植物ウイルスワクチンを利用した自然薯モザイク病の防除 ねらい 自然薯は、畑地や水田での転作作物として普及が期待される品目である。しかしながら、 自然薯の栽培ほ場において、モザイク病(ヤマノイモモザイクウイルス;JYMV)の発生 が顕在化し、イモの生産性を低下させるなど、問題になっている。そこで、JYMV の弱 毒系統を探索及び選抜し、それをモザイク病を防除するための、植物ウイルスワクチンと して利用する技術を確立する。 主要成果 1 植物ウイルスワクチン「YMO6」(以下ワクチン)を接種した自然薯(以下ワクチン 接種株)は、モザイク病の発病を抑制する。 2 ワクチンによるモザイク病の発病抑制効果は、ワクチン接種株由来の「収穫イモ」や 「むかご」を種イモとして利用する場合、3連作しても認められる(表1)。 3 ワクチン接種株の収穫イモ収量は、ウイルスフリー株と同等であり、現地農家慣行 (モザイク病発病株)より顕著に多い(図1)。 4 ワクチン接種株の収穫イモの品質は優れており、イモ成分のうち総アスコルビン酸、 全フェノール及び抗酸化活性は現地農家慣行株より高く、ウイルスフリー株と同等であ る(表2)。 5 ワクチンは、RT-PCR-RFLP 法によりワクチン接種株のいずれの部位(収穫イモ、 むかごも含む)からも、特異的かつ高感度に検出できる。 成果の活用面・利用上の留意事項 1 「ワクチン」を接種した自然薯については、山口県と山口大学との共同で、平成21年 1月27日に特許申請済み。また、平成21年4月17日に、増殖・販売を希望する県内の種 イモ生産者との間で許諾契約を締結した。今後は、許諾生産者のみが、種イモの増殖・ 生産を行う。 2 ワクチン接種自然薯の青果物の生産を希望する場合には、許諾生産者を通じて、種イ モを購入することが可能である。 関連文献等 1 平成20年度農林総合技術センター試験研究成果発表会 2 自然薯に予防ワクチンを接種「モザイク病を防除」 発表要旨,P39-40. 日本農業新聞掲載,平成21年3月5日. 試験成績 表1 現地における植物ウイルスワクチンYMO6の干渉効果(2006~2008年、柳井市) モザイク病ウイルスの感染 試験年と供試株 調査株数 感染株率(%) 2006年 (1年目) ワクチン接種株 15 0 ウイルスフリー株 24 100 2007年 (2年目) ワクチン接種株 ウイルスフリー由来株 現地農家慣行(モザイク病発病) 18 10 20 0 100 100 2008年 (3年目) ワクチン接種株 16 6.7 ウイルスフリー由来株 8 100 ウイルスフリー株 28 28.6 現地農家慣行(モザイク病発病) 20 100 モザイク病ウイルスの感染の有無は、各年9月採取した葉を用い、RT-PCR-RFLPで判定した。 図1 表 2 各 収穫イモの生育状況(左;現地農家慣行、右;ワクチン接種株) 収 穫 イ モ の 品 -1 供試株 ワクチン接種株 ウイルスフリー株 農家慣行 総アスコルビン酸(mg・100g FW) (還元型アスコルビン酸) 13.93±0.11 (11.87±0.20) 16.50±0.28 (14.87±0.37) 6.60±0.012 (3.86±0.063) 質 成 分 全フェノール -1 (mg・100g FW) 17.31±1.33 20.45±1.01 13.17±0.11 DPPHラジカル消去活性 -1 IC50(mg ) 0.021 0.028 0.012 脚注 1)ヤマノイモモザイクウイルス(JYMV)・・・アブラムシによる伝搬と種イモ伝染により拡大す るウイルス。感染すると葉にモザイク症状を発症し、イモの収量が大きく低下する。 2)アスコルビン酸・・・ビタミンC 3)フェノール・・・生活習慣病を防ぐ「ポリフェノール」等を含む物質 4)抗酸化活性・・・生活習慣病を防ぐカテキン、ポリフェノール、アントシアニンなどの物質活性 5)RT-PCR 法・・・遺伝子増幅法。目的とする遺伝子(RNA,DNA)を化学的に増幅させることで、 ごく微量なサンプルからでも、物質を特定したり、検出したりすることができる。現在最も検出感 度の高い検定手法 研究年度 平成18年~20年 研究課題名 植物ウイルスワクチンを利用したジネンジョウイルス病の実用 的防除技術の確立 担 当 農業技術部 資源循環研究室 病害虫管理グループ * 鍛治原寛、村本和之、伊藤真一 ・井上興 (*山口大学農学部)
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