『精神分析入門』 牛島定信 日本放送出版協会 本書は放送大学のテキストとして書かれたものである。そのため、精神分析を基礎から 学ぼうとする人のために分かりやすく書かれてあった。私は卒業研究にあたって、精神分 析について理解しておく必要があったため、本書を手にとった。フロイトが始めた精神分 析とはいかなるものか、またその理論がどのような変遷を遂げて現在に至っているのかが よく理解出来た。 また、いかなる理論もそれを創始した人の生きた時代的文化・背景とそれに立ち向かう 時の生き方を反映したものであることを本書から実感とともに学ばせられた。フロイトの 生涯を通じて明らかなことは、反ユダヤ主義による迫害と慢性的な経済的不安という外的 現実と、ともすれば破綻を帰す父親系列との対象関係とが人生の両輪を形成するような状 況だったことである。この状況は外界とエスの狭間で苦しみもがく、精神分析的自我の姿 そのもののようにも思える。第1章にはフロイトの生涯と精神分析というタイトルのもと、 フロイトがいかなる人生を送ったのかがまとめられている。 そして、フロイトが創始した精神分析の理論を、無意識の理論から、夢分析、リビドー 論、エディプスコンプレックス、神経症論、精神病論、力動経済論モデルというように重 要なキーワードごとに順を追って、分かりやすく解説してある。 精神分析療法の実際として、精神分析療法の始まりから現在に至るまでのプロセスや精 神分析療法家の養成について、児童分析、転移についても幅広く触れられているところも 精神分析について知っていく上ではとても有意義な内容である。 各国(アメリカ、イギリス、そして日本)での精神分析の発展や変遷も本書からは読み 取ることができるようになっている。そこには精神発達理論についても書かれており、フ ロイトだけでなく、メラニー・クラインの発達論やウィニコットの発達論、マーラーの発 達論、エリクソンのライフサイクル理論も学ぶことが出来る。 各章ごとに演習問題が設けてあり、自己学習を確認できることも本書の良い点のひとつ である。私はこの演習問題をもとに、自分の理解を確認して、ゼミにおける個人研究発表 に役立てた。 現代においては、過食・拒食・自傷行為、ひきこもりなどの症状・問題行動や解離性人 格障害、境界性人格障害などの人格障害の問題が増加している。それらの問題についても フロイトのエディプス・コンプレックス理論で理解出来るかと言われると、大きな疑問が 残る。フロイト以降の研究から、生まれたばかりの母子関係をも考慮に入れて、人間の人 格形成を考えていく必要性が増してきたと言える。 分かりやすく書かれた本書ではあるが、精神分析は本当に奥深く、現代においての応用 や私の研究に活かしていくためにはまだまだ読書が必要なことも感じた。 (鈴木)
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