6ある週末の私の 1 日

エクランドWakako
RNC MSN NNP.1991年BSN取得後RNとなる
(Bob Jones University, Greenville, SC)
.CCU・ICU・NICUを経て2002年
にNNP専攻でMSN(看護学修士)取得(Vanderbilt University,Nashville,
TN).卒業後NNPの専門資格試験に合格.現在Nashville市内外複数の病院の
NICU医療を担う新生児専門医療グループに所属.
Mid Tennessee Neonatology Associates
2300 Patterson St. Nashville. Tennessee 37203-1878. USA
[email protected]
6
ある週末の私の 1 日
本拠地であるセンテニアルメディカルセンターのNICU
私の所属している新生児医療のグループは,現在 7 人のNeoと 6 人のNNPがチームメン
バーで活動しています.特定の病院に勤めるという体制ではなく,私たちの医療グループ
は独立しています.ナッシュビル市内と市外を含めて 6 ヵ所(レベルⅢが 2 ヵ所とレベル
Ⅱが 4 ヵ所)の病院の新生児医療を担っています.病院雇用ではない医師とNNPのチー
ムが,いくつかのNICUを管理することは,アメリカでは珍しいことではありません.病
院という組織の一部になるのと違い,プライベートプラクティスと呼ばれる体系です.セ
ンテニアルメディカルセンターのNICUが私たちのいわば本拠地で,多いときは入院患者
が45人を超えるレベルⅢのNICUです.
ある1日の始まり
ある日曜日の私の 1 日を描いてみたいと思います.朝,8 時ごろNICUに到着した私の
顔を見ると,前夜の当直だったNeoが大まかに状況を知らせてくれます.“Have a good
day!”,Neoは帰途に着いていきました.すぐに診察を開始した私に,チャージナースが
予定された早産分娩や,ハイリスク妊婦の入院患者状況,立ち会う必要のある分娩と帝王
切開の予定を知らせてくれます.Perinatologistの今朝の判断で26週の双生児が帝王切開に
なる可能性が高いということと,32週の双生児の帝王切開が予定されているということで
した.しばらくして,その日のNeoであるスコットが到着しました.
ラウンド
朝のラウンド(回診)は,各患者のphysical assessmentから始まります.その日の血液
検査結果と看護記録の数ヵ所に目を通し,児の状況をprogress noteに細かく記録していき
ます.このとき,担当看護師が意見を求めてきたり,治療について質問を投げかけられた
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り,逆に私のほうから記録では
把握できない状況を看護師の口
から説明してもらったりといっ
た,グループコミュニケーショ
ンを行います.ご両親がそこに
いらっしゃる場合は,声をかけ
てその日の状況を説明し,親の
目から見た気になる点などをう
かがいます.
センテニアルメディカルセンターの看護スタッフの一部.
その日の高カロリー輸液
日本のみなさんに“Hello!”
(TPN)やほかの点滴オーダー,
栄養(feeding)の変更や増量,またその時点で午後もしくは翌日に必要な検査のオーダ
ーなど,朝のABGの結果からベンチレーターセッティングの変更,胸部のレントゲンな
どにも目を通して,各児の全体的な医療ケアを総合的に診て方針を決めます.このとき,
疑問が残るときは,Neoに必ず一言相談しています.たいていのNeoは私が考えること,
また知識のレベルを把握してくれているため,お互いのコミュニケーションはかなりスム
ーズです.スコットと私がそれぞれ数人を診終えたとき,26週の双生児の母親の状況が悪
化して,緊急の帝王切開になると連絡が入りました.
Neonatologists新生児専門医.米国のNICUで主治医になるための資格.医学部卒業後,まず小
児科医のレジデント(研修医)として 3 年間訓練して小児科医専門試験に合格し,さらにNICUで丸 3
年間主治医の指導を受けてはじめて資格試験の受験資格が与えられる.資格取得後も,更新のために 7
年ごとに試験を受けなければならない.
レベルⅢsレベルⅠは一般新生児室のみがある施設,レベルⅡになるとかなり落ち着いた状態ながら
人工呼吸器が必要な患者を受け入れることは可能だが超低出生体重児は扱わない.レベルⅢでは,高度
な医療技術を提供できるスタッフとテクノロジーを備え,レベルⅠおよびⅡの施設からの搬送を受け入
れることで,地域の高度医療を担っている.
Perinatologists産科の特殊な分野でハイリスクのお産に対応する資格を持つ産科の医師.一般的
に双胎以上の多胎妊娠,母親に何らかの健康上の異常がある場合,また,早産などで一般のお産よりも
頻繁な検査やアセスメントが必要なケースを手がける.大学病院クラスの施設では,一般の産科とは別
にPerinatologyの部門がある.一般の産科医師たちへのコンサルタントとしても重要な存在である.
Progress notes看護記録とは別にNeoかNNPがまとめる医療記録.
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アドミッション
Neoと私,また,2 人の呼吸療法
士(Respiratory Therapist,一般に
RT)と,2 人のRNが蘇生準備をし
て上階の手術室に急ぎます.あら
かじめケアの分担を決めているた
め,スコットが「WakakoにはAを
あるNeoの家でのクリスマスパーティーでNNP全員がそ
任せるよ.僕はBを蘇生するから」
ろったときに.看護スタッフ,RTたち含めて150人ほどが
と言います.つまり私とスコット
集まってとても賑やかでした
がそれぞれリードして 2 つの蘇生
チームを準備するわけです.
Aが取り出され,ラジアントウォーマーに受けとると急いで濡れた体をふき,少しでも
体温が下がるのを防ぐため,帽子をかぶせて呼吸の様子と血色を数秒で観察します.すぐ
に臍の根元をつまんで,心拍数をナースにチェックしてもらいます.“Its,about 40,
Wakako”とナースがすばやく知らせてくれます.酸素マスクをあてがってPPV(陽圧換
気)を始めながらまったく自発的な動きがない児の状況を判断して,気管内チューブ
(ETT)を入れる準備をします.すばやくスコープを入れて,“OK”と言うとRTが私の手
にETTを手渡してくれます.入れたら的確にバギングをして,酸素を送り込みます.聴診
器を当てて呼吸音が左右対称なのを確かめ,さらにアセスメントを続けながら,RTの補
助のもとETTを固定します.体温が下がり過ぎないように気をつけて濡れた物を周りから
どけて,絶えず児の環境に気をつかいます.
ナースが続けて心拍数をチェックしています.児は次第に心拍数が100以上になり血行
も良くなりました.スコットが「こっちは心臓マッサージが必要だ,エピネフリン(Epi)
を出して」というと,彼の横にいたナースがすぐにEpiの準備をして渡します.生後10分
ほどで 2 人ともトランスポートアイソレットに入れられて,丁寧に酸素をバギングされな
がらNICUへ運び込まれました.NICUでは 2 人の児を隣り合わせのウォーマーに落ち着
かせ,ベンチレーターのセッティングをオーダーしたり,UAC(臍帯動脈ライン)を入
れたり,RTがサーファクタントを投与するなど,一通りのアドミッションをすませると
家族へ説明を行い,スコットと私はまたそれぞれ,ほかの児の回診に戻りました.
その日は,退院患者が 2 人いたため,時間をとって最後の診察と挨拶をしに行き,ご両
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親とお話ししました.そうこうしているうちに,32週の双生児の帝王切開が間近だと連絡
が入ります.オペ室に急ぐ私たちを見て,何人かのナースが最終チェックをして,アドミ
ッション体制を整えてくれていました.準備態勢のチームワークの良さにはいつも目を見
張ります.
予想外の状況
NICUに運び込まれた32週の双子の第一子はnasal cannulaが必要な程度だったのですが,
もう 1 人は一通りの蘇生に良い反応を見せたようでありながら,血色が今ひとつで,呼吸
困難の症状がみられ,n-CPAPからベンチレータの必要性を考えていました.しかし,数
秒後モニタをつけてすぐに理由がわかりました.心拍数が260∼290であり,SVT(上室性
頻拍症)のようだったのです.これでは血色が悪いわけです.幸い少し前に小児心臓内科
医(Cardiologist)のキャシーが,別の児のエコーで来ていたことから院内にまだおり,
すぐに電話で連絡をとることができました.私はUACとUVC(臍帯静脈ライン)を急い
で入れ,それと同時進行でRTがETTを入れてくれました.一方で,私は手を動かしなが
らもアセスメントを続け,妥当なベンチレーターセッティングを決めます.そういった処
置の一つひとつがチームワークのなかで行われています.
どれだけのスタッフが,必要な物を取ってきてくれ,むずかる児を優しくサポートして
くれたかわかりません.私がナースに「アデノシンの連続投与が必要な場合のために,分
量が十分あるかどうか見てください」と言って必要な量を知らせると.さっと 1 人のナー
スが十分あることを確認してくれ,スコットが電話を切るころには,12Lead EKG(12誘
導心電図)専門の技師も到着し,急ぎでEKGをとる準備をしてくれました.たまたまよ
さそうな血管があったので,もしも余分にルートが必要になる状況になったらと右手の末
梢静脈ルートをもう一つ確保したところで,アデノシンの準備がされ,キャシーがエコー
の機械を手に持って到着しました.この間おそらく 7 ∼ 8 分だったでしょうか.EKG専
門の技師がOKの合図で記録を始めると,スコットがアデノシンをルートの 1 つから一気
に入れました.1 回目ではリズムが正常化せず,2 度面増量(100mcg/kg)したIVプッシ
ュで,児のリズムが正常化するのをすべてEKGで記録することができました.
この日はたまたますぐに来てもらえる状況でしたが,SVTの場合必ずしもCardiologist
が来るのを待つわけではありません.心拍数が正常化すると同時に児の血色がよくなり,
誰の目にも児が楽になっているのがわかりました.スコットと私は児が落ち着いたことに
ホッと胸をなでおろしました.キャシーはエコーで先天性の心臓疾患がないのを確かめた
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後,SVTの治療のためにBブロッカー薬の一つプロパラノールのオーダーを書くように私
たちに指示を出し,そのあと,両親に経過報告をし,私とスコットは残ったラウンドに戻
ったのでした.この児はその後,SVTの発作はなく無事に退院しました.
それぞれがエキスパート
NICUが小さく,各シフトに 5 ∼ 6 人のナースしか必要ではなかったころに始まったこ
となのですが,毎週土曜日に各シフトの看護師たちに感謝の気持ちを込めてNeoが食事を
注文する伝統があります.これは私たちのグループ独特のもので,アメリカでも大変珍し
いことです.今では各シフトに大体14∼15人の看護スタッフが勤務しています.この日は
日曜日でしたが,3 時間弱ほどの間に 2 組の双生児の入院,ほかの児の急変などでスタッ
フみんなが昼を取る時間もなく一生懸命家族と新生児たちのために働いている様子をみ
て,スコットが今日もみんなにお昼をご馳走したいと言い出しました.ナースたちは,昨
日もごちそうしてもらったのにと申し訳なさそうに言うと,スコットは,「いや,天気の
よい日曜日にみんなが一生懸命働いてくれているのは,感謝すべきことだから」と言うの
です.レストランのメニューをみんなに回して好きなものを選ぶと,秘書がオーダーして
くれました.スコットがチャージナースに10分でいいからみんなが休憩ができるようにと
声をかけます.食べ物が届くとスコットと私は10分ほど座って注文した物をほおばりまし
た.普通の日はNeoが 2 人,NNPが 1 人勤務するのですが,週末は 1 人ずつになることも
あり,忙しさが増します.座ってまず一言,「RTもナースたちも本当にアセスメント力も
技術も有能で,僕たちのNICUはチームワークがいいよね」「ベストのグループだわ」と
意見を交わしました.このNICU内でのチームワークのよさは,目を見張るものがあると
いつも私は思います.
NNPの技術
ステップダウンの赤ちゃんたちにその日必要なオーダーは出してありましたが,一部は
まだ診察が終わっておらず,progress noteをきちんと完了させていなかったため,急いで
食べ終えると,スコットが「僕が向こうを始めるから,WakakoはPICC(PI)ラインを始
めてくれないか」と言います.その日のうちにPIを必要としている児が 3 人いました.
「ベ
ビーMは昨晩,僕が入れようとしたのだけれど,だめだったんだよ.できたらMから始め
て欲しいんだ,UAC 4 日目だから取りたいんだよ」と言います.ルート確保でナースの技
術が頼られるのはどこの病院でも同じだと思いますが,そのためにNNPがPIを入れる経験
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右はNeoのセーラで,NICU入り口の飾り付けの発案者で
す.セーラは大きめのクッキーやホットケーキの型を使っ
てスポンジのように軽い粘土質のもの(モデルマジック®)
季節ごとに変わるNICU入り口の飾り.今
を花や動物の形にくりぬき,そのなかに赤ちゃんの足型を
はこれ.アヒルには赤ちゃんたちの足跡
つけていくことを思いつきました.亡くなっていく赤ちゃ
がついています.数ヵ月入院している子
んには,特別にハート型にして家族に渡します.
は,段々と大きくなっていく足形を退院
左はRTのシンディー.アイデア提供者で,飾りつけ上手
時に記念として持って帰ります
なスタッフの 1 人.みんな,ボランティアでやってくれ
ていますが,両親や兄弟たちが喜ぶのをみるのが何より
もうれしいのだそうです
を積むと,医師たちよりも経験豊かになることが多いようです.
NNPになる前の 7 年間のNICUナース時代に,おそらく1,000ぐらいは点滴のルート確保
の経験をしていたと思います.私がNNP研修(レジデンシー)を経験したVanderbilt
University Medical Centerでも,PIはNNPの責任とされており,研修医のなかでPIの技術を
習得したいという人がいる場合,NNPについて腕を磨くのです.病院によっては一般看護
師が特別な教育を受けてPIを入れるところもあります.私たちのところではNNPとNeoが
入れています.
この児の母親は10歳のときから糖尿病で,高血圧,慢性腎臓病などをかかえたハイリス
ク妊婦でした.確かにスコットの言うように,ざっと児の腕や足を見るとこれといって頼
れそうな血管のない児です.手の甲の静脈からPIを入れると,今度は隣の31週のIUGR児
の血管を調べます.みなさんもご承知のとおり,PIは無事入っても,弁にぶつかって送り
込むのになかなか時間がかかる場合もあり,これだけはやってみないとわからないもので
す.いろいろ覚えたテクニックを使っても入らないときもありますが,その日は幸いPIを
必要とするすべての児に入れることができました.ホッとした私たちは,4 人の新しい入
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院患者の記録の書き残しがないかどうか目を通します.NICU内をぐるっと見回して,ベ
ッドサイドにいるご両親たちにそれぞれ一言ずつ状況報告をし,次の日に退院するはずの
児の両親ともう一度懇談します.
ふと時計を見ると夜も 7 時半ごろで夜勤の看護師たちと入れ替わったころでした.私も
スコットもほかのスタッフも一生懸命働いた 1 日でした.スコットは“Good work”とみ
んなに言うとコールルームへ,私は帰途に着きました.1 日の仕事を終えた私は,この
NICUスタッフの協調性に富んだ仕事ぶりに,なんともいえない醍醐味を感じさせてもら
ったのです.NNPの週末はトランスポートのために,夜は自宅コール待機になります.
明日の朝までゆっくり眠れるのだろうかとふと思いながら,ハイウェイをとばして家へ急
ぎました.
振り返ってみて
NICUでの優れたチームワークの一番の理由は,Neoがいつもスタッフに対して言動で,
彼らの知識・技術・役割をどれだけ認識して,感謝しているかを表現していることだと思
います.それぞれの持つ特技や可能性を存分に発揮できるように,Neoがリーダーシップ
をとっており,私は褒め上手なNeoたちを尊敬しています.また,看護スタッフもNeoや
NNPに対して,相手をとても大切にするという協力的な態度で接してくれているのです.
こういう関係は,ベッドサイドにいる家族たちにも大きなプラスになっていると思います.
また,NNPになったばかりのころの私には,Neoと看護師,RTたちの応援に,非常に助
けられたことを思い出します.
最初の号に書きましたように,国が違い,言葉が違い,人種が違い,さらには看護を取
り巻く医療体系の違うなかで仕事をする私の体験に,多くのみなさんが毎日感じておられ
る共通の「NICUスピリット」を読み取っていただけたら,それほどうれしいことはない
と思っていますが,いかがでしょうか? 6 回の連載をさせていただき,半年のお付き合
いのなかで,読者のみなさんから貴重な質問やご意見をいただき大変感謝しています.機
会があるごとにいただいた質問は連載に生かしていくつもりですので,引きつづき質問や
意見をぜひ聞かせていただきたいと思う次第です.
次回はトランスポートについて,広大なアメリカでの地域によってのNNPの活躍の違
いを,私の体験とサウスダコタの親友のレスキュー体験を紹介しながらお話ししたいと思
います.
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