第3回医療現場に求められる臨床倫理(最終回)

連載 第3回
(最終回)
現場
医療
における
臨床倫理・協働意思決定と
事前ケアプラン
を中心にどこまで蘇生など本来傷害行為に当た
大阪発達総合療育センター 副センター長
南大阪小児リハビリテーション病院 院長
end-of-life careやgrief careなどを提案し,医療
船戸正久
入や緩和ケアなどの選択肢,家族が参加できる
チームと法的代理人である家族と共に情報交換
して作成する文章である(協働意思決定)
。この
厚生労働省成育医療研究班の分担研究者として
「重
篤な疾患をもった新生児の医療をめぐる話し合いのガ
イドライン」
「NICUにおける緩和的ケア―赤ちゃんとご
家族に対する医療従事者の配慮」
などの報告書の作
成に携わり,
2010年『新生児・小児医療にかかわる人
のための看取りの医療』
(診断と治療社)
をまとめる。
文章は,最期に愛する我が子にしてあげたい両
親の希望内容を,Wish documentとしてまとめ,
すべての医療チームで情報を共有し多職種協働
事例で見る
看取りの実際
(多職種協働による支援)
でACPにできるだけ沿って支援する方法であ
る。ACPは,いつでも変更できる旨を両親に伝
えておくことが大切である。
今後,ACPは,医療現場で患者の最善の利益
を中心に臨床倫理を考える場合非常に役立つ方
法と思われる。
ACPに従って看取った超重症児(者)の
一例(日本小児科学会雑誌,Vol.118,No.10より)
事前ケアプラン(Advance care
planning:以下,ACP)とは
6)
■事例
ACPの最初の記載は,英国(NHS:National
Health Service)のEnd of Life Care Programme
1)
(2004 ~2007)の一部として明記されている 。
男性,20歳の超重症者(意識障害,呼吸不全,
摂食・嚥下障害)である。
新生児期は,超早産児(在胎24週,800g)
通常のケアプランとの違いは,急変時や決定能
にて出生。重症仮死,脳内出血(脳室内出血・
力,意思表示ができなくなった時を想定して自分
小脳出血)
,低酸素性虚血性脳症などを合併しY
がしてほしい願いを明確にしておくことである。
病院の小児病棟に長期入院していた。15歳の時,
ACPは,本人の希望に沿った同意内容を文書
胃瘻栄養,24時間呼吸管理が必要な状態で,
(Wish document)として残し,定期的に本人
とケア関係者で確認し,ケアにかかわる主なす
Y病院から医療型障害児入所施設フェニックス
への長期入所となった。
べての人(家族,友人も含む)で情報を共有す
当センターでは,訪問学級の継続に加えリハ
る。これらは,本来意思表示可能な成人の事前
ビリテーションを含む多職種協働による発達・
指示に沿って具体的なACPを立てるものである
療育支援,季節による様々な行事への参加など
が,近年,予後が制限され自分で意思表示でき
を行った。18歳頃から徐々に経管栄養を増量
ない重篤な小児に対してもその応用が拡大され
すると吃逆発作がおこり,SpO2 低下を繰り返
つつある2~5)。
すために栄養摂取の供給が不良となり体重が減
特に,意思表示(自己決定)ができない新生
児や乳幼児の場合,終末期に“児の最善の利益”
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る医的侵襲行為を行うのかに加え,非侵襲的介
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少しるい痩が目立ってきた。
家族カンファレンスにおいて,通常の日常活
表1:Hさんの事前ケアプラン(ACP)の内容(大阪発達総合療育センター)6)
1.現在の状態
1)毎日が快適に生活できるように,できるだけ頻度を増や
してリハビリテーションを実施し,全身のリラクゼー
ションを促していきます。
2)運動会や感覚コミュニケーショングループで発揮できる
ようになったスイッチを使った応答やCD,ミラーボー
ルの操作に取り組み,周囲の人と共感する場をもって
日々の生活が楽しくなるように努めます。
3)ご家族と事前に具体的な来園日時を相談し,ご希望に
沿った計画(ケア・プラン)で支援し以後の面会日時の
制限をなくします。
家族の希望される日は入浴介助を一緒に行う。
家族来園希望日に院外散歩を行う。
ご家族が来園されたら,ゆっくり過ごす時間がもてる
よう環境を整える。
その他,ご家族が希望されたら可能な限りケアに参加
していただく。
4)病棟内での季節行事,グループ活動にも参加してもらい
ます。1月はご本人の成人式を実施する予定です。
5)居室での生活を快適に過ごして頂くために,ご本人が好
きなキャラクターグッズをあしらった部屋のディスプレ
イにする,好きな音楽を聞いて頂くなど居室環境を整え
ます。
6)急変時・終末期の対応は,ご家族の希望に沿いながら症
状の緩和を目的とした苦痛の少ない非侵襲的医療処置を
選択します。
7)苦痛の緩和を目的とした薬剤の使用は必要に応じて行い
ます。
■肺炎などの感染による発熱の場合
経口(注入)の抗生剤投与
ご家族に相談をして判断で点滴を考慮することもあ
りうる。
解熱剤の使用(アンヒバ坐200mg)
■呼吸状態の悪化の場合
呼吸器設定の調整
排痰援助(背部マッサージマット・IPV・カフアシ
スト)
吃逆あればダイアップ10mg等の使用を考慮する。
呼吸苦に対しては,モルヒネ末10mgまたはアン
ペック坐薬10mg
すぐに入手できない場合はモルヒネ10mg皮下注
■心拍の低下・停止
心臓マッサージは原則行なわない。
ご家族が来園されるまで医師の判断でアンビュー
バックでの人工換気を行う。
8)最期の時が近づいてきた兆候が見られたらご家族で落ち
着いた時間が過ごせるようファミリー・ルームなどの環
境を整え,宿泊付き添いも可能とし,ケアにも参加でき
るように準備します。
9)最期はお母さまの胸に抱かれて看取っていただきます。
10)召天後,ご希望があれば一緒にエンゼルケアを行ってい
ただきます。
(処置後持参のスーツを着用していただく)
11)ご家族・スタッフでの居室内でお別れの時間をもち,ご
希望があればスタッフ全員で正面入り口(玄関)よりお
見送りします。
動のケアプランに対する希望に加え,急変時・
その具体的な内容を倫理委員会で検討し,母
終末期の対応について法的代理人である母親と
親の希望に沿って作成した署名付きACPが外部
何度も話合い希望を確認した。母親は高カロリー
委員を含む15名の委員で承認を受けた。
入所時(H20年当初)に比べると,体調を崩しやすく呼
吸状態が不安定で酸素の量を調整したりすることが増えま
した。排痰促進や呼吸管理が不可欠な状態です。
また注入食の消化・吸収力が低下し,栄養状態も低下しま
した。その為,るい痩が目立ちます。これ以上無理に栄養
をアップしようとすると,吃逆が出現したりして呼吸に影
響が見られ,苦しそうに見受けられ,体重も減少しました。
緩やかに体調・病状の変化がみられ全身状態に影響が出てい
る様子があり,いつ体調が急変するか分からない状態です。
主治医から今後の治療方針についてお話しがあった通り,
ご本人とご家族にとって安らかな看取りの時間がもてるよ
う,スタッフ皆で可能な限りの支援をさせていただきます。
そのために,具体的な緩和ケア・プラン(支援計画)を考え,
状況・状態の変化時は,随時,評価,追加していきます。
2.目標
1)毎日の生活をここちよく,穏やかに過ごせるように支援
し,身体に苦痛を与えるような侵襲的な処置を出来るだ
け避けます。
2)ご本人とご家族が安楽で有意義な時間を過ごせるように
支援します。
3)ご家族の思いに沿った看取りの時間をもてるよう医療・
療育チームで支援します。
3.母親から署名をいただいたACPの具体的内容
輸液を含むこれ以上痛みを与える医的侵襲行為
その後ACPに従って20歳の誕生日,成人式の
を希望せず,急変時・心停止時の積極的な蘇生
お祝い,センターでの療育支援や行事への参加
も希望しなかった。当センターで多職種による
など従来通り継続した。最期は経管栄養が入ら
緩和ケアチームを編成し,母親の希望を入れな
なくなり,徐々に徐脈が進行し,母親の胸で看
がら緩和ケアに基づいたACPを作成した(表1)
。
取られ,永眠した。その後家族・職員でセン
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写真1:スタッフとのお別れ会の風景
ター5階ホールでのお別れ会(写真1)
,セン
ター正面玄関からのお見送りを行った。
下記は,葬儀の際配布された母親の言葉であ
る。愛するわが子を天に送った悲しみと同時
に,もう痛い思いをさせなくてもよいとの安堵
の気持ちが表わされている。
「今までよく頑張ったね」
(母親の言葉)
もうその笑顔を見ることは叶いませんが,伝え
たい言葉があります。
「痛いことばかりさせてごめんね。これからは
(ご家族の承諾を得て掲載)
自由に自分の好きなことをしてね。Tちゃんと
仲良くしてね。ふたりでお母さんのことみてて
下さい」
妊娠していた!
と大喜び。心拍も確認」とエ
コー画像と共に日記に記している。しかし妊娠
胎児緩和ケアを適応した
無脳症のヱミちゃん
12週の胎児エコーで,頭部の形態異常を指摘
(周産期医療と生命倫理入門,メディカ出版より)7)
女児,0生日,無脳症の児である。母親は,
父親とも相談しその事実を知った上で胎内の赤
され,大阪医科大学附属病院の産婦人科に紹介
された。その際の診察で,母親は,頭蓋形成以
外の異常はないこと,出産後の生存は困難であ
る可能性が高い事を説明された。
ちゃんに名前を付けて妊娠を継続することを決
しかし夫婦はお腹の中にいる胎児をヱミちゃ
めた。児は妊娠34週,1,338グラムで経膣分娩
ん(仮称)と名付け,
「今,生きていることを
で出産した。その様子をリエゾン看護師の宮田
大切にしたい。全ての命には意味があり,この
は,次のように記録している。
子から教えてもらえることがたくさんある」と
“「産まれてきてくれてありがとう。本当にい
い子やね」とお母さまは産まれてきたわが子を
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妊娠がわかった時,母親は「初めて病院!
いう気持ちから,妊娠を継続することを決心
し,家族もそれに協力した。
胸に抱きながらそのように語りかけた。分娩室
母親の日記には,
“妊娠17週に医師は,赤
には音楽が流れ,お母さまの姉,多くの産科医
ちゃんが無頭蓋症,無脳症であるという診断を
師,助産師,看護師に見守られての出産であっ
両親に説明した。この時,産婦人科医師は産後
た。著者(宮田)は,出産場面には間に合わな
のヱミちゃんの救命が困難なことを涙とともに
かったが,出産直後に分娩室に到着し,お母さ
母親に説明した。そのような医師と出会えたこ
まがわが子を胸に抱き語りかけている姿に感動
と(ヱミちゃんが出会わせてくれたこと)につ
して流涙しながら,
「おめでとう!
!
いて感謝している”と記されている。
よくがん
ばったね」と話しかけることがやっとの状況で
その後表2のようなACPを作成し,医療チー
あった。
(中略)この日産まれた赤ちゃんは,完
ム(産婦人科医,助産師,小児科医,看護師な
全無頭蓋児(無脳症)であり,外界での生存は
ど)でヱミちゃんの看取りを支援した(写真2)
。
困難であるということが事前にわかっており,
大学病院でこうした患者・家族中心の医療支援
診断通り産後間もなく永眠となった。
”
ができたことに心から敬意を表する。
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表2:ヱミちゃんの事前ケアプラン(ACP)の内容(大阪医科大学附属病院)7)
■現状説明と確認書
1)現状説明と今後の目標
(1)診断:完全無頭蓋症(無脳症)
(2)予想される状態:救命困難で生後すぐに死亡する可能
性があります。
(3)ご家族の希望:赤ちゃんにはしんどい思いをさせたくな
いし,できる限り自然な状況で過ごさせてあげたいです。
(4)目標:
①お子様が,心地よく,穏やかに過ごせるように支援
し,身体に苦痛を与えるような侵襲的な処置をでき
るだけ避けます。
②ご本人とご家族が安楽で有意義な時間を過ごせるよ
うに支援します。
③ご家族の思いに沿った看取りの時間をもてるよう医
療チームで支援します。
2)出産時の対応
出産の時は,できる限りお母さまのご希望に添えるよう,
陣痛促進剤を使用しない出産を心がけます。分娩室の照明は
落とし,音楽を流しながらリラックスできるような環境づく
りをいたします。出産に際しては,希望されるご家族の立ち
会いをしていただき,幸せな雰囲気の中で赤ちゃんを迎えて
いただけるように致します。
3)終末期の迎え方で,確認したいこと(ACP)
(1)出生時,呼吸をしない,心臓がほとんど動いていない
など,そのままの状態では数分後には亡くなられると思
われる状況の場合は,次のようにさせていただきます。
①挿管蘇生・人工呼吸器の使用は特別な希望がない限
り行いません。
②心臓マッサージ・蘇生薬剤の使用など侵襲的治療介
入は行いません。
③分娩室でお母さまに抱っこされた形で,ご家族で囲
まれた安らかな看取りを支援します。
(2)出生後しばらく状態は安定しましたが,その後次第に
呼吸が弱くなったり,心臓の拍動が弱くなったりして,
そのまま放置すると亡くなられると思われる場合次の
ようにさせていただきます。
①上記の侵襲的蘇生処置は原則行いません。
②分娩室または母児同室(個室)でお母さまに抱っこされ
た形で,ご家族で囲まれた安らかな看取りを支援します。
(3)出生後に全身状態が安定している場合は,次のように
対応させていただきます。
①酸素の使用については,赤ちゃんの状況に応じて,
相談させていただきます。
②可能であれば赤ちゃんに授乳していただきます。
③点滴での治療が必要な場合は,相談させていただき
ます。
④保育器は使用せず,お母様と一緒に母児同室で過ご
していただき,ご家族とも面会していただきます。
⑤状態が悪化した場合には,お部屋でお母さまに抱っ
こされた形で,ご家族で囲まれた安らかな看取りを
支援します。
4)その他の希望されるケア内容
カンガルーケア , 沐浴・清拭 , 写真撮影 , 手形・
足形 , 臍帯 , その他(遺髪・爪), 棺の準備(本学で
準備・個人で用意), 納棺(看護師とともに実施) などを,
できる範囲で行います。
5)必要な連絡者,相談者:夫・姉
写真2:母親の胸に抱っこされたヱミちゃん7)
輝いた6日間のいのち
8)
(第32回心に残る医療体験コンクール入賞作品)
2014年,第32回心に残る医療体験コンクー
ルにて日本医師会賞に輝いた五十嵐桃子氏の文
章を紹介する。18トリソミーの心遙ちゃんを
医療チームの支援を受けて看取ったときの思い
を綴った素晴らしい文章である。
『出産予定日を10日過ぎた平成25年5月21
日我が家の長女“心遥(こはる)
”は,1,828g
母親の言葉:
「こういう赤ちゃんの見守り方もある
ということを伝えてほしい」
(宮田郁氏提供,ご両親の承諾を得て掲載)
の小さな身体で元気な産声をあげ,産まれてき
てくれました。
「やっとあえたね,心遥。ママだよ」
私は産まれたばかりの我が子を抱きしめ,夢
にまで見た幸せな時間をかみしめていました。
そして遠方から駆けつけてくれた家族の皆と,
写真やビデオをたくさん撮り,娘の誕生を喜び
あいました。
今思えばこれが心遥と過ごす日々の始まりであ
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写真3:母親の胸でカンガルーケアを受ける心遙ちゃん
写真4:母親に抱っこされる心遙ちゃん
(ご家族から提供,承諾を得て掲載)
(ご家族から提供,承諾を得て掲載)
る状態であったら,決して見ることが出来な
り,同時に「看取り」の始まりでもありました。
かった表情や仕草,そしてぬくもりを沢山感じ
娘は出生前診断により,18トリソミーという
ることが出来ました。限られた時間をこのよう
染色体異常があり,心臓をはじめとし多臓器に
に過ごせたのは,全て病院とスタッフの理解,
わたって重篤な疾患があることがわかりました。
連携のおかげでした。
(中略)
多くの赤ちゃんがお腹の中で亡くなってしまうと
そして,家族3人で初めて川の字で眠った日
言われましたが,私達は娘が生きて産まれてく
の朝,私達の間で気持ちよさそうにすやすやと
れる数%に望みをかけて担当医とも何度も相談
眠っていた心遙は,安らかに天使になりまし
を重ねながらこの日を迎えていました。そして,
た。6日間の生涯でした。
もし娘が元気に生まれてくることが出来たら,
「心遙,ありがとう。おやすみ」
娘のありのままの生命力を信じ,短いかもしれ
私達は涙を流しながらも,温かい気持ちで
ないしれない人生,本人が痛く辛い思いをするよ
いっぱいでした。そして短い時間ではあったけ
うな治療はしないでおこう,そして家族ですごす
れど,心遙がいい人達に沢山出会い,沢山可愛
時間を大切にしようと決めていました。
(中略)
がってもらえた事,家族で幸せな時間を過ごす
私達は病院の協力により母子同室で過ごさせ
ことが出来た事に感謝の気持ちでいっぱいでし
てもらい,できるだけ娘の側にいようと決めま
た。娘の与えられた命を,最大限輝かせて頂い
した。環境の整ったNICUから出る事は不安で
たと思います。
』
(写真3,
4,
5)
したが,モニター等を外した状態で自由にでき
る抱っこや添い寝がとても嬉しく,娘もとても
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もし娘が命を長らえる為だけに管理されてい
いのちの価値と治療の価値
幸せそうな表情で,私達の事をよく見つめてい
モナッシュ大学名誉教授ビクター・ユは,2010
ました。記念の手形足形もとり母乳を入れたお
年の第55回日本未熟児新生児学会の招待講演
風呂で沐浴させてあげることもできました。夢
「NICUにおける倫理的・医学的意思決定と慈し
のような時間でした。悲しみももちろんあるけ
みのケア」において,
「いのちの価値(Value of
れど,一瞬一瞬がすべて幸せで,私達のもとに
life)
」と「治療の価値(Value of treat­ment)」
生まれてきてくれて有難うという想いで何度も
について述べた9)。そして,いのちの価値はす
涙があふれました。
べて等しいが,侵襲的治療介入の価値は必ずし
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写真5:父親に抱っこされる心遙ちゃん
療概念の導入が必要とされる。その土台となる
のは,
「本人と家族中心のケア」
(尊厳・尊重,
情報共有,参加,協働)など,新しい理念の導
入と推進である10)。すなわち,本人の尊厳を尊
重し,家族と情報を共有し,医療チームと共に
決定に参加してもらい協働してケアにあたるこ
とである。医療者は,この理念を心に留め,本
人と家族の様々なニーズに対して多職種チーム
(ご家族から提供,承諾を得て掲載)
も同じではないと述べ,
「果たしてこの医的侵
襲行為が,児の尊厳にふさわしいか?」と問う
ことが重要であることを指摘した。このよう
に,日常の医療現場では患者の人権と同時に,
尊厳への配慮が益々重要となっている。
による専門的支援を行うことが期待される。
【Key Word】
最善の利益,侵襲的治療介入,協働意思決定,
緩和ケア,事前ケアプラン
【要旨】
現在,NICU(新生児集中治療室)やPICU(小
本人と家族中心のケア
児集中治療室)などにおいて,脳死など末期状
今NICUでは,母親の胸で家族に囲まれてFamily
られることが多い。今後,終末期においては,
態でも傷害行為に当たる侵襲的治療介入が続け
Roomで看取られることが多くなった。本人の写
医療チームと家族が児の最善の利益を中心に協
真だけでなく,家族や職員と一緒に記念写真を
働意思決定し,ときに緩和ケアなど児の尊厳に
撮る施設も増えつつある。また,お別れ会や遺
相応しい事前ケアプランを立て,多職種協働で全
族会の開催,霊安室を地下ではなく屋上に設置
人的に支援することが新たな臨床的課題となる。
する施設もでき,さらに正面玄関から見送りを行
うなど,グリーフケアへの関心も高まっている。
このように,死をタブー化せず,子どもを一
人の人間(人格)としてその人権と尊厳を支え
る様々な研究がなされるようになってきた。子
どもの死は忌むべき出来事として闇に葬ってい
た時代と比較して格段の違いである。
「子ども
の死は悲しいつらい出来事であることに違いは
ないが,決して悪い出来事としてタブー化して
はならない」というのが,私たちの確信である。
こうした医療を支えるためには,事実を直視
し,どのような状況でも本人の最善を支援する
多職種協働チームの育成が重要となる。そして,
延命医療技術が著しく進歩した集中治療の医療
現場にも「尊厳」をキーワードとした新しい医
引用・参考文献
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Health and Social Care Staff, The University of Nottingham. www.
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窪田昭男他編著:周産期医療と生命倫理入門,P.49 ~61,メディ
カ出版,2014.
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ンクール入賞作品,〈一般の部〉日本医師会賞,P.8,9,2014.
9)Victor Yu:Ethical medical decision-making and compassionate
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10)St. Jude Children’s Research Hospital:What is Patient Family
Centered Care?
https://www.stjude.org/(2015年12月閲覧)
こどもケア vol.10̲no.6
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