15.高解像度衛星画像とLiDARデータの統合処理による森林被害検出

高解像度衛星画像と LiDAR データの統合処理による森林被害検出
○田口 仁1,臼田 裕一郎2,福井 弘道3,古川 邦明4
1
東京大学 生産技術研究所
防災科学技術研究所,3慶應義塾大学,4岐阜県森林科学研究所
2
E-mail: [email protected] 1
Abstract
本論文は,高解像度衛星画像と LiDAR データを用い
て,枯損と倒木を検出する手法を開発することを目的
ータは,DEMと樹冠形状を表すDSMを用いて,表面形
状が凹となるギャップを抽出することで,倒木した箇
所が特定できる[2]。しかし,ギャップが発生しない枯損
を抽出することは困難である。
とした。被害検出は,2 つのデータの特徴を生かし,統
以上の検討を基に,
2 つのデータで検出可能な被害を
合処理することで,枯損と倒木を分離して検出する方
模式的に示したのが,Fig.1 である。そして,これらの
法を開発した。説明変数は高解像度衛星画像の赤色バ
短所と長所を重ね合わせたのが,Table.1 である。(1)高
ンド,近赤外バンドを使用し,LiDAR データはギャッ
解像度衛星画像と(2)LiDAR データを重ねあわせ,統合
プ抽出結果を使用した。開発した手法は,岐阜県郡上
処理(1+2)を行うことで,それぞれの短所を補い,枯損
市に適用され,統合処理することの有効性が確認され
と倒木の分離した検出が可能となる。
た。
結果
1 はじめに
筆者らは既に,高解像度リモートセンシングデータ
倒木
枯損
枯損
である,高解像度衛星画像とLiDARデータを用いて,
倒木被害の検出手法を開発している[1]。しかし,森林被
害は倒木被害だけではない。病虫害による松枯れやナ
ラ類の集団枯損など,枯損についても数多く発生し,
(1) 高解像度衛星画像
従来から問題となっている。森林被害の種類が異なる
結果
DSM
と,適用される対策や法律,保険も異なるため,異な
る被害の形態である枯損と倒木の両方を分離して検出
倒木
枯損
枯損
する手法開発が必要である。そこで本研究では,高解
像度衛星画像とLiDARデータを使用し,森林被害であ
る枯損と倒木を分離して検出する手法の開発を行った
ので報告する。
2 検出方法
2.1 被害検出のコンセプト
2 つの高解像度リモートセンシングには,
枯損と倒木
DEM
(2) LiDARデータ
Fig.1 2 つのデータがそれぞれ検出可能な
森林被害の模式図
Table.1 2 つのデータで検出可能なカテゴリ
を検出する際,それぞれ特徴がある。高解像度衛星画
像の場合,枯損によって葉が赤色系の反射が強まるこ
と,倒木によって土壌等の反射特性から赤色系の反射
が強まることで,森林被害の発生は把握可能だが,枯
損と倒木の明確な分離は困難である。一方,LiDARデ
枯損
(1)高解像度衛星画像
(2)LiDAR
(1)と(2)の統合処理
倒木
無被害
れる。
2.2 Multinomial Logit Model による被害検出
以上のコンセプトを基本として,被害が明らかであ
本手法では,カテゴリを無被害( i = 0 ),倒木被害
る箇所から無被害を含むように教師データを選定し,
( i = 1 ),枯損被害( i = 2 )と設定する。また,説明変数
質的なカテゴリへの分類手法である Multinomial
としては,ギャップ抽出データ,高解像度衛星画像の
Logit Model (以下,MLM)を適用することにした。そ
赤色のバンドの輝度値,近赤外のバンドの輝度値を使
して,MLM で構築した被害検出モデルを評価し,画
像全体に適用する流れでとした。
用するため, k =3 である。 誤差項を表す( ε in )は,大
MLMは 3 群以上の分類に対応した離散選択モデル
気の状態やセンサの状態など,データとして提供され
であり,2 値化されたデータをダミー変数として取り
るまでに観測不可能な様々な要因が,正規分布に近い
込むことが可能である。また,観測誤差等の不確実性
ガンベル分布によって,確率的に影響すると仮定する。
を考慮し,カテゴリの選択が確率で表現されることか
選定された教師データを基にMLMで推定されたモ
ら,結果を直感的に理解できる方法である。リモート
デルは,説明変数の有効性を評価するため,カテゴリ
センシングデータへの適用については,実際に衛星画
で説明変数項目ごとのWald統計量のカイ2乗値を求め,
像に適用し,最尤法と同程度の精度があることが報告
検定することで評価する。また,疑似決定係数R2で当
されており,適用可能であることが示されている[3]。
てはまりを評価する。そして,教師データ自身の検出
MLM では,観測データからカテゴリごとに効用
(U )が求められ,最大効用のカテゴリへ選択されると
仮定する。従って,リモートセンシングデータから各
精度を求める。
3 適用結果
画素でカテゴリごとの効用が計算され,ロジット変換
対象地は岐阜県郡上市美並町の森林とした(Fig.2)。
によって選択確率が 1 から 0 の間で求められ,最大確
この地域では,マツ枯れによる枯損や冠雪害による倒
率のカテゴリへ選択される。被説明変数のカテゴリ i
木被害が発生している。使用する高解像度衛星画像は,
を,画素 n におけるカテゴリ i の効用(U in )は,以下に
2003 年 5 月下旬撮影のIKONOSマルチスペクトル画
示す式(1)で求められる。
像(解像度 4m)のバンド 3(赤)とバンド 4(近赤外)である。
U in = β1 x1in + β 2 x2in + L + β k xkin + ε in
(1)
k は説明変数の数を表しており,x1in L xkin は観測デ
ータである。 β 1 L β k は効用を求めるために推定され
また,LiDARデータは 2004 年春季取得のデータを使
用し,既往研究[2]を基に,倒木域を表すギャップを抽出
し,
最近隣法で 4mの解像度で林サンプリングを行った。
なお,対象地は林小班のポリゴンを用いて森林域のみ
を抽出し,分析を行った。
るパラメータで,教師データを利用して最尤推定法に
よって求められる。また,式(1)は,観測データで表現
IKONOS image
Japan
可能な確定項(Vin )と,確率的に変動する誤差項( ε in )に
分けることができる。この確定項(Vin )は,観測データ
とパラメータを乗じた項の和である。誤差項( ε in )は観
測不可能な要因を表しており,正規分布に近いガンベ
ル分布になると仮定する。そして,画素 n におけるカ
テゴリ i への選択確率 Pin は効用の確定項から,式(2)
によって求められる。
Pin =
eV0 n
eVin
+ eV1n + L + eVin
● Study area
Gifu Prefecture
0
450
900
1,800
Meters
Fig.2 研究対象地と使用する IKONOS データ
(2)
それぞれの画素は,カテゴリごとに求められる効用
から確率 Pin を求め,最も確率の高いカテゴリへ選択さ
はじめに,教師データの選定を行う。明らかに枯損
と倒木であることが判読できる箇所を,それぞれ無被
害を含むように選定した。今回は 2004 年 8 月に撮影さ
れた空中写真を参照し,枯損,倒木,無被害の判定を
布が影響されているためである。
行った。
教師データ
選択結果
Table.2 パラメータ推定結果
切片
Band 3
Band 4
ギャップ
枯損
-68.303
303.070
-31.103
-4.346
(Wald統計量)
(384.7※)
(442.8※)
(361.4※)
(15.41※)
-32.915
2.355
倒木
-49.514
240.399
(Wald統計量)
(155.2※)
(223.9※)
倒木
(238.3※)
(48.8※)
※ 0.01% significance level
Table.3 教師データ内での精度検証
選択結果
枯損
倒木
無被害 合計
的中率
枯損
283
1
94
378
74.8%
倒木
36
132
48
216
61.1%
54
13
2595
2662
97.5%
373
146
2737
3256
教師
データ 無被害
合計
選定した教師データから推定したパラメータを
枯損
Fig.3 教師データと選択結果の比較
Table.2 に示す。各パラメータの正負の符号は常識的だ
った。また,Wald 統計量のカイ 2 乗値は全ての項目で
0.01%水準の有意であった。決定係数は 0.812 で高い
適合率であった。次に,選択結果と教師データのクロ
ス集計表をTable.3に示す。
的中率は70%前後だった。
的中しない画素は被害と無被害の境界部がほとんど
で,中心部は確実に的中していた。なお,倒木域に隣
接する画素で枯損と判定された画素があったが,これ
は現地調査や空中写真の判読から,画素内に倒木域が
あり,IKONOS 画像で赤色の反射が含まれるものの,
ギャップ抽出結果がリサンプリングされた影響でギャ
ップと判定されなかったため,枯損と誤判別された画
素であることが分かった。ピュアな画素を確実に検出
するため,このように倒木に隣接し枯損と判別された
画素は無被害にすることにした。教師データと選択結
果をプロットして比較した図を Fig.3 に示す。被害と
無被害の境界部で十分に判別できていない画素はある
Fig.4 全域に適用した検出結果
が,中心部はほぼ検出されていることが確認できる。
次に,検出された結果を詳細に見ていくことにする。
以上の考察から,Table.2 のパラメータと,倒木域に
Fig.5 の箇所は,LiDAR データでのギャップ抽出結果
隣接する枯損画素を無被害とする方法を被害検出モデ
(左)によると,円で囲んだ箇所は倒木として検出されて
ルとして,対象地全体へ適用することにした。全域へ
いるが,空中写真によると樹高の低い箇所であった。
適用した結果を Fig.4 に示す。各所に被害が分布して
しかし,IKONOS 画像では樹木の反射特性であるため,
いる。主として倒木被害は谷沿いに発生し,枯損は尾
統合処理した結果,倒木として検出されていないこと
根沿いに発生していた。これは地形によって樹種の分
が確認できる。
県郡上市の森林域に適用した結果,枯損と倒木が分離
されて検出されていることが確認でき,統合処理の有
効性が確認された。今後は,有効性を定量的に明らか
にするため,精度検証を行なう予定である。また,他
の統計モデルへの適用や,他のリモートセンシングデ
ータへの適用可能性についても検討を行っていきたい
Fig.5 ギャップ抽出結果(左)と
本手法による検出結果(右)の比較
と考えている。
次に Fig.6 の箇所は,
中心部は倒木が発生しており,
謝辞
周辺は枯損が散在している。Fig.6 左には IKONOS 画
像のみで枯損と倒木を検出した結果を示したが,倒木
本研究は,慶應義塾大学 SFC 研究所ジオインフォマ
域に枯損と倒木が混在してしまっている。また,周囲
ティクスラボと岐阜県森林科学研究所との共同研究
には枯損であるものの,倒木として検出された画素が
「高解像度リモートセンシングと森林 GIS による森林
多く見られた。しかし,ギャップ抽出結果(右)で統合処
管理システムの開発」の一環として行われたものであ
理を行うことで,検出結果(中)は枯損と倒木が明確に分
る。
離されていることが確認できる。
このように,2 つのデータを統合処理することで,
参考文献
誤検出を防ぎ,明確に倒木と枯損が分離されて検出さ
れていることが確認された。
[1] 田口仁, 臼田裕一郎, 福井弘道, 古川邦明, 2006. 高解像度
光学センサ衛星画像と LiDAR データを組み合わせた森林
域の冠雪害検出手法の開発, 写真測量とリモートセンシ
ング, 45(1), pp.17-24.
[2] 田口仁, 臼田裕一郎, 福井弘道, 2005. LiDAR による冠雪害
検出-小特集(LIDAR による森林計測)-, 写真測量とリモー
トセンシング, 44(6), pp.22-25.
[3] Seto, K.C., and Kaufmann, R.K, 2005. Using logit models to
classify land cover and land-cover change from Landsat
Thematic Mapper, Int. J. Remote Sensing, 26(3), pp.563-577.
Fig.6 IKONOS のみでの検出(左)と
本手法による検出結果(中)の比較
しかし,元から間伐が適度になされていて,それぞ
れの木に距離がある疎な林分では,被害として誤検出
される場合があった。また,ギャップ面積が小さい画
素では,枯損として誤検出の発生する場合があった。
また,伐採された箇所は,被害として検知される場合
も見られた。このような誤検出は,リモートセンシン
グデータだけでは除去することは困難なため,各自治
体が整備しつつある森林 GIS を活用し,施業履歴と組
み合わせた上で,除去していく必要がある。
3. おわりに
本研究では,森林被害である枯損と倒木について,
LiDAR データと高解像度衛星画像を統合処理するこ
とで,分離して検出する手法を開発した。また,岐阜