建物の発破解体効率向上に向けた発破箇所選定方法の検討

建物の発破解体効率向上に向けた発破箇所選定方法の検討
構造エネルギー工学専攻 1 年
東
健太
E-mail:[email protected]
指導教員
1.
緒言
𝜎𝑖2 = ∑𝑗
建物の発破解体は欧米では盛んだが,その解体計画はノ
磯部
̅̅̅̅ (𝑖)−𝐾𝐼𝑖,𝑗 )2
(𝐾𝐼
𝑁𝑖
大吾郎
(4)
設計強度の高い日本の建物へ適用することは容易ではない.
̅̅̅ は全層に残存する全ての柱の𝐾𝐼から算出する平
ここで,𝐾𝐼
̅̅̅
均値,𝐾𝐼 (𝑖)は𝑖層に残存する全ての柱の𝐾𝐼から算出する平
そこで本稿では,建物全体に対する柱部材の寄与度を数値
均値,𝐾𝐼𝑖,𝑗 は,𝑖層の柱番号𝑗における𝐾𝐼,𝑁𝑡𝑜𝑡𝑎𝑙 は全層に残
化したキーエレメント指標(以下𝐾𝐼)の分散を利用した建
存する全柱数,𝑁𝑖 は𝑖層に残存する全柱数,𝜎 2 は全層での𝐾𝐼
物の発破箇所選定方法を検討する.また,その分散を用い
の分散, 𝜎𝑖2は𝑖層(単層)での𝐾𝐼の分散を表す.
た場合の解体効率を比較する選定方法に𝐾𝐼の大小に基づ
この方法で𝐾𝐼の分散を算出・比較し,値が最大となる柱を
く建物の発破箇所選定方法を用いる.先行研究[1]で有効性
第 1 発破箇所として選定する.その際,部分的な崩壊に留
が示されている段発方式の発破解体における第 1 発破箇所
まる可能性が極めて高いため,最上層は発破の対象から除
の選定に重点を置き,𝐾𝐼の差が大きな柱を層内に混在させ
外した.次に,第 1 発破後に残存する柱の中から𝐾𝐼が大き
ることで発破解体効率の向上を試みた.複数のモデルに対
い順に順位を付け,任意の順位までの柱を第 2 発破箇所と
して ASI-Gauss 解析コード[2]を用いた発破解体解析を実施
して選定する.これらの条件を基に実施した解析では,自
し,解体効率を発破柱数と残存物高さの和の関係を用いて
重載荷の後,第 1 発破を 1.0 s,第 2 発破を 4.0 s に行った.
調査した結果を報告する.
2.3 𝐾𝐼の大小に基づく発破箇所選定
2.
2 発破箇所は第 1 発破後に残存する柱の𝐾𝐼の大きい順に選
ウハウに大きく依存しているため定量的な判断基準がなく,
第 1 発破箇所は𝐾𝐼に順位を付け,小さい順に選定し,第
𝐾𝐼に基づく発破箇所選定方法
2.1 キーエレメント指標𝐾𝐼
定する方法(以下,𝑆 − 𝐿方式)を検討する.また,第 1 発
健全な建物の全柱梁接合部に対し,鉛直方向に荷重増分
破箇所は𝐾𝐼の大きい順に選定し,第 2 発破箇所は𝐾𝐼の大き
を加え,建物のいずれかの柱部材に降伏現象が生じた瞬間
い順に選定する方法(以下,𝐿 − 𝐿方式)について検討する.
の降伏限界荷重を 0𝑃𝐺 とおく.同様に,任意の𝑖層内の柱番
解析は,𝐾𝐼の分散を用いた場合と同様の条件で行った.
号𝑎を除去した状態の建物に鉛直方向に荷重増分を与え,𝑖
層以下のいずれかの柱部材に降伏現象が生じた瞬間の降伏
限界荷重を 1𝑃𝐺 (𝑖, 𝑎)とおく.これらの降伏限界荷重の比を
用い,この柱番号𝑎の𝐾𝐼を以下のように定義する[2].
0
1𝐾𝐼𝑖,𝑎
= 0𝑃𝐺 ⁄ 1𝑃𝐺 (𝑖, 𝑎)
(1)
添え字の 0 は健全な建物の降伏限界荷重を用いていること
を示し,添え字の 1 は柱 1 本を除去した第 1 次選定後の状
態であることを示す.同様に,第(𝑛 − 1)次選定までに選定
された柱を除去した後の建物の強度に対する𝑖層柱番号𝑏の
寄与度は,第𝑛次選定では以下のように定義できる.
𝑛−1
𝑛𝐾𝐼𝑖,𝑏
=
𝑛−1𝑃𝐺 ⁄ 𝑛𝑃𝐺
(𝑖, 𝑏)
(2)
ここで,右辺分子 𝑛−1𝑃𝐺 は,第(𝑛 − 1)次選定までに選定され
た柱を除去した状態の建物の降伏限界荷重であり,第(𝑛 −
1)次選定までの選定状況に応じて値が変化する.
2.2 𝐾𝐼の分散を用いた発破箇所選定
第 1 発破後の欠損した状態の建物に突出して大きな𝐾𝐼を
柱の𝐾𝐼に対する分散により柱の寄与度のバラつきを評価
する.𝐾𝐼の分散は,建物全体に残存する柱の𝐾𝐼から算出す
る方法(以後,𝜎 2 を大きくするパターン)と各層ごとに残
存する柱の𝐾𝐼から算出する方法(以後,𝜎𝑖2 を大きくするパ
ターン)の 2 種類の方法によって算出した.前者は以下の
式(3),後者は式(4)によって求められる.
̅̅̅̅ −𝐾𝐼𝑖,𝑗 )2
(𝐾𝐼
𝑁𝑡𝑜𝑡𝑎𝑙
解析モデル
解析モデルは,3 層,10 層の鋼構造の建物を想定した.
いずれのモデルも 3×3 スパン,階高は各層 4 [m],幅およ
び奥行きのスパン長は全て 7 [m]とした.各モデルには固定
荷重と積載荷重を合わせて単位床面積あたり 800 [kgf/m2]
が作用するものとして設計している.各モデルの諸元とと
もに概観図を表-1 に示す.また,本稿で用いる各モデルは,
梁には SS400 の鋼材を用いた H 形鋼,柱には SM490 の鋼
材を用いた角形鋼管を使用している.床は塑性化を起こさ
ない弾性要素とした.
実際に,3 層 3×3 スパンの建物のモデルに対して算出し
た𝐾𝐼を図-1(a)に示す.また,一例として𝜎12 を大きくする
表-1 モデルの概観図
持つ柱を作り出す第1発破箇所の選定を目指す.そこで,
𝜎 2 = ∑𝑖 ∑𝑗
3.
(3)
パターンで第 1 発破箇所を選定した場合の𝐾𝐼の分布を図
を大きくするパターンと𝑆 − 𝐿方式および𝐿 − 𝐿方式の解体
-1(b)に示す.図中の■は,第 1 発破箇所に選定した柱であ
効率は同程度であることが言える.3 層モデルでは,𝐾𝐼の分
る.この結果から,𝜎12 を大きくするパターンでは最下層に
散を用いた場合と𝑆 − 𝐿方式と𝐿 − 𝐿方式で解体効率に大き
突出して寄与度の高い柱ができていることが分かる.10 層
な差は生じなかった.一方,図-2(b)の 10 層モデルでは,𝑆 − 𝐿
モデルで𝜎12 を大きくするパターンを用いて選定した際も 3
方式よりも𝐾𝐼の分散を用いた場合の解体効率が全体的に良
層モデルと同様の傾向が得られた.
い結果が分かる.さらに,𝐿 − 𝐿方式の場合の解体効率が最
も良いことがわかる.これは,第 1 発破終了時に最下層に𝐾𝐼
4.
発破解体解析結果
2
の大きな柱ができることに加えて,寄与度の高い柱を発破
を大きくするパターンおよび𝜎𝑖2 を大きくするパターン
することで建物全体の強度が大きく低下しているため,第 2
(1 層~3 層),さらに,𝑆 − 𝐿方式と𝐿 − 𝐿方式による発破解
発破時の解体効率が良好となり,少ない発破柱数で残存物
体解析を実施し,それぞれの方式の解体効率を調べた.解
高さの和を低く抑えられる結果となった.3 層モデルと 10
体効率は,発破柱数と残存物高さの和の関係より評価した.
層モデルを比較すると,3 層モデルは冗長性が低いため,発
ここで,残存物高さの和とは,発破解体解析終了時の全て
破箇所選定方法に依存性がなく解体できる傾向にある.し
の柱梁接合部節点の高さ方向(Z)座標値を足し合わせた値
かし,10 層モデルは冗長性が高いため,選定方法の違いで
であり,健全状態の高さの和で割ることで無次元化した.
解体までに多くの発破柱数を必要とする.
𝜎
発破柱数は,健全状態における全柱数で割り無次元化した.
以上のことから,冗長性の高い建物で解体効率を上げる
全ての場合における発破柱数と残存物高さの和の関係を図
には,第 1 発破と第 2 発破の両方で寄与度の高い柱を発破
-2 に示す.図-2(a)の 3 層モデルでは,𝜎𝑖2 を大きくするパタ
箇所に選定することが有効であると示された.
ーンは分散を求める対象の柱が低層にあるほど左下の領域
に分布し,解体効率が良好であることが確認できる.𝜎 2 を
5.
結言
大きくするパターンは発破柱数,残存物高さの和ともにほ
本稿では,建物の発破解体効率の向上を目指し,発破箇
ぼ中間辺りの領域に位置している.これらの傾向と𝑆 − 𝐿方
所選定方法の検討を行った.選定結果を用いて発破解体解
式および𝐿 − 𝐿方式を比較すると,上層部の𝐾𝐼の分散を大き
析を行った結果,3 層モデルでは,𝐾𝐼の分散を用いた場合と
くするパターンでは解体効率が悪いことが言える.また,𝜎12
𝐾𝐼の大小に基づく場合で解体効率に大きな差は見られなか
った.10 層モデルでは,第 1 発破箇所の選定方法が重要と
3F
3F
1 .0 6 0
1 .0 6 6
1 .0 6 6
1 .0 6 0
1 .0 0 5
0 .9 9 9
0 .9 9 9
1 .0 0 5
なり,𝐾𝐼の小さな柱から選定した場合より𝐾𝐼の分散を用い
1 .0 6 6
1 .0 5 4
1 .0 5 4
1 .0 6 6
1 .1 9 0
1 .0 0 2
1 .0 0 2
1 .1 9 0
た場合の解体効率が良くなった.だが,解体効率が最も良
1 .0 6 6
1 .0 5 4
1 .0 5 4
1 .0 6 6
1 .1 9 0
1 .0 0 2
1 .0 0 2
1 .1 9 0
くなる傾向が現れたのは第 1 発破で𝐾𝐼の大きな柱から選定
1 .0 6 0
1 .0 6 6
1 .0 6 6
1 .0 6 0
1 .0 0 5
0 .9 9 9
0 .9 9 9
1 .0 0 5
した場合であった.今後は,それぞれの発破箇所選定方法
2F
2F
の有効性を検証するために解体効率だけでなく,解体時の
1 .1 3 3
1 .1 4 6
1 .1 4 6
1 .1 3 3
1 .1 4 6
1 .0 6 4
1 .0 6 4
1 .1 4 6
1 .6 1 6
1 .0 8 0
1 .0 8 0
1 .6 1 6
1 .1 4 6
1 .0 6 4
1 .0 6 4
1 .1 4 6
1 .6 1 6
1 .0 8 0
1 .0 8 0
1 .6 1 6
1 .1 3 3
1 .1 4 6
1 .1 4 6
1 .1 3 3
参考文献
[1]
1F
1F
安全性を考慮した発破箇所選定方法を検討する.
日下善輝,磯部大吾郎:キーエレメント指標に基づい
1 .2 2 4
1 .2 0 5
1 .2 0 5
1 .2 2 4
1 .1 5 7
1 .1 5 7
た発破解体計画手法 その 5,日本建築学会 2015 年度
1 .2 0 5
1 .0 8 7
1 .0 8 7
1 .2 0 5
3 .1 2 3
3 .1 2 3
大会(関東)学術講演梗概集, (2015), pp. 295-296.
1 .2 0 5
1 .0 8 7
1 .0 8 7
1 .2 0 5
3 .1 2 3
3 .1 2 3
1 .2 2 4
1 .2 0 5
1 .2 0 5
1 .2 2 4
1 .1 5 7
1 .1 5 7
𝜎12を大きくするパターン
(b)
(a) 健全状態時
図-1 𝐾𝐼の分布(3 層モデル)
(a) 3 層モデル
図-2
[2]
D.Isobe: An Analysis Code and a Planning Tool Based on a
Key Element Index for Controlled Explosive Demolition,
International Journal of High-Rise Buildings, Vol.3, No.4,
pp. 243-254, 2014.
(b) 10 層モデル
発破柱数と残存物高さの和の関係
キーエレメント指標を用いた建物の進行性崩壊の危険性予測
構造エネルギー工学専攻 M1 我妻光太(E-mail:[email protected])
指導教員:磯部大吾郎教授
副指導教員:境有紀教授,田中聖三助教
1. 緒言
建物の進行性崩壊現象は,2001 年の米国同時多発テロに
𝑅
よる WTC ビルの全体崩壊によって広く認識されることと
∑ ∑ [𝐾𝐼𝑖, 𝑚(𝑖,𝑗) ]
なった.WTC1号棟および 2 号棟は,航空機の衝突とそれ
によって引き起こされた火災が原因となり,後者は航空機
𝑙𝑖
(2)
𝑖=1 𝑗=1
= 𝐾𝐼1, 𝑚(1,1) + 𝐾𝐼1, 𝑚(1,2) + ⋯ + 𝐾𝐼1, 𝑚(1, 𝑙 ) +
1
𝐾𝐼2, 𝑚(2,1) + ⋯ + 𝐾𝐼𝑅,𝑚(𝑅, 𝑙
衝突後約 1 時間,前者は約 1 時間半で完全に崩壊した[1].
𝑅)
ど様々な構造パラメータに依存する。そこで本研究では,建
ここで,𝑅,𝑙𝑖 ,𝑚(𝑖, 𝑗)はそれぞれ建物の全層数,𝑖層で除
去される柱の本数,およびその 𝑗本目の柱番号を表す.本研
物全体の強度に対して構造部材が有する寄与度と進行性崩
究では,設定した柱除去位置における𝐾𝐼積算値と建物の崩
壊の発生する危険性との定性的な関係を調査することを目
壊形態の関連性について考察する.
進行性崩壊が発生する危険性は欠損の規模,建物の強度な
的 と し , 大 規 模 骨 組 構 造 の 構 造 解 析 に 実 績 の あ る ASIGauss 法[2]を用いて建物から特定の柱を除去する崩壊解析
3. 解析モデルと解析条件
を行った.柱部材が建物全体の強度に対して有する寄与度
解析対象として,図 1 に示すような 10 層 3×3 スパンの
を表すキーエレメント指標[3](以下𝐾𝐼)と進行性崩壊の規
高構造建築物をモデル化した.建物の柱部材には SM490 の
模との関係を示し,進行性崩壊が発生する危険性を予測す
鋼材を用いた角形鋼管,梁部材には SS400 の鋼材を用いた
ることを試みた.
H 型鋼を使用した.床については全て塑性化を起こさない
弾性要素とした. モデルを設計する際,建物には固定荷重
と積載荷重を足し合わせた単位面積当り 800 kgf/m2 の荷
2. キーエレメント指標
𝐾𝐼とは,建物の強度に対する柱の寄与度を数値化したも
重が作用するものとした.柱と梁の断面寸法は,ベースシア
のである.建物の全柱梁接合部に対し鉛直方向に荷重増分
係数に基づき建物に必要とされる水平耐力を満たすように
を与え,建物最下層部のいずれかの柱部材に降伏現象が起
決定した.建物の進行性崩壊現象を顕在化させるため,いず
きた際の荷重を降伏限界荷重𝑃𝐺 と定義することで,任意の𝑖
れも日本の建築基準に対してはかなり低強度のモデルとな
層内の柱番号𝑎における𝐾𝐼を以下のように定義する.
っている.最大軸力比 n=0.124,0.200,0.300,0.400,0.500
のモデルをそれぞれモデル A,B,C,D,E と表記する.
(1)
𝐾𝐼𝑖, 𝑎 = 0𝑃𝐺 ⁄ 1𝑃𝐺 (𝑖, 𝑎)
表 1 に各モデルの最大軸力比とベースシア係数を示す.
建物の崩壊形態は,除去する柱の本数や位置などによっ
て変化することが予想される.本稿では,単層区画内の 12
添え字の 0 は,健全な状態の建物の降伏限界荷重である
本の柱除去に限定し解析を実施した.除去する柱の平面位
ことを示す.また,添え字の 1 は,柱を 1 本除去した状態
置を 10 種類設定し、5 つの解析モデルでそれぞれ 1 階から
での建物の降伏限界荷重であることを示す.すなわち𝐾𝐼は,
10 階まで柱除去層を設定することで計 500 パターンの解析
健全な建物の強度に対する柱 1 本の寄与度を表す.
を行った。時間増分は 1.0 ms とし,計 10.0 s まで解析を行
本研究において,キーエレメント指標の積算値(以下𝐾𝐼
積算値)を除去されるすべての柱の𝐾𝐼を足し合わせたもの
と定義し,以下のように表す.
った.解析中,柱の除去は 1.0 s 時に行った。
進行性崩壊の規模を定量的に評価するための指標として,
次の崩壊前後における解析モデルの位置エネルギーが減少
した割合を表す位置エネルギー減少率を用いた.
位置エネルギー減少率=
(3)
𝑈0 −𝑈𝑓
𝑈0
ここで,𝑈は解析モデルが有する位置エネルギーを示し,
添え字0,𝑓はそれぞれ健全時,解析終了時の値であることを
示す.位置エネルギー𝑈は,モデルを構成するはり要素の位
40 m
表1
各モデルの最大軸力比とベースシア係数
Z
Y
X
21 m
図1
21 m
解析モデルの鳥瞰図
最大軸力比𝑛
ベースシア係数𝐶𝑏
モデル A
0.124
0.200
モデル B
0.200
0.095
モデル C
0.300
0.048
モデル D
0.400
0.027
モデル E
0.500
0.016
1.0
0.8
0.6
②-1
②-2
②-3
②-4
②-5
②-6
②-7
②-8
②-9
②-10
0.4
0.2
0.0
1
2
3
4
5
6
7
8
1.0
0.8
0.6
②-1
②-2
②-3
②-4
②-5
②-6
②-7
②-8
②-9
②-10
0.4
0.2
0.0
1
9 10
2
3
4
5
7
8
0.8
0.6
(a) モデルA(𝑛=0.124)
0.2
0.0
1
9 10
0.6
1F
2F
3F
4F
5F
6F
7F
8F
9F
10F
0.4
0.2
0.0
15
16
0.8
0.6
1F
2F
3F
4F
5F
6F
7F
8F
9F
10F
0.4
0.0
17
12
KI積算値
7
8
9 10
13
14
15
16
17
0.8
0.6
1F
2F
3F
4F
5F
6F
7F
8F
9F
10F
0.4
0.2
0.0
12
KI積算値
(a) モデルA(𝑛=0.124)
(b) モデルC(𝑛=0.300)
13
14
15
16
17
KI積算値
(c) モデルE(𝑛=0.500)
各モデルの𝐾𝐼積算値と位置エネルギー減少率
を起こす場合が増すことが確認できる.また,モデル A か
置エネルギーの和として以下の式で定義する.
𝑀
𝑈 = ∑𝑖=1
(𝜌𝑖 × 𝐴𝑖 × 𝑙𝑖 × 𝑔 × 𝐻𝑖 )
6
1.0
0.2
図3
5
(c) モデルE(𝑛=0.500)
位置エネルギー減少率
位置エネルギー減少率
0.8
𝑖
4
柱除去層
1.0
14
3
各モデルの柱除去層と位置エネルギー減少率
1.0
13
2
(b) モデルC(𝑛=0.300)
図2
12
②-1
②-2
②-3
②-4
②-5
②-6
②-7
②-8
②-9
②-10
0.4
柱除去層
柱除去層
位置エネルギー減少率
6
位置エネルギー減少率
位置エネルギー減少率
位置エネルギー減少率
1.0
(4)
らモデル E へと強度が低くなるほど大規模な崩壊が生じ始
ここで,𝑖は要素番号,𝑖𝑀 は破断要素を除く要素数,𝜌は密
める𝐾𝐼積算値の値が小さくなる.すなわち,モデルの強度
度,𝐴は断面積,𝑙は要素長,𝐻は地表面(𝑍 = 0)から要素中央
によって,大規模な崩壊が生じ始める𝐾𝐼積算値の値が異な
部までの高さを表す.なお,上式を破断していない要素のみ
ることが分かる.また図中に示すように,モデル A では柱
に適用することで,崩壊の規模を過大に評価することとし
除去位置②-1 の 2 層の柱除去の場合が,モデル C,E では
た.位置エネルギー減少率が 1.0 に近いほど崩壊の規模が
柱除去位置②-2 の場合が,図 2 と同様に特異な傾向を示し
大きいことを示す.
ている.
4. 解析結果と考察
傾向を示すものの,除去される柱の 𝐾𝐼積算値が大きいほど
以上より,極端に対称性,非対称性がある場合には特異な
進行性崩壊解析によって得られたモデル A,C,E におけ
進行性崩壊が発生し易いという結果が得られた.強度が異
る各柱除去位置での柱除去層と位置エネルギー減少率の関
なるモデル間では一意に定まらなかった.これは,進行性崩
係を図 2 に示す.各モデルについて見ると,モデル A から
壊が生じ始める𝐾𝐼積算値の値は,𝐾𝐼がその建物全体の強度
モデル E へと強度が低くなるほど位置エネルギー減少率が
に対する柱1本の寄与度を数値化した値であり,建物がもつ
大きくなり,また各モデルとも柱除去層が低層部であるほ
強度そのものを示す指標ではないことに起因する.そのた
ど位置エネルギー減少率が大きい.次に各モデルで柱除去
め,柱除去位置などの条件が異なる場合でも,同一の建物内
位置ごとに比較すると,柱除去位置により位置エネルギー
に限定すれば,進行性崩壊の危険性を予測する指標として
減少率が変化することが分かる.各図中に示す柱除去位置
𝐾𝐼積算値を用いることは可能であることが示唆された.
のように,モデル A では最も非対称の強い柱除去位置②-1
で 2 層の柱を除去した場合に大きな崩壊が見られ,またモ
参考文献
デル C,E では,非対称性が弱い柱除去位置②-2 の場合に,
[1] NIST NCSTAR 1 : Federal Building and Fire Safety
他の柱除去位置の場合に比べて大きな崩壊が生じていない
Investigation of the World Trade Center Disaster : Final
ことが分かる.
Report of the National Construction Safety Team on the
次に,モデル A,C,E における各柱除去層での𝐾𝐼積算値
Collapses of the World Trade Center Towers,(2005).
と位置エネルギー減少率の関係を図 3 に示す.図から,ど
[2] 磯部大吾郎,レ ティ タイ タン:高層建築物の火災時
のモデルにおいても,𝐾𝐼積算値の大きい柱除去の場合ほど
崩壊挙動に関する数値解析的検証,日本建築学会構造
位置エネルギー減少率が 1.0 に近付くような大規模な崩壊
系論文集,第 76 巻,第 667 号,(2011),pp.1659-1664.
防災教育に活かすための地震時室内被害シミュレーション
構造エネルギー工学専攻 1 年
三浦
利季
E-mail:[email protected]
指導教員
1.
緒言
磯部
大吾郎
表現した.
大規模な地震では,建物自体の被害が少なくても,非構造
床との接触は,数値的に接触を判定した.接触が判定され
部材である机やロッカーの転倒,天井落下などによる人々
た要素に対しては,2 種類の接触力を作用させた.1 つ目は
のケガや避難の遅れに繋がる可能性がある.これらの対策
次式に示すペナルティ力𝑭𝑷 として,要素間で構成される接
を検証するための加振実験も行われてきている[1]が,コス
触面の法線方向のみに作用する.
トや時間がかかり様々な条件で繰り返して実施することは
𝑙 𝑞 𝒏
,𝑖𝑓
‖𝒏‖
困難である.そのため,これらの非構造部材の挙動を容易に
𝑭𝑷 = 𝛼 (1 − )
𝐿
検証可能とする数値解析手法の確立が期待されている.
(1)
𝑙≤𝐿
本研究では,有限要素法を用いて開発された家具・什器の地
ここで,𝛼はペナルティ定数,𝑞はペナルティ指数である.𝒏
震時挙動解析コードの精度検証を行う.什器の挙動解析に
は接触面の法線ベクトルであり,常に一定の方向を向いて
は,ペナルティ接触理論に基づく接触アルゴリズムを ASI-
いる.また,lは要素軸間の最短距離,𝐿は 2 つの要素の部
材幅の平均値である.2 つ目は次式に示す動摩擦力𝑭𝑫 であ
Gauss 法[2]に導入した転倒挙動解析コード[3][4]を用いる.
はじめに小学校用の机と椅子の挙動解析を行い,その振動
り,接触面の接線方向と法線方向に作用する.
台実験結果と比較し,解析コードの有効性とその適用範囲
より重量の重い家具の転倒挙動解析を実施し,その結果に
下付き添え字 T,N は,それぞれ接触面に対する接線方向成
ついて考察を行う.
2.
(2)
𝑭𝑫 = 𝑭𝑻 + 𝑭𝑵 ,𝑖𝑓 𝑙 ≤ 𝐿
について検討する.さらに,中層建物の上層階を想定して,
分および法線方向成分であることを表す.次式に示すよう
に,𝑭𝑻 ,𝑭𝑵 は𝒗のそれぞれの成分𝒗𝑻 ,𝒗𝑵 に対して逆方向に作
机と椅子の振動台実験および挙動解析
用する.
(1) 振動台実験の概要
小学校用の机と椅子をそれぞれ振動台上に配置し,入力
𝑙 𝑞 𝒗𝑻
,𝑖𝑓
‖𝒗𝑻 ‖
𝑙≤𝐿
(3)
𝑙 𝑞 𝒗𝑵
,𝑖𝑓
‖𝒗𝑵 ‖
𝑙≤𝐿
(4)
𝑭𝑻 = −𝜇𝛼 (1 − )
𝐿
波の種類を変化させて振動台実験を行った.計測にはモー
ションキャプチャシステムを用いた.
𝑭𝑵 = −𝐷𝐶 (1 − )
𝐿
対象とした 2 種類の什器の概観を図-1 に示す.什器の重
心位置を赤い点として示し,表-1 に什器の寸法・重量・重
次に,接触パラメータを表-2,動摩擦係数を表-3 に示す.
心位置および測定した静止摩擦係数を示す.入力波は,机に
本研究では先行研究[3][4]で有効な値として示されている,
対しては加速度 0.5G 周波数 2Hz,椅子に対しては加速度
ペナルティ定数αは対象物の重量と同値,ペナルティ指数q
0.4G 周波数 2Hz の正弦波を用いた.
は 1.0,減衰に関する係数𝐷𝐶 はαの 120 %と設定し,動摩擦
(2) 解析モデル
係数は実験で計測された静止摩擦係数の 80 %とした.
什器は全て線形チモシェンコはり要素を用いてモデル化
実験は 1 軸方向加振で行ったが,解析の入力波には計測
した.什器の重心については,構成部材毎に密度を調整して
された 3 軸方向の台上加速度を用いた.
25
15
15
変位[cm]
H
25
15
h
w
Z
X
什器の種類
机
椅子
0
10
10
時間[s]
30
-5
-15
解析結果
実験結果
-25
0
10
20
30
0
30
D
図-2
10
机の X 軸方向変位
(0.5G,2Hz の正弦波)
図-3
寸法[mm]
D
450
360
H
700
730
机と椅子の諸元
重量[kg]
8.0
4.5
w
285
152.5
重心位置[mm]
d
180
230
30
椅子の X 軸方向変位
(0.4G,2Hz の正弦波)
重心位置
表-1
20
時間[s]
時間[s]
20
解析結果
実験結果
5
20
-25
h
-25
什器の概観
W
570
305
0
-5
X 軸方向
15
-5
-25
-15
-15
d
変位評価
図-1
W
w
5
25
5
-15
5
-5
時間[s]
D
d
変位[cm]
W
変位[cm]
H
X 軸方向
変位[cm]
25
h
495
325
静止摩擦係数
X軸方向 Y軸方向
0.438
0.500
0.533
0.600
(3) 結果と考察
(2) 結果と考察
実験において,机はロッキングすることにより片足が大
モデル(a)の解析結果は壁との接触により跳ね返り,滑り
きく跳ねた後,小さく跳ねる特徴的な挙動を示した.また,
ながら移動した後,ロッキングして反時計回りに約 45°回
初期位置から時計回りに回転する挙動も確認された.椅子
転した後,転倒した.また,モデル化の相違による挙動の違
は後方に傾いた姿勢を保った後,机と同様の特徴的な挙動
いも見られた.モデル(b),(c)は,ロッキング後の回転が時
を示した.
計回りに約 45°となりモデル(a)の挙動と異なった.その原
図-2 に机の X 軸方向変位を,図-3 に椅子の X 軸方向変
因として家具自体の変形量が異なることが考えられたため,
位を示す.机と椅子ともに実験で見られたロッキング振動
家具の変形を考慮した解析結果の変位と,変形を考慮しな
が解析でも見られ,振幅,振動数とも実験との対応が良い結
い変位の差から相対変位を求めた.y 軸方向相対変位を図-5
果となっている.机の実験で見られた X 方向の残留変位(X
に示す.図-5 から,モデル(b),(c)は前面の変形量が大きく
方向の移動)は,逆方向の移動になっている.これは実験で
なっていることが分かる.これは,前面をモデル化しないこ
は机が回転したためである.解析モデルでは試験体に存在
とで剛性が下がったためだと考えられる.これにより,モデ
したガタや組付き誤差等を考慮していないことに加え,椅
ル化の精度によって家具自体の変形量が異なることが確認
子の重量が机よりもさらに軽く,試験体に作用する抗力や
された.また,背面側の変形量は小さいことから,モデル(b),
慣性力よりも摩擦力の影響が顕著になったためと思われる.
(c)は y 軸方向にせん断変形していることが分かる.不自然
に滑っている箇所があるため,今後は実験との比較が必要
3.
本棚の地震時挙動解析
である.
(1) 解析条件
地震の際に大きな危険が生じる現象として,質量が大き
4.
く,重心位置が高い什器の移動や転倒が考えられる.そこで,
結言
本研究では,小学生用の机と椅子を対象とした小型振動
質量が大きい什器として本棚の挙動解析を行った.解析モ
台による加振実験を行い,また,それらを数値モデル化し,
デルの諸元を表-2 に,概観を図-4 に示す.モデル化の精度
実験の再現解析を行った.解析では,床と接触する突起を詳
による挙動の違いを比較するため,(a)前面あり,(b)前面な
細にモデル化することで,什器の挙動が概ね再現された.ま
し,(c)前面なし+仕切りの 3 種類のモデルを作成した.この
た,中層建物の上層階における本棚の地震時挙動解析では,
モデルは,一般的な本棚を想定している.モデル化や接触の
モデル化の精度によって挙動に違いが見られ,その原因と
パラメータの設定は 2 節の机と椅子と同様に行った.解析
して家具自体の変形量の差を示した.
の入力波には中層建物の上層階における床応答加速度を用
今後は,室内での複数の什器を対象とした挙動解析を行
いた.
う予定である.本研究で用いた解析コードは什器に生じる
応力変化を把握できるため,転倒時の詳細な被害評価を実
表-2
寸法[mm]
D
H
417
1800
W
600
質量(kg)
157
施可能となることが期待できる.また,VR 等の技術を用い
本棚の諸元
重心位置[mm]
w
d
h
300
278.9 888.9
静止摩擦係数
X軸方向 Y軸方向
0.230
0.290
て地震時の室内空間を体験できるようにし,防災教育に役
立つものとしていきたい.
参考文献
[1] 梶原 浩一,岡崎 太一郎,清水 秀丸,荒木 康弘,難波
尚,松森 泰造,藤谷 秀雄:既存木造校舎に関するE-デ
ィフェンス実験 : その6 地震時の教室空間(振動台実
験(1),構造III),日本建築学会学術講演梗概集, (2011), pp.
523-524.
[2] 磯部 大吾郎,チョウ ミョウ リン:飛行機の衝突に伴
う骨組鋼構造の崩壊解析,日本建築学会構造系論文集,
第579号, (2004), pp. 39-46.
(a)前面あり (b)前面なし (c)前面なし+仕切り
図-4 本棚解析モデルの概観
150
100
50
0
-50
-100
-150
-200
-250
150
14
15
16
17
18
相対変位[mm]
100
什器の地震時挙動を再現する有限要素解析手法の開発,
150
14
15
16
17
18
(a)前面あり
(b)前面なし
(c)前面なし+仕切り
50
0
日本建築学会構造系論文集,第80巻,第718号, (2015), pp.
(a)前面あり
(b)前面なし
(c)前面なし+仕切り
100
相対変位[mm]
150
100
50
0
-50
-100
-150
-200
-250
[3] 荻野 弘明,山下 拓三,金子 美香,磯部 大吾郎:家具・
1687-1697(a)前面あり
50
(b)前面なし
(c)前面なし+仕
切り.
0
-50
[4] 磯部 大吾郎,山下 拓三,田川 浩之,金子 美香,高橋
-100
-100
徹,元結 正次郎:有限要素法を用いた地震時における
-150
-150
-50
14
15
16
17
前面側の相対変位
図-5
18
家具の挙動解析,日本建築学会構造系論文集, 第80巻,
14
15
16
17
時間[s]
時間[s]
背面側の相対変位
y 軸方向の相対変位の比較
18
第718号, (2015),pp. 1891-1900.
3 次元均質化 FEM 解析の発泡ゴムへの適用性に関する研究
システム情報工学研究科
構造エネルギー工学専攻
博士前期課程 1 年
指導教員:松田昭博
桶谷 翔
副指導教員:寺本徳郎,松田哲也
E-mail:[email protected]
1.緒言
発泡ゴムとは,ポリウレタン等の合成樹脂を発泡させる
ことによって形成される,無数の微細な気泡が内部に含まれ
た材料である.主に自動車や航空機の緩衝材,自動車ボディ
の防音材など,衝撃吸収材料として用いられる.発泡ゴムの
力学特性は,複雑な微細構造と母材の特性により決定される
ため予測することが難しく,現在でも実験的・経験的な設計
手法が用いられることが多い.
実際の素材設計で数値解析を用いる場合,複雑な微細構
造のために力学特性の評価が困難であることから,発泡材料
を均質な材料として扱い,圧縮性の超弾性体としてモデル化
することが多い.また,微細構造を正確に再現したモデルで
の検討も行われているが,モデル化の際には数十万個の 10
節点 4 面体要素を必要としており,コスト面に課題が残ると
いう現状になっている(1).
そこで本研究では,発泡材料の微細構造を周期的な構造
と仮定し,均質化理論を導入した 3 次元 FEM 解析を用いて
発泡ゴムの力学特性評価を行った.3 次元均質化 FEM 解析
の発泡ゴムへの適用性を向上させることを目的として,解析
モデルの構造の変化による力学特性への影響を検証した.
本研究で構築したユニットセルの FEM モデルを図 1 に示
す.このモデルには,立方体内部に球空隙 1 つ,立方体の角
それぞれに 1/8 カットの球空隙が含まれる.この 2 種類の空
隙それぞれの大きさを変更することが可能となっている.
FEM モデルの境界面には周期境界条件を設定した.周期
境界条件とは,前後上下左右に無限にユニットセルが配置さ
れていると仮定した条件である.これにより,図 1 の 1/8 カ
ットの球空隙部分を 1 つの球空隙として解析することが可
能となり,図 2 のように無数に空隙が存在する発泡ゴム材料
の構造を再現することができる.
また,発泡ゴムの母材であるポリウレタンは変形によって
体積変化がほぼ生じない非圧縮性を有している.非圧縮性を
考慮するため,解析を行う際に下記の変形勾配テンソル F
をユニットセルに対して与えた.ただし, λ は FEM モデル
の伸びである.
0
0 
λ
F  0 1 λ
0 
0
0
1 λ 
(3)
2.3次元均質化解析で用いる超弾性モデル
本研究では,発泡ゴムの母材である高分子材料に対して,
応力が次式で得られる超弾性モデルを適用した. S は
2ndPiola-Kirchhoff 応力テンソル, W は超弾性のひずみエネ
ルギー関数, C は右 Cauchy-Green 変形テンソルである.
S2
W (C )
C
Fig.1 FEM model of unit cell
(1)
ここで,次の(2)式を発泡ゴムのひずみエネルギー関
数として用いた.ここで C は体積成分を含まない修正
右 Cauchy-Green 変形テンソル,C11 ,C12 ,C13 ,C14 ,C15 ,
C 21 , C 22 , C 23 , C 24 , C 25 は材料定数, I1 , I 2 は修正右
Cauchy-Green 変形テンソル C の第一および第二不変量
である. p は静水圧で, J は変形勾配テンソル F のデタ
ーミナントである. C は変形勾配テンソル F ,体積成
分を取り除いた修正変形勾配テンソル F を用いて,
2
C  F t F  J 3 F t F と計算される.また,今回用い
た材料定数を表 1 に示す.これらは一般的なポリウレ
タンの応力-ひずみ挙動(2)を用いて,最小二乗法でフィ
ッティングすることによって同定したものである.
Fig.2 3-dimentional homogenization FEM model
W ( I1 , I2 , J, p) 
C11( I1  3) 
Table.1 Material parameters of polyurethane
C12
C
C
( I1  3) 2  13 ( I1  3)3  14 exp{C15 ( I1  3)}
2
3
C15
C
C
C
 C 21( I2  3)  22 ( I2  3) 2  23 ( I2  3)3  24 exp{C 25 ( I2  3)}  p(J  1)
2
3
C 25
(2)
i
1
2
Ci1
0.41
0.72
Ci2
-0.20
-0.22
Ci3
0.04
0.64
Ci4
0.77
-0.54
Ci5
-0.46
-1.01
3.解析条件と結果
4.結言
解析モデルの構造による力学特性への影響を確認す
るために,空隙の大きさを変化させて解析を行った.
解析条件は,相対密度 ρ が 0.4,0.5,0.6,0.7,0.8 とな
るようにそれぞれ空隙の大きさを設定した.相対密度
とは,母材のポリマーの体積を空隙部分も含めた発泡
材料の見かけの体積で割った値である.
また,空隙のばらつきによる影響を確認するために,
2 種類の空隙の大きさの比を変化させて解析を行った.
中心の空隙の半径を R 1 ,角の空隙の半径を R 2 とし,空
隙の半径比 R1 : R 2 を 1:1.2,1:1.4,1:1.6,1:1.8,1:2.0
と変化させた.相対密度は ρ =0.5 と固定した.これら
の条件に対してそれぞれ引張解析と圧縮解析を行った.
各相対密度の引張解析結果,圧縮解析結果をそれぞれ図 3,
図 4 に示す.どちらにおいても,相対密度が高くなるにつれ
て剛性が増加していることが分かる.これは,相対密度が高
くなることで母材の影響が大きくなり,母材の力学特性に近
づくからである.
次に各空隙の半径比の引張解析結果,圧縮解析結果をそれ
ぞれ図 5,図 6 に示す.どちらにおいても,空隙の半径比が
変わることによって,R1 : R 2 =1:1 に比べて剛性がわずかに
高くなっていることが分かる.ここで,各解析における
R1 : R 2 =1:1 との応力の差分を表 2 に示す.それぞれひずみ
0.42 における応力を用いた.表 2 より,引張解析では空隙の
半径比は剛性にほぼ影響がなく,圧縮解析では空隙の半径比
が剛性に大きく影響を及ぼしていることが分かる.これは,
空隙の半径比を変えることによって,圧縮の応力集中が分散
したためと考えられる.よって,空隙のばらつきによる影響
は圧縮特性にのみ生じていた.
本研究では,発泡ゴムを周期構造と仮定し,その構造の一
部をユニットセルとしてモデル化を行った.相対密度を変化
させた解析と空隙の半径比を変化させた解析を行うことに
よって,発泡ゴムの引張と圧縮ではそれぞれの特性に影響を
及ぼすパラメータが異なっていることが確認できた.
文
献
(1) Kirca, M., Gul, A., Ekinci, E., Yardum, F. and Mugan, A.,
Computational modeling of micro-cellular carbon foams.
Finite Elements in Analysis and Design, Vol. 44, pp.45-52,
2007.
(2) 岡本弘,高性能液状ポリマー材料,2.液状オリゴマー
の科学,pp58,1990.
Fig.5 Effect of radius ratio on the relationships between tensile
stress and tensile strain
Fig.3 Effect of relative density on the relationships between tensile
stress and tensile strain
Fig.6 Effect of radius ratio on the relationships between
compression stress and compression strain
Table.2 Difference from the case of ratio 1:1
Fig.4 Effect of relative density on the relationships between
compression stress and compression strain
R1 : R 2
(1)*
1:1.2
1.2%
1:1.4
3.1%
1:1.6
2.9%
1:1.8
2.8%
1:2.0
2.6%
(2)*
3.6%
12.5%
21.6%
32.6%
44.3%
(1)*Diffrence in tensile
(2)*Diffrence in compression
スポーツ用スパッツの関節トルク評価に関する研究
システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻
博士前期課程 1 年 佐藤広樹
指導教員:松田昭博 副指導教員:寺本徳郎,河井昌道
E-mail:[email protected]
1. 緒言
図 1 の結果から,素材は非線形な挙動を示した.また図 2
日常生活やスポーツ分野において,繊維素材は広く利用さ
から,θ が 30°の際に最も引張剛性が高く,θ が 90°に近づく
れており,スパッツ等のスポーツウェアは競技者の怪我の防
につれて剛性が低くなる異方性の力学特性を示した.そして,
止やパフォーマンス向上などに重要な役割を果たしている.
図 3 から,与えられた最大伸びが更新される度に過去に示し
例えば,着衣時に身体の中心である体幹を締め付けることに
た伸び‐応力挙動を下回る,軟化特性の影響を確認した.
よって動作を安定させる効果や,関節部分を締め付けること
以上のことから,本研究の対象とする.スパッツ素材の力
で怪我を予防する効果が期待されている.さらに,スポーツ
学モデルとして,異方性超弾性モデルを適用した.ここで超
用繊維素材は伸長方向によって剛性が変化する異方性を示
弾性体は,ひずみエネルギー関数 W を右 Cauchy-Green 変形
すことから,素材を適切な方向に配置することで,運動の挙
テンソル C で微分することにより第 2Piola-Kirchhoff 応力テ
動に対して適切に体勢をサポートする機能を持たせること
ンソル S を得ることができる以下のような構成式である.
ができると考えられる. しかし,適切に素材を選択し,配置
S 2
することは容易ではなく,設計にはサンプルの試作と競技者
からの評価を繰り返す必要がある.
そこで,本研究では数値シミュレーションを用いたスポー
ツウェアの工学的な設計手法を開発することを目的として,
W ( C )
C
(2)
このひずみエネルギー関数 W を等方性成分 Wiso と異方性成
分 Wani の和として以下のように定義した.
W( C )  Wiso  Wani  pJ 1
スポーツ用繊維素材の力学特性を再現した数値シミュレー
(3)
ションを行い,ランニング動作時に生じる応力や関節トルク
等方性成分 Wiso には,自然状態条件が扱いやすく,材料定数
を評価した.
の総数を抑えることができる Mooney-Rivlin モデル(2)を用い
た.異方性成分 Wani には,繊維の荷重方向とせん断方向の剛
性を独立に調節することができる修正 Itskov モデル(3)を用い
2. 一軸繰り返し引張試験と異方性超男性モデル
スポーツ用スパッツの素材の力学的特性の評価及び,材料
た.ここで素材の軟化特性を再現するために,軟化関数
パラメータを取得することを目的として,一軸単調引張試験
は繊維が過去
S ( I 4 ) を以下の式で定義した.ここで I 4 max
max
及び一軸繰り返し引張試験を行った.本研究で扱うスパッツ
に経験した最大の伸びである.



S f ( I 4 max )  1  a 1  exp    I 4 max  1




素材は編物素材であり,
素材 A と素材 B の 2 種類を用いた.
素材 A はポリエステル 71%,ポリウレタン 29%から成る素
材で,素材 B は素材 A にナイロン 67%,ポリウレタン 33%
から成る素材が張り合わされた素材である.試験片の寸法は
引張長さ 40 mm,幅 10 mm とした.
(4)
 ,  は繊維素材の材料定数である.軟化特性を考慮した
ひずみエネルギー関数は以下のように表される.
1  S 2  ( I 2  )W 2  (5)
W( C )  Wiso  S f1 ( I 41max )Wani
ani
4 max
f
一軸単調引張試験では試験片の破断まで変位と荷重を計
測した.異方性を評価するために,引張方向と素材の経編方
向のなす角を θ とし,θ が 0°,15°,30°,45°,60°,75°,90°
そして,一軸引張試験から得られた公称応力 Π と,理論解の
の計 7 種類の試験片を用いて試験を行った.一軸繰り返し引
公称応力 Π を用いて,異方性超弾性モデルの材料定数の同
張試験では,軟化特性を評価するために,各試験片に対して
定を行った.理論解の公称応力 Π は,変形勾配テンソル F
1.4,1.6,1.8,2.0,2.2 の伸びを 5 回ずつ繰り返し連続的に
と第 2Piola-Kirchhoff 応力テンソル に S より以下のように求
与えた.なお,引張速度は 0.5 mm/s とした.また,計測され
まる.
た荷重 を試験片の初期断面積 で除した値を公称応力 Π と
定義した.
Π  S・F T
(6)
3. スポーツ用スパッツの関節トルク解析
f
Π 
A
(1)
スポーツ用スパッツの身体への力学的な影響を評価する
ために,ランニング動作を対象としてスパッツによって生じ
一軸単調引張試験による応力-ひずみ関係を図 1 に示す.角
る膝関節トルクの解析を行った.運動する人体の皮膚の伸び
度 θ と剛性の関係を図 2 に示し,一軸繰り返し引張試験の応
を再現可能な 3D-CG モデルを用いて,ランニング動作を与
力-ひずみ関係を図 3 に示す.
えた時に生じる皮膚の変位からスパッツの応力を算定した.
図 4 に人体の 3D-CG モデルと,スパッツのサブメッシュを
用いて応力解析を行った様子を示す.また,本研究では皮膚
とスパッツは密着していると仮定し,スパッツの変位は皮膚
の変位と同等であると定義した.
ランニング動作は 76 フレームで構成されており,左足の
踏込から次の左足の踏込までの動作となっている.ここで,
応力解析から得られた荷重を用いてランニング動作中にス
ポーツ用スパッツによって膝関節に生じるトルクを算出し
た.膝関節からランニングタイツの各張力作用点への位置ベ
クトル Ri ,各張力作用点における荷重ベクトル Fi を用いて
Fig.3 Stress-strain curve in repeated uniaxial tensile test
トルク N を以下のように計算した.
N
R  F R 
i
i u
(7)
ここで,Ru は下腿への張力分配率である.ランニング動作の
フレームに対する膝関節トルクの膝の伸展・屈曲に関する成
分を図 5 に示し,ランニング動作中の膝の曲げ角度に対する
膝関節トルクの関係を図 6 に示す.なお,正の向きが膝の伸
展を表す.結果から,関節トルクは膝の曲げが大きくなるほ
ど大きな値を示した.
Frame.15
Frame.65
Fig.4 3D-CG model
4.結言
本研究では,スポーツ用繊維素材の一軸引張試験及び,ラ
ンニング動作を対象としたスポーツ用スパッツの関節トル
ク解析を行った.一軸引張試験を行い,スパッツ素材の力学
特性を評価し,異方性超弾性モデルを用いてスパッツに生じ
る応力と荷重を計算した.そして,人体の 3D-CG モデルに
ランニング動作を与えることで,スパッツによって生じる膝
関節トルクの解析を行った.関節角度が小さくなるほど膝を
伸展させる向きにトルクが生じることが計算され,スポーツ
用スパッツの膝へのサポート効果として考慮できる可能性
を示した.
  0
Fig.1 Stress-strain curve of uniaxial monotonic tensile test
Fig.5 Joint torque
Fig.6 Relationship between joint torque and joint angle
参考文献
(1) 島名孝次,辻中克弥,渡辺良信,日本機械学会〔NO.0724]シンポジウム講演論文集(2007),pp.307-310
(2) Rivlin, R. S., and Saunders, D. W., Philosophical
Transactions of the Royal Society of London. Series A,
Mathematical and Physical Sciences, Vol. 243, No. 865
(1951), pp. 251-288.
(3) 浅井光輝,木村嘉之,園田佳巨,西本安志,西野好生,
土木学会論文集 A,Vol,No.2(2010),pp.194-205
Fig.2 Relationship between the tensile direction and rigidity
高分子ストリングスがテニスラケットの打球面に与える影響
構造エネルギー工学専攻 博士前期課程 1 年 名久井 基歩
指導教員名 松田昭博
連絡先 [email protected]
1 研究背景
テニスにおいて打球に回転がかかる要因としてスナップバッ
クがあげられる.スナップバックとは,ボールがストリングに接
触しずれた位置から元の位置に戻る際にボールに力を加え,ボ
ールに回転を与えるという現象である.近年の競技者は,打球に
回転を多く加えてプレーする傾向にあり,スナップバックによ
りストリング同士の交点で摩耗が生じ,ストリングが破断する
ケースが増加している.そのため,ストリングの素材は動物の腸
などの天然素材から人工的なナイロンやポリエステル等の高分
子材料に変化してきた.現在プロからアマチュアまで広く使用
されているポリエステルストリングは,天然素材のストリング
よりも安価で高剛性であるが,直径は天然素材のストリングか
らほとんど変化しておらず,1.20~1.35mm である.ストリング
の直径が小さいため,摩耗によって破断するケースは素材を変
えた現在も多くみられる.そこで直径の大きなストリングの有
用性を検証し,テニス用ストリングの設計範囲の拡大を図るた
め,本研究ではストリングベッドの剛性に対してストリングの
直径が与える影響を検証した.
2 ストリングベッドの静的力学特性
2.1 ポリエステルストリングの材料特性
まず,テニス用ポリエステルストリングの材料特性を確認す
るためにストリングの静的引張試験を行った.東亜ストリング
社製の RENCON,株式会社ゴーセン製の POLYLON,バボラ社
製の ProHurricane Tour の 3 種類である.各製品から試験片を切
り出し,試験速度 0.1mm/sec で破断するまで荷重を計測した.全
長 250mm の試験片の中心から±25 mm のところに一辺 10 mm の
正方形の紙を貼り付けそこに標線をつけ,カメラ変位計で標線
間距離を計測することでストリングのひずみを算出している.
計測結果から算出した応力-ひずみ曲線を図 1 に示す.3 種類の
ストリングの応力ひずみ関係はすべて非線形であり結果に大き
な差は見られなかった.このことから,ストリングベッドの静的
圧縮試験は東亜ストリング社製の RENCON の 1 種類のみを行う
こととした.
2.2
ストリングベッドの静的圧縮試験
ストリングの直径がストリングベッドの静的力学特性に与え
る影響を検証するためにストリングベッドの圧縮試験を行っ
た.本研究ではストリングベッドを再現するための治具を新た
に製作した.治具はアルミの単一素材で構成され,形状は正方
形であり上下左右に対称である.また,治具は試験台に水平に
設置できることからストリングベッドの剛性のみを計測する事
が可能である.治具の大きさはストリングが見えている部分の
一辺の長さを 200 mm とした.図 2 に,治具にストリングベッ
ドを作成したときの模式図と治具の寸法を示す.
また,縦糸と横糸の本数の組み合わせは 16×16 とし,ストリング
の間隔は 12mm とした.ストリングベッドの圧縮試験の試験対
象は,直径 が 1.20mm,1.30mm の 2 種類の東亜ストリング社製
のポリエステルストリング「RENCON」とした.初期張力を 18kg
(40lbs)
,23kg(50lbs)
,27kg(60lbs)の 3 種類に設定し,全 6
種類のストリングベッドを作成した.圧縮用の治具がストリン
グの交点に接触した点からストリングの交点を 5mm 圧縮し,荷
重を計測した.また,圧縮方向はストリングベッドの法線方向と
し,圧縮速度を 0.1mm/sec とした.予備試験において打球面の対
称性が確認できたことから,試験を行う点を縦糸の番号 X =
2,4,6,8 と横糸の番号 Y = 2,4,6,8 のそれぞれの交点とした.縦糸
X 番目,横糸 Y 番目の交点を圧縮した試験の結果から得られた
荷重と変位の関係に対して,線形関係を仮定し,その傾きをその
交点の剛性 KXY とした.試験結果を図 3 に示す.ただし,X=
9,11,13,15 のデータはそれぞれ X=8,6,4,2 のデータを反転させた
ものである.図 3 は,張力を 27kg(60lbs)に設定した 2 種類の
直径のストリングを使用したストリングベッドの剛性を比較し
たグラフである.図 3 から,直径 1.30 mm のストリングを使用
したストリングベッドの剛性が,直径 1.20 mm のストリングを
使用したものよりも大きくなり,ストリングベッドの端部と中
心部の剛性の差が直径 1.30 mm のストリングを使用したほうが
大きくなっていることがわかった.よって,大きな直径のストリ
ングを使用することは,ストリングベッドの剛性が大きくなる
ことに加えて,ストリングベッドの端部と中心部の剛性の差に
ついても大きくさせる影響を与えることがわかった.
3
ストリングベッドの動的力学特性
テニスラケットでボールを打つ動的な現象において,ストリ
ングの直径がストリングベッドの力学特性に与える影響を調べ
るために,図 4 に示す実験系においてテニスボールとストリン
グベッドを再現した治具との衝突試験を行った.本試験では,キ
ーエンス社製レーザー式判別変位センサ IL-300 を用いてボール
の位置を計測し,計測結果からボールの入射速度および反射速
度を算出した.キーエンス社製の変位センサの計測範囲内にス
トリングベッドを設置することで,ボールが接触した状態の計
測を可能にした.試験条件は,表 1 に示すようにストリングの直
径を Φ,ストリング間隔を d とした 6 種のストリングベッドで
あり,張力はすべて 50lbs で作成されている.代表的な衝突時の
様子を図 5 に示す.図 5 の(a)は一般的なテニスラケットに使
用されている条件であり,
(b)
(c)は本研究における主な検証対
象の大きな直系のストリングを使用した条件である.
(c)におい
てボールに触れていないストリングがフレーム方向にずれてい
る様子が分かる.これはストリング同士の間隔が広いためスト
リングがずれやすくなっているためである.ストリングがずれ
やすいストリングベッドはスナップバックが起きやすいと考え
られるため,回転量が大きくなる可能性があり,今後検討が必要
ある.
ボールの入射速度と反発係数の関係を図 6 に示す.反発係数
はボールの反射速度を入射速度で除したものである.図 6 は,ス
トリングの間隔を 18mm として,ストリングの直径を変化させ
た.Φ=1.60mm の結果にばらつきが出ているが,各条件の結果を
線形近似してみると,どの結果も入射速度が増加すると反発係
数が減少していることが分かった.また,3 条件の結果が含まれ
ている入射速度 85~90km/h において,反発係数に差はほとんど
見られないことから,使用するストリングの直径を大きくして
もストリングベッドの反発係数が極端に増減することはないこ
とが分かった.
40
Kx8 [N/mm]
30
20
10
'Φ1.20_27kg(60lbs)'
'Φ1.30_27kg(60lbs)'
4 結言
本研究では,ストリングベッドの力学特性に対して静的な圧
縮試験とボールの反発試験を行うことで現在使用していない大
きな直径のストリングの有用性を検証した.反発試験の結果か
ら,同じストリング間隔のストリングベッドにおいて,直径の大
きなストリングを使用することがストリングベッドの反発係数
に与える影響が小さいことが分かった.また,反発係数はボール
の入射速度に依存していた.よって,太いストリングは垂直衝突
に関しては,現在使用している細いストリングとほぼ同等の性
能を持っているため,垂直方向の衝突においては有用性がある
ことが分かった.
0
2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
x[Vertical string number]
Fig. 3 The comparison of string diameter for the rigidity of stringbed tensioning 27 kg (60 lbs)
5 今後の予定
垂直衝突において,太いストリングの有用性が確かめられた
ため,45°傾けたストリングベッドにボールを衝突させること
で反射後のボールの回転数や,反射角度に対してストリングの
直径が与える影響を検証していく.
Fig. 4 Experimental system
6 参考文献
[1] A.Nicolaides, N.Elliott, J.Kelley, T.Allen, M.Pinaffo, Effect of
string bed pattern on ball spin generation from a tennis racket (8 May
2013), International Sports Engineering Association 2013, pp. 181-188
(a) Φ:1.30mm
d:12mm
(b)Φ:1.60mm
d:18mm
(c)Φ:1.60mm
d:24mm
Fig. 5 State at the time of collision
Table 1 Parameter of
 [mm]
d [mm]
rebound tests
1.10
1.60
○
12
○
18
Fig. 1 Relationship between stress and strain of the polymer
strings
1.30
24
○
○
○
○
Coefficient of restitution
1.0
0.8
0.6
0.4
'Φ1.10_d18'
'Φ1.30_d18'
'Φ1.60_d18'
0.2
0.0
75
80
85
Vin [km/h]
90
95
Fig.6 The comparison of the string diameter for the
relationship of approaching velocity and contact time
Fig. 2 Schematic view of jig and string-bed
超希釈回転対向流双子火炎の燃焼機構
システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻
博士前期課程 1 年 福田 瑛人
指導教員 西岡 牧人
E-mail: [email protected]
1. 緒言
近年,化石燃料の枯渇や二酸化炭素排出による地球温暖
化が問題となっており,化石燃料の代替燃料としてバイオ
ガスが注目されている .バイオガスは メタン割合が
50~75%と低品位ではあるが,再生可能資源で枯渇しないこ
とや,カーボンニュートラルな燃料であるといった利点か
ら広く用いられている.今後,より低品位な,燃料割合の
小さい燃料が注目される可能性がある.そのような燃料が
出現した場合には,燃焼機器における活用が期待されると
考えられる.そのためには,現在の燃料割合の可燃範囲を
外れた領域での燃焼の実現とその燃焼メカニズムの解明
が重要となる.
上道らは一次元的に取り扱うことのできる層流火炎モ
デルである回転対向流双子火炎(Fig,1)を用いて超希薄な条
件下での燃焼が可能であることを示した[1-3].ここで回転
対向流双子火炎では既燃ガスの逆流領域が形成され,未燃
ガスと既燃ガスの対向流が形成されることが従来からの
理論的研究によって明らかになっているが,回転対向流双
子火炎では,火炎帯中に既燃ガスの逆流領域が形成され,
「対流」と「拡散」で輸送の向きが逆向きになる「正味流
束不均衡」という現象が生じる.これにより,反応帯中の
局所当量比が増大し,超希薄な条件での燃焼が可能になっ
たと結論付けている[3].
これを受けて小曽戸らは,超希釈な条件下においても同
様の現象が起こり燃焼が可能になるか否かを調査した[4].
その結果,Fig.2 に示すように可燃限界燃料割合[5]を大幅
に下回る応答曲線(upper2)が得られたが,その際,通常の回
転対向流双子火炎とは異なるもう一つの応答曲線(upper1)
が得られた.この火炎は断熱火炎温度より約 470K も高い
通常ではありえない最高火炎温度を示している.この特異
な火炎について様々な面から調査を行ったが,未だ原因の
解明には至っていない.
そこで本研究では,回転対向流双子火炎による超希釈燃
焼においてこの特異な火炎が発生する原因を,これまで一
定としていたパラメータを新たに変更した計算によって
調査し,燃焼メカニズム解明の手掛かりを得ることを目的
とする.超低品位な模擬燃料として CH4 と N2 の混合気を
用いる.今回は当量比φを変更した計算結果と雰囲気圧力
を変更した計算結果を報告する.
2. 数値計算方法
回転対向流双子火炎のモデル図を Fig.1 に示す.化学反
応機構は GRI-mech3.0 から NOx 関係成分を削除したもの,
計算コードは PREMIX を改造したものを用い,熱化学定数
および輸送係数の算出には CHEMKIN サブルーチンライ
ブラリを用いる.回転対向流双子火炎モデルでは,無限に
広い平行な多孔質軸対称噴射面が向かい合って設置され
ており,その平板の間隔は 3cm であり,予混合気の吹き出
し流速 uR は上下で等しく,平板は同じ方向に回転数 Ω で
回転している.
燃焼はよどみ面で鏡面対象,
計算領域は 0cm
≦x≦1.5cm とする.
3. 支配方程式
回転対向流双子火炎は,相似解を用いることにより一次
元で解くことができ,以下の方程式を解いている.なお,
境界条件は以下に示す.
・r 方向運動量保存式
𝑑
𝑑 𝐺
𝑑
𝑈𝐺
3𝐺 2
[𝜇
( )] − 2
(𝜇
)+
− 𝜌𝑊 2 + 𝐻 = 0
𝑑𝑥 𝑑𝑥 𝜌
𝑑𝑥
𝜌
𝜌
(1)
・θ方向運動量保存式
𝑑
𝑑𝑊
𝑑𝑊
(𝜇
) − 2𝑈
+ 2𝑊𝐺 = 0
𝑑𝑥
𝑑𝑥
𝑑𝑥
(2)
・U と G に関する関係式
𝑑𝑈
−𝐺 =0
𝑑𝑥
(3)
・エネルギー保存式
2𝑈𝑐𝑝
𝐾
𝐾
𝑘=1
𝑘=1
𝑑𝑇
𝑑
𝑑𝑇
𝑑𝑇
−
(𝜆 ) + 𝜌 ∑ (𝑐𝑝, 𝑘 𝑌𝑘 𝑉𝑘 ) + ∑ ℎ𝑘 𝑊𝑘 𝜔̇ 𝑘
𝑑𝑥 𝑑𝑥 𝑑𝑥
𝑑𝑥
(4)
=0
・成分保存式
2𝑈
𝑑𝑌𝑘
𝑑
(𝜌𝑌𝑘 𝑉𝑘 ) − 𝑊𝑘 𝜔̇ 𝑘 = 0
−
𝑑𝑥 𝑑𝑥
(5)
境界条件
・噴射面
𝑥 = 0 ∶ 𝑢 = 𝑢𝑅 , 𝑣 = 0 , 𝜔 = 2𝜋𝛺 , 𝑇 = 𝑇0 , 𝑌𝑘 = 𝑌𝑘,0
(6)
・鏡面対称面
𝑥=
𝐿
𝑑𝑣
𝑑𝜔
∶ 𝑢 = 0,
=0,
= 0,
2
𝑑𝑥
𝑑𝑥
𝑑𝑇
𝑑𝑌𝑘
= 0,
=0
𝑑𝑥
𝑑𝑥
(7)
4. 結果と考察
まずはじめに,当量比Φと最高火炎温度 Tmax の関係を
表す応答曲線を Fig.3 に示す.これは,uR=100cm/s,Ω
=300rps と固定し,当量比を変化させて得られた結果であ
る.また 4 種の CH4 濃度を用いている.Fig.3 より,希薄
側,過濃側どちらにおいても 2 つの応答曲線が一致する
箇所はみられず,特異な火炎の発生は当量比Φ=1.0 に限
って起こる現象ではないことがわかる.どの CH4 濃度に
おいても 2 つの火炎の温度差は希薄側より過濃側で大き
な差がみられる.また,upper1 と upper2 の温度差は CH4
濃度の低下するにつれて大きくなり,CH4 濃度 40%では
最大約 380K,25%では最大約 446K となった.次に CH4
濃度 25%と 40%の場合の火炎構造の比較を行う.ここで
はΦ=0.5,1.07 での火炎構造の比較をそれぞれ Fig.4,5 に示
す.両図を比較すると,Φ=1.07 において CH4 濃度が増加
すると CO2 濃度の差が小さくなっているが,それ以外に
大きな火炎構造の違いはみられない.
次に,雰囲気圧力と最高火炎温度 Tmax の関係を表す応
答曲線を Fig.6 に示す.これは,CH4 濃度 15%,
uR=100cm/s,Ω=300rps,当量比Φ=1.0 と固定し,雰囲気
圧力を変化させて得られた結果である.Fig.5 より,
upper2 は圧力の上昇に伴い最高火炎温度がやや上昇する
という通常の火炎の応答を示している.一方,upper1 は
圧力の上昇に伴い最高火炎温度が大幅に低下している.
upper1 と upper2 の火炎温度差は 0.5atm において約 656.4K
であるが,4.5atm では約 226.4K にまで減少している.圧
力の影響を大きく受けるものの一つに拡散係数があり,
これは圧力に反比例するという性質をもつ.従って,拡
散が upper1 の火炎温度低下に起因している可能性がある
と考えている.最後に 0.5atm と 4.5atm の場合の火炎構造
の比較を Fig.7 に示す.0.5atm では応答曲線が全体的にな
だらかな変化が続いているだが,4.5atm では急な変化の
後,ほぼ一定になっている.この結果の違いは圧力によ
る一般的な火炎構造の変化であり,この火炎に特異な現
象ではない.また,高圧側で upper1 と upper2 の H2O 濃度
の差が小さくなっているが,全体として根本的な違いは
見られない.
5.まとめ
回転対向流双子火炎モデルを用いた詳細反応数値計算
を当量比,雰囲気圧力を変更して行うことで以下の知見
を得た.

当量比を変更した数値計算の結果,当量比 1.0 以外に
おいても upper1 が発生する.また、過濃側で upper1
と upper2 の温度差が大きい.

火炎構造は希薄側と過濃側で根本的な違いは見られ
ない.

雰囲気圧力を変更した数値計算の結果,upper1 は圧
力の上昇に伴い最高火炎温度が下降する傾向がみら
れた.
6.今後の予定

圧力変化による火炎温度低下の原因の調査

反応経路の解析

燃料をプロパンや水素などに変更した数値計算
Fig.3 当量比に対する最高火炎温度の変化
Fig.4 Φ=0.50 における火炎構造
(実線: upper1, 破線: upper2)
7.参考文献
[1] M. Nishioka, Z. Shen, A. Uemichi, Combustion and
Flame, vol.158, pp.2188-2198, 2011.
[2] A. Uemichi, M. Nishioka, Proceedings of the Combustion
Institute, Vol.34, pp.1135-1142, 2013.
[3] A. Uemichi, M. Nishioka, Combustion Theory and
Modeling, Vol.19(1), pp. 1-24, 2015.
[4] 小曽戸,筑波大学修士論文,2015.
[5] H.F. Coward and G.W. Jones,“Limits of Flammability of
Gases and Vapors”, U.S. Bur. Mines Bull. No.503 (1952).
Fig.5 Φ=1.07 における火炎構造
(実線: upper1, 破線: upper2)
Fig.1 回転対向流双子火炎モデル
Fig.6 雰囲気圧力に対する最高火炎温度の変化
Fig.2 特異な火炎の出現
Fig.7 各雰囲気圧力における火炎構造
(実線: upper1, 破線: upper2)
デカン空気辻バーナ型対向流拡散火炎の実験的研究
システム情報工学研究科
博士前期課程 1 年
指導教員
西岡牧人
潘
構造エネルギー工学専攻
家輝([email protected])
副指導教員
文字秀明,花田信子
1.証言
現在,化石燃料の枯渇や二酸化炭素排出による地球温暖化
が問題となっており,燃焼機器の高効率化や NOx・SOx に代
表されるような環境汚染物質の排出量の低減が求められて
いる.その為に,近年における燃焼シミュレーションにおい
ては,素反応を考慮して燃焼機構を解明することに対する需
要が増してきている.しかし,詳細反応を考慮した研究はメ
タンやプロパンなどのような基本的な低炭素数の気体燃料
に対するものが多く,実際に燃焼機器で広く用いられている
炭素数の高い液体燃料に対する研究は少ない.近年ではこの
ような燃料に対しても様々な反応機構が作製され数値解析
がなされている.しかし,これらなされた数値解析を実験に
より検証した例は未だ多くないのが現状である.
現在,実用燃焼機器内の燃焼における燃焼機構を詳細に調
べることは困難である.それは実際の燃焼機器内で使用され
る燃料は炭素数の少ないメタンやエタンだけでなく,デカン
などの炭素数が多い燃料を使用されているので, 計算過程
で考慮すべき素反応や考慮すべき化学種は膨大なものとな
るからである.一番炭素数の少ないメタンの燃焼で考慮すべ
き化学種は約 20,考慮すべき素反応数は約 120 である.こ
れをデカンのような炭素数の大きい燃料で再現する際には
必要となる化学種や反応数が膨大となり,数値計算に要する
時間も膨大となる.また,燃焼の数値計算は実験で検証され
て初めて信頼されるため,炭素数の大きい燃料に対する燃焼
機構の解明には,構造が可能な限り単純で実験結果と解析結
果の比較がしやすい火炎を対象とする必要がある.そこで,
本研究グループでは対向流拡散火炎に注目して研究を行っ
ている.
本研究ではノルマルデカン(n-C10 H22 )を用いて,実験に
よって,辻バーナ型対向流拡散火炎の消炎を調べた.
本実験はバーナ入口の温度を 473.15K に保持しながら実
験を行った.実験条件は表 1 に示す.
2.実験装置及び方法
2.1 実験装置
Fig.1 に本研究で用いた実験装置の概略図を示す.装置は
主に以下に示す各装置から構成されている.なお,使用する
窒素はボンベから,空気はベビコンによって実験室内の空気
を圧縮し,それぞれ圧力調整弁およびマスフローコントロー
ラを用いて流量を制御して流している.
燃料混合気の供給には,ガスボンベ内の窒素を 1 次および
2 次減圧弁を介し,マスフロ―コントローラを用いて流量を
制御し,燃料気化器へと導入する.その際に,発熱体を設置
し,電気的に流路内の窒素の予熱を行う.その後,加熱され
た窒素は燃料気化器でデカンと混合し,燃料混合気として拡
大管内から流出し,燃料混合気を多孔質円筒より噴出させる.
外気による燃料混合気の温度低下を防ぐため,燃料気化器及
び拡大管の外周にリボンヒーターを取り付けて保温した.空
気の供給についても窒素と同様に 1 次および 2 次減圧弁を介
し,マスフロ―コントローラを用いて流量を制御し,整流装
置に送る.
Fig.2 に辻バーナの燃焼室を示す.燃焼室のサイズは幅
80mm,高さ 100mm,奥行 20mm である.ガラスは高温になる
ため,厚さ 5mm の石英ガラスと,その間の流路に直径 20mm
で奥行 18mm の多孔質円筒を厚さ 1mm の蓋でとじたものを設
置する.多孔質円筒から燃料を流出させ,下方から一様空気
流を対向させることによって滑らかで安定した火炎を形成
できる.
図2.辻バーナの燃焼室
図 1:実験装置の概略図
2.2 実験方法
本研究では,デカン窒素混合気のデカンの割合を固定し,
デカン、窒素、空気の流量を調整していくことで,限界空気
流速と燃料混合気流速の関係を調べる.そのとき,デカンの
体積流量は式(1)で求められる[1].混合気の流速を式(2)で
求められる.また,空気の流速は式(3)で求められる.
ここで,𝑄𝑂2 は空気流量,𝑆1 は燃焼室断面積,𝑄𝑁2 は窒素
流量,Q(C10H22)𝑔 は気体デカン流量,𝑆2 は多孔質円筒表面積で
ある.また,T0 は標準状態の温度, V0 は標準状態の体積,T𝑔 は
燃焼室への配管の温度,ρℓ は液体デカンの密度,Mはデカン
のモル質量である.ここで,T0 =73.15K, V0 =2.4L/mol,T𝑔 =
73.15K,ρℓ =0.7g/cm3,M=42.28 g /mol である.
ρℓ T𝑔
Q
M⁄V0 T0 ℓ
Q𝑔 =
𝑄𝑂2
v1 =
v2 =
(2)
𝑆1
𝑄𝑁2 +
(1)
Q(C H )𝑔
10 22
𝑄𝑁
2
𝑆2
(3)
表 1 バーナのサイズ及び温度
473.15
燃焼室の幅(mm)
20
燃焼室の長さ(mm)
80
多孔質円筒の幅(mm)
18
多孔質円筒の半径(mm)
10
多孔質円筒の表面積(mm2 )
1004.8
3
無次元噴出し流速 -fw
燃焼室への配管の温度(K)
2.5
1.5
0.5
1
デカン%
10
0.4
0.3
無次元噴出し流速,f
w
20
30
0.2
30
0.060
1000
図 4 空気‐メタン火炎の消炎点計測(先行研究)
25
0.1
0.0
0.040
0.020
0.000
0.15
0.65
Air flow velocity v【m/s】
v【m/s】
Fuel flow velocity
20
0.080
10
100
速度勾配 2V/R s^-1
0.6
デカン%
10
15
Present
Study
T.Ishikawa(2016)
1
0.5
0.100
A.yoshida(2013)
0
3.実験結果
3.1 限界空気流速と燃料混合気流速の関係の測定
燃料混合気中のデカンの割合を 10%、15%、20%、25%、
30%に固定し,デカンと窒素と空気の流量を調整して,限
界空気流速と燃料混合気流速の関係を測定した.結果を
図 3 に示す.
0.120
H.Tsuji(1973)
2
10
図 5 空気‐デカン窒素火炎の消炎点
1.15
1.65
図 3 限界空気流速と燃料混合気流速の関係
図 3 から分かるように,デカンの割合を一定にして,燃料混
合気流速が増加していくと,限界空気流速も増加することが分
かる.また,デカンの割合が 10%のとき,燃焼混合気流速と限
界空気流速がほぼ無関係になる.また,燃料混合気の流速が一
定の場合,デカンの割合が高い方が消炎しにくいことも分かる.
3.2 無次元噴出し流速と速度勾配の関係
図 4 は先行研究[2-4]で得られた空気とメタンによる消炎点
の結果を示している.横軸は速度勾配,縦軸は無次元噴出し流
速である.無次元噴出し流速は式(4)で求められる.
𝑓w =
v2
v1
100
2V/R s−1
√
𝑅𝑒
2
(4)
ここで,Re はレイノルズ数,v1 は空気流速,v2は混合気流
速である.図から分かるように,吹消え限界における-𝑓w の値
は速度勾配の広い範囲にわたって小さいが,速度勾配が非常に
大きくなって,値に近づくと-𝑓w の値は急激に増加し,火炎が
保持されるためのよどみ速度勾配の臨界値が-𝑓w に関係しなく
なることが分かる.これに対して,今回の実験結果を同様な図
に表したものが図 5 である.燃料が薄いとき,傾向はメタンの
場合とほぼ合っているが,混合気中のデカンの割合が高いとき,
多少傾向が異なっている.このように傾向が異なる原因につい
ては現時点では明らかではない.
4.結論
(1) デカンの割合を一定にして,燃料混合気流速が増加してい
くと,限界空気流速も増加する.
(2) デカンの割合が 10%のとき,燃料流速が大きい場合,燃
料混合気流速と限界空気流速がほぼ無関係になる.
(3) 燃料混合気の流速が一定の場合,デカンの割合が高い方が
消炎しにくい.
5.今後の予定
(1) 燃料が濃いとき,気体燃料と同様な消炎曲線にならない原
因を調べる.その調査の結果に従って,バーナの改良を行
う.
(2) 熱電対を用い,火炎中の温度分布を計測する.
(3) 数値計算を実施し,実験結果と数値計算結果の比較を行う.
6.参考文献
1. 海老澤,筑波大学修士論文, 2013.
2. 辻,日本航空宇宙学会誌 21-236, 533(1973).
3. A.Yoshida, et al., Combust. Flame 160,1357(2013).
4. 石川,構造エネルギー工学専攻大学院セミナー(2016).
微量燃料添加による噴流拡散火炎の吹き飛び抑制法の研究
システム情報工学研究科構造エネルギー工学博士前期課程 1 年 成田 大
指導教員 西岡 牧人
E-mail: [email protected],jp
1. 緒言
現代社会において,化石燃料の枯渇,二酸化炭素排
出による地球温暖化が懸念されている.そこで代替
燃料としてバイオマス燃料の一つであるバイオガス
に関心が高まっている.バイオガスはメタンを主成
分としたガスであり,低環境負荷燃料として期待さ
れているが,二酸化炭素などの不純物を多く含む低
品位燃料であるため火炎の浮き上がりや吹き飛びに
よる消炎が生じやすい.
一方,噴流拡散火炎は,その広い安全範囲や高い制
御性から,様々な燃焼器やバーナに利用されている.
しかし,発熱量の低い低品位燃料を用いた場合は浮
き上がりや吹き飛びを生じやすくなる.低品位燃料
を用いた噴流拡散火炎の火炎保持性能の向上は重要
な技術課題である.
次に先行研究の経緯について説明する.Takahashi
ら[1]は拡散火炎基部に火炎の安定に重要な役割を果
たす Reaction kernel が存在することを報告している.
本研究室ではこの理論に基づき、火炎の基部に微量
の燃料を添加することで火炎保持性能を向上させて
きた.高山[2]は火炎基部での Triple Flame[3,4] (Fig.1)
の形成による火炎保持性能の向上を示唆し,解析を
行っている.続いて,鷲見・倉持[5,6]は先行研究に
おいて使用されてきた“疑似低品位燃料”(CH4+N2)
から実際のバイオガスの組成に近い“疑似バイオガ
ス” (CH4+CO2)に燃料を変更し,火炎保持性能の向
上に成功している.また、従来の二重管を簡易化し
た穴あき二重管を作成し、従来のものとほとんど変
わらない火炎保持性能を示している.
2. 実験装置,実験条件
2.1 実験装置
Fig.2 にガス供給系統図と実験装置概略図をそれぞ
れ示す. 供給系統はメタン,二酸化炭素,空気の三
つで構成され,それぞれの流量をマスフローコント
ローラーで制御する.メタンと二酸化炭素は混合さ
れたあとバーナに送られ、空気はドラムに送られた
あとストローで整流する.
Fig.2 実験装置概要図
2.2 実験条件
Fig.3 に穴あき単管バーナの詳細図を示す.管とし
ては,内径 5mm,外径 6mm の真鍮管を使用した.
バーナ先端から穴の中心までの距離 Δz は 10mm に固
定し,穴の大きさは 0.8mm,1.0mm のものをそれぞ
れ作成した.また、
穴の大きさは 1 段につき 12 個で,
30 度間隔で穴を空けており,段数が 1 段,2 段,3
段のものをそれぞれ作成し,計 6 条件での吹き飛び
実験を行った.
本実験では,メタンと二酸化炭素の総流量を先行
研究と同じ 3.8L/min に固定したまま,周囲空気流速
𝑈𝑎𝑖𝑟 とメタン割合(体積比)𝑋𝐶𝐻4 を変化させた.各𝑋𝐶𝐻4
に対して,火炎が吹き飛んだときの𝑈𝑎𝑖𝑟 を吹き飛び
限界周囲空気流速𝑈𝑎𝑖𝑟,𝑐 として計測した.
Fig.1 Triple flame の直接写真[7]
以上のような先行研究では,二重管を用いた火炎
保持性能の向上に成功しているが,単管のみでの吹
き飛び抑制法は考えられていない.したがって,本
研究では疑似バイオガスを燃料として用いた際の単
管穴あきバーナの火炎保持性能および火炎形状を調
査することを目的とした.
(a) 1 段
(b)
2段
(c)
Fig.3 バーナ先端付近の詳細図
3段
3. 実験結果
3.1 吹き飛び実験結果
Fig.4 に穴の大きさで比較した際の吹き飛び実験結
果を示す.縦軸に𝑈𝑎𝑖𝑟,𝑐 ,横軸に𝑋𝐶𝐻4 をとっており,
𝑈𝑎𝑖𝑟,𝑐 の値が大きいほど火炎保持性能が高いことを
示している.実線,点線,破線,一点鎖線はそれぞ
れ穴なし単管,φ1.0mm、φ0.8mm,Δz=10mm の
穴あき二重管の結果を示している。どの段数におい
ても,穴の大きさが 0.8mm のときに最高の火炎保持
性能を示した.また,穴の段数が 3 段のときには
𝑋𝐶𝐻4 = 37%での火炎保持に成功し、穴あき二重管と
ほぼ同等な火炎保持性能を示した.
3.2 火炎形状の比較
Fig.5 に火炎形状の比較写真を示す.写真は穴なし
単管と穴あき単管の穴の大きさ 1.0mm 段数 1 段のも
のであり,穴なし単管においては,𝑈𝑎𝑖𝑟 =15cm/s で
火炎が浮き始めているのに対し,穴あき単管ではそ
の倍以上の𝑈𝑎𝑖𝑟 でも火炎がバーナリム先端に火炎が
保持されていることが確認された.また,火炎基部
において従来の二重管でも確認された釣り針状の火
炎と似たものが形成されていることを確認した.こ
の火炎の存在によって火炎基部周辺の流れが広がっ
て流速が遅くなり,火炎保持性能が向上すると考え
られる.
4.結言
疑似バイオガス(CH₄+CO₂)を燃料として用いた際
の単管穴あきガスバーナーの火炎保持性能および火
炎形状を調査した結果,以下の知見を得た.
•
•
吹き飛び実験において、穴の段数が 3 段のとき
に CH₄:CO₂=37:63(体積比)という希釈条件での
火炎保持に成功し、穴あき二重管とほぼ同等な
火炎保持性能を示した.
火炎形状に関しては、従来の二重管で確認され
た釣り針状の火炎と似た形状の火炎が確認され
た.
参考文献
1.
(a) 穴の段数 1 段
2.
3.
4.
5.
6.
7.
F. Takahashi, W.J. Schmoll, V.R. Katta, Proc.
Combust. Inst. 27, 675 (1998).
高山, 筑波大学大学院システム情報工学研究科
修士論文, 2012.
廣田, 松尾, 溝本, 機論 69-677, 177 (2003).
S.H. Chung, B.J. Lee, Proc. Combust. Inst. 30, 339
(2005).
鷲見, 筑波大学大学院システム情報工学研究科
修士論文, 2016.
倉持, 筑波大学工学システム学類卒業論文,
2016.
J.D. Dold, Combust. Flame 76, 71 (1989).
(b) 穴の段数 2 段
(c) 穴の段数 3 段
Fig.4 穴の大きさで比較した吹き飛び実験結果
(a) 穴なし単管
(b)
穴あき単管
Fig.5 火炎基部の形状の比較写真
大気圧低エネルギープラズマによる血液凝固促進現象のメカニズム理解に関する研究
副指導教員
1. 研究背景, 及び目的
近年,様々なプラズマ技術が多くの分野へと応用されてい
る.その中でも低温大気圧プラズマジェット“Atmospheric
Pressure Plasma Jet (APPJ)”は,対象物に熱ダメージを与えずに
プラズマの高反応性を利用可能であり,さらにプラズマがジ
ェット状であるため処置の自由度が高いことから,医療分野
への応用研究が盛んに検討されている.
APPJ の医療応用の一つとして,榊田らにより開発された大
気圧低エネルギープラズマ“Low-Energy Atmospheric Pressure
Plasma (LEAPP)”装置による止血処置がある[1].この装置を用
いてジェット状のプラズマ(プラズマフレアー)を出血部へと
照射すると,急速な血液凝固促進現象が起こり,Fig. 1.(a)に示
すように,この現象で生成された凝固物によって出血部が覆
われることで止血が行われる[2].
外科手術において止血機器は必要不可欠である.対象とす
る出血によって使用される機器は異なるが,滲み出るような
出血に対しては高周波電気凝固装置やアルゴンプラズマ凝固
装置などが用いられている.これらは焼灼止血と呼ばれる,
熱によって血管を焼きつぶすことで止血を行う.こうした従
来の手法は止血には有効だが,処置に伴い生体組織への熱損
傷が生じ,術後障害の原因となることが知られている.LEAPP
は従来の止血機器のような熱を用いた止血ではないため熱損
傷が生じないことが確認されている(Fig. 1. (b)).そのため,術
後障害を回避することができ,低侵襲治療の実現,さらに入
院期間の短縮による医療費の削減を期待することができる.
前述のように, LEAPP による止血処置は従来と比べて理想
的な止血手段であると言える.しかしながら,血液凝固促進
現象においてプラズマがどのように作用しているかは未だ分
かっていない.より効果的な止血機器の開発などの今後の技
術発展・実用化を進める上で,この現象がプラズマによるど
のような反応を通して引き起こされているのか,その反応メ
カニズムを明らかにして学理形成を行うことが求められる.
ここで,LEAPP のプラズマ生成の際の作動ガスを He とし
た場合と Ar にした場合では血液凝固の様相が異なっており,
He を用いた方が高い凝固効果を示すことが報告されている
[2].そこで,本研究では He 及び Ar プラズマのそれぞれの実
験時のプラズマパラメーターを計測することにより,その相
違を明らかにし,凝固様相との相関関係の分析・重要因子の
検討を行う.これによりメカニズム解明へと繋げることを目
的とする.
(a)
博士後期課程 2 年 山田大将
指導教員 榊田 創 准教授
阿部 豊 教授,藤野貴康 准教授
E-mail:[email protected]
2. 実験手法, 及び実験装置
プラズマパラメーターは, 電流や放電電力などの電気的パ
ラメーター,電子密度・電子温度といったパラメーター,そ
してプラズマによって生成される活性種など多岐にわたる.
これらは独立しておらず密接に関係しているため,一つのパ
ラメーターを変動させて,血液凝固促進現象がどのように応
答するかを確認するのは難しい.そのため,本研究のように
血液凝固促進現象の様相が異なることが確認されている 2 種
類のプラズマについて,それぞれのプラズマパラメーターが
どのように異なっているかを比較検討することは重要である.
本研究では,これらのパラメーターの中でも多くのプラズマ
応用分野で重要な役割を担っている活性種に着目する.活性
種は高反応性を有するイオン,励起種やラジカル等のことで
あり,プラズマは大気成分や照射対象物成分と反応すること
で多種の活性種を生成する.実験では,プラズマが大気中に
て生成する活性種,および血液照射時は多量の水を含む血液
へと照射することで液中活性種の生成も考えられるため,照
射対象物として初期段階として純水を用いた時の液中に生成
される活性種の計測も行った.
プラズマ源としては,榊田らによる LEAPP 装置(作動ガ
ス:He 2.0 ℓ/min, Ar 1.0 ℓ/min, 周波数:約 62 kHz,Vp-p: ~6
kV)を使用する.大気中にて生成される活性種については,プ
ラズマを乱すことなく計測することが可能である発光分光法
を用いた.分光器は Stellar Net. Inc.社製の分光器 Blue wave
4(回折格子:600 grooves/mm,波長範囲:200-1,000 nm)を使
用した.液中活性種については,分光光度計(日立 U-3310)を
用いてプラズマ照射後の純水の吸光スペクトルを評価するこ
とで,液中活性種の計測を行った.
発光分光計測は LEAPP 装置のノズル先端から 10 mm 離
れた場所へと銅板を設置し,プラズマ照射を行いプラズマフ
レアーの発光を分光装置により計測した (Fig. 2).この時,ノ
ズル‐銅板間の発光の空間分布についても取得した.液中活
性種計測では,Fig. 3.に示すように LEAPP 装置のノズル先
端から水面までの距離が 10 mm となるように調節して,プ
ラズマを 1 分間照射した.その後,照射後から計測開始まで
の時間を 1 分間に固定して分光光度計を用いて計測を行った.
(b)
LEAPP 照射部
凝固血液
脂肪細胞
Fig.1. (a)マウスへの照射後の処置部拡大写真.(b)被処置部の
病理組織図[5].
Fig. 2. 発光分光計測実験の概略図
合の大きな相違点は, 準安定励起状態の種のエネルギー差に
よる N2+の生成の有無である.Hem は N2 以外にも O2,H2O
をペニング電離反応によって電離可能である.血液照射時に
おいても血液表面近傍で生成されたイオン種や,Hem が血液
凝固促進反応に寄与している可能性がある.しかしながら,
実際に Hem が重要な役割の一つを担っているかを明らかにす
るためには更なる研究が必要である.
Fig. 3. 分光光度計による液中活性種計測実験の概略図.
3. 実験結果, 及び考察
分光法を用いて得られた発光強度の空間分布計測結果を
Fig. 4.に示す.ここでは,He を作動ガスとした場合の 587.5
nm の He I および Ar を作動ガスとした場合の 763.5 nm の
Ar I の発光強度分布をそれぞれ Fig. 4(a), (b)にて示している.
2 つのグラフからどちらもターゲットとした銅板表面近傍(9
mm~)では発光強度が増加していることが分かる.本稿には
載せていないがその他の種からの発光についてもターゲット
表面近傍ではその発光強度が増加する傾向が得られた.これ
は,表面近傍に形成された局所電界の影響が考えられる.Fig.
5. (a), (b)には,表面近傍での実際の分光計測結果を示す.こ
れらを比較すると Ar ガスを作動ガスとした場合,N2+の発光
が確認できないことが分かる.He I や Ar I のような作動ガ
ス種由来の発光および N2+からの発光を除いては,同様の発
光スペクトルを確認できる.このことは,N2+の生成反応が Ar
プラズマでは多く生じていないことが考えられる.プラズマ
中での N2+の生成反応としては,窒素の電離に必要な約 15.6
eV のエネルギーを有する電子の衝突,別のイオン種との衝突
による電荷交換反応, 及び 15.6 eV 以上のエネルギーを有す
る準安定励起状態にある粒子との衝突によるペニング電離反
応があげられる.電子やイオン種の衝突による電離反応はど
ちらのプラズマにおいても生じることが予想できるが,ペニ
ング電離反応については He を作動ガスとした場合のみに生
じる.これは準安定 He“Hem”のエネルギーは約 20 eV であ
るが,準安定 Ar“Arm”では,約 12 eV であり窒素の電離に
必要なエネルギーを有していないためである.以上のことか
ら,Ar を作動ガスとした場合,Arm のエネルギーが Hem より
も低く,窒素の電離に必要なエネルギーを有していないため
に N2+ペニング電離による生成が生じなかったため,発光が
非常に弱くなったことが予想できる[3].
分光光度計を用いた計測を行った結果,190 nm にピーク
を有するスペクトルが得られた.これは HNO3 や H2O2 など
の液中活性種の吸収スペクトルが重なっている状態であるこ
とが知られている.また,He を作動ガスとした場合も Ar の
場合でも,同様のスペクトルが得られておりその吸光度とし
て,Ar の方が高い値を示すものの大きな違いはなかった.こ
こで,分光光度計を用いた今回の計測では長寿命の活性種を
対象としている.短寿命活性種は非常に反応性が高く,反応
を通して別の種となるため,計測するためにはトラップ剤を
用いた電子スピン共鳴法や蛍光試薬を用いた化学プローブ法
を適応する必要がある.しかしながら,短寿命活性種の一つ
であり,反応性が非常に高い OH は反応によって最終的には
今回計測対象としている H2O2 になることが知られており,
OH の生成挙動については今回の計測結果と同様の傾向を示
すことが考えられる.
今回の計測から得られた He,及び Ar を作動ガスとした場
4. 結論
LEAPP について,発光分光法による大気中活性種計測を
行った結果,ターゲット表面では局所電界による発光強度の
増加が確認でき,さらにその領域であっても Ar を作動ガス
とした場合は,N2+の発光は確認できないことが分かった.こ
れは,N2+の生成はペニング電離反応による生成が支配的であ
り,Arm は N2+ の生成に必要なエネルギーを有していないた
め, Ar では N2+の生成反応が多く生じなかったことが考えら
れる.また,分光光度計による今回の液中活性種計測から, 液
中活性種の生成に関しては大きな相違点を確認することが出
来なかった.以上のような相違点が血液凝固促進現象の様相
の違いへと起因している可能性があるが,これを明らかにす
るためには更なる研究が必要である.
5. 今後の課題
・Hem の寄与について: He-Ar 混合ガスを作動ガスとした場
合の血液凝固促進現象の確認。Ar 混合量増加に従い Hem は
減少していくことが考えられる.そこでまずは, 血液成分の
一つであるアルブミンの変化を計測する.
・酸素系活性種(ROS),窒素系活性種(RNS)の寄与について:
ガス成分制御チャンバーを用いて,酸素,窒素を排除した環
境下で He プラズマの照射実験を行う.
参考文献
[1] H. Sakakita, et al. WO2012/005132.
[2] Y. Ikehara, et al. J. Photopolym. Sci. Technol. 26 (2013) 555.
[3] H. Yamada, et al. J. Phys. D: Appl. Phys. 49 (2016) 394001.
Fig. 4. 発光強度の空間分布 (a)Heガスを作動ガスとした場
合のHe Iの発光,(b)Arガスを作動ガスとした場合のAr Iの発
光.
Fig. 5. ターゲット表面近傍の分光計測結果.(a) He を作動ガ
スとした場合,(b)Ar を作動ガスとした場合.
再生可能エネルギーを利用した水電解システムの合理化および運用最適化に関する検討
~太陽電池出力の算出とその整理~
構造エネルギー工学専攻 博士前期課程 1 年 須貝 徳善 ([email protected])
指導教員【石田 政義】
、副指導教員【花田 信子、藤野 貴康】
1. はじめに
近年,燃料電池自動車の普及拡大に伴い,水素ステーショ
ン(以下,水素 ST)の導入が進められている[1]。現行の水素
ST では,炭化水素の改質から得た水素が用いられているが,
環境負荷低減や地球温暖化対策の観点からは,再生可能エネ
ルギー(以下,再エネ)を利用した水電解水素生成が望まし
い 。 再 エ ネ 利 用電 源 の 一 つ と し て , 太 陽 光 発 電 (PV:
Photovoltaic power generation)の利用が検討されている。一方で,
PV を利用する水電解水素生成では,
PV の設備利用率の低さ,
出力変動への対応,発電地域と水素需要地とのミスマッチ等
が課題として挙げられる。これまで,水素 ST 向けの再エネ
利用システムの合理化を検討した例は少ない。そこで研究の
目的を,再エネを利用した水電解システムの合理化および運
用最適化に関する検討とした。
PV 出力の基となる日射の中で高エネルギーとなる高日射
の発生頻度が低いため,良好な発電状態を基準とした PV の
定格容量を設計の基準にすることは望ましくない。システム
の容量設計を行うにあたり,PV 出力のエネルギー密度分布
を得ることは重要である。本稿では,過去の気象データから
2 通りの方法で PV 出力を求め,それぞれに対して設備利用
率,エネルギー密度分布を得たので報告する。
2. 計算条件
2.1. 気象データ
日射量と気温データには水素 ST の導入が盛んな 4 都市を
含み,異なる気候区分を含んだ 10 地点において 1990 - 2015
年に観測された 1 時間間隔の実測データを使用した[2]。数値
計算の際には,日射強度を線形補間によって,気温を時間変
化が緩やかであることを鑑みて最近傍補間によって 1 分間隔
に加工して用いた。
2.2. PV 出力の数値計算モデル
PV 温度 25 °C 環境下,200 W/m2 から 200 W/m2 刻みの 1000
W/m2 までの 5 つの日射強度環境下での I-V 特性データシート
(SHARP 製 NU-180,定格容量 180 W)から,フィッティング
と平行移動,線形補間によって,ある日射強度・PV パネル
温度環境下での PV 出力特性を得る数値計算モデルを作成し
た。理想的な最大電力点の追従がされるという仮定の下,PV
出力を算出した。なお,PV パネルの設置角度は PV 出力に影
響を与えるものの,簡単のため地面に対して 0°として計算し
た。式(1)にフィッティングに用いた式を,式(2)(3)に温度補正
に用いた式を示す。
c V
I PV @ 25C  aPV  bPV  e PV PV @ 25C  1


(1)
I PV @ Tcell C  I PV @ 25C   Tcell  25
(2)
VPV @Tcell C  VPV @ 25C   Tcell  25
(3)
ここで,IPV [A]は PV 電流,VPV [V]は PV 電圧,Tcell [°C]は PV
パネル温度,aPV, bPV, cPV は定数係数,α は電流の温度依存係
数,β は電圧の温度依存係数,e はネイピア数である。
2.3. PV パネル温度の条件
PV 出力は,
日射強度のみならずパネル温度にも依存する。
しかし,パネル温度の差異が長期的な PV 出力の特性に与え
る影響は小さいと考えられる。パネル温度を定数として扱う
ことで,議論の簡単化が見込める。そこで筆者は,パネル温
度の計算に,
条件①:式(4)に示す Tair(t),NOCT,S (t)から算出する方法[3]
条件②:式(5)に示す NOCT のみから算出する方法
の 2 通りの計算方法を用いた。
Tcell (t)  Tair (t) 
NOCT  20 S (t) [C]
800
Tcell (t)  NOCT [C]
(4)
(5)
ここで,Tcell(t) [°C]は時点 t での PV パネル温度,Tair(t) [°C]は
時点 t での気温,
S (t) [W/m2]は時点 t での日射強度,
NOCT [°C]
は標準セル温度である。NOCT はデータシートの値を参考に,
47.5 °C とした。それぞれのパネル温度の計算方法に対して,
PV の設備利用率,エネルギー密度分布を得た。
3. 計算結果
3.1. PV の設備利用率
式(6)で定義される PV の設備利用率は,一般的に 12%前後
と言われている。
設備利用率
PVの年間総発電量
[ Wh]  100
PVの定格容量[ W]  24 [h ]  365(or366)
(6)
本研究で扱うデータを用いての設備利用率の算出は,議論
を進める上で重要である。図 1 に,10 地点における設備利用
率の代表値を示す。本稿では,代表値に 26 年間の PV の年間
総発電量を基に算出した設備利用率を用いた。異なる条件下
で得た設備利用率間の相関係数が 0.994 ときわめて強い相関
を取ること,違いが最大で 0.36 ポイント(@札幌)と小さい
ことから,パネル温度計算条件の差異が地点別の設備利用率
の傾向とその値に与える影響は小さいと言える。
3.2. PV 出力の相対度数分布
PV 出力のエネルギー密度分布の算出にあたり,PV 出力の
相対度数分布を算出した。PV 出力がある場合を前提とする
ため,PV 出力が 0 となる場合を度数から除外した。一般性
を持たせるため,PV 出力を定格容量で除し,規格化した。
階級値を 0.025 から 0.05 刻みとした。この条件下で,階級数
は,式(7)に示す年間の度数 N に対して階級数の目安 n を与え
る式から大きく逸脱しないオーダーであった。
n  log2 N  1
(7)
図 2 に,一例としてパネル温度計算に条件①を用いた東京
における PV 出力の相対度数分布を示す。本稿では,代表値
に 26 年間の累計の度数を基に算出した相対度数を用いた。
図
2 から,PV 出力の相対度数分布は単調減少型であることが読
み取れ,定格出力の 5%以下の発電状態を取る頻度が 30%超
と高いことが言える。
3.3. PV 出力のエネルギー密度分布
容量設計の際には,PV 出力の度数分布のみならずエネル
ギー分布の加味が重要となる。図 3 に,東京における PV 出
力のエネルギー密度分布を示す。代表値には,前節で算出し
た PV 出力の相対度数に PV 出力を乗じた値の相対度数を用
いた。すなわち本稿におけるエネルギー密度分布とは,PV
出力で重み付けを行った相対度数分布を示す。図 3 から,エ
ネルギー密度分布は単峰型であることが読み取れる。PV 出
力は,パネル温度が高いほど低下する。条件②の場合に分布
全体が低出力側にシフトしている原因として,Tcell を高く見
積もっていること,高出力時に傾向が逆転している原因とし
て,Tcell を低く見積もっていることが考えられる。他の 9 地
点においてもこの傾向は定性的に一致したが,地点の違いに
よりその大きさには違いが見られた。エネルギー密度分布算
出時の Tcell には,気温や日射強度を考慮した値を用いるのが
妥当であると考えられる。
図 3 の密度分布をより効果的に示すために,PV 出力のエ
ネルギー密度分布の累積相対度数を算出した。図 4 に,一例
としてパネル温度計算に条件①を用いた東京における PV 出
力のエネルギー密度の累積相対度数分布を示す。図 4 におい
て,2 軸は共に図 3 における横軸であり,プロット領域内の
値は横軸と縦軸の間に属する相対度数の累積値を示す。図 4
に示した等高図は,PV 出力のエネルギー密度分布を評価す
る場合に有用であると考えられる。
4. まとめと今後の予定
水電解水素生成の要となる PV の出力を,26 年間の気象デ
ータを用い 2 通りのパネル温度 Tcell に対して求め,設備利用
率・出力エネルギー密度を算出し,以下の知見を得た。

Tcell の条件の違いによる設備利用率への影響は小さく,
定数でおいても十分に算出可能である。一方で出力エネ
ルギー密度の算出には,気温・日射強度を考慮した Tcell
の条件が妥当である。

エネルギー密度分布の評価に有用な等高図を得た。
本稿では,地点の違いに主眼を置いた考察まで至らな
かった。今後は,地点の違いによるエネルギー密度分布
の分析・分類を行う。また,本研究で着目すべき水素 ST
の需要に関する調査・モデルの作成,水電解装置,蓄電
池などの電力バッファを含めた数値計算を行う。
参考文献
[1] 燃料電池実用化推進協議会:
「FCV と水素ステーションの
普及に向けたシナリオ 2016」
, [Online], Available:
http://fccj.jp/pdf/28_csj.pdf, 2016
[2] 気象庁:
「過去の気象データ検索」, [Online], Available:
http://www.jma.go.jp/jma/index.html, 2016
[3] R.G.Ross, “DESINE TECHNIQUES FOR FLAT-PLATE
PHOTOVoLTAIC ARRAYS”, Presented at the 15th
Photovoltaic Specialists Conference Orlando, Florida, May 12 15, 1981
PVパネル温度計算条件
①
15
②
PVパネル温度計算条件
Relative frequency [%]
14
13
12
11
10
①
②
10
5
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
PV output ratio
図 1.10 地点における PV の設備利用率
図 3.PV 出力のエネルギー密度の相対度数分布
Density ratio distribution of PV output_TOKYO_1
(左から順に北緯降順)
1
Lower limit of PV output ratio
40
30
20
10
0.8
10
20
0.6
0
Density ratio of PV output_TOKYO_1
Relative frequency [%]
Energy availability factor [%]
Density ratio of PV output_TOKYO_1and3
15
40
30
0.4
50
60
70
80
0.2
90
0
0
0.2
0.4
0.6
PV output ratio
0.8
1
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
Upper limit of PV output ratio
図 2.PV 出力の相対度数分布
図 4.PV 出力のエネルギー密度の累積相対度数分布
水素吸蔵合金圧縮機導入に向けた Ti-V-Fe 水素昇圧の検討~Ti-V-Fe の圧力温度特性~
構造エネルギー工学専攻 博士前期課程 1 年 須藤 隆充 ([email protected])
指導教員【石田 政義】
、副指導教員【花田 信子、藤野 貴康】
1. 序論
現在、水素ステーションの増設が検討され、水素昇圧技術
が必要となる。従来の水素昇圧技術は、空気圧縮機を用いた
機械的駆動水素昇圧が用いられている。しかし、機械的駆動
では駆動部分の装置が水素脆化により損傷する可能性があり、
ランニングコストと安全性に問題がある。そこで、従来の水
素昇圧技術の代替技術として、異なる解離圧を持つ複数の水
素吸蔵合金(MH:Metal Hydride)の特性を利用した、200~
300°C 程度の熱源を利用した熱的駆動による水素昇圧技術が
提案されている[1]。しかし、これまでに水素昇圧技術で用い
られる MH は AB2 型や AB5 型などであり、このような MH
は法律上、危険物として扱われることから、HS に設置する
場合に設置スペースを余分に確保するなどの問題点が生じて
しまう。そこで、本研究では、非危険物の MH が多く存在す
る体心立方格子(BCC: Body-Centered Cubic)構造 MH を用いて
水素ステーション充填圧力である 82 MPa までの昇圧を目的
とする。しかし、82 MPa という超高圧帯までの水素昇圧を
BCC 構造の MH のみで行えることが確認されていないため、
BCC 構造の水素貯蔵合金の昇圧能力の検討を行う必要があ
る。検討を行う上で超高圧帯まで直接測定することが困難で
あるため、低圧の状態で PCT 測定を行った後、エントロピー
及びエンタルピーの算出を行い、この数値を下に圧力温度特
性を van’t Hoff 式により検討する。今回は、安価なフェロバ
ナジウムを含む BCC 構造の MH として知られる V-Ti-Fe の組
成において水素を 82MPa まで昇圧についての検討を行った
ので報告する。
2. 水素貯蔵合金の水素昇圧機能
MH の水素圧力は、Van’t Hoff 式に従うため、MH は、温
度上昇に伴い圧力が指数関数的に上昇し、図 1 のように水素
昇圧機能を有する[2]。
𝑃𝐻2
∆𝐻 ∆𝑆
ln ( ) = −
+
(1)
𝑃0
𝑅𝑇
𝑅
ここで、水素圧力:𝑃𝐻2 [MPa]、温度:T [K]、エンタルピー:
∆𝐻 [kJ/mol]、エントロピー:∆𝑆 [J/(mol・K)]、気体定数:R =
8.314 J/(mol・K)、大気圧:𝑃0 = 0.1013 MPa、平衡定数:
𝐾 = 𝑃𝐻2 /𝑃0 [-]とする。
MH の水素化・脱水素化反応は、気体水素の圧力𝑃𝐻2 、
MH の温度 T 及び組成 C の関係により平衡状態を保ち、縦軸
に各温度の水素平衡圧、横軸に合金の組成をとり、描かれた
曲線を PCT 曲線と呼ぶ。Van’t Hoff 式により MH 温度上昇に
伴い水素平衡圧が増加する。また、多くの MH には、プラト
ー領域と呼ばれる組成の変化に対して水素平衡圧の変化が小
さい領域が存在する。プラトー領域では水素吸放出反応速度
の制御が容易であることから、MH を利用する際にはプラト
ー領域の範囲で運用することが一般的であり、低温で吸蔵、
高温で放出することで吸蔵時より高圧での水素放出が可能に
なる[3]。この性質を活かし、温度変化と MH を組み合わせる
ことにより常圧から水素ステーション圧力基準 82 MPa の高
圧まで昇圧させる。
このようなMH の水素昇圧機能を利用し、
熱エネルギーとMH を組み合わせたMH コンプレッサーの運
用を試みる。
図 1. 水素貯蔵合金の水素昇圧特性(例:LaNi5)
図 2. PCT 測定評価装置の概要
3. BCC 構造の水素貯蔵合金
水素吸蔵放出を行った MH は、基本的に微粉化により発火
する性質を有し、危険物扱いとなる。そこで注目したのが
BCC 構造の MH である。BCC 構造の MH は、最密充填であ
る面心立方(FCC)構造や六方最密(HCP)構造に比べて格子間
隙間の数が多いことから、水素吸蔵量が多く水素貯蔵材料と
して極めて優れている。また、結晶性の対象性が高く、金属
間化合物に比べて塑性変形が容易で体積膨張による歪みを緩
和しやすいため微粉化が起こりにくい性質を有している[4]。
この性質により BCC 構造の MH には、発火の性質を有しな
いものが多くあるため BCC 構造の MH を使用することでよ
り安全性を備えた MH コンプレッサーとなる。
今回、測定を行う BCC 構造の MH は、Ti-V-Fe の合金を
使用した。この合金の組成には、Fe が含まれているため、他
の BCC 構造の MH に比べ安価であることから Ti-V-Fe の合金
を選定した。
4. BCC 構造 MH の水素昇圧機能解析方法
4.1. PCT 測定評価装置による Ti-V-Fe の ΔH、ΔS 評価方法
水素昇圧機能を解析するためにパラメータとして∆𝐻、
∆𝑆が
必要となる。そこで、産業技術総合研究所福島再生可能エネ
ルギー研究所(FREA)に設置されている 10 MPa までの測定が
可能な PCT 特性評価装置を用いて、3 通りの温度別 PCT 測定
を行った。PCT 特性評価装置の概要を図 2 に示す。ここで、
AV:空圧作動弁、V:手動弁、NV:流量調整弁、SFV:安全
弁、CV:逆止弁、PS:圧力センサー、MV:リザーバー容積
切換バルブである。
今回は、Ti-V-Fe(30-50-20), Ti-V-Fe(30-45-25)の 2 種類の合金
組成について PCT 測定を行った。また、10 MPa の PCT 特性
評価装置を用いるため 10 MPa 以下の範囲内で平衡圧が現れ
るように Sample Cell の温度を予め設定し、Ti-V-Fe(30-50-20)
では 100 °C, 80 °C, 30 °C、Ti-V-Fe(30-50-20)では 10 °C, -10 °C,
-30 °C に設定し測定を行った。PCT 線図を測定後、3 通りの
温度別の PCT 曲線の平衡圧領域の中心値を平衡圧として摘
出し、その平衡圧を下に Van’t Hoff plot を行った。また、plot
データから得られた線形近似をもとに近似式を算出の後、
Van’t Hoff 式と近似式を比較し、∆𝐻 、∆𝑆 を算出する。
ただし、∆𝐻、∆𝑆 を算出する際に近似式との比較を行うため、
Van’t Hoff 式が y = ∆𝐻𝑥 + ∆𝑆 の形になるように変形し、y
の部分は 𝑦 = 𝑅 × ln 𝐾 [-]、x=1/T [1/K]とする。
4.2. Ti-V-Fe の水素昇圧機能解析
算出結果の∆𝐻、∆𝑆を用いて Van’t Hoff 式により、温度水素
平衡圧特性を解析した。また、各 MH 組成において 82 MPa
に必要な温度の比較により、HS 向けの 82 MPa を目標とした
MH の昇圧機能の検証を行った。また昇圧機能は、放出過程
に依存するため、放出の∆𝐻、∆𝑆に着目し比較を行った。
5. BCC 構造 MH の水素昇圧機能解析結果
5.1 PCT 測定評価装置による Ti-V-Fe の ΔH、ΔS 評価結果
Ti-V-Fe(30-50-20) の 温 度 別 PCT 線 図 を 図 3 、
Ti-V-Fe(30-45-25)の温度別 PCT 線図を図 4 に示す。ここで、
図中の ABS は Absorption, DES は Desorption とする。
その結果 Ti-V-Fe(30-50-20)においては、100 °C で平衡圧が
約 3.4 MPa に対し、Ti-V-Fe(30-45-25)においては、10 °C で約
3.5 MPa となり、Fe の組成を 5 %増加で平衡圧の温度が大幅
に低減する傾向が見られた。また、PCT 線図より算出された
Ti-V-Fe(30-50-20)の Van’t Hoff plot を図 5、Ti-V-Fe(30-45-25)の
Van’t Hoff plot を図 6 に示す。Van’t Hoff plot により解析した結
果を表 1 に示す。また、図 3 から図 6 より温度上昇に従い吸
蔵放出のヒステリシスが減少する傾向も見られた。
5.2 Ti-V-Fe の昇圧機能解析結果
表 1 の結果から解析した結果、82 MPa 時の温度は、
Ti-V-Fe(30-50-20)では、放出:567 K、Ti-V-Fe(30-45-25)では、
放出:382 K であり、従来の MH コンプレッサー(82 MPa 時の
放出温度:513 K)と同等の昇圧機能が備わっていることを確
認した。また、Fe の 5 %増加による 82 MPa 時の必要な温度
は 185 K 減少し、平衡圧の上昇には、Fe の組成量にかなり依
存することを確認した。
6. 結論
本研究では、水素昇圧技術としての水素吸蔵合金圧縮機で
使用される水素吸蔵合金の危険物扱いにおける安全性が損な
われる問題点を解消するため、比較的危険物になりにくい
BCC 構造 MH の導入を検討している。そこで BCC 構造 MH
の中で材料として比較的安価なフェロバナジウムが含有する
Ti-V-Fe を用いた水素昇圧の検討を行った。今回は目標を
300℃以下で 82MPa 以上の昇圧が可能であるか、
Van’t Hoff 式
を利用した圧力温度特性により検証を行った。
検証結果では、
Ti-V-Fe(30-50-20)と Ti-V-Fe(30-45-25)ともに 82MPa に必要な
温度は 300°C 以下と目標を達成し、Ti-V-Fe が水素吸蔵合金圧
縮機に導入可能であることが確認できた。また、合金材料の
Fe を 5%増加させると昇圧可能な温度が 185°C も低下した。
つまり Fe には少量の組成量変化で昇圧可能な温度をかなり
低下させることが確認でき、Ti-V-Fe は MH コンプレッサー
への導入が期待される。
7. 今後の予定
Ti-V-Fe は Fe の量を増加するとBCC 構造から構造が逸脱し、
微粉化しやすい構造をとり危険物扱いとなる。つまり、Fe の
組成量の増加には限度がある。そこで、今後は BCC 構造か
ら逸脱しない Fe の組成量の限度量を今回行った MH 組成に
おいて XRD 測定により構造回析により検討する。
参考文献
[1] 広島大学,”水素吸蔵合金を用いて、高圧域(82MPa)の水
素ガス昇圧技術を確立”, 広島大学プレリリース,(2016)
M.V. Lototskyy, “Metal hydride hydrogen compressors: A
review”, International Journal of Hydrogen Energy 39,
(2014), p5818-5851
[3] 松村佳祐,”水素吸蔵合金利用昇圧法における容器熱交
換性能に基づく圧縮比と処理量の最適化”, 筑波大学大
学院博士課程 システム情報工学研究科修士論文, (2015)
[4] 大角泰章,”水素吸蔵合金―その物性と応用”,アグネ技術
センター, 1991/7/1, p340-341
表 1. Ti-V-Fe の ΔH、ΔS 評価結果
∆𝐻 [kJ/mol],
∆𝑆 [J/(mol・K)]
Ti-V-Fe
Absorption
33.37
116.9
(30-50-20) Desorption
36.15
119.4
Ti-V-Fe
Absorption
23.45
111.4
(30-45-25) Desorption
43.86
170.5
[2]
図 3. Ti-V-Fe(30-50-20)の温度別 PCT 線図
図 4. Ti-V-Fe(30-45-25)の温度別 PCT 線図
図 5. Ti-V-Fe(30-50-20)の Van’t Hoff plot
図 6. Ti-V-Fe(30-45-25)の Van’t Hoff plot