J.Guilford の 言 う 「 拡 散 的 思 考 」 は こ の 場 面 に あ
たると言える。
ここでは,
「 さ あ 予 想 し て み よ う 」と い う 投 げ か け だ け で は ,仮 説 を 立 て ら れ る わ け
がない。仮説が立てられるような助言をしたり,参考にできるような事物を用意した
りして場づくりにつとめなければならない。
「仮説を育てる場における教師の役割」
㋐ 仮 説 ( 予 想 ) を 一 人 一 人 に 明 確 に も た せ る 時 間 を 確 保 す る 。( I 学 習 )
㋑仮説(予想)を立てるために既習事項や先行経験を想起させる工夫をする。
㋒仮説(予想)を確かめるための方法を考える場の工夫をする。実験器具,実験材
料 な ど の 提 供 , 制 限 を 行 う 。( I 学 習 , G 学 習 )
「仮説を育てる場を充実させる条件」
㋐一人一人が自分なりの仮説(予想)を立てられていること。
㋑ 仮 説( 予 想 )の 中 に「 何 が ,何 と ,ど う な る の か 」と い う 視 点 が 入 っ て い る こ と 。
㋒根拠に基づいた仮説(予想)であること。ここで言う根拠に基づいたとは,先行
経験,既習の知識,書物などからの科学的知識などである。
㋓仮説(予想)を確かめるための方法が検証可能なものになっていること。
②「結果を考察・吟味する」場を充実させる
これまでの理科の研究においていつも課題としてあげられるのは,観察・実験の後
に位置づけられる結果から結論を導き出す場面における指導である。そこにはまだま
だ工夫改善の余地が十分にある。子どもが観察・実験の結果を考察・吟味し,一つの
考 え を も つ こ と が で き る よ う に す る こ の 場 面 は , J.Guilford の 言 う 収 束 的 思 考 が 行 わ
れる場面であろう。結果から新しく法則性を導く際にも創造的思考は使われるはずで
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ある。
結果を考察・吟味するとは,子どもが自ら目的的に行った観察・実験の結果を考察
・吟味し,学習前にもっていた見方や考え方を変容させることであり,自らの知を更
新することである。そのためには,観察・実験の結果と,その仮説や予想との関係を
子どもが明確に意識していなけらばならない。
「結果を考察・吟味する場における教師の役割」
㋐ 結 果 を 吟 味 し や す い よ う に わ か り や す く 明 ら か に さ せ る 。言 語 化 ,グ ラ フ 化 , イ
メージ化を使って行う。
㋑ 子 ど も が 結 果 を 吟 味 す る 際 の 視 点 を 与 え る 。( G 学 習 , C 学 習 )
㋒ 一 人 で 考 え る 場 と 協 力 し て 考 え る 場 の 工 夫 を す る 。( I 学 習 , G 学 習 )
「結果の考察・吟味の場を充実させる条件」
㋐目的意識を持ち続けていること。
㋑仮説(予想)と照らし合わせて結果を考察・吟味していること。
㋒実証性,客観性,再現性のある科学的な考察であること。
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