北畜会報 4 8:7 9 8 4,2 0 0 6 技術レポート ヤギ乳はヒトにやさしい ヤギ乳と午乳の比較 田中桂一・佐藤響太 (財)北海道農業企業化研究所,北海道樺戸郡浦臼町 して飼育管理し,搾乳,処理したヤギの乳はほとんど 1.はじめに ヤギは全世界で毎年, 0 6 1 0 6 0 0 嫌な臭いはなく,また,ヤギ乳から製造したチーズ, 2"-'3%,アジアでは 4 %, アメリカでも 1 %増加している.なかでも韓国ではヤ ヨーグルト,アイスクリームなどの乳製品も牛乳から のそれらとは一味違った美味しいものである.特に, ギ飼育が活発になり, 1 0%以上増加を示し,現在,約 ヤギ乳チーズは午乳チーズより淡白なものが多いが, 5 0万頭飼育されている.一方 独特の風味があり,チーズの初心者には食べやすい種 日本では昭和 3 0年頃の 0万頭も飼育されていたが,現在では ピーク時には約 7 類が多いと思う.わが国においても僅かではあるが, 2"-'3万頭と僅かしか飼われていない. 山羊乳チーズの愛好者が増えており,デパートのチー 表 1に1 9 8 0年から 1 9 9 9年までの 2 0年間の世界の家畜 ズコーナーにはフランスなどから輸入したヤギ乳チー 飼養頭数と乳生産量の変化を示したが,ヤギの飼養頭 ズが目に付くようになってきた.圏内でも飲用ヤギ乳 の生産,ヤギ、乳チーズの製造販売が小規模で、あるが始 数が 5 0%以上と最も増加しており それに伴ってヤギ 乳生産量も大きく増加している.さらに,ヤギ乳は開 められている. 発途上国ではほとんどが自家用で正式なデータがない 本稿では,ヤギ乳はいかに栄養的に優れたものであ ために,実際の生産量はFAOの統計より多いと推定さ つにヤギ乳 るかを紹介し,乳および乳製品の選択肢の l れている. およびその乳製品が加えられ ヤギ乳の消費拡大を図 ヤギは主に開発途上国の人々に乳と肉を提供してき り,牛に比べて低質な飼料,未利用資源である作物残 た,いわゆる“貧しい人々の牛"として飼育されてい 溢,農業副産物,山林・原野,遊休地などを有効利用 る.一方,フランスや地中海沿岸の国々ではヤギ乳は できる可能性のあるヤギを産業動物として見直される チーズやヨーグルトなどの乳製品として,牛乳の乳製 ことを願うものである. 品とは異なった風味を持つものとして古くから愛好さ れている.この傾向は 2 . ヤギ乳の栄養学的な研究(牛乳アレルギー にヤギ乳は効果があるのか) 経済の繁栄に伴って生活が豊 かとなり,食通家が多くなり,グルメ化を促し,ヤギ 乳チーズなどの消費がアメリカなどで盛んになり, ヤギ乳がヒトの栄養面で優れていることは主に経験 ヨーロッパからのヤギ乳製品の輸入が年々多くなって 的なことに基づいて言われていた.ヤギ乳がヒトの栄 おり,高級食料品としてヤギ乳製品が評価されている. 養および、健康面で最初に注目されたのは牛乳タンパク ヤギ乳のもう 1つの利用は,午乳アレルギーや消化 質による食物アレルギーがヤギ乳では発生しにくいと いう報告からである ( W a l k e r ,1 9 6 4 ) . 器系の弱いヒトの悩みを解消させるということでアメ 牛乳アレルギーの発生率はアメリカでは 1 , 0 0 0人に リカなどの開発国において認識され,開発途上国の"貧 l人といわれているが しい人々の牛"とは全く異なったものであり,現在,多 くの国のヒトによって求められ,需要が増大している. 国や年齢によって異なってい る.牛乳には動物実験によって抗体が示されている 1 8 わが国では,ヤギ乳やその乳製品に関してはほとん 種類の異なったタンパク質が含まれており,そのなか ど認識されていない.さらにヤギ乳やヤギ肉は臭いと で s-ラクトグロブリンは人乳には含まれていないの いう先入観を多くのヒトが持っており,観念的に嫌 で,牛乳中で最も問題になるタンパク質と思われたが, がっているヒトも多い. しかしヤギ乳には不快な臭い その後の研究では s-ラクトグロブリンとカゼインの はない.ヤギ乳は周辺の臭いを吸着する性質が強く, アレルギー誘発性には差がなく (BUERGIN-WOLFFら , ヤギの体臭(特に雄ヤギの体臭は強烈),舎内の糞尿臭 1 9 8 0 ;TAYLOR, 1 9 8 6 ),アレルギー誘発性はホエータ やサイレージなどの臭いを吸着するためである.注意 ンパク質よりカゼイン (αsーと s -カゼイン)に対し ての方が大きく,特に, αs1 カゼインがアレルギー誘 受理 2 0 0 5年 1 1月2 4日 発物質であることが報告され, このカゼインを含んで -79- 田中桂一・佐藤響太 いないヤギ乳ではアレルギーは少ない (KAISER,1 9 9 0 ) . 牛乳アレルギーは 3 歳までの幼児の 2.5%が持ってい るといわれ, 3歳以下の幼児では 1 2 " ' 3 0 %,スカンジ ラビアでは 7"-'8%,地域によっては 20%と高い.イ タリアでの調査でも 2歳以下の幼児の 3%が牛乳アレ 0年以上 ルギーであるといわれている.フランスでは 2 表 1 世界の家畜数と年間ミルク生産量 1 9 8 0年と 1 9 9 9年の比較 ( F A O,2 0 0 1 ) 1 9 9 9 1 9 8 0 家畜頭数(10 0万頭) ヤギ 水牛 ブタ ウシ ヒツジ にわたって牛乳アレルギー患者の臨床研究で牛乳をヤ 十5 5 十3 0 十1 5 + 10 3 MM TI n u 、 、 ﹄ A nxuρnuaAτ 向 FhM Fbqδ1ilT ﹃ 十 lT1+ A斗 E 唱 Aaバヨnuυρnu QU90Rd ワ 臼 lqoρonu 旬 ,unHUAHvnxu n IRUOO 市 ・ ・ nHunnua4A 門4 9unuυqdoo d 斗A ワS 9 U A U n δ ﹃ 円 7 ηiS4 δ AA 9 山 ,1 9 9 7 ;GRZESIAK, して推奨されている (REINERTとFAB悶 1 9 9 7 ). 日本の幼児では鶏卵,牛乳,大豆が三大アレル ゲンといわれており 平成 9年厚生省の食物アレル /t く,消化性が良いととから子供の栄養に優れていると nU AHU 4 E E A が認められ,ヤギ乳は牛乳に比べてアレルギーが少な 量 ミ ー 産 生ギ牛シジ クツ ルヤ水ウヒ ギ乳に替えることで牛乳アレルギ一子供の 93%に改善 7 1 0 1 5 9 9 1 3 1 3 3 8 1 0 6 9 4 5 8 1 2 2 7 9 6 1 2 1 6 1 0 9 6 増減(%) ギ一対策検討委員会によるアンケート調査では 3歳児 に餌の一部として牛乳の代わりにヤギ乳を給与すると で8.6%,小学 l年生で 7.4%,5 年生で 6.2%,中学 2 消化率,鉄や銅の吸収が有意に改善され,貧血予防効 年生で 6.3%,成人でも 9.3%と高い擢患率を示してい 果が観察され,さらに脂肪吸収や体重増加が牛乳給与 る.乳幼児に多く見られる牛乳アレルギーの対策とし 時より優れていた (B波 町ONl川EVOら , 2 0 0 2 ) . ヤギ乳 て,カゼインを加水分解したミルク,アミノ酸合成乳 と牛乳中の脂肪球の大きさは 1以下から 10μmの範囲 あるいは大豆乳が利用されているが,大豆乳は大豆自 内であるが,ヤギ乳は牛乳に比べて小さなサイズの脂 体の抗原性が強いため,大豆に対する過敏性を誘発す 肪球の占める割合が多い.小さな脂肪球は表面積が大 る可能性がある.牛乳アレルギーはヤギ乳によって, きく,消化管内でリバーゼ作用を受けやすく速やかに 3 0 " ' 4 0 %が解決したとする報告,幼児 5 0人中 4 9人がヤ 分解されるためにヤギ乳脂肪のほうが牛乳のそれより ギ、乳によって効果があったとの報告もある (HAENLEIN, 9 9 6 ) . 消化率が高いのであろう (JANDAL, 1 わが国ではヤギ乳に関する臨床研究はほとんどなさ 2 0 0 4 ) ので,わが国でも乳幼児の人工ミルクにヤギ乳 れていないが,アルジエリアでは栄養失調の 6 4人の幼 の利用を考えたらどうだろうか. 児に牛乳に替えてヤギ乳を飲用させると,小腸で、の脂 肪吸収率が有意に改善されたという報告,またマダガ 3 . ヤギ乳は牛乳より栄養的に優れている スカルでは栄養失調で入院中の 1から 5歳の幼児, 3 0 ヤギ乳が午乳に比べて栄養的に優れているという研 人に通常の食事の他に牛乳かヤギ乳のどちらかを 2 週 9 5 2年に 3 8人の子供に 5ヶ月間ヤギ乳か牛 究は古く, 1 間飲用させた結果,体重増加はヤギ乳の方カ1'9%優れて 乳を飲用させて実験した結果,牛乳に比べてヤギ乳を .5 3士1.37g/体重kg/日,午乳 7 . 8 2: 1 : いた(ヤギ乳 8 飲用した子供の体重,身長,骨格,さらに血清中のビ 1 .93g/ 体重kg/日)として,ヤギ乳の飲用を推奨して タミンA,Bl,B2,ナイヤシン, Caおよびヘモグロビ , 1 9 9 3 ) . いる (RAZAFINDRAKOTOら ヤギ乳,牛乳,人乳の成分組成の比較は日本食品標 ン濃度が勝っていたことが報告された (MACK,1 9 5 2 ) . 準成分表を参照されたい. その後,ラットでも同様な結果を得ている (PARKら , 1 9 8 6 ). 小腸末端を 50%切除し,栄養失調状態にしたラット 表 2 ヤギ乳および牛乳タンパク質の比較 牛乳 ヤギ乳 乳中 総タンパク質中 カゼイン中 乳中 1 8 6 1 2 3 -80- 3 .1 2 .6 0 . 9 O .3 1 .0 0 . 4 8 4 2 9 1 0 3 2 1 3 O .5 O .1 O .3 O .1 1 6 3 1 0 3 F円 UAHUnHUFhd q o 1 i A 吐 1i 戸 0 . 4 O .1 , ヮ 0 . 6 O .2 8 2 3 2 1 4 2 1 5 FhdFhdnHUAHU U hU9u ホエータンパク質 αーラクトアルブミン 。ーラクトグロブリン 血清アルブミン 3 . 3 2 . 7 . o1 O .7 1 .4 O .5 カゼイン中 ( % ) ( % ) 総タンパク質 総カゼイン α s ! -カゼイン α, 2- カゼイン βーカゼイン κーカゼイン 総タンパク質中 ヤギ乳と牛乳の比較一 ヤギ乳と牛乳の各種アミノ酸含量の比較を表 3に示 4 . ヤギ乳中タンパク質 した.牛乳同様,非常にアミノ酸バランスが優れてい ヤギ乳タンパク質はカゼインとホエータンパク質で る.また 1 0種類の必須アミノ酸のうち 6種類のアミノ あり,カゼインは α一, s -, κ-および γ-カゼインか 酸(セレオニン,イソロイシン,リジン,シスチン, ら,ホエータンパク質は αーと 3ーラクトグロブリンか チロシン,バリン)がヤギ乳のほうが牛乳より高い ら構成されており,牛乳タンパク質と類似している(表 ( P O S A T IとORR,1 9 7 6 ) . 特に, 50%以上も牛乳より多 2).しかし遺伝的な形質や出現頻度は牛乳とは異 く含有しているシスチンはタウリンの前駆体で注目す なっており,構成しているカゼイン組成は非常に異 ) べきである.牛乳中タウリン含量 (2μmole/100ml s l -と なっている (MART 悶 , 1 9 9 3 ) . α-カゼインは α は人乳にくべて著しく低い.そのために新生児に母乳 α s 2ーがあり,牛乳の主要 α s ーカゼインは αuーカゼイン である.一方,ヤギ乳では α。-カゼインを多く含有 し , α叫ーカゼインは僅か,あるいはほとんど含有して の代わりに牛乳を飲ますとき,合成タウリンを添加す ウリン含量はほぼ人乳と同レベルの 113μmole/100ml ることもある (HUXTABLE,1 9 9 3 ).一方,ヤギ乳中タ いない. この α-カゼインタイプの違いはタンパク質 程含まれている (HARZER, ら1 9 8 4 ;MEHAIA と Al-~屯NHAL, アミノ酸鎖中のアミノ酸配列の違いであり,それがア 1 9 9 2 ) . タウリンはヒトの体液や組織中に広く分布し レルギー,消化性,チーズの特性,ヤギ乳製品の味覚 ており,栄養失調,ストレス,遺伝的な欠陥など以外, s lーカゼ に反映している (RYSTADら 1 9 9 0 ).牛乳中 α 通常では欠乏症はみられない.しかし,新生児の発育 インの分解によって生成するペプチドには苦味がある や脳の発達にはタウリンは重要な成分であり,幼児や が,このカゼイン濃度が低いか全く含有していないヤ 老人は生体内でのタウリン合成能力が劣っているため ギ乳チーズは牛乳チーズよりも苦味が少ない ( P E L I S S I E R に,食事として摂取することが望ましい (HUXTABLE, とMANCHON,1 9 7 6 ) だけでなく ヤギ乳はアレルギ一 発症が低く,レンネット凝固に時間がかかり,生成す 1 9 9 3 ).このこともヒトの栄養にとってヤギ乳が優れ ていることを示す実証的なデータの lつである. るカードは柔らかくヒトの消化性は良く,また熱に安 栄養素の吸収障害ラットでは小腸からの銅吸収がヤ 定である ( A M B R O S O LIら , 1 9 8 8 ) . その他,ヤギ乳中に ギ乳によって改善されたことが報告され,このことは は Oーカゼインを牛乳より多く含有しており,そのた ヤギ乳中のシステイン(シスチンから作られる)含量 めに浮遊しているカゼインミセルも牛乳とは著しく異 なっており,ミセルサイズは小さく(ヤギ乳:8 0 n m 以 (83mg/100g) が牛乳のそれ (28mg/100g) より高い ためであろう (BARRIONUEVOら , 2 0 0 2 ) . .51飲用することで成人 1日 1人当りの必 ヤギ乳 O 下,牛乳:平均 1 5 0 n m ),完全に凝固,沈殿する速度は 悶 E S S,1 9 8 0 ) . 遅い.また, CaとP含量が多い ( J E 須アミノ酸推奨値を満たすか超えることになる 9 6 8 ) . (NRC, 1 表 3 ヤギ乳および牛乳中タンパク質のアミノ酸含量 ヤギ乳 牛乳 (g/100gm i l k ) 必須アミノ酸 トリプトファン セレオニン イソロイシン ロイシン リジン メチオニン シスチン フエニルアラニン チロシン バリン . o044 . o163 . o207 0 . 3 1 4 . o290 . o080 . o046 . o155 . o179 . o240 ( % ) ヤギ乳脂肪の脂肪酸組成は牛乳のそれとは異なって . o046 0 . 1 4 9 . o199 . o322 0 . 2 6 1 . o083 . o030 . o159 . o159 . o220 5 . ヤギ乳中指肪 牛乳との差 おり,それぞれの乳脂肪の脂肪酸組成を表 4に示す. +9 +4 ヤギ乳は牛乳に比べてC 6 : 0から C I 0 : 0の中鎖脂肪酸およ 十1 1 C I 0 : 0は 著 し く 高 い . 一 方 長 鎖 飽 和 脂 肪 酸 の C 1 6 : 0と 十5 3 十1 3 +9 び多価不飽和脂肪酸 (PUFA) のC 1 8 : 2が高く,特に, C 1 8 : 0は低い.中鎖脂肪酸 ( C 6 : 0 " " C 1 2 : 0 )のうち 3つの脂 肪酸の名称 ( C 6 : 0:c a p r o i ca c i d,C 8 : 0 :c a p r y l i ca c i d, C I 0 : 0 :c a p r i ca c i d ) はヤギ ( c a p r i n e ) の乳に顕著に含ま れていることから名付けられている. C 8 : 0,C I 0 : 0お よ び 中 鎖 脂 肪 酸 ト リ グ リ セ リ ド 非必須アミノ酸 アルギニン ヒスチジン アラニン アスパラギン酸 グルタミン酸 グリシン プロリン セリン . o119 . o089 . o118 . o210 . o626 . o050 . o368 . o181 . o119 . o089 0 . 1 1 3 . o250 . o689 . o070 0 . 3 1 9 . o179 9 7 6 ) ( P O S A 即と ORR、 1 旨 目 方 , 内1 蔵脂 (mediumc h a i nt r i g l y c e r i d e s: MCT) は イ 本1 肪,ウエスト/ヒップ周辺脂肪を有意に低下させるこ とが報告されている ( K A S A Iら , 2 0 0 3 ) . その理由とし て,①MCTは舌リバーゼおよび、胃酸で分解し,遊離型 脂肪酸として十二指腸に到達するので勝リバーゼでの 分解を必要としない,②MCTは水との親和性が高く, -酸 門脈経由で速やかに吸収され,肝臓で速やかに s 化され,エネルギーとして消費する,③長鎖脂肪酸と -81- 田中桂一・佐藤響太 表 4 ヤギ乳および牛乳中の脂肪酸含量 脂肪酸 ヤギ乳 牛乳 牛乳との差 (g/100gm i l k ) (%) 酪酸 ( C 4 :0 ) O .1 3 0 . 1 1 カプロン酸 ( C 6 :0 ) O .0 9 O .0 6 カプリル酸 ( C 8 :0 ) O .1 0 O .0 4 カプリン酸 ( C 1 0 : 0 ) O .2 6 O .0 8 + 2 2 5 ラウリン酸 ( C 1 2 :0 ) O .1 2 O .0 9 ミリスチン酸 ( C 1 4 : 0 ) O .3 2 O .3 4 パルミチシ酸 ( C 1 6 : 0 ) 0 . 9 1 0 . 8 8 ステアリン酸 ( C 1 8 :0 ) 0 . 4 4 O .4 0 総MCFA) C 6 : 0 " ' C 1 2 : 0( O .5 7 O .2 7 + 1 1 1 総S AFA) C 4 : 0 " ' C 1 8 : 0( 2 .6 7 2 .0 8 十 パルミトレン酸 ( C 1 6 : 1 ) O .0 8 O .0 8 オレイン酸 ( C 1 8 :1 ) O .9 8 0 . 8 4 総MUFA)) C 1 6 :1 " ' C 2 2 :1( 1 .1 1 O .9 6 リノール酸 ( C 1 8 :2 ) 0 . 1 1 O .0 8 αーリノレン酸 ( C 1 8 :3 ) O .0 4 O .0 5 総P UFA) C 1 8 :2 " ' C 1 8 :3 ( O .1 5 O .1 2 2 8 +1 6 +2 5 句ra c i d s(中鎖脂肪酸);SAF A :s a t u r a t e df a t 守a c i d s(飽和脂肪酸);MUFA: MCF A :m e d i u m c h a i n白t 加r a t e df a 町 a c i d s (一価不飽和脂肪酸);PUFA:p o 切msa 加r a 旬 df a t 旬a c i d s (多価不飽和 m o n o u n s a 脂肪酸) • ( P O S A R IとORR、 1 9 7 6 ) 異なり, MCT 代謝は肝臓ミトコンドリア膜通過にカル ヒトの栄養に好ましい脂肪酸組成に変える研究もなさ ニチンを必要としない④MCTは長鎖脂肪酸と比較し れており (ALONSOら 1 9 9 9;LEDOUXら , 2002;SANZ て,ヒトでは食事誘発性体熱産生の上昇が高い,など , 2 0 0 2 ),より栄養価の高いヤギ乳の生産 SAMPELAYOら の作用があり,そのために体蓄積脂肪低下作用を発揮 e n e f i c i a l白t(機能性脂 も可能になるだろう.最近“b 0 0 4 ) . また,ヤギ乳に すると考えられている(青山, 2 肪)"として,抗ガン作用など,様々な生理活性機能を は相当量のカルニチンを含有(136μmol/l) してお 持っているとして注目されている共役リノール酸 , 1 9 8 7 ) 長鎖脂肪酸のミトコンドリアへ り (PENNら -酸化を容易にしている.ヤギ乳 の通過,そこでの s (CLA) が牛乳と同様 はアトピーや糖尿病に良いともいわれている.アト ピーについては科学的な証拠はないが,最近,脂肪細 ヤギ乳およびその乳製品中に も含まれている.しかしヤギ乳での研究報告は少なく (MIRら , 1 9 9 9 ),現在,著者らはヤギ乳中の CLA 含量 を増加させるための実験を行っている. 胞から血中に分泌されるホルモン,アヂィポネクチン 乳製品のフレーパーと関係ある側鎖脂肪酸は,ヤギ が糖尿病や動脈硬化症を予防する効果のあることが知 -エチルオクタン酸である.これには 3 1種 類 乳では 4 られている. このアヂィポネクチン分泌量は脂肪細胞 の側鎖脂肪酸があり全脂肪酸 19当り O .227mgほど含ま が肥大化すると減少するといわれているのでヤギ乳に れている.そしてこれがヤギ乳独特のフレーパーを 含まれている中鎖脂肪酸が脂肪細胞の肥大化を防ぎ, 作っている.特に, C-4とC-6脂肪酸と置き換わったモ 結果として血中のアヂィポネクチン濃度を増加させて ノメチル-側鎖脂肪酸はヤギ乳にしか含まれておら 糖尿病の予防に効果があるのではないかと考えられ ず,比較的多数の側鎖脂肪酸が微量ヤギ乳には含まれ る ている. これらの成分が牛乳チーズとは異なった風味 ヤギ乳はこのように生物医学的に優れているにもか を作る要因のひとつだろう. また,ヤギ乳には s -カロチンを全く含んでいない. かわらず,最近までヤギ乳およびヤギ乳チーズやヨー グルトなどはマイナーな食品であり注目されていな そのためにヤギ乳チーズやバターは鮮やかな乳白色を かった. しかし,ヤギ乳はヒトの栄養や色々な胃腸障 呈している.これは牧草などに含まれている s-カロ 害などの病気に有効という医学面,さらに牛乳アレル チンを小腸から吸収する際,ビタミン A に変えられ, ギーを軽減するなどの大きな可能性を持っているので ある. ビタミン A (レチノール)として乳汁中に移行するた めである. ヤギ乳脂肪の脂肪酸組成は乳午と同じように粗濃 ヤギ乳製品(バターやチーズなど)中にはヤギ乳以 比,粗飼料のタイプ,飼料への脂肪添加などによって 上の濃度でMCT,不飽和脂肪酸, CLAを含有している. -82- ヤギ乳と牛乳の比較一 WILLETとSTAMPFER ( 2 0 0 3 ) はヤギ乳脂肪(バター)の 機能性を認めて,アメリカでは新しく改訂される推奨 C o n t e n tofαs-lc a s e i nand c o a g u l a t i o np r o p e r t i e si n g o a tm i l k .J .D a i r yS c i .7 1 :2 4 2 8 . 食品 (USfoodrecommendation) にヤギ乳バターを入れ 青山敏明 ( 2 0 0 4 ) 中長鎖脂肪酸トリアシルグリセロー ることを提案している.わが国ではヤギ乳製品に対す ルの栄養生理機能. 機能 る認識が薄く,消費者への知名度は低い.しかし,ヤ ギ乳および、その乳製品はヒトの栄養と健康に非常に優 藤清隆、柳田晃良、和田俊監修)、 CMC出版、 P. れたものであることは今まで述べたように充分実証さ BARRIONUEVO,M., M.J .M.A LFEREZ,L .LOPEZALIAGA, れている.特に,消化機能が不完全あるいは衰えなど M.R. SANZ SAMPELAYO and M.S. CAMPOS ( 2 0 0 2 ) で消化吸収能力の低い乳児や高齢者にヤギ乳およびそ B e n e f i c i a le f f e c tofg o a tm i l konn u t r i t i v eu t i l i z a t i o nof の乳製品は最適と考えられる.今後,ヤギ乳の素晴ら .D a i r y i r o n andc o p p e ri nm a l a b s o r p t i o ns y n d r o m e .J しさを大いに PRしヤギ乳および、その乳製品を一般消 S c i .8 5:6 5 7 6 6 4 . 性脂質のフロンテア(佐 1 1 5 1 1 9 . 費者に認識してもらい,食生活の中に取り入れ食べて BUERGIN-WOLFF, A., E .S I G N E R ., H.M.F R I E S S, R .BERGER , もらいたい.そしてヤギ乳酪農を普及させたい. A. BIRBAUMER and M. J U S T ( 19 8 0 )The d i a g n o s t i c s i g n i f i c a n c eofa n t i b o d i e st ov a r i o u sc o w ' sm i l kp r o t e i n . E u r .J .P e d i a t r .1 3 3:1 7 2 4 . 6 . おわりに FAO ( 2 0 0 1 ) P r o d u c t i o n Yearbook 1 9 9 9 . Food and 通常ヤギは毎年春に 2頭の子ヤギを出産するが, A g r i c u l t u r eO r g a n i z a t i o noft h e U n i t e dN a t i o n s,Vo . l 50%の確率でオスである.ヤギ乳および、その乳製品の 5 3 .S t a t i s t i c a lS e r i e sNo.1 5 6, Rome, I t a l y, p .2 51 . 価格を安くするためにはオスヤギを肉資源としての利 GRZESIAK ,T .( 19 9 7 )L a i td ech とv r e, l a i td ' a v e n i rpourl e s 用を考えなければならない.ヤギ肉は高タンパク質, n o u r r i s s o n s .I n : P r o c e e d .C o l l o q u eI n t e r e t sN u t r .e tDie t . 低脂肪で午肉,羊肉,豚肉などより低カロリーであり, duL a i tdeCh とv r e,Vo . l81 .I n s t . Na t .R e c h .A g r o n . Fe やカルニチン含量も高く Pub , . lP a r i s, F r a n c e, p .1 2 7 1 4 8 . 羊肉よりヘルシーかもし れない.また,最近,強い抗酸化作用を持っていると HAENLE 町, G .F.W. ( 2 0 0 4 ) Goatm i l ki nhumann u t r i t i o n . いわれているアンセリンをヤギ肉は大量に含んでいる S m a l lRumin.R e s .5 1: 1 5 5 1 6 3 . (それぞれの肉 100g中にヤギ: 202mg/100g,ウシ: HAZER ,G.,V.FRANZKEandJ .G .BINDELS ( 19 8 4 ) Human 55mg,ブタ:1 6 m g ) . アンセリンはヒト体内でのカルシ m i l k n o n p r o t e i n n i t r o g e n c o m p o n e n t s : Changing ウム輸送に関与しており pa 仕e msoff r e eaminoa c i d sandu r e ai nt h ec o u r s eof 筋肉における呼吸を活性化 することから,筋運動に重要であることが知られてい e a r l yl a c t -a t i o n .Am.J .C l i n .N u t r .40:3 0 3 3 0 9 . HUXTABLE, R . J .( 19 9 3 )T a u r i n e i n n u t r i t i o n and る. ヤギ肉という呼び名は消費者に良いイメージをもた developmen t .AnI t a l i a nN e w s l e t t e ron N u t r i o n5 1 7 . れないので,呼び名も重要であろう. 日本獣医畜産大 JANDAL,J . M .( 19 9 6 )C o m p a r a t i v ea s p e c t s ofg o a t and s h e e pm i l k .S m a l lRumin.R e s . 2 2:1 7 7 1 8 5 . 学助教授,小津壮行氏はヤギ肉のイメージ転換として J E N N E S S,R. ( 19 8 0 )C o m p o s i t i o n and c h a r a c t e r i s t i c s of ネーミングが大切であり,シェーブルミートと呼ぶこ k :r e v i e w1 9 6 8 1 9 7 9 .J .D a i r yS c i .6 3 :1605g o a tm i l とを提唱している.アメリカではヤギ肉を chevon 1 6 3 0 . (シェボン,フランス語の chとv e r e (シェーブル)に羊 6 " ' 2 2 k gのヤギ、 肉の muttonのonを付けた合成語,体重 1 KAISER ,C .( 19 9 0 ) Untersuchungen z u rR e i n d a r s t e l l u n g 肉),若齢ヤギ肉を c a p r e t t o (カプリット,ピンク色し von K u h m i l c h p r o t e i n e n f u r d i e immunologishe た肉を生産するためにミルクだけで飼育した体重 6 " ' 12kg 子ヤギ、肉)と呼んでいるようである. D i f f e r e n t i a l d i a g n o s en u t r i t i v e rA l l e r g i e n .D i s s e r t a t i o n , I n s t .P h y s i o . l und Biochem. N u t r .,B u n d e s a n s t a l r 白r Mi l c h f o r s c h u n g, Un i v e r s i t a e tK i e l, K i e l, Germany, p .1 5 3 . ヤギ乳と同様,ヤギ肉の栄養価や特徴をもっと PR KASAI,M.,N.NOSAKAandH. MA 阻 し,消費者に認識してもらうように努力する必要があ ( 2 0 0 3 )E f f e c tof dietarγmedium-and l o n g c h a i n t r i A c y l g l y c e r o l s る. (MLCT) on a c c u m u l a t i o n of body f a ti nh e a l t h y humans.A s i aP a c .J .C l i n .Nu 仕. 12:1 5 1 1 6 0 . 引用文献 LEDOUX, M.,A. ROUZEAU and D. 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