神奈川県内における低周波音の測定評価事例 環境監視情報課 石井 貢 本 稿 で は 、環 境 科 学 セ ン タ - が 過 去 に 調 査 を 担 当 し た 低 周 波 音 の 測 定評価事例について報告します。最初に低周波音の特徴、苦情件数、 低 周 波 音 の 発 生 源 及 び 測 定 評 価 に つ い て 簡 単 に 説 明 し ま す 。次 に 低 周 波 音 の 測 定 評 価 事 例 を 紹 介 し ま す 。最 後 に 低 周 波 音 に 係 る 行 政 対 応 の 現状と課題について整理します。 1 低周波音とは 人 間 が 聞 こ え る 音 の 周 波 数 範 囲 は 20Hz~ 20kHz と さ れ て い ま す 。 こ れ に 対 し て 、 20Hz 以 下 の 聞 こ え な い 範 囲 の 音 を 超 低 周 波 音 と い い 、 こ の 範 囲 を 含 む 1 0 0 H z 以 下 の 音 を 低 周 波 音 と い い ま す 。主 に 2 0 ~ 8 0 H z の 低 周 波 音 が 大 き い と 人 に よ っ て は 不 快 に 感 じ る こ と が あ り 、 20Hz 以 下 の超低周波音が大きいと建具はがたつく場合があります。 我 が 国 で は 、 1970 年 代 に 工 場 ・ 事 業 場 な ど か ら 発 生 す る 低 周 波 音 が 問題になりました。それ以来、低周波音は騒音・振動と並ぶ感覚公害 の1つになっています。低周波音に係る全国的な苦情件数は、図1の ように推移していますが、ここ数年、風力発電施設や深夜電力を利用 する給湯設備などから発生する騒音が問題になり、このことなどが要 因となって低周波音への関心が高まり、苦情件数が増えています。ま た、最近の苦情は、静かな住宅地における低いレベルの低周波音が問 題となる傾向にあります。 低周波音の発生源は、表1に示すように工場の設備機器、交通機関 及び土木施設など、多岐にわたっています。環境省は、低周波音対策 に 力 を 入 れ て い て 、 環 境 省 の ホ - ム ペ - ジ 1)に は 、 問 題 対 応 の た め の 手引き書、事例集及び測定マニュアルなどが示されています。低周波 音の詳細については、これらを参考にして下さい。 表1 300 機器・施設等 250 苦情件数 200 150 100 50 0 56 57 58 59 60 61 62 63 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 (昭和) (平成) 年度 図1 低周波音を発生する主な 低周波音に係る苦情件数の推移 送風機(送風機を用いる集塵機、乾燥機、空調機冷却塔等) 往復式圧縮機 ディーゼル機関(ディーゼル機関を用いる船舶、非常用発電装置、バス、トラック等) 真空ポンプ(ロータリーブロワ、脱水ポンプ) 振動ふるい(類似の振動コンベア、スパイラルコンベア、破砕機等) 燃焼装置(ボイラー、加熱炉、熱風炉、転炉、燒結炉、焼成炉、電気炉、ロータリーキルン、 キューポラ等) ジェットエンジン(ジェットエンジンを用いる航空機、非常用発電装置等) ヘリコプター 機械プレス 橋梁 鉄道トンネル 治水施設(ダム、堰堤等) 発破 ガスエンジン 変圧器 2 低周波音の測定評価 低周波音の測定評価は、環境省が示す「低周波音問題対応の手引き 書 H16.6 環 境 省 環 境 管 理 局 大 気 生 活 環 境 室 」 1)(以 下 、 「 手 引 き 書 」 と い う )に よ り 行 い ま す 。 手 引 き 書 に は 、 問 題 対 応 の 手 順 と し て 、 申 し 立て内容の把握、現場の確認、測定計画の立案、測定の実施、評価、 対策の検討及び効果の確認などが記載されています。その中で評価に つ い て は 、人 が 不 快 に 感 じ る な ど の 心 身 に 係 る 苦 情 に 関 す る 参 照 値 ( 以 下 、「 心 身 参 照 値 」 と い う ) 及 び 建 具 が が た つ く な ど の 物 的 苦 情 に 関 す る 参 照 値 (以 下 、 「 物 的 参 照 値 」 と い う )が 示 さ れ て い ま す 。 測 定 値 が これらの参照値を超えると、低周波音による苦情の可能性があると判 断 で き ま す 。 心 身 参 照 値 は オ ク タ - ブ の 1/3 幅 で 分 析 す る 1/3 オ ク タ - ブ バ ン ド 音 圧 レ ベ ル (中 心 周 波 数 :10~ 80Hz) 及 び 超 低 周 波 音 の 人 体 感 覚 評 価 加 重 特 性 で あ る G 特 性 音 圧 レ ベ ル で 示 さ れ 、物 的 参 照 値 は 1 / 3 オ ク タ - ブ バ ン ド 音 圧 レ ベ ル (中 心 周 波 数 :5~ 50Hz) で 示 さ れ て い ま す 。 3章の事例では、測定値とこれらの参照値を比較して評価しました。 3 低周波音の測定評価事例 事例は、測定値と参照値を比較して、心身参照値を超える場合及び 物的参照値と同レベルの場合並びに参照値を超えない事例として音源 を特定している場合及び音源が不明の場合の4例について紹介します。 3 . 1 事 例 1 (心 身 参 照 値 を 超 え る 場 合 ) 申し立て内容は、夜間電力を有効活用するために建物屋上に設置さ れているヒ-トポンプチラ-が夜間に作動し、その作動音により睡眠 が妨害されるというものでした。住宅と建物屋上の距離は、図2に示 す よ う に 50m 程 度 で 、 住 宅 2 階 と 建 物 屋 上 は ほ ぼ 同 じ 高 さ で し た 。 測 定 結 果 は 、図 3 に 示 す よ う に 住 宅 2 階 の 和 室 に お い て 、6 3 H z の 1 / 3 オクタ-ブバンド音圧レベルが、心身参照値を超えました。また、測 定を実施した職員は和室内でチラ-の音が聞こえることを確認してい ま す 。 こ れ ら の こ と か ら チ ラ - か ら 発 生 し た 63Hz を 中 心 と す る 50~ 80Hz の 低 周 波 音 が 住 民 に 影 響 を 及 ぼ し て い る と 判 断 し ま し た 。 騒 音 対 策 と し て は 、チ ラ - の 移 設 と 防 音 壁 の 設 置 を 予 定 し て い ま す 。 120 住宅 約50m 音圧レベル(dB) 100 80 60 40 稼働 停止 物的参照値 心身参照値 20 ヒ-トポンプチラ- 建物屋上 0 5 6.3 8 10 12.5 16 20 25 31.5 40 50 63 1/3オクタ-ブバンド中心周波数(Hz) 図3 図2 住宅と建物の位置関係 測定値と参照値の比較 80 3 . 2 事 例 2 (物 的 参 照 値 と 同 レ ベ ル の 場 合 ) 申し立て内容は、採石した砂利を粉砕するために砂利処理選別施設 に設置されている1次クラッシャ-が稼働することにより、住宅2階 の居室の電気スタンドが揺れるというものでした。砂利処理選別施設 と 住 宅 の 距 離 は 図 4 に 示 す よ う に 1 5 0 m 程 度 で 、施 設 と 住 宅 の 間 に は 河 川がありました。 測 定 結 果 は 、 図 5 に 示 す よ う に 住 宅 2 階 の 居 室 に お い て 、 6.3Hz の 1/3 オ ク タ - ブ バ ン ド 音 圧 レ ベ ル が 、 物 的 参 照 値 と 同 じ レ ベ ル で し た 。 また、測定を実施した職員は、クラッシャ-を断続的に運転させて、 クラッシャ-の稼働により電気スタンドが揺れることを確認し ました。 こ れ ら の こ と か ら 、 一 次 ク ラ ッ シ ャ - か ら 発 生 し た 6.3Hz の 低 周 波 音 が、電気スタンドを揺らしていると判断しました。 この結果を受けて、騒音対策として機械の稼働を停止しました。 120 砂利処理選別施設 河川 100 音圧レベル(dB) 1次クラッシャ- 約150m 80 60 40 稼働 停止 物的参照値 心身参照値 住宅 20 0 5 6.3 8 10 12.5 16 20 25 31.5 40 50 63 80 1/3オクタ-ブバンド中心周波数(Hz) 図 4 住宅と施設の位置関係 図 5 測定値と参照値の比較 3 . 3 事 例 3 (参 照 値 を 超 え な い 場 合 ・ 音 源 を 特 定 ) 申し立て内容は、夜間電力を利用する給湯機器として隣家に設置さ れているエコキュ-トから夜間に稼働音が発生し、それにより睡眠が 妨害されるというものでした。住宅と給湯機器との距離は、図6に示 す よ う に 3 ~ 4 m で し た 。 給 湯 機 器 の 稼 働 は 、 午 前 2 時 30 分 頃 に 開 始 され、朝方まで続きます。 測定結果は、図7に示すように住宅1階の和室において、心身及び 物的参照値を超えませんでした。 この測定結果について、申立人にはご了解をいただきました。 120 住宅 3~4m エコキュ-ト 100 音圧レベル(dB) 隣家 80 60 40 稼働 物的参照値 心身参照値 20 0 図6 住宅と音源の位置関係 5 6.3 8 10 12.5 16 20 25 31.5 40 50 63 1/3オクタ-ブバンド中心周波数(Hz) 図7 測定値と参照値の比較 80 音圧レベル(dB) 3 . 4 事 例 4 (参 照 値 を 超 え な い 場 合 ・ 音 源 は 不 明 ) 申し立て内容は、音源は明らかではないが、住宅内で低周波音が聞 こえるというものでした。住宅は2階建ての戸建て住宅でした。測定 は、低周波音が聞こえる場所として、1階にある居室内の3か所及び 2階にある居室内の3か所の計6か所で行いました。 測定結果は、図8に示すように住宅内において、心身及び物的参照 値を超えませんでした。 この測定結果について、申立人にはご了解をいただきました。 低周波音に係る苦情については、測定する担当者が低周波音の発生 を確認できない場合も多く、事例3及び4のように測定値が参照値を 1階① 120 超えない事例も多く見られています。 1階② 1階③ 100 2階① このような場合、測定値が参照値 2階② 80 2階③ 物的参照値 を超えないからといって直ちに問題 心身参照値 60 がないとすることはできませんが、 40 客観的な資料として、低周波音の測 20 定デ-タを住民に提供することは、 0 5 6.3 8 10 12.5 16 20 25 31.5 40 50 63 80 重要なことと考えています。 1/3オクタ-ブバンド中心周波数(Hz) 図 8 測定値と参照値の比較 4 低周波音に係る行政対応について 最後に低周波音に係る行政対応の現状と課題について整理します。 (1) 低 周 波 音 レ ベ ル 計 は 使 い 易 い も の で は あ り ま せ ん 。 測 定 現 場 に 行 って、低周波音レベル計のメ-タが変動するのを眺めていても、何 もわからず、現状では低周波音を録音して周波数分析するなどのこ とが必要になっています。 (2) 低 周 波 音 に つ い て は 、 参 照 値 を 超 え な い 事 例 も 多 い こ と か ら 、 手 引 き 書 に 基 づ く 1/3 オ ク タ - ブ バ ン ド 分 析 に 加 え て 、 狭 い 帯 域 幅 で 分 析 す る FFT 分 析 (高 速 フ - リ エ 変 換 )が 必 要 な 場 合 も あ り ま す 。 し たがって、対応方法を適切に判断するためには、技術と経験が必要 になっています。 (3) 全 国 的 に も 市 町 村 (基 礎 自 治 体 )が 主 体 と な る 対 応 は 、 技 術 的 に 難 しいのが現状です。 5 まとめ 低 周 波 音 に 係 る 測 定 評 価 事 例 を 紹 介 し ま し た 。低 周 波 音 に つ い て は 、 技術的に難しい部分も多いことから、市町村等から県に相談・依頼等 がある場合、環境科学センタ-が技術支援を行っています。 「引用文献」 1) 環 境 省 ホ - ム ペ - ジ http://www.env.go.jp/air/teishuha/index.html
© Copyright 2024 Paperzz