連合王国の権限移譲 ―国際比較の観点から― 北海道大学 公共政策大学院 山崎幹根 1 領域(territory)と機能(function) • 機能(function)に基づく政治・行政 ― 個別 の分野ごとに全国を対象として画一的な政策 を実行 中央省庁と出先機関を通じて 地方政府を通じて(例:委任事務) • 領域(territory)に基づく政治・行政 ― 地方 の社会経済的、政治的環境との相互作用の 中で政策を実行 領域1と領域2 • 領域1-サブナショナルな政府または地方政 府が画一的な基準で形成される • 領域2-サブナショナルな政府または地方政 府が不均一な基準で形成される 特定の領域の政府に特別な権限を付与 (権限移譲/リージョナリズム) 領域別省庁の設置 2 連合王国の権限移譲の背景 成文憲法をもたない 国会主権 中央集権的構造 一方で、各領域の独自性を許容し、領域別省庁 を設置してきた ― 「行政上の権限移譲」 • 単一主権国家(ユニタリー・ステイト)よりもむしろ、 ユニオン・ステイトとして理解されるべき • 不均一な権限移譲を包摂した国家(the Union) ― 領域2型の国家 • • • • • イングランド、スコットランド、ウェールズ、北 アイルランドは異なる歴史、文化、社会を • 権限移譲は民族運動、あるいは文化・経済還 元論として理解できない • 領域のアイデンティティが直接的に政治運動 に転化するわけではない • 民主主義の赤字(欠陥)-信任の欠如―が重 要な要因 3 各領域における権限移譲 • スコットランド―一次立法権と課税権 • ウェールズ―二次立法権から一時立法権を徐々 に獲得。権限移譲を求める力は強くない • 北アイルランド―一次立法権と権力共有政治 しかし、権限移譲が失敗し、直接統治に移 行する事態も生じる ・ イングランドーNEでは権限移譲が住民投票で 否決 ロンドンには、議会と直接公選首長が 4 権限移譲の成果―スコットランド • スコットランドとイングランドとの間で公共政策の 分化は期待されたほど大きくはない • 独自の立法―高齢者ケアの無料化、大学授業 料の廃止、アルコールの最低価格制 • 先進的立法―公共空間の禁煙、キツネ狩りの禁 止 • 独自の政策目標設定―自然再生エネルギーの 開発・利用、温室効果ガスの大幅削減 • 同一の立法―ウエストミンスターの立法に同意 政策の分化を制約する要因 • 制度上の制約(移譲権限、財政資源、EUに よる共通政策) • UK政府が留保している政策が、スコットラン ド政府の政策を「相殺する効果」 • UK政府とスコットランド政府の双方が対立を 回避し、合意を志向 • スコットランド政府の政策形成能力の欠如 「新しい政治」の現実 • 議会に比例代表制、委員会制度の導入 • 多党制 • 女性議員の比率の増大 • しかし、政治の実態は、ウエストミンスターの 政治と著しく異なっているわけではない 5 不均一な権限移譲による諸問題 -領域間対立の顕在化、国家統合へ の影響 • ウェストロジアン問題 • 財政資源を配分する制度―バーネット・フォー ミュラ • 領域間で異なる社会的シティズンシップの諸 権利 6 結論 • 権限移譲に唯一の理念型は存在しない スコットランドはあくまでもひとつのケース • 権限移譲は、領域内の自律の強化と、機能 の拡大の統合により発展する • 不均一な権限移譲は、憲法上の諸問題を生 じさせ、国家統合に影響を与える • スコットランド独立議論において、連合王国の あり方に関する根本的な諸問題が提起 補論:現代日本の中央地方関係 • 戦後、領域1と機能に即して、画一的に再編 された • 2層制(市町村・都道府県制)が維持される • 市町村数の大幅な減少と規模の拡大 • 例外としての領域2 東京の都区制度‐地方自治制度の特例 北海道と沖縄-国土開発政策の文脈で • 日本の地方政府は、相当な行政権、二次立 法権、課税権を持つ • 道州制を目指す運動は各地でみられるもの の、強力な政治的な支持を獲得していない • 地域アイデンティティが政治化せず(例外とし て沖縄)。「民主主義の赤字」も顕在化せず • 結果として、領域1と機能に特徴づけられた 画一的、固定的な地方自治制度が存続
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