わが国に「消費税」が導入されて約 25 年が経過する。その間、わが国の

国際的な電子商取引に対応した消費税制の研究
―BtoC取引を中心として―
藤川 純一 論文要旨
わが国に「消費税」が導入されて約 25 年が経過する。その間、わが国の経済活動は
大きく発展を遂げた。その代表的な例として挙げられるのが、IT 技術の発達である。
中でもインターネットの発達がわが国の経済活動に与える影響は大きく、わが国の商
取引は一変することとなった。インターネットが発展するまでは、国際間の商取引に
ついては、限られた一部の商社等が行う大規模な取引が中心であり、個人及び中小企
業が国際間の商取引を行う機会は比較的少なかった。
しかし、1990 年代の後半以降のインターネットの急激な発展は、個人及び中小企業
が行う商取引の幅を国内取引から国際間取引へと拡大させ、また、有形物(物品)取
引が中心であった取引形態に、無形物(サービス)取引が加わることとなった。この
国際間サービス取引の比重はインターネット技術の発展に比例して大きくなってきて
いる。
「消費税」は、原則としてすべての物品とサービスの消費に課税することを目的とす
るものである。これまで、国際間のサービス取引については、比重が小さかったため、
消費税の課税問題は顕在化しなかったが、現代においては、適切に消費税の仕組みが
機能し、課税されているかが問題となる。
わが国の現行消費税制では、音楽のダウンロードや電子書籍(デジタルコンテンツ)
に代表される海外からの電子配信サービスについては課税されない。しかし、海外か
ら「有形物」として輸入される音楽や書籍には課税がされること、国内での配信サー
ビスには課税がなされることから、中立的な課税の確保がなされていないという問題
点や、税収ロスについて指摘がなされており、特に近年この問題をめぐる議論が盛ん
になってきている。
そこで本稿においては、まず、現行の消費税法の規定を確認しながら問題点の整理を
行う。
国内及び海外からのデジタルコンテンツの配信は、わが国の消費税法上「役務の提供」
に該当し、消費税法施行令 6 条 2 項 5 号の「情報の提供」または、消費税法施行令 6
条 2 項 7 号の「国内及び国内以外の地域にわたって行われる役務の提供その他の役務
の提供が行われた場所が明らかでないもの」に区分される。当該取引は、
「事務所等の
所在地」が日本にあるかどうかにより、国内取引の判定が行われる。
国内に事務所を有する事業者が、国内にデジタルコンテンツの配信を行う場合は、事
務所等の所在地が日本であるため、国内取引に該当し、消費税の課税対象となる。一
方、海外から日本の事業者及び消費者に直接行われるデジタルコンテンツの配信につ
いては、事務所等の所在地が日本に無いため、国内取引に該当せず、日本の消費税を
課税する根拠がない。
次に、わが国の消費税法の規定が、税財政上大きな問題を抱えていることに説得力を
持たせるため、海外からのデジタルコンテンツの配信取引のうち、税収ロスについて
指摘されている BtoC 取引について、平成 14 年末から平成 24 年末までの消費税の税
収ロスがどの程度あるかについて推計を行う。推計のためのデータは、主に総務省の
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「通信利用動向調査(世帯編)」の統計データを利用する。
本推計によると、平成 14 年では約 4 億円であった消費税収のロスが、平成 24 年には
約 96 億円となっている。
日本の全体の消費税収は約 12.5 兆円であることからすると、消費税収に占める国際
間電子商取引における税収ロスの割合はわずかである。
しかし、税収全体に占める割合は小さくても、このような税収ロスの存在は、国内事
業者によるデジタルコンテンツの販売と、国外事業者によるデジタルコンテンツの販
売との間に非中立性が存在し、後者に比べて前者が不利となっていることを示す明確
な指標として重要である。また、平成 26 年(2014 年)4 月には消費税及び地方消費
税の税率は合計 8%となることが決定しており、平成 27 年(2015 年)10 月以降は 10%
に引き上げられる予定であることを考えれば、税収ロスの問題はさらに拡大するであ
ろう。
最後に、海外の先行実績(主に EU の付加価値税)を参考にしながら、海外からのデ
ジタルコンテンツの配信に係る今後のわが国の消費税制のあり方について検討を行い、
若干の提言をする。
検討の結果、国際的な電子商取引についてわが国の消費税法が達成すべき目標を述べ
るならば次の2点が重要であると言えよう。
① 国外からのサービス購入と国内からのサービス購入に関する課税上の中立性を
確保するために、両サービスについて、ともに、国内(消費地)での課税を原則
とすること
② 具体的な課税方式の選択にあたっては、納税者の納税コストが過大とならない方
式を選択すること。
この 2 点を達成するため、わが国の消費税法の改正に関する本稿の結論を述べるなら
ば、当面は国外事業者からの BtoC のデジタルコンテンツの配信サービスに的を絞って
以下のような改正を行い、課税の非中立性や税収ロスの問題の重要性が低い BtoB 取引
に関しては、納税環境の整備を図った上で将来的に仕向地課税を確立し、リバースチ
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ャージないしは、海外事業者登録納税制度の導入を考えることが適当であろう。
まず、国内取引の判定基準については、仕向地課税を採用するべく、改正を行う必要
がある。具体的には、消費税法施行令6条2項の改正が必要である。Council Directive
2008/8/EC 58条を参考にし、「国内以外の地域から電子的手段によって提供される一
定の役務について」は「受益者の住所または居所」を課税地とするという規定を設け
ることが必要だろう。
「一定の役務」については、別途デジタルコンテンツの種類を限
定列挙する必要がある。この規定により、デジタルコンテンツの配信については、わ
が国の消費税の課税対象とすることができるようになる。
国内取引判定の基準の変更をするとこれに伴い、課税方式の変更を行う必要がある。
これには、消費者に対する直接の課税が選択肢とならないとすると、海外事業者登録
納税方式を採用し、海外の事業者に納税義務を課すことが現実的な方法であろう。
この方式には、まだ検討すべき課題が多く残されてはいるが、BtoC取引については、
税収ロスが今後も拡大することが予想されることから緊急性を要する問題となってい
るため、新たな制度設計を早急にする必要があることを述べて本稿の結論とする。
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