鳴いたジュゴンの方位を知る~新しい野外行動観察手法

鳴いたジュゴンの方位を知る
~新しい野外行動観察手法~
市川光太郎, 伊藤万祐子, 三谷曜子, Kanjana Adulyanukosol, 原武史, 細谷誠一, 新家富雄, 荒井修亮, 赤松友成
はじめに
本研究では、ジュゴンの鳴音を利用した新しい野外行動観察手法
を確立する準備として、ジュゴン鳴音の音響特性を把握すること、
およびジュゴンの方位を音響的に特定することを目的とした。
2-1-1. 調査海域と調査手順
調査海域
→タイ国トラン県のリボング島周辺海域
(N07.12.58.4 E99.24.219)
音響観測装置を装備した船舶と、目視観察者を乗せた
軽飛行機(ML)を用い、空と海から観察を行った。水
中音はステレオハイドロフォンに録音した。
方法
2-1. 受動的音響データロガー
本研究では受動的音響観察手法をも
ちいてジュゴン鳴音を録音し、音響学
的に解析することでジュゴンの行動を
モニターする手法を採用した。
結果
A船
B船
3月4日
190
75
3月5日
680
120
90
20
3月6日
Ishmael1.0
(以下ISH);
→両チャンネルの
相互相関をとって
到達時間差を計測
して到来方位の解
析
ジュゴン鳴音のソナグラム(白色の細線)。
上は持続時間の短い鳴音(190ms、3.6kHz)、
下は長い鳴音(4629ms、3.8kHz)の例
鳴音解析
まず、CEP2で録音された音声ファイルをソナグラムで表示した。このソナグラムから鳴音の
持続時間を計測し、鳴音の持続時間の中点におけるスペクトル強度の最大値を与える周波数を、
その鳴音を代表する周波数とした。次に、ISHで両ハイドロフォンの音の相互相関をとって到
達時間差を計測し、ハイドロフォンの基線間距離と音速をもとに鳴音の到来方位を算出した。
解析には、周波数が1kHz以上、持続時間が50ms
以上の鳴音774件を使用した
場所はSt.4
1075
合計
2-2. 鳴音解析
Cool Edit Pro2(以下 CEP2);
→ソナグラムで表示して音響特性の解析(周波数、
持続時間、音圧レベル)
鳴音の頻度
鳴音の音響特性
400
持続時間
12000
100~
500ms
Acumulated number of vocalization
14000
1000ms
~
F re q e nc y (H z)
10000
件数
704.0
48.0
持続時間の平均値(ms)
8000
126.1
2187.0
持続時間の標準偏差
87.0
984.8
周波数の平均値(Hz)
4520.8
4156.2
周波数の標準偏差
1615.7
1138.6
6000
4000
2000
0
1
10
100
Duration(s)
1000
350
3月5日午後:368件
300
鳴音頻度に2パターン;
高頻度:4~6秒に一回
低頻度:23~45秒に一回
250
200
150
100
間隔が途切れている部分
は呼吸している?
3月4日午前;116件
3月6日午後;91件
50
0
10000
0
5 00
100 0
1500
200 0
2500
Duration(s)
ジュゴンの鳴音は持続時間により2つに大別された
短い鳴音の周波数は4kHz付近と8kHz付近に集中していた(倍数音か?!)
030 3051340 00
03 0304103 000
0 3030612 2500
長い鳴音の周波数は3-6kHzであり、8kHz付近にはほとんどなかった
0
1650
1850
-40
-40
-50
-50
-60
-60
-70
-70
-80
-80
-90
-90
-100
-100
データは3月6日午後12:25からおよそ40分間
の録音で得られたもの
100
100
方位が変化するにつれ、音圧レベル
も変化していっているのがわかる
ジュゴン鳴音は大別して2種類あることがわかった。上で示した鳴音の音
響特性はオーストラリアの西岸の個体群の録音で報告されたものとよく一
致した。連続発声の合間に、5~6分の無音時間が認められた。船上からの
目視観察により、ジュゴンの浮上の前後は鳴音が途切れることが確認され
ているため、浮上呼吸中に、この長い無音時間が認められるのかもしれな
い。3月6日の録音データをもちいて方位解析をおこなったところ、方位が
変化するに従って、鳴音の音圧レベルが変化していくのがみとめられた。
また、 3月6日の鳴音頻度は初め頻度が低く、その後頻度が高くなり、最
後は再び頻度が低くなっていた。鳴音の音圧レベルも同様の変化を示して
いたことから、これはジュゴンが接近し、遠ざかっていったことによる鳴
音の検出率の変化によるものと考えられた。
Accumulated number of vocalization
-30
-30
Bearing(degree)
鳴音の頻度と音圧レベルの推移
Duration(s)
2250
-10
-20
-20
考察
2050
80
80
60
60
40
40
20
20
0
1450
0
1550
1650
1750
1850
1950
2050
2150
Bearing(degree)
鳴音の到来方位と音圧レベルの推移
1450
-10
Sound pressure level (dB)
データは3月6日午後12:25
からおよそ40分間の録音
で得られたもの
0
Duration(s)
2250
-20
-20
-40
-40
-60
-60
鳴音の頻度が変化するにつれ、音圧
レベルも変化しているのがわかる
以上の方位測定結果より、複数地点からの方位測定をもち
いると、発声音源の位置を特定することができる。つまり、
頻繁に鳴くジュゴンの鳴音を利用した受動的な音響観察が
可能であることが示唆された。
発声音源の位置の特定
80°
120°