視聴年代が広がる、テレビアニメ

Tele・vision
視聴年代が広がる、テレビアニメ
アニメ番組というと子供向けのものを想像しがちですが、実はその考えは近頃崩れてきているので
はないでしょうか?今回はアニメ番組を取り巻く最近の事情について、考えていきます。
writer
天本 千智
テレビ調査部
「アニメが好きな人」というと、どんな人を想
ていたかと思います。しかし次第に19時台でのア
像するでしょうか。大半の人は、真っ先に小さい
ニメ放送が減り、今ではほぼバラエティ番組にな
子どもを思い浮かべると思います。そこで仮に大
っています。また、民放5局とNHK総合でのアニ
人を思い浮かべようとしても、
「オタクっぽい」と
メ放送量も、ここ10年でやや少なくなっています
いった、どうしてもネガティブな印象を持ってしま
【図表1】。
うのが一般的なのではないでしょうか。
かくいう私もアニメが好きな「アニメオタク」な
のですが、友人にそのことを話すとやはり「いい
歳してアニメなんて見てるの?」と言われること
【図表1】テレビアニメ番組の年間総放送量推移
(関東地区)
4,000本
が多いです。しかし私としては、アニメが好きだと
いう人は、子ども以外で実は増えているように感
3,042
3,000本
じています。特に10代後半~30代にとって、アニ
メはより身近な存在になっているのではないでし
ょうか。
アニメ好きが増えている?
アニメ番組といえば、1980年代までは『ど根
性ガエル』や『一休さん』のような、家族で見ら
れる人気アニメが、19時台のお茶の間を賑わせ
16
Video Research Digest 2015. 12・2016. 1
3,170
2,964
2,831 2,908 2,839 2,809
3,045 3,025
2,797
2,000本
1,000本
0本
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014(年)
※テレビ視聴率年報(関東地区)
※ NHKE テレを除く放送時間 15 分以上のレギュラー番組について
の集計値
しかしそのような状況下にあっても、実はアニ
うになっています。アニメに関する産業の市場規
メを好きだという人は増えているのです【図表2】。
模は2008年以降拡大しており【図表3】、動画
特に男女ともに20代~30代前半でのアニメ好き
増加が目立ちます。
【図表2】好きな番組ジャンルに 「アニメ」 と
回答した人の割合
(男女 12-69才)
0%
2006年
(n=2,609)
2015年
(n=4,622)
アニメとインターネットは相性が良い
では、アニメが大人にも広まった背景には、ど
んな事情があるのでしょうか。
20%
20.7
れます。ゴールデン帯にアニメが多く放送されて
20%
を視聴する主な媒体と言えば、テレビが挙げら
れるかと思います。今ではそこに加えて、インタ
しょう。特に近年の動画配信サイトの充実によ
り、PCやスマートフォン、タブレットなどで、いつ
60%
58.1
20%
60%
40%
25.3
42.2
(男女 35-49才)
0%
2006年
(n=723)
2015年
(n=1,530)
ーネットの存在は欠かせないものとなっているで
40%
50.0
(男女 20-34才)
0%
2006年
(n=771)
2015年
(n=1,142)
いた70~80年代から現在まで変わらず、アニメ
60%
29.1
(男女 12-19才)
0%
2006年
(n=232)
2015年
(n=413)
まず一つ目に、インターネットの躍進が考えら
40%
20%
40%
60%
24.3
30.7
※使用データ:ACR 2006 年調査(東京 30km 圏)
ACR/ex 2015 年春調査(東京 50km 圏)
でもどこでも手軽にアニメが見ることができるよ
【図表3】アニメ産業市場(ユーザー市場推定売上/広義のアニメ市場)の推移
テレビ放映
劇場
0
(年)
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
ビデオ販売
3,000
1,113
338
102
5,364
955
1,052
123
299
5,597
338
900
285
1,085
149
1,067
160
951
409
1,059
272
1,020
1,153
470
1,107
340
1,021
417
408
商品化
6,000
946
895
配信
音楽
9,000
5,732
5,985
6,552
1,665
2,272
2,823
237
13,798
12,542
2,026
2,408
246
18,000 (億円)
1,226 13,131
2,669
230
15,000
1,528
2,867
297
245
ライブエンタテイメント
12,000
2,544
307
5,943
遊興
4,137
270
6,274
海外
3,265
13,295
13,333
2,427
296 14,760
2,981
308 16,296
出典:アニメ産業レポート 2015
一般財団法人日本動画協会
※テレビの産業市場は、民放各局およびNHKの放送事業収入にアニメの放映分数比率を乗じ、アニメ専門チャネルの売上などを加算。
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配信事業は特にこの数年で成長しています。
結果、
【図表3】にみられるようにテレビ放映以
また、FacebookやTwitterをはじめとした
外のアニメ産業でも伸びがみられるのだと考え
SNSの登場も忘れられません。SNSによって、周
られます。特に劇場映画や動画配信、パチンコな
りにアニメ好きがいなくても同じ趣味の人を探し
どの遊興は、そこにお金をかけられる大人が増
て情報交換がしやすい環境になったことは、大
えたからこそ、成長している産業だと言えます。
きな要因だといえます。
このようなインターネットでのアニメコンテンツ
への接触というのは、本来のアニメ視聴者であ
る小さな子どもよりも、ティーンや20代、30代に
フィットしていると考えられるでしょう。
昔ほど、「アニメをみる人=子ども」
という固定概念はなくなりつつある?
インターネットの発達とメディアミックスによ
るアニメへの間口の拡大、という2つの理由に加
アニメはとにかくメディアミックスしやすい
二つ目に、アニメはメディアミックスがしやす
い、という理由が挙げられます。
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えて、若い人の中でアニメに対する抵抗感がなく
なってきている、ということも考えられます。
『ど根性ガエル』や『一休さん』などの、19時
台のお茶の間を賑わせていたヒットアニメを見
例えば、2013年にアニメ化されて人気だった
ていた子どもたちは今40代~50代になっていま
『進撃の巨人』。もともと原作コミックスが発行
す。これは、ティーン~30代前半という「アニメが
部数1,200万部以上(2013年4月当時)というヒ
好き」だという人が増えている年代の親世代にあ
ット作だったこともあり、アニメ化の際の注目度
たります。アニメ好きの年代が広がったのは、実
は高かったです。実際に放送が始まると、ストー
はこの親世代の影響が大きいのではないかと、
リーの面白さと演出クオリティの高さが評判に
私は考えています。というのも、親世代の成長と
なり、大ヒットしました。その後、スマホゲームや
ともに、彼らの年代向けヒットアニメが登場して
お菓子、コンビニエンスストアなど業種を問わず
いるからです。
様々な企業とのコラボも生まれました。実写映
現在45才の人を例に考えてみます。彼らが10
画化が発表されてからも、公開前から、巨人が
才だった1980年前後は、まさに小学生向けア
登場するSUBARUとのコラボCMなどで注目さ
ニメといえる『Dr.スランプ』が大ヒットしまし
れていました。ちなみにこのCMがテレビでオン
た。15才だった1985年前後だと、
『タッチ』など
エアされたのは1回限りでしたが、YouTubeでは
の青春ものや、
『ドラゴンボール』
『北斗の拳』
1,200万回以上再生されています(2015年11月
などのバトルものといった、少年ジャンプなどで
18日現在)。映画そのものには原作・アニメファ
ヒットした作品が原作のアニメが挙げられるでし
ンの賛否両論あったものの、話題性が高かった
ょう。それから、25才だった1995年には『新世
ことは間違いありません。
紀エヴァンゲリオン』が登場しています。そして、
このように、テレビアニメでヒットしたコンテン
そのすべての時代にまたがっているのが、
『機動
ツがメディアミックスされることによって、幅広い
戦士ガンダム』シリーズです。
『ガンダム』は彼ら
年層に浸透していくのではないでしょうか。その
が小学生の頃の1979年に最初のシリーズが始ま
Video Research Digest 2015. 12・2016. 1
り、今尚新作が出続けています。40代のアニメ
彼らにピンポイントで響く+αの要素を伝える。
ファンにとって『ガンダム』は、自らの成長と共に
それ以外の人には、テレビや商品・サービスなど
歩んだアニメと言っても過言ではありません。
でアニメを知ってもらうきっかけを作る。
つまり、自分の年代向けのアニメと共に育って
それぞれに合わせてメディアを上手く利用する
きた親世代の彼らは、
「アニメ=子どものもの」
ことで、より一層アニメは広まってゆくでしょう。
という固定概念が薄まってきている年代だと考
今後も、年代を問わず多くの人が楽しめるアニ
えられるのです。そんな世代に育てられた子ども
メが登場することに期待しています。
が、
「アニメ=子ども向け」という概念をあまり持
たなくなるのも、自然なことだと思います。
アニメがより浸透するには
大人にもアニメが広まっている現状をここまで
みてきましたが、今後アニメが更に広まっていく
ために重要になるのは、テレビでのアニメ放送だ
と考えています。広くあまねくアニメの楽しさを
伝えることが出来る媒体として、自然と情報を見
聞きできるテレビが適しているからです。メディ
アミックスによりアニメへの間口が広がっている
とはいえ、コラボをした商品・サービスの情報な
どは、やはりテレビCMをきっかけに知る人が多
いと考えられます。
また、アニメを視聴者に届ける手段の一つと
して、動画配信サービスが増加しているのは前
述の通りです。そこからいかにテレビへと視聴者
を誘導できるかが、今後の鍵になってきます。一
案ですが、地上波の放送でしか得られない+α
の要素があると、それを求めて見に来るアニメフ
ァンがいるのではないでしょうか。例えば、アニ
メ本編のキャラクターの会話で、副音声でしか
聞けないパターンの会話を流してみる。すると、
リアルタイム視聴の時しか聞けない会話と、録画
再生や動画配信でも聞ける会話の2種類が楽し
めます。
アニメファン層には、テレビとネットを使って、
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