特集 「ショッピングマン・マーケティング」のすすめ 男性の消費者行動の特徴とマーケティング 対応 中 川 宏 道 財団法人流通経済研究所研究員 1.はじめに る。次いで第3節において、ケーススタディ として首都圏食品スーパーにおける男性の購 近年多くの小売業・メーカーが男性の消費 買状況を概観する。第4節では男性消費者の に注目し、そこに新たな成長分野を見出そう 特徴について消費者行動に関する既存研究の としている。その背景には、消費者としての レビューをおこない、それを受けて第5節で 男性のプレゼンスが増大してきている事実が は FSP データによる検証をおこなう。最後 ある。例えば、男性化粧品市場はここ数年緩 に、第6節では男性をターゲットとしたとき やかな右肩上がりを続けており、男性用化 のマーケティングについて、消費財メーカー 粧品市場は2004~07の3年間で24%も市場 への示唆を述べる。 1) が拡大している 。男性に特化した皮脂対策 グッズの充実や新ブランドの充実と、若い世 代の美容意識向上が相乗効果を生んでいると いうことである。また、夜間のスーパーに背 広姿の男性客が目立つようになっているとい 2) 2.男性消費者をとりまく 社会的環境 男性消費のプレゼンスが大きくなっている う報道もあり 、実際に営業時間を延長した 背景としては、男性消費者をとりまく社会的 食品スーパーでは、男性顧客の比率が増加し 環境が大きく変化してきていることがあげら ているという研究報告も存在する(寺本・東 れる。本節では、男性市場のなかでも中心的 2009) 。 な存在である30~59歳に焦点を当て、男性 いま、なぜ男性消費のプレゼンスが増して 消費者をとりまく社会的環境について、共働 きているのであろうか。また、男性消費者の き世帯の増加について説明し、このことに 購買行動の特徴はどのようなものであり、男 よって男性の買物時間の増加、男性のおこづ 性顧客を取り込むためには、消費財メーカー かい額の増加がもたらされ、結果として男性 は何をすべきであろうか。本稿では、男性購 消費のプレゼンスが増加している状況を説明 買者の購買行動の特徴と近年の傾向を抽出す する。 るとともに、男性顧客をターゲットにした店 頭マーケティングの示唆について述べる。ま ず第2節において、男性消費者のプレゼンス が高まってきている社会的背景について述べ 22 (1)共働き世帯の増加と専業主婦世帯の 減少 男性消費者をとりまく社会的環境の変化の 流通情報 2010(486) 図表1 専業主婦世帯と共稼ぎ世帯の推移 (万世帯) 1,200 1,100 男性雇用者と無業の妻からなる世帯(専業主婦世帯) 雇用者の共働き世帯 1,000 900 800 700 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 600 (出所)内閣府「男女共同参画白書」 中でも最も大きいものは、共働き世帯の増加 して、男性の買物時間が増加している(図表 と専業主婦世帯の減少である。図表1を見ら 2)。男性(有業者)の買物時間は、共働き れたい。1980年には専業主婦世帯は共働き 世帯、夫婦世帯ともに増加傾向にあること 世帯の約2倍近くであり、「働く夫と専業主 が見てとれる。2006年の1日当りの平均買 婦の妻」という伝統的な家族形態が支配的で 物時間は、共働き世帯、専業主婦世帯ともに あった。ところが、 1980年代を通じて専業 1986年の2倍以上となっている。一方、女 主婦世帯は減少の一途をたどる一方、共働き 性の買物時間は、共働き世帯、夫婦世帯とも 世帯は増加を続け、 1990年代に入ると両者 に20年間で横ばいの傾向となっており、(1) は拮抗することとなり、 1997年には逆転す でも述べた通り共働き世帯の割合が増加し、 るところとなった。2000年代に入るとさら 専業主婦世帯の減少によって、女性全体での に共働き世帯は増加する一方、専業主婦世帯 買物時間は減少してきている傾向にある。 は減少し、両者の差は拡大していっている。 このように、買物時間において女性は減少 つまり現在の家族形態は、「働く夫と専業 する一方男性は増加している傾向にあり、結 主婦の妻」という伝統的な男女の役割から乖 果として男性消費のプレゼンスは増大してき 離してきている状況にある。女性も働いてい ていることが分かる。 る訳であるから、買物や子育てにおける男性 の役割分担が増大してきていかざるを得ない 状況にあると考えられる。以下では買物時間 (3)共働き世帯におけるおこづかい額の 増加 とおこづかいという観点から、男性消費者の 共働き世帯が増加していることは、買物時 プレゼンスの増大について述べる。 間だけではなく買物に使う金額にも影響を与 えている。図表3は夫婦の職業別おこづかい (2)生活配分時間における男性の買物時 間の増加 額の調査結果である。「妻が専業主婦」世帯 のおこづかい額の3万円未満が31.9%である (1) で述べた通り、買物を含む家事におけ のに対して、「共働き」世帯のおこづかい額 る男性の役割分担が増大している状況を反映 の「3万円未満」は22.7%であり、その差の 男性の消費者行動の特徴とマーケティング対応 23 図表2 夫婦世帯における男女の買物時間の推移 (分) 60 50 52 53 53 35 34 51 50 35 35 女性無業者 (専業主婦世帯) 40 30 32 男性有業者 (専業主婦世帯) 20 10 0 女性有業者 (共働き世帯) 7 6 1986 1991 1996 16 12 14 11 13 9 10 7 2001 男性有業者 (共働き世帯) 2006 (出所)総務省統計局「社会生活基本調査」 ※平日、土日を含んだ1日当りの総平均時間(分) 図表3 夫婦の職業別おこづかい額 10万円以上 全体(N=306) 5万円~10万円未満 10.5% 夫が無職または 6.8% パート(N=59) 29.7% 3万円~5万円未満 31.4% 22.0% 42.4% 3万円未満 28.4% 28.8% 妻が専業主婦(N=94) 9.6% 30.9% 27.7% 31.9% 妻がパート(N=56) 8.9% 30.4% 28.6% 32.1% 共働き(N=97) 14.4% 0% 33.0% 20% 29.9% 40% 60% 22.7% 80% 100% (出所)クロス・マーケティング自主調査「男性の消費に関する調査」(2010 年6月)より算出 分だけ「10万円以上」、「5万円~10万円未 このように、専業主婦世帯の減少と共働き 満」、「3万円~5万円未満」のそれぞれの割 世帯の増加によって「働く夫と専業主婦の 合が「共働き」世帯の方が高くなっている。 妻」という伝統的な男女の役割が変更を迫ら ここから、専業主婦世帯よりも共働き世帯 れており、そのことが男性の買物時間の増加、 の方が男性のおこづかい額が増加する傾向が 男性のおこづかい額の増加をもたらして、そ あることが分かる。(1) でも述べた通り、専 の結果男性消費のプレゼンスが高まってきて 業主婦世帯が減少して共働き世帯が増加して いると考えられる。 いることから、男女の役割は従来の「男が稼 いで、女が使う」パターンから、 「女も稼いで、 男も使う」パターンへ移行しつつあることが 読み取れよう。 24 流通情報 2010(486) 3.男性消費者の食品スーパー における購買状況 ~首都圏食品スーパーにおける ほとんど差がないが、1 回当りの購買点数 して男性は1,605円と500円以上少ない。 は女性10.4に対し男性は6.9と少なくなって おり、1回当り購買金額も女性2,169円に対 ケーススタディ~ 本節では、男性消費者の購買状況について、 首都圏の食品スーパーを取り上げ、女性との (2) 来店時間 比較により特徴をみていく。対象は首都圏 図表5は、食品スーパーにおける来店客 食品スーパー A 店舗(駅前型)で、 2010年 数と男性比率である。来店客数については、 1月~6月の半年間の FSP データを用いた。 10時台~24時台の平均を1.0としたときの各 比較する指標としては、商品単価などの購買 時間帯における来店客数を示しており、 16 に関する基本情報の他、来店時間、年代別来 時台および17台が最も来店客数が多い。男 店時間、購買カテゴリーを使用する。 性比率は18時までは10%台であるが、 19時 以降は20%を超え、 21時以降は30%超える。 (1) 購買基本情報 20時以降では、男性比率は33%である。こ 図表4は、男女別の購買に関する基本指標 のように、食品スーパーでは夜間に男性の来 である。購買人数は男性を1としたときに、 店割合が増加する傾向がある。 女性は4.7である。商品単価の差は約10円で 図表4 男女別購買に関する基本的指標(平日) 来店客数 (男性=1) 男性 商品単価(円) 1 女性 4.7 1回当り購買 1回当り購買 点数(点) 金額(円) 231.8 6.9 1,605 222.0 10.4 2,169 (出所)流通経済研究所 図表5 食品スーパーにおける時間帯別来店客数(指数)と男性比率(平日) 1.6 女性 1.4 1.2 男性 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 男性比率 14% 12% 12% 12% 12% 12% 13% 14% 18% 24% 29% 32% 35% 39% 44% ※時間帯別来店客数は 10 時台~ 24 時台の平均来店客数を1とした場合 の指数 (出所)流通経済研究所 男性の消費者行動の特徴とマーケティング対応 25 図表6 食品スーパーにおける時間帯別年代別来店割合(男性、平日) 16% -29才 14% 12% 30-39才 10% 8% 40-39才 6% 50-59才 4% 2% 60才以上 0% 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 0 (時) (出所)流通経済研究所 図表7 食品スーパーにおける時間帯別年代別来店割合(女性、平日) 16% -29才 14% 12% 30-39才 10% 8% 40-39才 6% 50-59才 4% 2% 60才以上 0% 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 0 (時) (出所)流通経済研究所 (3) 年代別来店時間 この男性の来店時間の特徴は、女性とは対 次に、年代別に男性の来店の時間帯別割合 照的なものである。図表7は、女性年代別の を見てみる。図表6は、来店時間帯別の来店 時間帯別来店客割合である。30~59歳では、 客割合を各年代ごとに算出しているものであ 17時台~18時台をピークとして、午前と午 る。「60歳以上」は16時をピークとしてその 後夕方までの来店が多く、夜間の来店割合は 後の時間帯では減少し、夜間の来店は少ない。 低い。「60歳以上」は午後15時をピークとし しかし、それ以外の年代では19時以降の夜 て、夜間の来店割合は低い。ただし、「~29 間の来店が中心となっている。20~49歳で 歳」だけは19時台がピークで比較的夜間の は20時台がピークでその後の時間帯は減少 来店割合が高くなっている していくものの、夜間の来店割合は大きい。 男性の来店が夜間中心なのは、帰宅時間の 26 流通情報 2010(486) 図表8 東アジア諸都市における父親の帰宅時間(2005年) 16.0 6.3 19.4 15.9 14.0 1.7 2.9 1.5 16.5 ソウル 14.5 5.7 0.9 東京 15.6 13.5 10.4 9.0 11.6 7.1 3.4 1.5 1.2 1.6 1.0 1.0 0.0 0.9 0.9 0.3 5.0 2.8 1.2 1.0 22 23 0 1-5 29.5 21.4 11.0 北京 0.1 10.3 8.3 7.5 0.6 27.6 27.6 11.3 上海 0.0 2.3 6.2 5.9 24.9 6.4 24.9 13.6 8.2 8.0 台北 1.5 6-11 12-16 3.0 17 18 19 20 21 (時) (出所)ベネッセ教育研究開発センター「幼児の生活アンケート・東ア ジア5都市調査(2006 年) 図表9 男女別の購買金額の部門構成比(JICFS 小分類、平日20時以降) アルコール飲料 13.9% 5.9% 惣菜類 10.2% 12.9% 5.8% 5.4% 菓子 清涼飲料 2.9% 4.4% 4.1% 3.8% 3.3% 3.0% 2.6% 2.4% 2.6% 2.8% 2.4% 2.4% 2.1% 2.6% パン・シリアル類 刺身 乳飲料 デザート・ヨーグルト 麺類 冷凍食品 0% 2% 4% 男性 女性 6% 8% 10% 12% 14% 16% (出所)流通経済研究所 遅さが原因と考えられる。図表8は東アジア は、ソウルよりもさらに遅く23時台が最も の代表的都市における父親の帰宅時間の時間 多く、次いで21時台、 22時台が中心時間帯 帯別分布である。父親の帰宅の中心時間帯は、 となっている。 北京や上海は18時台~19時台がとなってお 日本においては、特にサービス業などにお り、台北はそれよりやや遅く19時台~20時 いて生産性が低く労働時間が長いことが指摘 台が中心時間帯であり、ソウルは台北よりも されているが、そればかりではなく、社内で さらに遅く、 20時台~21時台が中心時間帯 の根回しなどのためのコミュニケーション手 である。そして東京における父親の帰宅時間 段としての、いわゆる「飲みニケーション」 男性の消費者行動の特徴とマーケティング対応 27 なども帰宅時間を遅くさせる要因となってい に対して、男性は(よほど重要なケースを除 ることが考えられる。 き)簡便な方法(過去の経験、ステレオタイ プな見解、ブランド名など)を利用して意思 (4)購買カテゴリー 決定をおこなうことを、彼らは指摘してい 帰宅時間の遅い男性が、夜間の時間帯にお る。また、クリスマスギフトを買う際の店舗 いて食品スーパーに来店をしている訳である 内の情報(製品情報、POP、店員など)の が、それではどのようなものを購入している 活用に関する男女間の差をみた Laroche et のであろうか。図表9は、 20時以降におけ al(2000) の研究によると、男性は、①多く る男性の購入金額の上位10カテゴリーであ の情報がある場合、情報検索の労力を簡素化 り、それに女性の20時以降の購入金額部門 するために、店舗に入ると販売員の所に行き、 構成比を付加したものである。購入金額が高 欲しい商品だけをすぐに見つける、②ブラン いのは、 「アルコール飲料」、 「総菜類」、 「菓子」、 ド名のある商品を購入する際は、ブランド名 「清涼飲料」、「パン・シリアル類」などであ によって品質などを推定する(つまり、商品 る。特に女性の購入金額の部門構成比との差 情報を細かくチェックするのではなく、ブラ が大きいのは、「アルコール飲料」、「総菜類」、 ンド名を見るだけで商品品質についての推定 「清涼飲料」などである。 をする)、③値段に対して敏感なタイプの消 以上を合わせて考えると、帰宅時間の遅い 費者は、値段だけを商品選択のポイントとす 男性が、自分の遅い夕食もしくは晩酌のため る、などの特徴がある。対して女性の場合は、 に食品スーパーに立ち寄り、アルコール飲料、 ①製品の一般的な情報よりも、商品固有の情 総菜、菓子、清涼飲料などを買って帰る姿が 報をチェックする、②多くの情報がある場合、 浮かび上がってくる。 販売員に相談する傾向がある、ただし男性の ように情報検索の労力の簡素化のために相談 4.男性の消費者行動の特徴 ~既存研究のレビュー するのではなく、追加的な情報を得るために 販売員と会話をしている、③男性より包括的 に必要な情報をチェックする、という特徴が 本節では、男女間における消費者行動の違 ある。 いについて既存研究のレビューをおこなう。 また、八塩(2010)は自分の夫との買物 まず、(1) において男女間における情報処理 において観察から、以下のように述べている。 や購買行動の違いについて、(2) において男 性が購買や消費する際に重視するものについ 「夫とスーパーに行くと、毎度のことなが て、考察をおこなう。 ら購買行動の違いにびっくりさせられる。横 で見ていて突っ込みを入れたくて仕方がない。 (1)消費者行動研究における男女の違い 世の男性すべてが同じとは思わないが、日常 男女間の情報処理の違いについて研究を 的に買い物をしていない割に食にうるさいタ おこなったのが、Meyers-Levy & Sternthal イプの人はこんな感じなのではないか。(中 (1991) である。女性の方が、男性よりも(多 略) くのケースにおいて)より多くの情報に気付 漬物の試食をしてみておいしかったから即 き、より多くの情報を基に意思決定をするの 座にかごに入れ、写真つきの店頭販促広告 28 流通情報 2010(486) (POP 広告)に吸い寄せられたかと思えば、 (2) 男性消費者の重視点 チョコレートの箱を握りしめているという具 男性が食品スーパーにおいてどの売場を 合に、お店のおすすめに徹底的に従ってしま 重視しているのかを見るために、流通経済 う。結果、見たこともないほど長いレシート 研究所が2009年度におこなった消費者調査 を受け取るはめになる。お店側にとっては (2009年度店頭マーケティング研究会「購 『店頭マーケティング』のしがいもあるとい 買者の業態・店舗選択調査 結果報告(第8 うものだろう。」 回)」)より、店舗満足度と売場満足度の相関 が高いカテゴリーについて、男性と女性を比 つまり、男性は単純な意思決定をおこなう 較する。男性において店舗満足度と売場満足 傾向があるために、実際の店舗においては店 度の相関が高い(相関係数が0.6以上の)カ 頭の販促に簡単に反応してくれる顧客では テゴリーは、豆腐・納豆(相関係数0.66) 、肉・ ないか、ということを八塩(2010)は述べ 加工肉(同0.66) 、魚・魚加工品(同0.65) 、 て お り、 こ れ は Meyers-Levy & Sternthal 野菜・くだもの(同0.64) 、缶チューハイ(同 (1991) や Laroche et al(2000) の研究と整合 0.62) 、ビール類(同0.61) 、スナック(同0.61) 、 的である。 乳酸菌飲料(同0.61) 、総菜(同0.61) 、弁当(同 上記の研究もしくは観察から、男性は簡便 0.60) 、チョコレート(同0.60) 、である。一方、 にあまり労力をかけずに意思決定をおこない 女性において店舗満足度と売場満足度の相関 購買するのに対して、女性は包括的に精緻に が高い(相関係数が0.6以上の)カテゴリーは、 情報処理をおこない、購買する傾向があると 肉・加工肉(同0.69) 、魚・魚加工品(同0.66) 、 言える。ただし、これは女性の方が男性より 野菜・くだもの(同0.65) 、豆腐・納豆など(同 も包括的な情報分析能力が高いということ 0.65) 、100%果汁・野菜飲料(同0.61) 、コー ではなく、包括的な情報処理 をおこなうた ヒードリンク(同0.61) 、乳酸菌飲料(同0.60) 、 めの閾値が、女性の方が男性よりも低いと である。生鮮三品や和日配などが上位にラン いう意味である(Meyers-Levy & Sternthal クされているのは男女間で共通である。しか 1991) 。 し、缶チューハイ、ビール類、スナック、総 図表10 男女別(年代別)食事での重視点 (性・年代) 全体(N=2422) 空腹が満た されること 栄養が とれること 18% 21% 簡単に すませること 3% 41% 男性16~29歳(N=179) 12% 2% 14% 男性60歳以上(N=374) 23% 24% 女性16~29歳(N=210) 12% 27% 女性60歳以上(N=424) 11% 30% 0% 20% 20% 37% 8% 44% 4% 17% 33% 10% 2% 女性30~59歳((N=667) 楽しく 食べること 38% 12% 2% 25% 男性30~59歳(N=568) おいしいものを 食べること 26% 47% 1% 4% 40% 17% 42% 25% 60% 17% 30% 80% 100% (出所)NHK 放送文化研究所「食生活に関する世論調査」(2006 年調査) 男性の消費者行動の特徴とマーケティング対応 29 菜、弁当、チョコレートなどは男性に特有の クとビール類(ビール・発泡酒・新ジャン カテゴリーとなっており、男性消費者は特に ル)を取り上げ、価格弾力性およびエンド弾 重視しているカテゴリーであると解釈できる。 力性について検証をおこなう。 次に、男性が食事において重視することを 見ていく。図表10は、食事にあたって重視 (1)検証すべき仮説 することを、5つの選択肢から1つ選んだ回 男性の方が買物に慣れていないためにエン 答結果である。5つの選択肢とは、「空腹が ド陳列の商品が目新しく感じる、または夜間 満たされること」、「栄養がとれること」、「簡 の買物ゆえに早く済ませようとするために、 単にすませること」、「おいしいものを食べる エンドには反応しやすいであろう。一方、男 こと」、「楽しく食べること」である。男性の 性の購買頻度は女性に比べて低く、かつ買物 16~29歳では、「空腹が満たされること」が に対する関与度も女性に比べれば低いと考え 41%で最も高くなっているのに対して、男 られるため、以前の買物時の値段をあまり覚 性の30~59歳では、「おいしいものを食べ えておらず、値ごろ感がつかみにくいであろ ること」が44%と最も高くなっている。そ う。したがって、想定される仮説は以下の通 して男性の60歳以上では、「楽しく食べるこ りである。 と」(26%)、「栄養が取れること」(23%) が高い。女性との比較では、男性は「空腹が 仮説① 男性の方が女性よりもエンドによく 満たされること」の割合が高く、「栄養がと 反応する、すなわちエンド弾力性が高 れること」の割合が低い傾向にある。 い 仮説② 男性の方が女性よりも価格に敏感で 5.男性の消費者行動の特徴 ~食品スーパーにおける検証~ はない、すなわち価格弾力性は低い (2)データ概要および対象商品 これまで、食品スーパーにおいて男性は夜 首都圏食品スーパー A 店舗(駅前型)を 間の時間帯に買物をする傾向があり、「アル 対象とし、 2010年1月~6月の半年間の週 コール飲料」、「総菜類」、「菓子」などを中心 別データ(FSP データ)を用いた。 に購入する傾向にあり、缶チューハイ、ビー 対象商品については、スナック、および ル類、スナック、総菜、弁当、チョコレート ビール類の売上金額上位20アイテムのうち、 などの売場満足度と店舗満足度との相関が高 価格弾力性を算出する回帰式(後述)の修正 いことを述べた。また、男性はあまり労力を 済み決定係数が0.3以上のものを対象とした。 かけずに簡便な意思決定をする傾向があり、 スナック12アイテム、ビール類12アイテム エンドや POP などの店頭マーケティング施 が対象である。 策に反応しやすい可能性があることを述べた。 以上を踏まえて本節では、首都圏の食品スー (3)回帰式 パーでの男性の購買の特徴を、女性との比較 分析に用いた価格弾力性およびエンド弾力 においてみていく。具体的には、男性は店頭 性を算出する際に回帰式は、以下の通りであ マーケティング施策に対して反応しやすいと る。 いうことを検証するために、ここではスナッ log(T) = b1 log(P) + b2E + b2C + b0 30 流通情報 2010(486) ただし、T;点数 PI、P;売価、E;エンド(0 いては、女性の方が男性よりも高くなってい もしくは1)、C;チラシ(0もしくは1)であ る。男性は女性に比べて価格に対して敏感で る。エンド弾力性は、exp(b2) として求めて はないことが分かる。 おり、exp(b2) 倍の効果があると解釈できる。 エンド弾力性が特に高いアイテムに注目し てみると、いわゆる「おつまみスナック」と (4)分析結果 呼ばれているジャンルの「C 社 38g」の2 スナックについての男女別価格弾力性とエ アイテムがエンド弾力性が3を超えており、 ンド弾力性を求めたものが、図表11である。 価格を変えなくともエンドに陳列しただけで エンド弾力性については、男性の方が女性よ 売上数量が3倍を超える効果があることが分 りも弾力性が有意となっているアイテム数が かる。しかも、このアイテムは女性について 多く、かつ弾力性の平均値も高い(男性2.25 はエンド弾力性が有意とはなっていない。こ に対して、女性1.75) 。一方価格弾力性につ の商品は、アルコールや総菜のついでに酒の 図表11 男女別価格弾力性とエンド弾力性(スナック) A社 18g×5 A社 60g D社 115g C社 38g A社 70g B社 30g×5 A社 150g A社 58g C社 38g C社 38g A社 58g D社 115g 価格弾力性 男性 女性 -5.08 -6.38 -6.72 -6.76 -3.87 -8.57 -5.45 -7.43 -4.34 -6.65 -3.57 -5.54 -5.16 -7.46 -6.41 -6.12 -4.74 -4.92 -5.72 -7.18 -4.53 -7.05 単純平均値 -5.05 商品名 -6.73 エンド弾力性 男性 女性 2.21 1.91 1.32 1.25 1.99 3.52 1.77 1.87 1.39 3.21 2.31 - 2.25 1.75 (出所)流通経済研究所 ※ -:統計的に有意でない ※ チラシ弾力性は省略 図表12 男女別価格弾力性とエンド弾力性(ビール類) 商品名 A社 350ml×6 B社 350ml×6 B社 350ml×6 D社 350ml×6 C社 350ml×6 C社 350ml×6 C社 500ml B社 350ml×6 B社 350ml×6 C社 350ml C社 350ml D社 500ml 単純平均値 価格弾力性 男性 女性 -4.65 -3.01 -10.03 -8.30 -5.63 -5.67 -7.58 -7.84 -14.24 -10.51 -10.65 -12.84 -17.51 -19.64 -4.58 -4.41 -8.70 -8.21 -13.93 -12.69 -18.50 -15.10 -12.32 -14.88 -10.69 -10.26 エンド弾力性 男性 女性 1.31 - - 1.31 - (出所)流通経済研究所 ※ -:統計的に有意でない、/:エンド実績なし ※ チラシ弾力性は省略 男性の消費者行動の特徴とマーケティング対応 31 つまみに合うものとして、特に男性にエンド 簡潔に済ませて早く帰りたいという心理状態 で購入されたものであろう。 であると考えられる。特に、「アルコール飲 一方、ビールについての男女別価格弾力性 料」、「総菜」、「菓子」、「清涼飲料」、「パン・ とエンド弾力性を求めたものが、図表12で シリアル類」を早く買って帰りたいという ある。エンド弾力性については、男性の1ア ニーズが高いであろう。したがって、男性消 イテムのみが有意であったものの、それ以外 費者を取り込むためには、ショートタイム はエンド効果は確認されなかった。価格弾力 ショッピングが可能な売場レイアウトが必要 性については、男女間でほとんど差がない(男 である。買物客にとっての時間効率の高い店 性 -10.69、女性 -10.26) 。すなわち、男性も 舗の方が、(結果的にもう1品購買がなされ ビール類については普段から購入するカテゴ るために)店舗全体の売上も高くなるという リーであるために普段の購入価格を覚えてお 主張(Sorensen 2009) もあり、購買金額の り、値ごろ感があるために価格に対して敏感 上昇という観点からもショートタイムショッ であることが考えられる。 ピングが可能な売場レイアウトは重要である。 以上のことから、スナックについては仮説 通常の買物客の動線は、青果側入口から ①と②は確認されたが、ビール類では確認さ 入って、青果→和日配→鮮魚→精肉→洋日配 れなかった。スナックなどの商品については →パン・シリアルという外周の通路を通りな 関与度も低く、買物に慣れていない、または がら、必要に応じて加工食品売場に立ち寄る 夜間の買物ゆえに早く済ませようとするため パターンである。しかし、男性のショートタ に、エンドには反応しやすい。また、値ごろ イムショッピングにおいては、まず総菜を 感を知らないため、価格感度は低い。しかし 購入した後、鮮魚、精肉まで立ち寄らずに、 ビール類は、男性にとっていわゆる「デスティ ショートカットをする形で中通路を通り、途 ネーション」すなわち来店目的となるカテゴ 中に菓子などを購入しながら、アルコール飲 リーであり、関与度も比較的高いために価格 料や清涼飲料、パン・シリアル類を購入して 感度についても比較的高くなっていることが レジに向かうパターンが想定される。した 考えられる。 がって、中通路のエンドにおいて男性消費者 をターゲットとした商品を訴求することが重 6.消費財メーカーへの店頭 マーケティングへの示唆 要である。 どのような訴求をおこなうべきかは、5節 でみたエンド弾力性分析の結果が参考になろ 以上2節から5節までにみた男性消費者 う。すなわち、おつまみスナックのエンド弾 (30~59歳)の特徴をふまえた上で、消費 力性が高いことから、アルコール飲料に関連 財メーカーに対する店頭マーケティングに関 した商品の提案、例えば「ビールに合います」 する示唆を考察したい。 などの訴求による菓子や総菜の提案が効果的 であろう。 (1)ショートタイムショッピングが可能 な売場レイアウト 男性消費者が食品スーパーに来店するのは 仕事帰りの夜間の時間帯であるため、買物を 32 (2)タイム・マーチャンダイジングの導 入 時間帯によるマーチャンダイジングの変更 流通情報 2010(486) ということも重要な切り口になってくると思 セージを訴求することが可能となったという われる。夜間になると男性の来店割合が高く (Levy and Weitz, 2007)。 なるということは、すなわち価格感度の高く また、時間帯別価格の導入も(運用面での ない、そしてエンドや POP などに反応しや 課題はいくつかあると思われるが)検討に値 すい顧客が夜間に増加するということである。 するであろう。特に電子棚札が普及している したがって、昼間と夜間では、訴求ポイント 現在では、時間帯による売価の変更は現時点 を価格訴求から非価格訴求(例えば (1) で述 でも容易である。価格感度が高くない顧客が べた「ビールに合います」の訴求など)へ変 多いにもかかわらず昼間・夕方の特売価格を 更することが望ましい。 そのまま夜間に適用するのは一種の売上ロス もちろん売場を時間帯によって変えること である。 はオペレーション上の問題から簡単ではない。 しかし、デジタルサイネージなどの臨機応変 にコンテンツを変更することが容易なツール (3)インストア・マーチャンダイジング の徹底 を用いれば、訴求内容を時間帯によって変え 男性は店頭施策に反応しやすいことから、 ることは容易にできる。例えば、エディーバ ISM(インストア・マーチャンダイジング) ウアー(Eddie Bauer)は、顧客の購買デー を徹底すれば、その改善効果は女性以上に タを分析から、価格に敏感な顧客は朝に来店 高いことが容易に想定される。したがって、 し,よりブランドを意識した顧客は午後と夕 ISM に忠実な売場づくりの徹底が求められる 方に来店することを発見し、店先のデジタル であろう。具体的には、売れ筋商品を動線上 サイネージのコンテンツを,朝には低価格帯 の優位置に大量陳列する、値引率は低くても と特売商品を強調したものとし,午後以降に よいので、POP などで「新商品」や「特売」 は高価格帯とブランドイメージを強調したも などの訴求メッセージをきちんと訴求するこ のとした。その結果、顧客に応じた適切なメッ とがより重要である。 図表13 男性と女性の平均身長の推移(30歳台) 175 170 171.6 166.1 165 身 長 160 ㎝ 162.3 158.3 155 150 154.6 150.3 145 男 140 女 135 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 (出所)厚生労働省「国民栄養・健康調査」 男性の消費者行動の特徴とマーケティング対応 33 その際に注意すべきは、男性と女性の体格 ング施策として重要になることを述べた。 の違いである。男性は女性よりも13㎝ほど 男性消費者のプレゼンスの増加は、共働き 平均身長が高い(図表13)。したがって、棚 世帯の増加という社会構造の変化を背景とし 割の優位置は女性に比べて10㎝以上高くな ており、この流れは今後ますます強くなって る。男性の身長に留意した優位置の設定が求 いくと思われる。したがって、消費財メーカー められる。 としては、先手を打って小売業とともに早く から取り組まなければならない。男性の買い 7.まとめ やすい売場づくりは、これまでの「男性が稼 いで女性が使う」社会から「女性も稼いで男 これまで、 30~59歳の男性消費者に焦点 性も使う」社会への移行において不可避のも を当てて、消費者行動の特徴や店頭マーケ のであり、大げさに言えば、男女共同参画社 ティング対応についてみてきた。まとめると 会の第一歩となるであろう。 以下の通りである。 -共働き世帯の増加によって、買物における 〈注〉 1) 『DRUG STORE NEWS』2009年2月号 2) 日経流通新聞2006年4月4日 男性消費者のプレゼンスが高まっている -男性消費者の買物は、仕事帰りの遅い時間 におこなわれる -男性消費者の買物においては、「アルコー ル飲料」、「総菜類」、「清涼飲料」の構成比 が女性よりも高い -男性の方が簡便な方法で意思決定をおこな い、特売やエンド陳列などの店頭プロモー ションに反応しやすい -食品スーパーでは、生鮮三品以外では、弁 当・総菜とビール、缶チューハイ、スナッ ク、チョコレート、乳酸菌飲料などの売場 評価と店舗満足度との相関が高い これらのことから、ショートタイムショッ ピングが可能なレイアウト、タイム・マー チャンダイジングの導入、インストア・マー 〈参考文献〉 Laroche,M., Saad,G., Cleveland,M., & Browne,E. (2000). Gender differences in information search strategies for a Christmas gift. Journal of Consumer Marketing , 17, 6, 500-524. Levy, M. and B. A. Weitz (2007) Retailing Management 6th Edition, New York: McGraw-Hill, Meyers-Levy,J., & Sternthal,B. (1991), Gender differences in the use of massage cues and judgements. Journal of Marketing Research , February, 84-96. Sorensen, H (2009) Inside the Mind of the Shopper , New Jersey: Wharton School of Publishing 寺本高・東佳世子(2009) 「男の買物と消費」 『店頭 マーケティング研究会報告資料(2009年度) 第3回』(財団法人流通経済研究所) 八塩圭子(2010) 「『男の買い物』は宝の山?」日経 流通新聞3月22日、5ページ チャンダイジングの徹底、が店頭マーケティ 34 流通情報 2010(486)
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